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堀委員 それでは、いきなり
厚生大臣ではちょっと大変なことだと思ったのですが、御経験があるというのは大変結構なことであります。
そこで、皆さんの
委員会、初めてでありますから、私の過去の歴史をちょっとお話ししますと、私の祖父、父親、皆
医者なんです。私は小学校、中学校、高等学校と父と一緒の病院で暮らしておるときに、時々食事のときに全然物を言わなくなるんですね。何にも言わなくなる、父が。沈み込んだ格好で食事をする。私が母親に、どうしたんだろうと聞いたら、大変心配な
患者さんがあるので、きょうは余り物を言いなさんなというふうに、我々子供は注意を受けたことがあったわけですね。そこで私は、どうも家の中で、仕事が心配だからといって家族がそう不愉快な思いをするような仕事というのは余り適切でないなと思って、私は長男でしたから、じいさんや母親も皆が
医者になれと言うのですけれ
ども、実は
医者になるまいと思っていた。しかし、じいさんがやってきて、おまえ、どうしても
医者になれと言うので、仕方がなく
医者になったわけですね。
戦争に行って帰ってきて、
昭和二十一年から三十三年まで十三年ばかり、開業医として働いていて、そして国会に当選しました。私は国会に当選したときに、ああよかった、こう思ったのは、当選したことがよかったというよりも、この
医者の仕事というのがいかに精神的に大きな
負担があるかということを、私は自分が
医者になって初めて、父親が夕食のときに何も言わないで黙々と飯を食っておる姿を思い出すことがたびたびあったわけです。要するに、重い
患者がありますと、頭の中のここらに鉛の板のようなものが張りついたようになっていまして、瞬時とも頭の中からこのことは離れないんです。
ですから、一般に今マスコミが、大変薬づけとか検査づけとか金もうけだとか算術だとか、いろいろ実は医師の問題に触れておるのでありますけれ
ども、私の家では祖父も
医者、父も
医者、そうして私のおじも
医者、それから姉も
医者にかたづき、私も
医者、息子も
医者と、一族全部
医者ですけれ
ども、少なくとも我々は、よく私
どもの同僚に言うのですけれ
ども、金をもうけたかったら
幾らでもほかに仕事があるんだから金もうけの方に行きなさい、医療というのは、金をもうけるというのは結果的に収入があるだけであって、少なくとも病に苦しんでおる人、そうしてその人たちの命を助けることが我々の仕事なんだから、こういう精神で私は
医者の仕事をしておりましたし、そこで当選したときに、ああ、これでこの厳しい命あるいは病気との闘いから解放されたなという喜びでいっぱいであったわけです。
ですから、そういう
意味で私は、今、社会労働
委員をなすったことがありますかと伺ったのは、
厚生大臣をやっておられる方は、少なくとも
医者というのはどういうものかということをまず十分認識をしておいていただかなければいかぬ、こう思ったわけです。さっきの
佐藤さんの話は大分私と角度が違うのですけれ
ども、私は出身が
医者でありますし、同時に、現在国会の中で
健康保険の問題の運動、医師会の運動を通じてそうして代議士になっておるというのは今、私一人なんであります。かつて参議院におられた丸茂さん、彼も関東で長い間医師会の仕事に携わって国会に出てきた人であります。大浜さんもおられますけれ
ども、これはまだ新しい方でありますから。ですからそういう
意味では、国会では私が古い者の中では唯一だと思うのであります。
その国会に出ておる私は、ずっと見ておりまして、今の医師会は一体何をやっているか。厚生
行政との終わりなき闘いをやっておる、こういう感じがして仕方がないんですね。一体、厚生省と医師がそういう終わりなき闘いをやっておるという認識に立つようなことでは、私は日本の医療
行政というのはうまくいかないと思うのですね。だから、私は、そういう
意味で、今度の
法律の中で、大変
保険医は悪いやつがいるんだ——確かにいます。だから、その悪い人は悪い人として識別をしなければなりませんが、どうもこの
法律を見ておる感じでは、ここの要綱でちょっと言いますけれ
ども、「
保険医療機関等の指定に当たり、当該
医療機関等が診療又は調剤の内容が適切を欠くおそれがあるとして
厚生大臣又は都道府県知事の指導を重ねて受けたものであるときは、都道府県知事は指定を拒むことができろものとする」。そこから後ずらっとありますけれ
ども、いずれもこれは、こういう
保険医、悪い
保険医がいるという前提ですね。いますよ。いますけれ
ども、ともかくも私は、こういう姿勢で医療に臨んでおるのならば、これはやはり受ける側からも、それならばということになってくるんじゃないだろうか。
だから、私は、医療というのは一体何か。この前、
大蔵委員会で私がいろいろ
質問してみたときに、一体この世の中で我々にとって一番大切なものというのは何だろうかと聞いてみました。命なんですね。人間の社会では命なんです。命を大切にすると同時に、我々は健康で働けることが幸せなんですね。
幾ら金があったって、どんな豪壮な邸宅にいたって、寝ておる者に幸せはないのです。病気になっている者に幸せはない。だから、そういう
意味で一番大切なものを、もう少し血の通った対応が必要ではないのかというのが私の基本的な姿勢です。
ですから、さっきもちょっと申し上げましたけれ
ども、確かに今度は、退職者医療制度というようなものは新しい問題提起として私もそれなりに評価をしておるわけです。ただ、
大蔵省の諸君からすると、西ドイツやその他で医療に国庫
負担はしていないんだというような、歴史的な沿革を全然無視したことが記述の中に出てくるわけですね。私は、西ドイツは西ドイツの医療があっていい。日本には日本の医療の沿革があるんですね。そこをひとつ十分認識をしていただかなければならぬと思うのであります。ですから、そういう認識を前提として、これから少し問題を伺います。
最初に、ちょっと
大蔵省に帰ってもらうために、
概算要求というので厚生省が出した案の中には、今度の
医療費の
負担の問題で、被用者本人の八割給付で三百六十三億円
マイナスが立つ、こうなっているんですね。ところが、今度は九割給付になったら二百九十三億円も
減額になる。大体八割と九割というのは一〇%と二〇%ですから相当な開きがあると思うのだけれ
ども、この
概算要求と
予算の計数が著しく違うというのは、これは厚生省から答えてもらった方がいいのか
大蔵省から答えてもらった方がいいのか、よくわからないのですが……。