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橋本参考人 私は
橋本でございます。朝日新聞の編集
委員をいたしておりまして、社会福祉、主として
年金、老人問題を担当しておりますが、きょうは新聞の立場を離れて、私の考えておりますことを率直に申し上げたいというつもりで、
年金評論家という肩書で参上いたした次第でございます。よろしくお願いいたします。
それから、ただいま
共済年金をこれからどうしていくかという勉強会が大蔵省で行われております。自治省を初め
関係各省の方々、それに私と村上清先生の二人が参加いたしまして勉強を続けております。それからもう
一つは、国鉄共済に対する救援をどうするかという財調
委員会がございまして、私はこれにも参加をいたしております。そのように共済、それから
厚生年金、
国民年金すべてを見渡して物を考えておりますので、そういう立場で申し上げてみたい。何を申し上げても釈迦に説法になってしまうと思いますので、主として
政府案について私はこう考えているということを中心にお話しをさせていただきたいというふうに思います。
まず、
日本の
年金制度というのは、諸外国に比べましても、非常によく整備された立派な
年金制度であるというふうに思います。思いますが、これには非常に大きなウイークポイントがあります。それは何かといいますと、
制度がたくさんに分かれて分立しておりまして、しかも、支払い不能と思われるような大きい
年金水準をそれぞれが主張しておるということであります。この点では、その結果、
制度が分立しておりますために、経済社会的な影響をもろに受けるという体質がある。非常にこれは危険であります。しかも
給付水準が異常に高い。あえて異常にと申し上げるほど高いわけであります。その結果、国鉄や一部の地方公務員共済は、もう来年度じゅうに支払いが不能になるという状況になっております。共済組合が発足をいたしましたのが、国鉄の場合には三十一年でありますから、わずか二十数年で支払い不能になるというふうな状態、これは常識では考えられない
制度であります。ところが、
厚生年金、
国民年金、船員保険についてもこれをよそごとだというふうに考えておれない状況になってきた。そこに、今回の
改正をどうしてもやらなければならない根本的な理由があるように考えております。全
国民をベースにした大規模な
制度でございますので、国鉄の救済のような、一部を小手先で緊急避難的な対策をとるというふうなことは、
厚生年金、
国民年金の場合にはできません。したがって、従来の考え方を大いに変えた根本的な
改正をどうしてもやらなければならないという状況になっておると思うのであります。
そこで、それではどんな視点に立って
改正をすべきかといいますと、普通の言い方をしても余りおもしろくないと存じますので、私の独断的な考え方をちょっと申し上げますと、今までの
年金改正というのは、専ら受給者の立場に立って
年金額をふやすということに突っ走ってきた。その結果、ふと気がついてみると、それがすべて将来の
負担に頼らなければならないという状況になってきた。そこで、もう受給者の立場からの
年金を考えるということはこの際やめたらどうか。将来の
負担の側に回る人たちの立場に立って、その人たちの
生活が果たして維持できるのかどうかというところの方から物を考えないといけない時期に差しかかっているというふうに考えます。特に将来の
負担増のピークになりますと、ただいまの義務教育年齢以下、極端な場合はこれから生まれる子供たちの
負担になるのでありまして、そういう人たちの
意見というのは
年金法の
改正の場合に
意見を集約することができません。そこで、我々先輩としては、後輩が生き残ることができないような
負担を将来に残すということは絶対に慎まなければならない。それが先輩の世代である我々の責任であるというのが基本的な考え方であります。
そういう立場に立って今回の
改正を見ますと、まず
基礎年金の導入でありますが、これは厚生省の御説明はいろいろなことがあると思いますけれども、私はこれは
国民年金の
財政対策であるというふうに理解をしております。厚生省はそういう御説明をなさいませんが、私はそう考えております。それで、いろいろ
財政対策というと、そんなことをやってはいけないんだとかいうふうによく思われがちなのですけれども、全
国民をカバーする
年金の財政基盤がしっかりしていないようではすべての公的
年金が崩壊してしまう、つまり
保険料を払う
国民にしても非常に不安な状況になってしまう。それでは
年金というものに対する
国民の信頼をつなぎとめることはできない。したがって、
国民年金を全
国民共通の
年金制度としてその財政の基盤をしっかりさせる、つまり
財政対策をしっかりやるということは絶対に必要なことなのであります。そういう意味で
国民年金の
財政対策であって、これはぜひやらねばならぬことだというふうに私は考えております。
それから、もうちょっと小さな問題になりますと、
婦人の
年金権の確保、先ほども小山先生がお触れになっておりましたが、これはサラリーマンの妻を
強制加入にするということであります。
強制加入というのは、社会保険では当然のことでありまして、
強制加入でない社会保険などというのはちょっと考えられない。むしろ、現在任意加入のままにしておきますと、任意不加入ということによって
年金がなくなってしまうということになります。それを防ぐという意味で
強制加入にするということは当然であり、また評価できる
改正であるというふうに考えております。
それから
年金の
水準なのですが、これは相当
程度のカットになっております。カットの率の見方は人によっていろいろ違いますけれども、この
程度の
年金水準の将来に向かっての引き下げはやむを得ない、むしろ厚生省のおつくりになった案では
経過措置が慎重過ぎて、これではちょっとなおかつ将来に心配が残るのではないかという気さえいたします。しかし余り急激な変化というのは
年金にとってもよろしくありませんので、この際は恐らくこの
程度が
水準を引き下げる限界であったのではなかろうかというふうに思います。
ちょっと余計なことですが申し添えておきますと、
共済年金の場合には
厚生年金、
国民年金の引き下げの幅よりもさらに大きく引き下げないと、どうにもやっていけない状況に数字上はなっておるということであります。
それから
障害年金の問題なんですけれども、これは従来の社会保険理論からは全く考えられないような
改正であります。しかし、
障害年金受給者の六〇%を占める二十歳前の
障害者というのは非常に気の毒な状況に置かれておったのでありますから、それの
年金を適当な額まで引き上げるというのはぜひやっていただかなければならないことであったわけです。ところが、これを
国庫でやるか保険でやるかですが、筋からいえば
国庫でやるのが一番よろしいと思いますが、
国庫でそれを
負担するということが実現するのを待っている間に、低い
年金の
障害者がどんどん亡くなっていっているという状況もございます。これはもうまさに一刻でも早い方がいいという状況もあります。そのためには
現実的な選択として保険で見るという格好になったわけですけれども、この点については保険の側がかなり思い切った決断をしてくれたというふうに思って、実は
障害年金の引き上げに割合根っこの
部分から私、タッチしておりましたので、大変うれしいことであるというふうに思います。早期成立を望む
障害者も非常に多いので、何とかその人たちの希望に沿えるようにしていただきたいというのが私のお願いであります。
それから、遺族
年金についてもいろいろな問題があると言いましたが、現在の
制度で問題があるということであります。それは
制度が分立しておりますので、うまいぐあいにかみ合わされた場合には大変結構な
年金がもらえる。ところがそうでない、例えばたまたま
国民年金に加入していなかったとか
保険料の納め方が足りなかったとかというふうな状況がちょっとあると、同じ未亡人であっても
年金の額が非常に違ってくるというふうな状況であります。それを今回の場合にはかなり思い切った整理が行われるという意味で、評価してよろしいのではないかというふうに思います。特に母子、準母子福祉
年金の受給者は、これが遺族
基礎年金にまとめられますとかなりな増額になります。母子、準母子福祉
年金の受給者というのはかなり気の毒な階層なので、新しい裁定を受ければこの人たちにとってはかなりな朗報になるのではないかというふうに思います。
子なし若妻の問題があります。これは実は私の気持ちで考えていたのは、子なし若妻に
年金を差し上げる、そして再婚すると
年金はなくなってしまう。つまり再婚を禁止するための
年金みたいな変な感じなのであります。しかし、再婚してなおかつ
年金をもらおうというのもまたちょっと変な話であります。そこで思い切って、子なし若妻は、もう新しい人生を歩んでいただくためのはずみに、例えば三年分とか五年分とかの
年金を一時金で差し上げるという格好にでもしたら、かえってさっぱりするのではないかなというふうにひそかに思っていたのですけれども、
年金でも悪いとは言えませんので、だから別に
反対するという気持ちはありません。ちょっと御
参考までにそんな考え方もあるということだけ申し上げてみたわけであります。
それから、
国民年金の死亡一時金が今度
拡充されます。これはどちらかというと、私は廃止すべき性格のものではなかったんだろうか。つまり、社会保険では掛け捨てというのは当然でありまして、例えば健康保険にしても、健康な人は
保険料は払ったままで医者に一度もかからないという人もあるわけです。しかし、健康ということは最大の財産でありますから、
保険料を払っても健康な方がいい、そういう考え方が社会保険ではなかろうか。つまり三途の川を渡ってしまえばもう
年金は要らないんだ、なぜ遺族に死亡一時金などを渡さなければならないのか。私は意味不明であると思っておったのでありますけれども、残念なことにこれが増額になっております。しかし、
日本では保険の掛け捨てというのは余りみんなお好きじゃなくて、例えば個人
年金にしても、完全終身
年金よりも十年確定、そしてその後は終身
年金とか、そういった考え方が好まれますので、ある意味では仕方がないことかもしれません。その辺は御賢察をお願いいたしたいというふうに思います。
時間がもう余りなくなってまいりましたので、今後の問題というのをちょっと駆け足で申し上げてみたいというふうに思います。
共済年金は、できるだけ早く
基礎年金に合流しなければならないというふうに思います。
一つは、共済の妻が御案内のとおり適用除外になっております。これは
共済年金法の
改正が行われるという前提でそうなっておるので、
共済年金法の
改正がついてまいりませんと、共済
加入者の妻は無
年金の状態になってしまうので、これはぜひ急いでいただきたい。
それからもう
一つは、
障害基礎年金の原資であります。これも
基礎年金に参加しないと、共済グループは
障害者のための
年金の原資の
負担をしないということになってしまいます。公務員その他にも子供さんに
障害児が発生することだってあるわけですから、これは本当に全
国民で支えていかなければならない筋合のものであろう。これは
基礎年金に合流してもらわなければならないという理由の
一つであります。今、共済の方で一生懸命勉強会を開いておりまして、できるだけ早い機会に法律として出てくると思いますので、何分よろしくお願いいたしたいと思っております。
それから、公的
年金以外の各種の
年金の再検討というのをぜひお願いしたいというふうに思います。例えば
農業者年金基金、
厚生年金基金、国
会議員、地方議員の互助
年金、こういった種類の
年金も、
年金法の
改正に伴って
国庫負担のつけ方がいろいろ変わってまいりますので、それと見合いができるような整理を全般的に見通した立場から行われないといけないのではなかろうか。
それから、今回の
政府案で完全無欠かと申しますと、私は完全無欠だとは思っておりません。細かいことですけれども何やかやとございます。例えば社長
年金。六十五歳になると全部
年金をもらってしまいます。共済をこれにすり合わせるときに困っておりますのは、最高裁の判事さんたちは七十歳までおいでになります。そうすると、六十五過ぎるともう
基礎年金が出てしまいます。
共済年金も、
厚生年金と一緒に六十五歳で打ち切り、被保険者としないということになりますと、最高裁の判事さんは
基礎年金をもらい、
共済年金をもらい、月給をもらうという格好になってしまうのであります。これは何とかどこかで整理しなければならないことであります。これも
厚生年金の方に影響が将来発生してくるかもしれないというふうなことは、とりあえずこの法律が成立して、とりあえずといいますかできるだけ早くこの法律が成立して、その上で第二弾の、各
制度の
整合性を保つための見直しという作業にすぐに取り組まなければならない。そのためには一刻も早くこの法案を成立させていただきたい。特に
共済年金の方はお蔵に火がついているという状況でございますので、この整理も早くしなければならない。ところが一方では、もとになる
厚生年金、
国民年金法が成立していないという状況のもとで、それとの
関係を勉強しなければならないという、ちょっと困った立場に追い込まれております。それもできるだけ急がなければなりませんので、あえてこの法案が成立した場合ということを仮想して、それで勉強を進めているという状況であります。
日本の
年金の全体を決定する非常に重要な時期でありますので、その辺の御賢察をいただければ大変ありがたいというふうに思います。
スライドの見直しの問題も将来の問題として出てくると思いますが、そういったような問題をやるためにも、繰り返して申し上げますが、少なくとも本法案を衆議院の段階でも通していただければ、我々の次の段階の勉強をしておる者にとっては大変ありがたいということをつけ加えて申し上げさせていただきたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)