○渡部(一)
委員 交渉が終わったときに、順調にうまくいったというふうに表現していい場合、それは国内に向けて交渉がうまかったぞ、交渉員は立派だったと宣伝するにはそれは非常に巧みでしょう。しかし、交渉相手に対しては泣いてみせることがなければ交渉にはならないのです。真っ青な顔をして座席を立ち上がるぐらいの芝居がなければできないでしょう。
外務大臣に私はちょっと小言を言いますけれ
ども、あなたも非常にお人柄のいい方だと私は思います。とても順調だと向こうは言ってきておりますなんて言おうものなら、さらに苛烈な要求が最後の土壇場で出るでしょう。したがって、
外交を担当する
外務大臣が、こういう
委員会で言うせりふとしては不穏当です。順調がどうかなんて言ってはいけません。電報で見るところ順調だなどとあなたの言ったその一言で、また
日本は大損害を受けるのです。交渉途中のことについて発言してはならない。そういう評価をしてはならない。
中身を冷厳に理解しなければならない。それは人間的な感覚からはほど遠いものですけれ
ども、
外交交渉者が極めて困難なところに追い込まれるというのはいつもそれなんです。芝居ができなければいけない。
外務省の人々は芝居の上手な人がそろっているじゃないですか。笑いたいときに泣いてみたり、泣きたいときに怒ってみたり、役者だらけだ。
外務大臣もすべからくそうであっていただかなければならない。
それはそれとして、あなた、私が言っているのは、そういうことはないだろう、私もないだろうと思います。ないだろうと思うけれ
ども、畳みかけて次の記事が出ていますよ。それはどういうことか。大場さんは先方の要求について、すぐできること、中期的にできること、長期的にできることで返事したと記されている。私が見るところでは、それほど三種類に細かく分けたかどうかは別にして、短期的にはこれもできない、あれもできないとは明らかに言っている。そうでしょう。ここのところで私はこの交渉の
中身について余り触れたくないから、この辺で責め立てるのはやめます。これ以上責め立てるとぼろが出るのはわかってきた。だけれ
ども、
外務大臣はもうちょっとその点について責任を持たれた上、責任を持つということは、この問題についてもうちょっとしっかりやってもらわなければいけないなという感じが僕はしますね。
特にまずいポイントがまだ二、三点ある。それは、金融の自由化といっても、確かに金融の自由化は
日本の国内的要請でやらなければならぬ面、例えば
日本では各種の審議会やその他の相談するグループの中で、大蔵省は何回も注文を出して、それぞれの答申も受けてやる気でいるテーマもある。しかし、そういうところにかかっていないテーマで、今
考えなければならないテーマもある。いろいろある。
しかし、金利の自由化の前に、何で向こうが言ってきたかということを理解しなければならない。第一番目、余り言われていないけれ
ども、
レーガン大統領が大統領選挙の前でいい
格好をしたいのです。これは絶対的な要請として存在しておる。この
レーガン大統領にいい顔をさせなければ、
アメリカの金融業界は今レーガン再選のためのキャスチングボートを持っていると言われているじゃありませんか。そうでしょう。前回のレーガンの地すべり的大勝利は、
アメリカの銀行、証券等を中心とする金融業界の圧倒的な支持によって当選したといういきさつがある。今度、余りレーガンがだらしないのだったらそっぽ向くよと言われたら、レーガンはだめでしょう。そのレーガンにどういうお土産を持たせるか。選挙運動に介入するわけではないけれ
ども、それを配慮してやるやり方が
日本側に要るのじゃないでしょうか。そうすると、東証に対して、東京兜町に対して今先方が進出したいと言っておる。
日本側の企業は向こうの兜町に当たるところにどんどん進出しているのに、
日本側は入れようとしない。入れてくれと向こうは叫んでいる。ルールとしては入れるけれ
ども、実際的には入れない仕掛けをこしらえておいで、こちらは笑っておる。三菱銀行が向こうの信託銀行をほいほい買うところを
日本側は黙って見ていながら、向こう側が
日本で信託業務を行いたいと言うと、
日本の今までのルールになじまないと言って阻止する。それは深いいろいろな理由がある。そして、その申請すらさせない。自主的に取り下げさす。こういう態度が、向こうで小さな
事件が大きなはね返りになることは予想できる。これは何かで譲ってみせ、そしてメンツを立ててあげる必要があるのではないかと思われる。これは財政のわかる人に私は言っているのではないのです。財政はわからなくてもいいけれ
ども、バランス感覚があって、
外交交渉のできる能力が発揮されなければいけないでしょうと申し上げている。
だから、私は作業部会でいろいろやるのもわかるけれ
ども、作業部会の最後を色づけをするためには、
外務省が乗り出してその泥水をかぶって決着するしかないだろうと私は申し上げておる。そうでなければ、交渉すればするほど理屈から言えば有利であるところの我が方側の主張が勝ちを占めるだけで、一番基本的な
日米関係について不必要な打撃を与えることだけは避けなければならないと思われるのですけれ
ども、どうでしょうか。