○
山川参考人 今御
紹介いただきました
山川でございます。
長崎総合科学大学というところで
造船学を教えております。
「
むつ」のことにつきましては、
佐世保港に来るという話が出まして、それからいろいろ県内で
議論がございました。そのときに私も、一度
国会で
意見を聞きたいということで
参考人としてお招きいただいたことがございます。そのときに私申し上げましたことは、
造船の歴史、
技術の本筋と申しますか、船には信用のあるエンジンでなければ載せないのだ、これが
造船屋の鉄則なんだ、ところが「
むつ」は工場でできたものを船の中に積み込んでから試運転を開始しようとした、ここに大きな間違いがある、初めから間違っていたということを申し上げて、ぜひ
お金が少しかかっても、もう一度
陸上からおやりになるようにと、
技術の発展を希望する
立場から申し上げた記憶がございます。
佐世保に回航されますときも、
安全性その他の問題で当時の県知事が大変な御心労で、その後体を悪くされたというふうなこともございます。
佐世保で修理、再
点検、総
点検ということがございましたけれ
ども、そのときも、どうも
放射線が漏れた、どこからどんなふうにして漏れたのか、これの
科学的な
解明をなさったというふうな形跡がない。非常に不十分な形で、臨時的に漂流している船のところで
計測なさった、
計測の機械も非常に不備であったということも伺っております。それじゃもう一度しっかりとした
計測のできる
環境の中で
検討されて、どんな
状況なのかお調べになったらいかがかということも、
長崎県でつくりました
安全性検討委員会というところにお招きいただきまして、
政府委員の方、
科学技術庁の方、
原船事業団の方に、
科学者の
立場、
技術者の
立場として何度がお願いしたのでございますけれ
ども、やはり
安全信仰と申しますか、そういったことには耳を傾けていただけなかった、非常に残念でございます。
ところがそれから、もう絶対安全だと言われていた
原子力発電所のスリーマイルアイランドで思いもかけないような
事故が起こりました。そのときも
原子力安全委員会ですかの方が、
日本では大丈夫だ、
アメリカは雑だからというふうなこともおっしゃいましたけれ
ども、これは
科学のことでございますので、
アメリカと
日本で
原子力が違った
反応をするはずはないので、もし手順を間違えますと大変な
事故になるという
実証を私
たちの前に示してくれたわけでございます。そういう
経験が「
むつ」の
改修やその後の
実験計画その他にどう生かされているかということは、我々にとって非常に大事な問題でございます。
非常に
一般論にわたりますけれ
ども、
人間は火を使うようになって
人間になったとか申しますが、
原子力という第三の火を使うようになったときには、今までとは全然変わった
考え方をしなければいけないということに直面しております。火の場合ですと、火事だとかあるいは火薬の
爆発だとか、そういったことで
被害が局限されますけれ
ども、
原子力の不本意な
爆発は、あるいは意識的な
殺人兵器としての
原爆もございますが、大変な
被害を与える。現在ございます五万発の
原爆が、何かのことで
偶発戦争でもございますと我々の生存の根拠を奪う。こういう重大な局面に今立っておりますので、
原子力の
平和利用ができるといたしましても、その及ぶことの重大さを
科学者も
技術者も
企業家も
政府の方も十分にお
考えいただいて、
人間が生き残る最大限の注意を
原子力開発の上では払わなければいけないというふうに、
国会の場でございますが、これは本当に党派を超えて御賛同いただけるのではないか、こう思っております。
それで、現在の「
むつ」の将来。
佐世保で
改修を終わりまして青森に回航された。四
者協定とか五
者協定とかということで大湊港は使えない、新しい港をつくる、そこでおやりになるということでございますけれ
ども、
技術上の問題から見まして
幾つか問題があろうかと思います。私
たちが前に申し上げました本当に根本的な
科学的な
検討がされない状態での
改修計画であったということでございまして、今建造以来あるいは
事故以来もう十年です、
昭和四十九年から五十九年までですから、十年間たなざらしにされざるを得ない運命は、私は
造船屋としては非常にかわいそうでなりません。船屋ですから、できた船は何とか
処女航海をさせてやりたいと思うのですけれ
ども、
人間に迷惑をかけるおそれがあるものは涙をのんで往生してもらわなければいけない。そういう
意味で、今度の「
むつ」は
失敗プロジェクトであった。これは
伏見教授もおっしゃっておられます。
国家行事としてやるときに
失敗行事にピリオドを打つ、それだけの勇気がなければ、これは政治の惰性に押された後世に災いを非常に残すものと言わざるを得ないと思います。
私いろいろ
検討いたしまして、「
むつ」の問題というのは
一言で申しまして早かろう悪かろ
うめ典型である。安かろう悪かろうということはございますけれ
ども、早かろう悪かろうというような新しいことわざをつくったのではないか。大和、武蔵をつくりましたときに、あれは国策ということでだれも反対できなかった。「
むつ」も、もし「
むつ」のことについて危惧を持つとしても、
科学を知らないものだという悪罵をいただいたこともあります。しかし、少数の
意見であっても
科学的に正しいことはやがて大きく皆さんに支持もされるし、御
理解いただけるはずのものでございます。
申し上げますと、
先ほど申し上げましたように
陸上運転がなかったということ、それから
事故が起こっても
科学的な
解明をしなかったこと、そういったことに加えて
放射線の受ける
影響について
陸上の
基準が適用されていた。船という局限された
場所にいる
乗組員が、船内で
事故が起こりましたときにどのように安全に
処置し退避できるか。これについては、
陸上の
原子力発電所での
基準は、
環境に及ぼす
影響をどのように局限するかということに重点がございまして、
作業員は、大勢の
作業員を繰り返し交代させて現場に突入させることができます。しかし船舶の場合には限られた
人間で、
応援人員を求めることはできません。そういう中で「
むつ」の場合、
事故が起こったときには、ある
場所に曳航して人家のあるところから離す
作業を
乗組員がしなければいけない。必ず引き船の三隻か四隻ひっついているというようなことがございますればまた別ですけれ
ども、そうではございません。そういう
意味で、
日本で初めて行う
原子力船について
乗組員に対する
配慮が欠如している。これは我々
造船屋としましても、また
先ほどお話しになりました
熊谷先生、船を動かし
運航者をお使いになる
立場でも、よく
考えてみれば、ああそんなだったのかということでびっくりなさることじゃないかと思っております。
それで、この間
改修されました後の現状は、私まだ見ておりませんけれ
ども、何人か私のよく知っている人がごらんになりました。ところが、計器類なんかにいろいろラベルが張ってございます。新しくつけた計器とそれからそのままの計器、それが混在しておるのでございます。昔のはトランジスタです。初めは真空管を使おうと言っていたのが、トランジスタにやっとなった。ところがそれから十年、やっとICだとかLSIだとか、そういったものの
計測装置がいろいろ入りました。それが混在しているということは
技術的に見て非常に危険なわけです。ビールとお酒をまぜたら酔いが悪いですね。それと一緒です。これは本当に、非常に卑俗なことを申し上げてあれですけれ
ども、それが混在している
状況がどの程度の
安全性が
確保されているかという点についてはまだまだ未
開発でございまして、失敗をしてみなければわからないというふうなことが
改修後の「
むつ」に予想されることでございます。
あと、これも古くから申し上げていることでございますけれ
ども、
原子炉の寸法が異常に小さ過ぎるということ。単純に申し上げますと、炉心と圧力容器との間、
サバンナ号もレーニン号も約五十センチの水の層がこれにございます。そこで高速中性子が減速されます。いわゆる中性子のストリームというものが非常に少なくなる。「
むつ」はそれが三十センチです。二十センチ水の厚さが少ない。それの
技術的根拠が、それだけでも大丈夫なんだというのでしたら、この間の
放射線漏れは起きないわけです。ですから、炉心自身がそういう根本的な
検討に値する重大なものだと思われます。
それからもう
一つは、私、
造船屋として申し上げますが、船の幅のことです。レーニン号よりも
サバンナ号よりも
オット・ハーンよりも「
むつ」は小型の船なんです。小型だから幅も小さくていいというのは
造船学の普通の常識なんです。速力も十ノット、十六ノット出そうと思えば余り幅の広いものはつくりません。けれ
ども、
実験船です。
実験船で万が一の衝突のときに
原子炉に
事故が起きないということを最大の眼目にするならば、戦艦並みの舷側の強さを持たなければいけない。今までの
原子力船の
設計基準は、両方の船がぶつかって、くしゃくしゃっとつぶれて、お互いに衝突
エネルギーを吸収し合って、そして格納容器の五センチ前でとまる、こういう結果をもとにしたものでございまして、それは標準の船型がございます。T2タンカーという二万トンの、戦前に非常にたくさんつくられて戦後も
運航頻度の高かったタンカーでございます。これが十四ノットの速度で真横からぶつかるというときが計算の
基準になっております。しかし、エンタープライズとか軍艦系統では排水量八万トンのものもございます。それが三十ノットで走る。それが真横からぶつかったらひとたまりもございませんが、それは確率が少ないから無視する。これが「
むつ」の
設計の原理原則でございます。そういうことで、私
たち実験船としてつくるならば絶対安全という
条件で
設計しなければいけない。これはできるのです。不可能じゃございません。そういう点が欠如している
設計でございますので、
造船専門の
立場としても、旋回性能とか動揺性能とか、そういったことについては私の学友の元良東大名誉教授も参加いたしておりましたし、その点については私了解いたしておりますけれ
ども、
原子力船としての性能には、非常に急ぎ過ぎてめちゃをしたと言わざるを得ないと思います。
それから、
先ほど森先生もおっしゃいましたけれ
ども、今「
むつ」のはもう古ぼけてやぼったい。そのことにつきましては「
むつ」の
原子炉の
特徴は分離型という形に分類されます。現在では一体型というのが舶用炉としても適当ではなかろうかということで、
日本造船研究会、NSR7という研究
委員会ではこの一体型を
中心に
検討を進めております。したがって、今後
外国からお買いになるあるいは
日本で再
開発を新しくお始めになるときには一体型または半一体型という型式の炉が舶用炉としては最適ではなかろうか、これが現在の
技術の進歩の流れの
状況でございます。したがいまして、旧式炉でやぼったい炉で練習をすることはかえっていいのじゃないか、これは蒸気機関車を練習するときのことです。
原子力船をやるときにやぼったいのでやったら
経験がつく、
データが蓄積されるというふうにお
考えになるのでしたら、
原子力開発の
立場は御遠慮願いたい、
国民から見て非常に怖いものですから御遠慮願いたいと思います。
起こり得る今後の
事故、どんなことがあるか。これはもう何度も繰り返されたことでございますので皆さんは耳にたこのできるほどのことだと思いますが、いわゆる蒸気発生器の細管の破損でございます。これは
陸上のものでもいまだに後を絶ちません。敦賀のある発電所ではもう三分の一近くがめくら栓をされて動かなくなっておる、脳血栓にかかったような
状況の蒸気発生器が多数存在しております。「
むつ」でもこれが起きないという保証はございません。特に燐酸系のさびを防ぐ薬を入れておりまして、これを今度ヒドラジン系というものにかえましたけれ
ども、前に入れた燐酸系が黒い被膜をつくっておりまして、これが徐徐にまだ水に溶け出して燐酸としての悪さをするということで、現在もあちらこちらの発電所で非常に苦労していらっしゃるところです。一たん燐酸系の防さび剤を入れたものは、もうヒドラジンを入れてもぐあいが悪くてしょうがないのだ、こういう
お話でございます。
それからもう
一つは
燃料棒の破損の問題でございます。これも若干のセシウム説の漏えいした痕跡があるということで、一度抜いてお調べになったらと申し上げたのですけれ
ども、抜く必要はない、微量でネグリジブルスモールというふうに安藤良夫さんがおっしゃいました。抜いて検査なさらなかったのですけれ
ども、今度もし
実験して漏れたらどうなるのです。まじめにやろうとする
原子力の研究も
開発も、これは本当にストップです。私
たちは、まじめな
平和利用の研究は進めたいと思っているのですけれ
ども、そういうごり押し、早かろう悪かろうのやり方でやられた結果、
原子力の将来に対するまじめな見通しもなくなってしまう、このことをぜひお
考えいただきたいと思っております。
あと、少し飛びますけれ
ども、関根浜のことでございますが、これは音、旧海軍があそこに港をつくりたかった。しかしその当時の
技術では、波浪が激しい、漂砂が激しい、霧が濃いというふうなことで内湾の大湊に変更になった、こういうことでございますが、現在でも霧、波、風それから砂の流れ、こういったことでは大港湾をつくるのに全く適したとは言われない。またその上に、地元と十分話し合って進めるということが懇談会その他でもう当然のこととして
結論に出ているそうでございますが、地元の方からの
お話によりますと、どんな
実験をどこまで
出力上昇をやるかとか、そういう具体的な話し合いは全然進行してないという
状況で捨て石がほうり込まれ、現在土地の面貌は変えられつつございます。こういったことも「
むつ」の持っていた今までの早かろう悪かろうの体質の
一つではなかろうかというふうに思われます。
先ほど申し上げましたように、スリーマイルアイランドの
経験がどう生かされたか、これは我々
技術者、
科学者にとって重大な関心でございますけれ
ども、制御パネルその他も非常に見にくい、それから警報を出しますアラームの指示盤その他も非常に小さくって、現在の
原子力関係の管制装置から見ればそれこそやぼったくて
事故が起こりやすい、こういう代物でございます。指揮命令系統につきましても、普通の船を動かす船員さん、船長免許を持っておられる方々と
原子炉のオペレーター、これは成り立ちも性格もみんな違うものですから、非常
事故が起こったときにどこがどう責任を持ってやるかというのもこれからなんです。ですからその辺は、形の上でどんなときにだれの命令に従うと書いてあるのが
幾つかあると思いますけれ
ども、本当の
意味での実際的な
検討はまさに不十分だと言われます。
もう
一つだけつけ加えますと、昨年一九八三年ですが、二月に
アメリカのセーラムという
原子力発電所で
事故が起こりました。これは二重、三重になっている安全装置がきかなかったということで、今度はATWSという略称で呼ばれておりますけれ
ども、予知できるスクラムなしの過渡現象、予知できてしかもスクラムが起こらない、緊急ストップがきかない、そういうような過渡現象に対する防御措置、これを別系統を
一つ新しく取りつけなさいというのを、八四年の六月ですからことしの六月に
アメリカの
原子力規制
委員会が、いわゆる通達ですか強制力のある形で公示しております。このことは「
むつ」には、まだことしの六月のことですから、
アメリカでやったからすぐというわけではないでしょうけれ
ども、十分考慮されないと、「
むつ」がこの間の
改修で二重、三重に系統を直したとかふやしたとかとおっしゃいますけれ
ども、専門の
技術者を集め、
科学者を集めて十分に
検討なさることがなされない
状況で、
実験再開を安易に期待される向きについては、十分御了解いただきたいと思います。
最後に、「
むつ」は今でしたらどうなるか。今方向転換してこの
プロジェクトを一応やり直すということになりますと、じゃ
燃料棒をどこで抜くか、
日本じゅうどこでも反対しているじゃないかとおっしゃいますけれ
ども、ここは誠意をもって
お話しになるならば、
国民の合意、さっきおっしゃいましたパブリックアクセプタンス、PAが得られる種類の問題であろうと思います。地元の方に私、直接に
お話ししたわけではございませんけれ
ども、現存する設備としては大湊港が最適であろうかと
考えます。ここの設備は、若干の手を加えるならば
燃料の引き抜き、
燃料の保管、そういったことについて周辺に迷惑をかけずに行えるだけの準備がございます。また、現在の核
燃料の持ちます放射能、これの外へ出ることへの防御ということについては十分可能であります。残存の一・四%稼働したおかげでできた死の灰と言われるものにつきましても、もう現在では半減期がどんどん過ぎまして、十年
たちまして非常に少ない状態でございますので、可能である。
以上のような結果で最終的にまとめて申し上げますと、「
むつ」による
実験、それから
運航計画というのは一たんここで中止する、そして船舶用の炉については、それの実用性並びに
経済性評価を含んで地道な研究を進めていくというふうに方針を立て直すことを提言したいと思うわけでございます。
造船屋の言葉にトライアル・アンド・エラーという言葉がございます。とにかく
造船屋はやってみろ、そして間違いが起こったら直す、これは在来
技術では
技術を進歩させる上で非常にいい励ましの言葉でございました。しかし、
原子力を
平和利用に使うという時代にございましては、もう
一つ必要でございます。スロー・バット・ステディー、ゆっくり、だがしかし確実に、これをつけ加えまして
原子力の安全な
平和利用の発展を進める、これをこいねがってやまない次第でございます。
最終的には、
先ほども申し上げましたように、もう五万発の核兵器が全部廃棄されて核戦争が二度とないという
状況になれば、安心して
原子力の進歩も早くなるでありましょうし、おしりの始末、廃棄物の始末も十分につけられるだけに、
研究開発の
エネルギーが積み込めるだろうと思います。今のように廃棄物の処理については後回し後回しというふうなことは、
技術屋の良心として許されません。これもただ臭いとか何かじゃなしに、本当に代々にわたって
人間に
被害を与えることを
技術屋の責任としてやることは到底できません。まして
企業家としてもできないはずだと思いますので、この点を
参考人の
意見として申し上げさせていただきたいと思います。よろしくお含みおきを賜りたいと思います。