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竹村参考人 東京商船大学の
竹村でございます。
私は、
原子力船の
研究開発をぜひ続けていってほしい、続けるべきである、そういうふうにかねがね思っておりますので、少し言い古されていることかと思いますけれども、
原子力船開発の
必要性を二つばかりもっと具体的に挙げまして、
あと原子力船の
実用化の
見通しとかそれから
開発の
あり方、こういうものについて述べまして、
法案との関連を述べたいと思います。
御承知のように、オイルショックのときには、
日本船は四十八年の十一月から翌年一月までの三カ月間に内地外地合わせて四十四杯が一日以上停船を余儀なくされました。一週間以上とまったのは、そのうち八杯ございます。
日本の
海運企業が用船していたのはさらに四十七杯、一週間以上が十四杯と結構な数でございます。私たちいろいろなところから
生活必需物資を輸入しておりますので、そういう
事態が起きても
原子力船があれば何とかしのげるのではないか、こういうふうに思います。
それからもう
一つは、
海運造船の
維持発展ということでございますが、先ほど
安藤参考人からもありましたように、かなり
造船も新興の
工業国に追い上げられております。例えば韓国、
台湾といったようなところに追い上げられておる。それから
海運も、フィリピンとか
台湾とかシンガポール、香港、そういった
開発途上国から追い上げられまして
大変苦戦をしておる次第でございます。ですけれども、こういう
海運の動いておる
現状をちょっと調べてみますと、例えば一九八〇年と八一年の二年間、
日本海事協会に登録した船八千八百四十隻でございますが、このうち
日本船は約四千隻を超えております。
日本はもちろん数百トンの小さな船も含まれておるわけですけれども、この二年間で
外洋で動けなくなったという
機関故障を起こしたのは二十七件ございます。
日本は六件でございます。それも数百トンの船を含めてで、しかも四千隻からという半分を占めている隻数からしますと、
日本の割合というのは非常に小さいものである、こういうふうに思います。そういうことを反映しまして、例えば
船舶の
船体、
機関の
保険料、こういうようなものは、
開発途上国は
日本の大体二倍から三倍の
保険料を払わせているというのが
現状でございます。
こういうふうに、
原子力船のような非常に
技術の高い、知識を必要とする船をつくりますれば、
開発途上国の追い上げというものをかわせる、明治維新以来、
日本の
海運と
造船が車の両輪になって
日本の産業の根幹の
一つとして頑張ってきたことが、もう一度やれるのではないかというふうに私は思っております。
以上が、言い古されたことで大変恐縮でしたが、
原子力船開発の
必要性ということを少し具体的に述べさせていただきました。
次に、
原子力船の
実用化の
見通しとこれからの
研究開発でございますけれども、約一年半ほど前に
原子力産業
会議で
検討された
報告書がございます。その中で、
原子力船が在来船に比べて経済的に有利になる船というのは、カナダの北極海に産出する原油を
日本に輸送するための三十万トン型の砕氷タンカー及び十三万五千馬力の砕氷船、それからペルシャ湾から
日本まで液化天然ガスを運ぶ十六万立方メートル型のLNG船、それから
日本と欧州との間を走る二千五百個積みのコンテナ船で速力が二十六ノット以上のもの、この四種類となっております。この経済計算というのは、船が生涯十五年間走るというようなことで、その間に船にかかる生涯のコストを生涯に運ぶ貨物量で割った値、つまり貨物一トン運ぶのにあるいはコンテナ一個運ぶのに幾らかかるか、こういった運賃率というような我々なじみのあるもので一応出している格好でございます。
原子力砕氷タンカーや
原子力砕氷船がこれはかなり有利に出ておりますけれども、この有利に出た
理由というのは、砕氷
能力を持つために馬力が非常に大きいということと、在来船ではガスタービンエンジンを搭載して、質のいい、つまり値段の高いA重油を使用すること、こうなっているからでございます。
カナダの北極海の原油を
日本へ輸送する民間プロジェクトが一九八七年から二十一年間にわたって年間約六百万トンを輸送する、こういうふうにして計画されております。このプロジェクトは今おくれる気配もございますので、もう少し先へ行くと思いますが、在来船による輸送コストを計算してみましたところ、これは中近東から持ってくる場合の三割高というふうに計算されております。ですから、このプロジェクトに
原子力船が参加するという構想は、大いに考えてもいいのではないかというふうに私は考えております。言うなれば、その実証船の対象として考えられるのではないかというふうに思います。
それから、五万馬力のLNG船で
原子力船が有利となった
理由というのは、在来船が航海中に蒸発してくるガスをたいて走るのに対しまして、
原子力船では
原子炉の安いエネルギーを使って蒸発してくるガスをもう一回コンデンスして、液化して、荷物を積み荷と揚げ荷と変わらないようにする、こういうことが大きな
理由になっております。このLNG船は、現在十杯ほど
建造する計画が話題にあるようですので、非常に
長期の輸送計画となるのであればまた
原子力船の参加も考えられるのではないかというふうに思っております。このボイルオフガスを液化するというような例は、
原子力エネルギーを推進以外に船で使うという
一つのいいサンプルでございまして、このような新しいアイデアを持った船種、船型というものを今後とも考えないと、
原子力船時代が本当に来るかということには大変厳しいものがあるというふうに私は思っております。
それから、コンテナ船についてでございますが、かつて米国のシーランド社に十二万馬力で三十ノットという超高速の船がございました。先ほどのは二十六ノット、七万馬力でちょうど在来船と競争できるんだという原産の
報告書でございますけれども、しかし、このシーランド社の十二万馬力、三十ノットというのは、現在オイルショック後すっかり減速運転をしておりまして、
海運会社等の推測ではここ当分現在の
運航速力二十二ノットを超えることはないだろうということで、二十二ノットといいますと馬力としては四万馬力ぐらいのもので、今すぐの
開発目標にはなり得ないというふうに思います。しかし私は、コンテナ船とか鉱石運搬船というのは将来の
原子力船化のいい対象であろうと思っております。
それから、この
原子力産業
会議の
報告書では、三十万トン型の石炭船や鉱石運搬船、五十万トン型、七十万トン型のタンカーも一応
検討しておりますけれども、在来船を十二・五ノット、約三・五万馬力ぐらいですか、このくらいで走らせたものが一番輸送コストが低いということで、三ないし四万馬力の在来船と競合するのにはまだまだというのが結果でございます。
この原産のコスト計算に用いられたコスト費目は、建
造船価と利息、船員費、修繕費、
保険料、廃棄物処理費、
船体廃棄費というような
原子力船特有のものはすべて含んでおります。しかし、このコストの見積もりは、日独共同
研究のコンテナ船のものとか、あるいは
造船研究協会でやりました八万馬力コンテナ船の
設計評価
研究とかその後の
経済性評価
研究といったような参考文献をもとにして計算しておりまして、
原子力船特有のコスト因子については実績がほとんどないという状態なので、不確かなところがあると言わざるを得ないと思っております。
したがって、今回の手法で計算して、在来船と
原子力船が一対一でちょうど競合したよ、こう言っても、私はその船種、船型について
原子力船実用化の
見通しが得られたというふうには感じておりません。
原子力船の
実用化時代というのは、経済的に三ないし四万馬力の船でも在来船に競合できる時代、こういうのが
我が国のとらえ方でありますから、コスト低減策をどうしても考えなければならないと思います。原産の計算でも、船価を一割低減いたしましたコンテナ船の場合を見てみますと、これの競合馬力は七万から五万馬力ぐらいに下がってきております。ですから、船価を下げるということは運送コスト低減によく効くことがわかります。
さらに油が、OPECの言うように年間三%ずつ上がるということが本当に見込めれば、二十年で二倍になりますから二十一世紀には確かにやれる、こういうふうに思います。しかし、このOPECの三%パー年のアップという戦略は現在なかなか実行されておりませんから、私としましては、燃料油価格が上がるという他力本願的なことはさておいて、我々としては、
原子力船のコスト下げのために何とかして
船体以下のコストを下げる工夫を努力しなければならぬというふうに思います。コスト因子は今のところ不確かなところがありますから、まずそれを詰めるところから
研究開発に着手すべきだと思っております。そういう
意味では、「
むつ」を動かしますと、あの狭いところにぎっしり詰め込んで運転いたすわけですから、それの運転、保守、修理、検査、こういったものの
データは非常に貴重なものとなる、こういうふうに私は思っております。
コスト因子がはっきりしましたら、次に今度は、その中で主要なコストをどうやって下げるかということになるのですが、最大のものは
原子炉プラント価格でございまして、その中では格納容器とか遮へいというようなものの割合が一番大きいというふうに思います。そこで、こういうものの軽量化を図るということになりますが、
システム的にも構成要素の個々についても、新しいアイデアを入れて基礎的に
研究開発をいたしませんと、
現状と言ってはちょっと語弊がありますが、
現状の「
むつ」のように
陸上の発電炉のミニコピーというようなものだけでは、どうにも競争力はつかないというふうに私は考えます。「
むつ」の改良型というような格好でやっていくこともありましょうが、新しい
システムと構成要素を基本的に基礎から考え直すべきだ、こういうふうに思います。
そういたしますと、
内閣の
提出した
法案の中にも、基礎的にやっていけというふうなことがありました。先ほど
安藤参考人からもありましたように、「
むつ」については
原研はさまざまな力をかしておりますし、船に対しての知識も持っているだろうしというようなことで、発想をいろいろな面から出せる利点が大きいというふうに思います。そういう
意味で
内閣提出の
法案に賛成する
立場をとらしていただきますが、何せ船というのは自己完結的で孤立移動体でございますので、それをめぐる環境は非常に厳しいわけです。そういう
意味では、船の特殊事情を十分考慮に入れた
研究開発ということを進めていただきたいと思いますし、
造船海運関係の
技術者との意思の疎通を十分図ってやっていただきたいというふうに思います。
私、
原子力船実用化の
見通しなどについて、ちょっと経済的な面から強調し過ぎたと思いますけれども、私の基本は、やはり経済的に競争できるのでなければ
原子力船の真の時代は来ない、こういうふうに思っておりますので、幾ら
長期でも実質的に着実に
研究を進めていくということでお願いしたいと思っております。
これをもって終わります。どうもありがとうございました。(
拍手)