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森下参考人 私は、港・横浜で三十四年間、働きながら
労働運動をやっており、現在
港湾労働組合の執行
委員長をやっております。
結論を先に述べます。今回の
港湾運送事業法の
改正には断じて反対するものであります。
以下、その理由について若干述べます。
今回の
港運業法改正の二つの柱、すなわち二種と四種の統合問題と十六条
関係に伴う一種業の
基盤の追加問題等に沿って展開をいたします。
最初に、二種と四種の統合問題でありますが、運輸省当局の説明によれば、
現状に即し実
作業に着目して行うものとその目的を述べておりますが、
現状の実態は、それぞれの職種内での人員
確保とそのやりくりに追われているのが実際であります。そして、年々歳々二種と四種を中心とした現業
労働者が減らされております。
では、それほど仕事がないのか。決してそうではありません。忙しいときにはすべての職種で人手不足となります。現に事務職員がその名前が登録される、そして、忙しくなれば、実際に
沿岸作業などに駆り出されているのが実態であります。
では、なぜそうなるのか。その基本的な大きな問題として、
コンテナ貨物が港を素通りして大手メーカーに直接運ばれ、そこで
港湾労働者の手を経ないでコンテナのバン出し、バン詰めなどが行われる。さらには、
認可料金では特殊
料金や協定
料金などが主流となって買いたたかれる、こういったところから、先ほど述べたような
状況が生まれているわけであります。独占貨物などが
労働者や
港湾経営者の手を経ないという
状況を生み出したのはほかならぬ政府当局、運輸、大蔵省などの
行政指導にあることは明確であります。
コンテナ輸送体制の推進に手をかしたのはだれか。国と自治体の莫大な予算を使って
コンテナ埠頭の建設をどんどん促進したのはほかならぬ運輸省当局であり、コンテナ通関制度を
導入し、大手メーカーなどへの出張検査や書類
審査で通すなどを取り入れたのは大蔵省といったぐあいに、大手メーカーを中心とした荷主サイド、そして船会社を含めた大手
港湾利用者のサイドからすべてを見て、そのしわ寄せを
港湾労働者と中小経営者に押しつけているのが実態であります。
さらにつけ加えるならば、
コンテナ輸送体制をどんどん促進することによって
既存の現業
労働者と中小経営者がどういう
状況下に置かれているのか、
港運業法に即してそれがどういうぐあいになるのか、その法の根本精神に基づきそれをどう守るのか、こういう
立場こそ、法の番人であるべき運輸省当局がいち早く着目し、
労働省などと一緒になってその矛盾などの解決に積極的に当たることこそ強く求められていると確信するものであります。
同時に、
コンテナ輸送の推進に伴って生まれてくる新たな職種、海上コンテナ部門やコンテナのメンテナンス、修理部門などについては、これらを見て見ないふりをするなど、全く無責任な態度を現在もとり続けております。
港運業法と
コンテナ輸送や技術革新に基づく荷役形態の
変化などとの関連でどうするのかという点では、全く無責任な態度をとり続けていると重ねて指摘せざるを得ません。
さて、人減らし
合理化と
労働強化、そして独占貨物優先の
埠頭づくりによって
労働環境が極度に悪化し、加えて荷役のスピードアップなどによる
労働災害、職業病などが続発しております。過去五年間の横浜南
労働基準監督署の資料によりますと、これは横浜港の三分の二強に当たる
範囲にすぎませんけれ
ども、それでも労災死亡者が三十二名、四日以上の休業による労災発生件数は延べ三千九件という、他の産業をはるかにしのぐ労災発生
状況となっています。ある大手の
港運業者の一営業所に所属する
沿岸労働者の十六名中十四名が頸部脊椎症、腰部ヘルニア、腰痛などの治療を受けており、そのうち五名が労災扱いの職業病に認定されるという全く異常な
状況すら生まれているのが
現状であります。
しかし、これらは氷山の一角にすぎません。届け出をしないで私病扱いにしてしまうなど、その実態はもっともっと深刻なものとなっています。ある大手の
港運業者は、重度の労災を受けた仲間が勤務不能となっているにもかかわらず労災扱いとせず、その
企業から一定の見舞い金を出して、追い出すように家族ぐるみで蒸発させるという悲惨なことも起きております。
その昔、港は馬に飲ます水はあれど波止場人足に飲ます水はないと言われたほど、最低の
労働条件の代名詞ともなっておりました。私は今もその本質は変わっていないと思います。馬にとってかわって今は大型荷役機械が動き回り、独占貨物優先で人命は二の次という
状況がその実態だと思います。独占の飽くなき利潤の追求と
行政サイドの無責任な態度こそ、
船内、
沿岸を中心とした多くの仲間の人命を絶ち、家族を悲しませ、職業病や後遺症で苦しみの人生を押しつけるものとなっていることを、私は心からの怒りと無念さを持って国会の場で告発せざるを得ないという気持ちでいっぱいであります。
さて、以上の
状況のもとでの二種と四種の統合問題でありますが、これによって、第一に従来の二つの職種を
一つにし新たな
免許基準を設定するわけでありますから、従来の定数の枠をはるかに下回ることは容易に予想されます。その結果、より一層の人減らし、人員整理につながることは明らかであります。
第二には、より一層の
競争の激化を招き、業の整理淘汰が進行し、
事業からの撤退、縮小など
企業の閉鎖が発生すること、第三に、異質の
労働の連続行為によって
労働密度が濃くなり、一層の
労働強化となり、それによって
労働災害、職業病の新たな多発源となること、これらのことは既に実証済みであります。
昨年の九月、運輸省は、五大港の一種の
免許基準の見直しの
行政指導を行いました。ここでの特徴は、他の
免許基準はそのままにして、とりわけ現業
労働者の定数を大幅に引き下げたことにあります。この方向が明らかにされた段階から、これらの一種元請のところでは、事務職部門を含め百名単位の希望退職を募るという
状況が少なからず起きました。もちろん一種元請ですから
企業の倒産などは生まれておりませんけれ
ども、
法改正なしでの
免許基準の見直しをほのめかすだけでもこういう事態が生まれているわけであります。ましてや二種、四種の業の
基盤が弱いところから相当の否定的な影響が生まれることは言うまでもありません。
以上の諸点から、私は率直に次のように指摘せざるを得ません。
それは、運輸省当局が
法改正の理由に挙げている
現状に即したもの、実
作業に着目して行うものとすることは、現在の
港頭地帯で行われていることだけを指すものではなく、むしろ大手メーカーなどが内陸地で
港湾労働者の手を経ないで行っているコンテナのバン出し、バン詰めの実態を追認するところにこそその最大の理由があるということ。言いかえれば、
免許制の効力を低下させるものとなり、また、同時に他の職種間の統合問題やあるいは排除の方向に道をつける突破口となる可能性が大であるということであります。
要約して述べますと、今回の二種、四種の統合問題は
現状に即するという単純なものではなくて、綿密で計画的なものであり、その第一に、政府当局の主導による
既存の現業
労働者の人減らし、首切り
合理化であり、第二には、それを通じて
港運業法の骨組みを覆すことをねらったものであることを声を大にして指摘するものであります。
では、どこに問題があるのか。それは明確であります。運輸省当局が、独占サイドから物を見るのではなくて、公平中立の
立場から
港運業法を厳守することにあります。すなわち、第一条の港の
秩序を確立し、
港運業の健全な発達を図り、公共の福祉を増進する目的から、第二条の港における貨物の荷役行為、そして、それに先行しまたは後続する
一貫した行為及び第四条の起点及び終点という
立場を明確にさせて事に処することこそ、今緊急に求められていると断言するものであります。そしてそれがすべての出発点であり、前提であります。
次に、二つ目の柱であります一種元請
業者における
統括管理行為という新たな
基盤の追加問題について述べます。
当局の説明によりますと、複合
一貫輸送体制への
対応として
港運業の新しい展開を方向づけるものとして打ち出したものとなっております。
以下、箇条的に問題点を指摘してみますと、その第一は、二種、四種の統合問題では
現状に即すると言っておきながら、ここに来ると新しい展開を方向づけるものという先取り的な提起を行っており、全く矛盾するものとなっているということ。
第二の点は、
港運業の生き残り策の
一つとして、あえて言うならば幻想を抱かせながら、実際は大手
港湾利用者に港を明け渡す足がかりをつくる結果となりつつあること。現に最近の
業界紙の報道によりますと、既に神戸、横浜、東京のそれぞれの新しい公共のコンテナバースに大手船会社と大手
港運業者の共同出資による管理会社が生まれ、いずれも資本金の出資率は大手船会社が五〇%以上を握るというものであり、それらを一層増長させる結果とおっていることを指摘せざるを得ません。この結果、大変失礼な言い方でございますけれ
ども、しょせん船会社は流通部門の一構成
部分でありますから、銀行資本の系列化に沿った大生
物流企業や大手メーカーを中心とする荷主サイドからの直接の介入、系列支配の一層の強化の促進が図られるものとなるでありましょう。
第三の点は、
一つ目の柱である二種、四種の統合問題と新しい
基盤の追加という第二の柱とは全く裏腹の
関係にあること。端的に言いますと、
既存の現業部門を切り捨て、新たに発生している現業部門をそのままにして、そして
管理運営という美名のもとに、ただ単なる
一つの間接部門に港全体を転落させていくプログラムであることを強く指摘しておきたいと思います。
最後に、私は今回の
法改正の本質とそのねらいについて若干述べておきます。
事実経過が示すように、一九八一年七月の運政審の答申、八二年八月の公取委の見解表明、そして同年十二月の
行政管理庁の勧告によって、突如として、私は唐突の感を禁じ得ませんけれ
ども、ここで具体的な職種の名前が挙げられる。そして八三年三月の第二臨調の最終答申となったわけであります。これを受けての今回の
法改正であることはだれも否定することはできないと思います。最初の出発点である運政審の答申では、財界と自民党政府による八〇年代戦略のもとに打ち出されている総合安全保障の一環としての位置づけを明確にしておりますし、日米安保条約、日米軍事同盟のもとでの流通コストの一層の削減による大
企業の利潤の追求と独占貨物擁護のためのシーレーン防衛の起点と終点、すなわち港における有事即応態勢の確立にあることは言うまでもありません。
さらには、独占資本は、これまで
日本経済を支えてきた輸出と赤字国債の発行による大型公共投資の二つの柱の破綻からの脱出の方向として、大規模な産業構造の再編成を推し進めております。昨年の四月、国会で成立いたしました特定産業構造
改善臨時措置法に基づき、素材産業の設備の縮小、廃棄、
企業合併などを促進する一方で、先端技術産業の育成強化、その結果、大規模な人減らし、
合理化、過密
労働、中小
下請企業の切り捨てなどの深刻な事態が生まれております。まさに今回の
法改正はこれに匹敵する
内容であることを指摘しておきたいと思います。
〔
浜野委員長代理退席、
委員長着席〕
港湾運送事業法は、戦後の昭和二十六年に制定されました。そして現在も新規参入の制限などの
規制は、
港運業の持つ公共性の
確保あるいは
過当競争の是正、そして大局的に見るならば市民、国民生活に直接かかわるものとしてその役割を果たしつつあると私は確信をしております。にもかかわらず、今回の
法改正はこれを根底から覆そうとするものであり、私は中曽根
内閣の戦後政治の総決算の
港湾版であることを強調して、私の
意見陳述といたします。
以上であります。(拍手)