○刈田貞子君 私は、
公明党・
国民会議を代表して、ただいま
議題になりました
昭和五十八年分の
所得税の
臨時特例等に関する
法律案に対して、
反対の意を表明して
討論を行うものであります。
まず、本題に入る前に申し上げたいことは、
本案が
衆議院において
自民党の一方的な
採決により本院に送られてきたことであります。
すなわち、
政府・
自民党は、
衆議院において、われわれ野党が一致して
要求してきた田中元
総理に対する議員辞職
勧告決議案の本
会議上程を強硬に拒否し続ける一方、
国民にとって最大の願望となっている
減税問題の
審議は単独で行ってしまったのであります。これは
議会制民主主義を踏みにじるものであり、断じて許されるものではありません。
しかも、本院での
中曽根総理のたびたびの答弁では、田中問題の決着について一向に取り組む姿勢を見せることなく、むしろ
国会審議空転を招いた
責任をわれわれ野党側に転嫁して、
国民生活に密接に関連する
減税法案や行革関連
法案の
審議に応じない野党こそ
政治倫理に反するものであるといった本末転倒の論理を繰り返すような態度は、断じて容認できないのであります。
この際、
政府・
自民党は田中問題を初めとした
政治倫理確立のため毅然たる態度を示すことこそ、いまや失われつつある
国民の政治に対する信頼の回復につながることを強く指摘して本題に入ります。
本案に対する
反対の
理由は、まず、五十八年
分所得税減税の
規模が、およそわれわれの
要求とは大きくかけ離れたものとなっていることであります。
そもそも、これほどまでに
所得税減税が
国民的な要請として高まってきた原因は、五十二年以降、三〇%近く物価が上昇しているにもかかわらず、その間一貫して
所得税減税が見送られ、その結果として
所得税の実質
増税が進行し、サラリーマンを中心に、所得が伸びても実質可
処分所得が減少するという実態があるからであります。
にもかかわらず、このたびの千五百億円という
減税は、年収三百万円の世帯でわずか四千八百円程度のものにすぎず、これは一家四人で大衆ランチを食べれば消えてしまうランチ
減税とも言うべきお粗末な
内容となっているのであります。これでは、
財政再建の名のもとに、六年の長期にわたり実質
増税を強要されてきた
国民を愚弄したごまかし
減税と言わざるを得ません。
しかも、今回の
減税は、「五十八年中に
景気浮揚に役立つ相当
規模の
減税を
実施する」という
与野党間の合意
内容を全く無視したものであり、この程度のものでは、冷却し切った個人消費に刺激を与え
景気浮揚に役立つには値しないものであります。
次に申し述べたいことは、現行税制は高
所得層や高資産家に数々の恩典を与えている一方で、働く
国民大衆にとってはまことに過酷な仕組みになっており、私どもがその是正を主張し続けてきておるにもかかわらず、それがなされていないということであります。
その一つは、家庭の主婦のパート収入に対する課税であります。いまや主婦のパートタイマーは、五十七年度の統計でも女子雇用者の二割を超える状況にあります。これまで主婦たちのパート収入は、七十九万円を超えると自分が課税されるだけでなく、夫の配偶者控除が適用されなくなるため夫の
所得税と
住民税が急増し、その世帯の税
引き後の可
処分所得は大幅に減るという逆転現象が生じているのであります。このため、パート収入が七十九万円に近づくと、大半の主婦たちはボーナスを返上したり年末に欠勤して収入調整を図らざるを得ないのであります。
したがって、このたびの控除額一万円の
引き上げでは何ら問題の解決にはなりません。少なくともパートタイマーの平均収入百万円にまで
課税最低限を
引き上げるべきであり、パート収入がその枠を超えたときは夫の配偶者控除を徐々に減少させるという、働く主婦への思いやりのある税制の確立こそが
国民が熱望しているものなのであります。
さらに申し上げたいのは、
減税財源の調達について
政府の姿勢が消極的であるということであります。
本案による
減税規模わずか千五百億円は、五十七年度
剰余金にのみ求められておりますが、
政府は五十八年度予算執行に当たって防衛予算や大企業優遇の補助金等の不要不急の経費をカットして、これを五十八年
分所得税減税に充てれば、少なくとも
国民の納得する
減税ができるはずです。また、五十九年
分所得税減税七千億円の財源については、主として大衆的な酒類であるしょうちゅうや二級酒やワインなどの酒税の税率を
引き上げ、あるいはまた
物品税の課税対象の拡大などが
財政当局によってすでに予定されているやに聞きますが、これは
増税なき
財政再建の公約に反するものであります。その上、
増税はしない、新しい税目はつくらない、でこぼこ調整程度であるといった
総理や
大蔵大臣の重ね重ねの
発言は、言葉のすりかえとしか言いようがありません。
また、
国民感情にそぐわない
内容として、現行
所得税の最低税率を
引き上げ、最高税率を
引き下げようとしていることがあります。財政危機が深刻化しているこの時期に、担税力の大きい高額所得者の
減税を図ることは筋の通らないことで、ぜひとも
所得税の最高税率
引き下げは避けるべきだと主張します。とりわけ、これら高額所得者の所得の大部分が
利子配当所得や土地の譲渡所得などの資産性の所得で占められており、これらは分離課税や二分の一総合課税などによって優遇されていることを忘れてはならないのであります。したがって、
政府の
減税財源の調達の方向としては、逆進性の強い間接税の
増税をできるだけ回避し、現行税制に存在する各種の不公平税制の是正にさらに目を向けるべきであり、これこそが
国民がひとしく要請する
所得税減税実現にこたえる道ではありませんか。
最後に、先日の
税制調査会の中期
答申では、現行のほとんどすべての税目を俎上に上げ、基本的に
増税の方向を打ち出しており、
国民の不安を駆り立てております。また、大型間接税など新鋭導入を示唆するものともなっており、反面、
国民の要望の強い不公平税制の是正についてはありきたりの見解が述べられているだけで、失望の念を禁じ得ません。
しかも、
政府は、六十五年度までに赤字国債依存財政からの脱却を努力目標としているとの答弁を繰り返すだけで、
財政再建への具体的施策については何ら
国民に明示していないではありませんか。これでは、一体
国民は何を信じて将来に対する展望を持てると言えるのでありましょうか。
政府のその場しのぎの財政運営に強い憤りを抱かざるを得ないのであります。
以上述べてきたような事柄も含めて、
本案の
内容は全く
国民の期待を裏切るものであります。
政府・
自民党は、
本案を撤回し、
国民の要望にこたえるべく中身のある
所得税減税実現のため、その財源対策を
政府の
責任のもとで一兆円
規模の五十八年
分所得税減税を
内容とした
法案再提出を要請して、
本案に対する私の
反対討論を終わります。(
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