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1983-11-21 第100回国会 参議院 行政改革に関する特別委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十八年十一月二十一日(月曜日)    午前九時三十二分開会     ─────────────    委員異動  十月七日     辞任         補欠選任      多田 省吾君     塩出 啓典君  十一月十八日     辞任         補欠選任      小野  明君     菅野 久光君  十一月十九日     辞任         補欠選任      峯山 昭範君     飯田 忠雄君  十一月二十一日     辞任         補欠選任      鈴木 省吾君     吉川  博君      菅野 久光君     梶原 敬義君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         田中 正巳君     理 事                 岩崎 純三君                 長田 裕二君                 上條 勝久君                 成相 善十君                 佐藤 三吾君                 矢田部 理君                 中野  明君                 神谷信之助君                 伊藤 郁男君     委 員                 岡部 三郎君                 梶原  清君                 工藤万砂美君                 佐々木 満君                 関口 恵造君                 竹内  潔君                 竹山  裕君                 林  ゆう君                 藤井 孝男君                 降矢 敬義君                 宮澤  弘君                 宮島  滉君                 柳川 覺治君                 吉川  博君                 穐山  篤君                 梶原 敬義君                 久保  亘君                 志苫  裕君                 飯田 忠雄君                 塩出 啓典君                 和田 教美君                 内藤  功君                 柄谷 道一君                 青木  茂君                 野末 陳平君    衆議院議員        行政改革に関す        る特別委員長   金丸  信君    国務大臣        内閣総理大臣   中曽根康弘君        法 務 大 臣  秦野  章君        外 務 大 臣  安倍晋太郎君        大 蔵 大 臣  竹下  登君        文 部 大 臣  瀬戸山三男君        厚 生 大 臣  林  義郎君        農林水産大臣   金子 岩三君        通商産業大臣   宇野 宗佑君        運 輸 大 臣  長谷川 峻君        郵 政 大 臣  桧垣徳太郎君        労 働 大 臣  大野  明君        建 設 大 臣  内海 英男君        自 治 大 臣        国 務 大 臣        (国家公安委員        会委員長)    山本 幸雄君        国 務 大 臣        (内閣官房長官) 後藤田正晴君        国 務 大 臣        (総理府総務長        官)        (沖縄開発庁長        官)       丹羽 兵助君        国 務 大 臣        (行政管理庁長        官)       齋藤 邦吉君        国 務 大 臣        (北海道開発庁        長官)        (国土庁長官)  加藤 六月君        国 務 大 臣        (防衛庁長官)  谷川 和穗君        国 務 大 臣        (経済企画庁長        官)       塩崎  潤君        国 務 大 臣        (科学技術庁長        官)       安田 隆明君        国 務 大 臣        (環境庁長官)  梶木 又三君    政府委員        内閣審議官    手塚 康夫君        内閣審議官    百崎  英君        内閣法制局長官  茂串  俊君        内閣総理大臣官        房総務審議官   橋本  豊君        総理府人事局長  藤井 良二君        行政管理庁長官        官房総務審議官  竹村  晟君        行政管理庁長官        官房審議官    古橋源六郎君        行政管理庁行政        管理局長     門田 英郎君        行政管理庁行政        監察局長     中  庄二君        北海道開発庁総        務監理官     楢崎 泰昌君        防衛庁参事官   新井 弘一君        防衛庁長官官房        長        佐々 淳行君        防衛庁防衛局長  矢崎 新二君        防衛庁人事教育        局長       上野 隆史君        防衛庁経理局長  宍倉 宗夫君        防衛施設庁総務        部長       梅岡  弘君        経済企画庁調整        局長       谷村 昭一君        経済企画庁物価        局長       赤羽 隆夫君        経済企画庁総合        計画局長     大竹 宏繁君        経済企画庁調査        局長       廣江 運弘君        科学技術庁長官        官房長      安田 佳三君        国土庁長官官房        長        石川  周君        法務省刑事局長  前田  宏君        外務省アジア局        長        橋本  恕君        外務省北米局長  北村  汎君        外務省経済局次        長        妹尾 正毅君        外務省条約局長  栗山 尚一君        外務省国際連合        局長       山田 中正君        大蔵大臣官房総        務審議官     吉田 正輝君        大蔵大臣官房審        議官       水野  勝君        大蔵省主計局次        長        平澤 貞昭君        国税庁直税部長  渡辺 幸則君        文部省大学局長  宮地 貫一君        文部省学術国際        局長       大崎  仁君        文部省管理局長  阿部 充夫君        厚生大臣官房総        務審議官     小林 功典君        厚生省保険局長  吉村  仁君        厚生省援護局長  入江  慧君        農林水産大臣官        房長       角道 謙一君        農林水産省経済        局長       佐野 宏哉君        通商産業大臣官        房審議官     棚橋 祐治君        通商産業省機械        情報産業局長   志賀  学君        工業技術院長   川田 裕郎君        資源エネルギー        庁長官      豊島  格君        郵政省貯金局長  澤田 茂生君        労働大臣官房長  小粥 義朗君        労働省職業安定        局長       加藤  孝君        建設大臣官房長  豊蔵  一君        自治大臣官房審        議官       田井 順之君        自治省行政局公        務員部長     中島 忠能君        自治省行政局選        挙部長      岩田  脩君        自治省財政局長  石原 信雄君        自治省税務局長  関根 則之君    事務局側        常任委員会専門        員        林  利雄君        常任委員会専門        員        高池 忠和君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○国家行政組織法の一部を改正する法律案(第九十八回国会内閣提出、第百回国会衆議院送付) ○国家行政組織法の一部を改正する法律施行に伴う関係法律整理等に関する法律案内閣提出衆議院送付) ○総務庁設置法案内閣提出衆議院送付) ○総理府設置法の一部を改正する等の法律案内閣提出衆議院送付) ○総務庁設置法等の一部を改正する法律案内閣提出衆議院送付) ○行政事務簡素合理化及び整理に関する法律案内閣提出衆議院送付)     ─────────────
  2. 田中正巳

    委員長田中正巳君) ただいまから行政改革に関する特別委員会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  去る十月七日、多田省吾君が委員辞任され、その補欠として塩出啓典君が選任されました。  また、去る十一月十八日、小野明君が委員辞任され、その補欠として菅野久光君が選任されました。  また、去る十一月十九日、峯山昭範君が委員辞任され、その補欠として飯田忠雄君が選任されました。     ─────────────
  3. 田中正巳

    委員長田中正巳君) 国家行政組織法の一部を改正する法律案国家行政組織法の一部を改正する法律施行に伴う関係法律整理等に関する法律案総務庁設置法案総理府設置法の一部を改正する等の法律案総務庁設置法等の一部を改正する法律案及び行政事務簡素合理化及び整理に関する法律案の各案を一括して議題といたします。  まず、政府から順次趣旨説明を聴取いたします。齋藤行政管理庁長官
  4. 齋藤邦吉

    国務大臣齋藤邦吉君) ただいま議題となりました法律案について、順次その提案理由及び内容概要を御説明申し上げます。  初めに、国家行政組織法の一部を改正する法律案について申し上げます。  行政改革推進は、政府の当面する最重要課題であります。政府としては従来から行政機淵簡素効率化に努めてきたところでありますが、最近における行政をめぐる内外の厳しい諸情勢のもとで、行政機構膨張行政運営固定化を防止し、その一層の簡素効率化を継続的に促進する必要があります。  このため、昭和五十七年七月三十日に行われた臨時行政調査会行政改革に関する第三次答申に沿って、行政需要変化に即応した効率的な行政実現に資するため、行政機関組織編成の一層の弾力化を図り、あわせて行政機関組織基準をさらに明確にすることとし、この法律案提出した次第であります。  次に、この法律案概要について御説明申し上げます。  第一に、府、省等組織所掌事務範囲現行どおり法律で定めるという原則は維持しつつ、府、省等に配分された行政事務を所掌する官房、局及び部の設置及び所掌事務範囲については政令で定めることとしております。  第二に、府、省、委員会及び庁には、法律または政令の定めるところにより、審議会等及び施設等機関を置くことができるものとし、また、特に必要がある場合には、法律の定めるところにより特別の機関を置くことができるものとしております。  第三に、庁次長官房長及び局、部または委員会事務局に置かれる次長並びに大臣庁以外の庁に置かれる総括整理職設置政令で定めることとしております。  第四に、政府は、少なくとも毎年一回国の行政機関組織一覧表を官報で公示するものとしております。  第五に、当分の間、府、省及び大臣庁官房及び局の総数の最高限度は、百二十八とすることとしております。  なお、以上のほか、その他所要規定整備を行うこととしております。  次に、国家行政組織法の一部を改正する法律施行に伴う関係法律整理等に関する法律案について申し上げます。  この法律案は、国家行政組織法について、行政需要変化に即応した効率的な行政実現に資するため、国の行政機関組織編成弾力性を高めるとともに、あわせてその基準を一層明確にするための改正を行うことに伴いまして、各省庁設置法等関係法律二百三件につき必要な整理等を行おうとするものであります。  次に、この法律案内容について御説明申し上げます。  第一に、国家行政組織法の一部を改正する法律施行期日を、昭和五十九年七月一日と定めることとしております。  第二に、各省庁設置法等改正であります。  その一は、新たに各省庁全体の所掌事務規定を設けるとともに、官房、局及び部の規定を削ることとしております。  その二は、庁次長、局、部の次長国務大臣を長としない庁に置かれる総括整理職等政令で定めることとされた職の規定を削ることとしております。  その三は、附属機関その他の機関審議会等施設等機関及び特別の機関に区分し、審議会等及び施設等機関について法律で定めることを要しないものについて、その規定を削ることとしております。  その四は、地方支分部局のうち、ブロック単位設置された機関等の個別の名称、位置、管轄区域及び内部組織政令規定することとし、これらについての規定を削ることとしております。  以上のほか、各省庁設置法等について所要規定整備を図ることとしております。  第三に、各省庁設置法等改正に関連する諸法律について所要改正を行うこととしております。  なお、総理府設置法及び行政管理庁設置法等については、別に提出している総務庁設置法案及び総理府設置法の一部を改正する等の法律案において本法律案と同じく整理等を行うこととしております。  次に、総務庁設置法案について申し上げます。  この法律案は、最近における行政需要変化に即応して、総合的かつ効率的な行政推進を図るため、臨時行政調査会答申基本的方向に沿うて、総理府本府及び行政管理庁組織機能統合再編成し、総理府の外周として総務庁設置しようとするものであります。  総務庁は、各種総合調整機能相互補完関係をより緊密なものとするという基本的考え方に基づき、行政機関人事機構定員及び運営総合調整機能行政監察機能総合的運用を図るとともに、青少年対策等特定行政施策総合調整機能をあわせ有するものとし、政府における全体としての総合調整機能活性化総合的発揮を図ることとしております。  さらに、統計重要性にかんがみ、総理府及び行政管理庁統計行政機構統合再編し、統計行政における中枢的機能を確立するとともに、恩給に関する事務を含めて、これらを一体的に遂行することとしております。  次に、この法律案内容概要について御説明申し上げます。  第一は、総務庁所掌事務及び権限についてであります。  総務庁は、まず各行政機関が行う国家公務員等人事管理に関する方針計画等総合調整等人事行政に関する事務行政制度一般に関する基本的事項企画行政機関機構定員及び運営総合調整等組織定員管理に関する事務、各行政機関業務についての監察に関する事務を行うこととしております。  また、恩給を受ける権利の裁定等恩給に関する事務のほか統計制度基本的事項に関する企画その他統計に関する総合調整及び国勢調査その他の基幹的統計調査実施等統計に関する事務を行うこととしております。  以上のほか、交通安全対策老人対策地域改善対策事業青少年対策及び北方対策など特定行政分野における事務総合調整等を行うこととしております。  第二に、総務庁の長は、総務庁長官とし、国務大臣をもって充てることとしております。総務庁長官は、所掌事務に関し、各行政機関の長に対し資料の提出及び説明を求め、また、随時、内閣総理大臣または関係行政機関の長に対し意見を述べることができることとしております。さらに、総務庁長官は、監察を行うため必要な範囲において各行政機関業務について実地に調査することができることなど行政監察機能と効果を確保するための権限を行使できることとしております。  第三に、総務庁に、公務員制度審議会を置くほか、特別の機関として、青少年対策本部及び北方対策本部を置き、その長にはそれぞれ総務庁長百たる国務大臣をもって充てることとしております。  さらに、地方支分部局として、管区行政監察局地方行政監察局等を置き、行政機関業務監察行政相談等事務を分掌するほか、必要に応じ行政機関機構定員及び運営に関する調査等事務を分掌することができることとしております。  最後に、総務庁は、昭和五十九年七月一日から発足することといたしております。  次に、府県単位機関整理合理化のための総務庁設置法等の一部を改正する法律案につきまして申し上げます。  各省庁地方支分部局整理合理化につきましては、去る三月の臨時行政調査会の第五次答申において各般の改革方策提言が行われているところでありますが、その一環として、ブロック機関のもとに設置されておる府県単位機関について、そのあり方を見直し、簡素な現地的事務処理機関とすべき提案が行われているところであります。  政府は、この提言を踏まえつつ地方支分部局整理合理化を進めることとし、当面まず府県単位機関のうち法律改正を要する地方行政監察局を初め三機関について速やかに所要措置を講ずることとし、ここにその法律案提出した次第であります。  次に、この法律案内容について御説明申し上げます。  第一に、地方行政監察局地方公安調査局及び財務部整理合理化を図るため、これらをそれぞれ行政監察事務所公安調査事務所及び財務事務所と改め、所要現地事務を処理させることといたしております。  第二に、この法律は、昭和五十九年十月一日から施行することといたしております。  最後に、行政専務簡素合理化及び整理に関する法律案について申し上げます。  先般、政府は、臨時行政調査会の第五次答申に至る全答申を踏まえた行政改革具体化に関する新たな方針を決定いたしております。  その一環として、同調査会の第三次答申及び第五次答申に係る規制及び監督行政適正化、国と地方公共団体機能分担合理化等事項実現に資するため、関係行政事務簡素合理化及び整理を行うこととし、ここにこの法律案提出した次第であります。  次に、法律案内容について御説明申し上げます。  第一に、規制及び監督行政適正化のための許可等整理合理化に関する事項といたしまして、資格制度、検査・検定制度事業規制及びその他の分野に係る許可等事務について、廃止規制の緩和、民間等への委譲などの合理化を行うこととし、漁船法の一部改正による漁船登録簡素化エネルギー使用合理化に関する法律の一部改正によるエネルギー管理士試験事務民間団体への委譲その他の改正を定めております。  第二に、国と地方公共団体機能分担合理化等のための事項といたしまして、地方公共団体の長等に委任されている国の事務について、社会経済情勢変化に伴い必要性の乏しくなっていると認められる事務廃止または縮小、地方公共団体事務としてすでに同化、定着していると認められる事務当該地方公共団体事務への移行、都道府県知事事務市町村長への委譲などを行うこととし、興行場法の一部改正住民基本台帳法の一部改正その他の改正を定めております。  この法律案は以上の方針により十四省庁五十八法律にわたる改正を一括とりまとめたものであります。  なお、この法律は、一部を除き原則として公布の日から施行することといたしております。  以上が五法律案提案理由及びその内容概要であります。  何とぞ慎重御審議の上、速やかに御賛同くださるようお願いいたします。
  5. 田中正巳

  6. 丹羽兵助

    国務大臣丹羽兵助君) ただいま議題となりました総理府設置法の一部を改正する等の法律案について、その提案理由及び内容概要を御説明申し上げます。  今回別途御提案申し上げております総務庁設置法案において、総理府本府及び行政管理庁組織及び機能統合再編成し、総理府の外局として総務庁設置することといたしておりますが、本法律案は、総務庁設置に当たり、総理府本府の組織及び機能整序を図るため、所掌事務整理総理府総務長官及び総理府総務長官廃止審議会等の各省庁への移管等措置を講ずるとともに、行政管理庁廃止するほか、関係法律規定整理を行おうとするものであります。  次に、この法律案内容概要を御説明申し上げます。  第一は、総務庁設置により、総理府本府から、人事行政恩給及び統計に関する事務並びに交通安全対策老人対策地域改善対策事業青少年対策及び北方地域に関する事務総合調整に関する事務総務庁へ移管することに伴い、総理府設置法等関係法律について所要改正を行うことといたしております。  第二は、行政管理庁所掌事務総務庁へ移管することに伴い、行政管理庁設置法廃止することといたしております。  第三は、総理府総務長官及び総理府総務長官廃止することとし、これに伴い、内閣官房長官内閣総理大臣を助けて府務整理総理府本府の事務監督等を行うこと、内閣官房長官内閣総理大臣の定めるところにより内閣官房長官を助けること、さらに、総理府総理府次長を置き、内閣官房長官及び内閣官房長官を補佐し、事務総括を行うことといたしております。  第四は、総理府本府に置かれている審議会のうち、公務員制度審議会等審議会総務庁へ、雇用審議会等審議会労働省等省庁へそれぞれ移管することとし、これに伴い、雇用審議会設置法等関係法律について所要改正を行うことといたしております。  第五は、国家行政組織法の一部を改正する法律施行に伴う総理府設置法等関係法律規定整理を行うほか、所要規定整備を行うことといたしております。  第六は、この法律は、総務庁設置法施行の日から施行することといたしております。  以上がこの法律案提案理由及び内容概要であります。  何とぞ慎重御審議の上、速やかに御賛同あらんことをお願いいたします。
  7. 田中正巳

    委員長田中正巳君) 次に、国家行政組織法の一部を改正する法律案につきましては、衆議院において修正されておりますので、この際、衆議院における修正部分について、衆議院行政改革に関する特別委員長金丸信君から説明を聴取いたします。金丸君。
  8. 金丸信

    衆議院議員金丸信君) ただいま議題となりました国家行政組織法の一部を改正する法律案に対する衆議院における修正につきまして、その趣旨及び内容概要を御説明申し上げます。  わが国の行政機関組織は、昭和二十四年以来、府省庁設置のみならず、その内部組織に至るまで法律で定める原則が確立されてきたのであります。こうした法律による行政組織管理の仕組みが、国民主権を背景とした国会審議権行政に対する国会の関与を通じ、行政組織膨張抑制機能を果たしてきたところであります。  時代の流れとともに、行政需要変化に即応した効率的な行政実現に資するため行政組織管理弾力化を図ることが必要な側面もありますが、局、部等の設置、改廃を政令にゆだねる等の国家行政組織法の一部を改正する法律案行政組織に対する国会の関与を制約し、その結果として行政組織の肥大化を招くようなことがあってはならないのであります。  このため、行政組織管理弾力化国会審議権行政に対する国会の関与監督権との調整を図るとともに、臨時行政調査会答申で強調されている行政組織簡素効率化を目指して、衆議院におきまして、以下申し上げるような修正を行った次第であります。  第一に、政府は、今回、政令設置されることとなる組織その他これらに準ずる主要な組織につき、その新設、改正及び廃止状況を次の国会に報告しなければならないものとしております。  第二に、五年後に局、部などの組織について総合的に検討し、必要な措置を講ずるものとしております。第三に、官房及び局の設置数の最高限度百二十八についても五年後に見直しをする規定をあわせて明文化しております。  以上が修正趣旨及び内容概要であります。
  9. 田中正巳

    委員長田中正巳君) 以上で趣旨説明並びに衆議院における修正部分説明の聴取は終わりました。     ─────────────
  10. 田中正巳

    委員長田中正巳君) 委員異動について御報告いたします。  本日、鈴木神吾君及び菅野久光君が委員辞任され、その補欠として吉川博君及び梶原敬義君が選任されました。     ─────────────
  11. 田中正巳

    委員長田中正巳君) これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。矢田部理君。
  12. 矢田部理

    ○矢田部理君 本論に入る前に、総理にお尋ねをしておきたいと思うのでありますが、十八日の参議院の本会議で、わが党の佐藤三吾議員の質問に答えまして総理は、全法案の成立をさせてほしい、国会の正常化と全法案の成立については議長から保証をもらっているという旨の発言がございましたが、これはどういうことだったのでしょうか。
  13. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 今回の法案審議に当たりまして、特に衆議院段階における最終過程におきまして種々の話し合いが行われたのでございます。国会衆議院段階におきまして約一カ月余にわたって空転をいたしましたことは、はなはだ遺憾であると存じておりますが、この法案審議国会正常化というものをどうするかということで各党間でいろいろお話し合いがあったようでございます。  その最終過程におきまして、議長さんがお出ましになりまして、衆議院議長並びに参議院議長、この御二方が国会運営について非常に御心配をなされまして、各党と種々お話し合いを行ったと私は思っております。  その過程におきまして、私の得た心証では、全法案を成立させていただくということ、それから国会を正常化いたして審議に参加していただくということ、こういうことを自民党は非常に強く主張し、私もお願いを申し上げまして、それを中心にどうすべきかというようないろいろなお話が行われたのではないかと想像しております。  その結果、私は、全法案を成立させ、また正常化させていただくということについて重大なる関心を持っておるのでありまして、そういうことが行われない場合には、政局の運営について私も考えなければならぬところがある、そういうふうに私自体が考え方をまとめまして、そういう態度を持しておるということであります。
  14. 矢田部理

    ○矢田部理君 これから審議が参議院は始まるのです。きわめて限定的な会期の延長をセットしておいて、その期間内に全法案の成立がなければ私も今後政局の運営については重大な決意をする、これは参議院に対する恫喝ではありませんか。参議院の審議権を全く無視したものではありませんか。その点で総理に問題があると同時に、議長が成立を保証したというのはどういうことでしょうか。
  15. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 全法案の成立を議長が保証したということを私は言ってはおりません。しかし、私がいろいろお話し合いをいたしました結果、私の得た心証ではそういう方面に政局が流れていくのではないか、そういうように私は洞察したということであります。
  16. 矢田部理

    ○矢田部理君 私も本会議の総理の答弁を伺っておりますが、議長が成立を保証したという趣旨の御発言でございました。これは院の審議のあり方にとってもきわめて重大な問題でありまして、われわれはそんな中でスムースにこれから審議に入ることはなかなかできにくい。その真意は一体どうなっておるのでしょうか。単なる総理の感触とか受けとめ方とかいう趣旨のものではなかったはずでありますが、あのときの発言を正確にしてほしいと思います。
  17. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 私はそういう感触を得たのでございます。あのとき、衆議院議長のたしかお話の中で、野党の皆さんに対するお話には私との話し合いで何かを感得された由という文章、言葉があったように思います。私も何かを感得したと、そういうことであります。
  18. 矢田部理

    ○矢田部理君 政治だからニュアンスや感触でいろいろ物を言うことがないわけではないというふうに私も思いますが、どうも今度の後半の動きはニュアンスがあり過ぎる。ここをやっぱり明確にしておかなければならないのは、事参議院の審議権にかかっているからであります。総理の本会議における御発言も、単なる感触として述べられたというふうには私は受けとめておりません。  その点で、委員長、本会議の議事録を精査していただきまして、この問題は明確にしてほしいというふうに私は思っております。
  19. 田中正巳

    委員長田中正巳君) さよう取り計らいます。  ちょっと速記をとめて。    〔速記中止〕
  20. 田中正巳

    委員長田中正巳君) じゃ、速記をとって。
  21. 矢田部理

    ○矢田部理君 速記録を持ってきていただくまで質問を留保して、次の質問に入ります。  そこで、本論の冒頭でありますが、去る十月十二日田中角榮被告に対して実刑四年の厳しい判決が下されました。実刑四年になっただけではなくて、この判決文を読んでみますと、田中角榮被告が行った犯罪は「国民の信頼をはなはだしく失墜し、社会に及ぼした病理的影響の大きさにはかり知れないものがある」、「公務の公正さに対する信頼に背くことにおいて極めて重大」で「最高の非難をまさに直接にこうむらなければならない。」、こう断罪をしているのであります。  総理、この判決を率直にどんなふうに受けとめられましたでしょうか。
  22. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 裁判の判決につきましては厳粛にこれを受けとめております。しかし、その内容につきまして論評いたしますことは、行政府の長として三権分立のたてまえから差し控えたいと思います。
  23. 矢田部理

    ○矢田部理君 前からその向きのお話は伺っておるわけでありますが、そこで、私ども社会党は、かねてからの主張でありますが、特にこの際、田中元総理はその政治的道義的責任を明らかにして辞職をすべきである、どうしても御本人が辞職をしないということであるなら、これまたかねてから衆議院に提起をしております辞職勧告決議を行うべきである、こういう立場で今日まで臨んでまいりました。今日もまたこの考え方は全く変わっておりません。  そこで、この問題を二つに分けまして、まず田中元総理自身がみずから身を引くべきである、辞職をすべきであるということについて総理はどうお考えでしょうか。
  24. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) そういう個人の進退に関する問題につきましては、私は論評いたしません。しかし、行政管理庁長官時代から一貫して今日になっても申し上げていることは、国会議員の進退というものは慎重を要すると。まあこの具体的ケースについて申し上げることではございませんけれども、やはり憲法の規定あるいは国会法、そのような文章、条章もよく読み、かつまた議会政治の基本というものが選挙民の意思から成立しているというような点も考えてみて、やはり憲法や法律、あるいは選挙民の意思、あるいは本人の自由意思、こういうもので決めることが適切であると一般論として申し上げておるところであります。
  25. 矢田部理

    ○矢田部理君 私は、問題を二つに分けてこれから詰めていきたいと思います。  一つは、みずから辞職すべきである。二つ目は、どうしても辞職しなければ辞職勧告決議をという二段構えで私どもは臨んできたわけでありますが、前段の方の論議を中心にまずしていきたいと思います。  そこで、十月の二十八日午後三時から総理は田中被告とお会いになりましたね。これはどんな目的で何のためにお会いになったのでしょうか。
  26. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) この問題は大きな重要な問題でありまして、私は昭和二十二年以来、第一回国会に相ともに参加をさしていただいた同期生であります。自来三十六年にわたりまして、日本の独立、あるいは戦後の復興、あるいは日本の繁栄等のためにお互いに努力し合った仲間であります。そういうような友人といたしまして、時局の問題をいろいろ話し合い、あるいは政治倫理の問題についても話し合い、そして友人としてできる限りの助言をしたということでございます。
  27. 矢田部理

    ○矢田部理君 判決があってから長考一番と称してだんまりを決め込んだ。初めて動いたのがこの日だったのです。この前日あたりからだったようです。その前日は、会う予定が田中派の幹部の反対で会えませんでした。会っても総理が恥をかく、総理・総裁の権威にかかわるということで反対をされてつぶれたというふうに伝えられています。翌日会ったって同じことになるだろうと思うのでありますが、それはそれといたしまして、友人として助言をした。何の助言をされたのでしょうか。おやめなさい、この際出処進退を明らかにしなさい、こういう話をされるつもりで会われたのではありませんか。現実にされたのでしょうか。
  28. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 田中元総理に会うことは、そのときにおきましても翌日に決まっておったのでありまして、新聞がその日に会うように間違った報道をし、皆さんがそれに乗ったというだけであります。  第二に、私が田中元総理と話し合った中は、いま申し上げましたように、内外非常に重大な時局であり、国会の空転もこれあり、そして政局打開、日本の民主政治発展、そういうようないろんな面からも考えまして、友人としてできるだけの助言をしたのでありまして、僚友二人のプライベートな話の内容は、相手が同意せざる限り公表しない方が適切であると考えます。
  29. 矢田部理

    ○矢田部理君 プライベートの話かどうかは別として、非常にあなたの動きを全体の天下が注目をしておる。自民党のその後開かれた総務会でも、さていかなる話をしてきたのであろうかということとしていろんな質問が出ました。どうもあなたがしかと話をされないので福田さんまでもが、何が何だかさっぱりわからぬというような評価をする始末になったわけでありますが、それでは実は政治は困るのでありまして、この際、会った目的、助言の内容、そして田中さんのそれについてとった態度等についてつまびらかにしていただきたいと思います。
  30. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 先ほど来申し上げておりますように、個人的な友人同士の話し合いを公表すべきものではない。状況から見て、心眼を開けばある程度おわかりになるのではないかと思います。
  31. 矢田部理

    ○矢田部理君 心眼でわかるような内容ではなさそうに私には思われるわけでありますが、総理はこの会談で、いろいろ問題になってきた田中問題というのはけじめがついた、決着がついたというふうにお考えでしょうか。
  32. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) けじめという意味がどういう意味だか私よくわからないのですが、教えていただければありがたいと思います。
  33. 矢田部理

    ○矢田部理君 ただ何となく一国の総理が刑事被告人に会って時局について語り合った、助言をした、あとは心眼を開いて想像しなさい。結果としてまとまったのか、けじめがついたのかも言葉からあなたは反論される。言葉の意味を聞きたいなどと言われてとぼける。結局何があったのかさっぱりわからない。わからないけれども事態は動いている。自民党の党内をこれでまとめて中央突破をしていこう、こういう作戦、挙に出た。これがあなたの政治ですか。国民にとってはきわめてわかりにくい、不明朗な政治の手法ではありませんか。その点どうお考えになりますか。
  34. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 先ほど来申し上げますように、友人同士のプライベートな話は、相手が同意せざる限り公表しないということが適当であると思っております。
  35. 矢田部理

    ○矢田部理君 瀬戸山文部大臣に伺います。  瀬戸山さん、あなたはかつて法務大臣もおやりになった。その瀬戸山さんが、十月の初めだそうでありますが、田中さんに、田中被告に書簡を送って、有罪だったら直ちに議員を辞職しなさいという旨の手紙を送ったというふうに報道されておりますが、その事実関係、手紙の内容等についてお話をいただきたいと思います。
  36. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 私は、いわゆる私の手紙、私信でございますから世間に出すべきものだと思っておりませんでしたけれども、どこかで一部漏れております。それは私にはどこから漏れたかそれはわかりませんけれども、事がなかなかデリケートな問題ですから、誤報されては、当事者もそうですけれども世間にも誤解を受けると、こういうことを私なりに考えて、実態はこうでございますということを、余りにマスコミから追っかけられますから真相を申し上げて今日に至っております。  まあ、お尋ねでありますから申し上げますが、これは全く個人的な考えでございまして、いわゆる文部大臣とかなんとかということでなしに、文部大臣の席にたまたまおりますから文部大臣瀬戸山ということになっておるのでございますが、政治家瀬戸山三男という立場で田中元総理大臣に私の考えを申し上げた。  これは手紙にもありますように、私は昭和二十四年以来田中氏とは本当の友達だと思っておるので、そう書いてあります。親しいだけじゃなく真友、まことの友達だということを考えておりますから、そういう意味で、状況を見ておりまして、まあ事件というものは、われわれは第三者でありますから、手紙にありますように、事の真相はわかりません。もう七年がかりぐらいの裁判で、いろいろ報道されておる範囲だけしかわかりません。しかし、十月の十二日に判決があるという事態になって、今日までの政界はもとより国内外の状況を見ておりますと、無罪を祈りますけれども、もし有罪になったらこの際一遍身を引かれたらいいのじゃないだろうか、それを私は祈るような気持ちでお願いをすると。それが国政を、渋滞と言うと適当であるかどうかわかりませんが、混乱をさせない。国民も安心する。  ちょうど海外からは、御承知のとおりにそれぞれの国から要人が見える。そういうさなかでありますから、そういうことを全部政治家としておさめていただけぬか、こういう趣旨で申し上げたのであり、むしろその方が私は正直なところ、非常なすぐれた、すぐれたなんて言うとおこがましゅうございますが、偉大な政治家だと思っておる、事件は事件、これは別として。でありますから、その偉大さをこの際ひとつあらわしていただけないだろうか、これは私のお願いでございます。やめなさいとか何とか言う資格はないのです。それはまさに先ほども総理がお話しになりましたとおりに、そういう進退の問題をみずから決することをお願いを申し上げた、こういう次第であります。
  37. 矢田部理

    ○矢田部理君 お願いであれ、やめる方がよろしいという書簡を送ったようでありますが、そういう瀬戸山さんのやり方、総理は間違いだと思うのですか。総理のお話とはずいぶん隔たりがある、違うことになるわけですが、いかがでしょうか。
  38. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 日本は自由主義の社会でございますから、言論は自由でございます。
  39. 矢田部理

    ○矢田部理君 総理、これほど重要な問題を、自由主義の社会だから何をやろうと御自由ですということは少しく答弁として誠実さがなさ過ぎるのじゃありませんか。
  40. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) まあ人間はみんなおのおの固有の考えを持っておるものでございますし、特に自由民主主義の社会におきましては、おのおのが個性を持って自分の信ずるところを行い、また言動を保障される、これがわれわれの理想でもございます。  瀬戸山文部大臣は、一個の政治家としてそういう自分の信念に基づく自由な行動をおとりになったということで、それは瀬戸山さん自体の責任においておやりになったことでありますから、私たちもいいとか悪いとかは論評いたしません。しかし、それはそれなりにわれわれは受けとめておるということであります。
  41. 矢田部理

    ○矢田部理君 この問題は、最近の政治の最大の課題なのですね。それに対して総理は一切手を染めない。田中被告個人の問題だと言ってさわらない。それに対して瀬戸山さんは、物の言い方はいろいろ考えられたようでありますが、やめるべきだという向きの書簡を送った。総理の政治のやり方に対する痛烈な批判じゃありませんか。それが総理のもとにある閣僚の動きということになれば、単に個人が私信を送ったというのともまた質が違うのではありませんか。閣内ですらこれだけあなたのやり方に対する深刻な批判があるということは、あなたはどう受けとめられますか。  あわせて、安倍外務大臣、政治家としての安倍さんに伺いたいと思いますが、あなたも田中さんはやめるべきだという向きの演説を地方などではされているようでありますが、御心境はいかがですか。
  42. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) いままでお話がありましたように、国会議員の身分というものは国会において保障されておるわけでありまして、国会議員の出処進退はその本人の判断に従うものであるということを前提にいたしまして、いましかし国会はこういうふうに混乱をしておる。そういう中で、自民党の中でも、田中元総理におやめになっていただきたい、こういう声が非常に強いということに耳を傾けていただきたい、こういう趣旨のことを私は演説をいたしております。
  43. 矢田部理

    ○矢田部理君 もう一方伺いますが、行管庁長官はどんな御心境ですか。
  44. 齋藤邦吉

    国務大臣齋藤邦吉君) 判決につきましては厳しく受けとめるべきであると、かように考えております。
  45. 矢田部理

    ○矢田部理君 もうちょっと言葉を多くしていただけませんか、出処進退について伺っているのでありますから。
  46. 齋藤邦吉

    国務大臣齋藤邦吉君) 国会議員の進退につきましては、憲法なり国会法等の規定がございますから慎重に考えるべき問題であろう、かように考えております。
  47. 矢田部理

    ○矢田部理君 いずれにしても、閣内にすらいろんな意見がある。特に、総理のやり方に対してはまさに正反対の立場をとられた閣僚もおられる。これが世論ということになれば、もう八割から九割の人たちが田中元総理は辞職をすべきである、圧倒的な声なんです。ここまできますと、中曽根総理、そういう国民の立場に立つのか、いろんな理屈はございましょうが、田中被告を弁護する立場に立つのか、あなたは二者択一が迫られている。後者の立場にあくまでもお立ちになるのでしょうか。
  48. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 私は、前から申し上げておりますように、議会人として、また一国会議員、つまり立法者としての立場を持っておりまして、またある場合には、国務大臣として行政府の責任者としての立場からここで御発言申し上げてきた次第でございます。  特に私が申し上げてまいりましたのは、憲法、国会法及び国会議員の進退の問題でございます。前から申し上げておりますように、国会議員については大きな憲法上の保障がございます。たとえば、議会から放逐するという場合には、懲罰という形によりまして三分の二の多数でなければ議会から放逐できない。あるいは議員の資格争訟、資格を争うという場合にも同じように三分の二の多数でなければできない。一たん除名で外へ追い出しても、次の選挙で当選されてきたら拒むことができない。このように書いてあるということは、いかに国会議員の身分の保障、言論の自由、少数者保護を憲法上、国会法上考えているかということはこれで十分考えられることでございます。  このようにやっているのは、結局は多数横暴をはびこらせないという大きな配慮からであります。もし仮に、二分の一の多数でそれが行われるというようなことになったら、少数党の皆さんは一体運命がどうなるか。自民党が結束してあの議員をやっつけてしまえというようなことで、いろんなことで、過半数でその身分を左右するというようなことをしたら、これはもうびびってしまって言論の自由もなくなるということに事実上なるでしょう。そういうようなことから、三分の二という多数で国会議員の身分を保障してきておるわけでございます。  そういうような憲法上あるいは国会法上の少数者保護、言論の自由の確保という議会主義の根底に連なってきている問題であります。そういう面からいたしましてこれは慎重を要すると。  かつてわれわれの議会は、あの昭和の十年代におきましてとうとうたる軍国主義に流れて、各新聞も一斉にその軍国主義に同調して、齋藤隆夫さんが反軍、縮軍演説をやったときには除名しろということで、ほとんど全員の声のような形で時流に流されて、齋藤隆夫先生を除名したという大きな過失を持っておる。そういう過失を繰り返してはならぬ。そういう意味において、国会議員は法というものについてきわめて冷静に長期的な展望を持って進退していかなければならぬと私は前から申し上げておる。  そういう意味からして、国会議員の進退をその三分の二という保障があるにかかわらず、政治的に二分の一の勧告決議案という形で身分を消してしまい、あるいは外へ押し出してしまうという効果を生むようなことをやることは、ひいては齋藤隆夫さんや西尾末広さんを除名したと同じ効果を及ぼしてくるのであって、よほど慎重でなければならぬということを言うておる。したがって、進退に関する問題は、選挙民がこれを決めるかあるいは本人が決意するか、その方が好ましい妥当な方法である。それはまさに野党のためも考えた少数者保護、あるいは憲法上の原則遵守という意味から私たちはこれを申し上げているということであります。
  49. 矢田部理

    ○矢田部理君 総理、私は、総理の口から特にこの時期に少数者保護論を聞くのは大変心外なのであります。問題は事を一般化してしまう、問題の焦点を他にすりかえるたぐいのものではないかというふうに私は思っております。辞職勧告決議に対する総理の反論をいま言われたと思います。  いよいよ私もそちらに問題の重点を移しますが、法制局長官、辞職勧告決議は憲法違反ですか。
  50. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) お答え申し上げます。  ただいま総理の御答弁にもありましたように、憲法は、国会議員の地位をその意に反して失わせるにつきましては、厳格な要件と手続を定めておるわけでありますが、これは国会議員が全国民の代表者として国民の選挙により選任され、国権の最高機関としての国会を構成するものであるという地位の特殊性と職責の重要性にかんがみまして、国会議員の身分保障を特に手厚くしておるのであると考えられます。  ところで、いわゆる議員辞職勧告につきましては、法的な拘束力は持たないといいますものの、その議員の進退につきまして事実上強い圧力を加えるものでございます。それは憲法に定めているような厳格な要件と手続を経ないで、選挙民と国会議員との関係を断ち切るということになりかねないものでございますので、いま申し上げましたような憲法の基礎にある考え方からいたしますれば、その取り扱いにつきましては慎重な配慮が要請されると考えております。
  51. 矢田部理

    ○矢田部理君 慎重な配慮とか重大性とかということを言っているのじゃなくて、勧告決議そのものが憲法に即違反しますか。するかしないかで答えてください。
  52. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 議員辞職決議の問題は、これは国会自体の行動に関する問題でございまして、行政府に属する私の立場でそれが憲法に違反するかしないかということにつきまして断定的な御意見を申し上げるのはいかがかと思いますので、差し控えさしていただきたいと思います。
  53. 矢田部理

    ○矢田部理君 あなた問題をすりかえて、慎重に扱うべきだなどと言っているから私は聞くのです。憲法に辞職勧告決議案を出しちゃいかぬなんという規定はどこにもないじゃありませんか。辞職勧告と除名というのは厳格に手続が違うのであります。除名とか資格争訟の論理をもって辞職勧告を切ること自体に論理の飛躍がある、憲法論の誤りがあるわけであります。私どももそこは十分に踏まえてあの決議案は出しているのであります。  法制局長官、憲法に抵触するとか違反などとはどこからも出てこないじゃありませんか。だめですよ、いいかげんなことを言っては。
  54. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 私は辞職勧告決議案が憲法違反だなどと言ったことは一回もありません。それはただいま申し上げましたように、国会議員にはそれだけ憲法や国会法で身分が保障され、言論の自由、少数者の保護が保障されておる。先ほど申し上げました理由からも、そういう状況から見て、辞職勧告決議案というような類のものを出すことは、これは議会主義になじまない、したがってそれは慎重を要する、そういうことを言っておるのでありまして、ストレートに憲法違反だというようなことを言ったことはございません。
  55. 矢田部理

    ○矢田部理君 憲法上違反でないことも明白であるし、疑義もないというふうに私は考えております。  そこで、総理はまた三審制などということを持ち出すのですね。これを法律上の疑義だというふうに言っておられるようでありますが、刑事裁判における一審の位置づけ、それから控訴審の構造ということについて余り理解がないのではなかろうかと私は推察するのであります。現行刑事訴訟法、刑事裁判制度は、とりわけ事実関係について一審を重視をいたしております。そして二審、三審とありますが、二審は続審と言っている。一審巻と同じことを繰り返してもう一回裁判をやり直すのではありません。事後審といって、一審判決の一部に問題があればそれを一回調べてみましょう、こういう事後審方式をとっている。その限りで言えば一審の判決の重み、とりわけ事実関係についての重みというのは非常に大きいというふうに受けとめるのが専門家筋の一致した見方なのであります。  これは後に秦野さんにもお尋ねをしますけれども、それは新聞を見れば明らかなように、岡原さん、藤林さんなどの最高裁長官の経歴者もそのことを強く訴えているわけでありまして、そのことは法制局長官おわかりでしょうね。そこをやっぱりきちっと理解をしないと、この問題の受けとめ方を間違うのであります。岡原さんに言わせれば、このような時期に政治が自浄作用、自浄能力を失ってしまえば国家体制は危機に瀕する、崩壊の危険すらある。大変深刻な問題提起を、あの岡原さんですらと言うと失礼でありますが、しているのであります。その辺法制局長官どういうふうに考えますか。
  56. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 第一審の判決につきまして、これを厳粛に受けとめなければならないとか、あるいはこれにつきましていろいろな意味で重みがあるものであるということにつきましては、これはおっしゃるとおりであろうかと思います。  ただ、一般論として申し上げますと、日本の裁判制度は三審制をとっておるということがよく口に出されておるわけでございますが、仮に第一審で有罪の判決がされましても、その判決が争われる限りにおきましては被告人が有罪であるとは言えない。そのような意味では第一審で有罪の判決がされても、それが確定していない以上まだ罪のない状態であるということ、これは紛れもない事実であると思います。
  57. 矢田部理

    ○矢田部理君 その話はあなたから説明されなくても私なりにわかっているわけであります。  そこで、もう一つの問題点は、私どもは、田中さん、この段階でもう争ったりなんかしないで刑事責任をとりなさい、二審、三審があるからといって刑事上争ってはなりませぬなどと一言も言っておりません。これだけ重大な事件を起こし、起訴をされ、一審で有罪になった。この判決の、先ほど読み上げたことからもわかりますように、その中身はもう最高の非難に値する。刑事責任の本質は道義的非難です。刑事上、裁判上は争って結構でしょう。しかし、ここで少なくともこれを契機に道義的、政治的責任を明らかにして、みずからその職を辞すべきでないか。  どうしても職を辞すことができない、不退転の決意で闘うとか、生ある限りやめないとか言っているわけでありますが、そうだとするならば、まさに政治の自浄作用として、国会自身の自浄能力が問われる問題として辞職勧告決議に決着をつけようじゃないか、これがわれわれの立論であり主張なのであります。当然の話じゃありませんか。何年間この問題で国会はエネルギーを費やしてきたのか、私はそう思うのであります。  その点で、総理大臣の犯罪の社会的に与えた影響、とりわけ判決の言に従えば「病理的影響」、非難の大きさ、これを十分に考えて処置をすべきである。少数党保護論とか、あれこれの疑義を提起してこれを拒否するのは世論に背を向けた態度、政治の自浄能力をみずから排除する態度と言わなければならないというふうに私は思うのであります。その点で、辞職勧告決議に決着をつけるべきだ。どうしてもあなた方が、先ほど総理が申されたように理屈があるというのであれば、その理屈を立てて反対すればいいじゃないですか。とりわけ、これだけ多数を握っているのでありますから、否決すればいいじゃありませんか。  そういうことができる立場にありながら本会議上程すらしない。このことが、実は今日までの国会空転の最大唯一の原因なのでありまして、その責任は私はきわめて重大だというふうに考えているのでありまして、一言だけ総理のそれに関する感想をいただいて次の質問に移ります。
  58. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 辞職勧告決議案という性格の決議案を出すことの適否については、先ほど来申し上げましたように、議会主義の観点からなじまない。特に、少数保護、言論の自由、議員の身分上の保障、議員の進退は本人の意思か選挙民の投票によって決められるという大原則から見て、慎重を要するということをさっきから申し上げたとおりでございます。  しかし、政治倫理そのものは非常に大事だと私は思っておる。その政治倫理という中には、個人倫理と同時に、集団倫理というものが私はあると思っております。集団倫理という点につきましては、これは国会全体、政治家全体の仕事としてこれはかからなければならぬ問題であります。もとより、議員一人一人が国民の信頼を得るように自粛、自戒して一生懸命努力するということも大事でございますが、しかし、一個人の進退だけを問うだけでなく、そういう基盤が起きてきている政界全体、あるいは政党のあり方等を改革するという方がなお大事であると私は思うのです。  そういう意味において、先般、自民党と新自由クラブの間におきまして話し合いが成立をいたしまして、両院に政治倫理の協議会を設けて、そして不祥事件が再発しないように、いかにこれを自粛、自戒する方策を決めるか、あるいは国務大臣や政務次官になりましたら資産を公開する、あるいは議院証言法、これは私が党の幹部に指示した、検討をお願いしたところでありますが、議院証言法の改正の問題とか、あるいは選挙法につきまして、お金のかからない選挙法の改正に努力し合うとか、あるいは議員定数の問題もこの間最高裁判所からお示しがございましたから、議会自体がこれは自主的に取り組むべき問題ではないであろうか等々、集団倫理という問題も大事である。  また、議員として大事なことは、国会へ出て審議するということも非常に大事な職務であります。だから、空転ということで休まないで、選挙区へ帰って選挙運動なんかやるというようなうわさが出ておりましたが、そういうようなことはやめてもらって、国会へ出ていただいて、堂々と審議を衆参両院において行って議員としての職責を果たす、そういうような積極的な政治倫理という点についても、われわれは大いに努力していきたい。  やはり、議会とかあるいは政党というレベルになりますと、集団倫理としての政治倫理の高め方という問題を取り上げなければならぬのでありまして、私はその点から新自由クラブの提案というものを高く評価し、あそこで合意した点を誠実に探求し、また実行していきたい、そう考えておるわけなのであります。
  59. 矢田部理

    ○矢田部理君 総理、私は何も田中個人に恨みを持って辞職勧告を迫っておるのじゃありません。この問題は、総理から言われるまでもなく、田中被告を辞職させれば片がつくような問題ではない。しかし、これを象徴とする一連の構造汚職、これを徹底的にやっぱり糾弾をして政界を浄化し、議会制民主主義をどう確立をするのかという観点でこの問題を扱っていることを、ひとつ間違いなく受けとめてほしいというふうに一つは考えます。  同時にまた大事なことは、何度かわれわれは倫理確立に関する幾つかの提言をしてきておりますけれども、いま総理は、新自由クラブとの話をされました。全くこれを無視してまともに取り組まないできたのは自民党じゃありませんか。そこだけはやっぱり明確にしておきたいというふうに思います。  話を移しますが、秦野法務大臣、文春の十二月号に「大新聞は田中角栄をリンチにした」という表題の対談が載っております。ずっと読んでみますと大変なことを言っておられるのですね。田中被告を批判する者はすべてやり玉に上げておる。マスコミ、大衆運動、野党、検察庁、元最高裁長官、瀬戸山文部大臣、中曽根さんもやられていますよね。擁護したからやられたのかどうかしらないが、まあ一つ俎上にのせられております。これを全部まないたにのせて切り刻んでいるわけです。そして、その後で田中被告を弁護する。いろいろたとえ話ではおもしろいくだりというか、大変問題のあるくだりも前後にちりばめられているわけであります。  こんな人が法務大臣であっていいのだろうかと率直に思います。まさに政治はひやかしであってはならぬのです。国民は低劣だときめつけては断じてならぬのであります。こういう立場で問題を考えたり対応する。あなたは評論家ならいいかもしれぬ、少なくとも一国の法務大臣、断じて許しがたい言動だと思いますが、まず秦野法務大臣から見解を承っておきたいと思います。
  60. 秦野章

    国務大臣(秦野章君) もう全部がけしからぬというお話だから、どうお答えしていいかわかりませんけれども、よく読んでいただけば私はかなりわかってもらえる問題だと……
  61. 矢田部理

    ○矢田部理君 読めば読むほどひどくなる。
  62. 秦野章

    国務大臣(秦野章君) 私の、じゃ、ちょっと説明さしていただきますが、「大新聞」というあの見出しは雑誌社がつけたのですけれども、マスコミの問題を取り上げました、まず第一に。それは現代のマスコミ、われわれの環境として巨大な環境として存在する、人類史上初めての存在だと私は思うのですけれども、これはわれわれにいろいろな情報や文化や教育や、いろいろな恵沢を与えてくれたという非常に大きな文明だと思います。そのことは当然認められなきゃなりませんけれども、しかし同時に、人間のつくった作品でございます、文明といえども。したがって、人権という問題について問題はないであろうかということが一つのテーマなんでございます。  いろいろ書いてありますけれども、マスコミというのは膨大でございますから、その膨大なマスコミの背景の中でいろいろなことが生まれてきた、そこに人権の問題はないかということが一つのテーマで、私は人権の問題についてはリンチのような状況があったということを言ったわけでございます。そこに刑事被告人田中角榮ありきなんでございます。別に田中角榮擁護でも何でもないわけです。  というのは、このことを説明すると、たとえば有罪か無罪かなんというアンケート調査をずいぶんやりました。有罪だったら引退するかせぬかとか、いろいろそういうアンケートもあり、つまり判決前に有罪を推定するというような世論づくりが行われた。これは無罪であろうと有罪であろうと、判決前にそういうようなことをやるのはどうであろうかという疑問は識者の中にもあるわけですよ。  というのは、憲法では、国民は裁判を受ける権利を奪われない、そしてまた公平な裁判を受けるということが憲法上書いてある。そういうことから考えますと、判決前に有罪推定するということについては大変疑問がある。これは扇谷正造さんなんかも雑誌にちゃんと書いておられる、マスコミが検事になったり判事になったりするものじゃないと。それは、やっぱりジャーナリズムがそこまでもてあそんではいけないのじゃないかということで、そういうアンケートには答えられておりませんがね、有罪とか無罪とかという問題については。しかし、かなりの知名士が自分は有罪と思う、なぜならば新聞にいろいろ証拠が書いてあるからだと、こういう知識人百人のアンケート調査なんかも企画したところがありますけれども、これは実は考えてみると恐ろしいことなんですよ、これは。そういうような悪いことをしているかしていないかはこれは裁判所が決めるわけですよ、近代の国家においては。これが三権分立の今日の近代国家の原則でございますから、いま途上にあるわけでございます。したがって、余りそれをきめつけてしまうということは人権上問題があるのではないか。  そういうマスコミの背景の中で、人形をつくって全国を回すとか、あるいは大学の法学部は模擬裁判をやって懲役何年をやるとか、あるいは街頭の寸劇が行われるとかということは、皆さん、これはやっぱり人権の問題にかかわるのですよ。 人間の尊厳というものは、われわれはときどき思い起こさなければならぬと思います。  戦後、国連が人権宣言を採択いたしました。これはユニバーサル、国際的な人権宣言なんです。かつてわれわれは、人権宣言というものをヨーロッパでいろいろ聞いていました。しかし、人権宣言を幾らやったって足元では奴隷を売買しておった、奴隷貿易があった、植民地政策があった。戦後初めて国境を越えた人権宣言ができたというところにわが法務省においては人権擁護局をつくり、国内にも人権の問題があるのだと。しかし、できれば国際的に、国境を越えて人権問題を考えるというところまでいかぬと、これは近代国家あるいは先進国と言われる国としては恥ずかしいのではないかというような意味で、難民とか流民とかという問題も私の方にはあるのですけれども、そういうマスコミと人権の問題の問題提起に一石を投じたのでございます。  それから、あとは倫理の問題で、これはもう総理がいろいろお話しになりましたからなんですけれども、みんなみんなやっつけているわけじゃないのですよ。私はそういう意味で、説明するのが長くなりますからあとはやめますけれども、最初の基本的なテーマはそこにあること、これをひとつ御了承をぜひいただきたいと思います。
  63. 矢田部理

    ○矢田部理君 総理から少数党の保護論を聞き、秦野さんから人権論を聞くと私はちょっと何というか、素直になれない気持ちなのでありますが、それほど田中問題というのは世上の関心を集めている、問題が大きいということだと私は思うのですね。国民の関心、繰り返しになりますが、社会に与えた病理的影響の深刻さがそうさせているのであって、私も何も被告人の人権を否定する立場には立ちません。この時期に法務大臣が人権論を振りかざして立つ、人権闘争の先達ででもあったかのような口ぶりをきく、これが私は大変納得できないのでありまして、あなたのどんな弁明にもかかわらず、帰するところは田中擁護論になってしまう。その客観的状況をあなたは認識不足なんじゃありませんか。三審制の強調にしたって同じであります。  特に、瀬戸山さんを批判されているのですね、ここでもまた。瀬戸山さんの出した書簡などというのはこっけいだと相手の評論家が言うと、「政治は大人の芸で、子供に教える必要はない」、どうですか、瀬戸山さん。
  64. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 私は、文藝春秋何月号か知りませんが、そういういま秦野さんが、法務大臣が言われたような記事があるということは聞きましたけれども、中身を読んでいないのです。とてもそんな暇はない。  ただ、この間どこかの週刊誌、電話で夜そういうふうなことを書いてあるという電話取材がありました。私は、電話取材というのは正確でないから困るのだと、またその雑誌を読んでもおらないし、見ておらぬことにはとやかく言うわけにはいかないと言ったのですけれども、何か私が手紙を出したことがとんでもないことだというような話だと言うから、そういうお人は政治家じゃないのだろうな、こう答えておいたのです。しかし、後でそこだけのプリントを役所の人が持ってきましたから見ましたら、秦野さんが言ったのじゃなくて、何とかという評論家がそう言ったのだそうでございます。すばらしい評論家だと、こう思っておるわけでございます。
  65. 矢田部理

    ○矢田部理君 こっけいだと言ったのは評論家が言っている、あなたの書簡は。それに対して秦野さんは、政治は大人の芸で、子供に教える必要はないというふうに答えた、いろいろやりとりがあるわけでありますが。  同時に、中曽根総理も批判されているのですね。道徳を個人個人に徹底して正直な人間つくって、うそをつかず、ごまかさないで、そういう古典道徳を徹底さすことが政治と考えるのは大間違いだと言っている。あなたは倫理や道徳の問題は個人の問題だと、個人の問題だというのは大間違いだと言っているのですが、これはどうですか、総理。いや、総理に聞いている。総理、総理。
  66. 秦野章

    国務大臣(秦野章君) 部分部分を取り上げていただくと、全体を見ていただけば……
  67. 田中正巳

    委員長田中正巳君) ちょっと法務大臣待ってください。私から総理大臣に指名してありますから。
  68. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 私は、批判されたとは思っていません。文章を読んでみました、文藝春秋を。ですから、本会議でも答弁申し上げましたように、なかなかいいことを言っている点もあるのです。それは人権擁護という部面で、法務大臣の一番の仕事は法秩序の維持、人権擁護、これが法務大臣の一番大事な仕事なのです。法務大臣は田中事件というあの判決の内容には立ち入りませんと彼ははっきり前提を持って言っているわけです。あの判決を対象にして自分は言っているのではない、あの裁判の内容には立ち入りませんと言って前提を持って言っておる。そして一般論として、人権とはいかにあるべきかということを職責上言っておる。ただ、あの表現の内容で懇切でない点があった。それは認めざるを得ない。したがって、法務大臣を呼んで以後注意と、そういうことで注意を与えたのであります。  私に対するいろいろお話がありましたが、私は、いま一番大事な点は、やはり人権問題というものは厳然としてあると思うのです。 たとえば免田事件というのがありました。最高裁で死刑までなったその再審の問題で、結局無罪になった。したがって、やっぱり人権というものは最後までわれわれは重大関心を持ってやらなければいけない。平沢貞通被告も死刑の判決があったが、死刑は執行しておりません。これはなぜ執行しないのだろうか。やっぱり人権というか、惻隠の情といいますか、人間社会に大事なものが何かあるという証明じゃないのでしょうか。  そういう面からいたしまして、法務大臣の職責は冷たい法の適用を論理的にやるということだけではない、情勢をよく見て温かい気持ちで人権を守ってあげるというのがやはり法務大臣の職責であって、それがにじみ出ておる。それはいいと私は言っておるのであります。  それから、政治倫理につきましてちょっとお話がありましたが、私はもとより田中判決というものは重大なものであると受けとめておりますが、しかし、政治倫理という面について秦野法務大臣も言っていることですが、政治家というものには政治家特有の大きな責任と仕事の領域があるわけであります。もちろん田中判決処理という問題も大事でありますけれども、減税法案を通過させて国民に約束した減税を実行するとか、行革法案を成立さして国民に約束した行革を断行するとか、それも大事な政治倫理であります。この方がむしろまさるとも劣らないぐらいの大事な政治倫理の問題である。私は、そういう信念に基づいて、政治家のあり方というものは非常に多方面であり、包括的な存在が政治家のあり方であります。もちろん大事な問題は大事な問題としてやらなきゃなりませんが、そればかりにとらわれてほかの仕事をしないということは、政治倫理に反すると私は考えております。  国民が一番要望しているのは減税であり、行革法案であり、いままで各党の幹事長やその他の皆さんが一年有余にわたって努力して、やろうやろうとしてきたのは減税問題じゃありませんか。国民に対する一番大きな政治家と政党の約束は減税ですよ。そういう一年有半の努力というものを実らせようというこの国会において、その減税法案の審議に参画しないというこれぐらい大きな倫理違反はないと私は自分でそう考えております。  そういう意味において、マックス・ウェーバーが言っておりますように、職業としての政治家という面は、それは個人の倫理性も大事であるけれども、政治家になった以上は結果責任でありまして、いかに動機がよくたって仕事をしなければだめなのであります。仕事をして、事実上国民の皆さんに公約を実行し、福祉を増大し、あるいは教育を進めていくというのが政治家が政治家として選ばれた一番大事な仕事なのであって、政治家は評論家でもなければ裁判官でもないのであります。そういう政治家独特の負っている大きな責任を実行するという面もぜひお考えいただきたい。  具体的に言えば、国会へ出てきて国会審議に参画して、そして国民に対する公約を果たすということでありまして、国会審議に参画しないで欠席するということは政治倫理に対する、国民に対する大きな違反であると私は確信しておる次第なのであります。
  69. 矢田部理

    ○矢田部理君 田中問題というのは議会制民主主義の根幹にかかわる問題なのです。一国の政策を利権の対象にして、総理大臣という最高の権力を利用して、これを私物化していった。空前の賄賂を受け取った。法的事実としてはまだ残っている部分があるかもしれません。社会的にはみんなそう思っているような時代に入ってしまった。ここでわれわれは、法的に争いたければ争いなさいと。しかし議会制民主主義を立て直して、政治に自浄能力をつけるためにみずから正そうじゃありませんか。こういうお話を総理に向けると、いや、政治の倫理の問題は個人の問題だ、個人が身を正すかどうかの問題だと言って逃げてきたのは総理じゃありませんか。いまのようなお説教を総理から聞かされるゆえんはないのでありまして、そんな個人の問題にすりかえるのは大間違いだというのが秦野さんの意見なのです。総理を名指しではありませんか。まるっきり正反対のことを言っているという点で総理も批判をされているということを私は指摘したのであります。  いずれにしましても、神奈川県の県民が言っておりました、この程度の国民なら、この程度の政治ですよと。秦野さんの土台をつくっているのは神奈川県の県民だと思う。この程度だと思われちゃ大変迷惑だと、こう言っている。まさに国民を愚弄するものである。そして「政治家は下賤の徒だ。」と、清潔さや徳目を求めるのは、八百屋で魚と、こういうことになるわけですね。  そして全体の論調は、私は何も人権が大事でないなどと言った覚えはない。しかし、いまこの時期に田中問題に関連をして人権を言うというのはどういう意味を持つのか、田中問題に関連して少数党保護論を言うのはいかなる役割りをその言動は果たすのか、ここが実は問題なわけでありまして、その点で私は、もう多くを議論しなくても秦野法務大臣は不適格、直ちにやめるべきだと思う。どうしてもおやめにならないというのであれば、総理、罷免してしかるべきだというふうに私は思いますが、いかがでしょうか。
  70. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 秦野法務大臣は、いまここでもお聞きになったように非常に正直な人で、そして自分の職責については信念を貫いておる正義漢であり、情熱家であり、善人であると思います。私は得がたい人材だと思っておる。ただ、あの文藝春秋に出た点は、その言葉が走り過ぎた点がございます。いま指摘したような点は法務大臣としては必ずしも上品でない、また思慮の十分でない点もあった、したがって以後注意と、これで十分であります。
  71. 秦野章

    国務大臣(秦野章君) いまのお話の点で多少誤解を招く点もありますので、ちょっと釈明さしていただきますが、「この程度の国民なら、この程度の政治」と言った言葉は、例の有名なエドモンド・パークの民主主義の哲学を言ったわけで、言葉は翻訳によっていろいろあるのですけれども、一つの国の政府にはその国民のレベル以上の政府はできないというようなことを言ったことがあるのです。これはある一つの哲学ですよ。ということはどういうことかというと、神を求めてはいけない、政治というものに神を求めたら、要するにドイツがヒットラーを出したということになるという、こういう政治哲学を言っているわけで、言葉のそこのところだけを技くといかにもちょっとおかしいのですけれども、その点はあるいは言葉足らずであったかと思います。  それから、この時期をどうして選んだかというお尋ねでございますけれども、第一審判決が済んで一騒ぎが終わったわけですよ、一応。そして、ことしはたまたま国連が人権宣言を採択して三十五周年の年なんです。それで自治体もいろいろ行事をやってくれているし、国もそういう行事をいろいろやっておるわけですよ。そういう人権宣言三十五周年という記念すべき年でもあるから、人権問題についてはどうしても考えなきゃならぬ。それから、余り先へいってしまうと何か選挙がありそうだみたいな話だから、これもまずい。それで一騒ぎ済んだ後、これがタイミングとしては私は一番いい、こう考えたわけです。その点は御了承願いたいと思います。
  72. 矢田部理

    ○矢田部理君 あなたはもともと法務大臣に就任のときから、いろいろ田中シフトの一翼を担うとかという報道もされておった、言うならばいわくつきの大臣だ。その大臣が、この時期にどんなタイミングをはかったか知りませんが、一連の発言をすればだれだってこれは田中弁護論だと受け取るのは社会科学の常識なんです。特は「この程度の国民なら、この程度の政治」、そんな哲学的な言葉としてあなた言ったとは思われない、前後の文脈から見れば。全体として大衆運動や国民を愚弄しているのです。そして、政治は下賤なもの、卑しいもの、上品さや正直さや徳目なんか求めるのはとんでもない門違いだ。政治は最高の道徳だと言っている自民党の元総裁などもいるようでありますが、趣味が悪いのかどうかは知りませんが、ひどく物事を卑しめて考えている。そして、基本的には田中を批判する者を徹底的に糾弾をして田中を弁護する、これが法相のやることですか。  検察庁の最高指導者は検事総長かもしれない。その上にあなたは政治的役割りを担っているわけでしょう。余りにもひど過ぎやしませんか。その意味で総理が、言葉足らずではある、善良で正直者、少し品がないところはあるけれども、などということで済まされる問題ではない。私どもはあくまでも罷免を求める、あるいはみずから辞任を求めるという立場を残して次の質問に変わりたいと思います。  過般、レーガン大統領が訪日をされまして日米首脳会談が開かれました。これをめぐる一連の経過と状況等について伺っていきたいと思います。  レーガン大統領が来られて大騒ぎをした、お祭り騒ぎになった。ロン、ヤスの関係を親密にしたなどと言って抽象的な話はずっと伝わってくるのでありますが、しさいに追ってみますと、一体何のための訪日だったのか、首脳会談だったのか、具体的な問題は何一つ出てこない。武器輸出問題が前段に片をつけられたことはありますけれども、特に日米貿易摩擦がきわめて深刻な事態になってきているわけでありますが、この問題が先送りされている。  見方によりますれば、いよいよ日本も総選挙が近い、ここで農産物の市場開放などについてアメリカが押せ押せで出てくると自民党の農村票を失うということで、レーガンは中曽根総理にこの際は貸しをつくる。日本の総選挙が終わると来年はいよいよアメリカの大統領再選であります。そのときにお返しをもらえばいいのだというような密約といいますか、話などまでささやかれたという報道もありますけれども、見方もありますけれども、そんなことのためにこれだけ大がかりに騒がれてはかなわないのであります。一体、このレーガン訪日とは何だったのでしょうか。
  73. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) そんな小さな話はしておりません。現代におきましては、交通、通信が非常に発達をいたしまして、首脳外交というものが非常に大きな意味を持ってまいりました。日本の総理大臣がアメリカへ行き、アメリカの大統領が日本へ来る。その行ったということ、それから来たということ、これがいままでのいろんな交渉やらあるいは今後出てくる問題について非常に大きな重しをつくっているわけでございます。  二十三日には胡耀邦さんもおいでになります。胡耀邦さんは中国の総書記であって、政府の要人ではありません。しかし、われわれは胡耀邦さんを熱烈大歓迎申し上げたいと思っておる。これは、中国の総書記が日本に来るということが大きな意味があるわけであります。  現在の外交のあり方というものは前とは大変変わってまいりまして、その首脳部間の信頼感あるいは理解の程度あるいは相手の性格ののみ込み方、それによってどういう政策がこの人から出てくるであろうかという予測をつくる力、こういうものが意外に大事になってきているわけであります。そういう意味におきまして、アメリカ大統領が日本へ参りましてわれわれと隔意なき懇談をしたということは非常に大きな意味があったと思っております。  そして、話の内容は、世界の平和、軍縮の推進、特にINF、ソ連の中国SS20の展開の問題、あるいは中近東におけるレバノン、あるいはイラン・イラク戦争の帰趨等々、国際情勢に関する問題、あるいはウィリアムズバーグ・サミットで約束しました世界経済活性化の問題、保護主義に対する反対の闘争、あるいはわれわれからは、ニューラウンドをやろうという原則的支持、あるいは東京声明をコール首相と私でつくりましたが、その中の、この間も本会議で申し上げましたように、一番大事な点はドイツに二十三日にパーシングIIが展開されますけれども、そういうような事態が起こってもテーブルの席から離れないように、粘り強く両国は交渉を続けるべきだ、そして漸進的な、段階的な案も拒否すべきではない、そして着実にこの問題を進めていくべきであるという意思表示をしたと、それに対してアメリカ大統領は支持をしたという点は非常に大きな意味を持っておるわけでございます。  そのような世界平和、核軍縮に向けて進めているという政策面等々、二国間の問題もまた含めましていろいろ重大な話し合いもし、隔意なき懇談もした、そういう意味において非常に大きな意味があったということを申し上げる次第なのであります。
  74. 田中正巳

    委員長田中正巳君) この際、梶原君から関連質疑の申し出があります。矢田部君の持ち時間の範囲内においてこれを許可いたします。梶原君。
  75. 梶原敬義

    梶原敬義君 総理大臣にお尋ねいたします。  いま答弁の中で、農産物自由化の問題、こういう小さな問題については話し合いをしてない、こういうような御答弁のようでありましたけれども、農家、農村にとっては非常に重大な死活にかかわる問題であります。  そこで、昨日私は郷里大分に帰りまして、ミカン農家の皆さんと一緒に話をし、ミカンを摘む作業をしたのでありますが、その中で非常に心配をしているのは、三月になればわが国の総選挙が済んで、その後には恐らく日本の政府は牛肉やオレンジの自由化枠の拡大をするのじゃないだろうか、こういう不安を持っておる。だから、私はきょうあえてロン、ヤスの日の出会談でそういう密約がなかったかどうか、重ねてお尋ねします。    〔委員長退席、理事長田裕二君着席〕
  76. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 牛肉、オレンジに関する密約は絶対ございません。この問題は前から、一月から私アメリカ大統領にも申し上げているのであって、できることとできないことがある、それでオレンジや牛肉の自由化をいまやれと言ったってそれはできない、この問題は専門家の間で静かに話し合うことが適当である、政治問題化することは適当でない。そういうことを言いまして、専門家の間で何回か静かな話し合いをしてきている、それがいま続いている、そういう状態なのでありまして、アメリカ大統領が来たということによって自由化するという、そういうような約束は一回も絶対しておりません。むしろこの問題は細かく深く話し合ったわけではありません。もっと大きな世界的な問題を実は話し合ったのでございますが、この原則はいままでアメリカ大統領が来る前から農林当局、それから先方の関係者との間でいろいろ話をしておりまして、そしてわれわれの立場ははっきり申し上げておるわけなのであります。  この立場をわれわれは堅持していく、牛肉、オレンジの農家に心配をかけないように、私たちは精いっぱいの努力をしているということを申し上げる次第なのであります。
  77. 梶原敬義

    梶原敬義君 最後に重ねて決意をお伺いしたいのでありますが、農家というのは、豚にしてもあるいは牛にしても、子牛をずいぶん前から仕入れて、そして農家経営をします。果樹の生産も毎年計画を立てて農業経営をやるわけであります。したがって、いま総理から言われた内容で、三月になっても牛肉とかオレンジの自由化枠の拡大はないから、安心して日本の農家の皆さん、予定どおり計画を立てて農業経営をしなさい、してもいいと、こういうことを一言答弁を言ってください。
  78. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) この問題は、両国の専門家の間で静かに話し合って物を進めていくということでありまして、われわれは、いままでどおり日本の農家、特に牛肉あるいはオレンジに関係している農家の立場を守るために、全面的に努力してまいりたいと思う次第であります。
  79. 梶原敬義

    梶原敬義君 それでは、ちょっと農家の皆さんの立場になって考えてください。いまから子牛を仕入れるか仕入れないか、あるいは果樹の生産規模を一体どうするか、こういう計画を立てる時期なのです。ところが、三月になってみなきゃ見通しが全くわからない。総理の答弁を聞いておると、農家の皆さんは計画の立てようがないじゃないですか。そうじゃなくて、総理として一国の総理大臣が、やはり計画は予定どおりちゃんと立ててもいいぞ、そういう決意で臨む、こう言ってください。
  80. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) この問題については、御承知のように、先方には先方の立場があり、要請があります。しかし、日本には日本の立場があり、日本の主張があります。日本の政治家は日本の国益を守り、日本の農業経営というものを安定的に、そして将来希望が持てるようにわれわれが努力していくのが日本の政治家の仕事でございます。国益を守るということは政治家の美徳であると私は申し上げているとおりであります。そういう精神に立脚して、日本としての立場を十分守るように今後とも努力してまいりたいと思っておる次第です。
  81. 矢田部理

    ○矢田部理君 農業の問題は日米関係にとっても重要でありますが、より一層日本の農家にとっては深刻な問題でありますから、いま梶原委員が主張したようなことを十分に踏まえてこれから進めていただきたい。同時に、それは小さな問題ではないということだけは、これは明確にしておきたいと思うのであります。  私がさらにレーガン訪日に関連して申し上げたいのは、レーガンの力による平和、それに基づく日本の一層の防衛努力が確認をされ、INFにつきましても、グローバルな視点で従来話し合われたことを話しただけであって、特別この会談に真新しさを見出せないということを指摘したかったわけでありますが、特に私はここで、レーガンとどんな話をされたのか、日本政府としてどんな対応をされてきたのかということでグレナダを問題に供したいと考えています。  アメリカは、佐渡島ぐらいの全く小さな国、小国であります、これに突如として侵略を行い、制圧をしてしまいました。その血で汚れたまま、レーガンは直後に日本にやってきたわけでありますけれども、このグレナダ問題はどんなふうに話し合われたのでしょうか。私は、アメリカの行為は明白に侵略であり、国際法違反として糾弾をされなければならないと考えているのでありますが、総理、いかがでしょうか。
  82. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) この問題は、国際情勢の中で私から全体会議の中で持ち出したと思います。武力行使が行われたということははなはだ遺憾である、しかしいろいろ状況を調べてみると、アメリカの市民の生命財産が危殆に瀕しているとか、あるいはカリビアン機構の各国の要請があった、そういうような点でやむを得ずやったという点は理解できる。しかし、速やかにこれを常態に帰してそして収拾されるようにわれわれは要望すると、そういうことを申しておるのでございます。  この問題はアフガニスタン事件とちょっと違っておりまして、アフガニスタン事件のときには、政府は存在しておったのをソ連は強行して軍を入れたわけであります。そして総理は殺されてしまうような事件がありました。ところがグレナダの場合は、ほとんど無政府状態になっておって、しかも後で発見されたところによると、キューバの人は兵隊あるいは工作員で六百名とか相当入っておったという点もどうも明らかにされたようでございます。そういういろんな面を考えてみると、やはりカリビアン地帯に紛争が起きないように正常に国際関係が推移することが望ましい、われわれ平和を望むがゆえにそういう立場を堅持しておりますが、最近内閣もできて、そして次第次第に正常化されつつあるということは、私たちはわれわれの期待に沿って努力が続けられているものと考えております。    〔理事長田裕二君退席、委員長着席〕
  83. 矢田部理

    ○矢田部理君 アメリカは侵攻した事情についていろんな説明をいたしております。しかし、その説明のどの一つをとっても、必ずしも事実がそのとおりだとは言いにくい部分が率直に言って相当あるわけであります。  仮に、その事実がそれなりに理由があるとしましても、だからと言って、この侵略を国際法上合法化されないと私は考えるのでありますが、少しく各論的な話をしてみますと、国連憲章の五十二条というのがあります。「国際の平和及び安全の維持に関する事項で地域的行動に適当なものを処理するための地域的取極又は地域的機関が存在することを妨げるものではない。」と、こういうふうに言っているのでありますが、米州機構とその憲章、東カリブ海諸国機構とその条約、これも国連憲章五十二条に言う「地域的取極」あるいは「地域的機関」というふうに考えてよろしいでしょうか、外務省に伺います。
  84. 栗山尚一

    政府委員(栗山尚一君) そのようにお考えいただいて結構だと思います。
  85. 矢田部理

    ○矢田部理君 そうだとすれば、国連憲章の第五十二条は、まず紛争の平和的解決のためにあらゆる努力をしなければならないということが求められておりますが、その種の努力をアメリカがした形跡があるでしょうか。 ないのであります。また同時に、そういう地域的な機構や取り決めが働く場合には、国連の下部機関でありますから、当然のことながら五十三条では、いかなる強制行動も国連安保理事会の許可が必要ということになっております。その許可を受けていないこともこれまた言をまたないのでありまして、その意味でレーガンの武力侵攻は、明白に国連憲章に違反する国際法違反の暴挙だというふうに断ぜざるを得ないのですが、いかがでしょうか。
  86. 栗山尚一

    政府委員(栗山尚一君) 今回のアメリカその他東カリブ海諸国の派兵と国際法の関係につきましては、政府といたしましては、事実関係必ずしも詳細を承知しておりませんので、最終的な法的な判断を申し上げる立場にないということは、衆議院の方の御質問がありまして、答弁書において政府が述べておるとおりでございますが、一応アメリカの説明というものを前提に申し上げますと、アメリカの説明は、東カリブ海諸国機構の条約に基づく援助の要請があった。その援助の要請の前提といたしましては、グレナダのスクーン総督の要請がまず前提としてございまして、それに応じてカリブ海諸国及びアメリカが派兵をした、このように説明しておるわけでございまして、そういう事実関係の前提に立ちますると、アメリカその他の諸国の派兵というものは、先ほど矢田部委員御指摘のような国連憲章の規定に照らしましても違法とは言えないと、こういうふうに考えられます。
  87. 矢田部理

    ○矢田部理君 この東カリブ海諸国機構あるいは米州機構、これは国連の憲章五十二条が言う地域的な取り決め、地域的な機関ということだということが認定をされる。まあ彼らもそう言っているわけです。あとは、それらが動くに当たっては必ず国連の安保理事会の決議が要るのだというのが五十三条の規定なんでありまして、前提たるスクーン総督の要請とか米人の保護などというのは飛んでしまう。そこの議論も一つ一つすればいろいろ問題がありますよ、アメリカが先に仕掛けてスクーンから後から手紙もらったとか。イギリスの女王の名代でありながらイギリス本国には何一つ、王室にも相談をしなかった、サッチャーがまず怒ったのでありますから。  いろんな問題が各論を言えばありますが、少なくともさっきの私が申し上げた国連の下部機構、その地域的取り決めであるという認定に立つならば、もう国際法、国連憲章違反であるということは一目瞭然じゃありませんか。合法などという言葉はどこにも出てこない。もう一回だけ答弁を求めます。
  88. 栗山尚一

    政府委員(栗山尚一君) お答え申し上げます。  地域機関が強制行動をとります場合には、委員御指摘のとおり、国連憲章五十三条に従いまして安保理事会の許可がなければいけないというのは、御指摘のとおりでございます。ただ、先ほど私から申し上げましたのは、総督の援助要請というものがあって、その要請にこたえて関係国が派兵をしたということでありまするならば、そういう前提に立つ限り、これは国連憲章の上から申し上げましても、ただいま委員御指摘の五十三条に基づく強制行動ではないということになりますし、これはその当事国でありますところのグレナダの要請に応じて関係国が派兵を行ったということでございますので、その限りにおきましては国連憲章あるいは国際法には反しないであろう、こういうことを申し上げた次第でございます。
  89. 矢田部理

    ○矢田部理君 話を詰めると長くなりますけれども、それはもう事実関係、前提がまるっきり外務省の受けとめ方は違っている。みずから真実をただそうとしない。アメリカの言い分だけを聞いて事に処している。その言い分どおりだとしても、これは私は断じて許せない、明白な国連憲章違反だと思うのであります。  もう一つ、そのための国連総会が開かれました。その決議の第一項は、アメリカのグレナダ侵攻は国際法の悪質な違反だと、単なる違反じゃないのです、悪質な違反だ。グレナダの武力介入を深く遺憾とするということを初め、基本的な問題について決議をいたしました。圧倒的な多数の国国がこれに賛同した。百八カ国の賛成で採択をされたのであります。決議案に反対をしたのはグレナダに侵攻をした七カ国を含めてわずかに九カ国にすぎないのであります。この一事をもってしても、アメリカの蛮行は侵略であり、明白な国際法違反あるいは国連憲章違反だということが明らかになってくるのであります。  残念ながら、日本政府は事実関係の究明もしないまま、外務省の説明によると、アメリカで言ってきた事実関係をもとにして考えれば必ずしも違法だとは言えない、しかし最終的な法的判断を述べる立場にないなどと言って逃げまくっているのが外務省の態度なのです。そして、アフガンとは違う、アフガンとは違うと言って強調するのが日本政府の立場なのであります。この血が乾かないうちに実はレーガンが来たのでありますから、総理としては、どんなにロン、ヤスの関係であっても、この問題については厳しくやっぱりレーガンに迫るべきだったのではないでしょうか。  特に、この中米の情勢を見てみますと、アメリカの砲艦外交といいますか、力による政策が顕著になってきておりまして、先般も、ニカラグア沖合いに戦艦ニュージャージーを配置して海軍の大演習をやる、脅迫の政治があそこに続いているわけでありますから、こういうことをグローバルな問題だとか、世界的視野でとかいうことをあなたは盛んに言うわけでありますが、最も生々しい問題として指摘をし、アメリカにやっぱり自省を求めるのが総理の立場たったのではないでしょうか。どうもその点がロン、ヤスの関係で、アメリカからの注文は聞くし、ほかのことはいろいろお話をせられるようでありますけれども、肝心の問題になるとアメリカに遠慮をして物を言わない、こういう癖があるのではないかと思いますが、その点総理から伺いたいと思います。
  90. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) その点は、私からも強く要望したところがありまして、速やかに政府を編成し、そして民生安定、国情の正常化、それから米軍の撤兵、これを早く行うように努力されたい、そういうことを申し上げておきました。
  91. 矢田部理

    ○矢田部理君 話題を変えますが、総理はわが党の石橋委員長との衆議院予算委員会における論戦で、抑止と均衡で戦争を防いでいるのだと、抑止論の立場を明らかにしました。  そして内容的に言いますれば、日本の抑止力は米軍の軍事力プラス自衛隊、これを維持することによって戦争を起こさせないようにしていく、抑止していくのだということを説明されましたので、その点に関して総理のもっと詳しい見解を伺い、また、私なりの意見を申し述べてみたいと考えるのでありますが、そもそも抑止力というのは一体何なのか、総理としてどんなふうに理解をされているのかということから入りたいと思います。  一般的には、相手に脅威または恐怖を与えて攻撃を思いとどまらせる力、それが抑止力だというふうに概念上説明をされておりますが、その点総理はどんなふうに理解をされているのでしょうか。
  92. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 武力行使あるいは侵略をする意思及び行為を起こさせないようにする力、言いかえれば手出しをさせない力、それが抑止力である。この抑止力は、単に軍事力だけではなくして、いろんな複合作用で抑止力というものは形成されると考えております。
  93. 矢田部理

    ○矢田部理君 そんなに理解は顕著に違ってはいないというふうに思うわけでありますが、そういうことになりますと、絶えず相手よりも少なくともプラスアルファの力を持って生き残る、勝ち残る、そういう力を蓄えたいということになるのではありませんか。相手に恐怖感を与え、脅威を与えてこちらを攻撃させない力ですから、相手よりも力が上回っていなければならない。相手の軍事力プラスアルファということが論理上の帰結として求められることになりはしませんか、その辺はいかがお考えでしょうか。
  94. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 日本は海の中にありまして、幸いに列島を構成しております。したがって、日本に侵略を行おうというような場合をいろいろ想定しますと、先方はわれわれよりもかなり大きな力を一点あるいは数点に集中してこなければなかなかできるものではない。侵略軍、攻撃軍というものは防衛軍の三倍ぐらいの力がなければできない。たとえば一個師団というものがある場所へ上がるというためには、少なくとも三十万トン以上の船を持ってこなければそれはできない。  そういう点からいたしまして日本列島防衛という面を考えてみますと、必ずしも相手と同じ数量のものが必要であるとのみは限らない。しかし、防衛という面については、国民の合意とかあるいは安保条約の機能的発動であるとか、いろんな面がございます。しかし、いま申し上げましたように、防衛戦術という面から見ますと同じ力を持つという必要は必ずしもない。むしろ侵略軍はよけい大きな力を必要とする。これは沖縄におきましても、あるいは硫黄島におきましてもすでに経験したところでもありましょう。
  95. 矢田部理

    ○矢田部理君 これは二通りの考え方があるわけですが、抑止力論を成立させるためには、相手が恐れて出てこないというふうにするわけでありますから、相手の力よりもよけいの力を持たなきゃならない。プラスアルファですね。もう一つは、よけいの力まではともかくとしても、少なくとも相手が出てこれないぐらいのやっぱり何か強大な力といいますか、相当の打撃を与える力までは少なくとも持たなきゃならない。そういう後者の立場にそうしますと総理は立たれるわけでしょうか。
  96. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) これは専門家の話を詳細に聞かないとわからぬと思いますが、私がいままで勉強した範囲内においては、来たら相当ひどくやられるぞという程度で抑止力は日本列島の場合にはある程度成立する。たとえば飛行機の場合には、来襲する飛行機の三割が撃墜されたらもうなかなか補給や後続はできない、そういうようなことも言われております。そういうわけで、一〇〇対一〇〇というパリティが成立することが必須条件であるとは必ずしも考えられないのではないかと思います。
  97. 矢田部理

    ○矢田部理君 そこで、次の質問に入るわけでありますが、同時に、総理は均衡論、抑止と均衡と言われるわけでありますが、均衡論をとられるということになりますと、特に抑止論を柱にするということになりますれば、相手国もまた抑止力を持つという論理を否定するわけにはいきませんですね。その点はいかがでしょうか。
  98. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 日本の場合は専守防衛の方式を持っている。またわれわれの憲法自体が防衛に徹する、そういう仕組みでできておるわけでございます。われわれは必要にしてそして防衛ができるという範囲内の節度のあるものを持てばいいのであって、それ以上の高望みをするものではございません。
  99. 矢田部理

    ○矢田部理君 私が聞いているのは、こちら側じゃなくて、中曽根総理は抑止力論、均衡論に立つということであれば、相手もまた相手国、日本の対象国というのか相手国というのか、その国も日本に対して脅威または恐怖を与えて攻撃を思いとどまらせるような力を、日本の専守防衛論を日本がとっておるかどうかは別として、そういう理論を採用することを論理上は否定できないということになりはしませんかと伺っているのです。
  100. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 日本はいまのような平和憲法を持っておりまして、われわれはこの憲法を守っておるわけであります。また、日本の国防の基本方針にもちゃんとした節度のある国力、国情に応じた防衛政策を行うということは書いてあるのでありまして、こっちから出かけていって武力行使をやるということはやらない国になっておるのでありますから、周りの国はそう心配なさる必要はない。われわれのいまの国情、国民世論、国会の力というものを見ればそういうことが暴発することもあり得ないし、われわれはまたそういうことはさしてはならぬと思っておるのであります。日本の場合はいつも受け身であります。受け身でいいのであります。
  101. 矢田部理

    ○矢田部理君 日本がどういう防衛政策をとっているかということと伺っているのじゃありません。同時に、日本だけでなくて、どこの国でも自衛のために軍隊を持っている。侵略のために持っているのではないということは、それはそれなりに言っているのでありまして、そのことが問題なのではなくて、日本が抑止と均衡論という立場で軍備を維持する、軍事力を持つということになれば、相手もその立場で持つことを否定することは論理上できませんねと申し上げている。
  102. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) これは、もう何といいますか、軍事のゲーム理論という面から見れば、一般論としてはそういう心理状況が成立する。SALTとかあるいはINFでやっているのはまさにそういう心理戦略戦が行われているのではないか、一般論としてそういうことは考えられます。
  103. 矢田部理

    ○矢田部理君 そこに実は抑止力論のあるいは均衡論の致命的な欠陥があるのでありまして、こちらが抑止力としての軍事力を持とう、維持しようということになれば、相手もまたそれをつくり維持しようと思う。そのことが、言うならば相互に作用し合って軍拡の論理を導いている、軍拡の論理に発展をする。これが世界の軍拡競争になっているのではありませんか。特に最近の抑止力論というのは、総理も御存じのように、核抑止なんですね。核兵器を中心とする相互抑止ということが基本になります。これはもはや恐怖の均衡、しかもその恐怖は数字であらわすことができません。定量化、定数化ができにくいのでありますから、均衡そのものがナンセンスになる、こういう事態に実は入ってしまったのであります。  加えて申し上げますならば、均衡論をとるためには相手の力、兵力、兵器の種類、能力などを逐一比較をしなけりゃならぬわけでありますが、それぞれの国が兵器の種類も能力も異なっておる。地勢的条件も違う。単純な比較ができなくなってしまっている。そうしますと、抑止力論をとる以上は、何としても相手をよく知りませんから、相手がこのくらい持っているのじゃなかろうかと、どちらかというと過大評価をして、それに見合った力を持とうとする。ここからも実は軍拡の論理が出てくるし、特に軍事問題は秘匿を要する、秘密にいたしますから、隠された部分があるのではないかと想定をして、いわば自分の力をつけようとする。そういう抑止力論というのは自己増殖のやっぱり基本的な論理を持っているのであります。  この立場に立つ限り、言うならば世界は果てしない軍拡競争の時代に入ってしまう。ここに私は率直に言えば抑止と均衡論の致命的な弱点があると思うのですが、総理いかがですか。
  104. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 米ソあるいはそのほか外国がやっておる防衛あるいは戦争抑止に関してはそういう危険性はなきにしもあらずなのであります。それはわれわれも憂えているところであります。したがいまして、INFにおきましても、ソ連のSS20も減らす、アメリカのパーシングIIも減らす、ゼロにしたらいい、そういうことをわれわれは主張しておる。あるいはさらに極東における緊張状態を増幅させないためにヨーロッパにおけるSS20をやめるという場合に、アジアに持ってこないようにその保証をとることが日本外交の大きな大事なポイントでありましたから、コール西独首相が来たときにも、レーガン大統領が来たときにも、この間のウィリアムズバーグのサミットにおきましても、その一札をとったのがわれわれの外交であります。  そういうふうにして、日本は日本なりに一生懸命極東における緊張状態を招来しないように努力もしておるのであります。しかし、一般論といたしましては、いまのように増幅する危険性がありますから、それをできるだけレベルダウン、下げていく、その均衡点を下げていく、水準点を低下さしていくと、そういう方向に強いいま要望をしておる。  この間、土曜日にトルドー・カナダ首相が参りまして、インドへ参りまして英連邦の国々とも防衛、軍縮問題等も話すと言っておりまして、彼の考えも聞きました。彼も核軍縮等については非常に大きな熱意を持っております。特に、核拡散防止条約の観点から、核保有の超大国及び核保有国がもっと自粛するように、そして原子力平和利用について発展途上国や第三国に対して便宜を供与するようにと、この約束をさらに強くわれわれは要求しようという点において、トレドー首相と私は一致いたしまして、トレドー首相に大きな激励を与えたのでございます。  やはりわれわれが核拡散防止条約に調印した以上は、核保有国が約束を守ってくれなきゃいかぬ、その誠実な努力を、実績を上げるようにしてもらわなければならない。それがこのINFの問題やらあるいはSTART、米ソ間の戦略兵器制限交渉その他において実るように強く要望しておる次第なのであります。
  105. 矢田部理

    ○矢田部理君 抑止と均衡の理諭が軍拡の方向ではなくて軍縮の方向に向かわすべきだということは、理論としてないわけではありません。さっき申し上げた抑止という議論、相手に恐れを与えて攻撃をさせない力ということを基本に据えると、どうしたって縮小均衡ではなく拡大均衡に物事はやはり向ってしまう。そこに実は問題の非常に深刻さがあるわけです。  特に、総理が抑止と均衡論をとっておられることと国連決議との矛盾を私は指摘したい。国連の第一回軍縮特別総会、この件について、どういう決議の内容になっているでしょうか。
  106. 山田中正

    政府委員(山田中正君) まことに失礼でございますが、ただいま資料を持っておりませんので、至急取り寄せます。
  107. 矢田部理

    ○矢田部理君 国の政策の最も重要な部分、しかも国連の決議で非常に大事な問題として取り上げられた問題を、資料がないから答えられぬと言う外務省も困ったものでございます。ならは、これで午前中は終わりまして、午後お待ちいたします。
  108. 田中正巳

    委員長田中正巳君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時再開することとし、休憩いたします。    午前十一時五十三分休憩      ─────・─────    午後一時二分開会
  109. 田中正巳

    委員長田中正巳君) ただいまから行政改革に関する特別委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。矢田部理君。
  110. 矢田部理

    ○矢田部理君 質疑に入る前に、本日冒頭で申し上げた本会議の議事録の件でありますが、あのとき私は佐藤議員の質問に答えた総理の答弁という部分の提出を求めましたが、佐藤議員だけではなくて、他の同僚議員からも質疑がありまして総理が答弁をされているようでありますので、それにかかわる部分全体を出していただきたい。それから緊急に出していただきたい。特に総括が終わるまでには遅くも出していただきたいということを委員長にお願いしておきたいと思いますが、いかがでしょうか。
  111. 田中正巳

    委員長田中正巳君) 本件につきましては、議院運営委員会においていろいろといま討議中の問題だそうでございまして、したがって議院運営委員会委員長の了解を得なければならないという事情にあるということが判明いたしました。したがいまして、行革委員長としては議運委員長に対し、ただいまの矢田部委員の御希望に沿えられるよう最大の努力をいたします。
  112. 矢田部理

    ○矢田部理君 これは議事進行に関する発言ですから、そうお含みおきいただきたいと思いますが、この議事録を出すことを議運で討議中というのは私ちょっとわかりにくいのですがね、きわめてこれは事務的に扱えばいいことでありまして。
  113. 田中正巳

    委員長田中正巳君) 議事録を出すことについて協議中であるということではございませんで、内容について、いろいろとその取り扱いについていま協議中な問題だそうでございますから、したがって議運の委員長の方では、自分の方で理事会を開いてその取り扱いを決めるから、それまで暫時お待ちを願いたいというふうに承っております。  再度申し上げます。矢田部理事の御要望に沿えるよう私としては努力をいたします。
  114. 矢田部理

    ○矢田部理君 それでは午前中に引き続きまして、第一回軍縮特別総会で出した最終文書で、抑止力についてあるいは均衡と抑止についてどういう規定になっているか、まず外務省から伺います。
  115. 山田中正

    政府委員(山田中正君) お答え申し上げます。  先生のお話しございました第一回軍縮特別総会におきまして最終文書が作成されております。これは参加国のコンセンサスによるものでございます。  文書自体は百二十九項目の非常に膨大な文書でございますので、なかなか簡単に申し上げるのがむずかしい問題でございますが、先生御指摘ございました抑止力の関係にしぼって申し上げますと、現状認識といたしまして、この最終文書におきましては、「永続する国際の平和と安全は、軍事同盟による兵器の蓄積の上に築き得るものではなく、また、不安定な抑止力の均衡又は戦略的優越の教義によって支えられるものでもない。」、したがって、国際連合憲章にのっとった安全保障制度の効果的実施、または究極的には効果的国際管理のもとでの全面完全軍縮に結びつくような軍縮努力が必要であるということをうたっておりまして、その軍縮措置を進めるに当たっての原則といたしまして、「安全に対する各国の権利を確保し、いかなる段階においても個々の国又は国家グループが他に有利とならないことを確保するような公平かつ均衡のとれた態様により行わなければならない。」ということを合意いたしておるわけでございます。
  116. 矢田部理

    ○矢田部理君 総理、いまその第一回国連軍縮総会の決議の内容を聞くまでもなく、国連の最終文書では、不安定な抑止力の均衡や戦略的優位のドクトリンによって国際平和と安全の確保は維持できないと、明確に抑止と均衡の理論を否定しているわけです。日本もこれに賛同をしているわけであります。ところが、総理は石橋委員長の質問に対して、抑止と均衡こそが安全確実な平和を守る方法だ、戦争を防ぐ方法だと。総理の見解と国連の見解は全く違う。日本政府のとった国連における態度と総理とも全く違うのであります。  特にもう世界の趨勢は、パルメ委員会の動向を見るまでもなく、抑止と均衡論は古い、これでは軍縮は達成できない、平和は追求できないということで、たとえば共通の安全保障の理論とかいうところに時代は来ているのでありまして、総理の態度は変更を余儀なくされている、間違っているということを指摘しておきたいと思いますが、いかがですか。
  117. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) そうとは思いません。国連ができましたときは米ソ蜜月時代でありまして、もう戦争はこんりんざい起こしたくないという非常に強い平和に対する要望があってできたのです。    〔委員長退席、理事長田裕二君着席〕 アメリカはソ連を疑わず、ソ連はアメリカを疑わず、そういう関係でできたと思います。しかし、その後朝鮮戦争が起こり、あるいはベトナム戦争そのほか事変、紛争が相次いで起こって、そしてヨーロッパにおきましてはワルシャワ条約体系、それに対する北大西洋軍事同盟条約体系というものが出てまいりまして、この時代になるというと、完全に抑止と均衡の理論で平和を維持するという形にいま国際政治学の方は動いてきておるわけでございます。  現に、ワルシャワ条約軍とそれから北大西洋同盟条約軍との間に中央における通常兵器の削減交渉が行われ、あるいはさらにヨーロッパにおける核兵器の均衡問題でSS20及びパーシングIIの問題が議論されておられる。これは明らかにパリティの問題、力の均衡を中心にしていろいろ取引やら交渉が行われておるのです。これはフランスもそういう考えを持ってきております。この間ミッテラン大統領が日本へ参りまして、昨年国会で演説をいたしましたけれども、あのミッテラン大統領ですら核兵器をフランスは持って自国を防衛するということを断言してはばからない。社会党政権ですらああいうことを言っておる。ということは、やはり抑止と均衡というものを中心に考えておるわけであります。そういうような新しい変化が国際政治に起きてまいりまして、戦争を起こさせないために抑止と均衡を考えざるを得ないというのが現実であるわけであります。
  118. 矢田部理

    ○矢田部理君 こういう力による平和論者、これは結局のところは軍縮ではなくて軍拡の道にのめり込んでしまう。レーガンがその典型です。ソビエトの軍事力がふえてきた、下手をすると追い越されるかもしれないという危機感の上に、対ソ優位を圧倒的に確立するためにいま大変な軍拡に乗り出している。それを日本にも要求をしている。それにあなたも従おうとしているところに実は問題があるのでありまして、そういう軍拡の論理、抑止力と均衡の理論、これをやめようじゃないかというのが第一回国連軍縮総会の崇高な決議だ、最終文書の採択だったわけです。それに逆行するようなことを、少なくとも日本政府として賛成しておりながらいま言うのはいかがかと思います。  パルメ委員会も、核戦争に勝利者はない、抑止の理論は破産しており、それにかわるのが共通の安全保障だ、どうやって軍備を縮小均衡の方に持っていくか、その議論を共通の安全保障に求めるということになってきているのであります。総理のような考え方をとるから、日本の防衛庁もソビエトの軍事力を過大評価し、防衛白書なんかはその系列でできております。軍事統計自身が、ストックホルムの平和研究所の数値よりも、ソビエトその他の軍事力が非常に優勢だということを示すイギリスの戦略研の数値をほとんど全部使用している。その上に立って対ソ強硬論をつくり、過剰認識の上に日本の軍備を進めようとしている。こういう危険な道を日本は断じて歩いてはならない。その基礎にある抑止と均衡の理論を何としてもやめて、新しい平和と軍縮の道を日本は求めなければならぬ。そのイニシアをあなたがとらなければならぬというのが私の切なる願いであり、希望なんです。    〔理事長田裕二君退席、委員長着席〕
  119. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) せっかくの矢田部さんの御意見ございますが、従うわけにまいりません。  防衛庁は、多分赤城防衛庁長官のころから抑止力の理論で防衛を整備してきていると思います。もう二十年近くになるのではないかと思います。これは世界の平和維持、軍縮達成のための一つの基本的な考え方、基準であるのでありまして、わが日本の防衛政策の基準でもあります。そういう意味において、私は捨てろと言っても捨てられるものではない。これでいままで平和が現に維持されてきておる。日本が戦後三十八年、またこの抑止と均衡の理論をとってから二十年平和が維持されてきた、日本に戦争が及ばなかったというのは、やはりこういう自衛隊及び安保条約を中心にする抑止力の理論が効き目を発揮して、日本が戦争の中に巻き込まれず、独立と平和を維持してきたのでありまして、これを捨てろと言っても捨てられない。社会党の石橋さんが言うように非武装中立とかあるいは降伏論、もう初めから手を上げた方がいいと、こういうような考え方、もし万一でもそっちがいいというお考えがあるのならば、なおさらわれわれはそういう考えに従うわけにはまいりません。
  120. 田中正巳

    委員長田中正巳君) 関連質問、志苫君。
  121. 志苫裕

    志苫裕君 いま抑止論、防衛論議をめぐっておるのでありますが、ちょっといまのに関連をしますが、防衛大綱は基盤防衛力という立場に立って策定されたということになっているのですが、それとの関連はどうなりますか。
  122. 谷川和穗

    国務大臣(谷川和穗君) 現在のわが国の防衛の基本の考え方は、みずからの安全確保のために日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を図るとともに、平和憲法のもと専守防衛に徹して近隣諸国に脅威を与えない、与えるような軍事大国にはならない、これが基本になっておるわけでございます。  したがいまして、わが国の防衛に関しましては、まず核に関してはアメリカの核抑止に依存する。しかしながら、わが国に対する限定的な小規模の攻撃に対しては自衛隊をもって、まずその侵略が起こらないように未然にこれを防止いたしますが、もし侵略を受けるようなことになれば、これを海上ないし水際で粉砕をし、何とかして日本の国土は上げない。またもし仮に日本の国土に上がるようなことがあれば、縦深的にこれを防衛いたしまして、米軍と共同で対処して日本の独立を守る、これを基本といたしておる次第でございます。
  123. 志苫裕

    志苫裕君 言うている割りには答えてないので、時間がないから一問一答でいいですよ。  基盤防衛力論というのをとったはずなんです。抑止均衡論というのは、最近ここ二、三年声高に言い始めてきたわけだ。ですから、防衛大綱で言う基盤防衛力論というものに変化が来たのかどうかということを聞いているのですよ。
  124. 谷川和穗

    国務大臣(谷川和穗君) 別に変化を来しておりません。
  125. 志苫裕

    志苫裕君 おいおいと詰めますが、総理、いま脅威論、抑止論をやっておるのですが、総理はこれからの日本は西側陣営の一員として、経済面ばかりではなくて政治的にも積極的な役割りを果たす、こう意気込んでおられるわけだ。そんなわけで日米運命共同体あるいは不沈空母の発言を初めとして、サミットでの政治声明の参加であるとか、あるいはコール首相との東京声明では、西側の連帯と結束にはどんな艱難にでも耐えるという声明とかあるいは決意表明ですね。日米首脳、ロン、ヤス政治ショーとも言われておるのだけれども、ここでも日本の防衛力を西側の防衛力という位置にまで高める。  こういう一連の動きを見ていますと、先ほど言った政治的な役割りを果たそうという気負いを率直に言って感ずるわけですね。防衛白書も、ことし出た外交青書も大体そういう気負い、総理の気負いというものが色濃く描かれておるということは否めません。実はその中曽根総理の気負いのようなものに国民は不安を感じている。対ソ脅威もさることながら、中曽根脅威というようなものを多くの国民は感じているのですよ。私はそういう点で、そういうあなたの高ぶった気負いというふうなものは、こういう少しとげとげしい国際環境のあるときには逆にマイナスの要素になるのではないかという感じがしますが、その点どうですか。
  126. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 別に気負っているわけでも何でもない、あたりまえのことをあたりまえにやっているだけであります。  鈴木・レーガン共同コミュニケというものがありますが、あの鈴木・レーガン共同声明の中をお読みいただきますと、やはり国際情勢に対する認識、それから防衛に関する基本的な考え方、両方の努力、そういう点があったように記憶しております。そして日本は国際的にもより大きな役割りを果たすということを、そういう趣旨のことを言っていると思います。これはある意味において当然のことなのでありまして、国際連合に入っている国は皆世界の平和及び人類の幸福のために共同連帯しておのおのが役割りを果たしていこう、そういう精神で国連というものができて、分担金も負担しておるわけであります。  そういう面から見ますと、日本が単にいままで経済的な世界のみにとどまっていないで、そして政治的な世界あるいは文化的な世界にも発言椎を持っていって、そして平和に対する発言権、平和に対する保障、軍縮に対する発言椎、あるいは発展途上国に対するわれわれの協力、そういうあらゆる政治的なあるいは文化的な面、ユネスコのごときは教育の面もあります。そういう面についても積極的に発言をしていくということは、国際社会の一員としての名誉ある地位を占める、憲法に書いてある「名誉ある地位」を占める積極的な努力の一つであると私は考えておるわけです。  国連の分担金を見ましても、私の記憶では、最近一番負担しているのはアメリカで約七億二千万ドルぐらいですか、日本が二番目で、これがたしか二億三千万ドルでしたか、それからイギリスが一億二、三千万ドル、それからドイツ、フランス。ソ連が六千万ドルぐらいです。ソ連は大体国連の附属機関には金を出さない。われわれは世界で二番目の国連の拠出金を出しておる国といたしまして、それだけ国民の税金を使って国連の機構を支えているならば、それにふさわしいような発言権を持つことも日本の政治家として当然考うべきであります。そういう意味におきまして、平和確保のために積極的に発言もし、あるいは南北問題のために発展途上国のために積極的に発言をする、これは政治的行為であります。 それをやるのはあたりまえのことであって、いままでのように余り引きこもって遠慮ばかりしているという国では国民の税金が生かされないのだと私は思っておるわけです。
  127. 志苫裕

    志苫裕君 総理を初め、この防衛白書もそうだし、それからどちらかというと防衛白書に歩み寄ったような外交青書もそうなんだけれども、非常に感ずるのは、米国好みというか、レーガン好みとでもいいますか、この世界の東西二大陣営の対立、善か悪か、何かこういう二分論理で非常にあっさり割り切ってそういう構図を描いているように思えてしようがない。  果たしてそうかというとそうではないのであって、世界の軍事紛争はすべてそれなら東西二大陣営の対立によるのか、あるいは戦後一時期に存在をした東西二大陣営対立というふうなものは、もう東は東で見る形もなく内部はがたがたしていますし、西は西で植民地の独立から始まってさまざまな状況を描き出しておる。そう二つに割って善か悪かで決めてしまうほど単純なものじゃないという、強いて言えば何といいますか、米ソとかあるいはアメリカ・ヨーロッパ対ソ連・東欧とかそういう対立軸があるようでありますけれども、あるいはそのほかの地域における個別的国家間対立というふうな対立軸であって、冷静に見ればそういう二大陣営対立論はないのであって、それをさも善玉と悪玉に分けて、われわれが善玉の組で、したがって悪玉の組とは全部対決をする。冷静に見れば、防衛白書でさまざまな情勢報告をしておる、それらのほとんどもう九割以上は日本とは直接軍事紛争にかかわらない問題が書き連ねてあるという感じがいたしますが、その点はどうですか。
  128. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 国際情勢というものは冷厳に見ないといかぬと思うのです。好ましいと思われるようなそういう希望的観測で物事を判断しては判断を誤ると私は思っております。そういう意味におきまして、冷厳な、冷酷な、嫌だけれども現実はこうだと、そういう見方で見ますと、やはり軍事的には米ソというものの二極性、双極性というものが否定できない。現にフランスでも中国でも、中国はどうかわかりませんが、大きい意味ではアメリカの核の傘、ワルシャワ体系の国々あるいはキューバのような国はソ連の核の傘、一般的に考えるとやはりそういうものの関係でできていると言わざるを得ません。フランスのような国ですらも、終局的にはアメリカの核の傘が効いていると言われております。ですから、嫌だけれども現実は米ソの軍事的二極性というものを否定できない。  現に、戦略兵器削減交渉、STARTではアメリカとソ連が話し合っている。あるいはINF、欧州における中距離弾道弾問題、これもアメリカとソ連が話し合って、世界じゅうがそれを注目しておる。あるいはシリアにおける、レバノンにおける問題でも、新聞報道や情報を見ると、シリアの背後にソ連がいるというようなことも書かれておる。そういうようないろんな情勢を見ると、残念ながら軍事的にはこの二つの国の機能というものが作用しているということは、これは否定できない。  だがしかし、政治的には多極性の時代に入ってまいりました。ヨーロッパはヨーロッパ独自の見解を持ち、あるいはイランのホメイニ師は独自の見解を持ち、あるいは発展途上国はベルグラードやあるいはニューデリーに集まって、七十数ケ国あるいは百カ国近い国々が独自の見解を出す。日本は日本でまたASEANの国々と提携をし、あるいは東アジア全般の平和問題を特に考える。こういうようなわけで、政治的には非常に多極化してきたということが言えると思います。  経済的に見ると、日本、アメリカあるいはEC、カナダまで入れまして四極というものが経済的にかなりこれを動かしている面もあれば、一面においては発展途上国の立場も無視し得ない。こういうわけで経済的にも多極化してきております。そういうふうにして、政治面あるいは経済面あるいは安全保障面において入り乱れてきているという要素が現実である。しかし、遺憾ながら軍事面につきましては米ソの二極性というものが非常に強くまだ残っているということは否定できないのが現実であります。
  129. 志苫裕

    志苫裕君 総理は私の言うことをよく聞いてないので、米ソ対立というものを東西二大陣営の対立というふうにとらえるから、日本はその西側の一員という入り口を見つけるのであって、現実は必ずしもそうでない。トロピカルウォーズと言われているように、たとえば地球を取り巻いて、赤道を取り巻いて、恐らく三十か四十の国がいろんなことでトラブルを起こしています。しかしそれが、では東西の対立というふうなもので一体幾つ紛争が起きているか。それはその後ろにはいろんなやつがおるのだろうという推測をすればこれはまた別だけれども、現に防衛庁が発表しておる戦後のトラブルの中に東西対立、東西国家間の紛争というものが幾つありますか、お答え願えますか。
  130. 新井弘一

    政府委員(新井弘一君) 防衛白書につきましては、終わりの資料に戦後発生した幾つかの紛争、私の記憶では約八十列記してございます。おっしゃるとおり、この八十について、ただその紛争の具体的な性質とそれから国際政治に占める比重それぞれは捨て去って、ただ網羅的に列記してあるその数が約八十という意味でございます。  そうしますと、一見確かにいろいろな紛争が、主として第三世界等において国境紛争、宗教紛争というような形で多いということで、数が多いという印象を受けられるのはもっともだろうと思います。ただ、東西について言えば、先ほどから総理が何回か繰り返しておりますけれども、西側は一九五二年の二月、リスボン会議でございますけれども、NATOが抑止戦略というものを正式に採用いたしました。これが今日まで三十数年過ぎて、その間、この抑止戦略で紛争が幸い大規模な紛争にならずに全部その初期の段階で火が消されている。ベルリン危機ももちろんそうでございますが、そういう実態が現実に存在するということでございます。
  131. 志苫裕

    志苫裕君 時間もないので、念のため私がまとめたのを言いましょうか。戦後起こった紛争約七十件ですよ。平均毎年二件。うち内乱三十五件、領土紛争十六件、独立戦争七件、分裂国家間の紛争二件、これで約六十件ですね。東西問題じゃありません。そしていずれも日本とは直接関係がない。残りは中東戦争、社会主義国家間の内輪もめ、ベルリン封鎖、キューバ危機、レバノン紛争、こういうものです。  東西二大陣営というものがあって、私はそれは崩壊していると言っているのだけれども、現実には米ソあるいはNATO対WPOというのがありますけれども、そういう直接日本の軍事的対立や争点にもならないようなものをかき集めてきて日本の脅威の種にしようという、たとえば防衛白書のつくり方というものが、私は逆に脅威論だと言うのです。私の言いたいのは、そういう直接軍事的な紛争や争点を持っている国と、そうでない国、わが国のようなところとは、安全保障の問題の立て方が違ってくるのが当然だということを言いたいので申し上げたわけであります。  たとえば、NATOとWPOがにらみ合うのは、それはそれなりの地域的、歴史的な事情があるわけで、あるいはカリブのところでいろいろともめ合うのは、それなりのやっぱり長いいろんな不幸な蓄積があるわけであって、そういうものを一様に持ってくることはないじゃないかという意味で申し上げておるわけです。ですから、白書のように、何か世界じゅう探し回ってトラブル持ってきて日本の脅威という構図をつくり上げて、防衛力でもふやす足しにしようかというふうなことでは本当の意味での平和をつくることにならぬということを指摘したかったわけです。  そこで、アメリカの立場、ソビエトの立場は、世界じゅう出張って何かやっているんだから、これはちょっとこっちに置きまして、そっちからの防衛圧力のことは別にしまして、いま日本に差し迫った軍備増強の理由や根拠がありますか。
  132. 谷川和穗

    国務大臣(谷川和穗君) 現在私どもが防衛力の整備を行っておりますのは、現在までに私どもが持っておりまする整備計画の水準に一刻も早く到達をいたしたいということで行っておるのでございまして、差し迫ってこれこれこういう脅威に対してこう対処するというものではございません。  それからなお、われわれといたしましては、あくまでこの防衛力の整備というものは、侵略という言葉を使わしていただければ、侵略を未然に防止するという意味合いを持っておるという気持ちの上から整備に努めておるところでございます。
  133. 志苫裕

    志苫裕君 それで、私はいまここで非武装中立云々を言っているのじゃないので、いま、議論は別にしまして、日本にそれなりの防衛力がありますね。これは総理、世界で八番目だとこれに書いてあります。世界で八番目ですよ。後ろに百何番も続いているのですよ、世界には。だから、日本の防衛力は、現に自衛力あるいは軍事力というのは世界の八番目だ。  アメリカとソビエト、戦後における覇権争いも含めて、不信感も含めて何かいろいろやっていますが、いまにも核をぶつけ合いそうなことを言っていますが、結局抑止力というのは最終的に核になるわけですが、その核は、もうよく言われていますように広島型で百三十万発分だ。TNT火薬にして百五十億トンだ。世界人口一人当たり四トンだ。地球人口はこれで二十三回死ぬ、こう言っている。これだけの核兵器の蓄積をとにかく持っておるわけだね。ですから、米ソいずれか核の力で上か下かじゃなくて、一方が世界人口を十遍殺して、一方が世界人口を五遍殺すという話なんだ。一遍死ねばそれでおしまいなんだ。  これだけの、日本で言えば八番目の力が現にある。世界には二十三遍も殺せるような核の蓄積がある。それでいてなぜ軍備増強か、それでいてなぜ核競争かという点は、これは普通の人ならわからない。これは核ゲームじゃないですか。総理、どうですか、戦略ゲームじゃないですか。
  134. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 私はこの席でも申し上げたと思いますが、アンドロポフさんもレーガンさんも、核兵器にだけは手をつけたくない、そういう考えを持っていると思いますよ、人間として、人類として。それで、核兵器のボタンを押したときに地球は終わりになる、そう考えていると思うのです。  この間、レーガンさんが衆議院の議場で演説をいたしました。あの話の中でも核兵器の問題に触れまして、そしてこれには絶対手をつけたくないんだという切々たる話を私は議場でお聞きいたしまして、非常に感銘をしたのです。恐らく世界のリーダーで核兵器を持っている人々は、もうおののいているという感じが私はしているし、それが人間としてあたりまえのことであって、そのおののきが良心であり、さわってはならぬのだと。それをさわらせないようにどうしていくか、どうしてまたさらにそれを減らしていくか、そしてなくしていくかということが人類の課題であるわけです。  やはり人間というものはまだ動物的な要素も多少ありまして、核兵器というものは一たん出てまいりますと、やはり対抗して、広島に落ちるとソ連がまたもっと大きいものをつくらなきゃだめだというのでどんどんつくってきて、ICBMをつくる。アメリカがそれじゃ危ないというのでまたMXをつくる。そういうふうにして業の兵器になっておるわけです。この業の兵器に日本はさわる必要はないし、そんなものは持たぬ、これがわれわれが非核三原則を堅持している基本的考えであります。この業の兵器をどうして地球からなくしていくかということが全人類的課題であり、そしていまINFでSS20を減らそうと努力しているのも、その努力のあらわれでしょう。  私は、そういう意味におきまして、土曜日もカナダのトルドー首相と、核兵器を減らしていくためには本当にお互いに協力していきましょう、そして核兵器を持っておる五大国、アメリカ、ソ連、イギリス、フランス、中国、この五大国がいずれは一堂に会して、そして核兵器をなくしていく、ゼロにする、そういう相談をするように持ちかけていこうではないかという話をいたしました。しかし現実はなかなかむずかしい、厳しい。それにはまず、いま目前でやっているINFを成功させなければだめだ。SS20の問題が解決できなくて核兵器を減らすという五大国の会議なんかとうていできっこない。そういう意味で、一歩一歩着実に前進して、核兵器を持っている国が集まってなくす相談をやらせるようにしましょうということをトルドーさんと話をしたのです。新聞にも出ておるとおりでございます。  そういうようにして、一つ一つ具体的に核兵器を減らす方向に私たちは着実な努力をしていきたい。単にそういうことが希望であるということで、それがすぐできたと錯覚したり、それがすぐできると思ったりすることは間違いなのであって、業の兵器を持っている以上はこの業をどうして取るか。これはやはり一つ一つ具体的に検証も伴い、そしてお互いがそれを確かめ合って、信頼し合って確かめ合う、そこまでいかなければ安心したものはできない。そのために私は努力をしておるのであります。
  135. 志苫裕

    志苫裕君 軍縮の話をすると、いまアメリカ、ソ連のことを言うのですが、それはもちろん大事なことなんだ。私は同時に、これは防衛庁長官がお答えになってもいいですが、いま総理も言ったように、私もまた指摘したように、投げ合ったら地球が滅びる、したがって投げ合わないというべらぼうな兵器があるわけです。これは抑止力というのでしょう。そういう状況のもとで、日本はすでに世界で八番目の軍隊を持っておるわけです。これ以上どこまでふやさなければいけないか。なぜそれをふやす必要があるのか。お金がない、財政危機だ、民生も切り詰めて国民にしんぼうもしてもらわにゃならぬ。こういう状況のときで、しかも抑止力としては投げ合ったら滅びるようなものがどかっと控えている。こういう状況で、しかも八番目といえば後ろに百何十番ついているわけです。それだけの防衛力を持っておる、自衛力を持っておるわが国が、この上何をふやさなければならぬのか、そのことを聞いているわけなんです。
  136. 谷川和穗

    国務大臣(谷川和穗君) 大変に不幸な話でございますが、一たび近代戦が始まるようなことになれば、これは破壊力の競争になるのでありまして、どうしても核のテンプテーション、核を持っている者は核を使いたいという誘惑に駆られるおそれは十分あると思います。したがって、核の軍縮はできるだけ早く、できるだけ低い水準でこれを成立させるという意味で努力がなされることを、われわれも心から期待はいたしております。  その問題は、わが国に関しましては核の戦力についてはアメリカの核に依存をいたしておりますから、わきに置いて、われわれが考えておりまする防衛力の整備というものは、わが国が限定的な小規模の侵略に対してこれを未然に防止し、しかもこれに対して対処できる、それだけの国家としての防衛の基盤を持つことによって、極東、アジア、この地域における平和の維持に大いにプラスをするのだと、こう考えて、防衛力の整備を考えておるわけでございます。  なお、全世界で八番目という御指摘ございましたが、金額の大小について云々することは私は余り意味がないような感じがいたしますけれども、わが国の一つ上のフランスの七番目の防衛力の整備とわが国の防衛力の整備は、一番違いの七番と八番でございますが、枠にいたしますと、わが国はフランスの二分の一以下でございます。したがって、わが国といたしましてはわが国としてできるだけの防衛力の整備を行うことによって、先ほど申し上げましたような目的を達していきたい、こういうことで防衛力の整備に努力をいたしておるところでございます。
  137. 志苫裕

    志苫裕君 くどいようですが、そうやってどうしようというのですか。
  138. 谷川和穗

    国務大臣(谷川和穗君) 国の独立を確保し、安全を維持しようということでございます。
  139. 志苫裕

    志苫裕君 じゃ、具体的は聞きましょう。その相手はソ連ですね、ソ連以外ないのですから。そこで、ソ連の脅威が出なければどんどんどんどんと高めていく理屈かないからソ連脅威論が出てくるわけだが、ソ連が隣の国におって大きな軍備を持っているというのはわかりますよ、核を持っている。で、ソ連が脅威だというのですが、じゃ、具体的に聞きましょう。ソ連との間にどういう軍事紛争があるのですか。ソ連は日本をどうしようと思っているのですか。どういう想定しているのですか。
  140. 谷川和穗

    国務大臣(谷川和穗君) 前々お答え申し上げておるように、わが国は仮想敵国を持って防衛力の整備をいたしておるわけではございません。ただし、最近の極東におけるソ連の軍事的な増強は、これは目に非常に著しいものがございまして、これも前々お答え申し上げておりますように、わが国に対する潜在的脅威であるとは認識いたしております。
  141. 志苫裕

    志苫裕君 そこなんですよ。私は率直に言うて、それはソ連はアメリカととにかくこれでもかこれでもかとやっているのだから、それは日本よりは圧倒的に軍事力が大きいわけで、だからその周りに目ざわりな軍事力があることは間違いない。しかし、あるだけで、別に脅威と言ってないわけでありますから、それで日本へ攻めてくると言っているわけでもないのでありましてね。そうして、強いて軍事的争点のことを聞いたのだけれども、言わない。それはあるいは北方領土というのが場合によると軍事争点とも考えられるけれども、あれはいい悪いは抜きにして第二次大戦の後始末として向こうが持っておるわけで、こっちが武力で取りにいかぬ限りには軍事的紛争になりませんね。だから総理もいつも言っているように、これは平和交渉事項なんだ。こういうふうに考えますと、非常に脅威が抽象的なんだ。  それで、前々の白書では脅威についての意図と能力に分けて、能力は力関係でわかりますけれども、意図は変化しやすくて察知しにくい、また国際的な政治面から見ても制約があって、その可変性にも限界がある。大規模な侵攻というのは国際情勢及び周辺の国際政治構造に抑止をされるし、仮にそのような侵攻があった場合は情勢変化によって事前にわかっちゃう。しかし、大がかりな準備を行うことなしに、奇襲のような形で短期間のうちに既成事実をつくることを目標とするような侵略の可能性はあるということで、防衛大綱に基づく防衛力の整備をしようということがかつて防衛白書に載っておるわけなんです。  先ほど総理はたまたま別の答弁で、日本に侵攻すると、日本は地勢上、海の中で有利なんだ、三十万トンの兵員能力がなければ日本に攻めてこれないと言った。日本に攻めてこれないと言った。実は、それなら防衛庁に聞きますが、いまソビエト、日本に向かっておる沿海州からカムチャッカからあっちの方ですね、一体そこに三十万トン、あるいは二十万トンでもいい、十万トンでもいい、兵員輸送能力がありますか。お答えできますか。
  142. 谷川和穗

    国務大臣(谷川和穗君) 総理がお答えなされましたのは、日本の周辺は海で囲まれておるために、日本に侵略の意図のある国は海を渡るか空を渡るか、どっちかしなければならぬのですが、特にそのうちの海の問題を取り上げられたと思います。いま現在この段階で、大規模に日本の国土に対する侵略意図ある国家が日本の周辺にそういう種類の軍備を整えているとは、つまり輸送船団といったようなものを整えているとは私は考えておりません。
  143. 矢田部理

    ○矢田部理君 いろいろ議論は発展しておるわけでありますが、平和や軍備の問題も行革と深くかかわっているからなんでありまして、私どもは行革の基本理念として、平和、福祉、分権ということを主張してまいりました。ところが、いま土光臨調や中曽根行革が進めているものは、これらの理念からだんだんだんだん離れていっている。  平和の課題で言えば、こんなに財政が窮屈なのに軍事費だけは突出をさせる。公務員の定数は五%から一〇%削減を求めているのに、防衛二法は、いま国会に来ておりますが、二千人の増員を求めている。こんな時代錯誤は許せないから私どもは主張しているのであります。福祉の問題も同様です。健康保険の自己負担を導入する、老人を医療から排除していく、社会保障費の負担率は年年増加を続けている、これが財政再建という中における経費削減の中身なんです。福祉や教育が大幅に切り捨てられていっている。増税なしだ増税なしだと言っておりながら、一方では実質増税が進んできております。  数値まで挙げるのは時間がありませんからやめますけれども、国税の負担率が五十年の初めには一一%ちょっとだったのが、すでに対国民所得比でいえば、ことしは一五%を超えておるわけであります。全体として租税負担率は上がってきている。そして減税の問題が出てきました。ことしじゅうには景気対策に役立つような規模での減税を行う。自民党の公約だったじゃありませんか。ところが、その公約を完全に否定して、ことしは千五百億、ランチ減税、ミニ減税。景気対策に役立つどころではありません。 これが二年越しの減税の結果だったのかと、国民は中曽根内閣に大変怨嗟の声が高まっている。残った減税は来年度からやります。ところが、その減税の陰に見え隠れしておりますのが増税じゃありませんか。増税なき財政再建だと言っておりながら、いよいよ増税に踏み切るのですか。総理及び大蔵大臣にまず見解を伺いたいと思います。
  144. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) いまの矢田部さんの御質問、整理すると大体三つになるかと思います。  一つは増税なき財政再建、これはまさに私どもといたしましては行財政改革の理念である。片時も安易な増税等を念頭に置いてはならぬ、こういう理念として今後とも堅持してまいります。  そこで二番目の問題は、今回の減税、景気浮揚に役立つと考えるか、こういう趣旨であろうと思うのであります。この問題につきまして、私も幹事長代理でありました昨年、いわば減税小委員会衆議院の大蔵委員会につくられた。その当時からの歴史をひもとき、まあ歴史といってもそう長い歴史じゃございませんけれども、そうして経過を精査いたしてみますと、与野党の間に議論の過程でいろんな変化が確かに出ております。  そこでまず、私どもが減税について最終的に約束したものは何か、こういうことで見ますと、これは法案を十月下旬に提出する、二番目が実施は年内とする、三番目が景気浮揚に役立ち得る大幅規模とする、こういうことで合意があったというふうに了解すべきである。したがって、減税の年内実施は、昭和五十八年分の所得税の臨時特例等に関する法律案、今日参議院で御審議をいただいておるさなかでありますが、これを提出いたしたわけであります。それはまた年内実施という、二つの点がそれにおいて満たされた。  そこで、三番目の景気浮揚に役立ち得るということでありますが、本院においてもまた衆議院においても経過を見ますと、中には正確に少なくとも五十九年一月一日からは実施すべきだ、こういう主張もありました。そしてまた年内に少しはかけるべきだ、こういう主張もありました。当時は、合わせて一兆円規模を考えるべきだ、こういう主張もありました。が、参議院選挙さなか統一されて一兆四千億、こういうことになった経過です。それが私はいけないと申し上げる考えは毛頭ございません。  そこで、私どもはこの千五百億の減税ということにつきましても、何としてもこれはとにかく年末調整は間に合わすようにお願いをしなきゃならぬという考え方を基本に持っております。これはとにかく総額は、五十八年、五十九年度を通じてでございますが、一兆二千百億円、少なくともこれは従来から比してまさに大規模なものであります。そのうち年内分は年末調整で返す。御審議いただいた後でございますけれども。また、五十九年一月—三月分は来年の年末調整、四月分からは源泉徴収税額の減額という形で本格減税を行うということになっておりますので、期待感というものを総合して考えますならば、景気振興に資するものであるというふうに思われるわけであります。  そうしてなお、この問題につきましては、されば景気浮揚に役立つとは何ぞや、こういう議論も行われました。それは政府が考えておる三・四%という成長率をより確実ならしめることではないか、こういう議論もありました。いや少なくとも四%程度は念頭に置くべきだ、こういう議論もございました。そういうものを総合した結果が今日三・四%をより確実にするであろう可能性というものを包含しておりますだけに、私は与野党の合意に誠実に、つつましやかながらおこたえ申し上げたと、このように理解をいたしております。
  145. 矢田部理

    ○矢田部理君 かねてからの議論と要求、そして自民党の約束をすら完全にぶち被ったのが今度の減税なんです。そして大部分は来年度に持ち越した。その来年度の減税の財源をどこに求めるのかと言えば、ここが大きな問題になってきました。  さきの政府の税制調査会の中期答申によりますと、物品、サービス等に係る課税ベースの拡大を検討する、こういう議論の上にこれから大増税をやろう、間接税増税でそれを賄おう、こういう動きになってきて、現にたとえば最近売れ行きのいいしょうちゅうや二級酒の酒税の値上げ、あるいはパソコンやVTR等の物品税の増税等々七千億から一兆円の大増税が考えられているわけでありますが、これでは景気的な面から見れば完全に減殺効果であります。景気は逆に沈んでしまう、こんな状況なんじゃありませんか。
  146. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) まずそもそも申し上げますことは、増税なき財政再建、これは堅持すべきものであります。ただ、増税という言葉から持つ個々あるいはそれぞれの利害グループからすれば、いわば自己中心的になりがちなものであります。国会でもこの点は増税ではなく、いわば不公平税制の是正である、だからこの方の増収は図るべきであるという御主張があったといたしましても、直接それに利害を受けるものからいたしますならば、それは自分の方から見れば増税である、こういうことになりますので、言ってみれば不公平の是正等の問題と増税というものは観念的に個個が頭の中で整理をしなきゃならぬ課題だと思っております。  したがって、いま五十九年度の減税財源についての個別税目に対する御指摘がありました。このたびの政府税調の答申を読んでいただきますならば、言ってみれば税というものは絶えず見直しをしていかなければならぬ、その際に考え得る一つの定性的な方向としてのものが検討課題として指摘されておるわけであります。個別税目をどうするか、こういう問題は五十九年度税制のあり方、これによりましてこれから任期をせっかく延ばしたことに対してお許しをいただきました政府税調の皆様方の審議にまつところでありますが、少なくとも私どもかねて主張しておりますし、また国会の議論が税調における議論の土台となっておることも事実でありますので、いわゆる一般消費税(仮称)、そのような手法を財政再建なり減税財源なりに充てる考えは毛頭ございません。
  147. 矢田部理

    ○矢田部理君 私はかねてから疑問に思っているのですが、増税なしに財政再建をおやりになる。そうしますと、一般歳出の削減でこれを賄う。一般歳出の方は、これは福祉の切り捨てや等々でこれまた問題なのでありますが、政府は少なくともそう言ってきた。とすれば、増税なしに一般歳出の削減でどうやったら財政再建が可能なのか、その計画、方法、削減のやり方等について少なくとも明確にしなければ増税なしは説得力がないのでありまして、それは大蔵大臣、示せますか。少なくとも中期的に経費の削減はこうやって再建するのだ、したがって増税しないのだということがなければ増税なしは絵にかいたもちになってしまうというふうに思うのですが、いかがですか。
  148. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 重ねて申し上げますように、増税なき財政再建、これは理念として堅持すべきものである、このように考えております。  そこで、その手法をいかにするか、こういうことでございますが、この問題につきましては、まず臨調あるいは財政審、あるいは今後の八〇年代の経済の指針と展望、また先般の政府税調から出されました答申の中にも示されておりますように、まずは歳出削減というものに積極的に当たらなければならぬ。したがって、その歳出削減というものは、その都度それぞれの政策需要に基づいて行われたものでございますけれども、その施策の根源にさかのぼるとともに、いわゆる国で行うべきもの、地方で行うべきもの、あるいは企業、個人に帰属すべきもの、その分野調整にまで当たって、もって今後の歳出削減にまず努めていかなきゃならぬ。その上でなお国民が現行の負担というものを維持するためには、負担をする者も国民、そしてまた受益者もまた国民という考え方に立って、それを許容するという環境なりそういうものが一つの政策需要とまさに適応した場合に考えられることであって、当面そういう増税なき財政再建というようなことを離れて安易な増税を念頭に置くということは、これは絶対してはならぬ。それをやったときに私は財政再建なり財政改革のいわば鋭い剣が折れてしまうと、こういうふうにさえ考えております。
  149. 矢田部理

    ○矢田部理君 これだけ膨大な国家財政の赤字をなくして財政を再建していくためには、とても三十数兆円の一般歳出の削減ではできる相談ではない。早晩、だれの目から見てもこれは破綻をする。ところが、いよいよ選挙も近づいてきております。増税の話はできない。選挙が終わったその先には、大型間接税の導入などを含む大増税が待っているということが事実なんじゃありませんか。財政の状況、経費削減の現状、景気の動向などから見て、とてもじゃないができる相談ではない。とするならば、率直に中曽根内閣は増税の問題を明らかにして総選挙に臨むべきだ。それを隠して国民をだまし討ちにしてはならないと私は思うのですが、総理、いかがですか。  同時にまた、本当に増税をやらないということであるならば、来年の減税財源を増税では賄わないということと、少なくとも今後、中期的にも財政再建期間中増税をやらない、増税なきでやりますということを明確に国民の前に誓ってしかるべきだと思うのですが、いかがですか。
  150. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) これは私からまずお答えいたします。  歳出削減はとうてい困難であると、そういう認識そのものを持ったときに財政再建はその緒にしてつまずくのではないか。これはよしんば抽象的であろうとも、そういう考えを持ち続けていかなければならぬと思っております。  それから選挙前と選挙後の問題でございますが、日本国民はその知識水準からいたしまして、また文盲率の低さから、あるいは高等学校進学率から世界一であります。そういうだますというような思想があったとしたならば、これは選挙で征伐されるのは必定である、このように考えております。仮にもしその後言われるような大型間接税の導入等をした場合、次の選挙でまた征伐されることもこれは間違いありませんので、国民の良識を期待いたします限りにおいては私どもはそういう手法は絶対とってはならぬ、こういうふうに確信を持ってお答えいたします。
  151. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 私は、臨時行政調査会答申を守って増税なき財政再建をやると一貫して言っておるのでございまして、今度の選挙におきましても、仮にあるといたしましても、増税はいたしませんと、そういうように公約いたしたいと思っております。矢田部さんにここで謹んで御報告申し上げる次第であります。
  152. 矢田部理

    ○矢田部理君 行政改革のさまざまな各論もやりたかったのでありますが、もう一つ中曽根内閣の行政改革に欠落しているものがある。私どもは分権と言っておりますが、民主化の観点です。憲法を排除し、民主化の観点を欠落させてこの行政改革を推し進めようとしている。民主化の観点から何か求められているかと言えば、政治倫理の問題もそうでしょう。官僚制の打破の問題もそうです。情報公開などというのは大幅に後退をしてしまった。第一次臨調から問題になっておった行政手続法、第一次臨調よりも後退をして、改めて審議会をつくるなどという答申になってしまった。何か行政改革です。国民の人権と民主化ということをもっともっと大事にしてしかるべきじゃないかと思うのであります。  特に、総理に一言だけ申し上げておきたいのは、今度行政組織法の改正案が出ました。部局の改廃を法律事項から政令事項に移す、国会権限から取り上げるということであります。  中曽根さん、あなたはかつて民主党を代表して次のように述べております。新憲法によって議院内閣制が保障されており、その責任政党の政策を実行していく機関行政組織である、その行政組織に政党の政策が浸透するような組織が保障されなければならない。行政の内部部局が政令で定められ、国会は関与しなくなるということでは行政組織にとって国会、政党政治というものは無縁なものとなる。行政組織というものはどうしても法律により国会でチェックする必要があると。  格調高いのですよ。この中曽根さんの手で今度は政府が部局の改廃を取り上げるというのでありますから、これは黙って聞いておられますか。まさに国権の最高機関である国会権限を大幅に縮小して、行政権優位の思想をあなたは定着させようと。ファシズムの一つの中身ですよ。こういう危険な道を歩もうとしておるのじゃありませんか。  ほかの点でもそうです。情報公開などは行政をやる便宜上必要だと言っている。決して知る権利の立場からこの問題を説き起こしていない。 さまざまな問題を今度の行政改革は抱えています。すでに触れましたように、福祉や教育費を大幅に削り込んで軍事費だけを突出させる。増税なきとは言っても、すかして見れば増税が浮かんでいる。こんな行革は私どもは真っ平御免だということを特に強調しておきたいと思うのですが、いかがでしょうか。
  153. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) いまお読みになったのは、たしか昭和二十三年ごろの国会で私が申し上げた説であります。あのころはその考えは正しかったのであります。なぜならば、旧憲法におきましては国家行政組織あるいは公務員の問題というのはすべて勅令で、いわゆる官制大権のもとに行われて、国会が口出しをすることはできなかったのであります。したがって、官僚国家あるいは軍部の優先という制度があそこで出てきた。したがって、戦争に負けて、われわれが国会を構成しましたときには、国会の民主的統制というものを強める必要がある、そういう意味でその主張をしてきたのであります。  しかし、自来三十六年たちまして、日本の議会政治は非常に成熟もいたしましたし、国権の最高機関として国会は非常に力を持ってまいりました。議員の皆様方も官僚以上の御見識と力をお持ちにもなり、あるいは各委員会における力、あるいは各政党における各部会の力等は非常に大きく増大をしてまいりました。こういう状態のもとにおきましてはもはやそれほど心配する必要はなくなった。したがって、行革の理想であるぜい肉を切る、そういうような意味、あるいは活力を与えるという意味からいたしまして、もうこの辺で——ちょうど総定員法をつくりまして公務員の数はもう一定限に限定してしまう、たしか五十二、三万に限定したはずです。自来十三、四年、もうそれ以上数はふえません。むしろ一万数千人減ってきております。それは佐藤内閣の総定員法が効いておるからであります。それと同じように、この辺で各官庁の官房及び局の数を百二十八に限定して、それ以下にする。その範囲内においては各官庁が自分たちで積極的に自律的に改変をしてよろしい、こういうふうにいたしまして、総量を抑えて、その範囲内においては行政権がある程度自由にやらせるようにいたした。  これはやはり公務員あるいは官庁というものがもっと自律的に活発に時代に適応し得るような体制変換をやらせようというのがその趣旨でございまして、スクラップ・アンド・ビルドで、百二十八の以内ということを国会が抑えておりさえすれば私はもはやそれで適当である。ただし、そのような改編を行った場合には国会に報告せよと、そういうように修正をしていただきました。われわれこれに賛成をいたしました。これだけ議会統制が大きく成長いたしました今日におきましては、その程度の御処置はぜひお願いいたして差し支えないと思っておる次第でございます。
  154. 矢田部理

    ○矢田部理君 国会の最高機関制が変わったわけではありません。従来にもまして国会の立場は私は重要だと思っている。  いずれにいたしましても、財界主導型で行政国会からも権限を奪うような行革に私たちは断じて賛成するわけにはまいらぬ。反国民的な行革だということを特に指摘し、同時にまた、若干の時間を残してけさから問題になっております問題の質疑の時間を置いておきたいと思いますので、この程度できょうの質疑はとどめたいと思います。
  155. 田中正巳

    委員長田中正巳君) 次に、塩出啓典君。
  156. 塩出啓典

    塩出啓典君 公明党・国民会議を代表いたしまして質問いたしたいと思います。  まず最初に、政治倫理の問題について質問をいたします。  中曽根総理は、今日まで田中議員辞職勧告決議案には終始反対をしてこられたわけであります。また、その理由とするところもお聞きしたわけでございますが、いささか私は考えが違うことをこの際申し述べておきたいと思います。  そこで、中曽根総理は田中元総理がやめるべきであるとお考えか、あるいはやめるべきではないとお考えか、その点はどういうお考えをお持ちでしょうか。
  157. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 個人の進退、特に総理大臣をおやりになったようなお方は、すべていろんな問題をじっと深く考えられて行動されていると私は考えております。したがいまして、どうしろというような内容にわたる判断を私はここで公に申し上げない方が適当であると思っております。
  158. 塩出啓典

    塩出啓典君 私は、中曽根総理としてどのようにお考えであるのか、そういう点をお聞きしたかったわけでございますが、そういうことを総理が述べるということは、総理の一つの政治姿勢を示す上において私は必要ではないかと思うのですが、それはやっぱりまずいのですか。
  159. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 自分で決めるべき問題でありまして、人からとやかく言われる問題ではない。いわんや、内閣総理大臣として人の進退に対してああしろこうしろという判断を示すことは差し控えたいと思っております。
  160. 塩出啓典

    塩出啓典君 そこで、総理にお尋ねいたしますが、わが国の裁判は三審制である。そういう意味で、一審の判決が出ても最高裁の最終的に刑が確定するまでは有罪か無罪かわからないではないか、こういうような論議もあるわけであります。しかし私は、この無罪の推定原則というものは基本的人権を保障するための刑事手続上の法理ではございますが、第一審判決で有罪となれば無罪の推定は覆るというのが最高裁の判例であり、現在の刑事訴訟法の通説的な考えであると思います。そういう意味で、最高裁で決まるまでは有罪か無罪かわからないではなしに、やっぱり第一審の判決というものの重みを認めるべきではないか、私はそのように思うのですが、その点についての総理の考えをお尋ねしておきます。
  161. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 第一審判決につきましては厳粛に受けとめると申し上げております。しかし、日本は三審制度を持っておりますから、有罪であると断定するわけにはいかない。三審の終局においてこれは決まるものである。国連人権宣言におきましても、そのように国連人権宣言は言っております。また、刑法におきましても、疑わしきは罰せずという原則で貫かれておる。したがいまして、有罪であると断定することはできないと、そういうふうに申し上げておるわけであります。
  162. 塩出啓典

    塩出啓典君 総理は今日まで、主権者たる有権者の意思を尊重しなければならない、したがって選挙で選ばれてきた議員を軽々しく切るようなことはいけないと。それは私たちも十分慎重にしていかなければならないことは認めるわけでありますが、しかし田中元総理の場合、地元の新潟の選挙民は別といたしましても、一国の総理であったという立場であるならば、日本国全体の有権者の意思も十分尊重していかなければならないのではないか。  そういう意味で、今日までも言われていますように、いろんな調査機関のデータでも、八割、九割の人がそういう意思を示しておる。また田中元総理は、第一回の公判における被告人陳述におきましても、「起訴事実の有無にかかわらず、いやしくも総理大臣在職中の汚職の容疑で逮捕、拘禁せられ、しかも起訴に至ったということは、それだけで総理大臣の栄誉を汚し、日本国の名誉を損なったこととなり、万死に値するものと考えました。」と述べております。私はこのとおり、ましてや起訴のみではなく、一審の有罪判決があった以上は直ちに引くべきではなかったか、そして一人間として今後の法廷で堂々と争うべきだったと思います。本人がおやめにならない以上は、国会の自浄能力を示し、国民の信頼にこたえるために、除名ではなしに辞職勧告決議をすることは私は当然のことであり、これが憲政の常道である、そのことを申し上げておきたいと思います。  そして、中曽根総理は田中元総理に会われ、惻隠の情を感じたと言われました。そして、自民党総務会の席上で涙を流されたと聞きました。私は、三十有余年の長きにわたりともにがんばってきた友人が逆境にあるときに、足を運び、友人を励ます、そして惻隠の情を感ずる、こういうことは何ら非難されるものではないと思います。しかし、それはあくまでも中曽根康弘個人の問題でございまして、個人ならばそれでいいかもしれませんけれども、あなたは総理大臣という立場にあり、しかもわが国議会政治の最大の政党の総裁であります。そういう点で公私を混同してはならない。国会の権威を保つためにも、泣いて馬謖を切るの心境で田中決議案には賛成をすべきではなかったかと思うわけでございますが、総理の御意見を承りたい。
  163. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 国会としてそういう種類の決議案を出すことについて、私の考えはいままで何回もここで申し上げましたから繰り返しません。しかし、個人としていろいろ考え、また進退について熟慮するということは当然あり得ることであります。私は三十数年間の友人として、政党人として、友人としていろいろお話もし、最大限の助言を行ったと申し上げております。個人がこれは決することである、こういうように考えております。
  164. 田中正巳

    委員長田中正巳君) 飯田忠雄君から関連質疑の申し出があります。塩出君の持ち時間の範囲内においてこれを許します。飯田君。
  165. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 総理にお尋ね申し上げますが、行政改革という問題に大変熱心に取り組んでおいでになりますことについて敬意を表するものでありますが、行政改革は大変妨害が多いと聞いております。その一番大きな妨害は、やはり陳情だとか、それから精神的あるいは物質的な賄賂の提供というものがあるためにむずかしいということを聞いております。  こういう事実があるかどうかは知りませんが、実はここに一つの黄色い表紙の本があります。この本は国会議員全部に印刷されて配布されたと思われますし、また一般にも配布されておるようでございますが、この本の中には大変遺憾なことが書いてあります。簡単に、他党の党の名誉を損することをできるだけ避けた発言にいたしますが、「自民党議員だけでなく、野党議員も共に献金を受けたときは、問題とされない。教科書の有償無償の大きな問題のある文教委員会の与野党の議員に、一億数千万円の献金がされたが、収賄罪として取り上げられなかった。また、税理士法改正のときは、もちろん改正すべきものとされていたのではあるが、事前に改正の条文まで税理士会と打合せて改正せられたのである。このときは、何億円という多額の献金がされた。このときも、自民党だけでなく、多くの野党議員にも献金され、最高一人五百万円の献金をされたのであるが、刑事問題とならなかった。野党議員のお蔭で、自民党議員は助かったのである。」こういうことが書いてあるのですね。  私はこんなことがあったとは信じませんが、こういうようなものが国民一般に流布されるということになりますと、これは政治的な影響は非常に大きいと思います。また、こういうことが事実であるとすると、行政改革は本当にできるだろうかという疑いも持たざるを得ぬわけですが、総理大臣は大変行政改革についてあるいは政治倫理の問題について強い御関心をお持ちだということは存じておりますが、この行政改革推進する上におきまして、どういう態度でこうした陳情とか献金とかそういうものに対処されようとするのでありますか、お伺いいたします。
  166. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 行政改革につきましては、臨時行政調査会から答申をいただきまして、その理念、その方法、その手続等についていろいろお示しいただいておりますので、その筋に従ってやっておるわけでございます。変化に対する対応とか、あるいは簡素にして効率的な政府をつくろうとか、あるいは国際化時代にふさわしい日本の新しい行き方をつくっていこうとか、さまざまな理念及びその政策が示されまして、その線に従ってやっております。もちろん、その中には清潔な政治ということも含まれておりまして、それらのためにもやってまいりたい、一生懸命努力してまいりたいと、そう思ってやっておるところでございます。
  167. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 実は、私御質問申し上げましたのは、具体的にどういう方策で陳情とか献金とかいうものに対して対応なされるのか、つまりそういうものは一切切っていかれるのか、あるいはそれも考慮に入れておやりになるのかという問題でございます。これは行政改革ができるかできないかの根本につながる問題でありますので、御答弁願います。
  168. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 国民の皆様は平穏に請願する権利をお持ちであり、また民主主義の基礎というものは民心をくみ上げて民意に沿った政治を代表者として判定しながら実行していく、そういうことでございますから、だから陳情というものはあながち否定すべきではない。民意をよくくみ上げるということは政治の要諦の一つであると思っております。  しかし、われわれは国民全体の代表者でもあります。公務員は全体の奉仕者といいますが、われわれ政治家も同じように国民全体の代表者である。そういう考えに立ちまして、一部の偏した陳情に拘泥されることは適当でない。しかし、正しい陳情は正しくくみ上げていく必要がある。そういうように考えまして、その選択をどうするか、それからその手続をどうするかということが問題であります。  先般、われわれが新自由クラブとの間に交わしました協定によりまして、両院に政治倫理協議会をつくろうとか、あるいはわれわれが大臣、政務次官になったら財産公開をしようとか、いろいろなことをやろうと思っております。これらもそれらに資する一つのことである。政治倫理協議会におきまして、いまのような陳情の問題やら、あるいは政治資金あるいは選挙の改正、そういうような問題についていろいろ具体的な指針をつくって、各党、全党一致して守るようにしたらいいのではないか。特に選挙の腐敗の防止等については大いに努力してまいりたいと思っております。
  169. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 ただいまの問題につきましては大変御答弁しにくい問題だと思いますので、この辺にしまして……  次に、法務大臣の御発言。法務大臣はある雑誌に、政治家に正直や清潔などという徳目を求めるのは八百屋で魚を求めるに等しいというような御発言が載っておったということが伝えられております。この御発言は、要約して申し上げますれば、政治家に政治倫理を求めるのはナンセンスだ、そういうことになりませんか。総理は先般の本会議で政治倫理の確立に努力する旨の答弁をなされておられましたが、法務大臣のこのような政治家に政治倫理を求めるのはナンセンスだといったような意味のそういうお考えをお持ちになっておるそのことと、総理大臣のお考えとは根本的に違いがあるように認められます。この問題につきまして総理の忌憚のない御答弁をお願いいたします。
  170. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) その部分は舌足らずの、説明不足の部分で、特に注意を要すると私が注意した部分でもございます。もっとも竹下大蔵大臣の話によりますと、島根県あたりでは八百屋で塩サバを売っているそうです。だから事実無根ではどうもないらしいのですね。しかし表現は不適切である。  しかし、恐らく法務大臣が言わんとしたところは、政治の領域には政治固有の倫理と職責というものがある。ちょうど学校の先生については先生の倫理、先生の使命感、したがって聖職者であるかないかというようなことが学校の先生には問われるとか、お医者さんについては医師の倫理というものが問われる。これらはみんな普通人と違う倫理というものが求められる。それはその職能の社会的な使命とか価値によってそういうふうに位置づけられるわけです。政治家にはやはり政治家としての同じような価値観から来る倫理性が要求される。しかし医者には、医者が人格的にりっぱだということも大事だけれども、手術がうまいとか、病気を治すとか、あるいはばい菌を発見するとか、そういう医者特有の領域における能力というものが医師としてはまた非常に大事な要素であります。だといって、倫理がなくていいというわけではないわけであります。それと同じように、国会議員や政治家には政治家固有の領域における能力やら実績やら奉仕、その部分の大きなまたわれわれの責任というものもあるわけであります。だからといって倫理が不必要だという意味ではございません。その政治家には政治家固有のそういう国民に対する特別の責任とあれがあるのだということを、彼はそれを言いたかったのだろうと思います。  それは、先ほどのお話にもありますように、泰西のいろいろな政治学者その他の発言もございまして、先ほどもお話があったとおり、私もそういう言葉を記憶しております。そういう意味におきましては、最高の政治家が最高の道徳家であるかというと必ずしもそうではないですね。いままで出てきたケネディであるとか、あるいはチャーチルにしても、あるいはリンカーンにしてもりっぱな最高の政治家の部類に入る方であるが、その方方の業績を後で調べてみると、最高の道徳家であったかというとそうではないのです。どうもなさそうであります。  そういうような面から見て、やはり政治家には政治家固有の大事な領域がある、それを忘れて倫理倫理ばかり言っておったのでは全体のバランスを失いますよという意味のことを言ったのではないか。政治家の場合は動機がいいからといって免責されるものではない、やはり結果で、実績で国民に見せなければそれは政治家として落ちるものであります。だと言って倫理を無視していいというものではない。そういう意味における政治固有の領域における職責、責任、また評価の基準というものを法務大臣は特に強く指摘して言った。それが過剰に粗野に出過ぎたという点であろうと思います。
  171. 秦野章

    国務大臣(秦野章君) 私のしゃべったことでございますので、いま総理に大変丁寧におっしゃっていただいて恐縮でございましたが、確かに八百屋で魚を売っているところもあることはあるのですよ。しかし、正直言って、あの上っ側に言葉があるのです。古典的な道徳による徳目から見ると、とこう書いてある。そこを抜いちゃって八百屋と魚屋ばっかり出てきちゃう。それで私も大変困るのですけれども、そのことの意味は、古典的な道徳、徳目というものは、たとえば子供に教えるような正直さ、子供に教えるような清潔さというものを求めても無理だよ、大人の政治というものは国会対策一つ見ても無理ではないのかという、私のいろいろ情報を総合してそういうような判断をしているのでございまして、政治家に道徳的でなくていいなどということは一言も言っておりませんので、その点は御了解願いたいと思います。
  172. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 私は秦野法務大臣のお書きになった対談の雑誌は全部隅から隅まで読んでおりまして知っていますが、大体の内容はいまここで言うべきことではないと思いましたけれども、ついでだから申しますが、田中議員に対するいろいろの攻撃に対する弁護であるとしか思われません。その中で出てきた言葉でございまして、まあ国会議員というものはみんな不清潔で、みんな金もらっておるじゃないか、それをどうして田中議員だけを責めるのだといったような内容に読めるわけですね。そういうふうに受け取れる。そうなりますと、そういうふうな御発言をなさるということになると大変問題が起こると思います。田中議員に対して有罪の判決を下したのは日本の裁判所であります。裁判所が有罪判決を下した。しかも、その有罪判決を下した、それの起訴をしたのは検察官である。検察官は、言うまでもなく法務大臣のいわば部下ではありませんか。その法務大臣の部下である検察官が、裁判所の判決に対して満足して控訴しない。そうなりますと、検察官も裁判所のやったことは妥当だと考えている。これを、ちょっと親分という言葉を使っちゃ悪いですけれども、その一番の大親分の法務大臣がそれを否定するかのごとき御発言をなさる。これはどういうことでしょうか。火のないところには煙は立たぬということわざがございますが、日ごろから私尊敬しております法務大臣がああいうことを言われると、ちょっと尊敬の念をよそへやらなきゃならぬことになる、本当に残念に思うております。もちろん言葉が行き過ぎた、時のはずみだということもございます。だからあえてそういう問題をきつくは言いませんけれども、そういう問題を率直に認められた上で、その上でこれを妥当と総理は考えておられるのか。もし妥当と考えておられるなら、行革を口になされるけれども実際は腹の中はそうじゃないということになってしまう。この点につきまして総理の御見解を求めます。
  173. 秦野章

    国務大臣(秦野章君) いまのお尋ねでございますけれども、田中擁護というふうにおとりになることは、もうどういうふうにとられてもとられることは自由でありますけれども、そういう意図は全くないのです。これはさっきちょっと申し上げたのですけれども、第一審の裁判が終わって、言うならば大変な大騒ぎが済んで、そしてそこに環境として反省すべき問題があったのではなかろうか。指摘する問題があった。これは人権の問題であります。それから、ことしはまた国際人権の年でございまして、そういう観点からタイミングはそのときしかなかろうということで申し上げた。田中擁護擁護と、こうおっしゃるのだけれども、判決のことなんか全然触れていませんし、それからそういうことも私は全然ないと思うのですよ。余り勘ぐらぬでくださいよ。私は公正に職責を遂行しているつもりでございます。
  174. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 実は、私は総理大臣に御答弁を求めたのですが、法務大臣がかわっておいでになりました。これはひとつ総理大臣の御答弁を求めます。
  175. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 法務大臣がいま申し述べたことを私は支持しております。
  176. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 この問題を私が余り強く述べておりますと、私の次の重要な問題が切れてしまいますのでこの辺でやめますが、国会議員が院外で不法行為をした、この問題を国会は一切取り上げることができないのだろうかということを私は実は考えておるわけです。国会法では懲戒の規定は、院内の行動について懲戒の規定がございます。しかし、院内の行動について懲戒の規定があるということは、その精神から言えば、院外での不法行為に対してもそれは認めていないということにならないかどうか。たまたま院外のことは裁判所とかほかの法律があるからそれに任しておるのですけれども、政治的な立場から言いまするならば、院外で国会議員が不法行為をした。犯罪を犯さぬ程度の不法行為をしたとしてもいいですが、その場合に、国会議員の体面を汚したとして国会がこれを取り上げることは不当でしょうか、お尋ねします。総理大臣にお願いします。
  177. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) いままでの議院内閣制のわが国におけるたてまえはそういうことになりまして、院内における発言、表決、行動というものが院の自律的規制の対象になっておる。外における不法行為そのほかは、刑法、民法、そのほかの法規によって一般人と同じように処理を受ける、こういう法のたてまえになっておりまして、私はそれはそれなりに意味のあることではないかと思っております。
  178. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 私の御質問申し上げました趣旨は、国会議員の体面を汚した人に、国会議員に対して国会は何らの非難もできないのかと、こういうことなのです。国会議員は国会を構成しております。構成しておる国会が、その国会議員のために侮辱された、体面を汚した。国民から見れば何ということだということになるわけですね。そういう場合に、一言もその議員に対して注意さえもできないのか。つまりそういうことをやらぬでくれよと、いやそういうことはやったらおまえ面汚しだから、まあこの際身を引いたらどうだねといったようなことを言うことができないのか。そういうことは法律上禁止していないでしょう。憲法も禁止していませんね。できるでしょう、それをやったって。いかがですか。
  179. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) その点は恐らく政党でおのおのの規律、秩序がございまして、自律的に処理する問題が第一義的ではないか。自民党にも倫理憲章というものがございまして、国会の内外において守らなければならぬそういうものがありまして、そして名誉を汚したり品位を汚す行為があれば、やはり自民党としてのおきてを発動する。恐らく社会党や公明党においてもそういうふうにおありではないかと思うのです。そういうたてまえでいままでやってまいりました。それはそれなりに歴史もあり、意味のあることであったと思うのであります。しかし、この間新自由クラブと自由民主党といろいろ話し合いをいたしましたときに、その問題が新自由クラブ側から提起されました。われわれはこの点につきましてはいろいろ検討してみたいと、そう考えております。
  180. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 国会議員というものは身を清潔にしておると国民は思うております。選挙のときには、あれは泥棒だとかあるいは賄賂を取るというようなことになったら、国民は恐らく投票しないでしょう。みんな正しくてまじめでりっぱな人だと思うから投票したと私は思います。そうした国民の期待に反する行動、それによって国会が不名誉な感じを国民から持たれたという場合に、国会はそういう行為を行った議員に対して抗議を申し込むのは国会自身の名誉棄損に対する防衛行為ではないかと私は考えるわけであります。    〔委員長退席、理事長田裕二君着席〕  ですから、国会がその国会議員に対して反省を求める決議をするということは当然国会の権利ではないかと思いますが、いかがですか。
  181. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 私は、先ほど申し上げましたように、検討課題だと言いますが、ただその場合に辞職勧告というような院内からはじき出すところまで果たしてやっていいか、やっぱり憲法及び国会法において三分の二の多数じゃなければ議会から放逐できないという大原則があり、また、一たん外へ追い出しても選挙民が支持して当選さしてくれば拒むことができない。民意というものが非常にそこで重要視されておるわけであります。そういういろんな面を考えてみますと、これはよく深く検討すべき一つの課題であると思 っておりまして、新自由クラブからのそういう提議もありますから、検討してみたいと考えております。
  182. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 この問題は、実は私は行革の根本に関連すると思いますので、しつこく御質問して申しわけないですが、国会法で、いまのように国会の体面を汚すようなことをした、そういう議員に対して一種の懲罰をするとかあるいは辞職勧告をするとか、そういう行為ができるような法律制度をつくるということに対して、総理大臣は何とお考えになりますか。
  183. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) それは検討してみたいとお答え申し上げているとおりですが、ただ問題は、二分の一で国会の外へ放逐するようなやり方が、いままでの憲法、国会法から見れば懲罰の場合は三分の二要すると書いてあるので、単なる決議というやり方で、三分の二を必要とする懲罰の除名に値するような行為を事実上強制してよろしいかと。そういう問題はやはり憲法や国会法上の保障との関連で検討を加うべき点が、必要な点がさらにそこにあるというふうに申し上げている次第なのであります。
  184. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 大体決議定数さえ考慮すればそういう規定を設けてもいいと、こういうふうに私聞いたのですが、それでいいのかどうか。  もちろん、議員に対して辞職勧告をするというのは、やめさせることじゃありませんので、お前の自由意思でやめろということなんで、その勧告に強い拘束力を持つ勧告であれば、これは三分の二の定数を決めればいいと。それほど強くない、議会が侮辱を受けたから、その侮辱に対しての抗議だという程度の辞職勧告であれば二分の一でもいいではないか、このように考えますが、総理大臣いかがですか。
  185. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 日本の国会におきましては、院議無視というのは大変重いのです。国会決議を無視したではないかとここで何回も私は論難をされてきておる。そういうわけで、国会が決議したものをおれは知らないよと言って横を向いておれるかどうか、そういう問題もございますね。事実上憲法やあるいは国会法の規定が大きな圧力になっているにかかわらず、二分の一というやり方でその効果が政治的に実現できるという形になりがちですよ、実際問題として。なぜなれば、院議無視、院議無視といっていままで野党の皆さんからずいぶんわれわれあらゆる問題で言われてきておるわけです。非核三原則でも武器技術輸出でもこの前の議会からわんわん言われてきているところです。無視していいのですか。そういうような面から見ましても、よほどこれは検討を要するところなのであるということを申し上げておるのです。
  186. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 国会でそういう議員辞職勧告決議案が出ましたときに、出てからそれを三分の二でやめさせるという内容であれば、当然三分の二の賛成で処理するということをすれば足りるのでありまして、初めからそれは憲法の身分保障の規定に反するおそれがあるからということで門前払いをしてしまうということはどうでございましょうか。その点どうですか。
  187. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 三分の二という話はいま初めてお聞きしたわけでありまして、そういうような配慮も一つの検討課題ではないかと思います。ともかくすべてこの問題は新自由クラブとの間でいろいろ話をしておりますから、よく検討してみたいと考えております。
  188. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 政治倫理の問題につきましては、実はいろいろあのこともお聞きしたい、またたくさんございましたけれども、余り時間をとっても申しわけありませんので、このぐらいにしておきます。  次に、公職選挙法という法律がございますが、あの公職選挙法の別表の第一に議員の定数が書いてございます。これはどういう政治思想からこの表ができたとお考えでしょうか。総理大臣にお伺いします。
  189. 山本幸雄

    国務大臣(山本幸雄君) 確かに、いまおっしゃるように公選法ができましたときに別表に定数表があるわけでございますが、そこの末尾に、いまおっしゃるように五年ごとに見直しをするようにという規定がございますが、これは「国勢調査の結果によつて、更正するのを例とする。」こう書いてございます。  まあそういう書き方もございますし、またこれは制定当時のいろいろ立法の趣旨の問答も、質疑応答もあるようでございますが、それはやはり人口異動がありました場合に、その結果によって、必要があればそれを改めることもあろうし、また改めない場合もあるであろうと。しかし国勢調査の結果によって、必要があれば更正することができるというふうに説明をされておりまして、これは義務的な規定ではなくて、やはり訓示的な規定であろう、こういうのが普通の見解だと思います。
  190. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 あの別表の後ろのところに「例とする。」と書いてありますね、国勢調査の結果に基づいて、見直しをするのを「例とする。」と。「例とする。」ということは任意規定だというふうに決めてしまわれておいでなんですか。「例とする。」というのはこういう方法でやれということでしょう。つまり方法を指定しているのですよ、あれは。そうであるなら、それを義務づけておるかどうかという問題は、公職選挙法をつくったときの政治思想によって判断すべきものでございましょう。公平な選挙、選挙民の選挙権を公平に持たせる。これが根本的な考え方でありますならば、その根本に反しないような定数が常に見直されていなければならぬ。これは公職選挙法をつくる部門の義務ではないか。  私は、この公職選挙法は政府提案だ、政府提案法律だと、こう考えておりますので政府に申し上げるのですよ。議員立法なら議員の方に申さなければならぬのですが、政府提案でいままでやっておいでですから申し上げるわけです。そういう義務を常に果たしていなければならぬのに怠慢であった、その原因は一体どこにあるでしょうか。これは政府のどなたか御答弁願います。
  191. 山本幸雄

    国務大臣(山本幸雄君) この定数という問題は選挙制度の根本にかかわる重要な問題でございますし、また各選挙区別の定数というものは、これはなかなかそれぞれの個々の議員さんにとっても重要な問題であるわけでございます。それだけに、これは選挙制度そのもののあり方とも関連をする重要な課題でございます。これは私どもの考え方といたしましては、政党間でひとつ話し合いをしていただいて、やはりその方向は、少なくも大筋は決めていただかなければならないものではなかろうか。やはり政党間のお話し合いによりましてその合意点を見出していただくということが、こういう特に国会議員の選挙法に関連するようなものは、それが一番現実的な方法であり、また民主的な方法だと、こう思うのでございます。
  192. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 最高裁判所の判決で、先般の衆議院の選挙のときの定数、これは違憲状態だ、こう判断されております。違憲状態ということは、憲法違反だと言うと、ほかの制度ができたことが全部崩れてしまうから違憲とは言えない、憲法違反とは言えないのでやむを得ず違憲状態ということで政府の反省を促す判例であるというふうに世間では言うております。この違憲状態だという判例が出ましてから、今度の選挙にはもう間に合わないでしょうけれども、これを直すための作業は政府ではどのようになされておりますか、総理大臣御答弁願います。
  193. 山本幸雄

    国務大臣(山本幸雄君) 今度の最高裁の判決でございますが、違憲状態と考えられるような状態とは思われる、しかしながらそれを是正するに合理的な期間というものはまだたっていなかったと、こういうような判断であります。しかしながら、それに対して速やかに是正を期待する、こういう判決でございますから、まあそういう判決を踏まえまして速やかに定数是正の問題と取り組まなければならぬものであると、こう存じております。
  194. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 選挙法改正の問題は大変いろいろの問題を含むと思いますが、少数党を滅ぼしてしまうような形の選挙法改正ということになりますと、これは日本の政治上重大な問題だと思います。二大政党がうまくできればいいですが、そうでない限り少数政党もないと大変都合が悪いことが起こります。選挙法改正につきましてどういうお考えで今後やっていかれるおつもりですか、御答弁願います。
  195. 山本幸雄

    国務大臣(山本幸雄君) 先ほどからも申し上げまするように、選挙制度の根本に関する問題だけに、これは各党も非常な関心を持っておられるわけでございます。したがいまして、やはり国会の中で各党でいろいろ問題を出し合っていただいてお話し合いをいただく、その合意の上に立って改正を行うというのが一番いい方法であるということを、先ほど申し上げたとおりのことでございます。
  196. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 先ほど来の御答弁、それからまた先般の本会議における総理の御答弁の中でちょっと気になる御答弁がございました。それは、国会議員は憲法、国会法でその身分を保障されておるから、過半数の決議をもって辞職するよう強制力を加えることは憲法違反の疑いがあるような、そういう趣旨の言葉の次に、辞任しても再選されればこれを拒み得ないから、辞任勧告をしても効果がないといったような意味の御発言がございました。この御発言が私は大変遺憾に思うわけでございます。といいますのは、辞職勧告をしてもまた出てくるということは、選挙民がどうせ選挙をして当選させるだろうからそんなことはむだだよと、こういうことを言ったわけですね。本当にむだなのかどうか、選挙をやってみなきゃわからない問題であろうと思います。  具体的な名前を出しては申しわけございませんが、田中議員の再選を必然的なことだ、当然なことだという考え方が基礎にあって出てきたお言葉ではないか。また、選挙民は田中議員を非常に尊敬しておるのでどうせやめさせても当選すると、こういうことでありますならば、これは選挙民の政治倫理観の低さを総理は指摘しておられるとしか思われない。そういう関係から見ますと非常に総理の御答弁は気になるのですが、そのように選挙民の政治倫理の概念を低く評価してしまわれるということについて、総理大臣はどのようにお考えでしょうか、お答え願います。
  197. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) その点はとんでもない誤解でありまして、よく私が御答弁申し上げたことをお読みいただけばわかるのです。まず憲法並びに国会法におきましては議員の身分が非常に保障されておる。たとえば、懲罰で除名する、あるいは資格争訟で排除する、こういう場合には三分の二を要して二分の一ではできない、それぐらい非常に慎重な手続をもってやっておる。そういうことを一面言いまして、それからもう一つは、仮に懲罰で排除して除名で外へ追い出した場合でも、次の選挙で選挙民が推してきた場合には議院はこれを拒否できない、それぐらい今度は選挙民の意思というものが尊重されておる。    〔理事長田裕二君退席、委員長着席〕 それぐらい議員の立場というものは保障はあるのだ、大事な立場なのだ、それを私は強調して言ったのでございまして、今回の田中判決に関係して云々という意味で言ったことは毛頭ございません。  選挙民の意思が非常に重要であるということは前から、行管長官のころから私この席でも申し上げているのでございまして、要するに統治権と言われる主権というものは、国権の最高機関である国会は重要な役目をその中で果たしておる。国会がそれを果たすについてどうしてそれができるかと言えば、選挙という手続を通じて代表者が選ばれて、国会の構成として機能して初めてできる。  そうすると、国会が最高機関としての権威を発動するためには、選挙という基礎的な事実が根底にあって行われておる。選挙とは選挙民が選ぶことである。したがって、選挙民が選ぶという厳粛な事実を第三者が簡単に切断できるものであろうか。しかも、それが国会法上あるいは憲法上要求されている手続以上に簡単な手続で、事実上それを強制するようなインパクトを与えることをやって果たしていいであろうか。その選挙民と代表者との間を切断するという問題を提起して、私はそれを言ってきておるのでございます。
  198. 飯田忠雄

    飯田忠雄君 いろいろ御答弁願いましたが、どうも議論がかみ合わないような点がございます。結局、問題は選挙を経て帰ってきた者を拒むことができないから、だからそれに対して辞職決議をしたって意味がないと、こういうことになると思いますが、それであるなら選挙民を愚弄するにもほどがあるではないか、そういうふうに御質問申し上げたのでございまして、私の総理大臣に対する質問の趣旨をなかなか正当にとっていただけない。残念ですが、時間の都合でもうやめます。
  199. 塩出啓典

    塩出啓典君 政治倫理の問題に関しまして、午前中からも、そしてまた先ほど飯田委員に対する総理また法務大臣の答弁がございましたが、正直言って、私から言うならば非常にふまじめである、そう言わざるを得ない。  秦野法務大臣は、田中擁護の意図はないと。しかし、やっぱり先ほど総理も言われたでしょう、政治家は結果に責任を持てと。自分にそういう意図がなくてもそのようにとられる、厳正な法の番人である法務大臣がどうも田中擁護ではないか、そういうように思わせるようなことを招いたということは、法務大臣として不見識ですよ、謝るべきですよ。  先ほどあなたは、マスコミが人権を無視していることを言いました。そういう面はあることは認めます。しかし、かつて大企業が公害で国民の人権を無視しているときに、マスコミがそれを書き立てて人権を守ってきた、そういう面もあるのです。やっぱり人によって考えが違うと思うんだな。それを法務大臣は一方的にマスコミの批判ばかりをしておる、偏っていると思うんだな。  それからまた、人権を守る法務大臣がまず第一に守るべきことは国民の人権ですよ。名もなき庶民の人権を守るべきが第一じゃありませんか。人権週間で私は人権を守るためにやることはいい。けれども、その例としてこういう時期に田中元総理の人権を守るような発言をすることは、あなたに意図がなくても国民はそうとらえるでしょう。そういう意味で、法務大臣としてもう少し言動に注意してもらいたい。秦野個人として、あなたがもし評論家であるならば、あるいは大臣でない一般の国会議員であるならば私はその発言は一つの意見として聞くわけですけれども、いやしくも法務大臣の立場にあるのですからね。  そういう点では、やはり国民からそういう疑惑を持たれないように、そういうように思わせたのはマスコミが悪いのだと、そういう言いわけはきかないと思うのですね。そういう意味で一言謝ったらどうですか。
  200. 秦野章

    国務大臣(秦野章君) 先ほど申し上げたとおりなんですけれども、人権の問題でたまたま刑事被告人田中角榮がそこにあったということなのです。だれでも人権、人間の尊厳というものを損なってはいかぬということは、刑務所に入っている人間でもそうですよ、入っている者だろうが被告人だろうが。ただ、政治家には名誉棄損罪の成立の構成要件がちょっと違っているように特異な扱いはあります。それからまた、芸能界なんかでも多少プライバシーを売り物にするような部分もあるせいか、かなりプライバシー、人格の問題があるような感じはいたします。  しかし、そのことはともかくとして、人権の問題というのは、私はもう普遍的な原則だと思うのですよ。今度の、ことしの三十五周年になる国連の人権宣言も、人類普遍の原則として憲法が確認しているわけですよ。何もだれだからかれだからということ関係ないですよ。私はそういう意味において申し上げたので、格別田中擁護というような観点では全然ない。論理として私は当然のことだ、こう考えております。
  201. 塩出啓典

    塩出啓典君 これはここでやめますけれども、それは私は、秦野さんが何も田中擁護で言ったとは思いませんよ。ただ、そのようにとられるということはやっぱり不謹慎ではないか、不用意ではないか。それは、田中角榮元総理の人権も守らなけりゃならない、これは認めますよ、私は守らぬでええと言ってるのじゃないのだから。けれども、やっぱりまず第一に国民、名もなき庶民の人権を守るのが第一なんですから、だから、何となく人権週間だからといって、結果的に田中元総理擁護にとられるような発言をしたということは、私は、法務大臣として、その結果に責任をとり謙虚に反省をしてもらいたい、こういうことを要望しておきます。もう答弁は結構でございます。  最後に、中曽根総理に御要望しておきますが、総理は六項目の政治倫理確立のための提案をされました。先般の参議院の本会議でも申されました。私たちも、田中元総理一人を裁いて問題が解決するものではないことは認めます。そういう意味で、この六項目の実施に当たりましても、これはたとえば選挙区の定数是正の問題等はなかなか、それぞれ総論賛成、各論反対でまとまらない。ぜひひとつ、自民党の、最大与党の総裁としてリーダーシップを発揮して、こういうものが一歩前進するように本当に努力をしてもらいたい。そういう場合には、余り多数党がごり押しではなしに、どちらかといえば少数党の意見も尊重していく、こういう姿勢でひとつやってもらいたい。  それで、特に衆議院の定数是正につきましては、先般判決もあったわけでございますが、近い将来の総選挙には間に合わないにしても、その次ぐらいまでにはちゃんと是正をすべきである。御決意を承っておきます。
  202. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 政治倫理の問題につきましては、個人の問題もさることながら、集団倫理が大事である、そう申し上げまして、私、総裁といたしまして、自民党の幹部の皆さんに私が考えた六項目を申し上げ、その中に、政治倫理協議会、あるいは定数の是正の問題、あるいは選挙法の問題、あるいは政党法の問題、あるいは財産証明、資産証明の問題、そういうようなことを提議し、先般また新自由クラブとは大体似たような話し合いができまして、われわれは誠実にそれを推進したいと約束をしておるわけでございます。ただいま塩出さんからもせっかくのお話があり、私も同感でございますので、まじめに努力してまいりたいと思います。
  203. 塩出啓典

    塩出啓典君 次に、景気対策についてお尋ねをいたします。  財政再建のために必要な前提条件は、わが国経済が着実な安定した成長を示すことが必要ではないかと思います。五十八年度は実質三・四%、名目五・六%の、そういう目標でございますが、わが国の景気の現状につきまして企画庁長官どのように認識されておりますか、お伺いいたします。
  204. 塩崎潤

    国務大臣(塩崎潤君) 景気の現状についてお尋ねがございましたので、お答え申し上げます。  景気は、三年間の長雨のような不況から、いま底を離れまして、御指摘のように輸出から回復し始まったところでございます。これが生産の増加に影響を及ぼし、久しぶりで生産がずうっと増加の状況でございますし、輸入も持ち直しつつあるような状況でございます。しかしながら、一般的に内需は盛り上がりを欠く。特に個人消費支出、さらにまた住宅、民間設備投資について低迷を重ねているものがあるかと思うのでございますが、私は、今後、輸出の増大、そしてまたこれの国内への波及、さらにまた、アメリカの景気の順調なる回復、これに支えられまして、だんだんと明るさは増してくるものと、こんなふうに見ているところでございます。
  205. 塩出啓典

    塩出啓典君 企画庁長官お話がありましたように、アメリカの景気が非常に好景気で、そのために輸出が伸びておる、本年八月のデータでも対前年度一〇・七%の伸びでございます。しかし、一方ではこの四月—八月の経常収支は百六億ドルの黒字でございまして、政府の今年度の目標九十億ドルを半年ではるかに超えておるわけでございます。そういう意味で非常に現在の景気というものは外需依存の状況である、このような状態ではやはり経済摩擦の心配もございますし、余り喜べないのじゃないか、この点はどうですか。
  206. 塩崎潤

    国務大臣(塩崎潤君) お答え申し上げます。  御指摘の経常収支の大幅黒字につきましては、確かに心配な要素はございまするけれども、これは予想外の要素がたくさんございます。一つは御案内のように、ことしの二月OPECの決定によりまして油が五ドル下がりましたこと、さらにまたアメリカの景気の回復が相当順調で輸出が急速に進みましたこと、それにまた第三には、国内の回復が比較的遅くなったがために内需が盛り上がりを欠いてきた。そのために原燃料の輸入等が思いのほか伸びなかった、このような三つによって支えられたわけでございますが、経常収支の黒字、これが余り大幅になりますことは決して好ましいことではございませんので、先般十月二十一日に立てました総合経済対策のような方向で、特に内需の拡大で私どもは輸出入ができる限り均衡するような努力をこれから続けていきたいと、こんなふうに考えておるところでございます。
  207. 塩出啓典

    塩出啓典君 いろいろデータを見ましても、消費支出あるいは大型小売店の販売額あるいは住宅投資、いずれを見ても昨年に比して伸び率は低い状況でございます。一方、倒産件数は非常にふえまして、失業率も非常に悪化をしておるわけでございますが、そういう中で十月二十一日に政府は総合経済対策を発表したわけでございます。これは内需拡大を目指しての総合経済対策でございますが、その実施状況、その効果はどういう状況であるのか、これをお尋ねいたします。
  208. 塩崎潤

    国務大臣(塩崎潤君) お答え申し上げます。  十月二十一日に立てました総合経済対策は、ことしになりまして三度目のものでございます。一月十三日には対外経済対策、四月五日には内需拡大の経済対策、これに続いての三度目のものでございますが、これらの対策を総合的に有機的に活用いたしまして、景気の回復、さらにまた経常収支の黒字幅の縮小、このような方向をねらったものでございます。  十月二十一日の経済対策は、相当広範なものでございまして、個々の項目を拾い上げますと五十項目ぐらいございますので、ここで一々述べますと時間の大部分をとりますので、大きな六つの柱について、若干実施状況について申し上げたいと思います。  まず第一は、内需拡大でございますが、これにつきましては所得税の減税が第一でございまして、現在五十八年度分の所得税、住民税について国会で御審議いただいているところでございます。そして、一兆八千八百億円の公共投資の追加につきましては、政府において準備中でございます。そして、三番目の大きな柱でございますところの金利の引き下げでございますが、公定歩合につきましては十月の二十二日、翌日に〇・五%を引き下げたところでございます。  第二の柱でございます市場開放につきましては、法律的な事項でございますので、関税の引き下げについて各省において着々準備中でございます。  第三の輸入の促進につきましては、種々、「たとえば輸入手形の割引制度を日本銀行において行うようなことを決定したところでございます。  第四の資本の流入策につきましても、政府におきまして、たとえば政府機関が外債の発行を行う準備をしたり、あるいはまた今後国債についても外国で発行できるような法的な準備をする、このような準備を進めているところでございます。  そして、円の国際化につきましては、為替予約の先物取引について実需原則を見直す、こんなようなことを行っているところでございます。第六番目の柱といたしまして、国際協力につきましては、IMFの第八次増資を決定する、このようなことを大筋でございますが着々実施いたしておりまして、この効果を期待しているところでございます。
  209. 塩出啓典

    塩出啓典君 いま企画庁長官からお話ありましたように、政府の総合景気対策のトップは、景気浮揚に役立つ相当規模の大型減税という、与野党の約束に従いまして第一項目にあるわけでございますが、今回はごらんのように十分の一、所得税千五百億、住民税六百億円でございます。  これは大蔵大臣、年末調整で返還される減税額は平均幾らになるのか。夫婦子供二人で年収三百万円で四千八百円、五百万で六千八百円、このように聞いておるわけですが、大体そういうことですね、大蔵大臣。大体一緒でしょう。  まあこれはランチ減税、午前中もお話ありましたように、家族でランチを食べたら終わりだという意味でありますが、これが政府の総合経済対策の第一でございます。これは明らかに公約違反と言わざるを得ない。  で、来年は約一兆円、地方税三千億、所得税七千億円の減税をやるということでございますが、これはそのようにお考えでございますか、大蔵大臣。
  210. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 正確に決まるということになりますと政府税調の審議を受けた後ということになりますが、このたびの所得税減税につきましてそういう方向で、それが今日今年度分になっておりますので、おおむねそのように理解していただいて結構であると思っております。
  211. 塩出啓典

    塩出啓典君 それから、総合経済対策には公共事業の下期追加として事業ベース一兆八千億、これを発表いたしております。内容は災害復旧、住宅金融公庫、日本道路公団、あるいは地方単独事業、あるいは国庫債務負担行為、こういうことを発表しておるわけでございますが、これはやはり補正予算を伴うものがあるわけでございますが、これは補正予算いつ出すのでございますか。
  212. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 総合経済対策の趣旨を踏まえた御質問でございます。  で、まず総合経済対策は行財政改革との整合性、すなわち赤字国債は出さないとかいうようなことの考え方が一つと、それから二番目は内需拡大の経済成長、いま指摘になりました減税、公共事業、金融の弾力的運用含めたものであります。三番目がいわゆる対外経済関係の形成に率先努力すると。それを総合して、厳しい財政事情のもとで最大限の施策を行おうとしたところでありますが、減税問題につきましてはいろいろ御議論がございました。  確かに景気浮揚に役立つ相当規模の減税ということは国会でいろいろ議論をされましたが、私は各党合意の背景というものを踏まえながらも、乏しい財源の中で精いっぱいやったというふうに御理解をいただきたいというふうは念じております。そうして、それが年末調整に間に合うようにということになりますと、本国会、本院においていま審議中でございますので、それが一日も早く議了していただきますと間に合うわけでございますし、そうしてまた各党間、また議長さんを含めて、準備行為としての説明会等は三百万社に対してやってよろしいという内々の御同意もいただきましたので、それを進めておりますから、私は、将来にわたっての期待感をも含めて、これは国民の方に景気浮揚に役立つという認識をお持ちいただけるものと思っております。  それから、次の問題が補正予算でございます。  いま一兆八千八百億の中身につきまして塩出委員正確にお述べになりました。そのとおりでございます。その中に、言ってみれば財投等によりまして弾力条項の発動によって行われるものもございます。あるいは災害でございますとかあるいは債務負担行為の問題等は、これはまさに補正予算そのものを必要とするわけであります。  そこで、補正予算ということになりますと、この追加財政需要について不確定な要素がまだ確かにございます。したがって、財源手当てのめども現在直ちにはつけがたいということになろうかと思うのであります。ただ御案内のように、平素は、五十七年度の補正の場合を除きましては追加財政需要がかなり煮詰まった後、すなわち補正予算を翌年度の本予算と同時に提出しておるというのが最近の通例でございます。五十七年度は、十二月に本院で御審議いただきましたのは、言ってみれば歳入欠陥が相当な規模に上りましたので、いわば歳出そのものに不便を来すおそれがあるという状態にもなりましたので、蔵券の発行限度額を含めて総則の中でお認めいただかなければならない問題もございましたので、そのときに提出したわけであります。  したがって、われわれが一兆八千八百億という公共事業等々につきまして、その中身でいわゆる補正を要するものにつきましても、現状それが執行面において予期しておる景気浮揚の足を引っ張るようなことにはならないように十分配慮をしてまいりたいと、このように考えております。
  213. 塩出啓典

    塩出啓典君 アメリカが非常にいま好景気である、この景気がいつまで続くかということはいろいろ議論はあるところでありましょうが、しかし、アメリカもレーガン政権が十兆円の減税をやった、そういうようなことが今日のアメリカの成長の一つの因をなしておると聞いておるわけであります。また、前々から経済というものは、景気対策はやっぱり機動性を持たなくちゃいかぬと、このような点から、どうなんですか、補正予算にしてもぱっと今回の臨時国会に出すとか、また減税も二つに分けてやるのじゃなしに、今度の年末にぱっと一緒にやるとか、そういうように、もうちょっと心理的にも、ああ政府は景気対策をやっているなという、こういうようなことにはならなかったのか。そういう点、余りにも慎重過ぎて効果がやはり出ないのじゃないか。その点、総理としてはどうお考えですか。
  214. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) いささか技術的な問題と、それから塩出委員おっしゃいます心理的な問題の事柄、見方の側面の違いもあろうかと思いますが、いま委員御指摘のような心理効果というものは私も政治家として理解できます。が、現実問題として、されば税制の問題について申しますと、税制というものは今年度の場合、いわゆる歳入面は見積もりでございますから、直ちに補正を必要としないという理屈が一つ存在するわけであります。それからもう一つは給与法、これもいま御審議いただいておりまして、通していただけますとこれも年末に間に合うわけでございますけれども、これも給与費全体の中で当面は賄える、こういうことになるわけであります。  それから、いま税制をもっと二年分一緒にどんとやらないかと、こういうことでございますが、したがってその方向は示唆されたわけでございますけれども、現実問題としてその年度の税収というものはいわゆる五十九年度税制のあり方についてという答申をいただいて、そして取りかかるわけでございますから、具体的には、従来の手法からしても、一挙に将来を展望したものをどすんと提出して心理効果をねらうというのは現実的にはできないことでございますけれども、ただ、いわばことしこそ、所得税で申しますならば千五百億であるけれども、将来にわたっての規模というものをそれなりに明示したところに、期待感というものにいささかでもいま政治的な御発言と同じような心理状態を与えるではなかろうか、こういうことを期待しておるわけであります。
  215. 塩出啓典

    塩出啓典君 それで、今度の経済対策の中に、「公共的事業分野への民間活力の導入の促進等」ということを挙げております。私は、まだまだわが国は社会資本あるいは地方の公共サービス、そういう点に非常におくれている面があると思うのですね。たとえば交通ラッシュの問題、あるいは医療の問題では三分間医療、一方では無医村、無医地区、あるいはまたいろいろな公害、こういうような諸問題を解決していかなければならない。そういうときに、限られた予算をもっともっと効率的に使う、こういう点で公共的事業分野への民間活力を導入するということには私は非常に賛成でございます。しかし、いろいろ項目を挙げておりますが、まあ余りかわりばえがしない。こういう点もっと検討してもらいたい。このことを強く要望しておきます。  そうして、実はわが公明党は、先般、新社会システム開発法という法律国会提出をしたわけでございますが、これは総理もぜひ関心を持っていただきたいと思うのでございますが、近年、地方公共団体等におきまして、そういう公共サービスをよくするためにどんどん先端技術を導入していこう、いろいろな新しいシステムを考えよう、こういう動きが活発でございます。第一次、第二次油ショック以来、メカトロニクスとかあるいはNC工作機械、そういうものをどんどん使ってですね。そういうわけで、いま地方自治協会の調べによりますと、全国ではすでに導入しているのが県や市町村で五百三十七、検討中が百二十九、合計六百六十六件のそういう新社会システムが導入されております。  たとえば資源エネルギー系システムという、これは札幌等では地下鉄の廃熱、これを利用して駅舎の暖房に使うとか、あるいは道路のヒーティングですね、そうすれば雪が解けますから。こういうようなシステム、あるいは発電所の余熱を利用して雪を解かすという、こういうのも一つのシステムじゃないかと思うのですね。まあ私の住んでいる広島では、ごみ処理システム、ごみを分別収集して、そうして使えるごみ、資源ごみは使う、燃やせるものは燃やす、たんぼに使えるやつはたんぼに使うと、こういうようにすれば非常に焼却炉も少なくて済むという、まあそういうような資源エネルギー系システム。  あるいは情報通信系システム。先般島根県の三隅町で水害がありましたが、あるいはこの間の三宅島等の災害もそういう住民への速やかな伝達、そういうものが人命を救っておるわけであります。また救急医療システムのように、電話で救急病院を指定する、あるいは僻地においては電話線で診察をするという、これも一つのシステムじゃないかと思うのであります。あるいはいろいろな交通物流系システム。こういうようないろんなシステムが新しい先端技術を導入して各自治体においても非常に努力をされておるわけでございます。  しかし、そういうものを自治体でやっていくには、一つはやはり財源の問題、ある程度余裕があればその研究開発費を負担できる。あるいはまた、必ずしもそういう人材がいない、あるいはそういう情報がない、こういうような問題点があるわけでございますが、そういう中で、いま申しましたように、全国の市町村、都道府県において六百六十六のシステムが導入されたり研究されておるわけでありますが、そういうものをもっと国が試験的に行う分については協力をする、そしていいやつはまた全体に情報を流す、そして広く公募をするというか、いまは政府よりも民間企業の方が技術はすぐれておるわけですから、やっぱり政府が考えるよりも民間の意見をどんどん使った方がいいものもできるわけでありまして、こういうような公共サービスを向上させるという案をこの前提案をしたわけでございますが、これはまだまだ十分な案ではございませんが、いろんな意見を取り入れて、限られた財源の中でいかに公共サービスを効率的に向上さしていくか、そういう案でございますので、ぜひ総理もひとつ御理解をいただいて御協力を願いたい。  で、これはどうでしょうか、自治大臣、科学技術庁長官、前もって検討をお願いしておったわけでありますが、特に御意見はどうでしょうか。
  216. 安田隆明

    国務大臣安田明君) 塩出さんいまお話ございましたが、お話のとおりに、今日の社会経済、その機能を果たすために多様化したそのニーズにこたえるためには、どうしてもやはり科学技術の介入、同時にまたその作動というものを大幅にこれに活用するということは、これはきわめて大事ですし、有意義なことである、こういう前提に立って拝聴いたしておりました。  そして、あの法案の内容もつぶさにわれわれは精査もいたしてみました。そしてこれに対応する今日の体制は一体どうか。こうなりまするというと、これまた御存じのとおり新技術開発事業団、こういう機構をつくりまして、そして産、学、官一体の中においてひとつこれに対応していこう、こういうことでこれまたおかげさまで見るべき成果をおさめていることも、これは御理解いただけるだろう、こういうふうに思っておるわけであります。  そこにいま地方自治団体が云々と、こういう御意見が強く前出しに出ているわけであります。これにつきましても、地方自治団体の方でこういう意欲が、こういう動きが具体的に出てくる、こういうことになれば、われわれいま御提示いただきましたこの御意見、この内容、これをひとつ十分私たちはいただきまして検討させてほしい、こういうことで時間をかしていただきたいという、そういう考え方でございます。  以上であります。
  217. 山本幸雄

    国務大臣(山本幸雄君) 新しい技術の開発によるところの行政サービスの効率化といいますか、向上といいますか、そういうことは地方公共団体もいろいろ関心を持ってやってきたわけでございます。先ほどのお話のように、やっているものあるいは計画中のものが六百を数えるというわけでございます。これは医療あるいは交通、消防にもあるようでございますが、そういうところなどで新しい技術を活用した行政サービスの向上を図っておるということでございます。  いまお話しのように、新社会システム法案というものを公明党が参議院の科学技術特別委員会にお出しになりまして、いま付託になっておると聞いております。これもひとつ私どもにも今後とも地方行政の上で参考にさしていただこうといま思っておるところでございます。
  218. 塩出啓典

    塩出啓典君 時間がございませんので、また各省の御意見も聞いて、よりいい内容にしてぜひ前進をしたいと思っております。  それから、ここで、きょうもある新聞を見ておりましたら、国民の一番関心は物価であるということでございました。私たちもあちこちでいまのような大量国債、さらに将来は特例公債の借換債等も懸念されるし、そういう点から民間資金を圧迫し、民間資金調達が非常に阻害されてクラウディングアウト等が起こるんじゃないか、そういうときにマネーサプライが増加すればインフレが起こるんじゃないか、あるいは日銀引き受けになっちゃうとインフレになるのではないか、そういうような心配が非常にあるわけでございますが、私は、通貨の安定ということは政府の第一目標として掲げていかなければならない、そのように思うわけでございますが、その点、企画庁長官の御見解を承りたいと思います。
  219. 塩崎潤

    国務大臣(塩崎潤君) 物価と国際収支というものは、私どもの経済政策の二つの大きな天井と申しますか、留意すべき基本的なよりどころだと思っております。  御指摘のように、民間資金需要が起こってきて、いゆわるクラウディングアウトというような現象が出て、金利とともに物価が上がっていくというようなことは避けなければならないと思います。私どもはやはり供給力を無視して需要を創出するようなことは避けなければならないと思いますし、そのような観点から国債の増発については十分注意をし、通貨の安定を図って、同時にまたそれによって円レートの維持、安定を図らなければならないと思うところでございます。  しかしながら、現状におきましては、貯蓄がむしろ過剰ぎみと言われておることは、また御承知のとおりでございます。三十兆円ばかりの個人貯蓄のうち政府が十兆円、民間企業が十四兆円を利用いたしまして、六兆円から七兆円の大きな金額が外国に流出するような状況のもとでは、現在の国債の発行程度では物価に影響するまでには至っていない。それが証拠に、昨今の毎月の消費者物価の指数は一%台、こんなような状況でございます。  しかし、このような状況から見て、私どもは安心をして国債の増発によることは、やはり将来の資金需要の関係、さらにまた供給力その他を考えまして、警戒していかなければならないと考えておるところでございます。
  220. 塩出啓典

    塩出啓典君 それからもう一つは、雇用問題でございますが、これは労働大臣にお尋ねしますが、今年一月から完全失業率がかなり高い水準を保っております。その上、かなり企業内にいわゆる余剰労働力がございます。私たちも地元でいろいろな会社を訪問いたしますと、そういうような余剰労働力を抱えて、本来ならば首にすれば失業者になるわけでございますが、そういうのを抱えております。そういう点から実際の失業率はかなり高いのではないか。特に中高年齢者の雇用問題は非常に深刻であります。  それともう一つは、いわゆるロボットあるいはマイクロエレクトロニクス化、こういうようなことで、日本はいままで世界でもロボットと人間が共存できる唯一の国と言われておったそうでございますが、最近はだんだんそうではなくなってきた。こういうロボット化、ME化、あるいはOA化、そういうような点でかなり昨年あたりから高校卒、中学卒の求人状況にも大きな影響が出ておる。そういう点から私たちも雇用問題というものを本当に真剣に考えていかなければいけないと思うわけでありますが、労働省としてはどういう御見解を持っておるのかお承りいたします。
  221. 大野明

    国務大臣(大野明君) まず最初に失業問題でございますが、本年九月は二・八一%と非常に高い水準にございます。ことしに入りましてから、一—三月期では二・六八、あるいはまた四—六月は二・六五、七—九月が二・七一%というように非常に高い水準であることは事実でございます。それと同時に、いま雇用における過剰感というものについてのお尋ねですが、これは五月ごろには二八%ぐらいだったのが、八月には二一%に下がっておるということでございます。  いずれにしても、このような高い水準にあるということは、一つには景気の停滞が大変長かった、予想以上に長かったということが一点。それと同時に、高齢者の方々が労働力人口として非常に多いということ。それと同時に、パート等を中心とした家庭の主婦層の、女性の社会、職場への進出が非常にきわめて高い。こういうようなものが相まって非常に失業率が高くなっておるという現況でございます。そこで私どもは、それらを十二分に勘案しつつ、今日いろいろな対策は練っておるところでございます。  そこで、私どもといたしましては、その現況を打破するためには、いずれにしても雇調金の機動的な活用で、失業の予防であるとかあるいはまた離職者の方々の再就職の促進とか、あるいはまた御承知だろうと思いますが、先生の地元にもあると思いますけれども、不況地域、そしてまた不況産業等の法律もつくったところでございますので、これらを活用して、少しでも、一日でも早く失業者の方々が少なくなるように鋭意努力をいたしております。  それと同時に、やはり新技術、MEを中心としたお話もございましたが、これによる失業者もふえるのではないかという御心配だろうと思います。これにつきましては、今日までは、産業用のロボットあるいはOA等の導入によって、それに直接の解雇というようなことはございません。それはなぜかと申しますと、何というか、まあ大企業が中心であったということ、それとまた同時に、危険作業あるいは有害作業等、こういうようなものに導入されておった、あるいはまた労働力不足の部分に導入されてきたということでございます。  そのようなことで、今日までは企業内における配転等によってこれを吸収してまいりましたが、しかし、配転等によって労働者の適正、適格の問題等も生じておりますし、また、そのような導入部分における新規採用というようなものの抑制もございますし、これらも大変な問題を生じるといけないということで、今日雇用職業総合研究所で鋭意調査もいたし、研究もいたしております。それらを踏まえて、今後とも新技術の導入によるところの雇用の摩擦を生じないように、労使間でお話しをいただくように努めておりますと同時に、政、労、使の三者構成によるところの雇用問題政策会議でもっていま鋭意検討していただいて、新しい時代の雇用に関する新しいルールづくりをお願いいたしておるところでございます。  また、来年の学卒者の問題でございますが、これは中学、高校ともに二五%ぐらい昨年より低いということでございますが、これも全国の職業安定機関を通じて鋭意努力をいたし、そして、まあ昨年もそうだったのでございますけれども、いまごろはまだまだ高い水準にありましたが、大体九九%ぐらいまでにおさめた実績もございますので、ことしはそれ以上真剣に対処していく所存でございます。
  222. 塩出啓典

    塩出啓典君 ぜひひとつよろしくお願いをいたします。特に、昨年の六月に私たち公明党で「産業用ロボット導入と労働問題に関する基本的見解」というものをつくりまして、特に、第一には人間主体の原則、やはり人間を中心でないといかぬ。第二には事前協議の原則、いわゆる事前影響調査とか、あるいは下請に対しては事前通告をする、ある日突然下請に出していた仕事がロボット化して出なくなったと、こういうことでは困る。あるいはまた社会的公正の原則。こういうようなこともいろいろ提案をいたしまして、労働大臣の方にも行っていると思うのでありますが、ぜひ、不十分なものかもしれませんが、そういう点もひとつ参考にしていただいて、このME化あるいはまたOA化の時代に備えて、ひとつ急激なショックの来ないように、ぜひ対策を立てていただきたい。このことを要望をしておきます。  次に、大蔵大臣にお尋ねをいたしますが、わが国は今日まで財政再建の目安として、赤字国債脱却の時期を一つの目標としてきたわけでありますが、これが五十一年の財政収支試算では、五十年代の前半というのですからまあ五十五年。昭和五十三年の財政収支試算では五十七年、二年延びました。さらに五十四年の八十八国会の所信表明で五十九年。そうして今回の、先般の「一九八〇年代経済社会の展望と指針」ではこれが六十五年、こういうように政府の赤字国債脱却の時期というものは五十五年から五十七年、五十九年、さらに六十五年と、こういうようにどんどん、どんどん先に延ばされていっておるわけでありますが、こういうような原因はどこにあるとお考えでございますか。
  223. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 私は、今日の、いまお尋ねの、原因はどこにあるかと、こういうことから考えてみますと、結局、一九四五年に第二次世界大戦が終わりまして、四〇年代後半、これは日本に経済活動らしきものがあったかといえば、まさに新しい政治経済社会体制に順応するためのもろもろの礎石を築く時代であって、せいぜい復興金融公庫ができたというようなことであったかなと。それから、やっぱり五〇年代は朝鮮動乱が一つの発火点になりまして日本の工業が再び復活し、あるいは神武景気とか岩戸景気とか、そういう時代をくぐった時代であって、そして一九六〇年代になって、いわゆる二ドル三十五セントから一ドル七十五セントの間の二ドル原油というものに支えられて高度経済成長政策が打ち立てられてきた。  そこで、一つのそれが大きく今日の財政に変化をもたらす要因は、一九七一年のいわばドルショックであったではないかと思います。そのときに、率直に申しまして、私自身を振り返ってみても、内閣官房長官でありましたが、円高とか円安とかということに直ちに対応する能力をみずから持っておったかというと、持っていなかったという感じがしております。また、世間様でもよく質問がございまして、円高になる円高になると言うが、いつになったら千円になるかと、まああべこべな御議論もあったような時代もございました。そのときに、やっぱり建設国債の発行というのが内需喚起のために、そして競争力を取り戻すための大きな役割りを果たしたのじゃないか。  そして、その後が四十八年の暮れからのいわゆる第一次石油ショックではないかと思うのでございます。それに対応するときに、まさに四十八年、福祉元年という予算を、政府としてこれを国会に提示して、その負担を落とさないで、そして国民に新たなる負担をかけないでこれを遂行していくというところに、大きく赤字国債への踏み込みがあったのじゃないか。それは私は、そうした公債政策が、世界の中ではどの国よりも先に、いわばその危機を脱却したということにおいては効果があったと思います。しかしそれが限界に達し、そして、そのときにいわゆる世界はこれを克服するのに手間取ったということと、もう一つは、同時不況と言われる状態が一緒に来た。したがって、私は、今日のようないわば公債政策ももとより限界に到達した事態になったではないかというふうに私は考えておるわけであります。  したがいまして、これからどうしていくかということ、まさに国民的課題として財政改革は避けて通れない課題であるという考え方に立ちまして、そのよって来る原因は、言い方によれば、いわばわが方の施策の選択肢の誤りという以上に国際的に避けて通れない同時不況等があったかもしらぬ。しかし、その中で過去を振り返りながら財政改革に取り組んでいかなきゃならぬのがこれからの課題ではないかというふうに考えております。
  224. 塩出啓典

    塩出啓典君 今日の泥沼化した財政の発端はやはり安易な国債依存政策にあったのではないか、高度成長から低成長へというこういう時代の変化というものを予見できなかった。これは与党だけではなしは全体の責任でもあるかもしれませんけれども、そういう意味である程度の高目の成長率を想定して、そうして不況感から脱出できないから景気刺激の財政支出をやる、こういうことで、やはりもうちょっと早くから低成長時代を予測し、そうして赤字国債をもっと早くから抑えて、ここで経費節減か増税かというこういう論議も煮詰めておくべきではなかったのではないか。そういう点の反省はどうなんですか、あるかどうか。
  225. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) まず申し上げることは、そのいま御指摘になったような反省はあってしかるべきだと私も思っております。  ただ一方、一般会計の歳入総額に占めます国税収入の割合が、昭和四十年代、これは八〇%から九〇%で推移してまいりました。そこで、五十年代に入ってから急激に六〇%台に落ち込みまして、五十八年度予算においても六四%、その一方で当然のこととして公債金の割合は急上昇いたして二六・五%を占めるに至った、こういう事実でございますので、やはり私どもとしては、それはあの時代にいま一歩早く、確かに他の先進国よりも人によっては二年早かったと言う人もございますけれども、それですべてわれわれがよかったよかったというものではありません。もっといわゆる低成長というものが、これがあたりまえだというある種の意識転換に対する呼びかけの勇気も、われわれもいささかへっぴり腰と申しますか、もっと積極的にそうした呼びかけもすべきではなかったかというふうに思うわけでございます。  したがいまして、いま御指摘になりましたように、六十五年度までに特例公債に依存する財政体質から脱却することを目標として特例公債発行額の減額に最大限の努力を払うこと、強く税制調査会においてもこのことが指摘されておるわけでございます。したがって、また歳入の大宗を占めます税収の伸び率が低下しておりますが、今度の税制全体、中期答申を見ますと、税制全体を産業・就業構造の変化、所得の平準化、人口構造の老齢化、消費の多様化・サービス化等の社会経済情勢変化に対応して見直すことは、税制をより公平に、そしてまた経済に対して中立的にするという観点からそれ自体として必要であるのみならず、適切な税収を確保するための不可欠の条件となっておる。これもまた中期答申で述べられておるところでございますので、歳入構造全体につきましても、社会経済情勢変化に応じながら絶えず見直していくという姿勢でもって、いまの御指摘のようなことを念頭に置きながら対応していかなければならぬと、このように考えております。
  226. 塩出啓典

    塩出啓典君 先般税制調査会の中期答申が出ましたが、前回の中期答申では大体国民の負担が三ポイントぐらい上がるであろうという数字的なのがありましたが、今回のは載っておりません。さらには「一九八〇年代経済社会の展望と指針」でも、これはいままで問題になっておりますように、いわゆる社会保障も含めて負担率がどうなるのかということがはっきりしていないわけであります、これはいままでいろいろなところで論議になったようでありますが。  一方、臨調の瀬島さんは衆議院委員会で、租税負担率は当分上げない、しかし社会保障負担も合わせて四〇から四五%が上限と述べておる。臨調は、ヨーロッパ諸国の水準、これが大体五〇%あるいはもっと上のようでありますが、それよりはかなり低い水準にとどめるのが望ましい、これを受けて瀬島発言はそういうことを言っておるわけでありますが、政府としてははっきり現状を国民にも話して、そうしてこういう方向でいくということをはっきりすべきではないのじゃないでしょうかね。  現在でも、先ほどもお話がありましたように、租税負担率というものは五十年の一一・八から五十八年の一五・一と、三・三ポイント高くなって現実的にはいわゆる増税になっておるわけであります。増税なきと口では言いながら、実質的には増税されておる。そういう意味で、租税負担率あるいは社会保障負担率が昭和六十五年度においてはどこを目標にしていくのか、これをやっぱりはっきり明記すべきだと思うのですが、いつこれは発表されますか、来年発表するように聞いておるわけですが。
  227. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) かねての御議論のあるポイントでございます。  租税負担率という問題につきましては、何度かお答えしたこともございますけれども、いわば結果としてあらわれてくるものであって、私も昭和四十年からの国民所得と租税負担率の問題をずうっと調べてみますと、見通しと実績からいたしますと、高いときには三・九%ぐらいな乖離があることもございます、そして低いときは〇・五、六というようなときもあるわけでありますが。したがって、これを定量的に定めるというのは論理的にはなかなかむずかしい問題だなというふうに思っております。  そこで、さようしからば国民負担という負担率の問題というのが議論になってくるわけであります。公明党の政審会長からも、この議論、たびたび私どもに公の場であるいは私的な場においても勉強するように言われております。これをどうするかということになりますと、結局は臨調答申にございますように、長期的には、全体としての国民負担率は現状よりは上昇することとならざるを得ないが、現在のヨーロッパ諸国の水準よりかなり低位にとどめることが必要であるということが言われております。御指摘のとおりです。それから「展望と指針」においても、望ましい方向としてそういう言葉を使って方向が示されておるわけであります。  そこで、瀬島さんが参考人として国会でお述べになった数値というものは、私もその後接触をいたしてみましたが、いわば臨調の内部において議論された過程で出た議論の披露をしたということで、自分自身の固定的な考え方を示したものではないとおっしゃっておりました。で、具体的な数値をあらかじめ固定的に設定するということは流動的な状態の中では困難な問題でありますが、そのように御理解をいただきたいと思います。  そこで、今度はいわゆる租税負担率というようなものが、言ってみれば財政再建、財政改革の問題でどのようにして示されていくかということになりますと、いま財政制度審議会で議論していただいております。が、私どもとして少なくとも国会に対して責任を負っておるものは何かということになりますと、年々御主張に基づいて出しております中期展望、試算等々によっていろいろ示しておりますが、どのような形でいまおっしゃっているような趣旨が生かされ、そしてそれが国民の理解を求めるためにも大きな資料とも可能な限りなりたいものを出すかということについては、部内でも鋭意検討しておりますが、予算提出後に御議論をいただく手がかりになるものは、これは当然のこととして今後協議しなきゃなりませんが、提出申し上げなきゃならぬというふうに考えております。
  228. 塩出啓典

    塩出啓典君 非常に税収の伸びも厳しい状況の中で、増税なき財政再建というものは非常にむずかしい問題であると思います。しかし、何らかの方法で歳入の確保を図らなければならないわけでありますが、特に税の不公平感が非常に強い。  きょうも、ある新聞の世論調査の結果でも、税の不公平感を感じている人が非常に多いわけであります。これはそれぞれ自分は税金をよけい払っていると思っているわけで、必ずしも客観的にそうでない場合があるかもしれませんけれども、特に税務調査の充実ということも私は必要じゃないかと思います。五十七年度において大法人の二二・六%に当たる四万四千社を調査したところ、そのうち九五%で法人申告漏れ、所得隠しがあり、その所得総額は三千三百億円に上っておると、このように新聞で報道されております。しかも最近は、海外取引の大口不正、こういうものが三十社、不正所得額は四十三億九千六百万円で、前年の二・九倍であると、特に海外取引に絡んだ脱税がふえておる、こういうことが新聞に報道されておるわけでございます。私は、こういうようなことを放置していては本当にまじめな納税者が納税意欲を失うと思うのですけれども、こういう点について今後大蔵大臣としてはどう対処していくのか。  それで、最近いわゆる税務署の現地調査というものはだんだん減ってきておるわけであります。現地を調査するということは、やっぱり税務署と納税者との関係を深くし、また正しい納税のあり方を指導する、そういう点で私は必要ではないかと思うのでございますが、どう対処するのか伺いたい。  それで、この十五年間を見ましても、納税、申告納税、所得納税者数は二・一倍、法人数も二・一倍、国税収入は九・三倍。けれども、国税庁の定員は一・〇三倍しかふえていない。そういう中でこのような問題をどう解決していくのか。特に人手が足りない場合、たとえば地方税の職員と協調するとか、何か工夫はないのかどうか、そのあたり大蔵大臣と自治大臣の御見解を承ります。
  229. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) いま御指摘になりました法人に対する税務調査、その実調率は低いじゃないかと、そのとおりであります。限られた稼働力、したがっていま御指摘になりました税務職員の定員の問題もございましょう。そうした限られた稼働力のもとで税務調査の充実を図る、こういうことになりますと、調査必要度の高い法人をまず的確に選定するとともに、特に悪質な不正を行っていると思われる法人や、事業規模の大きな法人に対しては相当数な日程をかけて徹底した調査を行う、まずそういうことで重点的かつ効果的な調査ということに努めておるところでございます。  したがって、それに対しては御指摘のように国税職員の定員の問題も確かにございますが、この問題につきましては、私どもも現下の置かれた行政改革、いわゆる定員削減、効率ある政府というような大筋の認識の中にあっても、行政管理庁等の御配慮、政府全体の責任で、たとえ実数はささやかでも少しずつこれが充実に努めさしていただいておるという現状でございます。  一説には、一人増員すれば五千万円稼いでくる、こういうようなことを国会等でも議論されたことがございますが、そういう定量的な議論は別といたしまして、まさに重点的かつ効率的な実調に配慮していかなきゃならぬ。と同時に、いま御指摘のありました国税職員と地方税職員の協調態勢をとればそれらもより効率的になるじゃないか、お説のとおりです。したがいまして、昭和二十九年、大分古い話でございますけれども、自治省との了解事項に基づいてそれを進めてきておりますが、いまのような御指摘がございましたので、昨年十二月、新たに了解事項を締結いたしまして一層の拡充を図ることとしたところでございます。  とにかく、国と地方団体の税務行政運営上の協力の問題につきましては、これは臨調でも国、地方を通じた税務行政の効率化がうたわれておりますところでございますので、両方が協議をしながら国、地方を通じる税務行政の効率化、適正化、そして税務行政の確保及び納税者サービスの向上というものに資するものと考えておりますので、この協調態勢を一層進めていこうということで、十二月以来、鋭意両省が綿密な連絡をとりながら、また国税は国税当局へ地方税は地方税当局へ、それぞれの了解事項の周知徹底を図りながら今日に至っておるということでございます。  ちなみに、国税は五万二千八百二十五人、地方税の方は八万七千四百四十六人というふうに承知しておるわけでございますので、今後ともこの国税職員と地方税職員との協調態勢には一層努めるべく努力をしたいと、このように考えております。
  230. 塩出啓典

    塩出啓典君 自治大臣結構です。  それでもう一つは、これもたとえば国税庁の調査によりますと、マル優ですね、いわゆる非課税預金ですね。これは御存じのように三百万円。これはいわゆる零細預金と申しますか、そういうために設けられた非課税預金でございますが、これが非常に不正に利用されておる。それで、国税庁の調査では、全金融機関の約一割、一一%を調査しただけでも五千六百億円も摘発されておる。私の聞いている話では、何億というお金を仮名とか、そういうようなことであちこちに非課税預金としておるという、こういうことも本来の目的から反するものであり、こういうようなことが放置されては本当にまじめな納税者がばかをみることになるのではないか。こういう点については、これはぜひ大蔵省、またこれは郵貯の問題もございますが限度管理、そういう点についてはぎちんとやっていただきたい、このことを私は要望いたします。  いま大蔵大臣に御答弁いただきました。ぜひ郵政大臣の方から今後の決意を、またどういうようにやっているのか、お話を聞きたいと思います。
  231. 桧垣徳太郎

    国務大臣桧垣徳太郎君) お答えいたします。  郵便貯金の限度額超過の事情は五十五年度が四万九千件、五百九十二億円、五十六年が四万七千件、五百八十二億円ということでございました。五十七年度分はいま集計中でございまして結果が出ておりませんが、ほぼ同じ傾向と報告を受けております。  郵便貯金の限度額は、法律に定められておりますものでありまして、厳重に管理をすべきものと思っておりまして、現在も窓口では本人の確認資料の提示を求めまして確認に努めておるわけでありますが、なお、預け入れの口数につきましては、全国での名寄せに努めておるところでございます。名寄せの結果、超過額がありますものについては、御本人に通知をしまして減額をしていただくという手続をとっております。  なお、今日までは全部手作業で名寄せをいたしておりましたが、オンライン化が進んでまいりましたので、今後このオンラインによるコンピューター集計ということが可能になってまいりますので、一層正確、迅速に作業ができるようになると思っております。今後とも限度額の管理につきましては、その徹底を図っていくよう努力をしたいと思っております。
  232. 塩出啓典

    塩出啓典君 ぜひひとつ総理にもお願いをしておきたいわけでございますが、悪質な、こういうような脱税等がないように、そういう点にはひとつ努力をしていただいて、まじめな人がばかをみるようなことのないように努力をしていただきたい、このことを要求しておきます。  今回提案されました一連の行政改革の法案を見まして、どれだけの経費が節減されるのかということは明らかでありません。本会議の答弁では年末の予算編成を見てくれという、そのときに出てくるのだというお話でございますが、まあ今日までのいろいろな法案を見ましても、機構いじり、国民への負担の押しつけ、あるいはまた一時的ないろんなお金を借り集めてくる。それともう一つは、将来に借金を、別な借金にしておる。たとえば今日まで厚生年金の国庫負担の減額、こういうものは六十年から返さなくてはいかぬ、あるいはまた将来の国債の返還に備えて繰り入れていた国債整理基金への繰り入れを停止するとか、ある意味ではやはりその場しのぎの別な借金の肩がわりが、こういうのが非常に目につくわけでございます。  そういう意味で、財源あさりという言葉は適当でないかもしれませんが、非常に限界にきておるのではないか、これから本当の意味の行政改革をやっていかなければならないと思うのでありますが、大体今年度の予算編成においてどの程度の切り込みをする、経費節減をするのか、これを承っておきます。簡単で結構です。
  233. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 行政改革の問題によってどれだけの経費が浮くか、こういうことでありますが、いまこの八月末概算要求を受けました段階で、一つの問題点として考えておりますのが、定年制が六十年の三月三十一日に実施されますと、ちょうどその定年等に伴うものが約二千億円、退職金等がまとめて五十九年度予算には必要になるわけであります。しかし、それは今年度こそそうでございますが、その次年度からは、言ってみれば平準化されてくるという問題がございますので、直ちにもってこれだけのものになるという計算は非常にむずかしい問題でございます。  したがって、この行政改革、いま御審議いただいておる法案そのものが成立することによって、定量的に幾らのものが節減されるかという計算はいたしておりません。
  234. 田中正巳

    委員長田中正巳君) 和田君から関連質疑の申し出があります。これを許します。和田君。
  235. 和田教美

    ○和田教美君 私は、いま議題となっております行政改革の関連法案の中で、特に中央省庁簡素化、つまり行政機構の本丸の機構減らしという問題に限って御質問したいと思います。  臨時行政調査会が二年間審議を進めました過程で、国民の多くは政府の行革の行方を注目いたしておりましたし、かなりの期待感を持っていたと思います。それは一つには、臨調が増税なき財政再建というアピールが非常によかったということもあると思いますけれども、同時に、中曽根総理が行管庁長官のころから簡素化、効率化、つまり簡素で効率的な行政づくりということを盛んに強調されたというふうなことも、半信半疑ながらある程度期待したという面があったと思うのです。  ところが、実際に今度この国会に出ております法案を見てみますと、少なくとも中央省庁に関する限り、機構減らしという面では全く目標が行方不明になっておるという感じを否めないわけであります。私は、行革とは本来、仕事減らし、これがまず前提であって、そうして人減らし、金減らしと続いていくものだというふうに思っておりますが、まずその先行すべき仕事減らしの中心は、言うまでもなく機構減らしだというふうに考えるわけであります。  ところが、いま出ております国家行政組織法改正案あるいは総務庁設置法案などを見てみましても、たとえば中央省庁の再編という問題は、ただ一つ、行政管理庁総理府の本府の主要セクションをくっつけて総務庁をつくると、この一本でございます。しかも、行政管理庁が焼け太りの形で総務庁になるということはあっても、これは行って来いでございます。そして、非常にやせ細った形だけれども総理府本府というのは依然として残るわけですから、中央省庁機構減らしという点では、全くこれは機構減らしになっていないというふうに思います。  また、中曽根総理は盛んに、国家行政組織法改正案が通ったら八省庁の内部部局の再編成をやるのだと、各省とも待ち構えているのだというふうなことを強調されます。しかし、この八省庁にわたる内部部局の再編成、つまり省の部だとか局だとかいうものの再編成でございますが、これもトータルいたしますと局の数はほとんど減らないというのが実態でございます。つまり現状のままであるということで、酷評すれば、要するに、看板のつけかえにすぎないのじゃないかというふうな見方も多いわけでございます。  こういうことでございますから、私の見るように、少なくとも中央省庁に限定をいたしますけれども、中央省庁に関する限りは機構減らしという考え方は全く行方不明になっていると思うのですけれども、総理の御見解をお伺いしたいと思います。
  236. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 行革につきましては、公明党の皆様方からいつも御激励をいただきまして感謝しておる次第であります。  ただいま御質問いただきました機構減らしの点でございますが、この点につきましても鋭意努力をしてきた次第でございます。今回の総務庁設置法案等を中心にするやり方もその一つの課題でございますが、とにかく最近の事態におきまして中央省庁に手をつけたというのは今回が初めてなので、この程度のものをやるについても相当な抵抗が官僚の中にあったということはあの当時の新聞をお読みいただけばわかると思うのであります。ですが、思い切った強行策をやりまして、臨調答申になかった行管庁及び総理府統合再編して新しいものをつくるというところまで前進したわけなのでございます。これによって大臣を一人浮かすとか、あるいは総務副長官、副長官を二人やめるとかいろんなこともやって、十分ではありませんけれども、まず第一歩を刻んだというところに意味があると思います。これで私は中央省庁の問題は終わりとは思っておりません。引き続いてこの時代に合うような展開を次に考えてしかるべきであると思っております。  しかし、今回の国家行政組織法改正をお願いいたしまして、自律的に各庁で再編を行おうという用意をさしております。法律が成立いたしましたら、来年度予算の編成が十二月に行われますが、それを機に各省庁の自主的改編策というものを表に出していきたい、そう思っております。なかんずく運輸省あるいは厚生省等々におきましてかなりの思い切った改編も考えております。  運輸省におきましては、いままで許認可官庁として許認可権を握っていて、いわゆる統制色の強い性格を持っておりましたが、交通運輸関係全般をつかさどる統合的な官庁として、政策官庁として脱皮するというていの改革をいまやらしておるわけであります。運輸省におきましても大体成案を得て、いつ実施するかという法律の成立を待っておるという状態でもございます。これで一つ一つモデルができてきますと、はずみが出てまいりまして、引き続いて各省庁につきましても自主的にやらしたいと思うのです。  ただ、ここでお断りしなきゃならぬのは、この機構改革に伴って人員削減とかそういうものが顕著に出るということはなかなかむずかしい。というのは、昭和四十年代におきまして第一回の臨調答申が出て、そのとき以来その実際的な出血を伴う、人員整理を伴う行革については非常に強い反対が社会党その他からありまして、そしてそういう附帯決議が出されておりました。今度の臨時行政調査会設置法案をつくるについてはそういう附帯決議を排除しまして、そういうことのない臨調というものにいたしまして、新しい展望を開こうとして出てきたことは事実であります。しかし、実際問題といたしまして、人員の削減という問題は、片っ方で第六次の人員削減計画が進行中でございまして、実際これは実質的な人間の削減を及ぼす削減をやっておるわけでございます。昨年あたりで千四百数十人、また今年度におきましては千六百九十五人でございましたか、これはみんな実際の現員を減らしていくということであり、来年は定年制、六十歳定年が出てまいりますから、さらに思い切った削減をやる。それで、いま片っ方で別個の体系で進行している人員削減計画をさらに片っ方では力強く進めていきたい。  機構の問題については、各省庁が自主的にこれが一番いいというものを各省庁につくらせまして、それをわれわれが監督しまして、それを検討をし、承認した上で実行していく、この方がはるかに能率的だ、そういう考えを持って進めておりますので、これでおしまいということではありません。まず第一歩である、そのようにお考えいただいて結構であります。
  237. 和田教美

    ○和田教美君 第一歩ではあるが、官僚の抵抗が非常に強かったということは総理もお認めになったわけでございます。私はいま出ております法案の中身を見まして、いざというときの官僚の組織防衛本能はまことにすごい、これはまさにその力が遺憾なく発揮されたということを証明する報告書のようなものだというふうにさえ考えておるわけでございます。  そこで、行管庁長官にお伺いしたいのですけれども、中央省庁の数はいま現在一府、十二省、八委員会、うち大臣を長とする委員会が一つ、及び二十四庁、うち大臣を長とする庁が八つというふうに資料に載っておりますけれども、この総数は変わらないのですか。減らないのですか。  それからまた、総理は一府、十二省、二十四庁という現状は必要最小限度のものだというふうにお認めになったからこういう現状維持ということになったんでしょうけれども、将来は減らせるということですが、一体どのくらいのテンポでどういうふうにやっていこうとされているのかをお伺いしたいと思います。
  238. 齋藤邦吉

    国務大臣齋藤邦吉君) 中央省庁の数はいまお述べになりましたとおりでございますが、先ほど総理からお話のございましたように、行政管理庁総理府本府を機能組織統合するということでございますから、国務大臣を長とする庁は一つ減るということでございます。これはもう御承知のように、戦後日本の中央官庁の省庁組織というものはふえる一方でございます。ところが、今度初めて中曽根内閣において二つを統合して、国務大臣を長とする役所が一つ減るということは、私はこれは本当に褒めていただいていいことじゃないかと、かように考えております。  それから、そのほかの庁の問題については、臨調において国土三庁の統合問題ということが唱えられておりますが、いまそれぞれ特殊な事情がございますので右から左というわけにはまいりませんが、今後とも十分に社会、経済の変化に対応して検討されていかなければならぬ問題であろうと考えております。  なお、先ほど総理からもお話のありましたように、中央省庁の部局の問題は、それをいま申し上げた八省庁にわたって行われるわけでございますが、中央省庁においては新行革大綱に基づいて、現在中央官庁にありまする課等の数が千五百ほどあるわけです。それを五年間に一割減らす。これは私は相当思い切った改革だと考えております。千五百幾らある課を五年間に一割減らす、百五十減らすというわけですね。たとえば大きな省でございますと、毎年一つずつの課を減らしていかなければならぬ、こういうことになります。  それから人員の問題も、第六次公務員の人員削減計画に基づきまして五年間に五%と申しますが、やはりその中でも病院とか、あるいはまた療養所とか、あるいは新設の医科大学とかいろいろございまして、そういうふうな緊急な需要を満たしながら、なおかつ人員を減らしていくということですから、これはなかなか容易なことでは実際はありません。しかしながら、五十八年度におきましても大体千六百人ほど純減しておるわけでございまして、五十九年度におきましてはさらにそれを千六百人よりももっと多く査定していかなければならぬだろうというわけで、今度の予算編成の際に査定を厳しくしていくと、こういうことでございます。  それから、中央省庁との関連でございますが、地方の出先機関と言いましても、今度は監察局だとかあるいは地方公安局だとか財務部というふうなその出先機関、これは国の中央省庁一環でございますね。そういうものも大体ブロック機関事務を移してしまう、そして事務をできるだけ減らす、そして県単位の監察局の要員は二割ぐらいはブロック機関に移していく、こういうわけでございますから、機構人事の面においては、今度の法律が通りましたことを契機として、これを実行の第一段階、こういうことで今後とも進めていきたいと思います。  しかし、大蔵大臣からお述べになりましたように、機構というものの縮減は、イコールすぐ何億という金が減るわけではない、こういうことでございますが、長い目で見ますれば、人員の削減というものはやはり相当大きな影響を持つであろう、かように考えております。
  239. 和田教美

    ○和田教美君 いま行管庁長官がお述べになりましたように、そう金がすぐ減るわけではない、まさにそのとおりであって、総務庁設置法案についていろいろ調べてみますと、総務庁をつくったところで予算も人員も全く減らないということを政府自身が答弁をされておるわけですね。それから、いま、課の一割削減ということを五年間にわたってやるということをおっしゃいましたけれども、この答申及び政府の新行革大綱によりますと、削減というふうには書いてございませんね。整理再編と書いてございます。そして、整理再編とはどういう意味かと言って役人に聞いてみると、どうも必ずしも削減という意味ではなくて、再編ということにむしろ重点があるような印象を受けるわけです。現に行管庁に各省庁から整理再編についての計画がぼちぼち出てきているようですけれども、削減という計画は一片も出てきていないという話ですけれども、これは明らかに一割削減なんですか。
  240. 齋藤邦吉

    国務大臣齋藤邦吉君) 行政管理庁総理府本府との統合にありましては、大臣が一人減るわけでございますね。それから副長官とかそういうものは減ります。しかし、いまお尋ねの課の整理再編あるいは人員の縮減等は、新行革大綱に基づいて一割必ず減らしていく。人員の方も第六次公務員の削減計画に基づいて、来年度の予算編成の際に人員の縮減も行っていきたいと思います。  それから、いまお話しの中央省庁、各省にまたがりまして五年間に一割というものでございますが、整理再編といいますと、何とか合解化してつくり直してといったふうな意向が強いかのごとく、いま和田委員からお述べになりましたが、整理再編というのは間違いなく実質的整理を意味しておるものと私は理解をしておりますし、臨調それ自身も、本当は削減というふうに書こうかという意見もあったそうです、内部におきましては。そうは言いましても、どうしてもできないものもあるかもしれぬからということで、整理再編という文字を使っただけでありまして、実質的には削減であると、かように御理解いただいて結構でございます。
  241. 和田教美

    ○和田教美君 次に、中央省庁の内部部局の再編成、これは中曽根総理が盛んに強調されておるところでございます。運輸省を政策官庁に脱皮させるというふうなことを盛んに言っておられるわけですけれども、これも点検いたしますと、いわゆる機構簡素化という視点が全く欠落しているのではないかというふうに思います。単なる組織のつけかえ、看板のつけかえという面が非常に強いのではないかというふうに思います。  いま内部部局の局の数は府、省、大臣庁の局の数が全部で百九、それに官房を含めて百二十八でございますね。今度の国家行政組織法改正案で、いまお述べになりましたように、この百二十八という上限でとにかく抑えるという総数規制規定が導入されております。それはそれで、やらぬよりは僕は確かにましだと思いますけれども、しかし、戦後の高度成長期にかなり伸びてきた、ふえてきたのが現在の状態なんであって、そのふえた状態のままで上限を置くというのは、民間の厳しい減量経営などに比較しますとまことになまぬるいのではないかというふうに思います。百二十八という上限はあるにしても、減らせるだけ減らすという考え方がおありになるのかどうか、その辺のところをお聞きしたいと思います。
  242. 齋藤邦吉

    国務大臣齋藤邦吉君) 百二十八というのは官房、局の現在の総数でございます。現在よりは膨張さしてはいけませんよ、こういう趣旨と同時に、行革の精神にのっとってできるだけ減らす努力をすべきであるという意味が私は含まれておると思います。  と申しますのは、御承知のように、今回衆議院において修正がなされたわけでございますが、それによりますと、局等の設置、廃合等がありますれば次の国会にそれを報告しなければならない。さらにまた、五年後はその実施状況を見てマネジメントサーベーといいますか、総合的検討をして必要な措置をとらなければならないという法律修正がなされたわけでございますが、その趣旨は、これ以上ふやしちゃいかぬということ以外に、もっと減らす努力をしなければなりませんよという法律修正の意図があるからだと私は考えておりますから、そういうふうに今後とも努力すべきものだと考えております。
  243. 和田教美

    ○和田教美君 一体どのくらい減らせるという見通しでございますか。
  244. 齋藤邦吉

    国務大臣齋藤邦吉君) いますぐ幾つだなんという大それたことを私は申し上げることはできません。しかし、臨調答申におきましては、将来はあちらこちら減らせる余地があるではないかというので、具体的な名称を私きょう申し上げることを避けますが、名称を挙げたものもあるわけでございますから、今後この法律が皆さん方の御協力により成立いたしました暁においては、そういう修正等の意向も踏まえながら十分努力をしていかなければならぬだろうと考えております。
  245. 和田教美

    ○和田教美君 臨調は審議の過程で、実は中央省庁組織の再編成、合理化というものを目玉にしようと考えたことがございます。そこでかなり思い切った、第二部会で思い切った案も検討されたと聞いております。たとえば文部省の文化庁とか農水省の食糧庁とか、あるいは通産省の中小企業庁を各省の内局にするというふうな話も出たことも報道されましたし、さらに二十三省庁について内部部局の再編合理化を指摘をして、これを各省庁が出す自主改革案の目安にしろというふうなことを指示されたこともあったわけです。  ところが、元の事務次官だとかそういう官僚OBを中心に、参与だとかあるいはまた委員だとか専門委員だとかというところに送り込んでおりました官僚側の猛烈な巻き返しによって、臨調はどんどん後退をしまして、いま申しました食糧庁の内局化なんという構想がまず早々にダウンをいたしまして、最初は二十三省庁を対象にすると言っていたのが、いつの間にか八省庁にしぼられてしまった。そして、たとえば大蔵省とか通産省などはその検討の対象にさえなってないわけでございます。その結果が八省庁の今度の案として出てきておるわけでございます。  しかも、内部部局の再編成といいますけれども、実態を見てみますと、看板のつけかえが多くて、廃止する局もあるけれども新設する局もある。要するに全体を見合うと、大体とにかく相殺されてとんとんというふうなところでございまして、これは組織のスリム化という国民の要望から見れば全く相反しておるというふうに思うわけです。  私がトータルして見ますと、大体臨調答申は一局三部削減ということになっておるように思います。その一つは、純減は局は一つ、これは厚生省の援護局の削減でございますね。これは答申に書いてあります。それから部については、運輸省の本省で一つ、海上保安庁で一つ、農水省の農蚕園芸局普及部、この三つを削減するということが書いてございます。これはどうなんでしょう、この臨調答申にある、わずかに出ております削減計画は全部実行されるおつもりですか。
  246. 齋藤邦吉

    国務大臣齋藤邦吉君) 臨調答申の中には、援護局の廃止等々がありますが、それはいますぐということではなくして、援護業務のある程度の整理がついた段階とか、そういうふうな中期的にこれを考えていかなければならぬ問題だと思います。  それから、部等の問題につきましては、いま各省庁から行政管理庁の方に、明年度の予算編成に際しての再編成の案が出ておりますから、その案について慎重に検討させていただきたいと、かように考えておる次第でございます。
  247. 和田教美

    ○和田教美君 そうすると、局については結局削減はゼロということになりますね、援護局はすぐやらないと言うのですからゼロだ、省庁についても実際に減るのはゼロと。全部ゼロじゃないですか。
  248. 齋藤邦吉

    国務大臣齋藤邦吉君) 省庁につきましては、先ほど総理からお述べいただきましたように、大臣庁を一つ減らすわけでございます。それは減らすわけでございます。それから局につきましては、数は仮に減らぬにいたしましても、行政需要変化に対応した機能ですね、その機能変化に対応してつくり直すということでございますから、単なる看板の塗りかえだというふうには私は考えておりません。
  249. 和田教美

    ○和田教美君 もう一つ、行政事務簡素合理化法案というのが出ておりますが、許認可事務整理合理化とか機関委任事務整理合理化内容としたものでございます。許認可事務というのは、大体行管庁の資料によりますと、一万四十五ございますね。ところが、この一万件の許認可事項のうち、今度の法律整理されるのはわずかに法律改正は二十六で、件数は三十六件ですか三十九件ですか、まあ四十件足らず。つまり一%にも満たないわけです、総数の。こんなスローモーぶりで果たして許認可の整理というのが進むのでしょうか、非常に疑問だと思います。一体どの程度のテンポで減らしていくつもりか、それをお聞きしたいと思います。  それから、中曽根総理は、さっきも運輸省を許認可官庁から政策官庁に脱皮するとおっしゃっておりましたが、運輸省の現在の許認可事務というのは二千二百ございまして最高でございます。これを中曽根総理は、許認可官庁から政策官庁に脱皮すると言う以上は半分ぐらいに減らすつもりなのかどうか、その辺のところをお聞きしたいと思います。
  250. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) ともかく国家行政組織法改正案を通して成立させていただきまして、政府が弾力的に省庁の改編をやれるように、まず授権をお認めいただく、それがまず先決なのでありまして、それをやらせて、そういう権限をわれわれに与えていただきましたら、ひとつ深呼吸をして、それで一つ一つ次に必要なことをやっていく。これは人員の削減もそうであるし、あるいは局や部の再編、削減もそうでありますし、ともかくこの法律が成立しないうちはできないのです、実際問題として。そういう意味で、ともかくこの法律を成立させていただきたい。その後はわれわれは野党の皆さんのお話もよく承って、断行すべきものは断行していきたい、そう考えておるわけであります。
  251. 和田教美

    ○和田教美君 国民はこういうことで、さっきゼロシーリング、ゼロだというお話ございましたけれども、こういう行革ですから、かなり最初期待しておったと言いましたけれども、その期待は急速に冷却化していると思うのですね。なぜ冷却化しているかということなんですが、一つには、増税なき財政再建という看板が全くもうこれはだめになってしまったということが一つ。それから、やはり最も抵抗の強い中央省庁についてはほとんど切り込みゼロであるということが一つでございます。それともう一つは、とにかく行革、行革という騒ぎになってからもう三年近くになるわけでございますけれども、一体いままでの間、行革ということによって仕事減らし、機構減らし、人減らし、どれだけできたのかということが国民にはさっぱりわからないわけでございます。それからまた、将来展望として一体どのくらいの効果があるのかということもわからない、これが国民を白けさせておる一つの原因だと思うわけでございます。  そこで、私は提案をしたいのですけれども、そういう効果一覧表のようなものをひとつまとめて、国民のだれにでもわかるようなものを国民の前に発表するということが絶対必要だと思うのですけれども、そういうお考えがないかどうかを最後にお聞きしたいと思います。
  252. 齋藤邦吉

    国務大臣齋藤邦吉君) 行政改革は着実にやっていかなければならない問題でございまして、相当の時間が私はかかると思います。ことしの三月に初めて最終答申が出たわけでございますが、従来とも答申につきましては、政府は最大限尊重してこれを実行に移すという決意で臨んでおりまして、第三次答申に基づきましては、御承知のように国鉄職員等の年金統合問題、それから国鉄の再建監理委員会をつくるといったふうなことも進めてまいっておりまして、第五次答申によって初めて本格的な行政機構についての改革が一歩踏み出されるということになっていると思います。  したがって、その行政機構の改革の第一歩として、今回御提案申し上げておりまする行政組織法の改正とか、そういうもろもろの法律を出されておるわけでございまして、これが成立いたしますと、先ほど来話のありましたような中央省庁の内部部局の問題等々が進んでまいります。それから明年度の予算編成の際には、御承知のような予算編成でございますから、補助金の整理等々、臨調答申趣旨に沿うて予算の削減が行われます。  それから、来年度の通常国会におきましては、臨調答申にすでにありましたような電電、専売の改革案、それから地方事務官の廃止問題、こういう問題が次の通常国会提案される予定になっておるわけでございまして、今度の臨時国会だけで全部終了するというものじゃありません。これが、ある意味から言うと第五次答申以後の行政改革実行の全体計画の一環であり、実行の第一段階である、かように私どもは考えておりまして、臨調答申につきましてはつまみ食いなどはいたさないで、全部誠意を持ってこれを実行に移していくという決意でございます。
  253. 塩出啓典

    塩出啓典君 補助金の問題につきましては、臨調におきましてもその整理合理化につきましていろいろ提言をしております。しかし、昭和五十七年度、五十八年度の予算を見る限り、逆に五十七年度の十四兆七千六百五十八億円から五十八年度は十四兆九千九百五十億円と増加をいたしております。しかも五十八年度は新規補助金が六百七十七億円で、廃止補助金の三百五十五億円を上回っておると、こういう実態でございますが、確かに補助金というものは法律補助も多いし、あるいは教育、福祉関係が非常に多いと、そういうような点は私も非常に理解をするわけでありますが、しかしこの臨調における審議におきましても、廃止というのは官僚出身者の委員の力によってかなりこれが減少になり、削減さらには抑制、こういうようになってきた、こういう話も聞くわけでありますが、そういう点はこの補助金の節減をどういう方針でやるのか。やっぱり総枠を設定をしてやるべきではないか、このお考えはどうですか。
  254. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) いわゆる補助金の総枠規制問題でございますが、この問題につきましては、まあ補助金というもの自体が一定の行政水準を維持して特定の施策を奨励するなど、国の施策を実現するための重要な政策手段の一つであるという認識はまず持っております。しかし、余りにも既得権化したり、惰性的な運用になったり、かくして硬直化しやすいなどの弊害もございますので、従来からそういう点が指摘されておるわけでございます。  したがって、これからこの問題に対しましては、やっぱり臨調答申、それから行革大綱、この趣旨に沿って公的部門の分野に属する施策のあり方及び国と地方との間の費用負担のあり方の見直し、これを行うことによって補助金等の総額を厳しく抑制していく、こういうことでございます。したがって、あらかじめ補助金に歯どめをかけろ、こういうこともたびたび御指摘がございますけれども、率直に申しまして、補助金自体は、一般会計当初予算に比べて、最近少しずつではございますが割合は落ちております。  しかし、何せ社会保障、文教、公共事業、これが七九%になりますし、そうして法律補助、これがまた八二%、それから地方自治体を通すものというくくり方をいたしますと、これも約八割ということでございますから、その三つのくくり方の外へはみ出てくるというのは非常に小さいものになるわけでございます。したがって、それらに対してのいわば一〇%削減でございますとか、そういうものはかかりますが、総枠でかけるとなると、法律あるいは地方を通じての交付、そして社会保障、文教、公共事業と、こういう分け方になりますので、縦枠でくくっていくということは、御指摘の意味は理解しますが、実際的にやる場合には非常にむずかしい問題だということについても御理解をいただきたいと思います。
  255. 塩出啓典

    塩出啓典君 臨調は、いわゆる研究開発助成について検討をいたしております。  これは通産大臣にお尋ねをしたいわけですが、大企業であれ中小企業であれ、非常にリスクの大きい、しかも将来国益にかなう創造的あるいは発展性のある研究開発に国が助成をするということは許されるのではないか、むしろ科学技術立国を目指すわが国としては、ある意味では力を入れる点もある。しかし、将来性のある部門に進出するための研究開発は、企業として変化に対応して生き抜いていくためにはこれは当然行わなきゃならない、その意味である程度のリスクを負うことも当然ではないかと、こういう論議もあり、私はそのように思います。したがって、研究開発助成も国民の常識から見て十分納得されるものでなければならないと思うわけでありますが、その点はどうなのか。  その意味で、私は、そういう研究開発助成等はもっとオープンにして、たとえば公募をするとか、あるいはその選定は第三者機関で決めるとか、そういういわゆる官、財の癒着の疑惑を持たれないようにすべきではないか。それから、臨調も示唆しているように、収益納付、それはいろいろ研究をしてある技術を開発をして、そして量産体制をして、もうかってくればこれは全部必ず返してもらうという、そういう収益納付を強化すると、これは臨調も言っておるわけでありますが、そういう点はどうでしょうか。そうすべきだと思いますが、御意見を承りたい。
  256. 宇野宗佑

    国務大臣(宇野宗佑君) 研究開発に関する政府の今日の予算は、欧米に比べましてわが国は非常に少ないということがよく言われております。私たちといたしましても、やはり民間においてすらベンチャー産業というものを思い切って推進しておる時代でありますから、将来を見通しました場合に、特に先端技術等々の問題に関しましては、さらに一層の力を込めるべきであると、かように考えております。  したがいまして、そうした面においては塩出さんのお説はごもっともではないかと考えておりますが、さりとて国民の納得する技術でなくちゃなりません。さような意味におきまして、収益納付ということも臨調から指摘されておりますので、すでに五十八年度の予算におきましても、これは実施に移しております。たとえばYXなんか、民間輸送機はこれは今日まで補助金を出しておりましたが、すでにある程度の収益というものを私たちも考えられますから、それから納付をしてもらうとか、あるいは重要技術に関しましても、そうした精度を高めていくとか、いろいろ考えておりますが、今後ともそうした面におきまして、補助は出すが収益納付も怠らない、こういう姿勢を貫きたいと考えております。
  257. 塩出啓典

    塩出啓典君 次に、これは厚生大臣にお尋ねをいたしますが、医療保険制度の改革が大きな問題になっております。(「厚生大臣、おらぬぞ」と呼ぶ者あり)  それでは時間がございませんので、後回しにいたしまして、私学助成の問題について、文部大臣にお尋ねをいたします。  さきに臨調答申は「私学に対する助成の意義を認めながら、私学は自主的にその財政基盤の強化を図るべきであること、私立大学等の経営状況が改善してきていること」等を考慮し、「当分の間、いずれについても総額を抑制」とありますが、行政監察局もそのように経営状態は改善をしているということを言っておるわけでありますが、概して改善をしているのかどうか、これは率直に言ってどうなんでしょうか、文部大臣。簡単で結構でございます。
  258. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 塩出さん御承知のとおり、わが国の教育の大半は私学が担当しているという状況でございます。そういう意味で、私学助成を当然のこととしてやっておるわけでございますが、臨調で指摘されましたように、この際抑制をすべきである、あるいは私学の経営にも改善をされたものがある、こういうことでございますから、あるいは一面残念ながら教育機関として不当だと思われるような助成金の受け取り方をしておる、こういうものもありまして、全部見直すと、こういうことで現在進めておりますが、もちろん改善をされておる、努力の結果改善されておる私学もある、しかしなかなか全部そうというわけにはまだまいりません。
  259. 塩出啓典

    塩出啓典君 本年は助成額が据え置かれたわけでありますが、それでも七割以上の私大が授業料の値上げを行っております。さらに五十九年度は、文部省は概算要求ではマイナス一〇%の予算要求をしているようでありますが、そういう点ではさらに私大の学費値上げが懸念をされる。五十八年度の授業料だけ見ましても、国立が二十一万六千円に対して私大は四十四万円で、二倍以上で格差が拡大をしておるわけでありますが、こういう点で、一つは本来の私学助成というものが授業料を、経済的負担を軽くするという、そういう目的に必ずしも十分な効果をあらわしていないのじゃないか、そういう点を心配するわけでありますが、文部大臣はどうでしょうか、その点は。
  260. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 私学の助成は、教育の機会均等あるいは教育の向上のためにやっておるわけでございまして、それと同時に、いまお話がありましたように、父兄の負担あるいは生徒の負担減を図る、これをやりませんとどうしても増になる。こういう状況でありますからこれをやっておるわけでございますが、来年度の予算等においては、いまお話しのように一〇%減で要求しております。これは全部洗い直すということを前提にしておるわけでございまして、各私学に対しては、父兄負担の増にならないように、また授業料等上げないでもできるように、ちょうど国でいろんな行政改革、財政再建をやっておると同じ精神でそういうことに至らないようにということを指導するといいますか、助言をしながらいま進めておる、こういうことでございます。
  261. 塩出啓典

    塩出啓典君 そういう点は、最近、補助金の不正受給などの私大の不祥事件が非常に多いわけでありますが、願わくば、そういう点に対しては厳然たる処置をとってもらいたい。しかし、また一方、一連の不祥事や放漫経営を理由に、健全な私学をも含んだ論議として、助成額や基準を云々することは避けるべきではないかと思います。私は、私学助成が本当の意味で授業料の値下げにつながっていくように、ひとつ厳重に努力をしていただきたいと、このように思います。  それから、教育研究の分野においては、本来その自主性、独立性を尊重することが基本であり、特に私学においてはそれぞれの健学の精神、そういうものがあるわけであります。国としても当然その点を配慮して、援助をすれども支配せずと、こういう精神で対処をしていかなくちゃいかぬ。これが現行の私立学校法、私立学校振興助成法の精神、基本理念であると私は思うのでありますが、そういう意味で、政府や政党が教育、私学に関与するということは、私は自制をすべきだと思うのですね。  ところが、新聞報道によりますと、自由民主党の文教部会は、基本的には私学の独自性に係る私学団体の統合、現在、私学の団体は三つあるそうですけれども、その三つを統合しろとか、あるいは現在、共通一次学力試験、これは非常に問題の多い、いまいろいろ検討されておるわけでありますが、それに私学が参加をしろと、そういうことを強要し、強制し、それに対して私学側が十分にこたえなかった。そういうことで、私学助成の文部省の概算要求は、当初は大学関係マイナス五%、高校がマイナス三%であったのを圧力でマイナス一〇%になったのだと、こういうことが報道されておるわけでありますが、これはいわゆる制裁処置をとったわけでありまして、こういうことが事実であれば、これは非常に私は問題であると思うのでありますが、その点文部大臣としてはどうお考えですか。
  262. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 概算要求につきましては、どこでもそうでございますが、途中ではいろな検討をするわけでございます。しかし、最終的にはマイナスシーリング一〇%の線で要求をいたした、こういうことでございまして、どこの支配を受けたということではございませんから、それはひとつ御理解をいただきたい。  それから、自民党のお話がありましたが、私、直接関与しておりませんけれども、政治家、政党、これはいろんな問題を研究し、意見を述べる機会があると思うのです。私学のあり方あるいは教育のあり方等についてもやっぱり研究し、意見を述べられることもあるのだと思いますが、そういう点について私の方からとやかく言う立場でもありません。ただ、いまおっしゃったように、私学のみならず教育については、政治、政党は中立であるべきである、かような線を私ども堅持しておると、これだけを申し上げておきたいと思います。
  263. 塩出啓典

    塩出啓典君 特に現在の共通一次学力試験というものは、まあいろいろ現在検討されておるようでございますが、私学に参加を強制するということはいかがなものか。やはり私学は私学としてどのような入試の方法でどのように受け入れるかということは、これはその学校の教育理念、方針に直接かかわることでございます。そういう意味で、現在は共通一次テストにつきましては、いわゆる偏差値による国公立大学あるいは学部の序列化、あるいはまた入学学生の均質化、あるいはまた受験機会を減少させると、こういうようなさまざまな弊害が指摘をされ、その改革がいまいろいろ努力をされておるわけであります。そういう中で共通一次に私大を強要するというのはいかがなものか、私はそのように思います。  それで、わが公明党も、一昨日に、二十一世紀日本の教育、「生命が躍動する教育を」経済成長を超えた人間成長を、こういう教育政策を発表いたしまして、特に大学入試制度の多様化、あるいは入学窓口の複数化、さらには短大、大学と専修学校との同格化、私は前回の予算委員会でも文部大臣にも要望したわけでございますが、これからの教育はいろいろ多様化をし、専修学校等の地位ももっと高めて、短大、大学等と同じようにその格差をなくしていかなきゃならない、そういう大学教育の多様化の方向にこれからの日本の教育は努力してもらいたい、こういうことをこの際強く要望をしておきたいと思います。  それから、もう時間がなくなりましたので、先ほど厚生大臣ちょっとお出かけでございましたので、今回の医療保険制度の改革の問題でございますが、私はこの改革が全部が全部悪いというわけではない、一部評価すべき点もあると思いますが、やはりいま国民の中には薬づけ医療、検査づけ医療、そういうような医療のむだ遣いというものが非常に、そういう点に対する不信感が多い。そういう中で、今回の改正は健康保険、組合健保の皆さんにとっては大変な負担増でございまして、しかもこの人たちは全然やらないわけではない。この間の大会では退職者医療は協力しましょう、ただし二割を一割にしてもらいたいと、こういうことを非常に言っておる。そういう意味で再検討の余地はないかどうか。それとこの医療適正化対策をしっかりやってもらいたい。御答弁をいただきます。
  264. 林義郎

    国務大臣(林義郎君) お答えいたします前に、先ほどは失礼いたしました。  いまお話がございましたように、医療問題はまさに先生御指摘のように、トータルの問題として考えていかなければならない。毎年一兆円ずつ医療費がふえておって、これを概して申し上げますならば社会保険でもって負担をしている。だれかかがそれを負担していかなければいけないわけでありますから、御指摘のように乱診乱療、薬づけ、検査づけなどということの批判がありますから、そういった点につきましてやはりメスを入れていかなければならないことも当然でありますし、また薬の値段がどうだという話はもうたびたび新聞その他のところで非難を受けているところでありますし、薬の業界の問題につきましてもいろんな思わしくない事例が出ていることは私から申し上げるまでもないところでございまして、そういったものを全体的に私は直していかなければならないと思っているところであります。  先生御指摘のお話は、健康保険組合の大会でのお話だったと思いますが、そういったお話も謙虚に聞いていかなければならない。ただ、これはどのくらいでやったならばよろしいか、またいろんな各方面からの御意見もあるわけでございますから、そういったことを総合的に考えてやらなければならないと思っておるところであります。やはり、医療が国民の間において本当に信頼されるところの医療である。高齢化社会を控えまして、だんだんいろいろ医療がむずかしくなってくることも事実であります。そのときに国民の間に医療に対する不信感があるということが一番困るわけでありますから、そういったことのないようにいろいろなことをやらなければならない、また各方面の御意見も十分に聞いて私はやっていきたいと考えております。  ただ、そういったことでいろいろなことをやりますが、私の方としてはいままで考えておりました案がいまのところではまあ一番よかったのではないかということでございますし、いろいろなことがありますから、また先ほど先生からお話がございましたように、地域医療システムなどを新しくつくっていくというのがありましたね。そういったものなんかは私はやっぱりこれから積極的に取り入れていくべき問題ではないかと考えておりますし、これからの推移を見て慎重に考えていくべき問題だろうと、こういうふうに考えております。
  265. 田中正巳

    委員長田中正巳君) 本日の質疑はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。    午後五時十二分散会