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参考人(
青木日出雄君) 青木であります。
非武装の民間旅客機がたとえ
領空を
侵犯したからといいましても、戦闘機のミサイル発射によって
撃墜をされて、二百六十九人のとうとい人命が失われるなどという
事態はあってはならないことだと思います。その点は強く主張しておきたいと思うのです。
現在の世界に、
状況によっては
侵犯機に対して
武器を
使用し強硬な
措置をとるような国、その種の空域が存在することも確かであります。われわれが日常使っております航空図にも、この地域に入ったとき無
警告で射撃をされるという注意を書いてある場所が随所にあります。日本の近くでも、
ソ連、中国はもちろんでありますが、ベトナム、ラオス、カンボジア、朝鮮半島の三十八度線及びソウル上空、ビルマ——これはビルマはちょっと特殊な例でありまして夜間でありますが、夜間のビルマ、それから
ソ連が侵入する前のアフガニスタン、これはコリドーという回廊だけを設けてありまして、その回廊以外を
飛行してはならないという
規定があります。現在戦争をやっておりますイラン、イラクも当然そうであります。その中でイラクは、特に許可を受けた
航空機以外は全国土の領域が
飛行禁止空域であります。また、現在告知が出ておりますのはレバノンについても同じであります。ですから、別に
共産圏ということには
関係なく、世界じゅうに
飛行禁止をされ、あるいはそこに立ち入ると無
警告で射撃をされるという注意が出ている空域はずいぶんあるのであります。特に
ソ連の場合には、先ほど話が出ました五年前の
ムルマンスクの
領空侵犯事件以後でありますが昨年
国境法で成立をいたしまして、
国境を侵すものについて
武器を
使用することがあるとはっきり法律によって決めているわけであります。特段の
取り決めのない場合には、その地域におきましては国内法が優先をいたしますので、現在の
国際的な
規定、先ほども
栗林先生からお話がありましたように、実はそれの
拘束力がどこまであるかということについて疑問がございますので、現在の
状況であるならば、
武器を
使用することが
国際的な常識あるいは慣行から
考えましてどこまで不当であるかというのが疑問な状態であります。現在の
国際民間航空機構の
取り決めではこの点が不十分でありますので、
民間航空機の航行の安全についてもっと厳格な条約、それに
領空侵犯機に対処する要領、
警告信号の要領、それを受けた
航空機の方の行動要領、実はこの点も現在の
取り決めでは非常に不十分でありまして、受けた方がどう行動をすれば相手の
警告がわかったかという動作について
明確化をする必要があると思います。結論的に申し上げまして、現在は
領空侵犯をした場合それにどう
警告をするか、また
警告を受けたものがどう行動をすれば了解をしたことになるかということがきわめて不明確だということであります。
第二に、今回の事故の起きました空域について申し上げておきたいと思います。
実際上ただいま申し上げましたような
国際的な
取り決めが不十分であり、
ソ連には新しい
国境法がありという状態では、どの空域で
領空侵犯を起こしましても
ソ連側の強硬な
措置が行われたであろうとは予測されます。ただ、今度の事故の起こりましたR20——ロメオ20の
航空路に隣接をいたしますアリューシャン、ベーリング海、カムチャツカ、オホーツク海、サハリン、この空域については特に軍事上の問題がいま差し迫っていると思います。
この空域が、この地域が脚光を浴びてまいりましたのは一九五〇年代の終わりからであります。
アメリカ及び
ソ連に長
距離の戦略爆撃機ができまして、相互に戦略攻撃が可能な体制がとれた、これが一九五〇年代の終わりであります。そのときに
アメリカもアラスカ地域に戦略爆撃機の基地を設けましたし、
ソ連の方もカムチャッカ半島に四カ所の戦略爆撃機用の分散基地を設けました。この両者に対抗いたしまして
両国ともそれを探知するための
レーダー網をつくったわけであります。今回の
領空侵犯で一番初めに通過をしたと
考えられますコマンドルスキー諸島があります。これがアリューシャン列島に対する
ソ連側の一番端末の
レーダー基地であります。また、これに対抗いたしまして
アメリカ側が置いてありますのはシェミア島の基地であります。それで、コマンドルスキー島の
レーダーとシェミア島の
レーダーとは両方相向かい合っておりますが、警戒空域が重復しておりまして、両者ともそこでの
動きがわかるような形になっております。
ただ、この空域が非常に大きな変貌を遂げてまいりましたのは一九六〇年代に入ってからであります。このときに米ソ
両国とも潜水艦発射のミサイルが開発をされましてこれの配置が始まったわけであります。そのときに
ソ連が配置をいたしました戦略ミサイル潜水艦の基地は、これも奇妙な話なんでありますが、五年前に
大韓航空機が
領空侵犯を起こしました
ムルマンスクと今回問題になりましたカムチャッカ半島のペトロパブロフスクであります。この
二つが
ソ連の戦略弾道ミサイル潜水艦の二大基地として配置をされたわけであります。ただ、一九六〇年代は潜水艦発射のミサイルの射程が非常に短うございましたから、ペトロパブロフスクに配置をされた潜水艦も、
アメリカの西海岸まで行って射撃をしなければ
アメリカ本土の中心部には届かなかったわけであります。
ところが、一九七〇年代に入りましてから
ソ連にデルタ型潜水艦とSSN8——われわれが呼ぶSSN8であります、
ソ連の名称は違いますが、SSN8のミサイルが開発をされまして、このときからベーリング海あるいは北
太平洋を潜水艦の射撃位置といたしまして
アメリカの中心部にミサイルが届くようになったわけであります。この時期からヨーロッパ以上にアジア、カムチャッカ半島の
重要性が増してまいりまして、特にこの長射程のミサイルを搭載しておりますデルタ型潜水艦は、従来の北海あるいは黒海の造船所ではなくて極東の
ムルマンスク造船所で生産をしております。
ムルマンスクで生産をした潜水艦をペトロパブロフスクに配置をするという
関係になっております。これがいままた新しく注目を集めるようになりましたのは新たにSSN18というさらに長射程のミサイルができたことであります。これを搭載するのがデルタIIIと呼ぶデルタ型潜水艦の一番新しい型でありますが、この型の潜水艦ならばカムチャッカ半島のペトロパプロフスクの港の中から、あるいは逆にカムチャッカ半島の西側からミサイル発射をしても
アメリカ大陸には届くという
関係になったわけであります。
さらに一昨年からでありますが、一九八〇年代に入りましてより新しいミサイルと潜水艦が開発をされた。これはミサイルはまだ試作段階にございますのでSSNX20と呼んでおります。潜水艦は昨年のワインバーガー報告などにもございますタイフーン潜水艦であります。現在まだ一番艦しかできておりませんで、現在は
ムルマンスクに配置をされております。今年末に二番艦が就役をする予定でありまして、恐らく二番艦以降は極東に配置をされるだろうと。その時期には、ミサイルの射程が約一千キロ延びますのでオホーツク海の中央部あるいは中央部よりもサハリン寄りに位置を占めても
アメリカ大陸に届くという形になるわけであります。
ソ連はこれについて長期の計画を持って配置をしているように感じられます。といいますのは、この四、五年間にわたりまして今回の戦闘機の発進基地であろうと思いますドリンスクソコール基地——サハリンの中央部の基地でありますが、それを初めといたしましてサハリンに四カ所、わが北方領土の択捉島、国後島、それにオホーツク海の北部にありますマガダンの港とマガダンの
飛行場とも改修をやっております。さらに海軍の基地といたしましては、現在千島列島の中のシムシル島に基地を新設しているというふうに聞いております。こうやってオホーツク海の周辺を取り巻く基地の増強とそれについての部隊配置を進めております。これは恐らく来年以降に新しい潜水艦と新しいミサイルが配置をされ、オホーツク海が
ソ連の対米戦略上きわめて重要な場所になるからそれについての準備を進めているものと
考えられます。
このように軍事体制が進んでおります地域を、一般には二回と呼んでおりますが、
ソ連側の発表している航跡だけから
考えますと三回、コマンドルスキー島とカムチャッカ半島のペトロパブロフスク上空、それに第三回目はサハリンのユージノサハリンスク付近でありますが、この三カ所にわたって
領空の
侵犯をしたといたしますと、やはり
ソ連側の強硬な
措置を招いてもやむを得なかったのではないかと思います。ただ、
ソ連側は現在、
大韓航空機についてスパイ
行為をしたという発表をしておりまして、これは九月六日の
ソ連政府の公式声明と九月九日の参謀総長の記者会見とで明瞭に言っておりますが、スパイ
行為を働いたという言い方をしております。
ところが、いままでわれわれが入手をしておりますこの
大韓航空〇〇七便の
飛行計画及び
地上との交信
状況、これを見ますと、少なくとも交信でわかる限りは正確にR20の
航空路を
飛行していたつもりだったろうと思うのです。この区間の義務位置通報点というのがございまして、そこでは位置通報をしなければならない場所です。特にこの機長は、この義務位置通報点を通るたびに通過時間と通過高度、それから次の義務位置通報点の場所と通過予定時間、これは義務として定められているのですが、そのほかに各所で風向、風速、外気温度、残燃料の報告をしております。必ずやっているわけであります。ですから、これだけから見ますと別に
パイロットが眠っていたわけでも手を抜いていたわけでもない。
特に、現在
INSを装備している
航空機、これは型によってちょっと違う場合もございますけれども、普通
INSですと、第一のポジションに置きますとその
飛行をしている位置、緯度と経度が出ます。二番目のポジションに回したときに、次の打ってあった、
INSに記憶をさせていました場所までの
距離と時間、所要時間が出ます。第三番目の位置に回したときに初めてそこでの風向と風速が出るのであります。それで、この
パイロットが風向と風速を通報しておりまして、それはアンカレジを離陸する前に持っていた予報の風向、風速と違うのであります。ですから、そこでは
INSを確かめていたことは確かであります。風向、風速を見ていたのであれば、その場所、一番初めの位置で緯度経度が出ておりますので、それも見ていただろうということは予測できます。
それから、サハリンで事故が起こるまでの間に
飛行計画では二回の高度変更を指示しております。わずかに時間の違いはありますけれども、その
パイロットはやはり二回高度変更、三万一千フィートから三万三千フィート、それから三万三千フィートから三万五千フィートへの変更をしております。そうすると、高度の方で
飛行計画に従って
飛行をしたということは、経路についても
飛行計画どおりにインプットをしていたという
可能性が高いと思います。そうすると、意図的にスパイ
飛行をするという形跡は見当たりません。しからばなぜこのような航路からの逸脱が起きたのかということが疑問になりますが、この点は日本航空から
参考人も来ていらっしゃいますのでそちらの方から御説明をいただきたいと思いますが、少なくとも現在
ソ連から非難をされているスパイ
行為ということは、飛んでいた間の
パイロットからの通報だけを見る限りではあり得なかったのではないかと
考えられます。
ただ、いずれにいたしましても先ほど申し上げましたようにこの地域が現在も
ソ連と
アメリカのつばぜり合いの地域であり、これからはもっと
重要性を増してくる地域、特にこれは確認をされないのでありますが、
アメリカ側のワシントン・ポストの報道では、九月一日に
ソ連の新しい戦略ミサイルSSNX24でありますがこれを発射実験する予定で、その弾着地域がカムチャッカ半島の沖合いであったというふうに言っております。実際上はこの
事件が起こりましたので当日は発射実験は行われませんで、三日後に
ソ連側は発射実験を行っております。まことに不幸なことでありますが、ちょうどそういうような地域で符節を合わせたように九月一日の早朝にその地域を通過し、それが
領空侵犯を起こすような高度であったというきわめて不幸な条件の一致があったのではないかというふうに
考えられます。
ただ、いずれにいたしましてももし間違って
領空へ入った場合に、それに対する
警告要領、また
警告を受けた方がそれに対処をする要領についてはっきりした
規定もないし、現在それを十分にさせるような設備もございません。このような
事件を二度と起こさないためには早急にそれらの
取り決めを行い、またそれが可能なような設備を
航空機側にも
地上側にもつける必要があるというふうに
考えております。
以上であります。