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1983-09-12 第100回国会 衆議院 本会議 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十八年九月十二日(月曜日)     ―――――――――――――  議事日程 第三号   昭和五十八年九月十二日     午後一時開議  一 国務大臣演説に対する質疑     ――――――――――――― ○本日の会議に付した案件  大韓航空機撃墜事件に関する決議案山村新治   郎君外十一名提出)  国務大臣演説に対する質疑     午後一時三分開議
  2. 福田一

    議長福田一君) これより会議を開きます。      ――――◇―――――
  3. 保利耕輔

    保利耕輔君 議事日程追加緊急動議提出いたします。  すなわち、山村新治郎君外十一名提出大韓航空機撃墜事件に関する決議案は、提出者要求のとおり、委員会の審査を省略して、この際これを上程し、その審議を進められんことを望みます。
  4. 福田一

    議長福田一君) 保利耕輔君動議に御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 福田一

    議長福田一君) 御異議なしと認めます。よって、日程は追加せられました。     ―――――――――――――  大韓航空機撃墜事件に関する決議案山村新治郎君外十一名提出
  6. 福田一

    議長福田一君) 大韓航空機撃墜事件に関する決議案議題といたします。  提出者趣旨弁明を許します。山村新治郎君。     ―――――――――――――  大韓航空機撃墜事件に関する決議案     〔本号末尾に掲載〕     ―――――――――――――     〔山村新治郎君登壇
  7. 山村新治郎

    山村新治郎君 ただいま議題となりました大韓航空機撃墜事件に関する決議案につきまして、自由民主党日本社会党公明党国民会議民社党国民連合日本共産党及び新自由クラブを代表し、提案趣旨を御説明申し上げます。  案文を朗読いたします。     大韓航空機撃墜事件に関する決議案   九月一日未明、邦人二十八名を含む二百六十九名の乗客・乗員を乗せた大韓航空機ソ連軍用機ミサイルにより撃墜されたことは、いかなる理由があったにもせよ国際航空慣行国際法を無視した非人道的行為であり、国際民間航空安全確保からも断じて許し得ざる蛮行である。   本院は、この事件犠牲者に対し深甚なる哀悼の意を表明するものである。   この事件最大責任を有するソ連当局撃墜の事実関係について未だに納得のいく説明を行わず、犠牲者関係国遺体捜索活動にも協力を拒んでいることは、誠に遺憾である。   よって政府は、人道上の見地から関係諸国協力しつつ、速やかに次の事項について適切厳正な措置を講ずべきである。  一 国際機関等による事故調査団の派遣などあらゆる方途により、大韓航空機領空侵犯をするに至った原因を含め事件真相究明に努め、可及的速やかに事件の全貌を明らかにすること。  二 ソ連政府の公式の謝罪と、この種の事件再発防止についての保障措置を求めること。  三 ソ連政府に対し、ソ連領海における関係国捜索の許可と、その活動に対する協力を求めること。  四 犠牲者の補償については、大韓航空並びにソ連政府に対し十分な措置を講ずるよう求めること。  五 今後かかる事件再発を防止し、民間航空の安全を確保するため、関係国と協議しつつ、国際機関等において適切な措置が講ぜられるよう努めること。  六 今回の事件の背景が国際的軍事緊張にあるにかんがみ、国際緊張緩和軍備縮減について最大努力を行うこと。   右決議する。     〔拍手〕 以上でございます。  本決議案提出に当たりましては、事件発生以来、議院運営委員会理事会において、鋭意協議を重ね、自由民主党日本社会党公明党国民会議民社党国民連合日本共産党及び新自由クラブの六党共同提案として提出いたすことになったものであります。  何とぞ、議員各位の御賛同をお願いいたします。(拍手)     ―――――――――――――
  8. 福田一

    議長福田一君) 採決いたします。  本案を可決するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  9. 福田一

    議長福田一君) 御異議なしと認めます。よって、本案は可決いたしました。(拍手)  この際、外務大臣から発言を求められております。これを許します。外務大臣安倍晋太郎君。     〔国務大臣安倍晋太郎登壇
  10. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) ただいま御決議のありました大韓航空機撃墜事件に関しましては、これまで再三明らかにしておりますとおり、政府といたしましても、いかなる理由があるにせよ非武装かつ無抵抗の民間航空機撃墜することは断じて許されず、強く非難されるべきであるとの立場から、ソ連側に対して、真相究明事件に対する誠意ある対応を求めてこれまで鋭意折衝を行ってまいりました。  しかるに、ソ連側は、撃墜の事実は認めたものの、自己の責任を認めようとせず、今日に至るまで事件に対して誠意ある対応を行っていないことはまことに遺憾であります。  かかる状況にかんがみ、政府は、ソ連側に深く反省を促し、事件に対して誠実に対処することを強く求めるため、去る九日、一連の対ソ措置を発表いたしました。  政府といたしましては、ただいま採択されました御決議趣旨を十分に体しまして、今後とも引き続き最大限の努力を払う所存であります。(拍手)      ――――◇―――――  国務大臣演説に対する質疑
  11. 福田一

    議長福田一君) これより国務大臣演説に対する質疑に入ります。田邊誠君。     〔田邊誠登壇
  12. 田邊誠

    田邊誠君 私は、日本社会党を代表して、中曽根総理所信表明演説に対して、わが国が当面をする重要政治課題にしぼって質問いたします。  まず初めに、韓国民間機ソ連領空を侵犯して、ソ連空軍機によって撃墜された事件はきわめて遺憾であり、遭難された二百六十九名の犠牲者に心から追悼の意を表します。  武装していない民間機を、たとえ領空侵犯したとはいえ撃墜するということは、人道上断じて許すことはできません。わが党は、ソ連政府の責任を厳しく追及するとともに、真相の公表と、国際社会が納得する措置を強く求めるものであります。(拍手)  しかし、同時に、今回の事件には多くの疑問点があります。なぜ韓国民間機が正規の航空路から二時間以上も外れ、ソ連領空を侵犯したか。日米の哨戒機及びレーダー網が早くから領空侵犯の事実をとらえ、長時間にわたってその行動を知りながら、この痛ましい惨事を未然に防止することがなぜできなかったのか。これらの点を、人道上の見地から政府に明らかにしていただきたいと思います。(発言する者あり)  今回の事故は、為政者によってつくり出された国際的軍事緊張が引き起こした民間機の犠牲であります。核抑止論軍事均衡論によってつくり出された軍事緊張は、国民の生命や財産を守るものではなく、一般の市民、非戦闘員を犠牲にするものだということを象徴的に示すものが大韓航空機の惨事であります。(拍手)このような惨事が再び起こらないように、極東の緊張を緩和し、軍縮促進に全力を挙げることがまさに急務であります。(拍手)  総理、仮に米ソを中心とする核戦争が起これば、瞬時にして数億の人が犠牲になり、その大部分は一般市民なのであります。たとえ核戦争でなくても、狭い国土に人口が密集し、人家や工場が軒を接し、数千万台の車が往来する日本が戦場になれば、東京大空襲以上の惨事と登ることは必至であります。日本列島を不沈空母にするということは、国土を戦場に提供しても構わないということに通ずるのであり、一億一千万の国民の生存を無視するものであります。  総理、国を守るということは国民の生命を守ることであり、国民を犠牲にし国土を廃墟とすることでは断じてありません。(拍手)  総理は非武装中立論を激しく攻撃していますが、敗戦の廃堀の中から現代戦の非人道性を真剣に反省して生まれた日本国憲法の理念が、まさに非武装中立であります。総理は、日本国憲法の、武力によらず、諸国民の公正と信義に信頼して国民の安全と平和を守るという、この理念を否定されるのですか。現代戦の非人道的特徴をどう理解しておられるのか、見解をお伺いしたいのであります。(拍手)  中曽根内閣になってから、政府の外交政策は、これまでの内閣と質的変化が感じられます。一月の訪米で総理は日米運命共同体諭を唱え、ソ連敵視の姿勢を強めて、日米軍事同盟化に大きく踏み出したのであります。五月の先進国サミットでは、パーシングⅡと巡航ミサイル欧州配備断行を主張されたのであります。これは、福田内閣当時の全方位外交とは全く異質のものであり、米ソ対立の一方に加担し、わが国の非核三原則の精神を踏みにじり、米国の核戦略に追従したものであります。  いま、米ソ両国は、互いに相手よりも軍事的優位に立とうとして果てしなき核軍拡競争を続け、しかも、軍事技術の発達によって核兵器はますます精度と破壊力を増しています。敵親は敵視を呼び、軍拡は軍拡を招き、核抑止など幻想となっているのであります。世界最初被爆国日本は、非核三原則を国是とし、核廃絶を世界に訴える責務があります。また、日本は、米国と異なり、資源の多くを海外に依存し、いずれの国とも平和友好を保たなければ存立を危うくする特殊性を持っています。少なくとも全方位外交に立ち返り、平和憲法を高く掲げた自主外交を弾むべきであります。  総理は、非核三原則を国是とし、平和憲法を持つわが国特殊性をどう認識しておられるのか、全方位外交に立ち返り自主外交を貫く考えはないのか、明確な答弁を求めるものであります。(拍手)  また、中曽根内閣のもとで防衛政策も大きく変質しようとしています。  中曽根内閣になってから、対米武器技術供与に踏み切り、F16戦闘爆撃機三沢基地配備や核装備可能な氷船舶の日本寄港を相次いで認め、シーレーン防衛についての見解を大きく変更しています。中曽根総理は、日米安保条約に基づく日米共同対処行動時の米艦護衛個別自衛権に入るとし、さらに、輸送する物資がわが国にとって必要不可欠なものであれば、領域外で他国の艦船を護衛することも可能などの見解を示しました。中曽根内閣のもとでの最初の防衛白書はこれらを明記し、さらに海峡封鎖について完全かつ全面的なコントロールに言及し、必要に応じ機雷を敷設するとまで述べています。  これらは、自衛隊国土防衛を超えて領域外での作戦に踏み出すことを認めようとするものであり、従来の専守防衛の域を超え、憲法違反集団自衛権に踏み込むものであります。防衛白書は、従来の日本の防衛白書から西側の防衛白書に変質しました。中曽根総理は、自衛隊を米軍の極東戦略補完部隊に提供して、日本防衛自衛隊ではなく西側陣営の軍隊に変質させるつもりなのか、お答えいただきたいのであります。(拍手)  もちろん、経済大国と言われる日本の国際的責任が大きくなったことは当然であります。しかし、責任の果たし方は軍事的方法でやるのではなく、平和的貢献をすべきであります。貿易摩擦解消のために内需振興を推進し、開発途上国への積極的援助を行うなど、力の外交ではなく、相互協力相互信頼の外交の先頭に立つべきであります。開発途上国の民衆の生活向上につながる援助を追求し、人権尊重民主政治発展の努力をすべきであります。日本政府金大中氏事件に対する態度は、まさにこれに逆行するものと言わなければなりません。  また、日本政府は、非人道的な殺戮兵器の廃絶に向け、どのような努力をしてきたのでしょうか。核兵器先制使用決議中性子爆弾禁止決議などに反対したのではありませんか。  今日の政治家の最大の任務は、国際緊張をあおって軍備増強を進めることではなく、非人道的な悲惨な戦争を回避して、国民の安全を守るために非軍事的手段で平和を築くためあらゆる努力をし、日夜心を砕くことであります。  この立場から、わが党は、レーガン大統領の訪日に際し、日本国民の総意として、米ソの核削減交渉を推進すること、米ソの平和共存を進め、軍縮を実現して軍事費を削り、開発途上国への援助に回すこと、さらに、世界経済停滞の要因となっている米国の高金利を引き下げることを強く主張し、日本への軍備増強圧力に反対すべきだと考えます。レーガン大統領を迎えるに当たっての総理の見解を求めます。(拍手)  次に、政治倫理の問題について質問をいたします。  中曽根総理は、最近、故松村謙三氏の十三回息に臨み、「松村先生から政治の基本を教えられた。松村先生が穴のあいた靴下をはいておられるのを見て、その清廉さに胸を打たれた」と語ったと聞いております。ところが、政界の現状はどうでありましょうか。  自治省公表政治資金報告書によれば、昨年の政治資金は史上二位、一千億円を超える巨額に達し、中でも自民党総裁選挙をめぐって資金の動きが活発化し、資金力政治力に比例したとも言われておるのであります。また、自民党への政治献金がふえ、大蔵省出身自民党参議院議員が、サラ金規制が問題になっているさなかに、サラ金業者から巨額の政治献金を受けるなど、金権政治の弊害がさらに強まろうとしております。  金の力で政治が動く金権政治を改めない限り、国民の政治不信は広がり、民主政治の土台が崩れます。さきの参議院選挙棄権率史上最高になったのは、このことと無関係ではありません。金権腐敗政治を一掃し、政治倫理を確立することは避けて通ることの許されない民主政治の大前提であります。(拍手)しかるに、多弁と言われる中曽根総理が、これまで三回行われた所信表明演説で、政治倫理についていずれもわずかしか触れないのはどうしてでありましょうか。松村先生から教わった政治の基本をお忘れでありましょうか。  政治倫理の確立には、政治家政治的道義的責任を国民の前に明確にし、姿勢を正すことが何よりも重要であります。一国の総理大臣の要職にあった者が受託収賄罪の嫌疑で刑事訴追を受け、懲役五年、追徴金五億円の求刑を受けるに至った田中問題こそ、政治家政治的道義的責任を問われている象徴的事件であります。(拍手)  中曽根総理は、この田中問題を三権分立論で逃げようとしていますが、問題は、政治家政治的道義的責任の問題であり、決して法律論技術論ではありません。田中元首相自身も、第一回公判の席では、「汚職の容疑で起訴に至ったということは、それだけでも首相の名誉を損なったことであり、万死に値する」と陳述したではありませんか。一国の政治の最高責任者の地位にあった者が、率先して政治的道義的責任をとろうとせず、力さえあれば何でもできるという風潮を流しているところに今日の社会のゆがみを生む根源があります。  中曽根総理は、青少年非行対策として道徳教育を強調されておりますが、政治家が、金権腐敗の風潮をつくり、道義的責任を明確にしないで道徳教育を語る資格がありましょうか。私自身、野党各党を代表して田中角榮議員辞職勧告決議案の提案を行った者として、このことでこれ以上議論すること自体悲しいことであります。中曽根総理自身が盟友である田中議員にとるべき道を示すべきではないでしょうか。政治の基本姿勢にかかわる問題として、総理の決意を国民の前に明らかにしていただきたい。(拍手)  また、政治汚職の根を絶つためには、速やかに国会に倫理委員会を設置し、わが党が提案している政治家高級公務員資産公開制度化情報公開法の制定を行うべきであります。  特に、金の力が政治を動かすという金権体質を改めるためには、政治資金規正法の改正が急務であります。三木内閣時代企業献金規制の改正が行われた際、五年後の昭和五十六年一月までに個人献金へ移行するための見直しを約束していますが、いまだに行われておりません。そればかりか、規制に逆行する動きすら自民党内に強まっています。総理は、清潔な政治を実現するため、政治資金規正法の改正に着手する考えはあるのかないのか、正直に本音をお聞きしたい。(拍手)  次に、経済政策あり方について質問をいたします。  わが国の経済は、石油価格の値下がりによる消費者物価の安定と、輸出の予想以上の回復によって景気は底入れをしたと言われておりまするが、依然として中小企業の不況は深刻であり、雇用情勢の悪化、社会的不公平の拡大、歳入欠陥の増大など深刻な事態にあります。  中曽根総理は、サミット内需主導型の景気回復を目指していくと約束しながら、何ら具体策をとらず、景気底入れと言われるのも輸出の好転に支えられたにすぎません。これでは経済摩擦の拡大を招き、対日批判が増大して、輸出が落ち込めば直ちに景気にかげりをもたらすことになります。わが国は、内需主導型経済に転換を図り、思い切った山場拡大政策をとり、国際的責任を果たすべきであります。  そのためには、第一に、所得税減税を実施し、個人消費の拡大を図らなければなりません。(拍手)所得税は、六年間も減税が行われなかったため、名目所得がふえれば低所得層が大量に課税対象世帯になり、すべての所得層がより高い税率の適用を受けて勤労所得者税負担が増大し、不公平が拡大しています。所得税減税は、いまや国民すべての切実な要求であり、内需拡大による景気対策をとるにしても、少なくとも所得税一兆円、住民税四千億の減税は必ず実施すべきであります。  去る九月九日、自民党から野党各党に示された減税に関する回答、すなわち、景気浮揚に役立つ大幅な規模の減税を年内に実施する、そのため課税最低限の引き上げを含む減税法案を十月下旬までに政府をして提出させるという約束を、自民党総裁である中曽根総理、あなたは必ず守って大幅減税を実施されるか、この際、明確な答弁を求めるものであります。(拍手)  また、そのための財源は、経済情勢の好転による税の増収や、十二兆円に上る各種引当金の改廃、利子配当所得の特例など、不公平税制の徹底した是正によって行うべきであります。また、減税と抱き合わせの大衆増税をしないことも、この際、明確にしていただきたいと存じます。(拍手)  第二は、人事院勧告の問題であります。昨年度は、人勧凍結によって五百二十六万人を超える公務員労働者が一兆円以上の賃金カットをされ、それは家計の収入減個人消費の低迷となって景気に影響を及ぼしてまいります。スト権の代償として与えられている人事院勧告の凍結は明らかに違法であり、今年度の人事院勧告は完全に実施すべきであります。仲裁裁定の実施とともに、必ずお答えをいただきたいのであります。(拍手)  第三は、中小企業対策として、中小企業向け官公需発注割合の拡大、投資減税の実施、事業継承税制の確立を図り、中小企業設備投資の拡大を促進して内需拡大を図っていくべきであります。  第四に、今年は地震や台風、集中豪雨による大規模な被害があり、冷害による農作物の不作も深刻であります。被災者の方々に心からお見舞い申し上げます。これに対する施策も含めて、政府は今国会に補正予算を提出すべきであると考えますが、総理の見解を明確にお伺いいたします。(拍手)  わが国は、現在、国債残高は五十八年度末で約百十兆円、地方債残高は約五十兆円、国、地方合わせて百六十兆円に上り、これは国民一人当たり百五十万円の借金が押しつけられたことになります。こうした国債の累積は、まさに多年にわたる自民党政府放漫財政の結果であります。一体、この財政再建をどのようにして進めていくのか。  中曽根総理は、「増税なき財政再建」を公称しておりますが、その対策は、さきに政府が策定した「一九八〇年代経済社会の展望と指針」の中で、「基本的には歳出の抑制」と「歳入の確保又は借換債の発行ということも含めての公債発行」という手段によって行うと述べているだけであり、何ら具体策が明らかにされていないのであります。  歳入の確保というが、実質経済成長率四%で一体租税収入がどの程度見込むことができ、昭和六十五年に赤字国債発行ゼロが可能なのか、国民の前に明確な具体策を示すべきであります。  また、歳出の抑制についても、一体来年度以降の予算で歳出の抑制をどの分野で行うのか。行政改革と称して中曽根内閣が行ってきたのは、教育費社会保障費の削減による国民へのしわ寄せであり、本来進めなければならない高級公務員天下りの規制、むだな補助金の削減をそのまま放置しているのであります。  来年度予算の概算要求で、私学補助金の削減や教科書の無償制度の廃止が検討されたり、健康保険保険者給付率を八割に引き下げ、児童手当の補助を削減するなどが明らかにされているのであります。こうした国民生活に直接影響する教育費社会保障費の削減によって財政再建を進めるという方法は、痛みを公平に分担するやり方とは断じて言えないのであります。(拍手)  しかも、他方では、防衛費は別枠にして突出させているのであります。概算要求では、五六中期業務見積もりの第二年度予算として、期間中達成を目指して、正面装備の拡充を中心に、対前年度比六・八八%も増大し、しかも昭和六十年以降に支出される後年度負担を二兆五千億円もふやしているのであります。後年度負担伸び率は、前年比、驚くなかれ二五・五%増であり、他の経費の削減に比べ、防衛費のみ驚くべき増加であります。これでは財政再建行政改革は名ばかりで、防衛費を捻出するための歳出抑制だと言わなければなりません。(拍手)歳出抑制を主張するなら防衛費を聖域扱いせず、思い切って削減すべきであります。  中曽根総理は、この臨時国会行革国会と位置づけておるのでありますが、行革関連法七件はいずれも行政の民主化を図る内容を持っているとは言えないのであります。行革のシンボルとして提案されようとしている総理府と行政管理庁の統合も、単なる機構いじりにすぎないのであります。それも官僚の強い抵抗で実質的効果が薄れたものになっているのであります。  わが党は、自民党政治のもとで肥大化した行政制度を当然改革する必要があると考えております。世論調査にあらわれた国民の行政改革に対する要求は物価調整減税の措置であり、不公平な税制の是正であり、政治家と大企業と官僚の癒着や高級官僚天下りの規制であり、情報公開制度を確立すべきだということであります。(拍手)私は、これらにメスを入れ、行政への信頼を回復することが行政改革であると確信をいたします。中曽根内閣行政改革は、福祉と教育費を切り捨て、防衛費をふやすためのものであり、弱い者いじめの行革との批判を免れません。真に国民の望む行政改革に転換する意思ありや、お伺いしたいのであります。(拍手)  私は、ここで今後の経済政策についてわが党の提言を示し、総理の見解を求めたいと思います。  わが国の経済が低成長時代を迎えて、国際経済摩擦財政危機高齢化社会などの難問を抱え、大きな転換期にあることは事実であります。しかし、この転換期福祉切り下げ大衆負担の増加など、国民への犠牲転嫁だけで乗り切ろうとしても、かえって内需停滞を招き、貿易摩擦財政危機を強めるだけであります。わが党の提案は、さきに述べた大幅減税をてことする内需振興によって、当面の景気回復を図る短期対策につなげる中期的視点に立った新たな角度からの政策を推進することであります。  その第一は、公共投資あり方を変えることであります。輸出主導につながる投資や旧来型の公共土木ではなく、住宅環境、医療、福祉、教育施設なども含めて、緑の生活環境、災害に強い都市再開発を行うなど社会開発投資に切りかえることであります。また、労働時間短縮を進め、余暇を楽しみ、知識を高め、スポーツを振興する文化的公共施設を拡充し、次の世代に残る公共投資を行うことであります。(拍手)  第二は、この社会開発投資地場産業の振興と雇用の安定確保に結びつけることであります。産業ロボットなどの導入がやがて雇用減につながることは確実であります。これに対して労働時間短縮による雇用確保、新たな知識や技術に対応する職業訓練などの対応策を急ぐべきであります。  また、高齢化社会に対する定年延長と、定年後もキャリアや健康に応じて就業者所得を高めていくような雇用制度も必要であります。これらと地域を重視した社会開発とを結びつけ、新しい生活の質を高めていくべきであります。  そのためには、地域住民の参加、分権、自治の尊重、パート労働の保護や高齢者の社会参加の保障、婦人の年金権の確立、最賃制の確立、労働時間短縮など、あらゆるレベルでの社会的公正の徹底を図る改革が前提であります。  このような内需優先型の安定成長によって、貿易摩擦財政再建も中期展望の中で解決が可能となるのであります。それは、これまでの輸出主導型、国際競争激化、軍備増強という経済大国主義、軍事大国化から根本的に転換し、戦後政治の新時代を切り開くものであり、言うならば平和な文化大国を目指すものであります。(拍手)  中曽根総理の言う戦後政治の総決算は、明らかにこれと異なるのではありませんか。総理は、口に内需振興を言いながら具体策はなく、輸出主導型の景気回復に頼り、民主主義を育てようとせず、福祉、教育費を切り捨て、軍事力だけを増強する危険な軍事大国への道ではありませんか。われわれの主張するこの平和な文化大国を目指すか、中曽根内閣による危険な軍事大国の道を進むか、今日その選択が求められていると思います。(拍手)総理の所信を明らかにしていただきたいのであります。  私は、最後に、中曽根総理の政治権力の座にある政治家としての本心をただしたいと思います。  総理は、今年一月訪米したときは、三海峡封鎖日本列島不沈空母化など、国民がぞっとするようなタカ派的発言を公言した。ところが世論の厳しい批判を受けると、一転して四月以降は緑と花の日本列島に変わった。また、東南アジア歴訪では、日本は軍事大国にならないとか、防衛力整備は憲法の枠内でやるなどとハト派のポーズをとったが、一転してウィリアムズバーグ・サミットでは、西欧への核配備を積極的に支持し、NATOと軍事同盟を認めるかの発言を行い、憲法の枠を明らかに踏み越えたのであります。一体どちらが本音なのか。ハト派的発一言は、選挙向け、東南アジア向けの一時的便法なのか。言葉を使い分けて国民を改憲の方向に誘導しようとするのか。それとも不沈空母発言を反省し、悔い改めて憲法の枠内を守るというのか、明確な答弁を求めたいのであります。(拍手)  総理は、八月六日に広島の平和式典に参加し、「国是である非核三原則を守る」と述べられました。これは、日本の総理大臣であれば当然のことであります。ところが、総理は、同じ広島で原爆養護ホームを見舞い、「病は気から」と言い、朝鮮出身者のいるところで、「日本人は単一民族だから泥棒も少ない」との趣旨を述べ、抗議を受けたのであります。  このような言葉をもしうっかり発言したとすれば、まさに総理としての資質を問われると思います。また、もし作為的に言ったとすれば、国民を侮べつするものでありましょう。総理、原爆症で筆舌に尽くし得ない苦しみを続けている人たちに「病は気から」などと言ってのけるあなたは、あの恐ろしい核戦争の残虐さをどう考えているのですか。偏狭で排他的な姿勢で、国際国家日本の役割りを語る資格があるとお考えですか。  総理のこのような体質が、いま右翼を元気づけ、日教組の大会を暴力で妨害し、わが党の国会議員に白昼公然と暴力を加える民主主義崩壊の風潮を生み出しているのではありませんか。(拍手)総理の言う「戦後政治の総決算」とは、このような日本国憲法の否定につながるものではないのか、国民は大きな危惧の念に駆られているのであります。新憲法制定以来第百回の記念すべきこの国会において、総理の憲法に関する基本姿勢について明確な答弁を求めるものであります。(拍手)  中曽根総理、あなたと私と郷里を同じくする群馬の先覚者内村鑑三先生は、群馬県人の気質を称して、「剛毅朴訥、人に欺かれやすし」と述べられております。中曽根さん、あなたの毀誉褒貶の激しい言動は、これと全く正反対のものと感じているのは私一人でありましょうか。この際、人に欺かれても政治家としての大道を歩まれることを強く求めて、私の質問を終わります。(拍手)     〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
  13. 中曽根康弘

    内閣総理大臣(中曽根康弘君) 田邊議員にお答えをいたします。  多様な御質問をいただきましたので、一つ一つお答え申し上げたいと思います。  まず、大韓航空機事件でございますが、ここにおります議員の皆様とともに、御家族の皆様方に改めてお見舞いを申し上げる次第でございます。  非武装かつ無抵抗の民間航空機撃墜することは、まことに人道にもとり、国際法に反するのみならず、国際民間航空安全確保という点からも断じて許されることではございません。  その上、ソ連側が自己の非を率直に認め、真相公表するようにわれわれは要望しているのでございますが、このような納得する措置をいささかも行っていないということは、はなはだ遺憾千万であります。われわれは、世界の諸国民の皆様方とともに、あくまでこの責任の所在を明らかにし、われわれが納得する措置要求して、実現いたしたいと思っております。  大韓航空機がなぜ予定の線を外れて飛行したか、これは韓国においても調査中でありますが、原因は明らかになっておりません。政府としては、今後とも関係各国と協力して明らかにしていきたいと思っておるところでございます。  しかし、大韓航空機が航路を二時間以上にわたって逸脱して飛行していたことを知りながら、なぜ未然に防止しなかったかとの御質問に関しましては、すでに七日に外務省情文局長談話の中で明らかにしておりますとおり、本件大韓航空機がソ連機のミサイルにより撃墜されるまでの間、わが国の航空管制当局も自衛隊も、大韓航空機が本来予定されていた航路を逸脱して飛行していたことを知り得る状況にはなかったのであります。また、米国におきましても、大韓航空機撃墜されるまでの間、同機が航路を逸脱して樺太上空を飛行していた事実は、その時点におきましては知り得なかったものと承知しております。  次に、国際緊張の緩和と軍縮の促進の問題でございますが、わが国といたしましては、世界の平和と安定のための実効ある軍縮が行われるように主張してきたところでございます。  軍縮にとって一番大事な点は、心理的にお互いが信頼し得るという確信を持つ措置を行うことである、こう考えます。そういう意味におきまして、効果的な検証措置を伴った実効的な軍縮が行われるように、一歩一歩着実に進めるということが必要であると思い、特に核軍縮中心として、できる限り軍縮努力を今後も進めていくつもりでございます。  次に、非武装中立現代戦の性格について御質問がございました。  非武装中立につきましては、憲法の前文にあります「諸國民の公正と信義に信頼して、」国際協調に根差した平和主義の理想を掲げている、こういう点についてはわれわれも理解し得るところでございます。  しかし、非武装中立に関する最近売れておりまする本を私も拝読いたしましたが、この御主張につきましては、われわれは賛同することはできません。  御主張を拝察いたしますに、第一に、日本国憲法の面から見て非武装中立である、こういう御主張でございますが、しかし、憲法自体は、日本が国家として存立するために必要最小限の自衛力を持つことを否定していないのであります。憲法自体が独立して存在しているためには、憲法自体が自分で身を守り独立して存在し得る措置を講ずることは当然なのであります。これまで否定するということは、われわれから見れば、これは護憲ではない。護憲という場合には、憲法の独立の存在を保障し得る措置を講じて初めて護憲であると言い得るのではないかとわれわれは考えるのであります。(拍手、発言する者あり)  第二に、安保条約というものは、これは戦争に巻き込まれる要素ではないかという御質問でございますが、これは均衡と抑止に基づきまして、戦争を起こさせないように均衡を維持し抑止力を保持しているのが安保条約の趣旨であり、第二次世界大戦以来、日本戦争に巻き込まれなかった大きな理由の一つには、やはり安保条約が存在しているということをわれわれは無視することはできないと思います。(拍手)  第三番目に、どうせ守っても守り切れないんだから降伏した方がいいのではないかという印象の言葉がございました。これは、はなはだけげんな言葉でございまして、第二次世界大戦のときに降伏してよかったんだから、今度も降伏した方がいいのではないかという趣旨の言葉に押されました。私は、この言葉は納得ができないのであります。やはり、ゼネストとかストライキによって外国軍隊が帰ると思ったら大間違いでありまして、今日のアフガニスタンの情勢を見れば、十万の大軍が入って、あれだけのゲリラ活動をやってもソ連軍は帰っておりません。そういう状況等を見ましても、この降伏論に通ずるような考え方ははなはだ危険であると私は考えております。(拍手、発言する者あり)  「非武装中立論」を拝読いたしました印象は、要するに非現実的であり、そうして幻想的な理念を追い過ぎているという感じがするのでありまして、今日のあの北方における大韓航空機事件等を見ましても、国際関係におきましては、潜在的に一触即発の状況があるということを国民の皆様はよく御了知なすったのではないかと考えておる次第であります。(拍手)われわれは日本国憲法を守り、必要最小限の防衛力の範囲内において非核原則を守り、軍事大国にならず、そのような原則を守りながら、国家の存在を全うしていきたいと考えておるところでございます。  次に、外交基本原則について御質問がございましたが、日本の国家を存立していくためには、まず基本的には自分で自分の国を守るということ、それから、安保条約によりましてアメリカと提携して抑止力を維持していくということ、さらに、外交やそのほかの総合的な安全保障政策をもって平和的環境を醸成するということ、この三つがやはり大事ではないかと考えておりまして、その努力をしているつもりでございます。  サミットにおきまするINFの問題について、特にSS20の問題について御質問がございましたが、この二月でございましたか、アメリカのブッシュ副大統領は西欧を回りまして、このSS20の問題は全地球的規模で解決したいという希望を申したところが、西欧の中ではあいまいな答弁をした国があったように聞いております。私はこれを聞きまして非常に重要であると思ったのであります。あのSS20の問題をヨーロッパにおいて解決する場合に、アジアや日本犠牲において解決されては断じてならぬというのが私の信念であります。(拍手)そのためには、軍備を縮小し核を削減する交渉をレーガン大統領とアンドロポフ書記長はやる、これが一番早い方法である。それを行わせるためには自由世界が結束してその足場をつくろうというのがあのときの声明でございます。したがいまして、そのような平和と軍縮を求むる政治的声明に日本が参加したがために、私は、アジアや日本犠牲においてあのSS20を解決しないということが声明に載れたという要素が非常に大きいのであると考えておるのであります。(拍手)そういう点も現実政治の場として御理解をいただきたいと思うのでございます。  私は、いわゆる平板的な全方位外交論という考え方に賛成いたしません。やはりわれわれは、抑止力と均衡を軸にして平和を維持しているという現実的観点に立脚しております。したがって、抑止力と均衡を有効に成立させていくというためには、自由世界の諸国と協調すること、特にアメリカとの靱帯を重要視するということ、そういうような基礎の上に立ってそのほかの国々と友好親善を広げていくというのがわれわれの考えでございまして、いずれにせよ、国交関係においては濃淡があるはずであります。わが国の国益と世界の平和を維持していくために何が有効であるかという観点に立った濃淡があると私は考えておるのでありまして、平板的ないわゆる全方位外交という考え方はとりません。  次に、防衛政策基本につきまして御質問がございましたが、先ほど御答弁申し上げましたとおり、われわれは、平和を目的に、日米安保体制の円滑的な、効果的な運用を図り、平和憲法のもとに近隣諸国に脅威を与えるような軍事大国にはならずに、非核原則を堅持して必要最小限の防衛力を整備していきたい、このように考えております。  レーガン大統領の訪日につきましては、世界的な諸問題及びアジアの平和と安定の問題、それから世界経済及び日米関係経済関係、そのほか二国間問題、さらに友好親善を深める方策等につきまして、隔意のない懇談をいたしたいと思っております。アメリカ大統領がおいでになり、また胡耀邦主席もおいでになり、コール首相もおいでになる十一月は、われわれは熱情を込めて御歓迎申し上げたいと思っておる次第でございます。  政治倫理について御質問がございましたが、民主政治国民信頼の上に立つものでございまして、議員個々、一人一人の道徳性の問題あるいは政党や政治団体が澄明にして国民から信頼される運営を行うという問題、あるいは議員おのおのが民主政治をさらに高揚せしむるために積極的に人権やそのほかの問題で努力するという問題、こういう問題につきましてはさらに努力してまいりたいと思うのでございます。  そうして、田中議員の問題について御質問がございましたが、伝えられますように第一段階の処置が近く行われるように考えられますが、そういう時期が近づけば近づくほど静かにこれを見守ることが正しい態度ではないだろうか。そして、政府としては、この前施政方針でも申し上げましたように、憲法の諸原則すなわち三権分立の原則を厳守してまいりたいと考えておる次第でございます。  倫理委員会の設置やそのほかの倫理上の諸政策について御質問をいただきましたが、これらは各党間で十分協議を重ねて、早期に適正な方策が生まれることを期待しております。  情報公開につきましては、臨調の最終答申におきましても示されておるところでございまして、この最終答申の線に沿って、それを踏まえつつ検討してまいりたいと思っております。各地方公共団体等におきましてこの情報公開の条例が制定されておりますが、あれらも十分参考にいたしまして、政府としては前向きの方策で進んでいきたいと考えておるところでございます。  さらに、政治資金規正法につきまして御質問がございましたが、これは各党のよって立つ財政基盤あるいは各党の政治活動分野等とも関係しておる問題でありまして、各党間で十分に協議をされ、合意を形成していただくように希望するものでございます。  次に、経済の問題について御質問をしていただきました。  市場の拡大政策でございますが、わが国は、自由貿易体制を維持し、調和のある対外経済関係を強化し、世界経済の活性化に資するように、いままで市場開放政策や内需を中心にする経済政策をとってきたところでございます。われわれは、さらにこれらの国際的協調を果たし、内需の振興に努め、息の長い安定的経済成長を図ってまいりたい。特に、この場合に、中小企業あるいは民間活力の強化という面について重点を入れていきたいと思っております。  減税について御質問がございましたが、所信表明演説にも申し上げましたように、与野党の意向を踏まえた衆議院議長見解に基づいて、必ずこれは実施いたします。現在、税制調査会におきまして、諸般の問題について検討をしておるところでございます。この審議を促進するようにいたしたいと思っております。  所得税減税財源につきまして御質問がございましたが、赤字公債の増発によることは不適当でございまして、できるだけ経費を削減する等の処置により、後の世代に大きな負担を負わせないように努力することが必要であると考えております。  また、与党の幹事長が野党の皆様方に言明いたしましたことは、議院内閣制の趣旨にもかんがみまして、最大限尊重してまいりたいと思っております。  人事院勧告につきまして御質問をいただきました。  この人事院勧告につきましては、給与関係閣僚会議におきまして、勧告制度尊重という基本的たてまえに立って、国政全般との関連において検討しておるところでございます。  仲裁裁定につきましては、その実施予算上可能であるとは断定できないとして国会に付議したものでございますから、政府としては、国会の御判断を待つべきものと考えます。  中小企業向けの官公需について御質問をしていただきました。  本年度の中小企業向け契約目標比率は、昨年度は三七%でございましたが、三七・三%に決めまして、その確実な達成に努力しているところでございます。本年度は、設備投資減税あるいは所得税減税等々も考慮しておりますが、中小企業につきましては、厳しい財政の中で、取引相場のない株式の評価の改善合理化を行うとともに、個人事業者の事業用宅地等の課税の特例措置を講ずることとしたところでございます。さらに、投資減税につきましては、新たな特別措置、一定の要件のもとで三〇%の特別償却を認めるということを講ずることといたしました。今後も、中小企業者の設備投資拡大につきまして努力してまいります。  補正予算の問題について御質問をしていただきました。  日本海中部地震や山陰豪雨等の対策につきましては、万全を期してまいりますが、これらの災害復旧費を含め、五十八年度の追加財政需要等については、現時点ではまだ不確定的要素が多く、何とも申し上げ得る段階ではございません。  財政再建の進め方でございますが、歳出を見直し、安易に増税を念頭に置くことなく、行財政の守備範囲を見直すという従来からの見地を徹底してまいります。そして、「増税なき財政再建」の理念は堅持してまいる考え方であります。  さらに、特例公債償還の財源を何に求めるかという御質問でございますが、いまの段階では具体的に申し上げることはできません。今後、経済情勢、財政状況等の推移を見つつ、各方面の御意見等も伺いながら検討を進めてまいりたいと思います。  特例公債依存体質からの脱却でございますが、「一九八〇年代経済社会の展望と指針」におきまして、対象期間中の実質経済成長を四%に見込んであります。そして、こうした経済が実現しましたといたしましても、現在の財政が置かれている厳しい状況から見て、対象期間中に特例公債依存体質からの脱却に努めるには歳出構造の思い切った見直しが必要でございます。こうした財政改革につきましては、今後、予算編成の過程において具体的に進めてまいります。  なお、今後の中長期の観点から財政改革をどのように進めるかについては、財政制度審議会で検討着手をお願いしたところであります。五十九年度の予算編成後、中期的な財政の展望を作成するとともに、今後の財政改革を進めていく上での基準となる考え方を明らかにする方向で努力してまいるつもりでおります。  次に、歳出抑制でございますが、五十九年度予算編成におきましても、この歳出抑制という国民的課題に向かってさらに取り組んでまいります。すでに概算要求におきましてかなり厳しい要求に限定いたしましたが、行財政の守備範囲を見直す等の見地から、既存の制度、施策についても改革を行うなどの節減合理化が必要であるということも御理解願いたいと思うのであります。  なお、行政改革についていろいろ御批判をいただきましたが、政府は、臨時行政調査会の答申の線に沿って、行政改革を強く推進してまいる考え方でございます。特に、高度成長時代拡大した既存の制度、施策、機構の全般についての見直しを行い、簡素にして効率的な行政実施することが最大急務でございます。  次に、社会資本の整備、雇用政策について御質問をいただきました。  今後の社会資本の整備につきましては、この厳しい財政事情下に、国土国民の安全を守り、経済社会の活力を維持し、快適な国民生活を実現するための基盤となる社会資本の着実な整備を図ることを中心として、特に国土保全、都市の安全等、各部門につきまして整備を行う、次に、効率的な経済活動の基盤を形成するための交通通信部門を強化する、第三に、住宅、居住環境の整備を行う、こういう点に重点を入れ、地域における雇用の安定にも配慮してまいりたいと思っております。  なお、地域経済振興雇用安定確保に当たりましては、先端技術を中核とした地域経済振興、地域の人材、資源等を活用した産業の振興経済的停滞地域の活性化とともに、定年延長、能力開発等の雇用対策を推進してまいりたいと思います。  私がタカ派であるか、ハト派であるかという御質問をいただきましたが、私は鳥類ではないので、哺乳類でありまして、万物の霊長である人間であると申し上げたいのであります。  また、広島における発言について御質問をいただきましたが、あの原爆の老人ホームで、百二歳の老人以下九十歳、八十歳という御老人が多かったのであります。特に、女性の方が多うございました。そういう御老人を前にして、また原爆を連想するようなじめじめしたお話を申し上げることは恐縮だと思いまして、かえって、元気でいきましょう、しっかり元気を出してください、そういう意味であれを申し上げたので、皆さんは拍手していただいたと私は喜んだ次第であります。(拍手)  さらに、戦後政治の総決算についてお話を承りましたが、この意味は、戦後三十八年たちまして、特に高度経済成長やあるいは石油危機等を経験いたしまして、ずいぶん整理しなければならぬ行政機構等もあり、また教育等につきましては、文部省や日教組におきましても六・三・三制を検討するという機運にもなってまいり、いろいろな面で戦後というものを反省する時代に来た。  そこで、これらの戦後のあり方全体を総点検して、そしてその地平線を越えて次の時代へ前進しようというのが総決算という意味なのでありまして、過去に向かって見詰めていこうという考えではございません。この問題をすぐ憲法改正に直結してお考えになりますが、私は、戦後の三十八年というこの歴史的一時期というものを全体としてとらえて、これにどのようにわれわれは考えて相対すべきかということを問題にしておるのでありまして、すぐ憲法問題に直結するということは残念至極であります。私は、もっと広い文明史的な、文化史的な観点から、この時代をどのように考えたらいいか、どうすべきかということを申し上げておるのでございます。(拍手)  なお、内村鑑三先生のお言葉を引きまして御助言をいただきましたが、私は、内村鑑三先生の申しましたような正直、率直、こういう美徳を、田邊さんと一緒に大いに守ってまいりたいと思う所存でございます。(拍手)     ―――――――――――――
  14. 福田一

    議長福田一君) 橋本龍太郎君。     〔橋本龍太郎君登壇
  15. 橋本龍太郎

    ○橋本龍太郎君 私は、自由民主党を代表して、中曽根総理の蕨信表明に対し、若干の質問を行います。  まず、事件の重大性と緊急性にかんがみ、ソ連のミサイル攻撃によって撃墜された大韓航空機事件について、お伺いをいたします。  今回の事件犠牲となられた二百六十九名の方々に対し、わが党は深い哀悼の意を表するものであります。  去る九日のソ連の記者会見におけるオガルコフ参謀総長の説明においても、すべての真実を語らず、責任を他に転じ、無抵抗の民間航空機撃墜したその責任をソ連は認めようといたしておりません。このようなソ連のかたくなな態度に対しては、国際的な非難が寄せられております。いかなる理由が仮にあったとしても、無抵抗の民間航空機撃墜するような行為は、絶対に正当化され得ないものであります。  わが国とソ連との間には、わが国固有の北方領土の返還交渉という大切な課題を有しておりますが、北方領土問題とは別次元の問題として、政府は、ただいま行われました本院の決議をも踏まえて、ソ連の責任を徹底的に追及するとともに、原因を究明し、このような事件再発を防止する努力をすべきでありますが、総理のお考えをお示しいただきたいと思います。  次に、日本海中部地震、山陰地方を直撃した集中豪雨、台風五号、六号等により未曾有の被害が発生し、多くのとうとい生命が失われました。亡くなられた方々の御冥福をお祈りするとともに、御遺族に対し心からお悔やみを申し上げます。災害復旧に万全を期すとともに、今後の防災対策に全力を傾注されるよう、政府に対し強く要請しておきます。  さて、本国会は、日本国憲法のもとにおける第百回目の記念すべき国会でもありますとともに、当面の重要な政治課題である行政改革を着実に実施していく国会でもあります。  そこで、まず行政改革についてお尋ねしたい。  申すまでもなく、行政改革の推進は国民の声であり、今日の緊要の政治課題であります。一九八〇年代以降のわが国を展望いたしますと、国内的には、二度にわたる石油ショックを契機とした、経済成長の減速化に伴う財政事情の極端な悪化という状況のもとにおいて、高齢化、高学歴化社会への移行、国民の価値観の多様化などを踏まえた内政上の諸問題、対外的には、国際社会における役割りの増大の一方で経済摩擦への対応を迫られるなどの諸問題が山積しております。  こうした状況のもとにあって、行政の姿をこれからの時代にふさわしいものに改めていくことは急務であり、行政のあらゆる分野にわたって徹底した見直しを行い、行政組織の簡素化、合理化、制度及び運営の合理化を進め、簡素にして効率的な政府を実現しなければなりません。  このような基本理念に立ち、わが党は、今日まで一貫して行政改革を党の基本政策の一つとして、その推進に当たってまいりました。一昨年以来五回にわたる臨時行政調査会の各答申につきまして、わが党は、これを最大限尊重するとの基本方針を決定しており、すでに、国鉄事業の再建、年金制度の改革などは軌道に乗りつつありますし、一昨年秋の臨時国会における行革関連法の制定を初め、順次行革関連の法律を成立せしめ、また、昭和五十七年度及び五十八年度の予算編成などにおきましても、臨時行政調査会の各答申を踏まえて各般の改革が講ぜられているところであります。  私は、このような行政改革の推進に対するわが党の基本的方策については、国民各位の圧倒的な御支援をいただいているものと確信いたしております。  そこで、当面する行政改革の課題でありますが、政府は、去る五月、臨時行政調査会の全答申を踏まえた、いわゆる新行政改革大綱を決定されました。その後、臨時行政改革推進審議会が設置されておりますが、臨時行政調査会が解散した今日、世間においては、行政改革推進の責任はすべて政府にあるものと考えられており、総理の強力なリーダーシップが強く期待されております。そこで、まず総理行政改革推進に対する確固たる決意をお示し願いたい。  次に、改革の具体的方策についてお尋ねいたします。新行革大綱の具体化の方針についてであります。  今国会提案せられたいわゆる行革五法案は、新行革大綱の方針に沿って推進される行政改革の第一弾として立案、提案されたものであります。私は、今般の各法律案の提出に至る間における政府側の御努力を多とするものではありますが、今回提出の五法案は、新行政改革大綱に示された今後の行政改革の全体計画の第一着手でしかありません。  総理は、今国会における法律案の審議に先立ち、今後における行政改革全般の進め方の中での今回の各法律案の位置づけを明らかにされるべきであると考えますが、総理の御所見をお伺いをいたします。  財政再建は、行政改革とともに中曽根内閣最大の使命であります。中曽根内閣は、この責務を果たすべく、昭和五十八年度予算において一般歳出を前年度同額以下に抑制しましたが、続いて五十九年度は、経常部門原則マイナス一〇%、投資部門原則マイナス五%という、戦後財政史上例のない厳しいマイナスシーリングを設定されました。これは「増税なき財政再建」を必ず達成しようとする総理の不退転の決意を示すものとして、敬意を表するものであります。このような厳しい財政構造改善への努力を今後も続けられるならば、遠からず赤字公債依存財政から脱却できることと確信いたすものであります。  同時に、こうした厳しい財政運営を貫くためには、政府は、国民全体の理解と協力を得るための努力最大限払う必要があります。特に、今後人旦馬齢化が一層急速に進行するわが国において、本当に弱い立場の人々を犠牲にすることは絶対にしないという政府の強い決意を国民各位に理解していただかなければ、思い切った財政再建策は実施できません。国民の理解と協力を得るための政府の十分な努力を要請するものであります。  財政再建は、単に歳入歳出の均衡を回復するだけのことではありません。それは、適正かつ公平な税制の上での歳入歳出の均衡でなければなりません。現在のわが国の税収構造は直接税に著しく偏り過ぎており、これが国民の税の負担感を重くし、また、税収の安定性を弱めていることはっとに指摘されているところであります。しかも、所得税住民税は、財政再建最優先の立場から、ここ数年間抜本的な手直しが見送られてきたため、特に中堅所得階層の実質負担を年々重くしているのであります。  わが党は、さき参議院選挙におきましても、所得税住民税大幅減税を公約いたしておりますが、政府も現在、本格的な所得税住民税減税実施する準備を進めておられます。この機会にさらに一歩を進めて、私は、税収の直接税と間接税の比率を是正するため、現行の税体系そのものをも見直すべきであると考えております。減税問題を踏まえ、財政再建問題について、総理の御所見をお示しいただきたいと思います。  現在、政治に求められている最も緊急な課題は、打ち続く長期不況からの回復基調をより確かなものとし、失業のない安定成長路線を定着させることであります。それが民間活力を取り戻し、国民経済を繁栄させ、国民生活を充実向上させ、雇用を安定させる根本であります。また一面では、税の自然増収を増大させて、財政再建を促進する道でもあります。  政府は、期待される景気回復をより確実なものとするため、去る四月に「今後の経済対策」を閣議決定し、現在、その着実な実施努力しております。最近では、原油価格の低下や先般の対策の効果、米国景気回復輸出の増進などに支えられて景気底入れの機運が見られるなど、ようやく前途に明るさを見出しつつあるものの、なお内需の回復は力強さを欠いております。  内需の拡大に最も実効のある対策の一つとして考えるべきは、公定歩合の引き下げを引き金とした市中長期金利の引き下げであります。これは民間企業の金利負担を軽減し、経営を安定させ、投資意欲を高めるものでありますが、政府が「今後の経済対策」を決定せられて以来五カ月にもなるのに、公定歩合はいまなお五・五%に据え置かれているのであります。米国金利や円相場の動向が国内金利に大きな影響を与えていることは確かでありますが、余りにこれにこだわり過ぎて、当面最も急を要する長期不況の克服をおくらせるようなことになってはなりません。時宜を見て弾力的な対応が必要と考えます。第一次石油ショック後の深刻な不況を克服するため、公定歩合を三・五%にまで引き下げ、石油ショックを先進国中一番早く克服した実例もあるのであります。公定歩合の決定はもちろん日本銀行にゆだねられた事項でありますが、国政全般に責任を持つ内閣は、経済の動向に決定的な影響を持つ金利政策についても、主導的立場に立って適正に運用すべきであります。  不況克服の実効ある対策の一つは、内需の拡大に直接結びつく公共投資拡大でありますが、従来のような建設公債の増発による公共事業の拡大は金利の上昇を招来し、この面から景気回復に悪影響を与えるおそれもある上、財政再建の上からも多くの問題を含んでおります。したがって、民間活力の活用を図るための方途を検討すべきであります。  わが自由民主党においても、公共事業への民間活力の導入に関する特別調査会において積極的な検討を進めておるところでありますが、政府も、こうした民間活力の活用につき配慮すべきであると考えます。  経済対策について総理の御見解を承りたいと思います。  続いて、防衛問題についてお尋ねいたします。  わが国の平和と独立を確保し、国の安全を保障していくことが、国政の最重要課題の一つとして位置づけられるべきであることは論をまちません。  わが国は、憲法のもと、国際紛争は平和的手段によって解決することといたしておりますが、他方において、歴史、文化、社会制度を異にする主権国家で構成される今日の国際社会においては、平和が諸国間の力のバランスの上に成り立っていることもまた冷厳な事実であります。  この中にあって、わが国は、今後とも適切な規模の防衛力の整備に努力するとともに、日米安全保障体制を堅持し、自由と民主主義を初めとする基本的な価値観を共有する西側諸国の一員として、引き続き世界の平和と安定に貢献していかなければなりません。  しかるに、わが国においては、このような厳しい現実を無視して、非武装中立を唱える無責任きわまりない議論が公党の一部において行われております。(拍手、発言する者あり)  すなわち、自衛隊憲法違反であるとか、戦争に巻き込まれるとか、さらには、場合によっては侵略に抵抗することなく降伏する方がよい場合もあるなどという主張であります。このような暴論は、日本国民生命と財産を守る憲法の理念に反した意見と言わざるを得ません。(拍手、発言する者あり)憲法は、みずからの国の安全と平和を守るための努力を禁止してなどはおらないのであります。われわれが守ろうとしているのは、単に権利も自由も認められずに他国に支配されながら生きる道を求めているのではありません。われわれの先輩たちが廃墟の跡に辛苦の末に築き上げた自由と民主主義の社会であります。  私は、中曽根内閣発足以来、総理がみずからの見識として明快に防衛政策を論ずることによって、防衛問題に対する国民の関心と理解を呼び起こしておられることに、また、西側各国の評価を得るべく努力をされたことに対し、敬意を表するものであります。特に、深刻な問題であった日米間の防衛をめぐる食い違いが緩和され、また、わが国の防衛努力に対して懸念を表明していた周辺諸国の誤解を解消すべく払われた総理自身努力は、高く評価されるべきものと考えます。  わが国の防衛努力が、わが国の自主判断に基づき行われるべきことは論をまちません。しかし、日米安全保障条約に基づきわが国を防衛すべき立場にある米国が、近年の厳しい国際情勢の中で自由世界第二位の経済力を有するわが国に抱く期待は、なお相当大きいものがあると思われます。私は、こうした情勢を考えるとき、わが国としても「防衛計画の大綱」の水準を早期に達成するため、より一層の努力を払うべきものと考えます。  防衛問題に対する総理の御所見をお伺いいたしたい。  次に、外交問題についてお伺いします。  核兵器による被爆という悲惨な体験を有するわが国として、現在米国とソ連の間において進行中の中距離核戦力交渉に多大の関心を寄せるべきは当然であります。ソ連は、七〇年代後半より中距離核ミサイルSS20を自国内に大量に配備し、この分野における優位を独占的に確立しましたが、これは欧州及びアジアの安全保障にとってきわめて大きな問題であります。NATO諸国は、米ソの中距離核戦力交渉がまとまらない場合には、米国の中距離核ミサイルを欧州に配備させる決意をすでに明らかにしておりますが、この配備開始期限はいよいよ本年末と迫っております。  他方、この中距離核戦力交渉をめぐるソ連の西側諸国の分断をねらった平和攻勢も次第に激しさを加えておりますが、さきサミットにおいて軍備管理、軍備縮小に取り組む西側諸国の結束が確認されましたことは、この時期高く評価されなければなりません。また、わが国が従来主張してきたとおり、この交渉はグローバルに進められるべきことがサミットの場で確認されたことも、わが国にとってきわめて有意義でありました。  ついては、総理はいかなる決意でサミット政治討議に臨まれたのか、サミット政治声明をいかに評価しておられるか、同時に、中距離核戦力交渉の進展に総理は今後どのように対応するお考えであるのか、所信を伺いたいのであります。  先般のサミットにおきまして、平和と軍縮についての活発な討議とともに、経済回復に関するウィリアムズバーグ宣言が採択されたことは、西側主要先進国が、世界経済のインフレなき持続的成長の達成のため、協調の精神のもと、ともに努力するかたい決意を表明したものとして高く評価されております。また、総理が、自由貿易体制を維持強化し世界経済の安定的発展に寄与するとの観点から、一連の市場開放を推進し、内需を中心とする経済運営に努力を傾けてこられたことも諸外国から評価されていると承知しております。  サミット後の国際経済情勢を見るに、米国を初め欧米先進諸国などにおいてはインフレの鎮静化、景気回復の基調は次第に明らかになりつつありますが、各国とも依然高い失業率に苦慮しており、保護貿易主義的傾向も、米国におけるローカルコンテント法案などの動きに見られるように、相変わらず根強いものがあります。また、開発途上国はいまなお累積債務問題、一次産品の交易条件低下など、多くの困難に直面しております。先進諸国も厳しい状況の中にありますが、現代の地球社会の抱える大きな課題として、開発途上国の窮状を放置することは許されることではありません。こうした視点から考えるとき、わが国政府開発援助実績が五十六年、五十七年のいずれについても前年を下回る実績に終わっていることはきわめて遺憾であります。  かかる状況のもと、総理は、世界経済の安定的成長のため、わが国として何を行っていこうと考えておられるのか、所信を明らかにしていただきたい。  最近におけるわが国経常収支の動向を見ると、原油価格の値下がり、輸入の低迷などの影響を受け、四月から七月だけでも、季節調整後八十一億ドルの黒字を記録しており、このまま推移すれば、政府見通しを大幅に上回る黒字の発生が予想されます。国内的に困難な状況は十分に承知しつつも、これを放置すれば、さきに述べたような保護貿易主義的な動きに油を注ぐことになりかねず、黒字問題は、単に経済摩擦のみならず、政治問題化するおそれすらあります。わが国は自由貿易体制の維持強化のために国際社会にできる限りの貢献をなすべきであると考えますが、これら黒字対策経済摩擦対策に対する総理の所信をお伺いをいたします。  この秋は、コール西独首相、レーガン米大統領、胡耀邦中国共産党総書記など、多くの賓客の来日が予定されております。われわれは、これらの各国代表のわが国訪問を心から歓迎するとともに、隔意なき話し合いの中で、その訪日が双方にとって実り大きなものとなることを心から希望してやみません。  そこで、特にレーガン大統領の訪日に関連して、日米関係質問したいと思います。  中曽根内閣は、成立以来、わが国外交の基軸たる日米関係を重視し、その友好協力関係の一層の推進に努めてこられ、総じて日米関係は今日良好な状態にあります。他方、日米間の大幅な貿易不均衡を背景として、農産物自由化問題、自動車輸出規制問題、産業政策に係る問題等々の懸案として残された問題もまた多く存在しています。これらの案件の処理の進展いかんが今後の日米関係に与える影響は無視し得ないものがあります。  かかる観点から、十一月前半に予定されているレーガン大統領の来日は、日米関係上きわめて重要な意味を持つものと考えますが、わが国としてはいかなる対応を行う考えであるか、また、日米間の経済問題、防衛問題等について政府は今後いかに対応していく考えであるのか、総理の御所見をお伺いをいたします。  特にこの際、私は、農産物の自由化問題について若干言及をいたしたいと思います。  わが国は、米国農産物の最大の輸入国であります。それにもかかわらず、米国は一貫して規制残存農産物の完全自由化を強く要求しており、これを日米貿易摩擦の象徴的な課題として位置づけているように思われます。自由貿易体制のもとにおいても、農産物だけは食糧供給安全保障の見地から、EC諸国もわが国も国内農業保護の政策をとっており、わが国が現在も必要最小限の輸入規制を行っているのは当然の措置であります。米国要求するような農産物輸入の完全自由化は、わが国農業の将来を危うくし、食糧供給の安全保障を不可能にするものであり、とうてい受け入れることはできません。  わが国の大幅な貿易黒字の拡大の根本は、実勢をはるかに下回る円安であり、これは米国の高金利政策によるものであります。(拍手米国が対日貿易の赤字の縮小を望むならば、まずみずからが高金利政策是正すべきでありましょう。また、為替相場の急激な変動を抑制するため、為替市場への共同介入を積極的に推進すべきであります。政府は、EC諸国とともに、米国に対しこれを強く求めるべきであると考えますが、総理の御所見を伺いたい。(拍手)  最後に、政治姿勢について申し述べます。  総理は、政治倫理確立を重視し、国民政治に対する変わらざる信頼確保するよう取り組むと述べられました。現下の重要な政治課題である行政改革財政再建問題は、いずれも国民に負担と協力を求めるものであり、これを推進する上で何にも増して重要なことは、政治に対する国民信頼確保であり、清潔、公正な政治の実現であります。政治姿勢に対する総理の決意をここに改めてお示しいただきたいと思います。  さき参議院選挙において、わが自由民主党国民の強い支持を得て大勝し、国会における安定議席数を確保いたしました。われわれは心を新たに、国民から負託された責務の重大さを認識し、全党一丸となって希望に満ちた国家の建設に邁進しなければなりません。  総理の決意のほどを伺い、私の質問を終わります。(拍手)     〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇
  16. 中曽根康弘

    内閣総理大臣(中曽根康弘君) 橋本議員の御質問にお答えをいたします。  まず、大韓航空機撃墜事件でございますが、先ほど申し上げたとおりでございますが、特に、この問題につきましては、ソ連側においてその過ちを速やかに認め、そしてこれに対する処置を講じ、そして将来に向かって民間航空機の安全航行についてしかるべき保障を行うということが大切であると考えております。これらの線に向かって各国と協力して努力してまいるつもりでおります。  次に、災害対策でございますが、政府といたしましては、非常災害対策本部の設置等、関係省庁の緊密な連絡によりまして、応急対策あるいは災害復旧対策実施してまいりました。  災害復旧事業の実施に当たりましては、被災地の早期復旧並びに二次災害の防止、そのための早期査定、早期事業の実施努力してまいります。特に、今後とも治山治水、急傾斜地の崩壊対策等、国土保全に関する事業につきましては、国民の皆さんの生命財産を守る緊切な仕事であると考えまして、その推進に努力いたします。  次に、行革推進についていろいろ教えていただきました。私は、橋本議員がこの行革問題につきまして一貫して自由民主党責任者としてこれがため御努力いただきましたことにつきまして、重ねてお礼と敬意を表する次第でございます。(拍手)  この内外の情勢の変化に対しまして、いま行革を着実に推進するということは非常に重要な段階に来たことであると考えておりますし、中曽根内閣が成立いたしました大半の大きな理由の一つはこの行革推進にあると私は考えて、誠実に実行してまいりたいと思っておるところでございます。(拍手)それには、臨調答申の趣旨を踏まえまして、これを計画的に長期的に、たゆみなく努力して実行していくというところでございます。御指摘のとおり、すでに所定の方針に従いまして、国鉄事業の再建、年金改革の実施及び諸般の政策はいまや軌道に乗ろうとしておるところであり、行政改革はまさに正念場を迎えつつあるところでございます。  それで、行革の全体構想は臨調答申に大体示されておるところでございますが、政府におきましても、新行政改革大綱等において明示しておるところでございます。今回の行革五法案は、この重要な第一歩でありまして、全体構想の一環をなす重要な部分であると考えるのでございます。機構の改革、事務の簡素化、当面緊急に法律改正を行うべき事項等につきまして、重要な基礎固めをいま行いつつあると言い得るものなのであります。今後も政府は、既定の全体構想に沿いまして、電電公社、専売公社の改革、特殊法人等の整理合理化あるいはそのほか諸般の改革問題についても逐次具体的成案を得て実行してまいるつもりでおります。  財政再建につきましては、財政の対応力の回復を図るということが急務でありまして、これがために、今後とも努力を続けていくところでございます。特にこれらの改革を行うにつきまして公平の原則、公正の原則を重視いたしまして、真の弱者はこれは徹底的に保護しなければならない、こういう考えに立って、本当に困っておる弱い方々をわれわれは注目して努力してまいりたいと思っておるところでございます。五十九年度予算におきましては、このような観点に立ちながら、国民の皆さんの御協力を得て、歳出面における真に必要な施策に配慮しつつ、行財政の守備範囲を見直す等の見地から、節減合理化を実施してまいります。  税体系につきましては、適正かつ公平な税制の上での歳入歳出の均衡でなければならない、おっしゃるとおりであると思います。なお、税制調査会におきまして、当面の減税問題につきまして基本考えを明らかにするという意味も含めて、中長期的な観点から、直接税、間接税を含む税制全般のあり方、その中における所得税制のあり方について幅広く審議を進めていただいておるところであり、当然公平かつ適正な税制あり方を構築するという観点から行われているものと考えます。政府としても、この調査会での結論を踏まえて適切に対処してまいります。  経済対策につきましては、わが国経済はようやく前途に明るさをともしてまいりましたが、なお内需の回復は力強さを欠いていると考えます。四月五日の経済対策閣僚会議におきまして決定しました今後の対策を着実に実施いたしておりますが、さらに、金融政策の機動的運営あるいは規制の緩和等による民間投資の促進等につきましては、引き続き努力を進めてまいるつもりであります。特に、民間活力の導入による公共的事業の推進等につきましては、さらに具体的に進める考え方であります。  次に、防衛問題に対する御質問をいただきましたが、お説のとおり、日米安保体制を堅持しつつ、平和憲法のもとに専守防衛に徹して近隣諸国に脅威を与えないような配慮を行いつつ、非核原則を堅持し、自衛のため必要最小限度の防衛力を整備するという考え方でまいりまして、お説のとおり非武装中立政策は非現実的でありまして、これをとる考えはありません。(拍手)  また、アメリカとの関係におきましても、安保条約を有効に機能するように今後とも配慮してまいるつもりであります。  いずれにいたしましても、「防衛計画の大綱」に定める防衛力の水準にできるだけ早く到達できるように努力してまいりたいと思っております。  次に、サミットにおける政治声明とINF交渉の関係でございます。  国際社会における相互関係が強く深まりまして、また、核兵器自体が一局部的な機能だけではなくして全世界的影響力を及ぼすような、この重大な変化にかんがみまして、軍縮の問題や核廃絶の問題を進めていくためには、世界的連携と協力なくしてわが国一国だけでやることは不可能な状態になってきたわけであります。したがいまして、サミットにおきましても、できるだけ早期にレーガン大統領とアンドロポフ書記長の会談を実行いたしまして核兵器削減を緒につかせるように努力することは現実的であるという考えに立ちまして、西欧陣営、特にサミット構成国が一致結束いたしまして、レーガン大統領がアンドロポフ書記長と会談できる足場をつくるという点に先般来努力したところなのでございます。これは、もはや軍縮や平和の問題が一地方の問題にとどまらず、全世界的影響力を持ってきたという認識に基づくものなのであります。  特に、SS20の問題につきましては、これを全世界規模に解決して、アジアや日本犠牲において解決すべきでないということを声明書に入れることに全力を注いだのであります。このためには、日本が独善的にひとり孤立しておってはできることはあり得ないのでありまして、西欧諸国とも政治的に協調すべきところは協調する、そしてわが主張すべきところは主張する、そういう立場に立ちまして声明にも参加し、かつ、アジアや極東犠牲においてこれを行うべきでないという線を声明書において記載していただいたのでございます。今後とも、この平和や軍縮の問題は一国のみでできる問題ではないのでございまして、世界的連携のもとに、主張すべきものは主張し、また、憲法の範囲内においてわれわれが守るべきものは守るという公正な立場で、国際国家としての役割りを果たしていきたいと考えておるところでございます。  INFの問題につきましては、今回大韓航空機の不幸な事件がございましたが、これは、考えようによっては偶発的事件のようにも考えられる。したがいまして、日ソ間の国交の基幹部分に影響を及ぼさないように措置する。なお、INF交渉、軍縮交渉等についても、影響力を及ぼさないように措置したいということをかねて言明いたしまして、そのように実行しているところです。九月六日、ジュネーブにおきましてINF交渉が再開をいたしましたが、これが速やかに妥結されるように期待しておる次第でございます。  世界経済の安定的成長につきましては、先般のサミットにおきましてインフレなき持続的成長を約束した次第でございます。このためには、物価の安定、失業率の低下、高金利の是正、生産的投資の増大、それから財政赤字の削減等を約束したものでございます。  また、貿易や国際金融等の分野におきましては、二国間及びガット、OECD、IMF等の場におきまして、関係諸国とも協力して作業を推進していくことになっております。  わが国は、自由貿易体制の維持強化、世界経済の活性化に資するよう、一昨年以来市場開放措置を講じてまいり、また内需を中心とする経済運営にも努力してきたところでございます。今後ともわが国国際的責任、役割りを十分認識して、より一層開かれた日本を目指し、かつ内需の振興にも努め、息の長い安定的経済成長を図っていく所存であり、かつまた開発途上国との関係におきましても、わが国の重要な国際的責務として、新中期目標のもとで経済技術協力の一層の充実に努めてまいる所存でございます。  経済摩擦対策につきましては、最近は原油価格の低下による輸入金額の減少、ドル高等による輸入の低迷を中心に、輸出回復も相まちまして、四-七月で経常収支は季節調整済みで約八十一億ドルの黒字となっております。政府といたしましては、今後適切な経済運営により、貿易の拡大均衡を目指し、あるいはオーダリーマーケティングを適切に行い、経常収支の黒字幅の拡大の傾向に適切な措置を行うように、今後とも調和ある対外経済政策を維持してまいるつもりであります。  なお、そのための必要措置につきましては、目下鋭意検討を行っているところでありまして、できるだけ早く具体策を取りまとめたいと考えているところでございます。  レーガン大統領の訪日につきましては、日米関係わが国外交の基軸であり、かつ、確固たる日米関係はアジアの平和と安定のかなめであります。また、日米両国が自由な経済貿易体制を維持拡大していくことは、世界経済に甚大な影響を与えるものでございます。  日本とアメリカのGNPを合併いたしますと、世界の約三分の一近くのGNPになります。この太平洋を挟んだ二国だけで世界の三分の一の総生産を維持するということは、世界経済にとりましては甚大な影響を持つ関係であるわけでございます。したがって、この関係を良好に、かつ適切に維持していくということは、世界のためにもわれわれが責任を持って行うべきことであると考え日米の友好親善協力化に努めてまいるつもりでおります。  十一月に予定されているレーガン大統領の訪日も、このような日米関係をさらに発展させていく上で大きな節目にしたいと考え、心のこもった歓迎もいたしたいと思っておるところでございます。日米間には未解決の問題も多々ございますが、目先の問題にとらわれることなく、大局的な見地に立って、そして世界的な視野を持った話し合いをいたしたいと考えております。  農産物の市場の開放の問題につきましては、先ほど来申し上げましたように、牛肉、柑橘等の自由化については、わが国の国内生産事情等からすれば応じがたい諸問題がございます。今後の日米協議等におきましては、わが国農業の実情、これまでの市場開放措置等を相手国に十分説明いたしまして、その理解を得ながら適切に対処していくつもりでございます。  現下の貿易収支の黒字拡大は、先ほど来申し上げますように、原油価格の下落による輸入金額の減少とドル高による輸入の低迷が主因であります。ある意味において、そのような構造的要因があるわけでございます。  ドル高の基本的な原因としては、不安定な国際政治あるいは経済情勢もありますが、米国の高金利を反映した内外金利格差の拡大が大きな原因であります。したがって、今後米国の金利が低下し、内外金利差が縮小していくことが望ましいし、米国に対して強く要望してまいりたいと思う次第であります。  為替相場安定の見地から、先般日米独三国による協調介入が実施されました。わが国としては、このような協調行動さきサミットでの合意に沿うものとして高く評価しておるところであります。今後とも米国に対しましては、サミット宣言に沿って適切な経済運営を行うよう機会あるごとに要請し、また協力してまいりたいと思います。  政治倫理の問題につきましては、政治倫理確立して政治に対する国民信頼確保することは議会制民主政治の原点であります。その上に立って、行財政改革を断行して国民の御期待におこたえすることも現下の政治急務であります。このような考えに立ちまして、不屈不撓の信念を堅持いたしまして行革に邁進していくつもりでございます。  先ほどの参議院選におきまする自民党に対する国民の力強い御支持につきましては、ますます責任の重大さを痛感しておるところでございます。この国民の理解と御協力をさらに得つつ、この重大な転換期の諸問題をかたい決意を持って、しかも静かな改革を力強く前進させていく決心でございますので、御協力をお願いいたす次第でございます。(拍手)     ―――――――――――――
  17. 福田一

    議長福田一君) 上坂昇君。     〔上坂昇君登壇
  18. 上坂昇

    ○上坂昇君 上坂昇であります。日本社会党を代表し、田邊書記長の後を受けて、できるだけ質問内容の重複を避けまして、当面する内政の諸問題にしぼり、中曽根総理及び関係各大臣に質問をいたしたいと思います。誠意ある回答を期待いたします。(拍手)  第二次石油ショックによって生じました世界同時不況の中で、わが国は、産業界の技術革新、企業体質の改善と、また、そのための冷酷な犠牲に耐え抜いた労働者の努力によりまして、先進諸国に比べ、いち早くその影響に大きく左右されない状況をつくり出したのであります。  しかしながら、昭和五十五年以降の三年余にわたる長期景気の低迷の中で、厳しい経済の局面にわが国が到達をしていることも見逃すことができません。     〔議長退席、副議長着席〕  この間、政府や金融機関は、景気底入れしたとか好転の兆しが見えるとか、何度か繰り返してまいりました。しかし、実態は一向に進展をしていないのであります。特に、消費不振を背景とする需要の冷え込みは、想像以上に国民生活を圧迫するものとなっております。物価がいま鎮静をしていると政府は自賛をいたしておりますが、物が売れないから物価が上がらない。これが私は根本であろうと思うのであります。  五十五年以降、完全失業率は上昇の一途をたどり、現在では二・五%、実に百四十七万人の人々が職を失い、職業安定所に列をなしているのであります。また、連日のようにサラ金苦からの逃避の自殺や、それを原因とした犯罪が報道面をにぎわしております。  こうした経済の停滞と社会のゆがみは、世界不況に名をかりて何ら有効な手を打たないできた内政の失敗であり、政府責任は実に重大であると言わなければなりません。わが党は、こうした社会経済のゆがみを克服するために、田邊書記長が質問において提起をいたしましたいわゆる内需主導型経済への転換をいままで主張してまいったのであります。  限られた時間の中で多くを論ずることはできません。したがって、私は、二、三の問題から、内需型経済への転換を必要とする理由あるいは視点を述べてみたいと思います。  その一つは、重要な政治課題となっております貿易摩擦の問題であります。  今日、自動車を初めとする工業輸出品の競争力を支えているのは必ずしも価格競争力の強さではなく、品質管理の良好きに基づくところの国際的信頼性であるという指摘があります。もっともな指摘でありますけれども、その根底に、先進諸国に比べ日本における労働力の企業従属、これがすぐれており、その効果が発揮されているからだと考えざるを得ないのであります。  このことを花形産業の親企業とその下請企業との関係において見るならば、下請企業への支配力を背景として、親企業考えどおりの労務、資材、在庫、生産工程の管理体制と下請代金の切り下げを通じて価格競争力を維持することができる、そのことが輸出確保を図っていると私は考えるのであります。このような大企業と中小零細下請とのいわば国内摩擦が解消されない限り、貿易摩擦も解決し得ないと考えるのであります。  製造業界だけでなく、いま流通業界におきましても、大型小売店の集中豪雨的地方進出が地域経済を支える中小零細商工業の経営を圧迫している、この事実に政府は目を向けていかなければならないと思うのであります。いま全国の事業所数で九九%を占める中小零細企業の経営安定、そしてそこに働く全労働者数の八〇%以上を占める従業者の生活安定なしに、不況克服も内需拡大もあり得ないことを考えなければなりません。  さらに、三年越しの冷害に悩む農業におきましても、兼業農家が大半を占める今日、中小商工業の振興なしに農家経営の安定を期することはできません。こうした内需不振の根本原因の解決をおろそかにしては、内需拡大への転換はできないと思うのであります。このような視点についての中曽根総理見解を承りたいと思うのであります。  第二の質問の柱といたしまして、内需拡大への転換に関連して、幾つかの具体的問題についてお伺いをいたしたいと思います。  まず第一に、税金問題であります。田邊書記長が触れました大幅所得減税実施は、国民のひとしく要望するところでありますが、その規模、時期も明らかにされないうちに、早々と増税の声が政府筋や自民党の中から聞かれるということは、まことに言語道断であります。  中曽根内閣の唱える「増税なき財政再建」の本体は、正体は一体何なのか。財界の要求する法人税の引き上げたけはやらないが、国民大衆を対象とする間接税については、これを実施することにやぶさかでないというのでありましょうか。  四年前の国会一般消費税の導入は行わないとの決議がされました。ところが、今日、内需不振の経済状態の中で、大型間接税や付加価値税について政府筋に増税論議が展開されているということは、まことに不可解と言わなければなりません。直接税と間接税の現行比率七対三を是正して負担の不公平をなくすことが必要であるという考えに立って、大型間接税の導入キャンペーンを張る前に、直接税負担の不公平是正に取り組むのが本来のあり方ではないのですか。財源確保は現行税制上の不公平を是正することから始められなければなりません。大型間接税の導入を考えているのかどうか、総理の明確な見解を求めます。(拍手)  また、石油備蓄に藉口いたしまして、石油税における増税を検討していると巷間伝えられております。五千億円の一般会計繰り入れが行われている現在の石油諸税が、国民生活に大きな影響を持つことも事実であります。  こうした国民生活圧迫の増税をもくろむことは、財界、自民党にとっては「増税なき財政再建」であるかもしれませんが、国民にとってはまさに「再建なき増税」と断ぜざるを得ないのであります。(拍手増税問題に対する政府見解を示されたいのであります。  次に、独占禁止法の見直しについてただします。  最近、財界の一部に独禁法の緩和を求める動きが高まり、これに呼応して自民党内におきましてもその作業が進められると聞いております。  この独禁法見直しの動きは、素材産業の不況の長期化に対する不満、建設業界における談合違反摘発への反発を背景として急速に高まり、現行独禁法を五十二年改正前の法律に引き戻せということであると私は考えますが、総理自身これに直ちに同調しているということは一体どういうことでしょうか。これが事実であるならば、これはゆゆしき問題と言わなければなりません。財界、産業界の意向にはいつでも唯々諾々として従う総理の本性を如実に示すものであるからであります。  五十二年の改正当時、大企業によるやみカルテル事件が続発し、化学、製紙、セメント、石油等の業界で再犯、累犯事件が発生して、わが国はカルテル列島のレッテルを張られたのであります。すなわち、改正最大の契機は、当時の大企業の市場活動それ自体に大きな社会問題が提起されたからにほかならないのであります。今日、低成長という経済環境のもとでは、なお一層の公正かつ自由な競争や事業者の創意が生かされる状況がつくられなければならないと思うのであります。  元来、カルテルというのは、同業者が集団で取引の相手方にツケを回し、迷惑をかける仕組みであると言われておるのであります。そうしたカルテルを認めたりあるいは大企業側の発想に基づく競争制限的措置を許すとするならば、そのしわ寄せは取引の相手方である中小商工業者やあるいは消費者がかぶることになりまして、内需冷え込みを一段と促進するものとなると考えるのであります。国際的に見ても、アメリカ政府などは、日本が独禁法を改正すれば日本企業の競争力が一段と加わるから、アメリカ国内における保護主義の台頭を抑えることができないと指摘をしているのであります。対米貿易摩擦の新たな火種ともなりかわません。まさに百害あって一利なしというのが独禁法の手直しであると考えます。  独禁政策と産業政策の調整問題は、通産省と公正取引委員会が十分な連絡と意見交換の中で支障のない状況をつくり出すことができると私は思量いたしますが、どうでしょうか。総理及び通産大臣の見解をお示しいただきたいと思うのであります。(拍手)  次に、中小商工業対策についてお聞きをいたします。  産業構造の中で年々ウエートが増大をしている流通小売業界の中で、最近、生鮮三品の小売業が急激に減少しています。これは、内需の不振によるだけでなく、大規模小売店の業界進出、地方進出が激しく、大きな影響を小売店に与えているためであります。  昨年の初め、大型小売店の進出に対し、通産省は指導規制に踏み切りましたが、この規制は来年一月まで継続されることになっております。しかし、大型店舗の進出による地方商店街との紛争はますますその数を増しているのが実情であります。巨大な資本力に物を言わせ、流通革命と称して地方経済圏を一手に抱え込もうとする大型小売店の出店ラッシュは、いまや大型小売店同士の競争にまで発展し、地域商店街を席巻して地域経済を混乱させているばかりでなく、地方都市の町づくりにも支障を与え、地方公共団体の財政にも悪影響を及ぼしているのであります。  前の通産大臣が、さき国会で、都市計画の視点からも大型店の出店は好ましくない旨の発言をいたしましたが、この発言を宇野通産大臣はどうお考えになるでしょうか。また、地方商店街からは、大店舗法の抜本的改正を望む声が非常に大きくなっていることにかんがみ、法改正に取り組む考えがあるか、御答弁を願いたいのであります。(拍手)  次に、住宅対策についてでありますが、住宅建設は関連業種が二百種にも上ると言われまして、内需拡大の大きな決め手の一つであります。しかしながら、昭和五十二年の百五十万戸建設をピークに、年々建設が落ち込み、いまや百万戸を割るに至りました。原因は、土地価格の上昇に加え、国民特に勤労者層の所得の伸び悩みというよりも実質的な低下にあることは言うまでもありません。今年度の経済白書によれば、持ち家取得のための資金不足額は、東京圏で二千万円、三大都市圏で平均一千六百万円となっております。  政府は、今年度も重点を持ち家建設に置き、五十一万戸建設を進めようとしていますが、果たして可能でしょうか。私は、持ち家促進というものが一体政策と言われるものなのかどうか、大きな疑問を持つのであります。  なぜならば、持ち家建設とは個人が大きな借金をしながら自分で家を建てることであり、政府はその資金を融通しているにすぎないからであります。今日、最も住宅を必要としている勤労者にとって、三千万円以上かかる住宅の取得はまさに高ねの花であります。せっかく取得したとしても、交通地獄に命をさらしつつ、人生の働く大半の期間、収入の二〇%から三〇%をローン返済に追われるということは、決して幸せであるとは申せません。  本来の住宅政策は、政府が土地の手当てをして快適な住まいをつくり、これを安い賃料で入居させる、あるいは勤労者の収入に見合った支払い可能な分譲を行うということでなければならないと私は思うのであります。内需拡大のためにも公共住宅の拡充は非常に大切であります。したがって、これに重点を置く住宅政策に転換を求めたいと存じますが、建設大臣の御意見を承りたいと思うのであります。(拍手)  私は、ここで、農産物の輸入自由化と食糧自給の問題に触れなければなりません。  このところ、牛肉、オレンジを初めとする残存輸入制限品目の完全自由化を要求するアメリカの圧力は異常なものがあります。アメリカの対日貿易赤字解消に大きな効果があるとはだれにも思えないこの要求のねらいは、私は最終的に米にあると思うのでありますが、農林水産大臣はいかがお考えでありますか。  アメリカの昨年の米の生産量は、日本の生産量の六〇%に当たる六百六十万トンに達しました。しかも、生産価格におきまして日本の四分の一から五分の一と言われ、いま直ちにその農地を開拓するならば、現在の三倍もできると言われているのであります。加州米が輸入されるようになったら、米を主力とする日本の農業、そして食糧の安全保障は一体どうなってしまうのでしょうか。私は大きな不安を抱かないわけにはいきません。そして、この背後に総合商社や食品産業が存在するということも指摘をしておかなければならないと思うのであります。最近の農民、農業団体の農産物輸入自由化及び枠拡大に対する阻止または反対運動の高まりは、けだし当然と言わなければなりません。  さらに、八〇年十一月に行われた農政審議会の答申「八〇年代農政の基本方針」、そして今年三月の財界主導型第二臨調の農政に関する最終答申は、私の日本の農業の将来に対する不安をますます増大させるのであります。この不安にどう答えるか、農林水産大臣の明確な説明を求めます。  十一月中旬に来日されるレーガン大統領に対しては、日本の農業の実態を明らかにし、友邦としてのアメリカの善処を求める意思はないか、総理大臣の決意のほどをお聞きいたしたいのであります。(拍手)  質問の第三の柱として、行財政改革に係る当面の問題と政治姿勢についてお伺いをいたします。  ここで国鉄再建全般について論ずるには余りにも時間が足りません。私は、最近発表されて来春の二月に実施の予定という貨物合理化にしぼってただしたいと思います。  この貨物合理化によって、原料、資材、製品の輸送方法の変更、それに伴う経費の増大、人的配置等々、地域産業そうして企業が諸般にわたって受ける損害と混乱は非常に大きなものがあります。通運その他の関連業界では、経営の縮小、人員整理、事によれば倒産のおそれさえ出ているのであります。専用車の廃止に伴って、工業薬品、化学劇物、危険物のトラック輸送による道路交通の問題を考えれば、まさにフランスの名画「恐怖の報酬」を地でいく現象をほうふつとさせるものがあります。貨物駅が全部廃止になる奈良県等では、県民の食べる米の値段がトン当たり二千円も高くなるといった国民生活へのはね返りが至るところに出ているのであります。そうした地域流通経済また日本の交通体系がどうなろうと、また国民の生活にどんなに経済的圧力が加わり危険度が増そうと、一切お構いなし、赤字が幾らかでも減ればそれで事が済むといった、まことに無責任な、こそくで利己的な国鉄再建が是認されてよいものでしょうか。  国鉄の再建は、まず国と国鉄当局の責任体制を明確にするところから始められるべきであります。そして国民生活国民経済への影響を勘案し、国の物流体系、総合交通輸送体系を確立することが基本とならなければならないのであります。地域住民の生活の声、そして自治体、産業界の意見を十分反映をさせて再建の手だてを打ち出すべきであると考えますが、総理の御所見を承りたいのであります。  原子力船「むつ」について伺います。  建造後二十年、いまだに試験航海もできず、定係港を求めて港々をさまよっているこの原子力船は、まさに金食い虫、むだのサンプルと言わなければなりません。(拍手)  「むつ」を所管する原子力船事業団は、昨年度までに約六百億円の予算を食いつぶし、今年度も百八億円の予算を使おうというのであります。これら予算の大部分が修理費、漁業補償費、道路、港湾等公共施設建設の地元対策費で、本来の原子力船研究とはかかわりのないところに使われていることは皆さん御承知のとおりであります。  さらに、安全性を無視した原子力行政と安上がり技術開発推進の結果として発生いたしました「むつ」の放射能漏れ事故は、地元むつ市民や修理港を持つ長崎市の懐柔説得工作に発展をし、さらに今後六百億円に上る母港建設費を必要とするのであります。行政のむだ、これに過ぎるものはありません。(拍手世界的にも無用の長物と化した原子力船は、行革の方針にのっとって廃船とし、その原子炉を原子力研究所に移し、基礎的研究の資にすべきであると私は思うのであります。所管事業団の整理統合も行うことができ、まさにこれは一石三鳥の効果が期待できるのであります。(拍手総理の決断を促し、答弁を求めるものであります。  総理は、所信表明で「心の融れ合う豊かな社会」の実現に努めると言われました。本当でしょうか。来年度予算編成に当たり、厚生省は健康保険の加入者本人に対する給付率を十割から八割へと二割カットを打ち出しております。ほかにも入院時の給食費のうち六百円の患者負担、ビタミン剤、かぜ薬等の本人負担など、四人家族の医療費の負担は現行の二倍、十万円程度に高まると見られるのであります。  そればかりでなく、中小零細事業者の加入している国民健康保険の国庫補助を削ることによって、一千四百億円の国庫負担費を節約しようとしているのであります。これが実施されれば、加入者の保険料あるいは保険税の引き上げは必至であり、地方自治体の負担増による地方税の引き上げにもはね返ってくることは火を見るよりも明らかであります。  さらに、老人ホーム、保育所等の社会福祉施設費八百億円の削減等が計画をされております。「心の触れ合う豊かな社会」とはまことにほど遠い、暗い、貧しい未来につながる結果になりそうであります。  これが財界の求める行財政改革の実態であるとは思いますけれども、総理政治生命をかけて取り組むと言われる福祉見直しとはかかるものであるのか、まことに心の痛むところであります。行革のための福祉切り捨てについての厚生大臣の所信を承りたいと考えるのであります。  最後に、私は、民主政治あり方についてただしたいと思います。  最近の大学や出先機関におけるところの汚職の発生はまことに目に余るものがあります。ロッキードの事件以来、汚職列島はますます激しくなっております。  しかし、そればかりではありません。去る八月三十日からの四日間、岡山で開かれました日本教職員組合の全国大会の会場をめぐって起きた事態に対してはきわめて深い危惧の念を持たざるを得ないのであります。日教組に対する右翼の暴力ざたは従来から目に余るものがありましたが、今回は特に右翼の圧力に屈して、岡山県当局は県の公共施設使用を拒否したのであります。まことに常識外れの措置というよりも、憲法に保障された正当な権利を否定したものであり、ひとり日教組の問題にとどまらず、わが国の民主主義の根幹を揺するものと言わなければなりません。このようなことが続けば民主政治は一体どうなるのか、放置される問題ではないと考えるのであります。  右翼暴力の横行と岡山県当局の憲法に保障する民主団体の権利への侵害に対し、政府はどのように考え、どのように対処されるのか、総理の毅然たる見解を求めるものであります。(拍手)  質問の終わりに当たりまして、先般の大韓航空機撃墜事故で亡くなられた方々に心から哀悼の意を表し、御冥福を祈りまして、私の質問を終わります。(拍手)     〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇
  19. 中曽根康弘

    内閣総理大臣(中曽根康弘君) 上坂議員にお答え申し上げます。  まず、中小企業関係経済政策でございますが、わが国経済はようやく前途に明るさを見出しつつありますが、まだ底力を欠いております。政府といたしましては、四月五日の経済対策閣僚会議の決定「今後の経済対策について」の着実な実施を図っておるところでございます。今後も適切な、機動的な政策運営を進めていくことによりまして内需の振興に努め、息の長い安定的な経済成長を図ってまいるつもりでございます。  本年におきましては、中小企業関係の設備投資減税あるいは金融対策、倒産防止対策、下請対策等きめの細かい政策実施しておるところでございます。今後とも引き続き下請中小関係中心にする中小企業施策の充実に努力してまいります。  間接税の問題でございますが、税制調査会におきます中期的税制あり方に関する検討結果を踏まえ、歳出面における縮減合理化の状況、今後の税収の動向等を見きわめた上で、各税目の負担水準等について配慮、判断すべきものであると思います。現時点におきまして、個別の税目の取り扱いについて確たる具体的なことを申し上げる段階ではございません。  独禁法見直しの問題でございますが、独占禁止法の目的である公正かつ自由な競争を促進していくことは、わが国経済を健全に運営していくための不可欠のかなめであります。現在のような安定成長下においては、物価や中小企業等への影響、経済の効率性、民間活力の保持、消費者の保護、その規制あり方等につきまして、広く各分野への影響を配慮していく必要があると思います。現在、自由民主党におきまして、これが鋭意検討をしておるところでございますので、その推移を見守ることにいたしたいと思います。  都市の再開発につきましては、快適な都市環境の形成あるいは居住水準の向上、あるいは景気振興等も最近必要を加えておりまして、都市再開発の促進が必要であると考えております。この分野での民間投資拡大は、内需の振興、安定的な持続的な経済成長にも寄与すると思いまして、特に民間事業者が大きな役割りを担っており、民間活動の前提となる条件整備として、高度利用を促進すべき地域についての用途地域の見直しあるいは再開発事業が行われる場合における規制の見直し等を実施してまいりたいと思っております。  当面、いま政府が特に力を入れておりますのは、大都市、特に東京等におきます公務員宿舎の土地の活用あるいは国鉄用地の活用等でございまして、たとえば公務員宿舎につきましては、新宿戸山ケ原あるいは白金、そのほか東京におきましてもかなりの土地がございます。国鉄用地につきましては、錦糸町あるいは汐留あるいは新宿の操車場その他かなりの広さがございます。これらにつきまして、民間の活力を導入して、一面において住宅や環境整備を行うと同時に、都市再開発にも資することができるように、いま重点を入れて進めておるところでございます。これらにつきましては、適切な公正な措置をもって促進されるように今後とも努力してまいりたいと思います。  農産物の自由化問題でございますが、農産物の市場開放につきましては、関係国との友好協力関係あるいは農産物の需給動向、安定供給上の考慮、こういうような諸般の面を考えわが国農業の健全な発展と調和のとれた形で行われることが基本でございます。  牛肉及び柑橘の問題につきましては、今月の十四日、十五日の両目、東京で専門家レベルの協議を行う予定でございます。牛肉、柑橘等の自由化につきましては、わが国の国内の生産事情等からすれば応じがたい諸問題がございます。  今後の日米協議等におきましては、わが国農業の実情、これまでの開放措置等相手側に十分説明し、その理解を得ながら適切に対処してまいりたいと思っております。  ガット二十三条一項による話し合いはいま進めておりまして、これらも平穏な話し合いの中に解決するように努力してまいりたいと思っております。  国鉄の再建問題でございますが、国鉄の経営は日を追って未曾有の危機的状況を強めております。  五十七年度の成績を見ますと、赤字が一兆三千七百七十八億円、国の助成金が七千九十四億円、合計いたしまして二兆八百七十二億円の赤字ということになります。一日当たり五十七億円赤字が出ているという形になります。これがために長期債務が累積いたしまして、十八兆四百五十六億円に及んでおります。  この深刻な事態を打開するために、政府は、すでに国鉄再建監理委員会を設置いたしまして、経営形態を初め全体的な再建対策の御審議を願い、職場規律の確立等緊急対策も推進しておるところでございます。  国鉄の再建対策を推進するに当たりましては、国鉄自身の経営努力を前提とし、国民経済的視点をも踏まえまして実行してまいるつもりでございます。特に貨物営業の合理化、地方交通線問題等につきましては、所要の施策に取り組んでいく所存でございます。  原子力船「むつ」の取り扱いの問題でございますが、この研究開発は、エネルギーの長期的安定供給等の観点から、発電以外の重要な分野として推進してきているところであり、将来の輸送政策の面からも研究は事欠かせない分野でございます。  今後の原子力船の研究開発につきましては、現下の厳しい財政事情のもとで極力経費の節減に努めるとともに、関係方面の理解と協力を得ながら実行してまいりたいと思っております。  社会福祉の問題でございますが、医療保険制度の問題は、臨調答申にも指摘されているとおり、行財政改革の重要な課題でございます。高齢化社会の到来に備え、医療保険制度を安定的に維持し、国民に必要な医療を確保していくために、中長期の観点に立って、社会経済、医療の動向に対応して、給付と負担の両面にわたる改革に真剣に取り組む所存でございます。  最近、薬漬けとかあるいは検査漬けとかという声がやかましくなり、いろいろ批判も受けております。かぜにかかるというと、お医者さんのところに行くと、こんな大きな袋に薬をいっぱいいただいて、ビタミン剤や何かが相当入っておって、半分ぐらいは捨てるという家庭がかなりあるというふうに聞いております。このようなむだのないように、本当に困っている人に重点的な医療が行われるように、効率化していくということもわれわれは心がけていかなければならぬところであると思います。  日教組と右翼の問題でございますが、およそ集会、言論の自由は民主主義社会の根幹でありまして、十分に保障される必要があります。右翼であろうが左翼であろうが、この言論の自由、集会の自由を侵す者については、法と秩序を維持する上から、暴力に対しては断固とした措置を行わなければならないと思っております。今後とも国民各位の理解と協力のもとに、暴力に対しましては毅然たる態度をもって民主主義社会を守り抜く決意でございます。(拍手)  以下は、関係大臣から御答弁申し上げます。     〔国務大臣宇野宗佑君登壇
  20. 宇野宗佑

    国務大臣(宇野宗佑君) まず、石油財源問題につきまして、お答えをいたします。  確かに御指摘のとおり、石油の需給関係は最近とみに緩和基調で進んでおります。しかしながら、わが国といたしましては、中東の情勢もまだ不安定でございますし、さらにはそうしたことから、あるいは逼迫を来すのではないかというような説すらもございます。特に、日本は石油小国であります。そして消費におきましては大国でございます。常に、その準備おさおさ怠りなきことが肝要かと存ぜられます。  しかしながら、そうした意味合いにおきまして、備蓄等につきましても今後も着実に進めていきたいとは存じますが、それにいたしましても、やはり原油価格の値下げという実態もございます。そういう事態を踏まえまして歳入をいかにすべきか。また、特に私たちは、今後の税収の見通し、一般会計、それらの歳入面に留意をいたしますと同時に、歳出面におきましても、われわれといたしましては極力効率的な歳出を組むように努めなければならない問題である、かように存じております。  続きまして大型店舗の問題でございますが、もしそれ弱者と強者が紛争を起こすことあらば、やはり弱者の言い分を十分に聞く、それに時間をかけるということは必要なことであろうと私は考えます。しかしながら同時に、そうした問題紛争惹起のときには、その調整も図っていかなければならないのが政府であると考えております。  昨年の二月の通達に基づきまして、御承知のとおり、現在、大規模小売店舗の届け出に係る当面の措置、こうしたものを実施いたしておりますが、こうした措置によりまして、現在までのところ大型店の届け出件数は低い水準で推移をいたしております。  今後は、中長期的なプログラムといたしまして、御承知のとおり、八〇年代における流通のビジョン、これを産構審並びに中政審において合同会議で検討をしていただいておりますが、われわれといたしましても、その検討に期待をいたしますと同時に、本措置の効果を見きわめた上で結論を出すことが適当と考えております。  独禁法に関してでございますが、独禁法は、公正かつ自由な競争を推進しつつわが国経済の運営を健全化さす、この点におきましては、私は大切な法律であると考えております。しかしながら、その規制の面におきましては、やはり変動する産業の実態に沿うようにまた努めてもらわなければならないことも私は肝要かと存ぜられます。  こうした見地に立ちまして、すでに上坂さんも御承知のとおり、産業構造改善に関する臨時措置法が前国会におきまして成立をいたしました。この際にも私たちは、構造改善をいたす上につきまして、独禁法と抵触しあるいはいろいろ問題を生じては大変でございますから、摩擦を生じないように公正取引委員会と常に十二分に連絡をし、その調整の上に立ちましてあの法案を提出し、成立をさせていただいたわけでございます。今後も、産業政策の推進に関しましては、公正取引委員会と運用の面に関し十二分に御相談を申し上げまして、円満な調整を期すべく努力をいたします。(拍手)     〔国務大臣金子岩三君登壇
  21. 金子岩三

    国務大臣(金子岩三君) 上坂議員にお答えいたします。  まず、米国が米の自由化を要求してくるのではないかという点につきまして申し上げます。  農林水産省としては、これまで日米農産物定期会合等の場で、米国に対し、わが国の農薬及び農政における米の重要性について繰り返し十分説明してきておるところであります。米国も、米がわが国農業にとって最も重要な作物であり、食糧の安全保障の観点からも、国内産で全量自給することとしている点は十分理解しているものと考えております。  いずれにしましても、米がわが国農業の基幹作物であることはいまさら申し上げるまでもなく、また、多大な困難を押して水田利用再編対策を初めとする需給均衡化政策を進めている中で、仮に米国から米の自由化を要求されたとしても、これを受け入れることは全く考えておりません。  次に、今後の農政の進め方について申し上げます。  わが国農業は、食糧の安定供給を初め、健全な地域社会の形成、国土、自然環境の保全等、国民経済国民生活上きわめて重要な役割りを果たしてまいっております。その健全な発展を図ることが重要であります。しかしながら、今日、農薬をめぐる内外の諸情勢は、諸外国からの市場開放の要請、行財政改革の観点からの農政の効率的な推進の要請等きわめて厳しい状況にあります。  こうした情勢にかんがみ、今後の農政の推進に当たっては、農業者が将来に明るい希望を持って農業に取り組むことができるよう、農業の長期展望と農政の進むべき方向を明らかにした昨年八月の農政審議会の報告に即して、生産性の向上を図りつつ、需要の動向に応じた農業生産の再編成を進め、体質の強い農業の実現を目指してまいっているところでございます。(拍手)     〔国務大臣内海英男君登壇
  22. 内海英男

    国務大臣(内海英男君) お答えいたします。  住宅政策について、公的賃貸住宅に重点を置いたものに転換し、持ち家政策をとるといたしましても、より良質低廉な住宅を取得できるものにすべきであるとの御質問でございますが、住宅政策の目標は、国民の住宅に対するニーズに即しつつ、居住水準の向上を図ることにあると考えております。  このため、現在第四期住宅建設五カ年計画に基づきまして、公営住宅、公団住宅等公的賃貸住宅の的確な供給を図ると同時に、国民の根強い持ち家志向にこたえ、住宅金融公庫融資の拡充、住宅に関する税制の改善、住宅生産、供給の合理化等を通じて、良質低廉な持ち家取得のための施策に努めているところでございます。(拍手)      ――――◇―――――
  23. 保利耕輔

    保利耕輔君 国務大臣演説に対する残余の質疑は延期し、明十三日午後二時より本会議を開きこれを継続することとし、本日はこれにて散会されんことを望みます。
  24. 岡田春夫

    ○副議長(岡田春夫君) 保利耕輔君動議に御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  25. 岡田春夫

    ○副議長(岡田春夫君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。  本日は、これにて散会いたします。     午後三時四十一分散会      ――――◇―――――