○上坂昇君 上坂昇であります。
日本社会党を代表し、田邊書記長の後を受けて、できるだけ
質問内容の重複を避けまして、当面する内政の諸問題にしぼり、
中曽根総理及び
関係各大臣に
質問をいたしたいと思います。誠意ある回答を期待いたします。(
拍手)
第二次石油ショックによって生じました
世界同時不況の中で、
わが国は、産業界の
技術革新、
企業体質の改善と、また、そのための冷酷な
犠牲に耐え抜いた
労働者の
努力によりまして、先進諸国に比べ、いち早くその影響に大きく左右されない状況をつくり出したのであります。
しかしながら、
昭和五十五年以降の三年余にわたる長期
景気の低迷の中で、厳しい
経済の局面に
わが国が到達をしていることも見逃すことができません。
〔
議長退席、副
議長着席〕
この間、
政府や金融機関は、
景気は
底入れしたとか
好転の兆しが見えるとか、何度か繰り返してまいりました。しかし、実態は一向に進展をしていないのであります。特に、消費不振を背景とする需要の冷え込みは、想像以上に
国民生活を圧迫するものとなっております。物価がいま鎮静をしていると
政府は自賛をいたしておりますが、物が売れないから物価が上がらない。これが私は根本であろうと思うのであります。
五十五年以降、完全失業率は上昇の一途をたどり、現在では二・五%、実に百四十七万人の人々が職を失い、職業安定所に列をなしているのであります。また、連日のようにサラ金苦からの逃避の自殺や、それを原因とした犯罪が報道面をにぎわしております。
こうした
経済の停滞と
社会のゆがみは、
世界不況に名をかりて何ら有効な手を打たないできた内政の失敗であり、
政府の
責任は実に重大であると言わなければなりません。わが党は、こうした
社会、
経済のゆがみを克服するために、田邊書記長が
質問において提起をいたしましたいわゆる
内需主導型経済への転換をいままで主張してまいったのであります。
限られた時間の中で多くを論ずることはできません。したがって、私は、二、三の問題から、内需型
経済への転換を必要とする
理由あるいは視点を述べてみたいと思います。
その一つは、重要な
政治課題となっております
貿易摩擦の問題であります。
今日、自動車を初めとする工業
輸出品の競争力を支えているのは必ずしも価格競争力の強さではなく、品質管理の良好きに基づくところの国際的
信頼性であるという指摘があります。もっともな指摘でありますけれども、その根底に、先進諸国に比べ
日本における
労働力の
企業従属、これがすぐれており、その効果が発揮されているからだと
考えざるを得ないのであります。
このことを花形産業の親
企業とその下請
企業との
関係において見るならば、下請
企業への支配力を背景として、親
企業の
考えどおりの労務、資材、在庫、生産工程の管理体制と下請代金の切り下げを通じて価格競争力を維持することができる、そのことが
輸出の
確保を図っていると私は
考えるのであります。このような大
企業と中小零細下請とのいわば国内摩擦が解消されない限り、
貿易摩擦も解決し得ないと
考えるのであります。
製造業界だけでなく、いま流通業界におきましても、大型小売店の
集中豪雨的地方進出が地域
経済を支える中小零細商工業の経営を圧迫している、この事実に
政府は目を向けていかなければならないと思うのであります。いま全国の事業所数で九九%を占める中小零細
企業の経営安定、そしてそこに働く全
労働者数の八〇%以上を占める従業者の生活安定なしに、不況克服も
内需拡大もあり得ないことを
考えなければなりません。
さらに、三年越しの冷害に悩む農業におきましても、兼業農家が大半を占める今日、中小商工業の
振興なしに農家経営の安定を期することはできません。こうした内需不振の根本原因の解決をおろそかにしては、
内需拡大への転換はできないと思うのであります。このような視点についての
中曽根総理の
見解を承りたいと思うのであります。
第二の
質問の柱といたしまして、
内需拡大への転換に関連して、幾つかの具体的問題についてお伺いをいたしたいと思います。
まず第一に、税金問題であります。田邊書記長が触れました大幅所得
減税の
実施は、
国民のひとしく要望するところでありますが、その
規模、時期も明らかにされないうちに、早々と
増税の声が
政府筋や
自民党の中から聞かれるということは、まことに言語道断であります。
中曽根内閣の唱える「
増税なき
財政再建」の本体は、正体は一体何なのか。財界の
要求する法人税の引き上げたけはやらないが、
国民大衆を対象とする間接税については、これを
実施することにやぶさかでないというのでありましょうか。
四年前の
国会で
一般消費税の導入は行わないとの
決議がされました。ところが、今日、内需不振の
経済状態の中で、大型間接税や付加価値税について
政府筋に
増税論議が展開されているということは、まことに不可解と言わなければなりません。直接税と間接税の現行比率七対三を
是正して負担の不公平をなくすことが必要であるという
考えに立って、大型間接税の導入キャンペーンを張る前に、直接
税負担の不公平
是正に取り組むのが本来の
あり方ではないのですか。財源
確保は現行
税制上の不公平を
是正することから始められなければなりません。大型間接税の導入を
考えているのかどうか、
総理の明確な
見解を求めます。(
拍手)
また、石油備蓄に藉口いたしまして、石油税における
増税を検討していると巷間伝えられております。五千億円の
一般会計繰り入れが行われている現在の石油諸税が、
国民生活に大きな影響を持つことも事実であります。
こうした
国民生活圧迫の
増税をもくろむことは、財界、
自民党にとっては「
増税なき
財政再建」であるかもしれませんが、
国民にとってはまさに「再建なき
増税」と断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
増税問題に対する
政府の
見解を示されたいのであります。
次に、独占禁止法の見直しについてただします。
最近、財界の一部に独禁法の緩和を求める
動きが高まり、これに呼応して
自民党内におきましてもその作業が進められると聞いております。
この独禁法見直しの
動きは、素材産業の不況の長期化に対する不満、建設業界における談合違反摘発への反発を背景として急速に高まり、現行独禁法を五十二年
改正前の法律に引き戻せということであると私は
考えますが、
総理自身これに直ちに同調しているということは一体どういうことでしょうか。これが事実であるならば、これはゆゆしき問題と言わなければなりません。財界、産業界の意向にはいつでも唯々諾々として従う
総理の本性を如実に示すものであるからであります。
五十二年の
改正当時、大
企業によるやみカルテル
事件が続発し、化学、製紙、セメント、石油等の業界で再犯、累犯
事件が発生して、
わが国はカルテル列島のレッテルを張られたのであります。すなわち、
改正の
最大の契機は、当時の大
企業の市場
活動それ自体に大きな
社会問題が提起されたからにほかならないのであります。今日、低成長という
経済環境のもとでは、なお一層の公正かつ自由な競争や事業者の創意が生かされる状況がつくられなければならないと思うのであります。
元来、カルテルというのは、同業者が集団で取引の相手方にツケを回し、迷惑をかける仕組みであると言われておるのであります。そうしたカルテルを認めたりあるいは大
企業側の発想に基づく競争制限的
措置を許すとするならば、そのしわ寄せは取引の相手方である中小商工業者やあるいは消費者がかぶることになりまして、内需冷え込みを一段と促進するものとなると
考えるのであります。国際的に見ても、アメリカ
政府などは、
日本が独禁法を
改正すれば
日本の
企業の競争力が一段と加わるから、アメリカ国内における保護主義の台頭を抑えることができないと指摘をしているのであります。対米
貿易摩擦の新たな火種ともなりかわません。まさに百害あって一利なしというのが独禁法の手直しであると
考えます。
独禁
政策と産業
政策の調整問題は、通産省と公正取引
委員会が十分な連絡と意見交換の中で支障のない状況をつくり出すことができると私は思量いたしますが、どうでしょうか。
総理及び通産大臣の
見解をお示しいただきたいと思うのであります。(
拍手)
次に、中小商工業
対策についてお聞きをいたします。
産業構造の中で年々ウエートが増大をしている流通小売業界の中で、最近、生鮮三品の小売業が急激に減少しています。これは、内需の不振によるだけでなく、大
規模小売店の業界進出、地方進出が激しく、大きな影響を小売店に与えているためであります。
昨年の初め、大型小売店の進出に対し、通産省は指導
規制に踏み切りましたが、この
規制は来年一月まで継続されることになっております。しかし、大型店舗の進出による地方商店街との紛争はますますその数を増しているのが実情であります。巨大な資本力に物を言わせ、流通革命と称して地方
経済圏を一手に抱え込もうとする大型小売店の出店ラッシュは、いまや大型小売店同士の競争にまで発展し、地域商店街を席巻して地域
経済を混乱させているばかりでなく、地方都市の町づくりにも支障を与え、地方公共団体の財政にも悪影響を及ぼしているのであります。
前の通産大臣が、
さきの
国会で、都市計画の視点からも大型店の出店は好ましくない旨の発言をいたしましたが、この発言を宇野通産大臣はどうお
考えになるでしょうか。また、地方商店街からは、大店舗法の抜本的
改正を望む声が非常に大きくなっていることにかんがみ、法
改正に取り組む
考えがあるか、御
答弁を願いたいのであります。(
拍手)
次に、住宅
対策についてでありますが、住宅建設は関連業種が二百種にも上ると言われまして、
内需拡大の大きな決め手の一つであります。しかしながら、
昭和五十二年の百五十万戸建設をピークに、年々建設が落ち込み、いまや百万戸を割るに至りました。原因は、土地価格の上昇に加え、
国民特に勤労者層の所得の伸び悩みというよりも実質的な低下にあることは言うまでもありません。今年度の
経済白書によれば、持ち家取得のための
資金不足額は、東京圏で二千万円、三大都市圏で平均一千六百万円となっております。
政府は、今年度も重点を持ち家建設に置き、五十一万戸建設を進めようとしていますが、果たして可能でしょうか。私は、持ち家促進というものが一体
政策と言われるものなのかどうか、大きな疑問を持つのであります。
なぜならば、持ち家建設とは個人が大きな借金をしながら自分で家を建てることであり、
政府はその
資金を融通しているにすぎないからであります。今日、最も住宅を必要としている勤労者にとって、三千万円以上かかる住宅の取得はまさに高ねの花であります。せっかく取得したとしても、交通地獄に命をさらしつつ、人生の働く大半の期間、収入の二〇%から三〇%をローン返済に追われるということは、決して幸せであるとは申せません。
本来の住宅
政策は、
政府が土地の手当てをして快適な住まいをつくり、これを安い賃料で入居させる、あるいは勤労者の収入に見合った支払い可能な分譲を行うということでなければならないと私は思うのであります。
内需拡大のためにも公共住宅の拡充は非常に大切であります。したがって、これに重点を置く住宅
政策に転換を求めたいと存じますが、建設大臣の御意見を承りたいと思うのであります。(
拍手)
私は、ここで、農産物の輸入自由化と食糧自給の問題に触れなければなりません。
このところ、牛肉、オレンジを初めとする残存輸入制限品目の完全自由化を
要求するアメリカの圧力は異常なものがあります。アメリカの対日貿易赤字解消に大きな効果があるとはだれにも思えないこの
要求のねらいは、私は最終的に米にあると思うのでありますが、農林水産大臣はいかがお
考えでありますか。
アメリカの昨年の米の生産量は、
日本の生産量の六〇%に当たる六百六十万トンに達しました。しかも、生産価格におきまして
日本の四分の一から五分の一と言われ、いま直ちにその農地を開拓するならば、現在の三倍もできると言われているのであります。加州米が輸入されるようになったら、米を主力とする
日本の農業、そして食糧の安全保障は一体どうなってしまうのでしょうか。私は大きな不安を抱かないわけにはいきません。そして、この背後に総合商社や食品産業が存在するということも指摘をしておかなければならないと思うのであります。最近の農民、農業団体の農産物輸入自由化及び枠
拡大に対する阻止または反対運動の高まりは、けだし当然と言わなければなりません。
さらに、八〇年十一月に行われた農政審議会の答申「八〇年代農政の
基本方針」、そして今年三月の財界主導型第二臨調の農政に関する最終答申は、私の
日本の農業の将来に対する不安をますます増大させるのであります。この不安にどう答えるか、農林水産大臣の明確な説明を求めます。
十一月中旬に来日される
レーガン大統領に対しては、
日本の農業の実態を明らかにし、友邦としてのアメリカの善処を求める意思はないか、
総理大臣の決意のほどをお聞きいたしたいのであります。(
拍手)
質問の第三の柱として、行財政改革に係る当面の問題と
政治姿勢についてお伺いをいたします。
ここで国鉄再建全般について論ずるには余りにも時間が足りません。私は、最近発表されて来春の二月に
実施の予定という貨物合理化にしぼってただしたいと思います。
この貨物合理化によって、原料、資材、製品の輸送
方法の変更、それに伴う経費の増大、人的配置等々、地域産業そうして
企業が諸般にわたって受ける損害と混乱は非常に大きなものがあります。通運その他の関連業界では、経営の縮小、人員整理、事によれば倒産のおそれさえ出ているのであります。専用車の廃止に伴って、工業薬品、化学劇物、危険物のトラック輸送による道路交通の問題を
考えれば、まさにフランスの名画「恐怖の報酬」を地でいく現象をほうふつとさせるものがあります。貨物駅が全部廃止になる奈良県等では、県民の食べる米の値段がトン当たり二千円も高くなるといった
国民生活へのはね返りが至るところに出ているのであります。そうした地域流通
経済また
日本の交通体系がどうなろうと、また
国民の生活にどんなに
経済的圧力が加わり危険度が増そうと、一切お構いなし、赤字が幾らかでも減ればそれで事が済むといった、まことに無
責任な、こそくで利己的な国鉄再建が是認されてよいものでしょうか。
国鉄の再建は、まず国と国鉄当局の
責任体制を明確にするところから始められるべきであります。そして
国民生活、
国民経済への影響を勘案し、国の物流体系、総合交通輸送体系を
確立することが
基本とならなければならないのであります。地域住民の生活の声、そして自治体、産業界の意見を十分反映をさせて再建の手だてを打ち出すべきであると
考えますが、
総理の御所見を承りたいのであります。
原子力船「むつ」について伺います。
建造後二十年、いまだに試験航海もできず、定係港を求めて港々をさまよっているこの原子力船は、まさに金食い虫、むだのサンプルと言わなければなりません。(
拍手)
「むつ」を所管する原子力船事業団は、昨年度までに約六百億円の
予算を食いつぶし、今年度も百八億円の
予算を使おうというのであります。これら
予算の大部分が修理費、漁業補償費、道路、港湾等公共施設建設の地元
対策費で、本来の原子力船研究とはかかわりのないところに使われていることは皆さん御承知のとおりであります。
さらに、安全性を無視した原子力
行政と安上がり
技術開発推進の結果として発生いたしました「むつ」の放射能漏れ
事故は、地元むつ
市民や修理港を持つ長崎市の懐柔説得工作に発展をし、さらに今後六百億円に上る母港建設費を必要とするのであります。
行政のむだ、これに過ぎるものはありません。(
拍手)
世界的にも無用の長物と化した原子力船は、
行革の方針にのっとって廃船とし、その原子炉を原子力研究所に移し、基礎的研究の資にすべきであると私は思うのであります。所管事業団の整理統合も行うことができ、まさにこれは一石三鳥の効果が期待できるのであります。(
拍手)
総理の決断を促し、
答弁を求めるものであります。
総理は、所信表明で「心の融れ合う豊かな
社会」の実現に努めると言われました。本当でしょうか。来年度
予算編成に当たり、厚生省は
健康保険の加入者本人に対する
給付率を十割から八割へと二割カットを打ち出しております。ほかにも入院時の給食費のうち六百円の患者負担、ビタミン剤、かぜ薬等の本人負担など、四人家族の医療費の負担は現行の二倍、十万円程度に高まると見られるのであります。
そればかりでなく、中小零細事業者の加入している
国民健康保険の国庫
補助を削ることによって、一千四百億円の国庫負担費を節約しようとしているのであります。これが
実施されれば、加入者の保険料あるいは保険税の引き上げは必至であり、地方自治体の負担増による地方税の引き上げにもはね返ってくることは火を見るよりも明らかであります。
さらに、老人ホーム、保育所等の
社会福祉施設費八百億円の
削減等が計画をされております。「心の触れ合う豊かな
社会」とはまことにほど遠い、暗い、貧しい未来につながる結果になりそうであります。
これが財界の求める行財政改革の実態であるとは思いますけれども、
総理が
政治生命をかけて取り組むと言われる
福祉見直しとはかかるものであるのか、まことに心の痛むところであります。
行革のための
福祉切り捨てについての厚生大臣の所信を承りたいと
考えるのであります。
最後に、私は、
民主政治の
あり方についてただしたいと思います。
最近の大学や出先機関におけるところの
汚職の発生はまことに目に余るものがあります。ロッキードの
事件以来、
汚職列島はますます激しくなっております。
しかし、そればかりではありません。去る八月三十日からの四日間、岡山で開かれました
日本教職員組合の全国大会の会場をめぐって起きた事態に対してはきわめて深い危惧の念を持たざるを得ないのであります。日教組に対する右翼の暴力ざたは従来から目に余るものがありましたが、今回は特に右翼の圧力に屈して、岡山県当局は県の公共施設使用を拒否したのであります。まことに常識外れの
措置というよりも、憲法に保障された正当な権利を否定したものであり、ひとり日教組の問題にとどまらず、
わが国の民主主義の根幹を揺するものと言わなければなりません。このようなことが続けば
民主政治は一体どうなるのか、放置される問題ではないと
考えるのであります。
右翼暴力の横行と岡山県当局の憲法に保障する民主団体の権利への侵害に対し、
政府はどのように
考え、どのように対処されるのか、
総理の毅然たる
見解を求めるものであります。(
拍手)
質問の終わりに当たりまして、先般の
大韓航空機の
撃墜事故で亡くなられた方々に心から哀悼の意を表し、御冥福を祈りまして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣中曽根康弘君
登壇〕