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国務大臣(
中曽根康弘君) なかなか経済の問題というのはむずかしいと思うんです。正直に言って、これでいけると確信持ってやれる人はそう世界にもいないんではないか。アメリカのようなあれだけの経済学者を擁するところでも、レーガノミックスというものは成功したとか成功しないとか、いろいろ
議論が言われております。サプライサイダーあるいはマネタリスト、そういう者かかつてのケインジアンタイプの人にかわって出てまいりましたけれども、じゃそれが成功しているかというと、これまたいろいろ批判が出てきております。したがって、いままでの過去の経済理論、あるいは経済政策というようなものが行き詰まってきまして、どういうものがいま一番適合しているのかという盛り合わせでいく、その盛り合わせの内容をどういうふうにするかということで世界じゅうがいま検討している最中であると思うんです。
ところが、昔なら一国の
国民経済の処理で物が済んだのでございますが、最近はみんな世界経済の影響を受けるようになりました。昔ならば、ある国が繁栄していればある国が不況である、その国がまた好景気になるとほかの国が不況になる、そういうふうにいろいろ散り散りばらばらであったのが、いまやもう世界経済自体が全般的連関を持ちまして、世界同時不況という形になってまいりました。そういう相互
関係を持っているものでございますから、一国だけで経済政策を運営しようと思っても、その影響力というものはもう五〇%、あるいはそれ以下ではないか。世界経済と一緒にどういうふうに動いていくかという
やり方で
考えないとうまくいかない、こういう
状態であるだろうと思うんです。
ですから、中曽根内閣の経済政策がようわからぬとおっしゃるのも無理もないのでありまして、ある意味におきましていま模索している最中であるということが言えます。ただし、自民党がいままで
考えてきて言ってきた経済政策の延長線上に立っている、それだけは言えると思いますね。
しかし、最近私は、経済展望をつくってください、そういうことを経済企画庁にお願いし、経済
審議会にお願いしております。この
考え方は、自由主義的性格をさらに強く出そう、言いかえれば経済原則というものをよりわれわれは尊重しよう、こういうことでございます。余り規則とか計画とかというものを厳格に、リジッドにやらないで、ふんわりとしたものにして、そしてガイドラインという形にして、しかもできるだけ規制、統制から外していく、いわゆるディレギュレーションと言っております。そういう規制、統制から外していきながら、民間の活力を培養して活力を回復していくという
やり方をとりたい。これはいままでの自民党内閣がとってきたところでありますが、顕著に私がそこへまた前進しようと思っておるところなんであります。
なぜならば、財政がこのような
状態になりまして、財政が出動することが非常にむずかしくなりました。しかし、いま世の中は——昔ならば、鉄であるとか、石炭であるとか、セメントであるとか、ああいう大量のかたい、いわゆるバルキーなものに経済が頼って、いわゆるGNPというものが伸びてきた
時代です。GNPというものと、それからバルキーな、大量のかたいものというものが主力であったわけです。ところが最近の
時代になると、GNPというものをそれほど信仰していいのかどうか。たとえば、近ごろは軽・薄・短・小と言うんですね。エレクトロニクスの作品見ましても、コンピューターや、あるいはわれわれの周りにあるステレオなんか見ましても、軽くて薄くて、そうして短くて小さいものがいいと。それで、昔は新日鐵とか、鉄が国家であるというぐらいに言っておりましたけれども、鉄の膨大な生産をもってしても利潤率というのは非常に薄いんです。それで、なるほど大きなものが、がらがら動くけれども、
国民経済全般を見ると、付加価値というのはそんなに多くないです。むしろそれよりも小さいもので、たとえばビデオテープみたいなものですね、あるいは近く出てくる衛星通信であるとか、そういうようなソフトの知識集約の、そして付加価値のきわめて高いものというものが利潤率も多いし、資源の消費率も少なくなってきている。
そうして、たとえば万博というものを
一つ考えてみます。私は堺屋太一さんに教えられたんですけれども、ああいう万博ということを
一つ考える、そういうアイデアによってあそこへ政府が幾らお金を、補助金を出したか、たしか二、三百億ぐらいじゃないでしょうかね。ところが、来る人が二千万人以上も人が寄ってくる。その鉄道の上がりだけでも四百億以上運賃が上がっているそうです。地元に落ちる金、またそれを見ることによって、
国民や若い
人たちが見る知識の増加量、国際親善の力、そういうものを見ると、そういう知恵を出すことによって、そしていまわりあいに
国民の皆さんは金は持っていると思うんです、個人は。そのお金を引き出させながら大いに活躍させると。鉄を一億トンつくるということよりも、万博を一回やって成功さぜる方がはるかに
国民経済的に大きな力を持つ。あるいはあそこのポートアイランドもそうですね。だから、そういう意味において堺屋さんはエベント・オリエンテッドと、そういう
言葉を言っております。何と訳したらいいんでしょうか、ともかく仕組みをつくると申しますか、仕事をつくると申しますか、そういうような新しい
時代になってきた。
私は、まさに
日本が行く道はそういう方向に変わりつつあると思うんです。そういうふうな変換を目指しながら、どういるふうにこの
国民経済というものを移行させていくかということが大事です。
外食産業やあるいはそのほかのいろいろな流通体系がまた変わってきております。いままでのスーパーが保険にまで手を出すという形になる、あるいはサラ金みたいな仕事までもやるという形になってきて、ともかく変わってきておるわけですね。この大きな変動というものは、頭の、知恵の変化でできてきておる。それをよくつかみながら、そういう方向に
日本の産業をさらに付加価値の高いものに変えていく。それにはある意味においては統制、規制を解除しなければだめだと。それがディレギュレーションです。
たとえば
一つの例を申し上げれば、調整区域の見直しの問題というものがあります。これで固定化しておるから物が動かない。しかし、調整区域でも適地で住宅つくらしてもいいというものがあるかもしれませんね。あるいは都市の建築にしても、建築基準法を相当改正して、もっと自由に高いものをつくらしたらどうだろうか。いままでいわゆる容積制限という形で、ボリュームできております。そういうような意味の変革をわれわれが意識しながら、どういうふうにこれを組み立てて景気回復に役立てていこうかということを実は
考えておるので、いまそういう検討しておる最中である。ただし、自民党がいままでやってきた経済政策の延長線であると。しかし、ディレギュレーション——規制解除とか、いま言ったような知識集約型に移行させていこうという意欲でやっておるということは御
承知願いたいと思うんです。