○木島則夫君 私は、民社党・
国民連合を代表して、内外の
重要課題について
中曽根総理にお尋ねをするものであります。
日米首脳会談における中曽根首相に私は並み並みならぬ
決意を感じましたが、一方、容易ならぬ
日本の前途をも予見いたしました。これまで何かというと、あいまいな
言葉で逃げの
姿勢が目立ち、問題の先送りに終始していた歴代の首相には見られなかったあなたの気魄、また気負いすら感じたわけであります。
一見、過去すべての
日米首脳会談の形をたどりながらも、今回は事の本質が全く違っていたと私は受け取りました。事の本質とは何か。よかれあしかれ、
日本が自主国家としての自覚を持って対座したということであります。これまでは
日本の力を何らかの他力依存の政策が保証する面が強かったのでありますが、その時代はもう終わったという印象であります。
日本は、現在の国家像のままでほぼ対等に
アメリカと対話できるところまできたのではないか。とすれば、これからの
日本の
国民的所在を私たちに問いかけた
会談でもあったと言えると思います。総括的な言い方をすれば、現在の
日本がどんな国家像を呈し、また、どのような国家像を目指すか、
日本自身への課題がより鮮明に提示された
会談でもあったと言えましょう。
日本は、巨大な中身の過去を持っています。近代百年の歴史を振り返っただけでも、明治の
日本、大正、
昭和、そして戦後の
日本と、
日本の国家像は過去激しく揺れ、大きく変遷してまいりました。その過去は多彩そのものです。その多彩な過去の国家像のどれを延長発展させた上でこれからの
日本の国家、文化を創造していくか、
基本認識が必要でありましょう。戦後の惰性や、
日本だけに通用するエゴイズムだけでは
日本は
世界から孤立し、これまでの平和と繁栄はとうてい維持できないと思います。
総理は
日本の
現状をどう認識されるか。戦後三十八年の「戦後史の
転換点に立つ」というこの認識では私も同じでありますが、これを踏まえて
日本の国家像をどのように描かれるか、具体的にお示しください。
このことに関連して、あなたの
教育についての根本的な哲学も問いたいと思います。
戦後の
政治、
経済、
教育の根底を貫いてきたものはエゴの哲学、エゴを正当化しようとする哲学であったと思います。これが
国民不在の
政治となり、自己のもうけのためには手段を選ばぬ
経済行為となり、自己の主張を通すためには親をも、さらに金のためには夫婦でさえ殺傷し合うなど、まことに憂慮すべき
現状であります。校内暴力、家庭崩壊もまた厳しい現実です。
教育のあるべき姿をぜひお示しいただきたい。
なお、きのう民社党春日一幸前
委員長からも提案をされました、この際、
教育憲章制定をどう思われるか、感想をぜひ伺いたいものであります。
総理、あなたを取り巻く
状況は並み並みならぬものがあります。
世界の各国が
日本に向けている目はまことに厳しく、
国民のあなたに向けている目もまた厳しく、怒りの色さえ帯びております。新
内閣発足に当たって大きなハンディキャップを背負って登場された
中曽根内閣は、いま仕事師
内閣に徹しようと懸命のようです。懸命に立ち向かえば向かうほど、内外の問題はそのむずかしさと重みを増しているはずであります。
それは具体的に、第一に、
日本経済が低成長に陥っていること、第二に、そのために
日本経済は深刻な
財政危機に直面していること、第三に、
行政改革ははかばかしく進捗をしていないこと、第四に、他国に例を見ないスピードで進んでいる老齢化
社会に対する
対応がおくれていること、第五に、
日本に対する諸外国の圧力がますます強まり、
日本の孤立化の危険が高まってきた、こういったことであります。このようないずれを取り上げても深刻な課題は、突如やってきたものでもなければ、他国に
責任を転嫁できるものでも決してありません。言ってみれば
自民党政治の行き詰まりが招いた当然の帰結と言えましょう。
端的な例は、
さきの総裁選に示された、
国民を置き去りにした派閥抗争が先行し、肝心の政策はほとんど官僚任せ、このことは深刻な諸課題を解決する
基本戦略が全く欠落をしているということにつながります。五十八年度
予算編成を見ても、一言で言うならば大蔵省的な短視眼的な
財政再建、一律
歳出削減だけが先行して、他の重要な課題である
経済の安定成長をどうするか、
行政改革はどのように進めるのかなど、最も重要な課題がほとんど欠落をしてしまっているのが
現状ではありませんか。
具体的に
指摘をすれば、所得減税は行わず、
住宅対策などの
公共事業は
実質低下し、年金、恩給などの
物価スライドは見送り、中小
企業投資減税、承継税制は若干の手直しでお茶を濁すなど、場当たり的な施策がやたらに目につくのであります。これでは
中曽根内閣の内政に取り組む
基本戦略がどこにあるのか、
国民はさっぱりわかりません。あえて
中曽根内閣の
基本姿勢を判断するとすれば、それは低成長、
福祉後退、
世界経済依存の
姿勢のようにもうかがえます。これでは
国民生活の不安をますます助長させ、
日本経済の活力を奪い、ひいては
財政再建そのものをも困難にし、さらには
日本を国際
社会からますます孤立化させる最悪の道を選ぶことにつながります。
民社党は、
経済の適正な成長を維持し、
福祉を確保し、
世界経済への貢献を
日本が果たすべき当然の役割りと
考えています。こうしたわれわれの
立場を踏まえて、
総理にお尋ねをいたします。
中曽根総理、あなたはこの二年間は行革三昧であったことを誇らしげにされておられるが、本来やるべき
行政改革にはほとんど手をつけておられないのが実態です。現在の厳しい
財政事情のもとでは公務員
定数は大幅に
削減されているはずなのに、実際はほとんど減っていないではありませんか。金権腐敗
政治の温床ともなっている
補助金制度のあり方、許認可
制度のあり方については、何ら抜本的な
制度改革を行っていないではありませんか。さらに、
地方出先機関の
原則的な廃止、特殊法人の整理統合など、
行政機構の簡素合理化にはほとんど手をつけていないのが実態です。民間が倒産の憂き目に遭い、血へどを吐きながらこらえている中で、
中曽根総理は、臨調の最終答申待ちという傍観者的態度は捨ててもらって、あなたのリーダーシップのもとにどしどし実行に移していただきたいものであります。
また、
政府は、昨年の臨調
基本答申を
最大限に尊重する旨の声明を出しましたが、答申の柱である総合管理庁の
設置、電電、専売公社の
改革などに対してはいまだに
政府の
改革手順は示されておりません。行革に抵抗し、反対する閣僚がもしあるとするならば罷免、官僚は左遷するくらいの蛮勇をふるわない限り行革の達成はなし得ません。
総理の
決意並びに今後の行革の手順について篤と伺いたいと思います。
次は
経済の運営です。
わが国の
経済成長は、五十六年度三・三%、五十七年度が三%前後、五十八年度の
政府の目標は三・四%であります。仮にこれが実現できたとしても、依然低成長が続きます。このような低成長が続けば
財政再建そのものが円滑に進まないこと、第二に、失業がさらに大きな
社会問題として拡大をすること、高齢者の雇用がますます深刻になること、第三に、素材産業、農業問題など現在直面している産業調整が一層厳しくなってまいります。第四に、国内
経済が活発でなければ輸入が停滞をする。当然
アメリカ、ECなどの圧力をさらに強めることになりましょう。このことは、
日本のこれまで続いてきた健全な
経済社会基盤そのものをも掘り崩す危険につながることになります。われわれは今後四%台の成長を実現すべきだと
考え、またその可能性は十分にあると分析をいたしております。
そこで、積極的に内需中心の
景気回復を図るため、次の諸点を実行するよう強く
中曽根総理に要望をするものであります。
その一つ、一兆円台の所得減税を断行し、
GNPの六割弱を占める
個人消費を伸ばすこと。五十六年の国税庁の調査では、民間給与の実態が、平均収入の
伸びが過去二十三年間で最低の四・九%でしかなく、一方、所得
税負担率は過去十七年間で最高の五・七%にまで高まり、
給与所得者の実に九一・五%が納税者の
立場に立たされております。言うまでもなく、
昭和五十三年以来、所得税の課税最低限度額が据え置かれているためであり、一刻も早くその
是正が望まれる次第です。
二つとして、中小
企業の設備投資を活発にさせるため、小手先の
措置でない思い切った中小
企業の投資減税を行うこと。と同時に、中小
企業の経営者の世代交代を含めた承継を容易にするための中小
企業承継税制は
制度として発足はいたしましたが、この
制度をさらにさらに拡充をするためになお一層の
政府の努力を要望するものです。
その三は、公共投資の安定的拡大を図るとともに、その使い道を思い切った
住宅対策の拡充に、都市再開発の
促進に、長崎などで貴重な人命、財産が失われた痛ましい教訓を生かした積極的な治山治水
対策に、また東京などの
大都市で大規模
地震が起こったときの
対策、その
防災対策などの
計画的な整備に重点的に
配分することであります。
中曽根総理、これら諸点の実行こそ
日本経済の活力を取り戻し、来年度四%台の成長を確保する適切有効な処方せんであると
考えますが、以上の諸点について明快なお答えをいただきたいと思います。この際、発想を根本的に変えられて、
経済の適正な成長があってこそ初めて
財政再建も可能であるとの
立場から、積極的政策を行うべきであると
考えますが、
総理のお
考えをはっきりとお示しいただきたいと思います。
外交、防衛の問題も、
日本の国際的地位が高まるにつれて、その果たす役割りと絡んでますますむずかしく複雑な面を呈してきております。
総理は
就任後、韓国、カナダ、
アメリカと
わが国の友好国あるいは同盟国を歴訪され、特に韓国、
アメリカとの間のぎくしゃくした関係の
改善に乗り出し、友好関係の再確認に努められました。私
どもはこのことを率直に御評価申し上げたいと思います。しかし、このように友好国、同盟国重視の
外交が、逆に他の周辺諸国との緊張激化につながるものであっては断じてなりません。
政府は、一昨年の
鈴木・レーガン
会談の共同声明で初めて公式に
日米両国を
同盟関係と表現されました。
中曽根総理は
さきの首脳
会談において、これを一歩進めて、
日米両国は「
運命共同体」であると
発言をされました。
日本と
アメリカとの関係を冷静に客観的に検討しても、この
運命共同体なる関係は確たる事実であろうと思います。ただ、この関係が
日本への一方的な防衛力増強の
要請という形で迫られるのか、さらに有事の際、
アメリカが真剣に
日本の防衛を実行してくれるのか、
総理の率直な
見解を承りたい。つまり、
日本だけの片思いだけでなく、
アメリカをしても
日本を
運命共同体として位置づけ、その
責任を果たしてくれるのかどうか、率直なところお聞きをしたいものであります。
特に、
日本は「不
沈空母だ」と言われた
総理の不用意の
発言が、いたずらにソ連を刺激することになったことは軽率のそしりを免れ得ないところであります。真意をはっきりとお示しください。
総理、
総理は「太平洋の時代」ということを口にされておりますが、太平洋に面しているのは韓国やカナダ、
アメリカだけではありません。ソ連や中国も、ASEANなど多くの国が面しております。北方領土問題やアフガニスタン制裁問題で行き詰まっている日ソ関係を
改善することは、
日本の安全保障上重要な課題です。
総理は、友好・同盟
外交を踏まえて今後日ソ関係をどう打開をされていくか、この際具体的な
方針をお聞きしたいと思います。
同時に、ソ連は欧州に配備中の戦域核ミサイルSS20を極東に移転させるとの
方針を決めたと伝えられておりますが、事実とすれば、極東の緊張激化につながる言語道断の
措置と言わなければなりません。
政府はこれらの動きをどう受けとめているか。外務省を通じてソ連
政府に抗議されましたが、今後ソ連のSS20の極東配備についての
日本政府の有効な
対応措置を承りたいものです。
また、
日米首脳会談については確かに友好的な雰囲気の中で終始されたようですが、具体面については果たして成果があったのかどうか疑わしいと言わざるを得ません。特に懸案の貿易摩擦問題について、一体前進があったと言えるのでしょうか。
レーガン大統領もその声明の中で、「最も重要な貿易の分野で第一歩をしるしたにすぎない」と、冷たい評価しか与えておりません。
総理は、牛肉、オレンジの自由化問題について専門家
会議で詰めたいという意向を示したと言われますが、果たして
アメリカはこれに同意したと言えるのでありましょうか。再交渉、交渉再開のめどがついたと言えるのでありましょうか。このままでは懸案の貿易摩擦問題は一歩も前進せず、ローカルコンテンツ法案の再提出など、
アメリカ議会での対日非難と保護貿易主義の高まりは一層激しくなることは必至と
考えますが、
総理の
所見を伺いたいものです。
なお、貿易摩擦とは直接関係がありませんが、せっかく輸入をした外国の牛肉を、畜産振興事業団の操作によって、結果して値段をつり上げて消費者に不利を招いたということが
行政管理庁の
指摘によってわかりました。こうしたことも
アメリカ等に誤解を与え、貿易摩擦を一層複雑にしますし、そうでなくても高い牛肉を食べさせられている
国民にとってはまことに不愉快千万であります。行革の対象として厳しく検討、処置すべきでありますが、
総理の感想を伺っておきたいと思います。
政府は、今回、対米
武器技術供与を
決定されました。これは
わが国がその安全保障の重要な部分を
米国に依存し、かつ、これまで
アメリカから多くの防衛
技術の提供を受けながらも、
アメリカに対しては
技術の提供を拒んできたという不自然な
状態を
是正するという意味で、民社党は今回の
決定を
基本的に評価いたします。しかし、
技術協力の実施に当たりましては、
武器輸出三原別の空洞化を招かないように、一つ、提供する
技術は可能な限り
国会等で公表されること、第二に、
わが国の民間
企業の権益を損ねないように配慮が必要のこと、第三に、提供した
技術が
紛争当事国に流出しないよう歯どめをすることなどを実施すべきであります。これらの諸点について
総理の確たる
見解をお伺いしておきたいと思います。
私
どもは、西側の一員として、また
日本の今日的な国際
社会の地位に立って、自国の防衛に一層の
責任を負うため防衛努力が必要であるという
立場に立って、時にタブーとも言われたこの問題に最もまじめに命がけで取り組んでまいりました。それだけに、
防衛費の新たな歯どめを何に求めるかは深い関心を持つものであります。五十九年度にも
防衛費は
GNP一%を突破しようとしております。
防衛費の無
原則な増大は、かえって
日本の安全保障に対する
国民のコンセンサスを崩すことにつながります。
政府は速やかに
GNP一%にかわる新たな納得し得る歯どめを設定すべきであると
考えます。
なお、五十九年度について、防衛庁首脳は
防衛費を一%以内にとどめる意向と言われておりますが、それは確かなのかどうか、この点もあわせてはっきりとお答えをいただきたいと思います。
総理、いまや
日本は西側の重要な一員として、また
世界の
国民総生産の一〇%を占める国といたしまして、それにふさわしい国際的
責任を果たさなければならない時代に突入をしたものと言えましょう。戦後の惰性や
日本のエゴイズムだけでは
日本は
世界から孤立をしてしまい、今日の平和と繁栄を続けることはとうてい不可能です。まさに
日本の戦後史の
転換点に立っております。私は、
総理がこのことを率直に語りかけ、
協力を求めるべきであると確信をいたします。
同時に、親しい友好国や同盟国を重視した
外交といった枠を超えて、
日本がその持てる
経済力、
技術力、あるいは文化といったものを
世界の平和と繁栄に積極的にささげていく、いわゆる平和戦略の
確立とその実行が不可欠であると確信するものであります。とりわけ、米ソの対話、核軍縮など東西の
緊張緩和をどのようにして
促進するか。先進工業国十七カ国中十三番目という低い
政府開発援助をどのようにして拡充をされていくか、このままではその五年倍増という
日本の国際公約の達成すら危ぶまれております。これをどう実現されていくか。これらの点を明確にはっきりと具現をしていく、そのことが一部にある
軍事大国化といった懸念を払拭する道でもあると確信いたしますが、
総理の明快な
政治姿勢をお示しいただきたいと思います。
最後に、
政治倫理の
確立は政策以前の問題ではありますが、いまや
わが国の
政治の最優先課題であります。
政府は、
政治倫理委員会の
設置、議院証言法による
証人喚問など諸懸案をことごとく
国会任せ、党任せにして、
政治倫理の
確立に正面から取り組んでこなかったのがこれまでの実態です。こうした中で一月二十六日、検察側の厳しい
論告求刑が下されました。二十六日の
公判は
論告求刑の
段階であって判決が行われたわけではありませんが、ロッキード事件が招いたはかり知れない
国民の
政治不信を厳しく反省し、
田中元
総理は、その
政治的、
道義的責任を踏まえ、みずからの
責任において明確な謹慎の態度を表明されるべきでありましょう。私
どもは、当面、その進退を厳しく見守っていきたいと思います。
ロッキード事件によって裁かれているのは、被告となった個々の
政治家だけでなく、金によって動かされ、
政治が利権の手段に陥っている
わが国の金権的な
政治体質そのものが裁かれているわけであります。
総理が
内閣発足以来
国民の疑惑を払拭しようとされるなら、この機会はまたとない好機でありましょう。
倫理委員会の
設置や議院証言法による
証人喚問等の実現のために、
総理・総裁としてのリーダーシップを発動されまして、懸案解決のため積極的な
政治姿勢を示されますように特に強く要望をして、民社党・
国民連合を代表しての
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣中曽根康弘君
登壇、
拍手〕