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1983-01-29 第98回国会 参議院 本会議 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十八年一月二十九日(土曜日)    午前十時二分開議     ━━━━━━━━━━━━━議事日程 第四号   昭和五十八年一月二十九日    午前十時開議  第一 国務大臣演説に関する件(第三日)     ━━━━━━━━━━━━━ ○本日の会議に付した案件  議事日程のとおり      ─────・─────
  2. 徳永正利

    ○議長(徳永正利君) これより会議を開きます。  日程第一 国務大臣演説に関する件(第三日)  昨日に引き続き、これより順次質疑を許します。多田省吾君。    〔多田省吾登壇拍手
  3. 多田省吾

    多田省吾君 私は、公明党・国民会議を代表して、さき総理施政方針演説など政府演説に対し質問を行い、総理並びに関係大臣の所信をただしたいと思います。  中曽根総理は、就任以来、「いまは戦後の総決算のときである」「日本は大きな転換点に立っている」と申されておりますが、問題はわが国の目指す進路の方向性であり、その内容であります。総理の二カ月間の実績を見て、多くの人々は、中曽根内閣が独善的とも思えるような行動力を発揮してこのまま進んでいくならば、わが国平和主義から軍国主義軍事大国化へ向かい、国民に定着した平和憲法が改悪され、平和な福祉日本が好ましくない方向に導かれるのではないかと強い危惧を抱いております。  一方、総理施政方針演説内容を見ますと、国民がいま最大の急務として期待している政治倫理確立景気回復所得税減税福祉教育の充実などについては、残念ながら積極的な対応策が聞かれなかったと言わざるを得ません。  以下、総理に具体的な御答弁を要望して、当面の重要課題について質問をいたします。  戦後最大の疑獄と言われるロッキード丸紅ルート公判で、去る二十六日、田中総理受託収賄罪等最高刑の懲役五年、追徴金五億円の求刑がございました。論告求刑段階とはいえ、国政の頂点に立つ総理在職中の事件であり、金額が多額であることからも、論告にもあるように、国民政治行政に対する信頼を極度に失わせたものであり、田中総理は、本人自身公判の最初の日に述べているように、みずから政治的、道義的責任を感じて国会議員を辞職すべきであると思います。  しかし、中曽根総理は、意見を聞かれますと、「行政府最高長官として意見は差し控えたい」と消極的な答弁を繰り返すのみであり、辞職勧告決議案に対しましてもきわめて後ろ向きであります。総理政治倫理確立で述べられた御決意は、単なる言葉だけにすぎなかったのでしょうか。わが党及び各野党が提出しようとする田中議員辞職勧告決議案に対する対応を含めて、重ねて御所見を伺いたいと思います。  また、政治倫理確立のためには政治的、道義的責任まで明確にされなければなりませんし、単なる個人倫理個人責任とは次元の異なる公的な性格と公的な責任をも考えなければなりません。したがって、「本人自由意思」で済まされる問題ではありません。総理は、このような政治的、道義的責任と公的、社会的な政治倫理確立についてどのような見解決意を持っておられるのか、お答えいただきたいと思います。  総理は、倫理委員会設置議員辞職勧告決議案処理議院証言法改正証人喚問実現等について、国会にゆだねるとして人任せのような責任逃れ答弁を続けておりますが、このようなときこそ自民党総裁として大いに指導力を発揮し、積極的に努力すべきであると思いますが、御決意をお間きしたい。  また、汚職の根を断つためには、政治浄化のため政治資金規正法を抜本改正して企業献金を禁止すべきだと思いますが、総理はたびたび「企業社会構成単位として政治活動を行う自由がある」という見解を述べるのみで、何らの進展改革の意欲も見られません。しかし、政治献金は、どんなものでも、社会通念を超える多額な献金政治に対して多額という金の影響力を与えることになりますから、公的に規制されなければならないのであります。特に、企業献金は必然的に企業営利目的を伴うことになり、金で政治を買う意味を否定できません。したがって、企業献金を禁止して個人献金に移行し、政治献金はすべて特定な具体的な目的を持たずに行われるようにするというのが金権政治を断つ政治責任であり、社会的要請であります。  しかも、五十一年に施行された政治資金規正法附則八条には、五年を経過した段階で見直すことになっており、企業献金から個人献金への移行が指摘されております。すでに二年以上放置しておりますが、早急に実行すべき義務があると思います。総理、いかがですか。  次に、いま急がなければならないのが衆議院参議院選挙区の議員定数是正であります。総理施政方針演説で、「代議制度国民意思をすくい上げる有効な回路として機能する」と言われておりますが、その基本となる立法府の議員定数は極端な不均衡の状態にあり、民主政治代議制度は健全に機能しておらない状況にあります。参議院選挙区の定数均衡はすでに五・七三倍、衆議院定数格差は四・五四倍に達し、自治省から有権者数の発表があるたびにその格差はますます広がっております。私どもは、議員定数委員会という第三者機関を設けて、もはや論議の段階ではないのですから、早急に定数格差是正を行うべきであると考えますが、総理決意をお示し願いたい。  次に、自民党内の憲法改正論議はますます活発になっておりますが、中曽根総理は訪米の際も、ワシントン・ポスト紙のインタビューで、「憲法改正については長期的な時間表を心の中に抱いている」と述べておられるが、憲法改正の時間表とはいかなるものなのか。一般論は昨日お話しになりましたが、総理の抱いている現行憲法改正の時間表なるものをお示しいただきたいと思います。  また、鈴木総理は、昭和五十五年十月九日、憲法問題に対する政府統一見解を発表し、その中で、「鈴木内閣現行憲法を尊重し、擁護し、改正意思はない」と述べ、さらに答弁の中で、「自民党憲法改正発議に必要な各院の議員の三分の二をとっても、国民世論が熟さないと改憲発議はしません」と答えておりますが、中曽根内閣もこの見解を継承されるのかどうか、明確にお述べいただきたいと思います。  次に、外交、防衛問題についてであります。  私どもは、わが国外交憲法恒久平和主義と平和五原則国連中心主義等を根幹に行い、なかんずく平和憲法のすぐれた理想と精神を広く世界に宣揚していくことが世界の平和に貢献していく道であると思っております。  しかるに、総理就任以来、防衛費を大幅に突出させ、武器輸出三原別国会決議に違反して米国武器技術供与決定し、日米首脳会談においては軍事同盟強化へ踏み込み、また不沈空母海峡封鎖等発言をなされました。このままでは非核三原則の堅持さえ心配されております。これでは総理が、緊張緩和どころか、かえって国際緊張を高め、軍事力を背景とした外交を行おうとしているのではないかと感ぜられてなりません。総理考えわが国外交基本姿勢はどういうものか、明確にしていただきたいと思います。  総理日米首脳会談において「日米運命共同体」と言われ、運命共同体同盟関係もともに軍事防衛面を含むと明言されたことは、アメリカ世界戦略の一環にわが国防衛面で組み込まれるということになると思いますが、いかがですか。私どもは、運命共同体とは日米二国間に限定した軍事的なものではなく、地球上の人類がすべて平和的な運命共同体であるべきではないかと思っております。  また、総理の不沈空母発言は、日本列島全部を戦争の軍事基地にするような誤解を招いており、平和主義を標榜するわが国の首相としてまことに不適切、不用意な発言だと思いますが、さらにお考えをお聞きしたい。  総理は、レーガン大統領との会談で、戦略核兵器削減交渉、すなわちSTART等のための米ソ首脳会議を早期に開催するようどのようにレーガン大統領に提言してこられたのか、お伺いしたいと思います。  また、いまや全世界の一年間の軍事費は六千五百億ドル、百六十兆円にも達しており、反面、飢えと貧困に苦しむ人々世界の各所にますます増加しております。毎日五万人が飢えのため亡くなっているのが世界現状です。このときに、世界的軍縮を推進するとともに、発展途上国への経済協力を進めることにわが国こそ最も熱心でなければならないと思いますが、総理はこの問題でどのようにレーガン大統領に迫られたのか、お示しいただきたいと思います。  次に、米国に対する武器技術供与は、武器輸出原則及び国会決議に明らかに違反しており、私どもは強く撤回を求めております。総理は、今回の決定は「武器輸出原則等によらないこととする」と述べておりますが、「よらないこととする」というのは無視するということですか。アメリカ紛争当事国になっても武器技術援助協力をするということは、明白に武器輸出原則を無視することになりませんか。さらに、憲法上当然問題があると思いますが、総理基本的な見解を明確にお述べいただきたいと思います。  次に、この決定には危険な内容を含んでおりますので、二、三お尋ねしておきたい。  さきのわが党の黒柳明議員質問主意書に対する政府答弁では、「米国から要請があったもののすべてについて供与を認めるというものではない」とのことでありますが、アメリカ紛争国になってわが国が紛争に巻き込まれるおそれがあると見られる場合には武器技術供与をしないと、明確に拒否いたしますかどうか、お尋ねしたい。  また、わが国企業の機密に関する技術アメリカから要請があっても、わが国企業協力しない場合が大いにあると思いますが、この場合、日本国アメリカ協力を拒否するということかどうか、明確にしていただきたい。  次に、財政経済問題に移ります。  昭和五十八年度予算の特徴は、防衛費を突出させ、福祉教育などの生活関連予算を冷遇し、所得税減税を見送り、景気対策を無視した予算と言うことができます。  一般会計予算全体の伸びが一・四%、実質三・一%マイナスという緊縮予算の中で、防衛費が六・五%も突出して伸び、その増加額は千六百八十一億円となっており、そのほかに後年度負担が二兆円余り認められております。反面、社会保障関係費はわずか〇・六%の伸びにとどまり、いままで一度もなかったことですが、人事院勧告見送りに合わせて各種年金物価スライド制を凍結、見送るなど、福祉は大幅に後退させられました。また、文教関係費マイナスで一・一%、五百十億円の減額となっております。さらに、景気回復にも重要な所得税減税は見送り、公共事業費横ばい実質マイナス住宅対策も消極的で、人件費関係では低所得者年金生活者に著しいしわ寄せを行っております。こうした予算編成は、財政の重要な機能の一つである景気対策をも全面的に放棄したもので、政府見通しの三・四%成長も困難であり、税収不足財政破綻という悪循環を繰り返すことになります。  わが党の福祉政策については、昨日、竹入委員長が詳しく述べたところでありますが、私どもはさらに福祉を守るために、年金生活者のせっぱ詰まった生活防衛のために、厚生年金国民年金各種共済年金などの物価、賃金スライド制度の実施を再度強く要求するものであります。総理は昨日、痛みを分かち合ってもらうためと言われましたが、公平な痛みとは思えません。これは一方的な大変な痛みを弱い立場の方々に押しつけるという、まことに思いやりのない冷たい政治と言わざるを得ないのであります。  また、当然、国家公務員人事院勧告及び公共企業体職員仲裁裁定に対しましては、労働基本権規制代償措置として完全実施すべきことを強く要求いたします。  私どもは、防衛関係予算については、平和日本の健全な姿勢を諸外国に示すとともに、軍事大国にならないためにも五十一年の閣議決定GNP一%以内の枠を厳守すべきだと考えますが、五十八年度の防衛費の対GNP比はすでに〇・九七八%となり、総理発言によって五十九年度は一%突破も憂慮をされております。総理は昨日、防衛費現状一%以内と言われましたが、防衛費現状のみならず、当面も五十九年度も将来もGNP一%以内の枠を守るべきではありませんか。総理いかがですか。  次に、所得税減税不公平税制是正についてでありますが、所得税減税は六年間も見送られ、実質増税によって勤労者の可処分所得は急速に低下しております。また、給与所得者のうち納税している人の比率も、五十二年に八六・一%だったものが五十六年には九一・五%に増加し、給与所得者全体の負担がますます重くなっております。所得税減税は、税負担不公平是正国民生活防衛景気回復などの面から切迫した国民的要求となっており、即刻、一兆円程度の所得税減税を実施すべきであります。  また、政府不公平税制是正のため貸し倒れ引当金見直し等を若干行いましたが、まだまだ不十分であります。私どもは、さらに退職給与引当金無税積立率の引き下げ、有価証券取引税適正化高額所得者給与所得控除頭打ち復活などの不公平税制是正を断行し、所得捕捉の不公正是正や海外での脱税防止などを図り、所得税減税財源に充てるべきであると主張しておりますが、実行するお考えはございませんか。  また、現在、働く御婦人の配偶者控除額、年七十九万円を早急に百万円以上に引き上げ税制改正が必要であると思いますが、いかがですか。  次に、公共事業でありますが、公共事業は即効的な景気浮揚効果も期待できますが、五十八年度は四年連続の伸び率ゼロとなりました。しかし、五十七年度補正予算での先食いがあったり、五十八年度の地方単独事業に期待できないことから、実質的には前年度より大幅にマイナスとなっております。政府は、五十八年度の公共事業の執行について自然体で臨む方針と言われましたが、五十八年度も大幅な上期集中発注に踏み切らざるを得ないのではないかと思われますが、いかがですか。  なお、案件ごとの配分に当たっては、用地費が少なく投資効率の高い生活福祉関連公共事業を優先すべきではないかと考えますが、御所見を承りたい。  関連して、中小建設業公共事業の打ち続く抑制や大手業者の進出で大変な危機に立っておりますので、この際、官公需の増大とともに分割発注の促進など受注機会の確保、拡大について一層の努力をすべきだと思いますが、いかがですか。  次に、国民生活にとってきわめて重要で、内需押し上げ牽引車としても期待されている住宅対策については、住宅金融公庫融資対象一戸建て中古住宅が加えられ、住宅ローン返済所得税控除が若干拡大されましたが、この程度の促進策では、宅地難による地価の高騰、住宅建設費の上昇、勤労者可処分所得の低下などのマイナス要因が多いために、抑え込まれている潜在需要を引き出せるかどうかはなはだ疑問であります。政府の五十八年度の新規着工住宅戸数見通しをまずお伺いしたい。  また、こうした中で住宅金融公庫融資戸数三万戸減や、公団住宅建設一千戸数の削減には賛成できません。少なくとも五十七年度並みに確保すべきであります。  公共賃貸住宅を望んでいる都市勤労者が増加しておりますので、良質で低家賃の公共賃貸住宅建設を促進するとともに、空き家増加傾向木賃アパートは、住宅の質の改善防災等の観点から、公的融資による良質、低家賃のセミパブリック住宅への建てかえを進めるべきだと思いますが、いかがですか。  次に、財政再建についてですが、まず第一に、「増税なき財政再建」を今後も堅持するのかどうかであります。中曽根総理は、鈴木前内閣から引き継いだ財政再建の二本の柱のうち「五十九年度赤字脱却」については完全に放棄しました。残ったもう一本の柱の「増税なき財政再建」についても、総理は、その基本理念に沿いつつと言うにとどまり、財政再建財政改革という言葉に変え、しかも直間比率見直しを含め歳入構造徹底合理化を打ち出しているのは、まさに昭和五十九年度から一般消費税と異なる形の大型間接税の導入を図り、増税なき財政再建も放棄するのではないかと言われておりますが、いかがですか。  第二に、財政再建計画の明示についてであります。財政中期展望が完全に破綻したため、総理は昨年経済審議会に新経済五カ年計画を諮問しておりましたのに、昭和六十二年まで赤字国債脱却を断念したゆえかどうか、突如、より長期の指針を検討するように方針を変更しました。この長期指針はいつまでに策定されるのですか。私どもは、国民の税金に負う財政問題ですから、国会審議に際しては、いつまでに赤字国債から脱却するのか、歳出削減はどうするのか、中身をはっきりさせた財政再建計画を至急国会に提出すべきだと思いますが、お考えをお聞きしたい。  第三に、経費削減やり方をどうするかであります。総理は、財政再建一般歳出削減で実行すると言われてきましたが、五十八年度予算でも大幅な赤字国債の増発に追い込まれております。そこで、今後の一般歳出削減具体的構想削減金額のめどなどを明らかにしていただきたい。  なお、政府の五十八年度削減やり方は、国民生活関連経費に非常に厳しい削減を図りましたが、五十九年度以降もこのようなやり方を続けるのですか。また、補助金の大幅な整理など行政改革による経費削減をどう進めるのか、お伺いしたい。  次に、地方財政についてであります。  福祉教育生活環境整備等のためにますます重大な地方財政は、地方の時代にふさわしい主体性と自主財源確立が望まれております。しかし、政府の五十八年度の地方財政対策を見ますと、国の財政再建を図るため、補助事業地方への肩がわりなど新たに地方負担を強化しております。  そこで、地方財政再建について伺います。  第一には、地方債残高交付税特別会計を合わせると五十兆円を超える借金となっており、これらを償還しながら、また黒字体質に変えていくための対策が必要です。そのためには地方交付税率引き上げを含む制度改正地方財政中期展望を早急に示すべきであります。  第二には、五十八年度地方財源不足に対処するため、法人事業税外形課税化道路目的財源地方配分増加等を図り、地方自治体財政運営に支障を来さないようにすべきではないですか。  第三に、地方債許可制の緩和をどのように検討されておりますか。また、地方単独事業は初めて前年度同額の据え置きとなっており、地方経済に対する打撃は大きいと思いますが、増額するお考えはございませんか。  第四に、所得税減税にあわせて住民税減税を図り、財源住民税法人均等割引き上げ地方公共団体行政経費の節減などによって措置することができますが、いかがですか。  最後に、災害、公害対策についてであります。  地震対策についてお伺いいたしますが、昨年暮れから現在まで伊豆大島近海群発地震が相次いでおり、これらの群発地震昭和四十九年以来、伊豆半島を北上する形をとっており、大地震に連動するのではないかと心配されております。これには地震予知連絡会より一応安心宣言が出ましたが、別に関東一円に一昨日二回の地震が続きました。関東大震災からすでに五十九年を経過し、地震周期説によれば東京直下型地震のおそれもございます。  東海地震についてはある程度の体制整備がなされておりますが、その他の大都市直下型地震についてはきわめて心もとなく、観測予知体制はばらばら、防災対策についても昨年九月、行政管理庁の監察結果に基づく改善勧告で指摘されておりますように、まだまだ不備、不十分であります。大都市には人口が集中し、生命、財産の地震被害ははかり知れないものとなり、万全の対策が必要であります。総理地震対策に関する基本認識をお聞きしたい。  また、行管庁改善勧告に対する政府の措置と、大都市直下型地震に対する全国的な地震観測予知体制や十分な総合的できめ細かな防災対策を立てる必要があると思いますが、いかがでございますか。  次に、公害対策についてお尋ねいたします。  わが国公害は一応危機的状況は脱したと言われますが、相変わらず慢性的な危険にさらされております。すなわち、大気汚染水質汚濁等はここ数年横ばい状態の傾向にありますが、これは常に危機的状況がひそんでいると言えます。しかるに、最近の政府公害環境行政の後退が多くの人から指摘されていることはまことに遺憾であります。  そこで、生命と自然を損なう公害の今日的問題を取り上げ、政府姿勢を伺います。  その第一点は、湖や沼をきれいにする湖沼環境保全法の制定を国民に公約しながら、いまだに政府国会に提出していないことであります。水の入れかえが少ない湖や沼では汚濁問題は深刻化しております。わが国は上水道の水源の三分の一近くを湖や沼に頼っており、湖沼問題は即飲料水の供給と結びついております。たとえば琵琶湖、霞ケ浦等を水源に持つ広範な地域では、嫌なにおいや味がつくなどの被害があって、水をきれいにするために湖沼法早期法制化を望む声が強くなっており、地方自治体ではすでに独自の条例をつくり、浄化対策を進めております。政府は、湖や沼と飲料水保全をどのように図っていくお考えか、また、この二年間何の進展もなかった湖沼環境保全法をいまこそ実現すべきだと思いますが、いかがですか。  第二点は、公害健康被害補償制度についてであります。現在、この制度による大気汚染の第一種地域の認定患者数は八万人を超えております。しかるに最近、財界等からこの制度見直しの要求が強くなっております。しかし、ここで注意しなければならないことは、公害認定患者が現在八万人を超す上、さらに増加傾向にあることと、窒素酸化物炭化水素浮遊粒子物質は悪化または改善状況が見られず、ぜんそく等公害病は、それぞれの複合汚染による疾病であることは多くの学者の一致した見解となっております。  そこで、亜硫酸ガスのみのわずかな改善をもって大気汚染改善されたと言うことは早計であります。したがって、この公害健康被害補償制度を改悪することは、被害者救済立場から絶対にあってはならないことであり、軽々しい行動は慎むべきであると思います。総理環境庁長官の確としたお考えをお聞きしたいと思います。  以上、平和な福祉日本建設に向かって、総理国民危惧を率直に受けとめ、国民の期待を裏切らぬよう強く総理に要望いたしまして、質問を終わります。(拍手)    〔国務大臣中曽根康弘登壇拍手
  4. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 多田議員の御質問にお答えを申し上げます。  まず、政治倫理について御質問がございました。  政治倫理確立という場合には、御指摘のとおり、単に個人倫理のみならず、公的、社会的責任というものも大事であり、その組織的改革という点も重要であり、御意見のとおりであると思います。  それらの点につきましては、われわれ政治家たる者、まず自粛自戒をいたしますとともに、制度的にもよりよきものへ志して改革していく必要があると思っております。その点につきましては私も同感でございます。  また、国会議員辞職勧告決議につきましても御質問がございましたが、この点につきましても、先般の論告求刑につきましては厳粛な気持ちで相対さなければならないと思います。しかし、国会議員の身分に関する辞職勧告という問題につきましては、これは国権の最高機関を構成する重要な一員の地位に関する問題でございまして、憲法上も最大限に保障されている等を考えますれば、この問題は慎重の上にも慎重を期すべきであると考えます。いずれにせよ、国会議員の進退に関する重要な問題は、法律等に決められている手続を除いては、最終的には本人の判断に任すべきものではないかと考えております。  次に、倫理委員会設置そのほかの点について御言及に相なりました。  御指摘倫理委員会設置や、あるいは先ほどの議員辞職勧告決議等処理あるいは証人喚問問題等につきましては、いずれも国会議員の身分に関する国会の重要案件でございまして、各党間で十分御論議を尽くされまして早期に解決されることを期待しておる次第でございます。  政治資金規正法改正について御質問がございました。個人献金へ移行せよという御趣旨であると思います。  この問題につきましては各党におきまして皆さん御研究のところであると思います。選挙制度のあり方とも密接な関係がございますし、また各党のよって立つ性格あるいは財政基盤等にも非常に関係する点がございます。これらにつきましては、各党御研究の結果を持ち寄りまして合意を形成していただきたいと考えております。  定数是正のための第三者機関設置という御指摘につきましては、これは選挙制度の根本にかかわる重大問題でございますけれども、議院がこのような適正な第三者の判断あるいはその勧告を尊重して定数問題を処理するということは傾聴に値する一つの考え方であると思いますし、外国にもそういう制度があるように聞いております。しかし、これらの問題につきましても、これは最終的にはやはり議院がみずから決めるべきものであると思いまして、各党間の合意の形成に御努力願いたいと思っておるわけでございます。十分な御論議を期待しておる次第でございます。  それから憲法改正の問題、特にタイムテーブルの問題等について御質問がございましたが、私は、憲法問題はほかの問題と同様に、国民の皆さんが十分に御論議し、研究し、あるいは討議し、見直すべき同じカテゴリーの問題であると考えております。現段階におきましては、やはりそのような論議をし、研究し、国民の合意を形成するという過程にあるべきものでありまして、私が現内閣におきまして憲法改正問題を政治日程にのせる考えはないと申しておるのは、そのとおりの考えに基づくものでございます。  また、前内閣における憲法の統一見解に関しましては、憲法基本理念を堅持し、憲法を遵守すること、それから憲法改正につきましては、調査し、研究し、そして見直す、そういう議論を活発にする、そして憲法尊重義務に反しないということ。憲法改正につきましては国民的コンセンサスが必要であり、現段階におきましては、内閣としては憲法改正問題を政治日程にのせる考えはないということを私は明らかにしておりまして、この方針は現内閣においても同様であります。大体前内閣と変わっていないと、そのように思うのであります。  外交基本姿勢につきましてでございますが、わが国はやはり平和外交を基軸にして、そしてこれを進めていくという基本考えでございます。日米安保体制という関係にあるこの日米友好関係を基軸にして、そしてアジアの近隣諸国を初め各国との間の友好協力関係を維持発展させ、また、わが国立場から政治経済的役割りを積極的に果たすということによって世界の平和と繁栄に貢献していくというのが基本方針でございます。  また、その一環といたしまして、国際的な軍縮についても現実的な努力を着実に推進していくということも、わが外交の重要な一環であるということも申し添えるものでございます。  アメリカにおける発言におきまして、運命共同体等について御言及がございましたが、私は、防衛理論の根拠におきまして、やはり抑止力という考え方を基本の一つに持っておるものでございます。防衛力というものは実は抑止力を形成するためのものである。そして戦争を防止するために、それを中心にして抑止力というものを保持するという関係に置いておるわけでございます。そういう意味におきまして、アメリカにおける発言というものは、いずれもこの抑止力理論を基礎にしながら、戦争をいかに回避し平和を持続していくかという考え基本に申し上げたものでございます。  運命共同体という概念も、先般来申し上げますように、日米間にありまする自由と民主主義を信条とする共通のところ、あるいは文化、経済の膨大な交流を通ずる相互依存関係、あるいは日米安全保障条約を通ずる防衛の関係、こういうような重大なさまざまな点におきまして運命を分かち合っているという意味において運命共同体と申し上げたのでございます。もとより私は、前から地上の平和、人類の共存共栄ということを申し上げておるのでございまして、この輪を広げて全地球的に平和と繁栄を図るということはもとよりでございまして、人類的意味におきまして地球人類運命共同体という御発想については全面的に賛成でございます。  次に、不沈空母という発言について御質問がございましたが、これも先ほど申し上げましたような考えに基づきまして、自分の国は自分であくまで守る、そういうかたい決意というものがなければこれは国防は全うできない、また安全保障条約による機能発揮もできない、そういうことを中心に考えまして申し上げた一つの比喩であるとお考え願いたいと思うのであります。  日米首脳会談内容につきましては、東西関係について、目下アンドロポフ新政権が政策形成期にあるので、われわれとしては結束して慎重に対応することが重要であり、ソ連に対して一方においては自制を求める必要もあるが、一方においては対話も必要である。特に、軍縮問題につきましては、この超大国であるアメリカとソ連の関係というものは世界の運命を支配するぐらい重要なものでありますから、軍縮につきましても積極的に私は発言をしてまいり、レーガン大統領も軍縮の問題については非常な熱意を示されたということでございます。  開発途上国の問題につきましても話し合いをいたしまして、これらの問題につきましても相協力して努力していこう。特に、開発途上国にある債務問題の処理、あるいは原料そのほかの産品問題に対する対策等も考慮していく必要があるという話におきまして一致したところもあるのでございます。  それから対米武器技術供与憲法の問題でございます。  日米安保体制の効果的運用を確保する上できわめて重要であり、かつ、わが国及び極東の平和と安全に資する、こういう考えに立ちまして対米武器技術供与に道を開いたものなのでございます。本件供与は、日米相互防衛援助協定の関連規定に基づく枠組みのもとで実施することとしておりまして、これにより国際紛争等を助長することを回避するという武器輸出原則等のよって立つ平和国家としての基本理念は確保されると考えております。  また、本件供与は、日米安保体制の効果的運用を図り、もってわが国及び極東の平和、安全の維持を確保することに寄与するというものでありまして、憲法平和主義の精神に反するものでもなく、本件供与に道を開くこととした今回の決定は、憲法に抵触するものとは考えておりません。したがって、政府としては今般の決定を撤回する考えはございません。なお、今後とも基本的には武器輸出原則国会決議等を尊重し堅持していく考え方でございます。  さらに、本件武器技術供与に道を開くこととしましたことは、武器輸出原則等によらないということにしましたが、これは日米安保体制の効果的運用を確保するという上で重要であり、わが国、極東の平和と安全に寄与するものでありまして、わが国紛争に巻き込むようなものとは認識しておらないのでございます。  なお、企業機密との関係でございますが、本件は政府間の話し合いの問題でございまして、民間企業の保有する技術については、その対米供与を義務づけるということは考えておりません。民間の自主的判断を尊重すべきものであると考えております。また、政府間において供与を行う際の協議におきましても、選択の自主性はわが国にあるということはもちろんでございます。  次に、スライド制の問題でございます。  社会保障費あるいは教育費の問題につきまして御言及いただきましたけれども、この厳しい財政事情のもとにおきましても、社会保障費あるいは教育費については重点的にこれを扱いまして、極力努力をしたところもあるのでございます。特に、社会保障費につきましては絶対額はふえておるのでございます。増加の率がいままでよりは減ってきたということでありまして、絶対額は昨年よりはふえておるのでございます。厚生年金各種共済年金などのスライドにつきましては、現在の厳しい財政事情、それから物価がきわめて安定してきている、そういうような状況から、まことに忍び得ないところでございますが見送りをいたしまして、御了承をいただきたいと思っております。  人事院勧告の取り扱いにつきましても、同じように危機的な財政事情というものを考え、かつ行政改革をやっておりまする現段階において、公務員の皆さんにも痛みを分かち合っていただくという意味から、異例の措置として給与改定の見送りを行いました。この点も御了承いただきたいと思うのでございます。  防衛費の一%の問題につきましては、わが国の防衛力整備については防衛計画の大綱に定める防衛力の水準にできるだけ早く到達する、そういうことが目標でございまして、将来この防衛費がどういうふうになるかということは、GNPがどういうふうに伸びるか、物価の動向がどうなるか、あるいは防衛費がどういうふうな動向で高さが決められていくかというような不確定な要素がございまして、いま見通しを申し上げることは困難でございます。いずれにせよ、この防衛費GNP一%に関する五十一年の閣議決定は現在のところ変える考えはございません。  所得税減税につきましては、昭和五十三年以来、課税最低限の据え置き等によりまして、所得税減税を行えという声が非常に強いことは私もよく承知しております。しかし、五十八年度におきましては歳出削減等かなり厳しい措置をとらざるを得ない状態でございまして、今回は見送ることになりました。まことに残念でございますが、これも御了承いただきたいと思う次第でございます。この点につきましては、昭和五十八年度の税制調査会の答申におきましても、所得税減税を見送ることはやむを得ないと報告されております。しかし、五十九年度以降につきましては、税調答申にもありますように、早期に税制全体の見直しを行う中で、課税最低限や税率構造等についても根本的な検討を行うことが必要ということを指摘をしておりまして、多田議員指摘の税制の改正につきましても、これらの答申をよく検討してまいる必要があると考えておる次第でございます。  次に、公共事業費の問題でございます。  公共事業費につきましては、厳しい予算の中におきましても昨年度と同額を確保した次第でございます。五十八年度の施行方針につきましては、予算成立後、今後の景気や物価の動向等に十分配慮して、機動的に実施していくように考えたいと思います。  また、この経費の事業別配分に当たりましては、各種社会資本整備のバランス等を勘案しつつ、生活関連公共事業について特に配慮してまいりたいと思っております。  また、中小関係の建設業の振興につきましては、景気刺激効果を末端に浸透させるためにも、公共事業におきまして地元建設業者等中小建設業者の受注機会の確保が重要であると考えております。このため、今後とも分割発注の推進あるいは発注標準の遵守等によりまして、中小関係業者の受注機会の確保に努めてまいります。  住宅問題について御質問をいただきました。  昭和五十八年度の新設住宅着工戸数見通しにつきましては、地価、所得等住宅建設を取り巻く環境は厳しいものがございますが、住宅金融公庫の無抽せん体制の維持や貸付限度額の引き上げ住宅取得控除の改善等の諸施策を講ずることといたしておりまして、ほぼ五十七年度並みの水準は確保できる見込みでございます。  次に、特にまた低質な木造賃貸住宅は従来から利子補給や低利融資により建てかえを推進してまいりました。特に、五十七年度からは木造賃貸住宅の建てかえ及び住環境の改善を総合的に実施する制度を創設いたしまして、これらの対策を本年も積極的に推進する考え方でございます。  増税なき財政再建ということは行政改革の理念であります。今後財政改革を進めるに当たりましては歳出の見直しを行う必要がありますが、その際は、安易に増税を念頭に置くということではなく、行財政の守備範囲を見直す、歳出歳入構造を洗い直す、そういう見地からこれを徹底して行ってまいりたいと思います。このような意味で、増税なき財政再建基本理念は堅持してまいる所存でございます。  経済長期指針について御質問がございました。  新しい経済計画につきましては、昨年七月の諮問以来、経済審議会においていわゆる五カ年計画として策定作業が進められてきたところでございますが、政府は先般の経済審議会において、五カ年という期間を超えたより長期的視野でわが国経済社会の展望と経済運営の指針をお示ししていただくように御審議を願いました。  いわゆる社会主義計画経済的な発想は、わが国自由主義経済のもとではなじまないと思うのでございます。それから、いままでの高度経済成長時代になじんだような発想をそのまま将来の経済展望に基礎として用いることも検討を要するところでございます。民間の活力を思い切って引き出すという基本発想を必要としている段階に入ってきていると思います。そういう点につきましてよく御検討をお願いいたしたい。そうして将来の経済展望あるいは経済指針というような考えに基づきまして、弾力性を持った伸び伸びとした考えによる展望、指針をつくっていただきたいとお願いをしておるところでございます。また、次の財政計画に対する考え方につきましては近く提出をさせる予定になっております。  地方財政との関係で御質問をいただきましたが、交付税率の引き上げ等の問題は、国、地方間の財源配分基本をなすものであり、慎重に検討を必要といたしております。地方財政の中期展望を策定することは非常に望ましいことでございますが、技術的に検討をすべき点も多いので自治省において研究させたいと思っております。  次に、地震について御質問がございました。  今回の伊豆半島東方沖の群発地震は、現在の状態が続く限り、大きな地震に連動する可能性は少ないという報告であります。なお、この地域地震活動に対しましては十分な観測体制が整備されておりまして、常時監視を実施いたしております。  地震対策は、基本的には大都市における過密の解消、建物の不燃化、オープンスペースの確保等による安全な都市建設へ心がけていくことが基本でございます。しかし、当面、都市防災化の推進、防災体制の強化と防災意識の高揚、それから地震予知の推進に重点を置いて実施をいたしております。  行政管理庁の勧告に基づく措置につきましては、関係省庁においてその趣旨に沿って措置を講ずる方向でいま検討をいたしております。  大都市直下型地震につきましては、地震予知研究等の一層の推進を図るとともに、現在実施中の南関東地域地震被害想定調査の結果等を踏まえ、応急対策計画の充実等対策を一層拡充強化していくつもりでございます。  大気汚染の問題等につきましては、大気汚染の態様の変化を踏まえ、窒素酸化物等をどう評価するか等の公害健康被害補償制度をめぐる諸問題について、十分な科学的な知見の上に立って冷静な議論を尽くす必要があり、現在必要な調査研究を進めておるところでございます。  残余の御質問関係大臣をして答弁させていただきます。(拍手)    〔国務大臣竹下登君登壇拍手
  5. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 私に対する御質問に対し、逐次お答えをいたします。  まず、引当金の見直しの問題の御指摘がありました。その繰入率等につきましては実態に応じて見直しを行ってきております。五十八年度におきましても金融機関の貸し倒れ引当金については見直しを行う、こういうことといたしておる次第であります。ただ、この引当金そのものは、いわゆる政策税制と考えることは必ずしも適当ではないではないか、このように考えております。  それから租税特別措置。これも整理合理化によって多額の増収を期待できるというものではございませんが、五十八年度においてもさらに見直しを行ってきております。  それから有価証券取引税。これも税率を五十三年、五十六年と両年度にわたって引き上げを行いましたが、さらに引き上げを行うということには問題があるではなかろうか、こういう感じでございます。  それから給与所得控除につきましては、勤務に伴う費用が収入の増加に応じて何がしか増加するという事実及び給与所得とその他の所得との負担の調整を図ることを考慮して設けられたものでございますので、税制調査会の答申でも指摘されておるとおり、このような仕組みは今後とも維持すべきものであるというふうに考えております。  もとより、御指摘になりましたいわゆる所得課税の適正な執行を担保いたしますためには、制度上の措置等については、昨年六月に設けられました税制調査会の申告納税制度特別部会、これにおきまして実情等を十分勘案しつつ具体的な検討を進めておるところでございまして、この審議の状況等を踏まえながら対処していく考え方でございます。  執行面については、従来から公平な課税を確保するため納税環境の整備、税務調査等にできる限りの努力をしてまいりましたが、今後とも一層の努力を傾ける所存でございます。  それから海外での脱税防止。この点につきましては、大法人の税務調査に当たって海外関係に重点を置くほか、外国との情報交換の積極化、海外への調査官派遣の推進、海外取引の調査を充実させるための体制の強化等を図っておりまして、引き続き適正な課税の確保に努めてまいりたい、このように考えておるところであります。  特に御指摘のございました、いわゆる働く婦人の配偶者控除額引き上げの問題でございます。  これは、五十六年度の税制改正の際に、控除対象配偶者等の所得限度額を二十万円から二十九万円に引き上げた結果、現在では七十九万円までの収入について配偶者控除の適用があるわけであります。これをさらに引き上げる、こういうことにつきましては、まず控除対象配偶者等の所得限度額につきましては、配偶者に所得のない世帯などとの税負担のバランス、そして配偶者自身が納税者になると同時に夫の配偶者控除の対象になるという不合理な姿にするわけにはまいりませんので、基礎控除額と同額の二十九万円、そして最低保障額の五十万円、こういうことになるわけでございます。  次が、赤字国債からの脱却の時期等々、これにつきましては総理からいまお答えがございました。いわゆる財政改革を進めていくに当たっての基本的な考え方、これにつきましては本日本院へ提出申し上げたいと、このように考えておるところでございます。  それから一般歳出削減についての考え方でございますが、現下の諸情勢と将来への展望を踏まえながら、行財政の守備範囲の見直し等徹底した洗い直し、合理化を行う必要がございまして、臨調やあるいは財政制度審議会等の改革方策の実現にこれからも努めてまいりたいと思います。したがって、具体的にどの事項をどのように合理化、削減していくかということは、今後毎年度の予算編成の過程で決められるものでございますので、削減金額のめどをあらかじめ示すということはなかなか困難な問題であるというふうに考えております。  そうして、特に国民生活関連経費に対して非常に厳しいではないかと、こういう御指摘がございました。  五十八年度予算編成におきましては、一般歳出についていわゆる聖域を設けることなく、徹底した見直し、合理化を進めまして、総額を前年度同額以下に抑制をいたしました。たとえば、臨調の答申におきまして指摘されました歳出及び歳入構造の合理化につながります諸方策につきましては、制度、施策の抜本的見直しを行いまして、極力その実現を図るよう努めてまいったところであります。  しかしながら、ここで一方、真に必要な施策につきましては、その緊要度、内容を厳しく検討の上、老人や心身障害者に対する福祉施策等、重点的、効率的に財源配分しておるところでございます。今後とも行財政の守備範囲の見直しを行うなど、歳出構造の合理化、適正化を図りますとともに、真に必要な施策につきましては重点的、効率的な推進を図ってまいりたい、このように考えております。  それから補助金の整理でございますが、これにつきましても、各方面の声に耳を傾けて、これからもその見直しを行っていくという考え方には変わりありません。  以上で私のお答えといたします。(拍手)    〔国務大臣山本幸雄君登壇拍手
  6. 山本幸雄

    国務大臣(山本幸雄君) 地方財政全般にわたりまして、具体的に四点ばかりお尋ねをいただきました。  まず、交付税率の引き上げを含む制度見直し、それから地方財政の中期展望ということでございます。  これは先ほど総理からも御答弁がございました。地方財政の健全性を回復するというためには、まず歳出の徹底的に節減合理化を図るということが第一でございますが、と同時に、地方交付税率引き上げ等の問題も含めまして、地方税制あるいは財政、そういった制度の抜本的改正を行うことが今日必要な段階であると考えております。しかしながら、これらの問題は、財政問題といたしましては国、地方間の税源、財源配分基本に係る問題でございますし、また地方行政といたしましては、国、地方を通ずる事務の配分、役割り分担をどうするかということにも関係する大きな問題であります。地方自治全般の課題といたしまして、地方制度調査会を初め関係方面の御意見ども承りながら今後真剣に検討をしてまいりたいと考えております。  また、地方財政の中期展望につきましては、何せ地方公共団体が三千数百ございまして、それの全体、集合体ということであります。各地方団体はまたそれぞれの地域の実情に即して自主的な判断に基づいて財政運営を行っておりまして、これらの点から大変中期展望をつくる上においては技術的に困難な問題が多くございまして、策定に当たりましては種々検討をしなければならない問題があるわけでございます。  しかしながら、地方団体の財政運営に資する今後の指針としまして、何らかの形で地方財政の中期的な見通しを示すということは有意義なことであると考えておりまして、新しい中期的な経済展望が出る予定でありますし、また国の財政見通しの策定ということなど、そういうものとの関連も踏まえながら、一定の前提を置いた、不確定要素の大変多い中ではありますけれども、何らかの形で地方財政の中期展望をつくっていきたいと考えております。  それから事業税の外形標準課税の導入ということでございますが、これは企業関係税といたしまして税制全般とも関連する問題でございますので、今後税制に関する基本的な検討が行われまする機会をとらえまして、ぜひこれは検討項目といたしたいと考えております。  地方道路目的財源につきましては、地方道の整備水準あるいは特定財源比率といったものが依然として低い現況にございますので、今後その充実につきまして十分検討してまいりたいと思っております。  地方債の問題でございますが、今日地方財政の運営におきましては、やはり地方債の適正な発行規模を確保するということ、あるいは国、民間などの資金需要の調整というそういう必要がございますので、地方債の許可ということについてはなお必要であるとは考えておりますが、しかしその運用に当たりましては、枠を配分するといったような枠配分方式をもっと広げていくということなど地方団体の自主性を尊重する方向改善を図って、今後とも努力をしていきたい所存でございます。  また、地方単独事業費につきましては、御指摘のような点にも配意をいたしまして、五十八年度におきましては、きわめて厳しい財政状況下にはありますが、地方財政計画上、国の公共事業費と同様に前年度同額を確保することとなっておりますが、地方公共団体に対しましては、経常経費の節減等による財源の捻出にも努めながら、地域の実情に即して地方単独事業の重点的な実施を図るよう指導をしておるところでございます。  住民税の減税というお尋ねをいただきました。  今日の地方財政の厳しい状況にかんがみまして、税制調査会の答申もありまして、五十八年度において住民税減税を見送らざるを得なかったところでございます。この点については先ほど総理からもお答えがございました。減税の財源として、法人税均等割あるいは交納付金等の改善等の御意見をいただいたところでございますが、これらにつきましては今後とも御意見を踏まえまして十分に検討をさせていただきたいと考えております。  以上でございます。(拍手)    〔国務大臣梶木又三君登壇拍手
  7. 梶木又三

    国務大臣(梶木又三君) 公害関係につきまして二点お尋ねでございますが、まず第一点の湖沼の問題。これはいま湖沼の水質汚濁、御指摘のとおり大変深刻で、一刻もゆるがせにできない状況にございますことは事実でございます。このため、一昨年来、湖沼水質保全特別措置法案、これにつきまして政府部内で意見の調整を図ってきたわけでございますが、完全な合意を見ていないわけでございます。こういう経緯がございましたので、なかなかむずかしい情勢にございますが、環境庁としましては、この通常国会に何とか提出したいと努力を重ねておるところでございます。  なお、湖沼の水質保全上一番大切な課題でございます富栄養化の問題、これにつきましては昨年の暮れに窒素と燐にかかわります環境基準、これを設定いたしまして、今後さらに窒素及び燐の排水規制を実施すべく、去る一月十七日に中央公害対策審議会に諮問を行っておるところでございます。  次に、二点目の公害健康被害補償制度でございますが、これにつきましては先ほど総理からも御答弁ございましたが、これをめぐりまして、窒素酸化物等を地域の指定要件にどう評価するか、それからまた逆に解除要件をどのように明確化するか、こういう問題があるわけでございますが、これらの問題について、あくまでも十分な科学的知見と実情の正確な把握の上に立ちまして、冷静な議論を進めまして合理的な結論を出すことが肝要だと、このように考えております。このため、現在必要な調査研究を進め、科学的知見の収集に目下努めておるところでございます。  以上でございます。(拍手)     ─────────────
  8. 徳永正利

    ○議長(徳永正利君) 宮本顕治君。    〔宮本顕治君登壇拍手
  9. 宮本顕治

    ○宮本顕治君 私は、日本共産党を代表して、総理質問いたします。  総理は、日本が戦後史の転換点に立っているとして、戦前、戦後の歴史から「何を残し、何を改めるべきか」と設問しております。総理見直しにタブーは設けないと言っておりますが、戦前、戦後のわが国の歴史から真剣に学ぶならば、そこにはタブーとすべき幾つかの重大な点がはっきり存在しております。  その一つは、明治憲法に定められていた天皇主権、これに基づく政治基本的人権を踏みにじる暗黒政治であり、断じて残してはならないものであります。    〔議長退席、副議長着席〕  その一つは、どんな名目によろうと、侵略戦争に踏み出してはならないという点であります。日本人三百十万人、近隣民族二千万人の犠牲は断じて繰り返してはなりません。  その一つは、どんな名目であれ、他国と軍事同盟を結んではならないという点であります。日独伊三国軍事同盟は、「防共」「世界新秩序の建設」の名のもとに、あの世界戦争に道を開いた最悪の愚行でありました。これらは、当時、日本共産党を除くすべての政党が同調し、最後には政党自体を解体した経過が伴ったものであります。  私は、この二カ月間の中曽根内閣の動向を憂慮しつつ、総理がこうした点を歴史の教訓として認められるかどうかということをまずお聞きしたいと思うのであります。  次に、総理世界認識について伺いますが、あなたは繰り返し「世界全体との調和」を強調し、「世界の孤児」になってはならないと述べておられます。世界の実体とその大勢はどうなっているでありましょうか。国際連合の最初の加盟国は五十一カ国でありましたが、今日は百五十七カ国となり、その中で非同盟諸国が全体の三分の二を占めるに至っております。  毎年の国連総会でも示されているように、世界平和に決定的な関係を持つ核兵器の問題をめぐっても大きな対立があります。非同盟諸国を中心とする圧倒的多数の国は、核兵器の全廃を求める方向で、当面核兵器使用禁止協定を結ぶべしということを主張しておりますが、これに対して、アメリカを先頭に、棄権の日本を含めて、いわゆる西側諸国はそれに反対し続けております。昨年の国連総会での賛成票百十七、反対票十七、棄権八という数字が示しておりますように、明らかに西側諸国は世界のごく少数派であります。  日本世界で唯一の被爆国であり、国民の圧倒的多数は、昨年の国連軍縮特別総会への八千二百万の署名も示しておりますように、核兵器の全廃を切望し、核兵器の使用に増悪を持っているにもかかわらず、日本政府はその世論にあえて逆らって、世界の大勢から孤立しているのであります。  あなたは、核兵器問題での現在の日本政府立場は、世界的に見ればごく少数派であり、まさに「孤立」そのものであることをお認めになるかどうか、この点を伺いたいと思うのであります。あなたの恐れられている「孤立」とは、もっぱら西側陣営なるものの中での「貿易摩擦」「軍事分担」などにかかわることにすぎないのではありませんか。あなたの言う「世界との調和」とは、主として「アメリカとの調和」のことではありませんか。  その実体は、さきアメリカ訪問における総理行動が雄弁に立証いたしました。わが国の多くの良識ある人々を驚かせた「日米運命共同体」とは、わかりやすい言葉で言えば、生きるも死ぬもアメリカと一緒ということであります。  ワシントン・ポストとのインタビューで、総理が、日本列島をソ連のバックファイアに対する巨大なとりでとして不沈空母とみなしたのは、四海峡全面封鎖計画とともに、実際には、アメリカの対ソ戦争時に日本アメリカ運命共同体として行動をともにするということ以外の何物でもないではありませんか。  アメリカの議会等におきましても、米ソ間の紛争、衝突時以外に日本が戦場になることはあり得ないということを、ウエスト国防次官補やギン前在日米軍司令官などが政府軍事当局者等として繰り返し証言しております。総理はこの事実をお認めになるかどうか、これを伺いたい。  また、総理は、不沈空母論、四海峡封鎖論等について、国会でも自分の国を自分で守るというのは当然だということを力説しておられます。そしてその決意アメリカで述べることが、日米安保条約の運用を円滑にしてアメリカ軍が本気で来援することになるのだと繰り返し強調しておられます。しかし、アメリカ軍の来援とは何を意味するのでありますか。レーガン大統領は核兵器の先制使用があり得ることを公言しております。また、アメリカ本国はソ連からの攻撃にさらされないまま、そういう状況で欧州やアジアでの限定核戦争構想を公言しております。  日本アメリカとの共同作戦のもとで戦場になった場合、アメリカ軍の核が使用され、日本自身が核戦場になり得ることは大いにあり得ることではありませんか。その結果は第二次大戦時の比ではありません。日本民族の圧倒的多数の原爆死による日本の廃墟化を意味するでありましょう。日本国民は、そのような恐るべき方向日本を導く政府を断じて許さないでありましょう。日本国民が平和と生命を守ろうとするならば、今後の選挙においてもこのような冒険主義的な政府に対して必ず厳しい審判を下すだろうということを、私たちは日本民族の安全な未来のために強く確信するものであります。  総理は、かつてその著書「自主憲法基本的性格」の中で、サンフランシスコ条約や日米安全保障条約について述べられ、「外国軍隊の駐屯が続く限り、日本政府の自主性は制限され、防衛に関する外国の発言権は強まり、不測のことに日本が引きづりこまれる恐れなしとしない」と言いました。これはかつて中曽根さんが言ったことであります。この不測のことに引きずり込まれるおそれは、今日は以前よりはもっと強くなっているのではありませんか。わが国民も、たとえば昨年のNHKの世論調査の数字も示しておりますように、実に七八%の人が、日本アメリカによる戦争に巻き込まれる危険を指摘しております。  総理、あなたはこれまで一貫して「日米相互防衛体制」を対等な双務的なものとして半永久化するということを願うと、持論として言ってきております。総理の改憲プログラムの中には、この方向をタブーとしないどころか、最大限に実現するということが入っているのではありませんか。しかし、この方向は、日本の平和、安全と決して両立するものではありません。このような恐るべき結論に導かれるあなたの「時代認識」の特徴といいますか、盲点は、そのアメリカ信仰、レーガン迎合にあると指摘せざるを得ないのであります。わが国武器輸出原則の決議をあえて踏みにじってまで訪米の手みやげとしたことは、その顕著な一つではありませんか。  あなたは、ワシントンでのある朝食会の席上、アメリカ議会が「世界の議会」であり、日本を含む世界じゅうが選挙区だという趣旨のことを述べたそうであります。各紙がこれを伝えておりますから事実でありましょう。全く日本民族の誇りを投げ捨てた卑屈きわまる態度と言わなければなりません。あなた方がロンとかヤスとか呼び合って、大いにあなた方のきずなを強めることは自由であります。しかし、アメリカの戦争に巻き込まれるようなきずなは断じて断ち切らなければならないのであります。  ワシントン・ポストでの発言に対してソ連のタス通信が、そういう日本になれば、日本は核の報復攻撃の的になるだろうと言ったことは、内外に新たな衝撃を与えました。わが党は、どんな国であれ、またどんな場合であれ、核兵器使用を断じて許しません。ソ連に対しても、極東から米ソの一切の核兵器の撤去を求める立場から、わが党はSS20の撤去をすでに久しく求めており、そしてソ連が核兵器全面禁止のイニシアチブをとるべきであるということも主張してまいりました。  施政方針も認めておるように、今日の軍事ブロック間の緊張はまさに「恐怖の均衡」であり、核軍拡競争の日々であります。そして、そこから根本的に脱却する道は何か。それは決してアメリカの核の傘のもとにあって核兵器の役割りを是認し、核抑止力を信奉する立場にはないのであります。日本政府日本国民の熱望にこたえ、国会決議の真の精神に沿って、核兵器全面禁止の立場から、核兵器の使用禁止をみずから率先してすべての核兵器保有国に対して主張してこそ、道理にもかない、国際的説得力を持つものであります。あなたは、この道をこそ選ぶべきではありませんか。責任ある答弁を求めるものであります。  もっと根本的に言えば、どんな軍事同盟にも参加しない非同盟中立の日本を志向してこそ、日本国民の多くが心配しているアメリカの戦争へ巻き込まれる危険から解放され、真に世界の平和に貢献できるものであることを私は主張するものであります。  次に、経済の問題に関してお聞きいたします。  昨春、私はこの壇上から、鈴木総理の「日本経済上出来論」に対して、「一国の経済を見る基準は、大多数の国民の生活と実情はどうかというところにある」と反論いたしました。この点から見まして、その後のわが国経済の実態はますます深刻になっております。低い賃上げや減税見送り、実質増税で、実質消費支出は引き続き低迷しております。高卒者の就職難も生じるなど、雇用、失業もますます深刻化しております。中小企業の倒産は七年以上も続けて月一千件台を超え、農家の所得は大幅に減退しております。これでは今日の経済悪化の原因であります消費不況が打開できないことは明白であります。とりわけ、国民総支出の六割に近い比率を占める個人消費の向上なくして景気回復はあり得ないのであります。  政府の政策は、所得減税六年間据え置き、人事院勧告の凍結、年金、恩給の物価スライドの停止、あるいは予算の中の福祉教育関係支出の切り下げ、公共料金、学費値上げなど、全体として国民のふところを寒くする方向を一貫して追求しているのであります。このような政策のもとでは消費不況にますます拍車がかかることになります。政府は、景気回復策の中心として国内民間需要を挙げておりますが、まず総理は、内需における個人消費の役割りをどう考えておられるか伺いたいと思うのであります。  政府は、こういう問題を追及されますと財政問題に逃げて、ないそでは振れないという論法にいつも出ております。  そこで、今日の財政危機について質問いたします。  膨大な赤字公債の発行の源は、言うまでもなく、田中角榮の「日本列島改造論」に典型的に見られているような大企業中心の財政膨張政策にあります。現在の日本のような公債依存の財政は西欧諸国にも例を見ないものであります。そして昭和五十九年度赤字公債発行ゼロという前内閣財政再建の公約は完全に破綻いたしました。加えて、一九八五年から赤字国債の大量償還が始まり、膨大な額となった国債の利払いとともに、わが国財政は、十年間に実は百数十兆円から二百兆円近い国債費を負担しなければならないという深刻な事態に直面しているのであります。  このような事態の中で、五十八年度予算案はこれまでにない発想の転換が求められていたにもかかわらず、国民に犠牲を押しつけ、国民生活関連分野の支出を抑えるマイナスシーリングを行いつつ、ただ軍事費、海外協力費、大企業保護などの聖域は依然として守り、そしてこれらの方向をむしろ理論化している、こういう状況であります。  軍事費については、私が冒頭に明らかにしたような誤った政府の時代認識と誤った方向のもとに、その急速な拡大を至上命令として六・五%増の特別枠を設けております。先般の総理の韓国訪問で四十億ドルの援助を約束いたしましたが、これは実質的には韓国への軍事協力であります。わが党は、国費のこのような使途には反対であります。  また、いわゆる先端産業などの大企業への不当な補助金は、国の当然の援助として続けられておりますが、たとえば、年間三千億円近い利潤を上げている大企業五社への補助金が、わが国の工業出荷額の半分以上を占める中小企業に対する同様の補助金全体の六倍であるということを見ましても、この不当さはきわめて自明であります。  政府と臨調が聖域化し、かつ理論化しながら政府長期経済計画にまで持ち込もうとしているこれらの部門に思い切りメスを入れれば、減税を初め国民生活を守る財源は十分可能であるということは、わが党だけの主張ではありません。国民の多数も実際に切望している点であります。昨年行われたNHKの世論調査でも、軍事費の一層の増加を望むとしたものはわずかに一四%、読売新聞の調査でも、六一%の人が厳しく削るべきものとして軍事費を挙げているのであります。  総理は、昨日の衆議院でわが党の金子議員質問に対して、軍事費削減などと云々することは全く現実的でないと一蹴いたしましたが、これらの国民の声も非現実的と一蹴するのでありますか、はっきり伺いたいと思うのであります。  自民党の今年度の運動方針は、赤字財政の原因があたかも福祉政策にあったかのように、福祉重視を「成熟型先進国病」として片づける方針を公然と打ち出しております。しかし、わが国では、社会保障は憲法二十五条で国がその「向上及び増進」に努めることを義務づけているものであります。総理の「たくましい福祉」、社会保障制度見直しとは、福祉国民の「自立自助」や「社会連帯」に任せ、福祉の対象はごく一部のきわめて弱い立場の人に限るという十九世紀の救貧思想に返るものではありませんか。  また、政府演説でも再三強調されておる「民間の活力」依存という理念を乱用することによりまして、わが国の営利企業の活動分野を、本来国が責任を負う活動分野にまで広げていくという方向が理論化されつつあることは、これまたきわめて重大な危険であります。言うまでもなく、民間企業の活動の源泉は利潤追求にあります。これに国全体にかかわる公共の事業、たとえば国鉄を分割して任せることにして、国の責任は主として外交軍事、対外援助その他等に限るとし、これを「行政改革」の新しい理念とするなどのことは、結局、政治責任の放棄であるということを言わざるを得ないと思いますが、いかがでありますか。  最後に、ロッキード問題について。  全野党が田中角榮の辞職勧告の問題を提起しているのに対して、首相の答弁は一貫してきわめて冷ややかなものであります。これは多くの国民政治浄化への願いに背を向けるものであります。  アメリカの議会でこの事件が発覚してから、わが党は八次に及ぶ訪米調査団を出しました。また、一九七六年四月の五党首会談での「真相の徹底的解明」「調査特別委員会設置」、この申し合わせ、これは議長裁定ともなったものでありますが、これらにおいて、わが党がこの事件を一貫して重視してきたのは、金権腐敗こそわが国政治の構造的な病患であるからであります。そしてそれが過去のものでなく、今日及び明日の日本政治の根幹をむしばむものであるからであります。  しかも、現政権の中枢に田中軍団が決定的な影響力を持っているだけでなく、それによって、金権腐敗汚職に関してクロをシロと言い張る政治風潮が永田町を横行する事態を引き起こしており、これは文明国日本の恥辱とされているからであります。少なからぬ人が吉田内閣時代の犬養法相の指揮権発動の悪夢を、単に過ぎ去ったこととしてでなく、今後とも懸念しているのはそのためであります。  総理は、わが国の特に保守党の歴史にしばしばあらわれる汚点である金権汚職体質、これについてどんな反省と対策を持っておられるのか。そしてまた、一九七六年の与野党党首会談の申し合わせや、それに基づく議長裁定を今日も自民党責任者として尊重をする気がおありなのかどうか、この点をはっきりお聞きしておきたいと思うのであります。  わが党は、外国の意向や大企業の利益に動かされる政治でなく、まじめな働く人々に奉仕する革新政治建設することが、金権腐敗の根を全面的に断つ道であることを確信し、今後とも清潔で民主的な政治を目指し奮闘することを強調して、私の質問を終わります。(拍手)    〔国務大臣中曽根康弘登壇拍手
  10. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 宮本議長の御質問にお答えいたします。  戦前の日本の歴史、あるいは戦前の日本の三国同盟等を御引用になりまして、歴史の教訓をいかに考えるかということが第一の御質問でございました。  私は、戦前の歴史につきましてもタブーを設けず、謙虚に見直し、それから歴史の教訓を守りとり、現行憲法の民主主義、平和主義、あるいは基本的人権の尊重等の理念はすぐれたものと高く評価しておるということはここでも申し上げたとおりであります。しかし、前にも申し上げましたが、いかなる制度、機構にせよ完全なものはないので、さらによりよきものへ議論し、見直すということは正しい態度であると申し上げておるとおりであります。しかし、歴史に対する見方にいたしましても、唯物史観に立脚する宮本さんのお考えと私の考えとは原点において違っているところがあるのではないかと思います。しかし、過去の歴史の悲惨な面につきまして、これを繰り返さないように努力しようという点につきましては同じ考えではないかと思っております。  また、安全保障につきまして、日独伊三国同盟というものに御言及になりましたが、安全保障につきましては、戦後の国際情勢全般をよくにらんで、日本の国益をよく考えつつ現在の日米安全保障体制を維持していく、これが日本の平和と繁栄にこのように貢献していることは国民が全部知っておるところでございまして、こういう体制を堅持していきたいと考えておるわけであります。  次に、核問題について御質問がございました。  昨年の核不使用国連決議につきましては、核兵器の削減等の具体的軍縮措置のない限り実効性を欠き、国際的な安全保障上問題があるが、しかし軍縮委員会で検討することには応ずべきであるという考え方から棄権した次第でございます。  核が二度と使用されないようにするためには、米ソ間の核軍縮交渉あるいは核実験全面禁止等の具体的な核軍縮措置を着実に積み重ねることが最も確実な方法であります。演説でこの核軍縮ができるのではない。現実の世界を見れば、やはり着実に、たとえば相手の核を持っておる地帯をお互いが検証し合う、確かめ合う、そういう程度の確実性を持って着実に進展させなければ保障はできないというふうにも考えられるところでございます。  核軍縮に関する国連決議に関しましては、かかる立場に基づき、わが国が独自にその投票態度を決定してきておるところであります。しかし、唯一の被爆国として、核の惨禍が再び二度と繰り返されるようなことがあってはならないとの願い、この目的のためにあらゆる実効ある措置を構ずべきであるとのわが国の主張は、広く世界各国が支持し、共感を得ていると確信しておる次第でございます。  世界の孤児の問題につきまして御発言がございましたが、東西関係、南北問題の困難に加え、いま世界全体が未曽有の経済的困難に直面しております。わが国は、このような情勢下、わが国の役割りを大局的に考えまして、国力、国情に応じて貢献を行い、そうして世界人々と相互に生きる立場に立って、自由世界あるいは非同盟諸国、あるいは共産圏、それぞれにつきまして交際を行い、また友好も深めておるところであります。独善や利己主義に陥れば世界の孤児になるということは、これはわれわれが一番警戒しなければならないところであると思っております。貿易面での努力、あるいは防衛力の整備も重要でありますが、しかし、それだけにとどまるものではない。やはり全世界を頭に置いて、世界に生きる日本という考え方に立って行っておるのでございます。  日本経済協力につきましては、最近非常に世界から注目され、高く評価されてきておりまして、非同盟諸国からも経済協力を要望されてきております。共産圏からも、特にルーマニアその他の国々からも経済協力を強く求められてきておりまして、われわれのかかる全世界に対する経済協力につきましては、今後とも誠実に努力してまいるつもりでおります。決して孤立はしておりませんから御安心くださるようにお願いいたします。  次に、運命共同体に関する御質問がございましたが、これはいままで申し上げたとおりでございます。特に強調いたしたいと思います点は、米国においては、世界じゅうでわが国のみが武力攻撃を受けるような事態が生じる可能性は少なく、わが国が武力攻撃を受けるような状況のもとにおいては、世界の他の地域においても武力攻撃が発生しているであろうという見方がかなり支配的であるということも承知していただきたいと思います。しかしながら、わが国に対する武力攻撃がいかなる形で発生するかということは、あらかじめ一様には言えない状況であると思っております。いずれにせよ、わが国としては日米安保体制を堅持して、自衛のため必要な限度の防衛力を整備することによってわが国に対する武力攻撃の未然防止に努める、それと同時に、外交政策あるいは経済協力政策等も駆使いたしまして、世界の平和あるいは戦争の回避のために積極的に貢献していかなければならないと考えております。  また、米国の来援というお言葉で御言及がございましたが、私は来援という言葉は余り使いたくないと思っておるのであります。私の申している趣旨は、わが国に対する武力攻撃が発生した場合、米国は安保条約に基づいてわが国を防衛する義務を負っているということを申し上げたいのであります。  米国のいわゆる核の限定的使用に言及したと言われている発言は、米国としてはいかなる攻撃に対しても有効に対応し得る態勢をとるということ、その抑止力の基本としているとの趣旨と私は理解をしております。わが国を万一にも核戦場にしないためには、日米安保体制を堅持して有効な抑止力を確保することが必要であると考えております。  在日米軍の問題について御言及がございましたが、日米安保条約に基づく日米安保体制は、わが国の平和と安全を確保するために必要不可欠であり、在日米軍の存在はまさにわが国の平和と安全の確保に寄与しておるものだと考えておるのであります。  宮本議員が私の昔の著書について御言及になりましたが、その文章の後に、次のような文章があるということをぜひ私は御認識願いたいと思います。こういう部分もぜひ御引用願いたいと思うのがあるんです。「この点は可及的、速に解消させて、一切の国際関係を対等化し、正常化し、日本政府行動の自由性を回復することが大切なのである。」、こう大事なところをお読みにならないのはいかにも残念であると考えておるわけであります。  次に、安保条約の改定問題について御言及がありました。  政府としては、今後とも日米安保体制の円滑かつ効果的な運用のために一層の努力を行っていく所存でありますが、現行安保条約の改定は全く考えておりません。また、安保条約は必ずしも片務的なものであるとは考えておりません。われわれが基地を提供し、あるいは経費の分担等もこれをかなり行っているということも忘れてならない事実なのであります。  次に、ソ連のSS20あるいは核の傘等について御質問がございました。  わが国は、従来より、極東を含むソ連全域においてSS20に代表される中距離核戦力の撤廃をソ連に強く要請してきているところであります。最近のソ連指導者の発言にあるように、ソ連が極東に現存する中距離ミサイルに加えて、さらに新たなるミサイルを同地域に移転するという場合は、この地域の平和と安定を脅かすものであり、先日、ソ連側に対して強く遺憾の意を表明したところであります。  世界の平和と安全は、核を含む力の均衡によって残念ながら維持されております。わが国は、その平和と安全を日米安保体制による米国の核を含む抑止力、それと同時に自衛力の整備によって確保しております。同時に、かかる力の均衡の水準は可能な限り引き下げる努力が必要である、それが現実の軍縮の当面の課題であると考えておるわけです。  国会決議の趣旨は十分に尊重してまいります。核兵器国を初めとする世界各国が実効ある措置をとるよう強く訴えてまいってきております。  また、すでに述べましたとおり、核不使用という約束につきましては、核兵器の削減といった具体的軍縮措置のない限り実効性を確保し得ません。このような実効性を欠いた約束をすることは国際的な安全保障上問題があると考えておるのであります。国民は核の全面禁止を内心みんな願っておる、また、世界人々も願っておるのではないかと思います。このような核兵器の廃絶につきましては、アメリカその他に対する非常に強い要望もありますが、共産圏に対しても同じように強い要望を出されなければ均衡は回復されないと私は考えております。  次に、景気の問題でございますけれども、内需における個人消費の重要性は私も同感であります。個人消費は国民総生産の過半数を占め、その動向は景気全体に大きく影響するとともに、国民生活充実の観点からも重要であると思います。現在、個人消費は緩やかな増加を続けておりますが、このところ伸びは若干鈍化しております。今後は物価の安定、生産活動の回復による実質所得の回復等により緩やかな回復を示すものと考えております。  所得税減税につきましては、すでに申し上げましたとおり、昭和五十八年度においてこれを見送るということは、税制調査会の答申でもやむを得ないと言われておりまして、御理解願いたいと思うのであります。  公務員の給与改定の見送りの問題につきましても、危機財政のもとにおきまして、まことにやむを得ず残念な措置をとった次第であります。これも御了承願いたいと思うのでございます。  行政改革財政改革ともに、私は強力に今後進めてまいりたいと思っております。行政改革につきましては、簡素にして効率的な政府を生むように全国民が強力にこれを支持しておりまして、私も内閣重要課題として、正直に、全精力を挙げてこれに取っ組んでまいりたいと思っておる次第です。財政改革につきましても、この厳しい財政事情を踏まえまして、そしてその中でもバランスを適切にとりながら財政改革を進めていくということを心がけたいと思っておるわけであります。  防衛費削減について御質問がございましたが、わが国の防衛は、自分で自分の国を守るという確固たる決意のもとに、憲法の許す範囲内で自衛のため必要な最小限度において質の高い防衛力をつくる、そして他の諸施策との調和を図りながら着実に整備するという方針で進められております。五十八年度の防衛予算については、現在の国際環境に照らして、厳しい財政事情の中にありまして、ほかの国策とのバランスを図りながらわが国防衛のための必要最小限の経費を計上したものでございまして、防衛予算削減考えておりません。  また、たくましい福祉社会保障制度見直し問題につきまして御質問がありました。  たくましい文化と福祉の国と申しましたが、このたくましい福祉とは、国民すべてが充実した家庭を基盤として健康で生きがいのある生活を送れるような社会です。たくましいという意味は、自立自助の精神のもとに、社会の連帯と隣人愛にあふれた人間性を持った福祉あるいは文化を考えよう、こういう考え基本にあるのであります。そういう活力ある社会をつくっていくためには、個人の自助努力、社会連帯の仕組みを生かしながら、それに安定した社会保障制度を組み合わせていくことが必要であると考えます。  来るべき高齢化社会を控え、今後とも社会保障制度国民生活の基盤として長期的に安定し、有効に機能していくためには、給付と負担のバランスに配慮しながら施策の効率化、重点化を図っていくことが必要であると考えております。  民間の活力の問題について御言及になりました。  戦後、わが国の急速な発展、繁栄ができましたことは、やはり自由主義経済体制のもとで国民の自由濶達な進取の個性が開放され、経済社会のあらゆる分野に縦横にこれが発揮された結果であると考えております。今後、わが国が国際化、高齢化、成熟化という大きな流れの中で、将来に過重な負担を残すことなく活力に満ちた経済社会を維持していくためには、やはり民間の活力と創造性が十二分に発揮されるように環境を整備することが大事であると思っています。  宮本さんの共産主義理論におきましては、国有、国営というものを基本考えておりますが、私らが見たところ、これはいかにも不能率であって、その結果はいま全国民が目の前に見て承知しているところではないかと思います。やはり民間活力を中心にした自由主義経済国民は強く望んでいると考えておる次第であります。  次に、政治倫理の問題でございます。  政治に対する国民の信頼は、やはり政党政治においては政党への信頼ともなり、責任政党たる自由民主党の責任はきわめて重大であると考えます。自由民主党におきましては昭和五十五年の蹄時党大会で倫理憲章を決定いたしましたが、末端党員に至るまでこれを徹底すべく努力しておるところでございます。  さらに、ロッキード事件に関する一九七六年の議長裁定尊重の問題でございますが、一九七六年の国会正常化に対する衆参両院議長裁定をいまも尊重する気は十分ございます。この裁定を尊重し、鋭意問題の真相解明に努力もしてまいりました。今後ともこの趣旨を尊重して、政治倫理確立のために努力してまいる所存でございます。  以上で御答弁を終わりにいたします。(拍手
  11. 秋山長造

    ○副議長(秋山長造君) これにて午後一時五分まで休憩いたします。    午前十一時五十八分休憩      ─────・─────    午後一時七分開議
  12. 徳永正利

    ○議長(徳永正利君) 休憩前に引き続き、会議を開きます。  国務大臣演説に対する質疑を続けます。木島則夫君。    〔木島則夫君登壇拍手
  13. 木島則夫

    ○木島則夫君 私は、民社党・国民連合を代表して、内外の重要課題について中曽根総理にお尋ねをするものであります。  日米首脳会談における中曽根首相に私は並み並みならぬ決意を感じましたが、一方、容易ならぬ日本の前途をも予見いたしました。これまで何かというと、あいまいな言葉で逃げの姿勢が目立ち、問題の先送りに終始していた歴代の首相には見られなかったあなたの気魄、また気負いすら感じたわけであります。  一見、過去すべての日米首脳会談の形をたどりながらも、今回は事の本質が全く違っていたと私は受け取りました。事の本質とは何か。よかれあしかれ、日本が自主国家としての自覚を持って対座したということであります。これまでは日本の力を何らかの他力依存の政策が保証する面が強かったのでありますが、その時代はもう終わったという印象であります。日本は、現在の国家像のままでほぼ対等にアメリカと対話できるところまできたのではないか。とすれば、これからの日本国民的所在を私たちに問いかけた会談でもあったと言えると思います。総括的な言い方をすれば、現在の日本がどんな国家像を呈し、また、どのような国家像を目指すか、日本自身への課題がより鮮明に提示された会談でもあったと言えましょう。  日本は、巨大な中身の過去を持っています。近代百年の歴史を振り返っただけでも、明治の日本、大正、昭和、そして戦後の日本と、日本の国家像は過去激しく揺れ、大きく変遷してまいりました。その過去は多彩そのものです。その多彩な過去の国家像のどれを延長発展させた上でこれからの日本の国家、文化を創造していくか、基本認識が必要でありましょう。戦後の惰性や、日本だけに通用するエゴイズムだけでは日本世界から孤立し、これまでの平和と繁栄はとうてい維持できないと思います。総理日本現状をどう認識されるか。戦後三十八年の「戦後史の転換点に立つ」というこの認識では私も同じでありますが、これを踏まえて日本の国家像をどのように描かれるか、具体的にお示しください。  このことに関連して、あなたの教育についての根本的な哲学も問いたいと思います。  戦後の政治経済教育の根底を貫いてきたものはエゴの哲学、エゴを正当化しようとする哲学であったと思います。これが国民不在の政治となり、自己のもうけのためには手段を選ばぬ経済行為となり、自己の主張を通すためには親をも、さらに金のためには夫婦でさえ殺傷し合うなど、まことに憂慮すべき現状であります。校内暴力、家庭崩壊もまた厳しい現実です。教育のあるべき姿をぜひお示しいただきたい。  なお、きのう民社党春日一幸前委員長からも提案をされました、この際、教育憲章制定をどう思われるか、感想をぜひ伺いたいものであります。  総理、あなたを取り巻く状況は並み並みならぬものがあります。世界の各国が日本に向けている目はまことに厳しく、国民のあなたに向けている目もまた厳しく、怒りの色さえ帯びております。新内閣発足に当たって大きなハンディキャップを背負って登場された中曽根内閣は、いま仕事師内閣に徹しようと懸命のようです。懸命に立ち向かえば向かうほど、内外の問題はそのむずかしさと重みを増しているはずであります。  それは具体的に、第一に、日本経済が低成長に陥っていること、第二に、そのために日本経済は深刻な財政危機に直面していること、第三に、行政改革ははかばかしく進捗をしていないこと、第四に、他国に例を見ないスピードで進んでいる老齢化社会に対する対応がおくれていること、第五に、日本に対する諸外国の圧力がますます強まり、日本の孤立化の危険が高まってきた、こういったことであります。このようないずれを取り上げても深刻な課題は、突如やってきたものでもなければ、他国に責任を転嫁できるものでも決してありません。言ってみれば自民党政治の行き詰まりが招いた当然の帰結と言えましょう。  端的な例は、さきの総裁選に示された、国民を置き去りにした派閥抗争が先行し、肝心の政策はほとんど官僚任せ、このことは深刻な諸課題を解決する基本戦略が全く欠落をしているということにつながります。五十八年度予算編成を見ても、一言で言うならば大蔵省的な短視眼的な財政再建、一律歳出削減だけが先行して、他の重要な課題である経済の安定成長をどうするか、行政改革はどのように進めるのかなど、最も重要な課題がほとんど欠落をしてしまっているのが現状ではありませんか。  具体的に指摘をすれば、所得減税は行わず、住宅対策などの公共事業実質低下し、年金、恩給などの物価スライドは見送り、中小企業投資減税、承継税制は若干の手直しでお茶を濁すなど、場当たり的な施策がやたらに目につくのであります。これでは中曽根内閣の内政に取り組む基本戦略がどこにあるのか、国民はさっぱりわかりません。あえて中曽根内閣基本姿勢を判断するとすれば、それは低成長、福祉後退、世界経済依存の姿勢のようにもうかがえます。これでは国民生活の不安をますます助長させ、日本経済の活力を奪い、ひいては財政再建そのものをも困難にし、さらには日本を国際社会からますます孤立化させる最悪の道を選ぶことにつながります。  民社党は、経済の適正な成長を維持し、福祉を確保し、世界経済への貢献を日本が果たすべき当然の役割りと考えています。こうしたわれわれの立場を踏まえて、総理にお尋ねをいたします。  中曽根総理、あなたはこの二年間は行革三昧であったことを誇らしげにされておられるが、本来やるべき行政改革にはほとんど手をつけておられないのが実態です。現在の厳しい財政事情のもとでは公務員定数は大幅に削減されているはずなのに、実際はほとんど減っていないではありませんか。金権腐敗政治の温床ともなっている補助金制度のあり方、許認可制度のあり方については、何ら抜本的な制度改革を行っていないではありませんか。さらに、地方出先機関の原則的な廃止、特殊法人の整理統合など、行政機構の簡素合理化にはほとんど手をつけていないのが実態です。民間が倒産の憂き目に遭い、血へどを吐きながらこらえている中で、中曽根総理は、臨調の最終答申待ちという傍観者的態度は捨ててもらって、あなたのリーダーシップのもとにどしどし実行に移していただきたいものであります。  また、政府は、昨年の臨調基本答申を最大限に尊重する旨の声明を出しましたが、答申の柱である総合管理庁の設置、電電、専売公社の改革などに対してはいまだに政府改革手順は示されておりません。行革に抵抗し、反対する閣僚がもしあるとするならば罷免、官僚は左遷するくらいの蛮勇をふるわない限り行革の達成はなし得ません。総理決意並びに今後の行革の手順について篤と伺いたいと思います。  次は経済の運営です。  わが国経済成長は、五十六年度三・三%、五十七年度が三%前後、五十八年度の政府の目標は三・四%であります。仮にこれが実現できたとしても、依然低成長が続きます。このような低成長が続けば財政再建そのものが円滑に進まないこと、第二に、失業がさらに大きな社会問題として拡大をすること、高齢者の雇用がますます深刻になること、第三に、素材産業、農業問題など現在直面している産業調整が一層厳しくなってまいります。第四に、国内経済が活発でなければ輸入が停滞をする。当然アメリカ、ECなどの圧力をさらに強めることになりましょう。このことは、日本のこれまで続いてきた健全な経済社会基盤そのものをも掘り崩す危険につながることになります。われわれは今後四%台の成長を実現すべきだと考え、またその可能性は十分にあると分析をいたしております。  そこで、積極的に内需中心の景気回復を図るため、次の諸点を実行するよう強く中曽根総理に要望をするものであります。  その一つ、一兆円台の所得減税を断行し、GNPの六割弱を占める個人消費を伸ばすこと。五十六年の国税庁の調査では、民間給与の実態が、平均収入の伸びが過去二十三年間で最低の四・九%でしかなく、一方、所得税負担率は過去十七年間で最高の五・七%にまで高まり、給与所得者の実に九一・五%が納税者の立場に立たされております。言うまでもなく、昭和五十三年以来、所得税の課税最低限度額が据え置かれているためであり、一刻も早くその是正が望まれる次第です。  二つとして、中小企業の設備投資を活発にさせるため、小手先の措置でない思い切った中小企業の投資減税を行うこと。と同時に、中小企業の経営者の世代交代を含めた承継を容易にするための中小企業承継税制は制度として発足はいたしましたが、この制度をさらにさらに拡充をするためになお一層の政府の努力を要望するものです。  その三は、公共投資の安定的拡大を図るとともに、その使い道を思い切った住宅対策の拡充に、都市再開発の促進に、長崎などで貴重な人命、財産が失われた痛ましい教訓を生かした積極的な治山治水対策に、また東京などの大都市で大規模地震が起こったときの対策、その防災対策などの計画的な整備に重点的に配分することであります。  中曽根総理、これら諸点の実行こそ日本経済の活力を取り戻し、来年度四%台の成長を確保する適切有効な処方せんであると考えますが、以上の諸点について明快なお答えをいただきたいと思います。この際、発想を根本的に変えられて、経済の適正な成長があってこそ初めて財政再建も可能であるとの立場から、積極的政策を行うべきであると考えますが、総理のお考えをはっきりとお示しいただきたいと思います。  外交、防衛の問題も、日本の国際的地位が高まるにつれて、その果たす役割りと絡んでますますむずかしく複雑な面を呈してきております。総理就任後、韓国、カナダ、アメリカわが国の友好国あるいは同盟国を歴訪され、特に韓国、アメリカとの間のぎくしゃくした関係の改善に乗り出し、友好関係の再確認に努められました。私どもはこのことを率直に御評価申し上げたいと思います。しかし、このように友好国、同盟国重視の外交が、逆に他の周辺諸国との緊張激化につながるものであっては断じてなりません。  政府は、一昨年の鈴木・レーガン会談の共同声明で初めて公式に日米両国を同盟関係と表現されました。中曽根総理さきの首脳会談において、これを一歩進めて、日米両国は「運命共同体」であると発言をされました。日本アメリカとの関係を冷静に客観的に検討しても、この運命共同体なる関係は確たる事実であろうと思います。ただ、この関係が日本への一方的な防衛力増強の要請という形で迫られるのか、さらに有事の際、アメリカが真剣に日本の防衛を実行してくれるのか、総理の率直な見解を承りたい。つまり、日本だけの片思いだけでなく、アメリカをしても日本運命共同体として位置づけ、その責任を果たしてくれるのかどうか、率直なところお聞きをしたいものであります。  特に、日本は「不沈空母だ」と言われた総理の不用意の発言が、いたずらにソ連を刺激することになったことは軽率のそしりを免れ得ないところであります。真意をはっきりとお示しください。  総理総理は「太平洋の時代」ということを口にされておりますが、太平洋に面しているのは韓国やカナダ、アメリカだけではありません。ソ連や中国も、ASEANなど多くの国が面しております。北方領土問題やアフガニスタン制裁問題で行き詰まっている日ソ関係を改善することは、日本の安全保障上重要な課題です。総理は、友好・同盟外交を踏まえて今後日ソ関係をどう打開をされていくか、この際具体的な方針をお聞きしたいと思います。  同時に、ソ連は欧州に配備中の戦域核ミサイルSS20を極東に移転させるとの方針を決めたと伝えられておりますが、事実とすれば、極東の緊張激化につながる言語道断の措置と言わなければなりません。政府はこれらの動きをどう受けとめているか。外務省を通じてソ連政府に抗議されましたが、今後ソ連のSS20の極東配備についての日本政府の有効な対応措置を承りたいものです。  また、日米首脳会談については確かに友好的な雰囲気の中で終始されたようですが、具体面については果たして成果があったのかどうか疑わしいと言わざるを得ません。特に懸案の貿易摩擦問題について、一体前進があったと言えるのでしょうか。レーガン大統領もその声明の中で、「最も重要な貿易の分野で第一歩をしるしたにすぎない」と、冷たい評価しか与えておりません。総理は、牛肉、オレンジの自由化問題について専門家会議で詰めたいという意向を示したと言われますが、果たしてアメリカはこれに同意したと言えるのでありましょうか。再交渉、交渉再開のめどがついたと言えるのでありましょうか。このままでは懸案の貿易摩擦問題は一歩も前進せず、ローカルコンテンツ法案の再提出など、アメリカ議会での対日非難と保護貿易主義の高まりは一層激しくなることは必至と考えますが、総理所見を伺いたいものです。  なお、貿易摩擦とは直接関係がありませんが、せっかく輸入をした外国の牛肉を、畜産振興事業団の操作によって、結果して値段をつり上げて消費者に不利を招いたということが行政管理庁の指摘によってわかりました。こうしたこともアメリカ等に誤解を与え、貿易摩擦を一層複雑にしますし、そうでなくても高い牛肉を食べさせられている国民にとってはまことに不愉快千万であります。行革の対象として厳しく検討、処置すべきでありますが、総理の感想を伺っておきたいと思います。  政府は、今回、対米武器技術供与決定されました。これはわが国がその安全保障の重要な部分を米国に依存し、かつ、これまでアメリカから多くの防衛技術の提供を受けながらも、アメリカに対しては技術の提供を拒んできたという不自然な状態是正するという意味で、民社党は今回の決定基本的に評価いたします。しかし、技術協力の実施に当たりましては、武器輸出三原別の空洞化を招かないように、一つ、提供する技術は可能な限り国会等で公表されること、第二に、わが国の民間企業の権益を損ねないように配慮が必要のこと、第三に、提供した技術紛争当事国に流出しないよう歯どめをすることなどを実施すべきであります。これらの諸点について総理の確たる見解をお伺いしておきたいと思います。  私どもは、西側の一員として、また日本の今日的な国際社会の地位に立って、自国の防衛に一層の責任を負うため防衛努力が必要であるという立場に立って、時にタブーとも言われたこの問題に最もまじめに命がけで取り組んでまいりました。それだけに、防衛費の新たな歯どめを何に求めるかは深い関心を持つものであります。五十九年度にも防衛費GNP一%を突破しようとしております。防衛費の無原則な増大は、かえって日本の安全保障に対する国民のコンセンサスを崩すことにつながります。政府は速やかにGNP一%にかわる新たな納得し得る歯どめを設定すべきであると考えます。  なお、五十九年度について、防衛庁首脳は防衛費を一%以内にとどめる意向と言われておりますが、それは確かなのかどうか、この点もあわせてはっきりとお答えをいただきたいと思います。  総理、いまや日本は西側の重要な一員として、また世界国民総生産の一〇%を占める国といたしまして、それにふさわしい国際的責任を果たさなければならない時代に突入をしたものと言えましょう。戦後の惰性や日本のエゴイズムだけでは日本世界から孤立をしてしまい、今日の平和と繁栄を続けることはとうてい不可能です。まさに日本の戦後史の転換点に立っております。私は、総理がこのことを率直に語りかけ、協力を求めるべきであると確信をいたします。  同時に、親しい友好国や同盟国を重視した外交といった枠を超えて、日本がその持てる経済力、技術力、あるいは文化といったものを世界の平和と繁栄に積極的にささげていく、いわゆる平和戦略の確立とその実行が不可欠であると確信するものであります。とりわけ、米ソの対話、核軍縮など東西の緊張緩和をどのようにして促進するか。先進工業国十七カ国中十三番目という低い政府開発援助をどのようにして拡充をされていくか、このままではその五年倍増という日本の国際公約の達成すら危ぶまれております。これをどう実現されていくか。これらの点を明確にはっきりと具現をしていく、そのことが一部にある軍事大国化といった懸念を払拭する道でもあると確信いたしますが、総理の明快な政治姿勢をお示しいただきたいと思います。  最後に、政治倫理確立は政策以前の問題ではありますが、いまやわが国政治の最優先課題であります。政府は、政治倫理委員会設置、議院証言法による証人喚問など諸懸案をことごとく国会任せ、党任せにして、政治倫理確立に正面から取り組んでこなかったのがこれまでの実態です。こうした中で一月二十六日、検察側の厳しい論告求刑が下されました。二十六日の公判論告求刑段階であって判決が行われたわけではありませんが、ロッキード事件が招いたはかり知れない国民政治不信を厳しく反省し、田中総理は、その政治的、道義的責任を踏まえ、みずからの責任において明確な謹慎の態度を表明されるべきでありましょう。私どもは、当面、その進退を厳しく見守っていきたいと思います。  ロッキード事件によって裁かれているのは、被告となった個々の政治家だけでなく、金によって動かされ、政治が利権の手段に陥っているわが国の金権的な政治体質そのものが裁かれているわけであります。総理内閣発足以来国民の疑惑を払拭しようとされるなら、この機会はまたとない好機でありましょう。倫理委員会設置や議院証言法による証人喚問等の実現のために、総理・総裁としてのリーダーシップを発動されまして、懸案解決のため積極的な政治姿勢を示されますように特に強く要望をして、民社党・国民連合を代表しての質問を終わります。(拍手)    〔国務大臣中曽根康弘登壇拍手
  14. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 木島議員にお答えいたします。  まず、政治倫理の問題でございますが、今回の論告求刑は、私といたしましてもこれを厳粛に受けとめ、今後の裁判の行き方を冷静に見守ってまいりたいと思います。  政治における金権体質を改造せよという仰せでございますが、まことに同感でございまして、その点につきましては大いに自民党といたしましても戒めてまいりたいと思っております。ただ、議員の地位、身分に関する問題、あるいは政治倫理委員会証人喚問等の問題は、これは国会における重要事項でございまして、今後とも各党で十分御協議いただきたいと思っております。  第二に、日本現状をどういうふうに認識するかという御質問でございます。  私は、先般総理に任命されまして、最初臨時国会で所信表明をやらせていただきましたが、そのときも申し上げたつもりでございますけれども、戦前と戦後の日本を比較して大いに考うべき点を考えて申し上げたつもりでございます。いわば戦前はわりあいに国家主義的な性格の強い、軍国主義的なにおいのする国家であったと思います。しかし、戦後におきましては、憲法あるいはそのほか大きな改革が行われまして、人権、民主主義、平和、福祉、文化、こういう概念が政治社会の表面に強く打ち出されてきまして、非常にいい時代になってきたと考えておるわけでございます。  私は特に、たくましい文化と福祉の国をつくろうというのは、戦前との対比におきまして、戦後われわれが歴史的に努力すべき目標は何であるか、戦前の国家主義的な軍事的なものに対して、戦後は文化と福祉ではないかと、そういう歴史的対比をもって申し上げておった次第なのでございます。そういう感覚をもちまして政治をとらせていただきたいと思っております。  そして、相互依存関係の深まった今日の国際社会におきましては、世界の平和と繁栄なくして自国の平和も繁栄もないと考えております。そしてこの際果たすべき国際的責任と役割りについても、十分な自覚を持って協調していく必要があると思っております。世界に開かれた日本をつくろうと申し上げているのも、こういう考えに基づくものでございます。  教育について御指摘をいただきました。昨日は春日顧問からも御指摘をいただいたところでございます。  将来の日本を担う心身ともにたくましい日本人を育てる教育は国政の基本でございます。戦後の教育は、個人の尊重あるいは自主性の伸長、そういう点において非常に成果は上がっていると思います。しかし、自分と同時に他人を生かすとか、あるいは思いやりの心とか、そういう点について若干欠けている点があるのではないか、人間として成長していく上について必要な基本の型の中のある部分が弱い、そういうように感じております。礼節であるとか、あるいは隣人愛であるとか、いわゆる義理とか人情という面についてドライになってきている点が多分にあるのではないか、そういう気がいたしております。  思いやりの心を育てる、そして日本人として自覚を持って、国を愛し、国家の発展に尽くすとともに、世界の平和と人類の福祉に貢献し得る堂々たる世界日本人を育てたいというのが私たちの考えであり、それは憲法及び教育基本法のもとになさるべきものであると思っています。  教育憲章につきまして御指摘がございましたが、これは非常に重要な問題でございまして、やはり国民的コンセンサスの上にそういうものは次第に熟成されていくのが適当であろうと考えております。  次に、内政の基本戦略について御指摘をいただきました。  私は、まず行財政改革ということを強く申し上げたいと思うのでございます。戦後三十八年たちまして、この間を経過してみまして、大きな発展と繁栄の時代をつくり上げましたが、しかし二度の 石油危機によりまして、日本の国家構造というものはかなり水ぶくれしてきておることも事実でございますし、官における効率性が民間に対して非常に落ちているという点も厳然たる事実で、各所で指摘されているところでございます。そういう意味におきまして、新しい時代に対する用意をしていくためには、どうしてもここで思い切った行財政改革をやって、体質の転換を図り、備えていく必要がございます。そういう意味におきまして行財政改革ということを申し上げておるのでございます。  それから新しい長期展望をつくるということも大事であると思います。そういう意味におきまして、先般来、社会経済七カ年計画を改定して経済五カ年計画という作業を進めておりましたが、さらに自由主義的経済原則を基調にして民間活力を引き出すということを中心に考えていただく、社会主義的計画経済よりも、むしろ自由主義的な経済展望あるいは経済指針、ガイドライン、こういう考えに立った長期的な経済展望をつくっていただくようにいま経済審議会にお願いしたところでございます。  それから現実問題といたしましては、やはり環境の整備が非常に重要であると思います。物価の安定、それから為替レートの安定、資源、エネルギー、食糧の安定、そして自然環境や生活環境の整備、こういうことが非常に大事になってきつつあると思います。  また、世界に開かれた日本という点を考えてみますと、国際環境の積極的な改善に努めていく必要があります。これは市場開放への努力あるいは各国との産業協力あるいは経済協力、特にLDC、発展途上国その他に対する経済協力、そして最後に自由貿易体制の堅持、こういうような線に向かって私たちの国際環境の整備に働きかける努力をいたすつもりでございます。  行革につきましていろいろ御指摘をいただき、また木島議員から年来この点について御支援いただいていることを感謝するものでございますが、いままで三次にわたる臨調答申につきましては、これを一々実行し、あるいは実行しつつある状態でございます。すでに国鉄改革、それから補助金削減、歳出予算削減国家公務員の定員縮減、許認可の整理を初め諸般の改革は、いま軌道に乗せようとしておるところであります。  昭和五十八年度における国家公務員等の純減につきましても、非現業及び現業を含みまして、国家公務員は五十八年度においては千六百九十五人の純減を図っております。三公社におきましては二万五千八百五人の純減を図っております。国鉄が二万二千六百人、電電が千九百八十三人、専売が千二百二十二人という数字になっております。昭和五十八年度予算における補助金の整理につきましても、千六百十四件、四千七億円の削減を図りました。それから許認可法令の整理につきましては、昨年の九十六回通常国会行政事務簡素合理化法の制定によりまして三百五十五件の法律の改廃を行いましたが、さらにこれを検討しておるところでございます。  なお、地方出先機関の整理等の行政機構の整理、中央省庁の再編成あるいは内部改革、特殊法人の統廃合等については目下臨調審議中の段階であり、三月に予定される最終答申をいただきまして早速具体化すべく努力してまいりたいと思います。今後とも国民皆さんの御支援及び各党各派の御指導をいただきまして、行政改革については力強く万全を期していくつもりでおります。  景気対策について御質問をいただきましたが、昭和五十八年度の経済運営に当たりましては、国内の民間需要を中心として景気の回復を着実に図ってまいりたいと思っております。適切な成長度合いがどの程度が適切であるかという問題がございますが、これらについては経済審議会におきましていろいろ長期的、中期的考えを御審議願っておるところでございます。  引き続き当年は機動的な政策運営に努め、民間の活力を最大限に発揮されるような環境づくりを行う。このために金融政策を適切かつ機動的に行い、中小企業の設備投資促進のための税制上の措置を行いまして民間投資を喚起する。住宅建設については同じく金融税制上の措置改善促進する。基礎素材産業の再活性化や中小企業経営の安定等につきまして、諸般の重点政策を実行したことでございます。このようなやり方によりまして、五十八年度の経済成長率は実質で三・四%程度となる見込みでございます。  なお、経済政策について三つの点を御指摘いただきました。これらにつきまして順次御答弁申し上げます。  まず、所得税減税につきましては 前に申し上げましたように、この五十八年度予算におきましては、非常に厳しい財政上のこともあり、がまんしていただくということになったのでございます。先般来御報告申し上げますように、税収による歳出のカバー率は六四・一%という数字で、異常に低い水準でございます。あとは公債とかその他に頼っておるわけでございます。個人所得に対する所得税負担の割合も四・九%。これは五十六年の数字ですが、これも国際的に見れば低い水準にあるのであります。  景気対策をどうして行うかということになりますと、この財源をどこにするかということになります。この苦しい財政事情のもとに、その財源捻出ができないがために、所得税減税もなかなかできないという状況にあるのでございまして、これらにつきましても御了承をいただきたいと思うのでございます。  五十八年度におきましてはこういうことでございますが、五十九年度においては、税調答申におきまして、早期に税制全体の見直しを行う中で、課税最低限や税率構造等について抜本的な検討を行うことが必要と指摘されておりまして、この点を検討してまいりたいと思う次第でございます。  中小企業の投資減税につきましてお答えを申し上げます。  今回の中小企業の設備投資促進のための措置については、限られた財源によって最大限の効果をねらうために現行制度に工夫をこらしたものでございます。  中小企業関係の相続税につきましては、厳しい財政状況のもとで、取引相場のない株式の評価の改善合理化を行う、個人事業者の事業用宅地等の課税の特例措置を講ずる、このようにして円滑な事業を継続できるようにした次第でございます。  公共投資等の問題につきましては、五十八年度の公共事業関係費について厳しい歳出削減の中に前年度同額を確保し、相ともに景気回復の一助にするように努力したところでございますが、公共事業につきましては、事業の配分に当たっては各種社会資本整備のバランスを勘案しつつ、生活関連公共事業について特に配慮する。なお、震災対策につきましては、地震予知の推進、防災体制の強化及び都市防災化の推進等を重点に充実してまいるつもりでございます。  外交基本方針は、やはり日米友好協力関係を基軸にして、そしてさらにアジア、太平洋及び全世界に向かって友好を促進して平和と安定に寄与するということであります。その上に立ちまして、特に共産圏等との間におきましても問題を解決するために努力していきたいと考えております。  運命共同体というお言葉あるいは私がアメリカで申しました不沈空母等の問題については、すでに御答弁申し上げたとおりでございます。  それから安保条約につきまして、アメリカは約束を守るかという御質問がございましたが、私が先方といろいろいままで話し合った関係におきましては、安保条約の義務をアメリカは誠実に履行すると確信しております。  さらに、日ソ関係の問題でございますが、わが国の重要な隣国の一つであるソ連との間では、北方領土問題を解決して平和条約を締結し、真の相互理解に基づく安定的な関係を確立することが課題であります。最近におきましてSS20とかいろいろな問題もございますけれども、しかしわれわれはソ連との間ではいたずらに対決を求めることなく、今後とも日ソ外相協議等を通じて、ソ連側に対して粘り強くこれらの問題の解決を求めていく所存でございます。  SS20の問題につきましては、この種の中距離核戦力の撤廃をソ連に強く極東地域につきましても要請しているところであります。また、最近のソ連の指導者の発言にありますような、極東に現存するもの以外に、さらにほかの方面から移転してくるというような問題につきましても、先般ソ連に対して強い遺憾の意を表明し、反対の意を表明しておるところでございます。  わが国といたしましては、従来より米ソ間で行われている中距離核戦力、INFの交渉に関してはゼロオプションを強く支持しておるところであり、今後ともこの交渉におきましてわが国立場が反映されるように努力したいと思っております。  アメリカとの先般の会談におきましては、関税の引き下げ、あるいは基準・認証制度改革等に関するわが方の市場開放の努力を先方はかなり評価をいたしました。しかし、米側よりは、米議会において保護主義的圧力が高まっており、情勢は必ずしも楽観を許さない、一層の市場開放を図る必要がある旨の指摘がございました。しかし双方ともに、世界経済をさらに再活性化するということ、それから保護貿易主義を防遏し、自由貿易体制を維持強化するという点においては一致いたしました。  牛肉、柑橘等につきましては、私から、双方が冷静になって専門家同士の話し合いにゆだねるべきものであるという基本考え方を示したものでございまして、先方からは特別のコメントはなかったと思いますけれども、こちらの立場をよく理解したものと考えます。  政府といたしましては、この訪米の結果を踏まえ、今後ともこれまでの一連の市場開放措置の着実な実現を図っていき、残された問題につきましても、米側との話し合いを通じて双方に納得のいく合理的な解決を目指してまいりたいと思います。今後大事なことは、いままでの会談についてフォローアップを着実にやっていくということであると思いますし、また、私が言明してまいりました輸入手続とかあるいは認証制度や、あるいは安全基準等に関する諸施策について着実にこれを実行していくということが大事であると思っております。  畜産振興事業団に対する行政監察の結果につきまして、御指摘の問題は、牛肉について機能が十分でない、そういう御指摘で、この行政管理庁の監察の結果は正当であります。関係方面におきましても、この指摘に基づきまして改革をなすようにいま進められていると報告を聞いております。今後とも農水省を通じて厳しく指導してまいりたいと思う次第でございます。  対米武器技術供与の問題は、先般来申し上げましたように、これは日米安保体制の効果的運用を確保する上できわめて重要であり、わが国及び極東の平和と安全に資するものと考えております。  わが国から供与される技術の公表につきましては、御要望の趣旨も念頭に置いて、今後米側とも協議検討してまいりたいと思います。  民間企業に対しては、その保有する技術の対米供与を義務づけさせることは考えておりません。民間企業の自主的判断を尊重していくということが原則であると考えております。  本件対米武器技術供与は、日米相互防衛援助協定の関連規定に基づく枠組みのもとで実施するということでありまして、供与政府の同意なく第三国への移転は禁止することになっております。  防衛費につきまして、GNP一%に関する五十一年の閣議決定は、現在のところ変える必要はないと考えております。  五十九年度以降の防衛費の対GNP比は、これは経済の成長や、物価や、あるいは防衛費の動向等不確定な要素が多分にございまして、現在見通しを申し上げることは困難でございますが、いわゆる新しい歯どめの問題につきましても、具体的な必要が生じた事態において検討する予定であります。  平和戦略のための外交を徹底的に推進せよというお考えについては同感でございます。  この転換期にある厳しい国際情勢のもとにおきましては、日本発言権はかなり大きな発言権を持ってきているのは厳然たる事実でございまして、あるいは国際機関を通じ、あるいはサミット等のチャンスをとらえ、わが国の主張を堂々と述べて、世界の平和に貢献してまいりたいと考えております。特に、安定した東西関係をつくり上げるということ、そして軍縮を進めていくということ、これが大きな一つの目標になっているのではないかと思います。また、新中期目標のもとで、経済技術協力の一層の充実についても努力してまいるつもりでございます。  以上で答弁を終わらせていただきます。(拍手)     ─────────────
  15. 徳永正利

    ○議長(徳永正利君) 野田哲君。    〔野田哲君登壇拍手
  16. 野田哲

    ○野田哲君 私は、日本社会党を代表して、中曽根総理にその基本理念と、緊急かつ重要な課題について質問を行います。  「何もせぬ不安きえ何かやる不安」  これは、ある新聞に発表された政治風刺の川柳であります。鈴木内閣中曽根内閣に対する国民の不安を端的にあらわしています。  中曽根総理、あなたは、「仕事本位の内閣」というキャッチフレーズで、発足以来、ソウルに飛び、またワシントンに飛んで、あわただしい日程をこなしておられます。あなたは、外交基本姿勢について「新しい保守の論理」というあなた自身の著書で、「外交は賭けであってはならない」、また、「外交のチャネルと手続きを無視してはならない」、こう述べています。そのことについては私も同感であります。しかし、総理のソウルとワシントンでの行動は、あなた自身が戒めているかけと外交チャネル無視ではなかったのでしょうか。一国を代表する総理行動が突然秘密のうちに決定され、不透明の部分がつきまとっていれば、国民はそこに大きな不安と疑念を感じざるを得ないのであります。  そのことについて、具体的に伺いたいと思います。  まず、去る一月十一日、十二日の唐突な総理のソウル訪問、日韓首脳会談についてであります。  伝聞によると、この会談の実現については、臨調委員の瀬島龍三氏が昨年来秘密のうちにパイプ役を務めたという説があります。なぜ、長い間国論が二分している問題を、このような形で外交チャネルとは別のルートで進め、一月四日以前における記者会見でも秘匿して、秘密裏に事を運ばなければならなかったのですか、まずその点を伺います。  しかも、この訪韓には安倍外務大臣、竹下大蔵大臣という自民党の次代を担うと言われている大臣経験豊かな重要閣僚が同行しているにもかかわらず、会談のほとんどは余人を交えない頂上会談、果てはカラオケ会談という形で行われたと報道されています。発表されている会談経過と共同声明に盛られている内容である限りは、外務大臣や大蔵大臣を退けて一人で秘密裏にやらなければならないことはあり得ないはずであります。  朝日ジャーナルに、総理の韓国訪問に関連して次のような記事が掲載されています。「政治学の世界の常識では、二国間経済協力は、単に被援助国の権力者の経済基盤を強化するばかりでなく、贈与国をも潤していく。というのも、援助額の三—一〇%が、贈与国の権力者の政治資金へ還流されていくとみられるからだ」、こうなっています。  同行している関係重要閣僚を退けてまで、一人でやらなければならなかったのは、公表をはばかられる秘密事項があるからではないのでしょうか。この点について総理の率直な説明を伺いたい。  特に、私どもが疑念を深く持たざるを得ないのは、総理側からの日本の報道機関に対する発表と、現地の新聞の報道とが余りにも異なるからであります。総理が否定している「軍事協力関係」「安保経済協力」について、現地の新聞は各紙とも、「アジアにおいて日韓米の三国による安全保障協力が必要であることで意見が一致した」と大々的に報道しているのであります。マスコミに対する規制の厳しい韓国で、政府の関知しないこのような報道はあり得るはずはないと思うのです。日韓安保体制の協議があったからこそこのような報道があるのではないでしょうか。総理の明快な答弁をいただきたいと思います。  次は、合意された四十億ドルの経済協力の性格についてであります。  この経済協力の性格について、政府側は軍事的性格を否定していますが、どのように否定しようとも、この経済援助がGNPの六%もの軍事費負担の重荷にあえいでいる韓国経済へのてこ入れであり、肩がわりであることは否定できません。しかも、この会談の中で中曽根総理は、このような高比率軍事費を投入している韓国の防衛努力を高く評価しています。  中曽根総理と全斗煥大統領が意見の一致を見たとして、共同声明にうたわれている「新しい次元の日韓関係」とは、現地でも大きく報道されている北東アジアにおける日米韓の三角軍事同盟であり、日本からの経済協力国民の目をごまかすために粉飾された軍事援助であるという指摘に、中曽根総理はどう答えられるのか、その所信を伺います。  日韓首脳会談についてさらにお伺いしたい点は、共同声明の第三項で、「日韓両国が自由と民主主義という共通の理念を追求する隣邦として相互に緊密な協力関係を維持発展させていくことが両国民の利益になるということにつき意見を共にした」、こう述べておられるが、総理はいまの韓国に自由と民主主義が保障されていると認識されているのでしょうか。光州事件という多くの人民が軍隊の弾圧によって殺された事件や、いまなお多くの人士が不当な弾圧によって牢獄で苦しんでいる事実を総理はどのように理解されているのでしょうか。  総理は、ソウルに続いてあわただしくワシントンに飛ばれました。ここでまた国民の「何かやる」という不安の気持ちは増幅されました。あなたの短いワシントンでの滞在中の言動の中から、「日米は太平洋をはさんだ運命共同体」「日本列島を不沈空母に」「四海峡封鎖」と、国民の不安をかき立てる言葉が矢継ぎ早に伝えられました。まさに戦争前夜の言葉であります。  あなたはレーガン大統領との間柄を、「ヘイ・ロン」「ハロー・ヤス」、こう呼び合うようになったと、その親密ぶりを得々と語っておられましたが、日本国民は、総理アメリカの大統領から「ハロー・ヤス」、こう呼ばれながら、どんどん軍備の強化を約束させられ、運命共同体の道をたどることに大きな不安感、不快感を持たざるを得ないのであります。  具体的に伺います。  あなたの唱える「日米は太平洋をはさんだ運命共同体」という主張、これには軍事的意味が当然含まれると説明されており、いわゆる双務的集団安全保障体制を目指すという印象が強く感じられ、時を同じくして、ある有力新聞は「安全保障体制検討のため臨時調査会設置」と大きく報道されました。自由民主党内部にはかねてから双務的集団安全保障論があることも伝えられておりますが、総理アメリカ発言をされた「運命共同体」という意味は、この双務的集団安全保障を目指すものであるのかどうか。また、そうであるとするならば、憲法第九条の解釈は大きく変更されることになるが、この点はどうなのでしょうか、総理の所信を明確に承りたいと思います。  「日本列島を不沈空母に」という発言を、否定したり、また認めたり、釈明をしたり、マスコミを通じて日本総理の不見識と二枚舌が世界じゅうの人々に紹介されました。  中曽根総理、あなたがナンバーツーのポストについていた鈴木内閣では、鈴木総理は「ハリネズミ防衛論」を展開されました。ハリネズミが二カ月後にはなぜ不沈空母になるのですか。報道されたあなたの発言についてこの国会質問されると、あなたは「一つの形容詞」と釈明されているが、「日本列島を不沈空母のように強力にして、ソ連のバックファイアが到達できないようにする」と述べておられ、単なる形容詞ではなく、明らかにソ連を敵対国として、具体的な軍事目標を持った不沈艦空母構想となっている。なぜ、いまソ連を相手にこのような挑戦的な態度をとらなければならないのか。  また、いままで政府は、わが国は専守防衛という原則によって、攻撃的機能を持った航空母艦は持たないという方針をとってきました。それが、航空母艦を持たないどころか、日本列島そのものを航空母艦のように強力に武装するということは、防衛計画の大綱の変更など防衛政策の重要な変更であるとともに、憲法の制約を大きく踏み越えるものであります。このような重要な防衛政策の変更が、いつ、どのような手続を経て行われたのか。さらにまた、日本列島の不沈空母化とは具体的にどのような装備や軍事力を構想しているのか、明確な説明を伺いたいと思います。  総理の「四海峡封鎖」発言も、国際的にも国内的にも大きな波紋を呼んでいます。「いざというときには」海峡封鎖をやろうというのは、この「いざというとき」とは一体どのような局面を想定されているのか。ソ連との全面戦争を決意しなければ考えられない発言だと思いますが、総理はそのような局面を考えておられるのかどうか。また、四海峡を後で三海峡に訂正されておられますが、これはどの海峡を指すのか。宗谷海峡を対象としているのであればソ連との関係はどうなるのか、対馬海峡の西水道が対象となっているのであれば対岸の韓国との関係は一体どうなるのか。また、自衛隊が海峡封鎖能力を持続するためにはどれだけの軍事力が必要と考えての発言であったのか、総理見解を伺いたいのであります。  次は 対米武器技術供与に関する政府の態度について伺います。  中曽根内閣が一月十四日の閣議で了承した「アメリカへの武器技術供与に応ずる」という方針は、日本国憲法平和主義と国権の最高機関である国会の決議を踏みにじる暴挙であり、直ちに撤回するよう求めるものであります。  衆議院においては昭和五十六年三月二十日、当院においては三月三十一日にそれぞれ武器輸出問題等に関する決議を行っております。この決議は、冒頭で述べているように、日本国憲法の理念である平和国家としての立場基本になっており、アメリカへの武器技術供与武器輸出禁止の三原則の枠外とするなどという立場には立っていないのであります。また、軍事技術についても武器と同様に扱うこと、アメリカへの供与についても、三原則及び昭和五十一年二月二十七日の政府方針に基づいて対処することを政府は明確に表明しているのであります。  総理は、今回の措置国会決議に反するものではないと述べておられますが、立法府の決定を行政府が一方的に解釈することは、立法府の意思を無視した行政府の走り過ぎと言わざるを得ないのであります。日本国憲法とそれに基づく国会決議、そしていままで政府国会に対して示した態度からして、今回の措置が許されるはずがない。総理は、この点についてどう考えておられるのか、お伺いいたします。  また、今回の政府の態度は、日本国憲法の理念である平和国家としての外交路線を放棄するものであり、将来、NATO方式の兵器の共同開発、共同生産へとエスカレートする懸念が指摘されます。この点についての総理見解を承りたいと思います。  中曽根総理、今回のあなたの訪米、日米首脳会談は、一番の難題である貿易摩擦の風圧を避けるために、韓国への経済協力日本列島沈空母日米運命共同体軍事技術供与など、軍事面でアメリカにのめり込むという手法をとったということではないでしょうか。それによって仮に貿易問題で一時しのぎができたとしても、それと引きかえに約束をした軍事協力によって日本列島がだんだん危険な状態となり、国民の不安が高まっていく、これに対して総理はどう対処されるのか、その方針を承りたいと思います。  さらに私は、中曽根総理に、平和への枠組みについて、その考え方を伺います。  日本国憲法は、その前文と第九条で平和国家としての理念を明確にしています。そして、自由民主党の歴代内閣は、自衛隊を年々強化し、アメリカとの軍事的きずなを強めながらも、非核三原則武器輸出禁止三原則、そして防衛費国民総生産の一%以内、この制約を一応は守ってきました。中曽根総理は、就任後二カ月で、この制約のうち、防衛費国民総生産の一%以内という制約を実質的には今明年のうちに破棄する内容予算をつくり、いままた武器輸出禁止の三原則を破棄いたしました。非核三原則のうちの一原則も事実上空洞化されようとしています。そして、平和のとりでである憲法についても改憲への意向をあらわにされています。  総理、あなたには平和への理念はないのですか。もしあるとするならば、その理念と構想、軍備拡大への制約をどこに置くのか、ここで明確に示していただきたいのであります。  つい先日、あなたが総理の座につくために大きな力をかりた田中角榮元総理に対する論告求刑が行われました。総理の犯罪の実態が赤裸々にされ、審判に付されようとしているのです。総理、あなたがのどから手が出るほど欲しい、こういうふうに言われてやっと手に入れた権力の座は、いま懲役五年の刑を求刑された刑事被告人の影響力をかりて手にしたものであります。世間は、中曽根内閣を田中曽根内閣と、あなたの名前の上に刑事被告人の名を冠してやゆしています。このことを恥ずかしいと思われませんか。日本の名誉のために悲しいことと思われませんか。まず日本総理であった人、また、あなたが総理になるために大きな力をかりた人が、このような論告求刑を受けたことについての総理の率直な所感をお聞かせいただきたい。  中曽根総理、あなたが日本国総理としての名誉を重んじ、政治の信頼を確保しようと考えられるならば、田中角榮被告がみずから議員を辞職すること、事件の政治的、道義的責任の解明のため関係者の国会喚問の措置など、政府・与党のリーダーとしてみずからリーダーシップをとるべきではないでしょうか。総理の率直な見解を承りたいと思います。  最後に私は、中曽根政治基本は何であるのか、総理がことしに入って折に触れて語る「ことしは戦後三十七年の総決算の年」、こういう意味は何であるのか、このことについて伺って、私の質問を終わりたいと思います。  私は、この質問に立つに当たって、中曽根政治を正しく理解するために、あなたが書かれた多くの著書や論文をできるだけ読んで、自分なりに検討いたしました。その中で強く印象に残ったのは、あなたが強烈な改憲論者であることと、安全保障体制については双務的集団安全保障論者ではないかという点であります。  あなたが総理就任に際して外国人特派員あてに配布した「私の政治経歴」という英文の文書があります。この中に次のような一節があります。世界における日本の地位の再発見、改憲の必要性という項で、「私の願望は、憲法ができるだけ早く改定され、日本が自衛力を持ち、現在の防衛的条約を対等なパートナー間の軍事同盟に変え、われわれの自衛力を強化しつつ、日本からアメリカ兵を撤退させうるようにすることである。こうしてわが祖国は、名実ともに独立を回復することとなるであろう。私の立場はその後も変っていない」、こう述べています。先日のアメリカにおける「日米運命共同体」「日本列島の不沈空母化論」「三海峡封鎖」等の発言も、その立場から出たものかと感じられるのであります。  そして、同じこの文書の中で、「安定期においては、国民は一般的にコンセンサスをつくるいい腕を持ち、相対立する意見を仲裁する能力を持つ指導者を選んできたが、激動する変革の時期には、明確な見通しができる洞察力のある指導者、大胆な選択を下す人を選んできた。自分は政治家としては、この二つのカテゴリーの後者に属するもの」と、自分を評価されています。  総理がことしの政治課題について語る「戦後三十七年の総決算」という課題が、この憲法改定であり、双務的集団安全保障体制への改定であるとするならば、国民は、あなたが自己評価する洞察力や大胆な選択にノーと答えるでありましょう。総理が本年目指す「戦後三十七年の総決算」という政治とは何を目指すのか、国民の前に明らかにされることを望んで、私の質問を終わります。(拍手)    〔国務大臣中曽根康弘登壇拍手
  17. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 野田議員の御質問にお答えを申し上げます。  まず、韓国訪問の件でございますが、日韓両国は最も近い重要な国であります。そういう意味におきまして、首脳レベルの交流を気軽に行えるようにしていきたい、そうして友好を促進していきたいとかねがね念願しておりました。そこで、首脳間の対話を早期に実現したいと考えておりまして、その結果、就任直後に私は全大統領に電話であいさつをいたしましたが、そのときにおきましても、首脳間で将来会合をしようと、そういう点では一致したのでございます。その後、経済協力問題も含めまして、これらの問題について外務省を通ずる正規のルートで精力的に詰めました。  この間におきまして、十二月のクリスマスの前後におきましては日韓議員連盟の会合が行われまして、韓国から多数の議員がおいでいただいて非常に友好の雰囲気が上がってきたわけでございます。そういう関係からも事態は促進されまして、十二月三十日には前田大使に対して、李外務部長官が会見をした際に、中曽根を招聘する、そういうことについて発表があったわけでございます。  こういうことで、外交ルートを通じてこれらは進められてきたのでございまして、いわゆる秘密外交とか秘密会談というものはございません。今回の会談におきまして全大統領と二人だけで会ったということはございません。少なくとも前田大使は常に同席をいたしておりました。閣僚は閣僚会談等でそれぞれの相手方と会談をしておりまして場所におらなかったことはございますが、日本の大使は常に同席しておりまして、秘密外交ということはございませんし、内容につきましても、共同声明で発表し、あるいは記者会見で発表したとおりのことで、それ以外のことはございません。  次に、日米韓安保協力については全く協議はございません。こういう報道が一部流されましたけれども、かかる議論は一切ございませんでした。  経済協力問題につきましては、韓国の経済社会発展五カ年計画を中心とする国づくりに対してわが国経済協力を行う、こういう原則で行ったものであります。  新しい次元の日韓関係という意味は、日本総理として初めての公式訪問が行われまして、ソウルに日章旗が翻り、あるいは韓国の軍楽隊によって君が代が吹奏された、これは三十八年ぶりでございまして、まさに新しい次元ではないかと考えて、かかる表現がなされたものでございます。  韓国の政権に対する評価をお聞きいただきましたが、他国の政権に対する評価という問題は軽々に申すべきことではないので差し控えさせていただきたい。しかし、いずれにせよ、日本と韓国は最も近い、最も重要な隣国であり、自由と民主主義という理念を共有する、こういう友好関係の国であるということを申し上げる次第であります。  運命共同体という意味は、ここでしばしば申し上げましたように、日本アメリカは自由主義、民主主義という価値をともに同じくし、あるいは文化や経済における膨大なる相互連帯関係を持っており、あるいは日米安保条約を通ずる特殊の防衛提携関係を持っておる等々、これらのすべてのものにおきましても強い連帯関係にある友好国であるという意味で、運命をともに分かち合うということで運命共同体ということを申し上げたとおりでございます。集団自衛権を行使するという考え、それではもちろんございません。安保改定を行うという意思もございません。明らかにしておきます。  それから不沈空母とハリネズミ防衛論でありますが、日本をハリネズミというのもまた不思議な表現であり、不沈空母と同じように、これは比喩であるとお考えいただかなければならぬと思うのであります。要するに、憲法の範囲内において、そして非核三原則を守り、専守防衛に徹して、外国に脅威を与えるような軍事大国にならない、そして質の高い必要最小限の防衛力を整備する、そういう国になろうという意味の表現であり、私が使いました場合には、特に自分で自分の国を守るという決意をはっきり持った民族でなければならない、そういうはっきりとした意思を持った民族でなければ、安保条約を結んでおっても、いざという場合に共同防衛についてかげりが出てくる、それを心配して私はあえて申し上げたと、そういうこともここで申し上げたとおりであります。  さらに、防衛政策について御質問がございましたが、防衛計画の大綱をできるだけ早く達成するというのがわれわれの当面の目標でございまして、防衛政策について特別の変更はございません。  また、海峡防衛につきましても、これは海峡防備能力を向上させようという考えでございまして、万一の際、言いかえれば侵略が行われるというような場合に、本土防衛、わが国の国土防衛の一環として海峡も防衛しなければならぬ、そういう意味であります。この海峡につきましては、宗谷、津軽、対馬の三海峡を意味しております。  どの程度の兵力でやるのかということでございますが、これはその事態の態様によりまして一概には申し上げることはできませんが、要するに防衛計画の大綱が達成されれば海峡防衛能力も相当向上すると考えております。  対米武器技術供与の問題は、かねがね申し上げますとおり、日米安保体制の効果的運用を図り、もってわが国及び極東の平和と安全の維持を確保するという、それに寄与するものであり、憲法平和主義の精神に反するものではない。本件供与に道を開くこととした今回の決定はまた憲法に抵触するものでないと考えております。  政府としては、本件処理に当たりまして慎重に検討を重ねましたが、対象を日米安保体制の効果的運用を確保する上で重要となっている相互防衛の一環としての対米武器技術供与に限る、そして日米相互防衛援助協定の関連規定に基づく枠組みのもとで実施する、こういう条件がついておるわけです。そして、これを行う限り、国会決議の趣旨を十分尊重して行われておるものでございます。したがって、今回の決定を撤回する考えはございません。  国会決議は、これはちょうど昭和五十六年三月の国会で決められましたが、堀田ハガネの事件がございまして、この違反事件にかんがみ、そのようなことがないよう、武器輸出について厳正かつ慎重な態度をもって対処するとともに、実効ある措置を講ずるということを政府に求めたものでございます。  したがって、この決議が政府に対して、武器輸出原則等について、わが国の平和と安全を確保するため必要不可欠な日米安保体制の効果的運用のために必要な調整をすることまで禁じたものとは考えておりません。したがって、今回の措置国会決議に反するものとは考えておりません。しかし、御指摘国会決議の趣旨を今後も十分尊重してまいるつもりでおります。  さらにまた、本件供与は、日米相互防衛援助協定の関連規定に基づくその一連の枠組みのもとで行われ、国際紛争等を助長することを回避するという武器輸出原則等のよって立つ平和国家としての基本理念は確保されておるのであります。これは従来からの平和国家としてのわが国外交政策を変更するものではございません。  共同開発について御質問がございましたが、これは先ほど申し上げましたような技術の相互交流の一環として対米武器技術供与の道を開いたものであり、日米間で武器の共同生産を進めるということまでも考えたものではありません。従来どおり、武器輸出原則等に基づいて対処してまいりたい、もとより本件対米武器技術供与以外の場合につきましては、従来どおり武器輸出原則等に基づいて対処するということになります。  貿易摩擦と軍事協力の問題でございますが、今回の訪米では、レーガン大統領との間で国際情勢及び日米関係全般について建設的な意見の交換を行いました。アメリカの大統領は、私が就任後とった諸般の政策を高く評価しつつも、内外の厳しい情勢を説明しまして、なお一層市場開放等に関する努力を要請されたのであります。私からは、防衛や経済面での日本が講じてきた措置日本の国内情勢についても十分な説明を行い、米側の理解を求めた次第です。御指摘のような、貿易問題と引きかえに軍事協力を約束したという事実は全くありません。  平和の問題につきましては、私は昨年十二月の所信表明で申し上げましたが、やはり地上の平和と人類の共栄ということが政治の大目標であると申し上げました。恒久的な世界平和の確立は人類悲願の大目標でありまして、あらゆる機会を通じて、わが国立場から政治的、経済的役割りを果たすことによって世界の平和と繁栄に積極的に貢献していきたいというわけでございます。  他方、現在の世界の平和は、残念ながら力の均衡によって維持されていることも目を覆うことのできない事実であります。抑止力を確保するとともに、力の均衡の水準をできるだけ確実な保障のもとにこれを引き下げていく、これが現実的な努力の目標であると思います。  わが国は、憲法のもと、基本的防衛政策に従い、自衛のために必要最小限の防衛力の整備を行い、近隣諸国に脅威を与えるような軍事大国とはならない、この方針はあくまでも堅持してまいるつもりでございます。こういう意味において私は現実的な平和主義者であると、こう考えております。  次に、ロッキード事件の論告についてお話がございましたが、この論告につきましては厳粛な気持ちで受けとめており、今後冷静にこの裁判の行方を見守っていきたいと思っております。  私が総理あるいは総裁に選ばれましたのは、まず総裁に選ばれましたのは、圧倒的な多数の党員、党友の公選で選ばれまして、これらの党員、党友の支持と国民の間接的な御支援をいただいたものと思い、また、総理といたしましては、国会の御指名をいただきまして公に任命されたものである、こう思っております。  政治倫理確立ということは、あくまで大事なことであり、民主政治基本に関する重要案件であると思って今後とも努力してまいるつもりでありますが、証人喚問措置などの問題は国会における重要事項でありまして、十分与野党において御協議いただきたいと思う次第であります。  戦後三十七年の総決算とは何を意味するかと、こういう御質問でございますが、その際に「私の政治経歴」という英文パンフレットについて御言及になりましたが、それは私の昔の考えの一部をお述べになったのでございまして、いま考えていることは、この議場で申し上げているのがいまの考え方でございます。  しかし、内外の諸条件が最近の情勢を見ると著しく変化しております。二度にわたる石油ショックの経済的困難は世界の不況を招来して、世界的にも大きな沈滞の現象を示しております。したがって、われわれはこの転換点に立っていることをまず率直に認識し、内外の諸条件をみずからの努力で再整備するということによって新しい発展の進路を開かなければならないと思っております。そのことを指して戦後三十七年の総決算と私は申し上げておるのでございまして、そうして一面においては、国際的には世界に開かれた日本にする、国内的には行財政改革を徹底的に行って機動力を回復し、あすに備える、これを当面の政治の目標にして行っておる次第なのであります。  そうして、目指すところはたくましい文化と福祉の国をつくろう。たくましいという意味は、自立自助と連帯の精神、そして隣人愛を持つ、麗しい、しかも力強い文化と福祉の国をつくろう、こういう考えであるということを申し添える次第でございます。(拍手)     ─────────────
  18. 徳永正利

    ○議長(徳永正利君) 成相善十君。    〔成相善十君登壇拍手
  19. 成相善十

    ○成相善十君 私は、自由民主党・自由国民会議を代表いたしまして、当面する重要課題について総理ほか関係閣僚に対し質問をいたします。  いまわが国は、内外に難問が山積し、いわば未曽有の国難のさなかにあると思われます。中曽根内閣は、こうしたきわめて厳しい情勢のもと、重い課題を背負って発足したわけでありますが、中曽根総理の的確なリーダーシップにより、行財政改革を初め五十八年度の予算編成など内政上の諸問題への精力的な取り組み、貿易摩擦への対処や訪米、訪韓を通じて見られた積極果敢な対外政策の展開など、目覚ましい実績を上げつつあることにまずもって敬意を表するものであります。  しかし、直面する困難を克服して、あすの日本の一層の繁栄をより確実なものにするためには、今後引き続いて長期にわたる忍耐強い努力が必要であります。それを可能にするのは、言うまでもなく政治に対する国民の幅広い理解と支援であります。事態が困難であればあるほど、国民政治をつなぐパイプは太くて通りのよいものであることが必要であります。  総理が、みずからの政治姿勢基本として、国民にわかりやすい政治、話しかける政治の実現を表明されたことは、まことに卓見であると思います。最高のリーダーである総理にとって、進んで国民に真実を語り、理解と協力を得るための努力を尽くすことは何よりも大切なことであります。  総理はまた、かねてから、危機と混乱の時代における政治家は哲学と熱情を国民に示すべきだと、こう申されております。私も全く同感であります。国民とともにある政治、開かれた政治のためには、総理がこの初心と姿勢を施政の万般にわたって貫いていただくことを私は期待し、総理みずからが常に国民と語り合う機会をできるだけ持たれることを提言しておきたいと思います。これについての総理の御所見を求めます。  さて、まず行財政改革についてお尋ねいたします。  いま、第二次臨時行政調査会は、三次にわたる答申を経て、いよいよ大詰めの最終答申の作業に入っております。まさに行政改革は正念場を迎えております。今後二十一世紀に至るまで、行政改革の実現の機会はいまをおいてはないとさえ思うのであります。申すまでもなく、行政改革はかつての高度成長の時代につくられた制度や慣行について聖域なき見直しを行い、社会の大きな変動に対応できるように行政の体質を改善し、民間の力を引き出すことによってわが国社会の活力を増大しようとすることに意義があります。すなわち、あすの日本の基盤づくりを行うことが行政改革の本旨なのであります。  私は、行政改革の意義についてこのように理解するものでありますが、行政改革を成功に導くための出発点は国民の理解と支援をいかにして得るかであり、そのためには、まずもって行政改革の意義を国民の前に明確に示さなければなりません。この際、改めて行政改革の意義についての総理所見を明らかにしていただきたいと存じます。  しかしながら、行政改革は現に存在する各種の制度、政策を見直し、これを改革しようとするものでありますから、そこには既得権益との関係でさまざまな利害の衝突や摩擦が生ずるものであります。えてして行政改革が総論賛成、各論反対の議論に遮られて、竜頭蛇尾に終わるのもそのゆえであります。交錯する利害を乗り越え、当面する困難を突破して行政改革を成功させるには、いかなる障害があろうとも断固としてこれをやり抜くかたい決意と具体化のための周到な用意、さらには着実に実績を積み重ねていくじみちな努力とが要求されると思います。行政改革具体化のための総理決意をお尋ねいたします。  また、行政改革地方自治体においても国と歩調を合わせて進められることが必要であります。その際、地方分権を進めて地方自治を充実強化するという地方自治の望ましいあり方から見て、中央と地方の事務分担を改めて見直すべきであると考えるのでありますが、この点についての所見をあわせてお伺いいたします。  行政改革の中でも、なかんずく国鉄事業の再建問題は、本格的な行政改革の第一着手とも言うべき大きな課題であります。国鉄の経営を危機的な状態から立て直すことは、国民がひとしく認める緊急な国家的課題であります。そのための場づくりとして、政府は国鉄再建監理委員会法案を前国会に提案し、目下継続審議となっております。その一日も早い成立が望まれるところでありますが、この際、総理の国鉄事業の再建問題に取り組む決意について確認しておきたいと思います。  関連して、財政改革基本的な考え方について一言質問いたします。  総理は、今回の演説で、従来の「財政再建」という概念を一歩進め、「財政改革」の推進を標榜されました。これは財政赤字の解消だけを目的とするのでなく、財政対応力を回復することによって、今後予想される経済社会の変動に財政が弾力的に対応していけるようにするとの積極的意図に基づくものと理解いたします。これは総理行政改革の理念とも軌を一にする考えでありますが、「財政再建」にあらざる「財政改革」の目標と今後の進め方の方針、その中における五十八年度予算の位置づけについての考え方をお示しいただきたいと思います。  次に、農林水産業対策について伺います。  わが国の農業は、米を初めとする主要農産物の需要の緩和、経営規模の零細性、労働力の高齢化等の問題に直面しているほか、これに加えて、内にあっては行政改革の波に、また外にあっては米国からの牛肉、柑橘等の自由化要求に代表される国際化の波にもまれております。このようなわが国農業をめぐる厳しい情勢に対処して、いまこそ農業の産業としての位置づけ、そしてまた長期的展望に立った新しい農政の方向を具体的に打ち出すべきときだと思いますが、いかがでありましょうか。  また、現下の最重要課題は、申すまでもなく農畜産物の自由化問題であります。幸いさきレーガン大統領との会談では、わが方の主張が貫かれたことを多とするものでありますが、その際の話し合いの内容と、それを踏まえての今後の日米農産物交渉の方針を明らかにしていただきたいと思います。  米は、三年連続不作という実態を踏まえて、五十八年度の転作面積を緩和しましたが、この際、米は過剰であるという認識を改める必要はないでしょうか。特に、第三期対策については、農家の不安を解消するため早急に方針を打ち出すべきであると思いますが、いかがでありましょうか。  今日の農村は、兼業化、高齢化、混住化が進んで、地域の連帯感が希薄になったり、集落機能の低下などの傾向が強まってきております。生活環境も都市に比べて未整備の状態にあります。しかし、今後生産性の高い農業の実現を図るためには、農村の環境を整備し、活力ある地域社会の形成と維持に努める必要があります。政府はどのように考えておられるか、お尋ねをいたします。  森林及び林業をめぐる状況もかつてない厳しいものがあります。このまま放置すれば健全な森林の維持、造成に支障を来し、将来の木材の安定供給が困難になるのみならず、国土の保全、水資源の涵養など森林の公益的機能の発揮が危うくなるおそれがあります。先祖伝来の資産とも言うべきこうした豊かな森林を子々孫々にまでりっぱに譲り伝えていくことは、われわれに課せられた使命であります。いまこそ国家百年の大計のもとに、森林の整備のための対策を強力に推し進めるべきだと考えますが、いかがでありましょうか。  また、これに関連して自然保護の問題についてお尋ねいたします。  豊かな自然を守り、環境を保全するに当たっては、それぞれの地域の住民の自主的で積極的な取り組みがなければなりません。現在、全国各地で、英国のナショナル・トラストの例に見られるような、住民による自発的な自然保護運動が起こりつつありますが、これを、自然を愛し国土を守る国民運動として定着させることは、自然保護の問題が持つ性格から見てきわめて大切なことだと思います。政府は、このような民間の活力の芽生えに対し、今後どのように対処していく方針であるのか、自然保護及び自然保護運動についての基本的な考え方をお示し願いたいと存じます。  水産業については、二百海里規制の強化、燃油価格の高騰などによる漁業経営の悪化、水産物需要の低迷などが状況を一層むずかしくしております。言うまでもなく、日本人は動物性たん白質の約半分を魚から摂取している世界一の魚食民族であります。したがって、国民に対する水産物の安定供給を基本とする水産業の重要性はきわめて大きいものがあります。このため、困難な状況にある漁業経営の抜本的改善を図るとともに、今後は世界的な資源保護の観点に立って、単にとるだけの漁業から育てる漁業への転換を図るなど、水産業の振興と水産物の安定供給に努めなければなりません。  以上の点について、総理及び農林水産大臣、環境庁長官より答弁を求めたいと存じます。  次に、構造不況及び中小企業対策であります。  わが国経済現状は、内外の需要の低迷によって生産が低調に推移しており、これに伴い雇用情勢がじりじりと悪化しているなど、厳しい状況が続いております。今後さらにこのような景気低迷が続きますと、雇用の安定確保や調和のとれた対外経済関係の面で重大な問題が生ずるほか、構造的困難に陥っているアルミ、石油化学などの基礎素材産業や中小企業にも深刻な影響を及ぼす懸念があります。基礎素材産業はわが国経済の安定にとって不可欠の存在であります。したがって、その構造的な問題を解決して活性化を図ることを急がなければなりません。このためには、独禁法との調整を含めて新たな法的措置を現行の特定不況産業安定臨時措置法にかわって講ずる必要があると考えますが、いかがでありましょうか。  また、中小企業は、申すまでもなく、わが国経済社会の重要な基盤を形成しております。中小企業の健全な発展なくして、わが国経済の発展も社会の安定も期待することはできません。いまこそ慢性的な停滞が続く中小企業に活力を与え、その振興を図ることが政府に課せられた緊急かつ重要な責務であると考えますが、今後の国政の中で中小企業対策をどのように位置づけてその対策強化を図っていくのか、通産大臣の所見を伺いたいと思います。  次は、科学技術の振興であります。  わが国はいわゆる資源小国でありますが、その経済力においては、いまや世界の一割を占める経済大国に成長を遂げました。その中で大きな役割りを果たしたのは、国民の勤勉さもさることながら、すぐれた科学技術の存在が挙げられます。ただ、先進諸国の最近の動向を見ますと、各国ともエレクトロニクス、バイオテクノロジー、新材料、航空、宇宙といった先端分野の技術開発に総力を挙げて取り組んでいます。わが国としても、こうした分野での創造的な技術開発を強力に推進し、それをてことして産業の知識集約化を図り、活力ある経済社会の実現を図ることの必要性が痛感されるところであります。  さらに、科学技術は、人類共通の財産として、世界経済の活性化と成長に大きく貢献するものであります。わが国としても、当然それへの積極的なかかわりが求められることになりますが、このためには、さきのベルサイユ・サミット宣言でも言われているように、国際協力による技術開発を促進することがきわめて有効であります。このことは、わが国と欧米諸国との間の通商摩擦を回避する上でも効果的かつ重要なかぎとなり得ると思います。したがって、今後わが国としては、国内での創造的な技術開発と並んで、国際的にも技術開発協力への積極的な取り組みが必要だと思いますが、科学技術庁長官の見解をお尋ねいたします。  最後に、当面する婦人問題についてであります。  わが国の婦人の雇用者は千四百万人に達して、全雇用労働者の三分の一を占めております。特に注目すべきは、働く婦人の三人に二人が既婚者であるということであります。このことは、必然的に、婦人労働者の職業生活と育児との調和をどのように図るかという問題と、雇用の分野における男女の機会均等の問題にどう対処するかという課題との取り組みにつながってきます。育児については、総理と盟友であった故早川崇代議士が、家庭基盤強化の観点から育児休業の制度化を提起されておりますが、育児等に関する環境条件の整備は早急に進めるべき重点施策であると考えます。また、雇用における男女平等の実現については、一九七九年、国連条約として採択されましたが、わが国ではいまだに批准に至っておりません。  自由民主党としては、五十八年度の運動方針の中で、婦人の社会参加を促し、婦人の英知と能力を社会に生かそうという重点目標を掲げているだけに、われわれとしてはその実現の促進に努めなければならないと考えておりますが、総理は、この育児休業の制度化と雇用における男女平等法についてどう対処されるのでありますか、所見を承りたいのであります。  さて、質問を終えるに当たりまして、この際、総理に一言申し上げたいと存じます。  いまわが国は、内にあっては行政及び財政改革、景気の回復、安全保障体制の整備など、ゆるがせにできない問題への対応に迫られており、外に向けても世界の平和と繁栄への寄与、経済摩擦の解消など、国際的に果たすべき責任が問われているという大変な時期に直面していることはすでに申し述べたとおりであります。この厳しい情勢のもとで政権を担当する中曽根内閣に課せられた使命はまことに重大であります。総理は、持ち前のかたい信念と、それに支えられた強いリーダーシップを誤りなく発揮してこの難局を切り開き、国民の信頼と期待に十分こたえられるであろうことを期待し、確信して、私の代表質問を終わります。(拍手)    〔国務大臣中曽根康弘登壇拍手
  20. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 成相議員の御質問にお答えを申し上げます。  私は、現在のような転換期は、国民の皆様方のお力をかりずしてとうてい乗り切ることはできないと考えております。民主政治におきましては国民の皆様の力がすべての原動力であります。この力をいただくためには御理解をいただかなければなりません。その意味におきまして、わかりやすい政治国民の皆様に話しかける政治ということを心がけまして、国民の皆様のお力をかりたいと念願してきた次第でございます。今後におきましても、できるだけ政治の実際の状況や国際情勢等につきましても国民の皆様方に申し上げ、お訴え申し上げ、お力をかしていただきたいと思っております。自由な論議とそしてコンセンサスを形成するということぐらい今日必要なものはないと確信しております。  行政改革について御質問をいただきましたが、行政改革は国づくりの基礎工事でございます。新しく行政見直しを行い、国、地方を通じて、かつまた公的部門、民間部門との新しい関係等も見直し、そして新しい明るい未来に向かって展望を開こうとするのが行革の本義であり、具体的には、簡素にして効率的な政府を実現するということから出発をいたします。このため、行革大綱、昨年の九月二十四日閣議決定いたしましたこの線に沿って、着実に計画的に実行してまいるつもりでございます。  臨調もこの三月で終期を迎えまして、最後の大作業にいま入っておりますが、いまや全国民の皆さんも臨調の御努力に感謝し、かつ、いかなる案が出てくるか、かたずをのんで見ているところであると思います。これらの案をいただきましたならば、これを点検の上、いままでの例に従いまして最大限尊重してこれを実行に移すべく努力していく決意でございます。閣僚及び公務員ともに同じ決意をもってこれに邁進するように全力を尽くしてまいるつもりでございます。  この行革の中で国鉄の事業というものはまた非常に大きな目玉の一つでございます。したがいまして、先般来この国鉄改革に関する法案、特に国鉄再建監理委員会設置に関する法案を御提出申し上げておりますが、なるべく速やかにこの法案の御成立を願いまして、そして人事を任命し、早くこの機関が動き出すようにして、国鉄再建へのめどをつけてまいりたいと念願しております。  御指摘になりました地方自治は民主政治の基盤でありまして、地方自治の本旨にのっとりまして中央と地方の関係を調整していかなければなりません。一面において地方行政の簡素化、効率化に精を出していただくと同時に、国と相協力して国民のニーズにこたえる新しい機構をつくり、また運営を図っていきたいと考えておる次第でございます。その際、地方公共団体の自主性、自律性を尊重して、しかも住民に身近な行政はできるだけ地域住民に身近な地方公共団体で行う、こういう原則処理してまいりたいと思います。  次に、今後の財政運営でございますが、五十年度以降大量の公債を発行いたしまして、いまやこの状態では何らかの改革を行わなければ、来るべき高齢化社会あるいは国際化時代、あるいはいわゆる日本が成長して熟成してまいりましたこの段階対応することは困難でございます。  そこで、五十八年度予算編成に当たりましても徹底した歳出の見直しを行い、三十年度以降初めて一般歳出の規模を前年度以下に圧縮をいたしました。そのほか諸般の改革を行いまして、五十七年度予算補正後に対して一兆円の公債を減額したものでございます。今後、新しい観点に立った長期的な経済展望のもとに、歳出歳入構造の徹底的な合理化、適正化を進め、できるだけ早期に公債依存体質からの脱却と同時に公債依存度の引き下げを図りまして、財政の健全性を回復してまいりたいと思います。  財政改革に当たっての基本考え方については、できるだけ早い機会に国会に提出してお示しすべくいま準備中でございます。  新しい農政の方向でございますが、私は、農は国のもとであると前からここで申し上げ、また農業は生命産業であると申し上げているとおり、きわめて重視しているものでございます。  先般、農政審議会におきまして、農業の長期展望と農政の進むべき方向を提示していただきました。この方向に即して施策の充実を図り、まず生産性の向上、農業の体質強化に努力するのが正攻法であると思っております。  さき日米会談におきまして、牛肉、柑橘の問題についていかがであったかという御質問でございますが、この問題については、米側からは市場開放を強く期待する意思表示がございました。しかし、わが方からは、日本の国内事情を詳細に説明し、自由化が困難である事情をはっきり申しまして、この問題は、双方が冷静になって専門家同士の話し合いにゆだねた方がよろしいと私からも申し上げまして、そういう事態になってきているわけでございます。もちろん今後は関係国との友好関係に留意しつつ、国内農産物の需給動向等を踏まえ、食糧の安定供給の上で重要な役割りを果たしているわが国農業の健全な発展と調和のとれた形で行われることが基本的に重要であると考えております。  次に、婦人問題について御質問がございましたが、働く婦人の社会経済に果たす役割りは近来非常に大きくなっており、婦人の持つ豊かな能力を社会に生かすべく環境づくりに努めることが、政府としての大きな使命になってきたと思っております。育児休業の制度化及び雇用における男女平等を確保するための諸方策につきましては、関係審議会においていま鋭意検討中でございまして、その結果を待って適切に対処してまいりたいと思います。  最後に、私の施策につきまして温かい御激励をいただきまして、感謝申し上げる次第でございます。  残余の答弁関係大臣から御答弁申し上げます。(拍手)    〔国務大臣金子岩三君登壇拍手
  21. 金子岩三

    国務大臣(金子岩三君) 成相議員にお答えいたします。  米が過剰かどうかについてでありますが、五十五年、五十六年、五十七年産米が三年連続の不作となっていますが、御承知のように、米の潜在生産力は依然として高い水準にあるのでございます。一方、米の消費は減少傾向が続いております。米の需給は依然として過剰基調にあるのでございます。水田利用再編対策については、第三期対策の目標面積、奨励補助金等の枠組みについて、今後、米の需給動向、転作の定着化の状況等を見きわめて、昭和五十九年度予算編成までの間に定めていきたいと思います。  次に、農村環境の整備についてでありますが、御指摘のように、生産性の高い農業を実現するためには、農業生産基盤及びこれと一体となっている農村生活環境の計画的、総合的整備を進め、活力ある農村地域社会の形成を図っていくことが重要であると考えております。農林水産省としては、このような観点に立って、農村整備対策を農政の重要な柱として位置づけております。今後とも地域の特性に応じた農村整備のための諸施策を一層積極的に展開してまいりたいと考えております。  次に、森林の整備対策であります。林業生産基盤の整備、林業構造の改善、適正な森林の管理、国産材の安定的な供給、活力ある山村の育成と林業の担い手確保等々、各般にわたる施策を国民の理解と協力のもとに強力に推進してまいりたいと思います。また、計画的な森林の整備の推進、分収造林制度の拡充等につきましては、所要の法制度の整備を図るべく目下検討を進めているところでございます。  水産業の振興と水産物の安定供給については、漁業経営の改善わが国周辺水域の漁業振興、海外漁場の確保、水産物の消費の拡大、流通加工の改善等の各般にわたる施策を法律の改正を含めて総合的に講ずるよう、格段の努力を傾けてまいる所存でございます。(拍手)    〔国務大臣梶木又三君登壇拍手
  22. 梶木又三

    国務大臣(梶木又三君) お答えいたします。  仰せのとおり、自然保護は大変重要なことでございますので、わが国のこの豊かな美しい自然、これを損なうことなく子孫に伝えていきたい、このように考えており、自然保護につきましては積極的に取り組んでいく所存でございます。  そこで、御指摘のナショナル・トラストに範をとりました市民参加による自然保護運動につきましては、自然保護の一層の充実を国民的な広がりにおきまして図っていく上できわめて意義の深いことだと考えております。私ども環境庁としましても、この運動をさらに普及、定着するよう支援してまいりたいと、かように考えまして、現在、具体的な方策につきまして専門家の方々に諮問をいたしまして、この結論が出ましたら、それに基づきまして具体的な施策に積極的に取り組んでいきたいと、かように考えております。  また、この運動の国民的な広がりを持つ一環といたしまして、ナショナル・トラストという言葉が、私自身も横文字は若干苦手でございますが、国民に余り親しみ得ない名前でございますから、去年何かこれにかわるべき国民の方々に親しんでいただける愛称を募集したわけでございますが、四千通を超える大量の応募がございまして、大変私ども心強く考えております。その中から国民の方々に親しんでいただき、愛していただけるような愛称を考えまして、その結果さらに積極的に取り組んでいきたいと、かように考えております。  以上でございます。(拍手)    〔国務大臣山中貞則君登壇拍手
  23. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) たしか、きのうの夕刊でございましたか、この深刻な構造不況に悩む基礎素材産業を特集した社がございまして、それで愛媛県の新居浜市で、たしか住友エチレンプラントのプラントを閉鎖するという記事が中心に出ておりました。いかにそれが深刻な労働問題あるいは関連する中小企業問題あるいは市勢というものに与える打撃が甚大であるか、そういうような記事が書いてございました。やはりこのような問題は各地に各業種にございます。  したがって、国家的に見て将来の日本の産業構成上つぶしてしまってはならない基礎素材産業については、国が力を少しおかししようということで、法律の期限切れを延長するとともに、その対象等を見直しまして、そしてすでに税制、財政、金融では手当てができておりまして、いま立法作業に入っておりますが、ちょうど成相さん指摘のように、いま独禁法と少しぶつかるところがありまして、要するに合併とかあるいは廃棄に伴う共同販売行為とか、いろんなことをやらせなければ生きていけませんから、しかしその前にはまた話し合いもしなければならぬ。そうするとカルテルの問題とぶつかる。あるいはまた共同行為その他を行って、結果、企業が集約等をいたしますと、そのシェアの問題で、法律事項ではありませんが、若干の解釈の違いができてくる。  そこで、いっそのこと独禁法の適用除外にしてしまえというのも、独禁法というものもまた一方尊重しなければならぬ法律でありますから、公正なる企業の公正なる活動を助長する、あるいは不公正なる行為をしたがって排除するということはとうとばなければなりませんので、あくまでも国家権力ということで押しまくるのではなくて、現行独禁法を尊重しながら立法作業を続けておりますが、山中六原則なんというものを示しましていま作業をやらせておりまして、ほぼ成案を得て、近く国会に出せるところまで来ました。  それから新聞等で御承知のように、大阪で中小企業サミットを行いましたところ、非常に各国の大臣がたくさん参りまして、中小企業問題がいかにやはり各国で産業の大転換というものの中でむつかしい問題になっているかということがしみじみとわかりました。しかし、中小企業があればいいところという程度の国もありますし、あるいは中小企業がほぼ定着しつつあるという国もありますし、その国などになりますと、たとえば日本のいま守らなければならない中小企業、そういうものを侵してくるような製品等もつくれるようになっております。たとえば手で押していくような手作業のものを織物としないで、これを手工芸品としてくれと、関税が半分になる。そういう国の要求を聞きますと、今度は国内のダイレクトにぶつかる産業というものが問題がある、そういうことを感じました。  それから、私たちの国と同じような国々でありますが、しかし中小企業に対して定義をきちんと定めている国は日本だけでございます。したがって、今回その定義の上にさらに特定不況地域に対する中小企業対策の法律も延長、改正するつもりでございます。その際も十分に配慮していきたいと思いますが、市町村長さんとかそういう人たち、あるいはその町に住んでいる、あるいは商店等を営んでいる人たちから見ると、この地域は不況だぞ、不況地域だぞというふうに法律に書いてあると、事実はそのとおりなんだけれども、法律から名前の「不況」というのは取ってくれないかというような話もあるのです。そこらは名前の問題ですが、考えながら、特定不況地域法、いわゆる城下町法というものを延長し、もう少し期限つきながらもめんどうを見てみたいと考えております。(拍手)    〔国務大臣安田隆明君登壇拍手
  24. 安田隆明

    国務大臣(安田隆明君) 今後の科学技術政策の展開につきまして、とにかく創造的な技術開発、それから国際協力、これに積極的に取り組みなさい、こういう御所見であり、御指摘でございました。  成相先生の御指摘のとおりでございまして、まず第一に、創造的な科学技術の開発につきましては、これまでのわが国の科学技術というものは、ほとんどがこれは欧米先進国から導入いたしまして、これにわれわれ日本人の知恵を加えまして、そうして今日の高い水準を確保し得たと、こういうことでございます。ところが、これからはどうか、こうなりまするというと、先ほど成相先生御指摘のとおりに、本当に欧米との技術水準の格差というものが縮小して接近をしてまいりました。同時にまた貿易摩擦、これによりまして、導入技術に頼る、こういうことは非常にむずかしくなってまいりました。こういう中でございますからして、どうしてもわれわれは自主、自分の手による創造的な科学技術というものを手に入れなければならない。  こういうことで、先般公表いたしました科学技術白書、この中でもこのことをとらえまして、そしてこういう政策選択に移行する、こういうことをわれわれは結論的に指摘したわけであります。このために、産業界あるいは学界あるいは政府のすぐれた研究者をたくさん集めまして、新しい研究システムによる創造科学技術推進制度、こういう制度を設けまして、いま積極的にこれを推進することといたしておるわけであります。  次に、国際協力の問題でございますが、これは最近、海外の首脳が訪日されまするというと、ほとんど筑波の方へ足を運んでおられます。これはわが国の科学技術の水準が世界に非常に高い評価を受けている、こういうことにつながるわけでありますが、われわれは世界全体の発展のために協力し、貢献する、こういう重い立場を今度持っておるわけであります。こういうような観点から、昨年六月のベルサイユ・サミットの合意に基づきまして、一昨日その部会作業が終わったわけでありますが、これに積極的に協力していく、こういう対応をわれわれは決めているわけであります。  それから最後になりますけれども、先般、日米両国の国会議員による科学技術議員会議日本で開催されました。なお、近く引き続き日仏の科学技術関係の議員サイドの会議日本でまた行われるわけであります。これは非常に意味のあることでございますので、われわれは今後ともこのような議員サイドの国際協力面にも力を入れていきたい、こういうことで御答弁を終わらせていただきます。そういう所存でございます。(拍手)     ─────────────
  25. 徳永正利

    ○議長(徳永正利君) 坂倉藤吾君。    〔坂倉藤吾君登壇拍手
  26. 坂倉藤吾

    ○坂倉藤吾君 私は、日本社会党を代表して、政府質問をいたします。  いま、世界は激動のときにあります。この激動のときこそ、外交も大切ではありますが、しっかりと内政を充実しなければなりません。民主主義を貫き、勤労国民の不安や不満をなくし、一日も早く政治の信頼を取り戻さなければなりません。激動する世界の波に揺さぶられ、押しさらわれることのない、しっかりした道を歩まなければならないときであります。  世界経済大国だと自負するわが国ではありますが、国内を見るとき、失業者は百四十万人にも達しようとし、今春、学校を巣立つ若者たちの就職も決まらず、苦悩にあえぐ姿があります。    〔議長退席、副議長着席〕 国民実質所得は低下しているのに、約束されていたはずの減税さえ棚上げされ、民間との比較によってなされた公務員給与引き上げ人事院勧告が無視され、恩給、年金、生活保護費まで削られようとしておるのであります。  税金の不公平感はますます満ちあふれておりますのに、企業や法人の優遇措置はそのままで、町には暴力団がはびこり、凶悪犯罪も続出をしております。暴走族など青少年非行もふえております。人間の寿命が延びまして本来喜ぶべきことでありますのに、社会の厄介者がふえた、そういうふうな目で見る風潮さえも生まれてきております。  政治倫理確立も、懲役五年の田中求刑に明らかなとおり、腐敗堕落に満ちた政官財の癒着をだれよりも正さなければならない立場にあります総理、あなたの率いる自由民主党がその浄化の道を閉ざし、立ちふさがっているではありませんか。このような現状ですから、政府の所信をただすべき多くの課題を持ってはおりますが、問題をしぼってお尋ねをいたします。  「衣食足りて礼節を知る」とのことわざを引くまでもなく、民生安定の大きな要素に食糧問題がございます。たとえ軍事大国経済大国といえども、安定した食糧の供給体制なくして、その国民を安んじることはできません。いわんや、世界が米ソ超大国に象徴され、核兵器を軸とする軍備増強の果てしない競争は、全世界をきわめて危険にさらしております。  そしていま、中曽根総理、あなたは、日米は「運命共同体」だなどと言って、アメリカの対ソ核戦略の一翼にくみし、全斗煥、レーガン訪問を経て、新たな軍事体制構築という亡国の路線をひた走ろうとしておりますが、これはわが国を初め全アジアをアメリカの核の傘下に入れるのと同時に、人の命の糧であります食糧すらもアメリカの傘のもとに入れというのでありましょうか。総理わが国土を、国民を、あなたの野望の巻き添えにしないでもらいたい、やめてもらいたいのであります。  総理、いまあなたの念頭には、衆参国会議員の総意に基づいた食糧自給力強化に関する決議は跡形もなく消え去っているのではありませんか。あなたは、わが国民の食糧を供給し続ける農漁業の現状を少しも御存じないのではないでしょうか。今日の情勢が厳しいなるがゆえに、食糧の自給体制強化こそ何にも増して優先すべき重要課題ではないのですか、基本的に総理にお尋ねをするところであります。  以下、具体的に質問いたしてまいります。  初めに、日米間を主とする農産物自由化問題です。  一昨年十二月の市場開放第一弾以来、今年一月十三日の第三弾措置にもかかわらず、当面のねらいがあくまでも牛肉、オレンジの自由化にあって一向に静まりません。しかも、将来わが国農業の柱でありますお米の自由化がねらわれているのであります。日米首脳会談では、牛肉、オレンジの全面自由化こそはポーズとしてお断りになったものの、あなたは輸入枠の拡大を約束されました。  そこで、第一にお聞きしたいのは、これは既成事実として全面自由化に至る密約がなされたのではないかと見られますけれども日米首脳会談内容と今後の方針総理から伺いたいのであります。  第二の問いは、昨年末に一時留保されておりますガット二十三条提訴の動きはどのように分析されておられましょうか。ガット提訴により国際舞台で取り上げられることは、むしろ日本の事情を広く積極的にアピールする機会ではないかとの意見も聞かれるのですが、総理並びに外務大臣の所見方針をお伺いいたします。  第三問は、今日の貿易摩擦の原因がもともと日本市場の閉鎖性にあるのではなく、自動車、家電に代表されるかつての集中豪雨的輸出政策にこそあるのであって、国際秩序を重んじ、相手国の事情を尊重する節度ある輸出入政策に早期に転換することこそ摩擦解消、保護貿易主義の芽を摘み取る基本であることは言うまでもありません。そこで、近々にも予定されております市場開放日米事務レベル交渉に臨まれる基本方針を外務大臣、農水大臣からお答えをいただきます。  次に、食糧自給率向上の問題であります。  八〇年代は世界的に食糧について不安定の時代を迎えると言われ、FAOでも世界先進国に対して食糧自給の向上を訴え続けているのであります。ところがわが国は、食糧自給政策を放棄し、穀物自給率は米を含めてわずかに三三%、過剰と言われておりました米さえも、発展途上国への援助米を停止せざるを得ないところまで来ているのであります。総理府の世論調査によっても、食糧自給率を高めよとする国民の声は七〇%にも及び、そのためにはある程度負担増もやむを得ないという人が五四%にも上っておるのであります。総理、あなたはこの国民の声をどう受けとめられておられますか。そうして、食糧自給力強化の国会決議をどのように具体化されるのか、この際明らかにすべきではありませんか。御答弁をください。  次に、農業基盤整備の問題であります。  高い生産性が期待される農業の体質づくりは国民的課題であります。昭和三十六年の農業基本法制定以来、土地改良などの長期事業を継続し、また、農地法、農振法など制度面からの支えも行われてまいりましたが、残念ながら農家の経営規模拡大にもあるいはその収益増にもつながっておりません。農産物の生産者価格が四年間も不当に据え置かれている中にあって、進捗率はわずかに四九%、また事業の工期は当初計画の三倍から四倍という土地改良事業の実態は、逆に生産農家への負担の強要であるとして、土地改良事業の返上運動すら起きているのであります。  そこで、五十八年度からスタートする第三次十カ年計画は全面的に見直すと同時に、土地改良などの基盤整備事業を社会資本投資として位置づけ、国庫の負担率を引き上げるべきだと考えますが、総理並びに農水大臣の所見を伺います。  次に、わが国の農地についてであります。  昭和三十五年に六百七万ヘクタールありました農地が、五十七年には五百四十三万ヘクタールに減ってしまいました。農政審議会の答申を受け、政府方針として発表されております六十五年長期見通しが求めております必要な農地の面積五百五十万ヘクタールを今日すでに割り込んでいるのであります。その上、今後さらに毎年四万ヘクタール規模の農地の消失が避けられない傾向を見るとき、農業生産の拡大と国民食糧の安定供給に必要な優良農地を維持確保するためには、しり抜けになっております現行法規制では間に合いません。より厳格な、新たな立法措置を講じるべきだと考えますが、総理並びに農水大臣の御所見をお伺いいたします。  次に、二百海里問題についてお尋ねをいたします。  昨年の春、ニューヨークで開かれた第三次国連海洋法会議の第十一回会期で海洋法条約が採択をされ、政府は近々同条約に署名する方針だと聞き及んでおります。今日では何らかの形で二百海里を設定している国が九十カ国余に上り、すでに二百海里時代は事実上のものとなっておりますが、海洋法が発効されれば名実ともに新しい海の国際秩序ができ上がることになります。  わが国もすでに漁業に関する暫定措置法によって二百海里水域を設けておりますが、あくまでも暫定であり、わが二百海里内で操業する韓国漁船など規制されず、わが国の漁民との紛争は拡大の傾向にあって、社会問題化しつつある実情であります。このような紛争解決のためにも、また、暫定法制定時に棚上げになっております領土、領海問題等を含めて、条約発効に合わせた法制度見直しと整備確立を急ぐべきでございますが、総理並びに外務大臣、農水大臣の基本姿勢を伺っておきます。  次に、漁業問題であります。  燃油の高騰以来、一層漁業経営の危機は深刻化し、遠洋カツオ・マグロ、沖合いイカ釣りなど、自主減船によって苦しみながらも業界の存立を保っておりますが、減船に応じる者は共補償のみでは十分ではなく、残って操業を続ける者もまた共補償の負担に耐えかねる実情で、一方、減船による漁獲量や魚価への好影響も余り期待できません。政府再建整備事業など助成を行ってはおりますが、ほとんどが融資助成でございまして、多額の負債を抱える業界に対し有効な対策とは言えません。  そこで第一の質問は、この際、自主減船に対しても、五十二年の二百海里減船を実施したときの先例にならって、政府交付金による構造改善を図るべきだと考えますが、農水大臣、いかがでございましょうか。  また、不幸にして倒産する経営体が続出をしておるのであります。漁業信用基金協会による代位弁済を見ましても、五十四年百四十三件、五十六年三百二十一件、五十七年は四百件、九十億円を超える状況で、まさに経営の苦境を物語っておるのであります。これらの中には、乗り組み船員の給料や退職金を未払いのまま倒産、あるいは支払い能力を失う者もおるのであります。こうした事態に即して、国による給料等一部立てかえ払い制度が賃確法によって設けられておりますが、法手続による認定申請を行ってから一年余も経過をしてなお立てかえ支払いが受けられないという例が、「長勝丸」「笹山丸」など三重県下にも生じておるのであります。これでは本制度の価値は全くありません。  そこで第二の質問は、漁船船員の動態、実態に即した認定手続、事務処理の迅速処理体制を確立すべきであると考えますが、農水大臣並びに所管の運輸大臣の答弁を求めます。  次に、過疎問題、林業問題であります。  最近における山村経済の急激な構造変化は、若者は都市に職場を求め、また働き場所もないまま都市に流れ、過疎化を促進して山村は崩壊の危機にさらされております。この原因は、山村経済の中核でありました農業、林業の衰退であり、国鉄赤字ローカル線の廃線の思想に見られる経済効率のみを重視し、工業のみに、大資本のみにウエートをかける自民党の政策の結果であります。農業で暮らせず、山に仕事なく、鉄道も病院もとられました住民というのは、何を頼りに生きていけというのでしょうか。  総理、弱い者いじめの自民党政治の一番のしわ寄せが、過疎に悩む山村の年老いた人々に迫っているのでございます。いま、山村に仕事をつくり、人々に生きる希望を与えるためには、地域林業を振興して生活できる環境をつくらなければなりません。それには森林の持つ多角的機能を生かし、国有林、民有林を通じた地域林業政策を確立することであります。積極的な林業労働力の創出と雇用確保を図ることであります。また、この政策を遂行するためには、過疎化に決定的拍車をかける、首つりの足を引っ張るかのごとき国鉄ローカル線廃止などもってのほかであります。総理並びに農水大臣、運輸大臣の所見を明らかにしていただきたいのであります。  次に、公害、環境保全問題に入ります。  第一の質問として、公害健康被害補償法は公害の加害者と被害者の関係を律するもので、その補償費は補助金などではありません。にもかかわらず、臨時行政調査会の補助金部会が介入をして、財界のかねてからの主張とねらいであった制度見直しを求めていることは実に許しがたい越権行為である、こういうふうに思いますが、いかがでしょうか。むしろ現状は、この法律の成立時、全会一致で付された附帯決議により、NOxによる健康被害を含め、実態に即し適合した指定地域の拡大をこそ図るべきものと思いますが、環境庁長官、あわせてお答えください。  第二は 地盤沈下対策であります。公害基本法に定める典型七公害中ただ一つ、防止のための法制度がありません。各省庁間の縄張り争いで立法が行き詰まっておる間に、特に大都市周辺地帯の地盤沈下が進んでおります。また、現在の地域別に行っている対応策では効果は期待できません。縄張り争いをやめ、法案を早期にまとめ、今国会に提出すべきと存じますが、環境庁長官、いかがでしょうか。  第三は湖沼法です。琵琶湖、霞ケ浦などは、このまま推移すると今世紀中にも魚介類が生息できず、死の湖となると言われております。それほど各湖沼とも汚濁が進み危機的状況にあります。ところが、一昨年中央公害審議会が答申した法案の提起は、通産省の反対に遭って国会提出が見送られました。これを遺憾として、本院公害交通安全対策特別委員会は同法案の早期国会提出を政府に求める特別決議を行ったのでありますが、総理政府としてどのように応じられようとされるのか、お答え願います。  中曽根総理、最後にお尋ねしますが、現在、森林の減少、砂漠化、土壌流出、酸性雨など地球的規模の環境破壊が深刻化しておりますが、そのような中で、戦争は最大の環境破壊であり、軍拡競争は資源の浪費だとの認識が急速に深まり、広がってきております。わが国でも、世界に先駆けて緑の地球防衛基金が設立され、一分間に百万ドルもの大金が費やされている世界軍事費を削って、緑の地球を守るのに充てるよう提唱されておりますが、御存じでしょうか。  総理、あなたの施政方針演説では、環境公害問題に関し「民主主義の再生と社会経済の活性化」の項の最末尾で「環境汚染の未然防止」と、まさに一言触れられたのみでありますし、教育問題につきましても「子供のしつけや教育に対する悩みがあり、青少年に対する教育が不十分」と問題を指摘したのみで、教育についての考え方も、現行制度に関しても、これまた一言も触れられておりません。まことに残念でなりません。軍備拡充には至って熱心だが、教育や環境問題は視野にないというのでは、一国の最高指導者としての資質ありやと疑わざるを得ません。  総理、あなたは、「時代の激変に対応して従来の基本的な制度や仕組みについてタブーを設けることなく見直す」との基本認識を述べられておるのであります。教育についても、国家が介入し、管理統制・反動教育への道を進もうとするのか、民主平和教育のより発展充実に力を注ぐのか、また、現行教育制度を維持するのか、あるいは改定しようとするのか、改定を考えているとすればどのように改めようとするのか、その構想を、またさらに公害環境行政も、志布志湾の事実上の埋め立てを認めたり、窒素酸化物の環境基準を緩和するなど、逆行、後退が目立っております。あなたはこうした逆風を肯定し促進するのか、あるいは公害防止、被害者救済、環境保全の原点に立ち返る姿勢をとられるのか、教育問題、環境問題にかかわる基本姿勢を明確に示されるよう求めまして、私の質問を終わります。(拍手)    〔国務大臣中曽根康弘登壇拍手
  27. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 坂倉議員の御質問にお答え申し上げます。  食糧問題は、わが国の政策といたしましても重大問題であると考えております。食糧は国民生活にとりましても最も基礎的な物資であり、その安定供給は安全保障の確保と同じように重要な問題であると考えます。このため、国内で生産可能なものは極力国内で生産するという方針で、生産性を高めながら総合的な食糧自給力の維持強化に努めてまいる所存でございます。  さき日米会談におきまして、牛肉、柑橘の問題につきましては米側から市場開放を強く期待する旨の意思表示がございましたが、私の方からは牛肉、柑橘の自由化が困難であるという事情を説明いたしまして、今後双方が冷静に専門家同士の話し合いにゆだねるということに決着した次第で、密約はございません。  また、米の自由化については、これまで米側からそのような要請がなされた事実はございません。  また、ガットの提訴の問題について、米側からガットでの協議を提起する可能性もある旨の意思表示がかつてございました。しかし、昨年末わが方も相当な働きかけをやりまして、米政府より何ら意思決定を行っていないという旨の連絡がありまして現在に至っております。  いずれにせよ、わが国としては、わが国農業の実情及びこれまでの市場開放措置等な相手側に十分説明いたしまして、双方に納得のいく解決を探求し、提訴のようなことは行わないように強く働きかけてまいるつもりであります。  食糧自給の強化の具体的対策でございますが、やはり国会決議の趣旨を踏まえ、施策の充実を図り、生産性の向上を基本とした総合的な食糧自給力の維持強化に努めてまいります。このために、需要の動向に応じた農業生産の再編成、中核農家の育成確保、農地の流動化による経営規模の拡大、農業基盤の計画的整備等各般の施策を充実してまいります。  農業基盤の充実につきましては、従来計画的に推進してきているところでございますが、第三次の土地改良長期計画の作成を現在進めておるところでございます。現行の国庫負担率は適正な水準に設定されておりまして、その引き上げを図ることは困難であります。  次に、優良農用地の確保の問題でございます。  食糧自給のためにはこれは非常に重要な政策と思います。このため、需要の動向に即応した農用地開発の推進、農地法や農業振興地域の整備に関する法律等による優良農用地の確保と無秩序な壊廃の抑制等を措置してまいります。  次に、海洋法関連の御質問がございましたが、国連海洋法条約の発効まではかなりの年月が必要と予想されますが、わが国としては、同条約に参加する際に備えて、国内法上の整備について今後条約の発効の時期を見きわめつつ検討してまいる所存でございます。  林業の問題につきましても御質問いただきましたが、地域林業を活性化し、林業を魅力あるものとしていく、そして林業の担い手の生活の場としての環境の整備等を図っていくことが肝要であると考えます。このため、林業生産基盤の整備を初め各般の施策を総合的に推進してまいります。  国鉄ローカル線対策は、国鉄再建対策の一環として進めているものでありますが、この再建対策のみならず、地域における新しい交通体系を整備する観点からもこれは重要でございます。この新しい交通体系の整備により、地域における交通の利便が損なわれることがないようにわれわれは対策を講じてまいりたいと思っております。  湖沼の水質保全を図るための立法措置につきましては、今後さらに政府部内の意見調整に努めてまいる考えであります。  現行教育制度につきましては、戦後のわが国の学校教育憲法及び教育基本法の理念に基づき、国家社会の形成者として心身ともに健全な国民の育成を目指して社会の発展に貢献してきたものと考えております。時代の変化に対応して教育改善を図ることは必要であり、常にその努力を重ねてきたところでありますが、学校制度改革については、それが児童や生徒、さらには社会全般に対する影響はきわめて大きいので、十分慎重に対処する必要がございます。  環境保全につきましては、地方公共団体、国、国民一体となって努力しておりまして、かなり成果は上がってきていると思います。なお、取り組むべき課題は多いので、今後とも国民の健康の保護、生活環境の保全という環境行政の原点に立って、公害の未然防止に十分意を用いつつ、長期的視野のもとに環境行政を強力に推進する所存であります。  私も、あなたと同じように、戦争反対、緑の地球賛成と、こういう立場を堅持しております。  残余の質問関係大臣から答弁していただきます。(拍手)    〔国務大臣安倍晋太郎君登壇拍手
  28. 安倍晋太郎

    国務大臣(安倍晋太郎君) わが国の農産物残存輸入制限につきまして、アメリカが、これはガット違反だということで二十三条協議を提起する、こういう構えを示しておるわけでありますが、またその考え方も表明しております。しかし、先ほど総理からの御答弁もございましたように、まだ現在までのところは提訴に踏み切っておらないわけであります。  御質問は、むしろそのガットの提訴を受けて堂々とそこで日本立場を主張したらいいじゃないかと。そういうことになればもちろん日本立場は主張すべきことは当然であると思いますが、われわれとしてはできるだけそうした事態は避けた方がいいのじゃないか、こういうことで今日まで努力をいたしておるわけでございまして、今後とも日米間でわが国の農業の実態等につきまして十分説明をいたしまして、現実的なやはり可能な解決ができるように努力をしなければならぬと、こういうふうに考えておるわけでございます。  なお、柑橘とかあるいは牛肉の事務レベルの協議をいつ開くのかという話でございますが、総理が今度訪米をいたしました首脳会談で、日本が自由化を行うわけにはいかない、同時にまた、この日米間の柑橘あるいは牛肉問題については少し冷静になって話し合おうじゃないか、専門家同士で話し合おうじゃないかということを提案をされたわけでございますが、まだ合意には達していないわけでございまして、現在日米間で、どういう形でこうした専門家同士の話し合いをするかといったことについて調整をいたしておる段階でございます。  それから日韓関係のいわゆる漁業の問題でございます。  北海道の沖合いで韓国船の操業問題等についていろいろと問題が出ておるということでございます。この点については、私も日韓の首脳会談に随行いたしました際に、韓国の外務大臣に対しまして、韓国の漁船の違反操業等についての自粛を強く要請した経緯があるわけでございますが、今後とも日本、韓国政府間でも話し合いをいたしまして何とか円満な解決をしていきたいと、こういうふうに考えておるわけでございます。  また、国連の海洋法条約でございますが、これは、これから調印をして、それから批准ということを経て発効するわけでありますから、まだ相当時間がかかるわけでございますので、それまでの間に、条約の発効の時期等を見きわめながら、国内法の整備については今後とも努力をしてまいりたいと、こういうふうに考えております。(拍手)    〔国務大臣金子岩三君登壇拍手
  29. 金子岩三

    国務大臣(金子岩三君) お答えいたします。  農産物の市場開放については、総理から詳細に、また外務大臣からも重ねてお答えがありましたので省略いたします。  土地改良長期計画について申し上げます。  土地改良長期計画については、農業基盤整備や食糧自給力の維持強化、農業の生産性の向上と農業構造の改善を図るために重要な社会資本投資であり、現在、昭和五十八年度を初年度として計画期間を十カ年、第三次土地改良長期計画が策定されております。現行の国庫負担率については、農家の受益の程度及び負担能力を考慮して適正な水準に設定されておりますので、ただいまのところ引き上げるのは困難ではないかと思います。  優良農地の確保についてであります。  第三次土地改良長期計画の策定によります農用地の造成を推進いたしまして、農業振興地域の整備に関する法律等をもって優良農用地の計画的確保を図りたいと思います。農地法による無秩序な壊廃の抑制、農用地利用増進事業による低位利用地の農業上の有効利用の促進等の措置を総合的に講じることによって対処いたしたいと存じます。  海洋法条約については、六十カ国以上の国による批准書等の寄託が行われた後、一年後に発効することになっております。この発効までにはかなりの年月が必要と予想されます。農林水産省としては、漁業に関する法制度についての基本的枠組みを変更する必要はないと考えていますけれども、海洋法条約が発効する際に備え、なお今後慎重な検討を進めてまいりたいと思います。  なお、当面の問題として、わが国周辺水域における外国漁船とのトラブルについては、関係国との緊密な話し合いを通じてその回避に努力を続けてまいっております。今後とも関係国と十分な話し合いを行い、わが国周辺水域における操業秩序の確保に努めてまいりたいと思います。  業界における自主的計画減船に対しては、その円滑化を図るため、共補償融資のほか、減船に参加する漁業者の負担の軽減等のための助成措置、さらには負債の整理のための長期低利資金の融資などの施策を総合的に講じております。これにより構造改善の実が上がってまいっております。  給料等立てかえ払い制度については、漁船員への未払い給料等の立てかえ払いができるだけ早期に行われることが望ましいと考えておりますので、関係機関とただいま事務処理を進めておるところであります。  地域林業振興につきましては、そのための具体的な施策としては、林業生産基盤の整備、林業構造の改善、山村の生活環境、定住条件の整備、林業労働者の就業条件の改善等々な鋭意推進してまいる考えであります。  また、計画的な森林の整備の推進、分収造林制度の拡充等につきましては、所要の法制度の整備を図るべくただいま検討中でございます。  国鉄ローカル線の廃止については、従来と同様、今後とも地域の実情や関係地方公共団体意見を踏まえ、農林水産物の輸送や地域農林水産業の振興に重大な支障を来さないように、関係方面と十分に話し合いを進めたいと思います。(拍手)    〔国務大臣長谷川峻君登壇拍手
  30. 長谷川峻

    国務大臣(長谷川峻君) 私への質問は、漁船員の給料の立てかえ払いについてでございますが、これは御案内のように、経営者が夜逃げをしたり破産したりすると働く諸君が困るから、五十一年度から立てかえ払い制度というものをやっておりますが、非常に困ることは、経営者が、書類がほとんど整備されていない。夜逃げをするから、中には焼いてしまう。大体どれくらいの給料を払っているか、どういうことになっているか、その認定に非常に時間がかかるということでございます。せっかくのことでございますから、関係機関を動員してその手続を早めておりますが、そうしたことでいままで救済されたものはたくさんありますが、ただいま農林水産大臣の話のように、私の方も、おっしゃる二つの会社の問題等々については詳しく調べて推進をしております。  なお、ローカル線については、総理と農林水産大臣から話がありましたが、伊勢参拝に行った一日四日に、地元においても総理に御質問がありました。地方において利用者が不便を来さないようにすると同時に、過疎化にならないように、いまは鉄道の特性がほとんどなくなったところには新しい交通体系というものが必要じゃなかろうかということで、地元でそれぞれ御協議を願っているところであります。(拍手)    〔国務大臣梶木又三君登壇拍手
  31. 梶木又三

    国務大臣(梶木又三君) 御質問は、公害健康被害補償の問題と地盤沈下でございますが、まず第一番の公害健康被害補償、これの協会への交付金、これは補助金等ということで整理されておるわけでございますが、この制度は 民事責任を踏まえた損害補償制度でございますから、原因者である自動車、これの負担分としまして自動車重量税、この税収の一部を引き当てておるわけでございます。この意味で、同交付金は一般の財政援助的な補助金等とは異なる性格を持っておるわけでございます。ただ、臨調の第三部会の報告でこの交付金を取り扱うことにしましたのは、これは臨調の判断によるわけでございますから、私としましてはコメントする立場にございませんので、御理解いただきたいと思います。  それからまた、窒素酸化物等を地域指定要件においてどう評価するか、あるいは解除要件をどのように明確化するか、こういう問題は、公害健康被害補償制度をめぐる諸問題につきまして、あくまでも十分な科学的知見と実情の正確な把握の上に立ちまして、冷静に議論を進めて合理的な結論を出すことが肝要でございますから、いま必要な調査研究を進めまして科学的知見の収集に努めておるところでございます。  二番目の地盤沈下でございますが、総合法制につきまして、四十九年十一月、中央公害対策審議会の答申を受けましてから、実現を図るべく関係各省と調整を進めてまいりましたが、まだ成案は得ておりません。環境庁としましては、今後とも総合法制につきまして引き続き検討してまいりたい、かように考えております。  ただ、坂倉議員の地元でございます濃尾平野、こういう広域的に地盤沈下を生じている地域につきましては緊急に対策を講じる必要がございますので、五十六年十一月、関係閣僚会議決定に基づきまして、地盤沈下防止等対策要綱を策定することといたしました。これによって現在は諸般の施策を推進すべく努力しておるところでございます。  以上でございます。(拍手)     ─────────────
  32. 秋山長造

    ○副議長(秋山長造君) 高木健太郎君。    〔高木健太郎君登壇拍手
  33. 高木健太郎

    ○高木健太郎君 私は、公明党・国民会議を代表し、かつ国民会議立場から、総理並びに関係大臣に対し、私の主張を述べるとともに、若干の質問をいたしたいと存じます。  さて、総理は、組閣直後から、予算、臨時国会、韓国訪問、訪米等、ハードスケジュールをこなされました。訪米スケジュールは、時差による生体作用を無視した乱暴なスケジュールであり、論議を呼んだ「不沈空母」その他の発言は不適切な表現であったと反省しておられます。  日本総理という一国の最高責任者の発言は、綸言汗のごとくでありまして、言い直しのきかないことも間々あります。そうして、わが国民と世界に重大な影響を与えるものであります。仕事への意欲は十分評価いたしますが、気負い過ぎは、時に国民の誤解を招き、社会を混乱させる危険性があると思いますので、今後は自重し、冷静に行動されることを強くまずもって要望いたします。  最初に、まず外交、防衛問題について簡単にお尋ねいたします。  これまで政府は、防衛費は毎年GNP一%以内として進めてこられました。GNPという経済的指標以外にも、その国の文化資産、人口、面積、地理的条件など幾多の指標が考えられると思いますが、なぜこれまでの政府GNP一%以内を基準としたか、その根拠について総理のお考えを伺いたい。  また、言われるごとく、現在、平和が東西の戦力の均衡の上に成立していることは事実でしょうけれども均衡による抑止論は互いに果てしない軍備の増強を招くことになり、ますます国際的な緊張を高め、かえって危機を起こすのではないでしょうか。最近のレーガンの軍拡政策に反対するアメリカの世論の上昇も、西欧諸国の対ソ経済交流への歩み寄りも、この危機回避の構想に出たものと考えますが、御所見はいかがですか。  総理外交、防衛構想は、この世界の潮流に逆行し、緊張激化の方向に進んでいると思いますが、ソ連を強く意識した防衛拡張の中で、今後の対ソ平和外交調整はかえって進めにくくなったと思いますが、今後どのように進められるおつもりか、総理並びに外務大臣の構想をお聞きしたいと存じます。  次に、教育と愛国心についてお尋ねいたします。  総理は、「自分の国は自分で守る」と言われております。総理施政方針演説の中で、「過激な国家主義が国民を戦争に追いやったという暗い思い出から、われわれは、ともすれば国そのものを意識の外に置こうとしているのではないでしょうか」と言っておられます。これは国民に対する国家意識の復元への呼びかけでありましょう。  現在、国民は国に対してどういう考えを持っているのかを示す一例として、本年一月四日の毎日新聞のアンケート調査結果を見ますと、「国を愛する気持ちとは何か」との問いに対し、「社会の秩序を守る」「自然や文化を守る」「国際平和と友好につくす」という回答を合わせて約九〇%を占め、「国のために戦う」と答えた者は三%にしかすぎません。また、「国のために戦う気力を養う教育を積極的に行う必要があるか」との問いには、平均六九%の者が「ない」と答えています。それは国民の反戦、平和の考えと新しい愛国の思想を如実に示していると思います。  社会の秩序、自然や文化を守り、国際平和と友好に尽くすということを国を愛する心であるとする国民意思を、国家主義の復元を訴えられる総理の所信から見てどのように受けとめられますか、お聞かせ願いたい。  私は、愛するということは、元来、自然に発生する感性であり、直接教え、覚え込ませたり、たたき込むというものではなく、数量的に計測できるものではないと考えます。愛情とは、自己を愛すると同じように他人を愛することができるような豊かな感性であり、対象が愛されるに足る属性を備えているときに初めて真の愛情が芽生えると考えますが、総理はどのようにお考えですか。  翻って、現在の教育を見るときに、過熱した入試のための勉強のみに追われ、就職切符入手のみが目的のように見えます。このような教育からは豊かな感性は生まれないと思います。また、戦前の国家主義的教育の中からも生まれないと考えますが、総理はいかがお考えですか、お伺いしたいと存じます。  教育は、本来国家のためや企業の生産性向上のためにだけあるのではなく、自分で判断する英知、自分でつかんだものに対する感動と歓喜と満足感に浸れるような人間をつくることにあり、それをなし得る節度ある自由と権利と秩序が保障された温かい社会環境こそ愛すべき場の属性でありまして、愛され得る価値がありましょう。真の愛国心は愛情に裏打ちされたしつけ、あるいはむちからは生まれましても、強制された教育からは真の勇気や愛は生まれないことを強調しておきたいと思いますが、総理並びに文部大臣の御所見を伺いたいと思います。  次に、教育政治倫理についてお伺いいたします。  戦後、平和国家、文化国家の建設と言われながら、目前の国民の窮乏に追われて歴代自民党政権は経済最優先の政策をとり続け、一応その目的を達しました。しかしながら、精神的支柱を欠如した金権的腐敗の政治国民の道義的な判断水準の低下を招き、入試不正等に見られるように、教育の現場を汚染し、青少年の非行、暴力と無気力等の風潮を来し、教育は金を得るための手段と化した観があります。その結果は、国民をして金だけが頼りという人間不在の虚栄に陥らせ、多くの人々、特に老人に対する思いやりと尊敬の念を失わせ、孤独感と不安感を抱かせるに至ったと考えます。  総理は、家庭教育の不十分さを挙げておられますが、家庭ぐるみで出世主義、拝金主義に陥らざるを得なくしている政治教育指導が間違っていたからではなかったのですか。「上直ければ下安し」という清潔な政治を置き忘れてきたからではないでしょうか。政治倫理教育にどのように影響しているとお考えか、総理の御所見を承りたいと思います。  次に、教育経済についてお伺いいたします。  過日総理は、ワシントン・ポスト紙首脳との朝食会で、「戦後三十七年間の日本経済的拡張が日本世界からの孤立化の危険の原因であり、それは政治的に制約することによって解決する」と話されました。相手の首脳は、「いまの発言は大変な驚きだ」と言っていますが、何が彼らをして大変驚かせたとお考えですか、総理の所感を承りたい。  私は、外国における日本人疎外の原因は、経済的な拡張そのものにあるのではなく、また日本人の勤勉さのためでもなく、トケイヤー氏も指摘するように、それは一部日本人のアニマル的無節操さが目に余るからであると思います。この無節操さは戦後一貫した経済優先の教育の結果であり、歪曲されてしまった人間性の問題であります。これを総理は「政治的に制約」すると言われていますが、歪曲されてしまった人間の心を一方的に上からの制約によって統御できるとお考えですか、総理の御所見を承りたい。  制約という政治的手段よりも、現在の経済優先の教育から人間形成という教育の本来の姿に立ち戻らせ、たくましい文化よりも、広く世界から愛され、尊敬される文化の建設にこそ努力すべきではないかと思いますが、総理並びに文部大臣の御所見を承りたい。  次に、科学技術についてお尋ねいたします。  人間一人が生涯に消費するエネルギーの総量は文明の高さと寿命に比例いたします。科学技術の加速度的膨大化、人口増加、寿命の延長は、地球のエネルギーの有限性を射程内に入れ、人類の生存を脅かす危険が夢ではないことを思わせます。総理は、「守るべき国益は断固として守る」と言われますが、一国の利益を守ることは当然としても、断固として守るという時期ではなくて、人類の生存についてグローバルな立場から国際的協力を優先的に真剣に考慮すべきときであると考えます。総理はいかがお考えですか。  欧米においては、最近、熱力学的に文明の将来を考え論議がレフキン等を中心として起こっており、日本における武見氏らの生存の科学研究グループの発足もこの線に沿ったものでありましょう。科学技術のこれまでのような盲目的な推進は、気がついたときには手のつかぬほど地球の終局へと向かわせることとなりましょう。人類が地上に長く繁栄して存在するための第三の道の創造は、いまからでも早過ぎることはありません。特に、資源の少ない日本においては真っ先に準備し、考えておくべき問題であると考えますが、総理はいかがお考えですか。  これまでのほとんどすべての科学技術の原理は西洋において開発され、日本はそれを改良進歩させてきましたが、それはいわば追従開発させたにすぎません。個性の発展を阻止する画一的、品質管理的教育は、これまでの工業生産には最もよく適合した教育であり、経済的繁栄の大きな力となってきたことは事実であります。しかし、今後は個性を尊重する教育を振興し、日本人みずからが第三の道を開発することは、世界の感謝を受け、人類永遠の繁栄の道を開くものだと信じます。この意味において、現在の知識偏重、画一化の教育を改め、創造的、個性的な教育改革することが緊急の課題であると思います。総理並びに文部大臣の所見をお伺いします。  わが国における科学技術研究費は八一年には約六兆円であり、それは世界第三位でありますが、そのうち民間の支出が約七〇%で、これは技術導入及びいわゆる開発研究に充てられております。創造的開発に必要である基礎研究にはわずかに三〇%が振り向けられているにすぎません。創造的研究には長い年月と忍耐と勇気が必要であり、しかも多大の費用を要します。「ローマは一日にしては成らず」と言います。たとえ困難な道であっても、教育制度の抜本的な改革とともに、基礎研究分野の研究費の大幅な増加と人員の投入が不可欠であると考えますが、科学技術庁長官及び文部大臣の御所感を伺いたいと思います。  最後に、医学、医療についてお伺いいたします。  最近の科学技術の急速な発展に伴い、医療とは何かを静かに顧みるいとまもなく、その本質を逸脱するような勢いで医学並びに医療技術は急速に変貌しつつあります。輸血、角膜移植は、多大の恩恵を病める人々に与えてきたことは何人もこれを否定することはできません。しかし、心臓や腎臓移植を初め、現在研究中の種々の臓器移植には多くの問題が含まれております。たとえば、臓器移植に用いられる臓器はでき得る限り新鮮であることが望ましいのであります。アメリカにおいては、この条件を満たすために、大部分の州において脳死の状態において臓器の摘出が認められておりますが、日本においては、患者の側からの強い要望があるにもかかわらず、いまだ脳死は認められておりません。政府はこれに対して今後どのように対処されるおつもりか、厚生大臣の御所感を承りたいと思います。  最近は、御高承のごとく、遺伝子操作、体外受精が実現可能となり、その倫理性が問題となっております。また、優生保護法における経済条項削除の問題がにわかに論議を呼んでおります。もしも、一部の主張のように、卵が受精したならば直ちにこれを胎児と認め、いかに早期であってもこれの中絶を不可とする論が正しいとするならば、デリケートな体外での受精卵の取り扱い中の胎児への損傷は医療過誤としなくてはならぬでしょう。  このほかにも植物人間の取り扱い、種々の延命装置の利用の限界、安楽死の是非など、生物科学、医療技術の進歩に伴い、問題が山積し、その解決が待たれております。これらの問題には、医学ばかりでなく、宗教、哲学、経済、法学、風俗など複雑に絡み、広範囲の学問分野にわたっており、単に一学問分野における検討や、また一省庁において解決できるという問題ではありません。  以上のように、生死の境界、生命の尊厳を取り巻く問題は、医学の進歩とともに深く広く変化してきております。したがって、生死に関する部分的な法改正はこれを急ぐことなく、現時点においては生死全般にわたって広い分野の頭脳を結集して慎重に論議を進めるべきだと思います。厚生大臣の御所見をお伺いしたいと思います。  以上、教育は国のもとであります。教育、研究の振興、改革に一層の努力をお願いして、私の質問を終わりたいと存じます。(拍手)    〔国務大臣中曽根康弘登壇拍手
  34. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 高木議員の御質問にお答え申し上げます。  防衛費GNP一%という枠はどういう事情でできたかという御質問でございましたが、昭和五十一年十一月のこの閣議決定は、当時いわゆる基盤防衛力という発想が出てきたように記憶しております。この基盤防衛力という概念をつくるについて、その一応の目標、当面のめどという意味で一%というものが設定されたのではないかと私の記憶の中にはあります。各年度の防衛力整備を国民の理解を得ながら着実に進めていくための当面のめどとして、経済事情やあるいは防衛力整備の必要上そういういろいろな面を照らした上で妥当なめどと考えたと、こういうふうに私考えております。  東西関係の問題について御質問がありましたが、この東西関係というのは、一面において常に抑止、均衡ということと、それから対話と話し合い、こういう関係で推移してきておりまして、そのときどきの状況によってあるサイクルを描きながら動いてきているように思うのであります。ポーランド問題やアフガニスタン問題のときにはかなり緊迫もいたしました。現在はどういう状態であるかと考えますと、アンドロポフ政権がソ連にできまして政策形成期に来ておりますから見守っておる、こういう状態です。  しかし、いままで現存したポーランドやあるいは世界各地における緊張状態というものは解消したものではない、ソ連側の情勢というものは、新しい政権が出てきてもそれを変えるような徴候はまだ出てきていると断定するところまではいっていない、こういう状況で相手の出方を見ているというのが現在の情勢ではないかと私は判断をしております。  したがって、日本といたしましては従来の方針どおり、わが領土問題を解決、そして平和条約へ向かう、しかし一方においてやはり対話の道は開いて粘り強くやっていく、そして世界情勢を見守りつつわが外交を適切に運営していく。その基本日米あるいは自由世界との連帯結束というものを基調にしてやるべきである、こういうふうに考えております。  次に、国家主義というお話がございました。  私は、施政方針で国家意識の復元の呼びかけを行いました。これは国家主義という復元ではないのであります。国に対する意識というものをもう一回見直してみたらどうか、国が余りにも遠くへ遠ざかっていき過ぎないか、そういう呼びかけをしたわけであります。ですから、個人の生きがいが国をつくり、国の運命の選択がまた個人を変えていく、個人の運命に影響していく、こういう意味のことを申し上げて、やはり個人の生きがい、これがまず第一で、それが国をつくる、それが民主主義であり主権在民の国家である、そういう概念で申し上げておるということを御理解願いたいと思うのであります。  次に、愛国心について御質問がございましたが、私は、愛国心というものは、おっしゃるように強制されてできるものではないとかたく信じております。それは国民として生まれ育った国土、歴史、伝統、文化、社会について理解と愛情を持って、そしてその自分が生まれ育ったところの発展をこいねがう心情ではないかと思います。そういう共同社会の中に生まれ育ってくれば、その人間関係とかあるいは自然環境というものに対して愛着を持ち、そしてその恩沢、恵沢を自分の子孫にもさらに発展させて与えていきたいし、世界にもそれを示していって世界の人に参考にしてもらいたい、そういう心情が生まれる、これが愛国心というものじゃないか、そう私は思っております。  したがって、われわれはこの美しい国土に育ち、そして長い長い優秀な文化と伝統を持っておる国でございますから、愛国心が豊かに育つ環境は十分ある国なのであります。そういう面からいたしまして、ここで政治家やわれわれがともにもう一回文化とか伝統とか、国あるいは個人というものを考え直してみて、おのおのを正当な場所に位置づけてみる必要がある、そういうふうに思いまして、施政方針演説で申し上げた次第なのでございます。  次に、政治倫理教育の問題にお触れになりました。  現代の社会風潮の一部に出世主義とか拝金主義的、物質主義的傾向があるのはまことに残念でございまして、政治に携わる者としては、その地位と使命の重要性にかんがみ、まず率先してこのような風潮を排撃して、誠実かつ清潔な行動をとって国民の模範とならなければならないと考えております。  それからワシントン・ポストの朝飯会での私の発言したことについてお触れになりましたが、戦後の日本経済的膨張が、単に相手国の経済的反発のみならず政治的壁にぶつかっている、このまま行けば日本は孤立する危険がある、そう思うと、そういうことを言ったのでありまして、相手が驚きだと言ったのは、日本人は利己的なエコノミックアニマルだと思っていたら、こういうことを言う人もいるのかというので驚きだと、こういうわけなのであります。  次に、私は、無節操さと人間性の問題を政治的に制約すると言ったのではありません。このまま行けば政治的限界に達して日本が孤立するおそれがある、したがって勇気を持って日本が国際社会の調和ある一員となるようにリーダーシップをとりたい、そういうことを言ったのであります。  また、教育に関して言えば、教育は心の問題でございますから、政治で簡単に右左へ向けさせられるようなものではありません。やはりわが国憲法並びに教育基本法というものが厳然としてございまして、この理念に基づいて子供たちを心身ともに健全な国民に育成していくべきものでありまして、これは時間をかけ、丹念に行うべきものであると考えております。  次に、科学技術の問題について御質問がございました。  私は、世界に開かれた日本という意識に基づきましても、わが国の科学技術は相当の水準にいま達しておるわけでございますから、この分野におきましても世界的に協力すべき立場にあると思っております。人類社会の発展進歩というものは科学技術によるところが多いわけであります。もちろん文化科学の発展も非常に大きな導因をなしておりますけれども、科学技術の力というものもかなり大きく現実的な福祉の増進に役立ってきているということも事実であります。  わが国としては、昨年六月のベルサイユ・サミットで設置されました科学技術作業部会における科学技術の国際研究協力の検討に対してもかなり積極的な協力をやっております。また、IEA等の場におきましてもエネルギー分野の国際協力を推進しておりますが、今後ともわれわれは、先進国並びに発展途上国ともども相応な国際協力を行いまして世界に貢献していきたいと念願しておるところでございます。  あとは各大臣に答弁していただきます。(拍手)    〔国務大臣安倍晋太郎君登壇拍手
  35. 安倍晋太郎

    国務大臣(安倍晋太郎君) わが国の対ソ政策につきましては、先ほど総理からお答えがございまして私からつけ加える必要もないわけでありますが、何といいましても、われわれ国民の悲願であるところの北方領土の回復、この問題を何としても貫き通さなければならぬと思います。そうして平和条約を結ぶというのが何としても対ソ政策の基本中の基本であるわけでございます。  ただ、現在の日ソ関係は、先ほどからお話しのように非常に厳しいわけでございます。これはもう北方領土におけるところのソ連のやはり軍事力の強化であるとか、あるいはアフガニスタンへの軍事介入であるとか、さらにポーランド情勢など、ソ連側の行動に基づく理由によりまして非常に困難な局面にあることは事実でございます。  また最近は、御承知のようにグロムイコ外相が西ドイツにおきましてSS20をウラル以東に配置する可能性があることを発言いたしまして、非常に日本とソ連との間にも困難な局面が存在をいたしておりまして、外務省としてもソ連大使を招致いたしまして厳重な抗議をいたしたわけでございます。われわれ政府としましては、しかし何としてもソ連は隣国でもございますし、いたずらにただ対決というものを求めるということではなくて、やはり話し合いでもって解決をしていかなければならぬ、きちっと言うべきことは言わなければならぬが、話し合いでもって問題を解決するということが必要であると思います。  ちょうど日ソの定期外相会議というのがあるわけですが、今度はソ連の外務大臣が日本にやってくる番でございますから、ぜひグロムイコ外相に日本に来ていただいて、日ソ間の懸案問題について話し合いをして、解決に向かって粘り強くひとつ努力をしていく決意でございます。  なお、対ソ経済の問題につきましては、去年は西側陣営の足並みが乱れていろいろと困難な事態も起こったわけでございますが、しかし、やはり対ソ経済を進めていく上においては、西側の陣営が結束してこれに対していくということが必要ではないかと思うわけでございます。最近におきまして、ようやくこの話し合いが結実をいたしまして、西側陣営の足並みがそろったということは大変われわれ喜んでおる次第でございまして、この結束を強化しながら東西経済問題を解決してまいりたい、こういうふうに考えておるわけであります。(拍手)    〔国務大臣瀬戸山三男君登壇拍手
  36. 瀬戸山三男

    国務大臣(瀬戸山三男君) 私に対する質問が数項目ありますが、大体、大局的には総理からお答えになりました。私の方はそれを補足する意味でお答えいたしますが、その前に、まさにその道の大家であられる高木さんからいろいろ教育問題について御指摘をいただき、また御意見をいただきましたことを厚くお礼を申し上げます。今後ともよろしくお願いいたします。  まず第一は、愛国心をどう考えるかということであります。  愛国心については、率直に申し上げて、いろいろ言われ、わかったようなわからないような観念がありますが、私はこういうふうに考えております。愛国心は、突き詰めれば、みずからを愛することだと思っております。でありますから、自己愛と言いましょうか。しかし、自己だけでは、自己一人では人間は生きられませんから、やはり血縁、地縁、それから歴史、伝統、文化、社会、こういうものが一体となって初めて豊かな生命が保たれる、間違いないと思います。それらを包括した愛情、そういうものを包括した愛情が真の愛国心と呼ばれるものだと私は思っております。このような愛国心から平和的な国家及び社会が形成される、こう思いますので、学校教育等においてもこの点に留意して推進しておるということでございます。  それから政治倫理の問題でございますが、これと教育の関係、これも総理からお答えになりました。  私は、民主主義政治に対する国民の信頼が不可欠の前提であると考えております。学校教育におきましても社会科などを通じてそのことを指導しているわけでございますが、政治国民生活全般にかかわるものでありますから、教育の面からも、政治家及び政治家集団は特に倫理を重んずることが必要だと、かように考えております。  それから戦後教育について御指摘がございました。  私は、戦後の反動として、経済優先、知識偏重は一般的傾向であったと思います。教育の面でも知識偏重の嫌いがあったと思います。そこに極端な個人主義が進んできたのでありますが、決して心豊かな平和社会とは言えない。科学技術等の知識の進歩はますます必要でありますが、加えて人間社会の円満な形成のための徳育、それから体育が重視されなければならないと考えております。このような観点に立って種々の施策を講じているところでありますが、今後とも一層努力を重ねたいと、かように思います。  それから、基礎的な学術研究の推進は、人文科学、社会科学及び自然科学のあらゆる分野にわたってこれを発展することを通じて、科学技術はもとより、人類社会全体の発展の基盤を形成するきわめて重要な課題であると考えております。今後とも独創的、先駆的な学術研究の一層の推進に努めてまいりたいと思います。このことは、単にわが国国民の利益になるという観点からばかりでなく、世界人類を裨益する観点から進める必要があると考えております。そういう観点から、現下の厳しい財政事情でありますが、長期的、総合的観点に立って研究組織の充実等、大学を中心とする学術研究条件の一層の整備に努力したいと考えております。  なお、教育改革についてでありますが、現在、中央教育審議会に対して「時代の変化に対応する初等中等教育教育内容等のあり方について」諮問しておりまして、二十一世紀に生きる個性と創造性豊かな青少年の教育のあり方について長期的な展望に立って御審議をお願いしております。私としましては、今後のこの審議会の審議の動向などを勘案しながら学校教育の一層の改善に努めたいと、かように考えております。  以上でございます。(拍手)    〔国務大臣安田隆明君登壇拍手
  37. 安田隆明

    国務大臣(安田隆明君) 科学技術政策の展開につきまして、どうしてもその前提となる大事な問題がある、それは基礎的研究分野の充実、これを軽視してはいけない、充実しなさいと、こういう御所見でございました。まさにそのとおりでございます。本当に御指摘のとおりでございます。  そして、高木先生おっしゃいましたとおりに、国土が小さい、資源がないよと、こうおっしゃいました。これもそのとおりでございまして、高木先生御指摘のようなこういう国力、この民族が将来の発展をいかにするか、これを確かなものにする、こうなれば、どうしてもわれわれはすばらしいやはり科学技術というものを手に入れなければならない。そして、総理がおっしゃいましたように、国力にふさわしい積極的な国際的な貢献も果たしていかなければならない。こういうことに私たちは考えをいたしまして、創意と活力に富む国民の英知を最大限に動員する、これを発揮する、そういう受け皿をわれわれはつくることが最も大事であろう。こういうことで創造性豊かな科学技術、これをみずからの手の中に生み育てる、こういう政策の選択をいたしたわけであります。このことも白書に申しておるわけであります。  そこで、創造的な科学技術の推進を図るためには基礎的な分野の研究開発を充実する必要があり、これはいまほどお話しがございましたけれども財源が非常に厳しい、そういう厳しい中でございますけれども、新技術開発事業団、これが設置されまして、ここで創造科学技術推進制度というものをつくりまして、そして国内の一切の頭脳をここに集中して新たな分野にいま挑戦をしているわけであります。この基礎的分野に対する挑戦をしているわけであります。  いろいろ申し上げたいことがございますけれども、今後一層この分野に力をいたしていきたいと、こう思っております。(拍手)    〔国務大臣林義郎君登壇拍手
  38. 林義郎

    国務大臣(林義郎君) 近年の科学技術の急速な進展に伴いまして、医療及び人の生命に関しましていろいろな問題が起こっていることは御指摘のとおりでございます。  まず最初に、御指摘のありました脳死の問題でございますが、わが国でも臓器移植をめぐりまして、脳死の段階で死と判断をすべきであるという提唱が日本脳波学会を中心として行われておりますことは、先生御指摘のとおりであります。しかし、死の判定というのは、単に医学上の問題にとどまらず、国民一般の死に対する価値観と深く結びついているものでありますから、関係学会のみならず、幅広い面においての国民のコンセンサスが必要であろう、こういうふうに考えております。  さらに、臓器移植に限らず、遺伝子の操作であるとか、人工妊娠中絶、体外受精、安楽死など御指摘のとおりのいろいろな問題がございますが、これは医学ばかりでなくて、宗教、倫理、哲学、法学など広範囲の学問的な領域と非常に深いかかわりを持っているものだと考えております。こういった問題を学問上の、特に医学上の論議を十分に尽くしていかなければならないことは事実でありますが、これから国民的合意をどういうふうな形で得ていくかというのも問題だと思います。  高木先生は学識深い医学の大家でもあるというふうに伺っておりますし、先生の御提案の趣旨も十分に踏まえて検討してまいりたい、こういうふうに考えております。(拍手)     ─────────────
  39. 秋山長造

    ○副議長(秋山長造君) 美濃部亮吉君。    〔美濃部亮吉君登壇拍手
  40. 美濃部亮吉

    ○美濃部亮吉君 私は、無党派クラブを代表いたしまして、経済基本的問題について質問をいたします。  その前に、私たちは、田中角榮議員辞職勧告案に賛意を表しますし、心からの声援を送りたいと申し上げておきます。  さて、総理は、昨年の所信表明演説において、「終戦後三十年、いまや日本は、高度経済成長を経て、自由世界第二位の経済大国に発展しました。国民は、手にした物の豊かさの上に、心の豊かさを心から求めております」と述べられました。国民は、果たして物の豊かさに満足し、なおその上に心の豊かさをも手に入れたいと何の不安もなしに考えているのでしょうか。  いかにも日本経済は大変な高度成長を遂げました。日本国民総生産は三十年から五十五年までの二十五年間に十倍以上にふえました。文字どおり大した成長だと思います。なぜ、こんな高度成長が可能であったのでしょうか。経済がこんなに早く、こんなに大きく成長するためには、経済外的な刺激が必要でありました。では、実際にどういう刺激が与えられたのでありましょうか。  終戦後の高度成長は二つの時期に分けられます。前期は三十年ころから四十年ころまでであります。この時期に、戦争で破壊された生産設備を最新の技術を備えた設備に建てかえることができました。そのために巨額な需要がつくり出され、その需要を満足させるために生産も著しく活発になりました。こうして高度成長が達成されたのです。しかし、それには巨額な資金が必要でありました。池田さんは所得倍増計画を唱え、高度成長に声援を送りました。あるいは低金利政策をとり、あるいは日銀の貸し出しをふやし、あるいは政府に附属する特殊会社を作って資金を流し込みました。この時期の高度成長を設備主導型の高度成長と言っております。  しかし、こういう高度成長はいつまでも続くものではありません。生産設備への巨額な投資は、やがて実を結んで、生産能力の拡大強化となり、生産高を激増させます。しかし、需要の伸びははるかに及びませんでした。その結果、生産の過剰が生じ、企業の収益が減り、不景気が起こりました。  こうして、昭和三十九年から四十年にかけて深刻な不景気に見舞われました。しかし、この不況も四十一年ころから再び好況に転じました。第一期の高度成長の結果、日本技術水準も高くなり、輸出能力も強化され、輸出が飛躍的にふえたことが口火となったのです。  さらに、田中内閣日本列島改造計画がそれに拍車をかけました。それは、土木建設事業を異常に増進させました。土地造成のための整地、埋め立て、大都市におけるビル、高速道路を初めとする道路、新幹線等の建設、橋梁、港湾あるいは海底トンネル等の造成、あらゆる土木事業が先を争って進められました。こういう土木事業に使われた巨額な資金が談合を通じて選挙資金に使われていることは、多くの調査によって暴露されております。また、立ちおくれた中小企業の設備投資も盛んでした。このようにして、幾度かの反動期があったものの、それらを乗り越えて、高度成長は昭和五十五年ころまで続きました。この時期の高度成長を輸出・財政主導型と言っております。  このように、第一次の高度成長は政府に誘導された金融政策による設備投資の主導により、第二次高度成長は輸出の激増と政府支出に支持された土木建設事業を柱とするものでありました。しかし、いまやこのような外部からの刺激によって成長を支えることは不可能になりました。金融的操作によって生産設備を拡大することは、生産過剰の現状から見て不可能と言ってよいでしょう。財政危機的状況を呈し、これ以上巨額な支出をふやし、土木建設事業に活を入れることも不可能でしょう。世界の景気も冷え切っています。集中豪雨的な輸出を望むこともできますまい。  政府は、二十五年間、外から刺激を与えて高度成長を維持し続けました。しかし、その後遺症もまただんだん拡大されてきました。生産能力の過剰、インフレ的体質、貿易摩擦、財政の破局等がそれであります。特に財政危機の問題は重大です。それは、インフレ、物価騰貴、国民生活への圧迫等につながるからです。  いま日本は、高度成長政策のおみやげとして、百兆円に達しようとする国債を抱えております。その国債の元利償還のために毎年十兆円に近い支出をしなければなりません。その結果、毎年、財政赤字を埋めるために十五兆円近くの国債を発行しなければならなくなりました。国債の累積額は年々ふえる一方です。国債はインフレを起こす起爆剤です。ふえ続ける国債を一刻も早く減らさなければなりません。それには思い切った経費の節約をし、財政均衡を回復しなければなりません。  しかし、そうした政策を実行すれば不景気は一層深刻になるでしょう。それを防ぐためには、所得税の減税、社会保障の増額、公務員の給与凍結の解除、その民間給与への波及の排除等を実行しなければなりません。そして、消費者の購買力をふやして、景気の落ち込みを防ぐことができると思います。  私は、総理及び経済企画庁長官に対しましては、私が述べた日本経済の分析は誤りだと思いますか。
  41. 秋山長造

    ○副議長(秋山長造君) 美濃部君、時間を超過いたしておりますので、簡単にお願いします。
  42. 美濃部亮吉

    ○美濃部亮吉君(続) もし誤りであると考えるならば、どうしたら日本経済を安定成長の路線に導くことができるか。また大蔵大臣に対しては、いまの財政危機を踏まえて、どうしたらインフレを避けることができるか等を質問したいと思います。  私の質問を終わります。(拍手)    〔国務大臣中曽根康弘登壇拍手
  43. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 久しぶりに美濃部議員のお説を拝聴いたしまして、いい勉強をいたしました。  私のような者が美濃部議員のお考えを論評する力はございませんが、お聞きした範囲内について感想を申し上げますと、わが国がこれだけある程度の高い成長をした原因というものの中には、内的要因と外的要因と二つあると思います。  たとえば、国民の高い貯蓄率とか、あるいは旺盛な設備意欲とか、あるいは大事な労使協調による労働生産性、労使関係の安定とか、あるいは科学技術開発力の旺盛さとか、そういうような内的要因もあります。また、外には、石油が非常に安かったとか、あるいは日本列島の地政治学的位置、あるいはコンビナートを海岸線につくって、これを最大限に利用したとか、そういうような客観情勢もございますが、総じて言えば、私は、やはり労使関係が安定していた、それから経営者あるいは科学技術者、特に技術者が非常に開拓精神を持って、旺盛ないわゆる資本主義的な経済効率を考えつつ経営をやってきた、そこにこの日本の伝統的な風土に根差す勤勉とかあるいは忠誠心とか、さまざまなものが結合してこういう繁栄ができたのではないかと思います。  そういう関係から見ますと、いま美濃部議員のお話を聞きますと、これに対する対策として、需要の喚起という意味から減税とかその他のことをおっしゃいましたが、一面においては、やはりいまの財政にいかに弾力性と機動性を回復していくかという深刻な問題があるのであります。  御指摘のように、国債をこれだけ抱えて、毎年十五兆ぐらいの赤字が出ておる、十兆近い国債費の支払いに苦しむ、これは御指摘のとおりの傾向でございます。この問題をどうするかということに触れずして、単に需要喚起だけをおっしゃるというのは、何となしにばらまき福祉のにおいがまた出てきておると、そういうふうに言わざるを得ないのであります。やはり経済をやる方の側から見ますと、内的要因あるいは主体的要因というものをもう少し考えていく必要があるのではないかという感想を持った次第でございます。  大変生意気なことを申し上げましたが、ありのままの感想を申し上げた次第であります。(拍手)    〔国務大臣塩崎潤君登壇拍手
  44. 塩崎潤

    国務大臣(塩崎潤君) 総理の御答弁を補足して美濃部議員の御質問にお答え申し上げます。  まず、日本経済の高度成長の原因を、美濃部議員は外部からの刺激、それでございますところの金利政策、輸出、公共投資にあるととらえられている点でございます。  わが国経済の高度成長の原因と申しますか、いわば秘密については、数多くの見方や論争がございます。もう先生御案内のとおりでございます。しかし、御指摘のような経済政策がこれに貢献したことは間違いありません。そしてまた、それはそれなりに政策選択の手段として評価されるべきものだと考えるものでございます。  しかし、わが国の高度成長の根本的な原因は、先ほど総理も述べられましたように、単に外部からの刺激だけではなくして、いわば経済外の社会に内在する、基盤でございますところの高い教育水準の労働力、あるいは安定的な労使関係、さらには高い貯蓄性向、さらには大変旺盛な技術革新の吸収力、こういったものに支えられて大きな成長を遂げてきたということが定説でございます。いわば潜在成長力は世界各国で日本が一番高いと、こんなふうに言われることと大きく関係しているのでございます。それともう一つは、やはりこの時期は世界経済も、戦前では考えられないような、また現在から見ても考えられないような高い成長率に支えられてきたのでございます。その中で日本経済は成長してきたのでございまして、単に外部からの刺激、覚せい剤的な要素で発展してきたわけではないと私は見るのでございます。  しかし、二度にわたりますところの石油危機の後には、世界経済は高度成長の時代に終わりを告げまして、わが国も安定成長の時代に入っていることは言うまでもございません。  そこで問題は、安定成長にどうして導いていくか。確かに、おっしゃるように財政上の困難等がありまして大変むずかしい要素もございまするけれども、やはり日本独自の成長力の源泉でございますところの社会的な基盤、つまり旺盛な貯蓄性向、さらにまた旺盛な技術革新の吸収力を背景として、たとえば技術革新投資をやらしていく、産業構造を変革していく、知識集約的な産業構造に変革し生産性を上げていく、こういったことで私は安定成長は可能だと思うのでございます。さらにまた、金融政策はもちろん、財政再建にも期待していきたいと思います。  かつて所得倍増計画は空中楼閣だと、こんなことを言われましたが、それをなし遂げたのは私ども日本人の努力と成果でございます。厳しい事情でございますが、私どもは可能性のある安定成長路線を導き出して、日本経済力をさらに発展させていきたいと考えているところでございます。(拍手)    〔国務大臣竹下登君登壇拍手
  45. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 私に対する御質問はインフレに対する御懸念からの問題でありました。  最近、物価につきましては、卸売物価は引き続き安定した動きを示しておりますし、消費者物価世界どこの国よりもずば抜けて落ちついております。しかし、現在のような大量の公債に財政が依存しておる状況を長く放置しますならば、これは金利の上昇によって民間の資金調達に影響を与える懸念がございますし、さらに、このような状況を避けるために日銀が通貨供給をふやさざるを得ないということになれば、これはまさにインフレを招くおそれがあります。最も慎まなければならないことでございます。  こうした問題を基本的に解決していきますためには、公債発行額の縮減に努めることが肝要でありまして、今後とも歳出歳入構造の徹底的な合理化、適正化を進めることによりまして、できるだけ早期に特例公債からの脱却を図って、さらには公債依存度の引き下げに最大限の努力をしてまいる、これがまさに決意でございます。  さらに、金融政策の面におきましては、マネーサプライの動向等に留意をいたしまして政策運営を行いますなど、公債の大量発行がまさにインフレそのものにつながることのないよう、これに十分意を用いていく所存であります。(拍手)     ─────────────
  46. 秋山長造

    ○副議長(秋山長造君) 森田重郎君。    〔森田重郎君登壇拍手
  47. 森田重郎

    ○森田重郎君 私は、新政クラブを代表いたしまして、中曽根総理に対し何点かの質問をいたします。  まず、防衛問題について伺います。  総理は、前国会政治目標の第一に平和の維持と民主主義の健全な発展を訴え、その上で、日本軍事大国にならず、近隣諸国に脅威を与えることのないよう配慮する、また、平和外交基本方針はこれを堅持し、国際的な軍縮の努力に貢献すると広く国民の方々に公約をされました。さらに総理は、世界経済の一割を担う国力を持った日本は、日本の寄与なくして地上の平和と人類の共栄の前進はあり得ないとまで言われたのでございます。  その中曽根総理が、今回の日米首脳会談では、運命共同体、不沈空母、たとえそれが総理の言わるるごとく不沈列島であったとしても、前九十七国会における所信表明とは大きく様変わりし、あたかも軍拡路線につながるかのごとき突出発言をされましたことは、まさに遺憾でございます。まず、この点につきまして、私は改めて総理政治信条をお伺い申し上げたい。これが第一点でございます。  私は、この際、あえて総理に申し上げたい。それは、かつて日本の帝国主義の台頭が、多くの国民の方々の犠牲の中で敗戦という厳粛な事実、そしてあの忌まわしい終戦の様相であります。また、全体主義体制の中で滅亡の道を歩んだドイツや、全土を覆ったファシズムがイタリアを、そしてまたイタリア国民を敗戦へと導いた悲惨な歴史の教訓を、この際総理、篤と想起していただきたいのでございます。  ところで、軍拡指向とも受け取れる今回の総理の問題発言は、必要以上に日ソ間を冷却化したと言われております。そこで私は、総理の言われます平和外交をも含めて、特に対ソ外交に対する今後の姿勢とその具体的な取り組み方について、これまた総理の御所見を賜りたいのでございます。  次に、私は、行政改革一般についてお伺いいたします。  私は、行政改革の成否は、かかって総理の決断と実行にある、これ以外には行政改革完成の道、達成の道はないと思量をいたします。つまり、大変失礼な言い方かもしれませんけれども総理は真に行政改革を実行する御意思があるかどうか、この点を改めてお伺い申し上げたい、かように思います。  そこで、直前の行管庁長官でもございます総理に重ねてお尋ね申し上げたい。総理はこれまで何回かにわたり、行政改革政治生命をかけると、行革三昧の心境を述べられましたが、総理総理国民の方々に真に納得していただけるような意味での行政改革の達成が果たして可能であるかどうか、この点について総理の御答弁を賜りたい。  そこで、総理の御答弁でございますが、私は、これまで総理の胸中にある行革完了後の政府像といったようなものをいまだかつて聞いたことはございません。総理の御答弁はすべて臨調の答申を踏まえてといった形で終始してまいりました。今国会でもそうです。しかし私は、現在のようなこの行革に対する世論の高まりからすれば、当然総理御自身の描く行革像というものがおありであろうと、こう思うのでございます。また、あってしかるべきだと思います。この点をも踏まえて総理の御答弁をちょうだいいたしたいと思います。  次は、軍縮と外交についてお聞きいたします。  今回の政府演説の中で、日本世界の信頼にこたえるため、みずからの目先の利益を追求することなく、先進民主主義諸国が互いに協力し合う中で自由貿易体制の堅持をうたったことは高く評価をいたしたいと思います。しかし一方、国際政治の流れとその及ぼす影響というものは、今後特に、米ソ、米中、中ソの三極構造の中でこそより大きく揺れ動くものと信じます。今後、これらの国々のハネムーン外交というものが展開されることはないという保証は全くございません。私は、そのとき日本が、総理のおっしゃいます世界の孤児となることを心中深く恐れるものでございます。  政府演説によりますと、核軍縮を中心とする具体的な軍縮の着実な実現に貢献したいと、こう言われておりますが、総理にお聞きしたいのは、政府の言われる具体的な軍縮の実現とは一体何を指すのか。また、いつ、どのようにしてこの問題に対処されようとしているのか、この点をお伺い申し上げたいのでございます。  最後に、貿易と外交問題についてお伺いをいたします。  政府は、日本に照準を当てた保護主義的立法の動きを大変懸念をしておられます。自由貿易体制の維持強化を主張しながら、率先して世界に開かれた日本へと前進する、こう言われておりますが、今回の政府演説を見る限り、そのためにとらねばならぬ具体的な措置、これが何ら盛り込まれていない感が強いのでございます。確かに政府は、一昨年末以来、一連の市場開放措置決定し、その実現に努めてきたことは認めますが、秋は、今後欧米を初め各国のわが国に対する組織的な市場開放要求は想像以上にエスカレートしてくるものと、こう思っております。  私は、このような国際的緊張の一段と高まる中で、この際政府は国益の明確化と、それにつながる基本路線の設定を急ぐべきであろうかと思います。しかも、その骨格ぐらいは相手国に十分知らせておくぐらいの先取り外交、この先取り外交こそ外交本来の使命ではないかと思いますが、総理いかがでございましょうか。このことは、今後の対外貿易関係についての場当たり的な要求や、よって生ずる摩擦回避のためにも、また日本がいわゆる世界の孤児に転落することを避けるためにも、現下喫緊の外交課題と思量いたします。  この一月、市場開放問題苦情処理対策室の設置を見たことも実は承知をいたしておりますが、私はこの際さらに一歩、二歩進める意味で、関係省庁の方々が中心になりまして、わが国貿易の将来展望、たとえて言えば新通商五カ年計画といったようなものの策定ぐらいはこの際ぜひ総理にお願いを申し上げたいと思うのでございますが、総理の御所見をちょうだいいたしたいと思います。  以上、私の質問をこれで終わらせていただきます。どうぞひとつ総理、しかとした御答弁をちょうだいいたしたいと思います。  ありがとうございました。(拍手)    〔国務大臣中曽根康弘登壇拍手
  48. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 森田議員にお答えをいたします。  九十七国会と今回のいろいろな発言との間に変化はないかという最初の御質問でございますが、変化はありませんとお答えを申し上げる次第でございます。今回いろいろな発言をいたしましたが、これは最近の情勢変化に対応する私の考え方の表明であるとお考え願いたいと思うのであります。  最近におきましては、特に経済摩擦の問題、あるいは防衛上の諸問題というものが、アメリカやあるいは対ヨーロッパその他の国との関係で深刻になってきたのは、森田議員も御存じのとおりでございます。そういう情勢と、また一面におきましては、ソ連において政権交代がございまして微妙な政策形成期に入っている、そういう情勢変化も国際的にあったわけでございます。そういうような情勢全般を踏まえまして、日本の行く道はどこにあるかということも考え、また発言もしてきたのでございます。  一番大事なことは、世界から孤立しないということであります。そういう意味におきまして、アメリカに行ってあるところで発言した場合でも、三十七年という年は非常に微妙な年を日本の歴史に与えているということを言っていました。日露戦争というのは明治維新から三十七年であります。それで、そのころから日本の資本主義というのは一応成熟したわけです。その日露戦争が終わってから三十七年目に太平洋戦争が勃発した。太平洋戦争が終わってから昨年は三十七年目であります。日露戦争が終わってから三十七年目の太平洋戦争の勃発というのは、一言で言えば、日本の無定見な軍事的膨張が日本世界の孤立に追いやったその結果ではないであろうか。そして、戦争後またみんながはい上がって、そして三十七年たって今度は経済的膨張というものが日本世界の孤立に追いやって、重大な深刻な事態になっているのじゃないだろうか。  いずれにせよ、世界から孤立するということぐらい日本に危険なことはない。これは日本国民のあるいは政治家の意識の中で自分の国ばかり考えている、そういう独善性というものが背景にないだろうか。世界情勢を深刻に見つめて、心を広く豊かに持って、世界の水準、世界の歩みのセンターがどこを歩んでいるかということを見きわめるということが必要ではないのだろうか。そういう意味のことも考えましていろいろな発言もしてきておるのでございます。  日本の場合について、アメリカとの関係、あるいはヨーロッパとの関係、自由世界との関係を調整するということが第一に重要なことでもございましたから、いままでここでいろいろ御説明申し上げましたような関係に立った発言もしておる。要するに孤立化を防ぐ、一番大事な仕事である。世界の常識の線を日本も歩んでいく必要があると。戦争前は八紘一宇ということで、日本日本独自の地位を占めようという独善性を持った、日本だけが例外の国になり得ると思った、それが失敗のもとであった。戦後再びそういう危険性を冒していないだろうか、そういうことを申し上げたかったのでございます。  第二番目に、対ソ外交の問題でございます。  この問題につきましてはここでもいろいろ申し上げましたが、やはり世界情勢の変化についてはわれわれは重大な関心を持って見守っていく、そして日本の国益を主張すべきものはあくまでも主張するけれども、しかし一面においてこの情勢の推移を注意深く見守っていくという態度が必要である、そういうふうに考えている。ここで申し上げたとおりの考えでいきたいと思っている次第であります。  行政改革につきましては、私は行政管理庁長官時代から大きな責任を感じておる一人でございまして、この使命感をさらに強く持ちまして、これをあくまで完遂していく決意でおる次第でございます。ですから、閣僚を任命する際にも、行政改革に賛成してこれを推進してくれるかどうかということを一人一人に確かめまして、返事をいただいてから任命した、こういう経緯もあります。これはこの内閣が行革に対してある決意を持って臨んでいるということをお考えいただきたいと思います。  行革はしかし一内閣でできることではなくして、国民全体の御支持をいただいてその御理解のもとに進めなければできる問題ではございませんし、政府関係や公務員諸君の心からなる協力も必要でございます。そういう点につきまして目をよく配りまして、一つ一つ着実に推進してまいりたいと思う次第でございます。  最後に、経済関係につきまして通商五カ年計画というような御構想を発表していただきましたが、私は現在非常に重要なときに来ておると思っております。というのは、昨年の秋のガットの閣僚会議におきまして、ガットは危うく崩壊する危険性に見舞われるぐらいの緊迫度があったと報告を聞いておる。つまり、アメリカとヨーロッパの利害が非常に対立しまして、ヨーロッパは自分たちを閉鎖的に守ろうとする、アメリカは開放的な経済要求する、ガット自体がすっ飛びそうな危険性があった。そういうところで、帰ってきた人のある表現によれば、皮一枚で首をつないでいる状態ですという報告を私は比喩的に聞いておるのです。  そういうことを考えますと、各国がみんな閉鎖的に利己主義をとってくると、一九三〇年代の悲劇がまた出てくる危険性が十分にあるわけです。ですから、ここで自由貿易というものの必要性について各国がよく話し合って協調の道を開いていく、国際的にそういう理解とそういう協力体制を築き上げていくということがいま一番大事な段階になり、それが日本の前途に対して重大な影響を持ってくるというときに差しかかってきていると思うのであります。そういう観点に立ちまして対外政策を推進してまいりたいと思っております。しかし、この五カ年計画というようなものは、これはなかなかむずかしい条件があると思います。一つ御提言として拝聴しておきたいと思う次第でございます。(拍手
  49. 秋山長造

    ○副議長(秋山長造君) これにて質疑は終了いたしました。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時十九分散会