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政府委員(中島
一郎君) 順次御
説明をさせていただきますが、六十三条の五項の期限の許与の裁判という制度につきましては、現行の区分所有法にも二つばかり規定がございます。三十五条の二項と三十五条の四項でありますが、それをそのまま改正法案にも取り入れておりまして、改正法案では六十一条の九項の規定でございます。これはどんな場合かと申しますと、区分
建物の一部が滅失をいたしました場合に、滅失した
部分が
建物の価格の二分の一以下である場合には、滅失した共用
部分を復旧した区分所有者は、他の区分所有者に対して復旧に要した費用の償還を請求することができるわけでありますが、この場合に、裁判所は他の区分所有者の請求によりまして「相当の期限を許与することができる」ということになっております。
それからもう
一つは、その滅失
部分が
建物価格の二分の一を超えるときは、区分所有者は、
建物の再建に関し協議をしなければならないことになっておりますが、「協議をすることができないとき、又はその協議が成立しないときは、各区分所有者は、他の区分所有者に対し、
建物及びその敷地に関する権利を時価で買い取るべきことを請求することができる。」わけであります。そしてこの場合にも「裁判所は、他の区分所有者の請求により、代金の支払につき相当の期限を許与することができる。」ということになっております。
ところで、この期限の許与という制度は、区分所有法で初めて採用された制度かと申しますとそうではございませんで、もともとは民法に規定があるわけでございます。たとえば民法の百九十六条の二項のただし書きで、占有者の有益費償還請求の場合、回復者の請求によって期限を許与する。それから、民法の二百九十九条の二項のただし書きでございますが、これは留置権者の有益費償還請求の場合に、所有者の請求によって期限を許与することができるということになっております。
ただいま申しました期限の許与は、いずれも金銭の支払い請求に対する期限の許与でありまして、ただいま
お尋ねになっております六十三条の五項の期限の許与は、
建物の明け渡し請求に対する期限の許与ということで、その点違いがありますけれ
ども、この期限の許与が裁判手続によるのかどうかとか、あるいはそれが通常の裁判手続であるかどうかとか、裁判の性質はどう考えるのかというような点につきましては、両者全く同じであるというふうに考えておるわけであります。したがって、この期限の許与は、六十三条の五項に定めるものが形成の訴えによって求むべきものであるというふうに解しております。ただ、通常の場合を考えてみますと、期限の許与が問題になるのは、期限の許与だけを求めるという場合に限りませんで、その他にも考えられるわけでありまして、
一つは、買い主が明け渡し訴訟を提起いたしました場合に、その手続内で売り主が期限の許与を求める場合、もう
一つは、売り主が代金請求の訴訟を起こしまして、それに対して買い主の方が明け渡しと同時履行の抗弁権を
提出した。それに対して、売り主の方で期限の許与を申し立てる場合というような場合が考えられるわけでありまして、通常の場合ですと、ただいま申しました後の二つの方がむしろケースとしては多いのではないかというふうに考えるわけであります。その場合に、独立の訴えか、あるいは攻撃防御の方法でよ
いのかという点についても、ただいま
お尋ねがあったわけでありますけれ
ども、やはりこの場合でも、期限の許与ということは、独立の訴訟物とする必要があるということを考えますと、攻撃防御の方法としてではなくて、訴えまたは反訴という形で、独立の訴訟として提起しなければならないものというふうに考えております。