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参考人(
土方武君)
日本化学工業協会の
土方でございます。
先生方には常日ごろから
化学工業に対しまして多大の御指導と御鞭撻を賜っておりまして、この席をおかりして厚く御礼申し上げる次第でございます。
諸先生方御高承のとおり、
化学工業の中の
基礎素材部門でございますこの
特定産業にも指定されております石油
化学工業と、
化学肥料工業とは、現在深刻な不況に直面しておるわけでございます。
もとより、私
ども個々の
企業といたしましては、
企業レベルにおいて可能な限り、あらゆる経営努力を行っておるわけでございますけれ
ども、今回の不況が深刻でありかつ構造的なものであるだけに、その克服には
企業の自助努力だけではきわめてむずかしい点が多くあるわけでございます。
本日は、こうした石油
化学工業と、
化学肥料工業の不況の
現状と
問題点につきまして簡単に御説明申し上げて、引き続きまして新法に対する
意見と要望を述べさせていただきたいと思うわけでございます。
まず石油
化学工業でございますが、まず第一の最大の
問題点は、石油
化学は
原料問題でございます。
日本の石油
化学工業は、その発足以来
原料として主としてほとんどナフサを使用してまいったわけでございますが、このナフサの価格が二度にわたる
石油危機を経まして約九倍にも上昇いたしました。このために製造コストに占めます
原料費の割合が七〇%にも達しまして、こうした高い
原料を使用せざるを得ないことが今日の石油
化学工業の困難の第一の原因と言えるわけでございます。
他方、アメリカ、カナダ等の国々におきましては、石油
化学の
原料といたしまして天然ガスから分離されますエタンが使われております。この天然ガスの価格というのは、これらの国々のエネルギー政策の一環といたしまして、非常に安い値段でコントロールされておるわけでございます。したがいまして、この安い天然ガスを
原料とする石油
化学製品、これと
日本の高いナフサを
原料といたします石油
化学工業の
国際競争力が、原油価格の上昇に反比例いたしまして、
日本の方が急速に低下してまいったわけでございます。これを石油
化学の
基礎製品でございますエチレンの価格で比較してみますと、
日本を一〇〇といたしますと、現在アメリカは約七〇、カナダにおきましては約四〇と非常に大きな格差があるわけでございます。
こうした
原料事情に起因する
国際競争力の低下によりまして、貿易上非常に大きな変化が当然起こってまいりました。またアメリカなど現在不況でございますので、石油
化学製品の
需要もやはり低迷しております。そのために特にこれらアメリカ、カナダなどから非常に安い石油
化学製品の輸出が活発になってまいりまして、東南アジア、
日本への
輸出攻勢がかけられておるわけでございます。
従来、東南アジア諸国は、
日本のマーケットであったわけでございますが、近年は急速にこれを失ってきておりまして、さらには直接
日本への
輸入が急激に増加しております。すなわち
昭和五十三年当時には、エチレンに換算いたしまして約七十万トン程度は輸出超過であった
日本の石油
化学は、五十七年の上半期には、ついに逆に
輸入超過に陥ったわけでございます。五十七年の下半期は為替の動向に助けられまして小康を保ったのでございますが、本年、五十八年に入りまして、再び
輸入超過が懸念されるという
現状でございます。
さらに今後の見通しにつきましても、カナダあるいはサウジアラビア、こういった天然ガス資源の保有国におきまして、非常に大規模な石油
化学の新設
計画がございますので、こういった供給圧力を考えますと、
昭和六十年ごろまでは相当大幅な
輸入超過になるように見通されるわけでございます。
以上申し上げましたような
状況の
もとで、石油
化学工業の
生産は、
昭和五十五年の年央を境といたしまして急激な落ち込みを見せてまいりました。これをエチレンの
生産量で申しますと、たとえば端数を丸めますと、五十四年は四百八十万トンのエチレン
生産、五十五年が四百二十万トン、マイナス二〇%でございます。さらに
昭和五十六年は三百六十五万トン、マイナス七%、
昭和五十七年にはやはり三百六十万トンとさらに減少いたしまして、実に三年連続の後退を記録しておるわけでございます。まさに十年前の水準に逆戻りいたしました。したがいまして、現在ではいわゆる
生産設備が六百三十五万トンございますので、三百六十万トンの
生産ということはつまり六〇%の
稼働率を割っておる水準でございます。しかも今後の見通しにつきましても、国内での
需要は若干回復していくと思われまするけれ
ども、先ほど申し上げましたように、
輸入が増大してまいる見込みでございますので、
生産の方は
昭和六十年になりましても、現在程度の低水準にとどまるというふうに見られておるわけでございます。
もう
一つの大きな
問題点といたしまして、国内の
生産体制の問題があるわけでございます。先ほど申しました六百三十五万トンのエチレンの
生産能力というのは、
昭和四十年代の前半に当時の
高度成長の見通しに合わせまして一斉に建設が行われたわけでございます。オイルショック前には約八〇%程度まで
稼働率が上がってきたわけでございますが、オイルショックの結果、いま申しましたように六〇%を割るような低
操業に陥ったわけでございます。また、石油
化学工業は典型的な
装置産業でございますために、このように
稼働率が低下いたしますと、非常に大きなコストアップになるわけでございます。したがって、各
企業といたしまして、何とか
稼働率を高めたい、市場のシェアを高めたいという気持ちが働きがちな側面を持っておるわけでございます。その上に、
日本の石油
化学工業は
一つの品目に対しまして同じような規模の
企業が多数競合しております。しかもその規模自体が、ヨーロッパ、アメリカと比較いたしますと小さくて、かつ基盤も弱いといった要因があるわけでございます。さらに、先ほど来申し上げておりますように
需要が低迷いたしまして、総体的に非常に大幅な
過剰設備というところへ安い
輸入品が入ってくるということで、こういった原因が絡み合いまして、非常な
過当競争に陥っているわけでございます。したがって、
原料が上がったコストアップの要因というものを、石油
化学の製品の方にはね返すということができないような
事情になっておるわけでございます。
こういったことによりまして、石油
化学系の
企業の収益性は著しく悪化いたしまして、エチレンセンター十二社の経常損益は
昭和五十六年に石油
化学部門だけをとりますと約六百億円程度の赤字となってまいりました。さらに昨年、五十七年にはもう一社で百億円、二百億円という赤字を計上せざるを得ないといった
状況になっておる次第でございます。
そこで、石油
化学工業の再
活性化のための
対策につきまして若干申し述べたいと思うわけでございます。もちろん
産業の
活性化は基本的には
企業の自助努力というものを主体とすべきであることは申すまでもないわけでございますが、
企業の自助努力のみでは解決できないという困難な点も多くあることを御推察いただきたいと思うわけでございます。
まず
原料問題でございますけれ
ども、ナフサを
原料といたします
日本の石油
化学工業は、先ほど来申しておりますように、エタンを
原料といたします
外国と比べますと——若干原油の値下がりによりまして差が少しは縮まったわけではございますけれ
ども、依然として大きな格差が残っておるわけでございます。ただ、天然ガスより分離されますエタンというものは、世界的に量的な制約がございまして、石油
化学全体の三分の二ないし四分の三は今後ともナフサなどに依存せざるを得ないという
状況にございます。したがいまして、
日本の石油
化学工業といたしましては、まずナフサを国際価格で入手できるようにすることが
国際競争力を保持する上での大
前提となるわけでございます。この点につきましては、
関係御当局の御理解を得まして、昨年四月から国産ナフサの価格の決定の方式が決まりまして、
輸入のナフサの平均価格を基準として決められるというようになりましたので、一応国際的な価格でもってわれわれも
原料を手に入れることができるということになったわけでございます。ただ、まだナフサの備蓄という問題がございまして、備蓄の費用の負担、これはちょっと諸
外国にも例のない
制度かと思うんでございますが、そういった特殊の負担がまだかかっておるということを
一言申し上げたいと思います。
次に体制整備の問題でございますが、
過当競争を排して
国際競争力の回復を図りますためには、
業界ぐるみで体制整備を行うことが急務でございます。昨年の
産業構造審議会の
提言におきましては、共同
生産、共同販売、共同投資といった
合理化対策とともに、グループ化によりまして主要な
化学製品品目に対して二七ないし三六%の
過剰設備の廃棄を求めております。
業界といたしましても、こうした
提言に沿いまして、体制整備の一環として、まず共販会社を設立し、さらにこの会社を土台といたしまして、
生産の効率的
設備へ集中するとか、あるいは
過剰設備の処理をするとか、早急に具体化を進めていきたいと思っておるわけでございます。こういったことを円滑に進めますためには、今回の新法による後ろ盾がぜひ必要であると、このように考えておるわけでございます。
以上のような
業界としての
対策以外に、個々の
企業での自助努力といたしましては、従来からも相当力を注いでおります省資源、省エネルギーということに一層努力を図りますとともに、製品の構成を高付加価値化あるいは高品質化という方へ移行するという努力もいたしまして、
輸入品と競合しない製品をつくっていきたい、その方面に力を注ぎたいと思っておる次第でございます。
次に、
化学肥料工業の
現状と
問題点につきまして、若干申し述べさしていただきたいと思います。
日本の
化学肥料工業は、農業
生産の
基礎資材でございます
化学肥料の安定供給を果たす、こういう観点から、戦前からもう
法律によりまして統制を受けてまいりました。現在でもいわゆる肥料二法の
枠組みの中に置かれておるわけでございますが、
生産の態様といたしましては、石油
化学の発展と時期を同じくいたしまして、石炭から石油への
原料転換と、それから大型化というものをいたしてまいりました。ナフサ等石油系の原燃料に対する依存度が非常に高くなっております。このために、
化学肥料の中心でございますアンモニア、窒素系肥料というものを中心といたしまして、
石油危機の
影響を非常に強く受けて、コストの
競争力が低下いたしました。加えて、
原料の安い海外での大型
設備の稼働によって、従来からのかなりの部分を輸出に依存してまいりました
日本の
化学肥料の体質というものは非常に弱くなってまいりました。輸出の激減によりまして、相対的に大幅な
過剰設備を抱えるに至ったわけでございます。
このために、
昭和五十四年には、現行の特安法の対象品目の指定を受けまして、第一次の
構造改善策といたしまして、アンモニアで二六%、尿素で四五%、湿式燐酸で二〇%と非常に大幅な
設備処理を実施いたしました。ところが、その直後に発生いたしました第二次の
石油危機の
影響を受けまして、第一次の
構造改善事業の
前提が崩れまして、また、輸出が減少したということで再び大幅な
設備過剰の
状態となったわけでございます。この処理に新しい
法律でもってまた実行していきたいと思っておるわけでございます。
今後の
化学肥料のあり方につきましては、昨年の産構審の答申の中では、
原料転換等によりまして今後一層コスト
削減努力を行うとともに、国内の
需要に見合った
生産体制への組みかえを求められております。具体的には、六十肥料年度を目標といたしまして、さらにアンモニアで六十六万トン、尿素で八十三万トン、燐安で十一万トンの
設備処理をするよう
提言されております。これら、一次、二次合わせてみますと、五十四年以前の
生産能力から、
削減率はアンモニアで四一%で、尿素で六五%の
削減といった非常に大幅なものになっておるわけでございます。
業界といたしましては、この新法の適用を受けまして、その
枠組みの中で
設備処理を具体化したいと考えておるわけでございます。
引き続きまして、新法に対する
意見と要望を簡単に述べさせていただきたいと思います。
その第一点は、先ほどからるる申し上げてまいりましたように、石油
化学、
化学肥料の両
業界によって若干
環境の差による立場の相違がございますけれ
ども、基本的には、いずれも、
過剰設備の処理、共同
生産、共同販売、共同投資といった
構造改善を早急に実施し、健全な価格形成力と
国際競争力を回復するためには、どうしても新法の後ろ盾が必要であると存ずる次第でございます。特に石油
化学におきましては、いま共販会社の設立の最中でございまして、早急に新法の後ろ盾を得て実現いたしたいと思っておるわけでございます。
ただ、新法におきましては、
事業の
集約化に関する独禁法の適用除外という点が盛られていない。もう
一つは、アウトサイダーに対する規制が織り込まれていない。こういう点は私ど
もといたしましては若干不満でございますけれ
ども、まずは独禁法との
関係につきまして、公正取引
委員会と
関係御当局との間で、迅速かつ弾力的な調整をしていただけるということを期待しております。また、アウトサイダーの問題につきましても、
設備処理を行いますには、やはり全員が参加することでないと効果が非常に減殺されるのでございますので、ぜひとも御当局の指導によりまして、実効のある
運用ができますよう
お願いする次第でございます。
第二点は、
基礎素材産業の再
活性化は、この新法によってすべて達成されるというものではございませんので、現在のこういった不況が、基本的には
原料価格の高騰ということによって始まったわけでございますだけに、
原料及びエネルギー
対策につきましては、この新法以外に引き続いて格段の御配慮を
お願いしたいということをあわせて
お願いしたいわけでございます。
そういった御配慮をいただきまして、私
ども努力してまいるわけでございますが、
日本の
基礎素材産業というのは、
技術的に見ますると世界的にすぐれておるわけでございますので、国の
基幹産業としての
役割りを今後とも十分果たしていけるということを確信しておるわけでございます。
以上、少し時間を超過いたしましたけれ
ども、
意見の陳述を終わりたいと思います。どうも御清聴ありがとうございました。