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参考人(
工藤芳郎君) 去る三月二十五日に
衆議院建設委員会集中審議がございましたが、これに引き続きまして本院におかれましても
集中審議が実現をされまして、
参考人として
発言の機会が与えられましたことにつきましては、
委員長初め
各党理事、
委員並びに
関係皆さん方の特段の御尽力のたまものと存じております。改めて深い敬意を表するものであります。
私は、
全国公団住宅自治会協議会約三十五万
世帯並びに
全国団地住民の
皆さん方の意向を体しまして、今回の
公団家賃再
値上げに反対する立場から
発言をさしていただきます。
衆議院の
集中審議におきましては、主として
値上げの
理由、
値上げの
算定方式の
不当性について
発言をしたのでありますが、本院におきましてもこの点につきまして
冒頭簡潔に
問題点だけ触れておきたいと存じます。
公団家賃値上げ理由は、いわゆる
新旧団地の
家賃の不
均衡是正という
目的で
改定をするというのでありますが、この
問題点を次に述べます。
第一点は、
現行家賃制度政策そのものから必然的に不
均衡が生ずるということでございます。具体的に見ますと、
一つは
家賃決定原則が
建設年度ごと、
団地ごとの
個別原価主義に基づいていることからでございます。
二つ目には、
公団が他の
公共住宅には例を見ない
空き家割り増し家賃制度というものを採用しております。人為的にまさに不
均衡をつくり出していると言わなきゃなりません。
三つ目には、
家賃の
構成要素の中に学校から鉄道の
建設費、
通勤バスの
購入費などまで含めた
関連公共公益施設費を算入して高
家賃をつくり出しているということであります。
四つ目には、政策問題としての
土地価格の
野放し策、
公共賃貸住宅軽視の
住宅政策、あるいは長期未
利用地、がらあき
団地など
ずさん経営の
ツケ回しなどを指摘しなければならないと思います。
第二点は、
家賃の不
均衡というのであるならば、制度的にも政策的にも十万円や十二万円もするような高
家賃こそ引き下げるべきであります。高
家賃に歯どめをかけない限り
家賃の不
均衡は必ずつくり出され、際限のない
値上げの繰り返しが行われることになるのであります。
第三点は、
家賃不
均衡論は
住宅の
老朽化や狭さなど
新旧団地の質の違いを抜きには成り立たないのであります。
下総参考人の御
発言のとおりであります。
第四点といたしましては、以上のことから不
均衡是正論を
理由とする
家賃の
値上げでは決して
家賃の不
均衡を
是正することはできないということであります。こうして見ますと、結局この
理由は理論的には成り立たないものでありまして、
値上げの口実にすぎないものと言わなきゃなりません。
さらに申し上げますと、こうした
考え方の背景には、きわめて常識的ではありますが、
民間家賃との
比較論がある。
公団住宅相互の
家賃の
比較論ではなくて、
民間と
比較すると、こういったような
考え方があるわけでございまして、これでは
住宅に困窮する
勤労者のために
住宅を
供給するという
公団の
使命そのものの否定につながると言わなければなりません。
次に、
値上げの
算定方式でありますが、
前回改定時に
公営限度額方式に準じたものとして出されたのでありますが、この
段階で
国会要望事項が出されました。これは、
住宅家賃の
体系が複雑であり未
整備であるというので、それまでは、今後
改定を、
ルールをつくるという趣旨の
要望事項がなされまして、
住宅宅地審議会も
公団住宅にふさわしい
家賃変更ルールづくりをせよと答申をしたのでございますが、にもかかわらずこの
方式がまた今回適用されたということが問題であります。
この点は、
下総先生も御
関係なさっております
昭和五十四年十二月二十四日の
東京都
住宅対策審議会の中でも、この
方式をとりますと、つまり「法定
限度額による
新規家賃の設定及び
変更法定限度額による
家賃の
是正は、現行の法定
限度額の
算定方式をとる限り、大都市の実態にそぐわない。」という御答申が出ておるわけでありまして、これ自体が大変まずい
内容であるということを御指摘申し上げたいと思います。
つまり、これは国会の要望を軽視するばかりか、
内容的に見ましても、その発想の中には、
政府、
公団がみずから設定しておりますところの原価主義を投げ捨てて、推定再建築費といった市場
家賃論を採用するものでありますから、
公団家賃の民営化に道を開くものと言わざるを得ない。したがいまして、これまた
公団の
使命そのものを放棄し、
公団の民営化を志向すると言わざるを得ないのであります。
以上、今回の
家賃改定に関しての基本的な
問題点を御指摘申し上げました。
以下、
団地居住者の要求を中心に申し上げたいと思います。
第一は、
値上げの上限でありますが、高過ぎるということであります。
値上げ案によりますと、
家賃改定に伴う
激変緩和措置として、一
居住室八千円、二
居住室九千円、三
居住室一万円を、それぞれ引き上げ額の限度とするというのでありますが、これを具体的に見ますと、
前回の上限額が七千円でありましたが、これを上回る
世帯が二五・八%、つまり八万六千四百
世帯、また今回の
平均五千円を上回る
値上げとなる
世帯は、
値上げ対象戸数の四五・七%、十五万三千三百
世帯になるわけであります。これに加えて、
前回改定時に上限七千円の
値上げとなった
世帯は、五
年間で何と一万七千円もの
値上げとなるわけであります。こうした短
期間における大幅な
値上げは、他の
公共住宅家賃の
改定はもちろん、
民間にも例を見ないところでありますし、これがどうして
激変緩和措置と言えるのかということであります。
ここで、
公団がこのような大幅
値上げを何のためらいもなく推し進める背景についても、
一言触れておきたいと思います。
その
一つは、
公団居住者の実態についての認識を欠いているのじゃないかと思います。
公団は、
入居者の収入を
勤労者世帯収入の第三分位の中位、五十六年度で年収四百三十八万円として
家賃の
負担比を計算しておりますが、現実はそうはなっていないということであります。
二、三の例を挙げてみますと、
公団自身が
調査をされました
公団居住者定期
調査、五十五年度によりますと、第一分位の
世帯が三一%、第二分位が二六%となっており、五七%が現実には第三分位未満となっておるわけであります。
さらに、私どもの団体が行った五十八年三月の
調査でも、年収二百五十万円以下の
世帯が一四・一%、二百五十万円から三百五十万円の
世帯が二六%、計四〇・一%となっておりますし、特に今回、上限一万円の
値上げ対象となる三十年代入居
団地の
世帯主の年齢を見ますと、五十歳以上が三六・五%、六十歳以上が一三・二%で年金生活
世帯と見られる
世帯が多いのであります。
公団は
家賃負担率が三%のものがあることを盛んに強調されておりますが、そういった
世帯もないわけではないでありましょう。しかし、全体としての
団地居住者の実態を正しく認識し、その上に立って諸策を立てるべきだと存じます。
もう
一つは、以上のような実態を反映して、
家賃を払い切れなくなっている
世帯が特に五十三年の
値上げ以降急増していることであります。
家賃滞納者は、五十六年度は九万六千二百件、全
世帯の一五・三%でございましたが、五十二年度の五万四千
世帯に比べますと、四四%も増加していることに注目しなければなりません。
以上のような
団地居住者の生活実態を抜きにして原案のような大幅
値上げが進められますと、好むと好まざるとにかかわらず、
家賃滞納者がさらに急増することは必至と言わなきゃなりません。私たちの
調査でも、一万円もの
値上げがされたら
団地に住めなくなるといった切実な声が数多く寄せられているところでございます。
住宅政策はそこに居住している人の立場に立って進めなければならないことは当然でありますが、これらの実態の上に立って、ぜひとも大幅
値上げはやめていただきたいのであります。
以上は、
家賃の大幅
値上げと
団地居住者の
所得との
関係でありますが、これらと関連いたしまして、
公団の
値上げ理由は、いわゆる
新旧団地家賃の格差
是正でありますので、
家賃額の
比較は
住宅の質の問題を抜きにしたのでは社会的公正に反するという点をあわせて重ねて指摘しておきたいと思います。
これも
公団の
調査を引用いたしますと、
公団の
供給した全
賃貸住宅のうち、最低居住
水準未満
世帯が二三・四%、
平均居住
水準未満
世帯が五四・六%もあるのであります。つまり、最近の新設
住宅に比べれば
家賃は相対的に低いということにしても、居住面積はきわめて狭いのであります。また
設備の劣悪さは、三十年代初期の
団地では、洗濯機置き場はなく、絶えず水漏れ事故におびえ、換気扇の取りつけ口すらないというところ、シャワー取りつけも禁止されているなど、人間らしい生活ができない状況にあります。さらに、その
老朽化の度合いもひどく、私どもの
調査では、
公団負担部分で傷みがひどくすぐ修繕が必要とされる
世帯が全
世帯の一五・二%、三十年度に
建設された
団地では二二・二%にも当たるのであります。
なお、お配りいたしました写真をごらんいただければ、実態の一部が御理解いただけることと存じます。
したがいまして、
家賃の不
均衡を云々されるならば、
住宅の質の不
均衡をこそ
是正すべきであると考えるわけであります。
第二は、
値上げ実施時期の問題であります。
以上申し上げました
団地居住者の生活実態に加えまして、現下の情勢は戦後最大、長期にわたる不況、百四十万人に及ぶ完全失業者、続出する企業倒産、公務員の賃上げ凍結とその
民間への連鎖的影響、
所得税減税の六年連続見送りによる実質増税、幼稚園から大学に至る教育費の
値上げ、社
会保障の切り下げなどによって受益者
負担の強化などが
前回改定時を上回る厳しいものがあります。少なくとも人勧凍結解除、
所得税減税の見通しなどが明らかになるまで実施時期を延期すべきであると存ずるのであります。また、
一般的に見ましても、九月という時期は庶民にとっては最も家計の苦しいときでもあります。
さらに、御
承知のように、
前回改定時における諸問題をめぐって、現在全国百三十
団地から三百名の原告団が選出され、
東京、千業、浦和、横浜、名古屋、神戸、大阪、奈良の八つの裁判所で債務不存在確認訴訟が係属中であります。決して一部の者の訴訟ではありません。こうした訴訟の係属中に再
値上げを実施するなどということは
一般の借家事件にも例を見ないところであり、こうした
意味からも実施時期についてはまことに不
相当であると存じます。
第三には、
敷金の
追加徴収には断固反対するものであります。これは
前回改定時における
国会要望事項に反しますし、他の
公共住宅家賃改定時にも例を見ないものであり、
公団がこうした悪習の道を開くべきではありません。さらに、居住者の
負担も上限では一挙に五万一千円となり、予期しない支出は
負担能力を超えるものであります。上限一万円もの
家賃負担と合わせると、これらの
対象者は六万一千円一挙に払わなければなりませんし、これまた滞納者を増加させるだけのことと思います。
第四には、
値上げ増収分の使途問題についてでありますが、基本的には
負担者受益の
考え方に立って、増収分は
値上げ対象とされる居住者の居住性の向上に全額向けられるべきでありまして、他の用途に使用されるべきものではありません。増収分の三割を新設
団地の
家賃の抑制に回すというのが原案でございますが、今後新設する高
家賃団地のために使うというのは全く筋が通りません。また、
値上げ対象団地への還元を図るに際しては、
団地居住者の意向を反映して、修繕、環境
整備計画等を策定すべきであります。
第五には、
値上げの
理由、根拠、
値上げ増収分の使途などについて、
団地居住者に納得のいく協議、話し合い、
説明をするべきであります。
前回改定時におきましてはこれが無視されたため、
団地居住者は一方的
値上げとして反発したのでございます。
近年、各種公共料金の
値上げに際しましては、国鉄、私鉄、電力、ガス事業者などは十分な資料、わかりやすい資料を準備いたしまして消費者の要求に基づいて各種
説明会、
民間公聴会などを開催し、相互理解を深めているところでございます。今回
改定に際しましては、今国会におきまして
建設大臣も、「
入居者の方々の納得のいくような、御理解を賜るような話し合いは必要である、」との趣旨の御答弁を繰り返しされているところでございますし、各紙の社説も異口同音に
入居者との話し合いの必要性を強調しているところでございます。
たとえば、三月二十日の朝日新聞社の社説は、「なぜ
値上げが必要か、
値上げ額
算定の根拠はどうなっているか、などについて
入居者にくわしく
説明し、了解を求めることだ。古い
住宅には
老人世帯も多い。その
人たちの不安にこたえるためには、今後の見通しについても可能な限りふれてほしい。」とされておるのでございます。私たちは、
公団家賃の
改定について必要以上の摩擦を好むものではありません。しかしながら、
公団が居住者との協議、話し合い、
説明などの開催を拒み、いわゆる大家さんらしい対応をしないということになれば、私たちは、
政府、
公団の言ういわゆる円滑な
家賃改定にはとても応じられなくなるでありましょう。そうした事態を避けることこそ、
公団と居住者の信頼
関係を確立する第一歩であり、管理の円滑化を図る基礎であると考えるものであります。
以上、五点について
団地居住者の立場に立って申し述べましたが、本院におかれましてはこれらの趣旨を十分御勘案の上、
公団と
団地居住者の円滑な管理運営を長期的かつ総合的な
観点からとらえられて、公正かつ民主的な御審議、御判断をされますよう
お願い申し上げる次第でございます。
以上をもちまして、私の冒頭
陳述を終わります。