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1983-03-23 第98回国会 参議院 外務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十八年三月二十三日(水曜日)    午前十時三十二分開会     ─────────────    委員の異動  二月十七日     辞任         補欠選任      赤桐  操君     小山 一平君  二月十八日     辞任         補欠選任      大石 武一君     熊谷  弘君  三月二十三日     辞任         補欠選任      鳩山威一郎君     嶋崎  均君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         増田  盛君     理 事                 安孫子藤吉君                 福田 宏一君                 松前 達郎君                 渋谷 邦彦君     委 員                 稲嶺 一郎君                 熊谷  弘君                 夏目 忠雄君                 鳩山威一郎君                 前田 勲男君                 町村 金五君                 宮澤  弘君                 小山 一平君                 田中寿美子君                 宮崎 正義君                 立木  洋君                 木島 則夫君                 山田  勇君    国務大臣        外 務 大 臣  安倍晋太郎君    政府委員        外務政務次官   石川 要三君        外務大臣官房会        計課長      斉藤 邦彦君        外務省北米局長  北村  汎君        外務省欧亜局長  加藤 吉弥君        外務省経済協力        局長       柳  健一君        外務省条約局長  栗山 尚一君        外務省国際連合        局長       門田 省三君        労働省婦人少年        局長       赤松 良子君    事務局側        常任委員会専門        員        山本 義彰君    説明員        内閣総理大臣官        房参事官     柴田 知子君        防衛庁防衛局調        査第二課長    三井 康有君        外務大臣官房領        事移住部長    藤本 芳男君    参考人        国際協力事業団        理事       石井  亨君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○参考人出席要求に関する件 ○昭和五十八年度一般会計予算内閣提出衆議院送付)、昭和五十八年度特別会計予算内閣提出衆議院送付)、昭和五十八年度政府関係機関予算内閣提出衆議院送付)について  (外務省所管)     ─────────────
  2. 増田盛

    委員長増田盛君) ただいまから外務委員会を開会いたします。  去る三月十五日予算委員会から、三月二十三日及び二十四日の二日間、昭和五十八年度一般会計予算、同特別会計予算、同政府関係機関予算中、外務省所管について審査の委嘱がありました。  この際、本件を議題といたします。     ─────────────
  3. 増田盛

    委員長増田盛君) まず、参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  本件審査のため、本日、国際協力事業団役職員参考人として出席を求めることに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 増田盛

    委員長増田盛君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  5. 増田盛

    委員長増田盛君) 次に、安倍外務大臣から説明を求めます。安倍外務大臣
  6. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 昭和五十八年度外務省所管一般会計予算概要について御説明申し上げます。  外務省予算の総額は、三千五百九十一億三千七百九十二万円であり、これを昭和五十七年度補正予算と比較いたしますと、百四十六億八千六百二十五万七千円の増加であり、四・三%の伸びとなっております。  一段と厳しさを増す国際情勢下にあって、近年国際社会における地位が著しく向上したわが国が、世界の中の日本として各国からの期待にこたえてその地位にふさわしい国際的役割りを果たし、積極的な外交を展開していくためには、外交実施体制を一層整備、強化する必要があります。この観点から、昭和五十八年度においては定員の拡充、情報収集機能強化在外職員勤務条件改善等に格別の配慮を加えました。特に、外交強化のための人員の充実は外務省にとっての最重要事項でありますが、昭和五十八年度においては、定員七十七名の純増を得て、合計三千七百十二名に増強されることになります。  また機構面では、本省においては情報課を設置し、在外においてはジェッダに総領事館を開設することが予定されております。  次に、経済協力関係予算について申し上げます。  経済協力は、平和国家であり大きな経済力を有するわが国が、世界の平和と安定に寄与する主要な分野であります。中でも、政府開発援助の果たす役割りはますます重要なものとなっており、このため政府は、五十六年から六十年までの五年間にわたる中期目標を設定し、経済協力強化に努めておりますが、その一環として、五十八年度予算においては、無償資金協力予算を前年度より七十億円増の九百九十億円としたほか、技術協力関係予算、なかんずく国際協力事業団交付金を、前年度補正予算比一〇・五%増の七百十九億円とした次第であります。  また、各国との相互理解の一層の増進を図るための文化、人的交流予算についても所要の手当てを講じております。  このほか、海外で活躍される邦人の方々の最大の関心事一つである子女教育の問題については、全日制日本人学校二校の増設を図る等の配慮をしております。  以上が外務省関係予算概要であります。  よろしく御審議のほどお願い申し上げます。
  7. 増田盛

    委員長増田盛君) 以上で外務大臣説明は終わりました。  この際、お諮りいたします。  外務省所管昭和五十八年度予算大要説明はこれを省略して、本日の会議録の末尾に掲載することにいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  8. 増田盛

    委員長増田盛君) 御異議ないと認め、さよう取り計らいます。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  9. 松前達郎

    松前達郎君 ただいま外務省所轄一般会計予算概要説明をいただいたわけなのですが、その中で、私がかねてから、外務省というのはいわゆる平和というものを中心課題として国際的な活動を行っていく、日本役割りが全くその活動の主役を演じてもいいのじゃないか、こういうことも申し上げていたわけです。国際活動をやる場合に、国際的な情報というものも、これは悪い意味じゃなくていい意味情報ですね、それをやはり強化する必要があるということを前に申し上げていたのですが、今回情報課というのが設置をされてくる、これはどういうふうな内容になっていくか、この内容によってはいろいろ問題があるかもしれませんけれども、いままでの外務省情報活動、いい意味での情報活動というものが非常に不足していたという点から見ると、これは私としては結構なことだと思っておるわけでございます。  それとさらに経済協力関係、これについてもいろいろ問題があると思いますが、ただ金だけ上げればいいというのじゃなくて、やはりもうちょっと受け入れ側立場に立った配慮というものをしていただければと、こういうふうに思っておるわけなので、ただいま伺いました内容に関しての感想をまず申し上げて、御尽力いただければと思うわけであります。  さてそこで、最近どうも経済摩擦の問題とかいろいろな問題が、特に日本中心に国際的な問題としてあるわけでございますが、そのほかに防衛圧力みたいな、防衛摩擦と言っていいようなそういうものも最近はどうも顕著になってきたような感じがするわけでありまして、その防衛問題一つ挙げましても、これは外務省防衛庁との関連というのは、ある程度関連づけなきゃならないこともわかるのですけれども、どうやら外務省の方が先行していくような感じもないではない、外務省防衛局というのを設置されたのではこれは困るわけでありまして、その点、しっかりひとつコントロールをしなきゃいけないのではないか、こう思うわけであります。  そこで、これは非常に重要な問題なので、いまこれから外務大臣に特にお伺いを申し上げたいと思うのですが、最近、外交上の問題として、アメリカ日本との関係というのが非常に緊密になっていく、いわゆる運命共同体のような形になりつつある、これは総理発言にもあったわけでございますが、特に極東においてソ連軍事的脅威が増加しているとよく言われるわけなのでありますが、この内容として考えてみますと、どうも日本に対する脅威ということよりも、アメリカに対する戦略的な対応というものがこういう脅威を生み出しているのではないか、私はそういうふうに解釈をしたいわけなのですね。わが国に対する攻撃が一体ソ連からあるのかどうか、恐らく皆さんはないのじゃないかと、外務大臣以下お考えだと思いますけれども、この脅威というのは一体どういうふうに理解しておられるか、ただ飛行機が、たとえばバックファイアがふえたとかふえないとかそういう問題ではなくて、もっと戦略的に見て大きな意味で一体この脅威というのはどういうふうに解釈しておられるか、それについてまずお伺いしたいと思います。
  10. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) アメリカに対してソ連戦略的な立場極東軍事力を増強しているということは、それは確かにそういうことが一面言えると思いますが、同時に、それが実は日本に対しても潜在的な脅威になっておるということも事実ではないだろうか。極東にたとえばSS20を百基置くとかあるいは北方四島にミグ21を配置するとか、海軍極東海軍力を増強しているとか、そういう状況を見てみますと、やはり極東方面ソ連軍事力増大というのは対米戦略という一環も大きくあるわけでしょうが、同時に、それはやはり日本極東の一国として、こうしたソ連軍事力の増強というのが一面においては直接的な脅威ということは言えないと思いますけれども、潜在的な脅威であるということは言えると思います。そして、その潜在的な脅威が最近は増大をしつつあるのじゃないか。ソ連極東軍事力増大によって潜在的な脅威増大をしておるのじゃないかと、こういうふうに私どもは判断をいたしておるわけでございます。
  11. 松前達郎

    松前達郎君 そうしますと、いわゆるアメリカとの同盟という関係においてそういう関係があるから、やはり潜在的脅威が増しているのだ、そういう部分が非常に大きいと、そういうふうに解釈されているのじゃないかと思うのですけれどもアメリカの核の傘の中に日本がいるとよく言われておるわけですね。いわゆるICBMとかそういう大陸間弾道弾米ソ間が張り合っている間は、まだ日本はどっちかと言えばそれから除外されたといいますか、比較的気楽と言ってはおかしいのですが状況がいまと違っていたのでしょうが、ところが最近では中距離ミサイル、いま大臣おっしゃいましたSS20ですね、それからトマホークなどの配備というものがたとえば米ソ戦略として行われるような状況になってきますと、こうなると、もうすでにいわゆる大陸間弾道弾によるバランスのもとにおける抑止力というものよりももっと危険な状態というものが出てくるのじゃないか、いわゆるローカルな戦争において、争いにおいてこれが使われる可能性があるということですね。中距離ミサイル巡航ミサイルの時代になりますと、いわゆる核の傘と言われたものが消滅しつつあるのじゃないかと私は解釈しているのですけれども、その点どうお考えでしょうか。
  12. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これは私たちは、やはり日米安保体制の中でわが国の平和と安全が確保されておるし、今後ともこの体制というものは強化していかなきゃならない、こういうふうにえるわけでありまして、そういう中でのアメリカの核を中心とするところの戦力というものが、日本にとりましても日米安保体制を維持していくという上から非常な抑止力ということに大きく働いておる、私はそういうふうに考えておるわけでありますが、同時にいまお話しのように、最近ではいわゆる中距離核ミサイルヨーロッパにおいてもあるいはまた極東においても配置されるというふうな状況になりまして、これはあくまでも中距離、いわゆる五千キロというふうなことでありますから、極東配備された中距離核ミサイルアメリカ本土まで及ぶということではないわけでございます。そういう限りにおいては、やはり極東の安定と平和というものを考えますときに、私たちとしてはこの配置がストレートに日本に対する攻撃意図というものを表明している、意図をはっきりあらわしているというふうにはとらないわけでありますが、しかし、潜在的には非常な脅威になりつつあるということははっきり言えるのじゃないかと思うのであります。したがって、私たちとしてはINF交渉、この中距離核の軍縮というものに非常に重大な関心を持っておるわけで、あくまでもこれは極東ということでとらわれることなく、あるいはまたヨーロッパという面でとらわれることなく、やはり全世界的な規模でこの問題は対処されるべきではないか。そういう中で、日本も非常に重大な関心を持ってこれに対する日本立場を、アメリカに対してもあるいはその他の諸国に対しても強く表明をいたしておるわけであります。
  13. 松前達郎

    松前達郎君 いま外務大臣がおっしゃったように、中距離ミサイル核搭載ミサイルが出現しますと、いままでのような米ソ間だけのいわゆる核抑止力としての大陸間弾道弾だけですべてを解決するわけにいかなくなってくる。当然ヨーロッパでいま起こっている問題ですね、パーシングIIとそれからトマホーク等配備に関してのヨーロッパの西側の国民の不安というものも、ある意味で言うともう対岸の火事じゃなくなってきているのじゃなかろうか。われわれの方にこれが——これはアメリカに直接中距離ミサイルが届きませんから、もっぱら極東だけの範囲でそのカバーが行われるとなれば非常に危険な状況をはらんでくるということになると、私もそう思うわけなのです。  そこで問題になってくるのが、たとえば今度あのエンタープライズが、佐世保に十五年ぶりと言われるのですが入港したわけでありますけれども、これは反対する団体とかあるいはその他エンタープライズ入港に対しての抗議が行われておるわけですが、これもまた十五年前と大分その様子も変わってきたようでありますけれども、こういう様子が変わったということを政府の方でしめたと思わないで、やはりこのエンタープライズ入港というものの持っている意味ですね、これはただ単に乗組員の休養とかそういう意味じゃないと私は思っておるので、この入港問題というのは大きな問題だろうと私は思うのです、さっき申し上げたような状況の中における入港でありますから。  米国のすべての艦船核武装をしているということ、これについてもいろいろな証言等でもうすでに以前から言われていることでもありますし、政府は、核は持ち込んでいないと確信すると恐らくおっしゃるだろうと思いますが、どうもその辺が私はもうナンセンスのような気がしてしようがないわけです。それでまた同時にそのエンタープライズを中東から極東へ、逆スイングというふうな言葉が使われていますが、させるということは、これは極東重視というアメリカ戦略一環であろうと私は思います。第七艦隊によるソ連艦船あるいは航空機も含めてそれを日本海等に封じ込めていこう、それがまた同時に、総理大臣発言にありますような四海峡封鎖——海峡と言ってもいいかもしれません、そういうこととリンクしていくのじゃないか。空軍で言いますとF16が三沢配備をされてくる。そういうふうな一連のものを、各個を特に一つ一つじゃなくて全体を眺めていきますと、やはりどうも極東に対する脅威に対しての対応というものが非常に急速にこれが増加されていく、進められていく、こういうふうな気がしてならないわけなのです。  そうしますと日本は、米国運命共同体という言葉があるように、どうもアメリカの石垣になってしまうような感じも持たないではない。いわゆるそういう戦略のプログラムがあってそれにどうも組み込まれてしまった、こういうふうに私は思っておるわけなので、もっと言い方を変えますと、アメリカのいけにえになるのはわれわれはもうお断わりでありますから、そういう面でいきますと、これが非常に大きな重要な役割りを持っていると思うのですが、このエンタープライズ入港に関して、恐らく私は核搭載についてはアメリカは明らかにしないと思いますが、この点について現在までにどういうふうなアメリカ側との話し合いが行われたか、それについて御回答いただきたいと思います。
  14. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) アメリカがすべての航空機とか艦船について核の有無を明らかにしないということは、これはしばしばアメリカ政府言明したところでありますし、アメリカのこれはもう基本的な戦略上の、アメリカ自身戦略上の立場の姿勢でございます。しかし、同時にアメリカ日本との間には日米安保条約を結んでおって、この日米安保条約、そしてそれに関連する取り決め、そういうものを踏まえた事前協議条項は誠実に遵守するということをこれはもうしばしば言明をしてきておるわけでありまして、わが国としてもいわば同盟国安保条約というものを通じての同盟国である日米間の条約というものは、これはあくまでもお互いの信頼関係で成り立っているわけでありますし、これが遵守されるという大前提のもとでやっぱりこの問題をとらえていかなきゃならぬと思うわけで、日本としても安保条約の義務は履行しますと、アメリカもこれを履行しますということをはっきり言っておるわけでありますし、これは何回も言い続けておるわけであります。  そういう中で、しかし最近はいまおっしゃるようにエンタープライズ入港であるとかあるいはF16の三沢基地への配備であるとか、そういうことで国民の中に、いまお話しのようにアメリカが核を配備するのじゃないかと、こういう疑惑が起きてきたわけであります。したがって、これはやはりわれわれとしても政府としても、こうした国民疑惑を払拭しなきゃならないと、こういうふうに考えまして、私も先般アメリカマンスフィールド大使にお目にかかりまして、日本のいわゆる非核原則立場というものをはっきりと申し上げました。そうして国会の論議等についても述べたわけでございます。その結果としてアメリカは先ほど言いましたように、しばしば日本政府言明をしているように、日米安全保障並びにその関連取り決め、それに基づくところの事前協議条項は、これを誠実に遵守しますということをマンスフィールド大使もはっきりと言われたわけでございますから、私は日米がここまで信頼関係で結ばれておりますし、確固とした条約というものがあるわけですから、その条約をきちっと守るということですから、われわれとしては日本政府非核原則あるいは事前協議核持ち込みに対しては一切これをノーと言うことについての日本立場というものはアメリカ十分理解をして、その上に立ってF16の配備だとかあるいはエンタープライズ入港というものは出てきておると、こういうふうに確信をいたしておるわけなのです。
  15. 松前達郎

    松前達郎君 この事前協議というのは、これは私前から外務省皆さんといろいろ議論をしておるわけなのですが、これがどうもはっきりしないですね。この中に絶対に核を持ち込まないという事項があれば、核というのを挙げてあれば話は別だと思いますが、どうも事前協議というのは、アメリカ側として核の存在については公表できない、発表できない、したがって日本側としては協議を申し入れてこなければ核を持っていないと確信するというふうなことなので、これは恐らく大臣考えられてもすっきりしないと思うのですよね。ですからこの辺の問題は、われわれとしてはいまだにやはりこの事前協議についてはすかっとした印象がないわけなのですね。ですから、これはいろいろと議論いたしますと、昔からかつて行われましたラロック証言とかいろいろなものがありますね。こういう問題を通じて考えていきますと、どうもはっきりしない点があるというのですが、その中で特に通告——通告といいますか、事前に核を持ち込む場合は協議をするということですね。日本米国事前協議をするというのだけれども日本側は、もうすでに核を持ち込むということであればこれを拒否すると。アメリカ側は、それだったら核を持ち込むかどうか、核を持っているかどうかのことは明白にできないという、これはアメリカ一つの国内の法律もありますね。そういうことであれば明白にできないから、その点は何も言わないでただ協議をしないということなので、どうもその辺がはっきりしない面があろうと思うのです。今後恐らくこの事前協議というものは論議の対象になっていくのじゃないかというふうに思うわけです。  たとえばエンタープライズが核を所有していたとしても、アメリカとしてはこの核を所有していることを表明しないわけですね。明らかにしない。だからわれわれとしてはわからない。明らかにしないということは事前協議をしないということですから、当然しないとなれば持っていないと確信すると、この辺の問題ですね。これがやはりどうも私としてはまだはっきりしない点があるのですね。これは恐らく事前協議事項そのものがそういうふうなものですから、いつまでたっても私はこれははっきりしないことだろう、かように思っておるわけなのですが、いずれにしてもこの核の問題というのは、特にさっきの中距離ミサイル等を含めて、これから先極東においてはこの核の存在あるいは配備等の問題というのは非常に大きな問題点になってくるのじゃないかと思うのです。ですから、その点わが国としての非核原則というのを堅持していく、将来とも堅持していくということであれば、その点はひとつわれわれ国民の意思の代表として、やはりいつまでもこれを堅持していきたい、こういうふうに思っておるのですが、その点いかがでしょうか。
  16. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 非核原則というのは、言うまでもなくわが国にとりましては国是ということになっておりますので、今後ともこれを堅持していくことが最も重要なことであると、こういうふうに考えておりますし、またそういうことを十分踏まえて日米安保条約の運用というのも行われるわけでありますし、またアメリカもそうした核に対する日本国民の感情、そして日本政府国是として打ち出しておる非核原則アメリカとしても十分これを理解して、その上に立って事前協議条項はこれを誠実に遵守するということをしばしば言っておるわけですから、私どもとしてはこれで十分じゃないだろうかと、こういうふうに考えておるわけであります。  私はやはりエンタープライズあるいはまたF16というものの配置等は、結局アメリカの、要するに極東におけるプレゼンスを維持していくということであると同時に、またいまの抑止力というものを一面において高めていくということにつながっておると。私はやはり米ソ間の平和といいますか、東西間の平和というのは、残念ながら軍事バランスの均衡によってこれが保たれているというふうに言わざるを得ないと思うわけで、そういう意味において、このソ連極東戦力というのが非常に増大した今日においては、やはりこれに対抗するためにアメリカ軍事力を高めていく。それは結論的には現実的にそれが抑止力を高め、そしてこれが平和をもたらしておると、そういうふうに私は考えておるわけでございます。もちろん、全体的に中距離ミサイル等についての軍縮交渉が進んでこれが撤廃される、ソ連全土的に撤廃されるということになれば大変結構なことであると思うし、われわれはそういう意味でゼロオプションというものを強く主張しておるわけですが、しかし今日の現実の姿というものは、やはり軍事力バランスの上に平和が成り立っておるということを現実的にはこれはわれわれとしても理解して、その上に立って日米安保条約というものの効果的な運用というものを進めていく以外に私はないのじゃないか、こういうふうに考えておるわけです。
  17. 松前達郎

    松前達郎君 いま大臣がおっしゃいました、非核原則を遵守するという問題については将来ともこれは遵守していくと。それからいま軍事バランスの問題をおっしゃったわけなのですが、バランスを保つという考え方というのは、常にそれがバランスを保つために階段をどんどん上がっていくという、そういう方向でいまバランスが保たれているわけですね。ですから、非常にこれはある意味で言うと危険な状況を常にはらみながらバランスを保っているということになると思うので、われわれとしては、本来ですとバランスを保つのは結構でしょうが、そのバランスを保ちながら下げていく、両方とも少なくしていくというのがわれわれの役割りじゃないかと。これはどなたもみんなそうお考えだと思うのですね。そうしますとたとえばソビエトあたりが、核を持っていないところは核で攻撃しないというふうな、公式の提案じゃないかもしれませんが、社説みたいなものでソビエトがそういうことを言っているわけですが、そういうふうなことの話し合いを始めてよろしいというソビエト側の提案みたいなものがあるわけですね。こういうものもやはり一蹴するのじゃなくて、その辺、少なくしながらバランスを保つという方向に向かうのであれば、こういうものをやはり検討しておく必要があるのじゃないかと思うのですけれども、その点いかがでしょうか。
  18. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) おっしゃるように軍事力軍事バランスを保つということからいけば、米ソ両陣営ともほうっておけば、やはり軍拡の方向へ進んでいくわけでしょうから、どうしても軍縮というものがバランスのとれた形で行われることが最も必要じゃないかとういうふうに思いますし、私たちもそれを強く事あるごとに主張をいたしておるわけであります。そういう中で、軍縮に関連してのいまの御提案等につきましては、これは世界の平和といいますか、均衡のとれた軍縮というものが行われる上において一つ役割りを果たすということになれば、これは検討に値することじゃないかと私は思っておるわけですが、しかし、これが現実的に行われる可能性があるかどうかということを私たちはその前に十分検討、勉強しなきゃならぬ問題じゃないかと、そういうふうに思うわけです。
  19. 松前達郎

    松前達郎君 それからもう一つ、これはさっきの事前協議に戻るわけなのですが、事前協議の中に核持ち込みの問題、いわゆるイントロダクションという言葉が使われているわけですね。これがどうも非常にあいまいなのですね。解釈が日米間で違うような気がするのですが、このイントロダクションというものをもっとはっきりと定義をするように詰める意思はありますか。
  20. 栗山尚一

    政府委員(栗山尚一君) お答え申し上げます。  イントロダクションという英語の意味につきましては、委員御記憶のとおりに、いわゆライシャワー発言なるものがございましたときにいろいろ御質疑がございまして、その際、政府側より御答弁を申し上げた経緯がございますが、イントロダクションという意味が、通常の英語の意味といたしまして、いわゆる日本語で申します持ち込みというものに該当する言葉として普通に使われ得る言葉であると、すなわち、陸上に持ち込んで配備をするということに限定されるような言葉として理解すべきものではないというふうな趣旨で御説明申し上げております。これが政府考え方でございまして、したがいまして、核兵器の日本への持ち込みという言葉を英語であらわす場合に、それをイントロダクションという言葉で表現するということが特に問題であるというふうには私ども考えておりません。
  21. 松前達郎

    松前達郎君 ちょっとしつこいようなんですが、持ち込みというのがただ単に寄港したと。たとえば船に積んでそのまま港へ行ってまた出ていったというのが持ち込みに当たらないというのか。持ち込みというのは持って入り込んできてそれを陸上に移していくという作業、こういう段階が持ち込みになるのか、その辺の問題がどうも日米間で解釈がはっきりしないので、これ、注釈つけてぴしゃっと解釈されたらどうなのですか、お互いにその辺を合意して。そうしないと、いつまでたっても持ち込みの解釈でもって、私たちはこう思いますということですべて終わってしまう、その辺を少し詰めて協議する御意思はありませんか。
  22. 栗山尚一

    政府委員(栗山尚一君) お答え申し上げます。  これも従来からたびたび御説明申し上げているところでございますが、事前協議との関連で具体的に問題になります表現は委員よく御承知のとおり、これは例のいわゆる岸・ハーター交換公文にはっきりと書いてあります、合衆国軍隊の「装備における重要な変更」というのが実は条約上使われておる正式の表現でございます。それでイントロダクションという言葉は、実は藤山・マッカーサー口頭了解との関連で使われておる言葉でございまして、本来的に条約との関係で申し上げれば、岸・ハーター交換公文に書いてあります合衆国軍隊の「装備における重要な変更」、そこで言っております「合衆国軍隊」というのは何かと言えば、これは日本配置されておる合衆国軍隊ではなくて、安保条約の第六条で合衆国に提供しております日本の施設、区域を使用する合衆国の軍隊である。したがいまして、別に陸上に上がってくる米軍ばかりではなくて、施設、区域として提供しております港に出入りをする、あるいは飛行場に出入りをするアメリカの軍艦、飛行機というものも文理上当然岸・ハーター交換公文で言うところの「合衆国軍隊」に該当する。その「装備における重要な変更」というのは、従来から申し上げてありますとおりに核兵器を持ち込むことであ る。したがいまして、先ほど私が御答弁申し上げましたことの繰り返しになりますが、およそ日本の施設、区域に出入りをする合衆国軍隊が核兵器を持ち込むときには事前協議をしなければならない、これが岸・ハーター交換公文の趣旨であるということでございまして、したがいまして、実はイントロダクションという言葉がどうかということはむしろ二義的な問題でございまして、交換公文上いま私が申し上げましたようなことで、これはきわめて明確になっておるということは従来から御説明申し上げているとおりだろうと思います。
  23. 松前達郎

    松前達郎君 余り時間がないのですが、交換公文の「装備における重要な変更」に当たるわけですね。それでその口頭了解で、核弾頭及び中長距離ミサイルの持ち込み並びにそれらの基地の建設ということであったわけなのですね。その辺が、用語の問題等もあると思いますが、事前協議というものの本質から言って、核を持ち込んじゃ困るのだと日本側は言っている。ところが、アメリカの方では核兵器の所在は明らかにできないと言いっているわけですね。そこに一つの大きな問題点があるのじゃないか。ですから、事前協議をする必要ないということに解釈してもいい、その辺の問題が私まだすっきりしないわけですね。これはもう時間がありませんから、またいずれかの機会にいろいろと論議さしていただきたいと思うのです。  さてそこでこのままでいきますと、今度戦艦ニュージャージーというのが、古い船を引っ張り出してアメリカが改装しまして、これにトマホークを積んで、三十二基搭載できると言われているのですが、これがいわゆる極東の方に編入をされてくるわけですね。もしかこれが寄港する通告がある、あるいは寄港を要望してきた場合には政府としては認めますか。
  24. 北村汎

    政府委員(北村汎君) その場合にはもちろん日米安保条約及びその関連取り決めに従って対処するつもりでございます。
  25. 松前達郎

    松前達郎君 そうしますと、全くエンタープライズと同じ取り扱いをするということで解釈していいですか。
  26. 北村汎

    政府委員(北村汎君) 先ほど松前委員が御指摘になりました、トマホークを搭載しておるという御指摘でございますけれどもトマホークにつきましてはこれは核、非核両用のものでございます。もしこれが非核のものである限りこれは事前協議の対象になるものでもございませんし、もしそれが核である場合は当前事前協議の対象になる、アメリカから事前協議があるはずであると、そういうふうに考えております。
  27. 松前達郎

    松前達郎君 そうしますと、アメリカ側は核兵器の存在を明らかにできない、こういう大原則があるわけですから、当然核を持っているということを言わないわけですね。言わないとすれば、いまと同じように事前協議の対象にしない、しなければ持っていないと確信して入港を認めると、こういうことになりますね。
  28. 北村汎

    政府委員(北村汎君) 先ほど松前委員から、アメリカは核の存在を明らかにしない、したがって事前協議をしないのではないかと、こういう御質問ないしは御指摘が何度かあったわけでございますが、この点は一つ明らかにしておきたいと思いますのは、アメリカが核の存否というものを明らかにしないというアメリカの政策、これはアメリカの原子力法、マクマホンその他そういう政策があるということは、これはアメリカが何度も言っておりますところではございますけれども、同時に私どもの照会、これは昭和四十九年十一月七日に、米国務省より私どもが回答を得たアメリカ側の公式の見解でございますが、それによりますと、「合衆国政府は核兵器の所在を高度の機密性を有する国防情報と看做している。合衆国政府は、核兵器の所在を確認することも否定することもできないとの立場を種々の機会に明らかにしてきた。」と、そう言いまして、しかしながら、「合衆国の原子力法又はその他の如何なる国内法も、正当に権限を付与された合衆国政府の官吏が事前協議に関する約束を履行することを禁止し又はこれを妨げるものではない。」ということを正式にアメリカ政府から私どもの方に回答をしてきております。したがいまして、核を搭載しておる場合には必ず事前協議を行うというのはアメリカ条約上の義務でございます。
  29. 松前達郎

    松前達郎君 そこで防衛庁の方にお伺いしたいのですが、ニュージャージーという戦艦の問題なのですが、これ三十二基のトマホーク、たった三十二積んで、通常いわゆる核弾頭じゃないものを積んで、こんなものをわざわざ改装して、金かけて、このでっかいのをあちこち動き回らせる必要があるかどうか、その辺はどうでしょうか。
  30. 三井康有

    説明員(三井康有君) お答えいたします。  私どもは、ニュージャージーが搭載すると言われておりますトマホークの具体的な装備の状況についていまだ承知いたしておりませんので、いまの御質問につきましては何ともお答えしかねるわけでございます。
  31. 松前達郎

    松前達郎君 トマホークそのものは御存じでしょう。
  32. 三井康有

    説明員(三井康有君) トマホークにつきましては、先ほど北米局長の方から御答弁ございましたように、通常型と核型と二つのタイプがございまして、将来このニュージャージーにどちらがいつ積まれることになるのかといったことにつきましては、まだ細部、私ども承知していないというふうに申し上げておるわけでございます。
  33. 松前達郎

    松前達郎君 清まれるかどうか承知していない、まさにそのとおりでしょうけれども戦略的意義が、この戦艦をわざわざ改装して金をかけてまでトマホーク中心とした装備で来るという、来るというか参加すると、そういうふうなことになりますと、当然これは核というのが搭載されることを前提として考えなきゃ意味ないのですよね、そんなところへ金をつぎ込んでも。ですから、そういう意味でいまどういうふうに考えておられるか、これをお聞きしたのですけれども、これはまあいいです。いずれまた私どもの方でも調査をしてみますけれども。  いずれにしてもそういったことで、どうも不明瞭な中で、われわれが疑いを持たなきゃならないような中でだんだんと核を搭載した艦船が恐らく寄港してくるであろう、こういう可能性が非常に多くなってきつつある。というのは、さっき私が冒頭に申し上げたように、いわゆる中距離ミサイルとかそういうものが戦略上非常に重要になったという点から言って、そしてしかも極東の、たとえばオホーツク海が戦略的な意味を持ってきたとかいろいろ言われていますけれども、そういったような問題と兼ね合わして考えますと、これは外交的に見て非常に大きな総合的な判断が必要だというふうに私は思うのですね。たとえばオホーツクが非常に重要になってくれば、北方領土をただ返せ返せと言っても返すわけはないのですよ。これはもうだれが考えてもそうですね。だから、その辺の全体の問題を戦略的に見ていかないと、われわれは、どうもただ同盟関係というだけで、運命共同体というだけで物を処理できない問題があるのじゃないか、こう思うものですから、きょうちょっとほかにも質問がいろいろとあったのですけれども、それだけに集中してしまったわけでありますが、またこれはいろいろなチャンスがあると思います。  そこで、私の基本的な考え方というのは、防衛力がすべての平和を維持するということじゃなくて、やはり外交というものがその前にあって、外交手段というものが国の安全を含めて最も先兵としての役割りを担うべきであろう、こういうふうに私は思っているわけなので、その裏に防衛があるから外交がやりやすいとかそういうふうな考え方じゃなくて、たとえば世界的な核軍縮に向かっていくのであれば、日本がそのために努力するならもっと積極的にやっていいじゃないか。  私最初に、そういうことはないかもしれませんが、ちょっと外務省防衛局なんということを申し上げたのですが、これはちょっと比喩にとっていただきたいのですが、また同時に、そのためには情報的な収集、国際的な情報ですね、いわゆる軍事戦略情報じゃありません、そういった情報をやはりこれからも集めながら、各国との間の国際的な調整といいますか、協調といいますか、そういうものを推進しなきゃいけないのじゃないか、こういうふうに考えたものですからちょっとそれに関連して質問さしていただいたわけであります。その点ひとつ最後に大臣からお伺いして、私の質問を終わりたいと思います。
  34. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 確かにおっしゃるように、わが国の防衛力はわが国の防衛の基本的な方針のもとにこれを進めていかなきゃなりませんし、またこれはいっているわけでございます。もちろん非核原則とかあるいは専守防衛であるとか、あるいはまたいわゆる必要最小限度の防衛力の維持とか、そうしたわが国の防衛の原則がございますから、そういう中でのこれからの防衛力の維持を図っていくわけですが、同時に必要なことは、いまお話しのように外交の分野というものが大変重要になってくるわけであります。わが国としてもこれだけの、経済的にも自由世界の中で国民総生産の約一割を占めておるだけに、世界の中における発言力も非常に大きくなっておりますし、また半面、国際的な責任というものも重くなっておるわけでございますので、そうした総合的な立場に立って外交の面で積極的にこれを生かしてそして世界の平和に貢献をしていく。わが国外交というのはあくまでも平和外交でございますし、わが国の実力を踏まえた形で世界の中でこれを積極的に推進していくということがきわめて大事であろうと思うわけであります。  そのためにはいまお話しのように、やはり情報というのが非常に重要な価値を持ってくるわけでございまして、たとえばINF交渉等がいま行われておりますが、果たしてそういう中でヨーロッパがこれに対してどういう態度をとっているのか、あるいはどういう考え方であるのか、アメリカに対してどういう働きかけをしているのか、そうした面等もわれわれが入手することができれば、それなりの日本としてのまた役割りも出てくるわけでございますので、やはりそういう面でのあらゆる情報というのを入念にとって、その上に立った正確な判断のもとに外交というものは進めていかなきゃならぬ、こういうふうに思うわけでございます。おっしゃるように、こういう面での外交の推進、平和外交の推進、さらに情報の収集能力の強化ということは今後の大きな外交の課題である、こういうふうに考えております。
  35. 田中寿美子

    田中寿美子君 安倍外務大臣、ビルマから帰っていらっしゃいまして御苦労さまでした。  短い時間に非常に綿密な質疑はできないと思うのですけれども、私は、わが党のお二人が軍事関係の御質問をなさいますので、経済問題の方に焦点をしぼりたいということと同時に、大部分の男性の議員さん自身も御存じの余りない国連婦人の十年の問題と、この二点について御質疑したいと思っております。たぶんこの問題について、私がもう一度御質問する機会はないかもしれませんので、ここでどうしても質疑しておきたいと考えている次第なのでございます。  一つは、外務大臣の所信表明演説でも、発展途上国への経済協力関係には非常に力を入れるのだという言葉があります。それで、政府開発援助ですね、ODA、これの拡充を、これはたびたび方方の委員会でお述べになっているかもしれませんのですけれども、八五年までに、一体いまの倍にできるのだろうかどうだろうか、非常に私は疑いを持っているわけです。それでたとえばビルマには、外務大臣は大変よい印象を持って帰られたというふうに報道されておりますけれども政府開発援助では、順序からすればインドネシア、韓国、タイ、フィリピン、ビルマ、こういうふうな順序にこれまで援助してきたかと思うのですけれども、特に今回、経済援助について何かお約束をしていらっしゃったのかどうか、そのことを最初にお伺いします。
  36. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) わが国の開発途上国に対する援助は、年々これを拡大しているわけでありまして、五十八年度予算においても御審議を賜っておりますように、厳しい財政の中にあってはわれわれとしても全力を尽くしてこれを伸ばしております。先ほどお話もありましたように、一九八一年から五年間を、何とかその前の五年間の倍増に持っていきたいということで努力を続けております。財政の状況もありましてなかなか困難な点もあるわけですが、しかしわれわれとしては、やはり世界に貢献できるのは開発途上国に対するこうした経済協力強化するということが最も大きな意味を持つものと思っておりまして、これからも努力をしたいと思うわけでありますが、そういう中で、ビルマは東南アジアの一国でありますし、同時にまた日本とは歴史的にも深いつながりを持っておる。そして同時にまた、ビルマが経済の開発等に関しては非常にまだおくれておる、こういうこともございますので、年々これに対する援助はふやしていっておりまして、私も今回ビルマに参りましてビルマの大統領を初め閣僚の皆さんにもお話ししたのですが、少なくとも八三年度の経済協力は八二年度よりは増大をしたい、日本も財政的に厳しい面はあるけれども、何としても八二年度よりは八三年度は増大をしたい、そのためにいま努力を重ねておるところだと、こういうことを申したわけでございまして、八三年は何とかビルマについては、これを八二年度よりは増大をしなきゃならぬと、こういうふうに考えてこれからも努力をするつもりでございます。
  37. 田中寿美子

    田中寿美子君 昨年、第二回の国連軍縮総会のときに前の鈴木総理大臣出席されて、そしてその演説の中に、軍縮によって浮いた金を開発途上国の援助に充てるべきだというようなお言葉があるわけなのですけれども、軍縮によって浮いた金というような言葉だけでは浮いてこないわけですね。ですから、そういうことを言う以上は、日本が軍備においてではなくて経済において平和に貢献するというその立場からも、各国とも、たとえば防衛費、軍事費の一%なら一%を拠出しようじゃないか、そして非常に苦しんでいる発展途上国へ回そうではないかというような具体的な提案をしてほしかったということを、私そのときも後で申し上げましたけれども日本が二国間で援助するのもそうですけれども、やっぱり広島、長崎、そして平和憲法を持っている日本としてはそのくらいの具体的な提案をする意思がおありになってもいいのではないかと思いますが、外務大臣、いかがですか。パーセンテージについては、私が一%と言うのはこれは単なる比喩でございます。
  38. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 私たちは、とにかく今後五年間というものを、これまでの五年間の倍増という方向だけは何とか実現すると。これが最も具体的な開発途上国に対する協力のあらわれ、あかしになってくるわけでございますから、第一目標としてはこの目標に向かって今後とも最大の努力を重ねてまいりたいとこういうふうに思っておるわけであります。私たちは、世界の先進国との比較の上において見ると、そういう努力を重ねながらも、総額においては伸びるわけですが、しかし、わが国国民所得等が伸びる状況の中にあってはまだまだ十分ではないなというふうな感じも持ちながら、努力をさらに重ねていかなきゃならぬ、こういうふうに思っております。
  39. 田中寿美子

    田中寿美子君 世界に向かって呼びかけるような意欲を持っていただきたいと思いますが、それについてのお答えはありませんでしたけれども、いまの日本政府開発援助外務省関係二千四百六十九億余でございますね。それから国際機関関係の出資千七百七十九億、それから、もちろん大蔵省にたくさん政府開発援助の要求予算が入っておりますね。それらを合計して、比率は、GNPの〇・三四四というのが本当でしょうか、〇・二八だったと思いますが。これには借款の方も入れて比率を出しているのでしょうか。たとえば海外経済協力基金など財投から出している分も含めての計算でしょうか。
  40. 柳健一

    政府委員(柳健一君) 昭和五十八年度のODAの予算でございますが、これは日本の援助予算は大体半分が一般会計でございまして、残りの半分は財政投融資あるいは国債になっております。ただいま先生のおっしゃいました外務省予算はまさにそのとおりなのでございますが、その財政投融資の全部を入れまして、昭和五十八年度の日本のODAの予算は対前年度比で二・八%の伸びであり、かつGNP比が〇・三四四と、こういうことになっております。その中にはただいまおっしゃいました円借款、全部入っております。
  41. 田中寿美子

    田中寿美子君 そうすると〇・三四四でしたら、もし八五年までに倍増ができれば、〇・七という途上国が要求しているパーセンテージまでいくことができるわけじゃないでしょうか。
  42. 柳健一

    政府委員(柳健一君) 先ほど大臣が申し上げました倍増計画を達成することの中に、つまり中期目標の中に対GNP比率も伸ばすように努力するということがございますが、次の五カ年間に〇・七%まで持っていくということにはなっておりません。
  43. 田中寿美子

    田中寿美子君 GNPも伸びますから、単に〇・三四四の倍増になったから〇・七になるということにはならないと思いますけれどもね。  それで南北問題の解決というのは大変むずかしい。先般も非同盟諸国会議が開かれて、そして経済宣言の中には、一九八五年までに国民総生産の〇・七%のODA出資の達成を目指すというようなことがうたわれておりますね。ですから、非常に強く発展途上国からの要望が出されているということを頭に置いて、いわゆるグループ77——国連の中の途上国グループが一九七四年に新国際経済秩序の樹立宣言をいたしましたですね。そして、続いて二十九回の総会でそれの具体策として国家間の経済権利義務憲章の採択をした、そのとき日本は棄権をしておりますがね。  しかし、この国際経済新秩序ということは、ずっと途上国側から要請されてきている。そして、長い間植民地であった、戦前に植民地として搾取されてきた、その後も先進工業国が途上国の第一次産品を輸入して、そして国内の生産によってGNPを上げていっている、経済繁栄をしてきている。こういうことについての不満と要求がずっと出されてきていると思うのです。それで、やっぱりいまはグローバルネゴシエーションなんといって国連で包括的にこの問題は解決しようということになっているけれども、いつもアメリカは反対の立場に立つ。アメリカが反対の理由は何なのですか。
  44. 門田省三

    政府委員(門田省三君) アメリカは、反対というよりも包括交渉を実施する上において一定の条件をあらかじめ明らかにしておきたい、こういう態度を従来とってきておるのでございます。その条件と申しますのは、既存の国際機関の権限を棄損または無効化しないと。たとえばIMF、世銀、これは通貨金融の部門でございますが、また貿易面におきますガット、これら諸機関の固有の権限が損なわれないようにと、こういう条件を付しております。その条件が全うせられる限りにおきましては包括交渉の開始に異存はない、こういうことでございます。ただ、先生御指摘がございましたように、途上国におきましてはそのような条件というものについてこれを納得していないという事情がございまして、包括交渉はいまだ開始の運びに至っていないという現状でございます。
  45. 田中寿美子

    田中寿美子君 非同盟諸国会議の宣言の中にも国連包括交渉を早く達成してほしいというようなこともうたわれているわけなのですが、これは国際経済新秩序という考え方は、いまのこの世界のグローバルな立場に立っての公正の原理といいますか、かつて不当な待遇を受けてきた国に対して平等に持っていくためには、途上国に対する優遇措置が必要だ、特恵的な措置も必要だという考えに立っていると思うのですね。そのような考え方自体に対して、外務大臣はどうお思いになりますか。つまり、長い間抑えられてきた、そして資源や労働力の安いのを使われてきて、北側が富み栄えてきた。だから、このままでいくといつまでたっても平等にはならない。平等にせよというときには引き上げるための特別の優遇措置が必要だという考え方に立っている。これは公正の原理というふうに言われていると思うのですけれどもね、これはお認めになりますか。
  46. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これはそのとおりだと思います。南北問題は非常にむずかしい問題ですし、やはり南の開発途上国に対して先進国がそれなりの援助を進めるということは当然のことでありますし、これまでもすでにODA予算あるいはまた特恵制度等も実行してきておるわけでございますけれども、しかし、何といいましても最近の開発途上国の経済は一層悪化をしている、こういうことで今回の非同盟会議におきましても、政治的な問題については結論はなかなか得にくかったわけでありますが、経済的な面については、いわゆる南南開発という、経済を、対話といいますか、発展といいますか、そういう面が非常に強力に論議をされて、IMFの体制をもう覆すべきであるとか、あるいはまた、新しいブレトンウッズ体制をつくるべきであるとか、そういうことが盛んに言われました。特に包括交渉については、これは日本もこれを支持しておるわけですが、強く打ち出されていることは御承知のとおりであります。  われわれとしてもそうした非同盟会議等へ出ております、そうして非常に厳しくなっておる現在の南の状況というものはこれは単なる南だけの問題としてとらえることなくて、やはり世界全体の問題として先進国の責任としてとらえて、これに対する積極的な協力をやっていかなきゃならぬ。今度UNCTADの総会なんかがございますから、そういうところで非同盟会議等の南側の要求というのが相当強く打ち出されるのじゃないか。それを踏まえてわれわれもこれに積極的に対応していくということが大事ではないだろうか、こういうふうに考えております。
  47. 田中寿美子

    田中寿美子君 経済問題だけじゃなくてあらゆる面で、いま国連の中では三分の二以上を占めるグループ77の人たちの主張は新秩序要求になっておりますですね、文化の面でもあるいはマスコミの問題でもみんなそうだと思うのです。つまり、古い体制から国連自体が変えられていかなきゃならないという要求、これは時としてひど過ぎるというふうに聞く方もあるけれども、やっぱりそれは公正の原理から言えば当然じゃないかと思う。  実は、国連婦人の十年の問題なのですけれども、これは一九七五年の国際婦人年から始まって十年間が国連婦人の十年運動で、男性の方が御存じないくらい女性は全世界的に手をとり合って運動を展開しているわけなのです。その国連婦人の十年運動の中でも、この国際経済新秩序のことがしばしばもうこれは宣言の中に入れられている。一九七五年のメキシコ宣言でもそうですし、それから七九年の国連総会で採択されました婦人に対するあらゆる形態の差別撤廃条約、私たちは差別撤廃条約と呼んでおりますけれども、これなんかの前文にも、つまり、いわゆる発展途上国において低廉な労働とそれから北側からの企業の搾取があるような状況の中で、北の先進諸国で男女の平等を獲得したからといって本当に世界じゅうの女性が平等の地位に立ったことにはならないのだと。差別撤廃条約の前文の中にこういう文句が掲げられております。  「窮乏の状況においては、婦人は、食糧、健康、教育、職業訓練及び雇用機会並びに他の必要に対する機会を最小限しか有しないことを憂慮し、衡平及び正義に基づく新たな国際経済秩序の確立が、男女間の平等の促進に大きく貢献することを確信し、」と、こういうふうに書いてありまして、だから、世界会議などで北側の先進国がまたかというふうに、もういやになるほど大ぜいたくさんの国々から国際経済新秩序だとか、それから国際新秩序をつくれという要求が出てきているわけでございますね。ですから、ぜひ本当に世界的に新しい経済秩序をつくり上げる努力の中で世界じゅうの男女の平等も実現されていく、これは公正の原理にのっとるものだというふうに考えていただきたいのでございます。  それで、国連事務局の発表した統計の数字から見ましても、これは一九八〇年にコペンハーゲンで中間年の世界会議が開かれました、その年に発表されたものですけれども、それによりますと世界の人口四十二億、その半分は女性である。そして世界の労働力のやはり二分の一は女がしょっている。そして労働時間を見ると、総労働時間の三分の二を女がしょっておる。これは家内労働だの農業だのに女が働いておりますから、労働力は三分の二が女性がしょっている。ところが、受け取っている賃金や報酬は十分の一であると、それほどの格差がある。世界の文盲人口八億、その三分の二が女である。  そして、私はさらにこれにつけ加えたいと思いますのは、このごろの難民は何億ありますか、そのうちの恐らく過半数が女であり子供である。つまり、いま全世界的に差別されている女性の人口がたくさんいるのだと。これを平等にするためには、先ほどの、発展途上国が先進工業国に対して、北側に対して優遇措置を要求しているように、私は女性を本当に平等に引き上げるためには、全世界的に見てもやっぱり特別の優遇措置を図っていかなければならないのではないかというふうに考えております。  差別撤廃条約の第四条にそのことが書いてあります。先ほどのような前文があった上で、差別撤廃条約の第四条の第一項では、男女間の事実上の平等を促進するために暫定的な特別措置をとることは不平等じゃない。つまり、差別撤廃条約ですから不平等があってはいけないという条約なのです。ですけれども、女性が本当に平等のところまで引き上げられるためには、特別措置をとらなければそこまではいかない。単に平等の法律をつくり、平等の機会を与えられてさあどうぞと言ったからといって平等のところまでは——これはもう労働の面でもあるいは社会参加、政治参加だって、いまの日本の国会に二十五人しか衆参で女がいないというこの状況なんか考えてみても、やはり特別措置をとることが必要だというふうに私は思うのですけれども、そういう考え方を外務大臣はどうお思いになるか。  もう一点は、この差別撤廃条約の非常に大きな原理は、母性というものを非常に高く評価しているわけですね。母性のこれまでの貢献、そして今後の母性というものを守っていくというためには特別措置をとることが必要であって、そういう特別措置をとったからといって男女不平等とは考えないということが第四条二項にあるわけですね。  この二つについて、外務大臣、この差別撤廃条約は一九八五年、国連婦人の十年の終わるまでに批准しなければならない法律でございますのでね、この大原則のところの御意見を伺わしていただきたいと思います。
  48. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) おっしゃるように、国際的な婦人の地位を高めていくということは、わが国としてもこれに対して前向きに取り組んでいかなきゃならぬことは当然だろうと思います。わが国としてもそうした立場に立っていろいろのことも計画をし、またやってもおるわけであります。たとえば来年東京におきまして、この「国連婦人の十年、一九八五年世界会議」のためのESCAP地域準備会議というのを開くことをわが国が正式に表明をいたしまして承認を得たいと、ESCAPの第三十九総会で得たいと、こういうふうに考えておりますし、テーマについても、いまお話しのような平等であるとか、発展であるとか、あるいはまた平和、さらにまた雇用、健康、教育というふうなものを選んでこれに取り組んでいき、そして非常に成果をわれわれとしても求めていかなきゃならぬと。そのためには外務省として予算等もすでに計上いたしておりますし、それから特に開発途上国の婦人が、さっきおっしゃるように、非常に低廉な労働力でむしろ差別しているのじゃないかと、こういうふうなお話もあるわけでございますが、やはりこうした開発途上国の婦人の地位の向上にわが国わが国なりに貢献していくということも非常に重要であろうと、こういうふうに思いまして、そのためにわが国が、御承知のように開発途上国の婦人の地位向上のためのいろいろなプロジェクト、たとえば国連婦人の十年基金への拠出であるとか、あるいは国際婦人調査訓練研修所の活動への協力等も行っておるわけでございます。私たちは、いまの日本がこれだけの経済的な力を持ってきたわけでございますから、そういう中でやはりODA予算を充実するとともに、そうした婦人の地位の向上、特に開発途上国等の婦人の地位の向上等については、これからプロジェクト等も選びながら積極的に協力をしていきたいと考えております。
  49. 田中寿美子

    田中寿美子君 多分婦人の問題ですから、なかなか御理解しにくいかと思うのですけれども、開発途上国に対して日本が大分一生懸命にやっている、このことは私も承知しております。  私お尋ねしたのは、差別撤廃条約の大原則の中に、これは日本国内でも、先進諸国の女性たちの進出に比べますと、まだまだ日本は大変おくれているのです。ですから、平等の法律をつくり制度をつくっただけではならないので、特別の措置をとってほしいということですね。とるべきだということについてのお考え、それからさらに母性を守るためにたくさんのことをしなければ、たとえば子供を持って、子供を預ける保育所も不十分、それならば一年間でも育児休業というものがあって休んで、また元の場所に帰れるとか、そういったこととか、あるいはスウェーデンみたいに国会議員の三〇%までは女性を出すのだというような枠をつくったりして、いわゆるこれアファーマティブアクションと申しますが、積極的に男女平等を図るための特別措置が各国で行われつつあります。ですから、途上国の問題だけではなくて、先進諸国の中にもある。また日本は特にその問題で問題があるわけです。  時間が迫りましたから、私は、せっかく労働省の婦人少年局長総理府の婦人問題担当室長が見えておりますので、そういった女性に押しつけられている家事や育児、それを考えるならば育児休業もちゃんと一定の所得も与えながらつくっている国もずいぶんあるわけですから、そういったような特別措置をとるとか、あるいは公職にも女性の大使が一人いることはみんな婦人たちが応援してそういうふうに申し入れしたわけですが、これも後、もうちゃんと続けて民間からでも出していただきたい。  それから、総理府に国連婦人の十年のために設けられました婦人問題担当室というのがありまして、そこで各省にまたがる婦人問題の連絡調整をやっていらっしゃるわけですね。これは国連婦人の十年のためにつくったもので、総理大臣が推進本部長なのですけれども、十年と同時になくしてしまおうというような考えじゃなくて、まだまだ日本はこれからもっともっと女性を引き上げる特別の努力をしなければならない、そういう意味ではあそこの担当室をきちんと法的な根拠も与えて強化する、そういったことが必要だと私は考えているわけです。ですから、それらについてお二人のお考えを聞かしていただきたいと思います。
  50. 柴田知子

    説明員(柴田知子君) それではまず総理府の関係の、ただいま進めております主要なことにつきまして説明させていただきます。  ただいま先生からお話がございましたように、昭和五十年の国際婦人年の年に、婦人問題企画推進本部を内閣総理大臣を本部長といたしまして設置をいたしました。そして婦人年の世界会議で決定されました事項を国内に取り入れ、そしてそれを推進していく、そのための基本的な計画といたしまして、国内行動計画を策定いたしました。これは十年にわたります基本的な計画でございますが、この中で先生が先ほど御指摘になりました事項とも関連がございますと思います全省庁にわたります事項といたしまして、政策決定への婦人の参加の促進ということのための特別活動というものを進めようということで、その要綱も決めまして進めてまいっております。その趣旨といたしましては、いろいろな広い分野にわたって婦人の活動をもっと積極的に進める、中でも特に政策決定の場に女性がいままで非常に少ないという実情を 踏まえまして、それを積極的に進めていくというためのものでございますが、その中で、たとえば審議会の委員等への婦人の積極的な参加、その委員をふやしていくということのために、目標の数字を設定いたしまして努力をいたしております。これからもそういうことにつきましてさらに努力をいたしたいというふうに考えております。
  51. 赤松良子

    政府委員(赤松良子君) 先生の御質問の条約の四条につきましては、外務省中心にしてその内容を検討中でございますが、特に「母性保護を目的とする特別措置を締約国がとることは、差別とみなしてはならない。」という文言につきましては、雇用の分野におきまして母性保護の規定というのは現に存在しております。それに、それがこの条約に言う差別とは考えていないという点では私どもは従来からその線で進めておりまして、今日この条約を批准するための準備を真剣に進めているわけでございますが、その中でこの四条の母性保護を差別とはみなさないという点は十分確認しておるものでございます。
  52. 田中寿美子

    田中寿美子君 第一項はいかがですか。
  53. 赤松良子

    政府委員(赤松良子君) 第一項につきまして暫定措置が各国でいろいろな形で、たとえばアフアーマティブアクションというような姿でとられていることをよく研究しておりますが、どのような措置を日本の中でとることが適当かということについても十分検討いたしたいと思っておりますが、先ほど柴田参事官の方からお答えのございました政策決定への婦人の参加を進めるための特別活動などというのは一つの例でございまして、それを十分に、すでに多少は効果も上がっておりますので、これにさらに進めていきたい。もっと必要なものがあるかどうかということにつきましては、審議会等で内容を検討いたしたいと考えております。
  54. 田中寿美子

    田中寿美子君 これは私たち自身の問題でもあるわけです。  たとえば私の所属している党でそれじゃ女性の候補者をたくさん出しているか、出す努力をしているかと言うと、大変その辺は日本はおくれているということを自覚いたしております。そのことはやっぱり運動としてやっていかなければならないと思います。  時間がなくなりましたから、最後に差別撤廃条約の批准の見通しなのですが、国籍法に関してはすでに法制審議会の案が出て、多分ことしの末からの国会にはかかるのだろうと推測いたしますが、後の労働の関係ですね。男女の雇用平等法とか、また男女が本当に平等になるために必要な側面からの保護の措置ですね。たとえば育児休業だとかその他そういったようなものがそろいませんと批准しにくいのではないか、さらに教育の関係で男女平等の教科課程というところで、家庭科の必修を女にだけ課している問題がどういうふうに解決されようとしているのか、見通しがありましたらそのこと。  さらにもう一点は、来年の春行われるアジア地域会議ですね、最後の八五年の世界会議の前に行われるアジア地域会議が東京で行われることに予定されているわけですが、それの規模とかテーマとかやり方などについて、これは柴田さんの方から御説明いただいて私の質疑を終わりたいと思うのです。
  55. 門田省三

    政府委員(門田省三君) 最初に外務省関連の事項を簡単に御説明さしていただきたいと存じます。  まず、婦人差別撤廃条約の批准の見通しでございます。先生御指摘がございましたように、この条約を批准するためには国内体制を整備しておく必要がございます。その関連で、国籍法あるいは雇用と平等に関する法律とか、教育のカリキュラムの点等々の問題がございまして、目下外務省はこの調整の立場におきまして関係省庁と鋭意問題点の煮詰めを行っておるところでございます。御指摘がございましたように、八五年には批准をするという目標が掲げられております。これの実行のために全力を傾けたいと存じております。  第二の、ESCAPの準備会議を東京で開催する点でございますが、これも御指摘ございましたように、私ども日本にお迎えするに必要な措置をただいま鋭意進めております。なお参加の規模、テーマ等に関しましても後ほど詳細御説明があろうかと存じますけれども、今度の第三十九回ESCAP総会におきまして、これらの点について正式に決定が行われる見通しでございます。ただ、目下のところ予想されるのは、規模といたしましてはESCAP加盟国のほか関連国際機関の代表、あるいはまた関連のNGOの代表の方々も参加されるのではないか、かように考えております。
  56. 赤松良子

    政府委員(赤松良子君) 先生御指摘のように、条約の批准のためには雇用の分野での男女の平等の確保ということは非常に大きな問題点であろうかと存じます。したがいまして、この点につきまして婦人少年問題審議会で目下鋭意検討中でございますので、条約批准六十年といういまの国連局長の目標が達成できますように全力を挙げて取り組んでいるところでございます。
  57. 柴田知子

    説明員(柴田知子君) ESCAP地域準備会議の関連につきまして総理府の準備状況を一言つけ加えさせていただきます。  ただいま外務省の方の御答弁にありましたような形で日本での開催が準備されているわけでございますが、あわせまして、これらの地域の方々と婦人の問題につきまして十分に理解を深め、また日本の婦人の方々との交流をさらに一層進めるというようなことをいたしますための諸事業を計画いたしております。  たとえば国際シンポジウムの開催、展示会の開催、啓発資料の作成等でございますけれども、そのような関連の経費といたしまして五十八年度の予算案の中に計上をさせていただいております。
  58. 田中寿美子

    田中寿美子君 終わりますけど、外務大臣お聞きいただきましたように、婦人の行政に関して、十年が終わったらぷいとおしまいというのじゃなくて、よくお考えおきいただきたいと思います。
  59. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) いま御指摘いただきましたような問題点につきましては政府としても十分配慮していきたい。そしていまお話しのように、婦人差別撤廃条約の批准、さらにこれに伴うところの諸措置等もこれから検討を進めながら実行に持っていきたいと、こういうふうに考えます。
  60. 増田盛

    委員長増田盛君) 午前の質疑はこの程度とし、午後一時まで休憩いたします。    午後零時二分休憩      ─────・─────    午後一時二分開会
  61. 増田盛

    委員長増田盛君) ただいまから外務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、予算委員会から審査を委嘱された昭和五十八年度一般会計予算、同特別会計予算、同政府関係機関予算中、外務省所管を議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  62. 小山一平

    小山一平君 きょうは少ない時間ですけれども外務省外務大臣に、特に日本の軍拡問題に関連してお尋ねをしてみたいと思います。  まず、レーガン政権は異常とも見えるソ連脅威論を唱えながら軍事力の増強に狂奔をしていることは御承知のとおりです。そして中曽根総理も、五十八年度予算案においてもアメリカの圧力に追従して防衛費を聖域化して突出させ、軍拡路線を突っ走ろうとしております。なお総理は、武器技術供与を手みやげにして訪米をいたしました。そして三海峡封鎖だとか日本列島不沈空母だとか運命共同体だとか、日本にとってはきわめて危険な重大発言をいたしましてレーガン大統領を喜ばせる一方においては、わが国内で国民の非常な不安と不信を招いていることは御承知のとおりです。これが中曽根内閣の支持率の低下にもなっていると思うのでありますけれども、一体ソ連脅威というものはどういうものなのか。先ほどわが党の松前議員の質問もあったところでございますが、まさか日本ソ連に侵略される恐れがあると考え ているわけでもないと思います。そして、日本の軍備の増強も総理の一連の発言も余りにも明確にソ連を仮想敵国としているのではないかというふうに思うのです。いまのような平和時にあるにもかかわらず、他国を名指しで仮想敵国視するというようなことは日本の平和と安全にとってきわめて危険なことではないか、こういうふうに思います。大臣はどうお考えになりますか。
  63. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 近年の極東におけるソ連軍の顕著な増強というのはこれは事実であります。北方領土における軍備強化もその一環と見られるわけでありますが、こうした客観情勢に基づきまして、ソ連軍の動向を私は潜在的脅威増大とこういうふうに言っておるわけでございますが、特にソ連は、最近のソ連の指導者がいろいろと言っておりますように、極東に現存する中距離ミサイルに加えまして新たなミサイルを同地域に移転する場合は、この地域の平和と安定を一層脅かすということにもなりかねないわけでありますし、こうした観点からも先般ソ連側に強い遺憾の意を表明したわけであります。総理がいろいろと発言をいたしておることは事実でございますが、これは私も全体的に判断しまして、わが国としてもこうした状況を含め、現下の厳しい国際情勢をも踏まえて、今後とも日米関係を堅持しながら必要最小限度の自衛力を整備することによりまして抑止力を万全なものにする必要がある、こういう基本線のもとでの発言であるというふうに認識をいたしております。従来の政府のとってまいりました外交政策あるいはまた防衛政策の基本を超えるものではない、私はそういうふうに判断をいたしております。  また政府としましては、これまでソ連に対しまして対決姿勢ということで臨んでおるわけではありませんで、私は、ソ連に対しても領土問題等で厳しくやはりわれわれとして主張すべきことはしなきゃならぬと思いますが、一面においてはソ連との間の話し合いのパイプを続けていくということが大事であろうと思っています。ただ単に対決を求めるものではない。そういうことで今後とも対ソ外交というものは進めてまいりたいと、こういうふうに思っております。
  64. 小山一平

    小山一平君 そうおっしゃるけれども、だれの目にも余りにもソ連を敵視しておるのではないか、こういうふうに見えるのですよ。そうしてこれは大変危険なことだ、こういうふうに国民も強く憂慮を私はしていると思います。こういう状況の中で日米安保条約というものもずいぶん変わってまいりましたね。安保条約における日本役割りというのは、極東に展開する米軍にとっての補給基地であったり支援基地であったりするという後方基地的な性格であったと思うのです。それが最近レーガン政権の極東戦略のもとでは、日本ソ連の海空軍の西太平洋進出を阻止する作戦拠点である、アメリカの最前線基地であるというふうに変わってきたばかりでなくて、自衛隊が直接その作戦行動に出よう、こういうのでありますから、事は重大だと言わなければなりません。中曽根総理発言は明らかにいま申し上げたような姿勢をきわめて明快に私は示しているというふうに思うのです。  そこで、自衛隊がこれからますます日米共同作戦に深入りをしていきますと、日本の地理的条件などを考えますと、日本アメリカの本土防衛の防壁にされるという危険きわまる道に陥るのではないか、こういうことを心配せざるを得ないわけです。大臣は、日米安保条約内容というものが、日本のこれに対する対応というものが大きな変化を遂げてきたと、こういうことは認めますか。
  65. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 私も、日米安保条約昭和三十五年における改正が行われて以来の、いわゆる国際情勢といいますか、米ソ状況も確かに変わってきておることは事実であろうと思いますし、米ソ両国とも非常な軍事力の増強が行われたこともこれもまた事実であろうと思います。特にソビエトについては、先ほど言いましたように、極東において非常な軍事力の増強に努力を続けてきておるわけですから、そういう面における客観情勢というのは大部変わってきていることは事実ですが、しかし日米安保の持つ意義といいますか役割りといいますか、これは変わるものはない、あくまでも日米安保体制によってわが国の平和と安全を図っていくということがわれわれの基本的な考え方であります。  また、アメリカ日米安保体制を堅持していく、まあこういうことを何度か声明しておるわけでありまして、いろいろアメリカ極東における軍事力強化、たとえば今度のエンタープライズ入港であるとかあるいはF16の三沢基地への配備であるとか、そういったものは、やはりソ連の増強する軍事力に対するバランスをとるためのアメリカとしてのいわゆるプレゼンスを維持していく、あるいはまた日米安保条約抑止力をそれによって維持向上するということが目標であって、私はやはり、いまに至るも日米安保条約体制の基本的な枠組みあるいはその趣旨というものは変わっていないし、また今後ともこれは変わらざるものである、それによって日本の平和と安全は図ることができるのだと、こういうふうに確信を持っておるわけでございます。
  66. 小山一平

    小山一平君 どうもこのことで水かけ論をやってもらちが明きませんが、しかし申し上げておきたいことは、当初のころ安保条約があって、日本がそれをどういうふうに理解し、どういうふうにこれに対応していくかと位置づけられたものとは——いまは非常に大きな変化を遂げて、もう米軍と一体になって作戦に出るというようになっていることだけは間違いのないことですから、この憂慮すべき状況というようなものについては、ぜひひとつお考えおきを願いたいというふうに思います。  それから、いま大臣のおっしゃるようにレーガン大統領もそういうことを言っているし、あなたもそういうことを言っているのだけれども、とにかく軍事力バランスをとる、あるいはこちら側が優位に立つというようなことによって戦争を抑止したり、平和の維持が図られるのだというこういう論理、これはたとえばアメリカソ連を目標にして軍事力の増強をやる、日本もやる、さらに日韓米の軍事的な緊密化が進んでくる。ということになれば、ソ連にとってはこれは大変な脅威と受け取るのはあたりまえの話でございますから、そこでソ連も負けてはならじと軍拡、軍事力の増強を進めるという結果になりまして、シーソーゲーム的な軍拡競争が際限なく続くことになるのじゃありませんか。そしてますます国際冷戦を激化させまして、お互いに危機をみずから深刻化していくという悪循環になっている、これは大変ばかばかしいことだと思います。その上、巨額な軍事費を支出するわけですから、国の経済にも国民生活の上にも大きな犠牲が余儀なくされる、こういうことにいまなっているわけです。しかし、こういう愚かしい現実を打開していくのは外交に強い期待が求められる、これは当然であります。その外務省が、ソ連脅威だ、軍拡をやらなきゃだめだなどと言っていたのでは、こういうばかばかしい現実を打開していくことにはならぬ。外務省こそ強い指導力と行動力でこういう現状を打開していくという取り組みが必要なはずです。こういう点についてどうおやりになるつもりですか。
  67. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 確かにおっしゃるように、お互いに軍拡競争をやるということは、世界にとってもこれは不幸なことですし、ばかばかしいことだと私も思うわけでありまして、これはやはり避けていく、軍縮というものを基本的に進めていくということが、世界の平和と安定にとって正しいことであろうと思うわけです。ただ、こうした事態になった経緯についての判断は、これは私は小山さんとは逆の考え方を持っておりまして、デタントの時代が続いたのですけれども、その間にむしろソ連が一方的に軍事力強化を図った。そしてもう核においては、むしろこのままほうっておけば完全にソ連が優位に立つ、通常兵力ではまさにもう優位そのものに立っておる、こういう状況になって、結局アメリカとしても、レーガン大統領としても、これに対抗するための軍事力の増強ということを図らざるを得なくなったのではないか、私はそういうふうに認識をしておるわけでございますが、しかしまあいずれにしても、こうした軍拡競争が続くということは世界のために避けていかなきゃならぬ。そのための外交役割りというのは、お話しのようにまさにもう重要であろうと思うわけでございます。したがって、われわれとしては、たとえばINF交渉であるとかSTARTの交渉であるとか、さらにまた国連における軍縮の推進であるとか、そういうものに対して日本としての積極的な役割り発言すべきことは勇敢に発言をして、そしてバランスのとれた軍縮が世界の中で行われるということのために全力を尽くしていく、そういう外交役割りというものは今後ますます重要になってきた。日本外交について主導権といいますか積極性を持ってこれに取り組んでいかなきゃならぬ、これはもうまさにそのとおりであろうと思うわけであります。
  68. 小山一平

    小山一平君 大臣の言うソ連の核戦力が、ぼやぼやしているとアメリカを追い越してしまうというような認識についても私は異論があるのですけれども、まあこれはまたいつかの機会にやりたいと思います。  それから、これに関連していま大変注目を浴びている欧州中距離核戦力削減交渉というのがございます。アメリカがゼロオプションを提案いたしておりましたけれども、これはなかなか合意は困難である。そこで西側諸国は、反核運動などが大変活発であるということも背景にあると思いますけれども、現実的にこれに対応をすべきであるというので、お互いに低いレベルに抑制をするという選択をしようというふうな意見が強いということを聞いておりますし、アメリカもこれに同調していくのではないかというふうなことも報道されております。このことについて御承知の点をお話し願いたいと思います。  それからソ連の、INFを削減してそしてそれに見合ったアメリカ配備にしていこうではないかと、こういうことのようですけれども、そしてまたそれを段階的に削減していこうという大変現実的な考え方のようですけれども、問題になるのは、それによってヨーロッパに向けて配備してあるソ連SS20が削減をされる。それは結構なのだけれども、それを極東に持ってくる。すでに極東には百八あると言われているが、これはそのまま残る。こういうことになると、恐らく外務大臣もいよいよソ連脅威が深刻になったと、こういうことになって、さらに日本の対ソ軍事力を増強しなければならぬ。日米の共同的な対ソ作戦を強化しなければならぬ。こういうようなことになると、さっきも申し上げたように軍拡競争がとどまるところを知らなくなる。この対応日本にとっても大変むずかしい重要なところだと思いますけれども、いま現状はどうなのか、一体このむずかしい対応をどういうふうにされていくおつもりなのか、お尋ねしておきたいと思います。
  69. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 具体的な内容につきましてはまた政府委員からも答弁をいたさせますが、いまお話しのように、ヨーロッパに、ソ連SS20という中距離核兵器を二百四十とかあるいはそれ以上、極東においても百以上もうすでに配置をしておると。これはとにかくヨーロッパにおきましてもあるいは極東におきましても大変な脅威ということになるわけでございます。したがってこれに対抗しようということになると、ヨーロッパでも、パーシングIIであるとかあるいはまた巡航ミサイルを西ドイツであるとかイギリスであるとか、あるいはまたベルギーであるとかイタリーであるとか、そういう国々にこの秋までに配置せざるを得ない。基本的に先ほど申し上げましたように、やはり軍事力バランスが平和を維持しているという現実的な立場から言えば、どうしてもこれは推進せざるを得ない。しかし、これではお互いに軍拡の道を進むことになるわけでございますから、こうした愚はお互いにやめて、この中距離核ミサイルについては交渉によって全廃をするとかあるいは削減をするとかそういう道を選ぼうということで、いま米ソ間でも協議が行われておるわけでございますが、その協議で一番基本線となるのは、アメリカの言っているゼロオプションといいますか、これはとにかく中距離核ミサイルをもう全廃しようということです。ヨーロッパにおけるあるいは極東における中距離核兵器を全廃すると。アメリカ巡航ミサイルだとかパーシングIIだとかそういうものは一切配置をしないということですから、私は、これは一番正しいといいますか行き方じゃないか、理想のやり方じゃないかと。それで、日本もこれを強力に支持をいたしておるわけです。  そういうアメリカの提案に対して、アンドロポフ政権ができまして、アンドロポフがまた新しい提案をいたしたわけでございます。これはいわゆる中距離ミサイルの削減を行おうという提案でございますが、その提案が、要するにヨーロッパSS20を削減すると。同時にまた、アメリカがこれからヨーロッパに据えつけようというパーシングIIとか巡航ミサイルはこれをストップすると、こういうことなのですが、それではどうも全体的に見ましてバランスのとれた軍縮ということにならないと。さらにまたソ連は、それじゃこのヨーロッパで削減をしたものをどうするかといえば、これをウラル以東にでも持ってくると、こういうふうなことを言っておるわけでございますが、そういうことになりますと、これはさらに極東において非常な中距離核ミサイルSS20の強化が行われることになるわけでございまして、ヨーロッパは多少安全になったとしても、今度は極東の方がこのSS20の非常な脅威にさらされるというふうなことになってくるわけでございますから、日本立場から言えば、そうしたこのSS20の移転というふうなことは、これはバランスを失することになるということで、日本としては、あくまでもそうしたヨーロッパが削減したものを極東に移転をするというようなことでなくて、やはりソ連全土という立場から、極東もあるいはヨーロッパも、配置したミサイルを全体的に全廃をするというゼロ・ゼロ提案といいますか、そういうものに近づけていくということが必要じゃないかということをわれわれは強く主張をいたしておるわけであります。  いまこのINF交渉がいろいろと続けられておりますが、ゼロオプションを実現するということは理想としては最も望ましいわけでございますが、しかし現実的にそれじゃそれが完全にできるかというと、いまなかなかむずかしい状況に立ち至っておるものですから、中間的な案というようなこともいろいろと取りざたをされておりますが、日本としては、あくまでもやはりソ連全土という立場から、極東もあるいはまたヨーロッパも含んだいわゆるソ連の全土的なSS20の削減というものでなければならぬと、もし中間的な提案があるとしてもそういうものでなければならぬわけでありますし、私たちはいずれにしてもそうした問題、中間的な措置が行われるか行われないかということは、現実的にいまいろいろと模索をしている状況にあると思いますが、やはりゼロオプションというものを今後とも支持して、これが実現の方向に近づけるように今後とも努力をしてまいるのが正しい方向ではないかというふうに実は考えて、この問題に取り組んでおるわけでございます。
  70. 小山一平

    小山一平君 古い話になりますが、一九六一年一月十七日に亡くなったアイゼンハワー・アメリカ大統領が、辞任するときに演説をいたしました。この演説はアメリカ市民に訴える、警告するという内容のもので、当時大分関心を集めた演説でございました。まずこれを読んでみると、「私の在任中に起こってきた現象で、祖国がいまだかつて直面したこともない重大な脅威について一言したい。」、こういう前置きで、「いまや、われわれは国防を一時的な緊急措置だけで間に合わせるというわけにはいかなくなった。われわれは巨大な規模の恒久的な軍需産業を持たざるを得なくなったのである。巨大な軍事組織と大軍事産業の結合体という現象は、いままでわが国にはなかった新しい現象である。連邦政府のあらゆる部門、あらゆる州議会、米国のあらゆる都市で、この結合体は、経済的、政治的、いな精神的にも強力な影響力を発揮している。その重大な意義——われわれの勤労、資源、生活、さらに米国社会の構造そのものまでがこの問題と関係をもっているということ、これを看過してはならない。われわれは、政府部内の会議で、軍部、産業ブロックが意識的にまたは無意識的に不当な勢力を獲得しようとすることに警戒しなければならない。この結合体の勢力が米国の自由や民主主義的な政治課程を破綻させるような事態をもたらしてはならない。敏感で分別ある市民のみが巨大な軍部、産業ブロックと平和的手段、目標を適切に調和させ、安全と自由を守ることができるのである。」と、こういう演説をいたしました。  なぜ私がこれを持ち出すかと言うと、このアイゼンハワー大統領の警告が、いまのアメリカにとってもいまの日本にとっても、きわめて現実的な生々しい警告であると考えるからです。御承知のように、このアイゼンハワー大統領の警告にもかかわらず、米国の産軍連合体が大きな勢力を持って政府の政策に強い影響力を持っているということは、これをいま疑う者はありません。常識となっています。そしていまレーガン産軍連合政権と呼ばれているのもこれと深い関係があることを私は示していると思うのです。そしてまた先ほど来お話をしてきたソ連脅威論も大軍拡路線も、このアイゼンハワー大統領の憂慮されたことと決して無縁ではない、私はそういうふうに思うのです。  一九三二年五月十五日、これは五・一五事件ですね。軍部の圧力に身命を賭して抵抗をしていた犬養総理、高橋蔵相が暗殺をされた事件ですけれども、この五・一五事件を転換期にして、日本では軍事が政治を支配するという方向にのめり込んでいきました。そしてとうとうあの侵略戦争という無謀な誤りを犯して日本に大変な惨禍をもたらしたことを思い出さなきゃならぬと思うのです。そしてあのときのことを顧みると、国民の目に見えないところで、組織されたファッショ的な陸海空軍の将校やこれに同調する政治家、官僚、学者、右翼団体、こういうものがその役割りを演じたわけですから、これは歴史的な貴重な教訓としなければならないと私は思っているのです。  いま中曽根政権は、レーガン政権と運命共同体とまで言ったりして、米国世界戦略一環に組み込まれつつありますけれども、その自衛隊を中核にして、各省庁の官僚、兵器産業、保守党政治家等々が一緒になって軍拡の大合唱をいまやっているように私には見えるのです。これは一九三〇年代を想起させるものがあるように思います。中にはこれを、日本型産官軍複合体などと呼ぶ人もあります。いずれにしても、自衛隊の望む軍拡政策を具体化しようとする大合唱が日本の政治をいま強い力で引きずっている。政治はこれに引きずられている。そしてこれをチェックする力があるのかないのかわからない。私はこういう状況にあるように思うのです。本来軍事力というのは自己増殖の論理を持っておりますから、政治が、特に政党政治家は常にそれをチェックするだけの見識と力を失ってはならぬと思うのです。ところが、いま日本の軍拡、軍拡と進んでいる政治状況を見ますと、一体政治が軍を制御する力を持っているのか、制御しようとする見識を持っているのか大変心配でなりません。外務大臣は単なる外務大臣じゃなくて、将来政権でも担当しようという重要な政治家ですから、政治が軍事に支配をされたり、これを制御する力を放棄するようなことがあってはならない。これは安倍さんなどに大きな責任がある重大課題だと、こういうふうに思うのですよ。そこで私はこのアイゼンハワーの辞任のときの国民に対する警告というものを、いま私が今度警告を発したいと、こういう気持ちでこの問題を申し上げたわけです。大臣、これについてのあなたのお考え、決意、こういうものを聞かしてください。
  71. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 私も小山さんと同じように、過去の日本の歴史の愚を二度と繰り返してはならないと思います。戦前の日本の国策というのは、富国強兵ということで貫かれておりました。その結果として、ああした軍部の台頭となって不幸な戦争に突入したわけですが、戦争の結果、日本が惨たんたる敗北を喫して、その結果として日本国民は二度と再び戦争はしない、ああいう愚は繰り返さないという決意のもとに憲法も生まれたわけでありますし、あるいはまた日本の自衛の問題にしても、専守防衛あるいはまた非核原則、軍事大国にはならない、シビリアンコントロール、こういった厳しい制限を持った自衛隊を誕生せしめまして、その枠内における日本の自衛力の向上に努めておるわけでございますし、私はいまの日本のあらゆる体制から見まして、いまおっしゃるような愚かしい方向に日本が進んでいく要素というのは全くないのじゃないかと思っております。自衛隊にしても、たとえば全くの専守防衛で、航空母艦を持てるわけじゃありませんし、爆撃機も持てないわけでありますし、外国に侵略をする、侵入するなんということはいまの自衛隊であり得ないわけですし、七年前のいわゆる防衛計画大綱を、われわれは一日も早く実行したいということであります。これは日本のいまの国力から見ると、きわめて限られた最小の自衛力というものにとどまるわけでありますし、また国会の権威も高まってまいりまして、このシビリアンコントロールというものは非常に厳重にこれが作用している、私はそういうふうに思っております。したがっていまの日本立場というものは、あらゆる角度から見まして、おっしゃるような軍拡路線を行って、そして日本がまた再び戦争をするとかあるいは侵略をするとか、そういうふうな体制になり得る要素というのは皆無じゃないか、全くあり得ないのじゃないか。ですから、われわれは、この体制をやはりきちっと守って、そしてこれを進めていくということが日本の平和を今後とも永久に存続させることじゃないか、こういうふうに私は確信をいたしておりまして、いまはそういう意味でおっしゃるような心配を私は実は全く持っておらないわけでございます。
  72. 小山一平

    小山一平君 もう少し議論したいのですが、もう時間も来ましたのでこれでやめますけれども大臣はそういう心配は要らないとおっしゃるけれども、なるほどかつてのように日本が外国へ進出して、侵略を行うなんということはあろうはずもないし、できるはずもありません。しかし、アメリカ側と軍事同盟強化して、運命共同体だなどと言って、日本アメリカ本土の防波堤となるようなそういうところへまいりますと、日本が侵略戦争をやらなくても、日本が焦土と化して、国民が大量殺戮という惨禍を受けることにならないとも限らない、私が憂慮をしている点はそういうところにあるわけです。  時間がありませんから、これは心配のないということに長い将来なることを私ども期待をいたすわけでございますけれども、しかし過去のにがい歴史、経験というものは、深みにはまらないうちに、芽のうちにやっぱり過ちの芽は摘み取っていく、こういうことが大切だと思いますので、外務大臣の、心配がないとおっしゃることが将来にわたって保障されるように強く要望をしておきます。  以上です。
  73. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 移住問題についてお尋ねをいたします。  これから議論を進めるに当たりまして、その前提としたいと思っておりますのは、まず安倍さんの基本的な考え方をお聞かせいただきたい、こう思います。
  74. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) わが国からの海外移住は、昭和三十年代に比すれば減少いたしたわけでありますが、最近四年間を調べてみますと三千五百人程度で推移をいたしております。中南米への農業移住は減少しておりますが、カナダ、豪州等を含め、技術、技能移住及び中小企業移住等の新しい分野が生じておりまして、こうした新しいニーズにも対応した措置を今後とも講じていくべきじゃないか、こういうふうに考えております。  海外移住におきましては、移住者を通じまして移住先国とわが国との関連が非常に緊密となっておりまして、相互理解あるいは友好が増進をされるのみならず、移住者を通ずる技術移転をといった国際協力の面でもきわめて大きな役割りを果たしております。こうした意味におきまして、今後とも既移住者に対する援護、国民一般に対する移住に関する情報の提供、移住相談、また移住希望等に対する訓練、講習等の側面的な援助が必要になってくる、こういうふうに考えておるわけでございまして、今後とも基本的には、やはり減少はしておりますが、移住は続いていくわけでございますから、いまのような立場を踏まえながら、これがいわゆる建設的な方向で進むように私たち政府として努力を重ねてまいりたいと考えております。
  75. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 従来移住協定の結ばれた地域、それと協定がいまだに結ばれていないそういう国と両方あろうかと思うのです。また同時に、受け入れ国の経済状態あるいは人口、こういう問題等があって、こちらで移住を進めたいという願望がありましても、受け入れ国のいま申し上げたような事情によってそれができない、いままでこういう経過を経ながら現在に至っているわけであります。  それで、主たる日本の移住先と言えば中南米、いまおっしゃられたように北米、カナダ、オーストラリア等が主なところでございましょう。本来ASEAN地帯あたりも、日本としていまおっしゃられたその考え方に立つとするならば、経済協力の上からも側面的に本当は移住を進めるべきではなかろうかな、こんな感じもしないではありませんけれども、今後こういう移住協定の締結促進ということについては、どんなふうにお考えになっていらっしゃいますか。
  76. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) ただいま御指摘の移住協定につきましては、日本は現在四つの国と結んでおります。この移住協定がなければ移住できないかというと、実は必ずしもそういうものでもございませんで、私ども言葉で申しております新しい世界、つまり南米、北米あるいはカナダ、オーストラリア、こういう移住者を受け入れる国を一括して新しい世界、こういうふうに言っておりますけれども、こういった国々では、国の政策方針といたしまして移住者を受け入れるという基本的な方針があるわけでございます。その場合には、移住者は個人の責任と発意でもってどんどん移住していくということが実現され得るわけでございまして、場合によっては移住協定を結んで、政府の援護というものをきちんと制度化する、こういうこともございます。
  77. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いま藤本さんが述べられましたように、でき得べくんばトラブルが起きない、そういう側面を考えましても、移住協定の締結が望ましいのではあるまいかな、そして同時に、これからもむしろ積極的に進める方向で政府側としてもお取り組みになったらいかがなものかなと。これはむしろ政治的な判断が要求されますので、安倍さん御自身のお考えがやっぱり優先するのじゃないかと私は思うのです。いかがでしょう。
  78. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 確かにこれからも移住は続けられると思います。また、これはそうした相手国のニーズというものもありまして、それにこたえて移住が進められるということは、私は、これからの日本世界における役割りという立場から見ましても歓迎をすべきことだと思うわけでございますので、そうした観点に立ちまして、これから移住する人たち、そして相手の国の、移住を受け入れる国の立場といいますかニーズといいますか、そういうものも十分——わが国は相手国との間の関係をあるいは対話というものを、移住に関して積極的に持ちながら、移住が相手国に歓迎されるような形で行われるような体制をこれからつくっていかなきゃならぬ。そのためには、いまお話しのように、何か協定的なものを結ぶ必要があるということになれば、それに対してもわれわれは取り組んでいかなければならぬのじゃないかと、こういうふうに思います。
  79. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 私、昨年九月にも南米三カ国を訪問する機会がありまして、それぞれの国の要路の方とお話をする機会もありました。非常に日本に対しての御要請が強いのですね、一口に申し上げますと。とりわけ技術の提供というものに大変な期待感を持っていらっしゃる。しかし、現状としては向こうの要請に必ずしもこたえられていない。  さて、そこで何が一体問題があるのだろう。確かにいま振り返ってみますと、それは、御記憶がおありになると思うのですが、高度経済成長の時期には金の卵と称されて若い人たちは国内で吸収できるという、そういう環境でございました。向こうへ目が向かない。しかし本来ならば、経済的に非常な発展をしているときにこうした問題に本腰を入れて取り組む必要があったのでありましょうけれども、いま大変経済的にも困難な状況のときに、いろんな問題点が介在しまして非常に進め方にも円滑さを欠くという、そういう問題があろうかというふうに思うのであります。  もう一つは、国内における、政府レベルにおける啓発の仕方というものにも大いなる問題があるのではなかろうかというふうに思えて実はならないわけです。やはり優秀な青年の中には海外雄飛をと、あるいはそしてその国の発展のために貢献したいと希望を持っている人が意外といるかもしれない。しかし、そういう方々がそういう方向へ目が向かないというところに、あるいは学校教育の中にも余りそういった問題についてのきっかけが起こるようなお話というものはないのかもしれません。むしろそれを今度カバーする意味でも、外務省なら外務省が主体となって、あるいは国際協力事業団でも結構ですよ、軸になって、もっと啓発というものに力を入れてもよろしいのではないかなと。いま私は前提条件としてはと申し上げた。大臣御自身のお考えの中にも、将来展望の中に大変共感を呼ぶような抱負を述べられていらっしゃるわけです。にもかかわらず、現状としては停滞気味である。南北問題の解消の上から考えましても、これはもうすでに定住された方々の今後の発展というものを期待することによって、あるいは南北問題の解消の一翼を担うかもしれないさまざまなことが想定されるわけです。私がこれをきょうの質問の項目にいたしましたのは、どうしてもやはり世界平和というものをこうした側面から強力に進めたいなというかねての願望があるために、もっとその辺に道を開く方途があってもよろしいのではないだろうかと。その点についてはむしろ安倍さんよりも担当の藤本さんあたりから伺った方がいいのかもしれません。なぜそういう啓発が行われてこなかったのか、問題点はどこにあったのかということですね。
  80. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) ただいま大変適切な御指摘があったわけでございます。移住志向が非常に減ったということが移住者の減少の一番大きな原因であろうかと思います。御指摘のとおりでございます。  私ども、この国内啓発の努力をもう少し拡大しなければいけないし、また多様化しなければいけないという点を特に強く感じておりまして、特に最近地方の場合に移住希望者が少ないという点を分析いたしました結果判明いたしましたことは、どうも最近は地方からの希望者というよりも首都圏、都会からの希望者が多いということに思いつきまして、これまでのPRのやり方あるいは対象というものをやはり根本的に変え、かつまた効率化しなければならないと思うわけであります。この点は国際協力事業団とも協議いたしまして効率化に努める努力をいたしたいと、こう思っております。
  81. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 具体的に何かいまこういうふうにしたいというその計画なり、方針をお考えになっていらっしゃいますか。
  82. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) ただいま国内支部が国際協力事業団の場合九つございますけれども、主として国内支部を通じての移住の相談というものを軸として啓発をいたしておるわけでございますけれども、それよりもむしろマスメディアを使って、場合によってはテレビということもございましょうし、マスメディアを使ってやれば、もっと効率化するのではないかというふうに考え始めております。
  83. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 発想はまことに結構だと思いますね。フィルムを使うこともありましょうし、スライドを通じてやる場合もありましょうし、いろんな機関を通じて紹介を申し上げるという場合もございましょうし、やっぱりまだ具体性に乏しいなと、いま御返事を伺ってもそういう感じがするわけね。やはり外務省一つの機能としても、もっともっと活性化を図る上からそういった面に具体化していく方向へお取り組みになることが必要ではないのかなと。もちろん、それにはお金もかかることでしょう。そのための予算の仕組みというものがきちんと組み込まれているのかどうなのか。あるいはもう少しくダイナミックに、そういった紹介のための予算措置というものが考えられていいのではないだろうか。考えはいいけれども、実際にそれを具体化するときに必ずお金の問題がかかわるわけでございますから、それが非常に乏しい、これしかありませんと。もちろん、この硬直した財政の中でいろいろやりくりをするわけですけれども、この辺あたりにはもっと優先的にお金の効果的な使い道というものを考えてもよろしいのではないかなというふうに思えてならないわけですけれども、その辺はいかがでございますか。
  84. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) 五十八年度の予算で移住の効果あるいは追跡調査的なものも含めまして、海外移住がこれまでどういう効果を持ってきたかということを評価しようという目的の予算がついたわけでございます。したがいまして、五十八年度にこの調査をいたしまして、これはもちろん国内からの出身階層というふうなものも含めてきっちりと調査をいたしまして、その結果を踏まえて、御指摘のようなマスメディアを使った広報をいたしたいと思いますが、具体的にはたとえばやはりテレビを使いますとか、あるいは新聞、さらにはまた青年協力隊の機関誌に情報を載せるとか、いろいろな広報を考えてみたいと、こういうふうに思っております。
  85. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いずれにしても、いま手をかけつつあるという状況でありますので、これをもっと具体化する方向へ積極的にお取り組みをいただければというふうに願望を込めてだけ申し上げておきましょう。  さて、ちょっと視点を変えまして、戦後移住というものが、先ほど大臣答弁の中にもありましたように、早いところでは二十七、八年ごろから現在に至っているわけでありますけれども、さまざまな推移があったと思うのですね。国際協力事業団あたりの資料によっても移住先が十余カ国に及ぶ。その中で最も著しく多かったのはもちろんブラジルでありますけれども、さまざまな経緯があったろうと私は思うのです。なぜなれば、戦後間もない、混乱が必ずしも鎮静化したという状況でない、まだ混乱が続いているそういう社会的な背景のもとに、あるいは中には引揚者の方もあったろうし、そしてその方々がいままでの培ってきた経験を新しい天地を求めてということで、それぞれの希望する国を日指してやられたというふうに思うのですね。成功した人、また失敗、挫折した人さまざまであろうかと思いますけれども、これ、ポイントだけで結構ですから、細々した話はよろしゅうございますから、どんな推移をたどって現在に至っているのか。
  86. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) 戦後の移住の趨勢でございますけれども、やはり何と申しましても昭和三十年代の前半にピークに達しておりまして、年間一万人、場合によっては一万二、三千人の移住者が出かけていった時期がございました。しかしながら、その後日本の高度成長ということがございまして移住者が減少いたしましたけれども、現在は大体三千五百人、三千六百人という規模で推移いたしております。  地域といたしましては、先ほどちょっと申し上げましたが、やはりブラジル、アルゼンチン、ボリビア、パラグアイ、この四つの国を主たる対象として移住していったわけでございます。ただ最近、ここ四、五年でございますけれども、カナダ、オーストラリアに対する移住がふえてきたということはございます。  なお、移住というカテゴリーではとらえられておりませんけれども、統計といたしましては、戦後一番数多く日本人が移住いたしました国はアメリカでございます。
  87. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いまいろいろな推移をたどっていっている。ところが、最近いろいろ変化がやはり起こってきていると思いますね。先ほどもちょっと触れられた中にありましたけれども、受け入れ国として希望したいその移住者、もう一遍この辺で総体的に洗い直してみる必要もあるのではないか。  いままで移住者というと農業ということが優先する。現状においても農業移住者あるいは農業に関連する技術というものが要望されていることも事実でありまして、これを真っ向からぶった切るというわけにはいかないだろうというふうに思うのです。しかし、発展途上国あるいは中進国、それぞれの経済発展に伴いながらもその動態がさまざま多様化してきている。やっぱりそれに対応するためには、これから受け入れ国との相談ということもございましょうけれども、大きくやはりここで日本としても、基本的に将来展望の上に立てばこういう移住というものが望ましい、そのためには一体どうすればいいのかといういま曲がり角に来ているのではあるまいかなというふうに感じるのですけれども、若干冒頭に申し上げた問題と絡み合うかもしれませんけれども、その辺をもう一遍整理する上から述べていただきたいなと、こう思います。
  88. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) 曲がり角という御指摘でございます。そのとおりでございますが、二つのことがあるのではないかというふうに考えるわけであります。つまり日本からの、日本人の移住志向が減った、これは最初に申し上げた点でございますが、移住志向が減ったという点と、それから外国におきまする移住環境が変わった、この二つだと思います。  移住志向が減ったという点につきましては、もっともっと広報活動強化していきたいということでございます。先生御指摘になりましたわけですが、やはり日本の青年の中には、移住の機会というものがあることを知って非常に驚き、かつ、そういう機会があるならばぜひ行ってみたいというふうな青年も少数ではありますけれどもいるわけでございますので、そういう階層に対して情報を届けたい、それは私どもの義務であるというふうに思うわけであります。  それから第二点として申し上げた移住環境の変化でございますけれども、これはまず端的に頭に浮かびますのが、ブラジルにおきまして国際協力事業団の出先を撤退しろということがございました点でございます。ただ、ブラジルの場合は失業者が非常に多いという特殊な事情がございましてそういう厳しい要求になったわけでございます。かつまた、営農移住者に対しまして条件が少し厳しくなったという点はございますけれども、ほかの国、すなわち特にアルゼンチンにおきましては、どうか日本の移住者よ来てくれという熱意がいまでも非常に強いという事情がございます。  それから、パラグアイ、ボリビアの場合にはこれはもうりっぱな移住協定がございまして、何千人来てくれということが協定にうたわれておりますけれども、そのごくわずか、何分の一しか日本から行っておらないという遺憾な事態がございます。したがいまして、この点につきましては、やはり基本的には日本国内から移住志向がふえるということがどうしても一番大事なのじゃないかというふうに考えるわけでございます。
  89. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 そういったことと、そういった願望が表面化してくる一つのきっかけといいますか、この移住された方々の成功不成功という問題にもかかわり合いが出てくるのではなかろうかなという感じがしないわけではない。せっかく行ったはいいけれども、またぞろ以前にも増した大変厳しい環境の中で暮らしを続けなければならないというようなことになれば、それはもう絶望感に変わるわけでございますからね。せっかく移住しても先住者はというような印象があってはならないという、私はそういう感じもしないわけではない。  さてそこで、まあ戦前から入れるとこれは大変な問題になりますので一応戦後というふうに限定いたしまして、相当数の、十何カ国かに対しての移住が行われた。実際入植して成功した人もいるでしょう、あるいは志半ばにして帰国せざるを得なかったという人もいるかもしれない。あるいは帰国もできないというそうした挫折感に打ちひしがれてもうさまよわなければならないという、まあさまざまいるのではなかろうかなと。そういう動態について、これは大まかで結構です、個人個人を挙げたら切りがありませんので、大まかにどんなふうないま状況になっているのか。これも主な国だけで結構だと思うのですね、ブラジルだとかパラグアイだとか、あるいはボリビアだとかペルーだとか、日本と特にそういう関係性の強い、また相当数受け入れていただいた国々における入植後の状況というものはどうなっているのか。
  90. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) 概括的に申し上げまして、ブラジルでもボリビアでもパラグアイでも、それから若干程度は違いますがアルゼンチンにおきましても、日本人移住者がそのそれぞれの国の農業開発、経済開発に大変に貢献をしておるということがまずもって出てまいります。ただ、最初の移住地から、事志と違って、脱耕と申しておりますけれども、その移住地から抜けて都会地に逃れたというふうなケースもございます。大体の率をつかんでいるわけではございませんけれども、半分、あるいは場所によりましては七割ぐらいが残ってやっておるというふうな事情がございます。  プラスの面といたしましては、先ほどちょっと申し上げましたけれども、特にボリビア、パラグアイ、ブラジルにおきまする農業の多角化それから食生活の改善ということに移住者が大変な貢献をしたという点は非常に評価されております。  なお、このそれぞれの国におきまして日系の二世、三世という世代が生まれてきておりまして、こういった人たちがそれぞれの国の各界での活躍をどんどんふやしておりまして、場合によっては連邦議員になり、あるいは場合によっては閣僚になるというふうな事態が方々で出現しております。
  91. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 後段におっしゃられたのは大体成功した人、まあ現状においてもまだわずかな範囲の人であろう。  それで、ちょっと期日は明確ではありませんけれども、パラグアイの一つの例をとりますと、せっかく国際協力事業団から融資を受けても、それは返済ももちろんできない、もう営農すらもできない、こういう状況で追い詰められて、食うに食えない、日本で言うならば生活保護の対象になるような人が相当ふえつつあるということを実は聞いているわけです。現地に行って実態的に果たして私が確認しているわけではございませんから、それが単なる風評なのか、事実と違うのか、あるいは多少でもそういう人たちがいるのか、その辺は一つの国を例にとっていま申し上げているわけですけれども、どういう状況になっているのか。
  92. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) パラグアイの点についてだけお答えいたしますが、確かに御指摘のように若干の二、三の移住地におきまして、営農の規模を非常に大きくし過ぎたため、あるいは機械化を急ぎ過ぎてそのために融資を受け過ぎたというふうな例がございまして、返済になかなか苦労をしておるという移住地が二、三ございます。ただしこの場合でも、国際協力事業団からの非常に有利な営農融資というものは続けておりまして、これがそれぞれのパラグアイの、融資返済に困っている移住者に対するかなりの手助けになっていたという事情がございます。
  93. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 数字の上で、実態的なことがいまここで明確にされていないためにどうこう申し上げられないと思うのですけれども、それが必ずしもパラグアイに限らない問題ではなかろうかなと思う。そうなった場合に一体援護措置なんというものはどういうふうになっているのかな。よく現地へ参りますと、ドイツの例とイタリアの例と比較されるのですよ。ドイツやイタリアは入植後三年ぐらいは政府で何事があっても援護をしながら自立できる、あとは自助努力に任せるというようなことがあるけれども日本の場合は、もう送り届けたらそれでおしまいだというようなところにも問題があるようですし、そういうことから考えますと、果たして適切な援護というものが、あるいはその営農者に対する助言というものがどう一体指導されているのかな。やはりその人たちにとってみれば命がかかっていますし、個人的には生活がかかっているわけです。われわれの願いとしては、その国のために日本人として誇らしげに貢献していただければなと、その土台が崩れたのではそれは何にもならない。やはりその土台を明確にコンクリートになるまでに云々ということは、これはちょっと言い過ぎかもしれないけれども、コンクリートになりつつあるようなところまでときには手をかしてあげる必要もあるのではないかな。いまパラグアイの一つの例を通じて申し上げているわけですけれども。それは具体的に一体どうなってしまっているのかな。
  94. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) 既存の移住者あるいは移住者のコミュニティーに対します援護につきましては、私どもが一番重点を置いているところでございます。実は、送り出しの数は減ったけれどもこの援護の仕事は大変にふえておりまして、私どもはいま三十三億ぐらいの予算規模でもって移住者のための援護の仕事を国際協力事業団にお願いしてやってもらっておりますけれども、その三十三億の九割が既存の移住者に対する援助でございます。  中身といたしましては、道路、電気を含むインフラストラクチュアから、医療関係、学校関係、それから営農のための融資などなどかなりの部分をカバーしているつもりでございます。先ほどドイツ、イタリアという御指摘がございました。ドイツ、イタリアの場合は日本よりも百年ほど前に移住を開始しておりますので、その分だけ定着の基盤が強いという点がございますけれども、それだけに私どもは、そういうドイツ、イタリアの例よりも若干手厚いのではないかというふうに自負いたしております。
  95. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 この問題はこれ以上言うと水掛け論になりますのでこの辺にしておきましょう。  さて、きょうお尋ねしたい問題の焦点にそろそろ移行してまいりたいと思います。いま大体総括的に戦後における移住の経緯、そしてまた今後の展望を踏まえた方針というものをまず前提としてお伺いしました。  さて、移住をする場合にいろいろな手続がありますね。当然のことだと思うのです。そうやたらと行きたいからといってぽんと行くわけにはまいりません。いま国際協力事業団、その前には移住事業団、その前には海協連というそういう歴史を経過してきております。この話は少々古い話になって大変恐縮なのですけれども、私の手元に大変熱烈な、解決をしてもらいたいというそういう陳情書が参ったために、捨てておけないということでこれから問題を提起したいというわけであります。それはドミニカの移住であります。  かつてわが党の同僚議員が予算委員会でこれを取り上げたことがあります。約束が違うということ、端的に言えば約束が違うということで多くの人は日本に帰らざるを得なかった。現在残っている人は非常に少ない。あるいは転住された方もいる等々のことがありまして、あの当時も、安倍さん御自身は御記憶がおありになるかどうかわかりませんけれども、棄民ではないかというふうな指摘を受けたことが実はございます。いわゆる募集要綱に盛られた内容と余りにも懸隔の違いがあるということで、要するに絶望ですね。これではとてもじゃないけれどももうやれないと。一体そのときの手続というものはどういう手順を経てなされたのかなということからまず始めてまいりたいなとこう思うのです。
  96. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) ドミニカの場合には、最初当時の公使館の公使と先方の農務大臣との接触がございました。それが昭和三十年の一月でございます。その後やはり三十年の九月に調査団を派遣いたしまして、ドミニカに移住できるかどうかという可能性を調べたわけでございます。  順序が逆になりましたけれども、もちろんこの調査団を派遣いたしました根拠といたしまして、当時のトルヒーリョ大統領がぜひ日本からの勤勉な移住者を送ってほしいということを熱烈に言ってまいられまして、これを受けて調査団の派遣とこういうことになったわけでございます。  さらに、翌年の三十一年の二月に松田政府代表が来られまして、やはりこの条件の確認ということをやっておるわけでございます。それをさらに受けまして、三月二十七日に先方の農務大臣から手紙が来た、これに対して当時の吉田公使から返事を出したと、こういう経緯がまず最初にございます。
  97. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 そこで、私のいま手元にあるのですが、当時のこれは三十一年三月二十七日付、ナンバー三二六六号というものですね。ルイス・メルカード当時の農務大臣と吉田公使との間に取りかわされた書簡、これは要旨です。この中に、約束された内容とそれから実際に移住者が聞いた、また、こうですよと言われた内容とが違っている。それはドミニカの計量でいくわけですけれども、向こうへ行った折りには面積として三百タレアの農耕地を無償譲渡いたしますよと、こういうふうに聞いているわけですね、出発するときには。三百タレアを無償譲渡します。ところが、この書簡では「三〇〇タレアまで」となっているわけです。これがやっぱり一つの大きな食い違い。ですから、ドミニカ政府にとってみればこちらは「まで」ということで、それは最高が三百タレア、百の場合もありますよ、八十の場合もありますよというそういう認識。ところが、受けとめたこちらの方としては三百タレアそのものを与えられるという話ですから、もう当初から大きな食い違いがあったということが指摘されるのではないだろうかというふうに思うのですけれども、その辺は政府としてどのように判断をされているのか。
  98. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) 御指摘の点は大変大事な点だと思いますので、正確に申し上げてみたいと思いますが、移住者が理解いたしました際には、これは国際協力事業団、当時の海協連が出しました募集要綱に基づいて判断をいたした、こういうことでございましょうが、その際には三百タレアプラス・マイナス・アルファ、つまり三百タレアという数字そのものではございませんで、家族の数でありますとか、あるいは作物の種類によっては増減することあるべしというふうなことが募集要綱に書いてございます。御指摘のように、これは最高三百タレアという表現とは若干違う点はございますけれども、三百タレアそのものではないという点は、これは一応そごはないのではないかと思うわけでございます。もちろん若干タイミングの点がございまして、当時ドミニカ移住ということが知れたときに、日本国民は非常に狂喜いたしまして、これは新しい天地が開ける、行ってみたいということで、大変な熱意が寄せられたわけでございます。かつドミニカ側も急いでおりまして、四月二十日までに——これは昭和三十一年でございますけれども、四月二十日までに願書を提出しなさい、こういうことでございましたので、どういうタイミングであったかと申し上げますと、この募集要綱を、先ほどお手元にお持ちのはずの向こうの農務大臣の書簡に出ております内容日本で知るよりも前に募集要綱をつくったのではなかろうか、こう思うわけでございます。  こういうふうに推測いたしますのは、時間の系列から逆算いたしまして、どうしても三月の中旬ぐらいからこの募集ということを始めませんと間に合わないという事情があったわけでございます。
  99. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 もう一つあるのですよ。これは恐らく国際協力事業団でお持ちになっている資料があると思うのです、これは海協連のときに出したものですから。初代の支部長さんは横田さんというお方でしょう、こういうふうに出ているのです、この紹介記事の中に。  「ドミニカ共和国において日本人移住者の受入業務のために日本海外協会連合会はトルヒーリョ市に支部を設置している。支部長としては横田一太郎氏が赴任して、移住に関する契約の締結に当り左の取決めを行った。」と、こうあるのですね。その前文として、「ドミニカ国政府日本海外協会連合会ドミニカ支部間契約書 契約当事者は双方合意の上左の各条を受諾する。第一条「ド」国政府はダハボン地区に日本人農業移住者を受入れ一家族当り三〇〇タレアスの」です、「まで」が入ってない。「農耕用地を譲与する。」と、こうあるのですね。これは一九五六年。  ですから、移住者の方々が出発するその前後あたりにこれはできているのですよ。この関連から未ましても、相当のやはり食い違いがあったのではないだろうか。ですから、移住者にとってみれば三百タレアという土地を無償譲渡してもらえるのだという認識のもとに向こうへ渡った。しかし、実際は行ってみると全然違う。この手違いというものはどこに実際あったのかという問題ですね。  それからもう一つ、これに関連した問題として移住者契約書というのがあるのですね。これは外務省では篤と承知おきをしていただいておりますように、これは一号から二号、三号とあるのです。この一号の文書を読みましても、これは契約の当事者は一体どうなっちゃっているのだろうと、非常に理解に苦しむ文言でここはつづられている。わかりにくい。これは後段にも申し上げますけれども、まず前段の問題として、そうした手違いがあった以上、どこかでやはりこの問題を整理しなければならない。恐らく二十数年間も経過した現在において、今日いま突如として問題が起こったのではない、こういうふうに考えられるのが常識でございましょう。しかし、それがもう何回も何回も、あるいは出先の大使館なりあるいは国際協力事業団の支部に申し入れを行ってもなかなからちが明かないままに今日まで来た。しかも現在与えられている土地は国有地で、耕作権もない。仮地権を認められた人は——仮地権というのは耕作権を認めてあげますよと。本地権とは違うわけですね。そういう状況の中で、将来きわめて不安定な状況で営農しなければならないという農業者の気持ちを察すれば、これは捨てておけないなということになりませんでしょうか。
  100. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) まず最初に、三百タレアの食い違いという御指摘の点につきましてお答えしたいと思います。  交渉の経過におきまして、先ほど申し上げましたように昭和三十一年の一月、それからまた同じ年の九月にドミニカ政府の非常に明確な意図を確かめたわけでございます。これはむしろトルヒーリョ大統領自身が、当時の調査団の代表にそういうことを言われたという記録になっておりますけれども、そのときは、ドミニカ政府は三百タレアをあげますということを確約したという文書がございます。これは外務省に残っております。当時の政府筋といたしましては、日本政府といたしましては、ドミニカ側に三百タレアを日本人の移住者に提供するという非常にはっきりした意図、つもりがあったということは、これは紛れもない事実であろうと思うわけでございます。ただ、実際の紙にいたしましたときに、最高三百タレアということになったし、また実際はそうではなかった。  そこで問題を整理させていただきますと、当時第一次の移住者が二十八家族、ダハボンという地区でございますけれどもそこに参りましたときに、実は一番驚いたことがあったわけでございます。それはどういうことかと申しますと、土地がどうしようもなく広大であった。したがって、広大過ぎるので、場合によってはその三百タレアという条件を変えてくれということを当時の移住者が公使館に来て言っております。そういうことから判断いたしまして、私ども見ますところ、ドミニカ側の用意と申しましょうか、準備と申しましょうか、これは非常に手厚いものでございまして、ただ土地の面積だけが三百ではなかったわけでございますけれども、居住用の住居もりっぱなものを整えておりましたし、それからなお驚くことに、募集要綱には書いてなかった月約百ドル、当時のお金にいたしまして百ドルでございます。昭和三十一年でございますから、当時の日本のサラリーマンの月給が三十ドル、四十ドルのときに、百ドルのお金を移住一家族当たりに支給する、補助金を出しますということ、これは募集要綱にないことでありますけれども、いろいろドミニカ政府は用意しておったわけでございます。したがって、私ども、ドミニカ側の善意と申しましょうか熱意と申しましょうか、移住者を受け入れる体制はそこから類推できると思うのでございますけれども、ただ何分土地の面積だけが若干違っておったということでございます。  いろいろと調べてまいりますと、土地の大きさそのものが三百タレアなかったから具体的にこういう損害があったというふうな事象は私ども聞いておりませんので、そこら辺を御了解いただきたいと思うわけであります。
  101. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 その辺は現地の人たちとの大きな食い違いなのですよね。先ほど来から申し上げているように、もうかれこれ三十年近くも前のことがいまだにくすぶって、そしてその三百タレアに固執しなければならないということを考えてみた場合に、いま答弁された中身を比較してみた場合、これやっぱり納得がいかないだろうなと。確かに、ドミニカ自体がそれぞれの移住者の受け入れ国の中でも群を抜いてと言えば少し褒め過ぎかもしれませんけれども、非常に移住者に対して優遇措置をとったということは事実なのです、これは。それは認めますよ。日本だけじゃないだろうと思います。写真も僕は拝見しましたけれども、大変近代的な住宅まで提供してくださる。相当日本に対する期待感を持ちながら移住者の受け入れれをしようとした事実は理解できるのです。  それはそれとしてそっちの方へおいておいて、実際問題としていま問題になりますのはその土地の問題。一体地権というものが認められるのかどうなのか。それがもし認められないとするならば、将来自分たちのこれから生活権というものは一体どうなるのだろう。これで保障というものが考えられるのだろうか。大まかにいけばこういう問題の絡みの中で、もうすでにその当時入植された方は申すまでもなく七十歳を超えた方がほとんどであります。もう先がないわけです。したがって、この短期間の間にこの問題を、あるいは多少は不満は残るにしても、政府としてはここまで努力をしてやってくれたかというやはり結果をもたらしてあげることが大事ではないのかな。現地の前田さんも非常にお骨折りをいただいていることは私は聞いております。またそのために何とかしなきゃならぬということで、最近外務省からも担当の方がいらっしゃったのでしょう。その状況はどうだったのですか。
  102. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) ごく最近参りました外務省の者は、短期の滞在でございましたので、つぶさに調べるというわけにはまいりませんでしたが、移住者の家族、おしなべて順調な営農を営んでおられる、こういうふうに見てまいったわけでございます。
  103. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 それでは答えにならないのですよ。  大変申しわけない言い方で恐縮でございますが、ここにあるのはまだ一部です、手紙は。十数通来ているのですから。特定の人からだけじゃないのですよ。複数の人から来ているのです。それは、全部困ったという話なのです。これ、一つ一つ読んでいたら読んでいる時間だけで二時間ぐらいかかっちゃいますからね。ですから、いま受けた答弁というものと実際現地で苦しんでいるその状況というのはまるでこういうふうにすれ違いになっちゃっている。これじゃ接点がないですからね、いま私が申し上げていることと。解決しようと思っても、どう一体対応でもってこれが解決できるのかなということになっちゃうのと違いますか。
  104. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) 確かに営農移住をなさる場合は、大変に現地で御苦労が多いということはそのとおりでございまして、ドミニカの場合でも大変に御苦労されただろうと思います。私は、その点はまことにおっしゃるとおりだと思います。  先ほど私の言葉足らずで失礼いたしましたけれども、もちろんこの地権の問題につきましては、現地の大使館を通じまして地権が得られるようにできるだけの努力をいたしたいというふうに考えておりますし、また、前田大使にもそのように訓令を出してございます。  先々週、ドミニカから農地庁の役人、法律顧問が見えたのでございますけれども、この方によりますと、地権の問題でございますが一生懸命やっておる。だから近い将来、できるだけ早い機会にこの地権の問題が解決されるようにぜひしたいということを言っておられました。他方、私どもといたしましても、大使館を通じて努力したい、こういうふうに思っております。  なお、それと別でございますけれども、営農移住地におきまして困窮しておられる、あるいはまた営農資金が足りないというふうな方がございます場合には、現在の国際協力事業団の融資でありますとか、あるいは領事措置の枠で考えております謝金をお渡しするとかいろいろな手段がございます。したがいまして、このドミニカの移住者に対しましても、御要望があればできるだけの援護を申し上げたい、こういうふうに思っております。
  105. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 後段の話はまた触れます、援護の関係については。  もう一遍逆戻りしますけれども、あの募集要綱と、それからドミニカ政府との間に取り交された交換公文と言った方がいいのか、書簡と言った方がいいのかそれが違っていた。ドミニカ政府から来る前に、先ほどの答弁の中には、すでに募集要綱というものはつくられた、こうおっしゃいましたね。それは、急ぐという物理的なこともあったでしょうけれども、そのことによって大変な手違いが起こったということはやっぱりお認めにならざるを得ないのじゃないでしょうか、その一点で困っているわけですから。募集要綱と違うじゃないかと。ところが、ドミニカ政府の方は、そんな約束はしていませんよと、わかりやすく言えばそういうことでしょう。
  106. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) 移住者を送り出すに当たりまして、日本政府はできるだけ現地の意向というものを、私どもこれはあっせん業務でございますから、現地の意向を正確に移住者に届けるというのが義務でございます。  このドミニカの場合には、トルヒーリョ大統領が約束したということが、これは三十一年に調査団が参りましたときにすでに明らかであったわけでございまして、私ども考えの中には、ドミニカ政府が三百タレアくれるのだなという感じが非常に強く印象づけられておりまして、これは先ほどの繰り返しになりますけれども、家族数でありますとか、作物の種類によりましてプラス、マイナスがあるよということはもちろん報告がございましたけれども、問題はその募集要綱、土地の面積は募集要綱に書いてございますことの一つでございまして、そのほかに受け入れ条件といたしまして、住宅でありますとか、それから種を渡すとか、あるいは什器類を全部そろえるとか、そういったことがございます。さらに募集要綱にないことも、つまり補助金百ドルということもございますわけですが、この全体を見まして当時の移住者の方々は、土地が三百ないからこういうダメージを受けたということを言っておられないわけであります。これは、船がサントドミンゴに着きます前に土地の広さについて担当官が説明いたし まして、そのときには三百タレアないけれどもということで、移住者の皆さんは了承されたということが私どもの報告にございます。  それから、また先ほどの繰り返しになりますが、三百タレアが広過ぎて大変に——これは困るとは書いてありませんけれども、困るというたぐいの表現が若干ある報告がございます。したがいまして、私ども全体といたしまして、募集要綱全体、それから当時の移住者の状況全体を判断いたしまして、土地の面積だけが若干そごしたという点から移住者がこれは事志と違ったというふうにお感じになったかどうかというのはいかがなものであろうかと思うのです。
  107. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 であるとするならば、なぜ大量にその当時の移住者が帰国をしなければならなかったのか、また他国へ転住をしなければならなかったのか。それは人によって個人差がありますからいろんな理由があったろうと僕は思うのです。けれどもいまはもう激減ですね。あの当時募集要綱に基づいて海を渡られた方はもう激減している。だから、そういうような経緯の中で問題がなければそういうことは起きなかったはずなのですね。  またもう一つは、いまおっしゃられた中にもあります報告によればというわけです。三百タレアが広過ぎるという手紙、だれもよう知らないですわ。なぜ約束が守れないかと、こういうわけだ。これじゃ水かけ論ですね。言い違い、聞き違いというのはこれはわれわれにはよくあることですから、なしとはしませんよ。また人によっては、こんなに広いところじゃとてもうちの家族構成ではできないかもしれないと言った人がいるかもしれない。あるいは一部の言葉を取り上げてそれは全体だとしたかもしれない。その当時のことを確認するすべもありませんので、ここでこれ以上の話をしてはもう堂々めぐりになるかもしれない。しかし、現実にこういう問題がまだ未解決のままに残っているという、これは厳粛に受けとめなければならぬと思うのですけれども、これはどうですか。
  108. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) いまドミニカの移住者にとりまして一番私どもの見るところ、大事なことは、地権を早く確定するということであろうと思います。この点は渋谷先生も御異論ないと思います。その点について私どもは最大限の努力をいたしたいと、こう思っております。  いまこの地権の問題、それから三百タレアの問題を考えるに当たりまして一つだけ御指摘いたしたいと思いますのは、日本人移民が現在すでに持っております土地の広さというものは、ドミニカ人の平均よりはるかに広いという事実がございまして、ドミニカ人より優遇されている状況がございます。ドミニカ人の持っております土地というのは平均して五十タレアでございますが、御承知のとおりダハボンの移住者は平均百八十タレアを持っております。かつまたほかの地区でも大体百タレア、百二十タレアというふうに、平均のドミニカ人の二倍、三倍の土地を持っておる、こういう事情がございますので、御参考までに御指摘申し上げさせていただきます。
  109. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 それはもう十分知っているのです。ただ、トルヒーリョ政権から——革命が起こって彼は殺された、そういういろいろな社会の変化があったろうと思うのです。それで、結局継続的にそれがなされないままにいま悶着が起きていると。確かにそれはドミニカ国民自身に対しては、いま説明があったように中には五十の場合もあるし、平均するとということになるでしょう。けれども、三百に対して現地で受けたのが八十五、恐らく最高に取得している面積というのは八十五の人が一番大きいのではないでしょうか。三百と八十五じゃ、これは相当な開きがありますね。だから、当初いろいろと夢を持ち計画を立てそして設計をしながら、それで、その三百という広大な、約十八町歩ですか、日本流に言いますと、それをやはり頭の中に想定しながら営農しようと、それが八十五に減るということになるとやっぱりそこに大きな矛盾というものが当然起きますでしょうし、目標が違ったということになるのはこれはもう言うまでもないと思うのです。  ですから、これはいずれにしても相手国のあることでもありますので、いまこちらへ来られているマルガリータさんですか、その方がいま地権の問題で窓口になって一生懸命取り組んでくださる。ありがたいことだと思います。この地権の問題についても、いま入植された方は全部地権は取得していないのでしょう。仮地権は取得した方が何世帯かある。この仮地権というのは耕作権を認めたということであって、実際は自分の所有にはなってない。ですから、これは冒頭にちょっと触れましたように、三百タレア無償譲渡と、こうなっているわけです、募集要綱には。それに一縷の望みをかけて渡ったわけですから、約束が違うといったらこれはもう大変な約束違いではないでしょうか。そうすると、その責任の所在というものは決してドミニカ政府にあるのじゃないのです。私はそう思うのですね。当初の募集要綱それ自体に問題があったのではないか。端的な言葉で言えばだましたということになるわけですね、結局。だまされた、だました。こんなことをいつまでも繰り返していたのではらちが明きません。  ですから、いま問題になるのは、また繰り返しになるかもしれませんけれども、その三百タレアというものが、若干時間がかかっても日本政府の努力によって取得できるものかどうなのか。そして、地権というものが間違いなく取得できるのかどうなのか。それは民有地のことがありますよ。民有地の場合は、向こうの人のこれは言い分ですけれども、帰化しなければ民有地はもらえないと。中には帰化しない人もいるでしょう。一生涯日本人でありたいというそういう願望を持って一生涯終わる人もいるかもしれない。民有地を取得しようと思っても、帰化しなければならぬという問題があるそうであります。それすらもいまは定かではない。さっき援護の問題が起きましたけれども、次に援護の問題を申し上げますけれども、さあそういったときに、一体三十年近く苦しんできたことに対する——それは総体的に見ていいこともあるでしょう、あるけれども、もうむしろどっちかといったら失望でしょうね。こんなはずじゃなかった。それがうつぼつとして、まあ言うなれば変な話ですけれども、あの方々はまるで怨念を持っているようなそういう状況のものとで何とかしてもらいたい、これは日本政府の責任であると、こう言うわけですよ。それはもう痛々しいほどのこの人たちの声というものに耳を傾けていただくとするならば、まあ御努力はされていることは承知はしておりますけれども、その努力が何らかやっぱり結果となってあらわれなければ努力したということにはつながらないということになりましょう。この点の見通しどうですかね。
  110. 藤本芳男

    説明員(藤本芳男君) 先ほど申し上げました援護につきましては十分全力を尽くしたいという前提のもとでお話申し上げますが、この三百タレアまで何とかいずれかの将来において入手できないかというお尋ねでございますけれども、現在のドミニカ政府の土地政策というものを考えましたときに、これは現実的ではないのではないかと。特に国有地の分配の問題でございまして、この間も選挙があったわけでございますけれども、そのときも日本人の移住者になぜ優遇するのだというふうな問題提起もあったわけでございます。ともあれ、この国有地の配分という点につきましては、この三百タレアという無償譲渡の約束は、トルヒーリョが六一年に倒れましたときに事情が変わってしまったというふうに理解せざるを得ないのであります。もう先生御承知のとおり、これはドミニカ政府の側では善意があった。善意はありましたけれども、六一年にトルヒーリョが暗殺された後この点が進まなくなったという点は、これはどうしようもないことでございまして、まさに事情が変わったというふうに言わざるを得ないと思うのであります。  なお、八十五タレアでございますけれども、これは私どもの計算では、人力、畜力を使っての耕作し得る最大の面積ではなかろうかという感じでございます。
  111. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 時間がもう惜しみなく過ぎてしまいますので、まだまだ広げたいのですが、せっかく石井さんがお見えになっているのに石井さんに向けた質問がないということは申しわけありませんから。  石井さんもパナマでは大変御苦労なさっていろいろと大変だったろうと思います。敬意を表します。  石井さんにお尋ねしたいのは、先ほどずっとお聞きになっておわかりをいただいていると思いますが、契約書というのがありますね、一号様式の。この中に、これはちょっと私も教えてもらいたい方の口なんでございますが、ちょうど一号の中段、第二条、「引受者と移住者との入植契約又は雇傭契約の締結を斡旋し、当該契約に関し将来起ることのある紛争の解決その他現地受入につき甲に対し」、甲というのは海協連の本部ですね、いまの国際協力事業団本部。「一切の責任を負うものとする。」と。  さて、ここで問題になりますのは、この「引受者」というのは一体どなたになるのですか。
  112. 石井亨

    参考人(石井亨君) お答えいたします。  いまおっしゃいました契約書第一号といいますのは、海協連、それから今日の事業団、引き続き一つの書式を移住者を送出するときに使っておるわけでございまして、これ以外使っていないわけなのでございますが、通常の契約の場合は海協連が送出についてあっせんの労をとる、現在の事業団でございますが、これが移住者の引受人との間に契約をすることになるわけですが、ドミニカの場合におきましては——通常たとえばブラジルですと、サンパウロの、先は行っている移住者が引受人になったり、移住者の団体が引受人になったりするわけで、これを乙という契約の相手にしまして、いま述べられました責任をそういう引受人が負うということになるわけでございます。  ドミニカの場合はいま領事移住部長が御説明されましたが、ああいう経緯で移住が実現したものでございますので、だれも移住者はおりませんし、大使館が引受人になるわけでもございませんので、実はその乙がないわけでございます。したがいまして、私はドミニカについてはこの一号書式を使った契約書はないと理解しております。  ただし、移住者がドミニカに行くまでの輸送費につきましてこれの貸し付けをいたしますもので、その貸し付けに関する移住者と海協連との間の契約書が必要になってくるわけでございます。それにつきまして乙という言葉が、その貸し付けに関する契約、これは第二号書式でございますが、そこに出てくるものでございますので、便宜上、支部長として就任して間もない横田支部長が移住者の代理という形で乙というところに名前を書きまして貸し付けに関する契約を完了したという経緯があったのだと思います。  したがいまして、御質問の一号の乙はだれかという問いにつきましては、第一号書式に関する限りそれはございませんで、第二号書式の貸し付け契約だけにつきまして支部長が名前を書いたということに理解しております。
  113. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 そうすると、全くこの第一号様式というのは存在しないわけですか。
  114. 石井亨

    参考人(石井亨君) 第一号書式は、当国際協力事業団の調査によりましては出てまいりません。第二号には名前が……
  115. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 それは了解です、こちらでわかっていますから。第三号のこともよく知っておりますので。  ただ、この第一号は、お手元にあるかもしれませんけれども、財団法人日本海外協会連合会会長坪上貞二さんですか、という名前が列記されて、その下に住所、氏名、これは移住者の方の名前というふうになるわけですね。そうすると、これはあり得ないということは考えられないと思うのですね。  ですから、全くこれがないと。これがやはりよりどころとなるから現地の人はこういうものを取り交わしておりますと。ただしこの住所、氏名については、これが公開されますとわれわれとしても困る場合がありますのでこれは削除しますと、こう言うわけです。そうすると、引受人とそれから移住者との間に取り交わされたこの契約書がまた問題になりはしませんかと、こうなるわけです。そうすると、これが明確になれば責任の所在というものはおのずから定まるであろうと。  石井さん御自身も着任されてまだ日も浅いし、なかなかその当時のことを古い資料を手繰ってみてもなかなか見当がつかないというその点は御同情申し上げます。
  116. 石井亨

    参考人(石井亨君) 通常の移住者送出の契約は、事業団が集団入植地をつくって送出する場合と、それから個人ベースで、先ほど申し上げました引受人とか引受団体が存在している場合とございますが、したがいまして、その場合にはいま話に出ました一号、二号の書式を持つ契約書が交わされるわけだと思いますが、ドミニカの場合はいわばドミニカ政府が実際上の引受人ということであったのだと思います。したがって、引受人が通常書かれるべきところにドミニカ政府というふうに書いて、これを移住者との契約というふうにはできなかったのだと思います。  日本のドミニカ移住が導入されましたのは、スペインのドミニカ移住のやり方にのっとってドミニカ政府が行ったわけでございまして、スペインの場合はやはりスペインの個々の移住者とドミニカ政府との間にきちんとした移住者契約書がありまして、そういうものを当初はドミニカ政府考えていたようです。日本側は、やはり言葉関係その他の問題があったのだと思いますが、公使館の方ではそういう道をとらずに、そういう移住者とドミニカ政府の契約というものはつくらず、したがいまして、ドミニカ移住に関する基本的契約というものは、移住者に関する限り存在しないと思います。現在残っております唯一の契約と言えるものは、輸送費の貸し付けに関する移住者と海協連の契約だけだと理解しております。
  117. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 したがいまして、その当時いまずっとお述べになったとおりの経過もあったろうと私思います。しかし、その後において、明確を期するために、大使館なり、大使館というよりも海協連ですね、その当時の。ここにありますように、何らかの形で入植契約だとか雇用契約というものを促進するような取り組みは全くなかったのでしょうか。それが間違いのもとになったとも言えるのじゃないかというふうに思うのですね。それは簡単で結構です、余り時間がありませんから。あったかないかということだけ。もう一つ大事なことを聞かなければならないから。
  118. 石井亨

    参考人(石井亨君) 現在までそういう契約はございません。
  119. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いずれにしても、いろいろな書類をもとにしていま申し上げているのですけれども、手違いから生じたとはいえ移住者として受けとめた、現在理解している問題は、全く約束と違うという結論になっている。  さてそこで最後になりますけれども、そのために融資というのでしょうね、全部じゃないみたいです。いわゆる、先ほど来から申し上げている土地の問題、地権の問題あるいは賠償の問題等々含めた期成同盟というものをつくって、そして何とかそれで強力に一つのグループをつくって、その力で日本政府に対しても要請しよう、ところが逆に、今度反対する人たちがいる。このかかわりの中で、国際協力事業団の支部長さんという方ですか、これは向こうから来た手紙そのままを言うのですよ、私は確認しておりませんから。これ、率直に言いますと、ずいぶん意地悪をされている。期成同盟ができた、あるいはそれに対する反対あるいは日本人会もそうなのです。南米を回ってみてもいろいろあるのです。けれどもそれを指導し、やはり日本人として心を合わせながら、日本人会にしても期成同盟にしても、その人たちが互いに考え方の違いはあっても、お互いぎすぎすしたような生き方になってはこれは非常にマイナスになるわけです、日本に対する評価も落ちるでしょうから。むしろそれを公平な立場に立って指導していくのがやはり出先の幹部の役割りではなかろうかというのが一点。  それで、その援護関係の問題にいたしましても、向こうの方が言ってきたことは、たとえば先ほど来から話題になっておりますこの援護資金、何とかしてもうのどから手が出るほど欲しいというその融資を求めている。しかし、あなたは期成同盟に入っているからということは表向きには言わぬそうです、陰で言っているそうです。表向きは限られた財源の中でできませんと、しかし、一方においては期成同盟に入っていない人には融資がちゃんと行われている、こんな不平等なことがあるのだろうかという嘆きの、もうこれも読んだら時間がかかりますから読みません。これをいま整理をして集約して申し上げている。まだあるのですよ。日本人学校の教師について——これは国際協力事業団の経営ではないのですね。だとするならば、不当介入をしてその教員をやめろといってそれを押しつけてやめさせてしまった、こういう問題が現実起きている。本当はそういうことをしてはいけないわけですよ。その先生にも長らく苦労をかけ、日本人の子弟の教育のためにがんばってもらった、これからも何とか続けてくださいよというのなら話はわかるけれども、その人が期成同盟に入っているばかりに、あなたはやめた方がいいのじゃないかというふうに意地悪をされて、それだったらやめましょう。もう六十過ぎた年配の婦人の方だそうです。  これはいまドミニカのことを一つ挙げましたけれども、ほかにもそういう例があるのです。きょうは時間がありませんから、そういうことは申し上げたくない。一番頼りにされているそういう人たちが、そういうようなまるで争いを激化させるような方向に持っていくみたいなことになったのではそれはもう浮かばれないということになるわけでございますが、恐らくそういうまともな情報は本部の方にはお入りになっていないのじゃないかと思うのです。だからいま集約して、もう時間の関係で時間をはらはらしながらいま申し上げておりますので言葉の足りない点もあったかと思います。最後に私は、ずっとやりとりを聞いた安倍さんに所信を聞いて終わりにいたしますから、その前に石井さんから答弁をしていただきましょう。
  120. 石井亨

    参考人(石井亨君) まず第一点、おっしゃいました期成同盟とか移住者の中の団体等で意見が対立したりぎすぎすするとか、これは大変憂うべきことでございまして、これはやはり政府の出先であります大使館とも協力いたしまして、事業団等の出先がいやしくもそういうことに関係があるというようなことがないようにいたしたいと思います。  いまおっしゃいましたようなことは私の耳にも入りまして現地に事実を究明しましたけれども、現地はそういうことはないという答えでございます。一点、先生のお話のことが出ましたが、これは現地の日本人の学校でありませず、現地の学校に現地人の先生がございまして、これに事業団が補助金を出しているというケースがございます。そのことだと思います。  いずれにしましても、いやしくも事業団の支部がそういうことで差別待遇とか問題を起こすような行為をすべきではない。これは今後の事業団支部の措置につきましては万遺漏のないことを御誓約いたします。支部長につきましては、いろいろそういう問題について直接調べましたが、こういう問題はございません。しかし一般論として、支部長もそろそろ交代の時期でありますし、早く交代さした方がいいということで近々交代させまして、新しい支部長のもとでドミニカにおきます移住者、移住地全般の状況がよくなるように、事業団としても全力を尽くす所存でございます。
  121. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 ちょっと時間が経過して恐縮でございますが、確かにおっしゃるとおりよろしくお願いしたいと思います。  それで、やはり火のないところには煙は立ちません。現地の御報告はないという恐らくそういう答弁が返ってくるであろうというふうに思いました。それはそれとして、今後そういうことのないことを期待したいと思います。  さて最後に安倍さん、いままでのやりとりをお聞きいただきまして、冒頭に展望と方針をおっしゃられたが、二度とこういう——いろいろな食い違いでもって問題があったということにせよ、本人たちが希望を持ってこれからもその国の発展のために貢献できるような指導的な役割りをぜひ果たすべきではなかろうか。それが次の時代のまた移住に道を開くことに通ずるであろう。その所信をお聞かせいただいて私の質問を終わらせていただきたいと思います。    〔委員長退席、理事安孫子藤吉君着席〕
  122. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) いまドミニカに対する移住の問題につきまして御質問、答弁を聞いておりまして大分食い違いが率直に言ってあるような気もいたすわけであります。しかし何といいましても、わが国を離れてドミニカに骨を埋めると希望を持って移住された方々ばかりでございますから、こうした人たちが将来に対して子孫のためにもその望みがかなえられるように、これは国としてもできるだけの配慮をしていくことは当然のことじゃないかと思うわけでございまして、いろいろと調査すべき点があればまた調査もしなければならぬと思いますし、さらにこの移住者の皆さんの御要請等もこれからお聞きしながらこれにこたえていく。特に援助等、援護措置といいますかにつきましては、移住者の御要請を待って今後とも積極的に取り組んでいきたい、こういうふうに思います。
  123. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 終わります。
  124. 安孫子藤吉

    ○理事(安孫子藤吉君) 本件に関する質疑は、本日はこの程度としまして、これにて散会をいたします。    午後三時十分散会