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久野忠治君 ただいま議題となりました昭和五十八年度
一般会計予算外二案につきまして、
予算委員会における審議の経過及び結果を御報告申し上げます。
この予算三案は、去る一月二十二日に
予算委員会に付託され、二月一日政府から
提案理由の説明があり、翌二日から質疑に入り、公聴会、分科会を合わせて二十一日間審議を行い、本八日討論、採決をいたしたものであります。
まず、予算の規模について申し上げます。
一般会計の総額は、
歳入歳出とも五十兆三千七百九十六億円でありまして、五十七年度当初予算に対し、一・四%の増加となっております。
また、五十六年度
決算不足、補てん繰り戻しを除いた実質的な
歳出規模は、前年度に対し、三・一%の減少となっております。
歳入予算のうち、租税及び
印紙収入は三十二兆三千百五十億円であり、また、公債の発行額は、
建設公債六兆三千六百五十億円、
特例公債六兆九千八百億円、合計十三兆三千四百五十億円を予定しており、
公債依存度は、二六・五%となっております。
特別会計は、その数が三十八であり、また、
政府関係機関の数は十五でありまして、ともに五十七年度と変わりがありません。
なお、
財政投融資計画の規模は二十兆七千二十九億円であり、五十七年度当初計画に対し、二%の増加となっております。
次に、質疑について申し上げます。
質疑は、国政の全般にわたって行われたのでありますが、その主なものについて申し上げます。
第一に、経済の見通しについてであります。
「五十八年度の
経済見通しについて、政府は、米国を中心とする
世界経済の回復並びに物価の安定に基づく
個人消費の拡大など、
国内需要に支えられて、
実質成長率は三・四%になると説明している。しかし、
米国経済については、
財政赤字が容易に縮小しないため、高金利の是正が期待したより緩慢で、
景気回復は非常におくれると予測されている。他方、
国内経済は輸出の鈍化と
国内需要の低迷が重なり、しかも
円安警戒から公定歩合の
引き下げが遅延していて、
景気回復の盛り上がりに欠け、加えて、五十八年度予算の
公共事業費の据え置き、
公立文教施設費等の減額などによって、
政府支出は実質〇・七%の減であり、また、
人事院勧告実施の見送り、年金、恩給の
物価スライドの停止、
民間企業の春闘の賃上げの抑え込み、
所得税減税の見送りによって、
個人消費の伸びが期待できない等の理由により、
日本経済は失速するのではないかと心配されている。このような状態で、果たして、
政府見通しの
実質成長率は達成できるのか」との趣旨の質疑がありました。
これに対し、政府から、「最近、米国における失業率の低下、
消費実績の好調などが伝えられ、金利の
引き下げも次第に行われて、経済は全体として
回復基調にあると見られ、これが
日本経済によい影響をもたらすものと思われる。
国内需要のうち、
民間消費支出については、可
処分所得が着実に増加しており、しかも五十八年度は、
企業活動の活発化に伴う手当の増加などから、
雇用者所得が六・六%増と見込まれ、また
消費者物価がますます安定するため、
実質消費支出三・九%程度の伸び率は期待できる。このほか、
世界経済の回復により
在庫調整が進み、民間の活力も次第に上昇するであろうことを総合的に考えれば、実質三・四%の
経済成長の目標は達成できるものと確信している」旨の答弁がありました。
第二に、財政問題についてであります。
「政府が提出した「財政の
中期試算」は、
赤字公債からの脱却を三年後、五年後、七年後の三つのケースに分けて試算しているが、仮定の
経済成長率を使って引き伸ばしただけの、
政策判断も何も入っていないきわめて平面的なもので、財政の
現状報告にすぎないではないか。政府としては、現時点において、いかにして
赤字公債の脱却を図る考えなのか。七年後の
赤字公債からの脱却を目指す試算でも、毎年度数兆円の要
調整額が含まれており、しかも、「
国債整理基金の
資金繰り状況についての
仮定計算」によると、六十一年度には
国債整理基金の残高がゼロとなり、六十二年度から、
赤字公債償還のために、大量の
予算繰り入れが必要となるが、
大量償還期を迎える
赤字公債の
現金償還をどうやって行うのか、
一般財源によるのか、借換債によるのか、その具体的な計画を示すべきではないか」との趣旨の質疑がありました。
これに対して、政府から、「「財政の
中期試算」は、五十八年度予算を前提とし、一定の仮定を置いて財政の姿を試算したもので、
中期的視点に立った
財政運営を進めるに当たっての検討の手がかりを示すものである。
特例公債脱却の手法については、新たな負担を求める措置を行う前に、
歳入歳出構造の見直しを行って、切るべきものは徹底的に切り、その上で、最終的には国民の選択に任せるべき問題である。
償還期限の来た国債については、国民に対して必ず現金で償還する。六十二年度以降必要となる大量の
予算繰り入れの処理については、それまでに今後の
経済事情、
歳入歳出の動向等を踏まえて検討すべきことであるが、理論的には、
歳出カット、負担増、借りかえを含めての
公債発行の三つが考えられる。しかし、借りかえについては、従来の
国会答弁からも、法律上からも、現在やると決めているわけではなく、今後どうするかという
検討課題である。負担増には、理論的には、税の
自然増収のほか増税も含まれる」旨の答弁がありました。
次に、「五十七年度、五十八年度と連続して
国債整理基金への
定率繰り入れを停止しているにもかかわらず、
中期試算では五十九年度の
定率繰り入れを予定しているが、多額の要
調整額があるのにこの
定率繰り入れを行うことができるのか」との趣旨の質疑に対し、政府から、「
国債定率繰り入れについては各種の議論があるが、法律の趣旨からすれば、
定率繰り入れの
停止自体が例外であって、国民の国債に対する信用度の維持という点からも制度は存続しておくべきもので、
定率繰り入れを恒久的にやめることは考えておらず、五十九年度においてこれを停止する考えは現在のところ持っていない」旨の答弁がありました。
第三に、防衛問題についてであります。
「
中曽根総理は、訪米して
レーガン大統領と会談し、その際、
日米両国は
運命共同体であると言われたが、この言葉には、常識的に死なばもろともという意味があり、
集団防衛に踏み切ったのだという印象を与え、誤解を招く軽率な発言とは思わないか」との趣旨の質疑がありました。
これに対し、
中曽根内閣総理大臣から、「
日米両国は、
民主主義、
自由主義の理念を共有し、経済的にも文化的にも深い
相互依存関係にあり、その上、
日米安保条約によって
共同防衛を行うとの意味において、運命を分かち合っていることを
運命共同体と表現したもので、
集団的自衛権を意味するものではない」旨の答弁がありました。
次に、「
中曽根総理は、
わが国は米国の
世界戦略に巻き込まれず、日本独自の道を歩んで防衛に当たると言われるが、このことは日本がとっている
防衛政策の実態と合致しておらず、また、米国における総理の発言にある
バックファイアの
侵入阻止も、三海峡の封鎖も、現在はもとより、「
防衛計画の大綱」だけではとうてい対応不可能である。総理の発言に
具体的裏打ちがなく、現実との間に余りにも乖離があると、国内においては疑心暗鬼を生み、国際的にも早晩信用を失うおそれがあるのではないか」との趣旨の質疑に対し、
中曽根内閣総理大臣から、「万一日本に対し
武力攻撃が生じた場合、まずみずからの手で外国機の侵入を阻止し、海峡のコントロールを行い、その上で力の及ばないところは
日米安保条約を最大限に活用することが防衛の基本であるが、自分の国は自分で守るという決意が出発点であり、これをはっきり宣言することにより、米国に、いざというときに日本を助けようと決心させることができる。戦争を防止し、平和を守り、
国土防衛を全うしようという念願から、現在「
防衛計画の大綱」の
早期達成に努力しており、また、
自衛隊は訓練に励んでいるのである」旨の答弁がありました。
また、
わが国に対する
武力攻撃が発生していない事態での
通峡阻止の
可能性の問題につきましては、本日の
委員会において、
後藤田官房長官から、
我が国に対する
武力攻撃が発生していない場合には、仮に米国からの要請があっても
我が国の
自衛隊が
通峡阻止のための実力の行使を行うことは憲法上認められずあり得ない。
同様の状況において、米国が自らの
自衛権の行使として
通峡阻止を
米国自身が行うことにつき
我が国の同意を求めてきた場合の
我が国の対応としては、
一 具体的にいかなる事態の下で米国がそのような同意を要請してくるのか明らかではないが、通常の場合には、これに応ずることが
我が国自身の安全の確保のために必要と判断されることはないと考えられるので、
我が国としては、そのような要請を原則的には拒否することとなる。
二 しかし、理論的な
可能性の問題として、
我が国に対する
武力攻撃は発生していないが、
我が国の船舶が国籍不明の艦船等により甚大な被害を受けている場合
等我が国に対する
武力攻撃が非常に緊迫性をもっている場合において、米国の要請に応ずることが
我が国自身の安全の確保のため是非共必要と判断される
可能性も完全には排除されないので、かかる例外的な場合にはそのような事情を考慮に入れるべきことは当然である。
三 米国の要請に対する
我が国の対応は、
我が国自身の安全の確保という国益の観点から
自主的判断に基づいて行われるものであり、そのような判断は、基本的には政府の責任において行うことになるが、その際国民の意思を体して十分慎重に対処すべきことは当然である。旨の政府の
統一見解が述べられました。
次に、「政府は、
わが国が
武力攻撃を受けている場合、公海上における
米艦艇の護衛について、
日本救援のため駆けつける
米艦艇が阻害されたとき、日本の
自衛隊が救出することは、公海においても
個別的自衛権の範囲内である旨の見解を示したが、これは、日本は
個別的自衛権の範囲内で行動しており、結果的に
米艦艇が助かるということは皆無ではなかろうという従来からの
政府見解を変更することになるのではないか」との趣旨の質疑に対し、政府から、「
わが国に対して
武力攻撃があった場合には、
自衛隊は、
個別的自衛権の範囲内において米側と共同対処でき、したがって、この場合に、
わが国防衛のために行動している
米艦艇が相手国から攻撃を受ければ、
自衛隊が自衛のために
共同対処行動の一環として
米艦艇を防衛することは、
わが国の防衛に必要な限度内と認められる以上、
個別的自衛権の範囲内である。従来、公海上における
米艦艇の護衛について、
わが国の自衛のためということを強調するために、結果として
米艦艇を守ると言ってきたが、これは
わが国が自衛の目的以外に
米艦艇を守れないということを言ったものである」旨の答弁がありました。
第四に、対
米武器技術供与問題であります。
本問題に関する野党の主張の主なものを申し上げますと、「今般の対
米武器技術供与の決定は、米国を
武器輸出三原則の枠外とするものであり、これは五十六年三月に
全会一致で可決された
武器輸出三原則及び
政府統一見解を厳守せよとの趣旨の
国会決議に明らかに違反しており、政府が
国会決議を勝手に解釈することは許されず、この決定を撤回すべきである。政府は、各党に対し、事前に了解を求めるための努力と手続をすべきであったが、それを怠ったのは
国会軽視である。
わが国の供与した
武器技術の第三国への移転について、日本側からのチェックがきわめて困難で、その実効性に疑問があり、実質的に
国会決議の形骸化をもたらすおそれがある」などであります。
これに対して政府から、「今般の決定は、近年
わが国の
技術水準が向上してきたこと等の新たな状況を考慮して、
日米安保体制の
効果的運用という見地から、
武器技術に限ってこれを
武器輸出三
原則等の
例外扱いとするものである。
国会決議の解釈については、
日米安保体制の
効果的運用上必要な限度での
武器輸出三
原則等の調整までも禁じているものではないと理解して行ったことであり、
国会決議はあくまで尊重していく考えである。今般の決定に当たり、各党に対し事前に連絡しなかったことは大いに反省している。対
米武器技術供与は、
日米相互防衛援助協定の枠組みのもとで実施するものであり、同協定では事前の同意なく第三国に対する移転を禁止している。したがって、それを米国としては当然守るべきであり、守ってくれるものと考えている。また、仮に、米国から同意を求められた場合には、
武器技術供与を認めた趣旨及び
武器輸出三
原則等を踏まえて、慎重に検討の上、回答したい」旨の答弁がありました。
また、「今般の決定により、
共同研究開発が可能となるのか、その場合、試作品までを含むのか、
共同生産まで行うのか。また、
防衛援助協定による
細目取り決めの内容を国会に報告すべきであるが、どう考えているか」との趣旨の質疑に対し、政府から、「
共同開発は行われるであろうが、技術の終結点である試作品までであり、
共同生産は行わない。
細目取り決めで
具体的内容が決定されるが、その公表については、どの程度まで可能であるかよく検討する」旨の答弁がありました。
さらに、
武器そのものの対
米輸出について、本日の
委員会において、
後藤田内閣官房長官から、
対
米武器技術供与に関する今回の政府の決定は、
日米安保条約及び
関連取極の枠組みの下で、米国に対してのみ、かつ、
武器技術(その供与を実効あらしめるために必要な物品であって武器に該当するものを含む。)に限り、供与する途を開いたものであり、
武器そのものの対
米輸出については従来どおり、
武器輸出三
原則等により対処することとしたものである。
中曽根内閣としては、これまで再三にわたり武器の
共同生産を行う意図のないことを国会で答弁していることからも明らかなとおり、
武器そのものの輸出についての従来からの方針に何ら修正を加える考えはない。
との政府の
統一見解が示されました。
最後に、減税問題及び
人事院勧告の実施についてであります。
「五十三年以来
所得税の
課税最低限を据え置いているため、実質的な増税となっており、特に勤労者にとって重税感が強い。
個人消費を拡大して景気を回復させるためにも大幅な
所得税減税を実施すべきではないか。また、五十七年度の
人事院勧告実施の見送りは、勧告の制度を根底から揺るがすばかりでなく、
歴代政府の
財政運営の失敗の責任を公務員に押しつけるものであり納得ができない。政府は、勧告を尊重し、これを実施すべきではないか。五十八年度の勧告にはどう対処するつもりか」との趣旨の質疑がありました。
これに対し、政府から、「
所得税の
課税最低限が六年間据え置かれており、減税を求める国民の声はよくわかるので、その希望に応ずるべく、方法を模索しているが、一方、厳しい
財政事情があり、財源をどうするかについて悩んでいる。また、
人事院勧告の取り扱いについては、
勧告制度の尊重、良好な
労使関係の維持等に配慮しながら議論を重ねてきたが、現在の
財政事情のもとにおいて
行政改革を断行していく面から、
公務員諸君にははなはだ気の毒であるが、この際はがまんしてもらいたいということで見送りの措置を講じた。五十八年度の勧告については、勧告が出された時点で諸般の事情を考慮し、最大限これを尊重する」旨の答弁がありました。
両問題につきましては、与野党間においても協議が行われていたのでありますが、去る二月二十三日の
与野党代表者会議において
自由民主党から示された回答に野党が不満の意を表し、
予算委員会の審議は翌二十四日から中断するに至りました。
その後、さらに協議が続けられましたが、三月一日、
福田衆議院議長から次のような見解が示されたのであります。
現下の内外とも重大な時期に、
予算審議が停滞していることは甚だ遺憾である。早急に審議を軌道に乗せるため次の諸点をふまえ、一刻も早く
予算審議を再開し、必ず年度内の成立を期されたい。
一、減税問題については、
与野党合意の趣旨にのっとり、これの実現のため、政府は最大限の努力をすることを確認すること。
二、人勧問題については、
人事院勧告制度の持つ
重要性をふまえ、一方現下の
財政状況をも勘案しつつ、二年続けて凍結の事態にならないよう政府は最善の努力をすること。なお五十七年度にかかる問題については、
各党国対委員長間において継続して協議を行うこと。
さらに、翌二日の
委員会において、
後藤田内閣官房長官から、
政府としては、
議長見解に従い、減税の実現のために最大限の努力をするとともに、人勧問題についても、
人事院勧告の持つ
重要性をふまえ、一方、現下の
財政状況をも勘案しつつ、二年続けて凍結の事態にならないよう最善の努力をする所存である。
なお、
与野党代表者会議において、
自民党幹事長から、
財政事情困難な時期ではあるが、
国民世論の動向に応え、
景気浮揚に役立つ
相当規模の減税を実施するための財源を確保し、
所得税及び住民税の減税についての
法律案を、五十八年中に国会に提出するとの確約があったことを承知している。
政府としても、これを尊重する。
との
政府見解が表明され、かくして、
委員会の審議は軌道に復したのであります。
なお、本日の
委員会において、五十八年度の
人事院勧告の
完全実施について、
中曽根内閣総理大臣から、最大限努力する旨の表明がありました。
以上申し述べましたほか、
政治倫理、憲法改正問題、韓国に対する
経済協力と朝鮮半島の統一、
防衛費のGNP一%の枠組み、
大型間接税の導入と
直間比率の見直し、
グリーンカード制の延期問題、
地方財政対策、
公的年度制度の統合問題、
減反政策の見直しその他
農林漁業の諸問題、
原油値下がりの影響、
中学生暴力事件と
青少年非行防止対策、その他国政の各般にわたって熱心な
質疑応答が行われましたが、詳細は会議録により御承知願いたいと思います。
本日、
質疑終了後、
日本社会党・
護憲共同及び
日本共産党から、それぞれ昭和五十八年度予算三案につき撤回のうえ
編成替えを求めるの動議が提出され、
趣旨説明が行われました。
次いで、予算三案及び両動議を一括して討論に付しましたところ、
自由民主党は、
政府原案に賛成、両動議に反対、
日本社会党・
護憲共同は、同
党提出の動議に賛成、
政府原案及び他
党提出の動議に反対、公明党・
国民会議及び民社党・
国民連合は、いずれも
政府原案並びに両動議に反対、
日本共産党は、同
党提出の動議に賛成、
政府原案及び他
党提出の動議に反対、新自由クラブ・
民主連合は、
政府原案並びに両動議に反対の討論を行いました。
引き続き、採決を行いましたところ、両動議はいずれも否決され、昭和五十八年度予算三案は、賛成者多数をもっていずれも可決すべきものと決しました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
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