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森井議員 私は、ただいま議題になりました
原子爆弾被爆者等援護法案につきまして、
日本社会党、公明党・
国民会議、民社党・
国民連合、
日本共産党、新自由クラブ・民主連合を代表いたしまして、その提案の理由を御説明申し上げます。
昭和二十年八月六日、続いて九日、広島・長崎に投下された人類史上最初の
原爆投下は、一瞬にして三十万人余の生命を奪い、両市を焦土と化したのであります。
この原子爆弾による被害は、普通の爆弾と異なり、放射能と熱線と爆風の複合的な効果により、大量無差別に破壊、殺傷するものであるだけに、その威力ははかり知れないものがあります。
たとえ一命を取りとめた
人たちも、この世の出来事とは思われない焦熱地獄を身をもって体験し、生涯消えることのない傷痕と、
原爆後遺症に苦しみ、病苦、貧困、孤独の三重苦にさいなまれながら、今日までようやく生き続けてきたのであります。
ところが、わが国の
戦争犠牲者に対する援護は、
軍人、
公務員のほか、軍属・準軍属など国との雇用
関係または一部特別権力
関係にあるものに限定されてきたのであります。しかし、原子爆弾が投下された
昭和二十年八月当時の、いわゆる本土決戦一億総抵抗の
状況下においては、非戦闘員と戦闘員を区別して処遇し、原子爆弾による被害について
国家責任を放棄する根拠がどこにあるのでしょうか。
被爆後三十数年間生き続けてこられた三十七万人の被爆者と、死没者の遺族のもうこれ以上待ち切れないという心情を思うにつけ、現行の医療法と特別
措置法を乗り越え、
国家補償の精神による被爆者
援護法をつくることは、われわれの当然の責務と言わなければなりません。
特に昨年六月に国連軍縮特別総会が開かれ、ニューヨークでは百万人の反核集会が開かれましたし、わが
国内においても、反核・軍縮を求めて草の根運動が発展し、その原点として被爆者援護を求める声が一段と高まっている折から、
政治もこれにこたえるべきであります。
国家補償の原則に立つ
援護法が必要な第一の理由は、アメリカの
原爆投下は国際法で禁止された毒ガス、生物化学兵器以上の非人道的兵器による無差別爆撃であって、国際法違反の犯罪行為であります。したがってたとえ
サンフランシスコ条約で
日本が対米請求権を放棄したものであっても、被爆者の立場からすれば、請求権を放棄した
日本国
政府に対して
国家補償を要求する当然の権利があるからであります。
しかも、
原爆投下を誘発したのは、
日本軍国主義
政府が起こした
戦争なのであります。われわれがこの史上最初の核爆発の熱線と爆風、そして放射能によるはかり知れない人命と健康被害に目をつぶることは、被爆国としての
日本が、恒久平和を口にする資格なしと言わなければなりません。
第二の理由は、この人類史上未曽有の惨禍をもたらした太平洋
戦争を開始し、また終結することの権限と
責任が
日本国
政府にあったことは明白であるからであります。
特にサイパン、沖縄陥落後の本土空襲、本土決戦の
段階では、旧
国家総動員法は言うまでもなく、旧防空法や
国民義勇隊による動員体制の強化に見られるように、六十五歳以下の男子、四十五歳以下の女子、すなわち、全
国民は
国家権力によってその任務につくことを強制されていたことは紛れもない事実であります。今日の世界平和が三十万人余の犠牲の上にあることからしても、再びこの悲劇を繰り返さないとの決意を国の
責任による被爆者
援護法によって明らかにすることは当然のことと言わなければなりません。
第三の理由は、すでに太平洋
戦争を体験している年代も数少なくなり、ややもすれば
戦争の悲惨さは忘れ去られようとしている現状であります。
原爆が投下され、戦後すでに三十数年を経た今日、被爆者にとってはその心身の傷跡は永久に消えないとしても、その
方々にとっては
援護法が制定されることによって初めて戦後が終わるのであります。
私たちは以上のような理由から、全被爆者とその遺族に対し、放射能被害の特殊性を考慮しつつ、現行の軍属、準軍属に対する
援護法に準じて、
原爆被爆者等
援護法を提案することといたしたのであります。
次に、この
法律の内容の概要を御説明申し上げます。
第一は、健康管理及び医療の
給付であります。健康管理のため年間に定期二回、随時二回以上の健康診断や成人病検査、精密検査等を行うとともに、被爆者の負傷または疾病について医療の
給付を行い、その医療費は、七十歳未満の被爆者については現行法どおりとするとともに、老人被爆者についても、老人保健法にかかわらず、
本人一部負担、地方自治体負担を国の負担といたしました。なお、治療並びに施術に際しましては、放射能後遺症の特殊性を考え、はり、きゅう、マッサージをもあわせて行い得るよう別途指針をつくることにいたしました。
第二は、医療手当及び介護手当の支給であります。被爆者の入院、通院、在宅療養を対象として月額三万円の範囲内で医療手当を支給する。また、被爆者が安んじて医療を受けることができるよう月額十万円の範囲内で介護手当を支給し、家族介護についても
給付するよう
措置したのであります。
第三は、被爆二世または三世に対する
措置であります。被爆者の子または孫で希望者には健康診断の機会を与え、さらに放射能の影響により生ずる疑いがある疾病にかかった者に対して、被爆者とみなし、健康診断、医療の
給付及び医療手当、介護手当の支給を行うことにしたのであります。
第四は、被爆者
年金の支給であります。全被爆者に対して、政令で定める障害の程度に応じて、年額最低三十万千二百円から最高五百七十九万三千五百円までの範囲内で
年金を支給することにいたしました。障害の程度を定めるに当たっては、被爆者が
原爆の放射能を受けたことによる疾病の特殊性を特に考慮すべきものとしたのであります。
第五は、被爆者
年金等の
年金額の自動的改定
措置、すなわち賃金自動スライド制を採用いたしました。
第六は、特別
給付金の支給であります。本来なら死没者の遺族に対して弔慰をあらわすため、弔慰金及び遺族
年金を支給すべきでありますが、当面の
措置として、それにかわるものとして百万円の特別
給付金とし、五年以内に償還すべき記名国債をもって交付することにいたしました。
第七は、被爆者が死亡した場合は、十五万円の葬祭料を、その葬祭を行う者に対して支給することにしたのであります。
第八は、被爆者が健康診断や治療のため国鉄を利用する場合には、
本人及びその介護者の国鉄運賃は無料にすることにいたしました。
第九は、
原爆孤老、病弱者、小頭症その他保護、治療を必要とする者のために、国の
責任で収容、保護施設を設置すること。被爆者のための相談所を都道府県が設置し、国は施設の設置、運営の補助をすることにいたしました。
第十は、
厚生大臣の諮問機関として、
原爆被爆者等援護審議会を設け、その審議会に、被爆者の代表を
委員に加えることにいたしのであります。
第十一は、放射線影響研究所の法的な位置づけを明確にするとともに、必要な助成を行うことといたしました。
第十二は、
日本に居住する
外国人被爆者に対しても本法を適用することにしたのであります。
第十三は、
厚生大臣は、速やかにこの
法律に基づく援護を受けることのできる者の
状況について
調査しなければならないことにいたしました。
なお、この
法律の施行は、
昭和五十九年一月一日であります。
以上が、この
法律案の提案の理由及び内容であります。
被爆後三十八年を経過し、再び
原爆による
犠牲者を出すなという原水爆禁止の全
国民の願いにこたえて、何とぞ、慎重御審議の上、速やかに可決されるようお願い申し上げます。(拍手)