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浦井委員 単刀直入にお聞きをしたいのですが、二月一日から老人保健法が
実施をされて、その直前に診療報酬改定、特に老人特掲診療料というものが設けられて、そこでここ数日間新聞をにぎわわせておるのですが、入院中の老人の患者の追い出し現象であるとか、あるいはお年寄りの患者の入院を拒否するという現象が各地で起こっておる。
〔
委員長退席、丹羽(雄)
委員長代理着席〕
そういう現象の中で、老人の患者と医療機関の中に一種のパニックのような状態が起こっておるということは、
大臣もいろいろなところから聞いておられると思うのです。
私はその問題を論議する前にお断りをしておきたいのは、いま
大臣や
委員長にお渡ししたメモですね、これは
厚生省が十二月十日に中医協全員懇談会に提出をされた「老人病院に関する
検討メモ」ということで、そこに書かれておる病院の分類の仕方が比較的使いやすいので、これをたとえばAランク病院と言えば基準看護病院、それからB、Cは略しまして、Dランク病院と言えば老人収容比率六割未満病院、基準看護病院を除く。E、Fというのは両方とも老人収容比率六割以上病院。Eがいわゆる許可病院であり、Fは許可外病院であるということで、一々言いおると舌をかむので、Aランク病院とかEランク病院というふうに言わせていただきたいと思います。
そこで、私がいろいろ聞き取り
調査をやったりして注目しておるのは、E、Fランク病院でもそういう現象が起こっておるわけでありますが、Dランク病院でかなりな患者の追い出しとかあるいは拒否とかいうようなことが起こっておるわけであります。
そこで、私が調べたのですけれども、東京の足立区の柳原病院、これは訪問看護では全国的に非常に有名な病院でありまして、この
委員会に設けられた高齢者対策小
委員会に
参考人として
出席をしてもらった増子医師という人が所属をしている病院でありますが、そこで調べたのであります。そこでは、ことしの二月中の外から持ち込まれた入院に関する相談件数が十五件ある。これは例月二、三件であるわけです。二件ないし三件なんです。その十五件の中で、どこから依頼されたのかあるいはどういう病院に入院しておって柳原病院に相談に来たのかという内訳を調べますと、Aランク病院からは二件であります。Dランク病院が十二件、E、Fランク病院が一件、こういうことであります。
たとえばその一件だけについて言うと、これはわれわれ医者の側から見ますと、ごく普通のケースでありますけれども、かなり困難なケースであります。七十七歳の男の人で寝たきり、脳卒中の後遺症があり、多少痴呆がある。食事の介助は必要だし、尿の失禁もある。家族は七十二歳の奥さんだけだ。いままでは六十床ぐらいの多少リハビリのできる病院に入っていたが、一月にその病院当局から余り治る見込みのない人は退院してほしいと言われて、奥さんが柳原病院に相談に来られた、こういう話がある。
それから、私の住んでおります阪神間のある病院の院長さんの話でありますが、ここは百四十床の内科系の病院で、大体Dランク病院に相当する。老人保健法が
実施をされて、老人収容比率を何とか六〇%以下にしたいと院長は考えて、二十人余りの比較的長期にわたって入院してしかも退院しても何とか日常生活が足せるような人を見つくろって退院をお願いしたところ、十五、六人が退院をした。ほとんどが通院になったけれども、かえってまた病気が悪くなってUターンしてきた人も二、三人おる。そのかわり、おかげで老人収容比率は七〇%から四十数%になったということであります。
それから、東京の豊島区のある病院の話でありますが、九十床の、これはもう初めからEランク、許可病院を目指しておるところであります。ここでは一月以来、東京にはこういう言葉があるのでしょうけれども、生涯ベッドを幾ら持っておるか、生涯ベッドというのはいわゆる老人病院に入ってそのままそこに亡くなられるまで預かってほしいという意味ですね、そういう生涯ベッドを幾ら持っておるか、あるいは入院できないかというような他の病院からの問い合わせが殺到しておる。
それから、区として言いますと東京の北区では、老人のたらい回しが起こっておるという話であります。二十五病院ある中で、A病院は四カ所で、その他二十一病院あって、平均すると五七から五八ぐらいの老人収容比率である。そこで、六〇%を超えそうな病院は老人をほかの病院に回す。ところが回された病院も引き取れない。特養もない、家もない、あっても介護者がいないということで、区役所は救急車で強引に病院に運び込んで、
行政の方は知らぬ顔をするし、病院の方は引き取らざるを得ないとか引き取らないとかいうような、さまざまな悲劇が起こっておる。東京の中野の区長さんでありますけれども、中野の区長に交渉しますと、そういうことは初めて聞いたとびっくりして、これから二十三区の区長会に申し入れをして、相談して都に申し入れるというような話があるわけであります。
それで、私がE、FあるいはDランクに相当しそうなところに電話をかけたり訪問したりしますと、私が電話をかけるだけで、あるいは行っただけで、向こうの方から先に、私の方は老人の追い出しはやっておりませんと言うて先手を打ってくるというような現象も、私自身が経験をしておるわけであります。
要するにD、E、F、特にDランク病院というのは六〇%の比率を下回らせることにいま躍起になっておる。
ところがよく考えていただきたいのは、このDランク病院というのは
厚生省のデータによりますと三千七百あるそうですけれども、その大部分は大体内科系の民間中小病院です。そういうところはそれなりに地域の医療センターとして住民と密着をしながら、またときには
行政の無理も聞いて、
行政と協力をしながら何とかプライマリーケアにいそしんでおる、こういうところが大部分であります。そして、若い人あるいは急性の病気の人は大体大学附属病院であるとか少なくともAランク病院に行くということで、Dランク病院というのは技量が高くてもあるいは一定の評価を受けておっても自然に高齢者が集まる、特に大都会ではそういうことになっておるわけであります。だから、こういういわば日本の医療の第一線を支えておるようなところで、三千七百全部でこんなことが起こっておるとは言いませんけれども、かなり大きな混乱が起こっておるというのが私の結論であります。
それでは、基準看護病院であるAランク病院は平静かというとそうでもない。先ほどもそういう話があったけれども、点滴注射料金は下がるとか、あるいは長期入院の逓減方式が四区分から六区分になるとかいうようなことで、患者さんを収容しておいてもこれからは余りメリットがないというふうに短絡するわけですよ。それでその前に、D、E、Fのそういう病院から老人が押し寄せるのではないかというふうないわば恐怖におびえて、もう防衛態勢をとっておる。そしてD、E、F、特にD、Eというような病院から入院を依頼すると、病状を聞く前にその患者さんの歳は幾つですかというふうに聞いて、七十歳以上ですということになると断られるという現象がある。これは基準看護病院というだけでなしに、文字どおり最高峰の私立の大学附属病院でもそういう現象が起こっておる。
それから養護、特養老人ホーム、こういうところも困っておる。病人が発生して、これはもう特養でも置いておけないので医療機関に頼むということをやると、いままで引き取ってくれておった医療機関が断るという現象が老人ホームにも起こっておる。
まだある。今度は許可病院にしなければならないという一部分の病院がある。そうなると、そこではいままでよりも多少とも看護婦さんの手をそろえなければならぬということで、D、Eという中小病院のクラスのところでは看護婦さんの引き抜き合戦が行われる。こういうことも起こっておる。
きのう電話で連絡を受けたのですが、富山県では、これは私もよくわからないのですけれども、新庄病院というのがある。そこでは付添婦が七十二人おったのですけれども、三十二人がやめてくれということで首切りです。それから、これも電話連絡でありますけれども、流杉病院というところで付添婦が百五人おったのが、これも三十五人やめてくれ。ここは老人病院で老人ベッドが二百五十あるそうです。そこは基準看護なし病院ですからDあるいはEというようなところだろうと思うのですが、今回この許可病院になるために看護婦を八人に一人の割りで雇用した、そういう現象がある。それでやめてくれという
理由は、老人保健法施行で許可病院になるので付き添いをつけるのが厳しくなるのでやめてほしい、こういう言い方であります。私もよくわからぬ
理由でありますけれども、とにかくやめさせられておるのが現実の現象であります。
こういうような状態が連日新聞をにぎわしておりますけれども、一体これをどうするのか、一体どこが責任をとるのか、それを私はまず最初に聞きたい。
吉原さん、政策効果が早くもあらわれてきたのだというようなことで笑って済ませるような問題ではなかろうと私は思う。それはE、Fで多少の混乱が起こるのは皆さん方も予期されておったかもしらぬけれども、もう一つ上のランクのDランク病院で連鎖反応的に大きな混乱がかなり起こっておる。あなた方が予期しないような混乱が起こっておる。この責任は一体どうするのですか。