○
磯辺参考人 ただいま御紹介いただきました
東京工業大学の
磯辺でございます。ちょっと声を悪くしておりまして、多分これはたばこのせいだろうと思うのでございますけれ
ども、お聞き苦しい点はひとつ御了承いただきたいと思います。
私
自身、きょうは少し違った角度からお話しというふうに思っておるわけでございますけれ
ども、まず、
アセスメントの
制度そのものに対しましては、従来の
環境行政の中できわめて
評価すべきことであるというふうに基本的には考えております。ただ、私
どもの
観点と申しますのは、多少
技術的な
観点から、この運用に当たりまして、いろいろお願いをしてみたいというふうに実は考えておるわけでございます。
御
承知のとおり、
わが国の
国土三十七万平方キロ、四つの島に一億二千万の
人間がひしめいている。
国土の約七・五%というところに全
人口の三八%が居住しているという、きわめて特異な
状況にあるということ、さらに、
日本列島の特質から言いまして、
火山灰性の土壌の分布というのが非常に顕著でございまして、これがきわめて
自然災害をもたらす
要因になっておるということでございます。
さらに、
雨量について申し上げますと、年間の
雨量は千八百ミリと言われておりますけれ
ども、これはちなみに、
世界の
平均以上ということになっておりますが、
人口一人当たりの
雨量につきましては、
世界平均のほぼ五分の一である。一体これは何を
意味するのかといいますと、結局、
水需要と水の
資源のアンバランスがきわめて大きく作用しておる。その
意味で、いま申し上げました水の
資源、それから
土地の
資源というのは、きわめて重要な
環境資源であるというふうに私
どもは基本的に
理解しておるわけでございます。
多少個人的なことになりますけれ
ども、私
自身アメリカで、ちょっとお耳になれない
言葉かと思いますけれ
ども、
エコロジカルプランニングというものを長いこと勉強しておりまして、これは
環境利用の
適性評価、
皆さん方、
影響評価という
言葉をお使いなんですが、私がいま申し上げているのは
適性評価、これが
エコロジカルプランニングと言われるものの
内容でございます。
ちょうど私が勉強しておりましたころ、今回の
法案のある
意味でのもとになっております
国家環境政策法が制定された時期でございまして、私もそういったような仕事をしておったために、この
法律の何らかの
影響を受けて作業をしておったというふうに
理解をしているわけでございます。
ただ、ここで
アメリカの
国家環境政策法と今回の
法律についての比較を申し上げるのは適当ではないのでございますけれ
ども、私がどうしても気になりますことは、
アメリカの
国家環境政策法、
日本で言えば
環境保全基本法に当たるものであろうと思うのですが、その
目的の中に、
環境と
人間の豊穣で快適な調和を助成するということを、きわめて理想的なものを掲げていると同時に、きわめて重要な
生態系と
天然資源について十分
理解いたしなさい、いま申し上げました
エコロジカルプランニングとは言いませんけれ
ども、エコロジカルという
言葉がその
法律の頭に出てきているわけでございます。
先ほどの話に戻りますと、
エコロジカルプランニングは何かといいますと、これは
アメリカでできた
学問でございますので、御
承知と思いますけれ
ども、最小のコストで最大の利益をもたらす
土地の
利用、あるいは先ほど申し上げました
水資源、
土地資源の
利用の最良の
方法を工夫するための
学問であるというふうに言ってしまってよかろうかと思います。
これもまた、多少個人的なことになりますが、ちょうどそうした折に、私
どもアメリカにおりましたときに、
日本のお
役所から一通の手紙が舞い込んでまいりました。これは、あるお
役所で山形県に、当時
列島改造の一環だと思うのでございますけれ
ども、米沢で
工業団地をつくります、ついては
環境アセスメントなるものをいたしたい、
日本で余り経験がないので、私
どもの大学に
専門家がいるであろうから、ひとつ来て協力をしないかということでございました。そういう理由で私、
日本に参りましたのは
昭和四十七年でございます。
当時まだ、
アセスメントがそれほど普及していなかったというふうに
理解しております。そのときに、
アメリカから
日本に帰りまして、
日本で
エコロジカルプランニングをやるときには何が一番大事なのかという話をされてきたわけでございますけれ
ども、その中で、
日本では地下水の問題が非常に重要である、地下水というのは、火山列島では絶対量が大変少のうございます。それから分布が非常に不均等でございます。それともう一点、海岸の保全をしなさい、これが要するに
アメリカ大陸などと違う、
日本が列島であることの性格による、
日本でこれから
環境問題を考えていく場合の重要なポイントになりますよということで、
日本に参りまして、実は作業を始めたわけでございます。
ちょうどこの
工業団地が、御
承知と思いますけれ
ども、山形県を代表する河川である最上川の源流地と申しますか、源流地というのは、河川がだんだんこうしてきまして、それが流れ出すというのが源流地でございまして、したがって、源流地では地下水位が非常に高いわけでございます。地下水位が高いというのは、ちょっと掘れば地下水が出てくる。もし、こういう状態の中で
工業団地、当時予定されておりました
工業団地といいますのは鋳鍛造、鋳物でございます。当然これは水の汚染あるいは重金属の汚染というのが
予想されるわけでございますので、私
どもは、
アセスメントするに当たりまして地下水の分布を調べまして、地下水位が一番低いところ、つまり上に出てきてない部分で
工業開発をやれば、そうでないところよりも
影響が少ないであろうということで、
地域の選定をしたわけでございます。同じ米沢盆地いろいろございますけれ
ども、多分この辺は比較的地下水の問題が少ないであろうというところを実は選定したのですが、御
承知のとおり、
日本の
アセスメントというのは、当時からすでに場所が決まっておったということなのでございますね。
その当否はここで問うつもりはないのでございますけれ
ども、いまのいろいろなお話の中で、多分食い違っておるのは、そういったような多少の代替案、まだ物を決める前に多少の選択の余地があるということ、これがつまり代替案でございます。それからもう一つは、代替案が
成立するということは、
対策、そこでもし重金属の汚染があるならば、二次処理、三次処理をしますよという
対策がきわめて立てやすい、これが第二点、したがって、
環境あるいは
公害対策にかかるコストがきわめて廉価で済むであろうという、選択の問題がどこまで可能になるのかというのが、実は先ほど申し上げました、
環境の適性と
環境の
影響評価という、二つの違った考え方にあるわけでございまして、むしろ私
どもがここで申し上げたいのは、
環境の適性を
利用することによって、先ほど
アメリカの例で申し上げましたように、自然の
資源をなるべく有効に使おうという、そういう基本的な理念がございませんと、多少口幅ったいことでございますけれ
ども、
法律がどんなにりっぱであろうとも、その運用に当たりていろいろな
支障が起こってくるであろう。
つまり、私
どもが申し上げておりますのは、この
法律が制定されるに当たりまして、いま幾つかお願いしましたような基本的な理念について、ひとつ何とか合意をおつくりいただきたい。
といいますのは、もう少し
技術的に申し上げますと、ただ単に
影響を
評価することではなしに、自然の
資源が持っておる、自然作用というふうに私
ども申し上げておるのでございますけれ
ども、自然の作用をもう少し活用すること。もう少しわかりやすく申し上げますと、たとえば、いま
影響評価の
対象になっております大気の質であるとか水の質、あるいは植物の緑であるとか土壌という個々の問題の
評価自身は、必ずしも
人間がそこで何かをするというときのコスト計算をするのには適当でない。つまりわかりにくい要素を持っておる。じゃ、どういうことを
評価しておいたらいいのかといいますと、たとえば、いまの山形の例で申し上げれば、どの部分が地下水の分布が汚染に対して一番いい状態にあるのか、悪い状態にあるのか、あるいは表流水といいまして、地上の表を流れる水が汚染されやすい
地域条件とか、汚染されにくい
地域条件、あるいはもっとわかりやすく言いますと、たとえば大気というものがございまして、これはいろいろな複雑な動きをいたします。
そこで上がっているたばこの煙がこっちへ流れてくるというのは、そのドアがあきますと風が入ってまいりますから――いや、別にたばこをおやめいただかなくても結構なのでございますけれ
ども、そういう自然の風の動きで煙がどちらへ流れるかというのが実は非常に重要なのでございます。
これは要するに自然の、言ってしまえば神様がつくった部分というものを、先ほど申し上げました
エコロジカルプランニングでは非常に大事にするわけでございます。そういったようなことで、大気がどちらへ流れるかというようなことを判断しながら、どこに煙突を建てたら一番
人間に被害のないところへそれが移動するかというような判断についても、きわめて大事になってくるわけでございます。
一体、私は何を申し上げようとしているのかといいますと、一番の問題は、
事業計画ができてから
影響を
評価することのむずかしさがやはりそこにあるのであろう。
エコロジカルプランニングあるいは先ほど
日本語で
土地利用適性評価と申し上げたのは、そういったような
環境情報を
事前になるべく早い機会に整備しておく。
話が前後いたしますけれ
ども、
アメリカの
国家環境政策法で私
どもが作業しておりましたときに、そういったような情報は
日本に比べてきわめて豊かであるというのは事実でございます。そういったような情報をひとつ十分に整備していただくこと。それに当たって、自然作用というものを十分に
理解していただくこと。
私、きょうは実はそういったような
観点から、公共団体がいろいろな試験的なあるいは実践的な仕事をしておられるのを御紹介しようと思っておったのですが、時間がなくなりますので、ちょっと割愛させていただきますけれ
ども、たとえば私
どもが
アメリカからそんなものを勉強して帰ってきたときに、
日本のある人に言われたのですが、そんなことは
日本では昔からちゃんとやっておった。たとえば皆様方よく御
承知の鬼門という
言葉がございます。これは多分地下水の涵養源に当たるはずだ。だからそこへ便所はつくってはいけませんよ。あるいは方位という
言葉がございます。これは詳しく勉強いたしますと、必ず風の道とのかかわりがあるはずです。こういうことに関しては村の故老は必ず知っておられるのではなかろうか。
たとえば最近よく言われております地名の問題でございます。この中にもエコロジカルな要素が非常に入っておる。二、三例を申し上げますと、谷の口という地名がございます。これは必ず豪雨に見舞われる
地域でございます。それから宮の前、尾崎というような地名がございます。これは必ずお宮が建っておりまして、いつでも風が強いところで、こういうところに家を建てるものではない。あるいは谷戸、谷津、久保、窪というのは、これは必ず谷間の地形でございますし、がけ地としては乃木とか野呂とか、それから水だまりとしては瀞でございます。
ところが、最近御
承知のとおり、みんな地名が変更されるだけでなしに、地形が変更されておりますので、そしてみんな希望が丘だとか桜台というような名前がついておりますので、過去帳がなくなっております。こういうものをちゃんとたどっていけば、
土地の条件というのは必ずわかるはずだというような考え方、これが先ほど申し上げました、自然の作用というものを十分に
理解した、非常に貴重な
資源の使い方なのだというのが、実は私のきょうの御
理解いただきたいポイントの一つでございます。
最後に、長くなりますので、
環境アセスメントの中心になります
環境情報、これがきわめて重要なんでございます。私、いろいろ読ませていただいたのでございますが、今回の
法律の中で
環境情報の中立性というのをどこで担保できるのか。端的に言ってしまいますと、つくりたい人が集めた
環境情報というのはどうしてもそれに傾斜してくる。あるいは、つくりたくないと思う方が
環境情報を収集されると、これはなかなかむずかしいということで、私は、とりあえず五つの条件が
環境情報にはあるだろう、それだけ申し上げておきたいと思うのです。
まず、情報の一つは自然の条件である。これは大気とか水質とか緑とか土壌とかいったようなもの、いわゆる神様にかかわる部分でございます。それから二番目が
土地利用の現況でございます。あるいは将来の動向、これから
土地がどう変わっていく、どう使っていく、いまどう使っておるのかという、これは人的な
利用にかかわる部分でございます。それから三番目は、先ほどちょっと御紹介いたしましたけれ
ども、
自然災害の実績というものがございます。どこでどういうふうな洪水が起こり、地すべりが起こったかという実績でございます。これは多分神様と
人間の共同作業の結果であろう。それから四番目には、いわゆる
公害の現況でございます。どこでどういうふうにppmがどうなっておるかという、いわゆる
人間がつくった部分、神様と不調和の部分である。それから五番目には各種の法
規制、これは
行政がおやりになることですから重要である。この法
規制というのは、御
承知のとおり、
公害にかかわるもののみならず、各種
計画等々が含まれるわけでございます。
これを全部重ねてまいりますと、私
どもの専門用語で仮にこれを地図の上に重ねてみます。そうしますと、いろいろなことがわかってくるわけでございまして、端的な例ですけれ
ども、たとえば神奈川県のある大都会では、
公害が非常に悪い状態であるところに同時に自然の災害がそこに密集しておるというところが、きわめて
人口密集地であり、さらにその上に
開発計画が乗っておるというような
計画が幾つでも出てくるわけでございます。私
どもがいま非常に大事だと思っておりますのは、そういったような
環境情報を重ね合わせることに、あるいは総合的に判断することによりながら、一体どうしたらいいかということを考えていくのが、
環境と
人間の豊穣で快適な調和を助成することであろうということになりますし、もう一つ大事なことは、
住民参加というのは、私
どもの考えでは、そういう情報がくまなく
公開されることである。
アメリカの例なんかで申しますと、こういうのは最近はテレビで全部流れておりますので、わざわざ皆さんが集まって協議することもなかろうというふうにさえ言われているわけでございます。
最後に、時間がなくなりましたので、今回の
法案につきまして、私、大変賛成でございます。ただ一つだけお願いしたいのは、この
法案の運用に当たりましては、いま私がるるお願いしたことが、精神としてどこまで生かしていただけるか。特に、これからの
行政指導あるいは公共団体でいろいろおやりになる場合の
行政指導の面で、私がいまいろいろ申し上げたことは無理なくやっていただけるのではなかろうか。それから、基本的にはこの
法案を
開発の阻止あるいは
開発の免罪符というような、非常に短絡的なものでお使いいただくことが絶対ないように、先ほど
アメリカのきわめて理想的な例を御紹介いたしましたけれ
ども、限られた
水資源と
土地の
資源をどのように有効に使っていくのか、この一点に戻りませんと、どんなに議論をしても、反対と賛成の合意をつくることがきわめて困難であるのではないかということで、私は、そういう
意味で、まさに
環境行政の新しい第一歩、つまり
環境行政の転換を期待しておるわけでございます。
その第一歩として、いろいろな問題は残されていると思いますけれ
ども、こういったような土俵をつくることがまず先決であると基本的に考えておりますので、その点十分御
配慮いただきたいと思います。ありがとうございました。