○鈴木和美君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
政府より
報告のありました
昭和五十七年七月
豪雨災害の件について、総理並びに
関係大臣に
質問いたします。
七月中旬以来断続的に降り続いた雨は、二十三日夕刻に至って、
長崎地方を中心に一時間当たり雨量が百ミリを超える
豪雨となり、西彼杵郡長浦岳では
最高百五十ミリを記録いたしました。この
集中豪雨は、
長崎県を初め九州各県、中国地方、さらには四国、近畿にも甚大な
被害をもたらし、
死者、
行方不明者は三百数十人という最近にない悲惨な人的
被害を発生させました。
私は、ここに、亡くなられた
方々の御冥福を心から祈るとともに、被災されました
方々にお見舞いを申し上げる次第でございます。
同時に、
被災地の現状は惨たんたるものであり、
被災者の窮状ははかり知れないものがあります。この
災害に当たって
政府がとられた
緊急措置に対してはそれなりの評価はいたしますが、今日に至るもなお行方のわからない人の発見、収容には万全の
対策を講ずるとともに、被災された
方々に対しては温かい援護の手を差し伸べ、
被災地の復旧作業などには最大限の
努力を払われるよう強く要望するものであります。
さて、
長崎市に過去最大規模の
被害をもたらした
豪雨は、予想を超える降雨量のため、その降った雨は宅地開発などで保水機能を失った山の斜面を伝わって中島川、浦上川などに流れ込み、急速に増水して流下していきました。その流水の猛威は、いまから約三百五十年前の寛永十一年につくられた日本最古のアーチ型石橋、眼鏡橋をも破壊してしまい、濁流に転落した人は、悲しいことでありますが、助ける間もなく水中にのみ込まれてしまうという激しいものでありました。一方、山腹に広がる新興住宅では、がけ崩れや土石流が相次ぎ、家屋は埋没し、多くの人が生き埋めになるという惨状を呈したのであります。
この
豪雨災害の原因を考えてみますと、一つには、記録的な
豪雨とそれに満潮時が重なるという自然的悪条件によるものであり、もう一つは、
長崎市が地形的にも急傾斜の山に囲まれた坂の町で、住宅地も山の上に向かって無秩序に広がっていったという都市化の
あり方に原因が求められると思うのであります。
こうした原因で
災害が発生するのは
長崎市に限ったことではありません。全国各地で、特に人口が集中し、都市化が促進されているところでは、今後とも
災害が発生することが予想されます。したがって、このまま予防工事をしないまま現状を放置するなら
被害はますます大きくなるばかりで、いわゆる人災となるでありましょう。今次の
豪雨災害を目の当たりにした
国民は、自分の町に
集中豪雨があったときのことを想像し、どのような思いをしたことでありましょうか。この
豪雨災害の原因を
政府はいかに認識しておられるのか、まず総理にお尋ねしたいと思うのであります。
また、このような
災害に当たりまして、
政府は、国の
責任でなく個人の
責任である、すなわち国家賠償や補償の
責任はないという考え方に立っておられるようでありますが、福祉国家論からすると誤ったものと言わざるを得ません。たとえば、
災害見舞い金
制度の設立が
議員立法方式によって行われているということを見ましても、
政府の基本的
態度がここにあらわれています。この自然
災害の
責任は国が持つべきであるというわれわれ
社会党の考え方に対して、総理の基本的な
見解をお伺いしたいのであります。
続いて、
集中豪雨による
被害を未然に防止し、また軽減するための具体的
対策について
質問いたします。
まず、今次
災害が想像を絶する局地的な
集中豪雨によって洪水、山崩れなどが起こり、多くの家屋が浸水し、押しつぶされたのであります。それにも増して三百数十名の犠牲者を出したことを考えますと、何とかして人命だけでも守ることができなかったかということであります。
政府がことしの防災白書において述べております「気象観測の充実と予警報の発表」は、局地的な
集中豪雨など狭い
範囲で時々刻々変化する気象に対しては、その現象を正確かつ迅速に把握して、これをもとに住民に気象情報を提供し、予警報を発表していくこととしております。今回の
災害に際しても、
長崎海洋気象台は、二十三日の午後三時に大雨洪水注意報を出し、同四時五十分には警報に切りかえたのであります。しかし、それがどのような
被害をもたらすか、だれもそれほど深刻には考えていなかったのではないかと思うのであります。その結果、直ちに対処して発令すべきであった
長崎市の避難命令もおくれ、事実上間に合わず、市内では帰宅途中で雨宿りしているうちに濁流に巻き込まれた人もおるのであります。
これらを考えますと、今度の
長崎豪雨のように想像を超える雨量と、地形的に洪水になるまでの時間の短い都市河川に適した洪水予報システムや住民への情報伝達システムを開発するとともに、避難誘導などの計画を確立して
災害を未然に防止することが急務であると思います。さらに、住民が洪水警報や避難命令を甘く見て、それほど深く心にとめず、早く避難するなど適切に
行動しなかった点なども考えると、防災意識向上のため、ふだんからの防災教育を徹底して行うべきであると思いますが、この点に関する今後の
政府の
対策を自治大臣にお伺いしたいのであります。
次に、最近の
災害の特徴は、大河川のはんらんに比較して、都市中小河川のはんらんが非常に多いことであります。
長崎豪雨被害も典型的な都市型水害と言えましょう。この点について、第一に注意しなければならないのは、人口の都市集中によって、これまで遊水地の役割りを果たしていた農地や森林が宅地化され、流域に降った雨の大部分が短時間で河川に流れ込み、
被害を増大する結果となっていることであります。
第二点としては、
長崎市において見られるように、平野部が少なく、宅地開発が山間部に広がり、急傾斜地における防災
対策が講ぜられないまま都市化が進められているということであります。このため、山は削られ、樹木は切り倒され、水に対して地盤は極端に弱くなり、土砂崩れ、山崩れなどを誘発しやすくなっているということであります。また、
長崎市のように、良港に恵まれてはいるが、市街地は平野部が少ないため背後の山地が開発されている町は、神戸や横浜を初めとして全国に多く存在していると思うのであります。このような町では地形性降雨としての
集中豪雨が起こりやすいとも言われ、
災害の発生が予想されます。
このような
状況の中にあって、中小河川の整備
状況は、全国を眺めて、時間雨量五十ミリの降雨に対応できるところは約一七%という低い水準なのであります。地域住民の安全な生活を守るためには、流域における保水遊水機能の維持確保と治水施設の整備を強力に進める必要があると思いますが、建設大臣の
見解をお伺いしたいと思うのであります。
さらに、治水五カ年計画による都市中小河川整備事業をできるだけ繰り上げて実施する考えがあるかどうか、あわせて建設大臣に答弁をお願いします。
さらに、中小河川の整備基準として、時間雨量五十ミリの降雨に対応した整備が進められておりますが、今回も一時間に百五十ミリという
豪雨を記録しております。これを、記録的な思いもかけぬ
集中豪雨であるからとして
災害発生もやむを得ないという受けとめでなく、このような
集中豪雨にも対応できる治山治水施設の整備と安全
対策の確立を推進すべきだと思いますが、
政府の方針を伺います。
また、土砂
災害危険地の整備
状況は、土石流発生危険渓流が約六万三千渓流、急傾斜地崩壊危険個所が約六万四千カ所あるのに対して、土石流発生危険渓流の整備率は五十五年度末で約一三%にすぎないのであります。その進捗率も毎年一%に満たない現状にあります。このため、今後とも治山及び砂防施設の整備を推進することが絶対必要であります。このことは防災白書においても述べられておりますので、この
対策推進についての具体策について
関係大臣はいかなる
見解をお持ちであるのか、伺いたいのであります。
さらに、山を削ってつくられる住宅開発については、この際改めて点検し、見直すべきではないかと思いますが、建設大臣の
見解をお伺いします。
これとあわせて、背後地としての山地における森林の保護についてであります。
私は、かつて
参議院の
災害対策特別委員会においてマツクイムシによる松の
被害と
災害予防効果を取り上げ、その
対策について
政府にただしたことがあります。その
対策費は
関係議員の皆様の
努力によって今回も八十億円余になりましたが、
政府が購入する戦闘機一機の価格にも及ばないのであります。もちろん松
対策だけで十分でないことは当然でありましょう。このような
政府のマツクイムシ
対策一つをとっても、森林保全が不十分で、結果として森林の荒廃を呼び、ひいてはこれが
災害を招くもとになっているのであります。森林の緑を守り、保安の重要な使命を持つこの治山
対策の促進について、農水大臣のお考えをあわせて伺っておきたいと思うのであります。
次にわが
日本社会党は去る七月二十八日、総理大臣に対し七月集中
豪雨災害対策に関する申し入れをいたしました。
その中の特徴的なものを挙げれば、激甚災法の指定については、指定基準を緩和し早急に指定されたいこと。被災母子家庭、生活保護世帯の救済のため、母子福祉資金、生活保護援護金の引き上げ及び生活資金貸し付け、住宅復興融資、公営住宅の優先入居などの
措置を講ぜられたいこと。
被害を受けた県、市町村の行う
災害復旧事業及び民生安定施策に要する経費については、特別交付税の交付により全額補てんするとともに、普通交付税の繰り上げ交付について早急に
手続されたいこと。中小企業商工業者の事業
被害の救済と経営及び従業員の雇用安定のため、
政府系中小金融機関による融資などについては、激甚法指定による特例
制度を含め、手厚い
措置を講ぜられたいことであります。
これらの諸点について、
災害担当大臣である
国土庁長官からまとめて
見解をお伺いしたいのであります。
最後に、今回の
長崎市を中心とする
災害が、先進工業国、経済大国と言われている日本において起きたということであります。雨が多く降ったというだけで多数の犠牲者を出したということは、
政府の基本施策が経済偏重の政策であり、さらには軍備増強に走り、
国民の生活基盤の拡充、社会資本の整備を怠って、
国民が安心して生活できる環境をつくることを考えなかったあらわれだと言っても過言でありません。
政府は行財政
改革を施策の柱として進めておりますが、真の行革とは、
国民生活を安全に、
国民のニーズに沿った行政を実行することであり、これが
政府の基本方針でなければならないと思うのでありますが、総理大臣の
見解を承って、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣鈴木善幸君
登壇、
拍手〕