○藤田正明君 私は、自由民主党・自由
国民会議を代表いたしまして、当面する内外の重要
課題について、
総理ほか関係閣僚に対し若干の
質問をいたすものであります。
いまや
世界の経済活動の一割を占めるに至った
わが国が、今後進むべき道は、外にあっては
世界の中の
日本として諸外国との相互理解の一層の推進であり、また、内にあっては、曲がり角に来た
日本経済の引き続きの活性化と行
財政の抜本的
改革にあると思います。
鈴木総理は、就任以来、これらの
課題に
責任を持って誠実に対処してこられたことをまずもって評価いたしたく存じます。このことは、
国民世論の高い支持によってはっきりとこれが裏づけられております。すなわち、世論調査を見ますと、わが自由民主党の支持率は昨年一年を通じて終始五〇%を超えており、特に十二月には五四%、また内閣支持率についても安定的に推移いたしております。このように
国民が寄せる高い支持は、これまでのわが党及び内閣の歴史の中ではかつてなかったことであり、
国民各位の深い御理解と御
支援に感謝いたすところであります。
総理は五年前、私に「一内閣一仕事」ということを言われたことがあります。御記憶のことでございましょう。このことは、新内閣の使命は、これまで歴代内閣が果たし得なかったいわゆる積み残した
課題のうち、
国民的な最重要
課題の
一つについては新しい内閣は総力を結集してこれが解決に当たり、たとえこの
一つでその内閣の
生命が燃え尽きることがあってもやむを得ないとの精神であると私は受けとめておるものであります。その意味で、
総理が「
政治生命をかける」と明言された
行財政改革こそこの「一仕事」に当たるものとして、
総理の先見的な
政治理念を評価いたすものであります。
いま、
わが国をめぐる内外の諸情勢はきわめて厳しく、その行方はますます険しいものがあります。このときに当たり、
総理は、
国民がわが党に託した審判とその
期待をどう受けとめて今後の政権を担当する御意思であるか、その御決意をまずもってお伺いしておきたいと思います。
さて、現下の最大の
政治課題の
一つは行政
改革であります。
高度
経済成長時代に肥大化した行
財政のぜい肉を削り、簡素で効率的な活力ある行政の制度、機構に改めようとするこの行政
改革については、
国民各階層も
総理のその
選択に快哉を叫び、熱い
期待を込めてこれを見守っているのであります。
行革は、これからいよいよ正念場になります。第二臨調は本年初夏には基本答申、さらに来年三月には最終答申というスケジュールのもと、四つの専門部会で、行政の果たすべき役割り、行政組織の
あり方、国と地方との機能分担、あるいは三公社五現業、特殊法人の
あり方、公務員制度、なかんずく三K赤字の処理等について本格的な審議を開始いたしております。しかし、これらは既存の制度、仕組みに大変革を求めることが予想されるだけに、既得権との関係で総論賛成、各論反対の声は一段も二段も激しくなることが
考えられるのであります。
古来、「断じて行えば鬼神もこれを避く」と申します。国家百年の大計であるこの
国民的要請に、
総理は初志を貫徹され、ぜひともこたえていただきたいのでありますが、
総理の決意のほどを再びお伺いいたします。
次は外交問題でありますが、まず、
わが国の外交戦略であります。
申し上げるまでもなく、
世界情勢の安定なくして貿易立国を国是とする
わが国の平和も繁栄もあり得ません。その意味において、私は、いまこそ
日本は「平和国家としての外交戦略」を
確立しなければならないと
考えるものであります。
私は、
わが国が
世界平和の推進に積極的な役割りを果たしていくためには、まずもって外交基盤を強化し、国際的発言力を増すこと、特に西側の
政策決定に大きく関与していくことが必要であると
考えます。そのためには、自主的な
防衛努力によって西側の
信頼を得ることはもちろんでありますが、平和国家である
わが国は、かたいきずなの上に立った友好国をふやしていくことこそ重要ではないかと存じます。発展途上国、特に
アジア諸国に対して、真摯にしてかつ相手の国の心の琴線に触れるような援助を続け、真の友好国をふやしていかなければなりません。
〔議長退席、副議長着席〕
わが国が厳しい
財政難にあるとき、なぜ外国に援助しなければならないのかという素朴な疑問を持つ向きも
国民の一部にはあります。しかし、発展途上諸国の経済的貧困は
政治の不安定化をもたらし、
世界の混乱のもととなるのであります。いま
世界の現状を見るならば、
わが国は苦しい中からでも経済援助を強化していかなければならないと私は
考えるものであります。こういうことにより、
わが国の真の友好国をふやすことによって
世界の平和と安定に対しての発言力を強くすることが、平和国家としての
わが国の外交戦略の
一つだと思いますが、
総理の御
所見をお伺いいたします。
次に、現在重要な問題になっている
貿易摩擦についてであります。
西側先進諸国経済は、依然として
経済成長の停滞、インフレ、国際収支の不均衡という三重苦に悩み続けております。かかる
状況の中で、
わが国は国内的には厳しい
財政難に直面しつつも、ともかく
経済運営をうまく維持していることは、
国民各位の御
努力のたまものであり、深く敬意を表する次第であります。しかし、西側先進諸国が軒並み苦境にある中で、ひとり
わが国のみが好調を維持し、しかも昨年における
わが国の対米、対EC貿易黒字が、それぞれ百八十億ドル、百五十億ドルと見込まれるほどに不均衡の状態が続いていることは、これら諸国の雇用情勢の悪化と結びついて保護主義的傾向を生み出しつつあります。
私は、この最大の
原因は米欧各国の経済の低迷にあり、各国がみずから経済の活性化に
努力していくことこそ重要であると思うのでありますが、貿易立国である
わが国としては、調和のある対外経済関係の形成に努め、自由貿易
体制の維持強化を図っていくことが、他のどの国にも増して肝要であると思うのであります。そのためには、
総理もつとに明確に指示されておりますように、関税引き下げの二年間前倒し実施や、非関税障壁の撤廃、緩和、一次産品の輸入
拡大等国内市場の開放を推進して、欧米各国の強い要請にこたえていくことも必要であります。
政府は早急にその具体策をまとめ、実施していく必要があると思うのでありますが、これらの措置は、一方では
国民、ことに農業従事者に痛みを与える可能性が多分にございます。この点の
配慮も含め、
政府の検討
状況をお伺いいたします。
わが国外交の基軸は、申すまでもなく
日米安保
体制を中核とする
日米友好協力関係であります。戦後三十年間にわたって築き上げてきた
日米関係は、
日米双方にとっての貴重な財産であります。現在
貿易摩擦等の問題は生じておりますけれども、両国首脳を初め相互の間断なき対話によってその解決を図るべきだと存じますが、
政府の御
所見をお伺いいたします。
次は日ソ関係についてであります。
一九七〇年代以降のソ連の急速な
軍事力の
増強と、それを背景とした第三
世界への進出は、
世界の平和と安定に重大な
脅威を与えております。ソ連の
脅威がこれ以上
拡大するのをいかにして防ぐかは西側共通の
課題であり、
わが国としても当然、自由と民主主義という共通の価値観によって結ばれた西側諸国の一員として、その
責任を果たしていかなければなりません。
わが国固有の北方領土に対するかたくなな
姿勢とともに、アフガニスタン事件以来、日ソ関係が冷え切った状態にあるのも私は当然であると思います。
しかしながら、このような険しい関係にあるときにこそ、国対国の対話が重要であります。その意味で、今般、事務レベル協議が約三年ぶりに開かれたことは有意義であったと
考えます。今後ともこのような機会を
確保して、北方領土問題、アフガニスタン問題、ポーランド問題等に関する
わが国の
立場を粘り強く主張し、日ソ関係の前進を図っていかなければならないと思うのでありますが、
政府の御見解をお伺いいたします。
次に、アジア各国との関係についてお尋ねをいたします。
国交正常化十周年を迎える中国とは、ことしは
鈴木総理と超首相との相互訪問を通じ、日中関係のより一層の発展を
期待するものであります。また、ASEAN諸国とも、
鈴木総理の訪問などを通じ、関係が着実に強められていることを私は評価いたします。
こうした中で、
韓国との関係については、
韓国側の借款要請が当面の
課題となっており、この解決のために真摯な
努力が払われております。過去の複雑な経緯もあって、いまもって近くて遠い国という
状況にあることは、同じ自由主義を国是とする隣国との関係としてまことに遺憾に存じます。私は、単に
経済協力にとどまらず、文化交流、人物交流に力を注ぎ、心と心との触れ合いを図っていくことがまずもって肝要ではないかと
考えるものであります。そのために基金
設置などの措置を講じられてはいかがでありましょうか。六十億ドル問題も、長期的視点に立って、将来に禍根を残さないよう対処していくべきだと
考えますが、
総理の今後の御
方針をお示し願いたいと存じます。
外交の
最後に、
わが国の外交
体制の強化についてお尋ねをいたします。
わが国が、ますます流動化を深める八〇年代の国際情勢の中で、平和外交に徹し、国家の安全と利益を守っていくためには、
世界各地の情報を迅速に収集し、かつこれを的確に分析する
能力を持つことが何よりも重要であります。しかるに、この点に関する
わが国の外交
体制は余りにも貧弱であると申さねばなりません。外務省の定員は主要先進諸国よりも大幅に下回っております。また、
さきのポーラン下の戒厳令の際に現地大使館からの通報がおくれた例で、はしなくも明らかになったように、在外公館の通信機能もこれまた大幅に立ちおくれておるのであります。
政府は、こうした外交
体制の強化を図るため、人、施設、通信法令をも含め、積極的に
対策を講ずべきであると思いますが、
総理の御
所見を伺います。
次に、
防衛問題についてお伺いをいたします。
国の平和と安全を
確保することは国家存立の基本であり、国政の最重要事項の
一つであることは申すまでもありません。近年、
防衛問題について
国民的コンセンサスが高まり、
自衛隊の支持率が八五%を超えたという現状や、一部政党におかれても
現実的な安全保障
政策の妥当性、必要性が強く認識されつつあることを私は大いに歓迎いたすものであります。
国際紛争は武力によらず、話し合いによって解決するというのが
わが国の基本
政策でありますが、
世界の平和が力の均衡によって保たれているということもまた厳然たる事実であります。私は、
わが国が
米国との緊密な協力関係を維持しながら、みずからの国力、国情に応じて自主的に
防衛努力をしていくことは、
わが国の平和と安全を
確保するゆえんであるとともに、
世界の平和と安定を維持する上において
西側陣営の一員としての国際的な責務であると
考えるものでありますが、この点についての
総理の御
所見をお伺いいたします。
五十七
年度の
防衛予算は二兆五千八百六十一億円、前
年度に比べ七・七五四%の増となっております。これは厳しい
財政事情の中にあって、
政府として
防衛問題の重要性について認識され、最大限の
努力を傾注された結果であり、高く評価さるべき決断であったと
考えます。世上、この
防衛予算の伸びについて、「
福祉に比べ突出している」とかいった批判がなされておりますが、私は決してそうではないと
考えております。
その理由の第一は、社会保障にも十分に来
年度予算では
配慮されているということであります。厚生省の社会保障費の伸び率が二・九%で、戦後二番目の低率であるとの非難があるわけでありますが、
国民健康保険について会計
年度の区分を変えて十一カ月
予算で組んでいるとと、厚生年金の国庫負担の一部の繰り入れが
財政再建後に約束されていること等を勘案しますと、実質的な伸び率は七。一%となっております。特に、社会保障の
中心をなす社会
福祉費の伸び率は一五%となっております。これは御承知のとおり、老人、身体障害者、母子、児童等いわゆる社会的
弱者に対する経費でありまして、これを大幅に伸ばしていることを
考えますならば、
防衛費を突出させて
弱者を切り捨てたというがごとき議論は、全くためにする以外の何物でもないのであります。
その理由の第二は、
わが国の
防衛費は、国際的に見ると、対
GNPの比較においても、また
国民一人当たりの負担でもきわめて低いということであります。
その理由の第三は、
わが国の
財政に占める
防衛費のウエートが、先ほども
総理から申されましたけれども、かつて
昭和四十
年度には八・二%であったものが、いまや五・二%と大きく低下しているということであります。
これらの点から見て、私は、
防衛予算は「突出」などと批判されるべきではなく、むしろ厳しさを増しつつある国際情勢を踏まえて、いま「へこみを是正しつつある」と認識すべきではないかと思うのでありますが、
総理の御
所見を伺います。
次に、
防衛費を
GNPの一%以内にとどめることとしている
政府決定についてお伺いをいたします。
政府がこの決定を行った大きな理由としては、五十一年当時想定されていた
GNPの
成長率等を勘案すれば、当面その一%以内でも
防衛計画の
大綱に基づく
防衛力の質的向上を図っていくことが十分可能であると
考えられたことでありましょう。しかしながら、私は、そうであるからといって、
GNP一%の制限を設けたことはやはり問題があったと思うのであります。
およそ国の存立の基本をなす
防衛は、国際情勢の
現実に
配慮しつつ、
憲法及び基本的な
防衛政策に基づき、
わが国として保有すべき最も適切な
防衛力の
水準を決定し、必要な経費を計上するのが本来の姿であります。特にこれといった根拠のない
GNPのような流動的な数値を対象として経費上の制約を課し、その中で
防衛を
考えるという方法は本末転倒と
考えるものであります。このことは
世界的に見てもきわめて異例であり、奇異な感じを与えると言わざるを得ません。
一部の
意見として、
GNP一%の枠を取り払うと
防衛費増額に対する歯どめが失われ、民生を圧迫して軍事
大国への道を開くという心配があることは私もよく承知をいたしております。しかしながら、このような心配は全くの杞憂にすぎません。
政府は、現在、
防衛計画の
大綱に基づく
防衛力の
整備に努めております。この
防衛大綱は、
わが国が保有すべき
防衛力の
目標を具体的に示し、きわめて明確な歯どめを設けたものであって、無制限な
増強などには決してならないのであります。また長期的には、
政府は国防
政策の基本をなすものとして
昭和三十二年に国防の基本
方針を決定いたしております。そこにおきましては、国力、国情に応じ自衛のため必要な限度において効率的な
防衛力を漸進的に
整備することがはっきりと定められております。もとより、民生を安定することもまた重要な柱の
一つとなっておるのであります。このことは、
政府の
防衛に対する基本的
方針が、いかに
国民生活の安定に
配慮しているかを示すものであります。
政府の着実な
努力により、
防衛計画の
大綱は近い将来達成されることでありましよう。
以上のことから、私はこの際、
防衛力整備に当たっての
考え方を本来の姿に戻すため、すでに申し上げたとおり、歯どめを数字に求めることは必要ないものと
考えます。
国民にわかりやすくするためどうしても数字に目安を設けるとするならば、ある年は一%を超え、ある年は一%以内であるといった
現実的対応が必要であると
考えます。この際、五十一年の
政府決定でありますところの「
GNP比一%以内にとどめる」を「約一%程度とする」というような弾力性を持ったものにすべきではないでしょうか。この点について
総理の見解をお伺いいたします。次に、軍縮についてお尋ねをいたします。
世界の安定が力の均衡によって保たれていることは、先ほども申し上げたとおりでありますが、その均衡が東西の対立激化を反映して軍拡の土台の上にあることは、まことに憂うべきことであります。力の均衡による安定は、軍縮の上においてこそなされなければなりません。ことに、米ソ両国による果てしない核
軍拡競争は、人類社会を破滅させかねない危険性さえはらんでおります。いかにして軍拡の傾向に歯どめをかけ、軍縮へのレールを敷くかは各国共通の
課題であります。
私は、ここで、
世界で最初に原爆の惨禍を受けた広島の出身者の一人として、声を大にして申し上げたいことがあります。
わが国が
核軍縮、さらには核廃絶に向けてあらゆる
努力をしていくことは、人類社会への責務であるということであります。(発言する者あり)ふざけるなとは何だ。
総理は、かねてより軍縮に熱意を示され、本年六月の
国連軍縮特別総会にもみずから出席し、
世界に軍縮の促進を訴えられるそうでありますが、この際、
総理の軍縮、特に
核軍縮に関する忌憚のない御見解を伺いたいと存じます。
次に
経済運営について伺います。
政府は、五十七
年度経済見通しにおいて五・二%の成長
目標を掲げておられます。その中身は
内需四・一%、外需一・一%ということであります。
ここで五十六
年度経済を振り返ってみますと、昨年春の
景気回復宣言にもかかわらず、その後の推移は決して芳しいものではなく、十二月には
経済成長率を当初
目標の四・七%から四・一%に下方修正するに至りました。家計部門の
消費の低迷、
中小企業の不振により
内需が伸び悩んだ反面、
輸出が急増して大きな国際収支の黒字を生じ、
アメリカを初めとしてEC諸国との
貿易摩擦をも引き起こしております。これには
アメリカの高金利
政策も大きな影響を与えていると私は思うのでありますが、しかし、かような外需に多く依存する経済の
拡大は長続きしない。そればかりか、国際的にさまざまの批判を招いて、相互主義という報復的な主張まで引き起こしました。
安倍通産大臣の出席された三極通商
会議では、どうやら安倍通産大臣の
努力によって自由貿易の線を維持することになったようでありますが、
アメリカ、HC諸国の
政府、議会に潜在する保護貿易の主張は、いつ火を噴くかわからない
状況と
考えます。
政府が五十七
年度において
内需中心の五・二%成長の
政策運営に踏み切ったことは、
貿易摩擦を解消し、
財政再建を進めるという当面の二大
課題の解決のためにも、また雇用を
確保していくためにも時宜を得た経済
政策であり、私の強く支持するところであります。
しかしながら、率直に言って私は、今
年度の外需依存の経済を一転させて
内需で四・一%の成長を
実現することは、五十六
年度の例から見ても相当の困難が伴うものではないかと思います。行革、
財政再建という
政策課題のもたらす緊縮ムードの中で、民間の予想と比べて高目に設定された
政府の成長
目標を果たして達成できるのか、
国民は若干の不安感を持っているのではないでありましょうか。
成長率は経済活動のすべてを集積したものありますだけに、これを
実現するための
景気対策をどう講ずるのか。特に
内需振興へ向けての
施策について、経済企画庁長官は
さきの経済
演説で説明をされてはおりますけれども、
国民にわかりやすいように再度
答弁をお願いをいたします。
特に、体質の弱い
中小企業や農業水産業にあっては、その経済動向により受ける影響はことのほか大きいだけに、きめ細かな
対策を講ずべきであります。
また、
内需振興策として、世上、大幅な
所得税減税により
国民消費を
拡大すべしとの根強い主張が見られるのであります。確かに、近年、税金等の非
消費支出の割合が高まっております。これが家計を圧迫し、最近の
消費低迷の一因とはなっております。さりながら、新
年度予算で
所得税減税を行うとすれば、先ほどから説明がありましたように、その
財源は結果として
増税か、または赤字公債の増発に求めざるを得ません。これは現下の最大の
政治課題である
財政再建の遂行に逆行するものとなるのであります。今回
政府が
減税を見送ったことはやむを得ない措置と言わざるを得ません。
しかし、
所得税の現行課税最低限と税率累進構造を長期にわたって固定することは、
国民経済及び税制の
あり方から見ても適当ではないと思うのであります。
国民の一部には、五十八
年度以降、
行財政改革を強力に推進しつつ、できるだけ速やかに
減税を実施すべきであるとの強い主張もありますが、
総理の御見解を伺います。
次に
財政について伺います。
高度
経済成長期には、
わが国の
財政は、税の大幅な
自然増収を背景に、
減税を行いつつ
国民のニーズに沿って
福祉施策の充実や社会資本の
整備を進めることができたのであります。しかしながら、
石油危機を契機として
わが国経済が安定成長へ移行していることは周知のとおりであり、今後もかつてのような高度
経済成長は
期待すべくもありません。
他方、今後の
わが国経済は、激動する国際情勢や資源・エネルギーの制約に対応していかなければならず、さらには急速な高齢化社会への対応は二十一世紀へ向けての最大の
課題であります。したがって、
財政再建を推進しつつ、社会経済情勢の変化に対応して新しい国づくりを行うためには、
財政構造に根強く残っている高度
経済成長型体質を
脱却し、安定成長に十分適応する
財政体質に転換していかなければならないと存じます。
歳出については、五十七
年度予算の編成に際し、ゼロシーリングの採用や補助金の一律カット等の節減策を講じたことは
一つの前進であり、高く評価したいと存じます。しかし、より
根本的には、今後各分野においてどこまで
財政が役割りを担うべきか、原点に立ち返って検討し、これを明確にしていくととが重要であります。
すなわち、限られた
予算を配分するのには、
一つには、経済的、社会的
弱者には重点的に
配慮する一方、
個人、家庭の自助
努力にゆだねるべきものはゆだねるという、
日本型
福祉社会の確固たる創造が必要であります。第二には、価格メカニズムや民間部門の創意工夫を活用することが可能な分野においては、できるだけ民間のバイタリティーを生かすこと等の振り分けが必要であると
考えます。このように、安定成長への移行に見合った発想の抜本的
改革が必要でありますが、このことは、改めてここで申すまでもなく、総論としては十分に理解されているところと信じます。しかしながら、五十七
年度予算編成過程を見ていると、相も変わらぬ陳情による
予算争奪合戦が行われたり、これまでと同じような安易な態度で多くの経費について
財政に依存する主張が行われるなど、
政府、
国民の間において高度成長期の惰性が払拭されているとは言えない実情にあると思うのでありますが、
政府はかかる意識の変革の必要性についてどのような
所見をお持ちか、お伺いをいたします。
一方、歳入面においても安定成長に見合った
改革が進められなければなりません。私は、その最大のものは現在の直接税
中心の税体系の見直しにあると思います。
わが国の直接税と間接税の
比率を見ますと、
昭和三十年代まではおおむね五対五の割合で推移していたものが、四十年代以降間接税の割合が漸次低下し、現在その
比率はおおむね七十二対二十八の割合となっております。今後急速に進む高齢化社会を思うとき、安定した税収の
確保は
日本型
福祉社会の建設のためにも急がねばなりません。それには、
福祉国家を標榜する国々に見られる間接税の役割りを
わが国も重視し、近年とみに低下した直間
比率を、さしあたり六対四程度にまで是正することを検討すべきではないかと
考えるのでありますが、
総理並びに
大蔵大臣の見解をお伺いいたします。
次に、減速経済下で迎える高齢化社会への対応について伺います。
これから
わが国が迎えようとしている高齢化社会は、いまだ
世界の先進国、
福祉国家と言われる国々がかつて経験をしたことのないスピードで、今後三十年後、四十年後には確実に到来をいたします。高齢化先進国、
福祉先進国と言われる欧州の一連の国々は、高
福祉高負担のために、いまや活力を失った縮小再
生産国家へと変貌してしまったのであります。「揺りかごから墓場まで」と言われ、高
福祉国家のモデルとたたえられたイギリスの今日の苦渋に満ちた姿を見るとき、われわれは
日本独自の
福祉への道を選ぶ必要があることを痛感せざるを得ません。
総理は、
演説の中で「高齢者が健康で生きがいのある
生活ができるようにすることが肝要」と言われておりますが、まさにそのとおりであります。「健康で生きがいのある
生活」、それはどういうことでありましょうか。たとえば、私は、元気な老人が長年の経験と趣味を生かして額に汗をして働き、その報酬によって老夫婦が孫に何かを買い与えるとか、来年は老夫婦で旅行しようとか、自助
努力において老後の
生活設計を楽しむところに生きがいを感じることと
考えます。世俗年齢は六十五歳でも、肉体的精神的には若い老人、それらの老人が将来に夢が持てるような社会環境づくりこそ望まれることであります。それでこそ初めて活力のある老人社会が具現されるととでありましよう。
そのためには、特に若いうちから健康管理が必要でありましょうし、スポーツ振興も大切であります。揺りかごから墓場まで元気で健康で一生を終わることこそ、生きがいの根源であると思います。
総理がすでに言われている六十歳代の人々の雇用
対策の推進もあわせて重要なことでありましよう。
人口の高齢化がピークを迎える三十年ないし四十年後に備えて、
一つには、いまから元気な老人づくりを本格的に始めるべきであり、二つには、三世代同世帯の増加とその和が必要であり、さらに三つには近隣社会の互助、すなわち町内会、向こう三軒両隣との助け合いということであります。私はこのように
考えるものでありますが、
総理の御
所見をお尋ねいたします。
次に
教育問題について伺います。
申すまでもなく、
教育は民族と国家の発展の礎であり、
国民一人一人の人間形成と、その生きがいを
実現するための基盤を養うものであります。今日の
わが国の目覚ましい発展も、明治以来一貫して国として
教育を重視してきた結果であると言っても過言ではないと存じます。
今日、
わが国が
世界に誇る
教育の普及発展に到達した結果、ともすれば
教育の果たすべき使命、認識が麻痺し、
教育を真に国家的
国民的な視野から
考えることが忘れられているのではないでありましようか。
最近における児童生徒の非行、校内暴力等の著しい増加、さらには、青少年は利己主義に走り、バイタリティに欠ける一方、親もともすればわが子
中心の
考え方に閉じこもる風潮がはびこっております。このような状態で
日本の将来は果たして大丈夫であろうかと不安を覚えるのは私一人ではないと存じます。いまや、
わが国の
教育をどうすべきか、
根本的な検討をすべき時期にきているのではないかと
考えるものであります。
政府は、学校、社会、家庭における
教育の問題点について、そのよって来る今日の
原因を総合的に調査分析し、その結果を公表することによって、
国民が共通の認識に立ち、
教育問題の改善に対処すべきであると
考えますが、
総理のお
考えをお伺いいたします。
次に、国際化の時代にある
日本にとって、外国人に対する
わが国教育の場の門戸開放の問題であります。海外からの留学を受け入れやすくするとともに、外国人に
日本語を教える機会を多く提供し、早く
日本の習慣、
考え方等を知ってもらうことが必要であります。
他方、
日本の青少年には英語を主とする外国語をマスターさせ、英語的思考法、その習慣等を知らしめることであります。しかしながら、現在の外国語
教育、特に英語
教育の
あり方に対して私ははなはだ疑問を持つものであります。中学、高校、大学を通じ八年ないし十年の英語
教育を受けているにもかかわらず、国際人たる必須条件の会話、ヒヤリングのできない青少年の何と多いことか。以前から憂慮されている問題ではありますが、いまだにその
対策がなされていないように思われるのであります。
日本における一言語、一民族、一国家は、国際的には閉鎖社会につながり、いまや
世界のあらゆる国々で活躍している
日本人にとって、言語、習慣の相違は相互理解のための大きな障害になっております。
国際社会における
日本の役割り、影響力が今後一層高まるとともに、
世界各国との相互理解がいまほど必要なときはないと思うのであります。
日本の古きよき風俗習慣は残すとともに、
日本人の
世界人化を進め、
日本社会と
世界社会との共通性を高めるために学校
教育にいかなる
施策をなすべきか、
総理の御見解をお伺いいたしておきます。
最後にお尋ねしたいことは、参議院の全国区
選挙制度についてであります。
勅選による貴族院から公選を採用した参議院へ生まれ変わってから、はや三十五年、十二回の通常選挙を経てまいりました。本院はこれまで二院制の一翼を担って、議会制民主
政治の
確立と国力の発展、
福祉の充実にその使命を果たしてきたところであります。しかしながら、参議院の歴史を振り返って、われわれが真に求められ、
期待されるにふさわしい二院制の機能を果たしてきたと言えるでありましょうか。
国民の目にはいまだ厳しいものがあると存じます。
いまこそ参議院の真価が求められ、問われる重大な時期にあります。良識の府、理性の府としての揺るぎない権威を
確立し、もって参議院が国権の最高機関としての重責を全うすべきときであります。そのためには従来の議会の組織、運営を見直し、激動の八〇年代、さらに二十一世紀を目指した中長期の
政策展望が開けるように国政審議の
あり方を改めることであります。さらには、
世界に類例のない全国区
選挙制度創設の理念に立ち返って、広く人材を求め得るよう、その制度を見直すべきだと
考えるものであります。
すなわち、前者が今日各党各会派間で協議中の参議院
改革であり、後者がわが党が
提案をいたしました全国区
選挙制度の
改革であります。金もなく、組織、団体もない有為な人材が広く求められる適正な
選挙制度により、その職能的な、専門的な、高度な知識を駆使して、重要な国策の中長期展望を示すことが新しい参議院の使命と
考えるものであります。
今日、全国区
選挙制度は、選ぶ有権者から見ても、また立候補する者にとっても、余りにも多くの問題点があり過ぎることはかねてより
指摘されているところであり、これが是正は
国民の強い声であります。われわれは、この全国区
選挙制度の
改革にここ十年来取り組んできたところでありますが、特に一昨年の選挙後は、集中的かつ慎重な検討の結果、議会
政治における政党が果たしている役割りを
現実に肯定して、出したい人が容易に出られる拘束名簿式比例代表制の
改正案を党議決定いたしました。
もちろん、成案が得られるまでの間、各党各会派には十分御理解がいただけるよう御説明を申し上げたつもりでありますが、一部会派の御納得が得られず、わが党は昨年の第九十四回
国会に議員立法として単独
提案いたしましたが、何らの審議もなく審査未了となりました。次いで第九十五回
国会に再提出いたしましたところ、円満に本
会議で趣旨説明、質疑をいたしたものが、
公職選挙法特別委員会における実質審議はわずか三時間程度、理事懇談会は実に数十時間に及ぶという異例の
状況のもとに継続審査のやむなきに至っております。
われわれの
提案している
参議院全国区
選挙制度改正案は、少なくとも人材が求め得やすく、金のかからない
政治の第一歩を踏み出す、現行制度よりベターな案であることは事実であります。また、われわれは自由民主党の案を全く変えぬというかたくなな態度をとるものでもありません。合理的な改善策ならば真摯な態度で協議に応ずることもやぶさかではありませんけれども、反対のための引き延ばしには断じて応ずるわけにはまいりません。われわれは
国会のルールにのっとり、毅然たる態度で今期
国会こそはその成立を期する決意であります。これらの
実現を通じて参議院
改革の口火を切り、新しき時代の参議院の権威を高揚するものと信ずるところであります。
最後にこの問題について
総理・
総裁の御
所見を伺いまして、私の代表
質問を終わりといたします。(
拍手)
〔
国務大臣鈴木善幸君
登壇、
拍手〕