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1982-01-25 第96回国会 参議院 本会議 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十七年一月二十五日(月曜日)    開 会 式  午前十時五十八分 参議院議長衆議院参議院の副議長常任委員長特別委員長議員内閣総理大臣その他の国務大臣最高裁判所長官及び会計検査院長は、式場に入り、所定の位置に着いた。  午前十一時 天皇陛下は、衆議院議長の前行で式場に入られ、お席に着かれた。    〔一同敬礼〕  午前十一時一分 衆議院議長福田一君は、式場の中央に進み、次の式辞を述べた。    式 辞   天皇陛下の御臨席をいただき、第九十六回国会開会式を行うにあたり、衆議院及び参議院を代表して、式辞を申し述べます。  現下、わが国をめぐる内外情勢はきわめて多端であり、緊急に解決すべき幾多の問題があります。   われわれは、この際、決意を新たにして、外に対しては、国際社会に平和と繁栄をもたらすため、諸外国との相互理解協力をいっそう深めるとともに、内にあっては、政治経済各般にわたり当面する諸問題に対処して、十分な審議につとめ、適切な施策を強力に推進し、もつて国運の隆昌を期さなければなりません。   ここに、開会式にあたり、われわれに負荷された重大な使命にかんがみ、日本国憲法精神を体し、おのおの最善をつくしてその任務を遂行し、もって国民の委託にこたえようとするものであります。  次いで、天皇陛下から次のおことばを賜った。    おことば   本日、第九十六回国会開会式に臨み、全国民を代表する諸君と親しく一堂に会することは、私の深く喜びとするところであります。  国会が、永年にわたり、国民生活安定向上世界平和の実現のため、たゆみない努力を続けていることは、深く多とするところであります。   ここに、国会が、国権の最高機関として、その使命を遺憾なく果たし、国民の信託にこたえることを切に望みます。    〔一同敬礼〕  衆議院議長は、おことば書をお受けした。  午前十一時六分 天皇陛下は、参議院議長の前行で式場を出られた。  次いで、一同式場を出た。    午前十一時七分式を終わる      ─────・───── 昭和五十七年一月二十五日(月曜日)    午後三時七分開議     ━━━━━━━━━━━━━議事日程 第三号   昭和五十七年一月二十五日    午後三時開議  第一 国務大臣演説に関する件  第二 工学博士福井謙一君のノーベル賞受賞に   つき祝意を表する件     ━━━━━━━━━━━━━ ○本日の会議に付した案件  一、新議員の紹介  一、故元議員杉原荒太君に対し弔詞贈呈の件  一、国土審議会委員選挙  以下 議事日程のとおり      ——————————
  2. 徳永正利

    議長徳永正利君) これより会議を開きます。  この際、新たに議席に着かれました議員を御紹介いたします。  議席第十七番、地方選出議員、佐賀県選出大坪健一郎君。    〔大坪健一郎起立拍手
  3. 徳永正利

    議長徳永正利君) 議長は、本院規則第三十条により、大坪健一郎君を法務委員に指名いたします。      ——————————
  4. 徳永正利

    議長徳永正利君) さき院議をもって永年在職議員として表彰されました元議員杉原荒太君は、去る二十日逝去されました。まことに痛惜哀悼の至りにたえません。  同君に対しましては、すでに弔詞を贈呈いたしました。  ここにその弔詞を朗読いたします。    〔総員起立〕   参議院わが国民主政治発展のため力を尽くし特に院議をもつて永年の功労を表彰せられまた国務大臣としての重責にあたられました元議員従三位勲一等杉原荒太君の長逝に対しつつしんで哀悼の意を表しうやうやしく弔詞をささげます      ——————————
  5. 徳永正利

    議長徳永正利君) この際、欠員中の国土審議会委員一名の選挙を行います。
  6. 藤原房雄

    藤原房雄君 国土審議会委員選挙は、その手続を省略し、議長において指名することの動議を提出いたします。
  7. 戸塚進也

    戸塚進也君 私は、ただいまの藤原君の動議に賛成いたします。
  8. 徳永正利

    議長徳永正利君) 藤原君の動議に御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  9. 徳永正利

    議長徳永正利君) 御異議ないと認めます。  よって、議長は、国土審議会委員三木忠雄君を指名いたします。      ——————————
  10. 徳永正利

    議長徳永正利君) 日程第一 国務大臣演説に関する件  内閣総理大臣から施政方針に関し、外務大臣から外交に関し、大蔵大臣から財政に関し、河本国務大臣から経済に関し、それぞれ発言を求められております。これより順次発言を許します。鈴木内閣総理大臣。    〔国務大臣鈴木善幸登壇拍手
  11. 鈴木善幸

    国務大臣鈴木善幸君) 第九十六回通常国会の再開に当たり、当面する内外の諸問題について所信を明らかにしたいと存じます。  一九八二年は、ポーランド情勢に象徴される国際的緊張の高まりのうちに明けました。第二次大戦後の最も根本的な課題である東西間の緊張緩和にはなお好転の兆しが見えず、永続性のある世界の平和は、いまだに遠いかなたにあります。欧米先進諸国は、インフレーションの進行、景気停滞失業増大に加え、国際収支の不均衡など依然として多くの困難を抱え、世界的な経済発展の鈍化と通商摩擦増大は、自由貿易主義の前途を危うくするおそれがあります。さらに、開発途上国経済運営も思うに任せず、貧困と社会不安からの脱出には、なお多くの努力と支援を必要としております。  この中にあって、わが国は、安定した経済成長維持し、失業率も低く、特に物価は、二けたの上昇率を示す国が多い中にあって、きわめて落ちついた動きを示しております。  不安要因の多い現在の世界の中で、自由と平和と繁栄を享受しつつあるわが国は、最も恵まれた国の一つであると申しても過言ではありません。国民創意活力に富み、科学技術先導的分野においても、二十一世紀に向かって着実に地歩を築きつつあります。そして、国民英知努力が築いたこの基盤の上に、われわれは、より成熟し、より開かれた社会を建設していかなければなりません。  そのため、私は、この際、特に緊急な課題として、第一に行財政改革を一層推進するとともに、第二に、国際的な経済摩擦を解決する必要があると考えております。  私は、政権を担当して以来、財政を健全な姿に戻し、行政を抜本的に見直して、新しい時代にふさわしいものとするため、行財政改革に取り組んでまいりました。今後も、内閣の最重要課題として、一層これを推進していく決意であります。  他方、国際的な相互依存関係がますます深まっている今日、台頭する保護貿易主義を抑え、自由貿易維持拡大及び国際経済活性化発展に寄与することは、国際社会の有力な一員としてのわが国の責務であります。そのためにも、まず私は、進んでわが国市場の一層の開放を図り、各国との通商関係を円滑なものとするため努力する考えであります。  以下、政府重要政策について、その基本方針を申し述べます。  行政改革については、昨年七月に臨時行政調査会から第一次答申が提出されました。政府は、この答申を最大限に尊重し、速やかに所要の施策を実施に移すことを基本方針とし、すでに、さき臨時国会において、法的措置を必要とする事項についていわゆる行革関連特例法が成立しました。また、その他の事項についても、昭和五十七年度予算において、極力その実現を図っております。  本年は、近く許認可の整理合理化に関する答申が、また、夏ごろには、本格的な基本答申の提出が予定されておりますが、私は、国民の深い関心事である行政改革に、従来にも増して情熱を傾けてまいる決意であります。  行政改革実現するためには、国民政治行政に対する信頼がなければならないと思います。そのため、予算の執行を初め政治行政のすべての面で国民の不信を招くことのないよう政治倫理官庁綱紀の一層の確立に努めてまいります。  なお、国会におかれては、議会制民主主義の一層の進展を図るため、参議院全国区制の改革を初め、種々御検討中と承っておりますが、速やかに改善が行われることを切望しております。  次に、財政の再建についてであります。  昭和五十七年度予算の編成に当たっては、臨時行政調査会の第一次答申と、いわゆるゼロシーリングを主軸として、歳出の徹底した削減に努めた結果、一般会計予算のうち国債費地方交付税を除いた一般歳出増加率を一・八%にとどめ、昭和三十年度以来の緊縮予算とすることができました。また、歳入面では、税外収入の増額に努めるとともに、税制面でも、租税特別措置整理合理化交際費課税の見直しなどを行いました。こうした措置により、昭和五十七年度の公債発行額を前年度当初予算より一兆八千三百億円減額して十兆四千四百億円としましたが、その結果予算公債依存度は、前年度当初予算の二六・二%から二一%にまで低下したのであります。  このように厳しい五十七年度予算ではありますが、極力財源の重点的配分に努め、中長期的視点から充実を図る必要のあるエネルギー対策科学技術振興経済協力防衛力整備には特に配意しました。また、社会保障、文教などについては、きめ細かく配慮し、特に社会保障については、老人保健制度の実施を予定するほか、限られた財源の中で、老人に対する在宅福祉サービス強化心身障害者対策の拡充など経済的、社会的に恵まれない人々に対する施策充実を図っております。  なお、昭和五十六年度補正予算では、六千三百億円の公債の追加発行を行うこととしております。これは、巨額に上った災害の復旧に充てるための経費と、年度当初には予想できなかった税収減に伴う歳入不足を補てんするための措置であり、まことにやむを得ないものであります。しかしながら、これによって財政再建基本路線はいささかも変わるものではありません。この点、ここに改めて明確に申し上げ、国民各位の御理解行財政改革に対する一層の御協力をお願いする次第であります。  さて、わが国経済の現況を見ますと、かつてのような高い成長は期待しがたいものの、第二次石油危機によるインフレ失業に悩む他の先進工業諸国に比べて、順調な動きを示しております。  しかしながら、内需の拡大は依然緩慢で、業種、地域規模別には景気の回復に格差が見られ、また、経済成長の多くを貿易に依存する現状は決して望ましいものではありません。景気拡大のために国の財政が従来のような役割りを果たし得ない今日、住宅建設民間設備投資技術革新を初めとする民間部門活動が最大の効果を上げることが重要であります。こうした民間経済活動に加え、安定した物価基礎とした消費の堅実な拡大によって内需を振興し、雇用の安定を図る必要があります。このため、政府は、物価の安定に意を用いつつ、金融政策を機動的に運営するとともに、地方自治体の単独事業にも配慮するなど、経済環境整備と適切な経済運営を行うことによって、内外ともに調和のとれた経済政策を展開していく考えであります。  また、わが国経済社会活力維持、培養し、創意に富んだ民間経済活動が力強く展開されるためには、良好な労使関係維持するとともに、中小企業の経営を安定させ、経済環境の変化に適切に対応できるよう体質強化を図らなければなりません。  農業の分野におきましては、長期的展望に立って農業生産の再編成と生産性向上に努め、食糧自給力維持強化を図ります。また、新時代に対応した水産業発展森林資源整備を通じた林業の振興にも努めてまいります。  次に、わが国国際社会への対応についてであります。  本年は、サンフランシスコ平和条約が発効して三十周年を迎えます。同条約の締結とともに発足した日米安全保障体制が、今日まで一貫してわが国の平和と安全を確保する基盤となっていることは、多くの国民の認めるところであります。今日、日米関係は、双方の努力によってきわめて強固なものとなっておりますが、この成熟した日米関係を引き続き発展させていくことは、単に日米両国のみならず国際社会の平和と繁栄にとってきわめて重要であります。  わが国の今日の発展は、もとより国民各位のたゆみない努力のたまものであり、米国西欧諸国を初めとする先進民主主義諸国アジア太平洋諸国など広く世界の国々とわが国との協力の成果と言えるのであります。  私はこのような認識のもとに、国際社会全体の安定と発展に貢献するため積極的な外交の展開を図ってまいりました。昨年における私のASEAN諸国米国及び西欧諸国の歴訪、オタワの主要国首脳会議及び南北サミットへの出席は、このような積極的外交の重要な一環でありました。中国との関係の着実な進展に努めてまいりましたのも同様の考慮によるものであります。本年は特に日中国交正常化十周年に当たることもあり、中国総理と私の相互訪問実現したいと考えております。また、アジアにおける重要な安定勢力であるASEAN諸国との関係は、一層強化発展させてまいりたいと考えます。  さらに、わが国と最も近い隣国である韓国との関係は、幅広い国民的基盤と、より深い相互理解の上に築き上げていくことが肝要と考えております。昨年来の懸案となっている経済協力問題につきましては、わが国経済協力基本方針のもとに、できる限りの協力を行うべく、問題の円満な解決のために努力してまいるつもりであります。  経済協力は、わが国国際社会において貢献すべき重要な分野であります。私は、昨年のASEAN諸国訪問を通じ、自助の精神の盛んな国において、わが国経済協力がその国づくりに大きく貢献していることをこの目で確かめることができました。政府は、今後とも、開発途上国経済社会開発及び民生と福祉向上に資するよう、新中期目標のもとで援助の拡充に努め、世界の平和と繁栄のため、積極的な役割りを果たしてまいりたいと思います。  対外経済関係をめぐる情勢は、近年、ますます厳しいものがあります。わが国としては、保護貿易主義を排し、自由貿易維持強化を図り、市場の一層の開放と製品輸入促進等を図っていくことが緊要であります。先般、新しい内閣の発足に当たり、関税一括引き下げ等についての方針を指示したのは、このような認識に基づくものであります。  わが国外交の重要な課題一つとして日ソ関係改善があります。しかし、遺憾ながら、現在、両国関係は、わが国の北方領土におけるソ連軍備強化、アフガニスタンへの軍事介入ポーランド情勢等により、依然として困難な局面に置かれております。政府は、このような事態の速やかな是正を強く求めるとともに、北方領土問題を解決して平和条約を締結し、両国の真の相互理解に基づく安定的な関係を確立するため、引き続きソ連側と粘り強く話し合ってまいる考えであります。  ポーランド情勢は、現在、世界の平和と安定に深刻な影響を及ぼしつつあります。ポーランド事態は、何よりもまず、外部からのいかなる干渉にもよることなく、ポーランド人自身の手によって自主的に解決されることが肝要であり、わが国としても、米欧諸国との緊密な連絡、協議のもとに、事態改善努力してまいりたいと考えております。  本年一月、多年の懸案であった難民条約が発効いたしました。政府は、これを契機として、人道的立場難民対策充実を図る考えであります。  政府は、流動的な国際情勢のもとで、わが国の安全と発展を確かなものとするため、事態に即応した外交施策の積極的な展開に特段の意を用いてまいりたいと存じます。  わが国が平和の中で繁栄維持していくために、国の防衛をいかにすべきかは、国政の基本であり、国民一人一人が真剣に考えていかなければならない問題であります。また防衛は、国の存立にかかわる問題であるだけに、国民的合意が形成され、その支持によって裏づけされることが何よりも必要であります。  現在の国際社会においては、一国の安全を単独で確保することは困難であります。わが国の場合もみずから適切な規模の防衛力を保持するとともに、米国との安全保障体制を堅持することによって国の安全を確保してまいらなければなりません。  今日、自由主義国の有力な一員としてのわが国が、みずからの国はまずみずからの手で守るとの決意のもとに、憲法の範囲内で必要最小限度防衛力整備を着実に進めることは、わが国に課せられた当然の責務でもあります。このため、私は、わが国基本的防衛政策にのっとり、専守防衛に徹し、近隣諸国軍事的脅威を与えることなく、かつ、非核三原則を堅持しつつ、わが国防衛力防衛計画の大綱の水準にできるだけ早く到達させるよう努めてまいります。  もとより、国の平和と安全は、単に防衛力を増強することのみをもって確保されるわけではありません。資源・エネルギー食糧等の多くを海外に依存するわが国が平和を維持するためには、各般施策整合性をもって推進する総合安全保障政策の確立が必要であり、このことは、私が就任以来一貫してとってまいった基本的な方針であります。  今日の国際社会が、力の均衡基礎としていることは、否定できない現実であります。しかし、東西両陣営が競って軍備の増強を続ける結果となっては、人類の幸せは望むべくもありません。われわれは、力の均衡が平和と安定を支えているという現実を認め、その均衡維持に努めるとともに、その水準をできるだけ低くする努力を続けなければなりません。軍縮軍備管理は、世界がこぞって努力すべき課題であり、それによって生じた余力を開発途上国への協力世界経済発展に向けていかなければ、真の平和は得られません。私は、これまでも、このような考え方主要国首脳会議あるいは南北サミット等の場を通じ、各国首脳に訴えてまいりましたが、本年六月の第二回国連軍縮特別総会は、このような努力を国際的に一層推進するためのまたとない機会でありますので、私自身が出席して、平和国家としてのわが国の立場から、核軍縮を中心とした軍縮の促進を強く訴えたいと考えております。  エネルギー問題は、官民挙げての努力の結果、昨年度の石油依存度が十一年ぶりに七割を下回る成果を挙げ、国際的な石油需給緩和原油価格の安定もあって、現在、小康を得ております。しかしながら、不安定な中東情勢に左右されるわが国エネルギー供給脆弱性は、基本的に変わりはなく、現在のような比較的安定した時期にこそ、中長期的なエネルギー政策を進める必要があります。そのため、産油国との友好協力関係強化備蓄増強などによる石油安定供給の確保、省エネルギーの徹底を図るとともに、原子力発電の推進を初め、石炭、LNG、太陽熱の利用等、安全の確保と環境の保全に十分配慮しつつ、石油代替エネルギー開発導入を総合的に推進してまいりたいと考えております。  わが国は、石油を初め重要資源には恵まれておりませんが、すぐれた国民知的能力を十分に生かし、次代を担う独創的な人材を育て、科学技術振興することによって、国の将来を確実なものにすることができるのであります。わが国は、すでに、電子、産業ロボットなどの技術分野では世界の最先端にありますが、今後は、宇宙、生命科学、新材料技術なと将来の中核的な科学技術として期待される分野及び基礎的研究についても努力を傾ける必要があります。  私は、こうした認識のもとに、産業界、学界、官界相互の緊密な協力によりわが国の総力を結集して新しい時代を創造する科学技術振興に取り組み、産業構造を高度な分野に移行させ、国民生活をより豊かにしていく考えであります。同時に、科学技術を通して、国際社会発展に積極的に貢献してまいりたいと存じます。  わが国は、二十一世紀の初めには、これまでどの国も経験したことのない高齢化社会に入るものと予想されています。  高齢化社会課題は、単に老人対策にとどまるものではありません。福祉、労働、産業、教育、住宅、地域等各般施策にわたり、多くの分野で既存の考え方にとらわれることなく整合性を持った対応が求められております。  そのため、まず、高齢者が健康で生きがいのある毎日を送ることができるようにすることが肝要であります。現在、国会で御審議をいただいておる老人保健法案は、これからの時代老人保健制度の第一歩でありますので、ぜひ早期成立をお願いいたします。また、年金制度については、人口の高齢化がピークを迎える三、四十年後に備えて、制度全体について計画的に検討を行っていく考えであります。  雇用問題は、社会活力維持するために特に重要であります。六十歳定年の早期実現を初めとする高齢者雇用対策は、すでに現実の要請となっており、政府もその推進に努力しております。  成熟に向かう社会にあっては、国民の一人一人はもとより、社会全体が思いやりとゆとりを持つ必要があります。そのため、生活と生命の安全を確保するための諸施策を進め、利用しやすい公共施設ゆとりのある居住空間整備し、環境の汚染を未然に防止していかなければなりません。自然と人間活動の調和の問題は、単に限られた地域や国にとどまらず、さらには地球的な視野に立って考えていく必要があると思います。  私は、また、これからの社会をさらに創造性に富んだものとするため、特に婦人の活動に期待するとともに、人々の心の問題、人間性の涵養に配慮してまいりたいと存じます。この観点から、平和で健全なわが国社会の中で、昨今増加の一途をたどる青少年非行はまことに憂慮にたえません。私は、これからの社会が、希望に満ちた明るい社会であるためにも、家庭、学校を初め社会全体が一体となって、次代を担う青少年の健全な育成に幼児のころから心がける必要があると思います。特に、青少年の心をむしばむおそれのあるような社会環境改善しなければなりません。覚せい剤等の乱用が蔓延し、犯罪が頻発するような社会にならないよう最善努力が必要であります。国民各位におかれましても、文化と伝統を大切にし、温かい人間性にあふれた社会となるよう力を合わせて努めていただきたいと存じます。  以上、私は、流動し、変化しつつある世界の中で、どのようにして国民生活を守り、国際協調の実を上げるかについて、政府施策の概要を申し述べてまいりました。  今日、内外に山積する課題は、いずれを見ても容易なものではありません。しかし、今日の豊かで平和な日本は、自由な社会に生きる国民一人一人の英知努力によって築き上げられたものであり、これこそはわが国の明日を切り開く原動力であると確信しております。  私は、課せられた責任の重さを思い、心を新たにして、内外懸案を解決し、御期待にこたえてまいりたいと存じます。  国民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げます。(拍手)     —————————————
  12. 徳永正利

  13. 櫻内義雄

    国務大臣櫻内義雄君) 第九十六回国会開会に当たり、わが国外交基本方針につき所信を申し述べます。  今日、わが国を取り巻く国際情勢は、まことに厳しいものがあります。  米ソ両大国を中心とする東西関係は、依然として不安定なまま推移しており、ソ連の著しい軍備増強とこれを背景とする第三世界への進出に加えて、ポーランド情勢は最近深刻化の様相を深めております。  第三世界諸国は、近年、先進諸国との相互依存関係が深まり、世界の平和と発展に大きなかかわり合いを有するに至っていますが、これら諸国の多くはいまだ政治的、経済的基盤が脆弱であり、これが一因となって、国内的混乱やさらには地域的な紛争を引き起こしております。昨年においても、インドシナ、中東、アフリカ、中米等の諸地域で多くの混乱紛争が発生し、あるいは未解決のまま推移しております。  また、世界経済は、依然として第二次石油危機に対する調整を終えておらず、成長停滞失業増大、根強いインフレの持続、国際収支の不均衡等の諸問題を抱えており、このような状況のもとで保護主義的傾向がますます強まりつつあります。先進国経済の低迷は、他方開発途上国経済発展にも大きな影響を及ぼしております。  このような国際情勢を前にして、わが国外交に課せられた使命は、まことに大きなものであると言わざるを得ません。  わが国は、近年目覚ましい経済発展を遂げ、いまでは世界国民総生産の一割を占めるに至っており、わが国の国際的地位は飛躍的に向上しました。これに伴い、わが国が国際的に果たすべき責任と役割りは、単に経済面のみならず、政治面その他あらゆる分野で著しく増大しております。このような日本に対する世界の期待は、いまやきわめて大なるものがあるとともに、他方において、わが国の行動がかかる期待にこたえるものであるかどうかが厳しく注目されているところであります。  最近わが国が対外関係において直面している諸問題は、まさにこのような意味合いで受けとめるべきであると考えます。私は、わが国がこれら諸問題に受け身で対処するのではなく、世界の平和と繁栄のために主体的かつ積極的に貢献することが、世界から信頼される日本を築き上げていくゆえんであり、とりもなおさず、わが国の安全と繁栄確保していく道であると確信しております。外交責務は、きわめて重大であると言わざるを得ません。  以下、当面する外交の諸課題に対する方針について申し述べます。  まず、わが国積極的外交展開していくに当たっては、自由と民主主義という基本的価値観を共有する西側先進諸国との連帯と協調が不可欠であります。国際社会が直面する種々の課題に積極的に対処し、世界の平和と繁栄の枠組みを構築していく上でとりわけ重要なことは、西側諸国が不断の協議、連絡を保ちつつ、おのおのの国力、国情にふさわしい役割りを分担し合い、全体として最大限の力を発揮していくことであります。  このような意味において、日米安保体制を基軸とする日米友好協力関係は、わが国外交中心に位置するものであり、両国間の相互信頼に裏づけられた同盟関係がいまやいささかも揺るぎのないものとなっていることは、サンフランシスコ平和条約発効以来三十年を経た今日、まことに心強くかつ感慨深いものであります。  わが国は、米国との間で、国際社会の当面する諸問題に対処するに当たっての協力強化するとともに、両国間の経済、安全保障上の諸問題の円満な解決を図るためにあらゆるレベルにおいて不断の協議を行ってまいりました。安全保障の問題につきましては、わが国は、日米安保体制の一層円滑で効果的な運用を図るとともに、専守防衛を旨とする節度ある質の高い自衛力の整備を行っていく必要があると考えております。  日米両国協力して世界の平和と繁栄のために果たすべき責任と役割りは、ますます大きなものになると思われます。政府は、このような見地に立って、現在の特別に緊密な日米関係の一層の強化に努めてまいる所存であります。    〔議長退席、副議長着席〕  また、わが国世界的な視野に立った外交展開していくに際して、EC加盟諸国を初めとする西欧諸国は、同様に重要なパートナーであります。これら諸国との経済問題の円滑な解決を図ることの重要性はもとよりでありますが、同時に、日欧政治協力の一層の充実が大きな課題であります。昨年六月の鈴木総理の訪欧等により日欧間の対話と協力強化が図られつつあり、政府は、今後かかる努力を一層強化してまいる所存であります。  さらに、太平洋地域先進民主主義諸国であるカナダ、豪州、ニュージーランドとの友好協力関係強化も重要であります。これら諸国との関係は、近年経済関係中心に着実な発展を遂げてまいりましたが、今後は政治面を含むより幅広い協力関係を構築してまいりたいと考えます。  アジア諸国との関係を一層緊密にするとともに、この地域の平和と安定のために政治経済的な役割りを積極的に果たしていくことは、わが国外交の重要な柱であります。  朝鮮半島の平和と安全は、わが国の安全と東アジアの安定にとって重要であり、わが国と一衣帯水の関係にある韓国との間に、広範かつ各層にわたる交流の強化を通じて相互理解を深め、幅広く国民的基盤に立脚した安定的な関係を構築していく必要があります。また、現在韓国においては、経済的、社会的諸困難に直面しつつも、新しい国づくりのための努力が行われており、わが国は、このような隣国の国づくりに対し、わが国経済協力基本方針のもとに、できる限りの協力を行ってまいりたいと考えております。なお、北朝鮮との関係については、今後とも、貿易経済、文化等の分野における交流を漸次積み重ねてまいる考えであります。  中国が安定かつ繁栄した国家の建設を進めていくことは、アジアの平和と安定に寄与するものであり、今後ともわが国としてできる限りの協力を続けていくことが肝要であります。日中国交正常化十周年に当たる本年には、両国首脳の相互訪問も予定されており、中国との間の友好協力関係をさらに強固なものにしたいと考えております。  東南アジアにおいては、ASEAN諸国が目覚ましい経済発展実現し、連帯と協力の増進を通じて、この地域における重要な安定勢力成長してきております。わが国は、東南アジアの平和と繁栄を目指すASEANの努力を引き続き支持するとともに、これら諸国との協力、協調関係の一層の発展努力してまいります。  カンボジア問題及びインドシナ難民問題は、依然としてこの地域の不安定要因となっております。カンボジア問題につきましては、昨年のカンボジア問題国際会議及び国連総会において、話し合いによる包括的政治解決へ向けての努力が行われましたが、残念ながら、ベトナムはそれにこたえておりません。わが国としては、ASEAN諸国協力し、また、ベトナムとの対話を維持しつつ、同問題の解決のためのあらゆる働きかけを続ける所存であります。また、インドシナ難民問題についても、わが国は、資金、食糧等種々の面における協力及び難民の定住受け入れなどを通じて、引き続き問題の解決に寄与してまいる方針であります。  さらに、南西アジア地域及びインド洋の安定は、近年わが国にとってもますます重要性を高めており、政府としては、今後とも同地域諸国との関係強化努力していく所存であります。  わが国の重要な隣国であるソ連との関係につきましては、北方領土問題を解決して平和条約を締結し、真の相互理解に基づく安定的な関係確立するため、今後ともあらゆる機会をとらえてソ連側と粘り強く話し合ってまいる所存であります。日ソ関係は、北方領土における軍備強化、アフガニスタンへの軍事介入ポーランド情勢などにより遺憾ながら引き続き困難な局面にあり、政府としては、かかる事態の是正を強く求めております。先般モスクワにおいて開催された第二回日ソ事務レベル協議においても、このような局面にある日ソ関係について率直な意見交換が行われたところであります。  今般のポーランドにおける事態は、国際情勢全般に深刻な影響を及ぼすものであり、政府は、かかる観点から同国での現下の異常な事態が早急に是正されることを求めております。また、政府としては、ポーランドの問題は外部からのいかなる干渉にもよることなく、ポーランド人自身により解決されるべきであると考えるものでありますが、今般の事態ソ連の圧力のもとで生じたものであり、その意味においてソ連は責任を有するとの考え方を直接ソ連側に表明し、ソ連の自制を求めてきている次第であります。わが国としては、ポーランド事態に対処していくに当たり、西側の結束を維持し、その一員として適切に対処していくことが重要と考えております。  東欧諸国全般との関係については、政府は、それぞれの国情も勘案しつつ、相互理解の増進と友好関係発展のため、努力を払ってまいる方針であります。  中近東地域は、東西の戦略上の要衝として、また、石油生産地域として重要であります。  この地域情勢は、サダト・エジプト大統領の暗殺、未解決のイラン・イラク紛争、不安定なレバノン情勢、アフガニスタンへのソ連軍事介入の継続等に見られるように引き続き流動的であります。この地域に永続的な平和と安定を構築していくためには、先進民主主義諸国中心とする政治、安全保障面及び経済面での協力がきわめて重要であります。わが国としても、経済・技術協力に加えて、この地域の平和に対する外交努力強化し、さらには、文化交流等を通ずる相互理解の増進を図っていく所存であります。  特に、中東における公正、永続的かつ包括的和平の実現のためには、パレスチナ人の自決権とイスラエルの生存権が相互に認められるべきであります。昨年のアラファトPLO議長訪日の際のわが国首脳との会談、故サダト・エジプト大統領葬儀の際のベギン・イスラエル首相との会談等の機会をとらえて、紛争当事者にわが国のかかる立場を伝えております。  わが国は、今後とも西側諸国現実的な政策をとるアラブ諸国との協力関係強化しつつ、和平実現動きに寄与してまいる所存であります。また、昨年十二月、イスラエルはゴラン高原を一方的に併合しましたが、これは国際法及び国連諸決議違反であり、わが国としては、イスラエルに対してその撤回を強く求めております。  イラン・イラク紛争については、今日いまだ解決を見ていないことを憂慮するものであります。わが国は、今後とも平和的解決のための国際的努力を支持するとともに、両国に対して紛争の早期解決を訴えていく所存であります。  また、アフガニスタンにおいていまだにソ連軍事介入が続いていることは、まことに遺憾であります。わが国は、今後とも、立場を同じくする友好諸国と協調、連帯し、ソ連軍の全面撤退を強く求めていく所存であります。  今後一層の発展が期待される中南米諸国は、近年その国際関係の多角化を図り、わが国との友好関係も着実に強化されております。わが国としても、経済面のみならず、国連における活動を初めとする国際政治面での協力関係強化に一層努めてまいる考えであります。  アフリカ地域についても、わが国との関係はますます緊密となっております。同地域については、特に、ナミビアの早期独立達成に向けての関係国間の交渉に最大の関心が払われており、わが国としても、国連を中心とする問題解決のための行動に協力してまいりたいと考えております。  もとより、国際の平和と安全確保のための努力は、世界のすべての国々に課された課題であります。この意味で、国際連合の役割りにはきわめて大きなものがあります。わが国は、国連の諸活動、とりわけその平和維持活動に対する協力を一層強化し、もって安全保障理事会理事国としての責任を全うしてまいる所存であります。  また、国際社会を長期的に、より平和で安定した基盤の上に置くためには、軍縮軍備管理へのたゆまざる努力が不可欠であります。特に、現下の最大の課題である核軍縮については、米ソ両国を初めとする核保有国の自制と責任が第一義的に重要であり、わが国としても、引き続きこれら諸国に対する働きかけを行っていきたいと考えております。この関連で、先般開始された中距離核戦力交渉や本年開始が期待されている戦略核兵器削減交渉の具体的進展を切望するものであります。また、本年六月に開催される第二回国連軍縮特別総会において、わが国は、平和国家として、また、核不拡散条約当事国として、核実験の全面禁止、核不拡散体制の維持強化等核軍縮中心とする具体的軍縮措置の必要性を訴え一建設的な審議が行われるよう貢献してまいる所存であります。  国際社会の直面する大きな課題一つであります世界経済の再活性化のためには、先進工業諸国間の協調的な経済運営が重要であることはもとよりでありますが、同時に、これら諸国協力しつつ、技術開発や産業構造の転換を促進し、生産性向上を図っていくことが不可欠であります。先進工業諸国の中でも主導的立場にあり、その経済の動向が世界経済全体に大きな影響を及ぼしているわが国としては、以上のような目的を達成するための具体的諸施策を率先して推進し、もって世界経済発展に資することが求められているのであります。  また、現下の国際石油需給は緩和基調を示していますが、基本的に脆弱性を内包していることに変わりはありません。わが国は、現在のようなときにこそ、産油国との間の建設的な友好協力関係維持強化に努め、安定的な石油供給の基盤を固めるとともに、国際協力を通じてエネルギー経済の構造変化を一層推進する必要があります。  本年においても、フランスにおける主要国首脳会議やガット閣僚会議を初め多くの重要な国際会議が予定されております。わが国は、かかる機会を通じ、その国際的責任と役割りを自覚しつつ、国際経済の円滑な運営に積極的に貢献してまいる所存であります。  特に、最近欧米諸国との間で大きな問題となっている経済貿易摩擦についても、自由貿易主義維持強化を通じる拡大均衡の見地から、また、これら諸国との関係を一層円滑かつ強固なものにするため、できる限り早急に具体的な解決を図る必要があります。この意味で、経済対策閣僚会議において決定された諸施策を速やかに実施し、わが国市場の一層の開放のために最大限の努力を傾けなければなりません。  開発途上国発展国際社会の大きな課題であり、また、世界経済の再活性化のためにも大きな役割りを果たすものであります。この意味で、「相互依存と連帯」の精神南北サミットで確認されたことは、南北間に在存する諸問題の改善に向けての大きな契機として評価されます。とりわけ開発途上国との相互依存関係の深いわが国としては、これら諸国の開発のための協力に一層力を注ぐとともに、国連等の場における南北対話に積極的に参加し、建設的な南北関係の構築に引き続き努力してまいる決意であります。  南北問題の解決を図っていく上で、経済協力は特に重要であります。わが国は、南北問題の根底にある相互依存と人道的考慮の二つの理念に基づいて経済協力を進めていますが、このような経済協力を通じて、開発途上国政治的、経済的、社会的強靱性の強化が図られることは、当該地域、さらには世界全体の平和と安定に貢献するものであります。この意味で、経済協力は、わが国国際社会に対する責任であるのみならず、わが国総合安全保障政策の重要な一環をなしております。このような観点から、わが国は、世界の平和と安定の維持のために重要な地域に対する援助を引き続き強化していく方針であります。  わが国は、三年倍増目標の達成後も、昨年一月新中期目標を設定し、政府開発援助の量の拡充及び質の改善に努めております。また、今後とも、相手国国民生活に直接役立ち、かつ、国づくり基盤をなす農村・農業開発を含めた基礎生活援助及び人づくり協力の二つの分野を重視していくとともに、過去の援助の評価を行いつつ、効果的な援助の実施を図っていきたいと考えております。  わが国国際社会の重要な一員としてその役割りを果たしていくためには、政治経済のみならず、社会、文化をも含めた日本の全体像を広く世界に紹介し、もってわが国基本的な外交政策やその基礎となる考え方国際社会において的確に理解されることが特に重要であります。わが国としては、このような観点から、文化交流や広報活動を一層拡充強化し、諸外国との間に相互理解の増進を図っていく方針であります。  外交は、わが国の平和と繁栄を総合的に確保していくために死活的な重要性を有し、わが国の命運がかかっていると言っても過言ではありません。私がここで強調いたしたいのは、このような外交を強力かつ機動的に実施していくための外交基盤充実がいまや急務であるということであります。  特に、わが国を取り巻く国際情勢動きを迅速かつ的確にとらえるための情報収集・分析機能を強化し、外交実施体制の充実を図ることは不可欠の要請であります。  また、経済、文化等の諸分野において、海外で活躍する邦人の数は近年著増しております。これら邦人の安全と福利の確保外交の重要な任務であり、このためにも在外公館の機能の一層の充実が緊要であります。  行く手に幾多の困難が予想される今日の時代にあって、政府が要請されているものは、国民英知を結集し、わが国の進路を切り開いていくことであります。私は、このような決意を持って、多難な国際情勢に対処してまいる所存であります。  国民各位及び同僚議員のこれまでの御協力に感謝申し上げるとともに、今後の力強い御支援をお願いするものであります。(拍手)     —————————————
  14. 秋山長造

    ○副議長(秋山長造君) 渡辺大蔵大臣。    〔国務大臣渡辺美智雄君登壇拍手
  15. 渡辺美智雄

    国務大臣(渡辺美智雄君) ここに、昭和五十七年度予算の御審議をお願いするに当たり、その大綱を御説明申し上げ、あわせて当面の財政金融政策基本的な考え方について、私の所信を申し上げたいと存じます。  現在、欧米先進国の多くは、依然として二けたのインフレとそれに近い大量の失業に苦しむなど、経済面できわめて困難な事態に直面しております。特に、失業増大は治安の悪化を招き、国民生活を不安に陥れています。  一方、いまやわが国経済は、世界のほぼ一割を占めるに至り、また、物価上昇率は四%程度と先進諸国の中で最も鎮静化し、失業率も二%台と最低になっております。  そもそも政治の要諦は、平和で豊かな安定した国民生活を築くことにあります。わが国は、戦後一貫してこの目標を達成すべく、政府国民が一体となって努力してまいりました。  この結果、わが国は、狭隘な国土、乏しい天然資源にもかかわらず、現在の繁栄と安定を築き上げてきたのであります。これは、活力ある自由主義経済の所産であり、勤勉で資質の高い国民英知努力のたまものであります。  しかしながら、顧みれば、この道のりは、必ずしも平たんなものばかりでなく、幾多の試練を受けてきたのであります。  昭和三十年代から昭和四十年代後半に至るまでは、安い石油が自由に手に入るという好条件に支えられて、いわゆる高度経済成長実現されました。この間、豊かな財政のもとで、立ちおくれていると言われた社会保障政策や文教政策が一斉に取り上げられたのであります。  しかしその反面、物質万能の風潮が一世を風靡し、ややもすれば労せずして国家財政に依存しようとする政治的要求が、財政の節度をゆがめてきたことも事実であります。たとえば、高度経済成長以前には、国鉄も健康保険制度も食管制度もいずれも収支はほぼ均衡し、健全経営でありました。だがいまや、いわゆる三K赤字として、財政赤字の元凶のごとく言われるに至りました。  なぜでありましょうか。  それは、時代の移り変わりに対応する苦労を怠り、恵まれた財政によって、安易に赤字の穴埋めがなされてきたためであると思います。  だが、いつまでも安い石油の入手による経済繁栄はできなくなりました。いわゆる第一次、第二次の石油危機の到来がそれであります。昭和四十九年以降高騰し続ける石油価格の中で、世界じゅうがインフレと不況の荒波を受けました。わが国もその例に漏れません。  しかるに、わが国経済はこれに耐え抜いてまいりました。  この間、財政は大きな役割りを果たしたのであります。特に、第一次石油危機により経済停滞し、税収が落ち込んだ中で、財政は大量の公債発行という非常手段によって財源をつくり、景気の回復と国民生活の安定を図ってまいりました。とれにより、わが国経済は、安定成長へ円滑に移行するとともに、福祉元年と言われる昭和四十八年度以降の福祉政策をさらに推し進めることができたのであります。  昭和四十八年度から五十六年度までの間に、厚生年金の月平均支給額が二万二千円から十万七千円に引き上げられた例を挙げるまでもなく、社会保障関係費は約四倍、文教及び科学振興費は約三倍になり、この結果、これらの施策水準は、欧米先進国に比べても遜色のないものとなりました。一方、この間、税収は二・四倍の伸びにとどまり、その不足額は公債の発行で賄われてまいりました。  ところで、公債の発行残高は、昭和五十六年度末で八十三兆円、五十七年度末で九十三兆円程度の巨額に上り、その利払い等に要する経費も五十七年度予算においては、一般会計歳出の一六%程度を占めるに至りました。これは公共事業関係費をも上回り、防衛関係費の三倍程度にも相当いたします。  将来を展望いたしますと、わが国世界有数の長寿国となったため、年金や医療の経費はますます増加が見込まれる一方、天災やエネルギー問題など今後の経済情勢の変化にも財政対応していかなければなりません。しかし、遺憾ながら現状のままでは、財政にはこのような課題解決するために新たな施策を講ずる余力はありません。  また、公債発行残高の累増は、金利水準の引き下げの阻害要因になるなど、金融政策の円滑な運営に大きな影響を及ぼすに至っております。さらに、大量の公債発行を続けることは、民間資金を圧迫し、経済インフレ要因をもたらすことにもなりかねません。ことに、インフレは現に世界にその例を見るがごとく、景気を後退させ、失業増大を招き、国民生活の安定そのものを損なうものであります。したがって、できるだけ早く公債依存の体質から脱却する必要があります。  政府は、このような考え方に基づいて、鋭意、公債発行の減額に努力してまいりました。  しかしながら、公債発行の減額は、とりもなおさず財源の減少を意味します。財源が減少すれば、歳出を削減するか、他にかわるべき財源を求めるかのいずれかによるほかはありません。  ところで、歳出はきわめて多岐にわたる経費の積み上げであり、個々の受益者にとっては、その歳出の削減は、月給の引き下げと同じような苦痛を伴うものであります。特に、高度成長下の惰性で、安易に政府に依存しようとする傾向は、いまだに断ち切られていないため、歳出削減は財政再建の第一歩であるにもかかわらず、総論には賛成でも、歳出削減が自分にも及ぶとなれば各論では強い反対を示すものであります。  一方、他にかわるべき財源を求めることに対しては、きわめて強い抵抗があるのも事実であります。過去何年かにわたり、本来税で負担すべきものまでも公債に依存してきた体質は、一、二年で容易に変わるものではありません。  しかしながら、国の施策により利益を受けるのも、また、その費用を負担するのも同じく国民であります。歳出の削減、たとえば、補助金の一層の削減による行政サービスの低下をどこまで受け入れるか、あるいは、行政サービスを維持向上させるため国民負担の上昇をどこまで受け入れるか、このことはまさに国民の選択すべき問題であります。  昭和五十七年度予算に関しては、何よりも行財政の徹底した合理化、効率化によって財政再建を進めるべきであるとの世論がつとに高まったことにかんがみまして、行財政改革による歳出削減を中心として予算編成を行うことを基本方針といたしました。  高度成長下における豊かな税収を背景に是認された施策であっても、安定成長下の限られた財源のもとでは、改めて検討すべきは当然であります。また、受益者負担の原則をも取り入れて、国への要求が安易に拡大しないように工夫することも必要であります。総じて、時代の要請に即応して財政構造の合理化を図ることが必要なのであります。  このような観点から、昭和五十七年度の各省庁の予算要求に当たりましては、原則として前年度と一律同額にとどめるという予算編成上画期的な方策、すなわちゼロシーリングを採用いたしました。また、昨年春、臨時行政調査会が発足し、七月には歳出削減等の方策につき答申が出されました。政府としては、この答申を最大限に尊重し、速やかに所要の施策実施に移すとの基本方針のもとに、当面法律改正を要する事項について、いわゆる行革関連特例法案を昨年秋の臨時国会に提出し、その成立を見たところであります。  昭和五十七年度予算は、このような過程を経て、歳出を極力圧縮し、公債発行額を前年度当初予算より一兆八千三百億円減額いたしました。  昭和五十七年度予算は、以上申し述べた基本考え方に立って編成いたしました。その大要は、次のとおりであります。  歳出面におきましては、経費の徹底した節減合理化によりその規模を厳しく抑制したところであります。特に、国債費及び地方交付税交付金以外の一般歳出は極力これを抑制いたしました。  また、補助金等につきましては、昨年八月に決定された「行財政改革に関する当面の基本方針」に定めるところにより、整理合理化を行いました。  さらに、国家公務員の定員については、新たに策定された第六次定員削減計画に基づいて、削減を着実に実施する一方、増員は極力これを抑制いたしました。この結果、行政機関等職員については一千四百三十四人に上る大幅な縮減を図ったのであります。  これらの結果、一般会計予算規模は、前年度当初予算に比べて六・二%増の四十九兆六千八百八億円となっております。また、このうち、一般歳出規模は前年度当初予算に対し一・八%増の三十二兆六千二百億円であります。一般会計予算及び一般歳出の伸び率が、このように低い水準にとどまったのは、それぞれ昭和三十一年度及び昭和三十年度以来実に二十数年ぶりのことであります。  歳入面におきましては、経済情勢の変化等により、昭和五十七年度の自然増収が、ゼロシーリング決定の際参考とした財政の中期展望における自然増収よりも約七千億円不足することが見込まれましたので、経済の実態に即し、この不足分を補うため次の措置を講じました。  まず第一に、税外収入において極力増収を図ることとしました。  次に、なお残る不足分を税制面の見直しにより措置することといたしました。すなわち、税負担の公平確保の重要性等に顧み、租税特別措置については、期限の到来するものを中心整理合理化を図るとともに、交際費課税強化することとしております。また、法人税については、貸し倒れ引当金の法定繰入率の引き下げ及び延納制度における延納割合の縮減等を図ることとしております。  なお、税の執行につきましては、国民の信頼と協力を得て、今後とも一層適正公平な税務行政実現するよう努力してまいる所存であります。  公債につきましては、さきに申し述べましたように、その発行予定額を前年度当初予算より一兆八千三百億円減額し、十兆四千四百億円といたしました。この減額の内容は、特例公債一兆五千六百十億円、建設公債二千六百九十億円となっております。これにより、特例公債の発行予定額は三兆九千二百四十億円となり、建設公債の発行予定額は六兆五千百六十億円となります。  減額された公債がすべて特例公債とならなかったのは、主に次の理由によるものであります。  すなわち、ゼロシーリングのもとでは、予算要求に当たっての経費の取捨選択については、各省庁の自主的努力を尊重してきましたが、各省庁は、建設公債財源とすることのできる施設費を削減することなどによって要求を取りまとめてきました。また、公共事業関係費は、前年度と同額に抑制いたしましたが、これに充てることとされている特定財源収入の増加が見込まれましたため、財源不足は少なくなり、したがって、建設公債は必然的に減額されるのであります。  こうした事情のもとにあって、特例公債だけで一兆八千三百億円を減額しようとすれば、一般歳出増加額をさらに相当程度圧縮せざるを得ません。これは、財政需要が増大する中で、前年度と同額というゼロシーリングによって予算の要求自体がすでに厳選されているため事実上困難であり、また、その与える影響も大きいところから、とり得なかったところであります。なお、ゼロシーリングの例外としたエネルギー対策経済協力等につきましては、政府の重要施策であり、さらに、これを大幅には削減しなかったものであります。  いずれにしても、ゼロシーリングは堅持され、昭和五十九年度特例公債脱却との方針は何ら変わるものではありません。今後ともこれを目指して、最大限の努力を傾注してまいる所存でございます。  特例公債の発行につきましては、別途、昭和五十七年度の公債の発行の特例に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。  財政投融資計画につきましては、厳しい原資事情に顧み、民間資金の活用に努めるとともに、対象機関の事業内容、融資対象等を見直すことによって、規模の抑制を図り、政策的な必要性に即した重点的、効率的な資金配分となるよう努めたところであります。  この結果、昭和五十七年度の財政投融資計画の規模は二十兆二千八百八十八億円となり、前年度当初計画に比べて四・一%の増加となっております。  次に、主要な経費について申し述べます。  まず、中長期的視点から充実を図る必要がある施策については、厳しい財政事情のもとではありますが、重点的に措置することにしております。すなわち、エネルギー対策費、科学技術振興費及び経済協力費については、その緊要性にかんがみ、充実を図ることといたしております。また、防衛関係費につきましては、わが国が置かれている国際情勢等を考慮しつつ、防衛計画の大綱に基づいて、防衛力の着実な整備を図ることといたしております。  一方、社会保障関係費、文教費につきましては、真に緊要な施策には、きめ細かに配意したところであります。特に、社会保障については、老人保健制度実施心身障害者対策拡充等給付の重点化、負担の適正化等を一層進めつつ、各種の福祉施策を着実に推進していくことといたしております。  また、公共事業関係費については、引き続き前年度と同額にとどめておりますが、特に、住宅対策については、住宅建設融資枠の拡大施策充実に努めております。  なお、地方財政に関しましては、その適正な運営に支障が生じないよう配意することとしておりますが、地方公共団体に対しましても節度ある財政運営を図るよう要請するものであります。  この機会に、さきに提出いたしました昭和五十六年度補正予算について一言申し述べます。  歳出につきましては、災害復旧等事業費、農業保険費、給与改善費等当初予算作成後に生じた事由に基づき、特に緊要となった事項について措置を講ずることといたしました。  歳出の追加額に必要な財源の捻出には、現下の厳しい財政事情のもとにおいてきわめて苦慮したところでございます。すなわち、緊縮予算の中にあって既定経費をさらに節減するとともに、税外収入増加等を図ることにより可能な限りの財源を捻出し、これをもって給与改善に要する経費その他通常の追加財政需要を賄うことといたしました。しかし、昭和五十六年の史上最大規模の災害については、緊急にその早期復旧を図る必要があり、これに要する経費については、公債の増発により、その財源確保せざるを得ませんでした。  次に、本年度の租税及び印紙収入については、物価の予想以上の安定等により、価格や取引金額に応じて課税される物品税や印紙収入が落ち込むなど、四千億円程度の減収が避けられない見通しとなりました。このような予期せざる経済情勢の変化に伴う歳入不足額につきましては、経済の実態に合わせて補正予算において補てんすることが適当であると考えまして、特例公債追加発行することといたしました。昭和五十六年度予算は、財政再建元年予算として二兆円の公債発行減額を目標に挑戦いたしましたが、これを一部変更し、完全に達成できなかったことは残念なことであります。しかし、その一方、これは、予想を上回る物価の鎮静化という国民生活の安定にとって好ましい状況の出現等の結果でもあり、やむを得ない措置であることをおわかりいただきたいと思います。  以上によりまして、昭和五十六年度一般会計補正後予算の総額は、歳入歳出とも、当初予算に対し三千三百七十二億円増加して、四十七兆一千二百五十四億円となります。  以上、昭和五十七年度予算及び昭和五十六年度補正予算の大要について御説明いたしました。  次に、当面の政策運営の基本考え方について申し述べます。  最近の内外経済情勢のもとにおいて、私は、さきに述べた財政再建に加え、特に次の二点を基本課題として今後の経済運営に当たってまいりたいと考えております。  まず第一は、引き続き物価の安定を基本とし、国内民間需要を中心とした景気の着実な回復を促進することであります。  物価は、落ちついた動きを示しております。物価の安定は、国民生活安定の基本であり、今後とも、財政金融政策を通じ、物価の安定に努力してまいる考えであります。  景気につきましては、内需の回復の足取りは緩慢ではありますが、今後は、次第に改善し、明るさが増してくるものと期待されます。昭和五十七年度予算におきましては、厳しい財政事情のもとではありますが、住宅建設促進を図るため、住宅金融公庫の融資枠の拡大、税制上の措置等の施策を講じております。公共投資につきましても、財源の効率的配分、地方単独事業拡充民間資金の活用等により事業量の確保に努めております。  また、金融政策につきましては、一昨年八月以降一連の金融緩和措置を講じてまいりました。昨年十二月には、第四次の公定歩合引き下げ措置がとられ、これを受けて預貯金金利を含む金利水準全般の引き下げを図ったところであります。  今後の金融政策の運営に当たりましては、物価景気、海外経済情勢経済の動向を総合的に判断して、引き続き適切かつ機動的に対処してまいりたいと考えます。  第二は、調和ある対外経済関係促進し、世界経済発展に貢献していくことであります。  世界経済は、貿易のみならず資本交流等を通じ、ますます相互依存関係を強めつつあります。その中で、わが国の経常収支は昨年四月以降黒字傾向にあり、これを背景として欧米諸国から貿易均衡の是正を求める声も高まってきております。世界経済活力の源泉は自由貿易にあり、わが国としても積極的にこれを推進することにより、世界経済調和ある発展に貢献していかなければなりません。  このような観点から、政府は、先般、市場開放対策、輸入促進対策、輸出対策などを内容とする対外経済対策を決定したところであります。  特に関税につきましては、わが国市場開放に資するとの見地からいち早く対応して、その引き下げを図ることを決定いたしました。すなわち、東京ラウンドの合意にのっとった関税の段階的引き下げ措置を来年度に予定した分に加え、さらに、一律に例外なく二年分繰り上げて実施するなどの前向きの改正措置を講ずることといたしております。  また、原油代金の産油国への偏在が世界経済をゆがめていることにかんがみまして、世界貿易を円滑にするために、オイルマネーの還流について、わが国は引き続き積極的にその役割りを果たしていくことが必要であると考えます。  さらに、開発途上国経済発展のための自助努力を支援することは、これらの国々の国民福祉向上と民生の安定に寄与するのみならず、世界経済全体の均衡のとれた成長と安定を確保するためにも重要であると考えます。このような観点から、また、国際責任の分担という見地からも、厳しい財政事情にもかかわらず、経済協力については着実に拡充を図ることとし、あわせて、その効率的実施に十分配意し、政府開発援助の中期目標の達成に引き続き努めることといたします。  世界経済の円滑な発展のためには、国際通貨の安定は欠くことのできないものであります。円相場は、わが国経済の良好な基礎的諸条件を反映して、基調としては、円高方向に動くことが期待されております。今後、関係諸国とも密接な連絡を保ちつつ、円相場の安定に努めていきたいと考えております。  わが国は、戦後幾多の試練をみごとに克服して、現在の経済繁栄と安定を築き上げてまいりました。この繁栄し、安定した経済社会こそ、われわれが子孫に対し誇りを持って引き継ぐことができる貴重な財産であります。  このような繁栄と安定は、世界経済の中でひとりわが国が孤立して維持できるものではありません。わが国資源の乏しい国であります。同時に、わが国世界国民総生産の一割を占める経済力を持つようになった国でもあります。わが国動きは、世界経済に少なからぬ影響を与えます。  いまや、世界経済を離れて日本経済は存在し得ないことを認識して、わが国にふさわしい役割りと責任を積極的に果たしていくことが肝要であります。  また、将来にわたる安定的繁栄にとってゆるがせにできない問題として、財政再建の問題があります。  財政再建の道のりは、厳しく、また困難なものではございますが、すでに財政再建に向かって軌道の上を着実に歩んでいるのであります。一方、経済は生き物であります。上り坂もあれば下り坂もあります。雨の日も、風の日もあります。したがって、その対応には緩急もありましょうが、苦痛に耐え、忍耐強く、財政再建の歩みを進めなければなりません。それが、われわれ世代の使命であり、財政を担当する私の責任でもあります。  かかる大任を肝に銘じ、昭和五十九年度特例公債脱却を目指し、引き続き財政再建に全力を傾注する決意であります。  国民各位の御理解と御協力を切にお願い申し上げる次第でございます。(拍手)     —————————————
  16. 秋山長造

    ○副議長(秋山長造君) 河本国務大臣。    〔国務大臣河本敏夫君登壇拍手
  17. 河本敏夫

    国務大臣(河本敏夫君) わが国経済の当面する課題経済運営基本的な考え方について所信を申し述べたいと存じます。  まず、世界経済の現状について申し上げます。  第二次石油危機は、きわめて大きな混乱世界経済にもたらしました。ようやく峠を越えたとはいえ、いまなお激動が続いております。  各国が、その影響を克服するため、懸命な努力を続けた結果、世界的なインフレは上昇傾向が幾分鈍化し、石油需給も小康状態となってまいりました。しかし、インフレ抑制のためにとられた金融引き締めの政策の影響もあって、世界的に異常な高金利が発生をいたしました。それが、石油価格高騰の影響と相まって、世界経済に大きなデフレ圧力を及ぼしております。  このため、欧米諸国景気は、なお停滞ぎみに推移し、各国失業増大しております。失業率が一〇%を超える国もあり、大きな政治問題、社会問題となっております。  非産油発展途上国では、経常収支の赤字が拡大し、対外累積債務が急増している上、根強い物価の騰勢が続いております。  こうした中で、わが国経済は、国民各位の賢明な対応もあり、第二次石油危機を比較的順調に乗り越えてまいりました。石油価格高騰のため、一時期、物価がかなり上昇いたしましたが、輸入インフレが国内インフレに転化することを避けることができたのであります。昭和五十六年春以降、物価は落ちつきを取り戻しております。しかし、景気は、その回復のテンポが緩慢であり、力強さに欠けております。  強い国際競争力や円安を背景に輸出が増加を続けたほか、大企業の設備投資は堅調であり、在庫投資の減少傾向もほぼ終わったと見られます。この中で、生産や出荷も、昨年秋以降増加を示しております。しかし、個人消費は、一進一退を続け、中小企業の設備投資も低調に推移しております。また、住宅投資は、五十四年末以降、前年水準を下回る状況が続いております。  このように、内需の回復は鈍く、輸入需要が低迷しており、経済成長の多くを外需に依存した姿となっております。このため、インフレ失業に悩まされている欧米諸国との経済摩擦が深刻の度を増してきております。  こうした情勢のもとで、わが国経済昭和五十七年度を迎えようとしているのでありますが、その経済運営に当たっては、次の諸点を基本としてまいりたいと存じます。その第一は、内需中心の着実な景気維持拡大実現し、雇用の安定を図ることであります。  現下の最重要課題である行財政改革を円滑に進めるためにも、わが国経済の着実な成長を図ることが肝要であります。また、内需中心景気維持拡大は、現在緊急の課題となっている対外経済摩擦解決にも大きく寄与するものと存じます。  このため、昭和五十七年度予算においても、たとえば、社会資本の整備に当たって、民間資金の活用、効率的な財源配分等により事業量の確保に努めるなどできる限りの工夫をこらして、景気に対する影響にも配意したところであります。しかしながら、財政に多くを期待し得ない現状において、国内需要の拡大を図るに当たっては、民間経済活力が最大限に発揮されるような環境維持整備することがきわめて重要であると考えております。このため、物価の安定基調を維持することによって個人消費回復の基礎を固めるとともに、引き続き、金融政策の適切かつ機動的な運営を図ることなどにより、設備投資の足取りをより確実なものとし、技術革新推進生産性向上をもたらすことが大切であると存じます。  住宅建設は、国民生活向上基礎となるものであり、かつ、民間需要喚起のためにも大きな効果が期待されます。このため、政府としては、第四期住宅建設五カ年計画の的確な実施を目指し、住宅金融の充実、宅地供給の促進など諸般の対策をきめ細かく進めることといたしました。これらの対策の効果もあり、現在低迷している住宅建設も、今後、回復に向かうものと考えております。  また、これまで景気回復の足かせとなっていた在庫調整もほぼ終わり、今後は在庫投資も増加に転ずるものと見込まれております。    〔副議長退席、議長着席〕  さらに世界経済の今後の動向につきましても、多くの先進諸国で第二次石油危機の影響が徐々に克服され、本年後半から景気の立ち直りが予想されております。  以上述べましたように、政府の諸政策と民間経済活力が一体となり、五十七年度のわが国経済は実質で五・二%程度の成長が見込まれております。  第二は、物価の安定を図ることであります。  最近の物価動向を見ますと、卸売物価、消費者物価ともに、安定した動きを示しております。  もとより、物価の安定は、国民生活安定の基本条件であり、経済運営基盤をなすものであります。政府といたしましては、五十七年度においても、現在の物価の安定基調を維持するため、機動的な政策運営を図って行く所存であります。  このため、引き続き、通貨供給量を注視するとともに、生活関連物資等の安定的供給の確保及び価格動向の調査・監視、輸入政策、競争政策などの積極的な活用により各般の対策を総合的に推進することといたしております。  なお、公共料金につきましては、経営の徹底した合理化を前提とし、物価及び国民生活に及ぼす影響を十分考慮して厳正に取り扱う方針で臨んでいるところであります。  政府は、五十七年度の物価は引き続き安定的に推移し、卸売物価は前年度比三%程度、消費者物価は四・七%程度の上昇と見込んでおります。  第三は、調和ある対外経済関係の形成に努めることであります。  いまなおインフレ失業の問題に悩む欧米諸国が、わが国市場開放を求める態度にはきわめて厳しいものがあり、保護貿易動きが強まることも懸念されるのであります。  第二次世界大戦後の世界貿易は、IMF・ガット体制のもとで飛躍的な拡大を続け、世界経済発展の原動力として大きな貢献をしてまいりました。戦後、わが国経済が目覚ましい発展を遂げた背景には、自由貿易体制下での世界貿易の順調な拡大があったのであります。また、わが国貿易は、今日、世界貿易の一割もの比重を占めるに至っております。このため、わが国としては、保護貿易主義の台頭を防ぎ、世界経済調和ある発展推進するために大きな責務を負っております。自由貿易体制を維持強化するための積極的な努力が必要であります。  このような観点から、政府といたしましては、内需の回復を基礎とし、貿易拡大均衡を目指して昨年十二月に決定をいたしました関税の段階的引き下げの繰り上げ実施、輸入検査手続の改善等の市場開放対策、緊急輸入外貨貸付制度実施石油やレアメタルの備蓄の推進、輸入ミッションの派遣等の輸入促進対策などの対外経済対策を積極的に推進してまいる所存であります。  申すまでもなく、保護貿易への動きは、根本的には各国経済停滞に根差しているものと考えられます。私は、世界経済の再活性化のために、各国が相協力して、積極的な努力を重ねることが最も肝要であると考えます。  ここで、発展途上国に対する経済協力について申し述べたいと存じます。  経済協力によって、発展途上国の経済発展を支援することは、平和国家であるわが国が、世界繁栄と平和に貢献し、国際社会の期待にこたえる道であります。また、これは同時に、発展途上国と緊密な相互依存関係にあるわが国発展と安全にも資するものであります。  このような考え方に立ち、昭和五十七年度予算においても、政府開発援助の新しい中期目標を着実に達成するため最大限の配慮をしたところであります。  次に、長期的な観点に立った経済発展基盤整備について申し上げたいと存じます。  わが国は、第二次世界大戦後、恵まれた内外の条件に支えられまして世界に例を見ない経済発展を遂げてまいりました。いまや、年間の国民総生産は二百八十兆円にも達しようとする巨大な経済となっております。しかし、わが国をめぐる内外の諸条件は、資源エネルギー制約の強まり、高齢化進展国際経済秩序の変貌などの急激に変化が続いておるのであります。  このような中で、わが国経済を長期にわたり安定的に発展させるための基盤整備が急がれております。とりわけ、わが国は、他の先進諸国と比較してエネルギーの海外依存度がきわめて高く、安定的なエネルギー確保が急務となっております。  このところ、石油需給は緩和をしておりますが、中長期的なエネルギー情勢は依然厳しいものと見られ、不安定な要素を抱えております。小康状態にある現在においてこそ、エネルギー対策を強力かつ着実に進めることが大切であります。  このため、引き続き石油安定供給に努めるとともに、省エネルギー政策及び石油備蓄政策を一層強力に推進し、原子力発電、石炭利用等石油代替エネルギーの開発利用を促進する必要があります。さらには、二十一世紀に向けての核融合の研究など、新エネルギーの研究開発にも力を注がなければなりません。  以上、わが国経済の当面する課題経済運営基本的な考え方について所信を申し述べました。  現在のような世界的な経済の激動期において、当面する多くの諸問題を解決し、さきに申し述べましたような経済の姿を実現するためには、機敏、適切な経済運営が必要であります。政府は全力を挙げて取り組んでまいります。  国民各位の御理解と御協力を切にお願いする次第であります。(拍手
  18. 徳永正利

    議長徳永正利君) ただいまの演説に対する質疑は次会に譲りたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  19. 徳永正利

    議長徳永正利君) 御異議ないと認めます。      ——————————
  20. 徳永正利

    議長徳永正利君) 日程第二 工学博士福井謙一君のノーベル賞受賞につき祝意を表する件  工学博士福井謙一君は、昨年十二月十日、一九八一年度ノーベル化学賞を授与されました。まことに喜びにたえません。  つきましては、院議をもって、同君に対し祝意を表することといたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  21. 徳永正利

    議長徳永正利君) 御異議ないと認めます。  同君に対する祝辞を朗読いたします。  工学博士福井謙一君 君は化学反応の理論的解明により千九百八十一年度ノーベル化学賞を授与されました  参議院はここに君の偉大な功績をたたえ院議をもって心からの祝意を表します    〔拍手〕  祝辞の贈呈方は、議長において取り計らいます。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時五十分散会