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寺田熊雄君
民事訴訟法及び
民事調停法の一部を
改正する
法律案に対して、社会党を代表して賛成の立場から
討論をいたします。ただ、この賛成は、いわば消極的賛成とも言うべきものであります。
と申しますのは、この法案は
民事訴訟手続の適正、円滑な進行を図るためのものとせられるのでありますが、その中身は、罰金額の引き上げは別として、
書記官の
事務に関するものが三、
裁判官の
事務処理に関するものが一であり、また当事者に関するものが一であります。
その中身を見ますと、国民の要望に沿うものであるとか、あるいは国民の利益を増進させるものであるとかいう立場ではなくして、むしろ
裁判官や
書記官の立場に立ってその労を省く目的のものであります。私
どもは今後もこのような傾向が進むのではないかという
懸念を抱かざるを得ませんし、また、これらの
改正は、他の
訴訟上の諸
制度との整合性に若干そごを来すのではないかという感じがするからであります。
しかしながら、日弁連の
事務総長に来ていただきまして直接確かめましたところ、この法案に対しましては、すでに日弁連も大筋において同意しております。また、
裁判官や
書記官の
事務上の負担がきわめて重く、その労を省く必要も否定し得ませんので、ある
程度の心理的な
抵抗は感じつつも、あえて賛成の立場をとった次第であります。
それゆえ、次に、この法案に対して抱く私
どもの
懸念や不安に関して若干の意見を申し述べたいと存じます。
第一に、
訴訟が
裁判によらずして完結した場合の
証人調書等の
省略、
民事訴訟法第百四十四条ただし書きの問題でありますが、これは実際問題としては、
訴訟が
和解によって解決した場合に最も大きな効用を発揮し、
書記官の
調書作成の労を省くものであることは、たれしも
異議がないと存じます。
これらの
調書は、もともと
民訴法第百四十二条、百四十九条等により、その都度、迅速に
作成せらるべきものでありますが、
裁判官中には、きわめて少数ではありますが、強引な
訴訟指揮により、
訴訟の初期の段階で当事者に
和解を強要する
裁判官もないではありません。また、
事務の繁忙のために
調書の
作成が遅延する場合もないではありません。したがって、いわゆる
和解含みの事件におきましては、そうした期待のゆえに
調書作成が遅延せられ、その結果として、
調書作成の
省略が
当該和解の成立した日に行われた
証人調書等にとどまらず、相当以前にさかのぼるおそれもないではないという
懸念を抱く次第であります。
それゆえ、この
制度の運用に当たりましては、
裁判所が当事者に対して
調書の
作成を求める意思があるかどうかを明確に確認する必要がございます。また、
裁判官の
書記官事務に対する適切な
指導監督が必要であることを
指摘いたしたいと存じます。
第二に、
就業場所においてする
送達、すなわち
民訴法第百六十九条第二項の新設等については、その要件として二つの理由が掲げられております。
その
一つは、被
送達者の
住居所等の知れないとき、その二は、その
場所に
送達するについて
支障があるとき等であります。右のうち、
住居所の知れないときの
証明方法は、
民訴法第百七十八条の
公示送達をなす場合と同様であるという政府の
答弁でありますが、これは今後の運用においてかたく守らるべきものであると考えます。
問題は、
送達に
支障あるときの
解釈でありますが、政府の
説明は、主として昼間不在の場合を指すというのであります。ところが、昼間不在、
夜間在宅であるといたしますと、
夜間送達の
制度を活用すればよいのではないかという疑問がたやすく生ずるのであります。ところが、これに対する最高裁の
答弁は、
執行官は現在
裁判所の首席
書記官級の待遇を受けておりますので、
送達のような
機械的事務に携わるのは好まないし、
裁判所としても
執行官には差し押さえ、競売等の本来的
事務に精進してもらいたい、
執行官代理がおればこれに
送達させることも考えられるが、現状ではこれがいないところが大部分である、それゆえに、この
夜間送達が困難であるというのであります。
それでは、
執行官による書類の
送達制度、なかんずく
夜間送達制度は廃止してもよいのかと反問いたしますと、いや、それは存続させてほしいというのであります。
このあたりにも
裁判所の自己中心的論理が支配しておりますし、
送達をあたかも下級公務員の職務とするがごとき考え方もうかがわれるのでありまして、にわかに同調し得ないものを感ずるのであります。
また、そのことをひとまずおくといたしましても、この
就業場所への
送達は、一たん被
送達者の正規の
住居所に
送達し、それが受理せられない場合に限るべきものであると考えます。この点につきましては、最高裁当局もそうした
事務処理を行うことを明言しておられますので、今後の運用においてそれが励行をされることを強く希望するものであります。
また、
送達する書類が他人によってたやすく開封されないよう配慮することが、プライバシーの保護上必要であると考えます。この点も、最高裁はそうした運用を約束しておられますので、その徹底を望むものであります。
第三の問題は、
判決の事実摘示中の
証拠説明を
省略し、
記録中の
証拠の標目を引用することを得せしめる問題であります。これは公害事件等、当事者が多数であり、おびただしい書証等が提出せられる場合には、やむを得ない
措置であると考えられます。しかし、そうでない一般の事件にあっては、従前の
判決のように書証を証人についてのあらましの
説明をした方が、これを読む国民にとって望ましいということは言うまでもありません。
さらに、この
改正は、かかる引用を違法とする上告理由に対して、なるほど
証拠の摘示はないがそれは別段
判決に影響を及ぼさないという理由で原
判決を救済した最高
裁判決の後追いをし、かかる事実摘示を合法的のものたらしめるものでありますが、
訴訟当事者の立場に立って考えますと、これには釈然としないものが残るのであります。
次に、五百十三条の
改正については日弁連との協議が全くなかったようでありますが、
訴訟制度の運用に当たる者は
裁判所関係者と弁護士でありますので、その
改正に当たりましては、必ず
事前に弁護士会の意見を徴し、その了承を経て行うことが当然であると考えます。この点は大臣の誠意ある御
答弁がございましたので多くは申しませんが、今後はその点に十分留意して誤りなきよう法務当局に望むものであります。
最後に、この法案は、小範囲のものとは申せ、いろいろな示唆を与えてくれます。
その
一つは、
裁判官の
書記官事務に対する
指導監督の問題であります。
先ほども質問の際に申し上げましたように、私個人としても、
弾劾裁判所において
谷合判事補の事件を裁いてみますと、
東京地裁の
破産部における当事者と
書記官との癒着はついに
谷合判事補をも巻き込む結果を生じたものでありますが、これは
部長判事がもう少し
書記官の
事務処理に対して注意深く観察し、適切な指導を与えていたならば防ぎ得た事案であったと考えます。戦後、
書記官の
地位が向上いたしましたことはまことによいことであります。私
ども年来の主張に沿うものでありますが、そのゆえに
裁判官のこれに対する
指導監督が後退してはならないと私は考えております。
いま
一つは、
証人調書の
作成に関する
書記官事務に関するものでありますが、このうち実は一部はもうすでに速記官によってかわられております。また、
東京地裁などは、証人の証言を録音して民間の反訳センターなるものに反訳さして、その納められたものをそのまま
調書とすることが行われているかに聞くのであります。
今後、
書記官の
事務処理は、録音がそのまま文字になってあらわれる科学技術の発達などにより影響を受けるのではなかろうか、またそれが
書記官の
事務にどういう影響を与えるのか、これがその人員削減等につながるおそれはないのか、そういうような諸点について、最高裁において、現在の
事務処理と将来の見通しに関連する問題で、
訴訟関係者の意見を十分に徴して慎重に検討をなすべきであると考えております。
以上、意見を述べまして、
討論といたします。