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参考人(
村本周三君)
最初の問題は、第一にわれわれが五十七
年度の
経済をどう見ておるかということからスタートする問題であると思います。
われわれは現在、国内の内需はそんなに悪くない、特に
個人消費と設備支出は次第に緩やかながら
回復をしかかっておる。ただ、
政府の支出は恐らくことしいっぱいは、五十七
年度は五十六
年度に比べて微減であろう。そしてまた、それに対して対外
経済余剰のもとである
輸出が五十六
年度の
伸び率に比べて五十七
年度の
伸び率は鈍化するであろう。そういうような
条件を総合いたしまして三%前後あるいは三%を切る実質
成長になるのではなかろうか、こういうふうに考えておるのであります。
したがいまして、
政府支出の減少ということが
一つの原因でございますから、
政府の公共支出というものを前倒しでやって、少なくも年の前半はそういう面からの
マイナスの
状況が生じないということにいたしたいと言われる態度にはわれわれも賛成をいたしたいと思います。ただその結果、どういうことになるかというのが次の問題でございます。
私
どもも、
政府がお考えのように、それを前倒しにすることによって緩やかながら
回復を始めました国内
経済にある
程度のはずみがついて、したがってうまいサイクルと申しましょうか、そういう
回復の道に、サイクルに乗ってくれればこれが一番望ましいと考えておるのであります。先生御質問は、乗らなかった場合にどうするのかという御質問が最後にあったようでございます。
私
どもも、五十七
年度全体を通しますと、
経済はなかなか大きな
伸びはすまいと思っておるわけでございますから、公共事業を前倒しにすることによって、なるべくいいサイクルになってほしいものだと思っておるのでありますが、しかし、先生がおっしゃるように、それでも大した
回復にならないということはあり得ることだと思います。そのときどうしたらいいかということ、これはなかなかむずかしい問題で、私が申し上げましたのは、現在日本はやはりかなり長期に見て低
成長のサイクルに入っておるのであるから、そこで人為的な購売力というものを造出して、そのサイクルを大きくしようとすることは果してどうであろうかという考え方でございます。
その考えの一番基本になっておりますのは、先ほど
貝塚先生から御指摘もございましたように、すでに
国債の累積がかなりの金額になっておりますので、
国債がそれ以上になりますと、
国債に対する利払いあるいは
償還の
経費の方が、その年々に
国債で
資金の流入を図れる金額を超えてくるという事態がもう目の前に見えておると思うのであります。したがいまして、われわれは
国債の累積残高というものを重く見て、できる限りはわれわれが低
成長にわれわれの体を合わし、われわれの衣服を合わしていくことがいいのではなかろうかと。
いま経団連の稻山
会長ががまんの哲学というふうに言っておられますけれ
ども、どうもしばらくはそういう形で
日本経済を合わしていく、その合わせ方の
一つとして
行政改革というものもやっていただく、そういうふうな態度の方が、われわれは長期の日本の
財政あるいは
経済の運営を考えたときに好ましい態度ではなかろうかというふうに考える次第でございます。
それから、先生の第二の御質問は、グリーンカードの実施についてどういうふうに考えておるかという御質問でございます。
これは、そもそもから申し上げますとかなり長くなるわけでございますが、私
どもの
理解によれば明治二十年に所得税ができました。そして、明治の三十年代から利子の源泉
課税ということは、現在に至るまでほんのわずかな期間を除外例といたしまして大体そういうふうに行われてきておるわけでございます。私
どもはこれには二つの理由があったと思います。第一は、日本が明治から富国強兵の道を歩むために貯蓄率を高くしようという貯蓄奨励ということであったと思います。これは現在レーガンが大変、うらやむと言うと語弊がございますが、自分のところも、アメリカも減税をして貯蓄率が高くならないかしら、そういう回転にならないかしらというふうに政策をしているところからも、当時の日本のいわば開発途上国としての態度としては正しかったというふうに考えておりますが、そういう貯蓄奨励が
一つと、それから、源泉
課税がやはり
課税の技術として一番容易であったということから来ておると思います。
そして、大正九年から先生おっしゃったような
少額貯蓄非課税制度というものがスタートし、
郵便局を含めてスタートいたしたわけでございますが、私
どもはそういう過程を通じて
日本経済の
資金循環に御協力を申し上げてきたつもりであり、貯蓄奨励という見地から源泉
課税ということをお願いをしてまいってきたつもりであります。そして、戦後におきましても利子
課税は税金がかからなかったこともございますし、だんだんそういう中で今度は分離
課税になり、分離
課税の
税率がだんだん上がってきたわけでございます。
その中でも、私
どもは貯蓄奨励という見地からなるべくそれを低くしていただきたいとお願いをしてきたわけでございますが、私は当時
政府の税調に
関係をいたしておりまして、税調が長期の
財政について考えましたときに、どうしても一般消費税というものは避けて通れないという結論に達したわけでございます。
そして、一般消費税という増税をするためには二つの前提が必要である、
一つは
行政改革であり、
一つは不公平税制の是正である、そういうふうに言われました。不公平税制の一番大きな目標になったのが医師優遇税制と利子配当の分離
課税という二つであったと思います。しかしながら、医師優遇税制が是正され、そしてまた利子配当の源泉分離
課税が論ぜられておる中で一般消費税が答申をされ採用されかかったのでありますが、選挙によりまして
国民から否定的判決が下ったように思います。そこで、税調といたしましては、さらに不公平税制の是正というものを進めるにはどうすればいいかということをさらに突き詰めて考えたいということでいろいろ考えますと、結局
国民背番号というものが一番公平を期すためには到達すべきゴールであるという結論になったわけであります。
しかし、恐らく
国民背番号ということを提案いたしますれば、理論的に考えて正しいかもしれないけれ
ども、一般消費税と同じようにまた恐らく
国民からノーと言われるであろう。そうすれば、不公平税制の是正という過程でどういうふうなことをするのが一番いいかということを考えまして、では一歩下がってグリーンカードということではどうであろうか、それで
少額貯蓄非課税制度の本人確認もすることができるし、しかしまた背番号よりは、本人確認はあるけれ
ども、背番号よりは一歩引いているではないかということでこういうふうな制度がいいということに相なったわけであります。
そして、その過程で
銀行界、
金融界といたしましてもそういう
意味の不公平税制の是正ということでは異論は全くない、したがってグリーンカードを採用されることに異論はない。ただ、それを実施される過程においていろんな点をお願いしたい。第一は、それが
国民のプライバシーを侵害するというような不安を与えないでいただきたい、また利子配当
収入だけがねらい撃ちにされて全体の不公平税制の是正は置き去りになるということでは困ります、また
金融資産の中でいろんな不公平が、新たな不公平が生ずると、それに伴って
金融資産が移動して
日本経済に混乱を来すから困ります。そしてまた、まあ手前勝手かもしれませんが、
金融機関に余り
負担のかかるようなグリーンカード制度にしていただいては困ります、こういうふうなことをるる陳情を申し上げて、それがあのとき両院で附帯決議としてその旨を書いていただいたように記憶いたしております。
そういうふうな過程で法律が通り、そういう制度が定まったわけでございますから、昨年の政令の発表を見まして、私
どもとしてはそれに応ずる準備をしてきたわけであります。ただ、そういったグリーンカードの枠の取り合いということはどうも
金融機関の過当競争で
国民あるいは預金者と申し上げましょうか、預金者の
方々に御迷惑をかけることになるから自粛しようということで、現在六月まで
金融機関側では自粛ということにいたしておるわけでございます。
ところが、昨年の十二月ごろからことしの二月ごろにかけての
情勢を拝見いたしますと、どうも
国民が何かプライバシーを侵害されるのではないかというような不安を持っていろいろな
金融資産間の移しかえ、あるいはたんす預金というような
動きが、あるいはそういう不安が始まっておるように拝見をいたすのであります。
一国の法律で決まっておることでございますから、それに対して訂正のお願いをするためには全銀協といたしましても正式な
機関決定をしなければなりません。そういういとまがございませんので、全銀協といたしまして正式の
機関決定をいたしておるわけではございませんが、あのときの
情勢を見て、私
どもはこの制度をこのまま強行されては
国民の不安がますます
増大し、
金融資産間の移動がますます
増大して
日本経済の運行に不測の事態を生じかねないという判断をいたしまして、実施については慎重にというお願いを改めてした次第でございます。
これが、
銀行協会の現在までにとった態度と申しますか、ただいま先生からお尋ねありました感想と申しましょうか、そういうふうな気持ちでございます。