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参考人(
宇田川璋仁君)
宇田川でございます。
私は、
財政学会の末端にいる者として、ことさら
土地税制についてエキスパートというわけではございませんが、当
委員会で特に
土地税制について
意見を述べろというお話でございますので、
土地税制についてしぼって
意見を申し上げたいと思うわけでございます。
まあ
土地その他一般に
資産課税につきましては、
税制上きわめて複雑、またいろんな難問を抱えております。
資産課税、すなわち
土地、家屋あるいは
金融資産、こういうものをそもそも
所得税、
法人税というカテゴリーの中でどのように
課税していくか。それから、この
税制を
政策税制として使うにはどういうふうにすべきか、大変むずかしい問題を持っているわけでございます。
わが国の場合、よく知られておりますように
昭和四十四年からいわゆる
土地税制に踏み切った。その
昭和四十四年
土地税制は
大変トラスチックでありまして、ある
意味で大変有効でありました。御存じのように、一番早く
土地を放せば
税率を安くすると、一年、二年たてばもう少し上げる、もう少したではもっと上げるというのをこの
出発時点においてアナウンスしたわけでありますから、当然
土地保有者は
土地を放出する。そういうアナウンスメントエフェクトというのは大変強く効く。そういう
意味で
土地税制はそれなりに有効であった。
しかし、あのときの
土地税制は、その買う方の
法人サイドにおいていろんな
事情があったと思いますが、私ども残念に思うのは、レギュレーションが少しも行われず、デベロッパーであれスペキュレーションであれ、すべて
法人、買う方については手抜かりであった。そういうことから見て、
土地だけが出て、そして
土地成り金が出て、
法人のまた
投機利益が生ずるということで
国民の
批判を浴びまして、一挙、
政府御
当局が
昭和五十一年から逆転して
土地課税強化という方向に移って、今日に
——その問少しずつ緩和がなされていったわけでありますが、そういうことで今日まで来ている。
その後どうなったかといいますと、私自身全く
実業界その他におりませんし、また私自身不幸にも、あるいは幸いにも
土地その他
資産の売買をしたことはありませんので、その間のフィーリングとしてはよくわからないのでありますけれども、一般的に言われていることは、
土地が出てこない、売らないと、こういうことであります。で、それは昨年の
経済白書、昨年の夏出たわけでありますが、
経済白書にもそのことははっきりと指摘されているわけでございます。
要するに、
敷地面積が狭小化していると。
白書の一部のところを少し読ませていただきますが、どうしてこういう
敷地面積が狭小化したかといいますと、「
土地供給が減少し、地価が上昇するなかで、
敷地が狭小化しても持家を取得したいという
需要者の行動」が一方にある。それから、今度
供給サイドとして、「
民間宅地開発事業者が
小規模開発の場合には
用地取得が容易」だと。つまり、また
小規模開発でなければ
用地取得が容易でない。小規模であれば各種の規制が緩やかになるということから、経営上メリットの大きいいわゆる
ミニ開発、
小規模開発による
宅地の
細分化に向かうという、この両方の、
需要サイドと
供給サイドの両者が相まって生じたんだと、こう言って分析しております。
また、私なんかも新聞その他雑誌、あるいは直接いろいろなところで伺いましても、
短期、
長期というふうに分かれている
土地税制、しかも
短期というのが
昭和四十四年一
時点で押さえて、それ以後は
短期の
土地譲渡所得ということになっている。そういうところで、
土地を
短期で売る場合であっても
譲渡所得の
特別控除として現在、
改正前として
居住用財産については三千万までの
特別控除がある。それから
収用交換等にも三千万円等がある。つまり、こういうような限りにおいて
短期の
土地は出てくる。つまり、
短期というのは
昭和四十四年以降取得したものは出てくる。それから、それ以前に持っていて、いわゆる
長期譲渡所得についても四分の三という
税率が適用されるものはほとんどない。そんなばかばかしいことはしない。それ以前の、もっと二〇%
適用金額であるとかあるいは二分の一
適用金額であるとか、つまり切り売りということで、なかなか
土地供給というものが出てこないということも伺っております。つまり、はっきり言えることは、ある程度
税制が
阻害要因となっているということは否めない。
そこで、これからの課題といたしましては、非常に、デリケートといいますか、微妙といいますか、
阻害要因をいかに排除していくか、かつ
公平税制をいかに維持するかという、いわば非常に狭い道を進まなければならないという
状況にあるだろうと思います。
それでは、まず
阻害要因——まあこれから私の考え、それからその他諸外国の
関連等を見て私
個人の
意見になるわけでありますが、
阻害要因の排除ということは結局どういうことかといいますと、私の思うにはやはり
恒久化以外に手はない。
税制を安定的、恒久的なものにするということが基本的だろうと思うわけです。まあ私自身、
土地税制というのは現代の財政問題の大きな問題でありますから、たとえ専門としておりませんけれども、あちこちで勉強する機会を持って、たとえば業者の
方々に会うことなどもありましたが、そういう
方々が言うのには、
税制はたとえ諸外国に比べ高くてもいい、要するに安定してくれなければ買う方も商売できない、売る方も恐らく商売できないであろう。
土地というものは、これは特にわれわれ
日本人といたしましては、いわば一度握ったらばなかなか手放さないというような、島国に育った
日本国民はそういう一つの傾向を持っている。一世一代の商売をやるわけでありますから、他の年々入ってくるものと違って大変経済計算を厳密にやる。要するに現在の
税制がどうかということと同時に、将来どういう方向にいくのかという、そういうエクスペクテーションがかなり働いている。たとえいまのような大変厳しい
税制をしいていたとしても、これはこんなのが続くわけないということになれば、いずれもっと緩むかもしれないというところで待つというような、そういう一世一代の商売をするわけでありますから、非常にエクスペクテーションというものが効くと。だからそういうものがある限り、たとえ安くしても、もっと安くなると思えば安くなっても
土地を手放さない。高くなったとしても、もっと高くなるだろうと思えば高くなったところで手放すという、きわめて普通のロジックでは、単純なロジックではわからないところがあるだろうと思うんです。
それから、これも昨年出た
経済白書の指摘でありますけれども、要するに、現在の農家についてこのような分析をしております。もう農家は通常、
所得の面から見ると
土地を売却して現金を手にする必要に迫られていない。もういまはお金を欲しいからという
状況にない。それから農家の資金需要がほとんど一巡したこともその後の農家の
土地供給量の減少を招いている。
税制面でも、御存じのようにことしから変えられようとしておりますけれども、いわゆるC農地問題がある。それからA、B農地についても条例によって地方団体で減額
措置が講じられている。そういうようなことで
短期の
税制で
土地を売ったり手放そうという
状況にはない。
したがいまして、そういう
土地保有者の経済
状況等も考えますと、私はやはりロングランの安定的な恒久的な
制度というものが望ましいと思うわけでございます。そういう
意味で、世界に類のないような現在の
税制からいわば
所得税法本則に戻ろうという現在の
政府案というものはそれなりに評価できをものと私自身は思っておるわけでございます。
それから、公平ということも、要するにそういうロングランであるとすれば、
わが国は幸いにも
資産課税について、キャピタルゲインについて
課税所得として見きわめている。それを
所得税法の中で本則ではっきりうたっているわけでありまして、要するに本則に戻るというのが安定、恒久的な方向だろうと思うわけであります。
で、諸外国、私もこの
土地税制関心ありまして、幸いあるところから課題をいただきまして、財政学者だけで数人欧米諸国を、八〇年、いまから一年半ほど前でありますけれども、各国
土地税制を見てまいりました。ヨーロッパそれからアメリカすべて見てまいったわけでありますけれども、ヨーロッパの場合は、御存じのようにいずこの国においても
日本ほどひどくはないといたしましても、大都市に人口が集中する、
土地問題、住宅問題というのはいずれも同じような問題を抱えている。
特にヨーロッパの場合は、よく知られているように政治的にかなり激変がある国であります。英国しかり、フランスしかり、イタリーしかり、そういうところである政党がかなりラジカルなことをやったとしても、先ほどのエクスペクテーションありということで、ほとんどそれが効果がないということがわかりまして、戦後三十年代のヨーロッパの
土地あるいは
資産課税は、要するに先ほど私が言いましたように
恒久化する、安定的なものにするという方向に尽きております。とりわけ英国は、これは私ども財政学者から見ると
税制の本家でありまして、
所得税、
法人税、大変
日本の租税勉強にとって影響するような伝統的な国でありますが、英国はこのキャピタルゲインについて
所得源泉説といいまして、カレントに年々入ってくる
所得には
所得税かけるけれども、
譲渡所得には伝統的にかけていなかったわけであります、フランスも同じような……。
ところが、そういうことでやはりいかぬということで、いわばそういう英国固有のフィロソフィーを捨てまして、いまや
日本、アメリカその他だれでもが納得するように、キャピタルゲインは
課税対象であるというふうな、そういう
課税ベースをきちんと世界共通のものにすると、そういう中で、この中で恒久的な
税制を立てるという方向にあります。英国は終戦後、労働党がある程度長く天下をとって、開発用地税といって開発
利益に対しては将来は一〇〇%税をかける、つまり国有化に持っていこうというようなことでやりましたけれども、結局これも有効でありませんで、いまや現労働党もこの案は完全に捨ててキャピタルゲイン
課税と、英国はわずか
——わずかかどうか知りませんが、三〇%であります。アメリカも御存じのように四割、
譲渡所得に対しては
税金かけるというようなことであります。
時間が参りましたので、この辺で急ぎますが、方向づけとしては、この
資産課税については、この三十年間世界を挙げてトライアル・アンド・エラーを重ねた結果、やはりエラーから抜ける道というものはパーマネントでスタビリティーを持つという
税制でなければ、結局こういう特殊
資産という、
資産というのはほかの商品に比べてある
意味で特殊かもしれませんが、そういう
意味のものを安定的にマーケットの中で需要供給させるためにはそういう
税制でなければならないということを、
わが国もそうでありましょうし、世界がようやく学んでいるのではないかと思うわけでございます。
簡単でございますが、以上で終わらしていただきます。