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安恒良一君 ただいま議題となりました
雇用における男女の
平等取扱いの
促進に関する
法律案につきまして、その提案理由及び内容の概要を御
説明申し上げます。
個人の尊厳と男女の平等は、国連憲章、世界人権宣言にうたわれております人類普遍の原理であります。わが国の憲法におきましても、すべて国民は個人として尊重され、法のもとに平等であって、性別によって政治的、経済的または社会的
関係において差別されることがない旨を規定いたしております。また、一九七九年六月にわが国が批准しました国際人権規約におきましても、A規約及びB規約の双方において、経済的、社会的、文化的、政治的及び市民的権利において男女の平等を保障すべきである旨を規定いたしております。さらにまた、同年十二月に第三十四回国連総会におきまして、婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約を採択いたしました。
しかるに、わが国における法制は、
雇用の分野を含めて実際に男女の平等を確保する上でいまだ不十分であることは否めません。アメリカでは、一九七二年に
雇用機会平等法を、イギリスでは、一九七五年に性差別禁止法を、スウェーデンでは、一九七九年に男女
雇用平等法を制定しました。また、その他欧米諸国を初め多くの国でも、
雇用の分野における女性の地位の平等化を目指して、各種の
法律や
制度を設けて国が積極的に
対応しております。
一九七五年の国際婦人年世界
会議で採択された世界行動
計画及びメキシコ宣言並びに同年のILO総会で採択された行動
計画は、いずれも女子の労働における平等の権利を確認し、かつ、強調しておりますし、さらにILOの行動
計画は、
雇用における男女の機会及び待遇の均等を
促進するため、国の
制度として女子の参加を含む三者構成の機関を設立すべきことを勧告しております。一九八〇年開催の国連婦人の十年中間年世界
会議においては、わが国を含め七十カ国が婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約に署名し、五カ国が署名、批准をしております。そして、この条約は、一九八一年九月に発効し、現在では、批准、加入国は、すでに三十八カ国に及んでおります。わが国も批准を急ぐよう各方面から要望されております。
ところで、わが国における女子
労働者の地位が憲法の趣意に照らしいまだ満足すべき状況になく、国際水準に照らしても改善すべき点が数多くあります。近年わが国の女子
雇用者の数が、ますます増加の一途をたどり全
雇用者の三分の一を占め、日本経済にとって欠くことのできない労働力となりつつあるにもかかわらず、
雇用に関する不平等はむしろ増大しつつあります。こうした実情に効果的に対処し、かつ、また前述のように女子の労働における地位の平等化を目指して活発な
努力を示している国際的動向にも
対応するため、国は当面の優先的政策課題として、
雇用の分野における女子の差別的
取り扱いを禁止するとともに、その差別的
取り扱いからの救済
制度を設けることにより、女子
労働者の地位の平等化の
促進を図る施策を推進していくべきものと
考えます。われわれはここに
雇用における男女の平等
取り扱いの
促進に関する
法律案を提案し、上述の政策課題に
対応すべく、われわれの態度を明らかにすべきであるとの
結論に達しました。
次に、この
法律案の内容について、その概要を御
説明申し上げます。
まず第一に、この
法律案の骨子は、使用者等が女子を差別的に取り扱うことを
法律上禁止する旨を明定することと、女子をそうした差別的
取り扱いから救済するための
制度を設けることの二点であります。なおここで重要でありますことは、この救済
制度は、労働基準法において
予定されておりますような官憲的保護により労働条件の適正化を図っていこうとするのと異なり、
雇用における男女の平等は、女子
労働者及び使用者双方のたゆみない自主的な
努力によって実現されていくべきことを期待しつつ、それを補う支柱として、女子から申し立てがあった場合には、迅速かつ適正な手続により救済をしていこうとするものであることであります。
第二に、差別的
取り扱いの禁止については、まず労働条件等について「使用者は、
労働者が女子であることを理由として、募集若しくは採用又は賃金、昇進、定年、退職その他の労働条件について、男子と差別してはならない。」と規定をし、その他職業紹介、職業訓練等についての差別的
取り扱いをも禁止する旨を定めております。具体的にどういう行為が差別的
取り扱いであるかを判断をしていく上に必要な指針は、別に中央
雇用平等
委員会が定める準則において漸次展開されていくことが
予定されております。
第三に、救済機関であります
雇用平等
委員会は、中央に国家行政組織法第三条の
委員会として中央
雇用平等
委員会を、都道府県に地方
雇用平等
委員会を設置し、それぞれの
雇用平等
委員会は、使用者
委員、
労働者委員及び公益
委員の三者構成とし、各側
委員の二分の一以上は女子でなければならないこととし、さらに中央
雇用平等
委員会の公益
委員の任命につきましては、両議院の同意を得なければならないことといたしております。現行の労働
委員会に類似した組織でありますが、二分の一以上の女子
委員を含まなければならないとしている点が大きな特徴であります。
第四に、差別的
取り扱いからの救済手続は、次のとおりであります。
原則として二審制を採用し、初審は地方
雇用平等
委員会が、再審査は中央
雇用平等
委員会が行うことといたしております。手続は、女子
労働者から管轄地方
雇用平等
委員会に救済の申し立てがあった時に開始をいたします。以後
当事者双方の
意見を聞いた上、相当と認めるときは、被申立人に対し、申立人を差別的
取り扱いから救済するため適当な措置を勧告することができることとし、当該勧告の内容に相当する合意が
当事者間に
成立したときは申し立ては取り下げられたものとみなし、迅速な解決を図ることといたしております。それに至らない場合には、
当事者の立ち会いのもとに審問を行い、証拠調べ、事実の調査を経て、申し立てに理由があると認められるときは、当該地方
雇用平等
委員会はその裁量により原職復帰、バックペイの支払い等女子
労働者を差別的
取り扱いから救済するために必要な措置を決定で命ずべきことにいたしております。この地方
雇用平等
委員会の決定に不服がある
当事者は、さらに中央
雇用平等
委員会へ再審査の申し立てができることといたしており、また前述の勧告は、中央
雇用平等
委員会も行うことができることとしております。なお、初審及び再審査いずれの手続におきましても、使用者
委員、
労働者委員は審問に参与できることにいたしております。また、救済の申し立ての相手方
当事者が職業安定機関であります場合には、決定にかえて勧告をすることにいたしております。
第五に、取り消しの訴えとの
関係についてでありますが、地方
雇用平等
委員会の決定に対しては出訴を認めず、ただ中央
雇用平等
委員会の決定に対してのみ東京高等裁判所へ取り消しの訴えを提起できることといたしました。女子
労働者の差別的
取り扱いからの救済の
制度としては、使用者
委員、
労働者委員双方の参与のもとの審問手続が
予定されている行政
委員会方式が合理的であるとの判断から、こうした
雇用平等
委員会による救済の
制度を設けました以上は、地方
雇用平等
委員会の決定に対し直ちに出訴の道を開くのは妥当でなく、中央
雇用平等
委員会による再審査を経由させるべきである、との趣意に出るものにほかなりません。
このほか、中央
雇用平等
委員会の重要な権限の一つとして、
雇用における男女の平等
取り扱いの
促進に関し講ずべき施策につき
労働大臣に建議ができることにいたしております。また、中央
雇用平等
委員会による
国会への事務
処理状況の報告、地方
雇用平等
委員会による苦情相談に関する事務
処理の
取り扱い、啓発宣伝活動、不利益
取り扱いの禁止等に関し所要の規定を整備いたしております。なお、この
法律の規定は、国及び地方公共団体の公務員であります女子職員につきましても適用があり、その差別的
取り扱いに関しましても、
雇用平等
委員会の決定により原職復帰等の救済が与えられることにいたしております。最後に、救済手続の実効性を確保するため罰則を設けております。
以上が、この
法律案の提案理由及び内容の概要であります。
何とぞ、慎重御審議の上、速やかに御賛同くださいますようお願い申し上げます。