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参考人(
富田信男君) 御紹介にあずかりました
富田です。
私は
比例代表制に向かっての
根本的方向には
賛成なんですけれども、
自民党案と
社会党案を見まして
根本的修正を要するのではないかというのが私の見解です。
私の観点は、どうすれば
少数意見も含めて
選挙で
国民の
意思と利益が反映するか、これがまず第一点。それから第二は、
上院の
機能とは一体何なのか、この両者を考えて
改正案を拝見した次第です。
それで、二、三分時間をいただきまして
外国の例を申しますと、
外国の
上院の例を見ますと、イギリスでは、
上院は
世襲貴族、それから一代限りの
終身貴族、それに若干の
法官貴族、
聖職者、こういった人々によって構成されている。あるいはフランスでは、
国民議会それから
地方議会の
代表によって
選挙人団が構成されて、そしてそこで
上院議員を選んでいる。これは間接
選挙であるわけです。それからノルウェーでは
上院も下院も一度に
議員を
選挙しまして、
議員同士の互選によって
上院と下院を分けている。あるいは西ドイツでは、各州の政府閣僚によって
上院が構成されている。大きな州は五人、中くらいの州は四人、小さな州は三人というように投票権は
制限されておりますが、政府閣僚によって構成されているわけです。それからアイルランドでは、首相指名
議員とそれから大学及び各職域
代表によって
上院が構成されている。アメリカやスイスは御存じのように各州二人ずつ
上院議員が選出されている。ソ連は各共和国とか各自治共和国、各自治州、各民族管区から
代表が出ているわけでして、
上院と下院というのはやはり何か少しニュアンスが違うのじゃないかというふうに私は感ずるわけです。
そうすると、日本で一体どうしたらいいのか。一方で
衆議院で中
選挙区制をとっている。そうしますと、定数の問題もありますけれども、しばしば得票率と議席率というのがアンバランスになる。それを他方において
参議院で
比例代表制にすれば、これは少数
代表法でありまして
少数意見も
参議院には反映される。それから
比例代表制で各
政党が
名簿を作製するならば、
拘束名簿式比例代表制であるならば、非常に
エネルギーとお金とさまざまな苦労を要する、そういう
選挙を経ずして識見ある
議員が選ばれるのではないか。そういう一方で
衆議院を考え、他方で
参議院を考える。それで、現行
制度というものをある
程度前提にするならば、やはり
参議院においては
比例代表制を採用する以外に
参議院の特色を発揮できないのではないか、このように考えるわけです。
しかし、そこで
清水先生もおっしゃったようにさまざまの疑問点が生じてくるわけです。
比例代表制は
憲法に抵触するかという問題がまず第一に起こってくるわけです。しかし、これは
議会制民主主義を前提とする以上
政党の存在は不可避でして、
憲法は
議会制民主主義を予定しており、近代民主主義国家で
政党の存在を抜きにして
政治は考えられない。そうするならば、
上院といえども
政党化は必然の趨勢であるわけです。
参議院議員は全員
政党を離脱するというような規定でも設ければ別ですが、それ以外においては
政党化は必然の趨勢である。それで、
憲法がいま申し述べましたように
議会制民主主義を予定している以上、やはりその
政党が前面に出る
比例代表制は私は
憲法に抵触するとは考えないわけです。
問題は
政党本位にするか、
個人本位にするか。これは両方可能なわけですが、
選挙を
政党本位にしても
憲法違反にはならない。仮に
衆議院で
比例代表制を採用するというとき果たして
憲法違反の声が起こるだろうか。私は起こらないのじゃないかというふうに思うわけです。
衆議院で起こらない以上
参議院でも起こらないのは当然ではないかと考えるわけです。
それで、
政党の定義ですが、ないしは
確認団体の定義ですけれども、
自民党案によりますと五人以上の所属の
国会議員、あるいは
社会党ですと三人。間近な
衆議院総
選挙ないしは
参議院通常
選挙で
自民党案ですと得票率四%以上、それから
社会党案ですと二%以上。第三には
自民党案ですと十人以上の
候補者、
社会党案ですと五人以上の
候補者ということになっている。
これにいささか疑問を持つわけです。私は一人一党を認めるべきであるという考えに立っている。そうすれば
憲法第十四条第一項の法のもとの平等の保障にも反しないし、第四十四条
議員資格の
差別禁止にも抵触しないのではないかというふうに考える。確かに五人や十人、
参議院に
立候補しようとする人がそういった
人数を集めることは可能だと思います。したがって、そういう
意味では実質的には一人一党でも五人でも十人でも大して変わりはないのですが、一人はいけなくてそれじゃ何人ならいいのか。二人ならもう
確認団体なのか、五人ならいいのか、十人ならいいのか、一体その
論理的な基準はどこにあるのか、ちょっと私にはわかりかねる。
本来
比例代表制というのは定数全部のリストをつくるべきじゃないかと思うのです。五十人が定数なら、
自民党も五十人、
社会党も五十人、五十人に間に合わないところは
政党連合をつくってそして五十人のリストをつくる。これが普通
比例代表制の私は本来のあり方じゃないかと思うのです。それで、やはり
参議院に議席を持ちたいというような考えを持つ人でしたら五十人ぐらい同志を集めることは可能じゃないか。これは一人一党を主張するのとちょっと
論理的に矛盾するようですが、
論理的には一人一党でも構わない、しかしリストは本来なら五十人並べるのが至当じゃないかというのが私の考え。そうすれば、現在の一人一党を認めるならば小会派やあるいは
無所属の方も
立候補の自由を奪われることはない。
ただ、そういった場合、やはり
自民党案、
社会党案、両方を通じまして
供託金にいささか疑問がある。
選挙に当たって非常に多くの国費が使われることはこれは事実であるわけです。それで、そうしたとき売名候補なりあるいは
選挙を営業に利用しようとするような人が出てくる。それでやたらに貴重な税金を使われてはとてもたまらぬ。それで、現行が二百万円で、
自民党案ですと四百万、
社会党案ですと三百万ということですが、
自民党案ですと十人必要なわけですから四千万の
供託金が必要である。
社会党案ですと五人ですから千五百万円の
供託金が必要になる。こういった
比例代表制を一方でとっていて
政党本位の
選挙をやる。それで、他方で立
候補者一人につき幾らというのは
論理的にやや矛盾しないかというふうに感ずるわけです。
政党ないし
政治団体として
供託金を出すようにしたらどうか。
それで、やや古い事例ですが、十年ほど前、第三十三回総
選挙が行われて、このときに公営に要した費用というのを茨城大学の中野実助教授が計算しておりますが、そのとき公費として一人当たり約二百八十万円使われているというように中野先生は示しているわけです。そうしますと、まあこれ十年たって物価も違っている。仮に一人当たり四百万円使われるとするならば、
社会党案の五人ですと二千万円、
自民党の十人案ですと四千万円。だから、したがってやっぱり下限二千万円、上限四千万円ぐらい
程度を
政党ないし
政治団体として
供託金としたらどうかというふうに考えるわけです。
社会党案を読みますと、はがき一人十万枚が無料で出せるというふうに書いてある。それで二十五人が
限度である。このはがきだけでやっぱり一億円かかるわけですね、郵送料だけで。そういうことを考えれば、やはり
政治団体として二千万なり三千万なり
供託金を出す。そして得票率二%未満の
政党——二%といえば比例案分にすれば一人は
議員を出せるわけです。得票率二%未満の
政党に対しては
供託金を没収したらどうか、そういうのが私の考え方です。これは
自民党案、
社会党案に即して議論を進めるにはややとっぴなことを言っているかもしれませんけれども、しかしやはり
論理的に納得できないとなかなか
賛成できないということになるわけでして、したがって
政党本位の
選挙をやるんだから
供託金も
政党本位にしたらどうか、そして二%未満没収にしたら売名候補などはある
程度チェックできるのではないか、そのように考えるわけです。
それから、
国民の
選挙権の問題ですが、
候補者を記載したリストに投票する以上私は
違憲にはならないと思います。しかし、
拘束名簿式比例代表制ですとどうしても人の要素がかなり排除される。人の要素をどう入れるか。スイスでは
候補者リストの一部分を削除したり、あるいは他党の候補と入れかえをしたり、同一候補にダブル投票をするというようなことを認めているわけです。そうしますと、きわめて計算がめんどうではありますけれども、先ほど申しましたように、どの党も五十人の
候補者を記載して、そうしてそこで修正可能のようにすれば、これはやはり人の要素というものも
比例代表制のもとでも入ってくるのではないか。ただし、これは参考
意見であるわけです。
そうして、議席配分についてはドント式、修正サン・フグ式が提案されておりますけれども、これは比例配分、たとえば最も単純に二%につき一人。それで、どうしても端数がありますから足りない分が出てくる。不足分は得票率を二%で除した残りの多い方から充当していくというようにすれば、めんどうなドント式はこうだとか修正サン・フグ式はこうだというようなことを
国民に理解していただくには大変困難な要素がありますので、もっと単純に、なるべく単純にやった方がいいのじゃないかというふうに考えます。
それから、
上条先生も
清水先生もおっしゃったように、特に
清水先生おっしゃったように、
選挙運動は原則として可能な限り自由化し得るように、なるべく自由化の方向に持っていっていただきたいというのが私の希望であるわけです。
私は十五年前に
参議院全体の
比例代表制を提案したことがあります。それは、第一には
少数意見も一方の院では
代表し得るように。第二には、
参議院を一種の世論調査
機能と申しますか、
国民はどの党をどの
程度支持しているかということを
参議院で明らかにして、そしてそれで
衆議院の多数の横暴なりなんなりをチェックする
機能を果たさせる。第三には、
全国区候補というのは
国民一般の親近性がやはり乏しい。われわれ約百人の候補を比較することは不可能であるわけです。勢い組織候補や知名度の高い候補に有利になる。一人で
全国を二十三日で回るのは不可能を強いるものであるわけでして、むしろそれよりも
政党選択の方が
国民の
意思に沿うのではないかと、そういう
理由で十五年前に
参議院全体の
比例代表制を提案したわけです。
お金がかかるとかあるいは望ましくない
議員も出てくるというような問題は、実はこれは
候補者個人並びに
政党の見識の問題でして、私は直接
制度の問題であるとは思わないわけです。そして、最初に申し述べましたように、
少数意見も含めてどうすれば
選挙が
国民の
意思と利益に沿って
機能し得るかという
見地で
改正に取り組んでいただければと思います。
どうもありがとうございました。