○栗林卓司君 なぜ二院制がいいと思うかという理由は後で伺いますけれ
ども、以上のGHQの話に対して、担当した松本
国務大臣が昭和二十九年、自由党の憲法調査会の総会でいろいろ口述をしております。
そこで言われているのは、
日本には米国のように州というものがない。従って上院を認める必要はない。一院の方がかえって簡単だ。シンプルということばを使っておりましたが、そういう答えをされた。これは全然議会
制度を知らない人の答えである。どうも一院制が仮りにいいとしても、二院制の存在理由が州があるからとか何とかいうことでは、これは議会のことを知っている人ではない。知っている人なら、そんな馬鹿げたことをいうものではないと思ったのです。
そこで、二院制を主張する理由として言われたのは、これは国会で二院制の必要な理由などについての
説明の中から抜き読みをしますけれ
ども、
其ノ二院制ハ現行憲法ノソレト比シ全ク面目ヲ一新セルモノニシテ一方ニ於テハ
参議院ノ組織カ地域別及職能別ニ
全国民中ノ有識ナル代表者ヲ集ムルコトニ依リ最モ健全ナル民意ヲ反映セシメントスルモノナル点ニ於テ全ク従来ノ貴族院ト趣ヲ異ニセルモノナリ
第二点としては、
衆議院ニ比シ第二次的地位ヲ有スルニ過キサルモノニシテ両院ノ意思異ルトキハ
参議院ハ常ニ終局ニ於テ
衆議院ニ譲歩スルニ至ルヘキ様規定セラレアルモノナリ之ニ依リテ
参議院が
衆議院ニ対シ反省ヲ促スル機能ヲ発揮セシムルニ止メ二院ノ意思一致セサル結果国政運行二障碍ヲ来スカ如キ弊ナカラシメンコトヲ期シタルモノナリこういったかっこうで
参議院が提起されたわけです。
問題は、この
参議院の
選挙制度としてどうしようかという議論が実はそれから引き続いて起こったことは御承知のとおりです。なぜそうなったかと言いますと、本来は衆参二院設けるのだったら
選挙制度も変えなければ設けた
意味は全くないではないか、これは当時の日本の国会の大方の意見でありました。ところが総司令部の意向というのは、その
選挙制度は全く同一でなければいかぬ、直接、無記名、秘密
選挙でなければいかぬ、全く同じ
選挙制度をこれは頑として譲らなかったのであります。その結果、二院は要求したものの、では一体
選挙制度をどうするか、この悩みが実はいまに至ってまで続いていると私は思うのです。
そこで、御承知のことだとは思いますけれ
ども、憲法草案ができまして、
特別委員会が
衆議院で設けられました。そのときに有名な附帯決議があります。第三項。
参議院は
衆議院と均しく
国民を代表する
選挙せられたる
議員を以て組織す、との原則はこれ認むるも、これがために
衆議院と重複するごとき機関となり終ることはその存在の意義を没却するものである。
政府はすべからくこの点に留意し、
参議院の構成については、努めて社会各部門、各職域の知識経験ある者がその
議員となるに容易なるよう考慮すべきである。これが
参議院の
選挙制度を
考える場合のいわば一貫した
考え方であった。それから長
期間にわたっていろいろな模索が続けられるわけです。
中にはこういう案もあります。これはもういよいよ煮詰まってきて、そのたびに総司令部と交渉しながら、この案はだめだこの案はいいということを言いながらほぼ煮詰まってきた案というのは、昭和二十一年、「
参議院の構成に関する試案」、これは
地方区と
全国区に分かれております。
全国区はどうかというと甲案と乙案とありました。乙案は何かというと、
農業者商工業者等の組織する経済団体、その他法曹、教育、文芸、科学等の各職域における諸団体をして
候補者を推薦させる。右の外、自由なる立
候補(又は一
定数の
選挙権者の推薦連署による立
候補を認める)。これが乙案です。
このときには司令部が何と言ったかといいますと、
これらのうち乙案が適当である。但し、職能代表の色彩を除去するとともに、
政党からも
候補者の推薦ができることを明らかにする必要がある。
全国区をやめて、都道府県の一本とし、全部について乙案のラインで立案することはよろしい。
ここまでたどりつきました。この後も紆余曲折をしながら現状の
地方区百五十二名、
全国区百名という
参議院制度に落ち着いてきたわけです。
最終的に案をまとめて第二部会長が報告をした要旨を最後に読みますと、
憲法草案が
衆議院と
参議院との構成について共
通のわくを定めているため、部会では非常に苦
心した。さきに中間報告をした試案はその苦心
の結果であったが、両院で
候補者を推薦するこういう案も途中であったのです。
推薦することはフリー・エレクションの要件を
欠くきらいがあり、再考の結果、それに修正を
加えて今回の要綱案を得た。
選挙区を二本建とした
趣旨は、
参議院の任務に鑑み、あまねく各界の人材を網羅することをねらったものであるが、これに対し危惧される点として、(イ)二本建ということ自体がこれは
地方区、
全国区です。
自体が不徹底な
考え方であるのみならず、この
併用によって
選挙の実行上混乱を生ずるおそれ
があること、(ロ)
全国一区はわが国の実情とし
て、
選挙技術上、困難を伴うこと、(ハ)
全国区か
らは
全国的連絡網をもつた特殊の階層だけが選
出される傾きがあること・などがあった。
これらはいずれも理由ある懸念ではあったが、都道府県の
地方区一本とすることは、結局
衆議院と同じ構成となり、二院
制度の意義を失うおそれがある。かくして、
選挙技術上の困難はあるが、絶対に克服できないものともいえないし、また、過渡期においては
制度の意図するところと異なる種類の人士が選出されるかもしれないが、「かかるる試練にたえてこれを克服してこそはじめて堅実な
民主主義の
政治が確立せられるものと
考えますれば、是も亦建設課程におけるやむを得ざる試練であると
考えられた」云々ということで、紆余曲折をしながら今日の
全国区、
地方区、特に
全国区を中心にしながらこれが二院制を置くいわばあかしのような形で決まってきた、制定過程では。
いまの「是も亦建設課程におけるやむを得ざる試練である」、確かにいま
全国区
制度についてはいろいろ
批判があることは十分承知しております。わが党も改善案を提出しております、まだ国会に出しておらないけれ
ども。したがって問題があることは私はわかる。ただその改善案というのは、これまでの経緯を踏まえながら、しかも片方に
衆議院がある、本来は一院だけでいいのかもしらぬ、それをあえて第二院、
参議院をつくる以上は
参議院にふさわしい
選挙制度でなければいかぬ。これについて当時の先輩たちが苦労しながら職能的な組織を有する人たちが選びやすい
制度としていわば
全国区を選択をしてきた。となりますと、いま
全国区をめぐってとかくの議論はありますけれ
ども、憲法制定後三十五年、一体どういう
立場でわれわれはこの
全国区
制度を議論したらいいのだろうか。
そこで、前の
法務大臣であった奥野さんが
選挙制度審議会で言われたお話を御披露申し上げたい。奥野さんはこう言っているのです。
私も個人的な
考え方を申し上げさせていただき
たいと思います。やはり憲法が二院制を規定し
ている。あまり現状がこうなっているからもう
しかたがないじゃないかという短気を起こさな
いで、まだ独立二十年しかたっていないんです
から、理想を追うて
選挙制度をどう
改革すべき
かという議論をしたほうがいいんじゃないだろ
うかなという気持ちを
基本的に持っている者で
ございます。
したがって、ここで短兵急に
比例代表制というやみから棒みたいな
制度を出すのではなくて、まだできて三十五年しかたっていない。この弊害を正しながら、本来ねらわれている
全国区
制度の目的を達成するためにはどうしたらいいだろうかという角度で知恵をしぼるのが私は本筋ではないかと思うのですが、発議者の意見を伺います。