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参考人(
沖野外輝夫君)
信州大学の
沖野です。
湖の
汚染といいますと非常に広い範囲でありますし、重金属とか、それからほかのいろいろな
植物に至るまで入りますが、きょうは
富栄養化ということにしぼって
意見を述べさせていただきます。
先ほど
金沢先生がおっしゃいましたように、湖というものは半
閉鎖型といいますか、やや閉じた形のていをなしておりますので、それが
原因になって
富栄養化が起こってまいります。ですから、
人工的に起こる
富栄養化以外にも自然でも
富栄養化現象というものがあるわけですけれども、現在問題になっております
富栄養化現象というのは、いわゆる人為的にいろいろのものが流れ込むことによって起こる
現象ということで理解されるかと思います。
諏訪湖は、
霞ヶ浦もそうですが、
わが国の中で最も
富栄養化した湖の代表的な例でありまして、私がたまたま住んでおりますので、
諏訪湖についてモデルとしてお話をしていきたいというふうに考えます。
諏訪湖が現在どの程度
富栄養化しているかということを端的に示しますものに、いま
資源衛星が飛んでおりますが、そこからリモートセンシングで写真を撮りまして
諏訪湖を映像解析してみますと、映像解析した結果は
陸上の
草原よりも
草原らしく写るということのようです。これは
夏場に限っての例ですが、それは内容はどういうことかと言いますと、
地元の方でアオコと言っておりますが、非常に大量の
プランクトンが湖に発生しまして、それが表面に浮くために
草原と同じような色調で写るということであるかと思います。ですから、湖というよりも
草原に近いというような
状況が空から見られるという、それほどに
富栄養化が進行しているということです。
これを湖に出てはかってみるとどうなりますかと言いますと、湖の
栄養度を調べますのに
透明度というのがございますが、三十センチぐらいの白い
円板を湖に沈めましてそれが見えなくなるまでの深さを
透明度ということで、要するに
透明度が低いほど湖の
栄養度が高いということ。
諏訪湖で
夏場に極端なときにそれを沈めてみますと、沈めたと同時に緑色になってしまいまして、
透明度ゼロセンチメートル、ひどいときには上に盛り上がっていますので
マイナスだと言う人もいますが、それほどの
状態に湖が
富栄養化をしているのが
現状です。
そういうように
プランクトンがふえる
原因というのは一体何かということですが、これは
植物性の
プランクトンでして、
陸上の
野菜や何かを育てるときに
栄養を与えまして、燐とか
窒素を与えて
野菜を育てますが、それと同じように水の中に
窒素とか燐という
栄養物がふえるためにそういう
植物プランクトンが非常にたくさん生えてくるということになります。
本来の湖にはそういう
窒素や燐という
物質が少なかったために、余り
プランクトンがふえなかったから水が透明であったということですが、そこへ非常に大量の
栄養を与えたことによって
植物がふえてしまった。その結果として、いま言ったように、
陸上の
草原のような形に湖がなったということになります。ですから、
原因はもう明らかでありまして、
周辺から入ってくる
窒素、燐というものが主因になっております。
先ほど
金沢先生もおっしゃいましたように、そういうものがどういうところから入ってくるか、当然湖に入ってくる水が集まってくる地域の中にそういうものが加えられて
河川を通して湖に入ってくるということですから、私どもの
言葉で、先ほど
金沢先生は
流域とおっしゃいましたが、湖の場合に集水域と申しますけれども、要するに集水域で
人間がいろいろな活動をすることによって湖の方に結果としてそういうものがあらわれてきたということになります。
では、一体どのぐらいの量のものが
諏訪湖のような場合には湖に入っているかということを計算してみますと、
窒素にしますと一日当たりにしまして毎日毎日三千キログラムぐらいの
窒素が入る勘定になります。それから燐にしますと二百から二百五十キログラムのものが毎日毎日入ってくる。そういうふうな形で連続的に
河川を通してそういう
栄養を湖に供給している結果として、湖の
富栄養化が極端に進行しているということになるわけです。これは
諏訪湖だけではなくて、
原因は
琵琶湖でも
霞ヶ浦でも同じことでして、世界各国共通の問題となっております。
そういうような
窒素や燐が
人間活動の結果として出てくるわけですが、それぞれにやはり発生源は主なものは違います。たとえば
窒素で言いますと、一体
窒素の大部分のものはどういうところから出てくるかと言いますと、半分に近い量、三〇%ぐらいのものは耕地を経由して出てくるという結果が出ております。それから燐の方で見ますと、燐の方は日常
生活にかかわるような家庭から出てくる雑排水であるとか、それから屎尿処理の結果から出てくる排水であるとか、そういうものから加えられて、これが半分ぐらいになるだろうということが計算上出てまいりますので、
対策を立てる場合に
窒素の場合にはどういう
対策、燐の場合にはどういう
対策と、それぞれにきめ細かい
対策を立てないと湖の
富栄養化を防止することはできないということになります。
現在
諏訪湖では幸い下水道
計画が進行中でありまして、一九七九年十月からそれが一部稼働開始になりました。では下水道ができた場合に湖がどの程度一体回復するだろうか。これは文部省の科学
研究費の方でいろいろとデータを集めてシミュレーションを行ってみた結果でいいますと、その
前提条件としていまの下水道
計画が一〇〇%完成すると、
窒素にすると五〇%ぐらい、それから燐にすると七五%ぐらいのものが処理場の方へ収容可能という計算になります。
これをもとにしましてシミュレーションを行うわけですが、実際の仮定としましては、現在の処理場でそういうような
窒素、燐が除去できるという仮定において湖に対する
影響を見てまいります。そうしますと、一体いまの湖の
状況がどのくらいになるか。先ほどゼロセンチメートルという非常に極端なことを言いましたけれども、
夏場でいきますと、大体三十センチぐらいが平均的な値です。この
透明度がどの程度回復するか、アオコの量がどの程度少なくなるだろうかということを、負荷量を、集水域から入ってくる
窒素や燐の量を変えてみましてシミュレーションをした結果ですと、下水道が一〇〇%完成した場合に、現在のアオコの発生量の最もひどいときの半分ぐらいになるだろう、
透明度でしますと、せいぜい四十センチぐらいよくなるだろう、ですから現在三十センチですから七十センチぐらいの
透明度に
夏場なるだろうというのが結果として出てまいります。
これはあくまでも処理場で一〇〇%そういうような
窒素、燐が除去できたという仮定でありますので、そういうことがされない限りは湖の
状態は余り変わらないということになります。そういうわけで、処理場での現在の処理
方法にやはり
窒素、燐を除去する
方法を加えることが必要であるという形になります。
現在、それでは
諏訪湖の場合はどういうことになっているかということですが、
諏訪湖の場合には一九七九年十月に稼働開始になりまして、昨年いっぱいで大体日量一万五千トンぐらいのものが処理場の方へ汚水が流入しております。さらに、その汚水の中にいままでの負荷源の最も大きいところでした屎尿処理場、まあ衛生センターと言っておりますが、その排水が下水道に取り込まれることに変更になりまして、結果として衛生センターからの排水は一〇〇%下水道へ入りました。そして
窒素、燐がどのくらい減った勘定になるかといいますと、ほぼ三〇%前後ぐらいのものが以前よりも減った勘定になる。結果としては、昨年は比較的
地元の人
たちも少しよくなったのではないかというふうな印象を受けております。
琵琶湖に比べますと非常に汚い、まだまだ汚れているわけですが、
諏訪湖にしてみますと、私どもで生産量という
言葉を使いますが、それで
夏場でほぼ二〇%ぐらいの減少が見られています。
そういうような
現象が出てきたのはどういうことかといいますと、先ほど
窒素、燐を除去しなければと申しましたが、現在の処理場では
窒素、燐の除去をしておりません。これがどうしてそういうふうに効いてきたかといいますと、現在はその処理場からの排水を、
諏訪湖の場合には天竜川が唯一の流出
河川ですが、その直上に排水しております。ですから
諏訪湖の方にはもどらないような形でもって処理場の排水が排水されているために、高度処理をして
窒素、燐を一〇〇%除去したと同じような効果が出てきておるわけです。これは事のよしあしは別でして、下の方の住民はどうなるのかという話が出てまいりますが、
諏訪湖にとって見ますとそういう形で、三〇%ぐらいの除去率でもある程度の回復が見られてきているということがあります。ただ、先ほども言いましたように、
窒素五〇%、燐七五%ぐらい処理したとしても、現在のアオコの発生量が半分にしかならないわけですから、そうしますと、
地元の人が要求しているような
湖沼の回復にはほど遠いということになります。
そうすると、もう
一つは、やはり発生源でもってより効果のあるような除去
対策をもう
一つ加えていかなければいけない、下水道
対策だけでは湖がなかなか回復しないのだということが言えるかと思います。その
一つとしては、各家庭の排水から出る燐を少なくしていくとか、それぞれのほかのところの農地から出るものを少なくしていくとか、そういう形で個々の発生源での
対策がこれから必要になってくるだろうというふうに考えております。そういう
意味で、湖の浄化ということを考える場合には、先ほど
金沢先生がおっしゃいましたように、集水域、
流域でのいろいろな
物質の
管理をこれから厳しくしていかないと、一ところのものは減っても片一方の方ではふえてしまって、もとのもくあみになりかねないということが言えるかと思います。
それから、
富栄養化を離れまして、もう
一つ湖で大事なことは、先ほど
鈴木先生もちょっとお触れになりましたけれども、やはり水辺
環境の
保全ということが必要かと思います。これはいままでの
水質汚染の経過を見ていますと、いわゆる臭い物にはふたをしろという式でもって、いろいろな汚れた
河川にふたをしていきました。それをすることによってだんだんとそこに住んでいる人
たちが水から離れていってしまう。水から離れることによって水の大事さというものが忘れられていった結果として、いろいろな水が汚れてしまったということにつながっているかと思います。それを回復するためには、いろいろな人が水辺に行って、水にじかに親しむことができるような
環境をつくることによって
改善していくということがこれから質的には必要になるかと思います。
それからもう
一つは、湖の中の生き物の立場から言いますと、水辺のそういうような
水草であるとか、先ほどの
ヨシであるとか、それから水の中に沈んでいる草であるとか、そういうものは水の中にすんでいる魚の小さい時期の隠れ家になったり、それから産卵の
場所になったりということで、湖の生態系を維持していくために
一つの質的な役割りを持っているはずのわけです。ただ
人間から見ますと余り役に立たない、お金にならないということで無視されがちですけれども、湖全体の
保全ということを考える際には、いわゆる水辺の質的な役割りというものにもう少し注目して、かつ
人間がこれから水に親しむことができて、水を回復していくための手段としてでも水辺の
保全というものを強力に推し進めていくことが必要であるかというふうに考えます。
以上です。