○国務大臣(
渡辺美智雄君) 確かにそのとおりなんです。しかし、補助金といってもそれはもうほとんど社会保障費、あるいは文教費というようなものの補助金、あるいは公共事業の補助金でも、補助率というようなものは、みんな法律で一本一本、何十本という法律によって決められておるわけでございます。
大蔵大臣言うべくして法律を無視してカットするというわけにはいかない。これは法律を
国会に出して
国会で許可をしてもらわなきゃならん。去年は御承知のとおり地方のかさ上げ補助金、
一般の補助金の上にさらにおまけの補助金があったんだが、そのおまけの補助金のおまけを四分の一数年間切るというだけで、あれ二カ月間かかってあの騒ぎですから、まして今度はおまけでないところの補助金ですね、元来の。その補助金を切るということは、ある意味において、これはもう月給もらっている人だったら月給の値下げぐらいに匹敵するような厳しい話なんです。受けておる人にとってはやっぱりそれは補助金ですから、それを切るわけですから。
ともかくこの際は、私は補助金を切るということに当たっては、これはほとんどがまた人件費に類するようなものが多いわけです。たとえば文教予算というのはざっと五兆円弱ございますが、そのうちの六割ぐらいのものは実は人件費。小・中学校の
先生の二分の一負担
——交付金ですか、補助金、交付金の中へ入ってくるわけです。あるいは医療費の問題にしても、医療費というものの
中身と言えば、薬代もあるでしょうが、医者の人件費。あるいは改良普及員にしても、あるいはその他のいろんな農業団体の補助金というものも大体人件費なんです、
中身は。したがって、この人件費の抑制というものがまずできなければ、補助金カットどころの騒ぎではないということに私はなるんじゃないか。したがって、極力人件費については、幸い物価も二%というように安定した時代でございますので、これを切り下げるということは言うべくしてこれもできない相談でございます。したがって、全体の枠を抑えて人数を減らすということも
一つの方法でございますが、これが一挙にアメリカのようにレイオフみたいなことをやれる、首切りができるという筋のものでもございませんし、膨大な退職金を伴うというような問題でもございますから、なかなかこれは時間のかかる話、したがって極力人件費の膨張をまず抑え、補助金のカットを行い、あるいはその他の膨張するものを抑え込んでいくということがまず最優先されなければならんと私は実は思っておるわけです。それと同時に、もう極力なくてもいい、なくてもやっていけるというものは受益者負担にしていただく。もう何でも国に依存するということになれば、国はその金は何かで調達をしなきやならんわけですから、そうでなくて、極力それぞれ受益者が
自分でできるものは自主独立によって
自分でできるだけやってもらうようにこれから直していかなければならない、そういうふうに考えております。
しかしながら、非常に困っている方とか、非常に国が見なければならないというような部門があるわけでございますから、そういう部門にはやはりそれなりのことを私はしていかなけりゃならんと思うわけでございます。ややもすれば、いままでは何か国に要求して、国からもらわなければ損するみたいな気持ちが国民の中にもありまして、団体とか、陳情団とか、ともかく国から分捕り合戦、結局国からとったようなつもりでいるけれ
ども、
自分たちが結局払うわけであって、それが国に財源がないということになれば、それは借金で残って、しかも利息がついて、
税金の先取りということと
実態は同じということでございますので、そういうような、国民全体にやっぱり認識をしていただかなければ、これは民主政治ですから、なかなか前には進みません。十数年来やってきたことなので、一挙に変えるということも困難でございましょうけれ
ども、これはもう待てないというところまで来たので、本当にこれは命がけでやらなければならない問題だということで取り組んでおるわけであります。まずそういうことをやって、さらにどうしても国の安全保障、あるいは国の非常に政治の根本という点でどうしてもこれだけはみんながお金を出し合ってもやらなければならないんだと、しかも足らないということになれば、それは何らかの御負担をいただくのは私は当然のことではないか。私は外国の会議なんかへ行って、実は日本の国情について説明をいたします。そうすると日本いいじゃないかと、失業率はうんといいし、物価は安定しているし、国際収支は黒字なんだし、どこが悪いんですかと。財政がこうこうだと。日本ではしかし軍備費は使ってないんだし、戦争はしてないんだし、地震があったわけじゃないし、何に金使ったんですかと一遍にそれ言われてしまうわけです。結局は日本の国民所得に対する社会保障負担率及び租税負担率というものは、三二、三%と非常に低位、スウェーデンの六〇%とか、ヨーロッパの大体五〇%前後ということから見ると非常に低いじゃないか、そんな低い負担で大きな支出をすれば赤字になるのはあたりまえじゃないですか。だれも同情してくれません、これ実際は。ですから、われわれは別に同情してもらう必要はないんだけれ
ども、やはりそういう点で歳出カットというものから、財政健全化というものを進めていかないというと、あんまりここで迎合主義でやると、結局はもう最後はインフレという形で国民に降りかかってくるという危険性が十分にあるわけですから、このことが一番私はこわい。だから、そういうことになれば、どっちがそれじゃ公平かということになれば、厳しくとも、やはりこの際はいま言ったようなものを中心に切り開いていくということが大事じゃないか。したがって、高度経済成長時代にこれも免税だ、あれも免税だというようなものがあったら、そういうものは私はがらっと取り払ったらどうなんだ、この際は。そういうようなことで、やはり一遍原点に返ってやるぐらいの決意がないと、この難局は乗り切れないだろうと、そう思います。