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戸叶武君
櫻内外務大臣は慎重な人ですから、第一次
世界大戦後のベルサイユ講和条約以後の国際法の理念の変化を私は百も御承知だと思います。あの当時から、すでに連合国とイタリアの間に一九一五年にロンドン協定なる秘密協定が行われ、イタリアに北亜といまの
ユーゴスラビアの
地域の一部を割譲してやるというような参戦誘導の秘密協定が存在したのに対してウッドロー・ウィルソンもそれを認めて、この戦時中の軍事謀略協定というものはわれわれは認めるわけにはいかない。しかも、他国の主権を無視して他国の領土を分割するというようなことは次の戦争の原因をつくることであり、今後における平和条約というものは、次の戦争をなくさせる
条件を具備して平和条約は締結すべきであるという理念によってそれを貫き、それが国際法の新しい理念になっていることは
アメリカ、イギリス、
ソ連といえ
どもレーニンの割譲主義のあの講和のやり方を見てもわかっているはずであります。
それを逆戻りさせるようなこと、アトランチックチャーターでは、
アメリカもイギリスも毅然として、勝った国が敗れた国から領土を取るようなことはしないと
世界に向かって誓っておきながら、その舌の根も乾かないうちに、
アメリカの
ヨーロッパ及びアジアにおける軍部の首脳の報告によって、ドイツが敗れた後、
日本を降参させるのにはあと二年間はかかる、百万人の壮丁を犠牲に供しなければならないとすると、
アメリカにおいては反戦の空気が濃厚に出てきて、そうして婦人たち、母親、恋人たちのための女性の平和
運動というものを抑えることはできない。ウッドロー・ウィルソンですらも、あえてなんじらの子弟を砲門の前に立たしめたるものは何かという共和党のあのスローガンによってこっぱみじんに敗られてしまった。
アメリカ理想主義の限界はそこにあるという形で、背に腹はかえられない、選挙に勝たなければならないというような形で取り急いでやったのが私はあのヤルタ謀略協定だと思います。
そんな不可解な協定を前提に置いて、今後において健全な平和条約が達成されると思ったら、
アメリカも
ソ連も大間違いです。いまわかっているはずです。武力を持っているけれ
ども、
世界自身がその恫喝に耐えながらも、
軍縮の声、核兵器絶滅の声は
世界から上がっているじゃないですか。
アメリカからだって上がっているじゃないですか。いままで広島、長崎の問題は触れないでくれと言われた
日本の腰抜け
外交官の中からも、
外交官でなくても、この間通産省の
局長の人が大胆に問題を述べておりますが、ヤルタ協定はいまをおいて解消しなければ、
米ソ両国とも引っ込みのつかない窮地に、孤立化に陥る危険性があるので、いまのうちに、
アメリカと
ソ連に好意を示すために、つまらぬことはやめた方がいいですと言い得る絶好のチャンスを
日本に与えられたので、
日本は再び戦争をやらないというあの
国連憲章に従って、
国連を母体として生まれた
日本国憲法も、
日本の国もモデル的な国家です。マッカーサーに与えられた憲法じゃないんです。
世界の、もう再び戦争はやるまいという誓いの中から生まれた憲法です。われわれが、
ソ連の一部や
アメリカの一部や
日本の一部にもあるような、憲法を
改正しあるいは
国連をヤルタ体制の中に埋没させていいというふうな考えを持ったら、
日本は
世界のどこから信用を受けるでしょうか。この武器のない、自衛権はあるが
国連のモデルとして生まれた
日本が、全
世界の悲願を受けて立ち上がって、
日本の平和だけを求めるのじゃなくて、
ポーランドといえ
ども東西南北いかなる国のためにも、
日本が広島や長崎で受けたような非人道的な悲劇を受けさせたくない。
日本の安全だけじゃない。
アメリカや
ソ連のためにもこれはやめるべきだという気魄がなけりゃ、総理
大臣が私にも恐らく天皇にも報告していったかと思われますが、天皇は、「ああそう」と軽く受けられて政治には関与しなかったに相違ないですけれ
ども、しかし、
日本の
外交が本当に
世界において光彩を放つべき絶好のチャンスに、光を春がすみの中に隠してしまっているようなことでは、光は東方よりといっても東方からの光をだれも期待することができなくなるじゃありませんか。
櫻内さん、そういう
意味においては、あなたの存在はいま貴重な存在です。あなたは
世界じゅうの民族の悲劇を全部見て歩いています。私はそれを知っております。そういう
意味において、人々の心をくみ取ることのできない政治は、造花の花と同じくにおいを放つこともできません。どうぞ「敷島の大和心を人間はば 朝日に匂ふ山桜花」と本居宣長が歌ったように、桜も若葉も一緒に太陽の光に向かって開いていくような、あのみごとな風情を
外交の中に生かすのは、やはり私はいまの総理
大臣といまの
外務大臣というのは相当の苦労人で絶好のチャンスを迎えて、その絶好のチャンスに人類のために死をいとわない武器なき戦いのときに、政治家が万民にかわって命を捨ててかからなければ
世界の新しい秩序なんかは生まれてこない。そういうつもりであなたに期待するところ大なるものがあると思いますし、私少し先走って物を言ったかもしれませんが、どうぞ
国際会議が頻繁に開かれている中においても、われわれに
国会で誓った、
アメリカでもはっきりと物を言った総理
大臣のやはり核兵器絶滅、根絶させるためにという発言は決して言い過ぎた発言でありません。
日本だけのことを考えてじゃありません。いまのような状態で
世界の人たちから信頼されると思ったら、
アメリカも
ソ連も大間違いで気の毒だから、彼らを救うためにも、いま行き詰まった
国際情勢のこの中で光をもって彼らの英知をもう一度よみがえらせることが必要で、絶好のチャンスを逸しては、政治は流れの中にタイミングということがきわめて重要です。
私は野党だから、少し先走って物を言ったかもしれませんが、私が言わなくてもあなたたちはすでに腹はできていると思いますが、どうもいまのところはらはらする面が多いので、どうぞそういう
意味においてこの
軍縮国連総会を序幕として、やはりベルサイユのサミットにおいて、国際連盟の時代に達しようとして達し得られなかった悲願を、いまこそ私は達成させて国際連合を強化し、再び戦争をしまいと誓った万民の心を心として、
日本は新しい
世界秩序の
方向づけをやるぐらいのことはしなければ、何のための
外務大臣か、何のための総理
大臣かわからなくなってしまいます。どうぞそういう
意味において、桜田門で殺された井伊掃部頭直弼は気の毒ですが、
日本にも攘夷党の吉田やあるいは開国論者の佐久間象山、変革期においては右だとか左とを問わず大和心の中からは発するものがあったと思います。そういう
意味においてもう少し光を鮮やかに描き出していただかれんことをお願いします。これはお願いですから、返事は要りません。返事をすると、またかすみがかかる危険性がある。かすみがかからないうちに質問だけします。
しかし今度は、最終的に貿易摩擦に名をかりて、ねらいは軍備拡張ではないかという説もありますが、官僚の中にも相当の侍がいて、通産省におけるところの若杉和夫君は、米欧が保護主義をとれば共産圏貿易を強化するという堂々たる御意見が、とにかく去る二十五日のインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙の経済面のトップにその発言が載っております。何か
外務省に怒られたというようなこともついでに新聞は伝えていますが、結構な話じゃないかと思うんですが、
外務省が怒っているというのはどこですか。
大臣にしゃべらせるのは気の毒かな。だけれど、これは
大臣がしゃべらないと、
外務省が怒っていると言うけれ
どもどの辺が怒っているのかわからないから、やっぱり怒っている
外務省の首脳というお方はどなたでございましょうか。私は
外務大臣かと思っていますけれ
ども、やっぱりこのごろは官僚同士なかなか頭のいい人もあり先走る人もありますから、タイミングを外してこういう発言をやっていますが、これは重大な発言ですよ。