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参考人(
槌田敦君)
槌田でございます。
理化学研究所の
研究員をしておりまして、
資源問題の
研究者です。
私が
遺伝子だとか生物だとかに関心を持ったのはずいぶん昔のことで、それは、大学のころ生物化学を学んでおりまして、それから大学院は東大で生物物理学を勉強していたわけです。しかし、そのころまだそんなに進歩していたというわけではありませんけれ
ども、この
研究の方向はどうせ生物を改造する、人造生物といってもいいのですけれ
ども、そういう方向に向かうことになるということは予想されていたわけです。多くの人たちとそのことについて議論をしますと、もし人間が新しく生物をこしらえたとしたら、もちろんそれは改造という
意味ですけれ
ども、そういう生物を人間が制御することができるのだろうか、恐らくそれは不可能なことになるのではないかと。そういう
意味で、生物の
研究をそういう方向で進めていくことに私自身自信を失いました。そのときに、そういう生物の方向に興味を持ちながらも、それから離れることを決心して、その後東大で物理の助手をやりまして、それから
理化学研究所へ来て、いろいろな物理の勉強をしながらだんだん
資源の方向に変わってきたわけです。
資源の方向に変わってしばらくしますと
遺伝子操作というのが出てきまして、先ほ
ども参考人の何人かからおっしゃいましたけれ
ども、
資源問題という形で再びそういうことも
研究してみなければならない
段階に入ったわけです。
まずそういうような
考え方を持っておりましたので、
遺伝子操作についての見方はやはり厳しい見方をしていくことになるわけですけれ
ども、生命
操作の中の最極端が
遺伝子操作になると思います。その行き着く先がどういうところになるだろうかといえば、生命の安定というのを壊す
研究をしているというふうに断ずるほかはないと思うのです。これは、人間にはしてよいことと悪いことがある、そのけじめがどこかということをちゃんと
考えてからしないといけないのに、そういうことを抜きに
研究が進んでいるのが私にとっては非常に心配の種なんです。特に、先ほどから
参考人の何人かの方がおっしゃっていますけれ
ども、
遺伝子操作の利点が強調される嫌いがあります。しかし、これまでの何年かの
遺伝子操作の話を聞いてみまして、かつて宣伝されたほどでないというのも事実としていまわかってきているわけです。
資源の
研究をしている立場からこの問題を
考えてみますと、どうも半導体で成功したから
遺伝子でも成功するのではないかというような甘い期待で進めているようですけれ
ども、それは非科学的ではないかと思います。
それから、もう
一つの点なのですが、それは宗川さんもおっしゃいましたけれ
ども、利点と言われているものがそのまま欠点であることが多いのです。特に、利点を言うときに欠点が隠されたり無視されたりしていることが非常に多いと思います。しかしながら、欠点を削ることができるのかというと、それは両刃のやいばではないように思います。両刃のやいばでしたら、悪い方の刃だけ削って、いい方の刃を残せばそれはよいやいばになるわけですけれ
ども、しかし、利点そのものが欠点というような問題のときには片方だけを削ることができない、そこにこの問題の深刻な問題があるようです。
さらに話を続けますが、最近、七月の二十二日、
学術審議会が
遺伝子操作の
規制の緩和をいたしました。これは余りにも
産業への応用に向けて浮き足立っているように思います。ところが、
遺伝子操作への期待が広がったから緩和の方向になっているのかというと、実はそうではなさそうで、
理化学研究所の
研究者たちともいろいろ話をしてみた結果の話なのですけれ
ども、
大腸菌——プラスミドの系ではもはやすることがなくなったから緩和だというような話まで出ているわけで、これは余りにも学問的に言っても不健全な話が多いように思います。
今度の
遺伝子操作の
規制の緩和では、中間取りまとめに比べて
培養細胞を扱う
実験に対する
規制を緩めたということですけれ
ども、これは、ビールスが新しくつくられたり、または潜在的なビールスが出てくることを
考えると、こういうような
規制を簡単に緩めていくことがいいこととは思えません。
ここで理研の問題に入りたいと思うのですが、理研当局が
遺伝子操作のP4の
施設を筑波につくろうとしているのはもうすでに御存じのことと思いますけれ
ども、なぜP4をつくるのかという点に対して説得力のある説明が理研当局にはできていないようです。
といいますのは、
規制は、先ほ
ども述べましたように、これから緩和の方向で進んできているわけです。ペスト菌でさえ承認を得てP3
施設で
実験できるというような
段階に入っているわけで、したがってP4
施設は
遺伝子操作の
範囲ではほとんど必要がないというのが多くの人たちの
意見のように思います。仮に建設されたとしてもほとんど使い道がない。つまり、これは過剰設備であって、国税のむだ遣いであるのではないかと思います。
理研当局は、P4を必要だというのに三つの理由をこういうふうに挙げております。組みかえ体が無菌
ネズミの腸内にすみつくかどうか、これが第一番目。そこでその
ネズミが発病するかどうか、これが二番目。それから、以上の
実験で安全を確かめてから
規制を緩和する、これが三番目だと、こういうような話をしているのですけれ
ども、これは素人だましの説明のように思えるわけです。
なぜかといいますと、組みかえ体が無菌
ネズミの腸内にすみつくかどうかをテストすると言っているのですが、そのテストは、何も組みかえしてからテストしなければならないものではなくて、組みかえる以前にその
宿主——ベクター系ですみつくかどうかをテストすればいいことで、それならば何もP4なんか要らないわけです。P1で十分にできる話です。
第二番目、
ネズミが発病するかどうかで
安全性を見ると言っていますけれ
ども、
ネズミで発病しても人間に発病しないもの、それから
ネズミで発病しなくても人間で発病するもの、こんなのは幾らでもこういう
微生物関係というような生物的なものにはあるわけです。たとえば人間のチフスは
ネズミにとっては無害ですし、それから
ネズミのチフスは人間にとっては食中毒
程度なんということが幾らでもあるわけです。そういう
意味で、
ネズミの
実験で
安全性を確かめるというのは、これではちっとも
安全性を確かめたことにならぬということになります。
それから三番目に、そういうような
実験で
安全性を確かめてから
規制緩和と言いますけれ
ども、今度の七月の二十二日の
学術審議会の改正案などというのは、そういうようなP4での
実験で
安全性を確かめてから改正したのではなくてどんどん改正していっているわけです。
そういう
意味で、結局無菌
ネズミを飼うためだけにP4
施設を使うということになりそうなのですけれ
ども、無菌
ネズミを飼うということだけならば、それはP1かP2の
実験室で無菌の飼育箱があれば済む話で、何もP4だとかというような高度の
実験施設、めんどうくさい
実験施設、お金のかかる
実験施設は必要が全然ないわけです。
そこで、その空き部屋になったP4が何に使われるのだろうかということを
考えてみますと、これは非常に危険なことになりそうです。たとえば、
遺伝子操作でも、よくわかっている
遺伝子操作をするのではなくて、とんでもない
遺伝子操作の
実験をするということになれば、これは当然危険なわけです。
それからもう
一つは、国際伝染病の
遺伝子操作をするというようなこともないわけではありません。これについては、理研当局は谷田部の
農業委員会で次のような発言をしているそうです。ちょっと読んでみたいと思うのですけれ
ども、「国じゅうにある伝染病が広がったとする。そのとき、国家的な見地からそれに対してワクチンをつくれという強制命令が出たとします。その場合には使える可能性は残っています。」とか、または「誰か特別なひとから指令が出て、行なわれるという可能性は残っています。」こういうようなことになるということは、非常に危険なものに筑波のP4が使われることもあり得るということなので、この点についての歯どめもなしにP4をつくっていこうとするのは反対です。
それで、そういうような高度の
実験施設というのがいま
世界でどういう状況になっているのかという点を
考えてみたいと思うのですが、いま
世界は戦争準備に向けて進んでいます。アメリカの上院が五月の十四日に生物化学兵器再開削減の修正案を否決したということは皆様もよく御存じのことだろうと思います。これによって百五十五ミリの生物化学りゅう弾が
生産されることになったわけです。そういうような
世界の動きを見てくるときに、
日本の国内に生物兵器の製造への転用の可能なP4
施設をつくることの危険というのはやはり
考えておいた方がいいのではないかと思います。
このときに、科学者がしっかりしていれば、そういうことはしないのだろうというような甘い期待があるかもしれませんけれ
ども、それは全然だめです。科学者にはそんな
能力はありません。それは七三一部隊の科学者の例を引くまでもなく、これまでの歴史が証明していることです。特に理研当局は病原体——病原体といいますか、
遺伝子組みかえ体を
ネズミに飲ませる
実験と言っていますけれ
ども、そういうような、病原体を
ネズミに飲ませる
実験というそういうものこそが、生物兵器
研究に限りなく近い
研究というふうに言ってもいいのではないかと思われます。
それに関連して、理研の
現状の話をしておいた方がいいように思います。
理化学研究所は自由な
研究所ということでこれまで誇ってきたわけですけれ
ども、最近、管理された
研究所に変容しつつあります。各種の管理規程がつくられましたし、そしてそれによって
研究者への拘束がこのところ強まっています。
特に私に対してなのですが、私の発言を封ずるためにいろいろな嫌がらせを理研当局はするようになりました。たとえば懲戒
委員会を設置しまして、私を懲戒
委員会にかけたこともあります。いま、もう
一つまた第二次懲戒
委員会をつくりました。それから、賃金カットはこれまで四回受けています。その中には、
北海道議会に呼ばれまして
参考人として、たとえばきょうみたいなこういう
参考人としてそこへ
出席をしたのですけれ
ども、それも賃金カットされてしまいました。それから、
研究年報から私の
研究報告はこの二カ年にわたって削除されています。それから、今年度からですけれ
ども、
研究計画から私の
研究課題だけは削除になりました。したがって、私は
研究者としての身のあかしをすることは理研ではできなくなったわけです。そして、とうとう私に対して本年度の一般
研究費の配分はゼロになってしまいました。こういうような嫌がらせを理研当局はし始めているわけです。
このように、
研究者が自由に
研究できないような雰囲気が理研の中で広がってきている、進められている、こういう管理された
研究所になってきている。こういう
研究所でP4などの
施設を持つことは、ますます危険になると思います。つまり、先ほど宗川
参考人が言われましたけれ
ども、自由な討論こそが危険を防ぐ一番基本的な原理なはずなんです。それがなくなってきているということです。
以上で私の
意見を終わりたいと思います。