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1982-08-04 第96回国会 参議院 科学技術振興対策特別委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十七年八月四日(水曜日)    午後一時開会     —————————————    委員異動  八月三日     辞任         補欠選任      塩出 啓典君     太田 淳夫君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         中野  明君     理 事                 後藤 正夫君                 高平 公友君                 吉田 正雄君                 太田 淳夫君     委 員                 岩上 二郎君                 長田 裕二君                 片山 正英君                 源田  実君                 杉山 令肇君                 鈴木 正一君                 藤井 孝男君                 佐藤 昭夫君                 小西 博行君    政府委員        科学技術庁長官        官房長      安田 佳三君    事務局側        常任委員会専門        員        町田 正利君    参考人        財団法人癌研究        所ウイルス腫瘍        部長理化学研        究所主任研究員  井川 洋二君        日本大学農獣医        学部教授     小出 英興君        京都大学ウイル        ス研究所助教授  宗川 吉汪君        理化学研究所研        究員       槌田  敦君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○理事辞任及び補欠選任の件 ○参考人出席要求に関する件 ○科学技術振興対策樹立に関する調査  (遺伝子組み換えに関する件)     —————————————
  2. 中野明

    委員長中野明君) ただいまから科学技術振興対策特別委員会を開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  昨三日、塩出啓典君が委員辞任され、その補欠として太田淳夫君が選任されました。     —————————————
  3. 中野明

    委員長中野明君) 次に、理事辞任についてお諮りいたします。  八百板正君から、去る五月十四日、文書をもって、理事辞任したい旨の申し出がございました。これを許可することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 中野明

    委員長中野明君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。  この際、理事補欠選任を行いたいと存じます。  ただいま許可されました八百板君の理事辞任塩出君の委員辞任のため、現在、理事が二名欠員となっております。  理事選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 中野明

    委員長中野明君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事吉田正雄君及び太田淳夫君を指名いたします。     —————————————
  6. 中野明

    委員長中野明君) 次に、参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  科学技術振興対策樹立に関する調査のうち、遺伝子組みかえに関する件について、本日の委員会に、財団法人癌研究所ウイルス腫瘍部長理化学研究所主任研究員井川洋二君、日本大学農獣医学部教授小出英興君、京都大学ウイルス研究所助教授宗吉注君及び理化学研究所研究員槌田敦君を参考人として出席を求め、その意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  7. 中野明

    委員長中野明君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     —————————————
  8. 中野明

    委員長中野明君) 科学技術振興対策樹立に関する調査のうち、遺伝子組みかえに関する件を議題といたします。  本日は、本件について参考人方々から御意見を聴取することといたします。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  参考人方々には、御多忙中のところ、貴重なお時間をお割きくださり、当委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  当委員会は、科学技術振興対策樹立に関する調査を進めているところでございますが、本日、皆様方から遺伝子組みかえに関する件につきましてそれぞれ忌憚のない御意見を承りまして、本調査参考にいたしたいと存じておる次第でございます。どうかよろしくお願い申し上げます。  それでは、議事の進め方について申し上げます。  お一人十五分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。  これより参考人方々から御意見を承ります。  まず、井川参考人にお願いいたします。
  9. 井川洋二

    参考人井川洋二君) ただいま御紹介にあずかりました井川洋二です。癌研究所ウイルス腫瘍部部長理化学研究所主任研究員を兼務しております。  遺伝子組みかえ技術に関しましては、文部省学術審議会専門委員として、組換えDNA実験安全審査会委員と同指針検討小委員会委員をし、また、科学技術会議ライフサイエンス部会組換えDNA技術分科会委員をさせていただいております。また、理化学研究所筑波地区に設置する計画でありますライフサイエンス研究施設科学面でのプランナーを務めております。  最初に、遺伝子組みかえ技術を用いた研究必要性について若干述べさせていただきます。  遺伝子組みかえ技術は、皆さま御存じのように、その及ぼす範囲はきわめて広く、医学生物学基礎、応用。それから保健衛生の問題、たとえばわれわれの体の働き、体は細胞で成っていますけれどもその細胞の働きの仕組みとか、ワクチンとか生物製剤の問題とか、そういう保健衛生の問題。それから育種による食糧の問題。それから油脂の生産など工業の問題。それから廃水処理菌の作出、これは環境の問題。それからアルコール生産するなどのエネルギーの問題と、きわめて広く、また、自然的資源の少ないわが国にとりましては、急速に進展させなければならない重要な技術考えております。  また、ここ数年間のわが国におけるこの技術を利用しての研究の動向を見てみますと、この技術は他の技術以上に日本人に非常に向いた技術のように思われます。  次に、日本における組みかえDNA技術を用いた研究現状でございますが、昭和五十四年三月の文部大臣の告示、同年八月の内閣総理大臣の決定によりましたわが国組換えDNA実験指針は、米国国立衛生研究所、われわれはNIHと称していますが、ここの一九七六年のガイドラインと同等の厳しさを持ち、しかしその制約の中で日本研究者は慎重に研究を進めてきまして、特に医学生物学分野世界的な成果を数多く上げてきたと考えております。これはひとえに日本人研究者の勤勉さによるもので、相当な制約はあってもその中でがんばるという姿勢が一番働いたものと考えています。  私は、昭和五十三年末に日本最初のいわゆるP3という組みかえDNA実験施設を企画しまして、文部省の応援を得まして癌研の中に最初にその施設を完成いたしました。そこで癌研究所谷口維紹博士が、ヒトインターフェロン遺伝子世界で初めて分離しまして全構造を明らかにしました。当時は、早速に仏国の元厚生担当の閣僚などが癌研を訪ねてきたものです。  それで、遺伝子組みかえ技術が最も何に貢献をしたかということを振り返ってみますと、私の考えでは、私どもの体の細胞が持つ遺伝子基本構造が明らかにされたということだと思います。  細胞の機能というのは、結局は何かのたん白質をつくるということに要約されますけれども、その細胞たん白は、細胞の核にある遺伝子DNARNAに読み取られまして、写されましたそのRNA暗号に従ってアミノ酸を集めていくわけです。そのアミノ酸が集まったのがたん白質ということになります。そういう何かのたん白質をつくるように約束されている遺伝子というのは、われわれの細胞はどの細胞も同じように数十万持っています。その一つ一つ構造と、それがどうやって働くかという仕組みを明らかにするということができるのは、唯一この組みかえDNA技術があるからです。  というのは、われわれの細胞DNA——IDNAというのはひもみたいなものですけれども、そのひもの上にコンピューターのテープのようにいろいろな遺伝情報が乗っています。その情報を、制限酵素というはさみで切って、それをバクテリア細胞の中で細胞遺伝子には組み込まれないでふえるDNA分子、プラスミドと呼んでいるのがそれですが、その分子に一カ所切れ目をつくってその中に挟み込んでやるわけです。そうすると、外から入れられたヒト遺伝子なり動物遺伝子細菌の中でふえられる。細菌は非常にふえるのが早いものですから、組み込ませた遺伝子を純粋に調べることができる、こういう手だてを唯一与えてくれるのが、この組みかえDNA技術だと考えます。  私は医者ですから、医学畑で若干その成果を挙げてみますと、たとえばサラセミアという先天性貧血症があります。  これはヘモグロビン遺伝子の途中の暗号が壊れているわけです。そのために、でき上がったヘモグロビンが非常に溶けやすくて、そしてそのために重い貧血になります。そういうことで、その暗号が一部壊れているというのがわかったのも、その貧血症患者さんからDNAを取ってきて、組みかえDNA技術でもってそこの部分だけ取り出してその構造を解析したらそこが壊れていたということがわかった。この病気は、たとえば中国とか地中海に非常に多い病気ですけれども、この壊れた部分をいまは壊れたままの暗号でも読ませるような工夫がなされているわけです。こうして重篤な病気を治すということにかなりの進展が見られております。  それから、もう一つ新しい成果の例を挙げますと、最近、この技術を使ってヒト発がんに関係する遺伝子幾つか取り出されてきました。  たとえば肺がんとか膀胱がんとか大腸がんとか、子供にある神経芽細胞腫とか、こういうものの細胞の中からDNAを取ってきて、そのDNAを第三のネズミ細胞に入れて、ネズミ細胞がんにするという手だてでできたがん細胞からヒトがんを起こす遺伝子というものを取り出したわけです。これも組みかえDNA技術です。現在は、こういう遺伝子がどのぐらい広い範囲で、がん患者でどういうがんのとき働いているかというような研究が進んでおります。  これは結局、こういう遺伝子がわかれば、それを発現しないようにすれば予防につながるし、その遺伝子がつくっているものがわかれば診断に役立つし、その遺伝子をつくっているものを目がけて薬を運べば制がんというか、がんを治すということにつながるというので、きわめて期待されている分野です。  私の研究室などでも、最近九州とか四国の西南部に多い白血病の、これは成人丁細胞白血病と言うのですけれども、その原因ウイルスが分離されまして、これも遺伝子組みかえの技術でもってその遺伝子構造がほぼ明らかにされつつあります。これは、食肉牛というのがありますが、それで自然に伝播している牛白血病ウイルス遺伝子構造ときわめてよく似ております。この成人丁細胞白血病というウイルスは、それ自体は特別ながん遺伝子を乗っけていないのですが、そのウイルスが感染することによってどういう発がんに関係する遺伝子が目を覚まさせられて白血病を起こしているかというような研究がいま大事な研究になっています。  それから、ごく最近ですけれども、やはり私の部屋で、動物白血病ウイルスと全く同じ構造をしたウイルスがわれわれ人間の中にもたくさんひそんでいるということがわかってきました。こういうウイルス遺伝子というものは当然その遺伝子を発現させる仕掛けを持っていまして、その仕掛けはほかの遺伝子を呼び起こすためにも使われます。こういう遺伝子が、果たして白血病ばかりでなくその他のいろいろな難病にどういうふうに働いているかというようなことを検索する手だてを、やはり組みかえDNA技術が与えてくれています。  そのほか、免疫の仕組みとか、それからいろいろなホルモン産生仕組みとか、この技術を使って、かなり広い範囲保健衛生の問題では現在画期的な進歩がもたらされつつあります。  次に、遺伝子組みかえの実験安全性の問題について若干述べたいと思います。  文部省学術審議会科学技術会議ライフサイエンス部会は、それぞれ実験指針見直しをいたしまして、緩和の方向を打ち出しております。これは、異種の遺伝子を組みかえる菌、これをわれわれ宿主と呼んでいますが、大腸菌のK12株、枯草菌のマールブルグ168株、それから酵母菌——これはイーストみたいなものですがこの中のサッカロミセス・セルビシエ、SC株と言いますが、この三つに限って、これは長い間研究に使ってきて安全だということがわかってきまして、これに、決められた、遺伝子を入れるためのDNA分子、先ほど申し上げましたように、細菌の中で自己増殖性を持って、その一カ所に切れ目をつくってほかの遺伝子を入れてやる、そういうためのDNA分子、これをわれわれベクターと呼んでいるのですけれども日本では、この限られたベクターを使う場合に限ってもう安全だと判断し、こういうものを使う限り遺伝子の組みかえはかなり緩和してよろしいという判断がなされまして、そういう組み合わせの、決められた、認定された宿主——ベクター系を使う限りにおいてはこれまでの指針というものを大幅に——大幅にというか、二段階ほど下げてもいいということにしました。  組みかえ実験規制については物理的封じ込め生物学的封じ込めという言葉があるのですが、それは、物理的封じ込めというのは研究をする施設とか扱い方です。生物学的封じ込めというのは、先ほど申し上げたような宿主——ベクター系、いわゆる菌の中に入れて組みかえを起こさせるための菌とそれを運び込むためのDNA分子組み合わせのことですけれども、この両方に関して、いままでよりも二段階ほど制限を緩めてもいいということになってきました。  それで、この考えの一番根本になったのは、われわれの細胞にあるDNAが何かを起こすかもしれないという危険性をもともとは考えていたのですけれども、そうではなくて、むしろそのDNAを入れることによって細菌の方の性格がどう変わるか、そこのところに注目すればいいというふうに判断を変えた。ほかにもいろいろありますけれども、一番根本にかかわってくるのはそこだと思います。これまでも、制限の中で数多くの実験がなされていまして、安全性評価実験とともに、組みかえDNAというのは非常に安全だということがわかってきたわけです。  これはよく聞かれるのですが、要するに、この規制を緩和しているときになぜP4を含めた遺伝子の組みかえのセンターが要るのかと、こういうことを聞かれます。  そこで述べたいのですけれども一つは、二段階下げたといってもこれはまだ欧米の基準から見ると一段なりそれ以上きつい。たとえば向こうですと、もうほとんど、自分がこういう実験をやりたいという場合、自分で決めて後で報告しておけば済むというようなことが多いのですが、日本ではまだ、内部の委員会を通して、いまのこの基準に合致しているかどうかが検討された上でやらなくちゃならない。いろいろな規制があります。これからこの組みかえDNA技術産業が駆使できるためには、さらに見直しをして、本当に安全ならばもっと使いやすくさせてやらなければならない。ですから、これからさらにガイドライン見直しを続けて、より産業に使いやすくさせてやるということが必要だと思います。そういう意味で、そのP4を含めた安全施設が要る。  もう一つ。この実験指針は、先ほど述べた三種類の宿主——ベクター系を使ったときにだけその基準が緩和されているわけで、組みかえというのは、ほかの細菌を使う実験、そういうものを含んでいるわけです。たとえば大腸菌は必ずしもいろいろな物質生産するのに都合がよくない、もっとほかの菌を使いたいと。こういうときのその新しい宿主——ベクター系開発とか、それが本当に安全かどうかとか、そういう実験ですね。それからもう一つ実験指針では動植物個体遺伝子を入れるというようなことに関しては何ら判断を示していない。そういうものの基準についてはどうか。これから個体に入れて、個体にある能力を持たせるという実験もかなり大事だと思います。ことに植物個体などに遺伝子を入れるという実験はかなり大事だと思いますが、そういうときにその実験をどういうレベルでやったらいいか、こういうことの判断基礎を与えるセンターが要るわけです。それはその基準外ですから、その使い方によってはP4を要求される場合が十分あります。  たとえば、簡単なことを言えば、もしわれわれが現在使っているような宿主——ベクター系が、あれは実験用のですけれども、先祖返りしてわれわれの腸の中にすみつけるようになった。そのときに、その腸内の細菌がどんどんある生理活性物質をつくる。そういうものがわれわれの腸の中にすみついてしまったら一体どういうことが生体に起こるかというようなことをあらかじめきちっと検討しておかないと十分な使用ができない。そういうためにそういうP4も含めた施設が要る、こういうふうに考えております。  まだ幾つかあります。たとえば動物ウイルスベクター、これから、大腸菌に入れるだけじゃなくて培養細胞の中に入れて物をつくらせるという技術も進行します。そのときに、その動物細胞の中にはウイルス遺伝子が潜在していることがあります。入れるベクターは確かにふえないようにしてありますが、そういう潜在している遺伝子と組み合わさったときにどういうことになるかというような安全性はきちっとやっぱりどこかで見ておかなくてはならない。増殖能力を回復しないかとか、その点を検討するためにも安全評価実験はきわめて大事です。  こういう基準外実験安全性評価実験と、またそういうものを蓄積していって今後のいろいろな判断基準にする。そういうためにライフサイエンス筑波研究施設というものが考えられて、その点が第一の業務になると思います。そういう安全評価実験は、一部には確かに外界との完全な遮断が要求されます。その完全な遮断をさせるのがP4施設と、こういう考え方です。  最後に、研究者個人としてのお願いなんですけれども、これまで述べましたように、組みかえDNA技術必要性というのは、今後、ライフサイエンスのほかの技術も含めて、医療保健とか食糧とか工業とかエネルギーとか、広い分野に貢献する。ですから、こういう組みかえDNA技術を正しく、ゆがめられないで発展させるために、ぜひ適切な振興策というものをとられるように強く希望します。  以上です。どうもありがとうございました。
  10. 中野明

    委員長中野明君) どうもありがとうございました。  次に、小出参考人にお願いいたします。
  11. 小出英興

    参考人小出英興君) ただいま御紹介にあずかりました小出でございます。  私ども農業研究者にとりまして、現在私どもに与えられている大きな課題といたしましては、食糧生産増強と、それから自然性態系の保全という問題があると思います。  現在の世界の総人口考えますと、現在約四十数億の人口がありますが、年々数千万人の人口がふえてまいりまして、二〇〇〇年になりますと恐らく六十億に達するだろうと統計上考えられております。しかし、農業生産増強というものは、たとえば開発途上国にいまの先進国農業技術を導入して生産増強を図るとしても、たかだか一〇%程度ではなかろうかという算定が、これはきわめて大ざっぱな算定でございますけれども、その程度しか望めないのではないかということが考えられます。そういうことを考えますと、この限られた耕地と海とから得られる農水産の資源をいかにして増強するかということは、恐らく二十一世紀の農業問題の最大の課題になると私は思います。  幸いにいたしまして本邦は、豊かな工業力経済力とによりまして、たくさんの食糧飼料を輸入して豊かな国民生活を送っているわけでありますけれども世界の今後の食糧問題というものを考える場合に、本邦においては、その立場に立脚した農業技術の革新がここで必要ではないかと思います。  たとえば、日本における稲作というものは、明治以来研究が続けられまして、熱帯性植物である稲が、現在では寒冷地北海道で栽培をされているという現状でございます。このような、環境に対応した、人類の生活都合のいい植物とか動物というものを得るためには、いわゆる交配という遺伝育種技術を使いまして、非常に長い間かかっている。恐らく現在の北海道で栽培されている稲ができるまでは七、八十年の長い間の育種技術が費やされているわけであります。  そういうことから、現在、いまここで論議されております遺伝子組みかえ技術というものは、こういう技術を乗り越える一つの新しい技術としてこれから発展するかもしれないという要素を十分に含んでいるわけでございます。こういう方法を使って品種改良が行われるとしますと、もっと短期間にこれを達成することができるということは十分考えられるところでございます。いまこの技術につきまして井川先生から述べられましたように、バクテリアを使ってインターフェロンとかホルモンとか、そういう生体の維持それから生体の防御に有用な活性物質をつくらせるという技術が進められているわけですけれども農業におきましては、そればかりではなくて、今度はその微生物それ自身を実際に外に出して、そして農業生産増強を図ろうということが考えられているわけであります。  たとえば、これは遺伝子組みかえというよりは遺伝子操作に入りますが、アルコールとかみそ、しょうゆの発酵工業においてなくてはならないアミラーゼというでん粉を糖化する反応をする酵素があります。この微生物アミラーゼをつくる遺伝子、それを制御している遺伝子、それをコントロールしまして遺伝子操作を行いますと、従来つくられていたアミラーゼを千五百倍にすることができる。これは元東大におられた丸尾教授の偉大な業績でございますけれども、そういうことができるわけでございます。  また、日本では社会事情から実用化をされませんでしたけれども、いわゆる当時石油酵母と称されていた酵母たん白質生産でありますが、これはイギリスにおいてはメチロクロロフィルというバクテリアを使いまして年間七万五千トンの生産が行われております。この微生物遺伝子の一部を大腸菌のグルタミン酸脱水素酵素遺伝子と組みかえることによりまして、非常に効率のいい飼料酵母生産することに成功しております。そしてさらに、その飼料酵母アミノ酸栄養価とか、発育の速度であるとか、耐熱、要するに発酵の温度が上がっても死なないような耐熱性の菌の育成であるとか、それから菌のサイズを大きくするというようなことに遺伝子操作をいたしまして、生産コストを下げるとともに非常に効率のいい生産を行っております。こういう意味において、遺伝子組みかえ技術というものは農業にとっては大変役立つというふうに私は考えております。  特に最近、イギリス並びにアメリカでもかなり行われておりますが、空気中の窒素を、これは大豆のいわゆるアゾトバクターという根粒菌窒素を固定いたしますが、大豆根粒菌バクテリアのそういう作用をほかの植物にも持ってこられないか。それによって日本硫安をもっと節約できるのじゃないかということが考えられます。もしもこういうものが成功すると、稲のような非常に硫安をたくさん必要とするような植物にとっては、それでもってかなりの窒素を補うことができるということが考えられます。  また、そのほかいろいろありますが、たとえば農業廃棄物とか工業廃棄物を、先ほど井川さんもおっしゃいましたけれども、分解して、そして有効な成分、要するに植物が再利用できるような成分として土に戻してやるということが農業にとってはきわめて重要な問題であると思います。  また、いわゆる化石エネルギーの消費によりまして年々ふえ続ける炭酸ガスをもっと高度に利用するために、植物の炭酸ガスの同化作用をもっと大きくするとか、それから炭酸ガスでもっとバクテリア生産するとか、それからメタンも同様であります。そういうものをもっと利用することによってより健全な生態系にするように、要するに動物植物とがぐるぐる回ることによってわれわれは生活をしておるわけでございまして、そのサイクルを回るときに必ず土壌なり海というものを媒体としているわけでございますから、そこを常に回転を早くするように、それから有用な成分として戻すようにわれわれは心がけなければならないと思います。もちろん、できることであれば、現在石油からつくられるいろいろのプラスチック製品を分解する酵素がもしもできるとすれば、それをバクテリアに入れて、それをさらに有効な成分として土に戻すということが必要なことであろうと私は思います。  それから、最近におきましては、植物細胞遺伝子を組み込むということも可能となってまいりました。この細胞を分化することによりまして新しい植物を得ることができます。この方法は恐らく新しい育種法として将来の新しい農業研究分野に入ってくると私は思いますが、たとえばその遺伝子として、病気に強い抵抗性のある遺伝子とか、野草が持っているような非常に強い遺伝子とか、または耐寒性、寒さに強いような遺伝子を入れる、また海藻が持っているような高塩濃度、塩の海の濃度でもって生育できるような遺伝子を入れることによって海水でもって植物をある程度生育することができるということも、半ば夢物語に近いかもしれませんが、これは将来の問題であろうと私は思います。  次に畜産の問題ですが、これは細胞が分化して動物ができるという場合は受精卵に限られるのでありまして、この核を入れかえて品種をよりよい品種に直すということはできますけれども、それはむしろ遺伝子組みかえというよりは発生工学に属しますのでちょっとこの場では省略いたしますが、一つ畜産の分野で最も注目されているものとして、口蹄疫というウイルスのワクチンがございます。  口蹄疫という病気は非常に伝播力が強くて、一遍これが流行いたしますとその国の畜産はほとんど壊滅状態に陥るということがたびたび報告されております。数年前にイギリスでこの大流行がありまして、数千万ポンドの損害があったと伝えられております。このウイルスのワクチンは、現在動物用のワクチンとして生産されているうちの四分の一がこのワクチンで占められております。それで、私ども本邦ではまだこれを扱うだけの施設がございませんので、日本ではこのワクチンを生産しておりません。イギリスまたはアメリカからの輸入に頼っているわけでございます。これを、遺伝子組みかえで、その抗原性のある部分だけを取り出してワクチンをつくらせることができます。そうすると、いわゆる非常に危険を冒して生のウイルスをつくらなくても、安全な方法でバクテリアに置きかえてそのワクチンをつくるということができまして、去年アメリカで成功して、現在アメリカではその一部について実験を行っております。こういう意味で、遺伝子組みかえをすることによっていわゆるバイオハザードを防ぐ方法は、きわめて有利な方法であろうと私は思います。  さらに、基礎的な問題、たとえば病気の問題であるとかあるいは生産の問題であるとか、そういうものの機構を解明する上にとってはこのような技術遺伝子組みかえという操作は非常に有用なものでありまして、簡単な言葉で言えば、これまで算術で解いていたものを微積分で解いていくというような利点がございます。その上で、生命現象を解明する有力な手段となるということで、今後これが使われていくことは自明の事実であると私は思います。  最後に、植物やそういう微生物研究を進めるに当たって、農業における使い方というのはそれを天然にばらまくわけでありまして、その安全性は厳重にチェックをしなければならないことはもちろんであります。そういう意味で、現在安全性基準というものは人間の健康を中心に置いておりますけれども農業の場合には今度は自然というか、要するに生態系すべてを考えながらこの安全性考えていかなければならない問題であると私は思います。  以上であります。
  12. 中野明

    委員長中野明君) どうもありがとうございました。  次に、宗川参考人にお願いいたします。
  13. 宗川吉汪

    参考人(宗川吉汪君) 京都大学の宗川です。私は、ウイルス研究所におきまして、インターフェロン基礎的な研究、あるいは動物細胞ウイルスの相互作用、あるいは動物細胞における代謝調節、分化といったような研究をしております。  お手元に私の最近の別刷りを差し上げたのですが、それは日本化学会から発行しております「化学教育」という雑誌に私が最近インターフェロンのことについて書いたもので、その中で、応用研究基礎研究との関係をインターフェロンを例にとって紹介してあります。また、遺伝子組みかえの研究インターフェロン研究にどういうふうな役に立っているかというようなことも紹介してありますので、何か参考にしていただきたいと思っています。  私はウイルス研究所で研究しているほかに、教養部で一般生物学の講義を担当しております。それからまた理学部で生化学の講義の一部を担当しております。先ほど井川先生の方は医学の立場から、あるいは小出先生は農学の立場からということでお話があったのですが、私は基礎生物学研究者、教育者の立場から遺伝子組みかえの問題について日ごろ考えているようなことを述べてみたいと思います。  もう一つ参考のためにゲラ刷りを差し上げたのですけれども、それは、日本科学者会議で発行しております「日本の科学者」という雑誌がございますが、それの九月号にちょうど「遺伝子操作考える」という特集を組むことになっておりまして、私がその世話をしろということでお世話をして、まだできていないのですが、それを参考のためにお配りしました。その中に、阪大の田川先生とかあるいは金沢大学の吉川先生とか、中川先生、石浜先生、松代先生、この分野にいろいろな形で関係しておられる先生方の遺伝子組みかえに関しての御意見が載っておりますので、またそれも参考にしていただきたいというふうに思います。  その中で私は、実用的な応用生物学というのと、それから生物の原理を追求するそういう基礎的な生物学の絡み合いの中で、どのようにして遺伝子組みかえの研究が生まれてきたのか、その問題点はどういうことにあるのかというようなことに関して述べておりますので、その中で私が述べた要点をいまここでお話ししたいと思っております。  物理科学においては、近代科学の出発のときから、実用問題を追求する応用研究というのと、それから原理を取り扱うような基礎研究というのが非常に密接な形で発展してきました。ところが、生物科学の場合ではちょっと事情が変わっておりまして、非常に生物学が複雑だということがあるわけですけれども、大体いままでは、多くの場合に、実用的な研究が優先していて基礎研究というのはその後になっている。実用研究基礎研究というのが余り緊密に絡まり合っていたわけではありません。いままで、基礎生物学の方法が実用化されたという例は非常に少ないのです。今度の一九七〇年代の半ばから開発されてきました遺伝子組みかえというのは、言ってみたらば、基礎生物学が初めて実用化される非常な際立った例になっているのじゃないかと私は思っております。  遺伝子組みかえというのは、生物のこういう基礎的な研究から発見された一つの真理、DNA遺伝子の本体だと、そういうものに基づいてでき上がった方法です。ですから、先ほどからもお話がありましたように、遺伝子組みかえということによって、非常に複雑な遺伝子がいろいろあるわけですけれども、特定の遺伝子を増幅させて単離してそれを調べるというようなことができるようになったわけです。あるいは、特定の細胞に異種の遺伝子を入れてその遺伝子の産物を、たん白質ですけれども産生することができる、そういうようなことが可能になった。遺伝子組みかえの研究、これはこれからの基礎生物学研究にとってなくてはならないものだというふうに考えております。  遺伝子組みかえはまた、先ほどからもお話がありましたように、非常に微量のたん白質を大量生産することができるということで、私ども研究しておりますインターフェロンとかあるいは先ほどお話があったワクチン、そういうものの生産に役に立とうとしているわけで、世界のあるいは日本の化学系の企業が競って遺伝子組みかえの技術を導入している。そういう現状です。  こういうふうに遺伝子組みかえでいろいろな生産ができるというようなことになってきているわけですけれども、しかしここで考えなければいけないのは、一般的にすべての技術は基本的には危険である。そのことを見落としてはならないのじゃないかというふうに思っております。なぜかというと、一つ技術をつくる場合には一つの法則をほかから切り離して拡大してそれを使うということになるわけですから、既存の全体調和を崩すということがあるわけです。遺伝子組みかえによる研究あるいは生産というのはまだ初歩的な段階で小規模でありますので、幸いその危険性というのはまだ明らかになっていませんけれども、将来大規模に応用される、あるいは技術が非常に進展していくというようなことになりますと、どういう危険性が出てくるかというのはいまから簡単に予想できない、そういう性格を持っていると思います。  それからまた、技術安全性というのは、安全性自体の性質が非常に厄介な性質を持っていまして、技術の有効性とかあるいは危険性を立証するということは可能なわけですけれども安全性を立証するということは非常に困難です。  それは、安全性というのがむしろいろいろな研究の否定的な結果、ネガティブデータと私たち言うのですけれども、ネガティブデータの側面を持つ場合が多いのです。たとえばいま発がんウイルスを組み込んだ大腸菌動物に与えてもがんは発生しなかったという研究がなされていて、安全性一つの証拠にされていますけれども、普通の私たちの研究で言えば、これはネガティブデータで、研究としては成功しなかったという部類に入るわけです。ですから、実際は研究としては発がんする条件を探すというのが研究で、科学の論理というのはそういうポジティブなデータを積み上げてできるということに普通はなっています。ですけれども安全性というのはネガティブなデータをつなぎ合わせて経験的に知る場合が多いので、非常に安全性の立証というのは困難なわけです。  技術は先ほど言いましたように本質的に危険な側面を持っているわけなんですけれども、非常に皮肉なことに、危険であればあるほど有用である、そういう性質を持つわけで、結局われわれとしてはいかに危険性を排除して有用性を抽出するか、そこが非常に重要な点になっているわけです。安全に使いこなす工夫が必要だということだろうと思います。そういうところで、私としましては、次の三点が遺伝子組みかえの研究で重要なのではないかと思っています。  第一点は、研究者同士がよく相談し合う。それは当然のことなんですが、そういう上で研究する。あるいは、専門家と非専門家、一般市民とかあるいは大衆とか住民とかの非専門家との対話を非常に重視しなければならない。先ほど言いましたように、安全性というのは科学的には非常に立証しにくいものですので、そういう専門家と非専門家の対話は非常に重要であると思っております。つまり、民主的に研究を進めるということが非常に重要なんではないかというふうに思います。  第二点は、遺伝子工学に関していろいろな人が不安を持っているのは、何が出てくるかわからぬという不安を持っているわけで、研究者の方でもやってみなければわからぬという部分もかなり持つわけです。それは先ほどの二人の先生方から言われたことでもありますが、そういう研究ですのでやっぱり何が行われているかを知る必要があるわけで、研究の公開ということが非常に重要なのではないかと思います。今度のいろいろなガイドラインの問題なんかでも、公開をどういう形でか保証するようなことがある方がいいと私は思っています。  それから三番目に、いろいろな危険性を排除して有効性を出さなければいけないわけですが、そういう場合に、この問題に限って言いますと、基礎生物学研究というのが非常に重要であります。いまいろいろな定員削減で大学の方でも講座増とかあるいはポストをなかなか増加しないのですけれども、ぜひこういう基礎科学、基礎生物学を振興するためにポストを増加してほしいというふうに要望したいと思います。  以上をもちまして私の話を終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
  14. 中野明

    委員長中野明君) どうもありがとうございました。  次に、槌田参考人にお願いいたします。
  15. 槌田敦

    参考人槌田敦君) 槌田でございます。理化学研究所研究員をしておりまして、資源問題の研究者です。  私が遺伝子だとか生物だとかに関心を持ったのはずいぶん昔のことで、それは、大学のころ生物化学を学んでおりまして、それから大学院は東大で生物物理学を勉強していたわけです。しかし、そのころまだそんなに進歩していたというわけではありませんけれども、この研究の方向はどうせ生物を改造する、人造生物といってもいいのですけれども、そういう方向に向かうことになるということは予想されていたわけです。多くの人たちとそのことについて議論をしますと、もし人間が新しく生物をこしらえたとしたら、もちろんそれは改造という意味ですけれども、そういう生物を人間が制御することができるのだろうか、恐らくそれは不可能なことになるのではないかと。そういう意味で、生物の研究をそういう方向で進めていくことに私自身自信を失いました。そのときに、そういう生物の方向に興味を持ちながらも、それから離れることを決心して、その後東大で物理の助手をやりまして、それから理化学研究所へ来て、いろいろな物理の勉強をしながらだんだん資源の方向に変わってきたわけです。資源の方向に変わってしばらくしますと遺伝子操作というのが出てきまして、先ほども参考人の何人かからおっしゃいましたけれども資源問題という形で再びそういうことも研究してみなければならない段階に入ったわけです。  まずそういうような考え方を持っておりましたので、遺伝子操作についての見方はやはり厳しい見方をしていくことになるわけですけれども、生命操作の中の最極端が遺伝子操作になると思います。その行き着く先がどういうところになるだろうかといえば、生命の安定というのを壊す研究をしているというふうに断ずるほかはないと思うのです。これは、人間にはしてよいことと悪いことがある、そのけじめがどこかということをちゃんと考えてからしないといけないのに、そういうことを抜きに研究が進んでいるのが私にとっては非常に心配の種なんです。特に、先ほどから参考人の何人かの方がおっしゃっていますけれども遺伝子操作の利点が強調される嫌いがあります。しかし、これまでの何年かの遺伝子操作の話を聞いてみまして、かつて宣伝されたほどでないというのも事実としていまわかってきているわけです。  資源研究をしている立場からこの問題を考えてみますと、どうも半導体で成功したから遺伝子でも成功するのではないかというような甘い期待で進めているようですけれども、それは非科学的ではないかと思います。  それから、もう一つの点なのですが、それは宗川さんもおっしゃいましたけれども、利点と言われているものがそのまま欠点であることが多いのです。特に、利点を言うときに欠点が隠されたり無視されたりしていることが非常に多いと思います。しかしながら、欠点を削ることができるのかというと、それは両刃のやいばではないように思います。両刃のやいばでしたら、悪い方の刃だけ削って、いい方の刃を残せばそれはよいやいばになるわけですけれども、しかし、利点そのものが欠点というような問題のときには片方だけを削ることができない、そこにこの問題の深刻な問題があるようです。  さらに話を続けますが、最近、七月の二十二日、学術審議会遺伝子操作規制の緩和をいたしました。これは余りにも産業への応用に向けて浮き足立っているように思います。ところが、遺伝子操作への期待が広がったから緩和の方向になっているのかというと、実はそうではなさそうで、理化学研究所研究者たちともいろいろ話をしてみた結果の話なのですけれども大腸菌——プラスミドの系ではもはやすることがなくなったから緩和だというような話まで出ているわけで、これは余りにも学問的に言っても不健全な話が多いように思います。  今度の遺伝子操作規制の緩和では、中間取りまとめに比べて培養細胞を扱う実験に対する規制を緩めたということですけれども、これは、ビールスが新しくつくられたり、または潜在的なビールスが出てくることを考えると、こういうような規制を簡単に緩めていくことがいいこととは思えません。  ここで理研の問題に入りたいと思うのですが、理研当局が遺伝子操作のP4の施設を筑波につくろうとしているのはもうすでに御存じのことと思いますけれども、なぜP4をつくるのかという点に対して説得力のある説明が理研当局にはできていないようです。  といいますのは、規制は、先ほども述べましたように、これから緩和の方向で進んできているわけです。ペスト菌でさえ承認を得てP3施設実験できるというような段階に入っているわけで、したがってP4施設遺伝子操作範囲ではほとんど必要がないというのが多くの人たちの意見のように思います。仮に建設されたとしてもほとんど使い道がない。つまり、これは過剰設備であって、国税のむだ遣いであるのではないかと思います。  理研当局は、P4を必要だというのに三つの理由をこういうふうに挙げております。組みかえ体が無菌ネズミの腸内にすみつくかどうか、これが第一番目。そこでそのネズミが発病するかどうか、これが二番目。それから、以上の実験で安全を確かめてから規制を緩和する、これが三番目だと、こういうような話をしているのですけれども、これは素人だましの説明のように思えるわけです。  なぜかといいますと、組みかえ体が無菌ネズミの腸内にすみつくかどうかをテストすると言っているのですが、そのテストは、何も組みかえしてからテストしなければならないものではなくて、組みかえる以前にその宿主——ベクター系ですみつくかどうかをテストすればいいことで、それならば何もP4なんか要らないわけです。P1で十分にできる話です。  第二番目、ネズミが発病するかどうかで安全性を見ると言っていますけれどもネズミで発病しても人間に発病しないもの、それからネズミで発病しなくても人間で発病するもの、こんなのは幾らでもこういう微生物関係というような生物的なものにはあるわけです。たとえば人間のチフスはネズミにとっては無害ですし、それからネズミのチフスは人間にとっては食中毒程度なんということが幾らでもあるわけです。そういう意味で、ネズミ実験安全性を確かめるというのは、これではちっとも安全性を確かめたことにならぬということになります。  それから三番目に、そういうような実験安全性を確かめてから規制緩和と言いますけれども、今度の七月の二十二日の学術審議会の改正案などというのは、そういうようなP4での実験安全性を確かめてから改正したのではなくてどんどん改正していっているわけです。  そういう意味で、結局無菌ネズミを飼うためだけにP4施設を使うということになりそうなのですけれども、無菌ネズミを飼うということだけならば、それはP1かP2の実験室で無菌の飼育箱があれば済む話で、何もP4だとかというような高度の実験施設、めんどうくさい実験施設、お金のかかる実験施設は必要が全然ないわけです。  そこで、その空き部屋になったP4が何に使われるのだろうかということを考えてみますと、これは非常に危険なことになりそうです。たとえば、遺伝子操作でも、よくわかっている遺伝子操作をするのではなくて、とんでもない遺伝子操作実験をするということになれば、これは当然危険なわけです。  それからもう一つは、国際伝染病の遺伝子操作をするというようなこともないわけではありません。これについては、理研当局は谷田部の農業委員会で次のような発言をしているそうです。ちょっと読んでみたいと思うのですけれども、「国じゅうにある伝染病が広がったとする。そのとき、国家的な見地からそれに対してワクチンをつくれという強制命令が出たとします。その場合には使える可能性は残っています。」とか、または「誰か特別なひとから指令が出て、行なわれるという可能性は残っています。」こういうようなことになるということは、非常に危険なものに筑波のP4が使われることもあり得るということなので、この点についての歯どめもなしにP4をつくっていこうとするのは反対です。  それで、そういうような高度の実験施設というのがいま世界でどういう状況になっているのかという点を考えてみたいと思うのですが、いま世界は戦争準備に向けて進んでいます。アメリカの上院が五月の十四日に生物化学兵器再開削減の修正案を否決したということは皆様もよく御存じのことだろうと思います。これによって百五十五ミリの生物化学りゅう弾が生産されることになったわけです。そういうような世界の動きを見てくるときに、日本の国内に生物兵器の製造への転用の可能なP4施設をつくることの危険というのはやはり考えておいた方がいいのではないかと思います。  このときに、科学者がしっかりしていれば、そういうことはしないのだろうというような甘い期待があるかもしれませんけれども、それは全然だめです。科学者にはそんな能力はありません。それは七三一部隊の科学者の例を引くまでもなく、これまでの歴史が証明していることです。特に理研当局は病原体——病原体といいますか、遺伝子組みかえ体をネズミに飲ませる実験と言っていますけれども、そういうような、病原体をネズミに飲ませる実験というそういうものこそが、生物兵器研究に限りなく近い研究というふうに言ってもいいのではないかと思われます。  それに関連して、理研の現状の話をしておいた方がいいように思います。  理化学研究所は自由な研究所ということでこれまで誇ってきたわけですけれども、最近、管理された研究所に変容しつつあります。各種の管理規程がつくられましたし、そしてそれによって研究者への拘束がこのところ強まっています。  特に私に対してなのですが、私の発言を封ずるためにいろいろな嫌がらせを理研当局はするようになりました。たとえば懲戒委員会を設置しまして、私を懲戒委員会にかけたこともあります。いま、もう一つまた第二次懲戒委員会をつくりました。それから、賃金カットはこれまで四回受けています。その中には、北海道議会に呼ばれまして参考人として、たとえばきょうみたいなこういう参考人としてそこへ出席をしたのですけれども、それも賃金カットされてしまいました。それから、研究年報から私の研究報告はこの二カ年にわたって削除されています。それから、今年度からですけれども研究計画から私の研究課題だけは削除になりました。したがって、私は研究者としての身のあかしをすることは理研ではできなくなったわけです。そして、とうとう私に対して本年度の一般研究費の配分はゼロになってしまいました。こういうような嫌がらせを理研当局はし始めているわけです。  このように、研究者が自由に研究できないような雰囲気が理研の中で広がってきている、進められている、こういう管理された研究所になってきている。こういう研究所でP4などの施設を持つことは、ますます危険になると思います。つまり、先ほど宗川参考人が言われましたけれども、自由な討論こそが危険を防ぐ一番基本的な原理なはずなんです。それがなくなってきているということです。  以上で私の意見を終わりたいと思います。
  16. 中野明

    委員長中野明君) どうもありがとうございました。  それでは、これより質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  17. 高平公友

    ○高平公友君 私は、ただいま参考人の先生方のお話、初めてお聞きした意見もありますし、大変興味深く拝聴いたしました。   これから参考人の方に御質問申し上げたいと思  いますが、私はごらんのとおり専門家でありませんのであるいは的外れのことがあるかもしれません。しかし、一応私の考えておりますことについて皆さんから聞かしていただきたいと思うのです。持ち時間が二十分よりありませんので、きわめて簡単に要点だけお答えいただきたいと思います。   それでは、まず槌田参考人にお伺い申し上げた  いと思います。  いろいろ御身分に関するお話などもありました。それはそれとしまして、槌田参考人は変形工学研究室に現在所属しておいでになると聞いております。変形工学研究室というのは、工業金属材料とかプラスチック材料の製造、利用、材料の弾性、粘性、塑性など、こういう研究が行われておると聞いておりますが、間違いありませんでしょうか。
  18. 槌田敦

    参考人槌田敦君) 変形工学の研究室は金属だとかそれからプラスチックスだとかの加工の研究をしているわけですけれども、私の場合は特別研究室ということになっておりまして、特別研究室の世話をする方として変形工学の主任研究員がなされているので、名義的に変形工学という名前がついているだけです。
  19. 高平公友

    ○高平公友君 そうですか。参考人がいまおっしゃいましたが、大学で生物化学の研究とか物理学の研究、そして資源問題、こういうお話でありました。そのとおりだと思います。きょうは遺伝子の組みかえ研究についてお伺いすることになっておりますので、その面についてただいま御意見の開陳がありました。それで私としましても細々とお聞きしたいと思いますが、時間の関係もありますので。  槌田参考人は、いろいろと遺伝子についてP4のことも含めて御意見の開陳がありましたが、あなたは遺伝子の組みかえ実験をやっておいでになったことがありますか。
  20. 槌田敦

    参考人槌田敦君) 実験はしたことがありません。
  21. 高平公友

    ○高平公友君 したことはありませんか、実験のことについてお聞きしたいと思っておりますが。  それでは、この際、資源問題のことをやっておいでになるわけでありますから。先ほど小出先生から地球人口のお話がありましたけれども、否とおうとにかかわらず地球の人口というのはずいぶんふえていくだろうと思います。東大の宇宙科学研究所ですか、あそこでもお話をお聞きしましたが、少なくとも今後五、六百年たつとただいまの状況でいくと地球人口というのは百五十兆人になるのではないかと。これは数字の上でありまして、必ずしもわれわれはそうと受け取れぬわけでありますが、しかしいずれにしましても、人口がふえ、これに対応せねばならぬ。そうなりますと、従来の仕組みではなかなか人間というのは食っていけない。それで資源問題、このことがきわめて大事であろうと思います、食糧の問題にしましても。こういった面で積極的に槌田参考人に何かお考えがあれば承りたいと思うわけです。
  22. 槌田敦

    参考人槌田敦君) 人口がふえているというのはいまの事実の問題だと思います。したがって、それを延長すれば食糧不足だとか資源不足だとかという考え方が出てくるのももっともだろうと思うのです。  しかしながら、そこのところの考え方なのですけれども、何か、人口がふえるから対策として資源だとかエネルギーだとか食糧だとか、そういうような考え方で物事を進めていこうとしているいまのやり方には私は反対です。というのは、人口がなぜふえていくのか、どうしてこういうことになっていくのか、現実の社会の仕組みだとかそう  いうことを抜きに、そういう種類の何か対策、対策で追っかけられるようなやり方をしていてうまくいくわけはないと思うんです。つまり、何年か後に食糧を回復したとしても、また人口がふえて食糧をまた供給しなければならない、またそして人口がふえてまた食糧をつくらなければならないなどというようなやり方で進めていって、いいわけがないわけです。したがって、この問題に関する限り、もっと抜本的な物事の考え方なりをするべきだと思うので、いまそのことをここで申し上げる時間がいただければと思いますが。
  23. 高平公友

    ○高平公友君 わかりました。  それでは、遺伝子組みかえにただいま積極的に活躍しておいでになりますところの井川先生にお聞きを申し上げたいと思います。  組みかえDNA技術研究は、先ほどいろいろお話がありましたが、欧米先進諸国、世界各国が全力を尽くしてがんばっておる。日本もその中にあるわけでありますけれども世界のそういった先進国のレベルと比べて日本はどんなようなところに位置しておるか、お聞かせいただきたいと思います。
  24. 井川洋二

    参考人井川洋二君) 一言で言えば、かなりおくれていると思います。ことに動物細胞への遺伝子組み込みの技術、あるいは大量培養用の効果的な発現ベクター開発、こういった面では非常におくれています。
  25. 高平公友

    ○高平公友君 それでは、日本のこの分野研究を思い切ってレベルアップするためには、政府としてどのようなことに力を尽くしていけばよいか、この際先生の私見を承りたいと思います。
  26. 井川洋二

    参考人井川洋二君) たとえば、アメリカがちょうどがん研究をナショナル・キャンサー・アクトにしたみたいに、組みかえDNA技術を用いた先導的研究とか基盤的研究というものをそのぐらいのレベルに、そういうものに組み込んでもらうというようなことがあれば進むと思います。  それから、私は、むしろこの組みかえDNA技術に関しては、すべて外国おんぶというか、そういうのでなくて、たとえば安全評価の研究自分の国である程度はやるというようなことでないと、いつまでも借り物である。すべての情報は後から来るという姿勢を何とか改めるように、たとえば知識の交換にしても資源の交換にしてもそういう方策を打ち出してくれないとなかなか、いつも向こうがつくって、向こうが使って、その後から日本へ来るというような体制です。これは新しい宿主——ベクター系をつくるときもそうです。こちらでもってちゃんと安全性をチェックして、日本からむしろ外へ出すようなものをつくっていくということが大事です。安全性が確保された研究材料を自由に研究者に配るというような、そういう供給体制も日本は非常におくれている、そういうふうに思います。  そういう意味では、どうも、何かプロジェクトを持つのはわりに上手なんですけれども、そういうものを本当に支える支援業務みたいなのを根本からつくっていくという態度に欠けるように思います。その辺を振興していただければと思います。
  27. 高平公友

    ○高平公友君 わかりました。  それでは、その次に一つお伺いしたいのですが、先ほどの槌田参考人のような御意見もありますけれども、現在筑波研究学園都市で計画されておるところの遺伝子組みかえの研究施設が地元との、どう言いますか、もっと対話が大切であると思いますけれども、なかなか理解を得られないので進まないという、こういうぐあいにわれわれ聞いておるわけです。  この施設の完成がおくれることで遺伝子組みかえ研究の推進に、あるいはバイオテクノロジーの分野わが国がどんなような影響があるでしょうか、先生の思っていることをお聞かせいただきたいと思います。
  28. 井川洋二

    参考人井川洋二君) 考えているというか、いま考えているものはそんな非常に大きい研究所ではないわけですね。たかだか四十から六十人ぐらいのサイズのものだと思うのですけれども、しかしそれでも、いまわりあいにあそこの筑波研究都市などでは、縦割りになっているというか、お互いに研究者同士の交流というのもそう多いわけではないし、その中にこういう技術を持って入って、ことに安全性の普及と一緒にそういう技術を普及すればかなりの役割りは果たすものだというふうに思っております。  どうも日本人は、自分がもらったものを喜んで人にやるとかいうことをしない国民で、わりにそういう意味では資材供給とかそういう支援体制というものがおくれている国だと思います。その辺、そういう施設ができるかできないかでは、ここ一、二年の遺伝子組みかえ技術の進展にはかなりの影響を与えるのじゃないかというふうに私は思います。
  29. 高平公友

    ○高平公友君 わかりました。もっとも、先生の先ほどの御説明の中でも、安全性の問題はあるけれどもP4を含めた施設というのはきわめて重要であるという御説明があったことは、お聞きしたわけであります。  そこで、最後にですが、わが国におきましては、遺伝子の組みかえ研究により何かとっぴなものがその中から出てくるのじゃないか、物すごい怪物か恐ろしい病原体というものがその中から生まれてくるのではないかという懸念があるわけであります。そんなような、皆さんの心配されるようなことがあるでしょうかどうでしょうか。なかなかこれは未知の問題ではありますけれども、しかし学者としていろいろな研究をずっと進めておいでになりまして、そんなとてつもない怪物が出たりどうにもならぬ細菌がそうした実験の途次に出るというようなことが懸念されるわけでしょうかどうでしょうか。素人でありますからお聞かせいただきたいと思います。
  30. 井川洋二

    参考人井川洋二君) この問題は当初、たとえば五、六年前そういうことはもっぱら論議されたと思うのですけれども、恐らくもう欧米諸国ではこの問題はクリアしているところが多いと思います。われわれは、われわれの持っている遺伝子構造を解析した知見の蓄積からはそのようなものは出てこないというふうに了解しております。しかし、眠っている遺伝子とかもう壊れちゃった遺伝子とか、いろいろなものが入っていることは確かです。ただ、当初想定されたような危険性はないというのが現在われわれの了解しているところです。
  31. 高平公友

    ○高平公友君 わかりました。  それでは、小出先生にお聞きを申し上げたいと思います。  先生は、特に農業関係でありますか、組みかえ研究、非常に御活躍をいただいておることは承知いたしております。遺伝子の組みかえ研究というのは、最初は医薬品の生産ということに関心があったわけでありますけれども、今日に至りましては食糧生産分野においてですね、先生からもいろいろ先ほど稲作のことを一つ例にとりまして、耐寒性のもの、海水で植物が生育できるようなもののことまでいろいろとお述べいただきました。  研究に実際携わっておいでになる先生として、先ほど御意見の開陳があったわけでありますけれども、いまもちょっと申し上げましたが、否とおうとにかかわらず社会福祉を完備しそしてある程度人口制約しましても世界人口というのはふえていく。いまほど槌田参考人のお話もありましたが、私はその意見はとらないところでありまして、われわれはやっぱり将来というものも政治の中で、国の行政の中でよく見ながら、限られた資源の中でどういうぐあいに科学的に今後生きていくかということが大変大切だと思います。  その意味におきまして、食糧生産分野におきますところの先生の今後のいろいろな問題につきましての抱負などをお聞かせいただきたいと思います。
  32. 小出英興

    参考人小出英興君) 確かに、現在の地球上のわれわれが得られる太陽エネルギーというものはもう限られております。それから、それを利用し得る面積というものももうある程度限られておるわけでございまして、これを最大限に、いわゆるバイオマス——単位面積または単位体積当たりの生物の生産量をいかに上げ得るかということが一番問題であろうと思います。そういうことに対して、いわゆる遺伝子の持っている機能というものをそれぞれの植物なりそれからバクテリアなりに入れて、それを高度に利用するということで、恐らく現在まで行われてきました交配による品種改良ということに加わる一つの新しい技術として、この遺伝子組みかえというものが貢献していくことは可能であろうと私は考えております。
  33. 高平公友

    ○高平公友君 実は、私たちもいろいろ聞かしてもらっておるわけであります。最近ポマトという言葉があります、トマトとポテトを一緒にした。要するに、下に根粒菌をくっつけてトマトはトマトとして生産する。そんなものができたらこれは大したものだなという思いであります。あるいはまた、ヒマワリの強靱さとそこでたん白生産できるようなそういうもの、インゲンマメといいましたかな、ヒマワリとインゲン、何かそういうものが遺伝子の組みかえによってできるならば、あらゆる面において世界人口の食生活の面で大いに役立つだろう。そんな期待感を持っておるわけであります。  これは夢は夢でありましても、やはりそういう夢に向かって着実に一歩一歩進んでいくことが大切だと思いますが、どうでしょうか。さらにこの研究を実のあるものにどんどんと進めていただきたいとお願いするわけでありますが、国として一体どういう施策がこの際大切であるかということをお聞かせいただければ幸いだと思います。
  34. 小出英興

    参考人小出英興君) 農業における物の生産という場合は、医薬品とかそういうたとえば化成物質生産というようなものと違いまして、それは企業がもちろんできる問題でありますけれども農業生産の場合にはこれはどうしても国家的な事業として進めていかなければならないと私は思います。また、そういう意味で、ただ、いまプロジェクトを組んだから十年後にはすぐそういうものが出てくるのかということは非常にむずかしい問題でございますので、長期的な展望を持って、そして国の一つの大きなプロジェクトとして取り組んでいっていただきたいというふうに私は思います。
  35. 高平公友

    ○高平公友君 もう一つ、最後に先生に。  井川先生にお聞きした同じことを申し上げるわけでありますけれども遺伝子組みかえ研究安全性につきましてはいろいろな議論があるわけなんです。議論がありますけれども、先生としてはこれらの問題についてどういうぐあいにお考えになっておるか、その点お答えいただきたいと思います。
  36. 小出英興

    参考人小出英興君) これは二つの問題があると思います。  一つは、先ほど、初めのお話で申し上げましたように、非常に危険なビールスとかそういうものを遺伝子組みかえによって安全なものに置きかえるという意味においては、これはより安全性が高くなるということが言えると思います。そういうものを生産するためにはこの手段は非常に進歩的な方法であり、しかも安全性も増すということで、それからまた経費も非常に軽減されるということで、ぜひともこれは導入されるべきであろうと私は思います。  それからもう一つは、たとえば新しい品種の生物をつくってそれでいろいろの食糧生産をする場合に、その物質が持っているものが実際に動物を通してまたは植物を通して人の体に入ってくるわけでございますから、それの安全性というものは十分にチェックしなければならない。特に、野外というか自然界に放出するわけでありますから、その安全性のチェックを、ある機関を通じて監視をしなければならないということで今後やっていく。現在まだありませんが、農林省なり厚生省なりの機関でそれをやるべきであると私は思います。
  37. 高平公友

    ○高平公友君 どうもありがとうございました。終わります。
  38. 吉田正雄

    吉田正雄君 参考人の皆さんには大変御苦労さまでございます。社会党の吉田正雄でございます。  最初井川参考人にお尋ねをいたしますが、井川さんは第一線のすぐれた研究者ということで大変高く評価をされておるようでありますが、経歴で若干お尋ねいたしますけれども、フレデリック研究所というのは、これはかってアメリカの有名な細菌兵器研究所だった。それを現在の施設に平和利用という名のもとに改修をしたということが言われておるわけですが、そこに井川さん、かつて研究においでになったことがおありですか。また、もしおいででしたらどういう研究をされたのか、ちょっと初めにお聞かせ願いたいと思います。
  39. 井川洋二

    参考人井川洋二君) 私はフレデリックがん研究所では働いたことがありません。NIHのキャンパスの中にあるバイオハザード・ビルディングのP3施設及びP4施設では働いたことがございます。
  40. 吉田正雄

    吉田正雄君 それでは、先ほどもちょっとお話がありましたけれども癌研安全性研究をやっておいでになったということを聞いておりますけれども、主としてどのような実験をおやりになっておったのか、その施設はP3だったのでしょうか、どうでしょうか。
  41. 井川洋二

    参考人井川洋二君) やった実験は、まず現在すでに認められているものの宿主——ベクター系の腸内における生着性、主にマウスにおける腸内の生着性、それから皮下における生着性、それからそれに動物の、これはマウスですけれども白血病ビールスの全遺伝子を入れた組みかえ体、それの投与実験による生着性及びそのDNAの漏れの実験、及びそこから出てくるビールス遺伝子の発現の研究、これを癌研究所の中へ設置しましたP3の実験施設で行いました。  それで、バクテリアのいわゆる最初に組みかえ体をつくるところのP3施設動物用のP3施設とは分けて設置してあります。動物用のP3の実験施設は、特にその動物が逃げないような配慮とか、そういうことがなされてありました。
  42. 吉田正雄

    吉田正雄君 そこでは、無菌動物を使っての実験が行われたわけですか。
  43. 井川洋二

    参考人井川洋二君) 両方です。無菌動物を使った実験と、それから有菌動物——普通の動物とあります。  無菌動物を使った理由は、これまでに認められていた宿主——ベクター系を使うものですから、それは有菌動物に入れますとたちまちにして、二、三日ぐらいで菌がなくなってしまいます。菌が出す遺伝子の効果を見るためにはなるべく長い間腸内に生着してもらわなくてはならないので、それで無菌動物を用いました。これですと、たとえばEK1の宿主ですと約二週間ぐらいは中に生着します。皮下の場合ですともう少し長い間生着します。
  44. 吉田正雄

    吉田正雄君 P4に対する理研当局の説明がいろいろ変わっておりまして、私どもが聞いている範囲でもどちらが一体本当なのかという疑問がずいぶんわいておるのですけれども、いまの、無菌動物を扱ってきたということになりますと、P4というのは特に必要がないのじゃないかというような感じもしますし、それから新しい規制では先ほども段階くらい下がるのだという、規制緩和という話があったわけですが、そういたしますと、一体P4施設というものをつくる必要があるのかどうなのかということと、その場合には陰圧になりますから、無菌動物というものが飼えないのじゃないかという感じもするのですね。  そのことと、それから共同利用研究も行うのだということが盛んに言われているのですが、これについては同じ研究者、学者の中でも、共同研究なんというのはとんでもないというふうなことをおっしゃっている方もおいでのようですので、そうだとするなら、共同研究ということになればP3でいいのじゃないかというふうに思うのですが、その辺どのようにお考えになっているのでしょうか。
  45. 井川洋二

    参考人井川洋二君) 新しい宿主——ベクター系安全性の評価は基準には示されていませんので、P3を使うかP4を使うかは本来はそこの部局の安全委員会が決めることです。しかも、基準には書いてありませんから、その部局の安全委員会でたとえばP4を使えという判断が下されても、もう一度それを国家の安全委員会に出して、国家の指導においてそれをやるかどうかを決めなくてはなりません。  ですから、P4を使うかP3を使うかは本来はそういう中の安全委員会で決定することですが、しかし基準に示されてない新しい宿主——ベクター系はより安全性が高いとは思われない、経験が余りない。その中にある特異的な遺伝子を入れて長い間観察するときに、その遺伝子がいまの基準でもP3を要求されているときには、その遺伝子安全性を探るときにはP3以上を要求される可能性は十分あります。  それから、こういうことがあります。たとえば大腸菌で、われわれの腸内に生着できるようなものを使った方がより生産性が高まるというような要求がこれからどんどんできてきます。それからもう少しいきますと、恐らく、ことに生産性を高めるための工夫を大腸菌にするということをします。そういうことはもう世界ではかなり進んでいます。日本が一番おくれているのです。そういうことをしたときに、それがどれだけ安全か安全でないかというのを基準に照らして返答する必要があります、そういう実験をさせてくれと科学者が言ってきたときに。そのときに正しい科学的根拠を示すというのには、安全実験をちゃんとやっておかなくてはならない。その安全実験の一部には僕はP4は絶対要ると思います。たとえば無菌の、SPFのマウスは外から昆虫が入っても困るのです。  それから、陰圧では飼えないはずだというのは全くの間違いで、陰圧にせよ陽圧にせよ、中にいろいろな菌を与えたマウスを飼っていくときには、そこの空気の流れに方向性が要るのです。もし方向性がないと、菌は右に行ったり左に行ったりして、どの動物からどううつったかわからなくなるわけです。何匹も動物を飼っていて、その中で菌があちこちに行かないためには方向性が要るのです。それは陽圧か陰圧なんです。P4施設というのは、陰圧にしておいてなおかつ外側とヘパフィルターで完全に遮断しているので、そういう意味では最初段階のこういう実験をやるのには適しています。そして、たとえばふん便を検査してそういう危険がないということがある程度規模の小さい実験でわかったら、それからP3に移したりP2に移したりという判断をまたその安全委員会がしたらいいというふうに私は思います。
  46. 吉田正雄

    吉田正雄君 その点について槌田参考人にちょっとお尋ねをいたします。  私も、理研当局とか科技庁の説明を従来聞いてきた範囲では、P4施設をつくらなければならない根拠というものがどうも十分理解できない。危険なものは取り扱わないという説明が盛んに行われておって、そうであるならば、P3の施設で十分やれるではないかというふうな感じできたのですけれども、理研の研究者としては、このP4施設というものはやはり必要だと、多くの研究者の皆さんもそのようにお考えになっているのかどうなのか、その点をまずお尋ねいたします。
  47. 槌田敦

    参考人槌田敦君) 理化学研究所の多くの研究者は、P4について必ずしも必要だとは思っていないと思います。
  48. 吉田正雄

    吉田正雄君 一部聞くところでは、多くの皆さんといいますか、非常に多数の皆さんがP4は必要ないと。結局科技庁から押しつけられたのじゃないかというふうなことを盛んに言われておるわけですけれども、P4はやむを得ないと思っている方が多いのか、それともP4は必要ないので建設はやめるべきだ、そういうものは必要ないといべふうにお考えの皆さんが多いのかどうなのか、その辺お聞かせ願いたいと思います。
  49. 槌田敦

    参考人槌田敦君) できることならばP4の研究所は理研で持ちたくないと考えている人の方が多いと思います。しかし、科学技術庁がどうしても押しつけてきているのでやむを得ないではないかと言う人もいます。それからまた、P4があった方がいいという意見の人もいるのですけれども、それは日本のどこかにP4があった方がいい、一つぐらいはあった方がいいという意見でして、何も筑波につくってくれと言っているのではないわけです。
  50. 吉田正雄

    吉田正雄君 筑波につくってくれと言っているわけじゃないというもう一つの大きな要素といたしまして、私は現地住民の意向というものが非常に大きくまた働いているのじゃないかという感じもするわけです。  ことしの二月十九日に現地のP4施設建設反対の婦人の会という代表の皆さんがおよそ七、八十人も見えまして、このときには科学技術庁、それから理研当局者もその会に出られまして、婦人の会の皆さん方の意見というものを十分お聞きする機会があったのですけれども、一言で言うならば、安全性がまだ確認をされていないということと、危険なビールスといいますか、そういう細菌は扱わない、微生物は扱わないという説明があったかと思うと、そうでない説明というものが行われておるのではないか。  たとえば、ちょうど井川参考人がおいでになっておりますので、これはお尋ねしたいと思っておったのですが、ライフサイエンス筑波研究施設建設に関する討議資料ということで谷田部町の農業委員会が何回かにわたってそれぞれの賛成、反対の学者の皆さんをお呼びして学習会といいますか、そういうものを持っておいでになるわけです。  それで井川参考人が今年三月六日にこの農業委員会の主催する学習会といいますか、そこに出席をされて、渡辺という人がこういう質問をされているわけですね。「たとえば、このP4の施設というものに、外部から、民間でも、民間でなくても、研究を許可されているものが、許可されないような伝染病を持ち込んできて研究することは、やろうと思えばできるのですか。」、こういう質問に対して井川参考人は、「それは可能ですね。たとえば、こういうことが起こります。国じゅうにある伝染病が広がったとする。そのとき、国家的な見地からそれに対してワクチンをつくれという強制命令が出たとします。その場合には使える可能性は残っています。」ということや「誰か特別なひとから指令が出て、行なわれるという可能性は残っていますが……。」と、こういうふうにお答えになっていますね。  これは速記録だろうと思うのですが、これが正しいとすると、いま言われたようなことをお話しになっているということで、現地住民としては、これは大変なことじゃないか、そんな危険なものを取り扱うようなP4施設であったならば、しかもそれは第二種住宅街のど真ん中だ、何でそんな危険なものを住宅地の中につくるのかということで、住民の皆さんの反対の意向というのは多分その二点ではないかと私は思っておるわけです。  そういう点で、いまの井川参考人の御意見というのは、大体そういうふうなことをおっしゃったのでしょうか。
  51. 井川洋二

    参考人井川洋二君) 私が記憶して、いつも何度もちゃんと確認して言っていることは、そこの研究所が研究する主たる目的は病原性細菌研究することではないということを何度も言っています。  私が一番研究したいのは、われわれの体の中の細胞がどういう仕組みでもって遺伝子を働かして機能を発揮しているのかという知識を得て、それを医学生物学にできるだけ還元したいということが先導的研究としての主たる目的であるとして話しているわけです。  ただ、これから科学技術会議及び文部省学術審議会が公示する指針では、一般の組換えDNA実験指針が示されていますけれども、その中に別表がありまして、ここまでは普通の研究所でもって一々国にお伺いを立てなくても組みかえDNA実験をやっていいですよ、そこの施設判断でやってくださいというのが示されております。それはウイルスとかあるいは細菌に関してそういうことが示されています。  この程度実験はという中で、ことにいわゆる予研の分類というのがあります。予研に安全性の分類というのがありまして、病原性微生物のクラス分けというのがあるのです。アメリカのCDCの基準参考にしつつ決めたものです、大体それにのっとって。その中で、2bクラス以下——それはどういうのかといいますと、通常の微生物操作法で感染を防げる、万一かかっても発病しない、こういう中に当たる2bクラスというのがありますけれども、その2b以下は生きたままの菌を扱う余地を残しておく。ただし3a、これは実験室感染の機会は多いが軽症で済む、機会は非常に少ないが重症になることがある、この3aクラスのものはDNAとして持ち込んで組みかえ実験に協力することはある、こういうふうに私は何度も答えております。
  52. 吉田正雄

    吉田正雄君 その3aにはデング熱とかあるいは狂犬病、コレラ、チフスあるいは結核菌、こういうものが含まれているのですけれども、そういうものも想定をされておるわけですね。  それからもう一つは、厚生省の大谷さんの場合は、筑波にできるP4施設、危険な実験等はそこを考えておりますということを私どもの質問に答えておいでになるのですけれども、そういう点では政府部内の見解が統一をされていないのじゃないか。いまおっしゃっている井川参考人の説明というのは理研当局の明確な意思なのか、あるいは研究者として井川さんが自分ではそのように考えておるということなのか、その点はどうなんでしょうか。
  53. 井川洋二

    参考人井川洋二君) 私がいまお話しした病原性細菌等に対する取り扱いのところは、理研自体もそれを支持しているものと私は考えております。  それからもう一つ、大谷さんとの問題は、遺伝子組みかえに関して大谷さんのところと私のところだけがやっているように考えるのは大いに間違っています。  遺伝子組みかえは、いま実際にワクチンをつくったりなんか、各大学等でもう非常に積極的に始めております。それから、DNAにしてしまえばかなりの安全性が保てるというところで恐らくはかの施設でもどんどん始めると思いますので、大谷さんのところでそれができないとか、そういう問題では全くないと思います。恐らくいままで文部省関係で扱ったようなワクチンの製造等に関するものというのをレビュー、復習すればわかりますが、これはとても、われわれP4を持つ施設だけに注目して、こっちがやらなければあちらでやるだろうというような範疇のものでは全くない。どこでも、たとえば文部省なら文部省学術審議会実験を承認すれば、たとえ3bクラスのものでもそこが適当と思えば組みかえをどうぞおやりくださいという判定が下るわけです。
  54. 吉田正雄

    吉田正雄君 そうすると、いろいろな伝染病の研究の可能性というものがある、会議にかけてそれが認められれば行われるということになるわけですね。
  55. 井川洋二

    参考人井川洋二君) 各研究機関でそれを行う余地は十分残っていると思います。  ただ、理化学研究所の私ども考えている研究施設では、むしろ病原性細菌のそういう問題を扱うことよりも先に、ほかにやる目的があって、たとえば共同研究としてあそこの周辺の研究機関が、ここまでDNAにしました、3aクラスの病原微生物の一部の遺伝子を増幅したいので組みかえてくださいというような共同研究を申し入れたときには、それに応ずる用意があるということを申し上げているのです。しかも、そういうものはすべて、そこの部局の、たとえば町の人やなんかも加えた部局の安全委員会をまずクリアしないとその遺伝子組みかえの実験には取りかかれない。これは基準内であればそれでいくわけです。その上の、もしもそれが基準以外の安全性試験なんかだったら、さらに国家に、その実験をしていいかという旨の承認を得る必要があります。
  56. 吉田正雄

    吉田正雄君 住民が一番心配をいたしておりますのはそこの点だろうと思うのです。安全評価以外の、そういう危険な病原菌を取り扱う。これが、いま言ったように、いろいろな安全委員会等で検討されて、よろしいということになっていけば、どんどんとそれが拡大をされていく。そういうことの将来についての歯どめがいまのところ明確にされていないじゃないかという点で、私は住民の皆さんが非常な不安を持っておいでになると思うのです。いまのお話をお伺いしても、そういう心配がやっぱり残るわけなんです。残るというか、逆に何か強くなるような感じがするのです。  先ほど安全性の問題については宗川参考人の方からも話がありましたけれども、私は、科学の世界で絶対ということはあり得ないと思っているのです。したがって、安全性の問題について、共同研究も認められておるのだということも言われておるわけですから、そういう点で取り扱い者の人為的なミス、事故というのは大体人為的なミスによって起こる場合が非常に多いわけですね、これは原発等の事故を見てもそうなんです。結局人間がつくり人間が運転をしということなんですか、ら、この人為ミスを一〇〇%なくすことはこれは不可能であるわけです。そういう点で、私はこの安全性というものはどれほど心配をしても心配し過ぎるということはないだろうというふうに思っておるわけです。  そこで、なぜ筑波の町の中に、研究学園都市の中につくらなければならないのか。P4ほど厳重管理を要する施設はないわけなんですが、共同研究となったら、一体そういう厳重な管理というものが行えるのかどうか。逆に言うと、そういう厳重な管理をやったら、また研究が遅々として進まないという結果に陥るのじゃないかという二律背反的な場面が出てくるのじゃないかというふうな感じもするんですが、その点。  それから、井川参考人の去年の二月の朝日新聞の記事では、そういう危険なウイルスを扱うP4レベルの施設というものは孤島につくることが望ましいのだというふうな趣旨の発言をされておるのです。それを筑波の住宅街のど真ん中に、住民が猛反対をやっている、しかも一万二千名の皆さんが反対署名に名を連ねておるという中で、何で強行しなければならないのかということなんです。  多くの皆さんが、P4というのはできたらそれは孤島とかと。いわんや住宅街のど真ん中というのは常識外れじゃないかと。これは多くの研究者の皆さんが、遺伝子組みかえの研究に賛成をしている学者でも多くの人が、筑波の谷田部町の住宅街のど真ん中につくるというのは常識外れではないかということを指摘されているのです。井川さん自身も孤島につくることが望ましいのだということを述べておいでになるんですが、この点はどういうふうにお考えになっているのでしょうか。
  57. 井川洋二

    参考人井川洋二君) 最初に共同研究のところから言いますけれども、たとえば、新しい組みかえ用の細菌と新しい組みかえをするためのDNA分子をつくりました、これの安全性をチェックしてくださいと。その一部にP4をこちらが使うというときに、その宿主——ベクター系開発は当然共同というかっこうになります。向こうが開発をして、それの安全性をこちらが確認するというのは共同研究と言って差し支えないと思います。そのときにP4をどういうふうに使うかということは、かなりの部分はやはりこちらへ任してもらわないと困る部分があります。P4というのはそう簡単に使えないこともあります。  それから、たとえばP3レベルまで下がって、一部の実験を、注射などを手伝ってくださいということは、その能力とか訓練の度合いに応じて行ってもらうことがあり得ます。しかしそれは、先ほど言ったように共同実験ということの定義です。  次に、いまどうしてそこの場所につくるかということ。一番最初ライフサイエンスセンター構想として昭和四十八年から理研が確保していたところへ、そのライフサイエンスセンターにちょうどDNA組みかえ実験が来たという事柄があそこの実現化にはかなり働いていたと思います。  私の方から言えば、そういう実験施設を含んだ研究センターは、細菌のモニターやなんかを行いますから、恐らく普通のところよりもよりきれいに運営できると思います。たとえば一般の病院などでいろいろな落下菌などを調べるよりももっときれいに管理できるというふうに思っていますので、周りに人家があろうが何があろうが大丈夫だと思います。  それから、朝日新聞の二月の記事に関しては、あのプラムアイランドというのは御存じの方はよく知っていらっしゃると存じますが、あれは主に口蹄疫のためです。口蹄疫は、牛を焼き殺したときにその煙が飛んでいった方向の牛までも感染するというほど猛烈に強い伝染病で、人間にはこれだけ強いものはありません。そのために、牛を失いたくないという気持ちをイギリスの苦い経験でアメリカが持ったので、ああいうところでやったわけです。  遺伝子組みかえというのは、それは遺伝子組みかえ自身でなくても、いま、人間に伝染するもの、天然痘も含めて、それはたとえばCDC——日本の予防衛生研究所に相当すると思いますが、それなんかのP4施設は町の真ん中にあります。隣にホテルもあり、周りに人家もあります。それはよく御存じだと思います。それから、私自身が働いていたP4施設も、NIHの中ではちゃんと周りにライブラリーもあり、普通の人家も近くにあるところです。ですから、それ自体は何ら周囲に危険を及ぼすものでもない。むしろ一番大事なことは、研究者も周囲の人と一緒になってやるというような問題が一番精神衛生その他に関して事故を起こさないもとだというふうに私は思っております。
  58. 吉田正雄

    吉田正雄君 次に、事前アセスメントについてちょっとお尋ねしたいと思うのです。  井川参考人も理研内の説明会では、事前アセスメントについては当然やっていると思う、それをやらないことにはそういうものはとてもつくるなんということにはならないのじゃないかと思うというふうなことを、昨年の暮れにおっしゃっているわけなんです。そういう点で、これは原発の場合もそうなんですけれども、住民の立場からしては、一方的に安全だ安全だと言われてもそれはなかなか信用できない。当然事前のアセスメントもやるべきだという考え方があるわけなんです。これは、これからもおやりになるのですか。——これは理研当局にお聞きをすることなんで、参考人に直接お聞きをすることがいいのかどうかちょっとあれですが、井川参考人としては、去年の暮れの説明会では、当然やるべきじゃないかと思うという旨の発言をされておるというふうに聞いておるのですが、この点。  ついでに、その点については槌田参考人も、事前アセスメントの必要性なり意義をどのようにお考えになっているのかお聞かせ願いたいと思うんです。
  59. 井川洋二

    参考人井川洋二君) いま言われましたように、本当は私がコメントするところは余りないんです。ただ私は、そこがそういう趣旨の研究所を建てるのに適したところかどうかということは当然いろいろな点でチェックすべきだという一般意見を述べたわけです。それは、周囲の人が、たとえば、あそこは非常に風が強いとか、いろいろなことを心配している方もいます。やっぱりそれはちゃんといろいろなことで説明をすべきだと私は思っているし、必要なものは当然検討すべきだというふうに私は考えております。
  60. 槌田敦

    参考人槌田敦君) 事前アセスメントがどうして必要かということの話になるわけですけれども、それはいま吉田議員の方で言われましたように、理研当局が安全だ安全だと言えば言うほど、それはみんなにとってみれば不安が増強してくるわけです。それは、一方的な安全だという宣言だけだからですね。そういう意味で、ここの部分はどうしても科学者である以上、客観的な表現ということが必要なわけです。それをなぜ理研当局がなさろうとしないのかということは、私ども理研に勤めている研究者としてみれば非常に心配の種なわけです。つまり、ちゃんと説明ができていないじゃないか、それでつくるつくるという話ばかり先行している、それはおかしいと思うんです。  事前アセスメントというのはどういうことをするのかというのを少しまとめてみたいと思うのですけれども理化学研究所がそこで業務をしたとすると、その業務の影響がどのようにあらわれるのかということを評価することです。これが第一点です。  第二点は、そういうことの影響、深刻な影響が残らないようにするためには業務の範囲をどこまでとするかということが第二点で必要なわけです。いかに遺伝子操作が必要だというふうに言ってもやっぱりこの範囲までしかできないということがあるわけです。だから、どこの範囲までできるのかということを第二点目としてしっかり押えることなんです。  それから第三番目は、仮にその業務の範囲が決まったとしましても、それをつくる設備の要点を決めるのが第三点目に必要なわけです。なぜなら、弧島につくるのと住宅地につくるのでは、同じP4でもつくり方が違うと思います。  したがってこの三点の事前アセスメントは絶対必要なのに、それをいままでやっていないのです。これは科学を研究する研究所としては、一番最低のやり方をしているように思えてなりません。  それで、これに関連して、事故後の実害のほかに、住民の心理的な問題もやっぱり考える必要があるんです。これは、アメリカのスリーマイルの原発の一号炉の、これは事故を起こした原発ではありませんけれども、その再開を認めないとした裁判所の決定にそれが出ているわけです。住民の心理的影響を考慮すべきであった、それがしてない、事前アセスメントがなかったということで、これが却下、再開が認められておりません。そういうことも含めて、理研当局にしろ、もう少しちゃんとした対応をしてほしいと私は思っています。
  61. 吉田正雄

    吉田正雄君 次に、いろいろな実験室における災害、生物災害と言ったらいいのでしょうか、バイオハザードについてお尋ねをいたします。  いろいろな雑誌等にいままでの災害例というものが紹介もされておりますけれども、バイオハザードについては、今度建設が予定されておりますP4施設、ここでは一体防げるのかどうなのか。先ほどもありましたように、事故とか災害というものは人災も非常にあるわけですから、そういう点で、このP4についてはどのようにお考えになっているのか。  それから、過去どのような実例があったのか。井川参考人、それから槌田参考人から簡単にお聞きをいたしたいと思います。
  62. 井川洋二

    参考人井川洋二君) 本当の意味遺伝子組みかえの実験で、過去に何か災害があったという事実はありません。  ただし、遺伝子組みかえとは関係なく、ある菌とか、そういうものを扱った上で事故が起こったというのは若干承知しています。それは、すべての生物の実験、たとえば学校の中でやっている細菌実験も含めて、昔はかなり事故があったことはありますけれども、それはもうかなり皆さんの知識で、あるいはバイオハザード機器なんかの開発で防げるようになりまして、いまわれわれが考えている範囲の事柄では、周囲に全く危険を及ぼすことがなくすべて対応できるというふうに思っております。  たとえば、先ほど来、P4は要らないじゃないかという意見を出されましたけれども、少しでもそういう危険性があることを考えたら初段階実験はP4を使って完全に封じ込めてやるという態度が必要ですし、日本指針は外国の指針と違いまして、封じ込めということを根本に置いているのです。外国は、生物は散らしてしまえばいずれ死んでしまうということを基本にしております。しかし日本は、アイソトープというか、放射性物質の扱いと非常に似た扱いを生物に関しても行っていまして、そういう意味で、より安全にするために、P4を初段階実験に使うというふうに私は考えております。
  63. 槌田敦

    参考人槌田敦君) P4施設とそれから危険の関係の話になりますけれども、科学者というものの性格をちゃんと知っていただきたいと思うのです。  危険なものだからP4で扱うというのではなくて、科学者というのはその装置に合わせて研究計画を立てるということです。それが科学者の一番の特徴的な点です。したがって、P4の装置というのは危険が予想される実験をすることができる、そういう実験をすることができるためにつくられているものですから、科学者はP4施設があれば予想される危険の実験をすることになります。したがって、もしP3であればP3の範囲で危険な実験をするわけで、それと、P4の範囲で危険な実験をするのと比べれば、危険はどちらが高いかというのは明らかです。それは、P4でやる方がずっと高い危険のものを扱うことになってしまいます。したがって、そもそもP4でやるから安全だという発想は間違っているはずです。  それの上に、P4というのは、事故を起こしたときに、多くの場合は人為ミスが一番基本的なものになりますけれども、放射能と違うという点が強調されなければならないと思うのです。放射能ですと、これはちゃんとしたカウンターがあります。したがって、どのくらい漏れたとか、それがどうしたとかということはチェックできるわけです。しかしながら微生物の場合はそういうようなチェックの機能がないというところが特徴になるわけで、したがって、もし漏れ出したとしたら、結果として発見の方法は発病だけになってしまう。そこが、P4が放射能施設に比べて不完全な設備であるということの理由になるわけです。  この問題について言いますと、たとえば空気の呼吸だとかそういうことではわかるかもしれませんし、P4では体を洗ったりなんかすることになりますから、そういうようなのはわかるのですけれども、しかし、体内に感染したようなものを持って外へ出られることを防ぐことはできないわけです。放射能の場合ですと、体内の場合でもモニターを通して見つけることができますけれども、こういう病原体の場合には、体の中に入ってしまったものまで洗い出すということはできません。それから胞子のたぐいは死にませんし、それからひび割れなどがありますと昆虫の出入りは自由になりますし、こういう種類のものに関してはなかなか防ぎようがないわけです。  そういう意味で、バイオハザードというのは、設備を高度にすればするほど安全という形にはならないと思います。
  64. 吉田正雄

    吉田正雄君 時間がそろそろなくなってまいりましたので、次に小出参考人にお尋ねをいたします。  小出参考人遺伝子組換え研究施設検討委員会のメンバーでおいでになるわけですけれども、この検討委員会は何回開かれて、参考人としては何回出席をされて、主としてどういうふうな観点で御意見をお述べになったのか。簡単で結構ですがその一点。  それから二つ目は、谷田部町議会に対しての陳情書、まあ請願だと思うのですが、ことしの二月ですか、その発起人に名前を連ねておいでになるのですが、この陳情文の内容を見ますと、P4建設という文字は見当たらないのですね。研究施設をつくってもらいたいというふうになっているのですが、署名の目的がどういうところにあったのか。それから、施設を高野台というふうには言っておいでにならないですね、この請願書の中では。では参考人としては一体P4というふうに想定をされておるのかどうなのか、また、もしP4ということであるならば、この高野台の、先ほど来指摘をしております住宅街の中でいいというふうにお考えになっておるのかどうかという点。  それからもう一点ですが、先ほどもちょっと井川参考人にもお尋ねをしたのですけれども、P4施設と共同利用施設というのはやっぱり矛盾をしているのじゃないか、こう言う研究者が非常に多いんです。大して矛盾はない、それは区分をしてやるのだというふうな井川参考人の御意見でもあったのですが、この点については小出参考人としてはどのようにお考えになっておりますか。
  65. 小出英興

    参考人小出英興君) 初めに、施設検討委員会についてでございますが、ちょっとはっきり記憶をしておりませんが、五回か六回にわたって行われたと思います。  当時私は家畜衛生試験場におりまして、遺伝子組換え研究会を私のところで開始いたしまして、同じ研究者グループが非常に大ぜい集まるようになりまして、私はその委員のお世話をしておりました。そういう関係と、それからもう一つは、実は先ほどからたびたび話が出ています口蹄疫研究施設というものが農林省の家畜衛生試験場の中にはございます。その研究施設は非常に高度のバイオハザードを防ぐ施設になっておるという関係で、たびたび理研の方々もそれを参考にしておられました。それで、私どもはそれを筑波移転の際に、実はそれは口蹄疫施設ではないのでして、それは要するに悪性伝染病の発生したときにそのウイルスが果たして動物をどういうふうにして倒すかというようなことを実験するための施設ですが、そういう隔離施設についての知識がございましたので、その点から、その建設委員会出席をいたしまして私は意見を述べたわけでございます。  それからその次の、谷田部町に陳情書を出したことでございますが、私ども研究会の——研究会というのは実は海外からの方やまたは日本における遺伝子組みかえのかなりの成果をおさめられた方々の発表をそこで伺う会なんですが、その折に、理研の方からもそういう研究に関しての交流もございましたし、それからその建設に関しての御説明も私どもにございました。研究者としても、私どもとしてはそういう研究施設をいわゆる遺伝子組みかえの中心的な機関としてぜひとも筑波に欲しいという意見もございました。そして、その意見を私どもとしては、反対をしていた谷田部町に提出してお願いをしたわけでございます。  それから第三点ですが、共同利用ということでございますが、これは現在筑波には私ども動物施設に関するバイオハザードの非常に厳しい設備がございますが、そこは遺伝子組みかえをやる施設ではなくて、動物に感染を行う実験室でありまして、筑波には事実上そういう遺伝子組みかえを行うような施設の高度なものについてはございません。ですから、当然、何か大きいプロジェクトを持ってきた場合に、たとえば家畜衛生試験場では、そういうワクチンを生産するとかいう場合には、そういうところでその技術とそれから施設を利用させていただいて私どもの国家的な重要な、たとえばそういうワクチンの生産をするための業務を行いたいというために、共同利用ということを言っております。  以上でございます。
  66. 吉田正雄

    吉田正雄君 どうもありがとうございました。
  67. 太田淳夫

    太田淳夫君 太田でございますが、参考人の皆さん方にはきょうは大変お忙しい中を貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございました。  二、三御質問させていただきます。  最初井川先生に。先生は癌研究所ウイルス腫瘍部長さんでいらっしゃいますし、やはりがんの撲滅ということは人類の主要なというか、究極的なターゲットではないかと考えられるわけですけれども、そのがん研究、予防あるいは治療でございますけれども、それにおける遺伝子工学の役割りあるいは早期実現見通し等、先生の御意見を賜りたいと思うのですが。
  68. 井川洋二

    参考人井川洋二君) がんというのは結局細胞病気なわけです。細胞の機能というのはすべて、その細胞の核の中に保持されているDNAによって規制されるわけです。したがって、その遺伝子がどういうふうにがんで調節が狂っているかとか、どういう遺伝子が特に働いていてがんになっているかとかということはきわめて重要で、去年の日本癌学会の総会でも、そのテーマで司会をいたしました。  それで、これは広い範囲にかかわっております。  たとえば、先ほど私が述べたのは、がん遺伝子がんを起こすときに働いている遺伝子のお話、これが組みかえDNAで見つかってきて、現実にヒトの腫瘍の中からそういうものが単離されて、それが本当にどのくらい広い範囲で働いているか、細胞がんにさせるのに関与しているかという研究がいま進んでいるわけですけれども、そればかりではなくて、たとえばわれわれ薬を飲むと、薬を代謝するいろいろな酵素が働きます。そういうものも、たとえばがんを起こすような物質が体に入ってきたときにそれを解毒するようなもの、あるいはその逆に、それを活性化するような遺伝子、そういうものもあります。  たとえばベンツピレンなどというのが化学物質でありますが、非常に強い発がん剤ですけれども、そのベンツピレンが活性化するにはチトクロムのP四五〇という遺伝子の働きが要るのです。その遺伝子が働く。それが一々、化学発がん物質が違ったのが入ってくるとまた別なのが働く。こういう意味で、化学発がんに対しても遺伝子の解析がきわめて大事だということがわかってきました。もちろん、これまで述べましたように、インターフェロンは必ずしもがん細胞を駆逐するというふうなことだけではありませんが、肝炎ウイルスなんかには効くみたいですが、そういう遺伝子もとられてきているわけです。  それから抗生物質をこれから広範にいろいろつくる。しかもその中にはがんに特異的に効くようなものが探されると思いますが、それもそういう遺伝子組みかえ技術でもって研究が進んでおります。それから、われわれの体の中には、がんが起こってきたときにそれを排除しようとするような、主に細胞免疫みたいな機構があります。その細胞免疫の仕組み、どういうふうに働くかというその仕組みが、いまこの遺伝子工学の技術でもってきわめて明らかにされつつあります。  ですから、がん細胞病気で、その人の体の中から出てくる。そういう細胞の機能を支えている遺伝子の違い、たとえば肝臓がんですとアルファフェトプロテインという胎児のときの肝細胞がつくっているたん白がありますけれども、それが肝臓がんの診断の指標に一つなります。どうして胎児のときのたん白が、肝臓細胞がんになったときに働き出すのか。こういうようなメカニズムもいまの遺伝子組みかえの技術で少しずつ明らかにされつつあります。こういうふうに広くがん研究にかかわっているので、遺伝子組みかえの技術の有用性を御理解願いたいのです。  この前、総理府の統計局の広報にありましたが、がん研究というのは非常に科学技術の上で大事だということで五六%と非常に高かったのに、翻って遺伝子組みかえとなると途端に一〇%ぐらいになっちゃうんですね。これは大いに間違いで、がん研究でこれから新しい進展を見せる技術というのは恐らく遺伝子組みかえの技術の導入だというふうに私は思っています。
  69. 太田淳夫

    太田淳夫君 宗川先生のパンフレットをいまいただいたわけですが、この中の「インターフェロン研究の将来」というところで一つの具体的な問題をお話しになっているわけです。  それは、インターフェロンというものの「生体内における本来の機能ががんの発生やウイルス感染に対する防御であって、すでに発生してしまったがん細胞や増殖しつつあるウイルスに対してはあまり効果がないという可能性もある。」、こういうことをおっしゃっておられますね。「もしそうならインターフェロンは治療薬というよりむしろ予防薬と考えた方がよいのかもしれない。」と。それからちょっと飛ばさせていただきまして、「そのことから口から飲んで胃や腸管で吸収される全く無害のインターフェロン生産誘発物質開発が望まれている。」、こうおっしゃっていますが、この見通しはどうなんですか。
  70. 宗川吉汪

    参考人(宗川吉汪君) 誘発物質開発の見通しという御質問でしょうか。  誘発物質に関しましては、インターフェロン研究の初期からありまして、いまのところ余りいいものがありません。ですけれども、そこに書きましたように、インターフェロンがんの本当に治療薬になるかどうか、いま臨床試験がやられておりますので、その結果は多分ことしじゅうあるいは来年の初めぐらいには一定の見通しが立てられるのじゃないかと思いますけれども、当初皆さんが考えていたみたいな抜群の効果があるということにはいまのところ残念ながらなっていないように思います。  インターフェロンを効かせるということでは、何かなるべく低分子の誘発物質があればあるいは予防薬として効くのじゃないか、そういうふうに思っていますし、思っている人もかなり多いというふうに思います。
  71. 太田淳夫

    太田淳夫君 それでは、安全性の問題で井川さんにお伺いしたいのです。  先ほども同僚委員からお話がございましたけれども日本では遺伝子操作する実験規制を大幅に緩和する方向にいま来ているわけです。これは、日本世界で一番厳しいということからも、早く緩和しろということがいろいろな方面から言われてきたようでございます。  アメリカの場合はかなり基礎的な研究の充実を経てこのガイドラインというものは緩和されてきましたけれども日本の場合ですと、そういった研究とか実験の経過が多少異なっているのじゃないかと思うのですね。先ほど同僚委員が言っておりましたけれども日本独自の安全性の確認の実験が行われていない。大体欧米のデータをかりてこれが行われている。アメリカではやがてガイドラインがなくなってくると言われておりますし、そうなりますと日本もますますこれは緩和されてくるのじゃないか。日本でもそういったアメリカの方向を後追いして、やがてはガイドラインがなくなってしまうような方向になってしまうのじゃないかということもあるわけでございますが、これらの点につきまして安全性の観点から御意見を伺いたいと思うのですが。
  72. 井川洋二

    参考人井川洋二君) これは実は先ほど吉田議員が述べられた、二月のその朝日新聞か何かにちょっと僕は述べたのですが、実はアメリカでも実際にいろいろな実験はやったということになっているのですけれども、一番大事なのは、いままでの微生物に関する知識をずっと集積してみると、そういう危険性は全く考えられないということが一番働いたようです。  しかしそれでも、一応そういう安全性実験を六カ条ばかり考えて彼らはやったのですね。そのことが相当社会的な影響を与えました。確かにむだな実験と言えばそれまでで、本当の専門家は笑っていたのですけれども、現実に野外の土壌から幾つ大腸菌を取り出してそれらに組みかえ体を入れてもそんなに悪く大腸菌の性格を変えなかったとか、それから、現実にコップに大腸菌を浮かべて飲んだけれどもその人のおなかの中からは何日間で消えちゃったとか、そういう、実際にやってもしようがない実験と一般の学者が言うようなことをちゃんとやってのけたんですね。  だから、そういう態度というのは非常に私としてはとります。生物ですからいろいろなことが起こるんで、私なんかもそういう態度でリスクアセスメントをやってきて、本当に安全だと言うのにはやっぱり確認する必要があるというふうに考えております。  実際、先ほど宗川参考人がメジャーがないじゃないかというようなことをちょっと述べられたんですけれども、あれも実はメジャーがあるのですね。ポリオーマウイルスの場合には、二分子入っちゃったものでそのままでDNAとして入れたときと、それから、そうでなくてそれを外して入れたときと、あるいはウイルスのまま感染させたときと、それがどのぐらい感染のレートが違うかというようなことが一つのメジャーにはなっているわけです。  そういう意味で、組みかえDNAが安全だというようなことをヨーロッパで会を開いてみんなの結論として出してきたわけですね。だから私としては、欧米のデータだけでというのですが、アメリカ自体もそういうリスクアセスメントを幾つか連ねましたけれども、本来はこれまでの微生物実験の知識の集積がああいう緩和に一番導いたのだというふうに考えております。  それで、これからどうなってしまうかと言いますが、アメリカは指針廃止論から逆にもう一度戻りました。あれを全部なくすという空気の中から、委員の中に一人女性の委員がおりまして、その人の、やっぱり全部なくしてしまうというのはぐあいが悪いのじゃないかという動きがありまして、一応とどまりました。それでもなおかつ日本よりずっと楽です。逆に、アメリカは国家レベルよりもむしろ地方自治体の方が強いのですね、ステートとか、そこのローカル委員とか。国の指針が残されたのは地域や部局の規制が余り強くなっても困るという背景もあったみたいです。ですから、国全体としての一つ基準があった方が考えやすいという考え方もかなり働いて、ガイドラインをなくすことはやめたというふうに私は考えております。  これからどういうふうになるかは、これからのガイドラインの行き方を検討することの方がむしろ非常に大事だというふうに思っております。  以上です。
  73. 太田淳夫

    太田淳夫君 私ども考えてみますと、この遺伝子操作技術というのはだんだん範囲が広がっていくと思うのですね。生物の段階から、やがては人間生命に直接関係のあるような領域にも及んでくると思います。  そこで将来、これはこんなことがあってはならないのですけれども、人間を操作するというようなことになるとしますと、非常にこれは危険性とともに倫理性というものが問われてくるのじゃないかと思うのです。  そこで、技術的に可能になり安全であったとしても、その技術を人間に適用してよいかどうかの倫理的な判断というのがやはり必要になってくるのじゃないかと思うのですが、その点どうかということと、そういった倫理的なガイドライン必要性について参考人の御意見をお伺いしたいと思うのですが、いかがですか。
  74. 井川洋二

    参考人井川洋二君) DNAというのは化学物質なんですね。ですから、これからずっと研究が進んでいきまして技術が上がると、ある機能を持った遺伝子が全部人工合成できると思います。いまのところは短いのしかできていないのです。だけれども、恐らく千も二千もつないでいけると、かなりのところはできると思います。それは化学物質なわけですね。しかしそれはそのまま生物を規定できないと私は思っております、その高次構造から見ると。  一番大事なことは、われわれがこういう人間になってくるのは、DNAが全部決めているみたいに言いますけれども、実は母親からもらっているたん白がそれを全部乗っけているわけです。父親から来ている精子のたん白もみんなそれを規定しているわけです。その上に乗っかって初めて全部が機能しているわけです。  ですから、そういう意味では、遺伝子組みかえというのといわゆる胚工学と僕は呼ぶのですが、胚工学あるいは発生工学というのとは若干ニュアンスが違うと思うのです。これは、胚工学というか卵の方をいじるものは、すでにオーストラリアなんかでは体外受精でもって何人か子供が生まれています。そのとき、変なのが生まれたときにだれが責任を持つかなんということはよく聞いてないのですが、確かにそういう胚、卵を高等動物まで使うということに対しては、ある程度考えをきちっとさしておかなくてはいけないというふうに私は考えております。  アメリカですと、牛はちょうど草みたいに思っておりまして、野菜と同じようにどのように加工してもいいように思っているようです。しかし日本ですと、大体大動物はどこまでいじっていいかと言いますと、ネズミぐらいならというような答えがわりあいに返ってきます。しかしそれは、いまのうちにかなりちゃんとそういうことはどこかできちっと考えを決めておかないといけないと思います。そういう研究はまた、そういうのをきちっとつくって正しく進展させてやらないと困ると思います。いろいろな新しい実験動物がこれからできると思います。脂肪がくっついてしかも糖尿病になるというようなネズミ、いろいろなそういうネズミができています。それを正常な卵と一緒にしたらどうなるかという実験がもうすでになされておりますけれども、卵を実際扱うことはある程度非常に注意をして行わなくてはならないというふうに私は思っています。
  75. 太田淳夫

    太田淳夫君 小出先生いかがでしょうか。
  76. 小出英興

    参考人小出英興君) 事実は、いま井川先生が言われたように、確かに発生工学とか胚工学という問題は、いわゆる大動物の場合には、たとえばアメリカなんかでは実際に繁殖の手段として、いい牛を生産する場合に、非常にその品種が純系になってきまして系統のいい牛というのはお産なんかに対しても非常に弱いということ、それからお産をした後が非常に長い間栄養力が回復しないというようなことがありまして、それをもっと野生の非常に丈夫な牛の中にその卵を移して生産するという繁殖技術としては非常に行われておりますけれども、実際にいわゆる細胞融合のようなことをやって別の動物をつくるということについては、恐らく行われる可能性というのはちょっと考えられませんし、小動物、いわゆる実験動物としては、非常にそういういい動物をつくれるということであればまたそういう技術も発達するかもしれませんが、いま畜産なんかでは、そういういわゆる品種改良に関しては、特に豚なんかの場合にはもう限度に達しております。これ以上何か手を加えても、えさを食べないで太るということはあり得ないので、これはもうぎりぎりの線をいま畜産はやっておりますので、そういうことはまず起こらぬかと思います。
  77. 太田淳夫

    太田淳夫君 宗川さんいかがですか。
  78. 宗川吉汪

    参考人(宗川吉汪君) 倫理の問題というようなことでしょうか。  生物学的に可能なことと、それから社会がそれを容認することと、往々にしてずれる場合が多いと思います。  倫理的なものもまた社会が発展していくに従って次第に変わっていくものですので、その辺に関しては、生物学で急激に何かできてそれと社会とずれるというようなときはそれは適用できないし、それが適用できるような社会もやっぱりできてくるかもしれないというふうに思っておりますので、たったいま人間に適用することがどうかというようなことですと、技術も進歩していませんけれども、もちろんいろいろな遺伝病に遺伝子組みかえを応用してほしいという要望はたくさんあるわけですね。そういうのにはこたえていかなければいけないというふうには私は基本的には思っていますけれども、それが社会全体に容認されるかどうかというあたりは、よく討論した上で決めなければいけないのじゃないかと思っています。
  79. 槌田敦

    参考人槌田敦君) いまの倫理の問題というのは、もうすでに行き過ぎてしまったのかどうかということを含めて議論をしないと、いまはまだ大丈夫なんだけれども未来が心配だという形であるのかどうか、もう少し根源的にこの問題は考えていかなければならないように思うのです。  そこで、どう歯どめをかけるか、現実のこの問題に関して。研究者に歯どめが期待できるか。  これは、私も研究者ですけれども研究者に歯どめは期待できません。研究者に任せておいていいわけがないのです。つまり、これはこの前朝日新聞の論壇に京都大学の名誉教授の西山さんが書かれていますけれども研究者に頼んでもだめだ、それは政府によって任命されたいわばお雇いになってしまっている、だからそれではうまくいくわけがないだろうと。ということになると、どうしてもこれは素人が参加してちゃんとした議論をしなければいかぬのですけれども、ところがその素人の参加を研究者はきわめて嫌います。素人と話をしてもわからぬと言って排除をするわけです。現実にいまのところ研究者側がそういうような形で動いている以上、これはしばらく頭を冷やすという話がどうも必要になってきていると思うのです。もっとおおらかに素人との対話ができるという形を抜きにいま遺伝子研究が一方的に進んでいるということに、僕は言い知れない不安を感じます。
  80. 太田淳夫

    太田淳夫君 井川先生にお伺いします。  現行の指針によりますと、二十リットル以上の規模で行う実験というのはこれは国に申請して指導を受けなければならないようになっているわけですけれども、科学技術庁などによりますと、今回のこの改定案が実施に移されるのを待って直ちに大量培養を申請するメーカーがあると聞くわけですけれども、そうなりますと、それらのスケールアップによりまして新生物が生態系に入り込むチャンスが増加する点も考えられるのですが、その点についてはどのようにお考えになっておりましょうか。  また、バイオテクノロジーの潜在的危険性をいろいろと重視される向きもあるわけですが、その場合の防止をする最大の決めてというのはやはり公開だと思うのですが、企業の秘密ということがあって企業化の実態について公表をなかなかされません。また、研究者の皆さん方も自分の科学的興味に強く動かされている面もありますので、そういったことで生物公害、災害と申しますか、バイオハザードと言われますそういったことを防止する上での対策ということもお聞かせ願いたいと思うのです。  アメリカでは、バイオハザードに対するガイドラインというのがあって、非常にこれは厳しいということを聞いているわけですが、日本ではどのようになっておりましょうか、その点もあわせてお伺いしたいと思います。
  81. 井川洋二

    参考人井川洋二君) 米国ではそう厳しいかどうかというのはちょっと問題ですが、もともと米国のはNIHの中にあるRACというコミッティーがやっていますから、それには産業の人も全部傍聴して一緒に参加するようになっていますので、納得ずくで物事をやっていることは確かなんですね。  それで、大量の培養に関してその安全性ということですが、これは科学技術庁の中のライフサイエンス部会の中には大量培養のためのワーキンググループが特別につくられていまして、その中でいろいろ審査することになっていまして、ことにリスクアセスメントの一部をその申請しているところに要求しているはずです。  日本はことに発酵工業が非常に盛んなところで、一部の企業は、むしろまだ自分たちで最後は勝てるのじゃないかと思っているようですが、本当に発酵工業みたいな感じで遺伝子組みかえで得られたような微生物が使われるかどうかというのは、これからきわめて大事だと思うのです。進めなければならない。安全性の確保はもちろんそうやって大事ですけれども、むしろいまは、実際に生やしてみると中でプラスミドが落っこっちゃって本当につくれないということの方が阻害になっているぐらいだと思います。ですから、片側ではそういう安全試験を一生懸命やらせると同じように、いま発酵工業の中で自由に使われている程度の組みかえに関しては、将来はもっと安全試験をやりつつ伸ばすような方向にいかないと、本当の産業には使えなくなってしまうのじゃないかというようなおそれも半面はあります。  生物災害ということですが、これは最初から述べていますように、現実的なものというのは実際に組みかえでもって起こってくることはないのですね。いまは実際に、たとえば大腸菌なら大腸菌の性格を変えないで、中に入り込まないようなプラスミドを使ってやるというような実験がなされているわけです。しかし、大量になりますとどのぐらいが先祖返りするか。要するに、先祖返りした方が強いじゃないかとかといういろいろな論点がありますので、そういう点は、新しくできる組みかえ体によっては、リスクアセスメントというか、その安全性評価実験というのはさらに検討していかなくちゃならないというふうに考えております。いままでできている宿主——ベクター系に関しては、大量培養の実験もかなりアメリカで経験されていますし、そう問題が起こることはないのじゃないかというふうに思っております。
  82. 太田淳夫

    太田淳夫君 終わります。ありがとうございました。
  83. 佐藤昭夫

    ○佐藤昭夫君 共産党の佐藤です。  初めに宗川参考人にお尋ねをしたいと思います。  その一つは、いわゆる遺伝子組みかえ実験について、すでに五年前から日本学術会議は、一九七七年の十月二十八日の第七十三回総会声明で、公開、民主、自主の原則の重要性を強調し、先ほど宗川先生もこの民主、公開等の重要性に触れられたわけでありますが、これらの原則がなぜ大切なのかもう少し具体的に御説明をいただきたいと思います。  それから二つ目に、実用研究に先立って基礎研究の重要性をあわせて強調されていたわけでありますが、この点で、現在大学での研究をなさっておるそのことを通して、心を痛めておられるような問題、今日国の予算措置を初め国に対して要望をされる問題、そんな問題があれば具体的にもう少し御説明をいただきたいと思います。
  84. 宗川吉汪

    参考人(宗川吉汪君) 最初のことですが、先ほどから理研の問題をいろいろ私聞いていまして、私自身も理研のことをそんなに知っていたわけではありませんが、理研に関係しておられる方がお二人もいて、非常に意見が違う。そういうところはやはり、理研の外にいて感じることですけれども、大切なものをつくっていくことですから、意見はなるべく一致させてほしいというふうに思います。  また、そちらの住民の方々とよく話をされて、納得した上でやっていただきたい、そういうふうに思います。  それは、先ほど私述べましたように、安全性の問題というのはなかなか科学的に立証しにくい性質を持っておりますので、科学者が絶対安全だと言うのはなかなか、ある限定された範囲ではもちろん言えることはありますけれども、その先どうなんだどうなんだというふうに突き詰められると非常にむずかしいことになってきて、結局は非専門家の方々も含めた上で最終的にどうするかということを決めなければいけないことになるのじゃないかと思うのです。ですから、そういうことで、民主的に事を進めるということは、こういうまだ非常に組みかえ実験自体も初歩的なものですから、よくわからないことが先にありますので、そういう民主的に事を進めるということが非常に重要なんじゃないかというふうに思っております。  それから、公開のことに関しては、先ほどお話がありましたように、特に民間の企業の方では公開が非常にしづらいような性質をいままでも持っているわけですが、こういう新しい技術を使っていくときに、住民が非常に不安を持つのはごく自然のことだろうと思います。だからそれは、特に科学的な根拠に基づかなくても、不安があれば解消しなくてはいけないというふうに私どもも思っておりますので、それはやっぱり科学者としても、そういうのに関してはなるべくちゃんとこたえていかなければいけない。ですから、公開は、こういう新しい技術に関しても、もちろんほかのことに関しても同じことなわけですけれども、絶対に必要なんじゃないかというふうに思っております。  あと、基礎研究のことですが、私どもの周り、生物分野でも、物理分野ほどではないのですけれども、だんだん、大学院を出ましてなかなかポストがありません。それで結局海外に流出するというようなことが起こっています。それから海外にいる人も、帰ってきたいという希望を持ちながら、日本に適当なポジションがなくて帰れない優秀な人がたくさんおります。それからまた、帰ってきた方でもなかなか待遇ができなくて、思う存分実力を発揮していただけないという例が私たちの周りでも非常に多くありますので、基礎生物の方は、最近生物学の方はかなり注目されるようになってはきているのですけれどもまだまだですので、思い切って基礎生物学の方の研究を伸ばしていただきたい、ポストをふやしていただきたい、そういうふうに考えております。
  85. 佐藤昭夫

    ○佐藤昭夫君 さらにもう一つ宗川先生にお尋ねをいたしたいと思います。  今回の指針での規制緩和のもとで当面P4施設が緊急に必要かといった点について、他の委員からも疑問が先ほど来出されているわけでありますが、私も同様に思うわけです。  そこでお尋ねをいたしますが、P4に大きな予算を投ずるよりは、P1、P2、P3、そういった研究実験分野の充実をする、そのことこそが当面先決すべき問題ではなかろうかというふうに思います。いわんや筑波の場合のように住宅密集地域、そこにわざわざ建設をするということはこれはもう避けた方がいいのではないかと思うわけでありますが、いずれにしても、住民との合意をしっかりつくっていくという上で、アメリカのボストン市、ここでは住民の代表も含めた委員会を設置しておるというふうに聞くわけでありますが、日本の場合でも実験計画の事前承認、あるいは施設への定期、不定期の立入点検、そういったことの権限を持つような住民参加の委員会をつくって、安全確保の体制をしっかり確立していくということなんかが積極的に検討されるべきではないかと思うのですけれども、このP4問題にかかわってこれらの問題についての御意見があればお聞かせを願いたいと思います。
  86. 宗川吉汪

    参考人(宗川吉汪君) P4の問題に関しては、私はやっぱり研究者としては必要なことだろうというふうには思います。それは、先ほども述べましたように、危険性をアセスするというのはこの技術あるいは方法を開発していくというのに非常に必要なことだと思いますので、P4の施設をつくっていくということに関しては私は特に異存はありません。  しかし、先ほど申しましたように、住民とよく話をして、納得した上でやってほしいというのが私の基本的なことでありますので、その納得が得られぬ、あるいは今度の問題で言えば、理研内部で合意がないというようなことですと非常に困るのではないかと思います。ですから、そうしたらば研究がおくれるのじゃないかというふうに言われる向きもあるかもしれませんけれども、そういうときは若干おくれても仕方がない。私は、先ほど言いましたように、必要だとは思うのですけれども、しかしそのために若干研究がおくれるというようなことが間々あっても、それはずっと長い将来のことを考えればむしろプラスになるのではないかと思っておりますので、そうひどくあわてていまつくる必要があるかどうかということに関しては、若干疑問を持っております。  実際にP4をつくったときにどういうふうな研究が行われるかということに関して、私自身、研究者としても必要性を認めながら、たったいまどういうことが行われるのかな、どのくらい有効に使えるのかなということに関しては、余り自信がありません。
  87. 佐藤昭夫

    ○佐藤昭夫君 それともう一つ、住民参加の、安全確保のための委員会ですね、そういうものを設置することについて。
  88. 宗川吉汪

    参考人(宗川吉汪君) 先ほどから申しておりますように、そういう住民が参加したような形を模索していくことは必要なことだろうと思います。  どういう形でしたらいいかということに関しては、私いまぱっと、これが一番いいものだというふうには思いつかないのですけれども、筋として、住民が参加したようなそういう安全委員会みたいなものをつくっていくことをこれから検討していく必要があるのではないだろうかと思っております。
  89. 佐藤昭夫

    ○佐藤昭夫君 それでは、井川参考人小出参考人お二人に、それぞれ同じことを質問させていただきたいと思うのです。  一つは、先ほど来いろいろ議論が出ておりますように、遺伝子組みかえ実験について私としても四つほどの原則が大切ではないかと思うのです。  一つは言うまでもなく安全の確保、二つ目は平和利用に徹する、断じて軍事利用への道を許さない、三つ目は住民の意見尊重ということも含めての民主的な研究実験体制、これを進めていく、それから四つ目には研究結果の一切の公開、こういうことが必要ではないかと思うわけですけれども、こうした点について井川先生小出先生、それぞれの御意見をお尋ねをいたしたい。  もう一つ。二つ目は、いわゆるP4施設について、いまの四つの原則とも関係をいたしますけれども、しっかり住民との合意、この上で民主的に事を進めていくという点で、いま進んでおるP4問題の姿は、私は住民の十分な納得をつくり上げて事を進めていくという形にはなっていないんじゃないかというふうに思うのです。それぞれ検討委員会とかいろいろな形でも関係をなさっておられるわけですけれども、そういう点についての所見をお聞きしたいと思います。
  90. 井川洋二

    参考人井川洋二君) 私は、いま述べられた項目はすべて賛成です。  私は、今回のP4に関しても、ことに住民というのはどこの程度を指して具体的にどなたとどういうふうに接触してとかというふうに言われると、それは私は町当局とかあるいは全員協議会とかあるいは農業委員会とかそういうものを指していますけれども、各数回接触しておりますし、それから理研の中の組合からの要請にも、私は自分の時間の都合がつく限り積極的に出ていって話をしております。  それから研究結果の公開の問題ですけれども、これはそこの施設の利用とか、それから私ども研究の結果というのはこれは学者ですから当然公開していかないと困るので、そのときに何かマジックがあるということはないと思います。  ただ私は、一般的に遺伝子研究に関しては、確かに産業が絡んできているので、そのために学術雑誌の方に出版されないで、ある研究者同士の話がそろそろとだえてき始めているという分野があることを非常に残念に思っております。これをどういうふうにしたらいいかというのは小さい問題ではないと思います。要するに特許との関係です。一度公表してしまうと特許が取れなくなるということが米国なんかにはあります。そうしますと、科学者同士では非常に重要な知見で、科学の最終的なゴールに向かっては非常に役に立つと思うような新しい発見でも、それが特許が確保されるまではどこにも出さないというような傾向が出てきている。これは、私は研究者としては非常に残念に思っております。
  91. 小出英興

    参考人小出英興君) ただいまの安全それから平和利用という問題でございますが、安全性という問題は、私が再三申し上げておりますように、農業問題におきましては、これは現在の人に対する安全性とともに、要するに生態系全体を考え安全性というものをよくチェックする必要があるということを念を押して、この問題についてこれから十分にやっていく必要があると私は思います。  それから平和利用に関しては、これは実際に研究を始めるに当たりまして公開をされるわけですから、それは安全委員会においてチェックもできますし、それからライフサイエンス部会においてそれをチェックすることができるというふうに私は信じております。  それから、住民の意見の尊重ということはもちろんでありますけれども、その中で、中を公開して実際にやっているところを見せるという問題なんですが、たとえば、これは非常にむずかしい問題がありまして、実は私どもが前に農林省におりましたときに、そういう研究をしておりましても、ほかの研究室の者が中へ入るためにはいろいろのステップを踏まないと入れないしステップを踏まないと出られないような設備だものですから、私どものは遺伝子組みかえでなくて家畜のいわゆる非常に危険な菌やウィルスを扱っている場合ですが、中を見ることができないということがあります。そういう場合には、全然使っていないときに中を見せるということはできますけれども、実際に研究を行っている場合に中をその当事者以外が見る場合には、研究者と同じ立場でやってもらわないと困るということがございます。  それから研究結果の公開につきましては、これはもういま井川先生がおっしゃったとおりに、私ども普通の大学研究者にとってはこれはもう当然のことなんですが、会社などの特許の問題についてはこれができないということがあります。  それからP4施設についての住民との合意なんですが、住民の方々も、実はこちらから私どもはお願いしたいのでずが、いろいろ私どもそういう方とお話ししましたけれども、科学的にやはり理解するような姿勢をとってお互いに理解し合うことが必要だろうと思います。感情論というようなことで、ただ初めから反対という立場をとられるのではなくて、やはりお互いに理解をしていくということが私は大事だろうと思っております。
  92. 佐藤昭夫

    ○佐藤昭夫君 それでは、最後に槌田参考人にお尋ねをいたします。  参考人は同時にいま理研の労働組合の委員長をなさっていると伺っておりますが、そうした点で、理研の労働組合としては、遺伝子組みかえ実験研究、さらにはP4問題、こういった問題についての労働組合としての経過、そして現時点どういう見解を持っておられますか、お尋ねをしたいと思います。
  93. 槌田敦

    参考人槌田敦君) 私は七月の十五日まで委員長をしておりましたけれども、いまは委員長を退いておりまして次の委員会に渡しております。  理研労働組合の立場というのでお答えすることは委員長を経験しましたのでできると思いますので、そういう観点でお答えしたいと思いますが、もしP4施設が筑波にできるということになりますと、私どもの職員がそこの施設の作業をすることになるわけです。しかしながら、筑波の現状を見てみますと、理研当局は、先ほどアセスメントをしないということからも明らかなように、一方的に安全だ安全だを繰り返すばかりですから、住民がそれを非常に心配して不安になっています。このままの形でいきますと、ことによりましたら強行着工、そしてそれから後の不測の事態ということもあるような事態になってきているわけなんで、そうしますと、農業委員会の議論の中にもございましたけれども、子供が安全に学校に行けないというようなことも考えられる。石をぶっつけられるとかなんとかというようなこともないとは言えないだろう。そういうことになったら非常にわれわれとしても困るわけです。  したがって、何とかしてそういうことのないようにするためには、われわれとしてもちゃんと対話をしっかりしてもらって、争いのない形にともかく持っていってもらわなければ困るということで、先日労働組合としてのスト権を取りまして、強行着工があったときには組合員をその作業に従事させないということも含めてストライキをするということを決めました。三分の二以上の多数で決めましたので、この点については十分に研究所側も配慮していただきたいと思っています。
  94. 佐藤昭夫

    ○佐藤昭夫君 ありがとうございました。
  95. 小西博行

    ○小西博行君 民社党の小西でございます。きょうは大変貴重な御意見をいただきまして、勉強をさせていただきました。  私も、ちょうど議員になってまる二年をちょっと経過したところでございます。管理工学という分野を大学で教えておりましたが、初めてこういう形で皆さん方の御意見を聞かせていただきました。過去数回にわたりまして、理化学研究所は二回だったでしょうか、それから農林省は筑波の方へ一度行かせていただきました。そしていろいろ教えていただいたのですが、何さま、専門的な分野ですから大変むずかしい。実感でございます。ただ、私はずっと思い続けているわけでありますけれども、これからの日本の将来ということを考えますと、どうしても新しい技術開発という問題を抜きにしては考えられないということを考えております。同時に、文教委員もやっておりますから、創造的な教育というようなことを盛んに文部大臣もおっしゃいます。  そういう意味で、新しい技術開発をどういう形でこれから先日本で展開していくか。ちょうどその中にこの遺伝子組みかえという問題があると思います。この二年間を振り返ってみましても、原子力関係がほとんど八割、九割を質疑の中で占めたと思います。そういった意味では、やっとと言ったら大変遅いと思いますが、遺伝子工学が皆さんの審議の中心になってきたということは大変私は喜ばしいことだと、このように考えております。  そこで、お尋ねしたいわけでありますけれども、先ほどどなたか参考人の方がおっしゃったように、どうも政府の機関というのは縦割り行政になっておる。私が見ましても、どうやら研究開発というのは、科学技術庁が中心になって、いろいろな分野について各省庁をうまくまとめていく、あるいは産業界の中にも優秀な研究者がたくさんいらっしゃるわけですから、それを有効に使って予算化して、そして前進すべきだ、こういう気持ちをずっと中川大臣にも申し上げております。  去年十月、やっと流動研究システムということで予算化されまして、いま五つのテーマを中心に各二十人ずつで編成されております。その中に一つ遺伝子工学、つまりライフサイエンスというテーマがございまして、いよいよこれが研究の日の目を見ようといまスタートしたばかりでありますけれども、そういう方向に進んでいるわけです。もうすでに御承知のとおりだと思います。  そこで、きょうは大学も一校だけでございませんし、それぞれの研究者の方がいらっしゃいますのでお聞きしたいわけでありますけれども、この縦割り社会といいますかシステムといいますか、そういうものをもう少し、流動研究システムのように各界から優秀な人材を集めてそして前向きに進展させていく。そのことに私は非常に賛成なのですが、皆さん方がそれぞれどのように流動研究システムに対して評価なさっているのか、その点からまずお伺いしたいと思います。井川参考人とそれから宗川参考人からお願いしたいと思います。
  96. 井川洋二

    参考人井川洋二君) やはり一カ所にずっと長くいると視野が非常に狭くなるということがあります。  ことに、こういう技術というのは、表面的ないいところだけをとるのじゃなくて、現実に裏にどういうノーハウがあるのか。たとえば、日本人はある研究技術を持っていても、それをいつでも使えるように用意しておくという根気がわりあいにない。そういうものをいつでも使えていつでも研究できるというようにしておかないと、ことに遺伝子組みかえの場合に、ほかの実験はうまくいったけれども最後の制限酵素がどうにもうまく動かなかったとか、そのコンディションがうまくつかめなかったというので、全体のいままでの蓄積を全部ほうっちゃうというようなことが結構あります。ですから、これはそういう意味では、何カ所かすぐれたところに行って本当の技術自分の身につけておく、システムを自分研究範囲にとどめておくということがきわめて大事なことだというふうに思います。  もう一つ言わせていただければ、やはり実際のプロジェクトだけを追うという姿勢が僕は一番ぐあいが悪いのじゃないかと思うのです。安全評価も含めた支援業務部門というものにかなり本腰を入れないと本当のメリットはこないのじゃないか。いっでもその辺のところを怠ってテーマばかりを追うから、本当の意味の、ことに生物科学なんかでの最初の何というか、ドライビングフォースというのですか、本当の力が出てこないんじゃないかというふうに考えております。  縦割り行政というのは、これは私どもが特別コメントすべきではありませんが、批判して申しわけないのですけれども、筑波なんかに行ってみると、現実的に、あるところでは、建物は確かにりっぱですが中でもって本当に若い力があふれてということはなかなか見られません。若い人がそこにたくさん満ちあふれていないということが一番研究にとってはぐあいが悪いことだというふうに私は思っております。  ですから、そういうことができるような行政、それは、何か固定化しないで、要するに、自分のもし研究費を失ったら自分の持っている研究のすべての人員があしたから失われるというようなリスクをいつも感じながらやっている研究者の方がわりあいに成果を残すということもありまして、流動システムというのは、ある程度のポピュレーションがいつもそこにフィックスしているというのではない方がかえって能力が伸びるというふうに私は考えております。
  97. 宗川吉汪

    参考人(宗川吉汪君) 流動に関しては私も賛成です。流動を起こすのにも、いまのような、大学で言いますと非常にポストが少ないということが一つは流動を阻んでいる原因になっております。ですから、先ほどから私申しておりますように、もっとポストをふやしてほしいということなんです。  それから、私どもの大学院の方でも経験しているのですけれども、大学院の学生をこういう新しい分野の場合いろいろなところに出して教育させたいというふうに思っております。たとえば私どもの方もいま癌研の方にも大学院の人を出したりとかしておりますけれども、何といいますか、大学の中でもそれをちゃんと保障するような制度がありません。ですから、何といいますか、もぐりの形で出しているような状態で、そういうのもきっちりした形で、単位の問題とかそういうものを含めまして出せればいいというふうに思っております。  また、いま一人チューリッヒのワイズマン教授のところにも大学院の人を出しておりますけれども、外国に出す場合は、何とか法律的にうまいこといくようにいまはなっておりますけれども、それでもいろいろ、学位の問題とかいうようなことになりますとなかなか流動がうまくいかないというふうなことがありますので、ぜひ流動ということに関してはいろいろな形で起こしていくことが研究を推進していく大きな道なのじゃないかというふうに考えております。
  98. 小西博行

    ○小西博行君 と申しますのは、私ども民社党は参議院は十一名しかいないのです。ですから委員会も二つ三つ兼務でやる。こういうことでございますので、ひょっと農林省へ行ってみまして研究機関でいろいろ説明を聞いておりますと、全く理化学研究所と同じようなライフサイエンスの、しかも出てくるテーマまで同じようなことの説明があります。これは、素人だからできるだけやさしく説明しようというふうなお話も当然そこへ出てくると思うんですけれども、大変私は奇異に感じまして、もっともっと各種委員会あるいは省庁へ訪ねてみますと、ダブっている部分というのがずいぶんある。  ですから、同じように予算を交付するならもっと効率的な予算化というのができないのだろうかなあと思うのです。  理化学研究所へ行きまして、いまは研究はトップクラスへいっています、しかし予算が少ないのでこれは三、四年しますと当然もうずっと離されるでしょう、アメリカがぐんぐん伸びるでしょう、こういうお話を主任研究員あたりからも聞いたことがあるわけです。そういう意味でこれは中川長官にもそういうことをたびたび申し上げているわけですが、何もかも全部一つにするという意味じゃなくて、やはり大学は大学での研究のやるべきことというのは当然あると思いますので、その辺を効率的に、テーマによってお互いにコミュニケーションを図れるようなそういう研究をすれば実験施設にしても相当高価なものですから当然共同に使える、こういうかっこうにすればそんなに予算もかかるわけではありません。  研究者というのは、確かに予算をたくさんもらいたいという意思を皆さん持っておられると思いますけれども、そういう効率的な生かし方をやらないと、どうもいまの日本研究開発予算というのは全部含めても四兆ちょっとですから、アメリカの三分の一にもいかないだろうと思いますが、その少ない予算でもって効率的にやる。これはさっき井川先生が、大変勤勉でしんぼう強くてそれでも成果を上げる、そういうことをおっしゃったわけですが、私は、その辺を何か学者間でやっていただけるような決意があるのかどうか、小出参考人槌田参考人にお聞きしたいと思います。
  99. 小出英興

    参考人小出英興君) 実は私、筑波にずっと勤めておりまして、それから大学と両方ちょうど経験がございますが、確かにそういう意味では、筑波では、施設とかそういうものは非常に整っておりましたのに比べまして、いわゆる勢力というか、若い人の力が非常に不足をしている。ところが、実際に大学の人を迎え入れたにしても、そういう農林省の研究機関ではその研究所で学位論文を出すということができませんので、当然大学に戻さなければならないという問題があります。  そういう意味で、限られた人しか手伝いに来てもらえないという非常に欠点がございます。ですから、これがアメリカのような、いわゆるポストドクトラル・フェローとかマスターを奨学資金で採用できるようなシステムがあれば、非常に日本研究レベルは上がると思います。  それからもう一つは予算の問題ですが、今度私が私立大学へ移りまして来てみますと、確かに私のところには若い者が満ちあふれておりますけれども、予算は全くございません。そういう意味で、そういうものが相補わないとこれは当然だめなんで、現実に私どもも、あちこちの国立の研究機関やそれから大きい会社の研究機関に学生を派遣してそこで研究を続けておるわけでございますが、そういう予算の獲得に当たりましては、実際に予算のないところでは必死になって、その設備を整えるため、またそういう研究に要する費用を獲得するために、コミュニケーションのある方は懸命にそういうものをやっておりますけれども、確かに、もっとコミュニケーションをよくしてもらえれば研究のレベルはさらに上がることは確実だと私は思います。
  100. 槌田敦

    参考人槌田敦君) いま御質問になりました農林省でも科学技術庁でも通産省でも、どこでも同じテーマばかりしている、したがって流動研究システムについてもっと効率よくできないかというふうに疑問を持たれるのは、もっとものような感じがするわけです。ただ、それはシステムで解決することなのだろうかという気がして仕方がないんです。なぜなら、いまこの問題はシステムというよりも科学者自身の問題に問題があるような気がするわけなんです。  それはどういうことかといいますと、科学者自身が物になるものと物にならないものとを見分ける能力自分で持とうとしていないというところに問題があるのではないかと思うのですね。つまり、残念ながら、時流に流されたテーマばかり科学者が追っかけるということからそもそもこういうことが問題になってきている理由があるわけです。たとえば、一つ覚えのようにポマトが出てくるし、窒素固定能を持った稲が出てくるし、どこへ行ってもここへ行ってもそんな話ばっかり聞かすような科学者では、これはシステムを幾ら変えてもだめです。つまり、自分自身で、自分はこういうことを研究しているのだと。それはほかで言われている時流の話じゃなくて、自分はこれだということを科学者が出せない以上、いまのはシステムで解決するようには思えません。  もっと大事なのは、そういう意味で、——ここはちょっと場違いかもしれませんけれども、共通一次で横割りでやるようなああいう教育で人間がだめになってきてしまっている。もちろんいまの科学者たちは、そういういまの大学生や何かとは違って、共通一次なんか通ってきていないわけですけれども。しかし、共通一次の発想、そのようなシステムをこしらえる学者たちがいまの学者たちなんですから、したがって、これはどう考えても、もう一遍一からやり直して、科学とは何かというところをしっかり押さえることがいまは何としても問われているような気がするのです。
  101. 小西博行

    ○小西博行君 こういうことでライフサイエンスがにわかに脚光を浴びるということで、特に産業界、薬屋さん、こういうところが、若手の専門家をとにかく入社させたい、海外へもずいぶん若い学者が行っておりますね、そういう方々を何とかして日本へ連れて帰ってわが社に入れたい、あるいは日本研究者の中からもぜひ入れたい、こういう動きが最近はかなり私は活発化していると思うのです。やっと学者として一人前になろうかとしている若手の方をさらに企業の方が引き抜いてしまう。その辺が実に私は、研究という日本の将来を考えると大変大きな問題になるのではないだろうかな、そういう感じがしておるのです。  それで、現実問題として、これは日大の先生でございますから小出先生にお聞きしたいのですが、そういう問題がたとえば日大の学生あるいは他の大学生、卒業生に現実にあるかどうか、お聞きしたいと思います。
  102. 小出英興

    参考人小出英興君) 現実といたしまして、私のところにそんなに優秀な学生はまだおりませんが、実際に、かなり技術が進んできますと、何といっても、学生自身がオーバードクターになりましたときに職がない場合に、やはり企業というものは、いい仕事をしていますとそれに目をつけて、非常に高い月給でそれを雇うということで引っこ抜くということもございます。  というのは、実は私が農林省におりましたときに、優秀な、遺伝子組みかえ関係のことも非常によくできる方がいて、その人を採用しようと思いましても、公務員試験を通っていても採用することが非常にむずかしいわけです。そういう人を頼まれても、その人を入れて国の研究機関のレベルを上げようとしても、私どもにはどうにもそういうことができないという現状がございます。ですから、常に学卒の新入の公務員試験を通ってきた人を教育してそれを育て上げるということで、非常にすぐれた、外国あたりで高等な技術をつけてきた人を国の機関でどんどん養成をして研究を進めるということがなかなかむずかしい現状にございます。  ですから、民間の方に特に流れるということよりもむしろ、国の機関で採用する力がないのでそちらへ行かざるを得ない。仕事をやりたい人はもちろん国の機関でやりたいというのが初めの意思なんですけれども、それがなかなかできないのでそうならざるを得ないということが事実だと思います。
  103. 小西博行

    ○小西博行君 特に、そういう若手の優秀な人が何とか日本研究機関の中で活躍できるようないろいろな保障の問題もあると思います。そういうことをぜひともしなければいけないというふうに私自身が思っておりまして、議員としては当然そういう問題についてやりますので、内部でもぜひとも何かのそういう形で、先ほど宗川さんがおっしゃいましたように、内部だけでも右左なしでですね、私は白黒はっきりしなくてはいけないということはないと思います、グレーで十分だと思います。民社党はまさに中道でありますから、私は成り立つと思います。いい面、悪い面というのを両極端に強調するという風潮、これは政治家の中にもたくさんありますけれども研究者の中にも大変それが多いのじゃないか。  そういう意味で、ざっくばらんに学者段階というのは思い切ってやはり議論していくという姿勢がなければもう学者ではないと私も思いますので、ぜひともその辺をお願いしたい。政治家の分野としてはわれわれは責任を持ってやはりやらなければいかぬ、このように考えております。  最後になりますけれども、先ほど井川参考人の方からちょっとお話がありましたように、医学とか生物学では非常に世界的な権威者もいるし研究の実績もかなりある。ところがそれ以外の問題になりますと、現実にやや、たとえばエネルギーの問題とかライフサイエンスというのは余り行き手がいない。これはなぜそうなるのでしょうか。  何か大学の研究室として、たとえば、エネルギー分野でそれを応用しようというような学者が少ないのか、あるいはそういう風潮にないから何となく医学とか生物の方へ行くのか、あるいは世間のニーズによって自然にそれが動いておるのか、その辺は一体どういうことなんでしょうか、これをお聞きしたいと思います。
  104. 井川洋二

    参考人井川洋二君) 私は医学の立場を一番よく知っているので述べたまでで、ほかの領域でもいろいろな機会に成果を聞かされております。  ただ、私の感じた範囲では、どうも外国に日本が先行しているということはなさそうに思います。一つには、日本にはかなり先行した産業もあったと思います。だけれども、結局民衆運動みたいので、会社自身が、もしそういううわさを流されたらつぶされちゃうというので引っ込んだ産業幾つかあるはずです。やはり一つはそういう姿勢もあったと思うのです。そういうある会社の名前が出る、それをやっているというだけで、いまは逆にやっているというだけで株が上がったりしますけれども、そうでない時期がありまして、そういう時期に一生懸命がんばったところがみんな僕は消えているのだと思っております。  ちょっと先ほどの件でコメントしてよろしいでしょうか。
  105. 中野明

    委員長中野明君) どうぞ。
  106. 井川洋二

    参考人井川洋二君) それは、いま若手がそういう産業に連れていかれて本当の研究が伸びなくなるのじゃないかということはありますが、遺伝子組みかえに関する限り、逆の見方もあるのです。いままで固定化されていたアカデミズムが遺伝子産業でもって一部は覆されているのです。たとえば、米国なんかの国家の研究機関にある研究者のすぐれたグループが、あしたからすぐ私的な企業へ移っちゃうわけです。上にいるボスは非常に驚くのですけれども、行った先が本当に研究ができないかというと、よそのアカデミックな研究機関を打ち破るぐらいの研究成果を実際出してくるわけです。これは大変なことで、若い人にとっては、その中で自由な研究ができて、しかも最先端の研究に従事できるという喜びがあるのだろうと思うんです。遺伝子組みかえというのはそういう意味では、学問の梗塞化というのを先ほど僕も述べたのですけれども、逆に一部の学問の自由化ということもやっているのだというふうに思っております。お仕着せでない学問、その中へ入って若い人の能力がどんどん伸ばされているということがあります。そして、でき上がった人をある国ではどんどん戻しているとい、うことも確かです。マックスプランク研究所なんかを中心にドイツなんかはどんどん戻しております。  以上です。
  107. 小西博行

    ○小西博行君 最後です。  私もそのとおりだと思うのです。ただ、最近は産業が非常に低迷しておりますね。景気のいい時代というのは思い切った研究予算を取れるわけです、一般産業がところが、そうじゃない。いままでの成功の中では、皆さんもすでに御承知のように、超LSIだとかIC関係、これはもうアメリカの基本設計を持ってきて、そして各産業とかあるいは官界におきましても大体同レベルぐらいに理解していて、それで成功したという例ですね。  果たしてそれと今度のこの遺伝子組みかえ、この問題が同じような次元で産業として取っ組めるかどうかということを私、大変心配しているわけです。ある程度日の目を見ますと、それっと産業というのはやります、投資します。リスクを冒すことは嫌いです。  だから私は、これから本当にそういう基本的な研究というのは国の機関でどんどんやっていただく、あるいは大学でやっていただく、そういうことにしないとなかなか新しい発明、発見というのは生まれないという考え方を持っているのです。いま申し上げたように、管理工学の場合は実際の企業との密接な関係がありましたからどちらも非常にプラスになったという面があるのですけれども、特に宗川さんのように基礎的な研究をやっているという分野、これは産業の中で本当にそれが十分予算化してやれるだろうかという、そういう不安を私自身が持っておるものですからちょっと質問させてもらったわけです。  もう時間が来ましたので、またの機会によろしくお願いしたいと思います。ありがとうございました。
  108. 中野明

    委員長中野明君) 他に御発言もなければ、参考人方々に対する質疑はこれにて終了いたします。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  参考人方々には、長時間にわたり当委員会のために貴重な御意見をお聞かせくださいまして、まことにありがとうございました。委員一同を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時十三分散会