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参考人(森茂君)
お答えいたします。
トリチウムは、確かに放射性同位元素でございますけれ
ども、放射性同位元素の中では毒性が最も少ない元素の
一つでございます。しかし、放射性同位元素でございますので、取り扱い上の安全については十分注意しなければいけないわけでございまして、そのためにも、取り扱いの技術をこれから確立していかなければいけないというふうに考えているわけでございます。
やや立ち入って
説明させていただきますと、トリチウムの取り扱い技術を割って考えますと三つほどございまして、
一つは、トリチウムというのは化学的には水素と同じでございまして、最も軽い気体でございます。それで金属容器等から透過しやすいという性質があるわけでございまして、御
指摘のように注意をしなければいけないというのはそういうところでございます。二番目は、トリチウムを分離精製しなければいけないわけですが、それの同位体分離の技術を確立する必要があるという点でございます。それから三番目は、大量のトリチウムを扱う必要があるという点、以上三点あるわけでございます。
まず第一点の、トリチウムは水素の同位元素で非常に漏れやすいということについてでございますが、これは装置や施設の設計施工につきまして特段の注意をいたしまして、漏れが少ないようにするということを考えなければいけません。それからさらに、要所要所には、多重格納
構造と申しましょうか、たとえばチューブなどですと二重のチューブにいたしまして、一番中にトリチウムがあるといたしますと、その外側を真空にして、そこにもし漏れてきたとしてもその次のバリアでとめるようにするというような、多重格納
構造と申しましょうかそういうふうな工夫をする必要があります。それからまた、採用するプロセスに、トリチウムの入っております配管等の中で高温高圧にならないようにするという工夫、設計上の配慮も必要でございます。これらの技術は、実は軽水炉の燃料の再処理過程でも採用されている技術でございまして、工学的にはかなりの完成度に達しているというふうに思っております。もちろんそれを
核融合用に発展しなければいけないことは確かでございますけれ
ども、すでにある
程度のバックグラウンドはあるというふうに申し上げてよろしいと思います。
一つ補足させていただきますと、トリチウムは空中に外に漏れますと、酸素と化合しまして、トリチウム水といいましょうか、水蒸気のようなものになってしまう。それで、空気の中から水蒸気を取り去るというのは比較的簡単な技術でございまして、たとえばアルゴンを取るとかクリプトンを取るというふうな、非常にアルゴンやクリプトンは空気中から取りにくいものでございますが、水蒸気の方は冷やせば簡単に取れてしまいますし、ほかに吸着材もございまして、非常に取りやすい化合物の
一つでございますので、そういう点でも、しかるべき注意をすれば御心配ないというふうに考えておるわけでございます。
それから、トリチウムを
長期にわたって安定に貯蔵することも非常に大きな技術的な課題でございます。貯蔵しているものが漏れてはいけませんので問題でございますが、これは最近燃料電池とか水素
エネルギーの利用ということに関連いたしまして、チタンとかウランに水素あるいはトリチウムを吸わせるという技術が急速に
開発されておりまして、これも技術的に非常に明るい
見通しを持つことができるというふうに考えております。
二番目の、細かくなって恐縮でございますが、同位体分離の技術でございますが、同位体分離というのは非常に高度な技術でございますが、
日本原子力研究所では、現在、沸点の差を利用しまして同位体を分けます深冷分離法というのがございますが、その深冷分離法と、それから、温めますと重い物が拡散する速度が少し遅くなるものですから、そういうことを利用しまして同位体を分離する熱拡散法という、その二つの方法に重点を置きまして
開発を進めておるところでございます。それで、前者の深冷分離法というのは、元来空気から窒素を分離するのに
開発された技術でございますし、
原子力の分野では再処理過程においてクリプトンを分離するというのに
現実的に利用しておられるわけでございます。そういうことでございますので、トリチウムの深冷分離もこれらの技術の延長上にございますので、十分それは
開発ができるであろうというふうにいま
見通しておるわけでございます。
最後の、トリチウムの大量取り扱いでございますが、これは残念ながらわが国では最も技術
開発がおくれている分野でございます。現在米国では、
核融合炉の燃料サイクル、トリチウムのサイクルの技術を実証しますために、トリチウムシステム試験装置というのをアメリカのロスアラモスというところにつくっておりますが、その装置が完成いたしますと、実験炉規模のトリチウムを実際に回してみる技術的な実証ができることになっております。ところが、これらの技術は非常に機微にわたる情報でございまして、その一部は国際協力という形で日本も入手することができるということは
期待できますけれ
ども、全面的にアメリカのトリチウムシステム試験装置からの情報に安易に頼ることはできないというふうに考えております。
そこで、わが国といたしましては、まず一グラム
程度のトリチウムを扱える比較的小規模な施設をつくりまして、それで安全取り扱いを初め各種のトリチウムのプロセスの基本的な技術を確立いたしまして、そこからスタートしましてだんだん
段階的に扱う量をふやしてまいりまして、最後に実験炉の運転開始までには一キログラム
程度のトリチウムが扱えるような技術を確立したいというふうに考えております。
後半の御
指摘の材料でございますが、確かに
核融合炉では発生する中性子の
エネルギーが非常に高うございます。それから中が高温の一億度でございますので、その一億度から出てまいります輻射のために炉の壁というのは
相当な高温になってまいります。そういう二つの過酷な条件があるわけでございまして、材料としての要求というのは非常に厳しいものになっているわけでございます。これに耐える材料の
開発というのは
核融合の
一つのかぎとなる技術だというふうに思っておるわけでございます。
それで、これに対応する方法には二つの方法があるわけでございまして、
一つは、要求を何とか下げようという、材料をやさしくしようという方でございまして、炉の設計面でいろいろな工夫をこらします。あるいは、プラズマの閉じ込め方式に工夫をこらしたりいたしまして材料の負担を軽くする。温度を下げるとか、そういうふうな工夫をすることもあります。
現在、国際協力で設計を進めております国際トカマク炉という実験炉の設計がございます。INTORと私たちは愛称しておりますが、そういう炉でもこのような設計
方針が採用されているわけでございます。このINTORでは、国際的に設計をしてみまして材料がどれだけ厳しいかということを計算で出しまして、それではこういうふうに設計を変えればこの材料ならもつようになるのではないかというようなことを国際的に知恵を出し合って設計しているわけでございます。
それはいわば消極面でございますが、もう
一つの積極面としては、当然、
核融合炉にふさわしい材料を
開発するということでございます。この方面の研究は実は既存の原子炉材料の
研究開発の延長線上にございますので、その
研究開発の成果を踏まえて仕事をしているわけでございます。原子炉と申しますのは軽水炉とそれから高速増殖炉で、両方の延長線上にあるわけでございまして、ちょうどこう、軽水炉、高速増殖炉、
核融合炉というふうに
位置づけできるのではなかろうかというふうに考えております。
それで、そのような経験を踏まえまして、有望と思われるような合金の材料を二、三選定いたしまして、それについて原子炉の中性子を使って照射をしてみる、あるいは加速器を使いまして、シミュレーションと申しておりますが、
核融合炉のある条件を模擬した実験をするというようなことをいたしているわけでございます。今後はさらに、高
エネルギーの中性子源を用いまして確性試験、性能を確認する試験を行いまして
研究開発を進める必要があります。
このような材料の
開発につきましては、世界的にも実は緒についたばかりでございまして、各国ともいま申し上げましたような
問題点というのはよく認識しておりまして、今後積極的な国際協力によってこの面の
研究開発の促進を図りたいというふうに考えているわけでございます。
と申しますのは、実は材料というのは、たとえばどういうふうな合金をつくればどういう性質が得られるであろうというふうな理論と申しましょうか、そういう理屈が大分このごろわかってまいりまして、やみくもにいろいろつくってテストをしてどういうものができるかというのを経験的にやらなくても、ある
程度の
見通しがつくようになりました。しかし、照射に強い材料となりますと、まだそこまで知恵が進んでおりませんで、やはり最終的には、大体この辺はこれぐらいの合金がよさそうだとわかりましたら、その範囲でいわばじゅうたん爆撃的に照射をいたしましていいものを選び出していかなければいけないわけでございまして、これは非常に時間とお金と人手もかかるものでございますので、国際的によく知恵を出し合って、あるいは分担してでも、照射をしていいものを選び出す
努力をしようではないかというような動きがあるわけでございます。
それで、これらの
研究開発の進展と、それからわが国は特に鉄鋼は非常に優秀な技術を持っておりますので、そういうふうな技術を組み合わせますれば、
核融合にふさわしい材料というものが
開発できることは十分可能だというふうに考えているわけでございます。
終わります。