○林公述人 御紹介いただきました林でございます。初めに、このような発言の機会を与えてくださいましたことにつきまして、当
委員会に対しまして、
国民の一人、納税者の一人としてお礼を申し上げます。
五十七
年度の
予算について
意見を述べるようにというお話をいただいておりますが、
予算そのものに立ち入って申し上げる前に、
予算を考える前提といたしまして、二つほど
お願いがありますので、その点をまず申し述べさせていただきます。
第一は、財政の民主主義といいますか、財政の民主的なコントロールについてであります。具体的には議員定数の是正についてであります。
御存じのとおり、同じ有権者でありながら、主として都会ないし都会周辺に住んでいるという理由から、そうでない地域に住んでいる
人たちの三分の一とか五分の一とかしか一票の価値が
評価されないという
状況があります。これは、広く言えば
日本の民主主義全体でありますが、とりあえずは
予算あるいは財政に対する有権者の、有権者として当然期待される関心あるいは参加意識あるいは希望というようなものを薄めまして、逆に無関心とか無力感を引き起こしているというふうに想像されます。この点につきましては、すでに一応裁判所の判断がある程度出ているようでありますが、私としましては、司法府の
意見はそれはそれとして、立法府自身におかれまして速やかにその是正に着手をしていただきたい。そして、
国民が財政なり
予算なりを自分のものあるいは自分の問題として考え、感じ、行動する条件をつくり出していただきたいと考えます。特に来るべき高齢化社会で不可避的に予想しなければならない負担の
増加を考えますと、
国民の自律的、自発的な財政への参加意識というものを高めておく必要があると痛感いたす次第であります。これが第一点であります。
第二は、経済政策としての
予算政策にかかわる対外
関係について、具体的には
アメリカの高金利政策についてであります。
アメリカとしてはインフレ抑制のために必要だということでこの政策がとられているわけでありましょうが、そのために
日本や西欧の経済政策、とりわけ金利政策が非常にやりにくくなっておる。それが後に申しますように、五十七
年度経済運営との
関係で、五十七
年度の
予算のあり方にも響いてまいっております。この高金利につきましては、過日、国際決済銀行の集まりで
日本銀行初め各国の中央銀行でも
アメリカに対していろいろな議論をしたようでありますが、
政府レベルあるいは国会レベル、国会議員レベルでもこのような国際的な協調に抵触するような高金利政策の是正をぜひ強く主張していただきたいと思います。何といっても
アメリカの世界経済に与える影響は大きくて、そこでの動きが
日本の
予算政策、経済政策を動かしますので、
アメリカに対する無用な内政干渉というようなことではありませんで、友好国同士のスムーズな経済政策の連携プレイという
意味から、そのようにする必要があるのではないかというふうに考える次第であります。
次に、五十七
年度予算の幾つかの点について
意見を申し述べたいと存じます。
むずかしい条件の中で、大変苦労して編成されたことにつきましては、これは
予算の各所にそれがあらわれておりまして、
政府なり大蔵省なりの努力には敬意を表するものでありますが、多少私としては疑問もありますので、以下その点を取り上げて申し上げたいと思います。
〔堀内
委員長代理退席、小宮山
委員長代理着席〕
最大の問題は、五十七
年度予算は何を第一の目標としてねらうべきか、あるいは
政府案はねらっているか。それは当面の
国民の利益に一番よくかなっているかどうかということであろうと思われます。無論、実際はこんな単純な形の問題ではないわけでありましょうが、ただ、この一番
基本的な点で方向が違いますと個別的な問題の
評価も違ってまいりますので、あえて単純な形で問題を出させていただきます。
さらに、これを極端な形で申しますと、景気刺激的な
予算を組むか、それとも財政再建の非常に緊縮的な、あるいは超緊縮的な
予算を組むかという大きな政策選択がその最大の問題だということであります。この基準で見ますと、
政府の
予算は、五十九
年度に赤字公債をゼロにするという戦略目標を立てて、それに整合的になるようにというので五十七
年度予算が組み立てられている。したがって、いわば緊縮型
予算に組み上げられているというふうに思われます。これに対しまして、私はもう少し景気刺激的な色を盛り込んだ方がよかったのではないかと考えておりますが、この点は後にもう一度戻って申し上げたいと思います。
第二の問題は、右の緊縮型の編成が
政府自身が掲げております経済運営の方針と整合しているかどうかという点であります。
政府は、
政府以外のどの機関の見通しとも違いまして、かなり高い成長率を見込んでおりまして、それも大部分は内需によるという前提であるようであります。私自身は、実質五・二%という
水準が実現できるとはちょっと予想できないのでありますが、しかしできることならば、たとえば四%台くらいの成長にはしてほしいというふうに希望をしておりますので、
政府の高い見通し、あるいは希望的見通しでしょうか、これを掲げて、それに整合的な
予算を組んで、経済の先行きについて人々に明るい希望を与えるというのであれば、私はこれを支持したいと思うのでありますが、実際には、目標は高いのでありますが、それに対して手段としての
予算はうまく合っていないのじゃないかという疑問がありまして、その点をいまから問題にしたいというふうに思うわけであります。
来
年度、世界経済はよほどうまくいって一%くらいの成長ではないかというふうに思われるわけでしょうが、その中にあって、
日本としては貿易摩擦を避けながら五・二%の成長をしようということになりますと、よほど内需が強くならなければならないはずであります。特に五十五
年度あるいは五十六
年度の経済成長の主たる要因が内需ではなくて外需であったということから考えまして、これは相当大幅な経済の流れの変化を予想しなければならないと思います。特に、初めに申しましたように、
アメリカの高金利のために、
日本で金利を動かす、具体的には下げることによって景気を刺激するという手段をとりにくくなっておると思いますので、あえて金利を下げる方向で政策をやろうといたしますと、ますますもって
アメリカへの資本輸出を促進させ、円安の
傾向を強め、その結果ますます貿易摩擦を強くするという心配がありますので、どうもこの政策はとりにくい。一方、国内で経済が自律的に、政策の助けなしに五%以上の成長を達するほど急上昇するという要因はなかなか見出しにくいのではないかというふうに思います。したがいまして、余り金融政策をうまく使い得ない
状況の中では、
政府としては、この高い成長実現するためには、恐らくよほど財政の側から手だてを尽くさなければならないということになると思います。
しかし、この
予算は最初に申しましたような緊縮型でありますから、そのために動く幅は非常に狭いということは当然のことであります。
政府としては、恐らく成長の主軸に住宅建設というものを考えられて、そのために税制上の措置あるいは融資の措置を講じられておりますが、それらがある程度効果を持つことは私は疑いませんし、その期待もしておりますが、しかし一方で抜本的な土地
対策、地価
対策がなかなかとり得ないという
状況では、住宅建設の
伸びに
政府が期待しているような非常に高い値を期待するというのはやはり無理ではないかという感じを持ちます。
したがいまして、第三番目の問題としては、住宅が必ずしも十分に経済成長のリーディングなセクターとして当てにならないということになりますと、私は住宅以外の公共事業をある程度考えるとかあるいは減税による消費刺激を考えるとかということを考える必要が起こるというふうに思います。むしろ
政府の五・二%という目的を達するためにそれが必要ではないかというふうに思います。この場合に、減税の対象としては、とりあえずは所得税が私は考えられると思います。これはよく言われているとおりで、特に給与所得税の
課税最低限が五年間据え置かれたために大幅な実質的な増税になっているということがありまして、これを是正するということが要求されます。これは景気刺激のためというよりは、いわば予期せざる自動的な増税でありますので、当初予期されていたシステムに戻すために要求されるべき調整的な減税でありますが、それがもしうまく大
規模に行われれば、同時に景気の刺激にも役立つという配置になろうかと思います。
さらに、景気刺激によってある程度の経済成長を達成しようというのは、
政府自身の今度の
予算の中からも予想しなければならない政策だというのは、たとえば今度の
予算で
政府は、かなり多くの会計上の操作によって財政
規模を圧縮するということを行っております。後
年度負担に回すとか、あるいは他会計に負担を回すというやり方がそれであります。これは当面、非常に景気の状態が悪いので、これをしのいで後
年度に景気回復を期待する、そこで得られた増収で返そうというわけでありますから、やはりもう少し積極的な経済政策を行おうというのは、
政府自身の
予算の組み方からも必然的に求められることになろうというふうに思います。
しかしながら、当然予想されますように、第四の問題ですが、減税の財源がないじゃないかという問題がもちろんあるわけであります。
政府としても、先々財政再建が成って減税財源が考えられれば減税を考えるというふうに言っておられるとおりであります。減税財源につきましては、何か単一のうまい手が突然出てくるということは無論あり得ないわけであります。私自身は、至るところから少しずつ財源をかき集めて積み上げる、それ以外にはないというふうに考えます。無論支出面でも、可能ならば一層の削減をするということは当然考えられなければなりませんが、収入面では、
一つは、いわゆるクロヨン是正のためにロクヨンあるいはトーゴーサンピンであればゴーサンと言われる領域に対しまして、たとえば記帳義務を導入するというようなことを行って、この財源難という悪い
状況のもとでこそ長年言われ続けてきたクロヨンの是正、財源確保もねらいながら、同時に公平も回復するというので、従来以上にクロヨン是正のために力を注ぐことが必要ではないかというふうに考えます。
ついでにクロヨンについて申しますならば、単にこれは公平回復あるいは税源のみならず、今後
拡大する社会保障
制度の中で社会保障
制度に当然、当然ではありませんが、しばしば伴うむだを排除しようとしますと、いろいろな点で所得制限を導入する必要が起こると思いますが、このときに国税のデータが必ず使われるだろうと思われます。そうしますと、もしクロヨンがそのままでありますと、そこに存在している不公平がまるまる社会保障給付の方にも入ってまいりますので、今後予想される社会
福祉の合理的な充実という点から考えましても、どこかの時点で抜本的にクロヨンのようなことを是正しなければならないのではないかと考えますので、この財源不足のことし、来年というのは、その
意味ではむしろ絶好のチャンスと
表現すべき年かもしれません。特にこれは強く
お願いをしたいと思います。
それからさらに、これまでいろいろな理由で課税の外にあった領域があると思います。いわば一種の税金にとっての聖域のようなところがあると思いますが、これはいろいろな事情があって、たとえば宗教なんかですと、宗教法人の事業については信教の自由に触れるとかいろいろな問題があって、聖域になっている領域が幾つかあると思います。こういう部分は、無論非常に重要な理由があってのことですから軽々に手をつけることは許されませんけれども、しかし、いまのような
日本の財政の
状況の中では、時としてはそういう領域の再検討、
見直しを行うということが必要ではないかというふうに考えます。その結果、いままでどおりがよろしいということになれば、無論それでよろしいわけでありますが、現実態あるいは設立の事情等々を考えて、ある一定の期間ごとにそういう領域は再検討されてしかるべきではないかというふうに考えます。
そのほか、税金につきましては、先ほど
木下先生が税制調査会においてなお今後検討すべき事項というふうにおっしゃった部分がありまして、これもぜひ検討を続けていただきたいというふうに考えます。
それから、間接税が高度成長の過程でかなり比率を下げておりまして、これは税調でも問題にされておるようでありますが、意図せざる間接税の
低下というのは、ある部分については従量税を従価税にするとか、あるいは物品税の対象を絶えず見直すとかいうようなことで、実態を追っかけてある程度埋めていただいてもよろしいのではないかというふうに思っております。
それから、これは
政府が時としてそういうふうに言われるわけでありますが、一般消費税あるいは大型消費税という間接税、そういうようなものをどう考えるかという問題が当然に残っておりますが、私自身は、後に触れます
年金財政のこともございまして、いまも申し述べましたような数々の段取りを踏んだ上で、どうしても他に方法が残ってないということになりますならば、これは当然検討されてしかるべき重要なテーマだというふうに思います。特に、場合によっては、やり方によっては、いわゆるクロヨン是正ということとひっかけてあるいは有効にこれが使えることがあるかもしれません。いずれにしても検討はしなければならないというふうに考えます。
しかしながら、一方で減税するために他方で増税するというようなやり方は、当然のことながら、景気政策としては相殺要因が大きくてうまくない点が残っております。したがいまして、なおほかに目を向ける必要があると思います。私は、昨年も五十七
年度も
政府としてもある程度手をつけておられるようですが、特別会計あるいは
政府関係機関、その他の特殊法人というようなものの整理あるいは縮小ということによって、そこから何が出てくるかはよくわかりませんが、可能ならば一般会計の雑収入に繰り込み得るようなものを考えていただくということも、これは別に財源不足でなくても、いつも考えるべきことかもしれませんが、とりわけ考えていただいたらどうかというふうに思っております。それでもなおかつ、十分な景気刺激的な減税は考えられないというようなことになってまいりますと、私としては、赤字公債を五十九
年度にゼロにするという方針自体、今
年度の
予算の戦略目標がそれであると思いますが、その方針自身をある程度考え直すということも当然に起こってこざるを得ないというふうに思います。
私は、財政硬直化を防ぎ、借金で借金を返すというようなことにならないようにという目標で現在
政府が追求しておられる方向というのは賛成でありますし、その努力については敬意を表しているわけでありますが、しかし、それは次に述べるような
雇用の維持
拡大と両立し得る限りにおいてでありまして、それとぶつかる場合には、政策の優先順位としては
雇用の維持
拡大が第一で、財政再建を第二にするのはやむを得ないというふうに思っております。
なぜそう考えるかということを、
最後に第五番目の問題として申し上げておきたいと思います。
私は労働問題については素人なのでありますが、多分
日本では労働
人口の
増加率というのはこのところ大体年率〇・九%ぐらいですから、年々新規労働力として五十万人ほどに新しい職を与えなければならない。そのためには三%台の成長ではどうも十分ではなくて、少なくとも四%台には成長をのせておいてほしいということになると思います。無論
外国の失業率に比べまして
日本の失業率は際立って低い、それから物価の安定も際立っておるという点で、これは
日本が誇っていいことだと思いますが、この状態を維持するだけでなくて、さらに先を見通しますと、余り無理をしない限りで成長率は高い方向で維持するという努力をすることが望ましいと思います。無論人為的な高度成長政策などは問題になりませんが、さりとて政策を誤って、人為的な低成長になることも避けるべきだというふうに考えるわけであります。
さらに、
雇用につきましてはこういう問題があります。それは老齢者の
雇用拡大問題であります。これは来るべき老齢化社会一般についてもちろん問題になりますが、とりわけ
御存じのとおり、
年金財政がここのところ国鉄を初めとして非常な危機に陥ろうとしております。これを放置し得ないということになりますと、一般会計からの国庫負担を新たにつけるとか、あるいは増すとか、あるいは給付
水準を切り下げるとか、あるいは他の
年金との統合を図るとかいう、どれ
一つをとっても非常にむずかしい問題に取り組まなくちゃならなくなると思いますが、さらにそれに加えてもう
一つ、定年の年齢を引き上げるということも恐らく先々考えなくちゃならなくなるだろうと思います。これは
年金財政が破綻したところへいってから手を打つのでは遅いわけでありまして、なるべく早くから取り組まなくちゃならないというふうに思います。
そのためには、たとえば五十七
年度の
予算でも、その長期を見通した
雇用拡大路線、つまりは景気刺激的な
路線というのをとって、民間も含めた老齢者
雇用に積極的な取り組みという方向を見出しておく必要があろうというふうに考えます。その点で、やはり緊縮型と財政再建型の両立は大変むずかしいわけでありますけれども、もう少し景気刺激型に傾斜をつける必要があるのじゃないかと考えるゆえんであります。
最後に、当然予想されますただいまの私の主張に対する批評について触れておきたいと思います。
せっかく盛り上がってきた行政改革による財政再建の筋道が、こういうような主張を実行すれば底抜けになってしまうじゃないかという批評が当然考えられるわけであります。恐らく、実際問題としては私はかなりそういう
傾向はあろうかと思います。しかし、多少空理空論を言わせていただきますと、まず第一に、財政状態のいかんを問わず、行政のむだを排除するというのは、
国民から信託を受けた人々の当然の義務であって、財政難があってもなくてもその点に違いはないのじゃないかというふうに考えます。
それから第二には、財政が行わなければならないことというのは、行政改革の進展いかんにかかわらず領域が広くありまして、
雇用の維持
拡大のための政策というのはその中の最大のものではないかというふうに考えるわけであります。したがいまして、こういう前提あるいは考えのもとに私はただいま申し述べたような議論を展開したわけであります。
それに、実際問題として、
政府の経済見通しあるいは税収見通しにつきましてもかなり達成がむずかしいのじゃないかと思われる面もありますし、五十六
年度のように
年度途中で補正をして、結局赤字公債をある程度出すというようなことは、五十七
年度の場合にも避けがたいかもしれない。特に公務員給与のことだけ考えましても、当初に一%しか計上されてないということであれば、やはりそういうおそれはあるわけで、そこいら辺を余り無理な形で、どうしても五十九年に赤字公債ゼロでなければならぬという方からすべてを縛ってくるという点につきましては疑問があるというふうに考えておるわけであります。
以上、時間を超過して恐縮でありましたが、私の
意見を申し述べました。(拍子)