○
田中参考人 御
紹介いただきました
田中でございます。
手書きのもので大変読みにくいかと思うのですけれども、レジュメのようなものをちょっと用意させていただきましたので、時間も限られておりますので、それで申し上げていきたいと思います。
私は、いまは
大学の教師をしておりますけれども、以前長い間、
日本に勉強に来ている
留学生の
世話団体で
仕事をしたものですから、わりあい
外国人の身近なところで
外国人の置かれている問題に
大変関心を持って、いまでは
大学でもそれに関連したような授業もやっているという、そういう
立場で御
意見を申し上げたいと思います。
私の感じますところでは、ここ数年、
日本における
外国人の
地位、
処遇をめぐってかなり大きな
変化が見られるようになってきた。今度の
法改正もそういう
変化の中で私は理解をしたいと思っております。
変化の第一点は、ことしの一月から、当
委員会でも恐らく審議をされたと思いますけれども、
出入国管理令のかなり大幅な
改正が施行されて、いわゆる
特例永住制度というのが発足したことによって、
日本に
在留する
外国人が、大きく分けて
永住者とそうではない非
永住者に二分されるということが非常に明確になってきた。これはアメリカにおけるイミグラントとノギンイミグラントとやや似た区分けが成立したというふうに私は考えております。したがって、今回の
法改正もそういう
在留のカテゴリーの分化をどういうように反映させるかということをやはり考える必要があるだろう。統計的に見ましても、戦前からいる
朝鮮人、
韓国人あるいは
台湾出身のいわゆる旧
植民地の
人たちを中心にして、今度の
法改正で
永住者に数えられる範囲というのは恐らく八十数%、場合によっては九〇%近い部分は
日本で
永住者、すなわち期限の定めのない
在留を認めるということを正式に認めた
外国人になったわけで、こういう状態になったことを念頭に置いて今後考えていかなければいけないだろうというのが第一点です。
それから
二つ目の
変化は、これもことしの一月から変わったわけですけれども、
難民条約に加入することになったために、
社会保障関係でいわゆる
国籍要件というのが撤廃された。若干問題が残っているようですけれども、その
基本精神は、
日本に
住所を有する
日本国民だけを相手に
社会保障をやるのではなくて、
国籍がどこであろうとも、
日本に
住所を有する人全体を対象に
社会保障行政をやるという大変重要な原則の変更がことしの一月から行われたわけで、別の
観点から考えれば、
内外人平等に一歩前進したという年でもあるわけで、
外国人登録法についてもそういう
観点から考える必要がありはしないか。
それから三番目は、
日本の
人権状況に対して国際的な
関心が非常に高い、こういう国際的な
関心にこたえるものを
日本の国内でどう実現するかということがやはり問われているだろう。これはつとに御
承知と思いますけれども、
人権規約に加盟したことに伴って、
日本政府は
国連の
人権専門委員会に
日本の
人権状況に関する
報告をいたしました。一九八〇年の十月でございます。それが昨年の秋に
国連の
人権専門委員会で検討されたようであります。
その
討議録を最近私は拝見したのですが、その中に、今日の
議題である
日本における
外国人の
人権状況について、
各国の
委員から非常に強い
関心が寄せられている。ちょっとそこに引用しておきましたけれども、たとえば
日本には
朝鮮とか
中国の民族のグループがあっていろいろな問題を持っているということを聞いているけれどもどういうようになっているだろうか、あるいは
委員会は
在日朝鮮人、
中国人の
地位に関する情報を持っているけれども、
日本政府の
報告はこれらについて非常に不十分である、もっと詳しい実情を当
委員会に
報告をしてほしい、そういう指摘がなされていて、国際的に
日本の
人権状況に非常に重大な
関心が集まっている。
この三つを私は、この問題を考える上での前提に考えたわけです。
次に、今回の
改正案について申し上げたいと思いますけれども、私はこちらの本院から送っていただきました
関係資料を拝読して、率直な
感想を申し上げますと、ああこれは
行政簡素化をやるということだねというのが私の第一
印象であります。要するに、
幾つかの
行政上の
手続が免除されるようになります。その限りにおいて
外国人も
手続が軽減される。たとえば、十六歳未満の子供については
外国人登録の切りかえが不要になる。これは
外国人の方で便利であると同時に、お役所の方で
仕事が減る、大体そういう
感想を持ったわけです。
行政簡素化と若干
性質が違う
改正点とすれば、
登録証明書の常時
携帯義務、これに
違反した者の罰則を、現在は
自由刑一年以下がついているのですが、これを外して
罰金だけにするというところがやや
行政簡素化とは
性質を異にする
改正点だろうと理解いたします。
常時
携帯の問題については、私も現場にいる一人の者として、率直に申しまして
大変評判の悪い条項でございまして、
日本人は街を歩くときに
身分証明書を持って歩くという
必要性を全く感じないで、そういうことがない形で私
たちは
生活をしているわけですね。そういう中にまじって
生活をしている
外国人だけは
証明書を持たなければいけない。私は、
証明書を持つこと自身を廃止するべきだというようには必ずしも考えませんけれども、不注意で、過失で忘れるということもあるわけですから、不
携帯について非常に重い罰を科すということはいかがなものかということをかねがね感じていて、実は昨年の九月ですけれども、直接私が知った
事例で、関西で勉強していた
中国政府派遣の
留学生が
東京にいる
友達のところに遊びに来て、大変不注意ではあるわけですが、
登録証明書を持たずに
東京に来たんですね。たまたま夜、自転車に乗っていて
警察官に
職務質問というのでしょうか、どこへ帰るのだというようなことを聞かれて、
北京から来て一年半ぐらいの学生ですから、言葉は明らかに
日本人でないということがわかったらしくて、
登録証を出せ、いやちょっときょう忘れてきました。そのまま
警察に連行されて、それで一晩泊められたわけです。
実は、
東京に仮泊していた
友人のところに翌朝、
警察にいる
本人から電話がかかってきて、実はきのうの夜、
警察につかまっているんだ。友だちもびっくりして
警察を訪ねたのですけれども、
本人は手錠をかけられて出てきたのです。それで、全く私の不注意で
登録証を持っていなくて申しわけないということを
本人も
友人もともにわびたようですけれども、頑として聞き入れなくて、
警察の方で出した条件は、とにかく
登録証明書をこの場に持ってくるまでは釈放はしない。やむを得ず
東京にいるその
友人の
中国人留学生は、新幹線に乗って
大阪まで出向いて、
本人の
留学生会館の部屋から
外国人登録証明書を持って
東京までトンボ返りをして、それを提示して辛うじて釈放された。
北京から希望に燃えてやってきた青年がどういう
感想を持ったかということは私は申し上げる
立場にありませんけれども、こういうことが起こる
一つの原因は、不
携帯罪に非常に重い
刑罰を科している。
捜査の必要上、重い
刑罰についてはそれなりの対応をするというのも恐らく
警察の
立場でしょうから、もしこれが非常に軽微なものであればそれほどにする必要を
警察も感じないのではないか。私は、どんなことがあってもこういうことだけはもう二度と起こしてほしくない。私は、
捜査のために一生懸命努力された
警察官を非難する気は毛頭ありませんで、こういう法条がつくられている限りあるいはやむを得ないのかなと思うわけです。
素人ですけれども、
運転免許のことをちょっと考えてみたのです。
免許証を持たずに、いわゆる無
免許で車を運転されると、こちらはたまったものではない。その人が
免許証を持っているかどうかというのは非常に簡単にわかるようにしておきたい、それで自動車の
免許については
携帯義務、車を運転するときには必ず持てというように
法律が定めている。
免許の方を見てみますと、無
免許運転は六月以下の
懲役というようにかなり
自由刑も伴ったものになっているようですけれども、しかし、
免許の不
携帯については一万円以下の
罰金または科料ということで、私も、たまたま同乗した
友人が
免許を持っていなくて、その場を見たことがありますけれども、
反則切符を切って、それで別に問題はない。あと三千円か幾らかのお金は払う。
免許はないけれども
反則切符を持っていれば、この人は無
免許ではないということの逆
証明になるので、このまま車は運転していただいて結構ですというように私の
友人は言われたことがありますけれども、その
程度の
扱いをして一向に差し支えないのではないか。
何分、
証明書を持ち歩くという
制度になっていない国なのです。欧米ですと
IDカードというのを自
国民も含めて持っている場合が非常に多いわけですけれども、私なんかも
身分証明書はただ
一つ大学から、おまえはこの
大学の教員であるという
証明書を持っているだけで、いわゆる
身分証明書なるものはないわけですね。大体職場の
証明書しか持たないのが
日本の
社会の慣例になっている。その点で、今次
改正案については不
携帯罪の
刑罰を
罰金二十万というかなり重い罰にまだなっていることについては、私は先ほど御
紹介したような
ケースが再び起きかねない。したがって、
現行犯逮補ができない
程度の軽微な
刑罰に少なくとも押しとどめるべきではないかというように思います。
実は私は、今度の
法改正案を拝見してやや失望したというような
感想を持ったのですが、それはいろいろな
懸案が従来からあって、今度はかなり大きな
改正案かと思って、当然その
幾つかは十分検討されて
改正されているかなと思ったのですが、さっき申し上げたように、私にとっては非常に
懸案の多くが積み残されたままである、
懸案の
幾つか、全部申し上げる時間的な余裕がありませんので、二点だけ申し上げます。
一つは
指紋の
押捺の問題。これはもちろん
日本人にそういうものはないわけです。前段で申し上げたように、
内外人平等ということを
日本の
社会がこれからいろいろ考えていかなければいけないときに、
通常指紋というのは
犯罪を連想するわけですから、
外国人はただいるだけで
指紋をとられる、別に何ら
犯罪の
嫌疑がなくても
日本にいることだけで
指紋を提供する
義務があるということは大変何かアンバランスで、
指紋をどうしても押したくないといって拒否している人が最近何人か報道されていますけれども、その中のコメントで、
自分は当然
日本人も中学の二年生になれば
指紋を出しているものとばかり思っていたけれども、
日本人の
友達に聞いたら私
たちは全くそういうことがないと言うので、どうしても腑に落ちないという、この声はやはり真剣に
日本の
社会として考える必要はないだろうか。
人権規約の中にも品位を傷つけない取り
扱いを受けるということがちゃんとうたわれていて、何人も受けないわけですから、特別な人だけ、
犯罪の
嫌疑がかかった人は別としても、そういう人にやるというのは非常に問題ではないか。
私は
留学生から、
日本が本当に
国際交流なり国際的に仲よくしていこうというようなことを真剣に考えるのであれば、
日本にいる
外国人が人間であるということをまず考えてほしいということをずいぶん言われて、
日本では
外国人というのは国を害する人と書く、ただそれでは非常に角が立つので外の国の人というように
通常は漢字で書くのですかということを私が言われたこともあるので、
外国人の側から見ると何か
特別扱いをされているという
印象が非常に強いようでして、
指紋の問題というのはやはり真剣に考える必要があるだろう。
登録の
改ざんその他の問題もあり得ると思います。今日ではいろいろな技術が
登録制度発足のときとは変わっているわけで、私も毎年共通一次試験の
実施に携わりますけれども、たとえば受験生の
受験票の
写真というのは
実施本部の側から配布した
シールでちゃんと密封しまして、絶対
写真が後からはがせないようにしてあるわけです。ところが、いまの
外国人登録証はなぜか
写真はまる裸で張ってあって、ある
意味では
改ざんしようと思えば一番簡単なようにつくってあるわけで、
免許証もいまああいう形で全部かぶせてあるわけです。したがって、もし
改ざんの問題があるとすれば、
指紋に頼らなくとも
写真をパスポートの上に張るようなあの
シールで張りとめれば、まずはがすことは不可能に近いと思うのです。
それからもう一点、大変時間が過ぎて申しわけないのですが、きょうは
生野区長さんがお見えになっていますので、主としてはそちらにお任せしたいと思いますけれども、
住民管理ということで、これはある
外国人が、
自分の
住所なり名前は当然
住民票の中に入っていると思って調べたら
住民票の中に入ってない、私はこの自治体の本当の
住民なんですかということを聞いた人がいますけれども、実は
住民基本台帳に
外国人が全く載らない。そのかわり
外国人登録法があるということなんですが、
住民基本台帳は御存じのように
世帯別につくられております。そして
地区番別にとじられているわけですが、
外国人登録は全く
個人別になっているので、私も一、二
事情聴取をいたしましたけれども、区役所の窓口では
外国人登録原票というのがあるのですが、それは
住民サービスをするときには全く無用の長物である。
住民基本台帳のように
世帯別にしておきませんと、先ほど
川原先生のお話にもありましたけれども、児童手当を出す、さて三番目の子供はどうやって探すかということになると、これは三番目の子供は
外国人登録には全く記載がないのです。したがって、
外国人登録原票というのは
住民サービスにはほとんど機能しない。したがって、区役所の方ではわざわざ世帯名簿というものを、自費を投じて別のものをつくって、
外国人登録原票から一々転写をして、それでもって具体的な
住民サービスをせざるを得ない。これは財政的にも非常に自治体がお困りのようですけれども、
外国人が自治体の一人前のメンバーとして入っていないという、全然別帳簿で別に
管理されていて、いろいろサービスをするときにはかえってマイナスになる。
これは、秘密を守らなければいけないものですから、
住民票の台帳の中に一緒にとじられないのです。
住民票は閲覧式になっているものですから、見たときに
外国人が出てくると困るので、お父さんが
日本人でお母さんが
外国人とかそういう国際結婚の場合には、
一つの世帯の人が片方は
住民票の方に入っている、片方は
外国人登録の方にあって全く別々に
管理されている。これを
一つにすることができないのですね。
外国人登録原票は秘密を守らなければいけないことになっているというそういう点で、自治体の側で、
外国人登録原票というのは国との間での情報の
管理ということでは重要な
役割りを果たしていると思いますけれども、
住民サービスということで大変片手落ちなものになっている。この点からも、抜本的な
改正をせざるを得ない状況に来ているのではないか。
私は議会のようなところで
意見を申し上げる機会をいただいたものですから、かねがね思っていることを最後に一言申し上げて終わりたいと思います。
昨年、御存じのように米国議会では、戦時中の迫害に関する公聴会を日系人についておやりになって、私はいつ
日本の国会が戦時中のさまざまな
植民地に伴う問題について公聴会をおやりになるかなということを、実は大変僣越ながら、
関心を持って見守っておりましたので、こういう機会が与えられたので、そういうことを感じている人間がいるということを申し上げて、ちょっと時間をオーバーしましたけれども、終えさせていただきたいと思います。
どうもありがとうございました。