○安藤
委員 私は、
日本共産党を代表して、ただいま議題となりました船舶の
所有者等の
責任の
制限に関する
法律の一部を
改正する
法律案に対する反対の討論を行います。
まず最初に、一九七五年の本法制定に当たり、ひとりわが
日本共産党のみが反対したのでありますが、本法施行以来今日まで本法の適用により数多くの被害者が十分な補償が得られず泣き寝入りさせられている実例を見るに、わが党が反対の態度をとったことの先見性、正確な
判断が実証された点を
指摘したいのであります。
当時、商法海商編の委付による
責任制限制度から本法の金額
責任制限制度への転換に当たって、わが党が反対した主要な理由は以下のとおりであります。
第一に、委付制度は、一見被害者の保護が図られないかに
考えられますが、一、船価が高くなり、全損の場合を除けば船主は委付すればかえって損をする、二、全損の場合でも、世論の
批判もあり、加害船主が補償しないことはあり得ない、三、保険制度の発達により船主は予想され得る事故の補償は十分賄えるなどの諸
情勢の変化により、現実に委付された事例はほとんどなく、被害者の補償は十分保障されていたのであります。これが本法制定により、補償額が低く抑えられ、限度額以上のものについては賠償を求める道が事実上断たれる結果となったのであります。その典型例が、わが党が質疑の中で明らかにしました漁船第七金宝丸事件であります。被害漁船の乗組員を含む実損害額は四億六千四百万円でしたが、加害船側が
責任制限手続をとり、被害者の遺族は実損害額の五分の一にも満たない補償金に泣いたのであります。ところで、加害船側は何と五百億円のPI保険に加入していたのであります。本法が存在しなければ、被害者の損害は十分に補償されたはずであったのです。
その第二の理由は、本法によって保険会社が支払う保険金が、事実上
責任限度額に限定されてしまうという点でありました。この点について当時わが党が
指摘したのに対し、政府は、「被害者の実損が限度額を上回っており、限度額で抑えられれば社会的に見てきわめて妥当性を欠くものについては被害者の方の迷惑にならないように
行政指導する」と答弁したのでありますが、現実はPI、
日本船主
責任相互保険組合がいち早く定款を
改正し、「組合員が
制限手続をしない場合も、組合のてん補額はこの
制限額又は保険金額のいずれか少ない額とする」とし、加害者が保険金で被害者の補償を行う道を閉ざしてしまったのであります。
今回の
改正案は、以上に述べた不当、不合理な
側面を改善するものになっていないのであります。
確かに、
責任限度額を引き上げ、旅客について別枠の限度額を設けるなどの措置は一応一定の改良と言えましょう。しかし、その金額は、政府自身も条約の交渉で不満を表明されたように依然として不十分であり、次のような根本的な改悪部分を含んでいるのであります。
それは、船主等が
責任制限できない場合について、現行法で「故意又は過失」によるときとなっているのを「故意により、又は損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為」によるときと改め、過失を
責任制限できない場合から除外して、
責任制限できない範囲を狭めてしまった点であります。このため、本
改正によって被害者の泣き寝入りのケースが飛躍的に増加することが危惧されるのであります。ちなみに、過去五年間に裁判所が受理した
責任制限事件数は計三十五件、年間平均七件であります。一方、海難船舶隻数は年間一万五千五百余隻から一万九千四百隻弱もあり、このうち故意によるものは二、三件しかありません。このことによって、私のこの危惧は現実のものとなることが明らかであります。
さらに、本
改正案中の保険会社にも
制限主体となることを認める条文の新設も、本法制定当時の前述の政府答弁をほごにするばかりか、現在のあしき
実態を追認、法
文化しようとするものであり、とうてい認めるわけにいかないのであります。
最後に、企業や船主等の利益を守り、零細な漁民や船客などの被害者となる者の保護をおろそかにする本制度は、
時代の要請に逆行するものであり、廃止すべきであるとの
意見を表明して、
日本共産党を代表しての反対討論といたします。
終わります。