○太田
委員 外国人登録法の一部を
改正する
法律案につきまして、まず初めに、ちょっと長くなりますけれども、私がきょう質問をする趣旨を御理解をいただきたいので少し考え方を述べさせていただいて、それから質問に入らしていただきたいと思います。
従来、わが国の出入国管理政策というのは大変厳しいと言われておりましたが、それはこれまで国会の論議の中で否定的な側面ばかりが論じられた嫌いもありますけれども、むしろ肯定すべきところもあったのではないかという印象を持っております。とりわけ、
日本が移民あるいは外国人労働者を積極的に受け入れてこなかったということは、少なくとも最近時の段階では評価されていいことではないかということが指摘をされるわけです。これは外国人労働者を大量に導入をして経済発展を遂げてきた西ドイツを初めとする欧州諸国あるいはアメリカのような国々は、経済が成長をしている段階では非常に有効に外国人労働者を活用できたわけでありますけれども、ついここ二、三年、西ドイツ病というふうな
言葉にあらわされるように、主としてトルコ系の外国人労働者というものが西ドイツ経済にとって大変な大きな負担になっているという事実があるからであります。
そこで、外国人に頼らない
日本というのはどういうふうなよいところがあったかというと、ヨーロッパの場合のように外国人労働者を大量に入れて
自分たちは汚い仕事はしない、汗を流す仕事はしない、そして嫌な仕事は全部外国人労働者にやらせるんだというふうなことをせずに、
日本人が汚い仕事もきれいな仕事もすべてやるんだ、いわゆる勤労の基本といいますか、額に汗を流して働く、あるいは汚いものでも手で扱ってやるという勤労の基本精神というものを
日本人は忘れずに今日まで来たのは、やはり出入国管理政策というのが厳しくあったことの一つの貢献でもあったというふうに理解をするわけであります。
ただ、こうした肯定できる側面があるということは強調をいたしますけれども、しかしながら、もっと最近時、つまり昨年、一昨年あたりの鈴木内閣が成立して以後、外交あるいは内政にわたって大きな政策転換が行われているわけでございまして、政府がすでに二つの政策転換にコミットをしてしまっているということを、ここで指摘しなければならないわけであります。
この政策転換というのはどういうことかといいますと、一つは、行政改革の理念というものからくるものであります。もう一つは、難民
条約の締結からくるものであります。つまり、行政改革からくる考え方というのは、簡素で効率的な政府を目指すんだというところが、これが鈴木内閣が成立して以後、あるいはその前の大平内閣時代からの一つの政府内の合意として成立をしているということに注意を払わなければならないわけであります。もう一つの難民
条約の締結ということは、これは外国人であることを理由に福祉あるいは人権の尊重といった枠組みから自国民と区別をするということが許されなくなってきたという、この点であります。
もう少しこの辺を、この二点について詳しく述べさせていただきますと、第二臨調の一回目の答申で言われている行政改革の理念というのはどういうことかといいますと、従来は、ある政策目的に沿った施策というものは、それが手段として効率的であるかどうかということは問わずに是認されてきた嫌いがあるわけであります。ところが、そのような行政のあり方が仮に政策目的に沿っていたとしても、その施策が必要な
限度を超えた公的な介入であるかどうかということは、これからは問われなければならない。効率的なやり方であるかどうか、過剰な公的介入ではないかどうかということが、今後は問われてこざるを得ないわけであります。すなわち、必要最小
限度の公的な介入あるいは公的な管理というものが認められて、必要以上の介入というのは、わが国の自由主義体制、つまり
人々の自由な活動から得られたであろう成果を損うものとして、これは許されないという考え方に変わってきているものということに注意をしなければならないと思うわけであります。
ただいま議題となっております外人登録法につきましても、法務省による外国人を公正に管理をするという政策目的に照らして必要最小
限度の公的介入であるのかどうか、その最小限の公的介入を超えていないかどうかということは、やはり問われなければならないと思うわけであります。
特に、在日韓国人あるいは在日朝鮮人の方々に対する過剰な管理
制度に対する反発というものは、幾ら否定してもやはりあるわけでありまして、それらの
人々とわが国の国民の間にそういう公的な過剰な介入がもしなかったとすれば、もっといまよりも好ましい在日韓国人、朝鮮人の方々と
日本人との間のアイデンティティーというものがあったはずのものが損われている、あるいは無用の亀裂や摩擦を生じさせているということがありはしないかということは考えてみなければならないわけであります。
もう一つの難民
条約の加盟ということがいまの
外国人登録法にどういうふうに
関係をしてくるかといいますと、難民
条約に調印したこと自体は、私にとって大変驚きであったわけでありまして、世界人権宣言みたいな、どちらかといいますと非常に甘いヒューマニズムに乗っかった考え方というものを非常に大幅に取り入れた
条約が成立をして、しかもそれにわが国政府が加入をしたということに実は大変驚いたわけでありまして、いわばコペルニクス的な発想の転換をここでせざるを得ないのではないか。このことは法務省当局は恐らくわかっているかわかっていないか、それは私もわかりませんけれども、大変大きな発想の転換を結果的にはしているんだということをここで強調をいたしたいわけであります。
もちろん、難民
条約そのものが
外国人登録法を直接的に
規定をするということは少ないわけでありますけれども、それにもかかわらず、これはかつて出入国管理当局の方が言われたというせりふがあるわけでありまして、外国人というのは煮て食おうと焼いて食おうと自由であるというふうな考え方が、かつては出入国管理当局者の方々の間にあったようでありますけれども、難民
条約の加入によってこれまで外国人を福祉
制度から排除していたというふうなことを見直さざるを得なくなったことに象徴されるように、外国人の権利義務に関して可能な限り自国民並みの待遇をせざるを得ない、そういう難民
条約の精神というものは非常に強く生きているわけでありまして、もはやいまの段階では、外国人は煮て食おうと焼いて食おうと自由ではないということが言えると思うわけであります。
以上の二点から、つまり現在の出入国管理
制度あるいはきょうの議題であります外国人登録
制度について、以上のような時代の変遷あるいは今日的な鈴木内閣のコミットメントということを踏まえた上で、ひとつこの
改正案が提出されるに至ったいきさつを大まかに御
説明をいただきたいと思います。