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1982-04-06 第96回国会 衆議院 法務委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十七年四月六日(火曜日)     午前十時十五分開議  出席委員    委員長 羽田野忠文君    理事 太田 誠一君 理事 熊川 次男君    理事 中川 秀直君 理事 稲葉 誠一君    理事 横山 利秋君 理事 沖本 泰幸君    理事 岡田 正勝君       上村千一郎君    大西 正男君       亀井 静香君    木村武千代君       高村 正彦君    佐野 嘉吉君       下平 正一君    鍛冶  清君       安藤  巖君    林  百郎君       田中伊三次君  出席国務大臣         法 務 大 臣 坂田 道太君  出席政府委員         法務大臣官房長 筧  榮一君         法務省民事局長 中島 一郎君  委員外出席者         法務省民事局参         事官      稲葉 威雄君         外務省アジア局         中国課長    池田  維君         外務省欧亜局ソ         ヴィエト連邦課         長       丹波  実君         外務省国際連合         局専門機関課長 佐藤 裕美君         大蔵省銀行局保         険部保険第二課         長       松田 篤之君         水産庁振興部沿         岸課長     鳥居 秀一君         水産庁研究部漁         場保全課長   川崎 君男君         運輸省海運局総         務課長     山本 直巳君         海上保安庁警備         救難部参事官  広瀬 好宏君         海上保安庁警備         救難部航行安全         課長      鈴木 正明君         海上保安庁警備         救難部救難課長 藤原 康夫君         法務委員会調査         室長      藤岡  晋君     ————————————— 四月六日  裁判所法等の一部を改正する法律案内閣提出  第七七号)  民事訴訟法及び民事調停法の一部を改正する法  律案内閣提出第七六号)(予) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  船舶所有者等責任制限に関する法律の一  部を改正する法律案内閣提出第六六号)      ————◇—————
  2. 羽田野忠文

    ○羽田野委員長 これより会議を開きます。  内閣提出船舶所有者等責任制限に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。稲葉誠一君。
  3. 稲葉誠一

    稲葉委員 船主責任制限法の一部を改正する法律案について、法案質問をいたします。  まず、最初にお聞きいたしたいのは、この法案関連をして法制審議会が開かれなかったわけですが、しかし、法制審議会ではなくて小委員会が開かれたということを聞いておるわけですね。これは鴻先生が小委員長をやられておるようですが、五回やられたと聞いておるわけですね。  そこで、去年の七月二十一日から始まっておるようなんですが、ことしもやられておりますが、この具体的な内容、一体なぜこういうような小委員会を設ける必要があったのか、こういうふうなことについてお聞きしたいと思います。
  4. 中島一郎

    中島政府委員 法律船舶所有者等責任制限に関する法律でございますので、民事基本法そのものではないわけでございます。したがいまして、形式的には法制審議会審議をお願いする必要がないということになろうかと思うわけでございますが、御承知のように、この問題は、以前は商法の中に規定があったわけでございます。それで前回、五十一年のこの法律ができました際には、そういう関係もありまして商法部会で御審議をいただいたというようないきさつがあるわけでありまして、単行法になりました以上は、法制審議会審議していただく必要は形式的にはないわけでございますけれども、それまでのいきさつというようなものもございますし、それから、今回新しい一九七六年の条約を批准することによって国内法を整備するということで、かなり基本的な変更を加えるというようなこともございました。そこで小委員会で御審議をいただきまして、部会に報告をしたということでございます。
  5. 稲葉誠一

    稲葉委員 小委員会を開いたことはわかりますが、具体的にどういう点について検討を行ったのかということなんですね。第一回は七月二十一日に基本問題を討議したというのでしょう。どういう点が基本問題であったわけですか。
  6. 中島一郎

    中島政府委員 条約一つ一つ審議をされまして、そのうちには、条約で決められて締約国としては留保できない部分が大部分でありますけれども、中には留保が認められておる部分もありますし、あるいは国内法で別の定めをするということができるというような点もあるわけでありますので、それに対する国内法はどういうふうにすべきかということを御審議いただきました。  それから、条約国内法表現に改める、移しかえるに当たりましては、条約は英文その他の外国文でございますので、それを国内法的にはどういうふうに表現したらいいかというようなことも御審議対象になったわけでございます。
  7. 稲葉誠一

    稲葉委員 そうすると、その後に十月七日と十一月十一日ですか、問題点の第一次検討を行った。十二月二日に四回目の会合を開いて、それから一月になって五回目でしょう。そこで問題点としたのは、十月七日と十一月十一日の小委員会問題点となったところはどういう点なんですか。
  8. 稲葉威雄

    稲葉説明員 これらの点で問題になりましたのは、いま局長から御答弁申し上げましたように、条約国内法化する場合にどういうふうに日本法に適合した表現にし、あるいはその実質を日本法に誤りなく移しかえることができるかということでございます。  たとえば一例を申し上げますと、条約の第六条というところではこの責任限度を決めておるわけでございますが、その第一項の(a)では、死亡または身体の傷害に関する債権につきましての責任限度額定め、(b)でその他の債権について責任限度額定めておるわけでございます。この場合に、それぞれが単独で発生したという場合に一体どうなるかということが問題になるわけでございまして、それは二項で、その(a)の規定によって計算された金額つまり人損に充てられるべきものとして条約で計算された金額がこの債権を完済するために十分でない場合には、(b)の規定に従って計算された金額をその(a)の額で弁済できない残額に充てることができるというような規定があるわけでございます。この(a)の規定で計算された額で弁済されない残額が(b)の額へ食い込んでくるという場合に、果たして人損だけが生じた場合に(a)、(b)合算額になるのか、それとも(a)だけで済まされるのかというような議論基本的にございまして、この国内法化に当たりましては、この人損だけが生じた場合も(a)、(b)両方の額を合算したものを責任限度額として考えるというような立場になっております。  また、救助者の定義をめぐりましても、この条約にこういう作業の過程を行う者というのが救助者に入るというようなことを言っておりますので、そういうような今回改正になりました条項につきまして、逐一条約との関係を論議したということでございます。
  9. 稲葉誠一

    稲葉委員 条約は、これは各国、加入しているところもあるし、それは全部同じだと思うのですが、そうすると、これに基づく国内法は、いま国内法をつくっている国は五つあるわけですか、それは全部同じですか、違うんですか。違うとすれば、これはどういう点がどういうふうに違うんでしょうか。各国法制があるから、それによって違いますね。それはどうなっているんですか。
  10. 稲葉威雄

    稲葉説明員 お手元の参考資料として私どもが参酌いたしましたイギリス法フランス法がそれぞれございます。イギリス法におきましては、これは全く条約国内法化している、つまり条約国内法としての効力を持つというふうに言いっ放しているわけでございまして、これはこの条約というものがイギリス法体系におおよそ沿ってできているということから、こういうことができるのであろうと思われます。それに対しまして、フランス法におきましてはこれを別に国内法化いたしておりまして、それぞれフランス国内法として適合するような形で翻訳をいたしております。大陸法系の国といたしましては、やはりそういうふうなやり方をせざるを得ないということになるのではないかと思われます。
  11. 稲葉誠一

    稲葉委員 だから、日本法体系は一体現在どっちの法体系になっておるんですか。そうすると、いまのフランスならフランスのこれに基づく国内法日本国内法とがどこが違うんですか。同じなんですか、どうなんです。それならば、イギリスのように条約をそのまま国内法とするというように法体系を改めるということは、日本ではできないのですか、できるのですか。できるとすれば、どういう法律をつくったらいいんですか。
  12. 中島一郎

    中島政府委員 法体系ということになりますと、それぞれの体系があろうかと思いますけれども、この条約を批准して国内法を整備いたします限りは、大筋においてはこの条約考え方基本にするということになろうかと思われます。そして、それを国内法手続に取り入れます場合には、そこに若干の修正が行われる。国内法との整合性を考えるという意味において、それぞれ工夫をこらしておるということがあろうかと思うわけでありまして、その点で全く同一かと言われますと、若干の相違はあろうかと思いますけれども、いずれもこの条約定めに反しない範囲内の問題である、こういうふうに申し上げられるかと思います。
  13. 稲葉誠一

    稲葉委員 これは条約ができているのですから、その条約に反しない限り、そんなのはあたりまえの話で、条約に反しているものを国内法でつくれるわけないでしょう。そんなことあたりまえの話なんですが、いまおっしゃった中で、そうすると日本の場合に国内法との整合性を考えるとなるというと、条約そのものとは多少違ったところが国内法の中にあるのですか、ないのですか。あるとすれば、一体どこなんですか、それは。
  14. 中島一郎

    中島政府委員 現在の国内法、五十一年以降のこの船舶所有者等責任制限に関する法律条約と食い違ったところはないということになるわけでありまして、それ以前の商法規定ということになりますと、これは大いに違っておる。基本的に考えましても、日本制度がとっておりましたのは委付主義という主義であり、この条約は船のトン数を基礎にした金額責任主義であるということになるわけでございます。
  15. 稲葉誠一

    稲葉委員 それは委付主義から金額責任主義トン数基本として変わったというのは、これは世界の大勢ですし、この前変わった。それはわかるのですがね。それならば、条約がある、その条約をそのまま国内法にするというように日本の場合に立法体系はできないのですか、できるのですかというのです。できないとすれば、一体どこにその原因があるのですか。
  16. 稲葉威雄

    稲葉説明員 日本法に翻訳いたします場合に、たとえば条約国内法との表現を見比べていただければおわかりになりますように、ある程度日本の従来の表現になじみやすい、あるいは従来の表現から考えて考えやすいように直しているという部分がございます。     〔委員長退席太田委員長代理着席〕  それからまた、たとえば一つの例をとってまいりますと、SDRの換算の関係がございまして、これは基金形成の口におけるSDR価値に相当する金額で換算しなさいというのが条約のたてまえでございますけれども、その基金形成の口におけるSDR価値というものは一体何を意味するのかということがわからないわけでございます。と申しますのは、日本法基金形成の場合には、これは必ず責任制限手続という手続において供託をするという形で処理をすることになっておりますけれども、その供託をする日におけるSDR価値というのは、その翌日でないとわからないというのが現在のたてまえでございます。結局、IMFでSDR価値を発表するわけでございますが、それが日本時間で申しますと真夜中にその前日のSDRの値段を発表するということになっておりますので、単に条約のとおりに国内法をしておいたのではそのことがはっきりしないということから、たとえば日本法の中では、その供託の日において公表されている最終の特別引き出し権価値とするんだというようなことを言っております。  また、フランス法では、一般的に難破物の除去の責任というようなものについても、これは責任制限対象になるというようにしておりますが、この点については日本条約を留保するという予定にしておりまして、この部分責任制限債権対象にはしないということにいたしております。  そういうような点でいろいろ差異があるということでございます。
  17. 稲葉誠一

    稲葉委員 そうすると、条約国内法との関係については、イギリスのように条約をそのまま国内法にするという形の立法もある。日本の場合、フランスの場合みんな違う。それはそれで解釈というか実際のやり方からくる違い、あるいは時間の差もあるのかな、そういうものはいろいろあるわけですが、それはそれほど大きな問題ではないのです。  私が聞いているのは、条約をそのまま国内法にするという形の立法は、日本では法律的にできないのですか。本件を除いて、別として、一体できないの、できるの、それはどうなっているの。
  18. 中島一郎

    中島政府委員 この条約は、条約それ自体で国内においても効力があると言われておりますので、極端な場合、国内法をつくらなければ実体法部分はこの条約が適用されることになるということは、理論的には考えられると思いますけれども、やはりいろいろな問題がございますので、手続的な面を含めて国内法を整備するということになったわけでございます。
  19. 稲葉誠一

    稲葉委員 手形小切手国際統一法がありますね。海商法でも、世界各国みんな船が動いているんだし、法律各国でそう違っておったのでは非常に困るわけですね。手形小切手の方は、ジュネーブにおける条約に基づいてでしたか、ちょっと忘れましたが、ありますね。だから、海商法世界的な統一法的なものはできてもいいんじゃないでしょうか、どうなんですか。そこはどうです。
  20. 中島一郎

    中島政府委員 大筋のところは条約を決めて、それがそのまま適用になるということも実際問題としても可能であろうかと思われます。ただ、この船責法の場合について申しますと、それでは、国内において裁判所管轄を持つわけでありますが、どこの裁判所管轄を持つかとか、あるいはその申し立ての手続はどうするかとか、あるいは供託については、供託だけなのかあるいは供託委託契約も許すのかとか、いろいろ細かい点が出てまいりますので、そういうものも含めて国内法で手当てをしたということでございます。
  21. 稲葉誠一

    稲葉委員 私の聞いているのは、手形小切手世界統一法律になっているんじゃないですか、どうでしたっけ。同じように海商法というものも世界統一の形でできないのでしょうか、こう聞いているわけですね。
  22. 中島一郎

    中島政府委員 手形小切手の場合でありますけれども、やはりあれも条約もとにして国内法ができておるというふうに理解しております。
  23. 稲葉誠一

    稲葉委員 もちろん、条約もとにして国内法ができているとしても、その国内法世界共通じゃないのですか。違いますか。これに直接関係ないからいいですけれども。  私が言うのは、確かに各国に歴史はあるかもわからぬけれども、海商法というものも、それが食い違っておったのではいろいろな事件や何か起きたときに非常に困るのではないか。だから同じような海商法というものをつくる必要があるのではないかということを言っておるわけなんですが、その点はどうなんでしょうか。
  24. 中島一郎

    中島政府委員 やはり国際的な問題でございますので、各国それぞれの主権というようなものもあり、お家の事情もあるわけでございますから、全部を網羅的に加入させるような条約ということは実際問題としてむずかしい。この手形小切手法についても英米法系の国は加入していないというような関係もございましょうし、条約という以上、そこにどうしても一定の限界があるということではないかと思います。     〔太田委員長代理退席中川(秀)委員長     代理着席
  25. 稲葉誠一

    稲葉委員 この法律関連がある商法規定というのは、海商法の中の六百九十条の船舶所有者船長等に関する賠償責任、これが関係があると言えば関係がある、こういうことになるわけですね。商法の第六百九十条、これはあたりまえのことを記載しているように思うのですね。だから、この条文が民法の七百十五条とはどういうふうに違うのですか。特にこの六百九十条というものが必要なわけですか。
  26. 中島一郎

    中島政府委員 商法六百九十条は、先ほどもおっしゃいましたように民法七百十五条の特別規定であるというふうに言われておるわけでありまして、民法七百十五条の場合にはただし書きがありまして、「但使用者カ被用者選任及ヒ其事業監督ニ付キ相当注意ヲ為シタルトキ又ハ相当注意ヲ為スモ損害カ生スヘカリシトキハ此限ニ在ラス」ということになっておるわけでありますが、船長その他の船員の場合につきましては、一たん出航をしてしまいますとその被用者等船舶所有者等の直接の管理下を離れるというようなことでありますとか、あるいは船長その他の船員については一種の公的な免許制度があるということで、船舶所有者等監督よりも、むしろ国その他の機関免許制度というものが重要な役割りを果たしておるとか、いろいろな理由があるかと思いますけれども、それを考えまして船舶所有者等責任を一般の使用者よりも責任を重からしめておる、こういうふうに理解をしているわけでございます。
  27. 稲葉誠一

    稲葉委員 七百十五条との関係については、最高裁でしたか下級審かの判例もありますね。だけれども、七百十五条の選任監督義務というのは、これは事実上死文に帰しているわけでしょう。それは形があるだけで、実際そんなことを主張する場合もないし、主張しようとしたって全然問題にしないわけです。だから、民法七百十五条の選任監督注意義務というのは、それによって免責されるというようなことは死文になっておるのであって、当然これは削除してもいいんじゃないですか。どうなんですか、これは実際に運用されてないでしょう。きょうの直接の関係じゃないからあれですけれども、これはもう削除していいんじゃないでしょうか。または、残しておくだけだ、実際には使わないけれども残しておくという理解の仕方もありますが、特に削除する必要もないけれども残しておく、ただそれは使われてはいないというようなことに理解してもいいかと思いますが、そこの点はどうでしょうか。
  28. 中島一郎

    中島政府委員 現在の民法のたてまえということになりますと、不法行為については過失責任ということが基本になっておりますので、それを改めるということになりますと無過失責任ということになるわけでありまして、そこまでいけるかどうかというような問題であろうかと思います。船舶所有者については、そういう意味ではある意味において無過失責任を認めておる、こういうことになろうかと思います。
  29. 稲葉誠一

    稲葉委員 いや、無過失責任ではないでしょう。七百九条があるんだから、別に無過失責任を認めておるということにならないのじゃないですか。
  30. 中島一郎

    中島政府委員 被用者の故意、過失がある場合には使用著は責任を負うということになりますと、使用者としては一種無過失責任ということになるわけでありまして、その場合に、選任監督というのは使用者のすることでありますから、それに過失があるかどうかということが問題になろうかと思います。
  31. 稲葉誠一

    稲葉委員 不法行為の場合の過失責任主義というのは、それは原則としては必要かもわかりませんけれども、それがだんだん修正をされてきておるということは、七百十五条なり七百十七条なりを見てくればわかるわけですが、それはきょうの特別の問題ではありませんから、この程度にしておくわけです。  そこで、この船舶所有者等責任制限ですね、これに対して、この前質問を聞いておったときに局長の答えは、学者の中でこの法案に対しては何か反対をするという意見があるというようなことを雷われましたね。そういうように私、聞いたのですが、恐らく石井さんのテキストの中に出てくることを言われたのじゃないか、こう思います。だから、どうして船舶所有者等責任制限をする必要があるのか、これに対して反対している学者もいるというようなことを言われたところはどういう意味なのか、もう少し詳しく説明を願いたい、こう思います。
  32. 中島一郎

    中島政府委員 私の申し上げ方があるいは言葉足らずであったかもしれませんけれども、この法案反対ということではなくて、船舶所有者等責任制度そのものは古い昔から行われてきた制度でありますけれども、現在においては、その制度そのものについて疑問を投げかけておる、そういう考え方もないではないということを申し上げたわけであります。  しかし、そういうことではありますけれども、やはり私がそのとき申し上げましたのは、現在においてもなおこの所有者等責任制限を認める必要があるということを申し上げたわけでありまして、その根拠といたしましては、大きくは、先ほど申しましたように古くから各国において認められてきたという沿革的な理由と、それから二番目といたしましては、海上企業が多額の資本を投下した船舶の運航という危険性の大きい企業であって、一たん事故が発生すると巨額の損害が生じ、企業採算性保険への責任転嫁限界を超えるということになるというようなことから、このような海上企業の適正な運営と発展のために必要であるということ、それから第三番目といたしましては、海運業国際性から考えて、わが国だけが船主責任制限制度を認めないということは困難であるというような実際上の理由を申し上げたわけでございます。
  33. 稲葉誠一

    稲葉委員 船舶所有者等責任制限するということについては、条約は別として、そういう責任制限そのものはもう必要ないのじゃないかという議論が一部の学者にあることは御案内のとおりです。たとえば東大の石井先生なんかはそういう意見だったというふうに私も覚えています。そうすると、船舶だけを責任制限する、そうすると航空機はどうなっているのですか、鉄道はどうなっているのですか、あるいは自動車責任制限関連ではどういうふうになっていますか。
  34. 中島一郎

    中島政府委員 自動車につきましては、これは余り国際的な問題ということにならないからかもしれませんけれども、そういう責任制限制度があるということは聞いておりません。鉄道については、これについても聞いておりません。航空機については、条約において一種制限のようなものがあるというふうに承知いたしておりますけれども、これはむしろ運送約款その他によって実際には決められておるというのが実情のように承知いたしております。
  35. 稲葉誠一

    稲葉委員 もちろん、自動車鉄道の場合は船の場合と比較することは、これは外国との関係その他からいってちょっと当を得ていないですね。これはわかりますね。問題は飛行機ですね。飛行機の場合は条約は確かにあります。あれはたしか三つありましたね。モントリオールとかなんとか三つあったように思いますね。それと船の場合の責任制限と具体的にはどういうふうに違うのですか。そこのところがよくはっきりしないのですが、それはどうですか。
  36. 中島一郎

    中島政府委員 航空機事故関係でございますが、国際線につきましては国際航空運送条約、いわゆるワルソー条約と呼ばれております条約がございます。わが国が批准をいたしておりますこのワルソー条約ハーグ改正議定書によりますと、旅客一人当たりの運送人責任限度額は二十五万フラン、邦貨にして五百七十五万円ということになっております。しかし、特約によりましてより高額の限度額を定めることができるということになっておりまして、大手航空会社の協定によって七万五千ドル、邦貨にして約一千七百万円ということになっておるようであります。もっとも、この協定もさらに特約によって上乗せをすることができるということになっておるようでありまして、日本航空では昨年から十万SDR、一SDRを二百六十円として計算いたしますと、二千六百万円に増額をいたしておるようであります。  他方、国内線につきましては、法律上の責任限度額はないわけであります。航空会社では乗客との特約によりまして二千三百万円、これは先ほど申しました七万五千ドルの一ドル三百八円換算ということになるわけでありますが、この二千三百万円の限度額を設けてきたわけでありますが、日本航空では、本年四月からこの限度を廃止して、責任限度定めないということに決定をしておるというふうに聞いております。
  37. 稲葉誠一

    稲葉委員 国内線のことを問題にしているわけじゃないのですね、これは別個の問題ですから。そうすると、船舶所有者等責任制限ということと航空機の場合とに関連をして言うと、人の損害に関する債権のときに一番比校されますね。その場合は一体どういうふうになっているわけですか。航空機の場合の損害の方が被害としては大きいですが、その場合制限はあるのかないのか、よくはっきりしないのですが、どういうふうになっていますか。また、航空機の場合と船の場合とどういうわけで違うわけですか。
  38. 中島一郎

    中島政府委員 条約にあらわれたところを見てみますと、航空機の場合は一人当たり幾らということで限度を設けておるようであります。船舶の場合は、もともとは物損と人損とに分けまして総体で限度額を定めておった。今回の改正におきましては、旅客につきましては、その旅客の乗船しておりました船については別建てで旅客の人損に対する限度額、責任制限をすることができるということになっておるわけでありますが、その場合も総額で限度が決められておるという点が違うわけであります。  と申しますのは、航空機の場合は主として損害が発生するのが旅客の人損事故というものが中心になるわけでありましょうし、船舶の場合には、それとあわせて物損その他の相手船の乗組員の人損というようなものが問題になるケースが多いということが理由であろうかと思います。
  39. 稲葉誠一

    稲葉委員 それはわかりますよ。飛行機の方は人損が多い、船の場合は物損も伴う、これはそのとおりかもわかりませんけれども、私の聞いているのはそういうことじゃなくて、一体どっちが会社というか企業の方にとって有利なのか、それから、被害者の方にとってはどちらの方が有利なのか、比べてみてどうなのかということですね。そこからこの法案がどういうふうなメリット——メリットと言うと言葉が悪いかもわかりませんが、それがあるかという質問に入っていくわけですね。
  40. 稲葉威雄

    稲葉説明員 航空機の旅客の話でございまして、それはいま局長が申し上げたとおりでございますが、船における旅客の扱いについて申し上げますと、事柄を国際船と申しますか外航船に限って申し上げますと、条約の適用上は、その責任限度額は、乗客定員に四万六千六百六十六SDR、これを一SDR二百七十円ということで計算いたしますと千二百六十万円、それを乗じた金額、それから二千五百万SDR、六十七億五千万円、これのいずれか少ない金額とするということにしているわけでございます。したがいまして、総額責任主義の見地からやや問題があると思いますけれども、乗客が少ない場合にはたくさんの補償を受けられる、つまり、定員いっぱい乗っておりますと、その責任限度額は千二百六十万円掛ける乗客の定員でございますから、そうしますと千二百六十万円しかもらえない、ところが、それが二分の一しか乗っていないということになりますと、その倍の金額になる、こういうような仕組みになっております。
  41. 稲葉誠一

    稲葉委員 いまあなたがおっしゃったような総額主義というか、そういうふうな仕組みは一体合理性があるかないかという問題になってくるわけですね。これは定員いっぱい乗っているというふうに想定をして計算するのはあたりまえの話であって、一人しか乗っていないときのことを計算するというのはおかしな話なんですから。  そうなってくると、飛行機に乗っていた場合と船に乗っていた場合と非常に違ってくるのじゃないですか。それから、旅客に関する場合は外航船に限るのじゃないですか、内航船の場合はこの法律は適用にならないのじゃないですか。どうなっていますか。いまの質問は二つありますよ。
  42. 中島一郎

    中島政府委員 後の方の御質問でございますけれども、旅客につきましては、内航船の場合には責任制限することができないということになっております。  外航船の旅客につきましては、先ほど稲葉事官が申し上げましたように、千二百六十万掛ける乗客定員、こういうことになるわけでありまして、その分と、それから、仮にこれが衝突であるということで相手船にも過失があるという場合には、相手船のトン数によってまた責任制限額というのが出てまいりますから、それをプラスしたものがこちらの船の旅客の賠償責任に充てられる、こういうことになるわけでありまして、旅客の乗客の数などが一定をいたしませんので、一般的に申し上げることはできない。  一方、航空機の場合は、先ほども申しましたように、条約によりまして五百七十五万円から千七百万円でありましたか、いろいろな協定があるので、これまた一般的に申し上げることはできないわけでありまして、両者を比較するということ、どちらが有利かどちらが不利かということを申し上げることは非常に困難である、こういう趣旨で申し上げておるわけでございます。
  43. 稲葉誠一

    稲葉委員 制度が違う場合に両者を比較するということが困難なことはあたりまえの話なんで、そうなってきますと、日本制度とかイギリス制度とかアメリカの制度とか、いろいろなものを比較するということは全然意味がないことになってしまうわけですが、どうもいまの話を聞いても、よくわからぬところがありますね。よくわからぬというのか、十分な話が私の方がよく理解できないというのか、そういうところがあります。  この法案改正案ですね。そうすると、それについて一体いまの法律と比べて、この改正案が企業というかあるいは所有者といいますか、それの方にとってまずどういうふうなメリットがあるのか。問題を分けますよ。被害者の方とかそういうふうな人と一緒にしてしまうとわからなくなるから、そちらの方の側にどういうメリットがあるのかということをお尋ねしたいと思うので、具体的に説明していただきたいと思うのです。率直に言うと、この法案はなかなかむずかしくて、私どもはよくわからないのですよ。海商法というのはその後全然勉強していませんからよくわからないから、わかりやすく具体的に説明してください。
  44. 中島一郎

    中島政府委員 船舶所有者等責任制限することができるということで、現在の法律は船主側にとりまして非常に有利な制度であるというふうに思われがちでありますけれども、この法律の基礎になりました条約ができましてからすでに二十数年たちまして、いろいろと不合理な部分が出てきております。  一つは、この限度額が非常に低くなったということであります。たとえば一例を申し上げますと、三百トンの船につきましては、その船の過失によって物損を起こした場合にはその制限額は六百九十万である、こういうことになります。御承知の昭和五十五年の十一月に最高裁判所が判決をいたしました事件におきましては、これは九十トンぐらいの船と衝突をいたしました数百トンの船が沈没をしまして、そしてその被害が約二億一千万ぐらいあった、こういうふうに主張をしております。それにもかかわらず、責任制限をされまして六百九十万で済まされてしまった、約三%の補償しか受けられなかった、こういうことで裁判になった事件でございます。  こういうふうに責任制限額が非常に低いということになりますと、被害者の方もなかなかそれでは納得いたしません。船主側も、責任制限制度があるからといってそれだけで済ませることができないということになるわけでありまして、かなりの上積みをしなければならない。しかし、そのかなりの上積みというものは、責任制限できるものをしないで払ったということになるわけでありますから、保険対象にならない、自腹を切って払わなければならない、こういうことになるわけであります。  今回、かなりの程度この限度額を引き上げるということになりますと、責任制限の限度内において事件が全く片づくということになります。したがって、船主側にとっても非常にメリットがある。むしろ業界あるいは水産界におきましては、この条約の早期批准と法律の早期改正を強く要望しておるというようなことでございます。
  45. 稲葉誠一

    稲葉委員 三百トンの船の場合は、非常に小さな船の場合であって、余り例にはならないのじゃないか、私はこう思うのですがね。いまの場合は六百九十万しか払われなかった。そうすると、それ以上の損害があったときに一体どういうふうになっておるのですか。  昭和五十五年十一月五日の最高裁大法廷の決定がありますね。これは憲法二十九条等の規定でやっておるから必ずしも当を得ていない質問になるかもわかりませんけれども、最後のところで、「海難事故によって被害を受けた者は、船主責任制限制度によって損害賠償債権の一部の弁済しか受けられなかった場合でも、弁済を受けられなかった残額について憲法二九条三項の規定に基づき国に損失補償を請求することはできない。」こういうふうになっておりますね。  これは国の船だった場合は別だけれども、そうでない場合には国に請求できないのは、これは憲法二十九条三項でいくのはあたりまえのことかもわかりませんが、そうすると、損害賠償の方はどうなってくるのですか。二十九条の第三項でできないという意味と、それに関連をして、普通の不法行為ではどうなってくるのですか。普通の不法行為じゃない、商法規定ですね。六百九十条の規定
  46. 中島一郎

    中島政府委員 私が申し上げました昭和五十五年十一月の最圏裁判所の決定は、この責任制限制度が憲法二十九条に違反するから、開始決定をしたその開始決定に対する不服申し立て、責任制限手続を進行してはならない、こういう趣旨の不服であります。それに対して最高裁判所は、この制度は憲法二十九条に違反しない、こういう判断を示したわけでありますが、ただいまおっしゃいましたのは、もう一つの、東京地裁の五十七年二月十八日の判決であろうかと思われます。(稲葉委員「違う、違う。二十ページの一番最初のところ、最高裁の決定の最後のところだよ」と呼ぶ)これはその後に出てまいります東京地裁判決の要旨でございます、この四行は。「2」と善きまして、そこから以後は後の要旨でございます。     〔中川(秀)委員長代理退席、太田委員長代理着席
  47. 稲葉誠一

    稲葉委員 失礼しました。  いまの憲法二十九条三項というのは、これは東京地裁の判決に関連する要旨ですね。ちょっと最高裁の判例とどういう関係があるのかと思って私も見ておったのですが、それはわかりました。  そうすると、責任以上に損害が発生した場合の被害者側は、どういうふうな処置をとるのですか、とれないのですか。
  48. 中島一郎

    中島政府委員 問題になっております船舶所有者等からは取れないということになります。と申しますのは、自分で保険その他を掛けていた、それによる救済は別としてという意味でございます。
  49. 稲葉誠一

    稲葉委員 ここにあります最高裁の決定と東京地裁の判決、東京地裁の判決の要旨はそれでわかったのですが、この間を今度は少しあけておいてもらわないと、「1」、「2」と書いてあるものだから、最高裁の方が「1」だから、「2」と続いてきたものですから、こっちがよく見なかったのが悪いのですが、どうも変だなと思って私は見ていたのです、が。  そうすると、被害者はあとは自分でやれということですか。物損の場合でも人損の場合でも自分でやれというのですか。結局、いまのお話を聞くと、ほかの方法はないというのですか。責任制限されてしまうから、商法の六百九十条でいま責任があるでしょう、これは民法を受けておるわけですが。そうすると、それに基づく損害賠償の請求ができなくなってしまうのですか。これはそういう意味ですか。
  50. 中島一郎

    中島政府委員 責任制限制度という制度基本的な考え方はそういうことでありまして、損害損害として、船舶所有者等は一定の限度にその責任制限することができる。それで、それを超えた部分については、どういう性格のものかということは十分詰めておりませんけれども、恐らく自然債務のような形のものになると言わざるを得ないのではないかと考えております。
  51. 稲葉誠一

    稲葉委員 そうなってくると、いろいろな問題が出てくるのじゃないですかね。自然債務というから、債務はあるけれども責任がないということでしょう。そうなってくると、問題は確かに残りますね。そうすると、結局条約なり法案としては、企業者側の保護に重点を置いているものだということになるんじゃないですか。制限責任額まで損害がいかない場合には、責任額までもらえるわけじゃないんでしょう。どうなっているのですか。
  52. 中島一郎

    中島政府委員 実損害の補償を受けるということになります。
  53. 稲葉誠一

    稲葉委員 そうなれば、企業側は、それ以上の損害を相手にこうむらしておったとしても、責任制限額の範囲内で済んでしまう。ところが、被害者側は、人損、物損もありますけれども、この法律によって、それ以上の損害が仮にあったとしても制限額まで制限をされてしまうということになるわけですね。もちろん、実損もないのに制限額までもらえるわけはありませんけれども、それでは被害者側に非常に不利になってくるということは考えられてくるんじゃないですか、この法案は。そこはどういうふうに理解したらいいのですか。
  54. 中島一郎

    中島政府委員 確かに、この責任制限制度というものが認められました最初の考え方は、余りにも大きな損害が発生する可能性のある海上企業の安定的な発展と申しましょうか、そういうものがねらいであったというふうに考えております。したがいまして、責任制限限度額というものが実損害に比較しましてかけ離れて低額であるという場合には、これは被害者側にとって非常に酷な制度になる可能性があると思うわけでありまして、限度額というものを、被害者側それから加害者である船舶所有者側との調整を十分考えた合理的な額にしなければならない、こういうふうに思うわけであります。  今回の改正は、現行法の限度額が場合によっては非常に低きに失する場合があるのではないかというような声が出ております現段階におきまして、これを大幅に改善しようという趣旨のものでございます。
  55. 稲葉誠一

    稲葉委員 そうすると、船舶所有者等とありますから、恐らくこれは企業がほとんどじゃないかと思います。必ずしも企業ばかりではありません。もちろん個人もありますけれども、それは、こういうふうな責任制限で限度額までで責任を免れるという、それに対する見返りとして、反対給付を国なりどこかへ積み立てておくとかあるいは納付するとか、こういう制度はないわけですか。ただ法律ができて、それ以上の損害が発生してもここでおさまってしまうという利益を得るということだけですか。それはそれに対する何らかの反対給付なしで、これだけのプラスが出てくるということになるのですか。
  56. 中島一郎

    中島政府委員 この条約あるいは法律に関する限りは、船舶所有者等にそういう反対的な義務などを課してはおらないわけでございます。
  57. 稲葉誠一

    稲葉委員 そうすると、限度額が引き上げられるということによって実際にはどの程度の物損——物損の場合はいろいろあるし、計算はむずかしいけれども、人損の場合にどの程度の場合に企業側はメリットを受けるわけですか。
  58. 中島一郎

    中島政府委員 企業側は、全く法律の条文を形式的に読む場合には、これは引き上げられない方がメリットがあるということになります。引き上げられれば、それだけ限度額が大きくなります。三倍なり四倍なり、あるいは場合によれば六倍なり七倍なりに限度額が引き上げられるわけでありますから、メリットはないわけであります。  ただ、私が先ほど申し上げましたのは、実際はそうではなくて、この限度額以上の支払いを余儀なくさせられておるケースがあるというものをなくす意味でも今回の改正というものは意義があるということを申し上げたわけであります。それは三百トンの船についてそうか、五百トンの船についてそうか、一千トンの船についてそうかということになりますと、これは損害の額によるわけでありますから、損害額と限度額とが非常に大きくかけ離れている場合がそれに当たるという程度のことしか申し上げられないわけでございます。
  59. 稲葉誠一

    稲葉委員 物損の場合はいろいろなものがありますから、それはダイヤやそういうものがなくなったとかなんとかということがありますね。そういう場合には、高価な品物だから、商法規定でも告知する義務があるとか、いろいろありますね。人損の場合にはそういうふうなものがないわけです。だから、たくさんの方が亡くなったときに、そして非常に逸失利益がある人が亡くなったような場合、本件の場合は、被害者の方は人損の場合に自分で保険を掛けるのはあたりまえ——あたりまえというか、自分で保険料を払っているのですから別個の問題なんです、これはあらゆる場合に。だから、そういう場合に非常に不利になるのじゃないですか。どういうふうになっているのですか。まず分けて、物損の場合はどうなんですか。たとえばダイヤとか何かいろいろな高価品がなくなった場合はどうなんですか。
  60. 中島一郎

    中島政府委員 そういう高価品につきましては、運送を委託する場合に告知義務があるとかないとかという別の問題が起こってこようかと思いますので、それは別にいたしまして、現行法におきましては、三百トンの船が事故を起こして物損を与えたという場合には、いかなる物損もひっくるめまして、この責任制限できる債権をひっくるめまして六百九十万であるということになります。それが今回改正になりますと、三百トンという区切りはなくなりまして五百トン以下ということになりますので、改正法におきましては四千五百九万円ということになるわけであります。それから、一千トンの船が事故を起こして責任制限をいたしました場合は、物損だけ生じました場合には現行法では限度額が二千三百万ということになっておりますが、それが改正法では六千七百六十四万円ということになるわけであります。
  61. 稲葉誠一

    稲葉委員 いまのは物損ですね。そうすると、人損の場合にはそれはどうなんですか。だから、人損だってたくさんいろいろなものがあるわけで、一遍に亡くなっちゃうということになれば、それで企業側がこれだけの損害責任を免れちゃって、それ以上あってもあとは知らないというふうなことになってくると非常に問題が出てくるのじゃないでしょうか。具体的に人損の場合はどうですか。
  62. 中島一郎

    中島政府委員 人損の場合、同じ例で申し上げますと、五百トン未満の場合には、現行法は三千五百六十五万円でございますが、改正法によりますと一億三千五百万、同じく一千トンの船につきましては、現行法が七千百三十万でありますが、改正法によりますと二億二千五百五万円、こういう数字になるわけでありますが、人損と申しましてもいろいろの場合がありまして、先ほど申し上げました旅客の場合には、その旅客の乗船しておりました船舶の限度額というものは、先ほど申しました一千二百六十万掛ける乗客定員というものがプラスされます。それから、自分の船の乗組員であります被用者関係は除外されるというような、いろいろな例外があるわけであります。
  63. 稲葉誠一

    稲葉委員 日本国内法で、いま言ったようなこういうふうに所有者が責任制限されるという法律は、ほかにあるのですか、ないのですか。どういうふうになっています。
  64. 中島一郎

    中島政府委員 油濁による損害の場合、それから原子力事故による損害の場合というようなものがあろうかと思います。
  65. 稲葉誠一

    稲葉委員 油濁の場合は本法案と非常に関連しているものですね。原子力の場合はどうですって。それからほかに何があるのですか、ちゃんと列挙してもらわないと。非常にこれは基本的な問題で、問題がありますね。
  66. 中島一郎

    中島政府委員 油濁損害賠償保障法、それからもう一つは、原子力損害の賠償に関する法律でございます。いま思いつきますのはその程度でございます。
  67. 稲葉誠一

    稲葉委員 油濁は本法と非常に関連というか密接不可分な法律ですから別として、あとは原子力と何があるのですか。いまわからなくてもいいから、あとでちゃんと列挙してもらいたいのです。その辺はいまの日本法律体系から見て非常におかしいというか、被害者の保護ということから考えるとどうも逆な方向へ行っている法律なんであって、きわめて例外中の例外でなければならないのじゃないですか。いまわからなくても、あとでもいいですが、例外中の例外ですよ。こういうふうなものを安易に認めることがおかしいのじゃないですか、条約であったとしても。そこら辺のところ、どうなんですか。
  68. 中島一郎

    中島政府委員 この船舶所有者等責任制限制度は、もともとこれは世界的に言えばもっと古い制度があるのだろうと思いますけれども、わが国に関して言えば、商法において委付制度という形で制限が認められておった。この委付制度の場合には、もし加害船舶が沈没でもいたしますと全く無価値になって被害者の保護が全くなくなってしまうということで、委付制度をとっておった責任制限制度金額責任制限に変えたというのが、一九五七年の条約に基づく五十一年のこの法律であったわけであります。それを、そのたてまえはそのたてまえのままとして、内容を飛躍的に改善するというのが今回の改正法でございます。  確かに、御指摘のように被害者の保護という点で問題があるという御議論があるわけでありまして、たとえば、そういう御意見が先ほど申しました昭和五十五年十一月の最高裁判所の決定という形になって、その判断があらわれておるわけであります。この事件の特別抗告の申し立て人も、そういうことで憲法二十九条違反だということで特別抗告をしたわけでありますけれども、最高裁判所は、先ほども申し上げましたように、海上航行の国際性、あるいはこの責任制限制度の国際的性格というようなものでありますとか、あるいはこの制限制度が沿革的に非常に古い歴史を持っておるという点でありますとか、あるいは海上企業の危険の大きさというような点をあれこれ勘案をいたしまして、結論としては、この制度は現行制度について見ても憲法二十九条には違反しない、こういう結論を出しておるわけでございます。
  69. 稲葉誠一

    稲葉委員 憲法二十九条は財産権の不可侵というか、そういうふうな規定ですね。それは最高裁の決定があるのはわかりますけれども、それがあるからといって、これはほかのいろいろな法律にどんどん適用されたら、もうかなわないのじゃないですか。だから、きわめて例外中の例外だということは、現行法のたてまえからいっても認められるのじゃないですか。だって、自賠責の場合、こういう規定はないでしょう。じゃ、自賠責の規定がある、いま二千万だ、じゃ二千万で終わりだという規定じゃないわけでしょう。損害があれば、幾らでもできるわけでしょう。これは請求できますね。飛行機の場合だってできるのでしょう。飛行機の場合はできないのですか、できるのですか。どうなっているのですか。飛行機の事故の場合はできるのでしょう。
  70. 中島一郎

    中島政府委員 飛行機の場合は、先ほど申しましたようにいろいろな条約があり、約款があるわけでありますので、その条約の適用なり運送約款なりの適用によって制限されるということになります。その場合には、残余の部分については請求はできないということになるわけでありますが、こういった制度は、もちろん現在のこの法体系から申しましたならば例外中の例外であるということで、非常に限られた分野において限られた要件のもとに認められる制度であろうかと思うわけでありまして、そのために、先ほどから申し上げましたように、この船舶の所有者の責任制限、それから油濁、原子力、それから航空機、こういうような非常に限られた場合に認められておるのであろうというふうに考えるわけであります。
  71. 稲葉誠一

    稲葉委員 航空機の場合は、いまお話を聞くとちょっとはっきりしませんけれども、制限法律で決まっているというのですか、あるいは約款で決まっているということなんですか。両方で決まっている場合もあるし、片一方、約款だけの場合もあるということですか。条約の場合は、さっきの条約ワルソー条約ですね。ワルソー条約だけでなくて、あれは条約が三つあるのじゃないですか。それに基づいてすべて違ってくるのじゃないですか。どういうふうになっているのです。法律ではないでしょう。約款自身も、それが果たして法律的な拘束力があるかないか、議論があるのじゃないですか。
  72. 稲葉威雄

    稲葉説明員 航空機の場合につきましては、先生御指摘のとおり、まずワルソー条約基本条約でございまして、その後、ハーグ議定書とモントリオール議定書によって改正が行われております。ただ、日本はハーグ議定書までは批准しておりますけれども、モントリオール議定書はまだ批准しておらないという関係になっております。この批准された条約に関しましては、これは国内法法律と同等の効力を持つというたてまえになっておりますから、その部分については、国内法化はされておりませんけれども、国内法と同等の効力法律的には認められるわけでございます。ただ、その責任限度額がハーグ議定書に定められているものではやはり低過ぎるという判断から、先ほど局長が申し上げましたような約款上のいろいろの制限をつけているということでございます。  それで、約款で責任制限を認めることの可否については、その事故のたびごとにいろいろトラブルがあるわけでございますけれども、そのことがおよそ無効であると、頭からそういう効力は認められないということにはならないのでありまして、その約款の制限が合理的であるかどうかということによって裁判所は判断しているように思われるわけでございます。
  73. 稲葉誠一

    稲葉委員 そうすると、飛行機の場合は強制的にというか、旅客保険に入るわけでしょう。たしか航空券を買うときに、金額を払い込むときに強制的に入るんじゃないの。船の場合は一体どうなっているのです。船に乗るときに、損害が発生した場合の保険というのは強制的に入ることになっているのですか。どういうふうになっているのです。保険でてん補されると言うから、そこのところ、どうなっているのですか。
  74. 稲葉威雄

    稲葉説明員 強制的に保険に入るという制度はございません。ただ、国内の内航旅客船につきましては、運輸省の行政指導によりまして、必ず旅客定員に相応する責任保険と申しますか、自分が損害賠償義務を負った場合にそれをてん補してもらうような、そういう保険に入ることが強く指導されているというふうに聞いております。
  75. 稲葉誠一

    稲葉委員 運賃を払うときに、その中に保険料も入っているんじゃないですか、普通は。飛行機の場合はたしかそうですよ。国外も国内もそうなはずですね。任意保険は別ですよ、そのほかに任意保険に入るわけだから。入る入らないは別として、あれは一万何千円取られるから、入らなくたっていいということで入らないけれども。あれは黙っていても運賃の中にたしか入っているわけですよ。船の場合は一体どうなっているのです。あなたの方であれならば、そこまではいいですけれども。だから、これは被害者の方には不十分なんじゃないかという気がするのですがね。  それから、いま言った制限債権に入らないものがありますね。制限債権に入らないものが、もちろんいろいろあるわけですね。それは改正前の場合と、それから今度の改正とにおいては違わないわけですか。入らないものを拡大したのですか。どうなっていますか。
  76. 中島一郎

    中島政府委員 その点につきましては、改正法案は従来の制度と変わっておりません。
  77. 稲葉誠一

    稲葉委員 制限債権としないところは、各国法制はみんな同じですか。条約そのまま受けているわけですか。その点はどうなんですか。
  78. 稲葉威雄

    稲葉説明員 先ほども申し上げましたように、条約上は難破物の除去責任というものについて留保ができることになっております。これは前の一九五七年の条約でも同様の留保が認められていたわけでございますが、それを日本は留保してきております。今回もそれを留保するということにしておりますが、フランスではこれの留保を行っておらないようでございまして、それについても責任制限を認めておるということになっております。  それから、これも前の法律からの引き継ぎでございますが、内航船の乗客に関します損害につきましても、条約上から申しますと、特に乗客についても責任制限を認めるということになっておりますから、これは条約のたてまえから申せば責任制限を認めてもいいいわけでございますけれども、責任制限を認めないで無限責任にしておるというようなことで、やはり日本国内法制から考えて、人命尊重と申しますか、あるいは被害者保護という見地から、できるだけ条約の枠の中で被害者保護のための措置を講じたいというふうに努力しておるわけでございます。
  79. 稲葉誠一

    稲葉委員 いまのお答えの中で、内航船による一定の人の損害に基づく債権制限債権としない、これは前からそういうふうになっていますね。これはあたりまえのことじゃないですか。条約関係しないのじゃないですか、内航船の問題まで。内航船の問題まで条約が関与するということになれば、内政干渉になるんじゃないですか。そんなことはあたりまえじゃないの。どうなんです、それは。
  80. 中島一郎

    中島政府委員 条約の十五条三項という規定がございまして、それによりますと「締約国は、他の締約国の国民がいかなる利害関係も有していない事故により生ずる債権について適用する責任制限制度を自国の法令により定めることができる。」ということになっておりますので、この条約に基づく短めであるということになります。
  81. 稲葉誠一

    稲葉委員 この法律はよくわからないというか、実情がよくわからないので私ども理解が十分できなかったわけなのですが、この提案理由説明によりますと、「千九百五十七年の「海上航行船舶の所有者の責任制限に関する国際条約」に準拠して」とあります。ところが、最高裁の決定を見ると、この「規定に即して」というふうになっています。「準拠して」という宵葉は使っていないのです。「準拠して」も「即して」も同じかもしれないけれども、それはどういう違いがあるわけですか。
  82. 中島一郎

    中島政府委員 確かに、説明書の方には「準拠」という表現を使っておりますし、最高裁判所の決定には「規定に即して」という表現が出ておるようでありますが、いずれにいたしましても、一九五七年の条約に基づいてその規定国内法に移しかえたと申しますか移し入れた、そういうことで同じような意味だと理解しておるわけでございます。
  83. 稲葉誠一

    稲葉委員 どっちでもいいのですけれども、最高裁の決定が前に出ているのですから、これに即してと言うとおかしいですが、書くのが本当でしょうね。  そこで、問題になりますのは、この条約にアメリカが入っていないのですが、そこら辺のところ、よくわからないのです。アメリカなりの理由があるだろうと言うけれども、それはあたりまえの話で、アメリカもソ連も入っていませんね。どういうわけでアメリカはこの条約に加入をしていないのかということが、この前の答弁では何だかよくわからないのです。アメリカなりの理由があるというのはあたりまえの話で、よくわかりませんから、もう少しわかるように説明していただけませんか。
  84. 中島一郎

    中島政府委員 アメリカは一九五七年の条約にも加入しなかったということでありまして、今回の七六年の条約にも現在のところ加入もせず、加入を検討しておるということも聞いておらないわけでございます。  その理由につきましては、外国のことでございますし、アメリカがどう考えて加入しなかったのか、具体的なことは私ども十分わからないわけでありますけれども、前回も申し上げましたように、制度のたてまえが違う。同じく制限制度というものをとってはおりますけれども、その制度が違う。と申しますのは、この条約基本的な考え方は、先ほどから申し上げておりますように、船舶トン数に一定の金額を掛けた額を限度とする責任制限制度でありますが、アメリカの場合には、いわゆる船価責任限度と申しましょうか、船の価格、価値を限度とした責任制限制度であると聞いておるわけでありまして、選択的に委付制度も認められておるというようにも聞いております。前回、非常に自信がなかったものですからそこまで申し上げられなかったわけでありますけれども、つまるところそういうことのようでありますので、基本的な考え方がかなり違う、制度のたてまえが非常に違っておるということが、アメリカの加入の障害になっておるといいましょうか、アメリカが意思決定する場合の一つの大きな要因になっておるのではないか。これはあくまでも推測でございます。
  85. 稲葉誠一

    稲葉委員 そうすると、公海上で日本の船とアメリカの船とが衝突して両方に損害が起きたというときには、どういうふうになるのですか。アメリカの船の方の積み荷の損害が非常に大きいという場合にもこの法律の適用があるのですか、あるいは逆の場合は一体どうなのですか。
  86. 中島一郎

    中島政府委員 公海上の事故につきましてはいろいろな考え方があるようでありまして、まだ具体的なケースについてのわれわれの参考になるような判例とかいうようなものがないようであります。  いろいろな考え方と申しましたのは、いまの場合、どこの国の旗を掲げておるかということになりますと、日本とアメリカということが出てまいりますので、まず、この裁判管轄はどちらにあるのかということが問題になろうかと思います。普通の場合、日本裁判所とアメリカの裁判所が考えられるわけでありますが、日本裁判所で問題になったときは日本裁判所で扱う、アメリカの裁判所で問題になったものはアメリカの裁判所で扱うということになり、その次に、それじゃ準拠法はどこの国の法律を使うのかということになるわけでありますが、公海上の場合は、いまの場合に日本法律とアメリカの法律がダブって適用されるのだという意見でありますとか、法廷地法を適用すればいいのだとか、学説としてはいろいろな説があるわけでありますが、一番簡単な考え方をとりまして法廷地法で日本法律を適用したということで日本の分はそれで解決がつく、しかし、アメリカの裁判所で訴訟になった場合にはアメリカで解決してもらうことになるということになるわけでありまして、その辺のところは、先ほども申しましたように、確固たる考え方が確定しておらないというのが実情ではないかと思います。
  87. 稲葉誠一

    稲葉委員 日本の船とアメリカの船とが、あるいは日本の船とソ連の船とが公海上で衝突して被害が発生するということは考えられることなのですよ。そのときに大きな争いになってきて、大変な問題が起きてくる可能性があるのじゃないかと私は思うのですが、その場合に一体どういうふうに処置するのかということについては、これは確かに法律的には準拠法の問題、国際私法の問題、いろいろな問題があるのだと思うのですが、どういうふうになるのですか。  法廷地主護をとるというと、アメリカ人の被害のときはアメリカでやるのですか。その場合、日本の法が適用にならない、船主責任制度というのが適用にならないということになってくるわけですか。日本人の被害や何かの場合には、アメリカ人を相手とする場合でも日本の法廷でやれるということになってくるわけですか。被雲者側にとってはどっちが有利なのですか。  だから、私の考え方では、無理に早く加入してこの法律をつくらなくてもいいのじゃないかという気がするのです。いろいろな問題が起きてくるのです。よけいに考え過ぎているのかもわからぬと言えば、よけいに考え過ぎているのかもわからぬけれども、日本とアメリカの船が衝突する、日本とソ連の船が衝突するということは今後考えられてくるのじゃないですか。その場合に大混乱が起きてくるのじゃないですか。これはどういうふうにしたらいいのですか。
  88. 稲葉威雄

    稲葉説明員 お説のとおりの問題はあるわけでございますが、これは現行法下においても起こる問題でございます。したがいまして、現行法のもとにもある問題でございます以上は、この新しい条約に加入しない、あるいは国内法改正しないということによってその問題が何らかの解決を生むというわけではないわけでございまして、その新しい制度が合理的でより改善されたものである、被害者保護の見地から考えてもそうである限りは、やはり一刻も早くこれは改正する必要があるのではないかというように考えております。  それとともに、先ほど先雄御指摘の船舶衝突の場合でございますが、船舶衝突の場合につきましては、いま局長が申し上げたようないろいろの考え方があるわけでございます。そして、それがどちらが有利になるかというのは、アメリカにおける船主責任制限制度と、それから日本のとっております金額責任制限制度というのがそれぞれ異なっております。したがいまして、かなり具体的なケースによって違ってくるわけでございます。  アメリカの制度は、先ほど局長が申し上げましたように、一応船価責任を原則にして、あと金額責任制度を若干取り入れる、つまり人の死亡、傷害についての損害が生じた場合において、その船価が低過ぎるという場合には、一定の限度で全額責任主義を取り入れたという制度でございます。したがいまして、船の価値というものが非常に小さいという場合には、日本法のような責任制限主義の方が被害者にとっては有利、逆に船主にとっては不利ということになるわけでございますし、その船価がかなり高いあるいは非常に高いという場合には、逆にその方がよろしいということになるわけであります。  それから、ソ連における船主責任制限制度というのは、一応は委付を、委付と申しますか、海産の価値、つまりアメリカと同じように船価を限度とするということになっております。また、委付もすることができるということになっておりますけれども、これに対しまして、一定の金額よりもその価値が大きい場合には、その一定の価値責任制限することができるということになっております。それで、その金額がかなり日本金額より低いわけでございまして、船舶の総トン数に二十ルーブルを掛けた金額というので責任制限ができるというのがソ連の責任制限制度のようでございまして、これで申しますと、ソ連の法律を適用した方がはるかに船主にとっては有利になるということのようでございます。
  89. 稲葉誠一

    稲葉委員 よけいなことかもしれませんけれども、日米、旧ソ両方の間で何か問題が起きたときに非常に困りますよ。アメリカやソ連なんかがこの条約に加入しているのなら話はわかるのですが、加入していないときに、イギリスフランスの船と日本の船とが衝突することはいま余り考えられないんじゃないかと思いますよ。むしろ考えられるのはアメリカとの関係、ソ連との関係ですからね。これはもう本当にその点が問題だと思います。  アメリカがこれに加入していないという理由は、制度が違うとかいろいろな話がありました。確かに制度が違うのでしょうけれども、そうすると、実際にアメリカや何かが入らないようなこういう条約というものは、一体どこの国が一番言い出したのですか。イギリスですか。これはどこの国が言い出した、どこから出てきた条約であり、法律なんですか。
  90. 稲葉威雄

    稲葉説明員 これはIMCOという国際機関がございまして、ここで採択された条約でございます。この中にはもちろんアメリカ等も入っているわけでございまして、その過程でこういう条約が成立したということになります。  それから、ちなみにこの条約の適用がどのくらい世界的に意味を持つかということでございますけれども、すでに加入しておりますリベリアという国がございます。これは有名な海運国と申しますか、あるいはそこへ船籍を置く船が多いということで有名なあれでございますが、ここが全世界の大体一八%ぐらいの船腹量を持っております。そして、あと加入しておりますイギリスが六%ぐらいの量を持っておりますし、フランスが三%ぐらいの量を持っておりまして、すでに全海運国の船腹量の大体三〇%近い量を保有している国が加入しているということになるわけであります。日本が大体一〇%ぐらいでございまして、アメリカは五%に満たない。それからソ連も五・五%ぐらいということでございますから、先生おっしゃるように、主要海運国がすべてこの条約に加入するということが非常に望ましいことであろうとは思いますけれども、いまの情勢のもとではなかなかむずかしいわけでございまして、そういうある程度の加入国が見込まれるという条約になるべく早期に加入する、そしてその方向で世界海商法を統一するということが望ましいことではないかというふうに考えております。
  91. 稲葉誠一

    稲葉委員 リベリアというのは、いまおっしゃったとおり、俗な言葉で言えば、そこの船籍を借りるわけですね。これは一番多いのは、リベリアというよりパナマじゃないかな。日本の船会社もそこのあれを借りているのが大分いますね。あれはどういうふうな言葉で言うのかな。何という言葉を使ったか、ちょっと忘れましたが、リベリアというのは、たしかパナマのことだと私は思いますが、それはあれですが、それが事故を起こしたときに、問題がどこにあるかということがよく問題になるんですよ。実質的な所有者がだれかということになるしね。  そこで、この条文というか法案の中で問題となってくるのは、これはいろいろあるのですが、よくわかりませんが、これは「船舶トン数を国際的に統一された基準によって算定すること」、こういうふうになっておりますね。これはあれですか、アメリカも全部いま入っているわけですか。これはどういうふうなことになっていますか。
  92. 中島一郎

    中島政府委員 トン数の測度に関する条約につきましては、ちょっといまの御質問のアメリカの加入の有無という点については、現在のところ承知いたしておりません。
  93. 稲葉誠一

    稲葉委員 その「責任限度額の単位は、国際通貨基金定め特別引き出し権によることとし、従来の金価値による定めを改めております。」こういうふうにありますね。これはいわゆるSDRだと思いますが、SDRによることとするとしても、SDRにもよれることとしということでもいいのではないですか。これだけにする必要はないのではないですか。「にも」でもいいのではないですか。そこはどうなんですか。
  94. 中島一郎

    中島政府委員 IMFの加盟国につきましてはSDRが最も合理的であり、かつ単一の基準の方がよろしかろうということで、SDRということでやっておるわけでありますが、ただ、IMFの加盟国以外のものにつきましては、それ以外にいわゆる金による換算というものもやむを得ず認めておるわけでございます。
  95. 稲葉誠一

    稲葉委員 この法律案要綱の七ページの四のところに「制限債権の弁済は、制限債権の額の割合に応じてするものとし、」というふうに書いてありますね。これはあたりまえのことじゃないですか。
  96. 稲葉威雄

    稲葉説明員 この趣旨は、制限債権の中にも担保権がついているものがあり得るわけでございまして、その担保権のことは全く考えない、担保権の有無にかかわらず比例弁済で処理をする、こういう趣旨を込めているわけでございます。
  97. 稲葉誠一

    稲葉委員 そうすると、今度の法案責任限度額が上がるということは、それはそれでわかったわけですが、船主等の過失がある場合にも責任制限できるというふうになったわけですか。そこのところは新たになったんですか。そこら辺のところはどういうふうに理解していいんですか。
  98. 中島一郎

    中島政府委員 従来は、船舶所有者等につきましては、船舶の所有者本人に故意及び過失がある場合には責任制限できないということになっておったわけでありますが、今回の条約によりましては、船主そのものの故意及び無謀な行為による損害については責任制限することができないということにいたしますとともに、従来故意の場合についてのみ責任制限することができなかった船長等につきまして、故意とそれから無謀な行為の場合に責任制限することができないということで、両者の責任制限することのできない場合を合わせたわけであります。でありますから、船舶所有者等については責任制限することのできない場合が少なくなり、船長等については責任制限することのできない場合がふえた、こういうことになるわけであります。
  99. 稲葉誠一

    稲葉委員 いまのは第三条の旧法と新法ですね。新法では特に第三条の三項のところですね。具体的にこれを説明していただかないとよくわからないですね。
  100. 中島一郎

    中島政府委員 従来の責任制限することのできない場合として規定しておりました故意または過失という点については御承知のとおりでありますが、今回船主等が責任制限することのできない場合としてつけ加えられましたのは、「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為によって生じた損害」、こういうことになるわけでありまして、これは過失よりももっと厳格な要件であるということは何人も疑いがないわけでありますけれども、果たしてそれではどの程度のものを言うのかということにつきましては、この点についても、従来の私どもの親しんでおりました過失とか重過失とか、認識ある過失あるいは未必の故意とかというような分け方ともちょっと違う分け方でありますために、国内的にも判例がない。国際的には最近、先ほどから話の出ておりますワルソー条約その他の条約でこの無謀な行為という表現が用いられておるようでありますが、その具体的な内容ということにつきましてはまだ十分固まっていないわけでありまして、今後あるいは裁判例の集積等によってその内容がだんだんと固まってくることを期待する以外にないわけであります。  ただ、私どもが典型的な例として便宜上申し上げておりますのは、前回も申しましたように、あらしの中を船が出航する、船長の判断で出航した、あるいは船舶所有者等が出航を命じたというような場合で、だれが考えても、こういうあらしの中で出航をするということであるならば、損害の発生のおそれがあることを認識して避けるであろう、それをあえてやった、そういう場合であるということを申し上げておるわけでございます。     〔太田委員長代理退席中川(秀)委員長代理着席
  101. 稲葉誠一

    稲葉委員 過失よりも厳格な要件ということを言われているわけですが、厳格な要件という意味は、逆に責任制限することができるという範囲が広がるということですわね。そういうふうにとれる。逆にとれるんじゃないですか。船舶所有者の場合などについては、過失の場合が今度は外れちゃうということじゃないのですか。責任制限ができるというものの「この限りでない。」というものが外れるという形になって、所有者の方は広がるということになるんじゃないですか。広がるというか何というか、そこで所有者の方に有利になってくるんじゃないですか。
  102. 中島一郎

    中島政府委員 端的に申しますと、単純な過失の場合には責任制限することができるということになるわけでございますから、御指摘のように、船舶所有者等にとっては責任制限することのできる場合が広がる、できない場合が少なくなる、こういうことになるわけであります。
  103. 稲葉誠一

    稲葉委員 だから、その合理的な理由が一体どこにあるかということですね。それを説明してもらわないとわからないですよね。だから、あなたの方は厳格な要件と言うから、いかにも厳格な要件になってきて、聞いている方は、厳格な要件なんだから適用が非常にむずかしくなってくるんだというふうに聞こえるわけだけれども、これは逆なのだ、裏返して解釈しなければいけないんだから。だから、その合理的理由はどこにあるのですか。それをよく説明してください。それがわからないとどうにもしようがない。
  104. 中島一郎

    中島政府委員 従来から船舶所有者自身の故意または過失によって損害が起こるという場合は非常にまれであったということは言えると思います。ただ、責任制限をさせたくないためにこの過失の解釈をめぐっていろいろ問題があることは考えられるということでありますので、船舶所有者側にとっては、あるいは保険者側にとっては、簡単にこの責任制限制度が破られるようでは困るという声が条約採択のための国際会議等においてはあったようであります。今回はこの責任限度額を引き上げることでもあるので、なるべくこの責任制限制度を破りにくいものにしたいという要望もあって、こういうことに落ちついたのであるというふうに承知をしているわけでございます。
  105. 稲葉誠一

    稲葉委員 お答えがどうも何か回りくどい答えになってきてよくわかりませんが、いずれにしても、最初の条約が一体どういうふうにして出てきたのかということになってくると、結局は、船主なりあるいはそういうところの企業責任を免れるということが、海上交通というか海上企業というか、そういうものの発展を盛んにするということから出てきたんだというふうに考えるのですが、どうもこの条約なり法案が出てくる根拠というものは、よく理解しにくいところがあるように思いますね。  それから、最後の質問になりますが、この法案効力の発生の日、これはどういうふうになっているのですか。
  106. 中島一郎

    中島政府委員 この法律の施行期日につきましては、公布の日から二年以内の政令で定める日から施行するということになっておるわけであります。  これは、現行法が準拠しております一九五七年の条約を廃棄いたしますためには、一年前にベルギー政府に通告をするということが必要になっておりますので、この法律成立後直ちに廃棄の通告を行ったといたしましても、少なくとも一年間は従来の条約に拘束されますから、新しい法律を施行することはできないということになるわけであります。一方、一九七六年の条約は、十二カ国が批准または加入をしてから約一年後に発効するということになっておりますが、現在すでに批准し、または加入した国が五カ国ございます。それと、現在批准を準備中の国が十カ国近くございますので、十二カ国に達するのは来年の初めごろというふうに見込まれておりますので、これらの状況を踏まえまして法律を施行する必要がある、そこで、公布の日から二年以内に政令で定める日を公布日としたわけでございます。
  107. 稲葉誠一

    稲葉委員 これは最初、法制審議会商法部会に正式にはなるのですか、ことしの二月三日に改正されたんでしょう。そのときの改正案の施行期日は、第七のところにあるようですが、「改正法は、海上航行船舶の所有者の責任制限に関する国際条約の廃棄が日本国について効力を生ずる日から施行する。」こういうふうになっておったんじゃないですか。それが今度は変わったんですか、変わらないのですか。実際は同じなんですか、内容が違うのですか。どうなんですか。
  108. 稲葉威雄

    稲葉説明員 被害者保護の見地から申しますと、この新しい条約に即した内容の国内法を早期に施行するということが望ましいわけでございます。それを最も早くやるといたしますと、この法律が成立いたしまして、条約の方ももちろん批准の承認の手続が終わるということになりますと、その時点で直ちに五七年条約を廃棄いたしまして向こうの方の条約の拘束力を失わせる、そしてその廃棄が効力を生じた日から施行するというのが一番早いルートでございます。ただ、その場合にはまだ新しい条約は発効しておりません。したがいまして、無条約状態になる、無条約状態で新しい条約を先取り実施するということになるわけでございます。  ただ、このような措置を講ずるということは、国際的な統一に参加するということから考えまして若干問題がある。もちろん、新しい国際法秩序に参加しようということでございますから、そのこと自体余り非難されるべきものではないという考え方もあるわけでございますけれども、一方、条約がまだ発効していないのにその条約と同じ内容のものを先にやるということについては問題がないわけではない、特に、古い条約を廃棄するということとの絡みで問題がないわけではないということから、それについて危惧を持たれる面もあるわけでございます。  そういう政府部内間のいろいろの話がございまして、結局、いま局長が申し上げましたように、廃棄の関係と新条約の発効の関係をにらんでやる、しかし、二年以内に新条約が発効しないというような事態はないと思いますけれども、万が一そういう事態が起これば必ずこれは先取り実施をするというようなことで、最終的にはこの法案の施行日を定めたということでございます。
  109. 稲葉誠一

    稲葉委員 それはあなたの方の理由ですね。私の聞いているのは、その前に、二月三日というのは法制審議会商法部会なんですか、小委員会なんですか、これはよくわおりませんが、これが第一点。  そこで決まった要綱案というのは、私が言ったように、「第七 施行期日」として、「改正法は、海上航行船舶の所有者の責任制限に関する国際条約の廃棄が日本国について効力を生ずる日から施行する。」というふうになっていたのですか、なっていなかったのですか。そこら辺のところはあなたの方ははっきり答えないでずっと行ってしまっているから、まずそれを念を押してから聞きます。どうなんですか。
  110. 稲葉威雄

    稲葉説明員 どうも失礼いたしました。二月三日は商法部会でございまして、そこで御了承を得ました要綱案では、その廃棄の日からということになっておりました。
  111. 稲葉誠一

    稲葉委員 あなたの方もそれを前提としてずっとその理由について答えられた、こういうふうに私も思いますが、そこのところは、どこからそういうふうな——だって、法制審議会部会を開いてちゃんと決まったものが恐らく法務省の案としても出たのじゃないのですか。どこからその施行期日が変わるようになってきたのですか。クレームと言っては悪いけれども、クレームじゃないかもわからぬけれども、オピニオンでも何でもいいが、それはどこから出てきたのか。外務省からですか。法務省としてはいま言った要綱案のように決めたのでしょう、内部で。そうじゃないのですか。それはあなたの方で言いづらいなら、言いづらくても——別に言いづらいこともないでしょう。それはどうなっているのですか。
  112. 中島一郎

    中島政府委員 二月三日の要綱はあくまで法制審議会商法部会の御意見でございまして、それを法案の形に改めます場合に、いろいろと関係機関等との折衝をいたしますが、その段階でただいま私が申し上げたような施行日の案が確定した、こういうふうに御理解いただきたいわけであります。
  113. 稲葉誠一

    稲葉委員 そこで、これができると、あとは政令とかなんとか要るのですか、要らないのですか。だから、二年というと、政令でもつくるということになるのですか、あるいはそれもなくていいということなんですか。なくていいなら、何もこの二年という間を瞬く必要はないのです。これはどうなっているのですか。
  114. 中島一郎

    中島政府委員 二年以内ということでありまして、先ほど申しましたように、廃棄するために一年はどうしてもかかるということであります。できるならば、新しい条約が発効するのとそう違わない時期の方が望ましいということで二年という余裕をとった、こういうことでございます。
  115. 稲葉誠一

    稲葉委員 SDRの問題等あるいはロイドの再保険の問題ですね、いろいろ聞きたいのですけれども、これは大蔵省なり運輸省かな、あなたの方の直接の管轄ではありませんから、きょうはこの程度の質問にしておきます。この程度というか、この法案について質問は、私はきょうで終わります。
  116. 中川秀直

    中川(秀)委員長代理 午後一時再開することとし、この際、暫時休憩いたします。     午後零時十一分休憩      ————◇—————     午後一時五分開議
  117. 熊川次男

    ○熊川委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。  委員長の指名により、私が委員長の職務を行います。  質疑を続行いたします。横山利秋君。
  118. 横山利秋

    ○横山委員 この船舶所有者等責任制限に関する法律は大変難解でございまして、まず内容を理解するのに非常に困難な問題を私ども痛感をいたしました。私ども立法府の専門家ではありますものの、それでもなおかつ解釈に苦しむ点が非常に多いのであります。だから、もう少しわかりやすく書く方法はないものかと思うのですが、大臣は御審議になって判を押されるときに、そういうことをお感じになりませんでしたか。大臣はこの内容についてすべて承知をしていらっしゃるのでしょうか。
  119. 坂田道太

    ○坂田国務大臣 私も法律は素人でございますので、なかなかわかりかねるところもございますけれども、政府委員を信頼いたしておりますので、御提案を申し上げている次第でございます。
  120. 横山利秋

    ○横山委員 まず、基本的な問題としては憲法上の問題がある。ここに最高裁の五十五年の判決例を御提示を願ったわけでありますけれども、要するに憲法によって財産権を保障されておる。しかし、この海難事故についてだけは請求権を制限するということが本当に憲法に違反をしないのであろうかどうか。憲法二十九条三項の規定によって損失補償を国が決めたならば国に請求することもできない、あるいはまたそういう事故を起こした責任者に対して請求もできないという根本的な理由は何でありますか。
  121. 中島一郎

    中島政府委員 御承知のように、この点につきましては昭和五十五年十一月五日の大法廷の決定というのがあるわけでございます。これは被害者から制限手続開始決定に対しまして、この制限手続が憲法二十九条に違反するということで特別抗告をいたしました事件であります。  それに対しまして最高裁判所は「憲法二九条一項、二項に違反するものということはできない。」という判断を示したわけでありますが、そこで言っておりますことは、一つといたしまして、「船舶所有者責任制限する制度は、海運業が多額の資本を投下した船舶の運航という危険性の大きい企業であることにかんがみ、その適正な運営と発展のために必要であるとして、その態様はともかく、古くから各国において採用されてきたものである。」という点であります。  第二点といたしまして、この法律は海上航行船舶の所有者の責任制限に関する国際条約規定に即して定められたものであって、国際的性格の強い海運業について、わが国だけが船舶所有者責任制限制度を採用しないことは、実際上困難であるということであります。  第三番目といたしまして、わが国においても従前は商法に委付の制度定められていたのであるが、この法律は、これをいわゆる金額責任主義、すなわち船舶所有者責任を、事故ごとに、債権を発生させた船舶トン数に一定の金額を乗じて得た額に制限することができる制度に改めたものであり、しかも、損害船舶所有者自身の故意等によって発生した場合の債権あるいは内航船による一定の人の損害に基づく債権、海難救助または共同海損の分担に基づく債権等は責任制限としないというような制度をとっておるということ、また、商法の六百九十条が民法所定の使用者責任を加重し、船舶所有者にある程度の無過失責任を認めている。  以上の諸点を参酌してかれこれ勘案すれば、憲法二十九条一項、二項に違反するものではない、こういうふうに申しておるわけでありまして、私どもも同様に考えておるわけでございます。
  122. 横山利秋

    ○横山委員 最高裁の判決があることはよく承知をしておることではありますものの、白紙で考えてみて、事故によって損をした人たちが、その会社なりその船主がきわめてお金持ちであって財産を持っている、にもかかわらず一定の制限を受けるということが納得できない。それから、今回初めてつくった法律ではなくて、歴史的淵源がある。その淵源の一審最初のころは、世界の交通機関では船が重要な輸送機関であった。しかし、いまや航空機あり、列車あり、そのほか輸送手段はきわめて発達をして、海運というものの比重はその後変わっておる。しからば海運についてだけこういうような責任制限があって、他の輸送手段の大口、小口について責任制限がないとは一体いかなることであろうかという疑問は、どうお答えになりますか。
  123. 中島一郎

    中島政府委員 確かに、個々具体的なケースを取り上げてみますと、ただいま御指摘のような問題も含んでおるものもないではないというふうに考えるわけでありますが、制度といたしましてこの制度が憲法上認められておる制度であるということになるわけでありまして、しかもそれなりの合理性が現在まだ十分に残っておるということでありますので、私どもといたしましては、その内容をより改善することによって船主側と被害者側との利害の調整を図るということが必要であろうというふうに考えるわけであります。  なお、他の交通機関の場合との比較についての御質問がございましたが、海上航行船舶と若干似たような性格のものといたしまして航空機事故が考えられるわけでありまして、航空機事故における旅客の死傷に関する損害賠償責任についての責任制限につきましては、御承知のように国際航空運送条約、いわゆるワルソー条約というものがあるわけであります。わが国が批准をいたしておりますワルソー条約ハーグ改正議定書によりますと、旅客一人当たりの運送人責任限度額は二十五万フラン、邦貨にいたしまして五百七十五万円ということになっておりまして、もっとも特約によってより高額の限度額を定めることができるということになっておるわけでありますが、航空機につきましてはこの船舶所有者と似たような制度になっておるわけでございます。
  124. 横山利秋

    ○横山委員 先般の商法改正によりまして六百九十一条及び六百九十二条が削除になり、委付の制度がなぐなったのでありますが、商法の六百九十条において「船舶所有者船長其他ノ船員が其職務デ律フニ当タリ故意又ハ過失ニ因リテ他人ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ」、こういうことがあります。本法における責任について、第三条の3でありますか、「自己の故意により、又は損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為によって生じた損害に関するものであるときは、」という表現商法六百九十条の表現とは明らかに異なりますが、これはどう考えたらいいのでありますか。
  125. 中島一郎

    中島政府委員 まず、商法の六百九十条でございますけれども、六百九十条は、船舶所有者船長その他の被用者の故意、過失によってみずから使用者責任を負うという規定であります。その意味におきまして、民法の七百十五条の使用者責任の例外と申しましょうか、先ほど申しました最高裁判所の決定も言っておりますように、一種無過失責任を認めておるわけであります。でありますから、船舶所有者等は、みずからに故意または過失がない、船長その他の被用者にも故意、過失がないという場合には、これは事故によって一切の責任を負わない、こういうことになるわけであります。たとえば、典型的な例が不可抗力ということになろうかと思います。  ただ、被用者等過失等がありまして商法六百九十条によって責任を負う場合には、その責任をこの制限に関する法律によって一定の限度まで制限することができるということになります。しかし、今回の法律の三条の三項によりまして、みずからの故意があるあるいは損害の発生のおそれがあることを認識しながらした無謀な行為によるときは責任制限ができない、でありますから無制限になる、こういう関係でございます。
  126. 横山利秋

    ○横山委員 六百九十条は、故意または過失によって他人に加えたる損害を賠償する責任船舶所有者にある。この三項は、「自己の故意により、又は損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為によって生じた損害に関するものであるときは、」ということは、そうでないときには責任制限する、こういうことに反語としてなりますね。この三項の「おそれ」「無謀」、そういうような表現と、六百九十条の「故意又ハ過失」という広範な考え方との間に違いがあるではないか、こういう意味です。
  127. 中島一郎

    中島政府委員 確かに、過失という概念の方が範囲の広い考え方であろうと思います。過失がある場合には、恐らくは常にこの「無謀な行為」に当たるということは言えると思います。
  128. 横山利秋

    ○横山委員 発生のおそれがあると認識するその認識というのは主観的な認識でありますから、台風が来るぞということがどの程度の台風でどの程度の被害が及ぶであろうかという認識の問題である。それから、それでもこれは行くべきだ、行っても大丈夫だ、また行かなければならないということが一体無謀であったかどうかという判断は最終的には裁判所で行われるものにしても、この文章表現というものが現実の事態にはなかなか判断がしにくいことではなかろうかと思われますが、この種の問題についての今日までの判例とか実例というものはございますか。
  129. 中島一郎

    中島政府委員 この表現、いわゆる「無謀な行為」という表現は、従来の日本法律にはなかうた用語でありまして、先ほどから申し上げております航空機に関する賠償責任条約その他にぼつぼつと出てまいりまして、今回の条約にも取り入れられた考え方でありますために、日本裁判所における判例その他で私どもが十分参酌することのできる考え方というものは確定をしておらないわけでありまして、今後具体的な事件についての判例等の集積によって徐々にその概念構成がされていくということにも期待をせざるを得ないという実情でございます。
  130. 横山利秋

    ○横山委員 何が勇気であるか、何が無謀であるかということは、交通信号のように画然たる青か赤かという問題ではありません。ある時期には勇気ある行動として全乗組員を叱咤激励して船舶の予定どおりの航行をなさしめた場合、あるいはそういうことが結果として無謀であった、そのために船が沈んだという点については、作文としてはできるけれども、これは簡単な問題ではないと思います。それで、この文章は「おそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為」とありますけれども、この二つのことは競合するのですか、独立をしておるのですか。
  131. 中島一郎

    中島政府委員 損害発血のおそれがあることを認識しているということも必要でありますし、それから行為が無謀な行為であるということも必要であるということになろうかと思います。従来私どもがわりあいなじんでおります脅え方といたしまして、認識ある過失という考え方があるわけでありまして、その認識ある過失に若干プラスされるもの、いわゆる無謀な行為ということで若干プラスされるものがあるんだろうどいうふうに理解をいたしております。
  132. 横山利秋

    ○横山委員 重ねて聞きますが、この文章は、「自己の故意により」「自己の無謀な行為によって生じた損害」と「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為」と両建てになっておるわけですね。「自己の故意により」「自己の無謀な行為」というのは、これは二つでなくして一つだという解釈があり得るものでありますが、損害の発生のおそれがあることを認識をしないで「自己の無謀な行為」が独立して存在することがあり得ると思うのですね。これはあくまで「しながらした」でなければならぬのですか。
  133. 中島一郎

    中島政府委員 故意の点につきましては、「自己の故意により」「生じた損害」というふうに続くわけでございまして、「無謀な行為」につきましては、「認識しながらした自己の無謀な行為」に限られるわけであります。これをそれぞれ切り離して考えられないかということでありますけれども、やはり「無謀な行為」という以上は、そこに損害の発生のおそれのあることを認識しておるということが必要であるのが通常でありましょうし、この場合は両方の要件が必要であるというふうに理解しておるわけでございます。
  134. 横山利秋

    ○横山委員 恐らく現実の事態が発生いたしましたときに、損害の発生のおそれを認識する必要はない、しかしながら勇気ある行動としてこの船はこういうようにやった方がいいと思う、思うけれどもそれが客観的に無謀であったというのは結果論でありますから、私は争いが生ずる問題ではないかと思われてなりません。  それから、先ほど商法の委付制度がなくなったというのですが、委付制度というものは私が言うよりもあなたの方が率直に簡明におっしゃっていただけると思いますけれども、委付制度とは一体何でありますか。
  135. 中島一郎

    中島政府委員 海難事故が起こりましたときに、船舶所有者等がその船舶及びその船舶がその航海によって得ました利益、これを海産と言えるかと思いますが、その海産を債権者側に提供することによってそれ以上の責任を免れるという制度と考えております。
  136. 横山利秋

    ○横山委員 先ほど御希望があったな。大蔵省お急ぎのようですから、これだけは簡潔に説明しておいてください。  それはこの法律の中に出てまいります船の責任制限に登場してまいります人々、船主、被用者あるいは荷主、旅客等に関する保険制度はいまどうなっておるか、簡潔に説明しておいてください。
  137. 松田篤之

    ○松田説明員 船舶に関する保険といたしましては、大きく分けて二つの団体がやっております。一つ損害保険会社でございまして、損害保険会社におきましてはいわゆる船舶保険あるいは積み荷保険といった保険をやっております。もう一つの団体が船主責任相互保険組合と申しまして、これは船主が負います責任のうち船舶保険で持たない部分、船主の運航等に基づく責任で生じますもの、大きく分けて三つございますが、一つは、船主が船を持っておることによります船の事故、たとえば岸壁に船をぶつけて岸壁を壊すとかあるいは相手の船にぶつけるといったもののうち、相手の損害のうち人的なもの、こういったものが一つ。それからもう一つは、自分の船の乗組員に対します損害、たとえば給与とかそういったものも含むわけでございます。それからもう一つは、船に積み荷を積んでおります積み荷を運ぶ者としての責任、こういった責任を担保することを船主責任相互保険組合というところでやっておりまして、これは船主がお互いに相互扶助の精神でつくっておるいわば閉鎖的な助け合いの組織で保険をやっておるわけでございます。  それから、先ほどの損害保険会社の方でこの法律の方に関係いたします部分といたしましては、船と船とが衝突した場合には船舶保険におきまして相手方の船の損害に対しましても持つということで、先生御質問のいわゆる船主の責任制限という面で関与する保険といたしましては、その二つがあるわけでございます。
  138. 横山利秋

    ○横山委員 説明がありましたから、ついでにその点に返りますけれども、要するに私の質問は、責任制限をするというけれども、その賠償責任を負うものが資産がきわめて大きく、また、この種の損害について保険によって保険金がもらえる、だから何も責任制限をしなくてもいいではないかという議論がきわめて庶民的な議論としてあり得ると思うのですが、伊その点もう一度。
  139. 中島一郎

    中島政府委員 船舶所有者等責任が起こってくるわけでありまして、それを保険に転嫁すればいいかと申しますと、事故が余りにも大きいものであるという場合には、これは保険そのもののあり方にも影響を与えてくるということになるわけでありまして、船舶所有者等に、保険を抜きにしましてこの制度の必要性、合理性というものが認められるのみならず、それに保険を加えましてもなおかつこの制度の合理性、必要性というものがあるということでございます。
  140. 横山利秋

    ○横山委員 話題は何か非常に大きな船に限定をされたたとえのようでありますが、漁船の小さな船でも同じように保険があり、かつまたその損害賠償はわりあいに少ない場合、こういうことを考えますと、いささか歴史あるこのシステムであるけれども、特別な恩典がこの法律によって与えられ、損害請求権というものがここで限界があるという点がどうしてもなかなか納得できないところであります。  次に、海難と救助の実情について伺いたいと思います。  ここに五十六年八月の「海上保安の現況」という海上保安庁の本がございますが、最近における海難事故の状況について、まず御説明を願いましょうか。
  141. 広瀬好宏

    ○広瀬説明員 昭和五十六年にわが国周辺海域におきまして救助を必要といたしました海難船舶は二千六十七隻でございまして、トン数にいたしまして約百五十万総トンでございます。これに伴います遭難者は一万一千四百三十二人ということになっております。その二千六十七隻の海難に対しまして、私ども海上保安庁が救助いたしましたり、また協力して救助したものが千六百五十八隻でございまして、そのパーセンテージは八〇%という状況でございます。
  142. 横山利秋

    ○横山委員 海上保安庁が関与したのが千六百五十八隻ですか。この表を見ますと、海上保安庁が救助したものは二五、六%、海上保安庁以外が救助したものが約四十数%となっておるのですが、海上保安庁以外の救助というのはどんなケースが考えられるのですか。
  143. 広瀬好宏

    ○広瀬説明員 先ほどの二千六十七隻の内訳でございますが、詳細に申しますとこういうことになるわけでございます。  私どもが救助いたしましたのが五百四十九隻でございます。それから私ども保安庁以外の救助が九百四十二隻ございます。これは、たとえば海難を受けた船がございまして、その付近を航行している船がございます。そういうところに私ども無線連絡をいたしまして、そちらの方で救助してもらうというようなケースがございますが、そういうことで、私ども以外の救助が九百四十二隻でございます。なお、そのほかに全損海難がございまして、これが三百四十三隻。それから、その船自体は海難を起こしましても、自力で機関故障を修理して入港する場合がございます。そういうケースを自力入港と申しておりますが、これが二百三十三隻ということになっております。
  144. 横山利秋

    ○横山委員 海上保安庁が救助した費用については国の税金で行うのですからいいのですが、海上保安庁以外が救助した九百四十二隻、それらの救助活動に従事した船舶及びその人々ですか、それは通常、救助費用というものは救助される側に対して請求がされ、支払いがされておるものですか。
  145. 中島一郎

    中島政府委員 請求をされあるいは支払いをされておるかどうかという実情は、私ども十分把握いたしておりませんけれども、その救助の費用と申しましょうか、救助に基づく債権というものは、この法律の四条一号によりまして責任制限をすることができないということになっておるわけでございます。
  146. 横山利秋

    ○横山委員 この実情がよくわからないのです。たとえば山で遭難をする、その救助活動をする、その救助活動は大変な費用が要る、それは通常遭難者の遺家族に支払い責任があるということなのでありますが、この救助活動に、海上保安庁から連絡があって近所の船は救急義務がある、それを履行するためにかなりな労力とお金が必要になった、そしてそれを遭難した船舶被用者船長に請求をする、請求をするけれども、いや、それはこの責任制限の中に入らないから、そんなこと知らぬ、おまえ払えという意味ですか。
  147. 中島一郎

    中島政府委員 商法の八百条によりますと、「船舶又ハ積荷ノ全部又ハ一部カ海難ニ遭遇セル場合ニ於テ義務ナクシテ之ヲ救助シタル者ハ其結果ニ対シテ相当ノ救助料ヲ請求スルコトヲ得」、こういうふうにあるわけであります。で、救助料が請求できるわけでありますけれども、これが発生をいたしました上で救助された船舶所有者等がこの責任制限することができるということになりますと、救助しようとする方も、大変な手間をかけ、費用をかけ、場合によれば生命の危険を冒して救助したにもかかわらず、その費用すらも制限をされて全額の補償を受けられないということになりますと、救助をちゅうちょするということがおそれられるわけでありまして、それでは困りますので、この分は制限することができない、したがいまして、全額を支払わなければならない。救助された者は救助者に対して全額を支払わなければならないということになっておるわけでございます。
  148. 横山利秋

    ○横山委員 支払わなければならないというのは、どこに書いてあるのですか。
  149. 中島一郎

    中島政府委員 八百条によりまして請求することができるわけでありまして、債務者の側である救助された者としてはその責任制限できないわけでありますから、全額についての債務を負担する、こういうことでございます。
  150. 横山利秋

    ○横山委員 海難に関連をしましてお伺いをするのですけれども、日本海、オホーツク海、それからアメリカ近海におきまして、最近漁船の拿捕というものがきわめて、漸減の傾向はあるものの、歴年重要な問題になっております。  この五十六年の統計を見ますと、ソビエトによる拿捕隻数は二十六隻、百八十一人。その海域別には、北方四島周辺海域十八隻、沿海州海域六隻、千島列島北方海域二隻。それから、その他の海域は、五十五年では、米国によるもの七隻、百八十三人、弾国によるもの四隻、四十九人、インドネシアによるもの四隻、三十八人を含めた八カ国により合計二十一隻、三百九十人が拿捕されたとなっておりますが、五十六年の統計は出ておりますか。
  151. 広瀬好宏

    ○広瀬説明員 日本船舶の被拿捕の状況でございますが、私どもの承知していろ数字は次のとおりでございます。  五十六年で総計三十四隻、四百四十八名が拿捕されているわけでございます。その内訳を大きなものを拾いますと、ソ連が十七隻で百九十八名、それから米国が五隻で百十六名、それから韓国が四隻で十九名、そのほかオーストラリア等ございますが、以上のとおりでございます。
  152. 横山利秋

    ○横山委員 先般来、私もややこの拿捕事件に関与をした者の一人なんでありますが、拿捕されました場合には、一つには、その国の要求する損害賠償金、それから罰金、それを払わなければ帰さない。いま金がなければ、それを払うという誓約をしなければ帰さないということになり、約束をして帰ってきて払うということになるわけでありますが、その金額が多額に上がっておることは周知されておることなんであります。  一体、何が原因であるかということになりますと、やはり二百海里の問題なりいろいろな原因があると思いますが、拿捕の原因別、種類別統計を一遍聞かしてもらいましょうか。
  153. 広瀬好宏

    ○広瀬説明員 拿捕の原因別、種類別と申しましても、実は、私どもそういうとり方をしておりませんが、一応、先ほど申し上げました三カ国、米国、ソ連、韓国、これらにつきまして拿捕の内容を御説明申し上げますと、いずれも漁船でございまして、それぞれ相手国の漁業水域内において操業中に拿捕されているわけでございます。  米国につきまして、五隻でございますが、地域的に言いますとアリューシャン付近で操業中拿捕されたものでございますが、これはすでに全部帰国いたしております。  ソ連につきましては十七隻でございます。この内容を地域別に分けますと、道東地域で十隻、カムチャツカ地域で四隻、北千島方面で三隻ということになっております。  韓国につきましては四隻でございますが、韓国東岸、南岸ということであります。  これはいずれも漁船でございまして、先ほど申しましたように、操業中に拿捕されたものでございますが、原因ということについては、それ以上のことは私ども承知しておりません。
  154. 横山利秋

    ○横山委員 問題となりますのは、いわゆる二百海里であります。私の承知しておりますことは、たとえば一例を挙げますと、日本海は日本の二百海里と韓国及び朝鮮民主主義人民共和国の二百海里と真ん中でダブるわけですね。それから、ソビエト側との関係もダブりもありますし、北方領土は双方が自分の国だと言っておるわけでありますから、まるきりダブるわけでありますね。  前のダブりはその中間線ということになっておることは承知しておるわけでありますが、さて、現実問題として、本当に双方が認め合ったその中間線から越えたものであるかどうか、あるいはまた損害賠償金を他国が要求するに際して、おまえは日本を出てからいつも毎日ここでやっておったのであろう、その魚は全部わが国の水域でとったのではないか。いや、そうではありません、きのうまでは日本の水域でとっておって、きょう初めてここへ来たのでありますから、この魚の十分の一ぐらいしかとっておりません等々の争いは常に存在しておるわけであります。  私が体験をいたしましたのは、ソビエトの裁判所で約九億ぐらいの損害額及び罰金を命ぜられました。そういうことではとても支払いができないということで、いろいろな嘆願もいたしまして、減額をされたわけでありますが、それをもってしてもなかなか支払い能力がない、こういう事例が常にあるわけであります。  そこでお伺いをしたいのは、まず、海上保安庁としては、この漁船の保護について、この種の問題について通常どういうことを指導されておるか、また、農水省としてもどういうふうな事前指導をしておられるか、それを承ります。
  155. 広瀬好宏

    ○広瀬説明員 拿捕防止につきましても、それぞれ地域別に状況が違っております。ただ、よく触れられることでございますけれども、道東地域、これが一番件数も多いわけでございます。御存じのように北方四島に関連するものでございまして、これは十隻程度つかまっているわけです。ここの地域は非常に好漁場でございまして、しかも小型漁船が非常によく出漁できる、距離的にも非常に近い、こういうことでございますので、それがソ連の主張の領海内に入って操業しているわけでございます。  私どもとしましては、この地域におきます漁船の出漁状況とか拿捕の発生状況等を勘案いたしまして、ソ連主張の領海線付近に巡視船を配備いたしまして、また特に根室海峡などには常時二隻の船を待機させる等、直接に出漁する漁船に拿捕防止の指導をいたしております。  また、漁業基地におきまして、関係機関とか漁業協同組合を通じまして海難防止講習会というのを各地で実施しているわけでございますが、これらの講習会の機会を利用しまして拿捕防止の指導をしているわけでございます。  韓国につきましても、同じようにそういう指導を続けておりますし、それから法令遵守につきましては、韓国の警備隊等とも連携巡視を行うことにより、法令の励行を図っているところでございます。
  156. 横山利秋

    ○横山委員 水産庁、説明ありますか。
  157. 鳥居秀一

    ○鳥居説明員 お答えいたします。  水産庁といたしましても、漁業交渉等が固まりました暁におきまして、その直後、関係者を集めましてその説明会を行うこと、それから、当然のことながら条件等がつきますので、各条件につきまして水産庁の方から各関係団体に通達を行うというようなことをしておりますし、操業指導者たちの打ち合わせ会議等も開催している次第でございます。  それからまた、実際上の操業に入ります各漁法、魚種等がございますが、その段階の面前におきまして漁労長や漁業者等を集めて現地においての説明会を行うというようなことで、どういった条件がついているか、どういうことを注意したらいいのか、そういったことにつきまして十分間知徹底を図っているところでございます。  また、保安庁とも連携をとりまして、そういった条件離反が生じないような取り締まり船の配備ということにつきまして十分な連携をとりながら派遣を行って、取り締まりの万全を期しているという次第でございます。  以上でございます。
  158. 横山利秋

    ○横山委員 そういう予防措置をしておるのにかかわりませず、歴年拿捕が続いておるわけであります。拿捕された以上は、何の文句を言うても、実行的に向こうが船及び身柄を引き取っており、向こうの裁判所なりしかるべき機関で判決をされるわけでありまして、当方からの弁護士がつくわけではないことは言うまでもありません。ですから、身柄を帰してもらうためにいろいろ抗弁しても、結局は先方の国の主張を認めざるを得ない。認めて帰ってきて、さあ、えらいことになったというていろいろな手配を講ずるとしたところで、これはなかなか困難である、こういう状況が拿捕船舶の現状であります。  しかも、自分が本当に他国の領海へ入って二百海里の制限を侵して、いろいろな協定の漁業条件を侵してやった、本当にそうであれば別のこと、先ほどからいろいろ説明をしたようなそうでない場合に何の救済措置もないという点について、外務省が主として漁民の賠償について国としての代弁をしてやるのか。海上保安庁としてもそれはできない、水産庁としてもそれはできないということになるのでありますか。どこが一体その問題を扱うセクションなんでありますか。
  159. 丹波実

    ○丹波説明員 ソ連との関係につきまして、先ほど先生が御指摘しております大変遺憾な問題が起こっているという点は、全くおっしゃるとおりだと思います。特に私が所管しておりますところのソ連との関係で一番問題と考えておりますのは、先ほど海上保安庁の方からも御説明ございましたけれども、北方領土に関連する問題でございまして、先生もつとに御承知と思いますけれども、昭和二十一年以来今日までソ連に拿捕されました件数は千六百三十六件ということでございますが、実にこの約八〇%以上が北方領土のいわゆる括弧づきの、彼らの言うところの領海の中で拿捕されておるということでございます。  で、本件につきましては、申し上げるまでもなく、日本政府といたしましては、北方領土そのものがわが国固有の領土である、したがいまして、その領海なるものも日本の領海だ、したがって、たまたま日本の漁民がその中で操業して、それに対してソ連が拿捕するというのは非常に遺憾だということで、その都度厳重に抗議をしております。先ほど先生が言われました損害補償の問題につきましても、わが国としてはソ連に対して損害賠償請求権を留保するということを常にその都度明らかにしてきておりまして、そのほか重要な会合、たとえば一月に行われました外務省間の次官レベルの日ソ事務レベル協議、この席上でも再びわが方の基本的な立場を繰り返して申し述べておるわけですが、遺憾ながら、ソ連側はわが方の立場に一顧だにの考慮も与えない、そういう状況が続いておるということでございます。
  160. 横山利秋

    ○横山委員 向こうが決めた、こちらが抗議する、けれども、一顧だに与えないということなんでありますけれども、まず第一に脅えられることは、双方の主張が余りにもかけ離れたときにおけるこの種の問題の紛争調停機能というもの、機関というものは、長年の問題でありますのになぜないのでありますか、それを伺いたい。
  161. 丹波実

    ○丹波説明員 先生御承知のとおり、ある種の海域につきましては紛争処理の請求権の委員会というものが合意されておりまして、逐次処理を行っておりますけれども、事北方領土の水域内の問題につきましては、それぞれの国が基本的な立場がございますので、妥協するということがきわめてむずかしい状況にあることは御理解いただけると思います。わが国としては、わが国の漁民のソ連に対する損害補償請求権というものは生き続けているという考え方で、今後ともそういうぐあいにソ連に問題提起し続けていかなければならない問題であろうと考えております。
  162. 横山利秋

    ○横山委員 北方領土に関する問題については、理論的にはよく理解できるわけであります。しかし、だからといって、おれの国のものだから、おまえら行けよ、拿捕されたら拿捕されたときのことだ、行けよというようなことだけでは漁民が損するだけ、日本政府、外務省はかっこうのいいことを言っているだけだということになってしまうではありませんか。それが一つ。  それから、紛争調整機能というのは、そういう北方領土の問題は基本的な立場が違うから仕方がないにしても、ほかのところで拿捕された問題について、もう少し拿捕された漁民の損害賠償の争い、あるいは事実関係の争いについて、ソビエトを初め他国との間にこの種の問題についての紛争調整機能、機関というものがあってしかるべきではないか。この二点について。
  163. 丹波実

    ○丹波説明員 北方領土の水域の問題を離れますと、ほかにたとえば日ソ、ソ日の漁業協定で言うところのソ連の二百海里の中における操業違反ということで草捕され、かつ裁判にかけられるケースがあるわけでございますが、この点につきましては、私たち、水産庁、それから海上保安庁と随時意見交換あるいは連絡を行いまして、日本側から見てソ連側の主張がおかしいと思われる場合には、日本政府としてその都度問題提起を行っているわけでございます。先生が恒常的な紛争処理の機関をつくったらどうかという御意見を先ほどから述べておられまして、一つの見識に基づいたお考えと思います。今後ともそういう御意見を念頭に置きながら、いかにしてこの問題を円滑に処理できるかということを検討してまいりたい、こういうように考えております。
  164. 横山利秋

    ○横山委員 もう一つ、端的に言いまして、日本漁船の拿捕されているのが非常に多いのに比べて外国漁船の拿捕が非常に少ないということは、一体どう考えたらいいのであろうか。ソビエトなりほかの国がめちゃくちゃやって拿捕しておるということでも必ずしもあるまい。それから、海上保安庁がまあまあという仕事をしておるということでもあるまい。そうだとしたら、拿捕される船が多くて拿捕する船が非常に少ないということは、一体どう考えたらいいのであろうか。そこに一つ問題が、なお他の問題があるのではないか。漁民の心理というものが、外国人の漁民の心理と——日本のすぐそばでありますから、日本人の漁民の心理というものについて一考をするべき問題が存在しないであろうか、こういうことを考えるのですが、どうですか。
  165. 広瀬好宏

    ○広瀬説明員 御質問は、わが国における拿捕が少ないんじゃないか、こういうお話のようでございますけれども、まず前提といたしまして、私どもの統計によります拿捕というのは、二十四時間以上の拘束を拿捕とし、件数を上げているわけです。一方、わが国周辺におきます外国漁船の取り締まりにつきましては、外国人漁業の規制に関する法律とか漁業水域に関する暫定措置法等がございまして、私どもはこれに基づきまして取り締まりを行っているわけでございます。わが方周辺では、ソ連、韓国、中国、台湾、かなりの船が入り乱れているわけですが、そういう漁船の実態を勘案しながら、私どもは巡視船、航空機を配備いたしまして、取り締まりを行っております。  暫定措置法施行以来、五十二年七月一日でございますが、それ以来昨年末まで、私どもの船で検挙いたしました船が総計で二百九十八隻でございます。そして、誓約書壷徴収いたしまして退去させた件数が八百八十七、警告で退去させたものが七千百十二隻ということでございます。これらはすべて私どもの船が立入検査を実施しまして、それぞれの操業内容等を見まして、国内法令に照らし処分した件数でございます。
  166. 横山利秋

    ○横山委員 その点、水産庁に意見はありませんか。私はソビエト政府に対して拿捕について要望をしたことがあるわけです。余りにも気の毒だという要望をいたしまして、しかも事実関係で漁民に言い分があるということを言いましたところ、ソビエト政府の高官の言い分は、それは早速検討はしてみよう、しかし、この際日本の漁民に対しても協定なり、あるいは侵犯をすることのないようにひとつ十分注意をしてもらいたいという要望を受けたわけであります。そういう点では、先ほど伺ったのですが、予防措置について漁民に対する水産庁の指導はどんなことになっておりますか。
  167. 鳥居秀一

    ○鳥居説明員 いまおっしゃられたように、数字的に申しますと向こうに拿捕された数字がかなり多く、それから当方で検挙した数字が非常に少ないという実態にあることは事実でございます。これは、一つには船の数自体が、全体的な隻数が、わが方は小型のものが多うございますし、向こうはかなり大型のものが多いということの隻数の絶対数という問題があろうかと思います。  それから、漁民といたしましては、実際上の問題といたしまして二百海里の問題等その他漁業状況というのが非常に苦しくなってきているという問題もございまして、非常に立場は苦しいというせっぱ詰まった感情もあろうかとは思いますが、実際上の問題といたしまして、当方の指導によって漸減していることも事実でございます。これからも指導の徹底を図ってまいりたいと思っております。
  168. 横山利秋

    ○横山委員 北方領土と同じ問題が尖閣諸島周辺海域における問題であります。  この海上保安庁の資料によりますと、「例年多数の台湾及び中国漁船が出現しており、五十五年には、同諸島周辺の領海内で、台湾漁船百四十九隻、パナマ漁船一隻の不法入域を確認している。なお、中国漁船については、領海への進入は行われていないが、例年三月から五月にかけて同諸島北方から西方において操業しており、五十五年も約二百隻が確認されている。」  この尖閣諸島も、やはり中国は自分の領域だと言い、日本も自分の領域だと言っておる。北方領土と全く同じ条件ですか、違ったところがございますか。
  169. 池田維

    ○池田説明員 お答え申し上げます。  尖閣諸島がわが国の固有の領土であるということにつきましては、歴史的にも国際法上も疑いのないところであるというのが日本政府の従来の一貫した立場でございまして、また、現にわが国は尖閣諸島を有効に支配しているわけでございます。  他方、中国側がこの尖閣についてどういう立場をとっておるかということは、これは中国の独自の主張でありまして、中国に帰属するということを言っておるわけであります。そうした中国の態度は最近も変わっていないとは思いますけれども、一貫して日本政府といたしましては、固有の領土であるということで取り扱ってきております。
  170. 横山利秋

    ○横山委員 実態の違うのは、尖閣諸島は日本が実効的支配をしており、北方領土はソビエトがいま実効的支配をしておるという違いが根本的なものだと思います。そういう点では、尖閣諸島における不法侵入について海上保宏庁はどうしているんですか。
  171. 広瀬好宏

    ○広瀬説明員 尖閣諸局におきます警備態勢でございますが、同海域につきましては、沖縄復帰の昭和四十七年五月十五日から私どもの巡視船を配備して警戒をしているわけでございます。かつて五十三年四月に、かなりの中国漁船が領海内で不法操業をいたしました事件がございました。この際におきましては、私ども他管区から巡視船、航空機等を応援、派遣をいたしまして警備を強化したわけでございます。現在では、原則といたしまして常時巡視船を一、二隻当該海域に配備いたしまして、また、航空機を随時哨戒させるというようなことで、厳重な警戒を行っているところでございます。
  172. 横山利秋

    ○横山委員 拿捕したのはありますか。
  173. 広瀬好宏

    ○広瀬説明員 この地域に昨年におきまして入ってきております船は、台湾船が百五隻でございます。一部法令違反がございましたときは検挙したりするわけでございますが、現在のところ、ちょっと統計を私ここに持ってきておりませんが、普通の場合、単なる入ってきた場合につきましては、警告、退去をさせるということで対処をしているのではないかと存じております。
  174. 横山利秋

    ○横山委員 五十五年「台湾漁船百四十九隻、パナマ漁船一隻の不法入域を確認している。」ということだけ載っておって、いまのお話を聞いておっても、別に拿捕しているわけじゃない。漁船が、百四十九隻来て、おお、ここへ来てはいかぬぞ、出ていけと言うだけで、別に魚を調べたわけじゃない、拿捕したわけでもない、損害賠償を取ったわけでもない、罰金を取ったわけでもないということについて、若干じくじたる御説明でございました。  さて、そういうようなこと、拿捕と本法との関係は一体どういうことになるでありましょうか。拿捕された船、借りて船長が運航しておる、あるいはまた、魚を得るために前金をもらって、そして魚をとったらその魚で返すということ、それから損害賠償や罰金というものは多額に上るのでありますけれども、この法律責任制限とどういう関係になるかという点についての御説明をお願いします。
  175. 中島一郎

    中島政府委員 まず、罰金でございますけれども、罰金は、この法律制限その他の手当てをするという意味で予定をしております出費ではございませんので、この法律の適用はないと申し上げざるを得ないかと思います。  それから、船長のお話がございましたが、船舶所有者といたしましては自己の損害ということになるわけでありますから、これもこの法律の適用はないわけであります。  それから、魚をとって、その魚をだれかに渡すという契約があったという例をお挙げになりましたが、たとえば対価を受け取っておるというような場合であろうかと思います。つまり魚が返せなくなった、その債務を履行することができなくなったという損害であろうかと思うわけでありますが、その点につきましては、この法律の三条の一項三号という規定がございまして、「船舶の運航に直接関連して生ずる権利侵害による損害に基づく債権」ということになっておりますので、一見これに入るように思われないではないわけでありますけれども、「当該船舶の滅失又は損傷による損害に基づく債権及び」、これからですが、「契約による債務の不履行による損害に基づく債権」、これは除かれることになっておるわけでありますので、いまの魚の引き渡しの債務の不履行による損害は除かれる。結局、責任制限をすることができないというふうに一応考えます。
  176. 横山利秋

    ○横山委員 拿捕による損害の事例を幾つか挙げて聞いたのですけれども、そういたしますと、拿捕の場合においては、あらゆる事象が責任制限を適用されないということになりますかな。たとえば、ちょっと御説明が足らなかったようなんだけれども、船を借りて、船長が人を集めて行った。借りた場合。そして船長は、全く自分は公正な、国境侵犯も水域侵犯もしないで合法的にやっておったにかかわらず、誤解を受けて拿捕されて損害を受けたという場合でも、いかなる場合でもこれはいかぬのですかね。
  177. 中島一郎

    中島政府委員 全く適用を受けるケースがないかというお尋ねでございますと、あらゆる場合を検討しなければなりませんので、ちょっと確信のあることを申し上げられませんけれども、いま幾つかのケースを思い浮かべてみますと、それは当たるというケースがどうも思いつかないようなことでございます。(横山委員「船を借りた場合は」と呼ぶ)船を借りました場合につきましては、ちょっと考えさせていただきます。
  178. 横山利秋

    ○横山委員 拿捕事件が非常に多うございますから。この法律は、私が冒頭申しましたように非常に難解なんで、具体的な事例から考えますとずいぶん疑問が生ずる。いま引用されました「契約による債務の不履行による損害に基づく債権」、契約がそんなところにひっかかるとすれば、これはすべて契約ではなかろうか。物事すべてが商行為ではなかろうか。この文章というものはそういうことになりはせぬか。これを拡大解釈したら、それはみんな契約じゃないかという気持ちもせぬではないのですが、どうですか。
  179. 中島一郎

    中島政府委員 三条一項一号でございますが、「船舶上で又は船舶の運航に直接関連して生ずる人の生命若しくは身体が害されることによる損害又は」、ここからでございますが、「当該船舶以外の物の滅失若しくは損傷による損害に基づく債権」、こうなっておりますので、いまの場合は、当該船舶の滅失による損害であるということになりますと、これに当たらないということになるわけであります。     〔熊川委員長代理退席、中川(秀)委員長代理着席
  180. 横山利秋

    ○横山委員 時間の関係上、ひとつ素人にわかりやすく、事故が赴きてから支払いまで——事故が起きた、救援に行く、救援に行った場合に、引いて帰る、あるいは沈めてしまえ、油がたれるから何かしろということになる。そして事故の処理が済んだ、それで損害賠償はだれがどういうふうにと発展する、それが裁判にかかるというような、事故発注から支払いまで、どんな手続をとって最終的に決着がつくかということを、ひとつわかりやすく説明してください。
  181. 中島一郎

    中島政府委員 典型的な例として、衝突があった、こういうケースを例にとってみたいと思いますけれども、船舶が衝突をした、加害船の方を甲船として相手方を乙船、こう仮に呼びたいと思います。問題になりますのは、加害船である甲船であります。甲船が乙船にいろいろな損害を与えます。乙船の船体にも損害を与えますし、あるいは乗組員その他の人損もある、もちろん積み荷の損害もある、こういうことになるわけであります。そこで、乙船側から甲船に対して損害賠償請求権を取得するということになります。  その額でございますけれども、一応の目安としてどれくらい損害が発生しておるかということが問題になるわけであります孝が、この法律責任制限をすることの債権というものを全部合計をいたしますと、責任の限度額以上に超えている場合と超えていない場合とがあるわけであります。超えていない場合には、これは全くこの法律の適用がなくて、甲船側としては乙船側にその損害賠償を支払う、こういうことになります。損害額を合計いたしますとこの責任限度額を超えているという場合には、甲船側はそのことを疎明いたしまして、裁判所責任制限手続の申し立てをするわけであります。裁判所ではその疎明をいろいろと調査をいたしまして、これはこの法律の適用をすべき要件を満たしておるということになりますと、責任限度額に相当する金銭及びこれに対する事故発生の日から供託の日まで年六%の金銭を供託するようにという供託命令を出すわけであります。その限度額というのは、従来申し上げております甲船のトン数に一定の金額を掛けて出てきた限度額、こういうことになるわけであります。  それで、申し立て人は供託命令に従いまして、裁判所が命じた金銭を供託所に供託をいたします。あるいは金融機関等との間に供託委託契約を結びまして、それを裁判所に届けるわけであります。裁判所といたしましては、供託がされたということを確認をいたしまして、手続の開始決定をいたします。そして、開始決定をすると同時に管理人を選任して、同時に関係事項を公告するわけであります。そして、その関係事項の公告に対しまして債権者が債権の届け出をしてくる、こういうことになるわけであります。  なお、この開始決定に対しましては関係人は即時抗告の申し立てをすることができるわけでありますが、この即時抗告を経て開始決定が確定をいたしますと、この関係事項の公告に応じて債権者から債権の届け出が出てくる、そこでまたこの債権についてのいろいろな審査が行われるわけでありまして、この債権については責任制限対象になるとかならないとか、あるいは額については債権者の申し出の額は高過ぎるとか、いろいろなことが問題になるわけでありまして、そういった点について裁判所が調査をし、査定の裁判をするということになります。あるいは関係人の異議に基づいて訴訟になるケースもあろうかと思います。  そういうことによって債権が全部確定をするということになりますと、先ほども申しました限度額の基金ということが一方においてあるわけでございまして、また他方において債権者が届けてまいりました債権の総合計というのがあるわけであります。その債権の総合計の方が基金の額を上回っているということになるわけでありますから、その債権額に応じて基金を分け合う、分配をするということになるわけであります。
  182. 横山利秋

    ○横山委員 大要わかりました。その場合に、海難審判庁との関係はどうなりますか。故意、無謀という問題、なぜ船舶が衝突したか、その責任はどうなのかという海難審判庁との関係はどうなりますか。
  183. 中島一郎

    中島政府委員 海難審判庁のいわゆる海難審判といいますのは、事故についての原因を調査してその結論を宣言することによって将来の海難を少なくする、あるいは船長なり船員なりの責任を問うことにより免許の取り消し、停止その他の処分をすることによって、不適格な者が船長船員その他の職務を行うことを排除するという目的に出たものであろうかと思うわけでありまして、こちらの責任制限制度というのは、加害者側と被害者側との間における責任の分担をどういうふうに調整するかという問題でありますから、制度そのものとしては違う制度でありまして、お互いに影響を与えることはないというのが原則であろうかと思います。ただ、両者とも共通の事故についてその事故原因を調査し、その事故原因がどこにあるかということを判断するという意味において共通点があるわけでありますから、事実上結論が似たようなことになるということもありましょうし、お互いに参考になり得る場合もあるということはあろうかと思います。
  184. 横山利秋

    ○横山委員 お互いに参考になるといいましても、一番ポイントは故意であるかあるいは無謀であるか、損害発生のおそれがあることを認識しながらした無謀な行為であるかという最大のポイントが、裁判所と海難審判庁との意見が違う場合が理論上あり得るわけですね。どうなんですか、ある意味では民事の問題でありますから、この種のものはかなり長引くと思うのですが、海難審判庁の方が通常先に結論を出すことになるのでしょうか。おまえはおまえ、おれはおれだ、そんなもの意見が違ったって知らんがや、おれの調査したことでやるんだ、こういうことになるのでしょうかね。
  185. 中島一郎

    中島政府委員 制度それぞれが目的を持っておりまして、その目的が別々でありますから、本来別々に進行をして影響を与えないということは先ほど申し上げたとおりであります。私が参考になる面もあろうと申しましたのは、海難審判におけるいろいろな調査の調書というようなものがつくられるわけでありますから、そのうち利用できるものは裁判所手続でも利用する道はあろうか、こういう意味で申し上げたわけでございます。
  186. 横山利秋

    ○横山委員 ここに運輸省海運局の人が書いた「海事債権責任制限条約採択会議の状況について」というプリントがあるわけです。この総括を見ますと、総会の採決では賛成三十四、棄権がアメリカ、フランス、ギリシャ、インドネシア、スイス、イラン。アメリカは限度額が低過ぎること、フランスは自国の提案がほとんど受け入れられなかったことから棄権、こうなっております。低過ぎるから反対ということならわからぬことはないのですが、アメリカほど限度額が高いものが国内法としてあるのであろうかどうか、フランス、ギリシャは一体どういうことなんだろうか、この種の大きな船舶所有国が棄権をした後一体どうしているのだろうかという疑問がある。  それから、「わが国は、この採決の後、特に発言を求め、重過失責任制限阻却事由に含まれなかった点、及び最低限度額についてわが国の主張と大幅なへだたりがある結果になった点については、依然不満であり、今後の改善を望むこと、原子力損害に関する債権については、一般船による原子力事故についてもすべて非制限債権になると解すること、船舶トン数測度条約の一律適用が、実際の運用上種々の問題を生じさせる可能性があることに十分留意すべきこと、」等々を日本政府の態度としてしゃべっておるわけでありますが、これらの日本政府の態度及び外国の状況のその後。外国はその後一体どうしているのか。特にソビエトは一体どうしているのか。わが国が発言を求めて、特に発言した三項目ですか、その三項目についてわが国は一体どうしようとその後考え、どうしたのかという点について説明をしてもらいたい。
  187. 佐藤裕美

    ○佐藤説明員 海事債権責任制限条約は一九七六年に採択されたわけでございますけれども、この条約につきましては、昭和四十八年からIMCOにおきまして検討をいたしまして、それで昭和五十一年、一九七六年の十一月にロンドンで開かれたIMCO主催の会議で採択されたわけでございます。  それで、わが国といたしましては、この条約金額責任主義による制限制度を基礎として、それで責任限度額を引き上げる、さらに、船舶の旅客の死傷についての個別の限度額の設定などをいたしまして被害者の妥当な保護を図る、さらに、その責任制限することのできる者として救助者の追加、あるいは限度額の表示単位として国際通貨基金、IMFの特別引き出し権SDRを採用するとか、一層合理化した方向での責任制限制度規定するという方向でございまして、船舶事故によって生ずるその被害につきまして妥当な救済を確保するという観点は望ましいという判断、それから、主要海運国と歩調を合わせながら合理的な形での船主責任制限制度を維持いたしまして海運業の安定的な発展を図る、そうすべきであるというのがわが国基本的な立場でございまして、こういうことでこの会議に対応したわけでございます。  それで、この海事債権責任制限条約の採択会議におきましては、先生いまおっしゃられましたような幾つかの点が議論されたわけでございますけれども、特に責任制限対象となる各種の債権のうち港湾施設等の損傷に関する債権の取り扱いあるいは一般の債権に関する責任の限度額、これをどうするか、及び旅客の債権に関する責任の限度額等につきまして議論があったわけです。  それで、まずその責任制限対象となる債権についてでございますけれども、船舶の運航または救助活動に直接関連して生ずる人の死傷または物の損傷に関する債権のうち港湾施設等に与えた損傷に関する債権の取り扱いが問題となりまして、制限債権としてほかの債権と同様に扱うこととする草案が出たわけでございますけれども、これに対しましてはアメリカあたりが非制限債権とすべきであるという案を出しまして、そのほかにはオーストラリアが国内法で非制限債権とし得るとする留保条項を設けるというような案を出しました。また、物損についての限度額の中で優先弁済を認める案をフランスが提案いたしたりしたわけですけれども、結局、各国はその国内法において物損の限度額の中で優先弁済を認めることとすることができる、そういう趣旨の規定をすることで決着いたしたわけでございます。  それから、先ほど話題になりました一般的な限度額についてでございますけれども、責任制限のシステムにつきましては、一つ基金の中で人損について優先弁済を認めるという第一案、これに対しまして、人損と物損とで別の基金を設けて、人損基金からの弁済が不十分な場合には物損の基金に同順位で参加し得ることとする、こういう第二案と二つの意見に分かれたわけでございますけれども、フランス、オーストラリア、北欧諸国、それからアメリカ等は、システムとして単純明瞭であるという理由によりましていま申しました第一案を支持いたしました。これに対しまして、わが国、それからイギリス、西ドイツ、ギリシャ、オランダ等は、第一案でやりますと人損、物損ともに生じた場合に物損が全く補償されない事態も生じかねない、それで不合理であるという理由によりまして第二案を支持したわけでございます。そして最終的には、第二案のシステムが採用されたわけでございます。  それから、具体的に限度額をどうするかということでございますが、わが国、それからイギリス、オランダ、北欧諸国等の間でいろいろな提案が出たわけでございますが、まあ開きもあったわけでございます。そして最終的には、現在の額が採用されたわけでございました。  それから、旅客の債権についてでございますけれども、限度額について、責任制限のシステムにつきまして定員一人当たりの限度額と最高限度額の両方定めるという案、これはイギリスとか西ドイツ、ノルウェー、ギリシャ、スウェーデンなどが提案いたしまして、これに対しまして、最高限度額のみを定めればいいのではないかという案をわが国は提案したわけでございます。それから第三案といたしましては、実際の旅客数一人当たりの限度額及び最高限度額の両方を定めることとする案をフランスとか東独、ポーランドなどが提案いたしまして、具体的な額に関しましては、一人当たりの限度額として、たとえば西ドイツは二万ドル、アメリカは三十万ドルまで、それから最高限度額としての金額でございますが、ノルウェー、オランダなどは二千五百万ドル、わが国は五千万ドルという額を提案したわけでございますけれども、結局、定員一人当たりの限度額としては約五・六万ドル、それから最高限度額としては三千万ドルという案が採用されたわけでございます。  それで、この採択会議に参加いたしましたソ連とかアメリカとも、これは国内法制上責任制限制度を採用しているわけでございますけれども、この条約の内容と仕組みが違うというふうに私ども承知いたしております。船価主義ということで、この条約金額責任主義というものとは異なっておると承知いたしております。  それで、その後の状況でございますけれども、現在までのところ、フランス、リベリア、スペイン、イギリス、イエメン、この五カ国が締約国となっております。これは本年二月十九日現在の調査でございますが、その五カ国となっておりまして、そのほかの国につきましては、署名国はデンマーク、フィンランド、西ドイツ、ノルウェー、スウェーデンということでございましたので、まだ締約国となっていない国があるわけでございますが、北欧四カ国について見ますと、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマークの北欧四カ国でございますが、その四カ国を初めといたしまして、そのほかにヨーロッパの九カ国を含めまして大体合計十三カ国程度がこの条約の早期締結という方向で準備を進めていると聞いております。
  188. 横山利秋

    ○横山委員 時間が過ぎましたので、質問を終わります。
  189. 中川秀直

    中川(秀)委員長代理 沖本泰幸君。
  190. 沖本泰幸

    ○沖本委員 先ほど横山先生が最初にお話しになったとおり、非常に理解しにくい法律で、何だかわからなくなったときがあるのですけれども、私は私なりに御質問いたしますので、できるだけわかりやすくお答えいただきたいと思います。  まず、過去、海難の発生件数に比較して船舶所有者等責任制限手続開始の申し立て件数が非常に少ないというふうに聞いておるのですけれども、理由はどういうことなんでしょうか。
  191. 中島一郎

    中島政府委員 これはあくまで私どもの推測でございますけれども、責任限度内におさまっておる事件というものが圧倒的に多いのではないかということが一つ考えられるわけでございます。海難事故が起こりましても、必ずこの制限法の問題が起こってくるとは限らないわけでありまして、先ほどから申し上げておりますように、損害額、責任制限をすることのできる債権の合計がこの法律定めております責任制限の限度額を超える場合に初めて船舶所有者等責任制限をする、こういうことになるわけでありますから、その責任制限の申し立てをするまでもなく、全額支払っておる事件というものが圧倒的大部分であろうというふうに推測をいたしております。  もう一つは、この法律によってトン数による限度額というものが認められておりますので、被害者側におきましては、この事件はこれぐらいの限度しか被害の救済が受けられないんだということが一応の目安がつくわけでありますから、それを基準にして和解その他話し合いによって解決をする事件というものが、これまた相当な数に上っているのではなかろうかというふうに推測をしておるわけでございます。
  192. 沖本泰幸

    ○沖本委員 そうすると、限度額以内でおさまりがついているということは、いわゆる補償なり支払いなりが満足のいく額であるからおさまっているということになるのでしょうか。あるいは、先ほどおっしゃったとおり、全くお話にならないような制度になっておるので、責めてみたところで仕方がないというのでおさまっているのでしょうか。その辺はどうなんですか。
  193. 中島一郎

    中島政府委員 ただいまおっしゃいました初めの方でありまして、事故は、これは交通事故でもおわかりのように、やはり大部分を占めるのは軽微な事故でございます。数からいいますともう圧倒的多数は軽微な事故ということになりますので、当然責任制限の限度額の中におさまるということになりますと、この責任制限法の全く適用外の問題ということになるわけでありまして、実損はすべて補償されておるということになるわけであります。
  194. 沖本泰幸

    ○沖本委員 保安庁の方はどういうふうにお考えですか。
  195. 藤原康夫

    ○藤原説明員 われわれの方はその辺のところは余りよくわかっておりませんけれども、いまお答えになられたとおりじゃなかろうかというふうに考えております。
  196. 沖本泰幸

    ○沖本委員 先ほどもお話が出たのですけれども、改正案によりますと、損害の発生が故意または損害の発生のおそれを認識しつつした無謀な行為によるものであるとき責任制限することができないと規定されておりますけれども、その故意と、それから損害の発生のおそれを認識しつつした無謀な行為、この相違点はどの辺にあるのでしょう。
  197. 中島一郎

    中島政府委員 故意ということになりますと、これまたいろいろな分析をすることができようかと思うわけでありますけれども、これは全く結果を認容しておるということになるわけであります。それに対して無謀な行為は、無謀な行為であるといたしましても、実は結果の生じないことを願っておるわけであります。どうも情勢から見ると損害が発生するおそれはあるかもしれないけれども、自分は技量がすぐれておるから、あるいは幸運にも今回はうまくいくんじゃないかということで、その見通しがどうかという問題はありますけれども、結果の発生は少なくとも願っていないといいましょうか、これは避け得るというふうに主観的には思っておるわけでありまして、そこで故意と違う点があるというふうに申し上げられるかと思います。
  198. 沖本泰幸

    ○沖本委員 保安庁と両方にお伺いしたいのですが、数年前に山口県の沖の狭い水道で、外国の貨物船が広島で修理をして空船のまま出たのが、フェリーと衝突して多大な人が亡くなったという事故がたしかあったはずなんです。私の記憶でいきますと、そのときに、水道が狭いので、行く水路とこっちへ入ってくる水路と別々の水路を指定してあったのを、外国の船が水先案内もつけないままに反対に行って当たった、たしかそうだったんじゃないかと、調べるのを忘れましたので、いま思い出したので聞いているわけですが、そういうふうなのは、水先案内をつけるべきであるといういろいろな問題点があったわけですけれども、修理した後の空船のまま出してしまって水路を間違えたということがたしかあったと思うのです、大事件になって。私は交通安全の委員会で現場を見に行った。水深が深いのと、それから潮流が速過ぎて沈没した後どうしようもないということがあったわけですけれども、その辺、御記憶はありませんか。
  199. 藤原康夫

    ○藤原説明員 ちょっと古い事件でございますので、そういう事件があったことは間違いございませんが、詳しいことを私ちょっといま存じておりません。
  200. 沖本泰幸

    ○沖本委員 故意ではない、無謀でもないのですけれども、なれていないために逆に行ったという事件なんですね。だから、そういうところでは水先案内をつけておけばそんなことはなかったということになるわけですから、この無謀に当たるとも言えるわけなんですね。これはこういうお話をしたってお答えいただけるわけもないと思いますけれども、この事件の解決はどうなったか御存じありませんか、損害賠償について。
  201. 藤原康夫

    ○藤原説明員 損害賠償につきましては、海上保安庁の方としましては余り詳しく存じておりませんので、申しわけございませんが、わかりません。
  202. 沖本泰幸

    ○沖本委員 運輸省の方も御存じありませんね。
  203. 山本直巳

    ○山本説明員 お答えいたします。  申しわけございません。具体的事件について承知しておりません。
  204. 沖本泰幸

    ○沖本委員 どうも、私の方が覚えておったということなんですね。  だから、船主において損害発生について過失があるという場合でも責任制限するということが、この改正案ではできるのでしょうか。
  205. 中島一郎

    中島政府委員 単なる過失にとどまる場合には、制限することができるということになるわけであります。  ただ、私、その御質問の中に出てまいりました具体的な事件については、ほとんど知識がないというふうに申し上げていいぐらい、記憶があるとしても非常にうっすらとした記憶であります。しかも、その無謀な行為に当たるかどうかとかいうようなことになりますと、これは個々具体的な事件によることでありまして、水道が狭かったといいましても、それは一体何メートルぐらいであったのかとか、あるいはそれぞれの船舶の幅員はどれぐらいであったのかというような問題でありますとか、あるいは水先案内人を法律上つけなければならない場所であったのかどうかとか、あるいは船長がそこを通ったことが過去においてどれぐらいあるのかとか、いろいろな事実関係によるわけでありますから、はっきりしたことを申し上げられませんけれども、無謀な行為ということも十分考えられるケースではないかというふうに思いながら、先ほど伺っておった次第でございます。
  206. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いま申し上げたのは、たしか潮流があるということと、そのために時間的に、午前中はこっちの水路を通りなさい、午後はこっちの水路を通りなさい、そういうようなのが瀬戸内にはわりとあるのですね。そういうふうなのはなれた人ですとよくわかるわけですけれども、なれていない外国船だったためにそういう事故を起こした。だから、その場合は、水先案内をつけてちゃんと安全を図ればいいわけなんですけれども、それもついていなかった。おまけに霧があって、それでレーダーで確認する、しない、いきなりだったとかなんとか、いろいろなアクシデントが重なってそういう事故になったというふうにたしか聞いていたとは思うのですけれども、具体的なことで言いかえてみると、そのことが加害者の方の側の重過失ということになりますね。おまけに外国船であるという事柄もあったので、ちょっと結果について知ってみたいなとは思っておったわけですけれども、これはこの場所で偶然に思い出したので伺ったので、調べていないので、私の方がまずいわけですけれども。  それから、その責任制限額の限度額の一単位に対する倍数が条約法律とで違っているわけですけれども、その理由及び根拠はどういうことなんでしょうか。
  207. 中島一郎

    中島政府委員 倍数の数字そのものは変わっておらないわけでございます。この条約に基づいて国内法をつくったわけでありますから、この数字は全く同一なわけでありますけれども、規定の仕方が、物損のみの場合とそれから物損と人損がある場合というふうにありまして、そのまとめ方が条約法律とでは若干表現が変わっておるかと思いますけれども、実質は全く同じでございます。
  208. 沖本泰幸

    ○沖本委員 それで、国際総トン数に相当するその数値の計算の例によりますと、改正されたのが、これの経過からいきますと、トン数の算定について国際的な紛争は起きませんかということなんです。食い違いは起こさないかということです。
  209. 中島一郎

    中島政府委員 トン数の測定に関する点でございますけれども、その点につきましての条約が発効いたしておりまして、わが国もこれを批准いたしまして、本年の七月十八日であったかと思いますが、その日からわが国にも効力を発することになります。条約に基づくものでありますから、国際的な紛争ということは考えられないということであろうかと思います。
  210. 沖本泰幸

    ○沖本委員 このトン数の点で、改正案では、三百トン以下を五百トンまで引き上げて、五百トンの限度額ですべてに当てはめる、こういうことになっておりますけれども、結局、その五百トン以下は全部同じ五百トンの単位で見るわけですか。  それで、一番その件数が多いのは千トン未満の船が多いと言われておって、私が聞いたところでは、実例は三百トン以下の方が非常に多いので、三百トン以下のものに対してもやはり同じ規定が当てはまっていくのかどうかということなんです。そういうふうに段階はもうないわけですか。
  211. 中島一郎

    中島政府委員 一九五七年の条約、したがいまして現行法のもとでは、三百トン未満の船舶は三百トンとみなすということで、最下限が三百トンであったわけであります。三百トン以下は一律に扱うということであったわけでありますが、一九七六年の条約、したがって改正法案ではその最下限を五百トン未満ということにいたしまして、五百トン未満は一律に扱うということにいたしております。ただ、例外がございまして、百トン未満の木船につきましては別の限度額というものを設けておるわけであります。  そういうことになると、三百トン未満の船舶所有者等に対して酷な結果にならないかというお尋ねでございますけれども、余りにこの限度額が低いということになりますと、法律の上ではこうなっておりましても、それではなかなかおさまらないというケースが出てまいります。そこで、現在三百トン未満は、先ほども申し上げましたように、物損だけならば六百九十万円、こういうことになるわけでありますが、六百九十万円ではおさまらなくて、それに上積みをして船主が払っておる。これは保険対象になりませんので、自腹を切っておるということでありますから、そういった船主等は、むしろ合理的な限度額に引き上げて、そしてそれで処理をしたい、こういう希望があるわけでありまして、現在のこの五百トン未満を一律に扱うという改正法案につきましては、そういった中小の所有者等も決してこれに反対はしていないということでございます。
  212. 沖本泰幸

    ○沖本委員 百トン未満の木造船といいますけれども、実際船をつくる技術者もほとんどいなくなりまして、ほとんど木造船はいまつくらないようなところが多いのですね。ボートとかああいう船なら別なんですけれども、貨物を積んで走るような船はほとんど木造船はなくなって、結局船大工さんが職を失うというのが現状なんですけれども、その辺の認識はされておるわけですか。
  213. 山本直巳

    ○山本説明員 お答え申し上げます。  五十五年四月現在でございますけれども、百トン未満の木船というのは十九万八千何ぼでございますから、約二十万隻ございます。そのうち大部分が漁船でございますけれども、数としては決して少なくない数がございます。漁船が十九万七千隻くらいございます。
  214. 沖本泰幸

    ○沖本委員 これは内航船の旅客の死傷による損害に基づく債権責任制限できない、これは三条の二項でそうなっております。それで、結局内航船舶間また内航船舶条約を批准していない外国船舶との間の衝突事故あるいは人員の損傷以外の物の損害に基づく債権についても、条約の第十五条第三項の規定により責任制限できないものとすべきじゃないかという意見があるのですけれども、この辺はどうなんですか。
  215. 中島一郎

    中島政府委員 内航船の船客につきまして責任制限することができないといいますのは、その船客が乗船をしております船舶船舶所有者等が、その船が事故を起こした、沈没したとかその他の理由によって乗客に損害を与えた場合に、その乗客に対する損害賠償の債務を制限することができないということであります。外航船が内航船と衝突をしたという場合は、これは条約で本来の責任限度額制限することはできるということになっておるわけでございます。
  216. 沖本泰幸

    ○沖本委員 運輸省の方に伺いたいわけですけれども、この二月の十八日に東京地裁の判決のあった事件で、海難で制限賠償限度額にかかって、結局一人の補償が七百万で終わってしまった。交通事故、自動車事故の場合で最近は一億円近いものの損害賠償を受けるのに、この法律が当てはまると、結局は法律どおり、制限どおりに七百万で終わったということが問題にされたわけですけれども、被害者を保護しなければならない運輸省の立場として、これに対するお考えはどういうふうにお考えになっていますか。
  217. 山本直巳

    ○山本説明員 お答え申し上げます。  いま先生のおっしゃった具体的事件、たしか新聞か何かに出ておったということで、新聞情報だけでございますので詳しくはわかっておりませんけれども、いまのように船主制限によりまして被害者補償について額が少ない場合の例として多分おっしゃったのだと思いますけれども、私ども、今度の改正によりまして、特に小型船につきましては六倍くらいに倍率が上がる、要するに補償額が上がる、大型船につきましても二倍程度に上がるということで、今後ますます被害者保護ということにつきましては、こういう面において改善されるものと考えております。
  218. 沖本泰幸

    ○沖本委員 これも保安庁の方になるのですか、この間日本海でアメリカ海軍と自衛艦との演習でたくさんの漁船の漁網が切断されて、大変な社会的事件にのし上がったわけですね。潜水艦が切ったあるいは海上の艦艇が切った、どっちかわからないような、結局あれの事件の扱い方、結末はどうなったわけですか。
  219. 藤原康夫

    ○藤原説明員 そういう事件が日本海で起こりましたが、事件の結末につきましては、海上保安庁の方ではつかんでおらないのが事実でございます。
  220. 沖本泰幸

    ○沖本委員 恐らく防衛庁の方が一番関連しているのだと思うのですが、損害賠償にしても防衛庁の方が責任を持つことになるのじゃないか。日米間の取り決め問題だとか賠償責任の問題だとかいろいろあると思うのですけれども、これは今後も起きないとは限らないのですね。できるだけ気をつけて、そういうところで演習してもらったり事故を起こしてもらったりしないような、いろいろ方法は講ずるとは思いますけれども、絶対起きない保証はないわけです。  日本海の海域だけにもよらないと思うのです。北海道周辺であり、日本近海の中ではあるわけですから、以前はソ連の漁船が制限水域外のところで日本の漁船の漁網を切って、サバの網を切ったりいろいろな網を切ったりして事故を起こしました。そういう場合もやはり保護してあげなければならない問題もあると思うのですけれども、その辺のことについての運輸省なり保安庁なりの対策は何もないのですか。
  221. 藤原康夫

    ○藤原説明員 海上保安庁としましては、漁網の設置してあるところなどにつきまして航行の安全を妨げられるような場合には、事前にそういうことがないようにしておりますし、演習が行われる場合には、演習が行われるというようなことを事前に周知徹底するというような措置をとっておりますが、ただいまの御質問損害の補償の問題につきましては、漁船に対する損害ということでございまして、恐らく水産庁が担当しておやりになったかというふうに思っております。
  222. 沖本泰幸

    ○沖本委員 水産庁、見えていらっしゃいますか。いまのことについて何か保護についての対策はあるわけですか、どうなんですか。
  223. 鳥居秀一

    ○鳥居説明員 お答えします。  いま先生おっしゃいましたような共同訓練的なもの、それによっての外国船ないしは自衛艦からの被害というものが考えられるということでございまして、昨年もいろいろと御批判を受けたわけでございます。それで、防衛庁と水産庁と協議をいたしまして、事前の連絡調整体制を一応相互に固めまして、それで事前に、どういう場所で、どういう規模で訓練をするか、いつの時期にやるかというようなことをある程度当方に知らしてもらいまして、私の方からは防衛庁の方に、こういうような漁業が入っておるというようなことも向こうに知らして、十分に注意するようにというような相互の連絡体制をとるようにいたしております。
  224. 沖本泰幸

    ○沖本委員 それはこれからの対策ですね。いままで漁網を切られたその損失の補てんというのは、国がやるようになっているのですか。あるいはアメリカかソ連か、議論の分かれるところですね。その結果がどうなったかということと、それから、ソ連の漁船が日本のサバの漁に来て、日本の近海で日本の漁船の漁網を切ったという事件が以前に相当起きましたね。このごろは来なくなっているように見えますけれども、そういうことに対する、漁民に対する補償はどういうふうになるのですか。
  225. 鳥居秀一

    ○鳥居説明員 お答えします。  一般的に申しますと、そういった問題につきまして国が補償するというようなシステムはございません。あくまでも民間からの相手国に対する請求という形でもって行われる民事的な問題になりますが、当然のことながら、水産庁といたしましては、漁民からのいろいろなその請求を取りまとめて、外交ルートを通じて向こうに通知をする、そうして請求をするということにしております。この間の五月の事故につきましても、そのような態度で、米国にも調査、それから請求金額を出しております。
  226. 沖本泰幸

    ○沖本委員 そうすると、まだ未解決のまま、いつ解決するともわからないわけですね、ソ連がやったとかアメリカがやったとか、議論をやっていますから、そういうことですから、結果的には、結局漁民の泣き寝入りに終わるわけですか。
  227. 鳥居秀一

    ○鳥居説明員 お答えします。  ソ連サイドにつきましての問題につきましては、向こうが全く否定をしているという実態でございまして、アメリカ側の方は、それについての被害額、どういった実態にあったかということについて調査をしているという実態にございます。しかし、防衛庁といたしましては、それだけでは困るので、国としまして特別に特別交付金を予算上計上いたしまして、約八千万円だと記憶しておりますが、その程度の予算金をつけまして、交付が済んでいるはずでございます。
  228. 沖本泰幸

    ○沖本委員 次いで、運輸省にもう一つ伺いますが、便宜置籍船はわが国でどれくらいあるのでしょうか。それから、日本の海運界の中で占めるその便宜置籍船の比率ですね。それから、世界の海運界における便宜置籍船の状況はどの程度なんでしょうか。
  229. 山本直巳

    ○山本説明員 お答え申し上げます。  まず、日本の便宜置籍船の実態でございますけれども、船腹量その他正確には把握してございませんが、その大部分が便宜置籍船と思われているいわゆる仕組み船の船腹量は、中核六社、これは日本郵船とかいわば大手六社でございますけれども、これについて見ますと、昭和五十六年六月時点でおよそ百八十隻、トン数にしまして五百万総トンでございます。  それで、日本の中で便宜置籍船がどのくらいあるかというウエートが、実はそういう意味でよくわかりませんので、明白に申し上げるにはちょっと数字的にはわからないわけでございますが、世界の中では便宜置籍船というのは大体三割ぐらいあるというふうに言われております。
  230. 沖本泰幸

    ○沖本委員 この便宜置籍船がなぜできるか、その便宜置籍船の利点というのはどこにあるのですか。
  231. 山本直巳

    ○山本説明員 便宜置籍船の存在理由ということだと思いますけれども、日本は、総合安全保障という観点から日本船を中心にして整備をしていくということを方策としております。ただし、海運界というのは、御承知のとおり非常に市況が上がったり下がったりするものでございまして、そういうものに弾力的に対処するために、やはり便宜置籍船というものが一定量必要であるというふうには認識しております。  それから、その利点でございますけれども、便宜置籍船につきましては、この利点というのは各国によっていろいろ違う点があると思いますが、私どもが通常理解しているところによりますと、日本の船に日本の乗組員を乗せるということになりますと、非常に国際競争力において十分でない場合が間々あるということで、要するに、海運業全体としての国際競争力を保つためには、やはり便宜置籍船に一定量頼るということが総合的に必要である、そういうふうに認識しております。
  232. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いわゆる国際競争にたえるということは、日本船籍船にして日本の海員組合の船員を乗せると、人件費なり何なり費用が非常に高くついて国際競争に合わなくなってくる、そういう関係、税金の関係、いろいろあって、船籍をパナマとかリベリアとかに置いたりして、それで乗組員は韓国船員であったりあるいは台湾の船員であったり、インドネシアの船員であったり、比較的労働賃金の安いところの人たちが船員として乗り組んでいる。それだけに事故件数が多い。操船の誤りなり、いろいろなことに問題がある。あるいは油濁に関しましても、結局廃油を海上投棄したりしてしばしば問題を起こしているのは、こういう便宜置籍船ではないだろうかというふうにも言われておるわけです。  そのところで、船舶の船主の責任限度制度そのものは、海運国として海運を振興させていくために船主の損害を保護しなければ海運は進展していかないという立場で、最初のこの法律考え方なり何なりというものがあったように思われるのですけれども、そういうところからくる問題と、ではその便宜置籍船がどんどんふえていって、海運国でありながら日本船籍の船が非常に少なくなってきているという現状と、この法律のできた原因との絡みというのはどういうふうにおとらえになっているのですか。
  233. 中島一郎

    中島政府委員 この船舶所有者責任制限制度というものは、これは各国ともそれぞれ古い歴史のもとに所有をしておった制度でございます。これは日本商法においても明治時代から委付制度というものが明文の規定で設けられておったわけでありまして、各国の持っておりますこういう責任制限制度がてんでんばらばらである。あるものは委付制度をとっておる、あるものは金額責任制限主義をとっておるが、その金額にしても、あるものは船価をもとにして限度額を算出しておる、あるものはトン数に一定の金額を掛けた数字をもって限度額にしておるというふうにてんでんばらばらでありましたために、これを統一する必要があるんじゃないかということになって、一九二四年にも一つ条約ができておりますけれども、これは余り多くの国が採用するところとならなかった。そこで、一九五七年に条約ができまして、その条約に基づいてわが国の五十一年のこの法律ができたというのが経過になっておりまして、今回は、その五十一年の法律、したがって一九五七年の条約金額責任主義、しかも船舶トン数を基準にした金額責任制限主義のたてまえはそのまま維持しながら、その限度額を引き上げるとかあるいはその他の所要の改善を図って、この制度を一層合理的なものにしたいというのが改正法案の趣旨でございます。
  234. 沖本泰幸

    ○沖本委員 船が沈没してしまった、加害者も沈没した、被害者も沈没したという場合、あるいは乗組員にいろんな損害が起こったという場合、いろんなことがあるけれども、結局は加害者の側を保護している法律であって、被害者の側の保護は非常に低いということがしばしば問題になるわけで、法律を読んでいると頭が痛くなるのですけれども、新聞を読んでいる方がよくわかるのですね。読んでみますけれども、   法務省は衝突や漁網の切断などの事故を起こした船の船主が、被害者である船主や漁民に支払う賠償金などの限度額を定めた「船主責任制限法」(船舶所有者等責任制限に関する法律)の改正案を再開通常国会に提出する。法律の基礎となっている国際条約が一九七六年に改正され、通常国会で批准する運びとなっているのに合わせるもので、賠償額限度額を現行法より平均三倍程度引き上げ、特に中小「船舶責任を重くする。被害額の全額補償を求める漁民団体は法律の存在そのものを批判してきたが、改正案については「現行法よりは改善されるのだから早期成立を望む」 こういう記事ですね。そして、   改正点は1支払い限度額の引き上げ2救助者(サルベージ会社など)が起こした事故に対する限度額制度の導入3算定基準を相場変動の激しい金(ゴールド)から、IMF(国際通貨基金)のSDR特別引き出し権)にかえる——などが骨子。支払い限度額は表のように、表がずっとあるわけですけれども、これまで三百総トン以下から限度額を決めていたのを五百総トン以下(五百総トン未満も五百総トンと同じ限度額を支払う)に引き上げるほか、各総トンの責任限度額を全般に引き上げる。 まあ、ずっといけばずっとあるわけですよ。これはこの方が読んでよくわかるのですよ。ところが、こっちの法律の条文なんか、読んでもだんだんさっぱりわからなくなってくるということがあるわけです。  それで、現実に従いまして、新聞ばかり拾って申し上げるわけですけれども、具体例について一遍お答えをいただきたいと思うのですね。   五十五年十一月、最高裁大法廷で「(船主責任制限法の)賠償額の制限は合憲」との判決が出ており、漁民側はまた船主責任制限法の“厚い壁”を打ち破れなかった。   五十一年九月施行の「船舶所有者等責任制限に関する法律」は、船舶会社サイドに立った法律である。三十二年、ブラッセルで採択された船主責任条約という国際条約を下敷きにしている。   この法律は、物損事故の場合、被害者に対する船主の支払い上限を一トン当たり二万三千円としている。船舶がノリ漁場に同じ程度の油被害を与えた場合、その船が一〇万トンだと補償上限が二十三億円、一〇〇トンだと二百三十万円と大きな差が出てしまう。被害を与える船が大きければほっとし、小さければ泣くという反応を誘う。これはどこの県だったかな。   県漁業環境整備基金の高柳健専務は「原因者不明の油濁事故の場合、被害の全額補償という救済制度(漁業油濁被害者救済基金)があります。なまじっか原因者がわかって、制限にひっかかって補償額が少ないという珍現象が起こります」という。   海上の人損、物損事故で故意または過失があった場合は、船主責任制限法は適用されず、船主は民法の無限責任を負うことになる。   船主に支払い能力のない場合被害漁民は最も悲劇的となる。こういうことで、東京湾浦賀水道の交通整理をするようになってから被害がだんだん少なくなってきたということで、あと残っているのは法の改正だということが記事にあるわけですけれども、この記事をお聞きになっていらっしゃって、いわゆるトン数は、十万トンだと上限が二十三億円、百トンだと二百三十万円、これはどうして算定が出たのかわかりませんが、やはりこの比率、こういうふうな内容そのものは、いわゆる五百総トン以下は五百総トンにみなした限度で見るということになり、二十万トン京でのものがランクで出ていますけれども、やはり結局はトン数が少ないと、こういうノリ漁場なんかの損害があった場合はこの結果が生まれてくるわけでしょうか。
  235. 中島一郎

    中島政府委員 確かに若干わかりにくい法律になっておるわけでありますが、これは何と申しましても、もと条約がありまして、条約そのもの各国に疑問を起こさせないような非常に厳格な表現規定になっておりますので、それを受けた法律としてどうしてもそういう面が出てくるのではなかろうかというふうに思います。  それはそれといたしまして、ただいまお読み上げになりました新聞記事というものは、かなりよく問題の核心をとらえておるというふうに考えるわけでありまして、現行法のもとにおきましては、物損のみの場合には加害船のトン数一トンについて二万三千円ということになるわけであります。ごく大ざっぱに申しまして、そういうことになるわけでありますから、百トンの場合には二百三十万円あるいは十万トンの場合には二十三億円、こういうことになるわけであります。ただ、百トンの場合には二百三十万円あるいは三百トンの場合には六百九十万円ということでは、これは物損だけにいたしましても余りにも低いではないかというような声も出てきておるわけでありまして、これは何とか限度額の引き上げをしなければならないというのが、繰り返し申し上げておりますように、今回の改正案の趣旨でございます。  三百トンあたりのところが非常に低い。しかもそういった船舶による被害というものがかなり数としては多いということで、今回は従来の三百トン未満一律取り扱いというのを改めまして、五百トン未満を一律に取り扱う。木船は別でありますが、それ以外は五百トン未満の船を一律に取り扱うということになったわけでありますが、もともとこの責任制限主義というものの基本には、加害船舶トン数なりあるいは船価なりを考慮して責任限度額定めるという考え方がありますために、小さな船による被害はどうしても限度額が小さくなる、大きな船による被害は限度額が大きくなる、こういうことになるわけであります。もっとも、小さい船による被害の場合には被害そのものが普通の場合小さい、大きな船による被害の場合は被害そのものが大きいという経験法則というようなものも働いてくるのだろうと思われますが、実態としてはそういうふうになっておるわけでございます。
  236. 沖本泰幸

    ○沖本委員 このノリの場合、水産庁の方は、このとおりですと、結局小さい船が事故を起こした場合、油被害を起こした場合は漁民の損害を十分に補償できないわけですね。そういう場合に対する対策は何かあるわけですか。
  237. 川崎君男

    ○川崎説明員 お答えいたします。  水産庁といたしましては、先ほどの新聞記事にもありますとおり、原因者不明のものにつきましては、漁場油濁損害に対する基金を設けまして、被害の額に応じまして救済あるいは防除費の支弁ということを実施しておるわけでございます。しかし、原因者が判明していることにつきましては、原因者負担の原則に基づきまして当事者間の交渉ということで原則的に解決願っておるわけでございます。その間に、必要な場合は助力をいたす、指導をいたすということはいたしておるわけでございます。
  238. 沖本泰幸

    ○沖本委員 そこで、千葉県でこの三月二十一日に起こったパナマの船アカデミースター号の歴礁は、千葉県千倉町の漁場の方では、   二十六日になっても重油と微粉炭をたれ流し続けている。このため同町沿岸の“ひじき”は二十六日の解禁を前に全滅、四月からのあわび、さざえ漁も絶望的だ。しかも来年以降、岩場が魚介類の宝魔としてよみがえる保証はどこにもない。漁民たちは連日、重油の除去作業に追われながら途方に暮れている。 それで、   パナマ船籍のアカデミースター号が沖合四百メートルに座礁したのは二十一日午前八時半。ア号には粉状の石炭(微粉炭)五万三千トンのほか、燃料用のC重油、発電用のB重油合わせて千三百キロリットルが積まれていた。君場に乗り上げた衝撃で大半の船倉、燃料タンクが損傷、二十六日に無傷の七番タンクからC重油約四百キロリットルを抜いて他船に移したものの、依然、微粉炭と重油の流出は止まっていない。これまでの流出量は計測方法がないためはっきりしないが、数百キロリットルに達しているという。 そこで、まず保安庁の方に伺いたいわけですが、   ア号は、乗組員を救助後、無人のまま巡視船「そうや」、「みうら」に監視されて漂流、二十一日朝、千倉沖に姿を見せた同船に気づいた地元漁民が三管本部に座礁の懸念を問い合わせたところ、二隻がエスコートしているので大丈夫だ、こういう遊事だった。ア号は間もなく座礁したため、県水産課長がチャーター船で「みうら」に接近して千倉沖に座礁した原因の報告を求めたが、明確な説明を避けた。その後も同県が三管本部や銚子海上保安部に問い合わせても明確な説明がないところから、文書で三管本部に強く回答を求めることになった。この日午後の県議会水産商工常任委員会でも、委員から、三管の手落ちなど触れたくない部分があったのでは、また漁民に捜査権がないのだから三世が県に経過報告するのは当然と三管本部を非難する声があった。 というわけで、この点についても明快な答えを出さないで、結局は混乱しておったからというような回答で、うやむやになっているということを聞いているわけですけれども、これに対してはっきりした内容はどういうことなのですか。
  239. 藤原康夫

    ○藤原説明員 海上保安庁は、現場に銚子海上保安部というのがございますけれども、ここに対策本部を設けまして、地元の方とは非常に密接に連絡をとり合いながらこの海難あるいは油の除去等に当たってまいったわけでございまして、うやむやにというようなことはなかったか、このように考えております。
  240. 沖本泰幸

    ○沖本委員 そうすると、この具体的な経過についてお話しいただけませんか。
  241. 藤原康夫

    ○藤原説明員 アカデミースター号の海難の経過ということでございますが、昭和五十七年三月十九日にアカデミースター号は、石炭をほぼ満載いたしましてロサンゼルスから水島港に向け航行中の同日午前三時ごろ、千葉県の野島崎南東二百十海里付近におきまして船体に亀裂が発生いたしまして、四番船倉と五番船倉に浸水いたしまして、船体が約十五度傾斜し、救助を求めてまいったものでございます。  当庁は、直ちに巡視船及び航空機を出動させまして、同日の午前十時二十七分航空機が、午後零時三十分ごろ巡視船が該船と会合いたしまして、さらに、特殊救難隊員を午後二時五十五分に該船に派遣いたしまして浸水の状況を調査したわけですが、全船倉に相当な浸水があるということが判明いたしまして、また、ちょうどこのころ低気圧が接近してまいっておりましたので、同日の午後十時十八分ごろ乗組員全員を巡視船に救助したわけでございます。  また、船主から救助依頼を受けておりました日本サルヴェージ株式会社の曳船が二十日の午前十時ごろと、それから同日の午後十時ごろ現場に到着したわけですけれども、海上強風警報が発令されておりまして相当しけておりましたので、船体の救助作業は困難であった。該船はそのまま北へ漂流を続けまして、二十一日の午前五時三十分ごろから船体沈下が進み始め、陸岸にも接近いたしまして、同日の午前八時四十一分ごろ千葉県の千倉海岸沖合いに乗り上げたということでございます。
  242. 沖本泰幸

    ○沖本委員 結局、この船を現場から早く除く、取り去るということですね。座礁して船底の損傷が激しい、損傷個所を溶接する以外に方法がないという話もありますけれども、まず積み荷をどこかへ移さなければならないわけでしょう。粉炭を陸上のクレーンでやるとわりと早く除くことができるけれども、いまの海上でしけなんかのことを考えると、人手でしか粉炭を取ることができない。そうすると、五万トンからの粉炭をどうやってほかの船に移しかえるのかということになりますけれども、その除去方法とか船体を早く取り去ることあるいは汚染を防止することですね。粉炭と重油とがだんごになって、ころころになってくっついて、いそ場が全然だめになっていきつつある。その被害範囲がどんどん広がっている。オイルフェンスを張ってみたけれども、しけでやぶけてしまったということになるので、一日も早く漁民の人たちの心配を除き漁場を確保するには、少しでも早く取り除いて原状復帰を考えなければならないということになるわけですけれども、船会社の方の対応あるいは責任官庁のこれに対する速やかな対応、こういうものはどういうふうになっているのですか。
  243. 藤原康夫

    ○藤原説明員 先ほどもちょっと申し上げましたが、現場の銚子保安部に海上保安庁では対策本部を設けまして、現地の漁民の方々あるいは地元の漁船による処理とか、あるいは日本サルヴェージも現場で毎日作業をしておりますし、海上保安庁も巡視船艇、航空機を出しまして毎日のように除去作業あるいは調査に当たっておるわけです。  粉炭の処理につきましては、先生先ほど申されましたように、海の上で気象などに影響されながら大変困難な作業でございますが、これも一日から作業を始めまして、途中荒天のために中断はいたしましたが、また四日、五日と再開して、現在積み荷あるいは汚染などに関しまして全力を挙げまして防除に努めておるというのが現状でございます。
  244. 沖本泰幸

    ○沖本委員 そうすると、見通しとして船はそのままなのか。中の積み荷を外してその破損個所を溶接して、浮かして外へ出すことができるのかどうか。  それから、船籍はパナマですけれども、船主は香港ということで、一部では船を放棄してしまうのではないかという話も出ているということなんです。漁民の皆さんは、自分の漁場がかわいいから一生懸命になって出てやっているわけですけれども、沖へ出て漁はできない、魚はとれない、おまけに油を取るために家族総出でやらなければならないということになると、上下の損害を食っているわけですね。そういうものに対する補償なり何なりというのはどういうことになっていくのか。  それから水産庁の方は、この事件をどういうふうにとらえて、今後の対策をどういうふうにやっていっているのか。また、現地の漁民の皆さんや地元の県、それぞれとの関係なり扱いはどういうふうになっているのか。結局は、いかに速やかに原状回復ができるかどうか、その辺にあるわけなんですけれども、その辺はどうなんですか。
  245. 藤原康夫

    ○藤原説明員 ただいま見通しということでございましたが、積み荷を全部瀬取りしあるいは油を全部抜き取った後、どうして船体を処理するかということですが、浮かせて修理をしてということには、現状ではちょっとまいらないのじゃなかろうか。御承知のとおり、土曜日の晩でございましたか、船体が真っ二つに割れまして、船尾と船首部分、船首といいますか二つに割れました前方ですけれども、これはほぼ沈んでおるような形で、一部はもちろん海面に出ておりますが、そういう状態でございますので、浮かすことはちょっとむずかしいのではなかろうかというふうに考えております。  船主が船体を放棄してしまうのではないかという不安があるということはわれわれもよく承知しておりますので、そういうことが起こらないように、現在船主側を鋭意指導しておるというのが現状でございます。
  246. 沖本泰幸

    ○沖本委員 船主を指導しているとおっしゃるけれども、船主は放棄しないというふうに答えているのですか、どっちとも答えていないのですか、どちらなんですか。あくまで最後まで責任持ちますというふうに、ちゃんとしたことをやっていらっしゃるのかどうか。  それから、船の損失について、船の先の方は二つに折れて沈んだということですけれども、それじゃ、サルベージ会社なり何なりが責任を持ってやるとして、速やかにとおっしゃるけれども、見通しとしてあと一カ月なら一カ月で除けるのか、あるいはそれ以上もかかるのか。大きい船ですから船倉が皆区切られているから、破損した個所の船倉はそのままにしておいても、ほかの船倉の中にある積み荷を除いていけば自然に浮力が出てくるということになるでしょう。浮力がついてもだめなところに座礁しているのか。そうであれば、積み荷を取った後でそのまま切って取る以外にない、それにはもっと時間がかかっていくというふうなことを専門家が判断し、見て、どういう回答を出しているのか、その回答に対してどういうように応じていらっしゃるのか。だから、香港の船主はどういうふうに答えを出しているのか、その辺あいまいもこなんですが、どうなんですか。
  247. 藤原康夫

    ○藤原説明員 現在の状況といたしましては、六つホールドがあるうちの六番目のホールドのところで真っ二つになりましたので、六番ホールドにつきましては恐らく全部流れ出たのではなかろうか。なお、一番、二番はハッチがあいておりますが、三番、四番、五番につきましてはハッチのふたがなかなかあかないというようなこともございまして、どの程度粉炭が残っておるのかという確認が非常にむずかしい状態でございます。  それから、現在日本サルヴェージという会社が瀬取りについて全面的に作業をいたしておるわけで、これにつきましてわれわれも早くやるようにということでずいぶん言っておるわけですけれども、先ほども申しましたが、陸上でする作業と違いまして気象、海象にもいろいろ影響されるものですから、かなり作業はむずかしい、長引くというようなことを聞いております。  それから、船体の放棄に関して船主側はどういうふうに考えておるかというふうな御質問でございましたが、現在われわれが承っておる限りにおきましては、船主側は船体の撤去について努力するというふうに伺っております。
  248. 沖本泰幸

    ○沖本委員 もう一つしっくりしないのですけれども、現地なり漁民に対してもっと的確な答えをしてあげなければ、不安はつのるばかりだと思うのですね。その辺、もう少し具体的な調査なりはっきりしたことをいまできるはずなんですから、幾らしけが毎日続いても、どの程度の日にちがあれば除けるということも、見通しはある程度ついてくると思うのですね。そういう点ははっきり答えられるように、厳重に調査しておいていただきたいと思いますね。  それから水産庁の方は、被害額はどれくらいになるのでしょうか。漁場はもう絶対に復活できないような状態になっておるのでしょうか。どういうふうな漁場になっているのか、その辺だめなのか、まだ復活できるのか。それから、漁民の補償をどうしてあげるのか、そういう点は答えをおつくりになっていらっしゃるのですか。
  249. 川崎君男

    ○川崎説明員 水産庁といたしましては、事故が発生しましたら直ちに係官を現地に派遣しまして、現状の把握あるいは漁業被害の状況というようなものを把握させておるわけでございます。  事故は、実は区切りが二つございまして、最初重油が流出しまして沿岸に漂着した。ところが、本月三日、船体が二つに割れまして、中の積み荷の微粉炭が付近に流出しているという状況があるわけでございます。  水産庁といたしましては、基本的には事故ができるだけ拡大しないようにという立場と、また補償等がスムーズに行われるようにという立場から対処しておるわけでございます。  前者の立場からは、微粉炭、これは船内にあるものも流出したものも早く撤去をしてもらうようにということで海上保安庁に要請し、また船体の早期撤去も要請しているわけでございます。  後の補償でございますが、実はいま漁業被害といたしましては、この沿岸にはいその資源、アワビ、サザエ、イセエビあるいはヒジキ、テングサといったいその資源が豊富なところでございまして、漁民がこれに生活を依存しているという実情があるわけでございます。それに油が付着した、あるいは微粉炭が付着した、あるいは貝類が食べ込んだというような被害が発生しておる状況でございます。しかし、被害の数量、金額につきましては、一つは、まだ油の流出がとまっていない、あるいは微粉炭の流出も起こっているという状況もございますので、数量的にはまだ把握できておりませんが、漁業補償につきましてはすでに交渉が始まっていることでもございますので、水産庁としてはこれをよく見守っているという現状でございます。
  250. 沖本泰幸

    ○沖本委員 この事故で漁業資源なり漁場が痛めつけられて、何年ぐらいだめになるか予想もつかないような状況になるわけですし、広がる予想もあるわけですから、それを最小限度に食いとめて損害を最少額に抑えてあげるという努力が必要だと思うのです。だから、保安庁の方もその辺は今後早急に対策を立てて、被害を最小限に食いとめる方策を講じていただきたいと思うのですね。  それから、これは船籍はパナマでしょう、そして船主が香港ということになりますと、現行法でこれを算定しますとどれくらい損害補償が行われることになるのでしょうか。
  251. 中島一郎

    中島政府委員 漁業関係の被害ということでございますので、損害額がどのぐらいになるかわかりませんけれども、損害額が限度額を上回った場合には、船主が責任制限の申し立てをするということが考えられるわけであります。その限度額でありますが、アカデミースター号のトン数がよくわかりませんので、はっきりしたことは申し上げられないわけでありますが、仮にこれが二万トンということになりますと……(沖本委員「三万三千四百トン」と呼ぶ)三万三千四百トンということでございますが、ただ、この法律に言ういわゆるトン数が何トンであるかということがわからないわけでありまして、仮に三方トンということになりますと、トン当たり二万三千円ということですから、六億九千万になろうかと思われるわけでございます。
  252. 沖本泰幸

    ○沖本委員 水産庁では、とりあえずの被害額というのはまだわかっておりませんね。それから、県の方は被害をどれぐらい見積もって言ってきているのですか。それもわかりませんか。
  253. 川崎君男

    ○川崎説明員 先ほどもお答えしましたように、被害数量、金額というのはまだわかっておりません。補償交渉で先方が提示された額は、私どもも仄聞するところでございますが、六十万ドルという提示があったけれども、新たに粉炭等が出たので、これは振り出しに戻っていると聞いております。
  254. 沖本泰幸

    ○沖本委員 大分時間をオーバーしてしまったのですが、とにかく概算の被害額とかある程度の算定をしてあげて、漁民の人たちが何かの基本をたどりながら対策が講じられるような道を少しずつ明るくしてあげることも心配を除く一つの道になるわけですから、その辺、もう少し親切に皆さんが応じてやってもらいたいのです。  以上で質問を終わります。
  255. 中川秀直

    中川(秀)委員長代理 林百郎君。
  256. 林百郎

    ○林(百)委員 本法については、これを制定するときに反対したのは共産党だけで、その反対理由はすでに同僚議員の質問にも出ておりますが、一つは、船舶所有者等が負うべき責任限度額はきわめて低く抑えられ、被害者の実際の損害をてん補できないことがしばしば起こり得る、そして被害者の損害は、本法に基づく限度額以上のものについては賠償を求める道を事実上断たれる結果になるではないかというのが第一の理由で、第二は、この法律によって保険会社が支払う保険金が、事実上責任限度額に限定されるのではないか、この二つの理由で当時わが党は反対したのですけれども、その後の事態を見ますと、わが党の持ったこの危惧が、必ずしも現実離れの危惧ではなくて、実際だということがだんだんわかってきたわけです。  そこで、海上保安庁にお尋ねしたいのですが、最初に、本法が施行された後の各年ごとの海難件数はどのくらいになっていますか。     〔中川(秀)委員長代理退席、太田委員長代理着席
  257. 鈴木正明

    ○鈴木説明員 海上保安庁警備救難部の航行安全課長でございます。  私どもで持っております海難の件数と申しますのは、海上保安庁が取り扱いました中で救助が必要な海難、要救助海難と申しておりますが、この件数でございます。この法律の施行が五十一年でございますので、五十二年から五十六年までの数字を申し上げますと、五十二年が二千三百六十九件でございます。それから五十三年、二千三百五十七件、五十四年、二千百四十五件、五十五年が二千三百八十六件、それから五十六年、昨年でございますが、これが二千六十七件、件と申し上げましたが、実は隻数でございます。  以上でございます。
  258. 林百郎

    ○林(百)委員 そこで、大蔵省に質問します。  本法施行後各年ごとにPIが扱った事件数とその支払った金額ですね、これは制限手続をとったとらないにかかわらず、幾らになっていますか。
  259. 松田篤之

    ○松田説明員 本法の施行が五十一年の九月でございますので五十二年度から申し上げますと、五十二年度が千五百七十九件、支払い金額が四十億二千五百万、五十三年度が千七百十件、六十七億八百万、五十四年度が千七百十六件、五十億六千二百万、五十五年度が千九百一件、五十二億七千五百万でございます。  なお、この支払い保険金額には、先生御指摘のような海難事故によるものだけではなくて、たとえば船員が傷病を起こしまして下船をするために要した費用であるとか、あるいは貨物の仕向け地を誤ったためにその回送をするための費用とか、PIとしての船主の責任にかかわるものが含まれております。なお、海難によるものがこのうち幾らかは、統計がございませんので私どもちょっとわかりませんが、それをすべて合わせましてPIが支払った額を申し上げました。
  260. 林百郎

    ○林(百)委員 大蔵省、ちょっとついでにお尋ねしますが、PIが扱った件数のうちで、制限手続のいかんにかかわらず、実損害額がいわゆる責任制限額を上回っていた事例がありますか。あったらその件数と金額を明らかにしてもらいたいのです。
  261. 松田篤之

    ○松田説明員 実損の額をどうやって出すのかと  いう問題がございますけれども、私どもで承知しておりますところで、同じように五十二年度から申し上げますと、五十二年度十九件、五十三年度二十件、五十四年度二十六件、五十五年度三十九件が、およそ実損額の方が責任の限度額を上回った件数であろうと思います。  金額につきましては、実損額の方が必ずしもはっきりいたしません面もございますので、実損額が上回ったと思われる件数のみ申し上げました。
  262. 林百郎

    ○林(百)委員 責任制限額を上回っていた件数ですね。それでPIが支払いをしたという件数ですね。  以上の数字で明らかにしたいのは、海難事故には自損とか相手がある場合などいろいろの形態があるわけですが、それぞれの事故について船主等が実際どのようにして損害を償っているかを明らかにしたいためであります。  そこで、運輸省と大蔵省に聞きますが、海難事故のうちPIが扱った事故以外の事故について、船主等はどのようにして自分のあるいは相手方に与えた損害を償っているのか。幾つかの形態があると思いますが、どうなっているのか。いまは非常に少ない件数がPIから責任制限額以上に支払われたと言いますが、実際PIが扱った事故以外の事故について、船主が自損だとか相手方がある場合などの損害についてどういう形の支払いが行われているかわかりますか。あるいはどういう制度があるかでもいいです。
  263. 松田篤之

    ○松田説明員 先ほど私が申し上げた件数をまず訂正させていただきますが、先ほどの件数は、支払った額ではなくて、先ほど申し上げた件数が責任限度を超すと思われる件数でございます。そのうち、船主が保険によらずに自分の責任で支払った場合もございましょうし、あるいは支払わなかった場合もあろうかと思います。  それから、いまおっしゃいました責任限度額を超した場合に支払うというのは、本人の支払い余力、保険によらずに支払うということはもちろん可能でございますが、そういった本人の自力により支払う場合もございましょうし、もう一つございますのは、いわゆる損害保険の分野で、船と船とがぶつかった場合には、船舶保険におきまして、船主の相手方に与えます物損、船並びに貨物等に対する損害は払うことがございます。
  264. 林百郎

    ○林(百)委員 ですから、船主が一体どういう保険制度を持っているのか。保険制度はどういうものがあるのか。PIも一つ制度ですけれども、そのほかにいろいろな保険制度があるでしょう。大蔵省からそれを聞きたいと思います。
  265. 松田篤之

    ○松田説明員 たとえばでございますけれども、船客傷害賠償責任保険と申しまして、船に人を乗せて、フェリーボートのようなものが自分の乗っている旅客に対しまして損害を与えた場合に、ぶつけられた場合も含めてでございますけれども、船主としての責任を果たすために船客傷害賠償責任保険というものもございます。  それから、自分の乗組員に対しまして払う保険としては、もちろんPIも働くわけでございますけれども、いわゆる労働災害補償保険の上乗せ額、政府の船員保険に上乗せするものとして労働災害総合保険といったものもPI保険と並んで存在はするわけでございます。  それからさらに、船主として船舶不稼働の場合、動かない場合に、船舶保険だけではなくて、不稼働に対する利益保険といったものもございまして、いわゆる船舶不稼働損失保険といったものもございます。  このようにいろいろな保険がございまして、船主の損失をカバーしているわけでございます。
  266. 林百郎

    ○林(百)委員 ですから、結局船主は、どういう事故が起きても、こういういろいろの保険制度がありますから、これによって相手方に与えた損害を賠償できる、そういう制度になっていませんか。どうしても今度のPIのようなものだけで補わなければいけないのか。PIに仮に加盟してなくても、こういう保険に入っておれば、それで大体の損害が補償できる、そういうことになりませんか。
  267. 松田篤之

    ○松田説明員 若干議論を先取りしてしまうような形で申しわけございませんが、仰せのとおり、船主の危険というものはいろいろな形の保険でカバーしております。したがいまして、このような限度額といったものによって責任限度が抑えられているという状況がなかった場合にどうなるかということでございますが、その場合には当然いままでよりも支払いの額が大きくなる保険を掛けるわけでございますから、保険料率というものがいままでよりはかなりの程度上がらざるを得ないだろう。これはめぐりめぐって船主の負担であり、船主の負担であれば当然荷主なり船を運ぶ料金といったものにもはね返るわけでございまして、そういう意味で、船を運ぶコストというものに結局は結びつくということになろうかと思います。したがいまして、先生のいま御指摘の、すべてカバーされているという状況でございますが、限度があるという前提でいまの保険制度の料率その他が設計されているわけでございますから、すべての保険をカバーするように、限度を取っ払って、無制限といった形での保険をつくるといたしますと、いわゆる保険料負担というものがかなり高くなるということになろうかと思います。
  268. 林百郎

    ○林(百)委員 ちょっとあなた、私の質問を大分オーバーに、無制限に払えなんて私、言いやしませんよ。それはおのずから損害については社会的な基準があるわけなんです。だから、たとえば私の方でちょっと挙げたのでも、それからこれは調査室からの資料にもありますが、船体保険だとか貨物保険だとか、あなたの言った船舶不稼働損失保険だとか希望利益の保険だとか回航費の保険だとか、いろいろありますね。だから、こういうものに入れば、結局コストが高くなって、今度は積み主ですか、そういう人のコストにかかるとは言うけれども、しかし、事故が起きた場合損害を賠償してもらえるならば、若干そういうものが積み主やそのほかに転稼されたとしても、それはやはり損害を十分賠償してもらった方がいいことになりませんか。  たとえば旧法ですと、関釜連絡船で一人亡くなった人が百八十万ですか、というような例もございますから、これは余りにもひどい例です。だから、しかしそれをみんな払っていけば運賃が高くなるから、死んでも百八十万でがまんしろ。これは、今度金額改正になりますがね。そういうことになるので、結局、おおむね保険制度を活用していけば損害が補てんできるような保険制度は一応制度的にできていると言っていいんじゃないでしょうか。
  269. 松田篤之

    ○松田説明員 仰せのとおり、保険制度というのは長い歴史を持ちまして、いわゆる再保険のネットワークができておるわけでございますから、仕組みとしてはかなりのものが完備していると思います。ただ、先生がいまおっしゃいましたような、個別の被害者救済の個々のケースをどう救済するかという問題と、制度の問題とは直接結びつけるのはいかがか。個別の問題をどういうふうな形で救済するかという問題は当然あると思うのでございますけれども、仕組みといたしまして、先ほど私が申し上げましたように、全体の保険制度保険数理に基づいた料率というものをはじいているわけでございます。  保険というのは、いわば非常に巨大な損害が一時に発生した場合に支払えなくなってしまう、支払い能力に欠けてしまう個人の船主を救済するために、船主が全世界寄りましてお互いに危険分担をし合うという仕組みでございますので、そういう仕組みが完備していることは、そういった支払い可能額の限度を広げるという意味におきまして非常に理想的なことでございますけれども、だからといって、保険料がかなり上がって船を運航する費用が非常に高くなるという状況になってしまうことも好ましくないわけでございますから、それと個々の救済をどう充実するかという問題の調和ということ、この問題に課せられたなるべく調和していくべきだという意味制度を直していくべきだということは、仰せのとおりだろうと思います。
  270. 林百郎

    ○林(百)委員 それじゃ、私の言った保険へ入った保険料の支払いとPIへ入った保険料がそんなに大きな違いがあるかどうか、あなた、数字で示されますか。こんな大きな違いがあるんだ、だから船主としてはPIへ入る、あるいは金額制限規定を受けるんだという、何かそういう数字的な根拠を示すことができますか。先生の言うとおりになるとこんな保険料になってしまう、だから本法によって船主の責任制限を受けざるを得ないんだという何か例を示されますか。PIへ入っている保険料と先生の言うような保険へ入っている保険料とこんな違いが出てしまう、だからPIへ入って船主の責任制限を受けざるを得ないのです、そうでないと船舶所有者は経済的に破綻してしまいますよと、何か数字的に示してもらえるならわかるけれども、先生のおっしゃるように無限に払っていたらたまりませんなんて、ただそんなことを言ったって私にはわかりません。大蔵省というのは数字を扱うところですから、具体的に示してみてください。
  271. 松田篤之

    ○松田説明員 直接的にお答えすることにはならないかと思いますけれども、PIが保険料収入として得ております金額は、先ほどの五十五年の例でございますと、生の数字で保険料収入として得ている額は百十二億円ほどでございます。ところが、保険料収入のうち、いわゆる正味保険料と申しておりますけれども、PI自体が自分の責任の額として留保している額は四十五億でございまして、残りの六十五億余りというものは再保険という形で海外に出しているわけでございます。それはどういうことかと申しますと、PIの加入者におきまして非常に巨額の損害を出した場合には、PIだけの責任準備金では十分支払いができないということで、海外に再保に出してより巨大な損害をカバーすることになっているわけでございます。  したがいまして、こういった額に見合う巨大な損害というのは、料率としてそこまで単に日本のPIでカバーしようとすればよほど巨額の保険料を取らなければできないところを、こういう保険の仕組みによって比較的巨大な金額にたえるような制度をつくっているということでございますので、たとえば全世界的にこういった保険料が上がれば、PI自体の負担が上がるだけではなくて、当然外国の船が外国で起こした事故にも保険料を支払うという形になって、全世界的にすべての事故にカバーをするという形にならなければ仕組みが全体で機能しないわけでございますから、個々のケースに結びつけてその負担を多少ふやしたって数字的に大丈夫じゃないかというのは当たらない。ただ、先生の御指摘のように、具体的におまえ、それじゃ、ある事件の場合に何億円か追加払いをしたら大した金額じゃないとおっしゃると思いますが、それはその限りでそのとおりだと思います。しかし、私ども数字をもって全世界でどれだけ料率がどうということはございませんけれども、やはり仕組みとして限度があるという状況がコストを低めているということは確かだろうと思います。
  272. 林百郎

    ○林(百)委員 コストを低めているということは、結局船会社がそれだけ利益を受けているということでしょう。一方、こういう制度があるために船主の責任制限されて、それはPIと結びついてきますけれども、そのために被害を受けた実損が埋められない。制限法があるわけですからね。それとの公平さというものを考えていかなければならぬじゃないか。共産党が反対しているのはそこなんですね。実損が埋められないんじゃないか。それはあなたが一生懸命陳弁しているように、船主はこれで助かるところがあるかもしれない。そのかわり、関釜連絡船で一人死んでも百八十万しか金が来ないということになりますわね。今度だって、一人亡くなって千二、三百万という数字も後から出てきますけれども、そういうことでしょう。  だから、あなたがもしそれを私に説明するならば、いろいろの、たとえば貨物保険だとか船体保険だとかあるいはそのほかの保険に入っていると、先生こんな額になります。だから、やはり船主としてはPIへ入って、PIの保険料のこれで、しかもこの制限を受けてPIから払ってもらうということになりますと、そういう数字を示すならまだわかりますよ。その数字を示さなくて、ただ船主の責任制限がある、それでPIがそれをカバーする、しかもそのPIはイギリス保険会社と再保険しているんです。そういう制度はわかりますよ。わかるけれども、それで損害を受けた人の補償というものが満たされるかどうか。そちらの方もまた社会的な公平からいって考えなければいけませんからね。  そこのところを数字的に説明ができるならしてもらいたいし、できないならできないでしょうがないから、それは船主を保護するためにはこういう制度をやるよりほかに道がありません、それは実損についてはある程度制限をされますがと、そう言ってくれるなら言ってくれていいですよ。私が納得するような説明をするなら、数字をちゃんと挙げて、ある船がある貨物を輸送する、そういう場合に、これとこれとこれとこれとこういう保険に万一に備えて入ればこれだけの保険料がかかります。ところが、PIの方へ払っておけばこれだけの保険料でいいし、しかも船主の責任制限もありますからという数字を示すなら示してもらいたい。用意してなければないでいいですよ。  用意してなければないでいいですから、そのかわり、本法が適用できるのに、制限手続をとらないで限度額を超えて保険金が支払われた例はあるんですか、ないんでしょうか。要するに制限手続をとらないで、今度はPIが自分で責任制限をとることにはなりましたけれども、責任制限をとらなくて、そして限度額を超してPIの方が払ったという実例はあるんですか、ないんでしょうか。
  273. 松田篤之

    ○松田説明員 船会社とPIとの間におきまして契約されておりますいわゆる定款におきましてその契約内容を決めておりますけれども、その中には制限額以内で責任を負担をするということになっておりますので、そういう制限手続をとらないで支払われた例はございません。ただ、制限手続というのが裁判による確定を待たずに、裁判上の和解であるとかそういったような合理的と思われる手続によりまして、実際の制限額を超えて支払われた例はございます。
  274. 林百郎

    ○林(百)委員 それはそうでしょう。PIの方も、裁判上の和解でこういうふうになったとかあるいは示談でこうなったと言えば、国家権力から一つの権威を与えられますから支払われるとは思いますけれども、あなたの言うように、この制限手続をとらなくて限度額以上の支払いをPIがあるいはその他の保険が支払った、まあその他の保険は本法に直接関係ないから、PIが払ったというのはない、そういうように聞いておいていいですね。ただし、裁判上の和解だとか示談だとか、示談というか裁判上の和解とかそういう裁判所が関与しているものについては事例はあります、こう聞いておけばいいですね。  そこで、結局限度額を上図って保険金がPIから支払われたケースというのは、船主に故意または過失があって法律の適用がないために制限手続をとらなかった場合には、これはあり得るわけですね。
  275. 松田篤之

    ○松田説明員 故意の場合には免責ということになっておりますので、支払われません。ただ、過失の場合には、そういう限度を超えて支払われる例は、もちろん定款の内容上ございます。  それから、ちょっと補足して説明をきせていただきますと、先ほど来私の申し上げている議論というのは、やはり保険制度そのものが現行の法律の前提の枠内で機能をして料率を計算しておりますので、先生御指摘のような趣旨から、法律改正をしてそういう限度をなくしてしまえという制度ができ上がった場合には、保険制度として当然その料率計算をそういうふうに変えてやることはもちろんでございます。  それからもう一つ、先ほどPIという問題につきましてちょっと補足をし忘れたのですが、PIというのはあくまでも船主間の相互救済組織でございますので、具体的に先ほどのような超過損害が起きた場合には、当然のことながら追加して負担額を徴収するとかあるいは支払い額を削減するとかいう形で、船主の間での利益の調整を図るわけでございます。当然、再保険に出した場合におきます一定の限度超のものは再保険でやりますけれども、限度内のものにつきまして事故が非常に多く発生いたしますれば、PIとしてもバランスがとれなくなることがあるわけでございますから、そういったような場合にはPIの中の船主間で負担をする。いわば損害保険会社と違って船主の間での相互助け合いでございますので、損害保険会社がこの制度によって大いに利益を得ているんだということじゃございません。
  276. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、現行法を基準にして言いますと、故意、過失制限手続がとられない場合に、被害者に対して実損額をPIが補てんしたという例はあるのですか。
  277. 松田篤之

    ○松田説明員 制度の仕組みとしてはそういう過失の場合に支払われる例があることになっておりますけれども、具体的にそういうケースがあるかどうか、私ちょっと承知しておりませんので、また調べて御報告をいたします。
  278. 林百郎

    ○林(百)委員 それじゃ、故意の場合も含めまして——今度は過失がなくなって故意だけですから、制限の適用がないというのは。それも含めて過去にそういうものがあったかどうか、実損額がPIから十分払われていたことがあるかどうか、調べて私に資料をくださいませんか。
  279. 松田篤之

    ○松田説明員 承知をいたしました。故意の場合には免責でございますので多分支払われてないと思いますが、調べて御報告いたします。
  280. 林百郎

    ○林(百)委員 船主とPIとの約款もあなたの方で出してもらいたいと言ったけれども、私の方へ出さないのです、どういうわけだか知りませんけれども。それと、イギリスの再保険会社とPIとの再保険のこの約款も出してくれと言うのに、出さないのですよ。それは何か出されない理由があるのですか。
  281. 松田篤之

    ○松田説明員 両方の約款とも、いずれも個人的な私的な契約の内容にわたるものでございますから、私どもは、私的な契約の内容の当事者が了承する必要があると思っております。  PIの方の約款、これは定款という形で定めておりますけれども、その内容につきましては、いまPIの了承を得て手続をとって御提出を申し上げたいと思っております。  ただ、海外の会社との約款の内容につきましては、個別の契約の内容でございますので、差し控えさせていただきたいと思います。御質問の内容で調査する必要がある部分につきましては、できる限りお答えをしたいと思っております。
  282. 林百郎

    ○林(百)委員 PIというのも、日本一つしかないものですね、お互いに船会社が相互保険をしていますから。その定款が、何も私、金額を、ある船主がPIであなたの言う定款に基づいてこういう契約をしたということを知らせろというのじゃなくて、ティピカルなものがあると思うのですよ。それを示してくれと言うのです。それから、イギリス保険会社との再保険も、この日本にただ一つあるPIとイギリス世界的な保険会社との約款ですから、何も個人的に日本のPIがいつ幾日どういう契約をしたというのじゃなくて、イギリスの再保険会社がどんな権限をPIに対して持っているかということを知りたいから出してもらいたいというのが、どうして個人的な問題になるのですか。これは国際的な関係でしょう。日本のPIに対して、再保険をしているイギリスの再保険会社がどういう権限を持っているかということをわれわれ日本の国会議員が知って、それが何かプライバシーに関係してきますか。出せたら出してくれませんか。
  283. 松田篤之

    ○松田説明員 やはり個人的な契約の内容にわたると思いますので、本人の了承がないと営業の自由といった面で問題があろうかと思っております。  なお、PIの場合の約款でございますけれども、これは制限的に、PIの組合員になるためには出資金をいたしまして、なおかつPIの組合の了承を得なければ入れない。四千ほどございますけれども、そのぐらいの船主の相互間の団体でございまして、一般の保険と違いまして、保険の場合には一般の契約者というものがございまして、その契約者が保険会社といわば不特定多数の者が取引をするという関係でございますが、やはり公の席上に出すに当たってはPIの了承が要るとわれわれは考えております。  なお、相手方のある話でございますので、外国との取引の内容につきましては提出を差し控えさせていただきたいと思っております。
  284. 林百郎

    ○林(百)委員 法務大臣、どうも私、納得できないのです。船主が相互に、事故が起きた場合の賠償をできるだけ合理的に賠償責任を少なくしようということでPIという相互保険みたいなものができているわけなんですから、何も個人的にだれがいつどういう船についてどういう契約をしたということではなくて、そこには定款というものがあるだろうから、ティピカルな定款を国会に出してくれないか、それが、個人的なものに関係するから出せない。それから、イギリス保険会社と日本のPIとは一体どういう再保険契約をするのですか、それも何も具体的にいつだれがどういう金額でどうしたということでなくて、ティピカルなものを国会へ出してもらえないかというのを、これも出せないと言っておるのです。  法務大臣、これはどう思いますか。いいじゃないですか、それを出したって。何も個人的な名前が書いてあるわけではない、金額も書いてあるわけではない。ただ、どういう取り決めがあるのか、あるいは再保険会社が日本のPIに何かプレッシャーするような条項があるのかどうかということもこっちも知りたいから出してくれないかと言うのですが、意見は別にありませんか。
  285. 松田篤之

    ○松田説明員 PIの約款につきましては、先ほど申し上げましたように定款という形でつくっておりまして、これはいま現在手続中でございまして、PIの了承も得ておりますので、近日中にお出しできると思います。     〔太田委員長代理退席中川(秀)委員長代理着席〕  それから、もう一つの約款でございますけれども、先生御指摘のようにティピカルな、典型的なモデル例といったものがございますればお出しをしたいと思いますけれども、現在は個別の会社での個別の契約という私的な取引で処理をしておるというふうに聞いておりますので、先生が御指摘のような典型的な例、パターンがあるのかないのか、調べましてまた御報告をいたします。
  286. 林百郎

    ○林(百)委員 PIが出している「プロテクション インデミニティ」ですか、こんな詳しいものまで出しているわけですよ。それから、これは日本船主責任相互保険組合が、PIがどういうものか、こういう宣伝までしていて、それじゃ、加盟するには具体的にどういう手続をとるのですかということぐらい国会へ出せないことはないと思いますので、これはあなたも出すと言っていますから、これ以上はいいです。  イギリスの方も同じ宣伝をしていると思うのですよ。入るなら、イギリスのこういう保険会社が再保険をやっておりますから、どうぞそこへお入りなさいとやっていると思うのですよ。その辺を調べて出せるものがあったら出していただきたい、こういうふうに思います。  この問題はこれでもういいです。なるべく国会議員の審議権にひとつ協力していただいて、審議に手抜かりのないようにわれわれはしたいと思いますから、そういう意味で言っているわけで、何も私が船主じゃありませんから、どうぞ御心配なく。  そこで、海上保安庁に聞きますが、昭和五十三年六月二十一日に起こった漁船の第十三有漁丸というのと台湾船の建昌号の衝突事故があったわけですが、これは判例も出ておるのです。それと昭和五十三年十二月二十三日に起きた漁船の第七金宝丸と日新汽船所有のしんえい丸との衝突事故があったわけなんですけれども、これはどういうことになっておりますのか、ちょっとそこの説明をしていただきたいと思うわけです。賠償関係がどうなっているかも説明をしていただきたいと思うのです。
  287. 鈴木正明

    ○鈴木説明員 まず、前の方の五十三年六月二十一日朝の午前六時過ぎでございますが、起こりました衝突事故でございます。起こりました場所が三陸の沖合いでございまして、岩手県の南部の方でございます。台湾船の方は建昌と申しますが、四千九百九十五トン、乗組員三十三名で、小樽から台湾に向け航行中でございました。それから漁船の方でございますが、九十九トン、十六名の乗組員でございました。焼津から八戸に向けて航行しておりました。当時、濃霧注意報が出るぐらい霧がかかっておりまして、視程が二百メートルぐらいという状況で、その状況下で衝突いたしました。その結果漁船が転覆いたしまして、十六名の乗組員のうち二名は建昌に救助されましたが、残りの十四名が死亡または行方不明になった、こういう事故でございます。  それから、もう一件のしんえい丸と第七金宝丸の衝突事故でございますが、発生しましたのが五十三年十二月二十三日朝の五時前でございます。しんえい丸の方は大きさが九百九十九トン、十一名の乗組員でございましたが、和歌山の下津でA重油二千キロリットルを積みまして新潟へ向けて航行しておりました。第七金宝丸、十四トンで八名の乗組員でございますが、これが新潟を出港しまして、佐渡の沖だったと思いますが、漁場へ向けて航行中でございました。そういう状況下で、天候は曇りでございましたので、そちらの要因ではないかと思いますが、航法に誤りがあったというふうに聞いておりますが、衝突いたしまして第七金宝丸が沈没いたしました。乗組員八名は、一名は後で遺体が上がりましたが、残りの七名は行方不明という事故でございます。  これの後の処理でございますが、一応海難審判にかかりました結果はわかっておりますが、その概要を、実は私の方の所管ではございませんが、審判結果から申しますと、前の方の事故につきましては、両船とも先ほど申し上げましたように非常に霧の中でございましたので、当然速力を落として霧中信号を出して航行すべきであったが、相手船を見つけた後も全速力のままであったことが原因である、こういうことになっております。  それからもう一つは、新潟県の方の事故でございますが、これにつきましては、要するにしんえい丸の方の船内規律がきちんとしていなかった。それからもう一つは、航法にしんえい丸に主因があるような、第七金宝丸の方もちょっと問題がございますが、両船ともに航法上の問題があった、こういう審判結果が出ております。  損害賠償の方は、私の方ではちょっとつかまえておりませんので、失礼いたします。
  288. 林百郎

    ○林(百)委員 そこで、法務省にお聞きしますが、いまの二つの事件、一つは最高裁の判例にもなっておりますし、一つは地裁の判例もございます。二つの事件の加害者側が本法の制限手続を申請したと思うのですよ。そこで決定した額が低いので、それでこういう法律があるために実損害が埋められなかったということで、国を相手にその実損害制限金額との差を国に要求して、これはこういう制度があるのだから国が支払う必要はないのだ、そういう判例になっておるようですけれども、この制限手続によって計算された制限額と実際遺族たちが要求した金額は、どういう差があったのですか。
  289. 中島一郎

    中島政府委員 有漁丸の事件、金宝丸の事件、これはいずれも東京地方裁判所の判決でございまして、両方の遺族が併合して一件として起こしてきたというケースのようでございます。  有漁丸の方は、原告らの主張によりますと、実損額は五億九千九百三十五万円ほどでございます。それを示談をいたしまして、その金額は二億九千六百十六万ということになっております。これが大体責任制限限度額というものを目安に置いて示談をしたということのようでございます。残りが約三億円ばかりになろうかと思いますけれども、後に起こってまいりました訴訟での主張によりますと、そのうちの約二億円は自分が掛けておった保険において支払ってもらった、残りの九千六百五十六万円ばかりを損失補償として国に請求してきたという事実関係のようでございます。  それから、金宝丸の方でございますが、これは原告らの主張によりますと、実損害額は三億七千八十四万前後であった、こういうわけであります。これも責任制限限度額を基準にして和解をした。その金額が六千三百九十三万であります。その差額の一部、約三億ぐらいを損失補償として請求をしてきたという実態関係のようでございます。
  290. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、結局遺族関係が要求している請求額と船主制限法による制限金額との間には相当な隔たりがあった。あと埋めるのは、あなたの言うように他の保険で埋めたということもあるけれども、相当の隔たりがあった、こういうことは事実としてあったわけですね。
  291. 中島一郎

    中島政府委員 原告の請求額、原告の主張と解決した金額との間には隔たりがあったということでございます。
  292. 林百郎

    ○林(百)委員 そこで、大蔵省に聞きますが、この台湾船の建昌号とそれから油送船のしんえい丸、これはいずれもPI保険に加入していたはずですが、保険金を幾らで加入しておりましたか。
  293. 松田篤之

    ○松田説明員 お尋ねの台湾船の建昌の方は、私ども日本のPIには少なくとも入っておりません。加入しておりません。どういった保険に入っていたかは、私ども調べましたが、よくわかりません。  それから、二つ目のしんえい丸でございますけれども、これはいわゆる日本のPIの契約に入っておりまして、五百億円を限度とするPI保険に入っていたと承知しております。
  294. 林百郎

    ○林(百)委員 五百億円で、実際の責任制限による限度額はさっき言った六千三百九十万円になるんですか。そう聞いておいていいんですか。
  295. 松田篤之

    ○松田説明員 しんえい丸の件につきましては、先ほどの法務省の方のお答えとは多少違うんですが、私どもが聞いておりますのは、先ほどの責任制限額六千三百九十三万円ということを基準に話し合いはされましたけれども、その後裁判所の方から、解決に時間がかかるというようなことから和解の勧告がございまして、これに二千四百万円上積みをして、八千七百九十万余りの金額で賠償するというような決着になったと聞いております。
  296. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、五百億のPIへの保険に入っていて、実際に支払われたのは一億にも足りない額しか支払われなかった、これも裁判所の和解で。そう聞いていいんですか。さっき法務省の方では、しんえい丸の方はPIへは保険額五百億の保険に入っておりました、そういうふうに言っておるんですが。
  297. 松田篤之

    ○松田説明員 法律の仕組みといたしまして、このしんえい丸の方には船主の過失がなかったというふうな主張をしております。したがいまして、過失がない場合には当然法律に基づきまして責任制限額の規定が適用されて六千三百万で支払いは済むはずだということになっておりまして、片方の方はそうではなくて、責任の額にかかわらず支払ってくれという訴訟であったと聞いております。それに対しまして裁判所の判断は、手続完了までに大変に長い時間がかかる可能性がある、そうなると、未成年者を抱えた遺族の立場から考えて非常に適当ではないから、その責任ありなしということを追及するんではなくて示談をしたらどうですかということで、和解により早期の解決をしなさいという勧告がございまして、それにのっとりまして先ほど申し上げました金額で和解をしているということでございます。
  298. 林百郎

    ○林(百)委員 民事局にお聞きしますが、そのしんえい丸の相手方の船、金宝丸ですか、漁船、この要求は幾らだったんですか。それが和解で一億ちょっと足りないものになったんですか。
  299. 中島一郎

    中島政府委員 私の方はその和解になりました事件についての資料は持ち合わせておらないわけでございます。後日金宝丸関係の遺族が、その差額は国がこういう法律をつくったためにこうむった損失であるということで損失補償の訴訟を起こしてきた。その訴訟の判決をいま私大急ぎで読んでおったわけでありますが、それによりますと、三億七千八十四万であるという主張をしておるわけでございます。
  300. 林百郎

    ○林(百)委員 五百億保険に入っていたのに、三億相手方の言うとおりに払えばまあ相手方も満足するだろうに、それが限度額六千三百九十万円を基準にして、それに一千万円加わっている。これじゃ、全く船会社がPIのおかげで、それとこの船主制限法によって大きな便益を受けていると言ってもこれはやむを得ないじゃないかと思うのですが、民事局長、どうでしょうかね。五百億も入っていたというんだからね。
  301. 中島一郎

    中島政府委員 私がお答えをするのが適当であるかどうかわかりませんのですけれども、五百億の保険に入っていたということを申されたのは大蔵省の係官でございますけれども、仮に五百億の保険に入っていたといたしましても、それは五百億円を限度として実損害を全額支払いますという保険ではなくて、海難事故が起こったときにはその責任をてん補いたしましょう、しかし、それは責任制限ができる場合には責任制限した金額ですよ、そういう責任制限をできる場合には責任制限をし、できない場合には責任制限をしない金額を支払いますが、いずれの場合にしましても五百億円を超えることはありません、こういう保険であろうかと思いますので、特に保険会社が不当な利益を得たとか、しんえい丸側が不当な利益を得たということではないというふうに私は考えております。
  302. 林百郎

    ○林(百)委員 ちょっと詭弁ですね。五百億の保険に入っているのに、三億で片がつくというのに、船主制限法があるために、これが六千三百九十万が船主責任制限の基準になって、それへ一千万、裁判所が言ったからこれは出たんで、裁判所が言わなければ出ない。裁判で争われるわけですけれども、ちょっとそれでは不条理だと思うのですよ。そこを幾らあなたに言っていても仕方がありませんが、結局わが党が言っているように、これは船主の利益を相当図って、被害者に対しては不十分な被害しか補償できない制度にこれではなるじゃないか。そして、本来の民法商法規定されている賠償の原則あるいは憲法で規定されている財産権の侵害に対する保障、そういうものが非常に損なわれるんじゃないかというように思うのですけれども、時間がありませんからえらいそればかり言っておれませんけれども。  そこで、運輸省や大蔵省は、この法案を制定するとき、わが党の質問に対して、そういうような場合は実損害等の補償はするように行政的な指導をすると言っているんですよ。一応船主制限法によってそういう制限の基準は出てくるけれども、そういう保険に入っている場合に保険から出せるならばその保険から出すような、あるいはそのほかの方法もあるでしょうけれども、そういう埋め方を指導しますということを大蔵省も運輸省も言っているんですけれども、これはどうなんでしょうかね。本法制定のときの速記録をお読みになりましたか。そういう行政指導をした例がありますか。船主制限から言えばそうなるけれども、実際保険にこれだけ入って十分の保険の余裕があるから、あなたこれだけお払いなさい、またPIの方へもそう言うというような行政指導をした例がありますか。大蔵省と運輸省と両方に聞きます。
  303. 松田篤之

    ○松田説明員 制定当時の議事録を私も読ませていただきましたけれども、私どもの答弁といたしましては、不合理な値切り方をするようなそういうことがあれば、そういったことはもちろん是正をさせるということを申し上げているわけでございまして、こういう法律制度があります以上、この法律制度を基準に支払いが行われること自体、それが適当じゃないから改めるという趣旨ではないと了解をしております。  なお、先ほどのしんえい丸のケースなどにおきましても、そういった諸般の情勢から、限度を超しまして支払いをし、その一部をもちろんPIが負担をしているわけでございます。
  304. 林百郎

    ○林(百)委員 ところが、PIの定款を見ますと、「組合員が制限手続をしない場合も、組合のてん補額はこの制限額または保険金額のいずれか少ない額を限度とする。」こういうように言っているのですが、行政指導でなるべく被害者の被害を埋めるというのと、制限手続をとらない場合は、もう組合のてん補額は一応計算して出てくる制限額かあるいは保険金額の少ない方でやりますよ、こういう定款がありますが、こういう定款があるのはあなたはお認めになりますか。これが見たいからあなたに定款を出せと言っていたんですが。
  305. 松田篤之

    ○松田説明員 御指摘のとおりでございます。そういう条文がございまして、それは現行制度もとで現行の法律の中における定款としては、そういった形で定めるのがいわば当然であろうかと思います。
  306. 林百郎

    ○林(百)委員 当然であるとはどういうことですか。保険金とPIによる船主の制限によって額が出てきた場合は、その大きな方を埋めてはいけないんですか。制限法を適用しない場合ですよ。申し立てない場合ですよ。
  307. 松田篤之

    ○松田説明員 船主の責任法によりますと、故意または過失といったものがなくて事故が行われた場合と区別をしておりまして、そういった故意、過失といったものがあった場合には、もちろんそういった制限の援用が適用できないわけでございますけれども、そういったものがない場合には、本人はその規定を援用できることになっております。それを前提に料率体系その他ができておるわけでございますから、そういった約款の内容で制度をつくるということ自体不当なものであるというふうには、私は言えないのではないかと思っております。
  308. 林百郎

    ○林(百)委員 こういう定款も、組合員が制限手続をしない場合、要するに制限手続をとれ、そしてその制限された責任にとまれ、そうでない場合は、制限手続をしない場合は組合のてん補額は制限額かまたは保険金額の少ない方の額しか出さないよ、こう決めているということは、実際の損害額とそれから制限額との違いがかけ離れている場合はそれを埋めるような行政指導をしますということは、この定款によって、そういう行政指導をするという立法当時のあなた方の答弁というものは全くそら文句であったと言われても仕方がないんじゃないですかね。何か答弁ありますか。
  309. 山本直巳

    ○山本説明員 お答え申し上げます。  実はいまの問題とちょっと違いますが、先生が前から何度もおっしゃっております関釜フェリーも含めましてちょっと御説明いたします。  まず、内航定期船につきましては、御承知のとおり責任制限ができないことにしておりまして、私どもが内航定期船を許可するときに保険を十分掛けるようにというふうに指導をしておりまして、定員一人当たり二千万円あるいは多くの場合五千万円というのを掛けております。  それから、関釜フェリーについてでございますが、これも運送約款に船主責任制限ということをしないということが明記されておりまして、現在、旅客定員一人当たり五千万円という保険が、現時点でございますけれども、五十二年からでございますけれども、掛かっております。  それから、いま先生がおっしゃいました行政指導の問題でございますが、その後私ども常に安全問題についていろいろな形で、いろいろな場で指導しておりますけれども、その際に、被害者の救済につきまして特に配意するようにということもあわせて言っておるわけでございます。ただ、個々の事件になって、しかも裁判というような場に持ち込まれたときに、私どもが、いわば行政が司法に介入するということがどの時点でどこまで適切か、いろいろ問題がございまして、その辺については少なくとも誠意を持って当たるようにということは言っておるわけでございます。
  310. 松田篤之

    ○松田説明員 先ほどの約款の内容でございますが、これは後ほど御提出をいたしますけれども、その四十三条というところに次のような規定がございます。「加入船舶の運航に伴って生じた損害等で個々の事件につき組合が組合事業の目的に照らし、特例としててん補することが相当であると認めたものは、その全部又は一部をてん補することができる。」したがいまして、例外規定と申しますか、原則は先ほど申し上げましたように責任制度の中でやるわけでございますけれども、明らかに不当な値切りであるという判断ができるようなケースにつきましては、現行法におきます定款におきましても、それを超えて絶対払ってはいかぬという規定とは私ども考えておりません。先ほどのしんえい丸のケースなどは、こういった条文の考え方に即して被害者救済の見地から二千四百万の上積みをして解決されたものと考えております。
  311. 林百郎

    ○林(百)委員 私は、だから定款を出してくれと言っても、あなたは出してくれないものだから原則の方だけ引用したわけですが、そういう条項があって、しかも行政的な指導で弾力性があるなら、そうしてぜひ指導をして、そして被害者の被害をできるだけ実損に近いものを埋めるような努力を行政でもしてもらいたいと思うわけなんです。しかし、さてあなたの答弁を聞いておりますと人情に厚いような答弁ですけれども、しかし今度の改正を見ますと、あなたの習うようにそういうこともあるから当事者の方は保険金で弁償しよう、ところが、今度は保険会社の方が、いや、そんなことはしてはいかぬ、ちゃんと船主責任制限の方を適用しろ、もし適用しなければ私の方がかわってやるぞ、今度はこういう規定になっているわけでしょう。そういうように改正されたわけですね。これは民事局長、そうでしょう。PIがかわってやることができるわけですよね。
  312. 中島一郎

    中島政府委員 新しい条約もとにおきまして、保険会社、いわゆる保険者が責任制限をすることができるということになりましたのは、保険会社に対する被害者からの直接請求が認められている法制もとにおいて、保険者の立場を考慮した規定であるというふうに私ども理解しております。したがいまして、これを国内法に取り込むに当たりましても、そういう趣旨で規定を設けたわけでありまして、現在の日本制度としては被害者が保険会社に直接請求をするという制度にはなっておりませんけれども、国際的な事件でありますから、申し立てをしてきました事件の準拠法によりましては、被害者が保険会社に面接請求をするという場合もあるわけであります。その場合に、船舶所有者等責任制限手続をとるということができませんので、保険会社が船舶所有者等がとるべきである責任制限手続をとることができるというのがこの規定の趣旨でございます。
  313. 林百郎

    ○林(百)委員 趣旨はそうであっても、それは保険の加入者にほぼかわってPIが船主の責任制限を申請することができるようになっておるわけでしょう。あなたの言うように、そういう制限された場合だけというようには、ここの条文では書いてないんじゃないですか。
  314. 中島一郎

    中島政府委員 先ほども申しましたけれども、現在の制度ですと、被害者が船舶所有者等に請求をいたします。船舶所有者等に請求をしますと、船舶所有者等責任制限手続をとるかどうかという判断をするわけであります。そしてそれによって手続が進む、こういうことになるわけでありますが、ある国の法制によりましては、被害者が直接保険会社に請求をするという場合がございます。この場合には保険会社が船舶所有者等にかわって責任制限手続をとることができるということを保障したわけでございまして、これによって……(林(百)委員「そういうことは書いてないんでしょう。そういうように書いてありますか、条文に」と呼ぶ)私どもはそういうことで法律を入れておりますし、条約審議の過程におきまして、こういう趣旨の条約であるということで条約が成立したというふうに聞いているわけでございます。
  315. 林百郎

    ○林(百)委員 民事局長、ちょっと今度の改正の法文を読んでください。あなたの言ったのはいろいろ補足がしてあって、そんなことは書いてないでしょう。
  316. 中島一郎

    中島政府委員 九十八条の二項という条文でございますが、「この法律は、制限債権につき弁済の責めに任ずることによって生ずる損害をてん補する保険契約の保険者について、被保険者と同様に適用する。」という規定でございまして、この規定の解釈としては、私どもは先ほど申し上げたように考えておるということでございます。
  317. 林百郎

    ○林(百)委員 時間がありませんからあれですが、法律の条文そのものを読めば、あなたの言ったようなことは全然出ておらないわけですよ。そういう場合にかわって行うなんということは書いてないですよ。PIがかわって責任制限法律を適用することができる場合は、これこれこういうように国際的にもこういう場合だなんてことは、一つも書いてないですよ。だから、そんなことがなくてもやろうと思えばできますよ。PI保険の加入者が、その保険の範囲内で自分は善意で払おう、そういうように思っても、責任制限の適用をしなくて払おうと思っても、PIの方が、いや、私の方がかわってやりますと言われれば、それで加害者というか、加入者でも同じことですけれども、その善意というものはつぶれてしまうのじゃないですか。
  318. 中島一郎

    中島政府委員 この規定の解釈は、確かに最終的には裁判所において制限手続が進行する場合に裁判所が判断することでございますけれども、私どもは、船舶所有者保険者との間の関係はもっぱら約款によって決まるべきものであるというふうに考えておりますので、この法律が当然に入り込む余地はないというふうに考えておるわけでございます。
  319. 林百郎

    ○林(百)委員 あなたの答弁がそれなら記録にとどめておくだけでもあれですけれども、法律にはあなたの言うようなことは載っておらないので、これは船主がみずからやらない場合にはPIがかわってやることができる、それに対しては国際的なあなたの説明したような事情、そういうようなものの制限は受けない場合があると思うのです。最終的には裁判所がその申し立てが適法かどうか決めるでしょうけれども、私はあなたの言うような制限はここにはないと思うのです。  そこでお尋ねしますが、いままでは故意、過失の場合はこの適用をしないということになっているのが、今度は過失を除きまして何だか非常にむずかしい表現があるわけなんですけれども、「自己の無謀な行為によって生じた損害」、何かこれじゃ過失とほど遠いようなものですが、これはどうしてこうしたのですか。そして、過失をどうして除いたのですか。
  320. 中島一郎

    中島政府委員 この点につきましては、御指摘のように、従来は船舶所有者等に故意または過失があるときには責任制限ができないということになっておったわけであります。ところが、今回の条約を採択する会議におきまして、一方において責任限度額を引き上げるのであるから、この責任制限制度がブレークされるケースというものをなるべく少なくしたいという側からの御意見があったようであります。確かに、従来から法律的には船舶所有者の故意、過失ということになっておりましたけれども、船舶所有者みずからの故意、過失があるという場合は非常にまれな場合であったわけでありまして、この点が過失ということでなくなることによって余り大きな影響はないということを考えたことだと思います。  日本の主張としては、せめて重過失ということにしたいという主張をしたということが記録などにも残っておるようでありますけれども、多くの条約参加国の賛成を得ることができなくて、こういう表現に落ちついたといういきさつでございます。
  321. 林百郎

    ○林(百)委員 これもあなたの解釈はそうかもしれませんが、しかし、過失の場合の方がむしろ多いのじゃないですか。過失だったらいままでは制限によらなくて賠償していたのが、それを除いてしまうということは、被害者にとっての賠償の機会を非常に少なくすることになる、こういうように思いますがね。  時間がもうありませんから、その次に移りますけれども、六条の五項と七条の五項で見ますと、旅客が亡くなった場合の一人当たりの最高は幾らになるわけですか。
  322. 中島一郎

    中島政府委員 七条の五項の一単位の四万六千六百六十六倍と申しますのは、一SDRを二百七十円として計算いたしますと約千二百六十万ということになろうかと思います。したがいまして、その数字に九条一項の船舶検査証書に記載された旅客の数、これは定員数でございますので、乗客の定員数を乗じた数が限度額の上限、こういうことになるわけであります。したがいまして、定員いっぱい乗客が乗っておったという場合を考えますと、一千二百六十万ということになるわけであります。現に乗っておった乗員の数によって賠償の限度額が変わってくるということになろうかと思います。
  323. 林百郎

    ○林(百)委員 定員いっぱい乗っていた場合は千二百五十九万九千八百二十円、千二百六十万ですね。これはいまの一人の人が亡くなった場合の補償としては、民事局長、いろいろな事件を扱っていると思いますが、十分だと思いますか。
  324. 中島一郎

    中島政府委員 これのみに限るということではありませんで、仮にこの事故が衝突事故である場合には、相手船に過失がある場合にはやはり相手船のトン数を基準にした限度額というものがあるわけでありますし、相手船に故意または無謀な行為があった場合には相手船に全額請求することができるということにもなるわけでありまして、一概には申せませんけれども、千二百六十万という数字としては、その他の交通事故の事件などと比べまして高い数字であるというふうには申せないと思います。
  325. 林百郎

    ○林(百)委員 あなたも認めているように非常に不十分な額だということになると思うのですね。  そこで、大蔵省にお聞きしますが、船客傷害賠償責任保険というのがあって仮に二千万円に入っていても、この制限手続がとられて、いま言った七条五項の一を適用されるとすればこれは千二百六十万円にとどまって、船客傷害賠償責任保険の適用はないことになりますか。これは民事局長でもいいし、大蔵省でもいいです。
  326. 中島一郎

    中島政府委員 まず、内航船ということになりますと、これは全く責任制限対象になりませんので、限度なしということになります。外航船につきましては、ただいま申し上げましたような制限があるわけであります。これも数字は、先ほどから申しておりますように、あるいは十分な数字ではないかもわかりませんけれども、国際的な統一を図るということから申しますと、この辺が精いっぱいであります。実は、この乗客分について別の枠を設けて責任制限をするということ自体、日本その他の国が主張した制度でありまして、加盟国になるであろう多くの国の賛成を得るということを重点に考えますと、この辺が精いっぱいであったという実情でございます。
  327. 林百郎

    ○林(百)委員 実情であったかどうかは別として、あなたは民事局長として、日本の人が一人死んだ場合に千二百六十万円、これで人の生命が十分だと考えられるかどうか。もちろん、相手方が故意の場合無制限責任を負うとかいろいろな条件を言い出せば限りはありませんよ。通常の場合、こちらの方が船主の制限を適用した場合に七条五項によれば一人が千二百六十万円になる、これで十分だとあなたはお考えになりますかどうですかということです。事情はいいですよ。いろいろお話しになるのもいいですけれども、十分だとお考えになるかどうかということなんですよ。それとも、国際的な取り決めでやむを得ずこういうようになったんですよと言うなら、それで聞いておきましょう。
  328. 中島一郎

    中島政府委員 しからば、今回の条約を批准しないあるいは新しい改正法を出さないということになればどうなるかというと、現行法のままということになりまして、もっと被害者の救済に不足するということでありますから、今回の新条約を全体としては現状よりも数段の進歩であるということで評価をして批准をし、かつ新しい法律改正案を出したということでございます。
  329. 林百郎

    ○林(百)委員 被害の賠償額が三倍から九倍に上がったという点については、われわれも決していろいろ言うものじゃありません。しかし、本質的にこの法案の性格が、船主の利益を図ることが多く、実際の被害者の被害を賠償する点に薄いのではないか。その点をもっと改善しなければ、これが近代的な船主の責任として、ことに人的な損害やあるいは物的な損害を十分補償したことにならないじゃないか、こういうことを私、言っているわけです。額の上がることについて、しからば林さん、もとのとおりでいいですかなんて言われたって、それはあたりまえのことですよ。そういう点を私どもの方は質問しているわけです。  時間が参りましたので、最後に、この前のときに、関釜フェリーについて旅客一人当たり百八十万の人の生命に対する補償だということで、これは運輸省も大蔵省も旅客に関する運送約款で十分補償する、そういうふうに行政指導いたします、こういうように記録にちゃんと残っているわけですけれども、そういう立場から、船主側、PI側をどういうふうに指導しておるのでしょうか。これは定期連絡船で唯一のものですし、これについてはこの前も非常に問題があったわけですけれども、その後の指導を聞きたい。
  330. 山本直巳

    ○山本説明員 お答え申し上げます。  先ほど申し上げましたけれども、関釜フェリーにつきましては行政指導いたしまして、運送約款の中で旅客の死傷に係る債権については責任制限を行わない旨明記してございます。したがいまして、責任制限法はかからない、したがって必要な額だけ払うということでございます。
  331. 林百郎

    ○林(百)委員 わかりました。  その約款はいつから適用するようになったのですか。この前、本法が制定されるときにわが党もその点を非常に強調して、その後にそういう約款になったのですか。
  332. 山本直巳

    ○山本説明員 この約款をこういうふうに改定いたしましたのは、五十二年四月一日からでございます。
  333. 林百郎

    ○林(百)委員 これで終わりますが、まとめて法務大臣に私たちの党の見解を申し上げておきたいと思います。  もちろん、船主の責任制限金額の点で非常に引き上げられたという点については前進だと思います。しかし、これまで私が質問した諸点のほかにも、たとえばこのたび故意、過失制限の適用がないというのが過失がなくなって、船主の故意、過失となっていたこの条項が「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為によって生じた損害」、ちょっと日本語に親しまないような宵葉ですが、制限の適用を排除していたものが過失が新たに制限の中へ入ってきた。事実上、船主等がほとんどの事故について制限手続を適用するようになった。またPIも、民事局長説明もいろいろありましたけれども、この法律制限の条項の適用を船主がやらない場合には自分でやる場合もあり得るということに新たになった、こういう事例。それから、第十三有漁丸や第七金宝丸の悲劇等が再び繰り返されないという保証はないばかりか、かえってこういう事例がふえると予想されるような条項が入ってきておりますので、結局企業や船主等の利益を守ることになり、零細な漁民や船客などの被害者の保護がおろそかになる、私たちはこの点については依然として考えが変わらないので、この点をさらに改善するように、すべての被害者に対してできるだけの被害の賠償をしていくような法の改正をし、制度の改善をしていくように法務大臣に努力をしていただきたい、こういうように思いますけれども、最後に大臣の答弁を聞いて、私の質問を終わりたいと思います。
  334. 坂田道太

    ○坂田国務大臣 林委員の御意見は御意見として承っておきたいというふうに思いますし、先ほど政府委員からお答えを申し上げましたように、現行法よりも一歩前進であるというふうに私どもは考えますので、御理解を賜りたいというふうに思います。
  335. 林百郎

    ○林(百)委員 終わります。
  336. 中川秀直

    中川(秀)委員長代理 次回は、明七日水曜日午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後五時二十分散会