○佐藤
説明員 海事
債権責任制限条約は一九七六年に採択されたわけでございますけれども、この
条約につきましては、昭和四十八年からIMCOにおきまして
検討をいたしまして、それで昭和五十一年、一九七六年の十一月にロンドンで開かれたIMCO主催の
会議で採択されたわけでございます。
それで、
わが国といたしましては、この
条約の
金額責任主義による
制限制度を基礎として、それで
責任限度額を引き上げる、さらに、
船舶の旅客の死傷についての個別の限度額の設定などをいたしまして被害者の妥当な保護を図る、さらに、その
責任を
制限することのできる者として
救助者の追加、あるいは限度額の表示単位として国際通貨
基金、IMFの
特別引き出し権、
SDRを採用するとか、一層合理化した方向での
責任制限制度を
規定するという方向でございまして、
船舶事故によって生ずるその被害につきまして妥当な救済を確保するという観点は望ましいという判断、それから、主要海運国と歩調を合わせながら合理的な形での
船主責任制限制度を維持いたしまして
海運業の安定的な発展を図る、そうすべきであるというのが
わが国の
基本的な立場でございまして、こういうことでこの
会議に対応したわけでございます。
それで、この海事
債権責任制限条約の採択
会議におきましては、先生いまおっしゃられましたような幾つかの点が
議論されたわけでございますけれども、特に
責任の
制限の
対象となる各種の
債権のうち港湾施設等の損傷に関する
債権の取り扱いあるいは一般の
債権に関する
責任の限度額、これをどうするか、及び旅客の
債権に関する
責任の限度額等につきまして
議論があったわけです。
それで、まずその
責任の
制限の
対象となる
債権についてでございますけれども、
船舶の運航または救助活動に直接
関連して生ずる人の死傷または物の損傷に関する
債権のうち港湾施設等に与えた損傷に関する
債権の取り扱いが問題となりまして、
制限債権としてほかの
債権と同様に扱うこととする草案が出たわけでございますけれども、これに対しましてはアメリカあたりが非
制限債権とすべきであるという案を出しまして、そのほかにはオーストラリアが
国内法で非
制限債権とし得るとする留保条項を設けるというような案を出しました。また、物損についての限度額の中で優先弁済を認める案を
フランスが提案いたしたりしたわけですけれども、結局、
各国はその
国内法において物損の限度額の中で優先弁済を認めることとすることができる、そういう趣旨の
規定をすることで決着いたしたわけでございます。
それから、先ほど話題になりました一般的な限度額についてでございますけれども、
責任制限のシステムにつきましては、
一つの
基金の中で
人損について優先弁済を認めるという第一案、これに対しまして、
人損と物損とで別の
基金を設けて、
人損の
基金からの弁済が不十分な場合には物損の
基金に同順位で参加し得ることとする、こういう第二案と二つの
意見に分かれたわけでございますけれども、
フランス、オーストラリア、北欧諸国、それからアメリカ等は、システムとして単純明瞭であるという
理由によりましていま申しました第一案を支持いたしました。これに対しまして、
わが国、それから
イギリス、西ドイツ、ギリシャ、オランダ等は、第一案でやりますと
人損、物損ともに生じた場合に物損が全く補償されない事態も生じかねない、それで不合理であるという
理由によりまして第二案を支持したわけでございます。そして最終的には、第二案のシステムが採用されたわけでございます。
それから、具体的に限度額をどうするかということでございますが、
わが国、それから
イギリス、オランダ、北欧諸国等の間でいろいろな提案が出たわけでございますが、まあ開きもあったわけでございます。そして最終的には、現在の額が採用されたわけでございました。
それから、旅客の
債権についてでございますけれども、限度額について、
責任制限のシステムにつきまして定員一人当たりの限度額と最高限度額の両方
定めるという案、これは
イギリスとか西ドイツ、ノルウェー、ギリシャ、スウェーデンなどが提案いたしまして、これに対しまして、最高限度額のみを
定めればいいのではないかという案を
わが国は提案したわけでございます。それから第三案といたしましては、実際の旅客数一人当たりの限度額及び最高限度額の両方を
定めることとする案を
フランスとか東独、ポーランドなどが提案いたしまして、具体的な額に関しましては、一人当たりの限度額として、たとえば西ドイツは二万ドル、アメリカは三十万ドルまで、それから最高限度額としての
金額でございますが、ノルウェー、オランダなどは二千五百万ドル、
わが国は五千万ドルという額を提案したわけでございますけれども、結局、定員一人当たりの限度額としては約五・六万ドル、それから最高限度額としては三千万ドルという案が採用されたわけでございます。
それで、この採択
会議に参加いたしましたソ連とかアメリカとも、これは
国内法制上
責任制限制度を採用しているわけでございますけれども、この
条約の内容と仕組みが違うというふうに私ども承知いたしております。船価
主義ということで、この
条約の
金額責任主義というものとは異なっておると承知いたしております。
それで、その後の状況でございますけれども、現在までのところ、
フランス、リベリア、スペイン、
イギリス、イエメン、この五カ国が
締約国となっております。これは本年二月十九日現在の調査でございますが、その五カ国となっておりまして、そのほかの国につきましては、署名国はデンマーク、フィンランド、西ドイツ、ノルウェー、スウェーデンということでございましたので、まだ
締約国となっていない国があるわけでございますが、北欧四カ国について見ますと、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマークの北欧四カ国でございますが、その四カ国を初めといたしまして、そのほかにヨーロッパの九カ国を含めまして大体合計十三カ国程度がこの
条約の早期締結という方向で準備を進めていると聞いております。