○妹尾
参考人 妹尾でございます。
実はこのお話がありましてすぐ、こういう問題に対して一般の平均的な主婦の方々がどういう感じといいますか、どういう思いを持っていらっしゃるのだろうかということがございましたものですから、
神戸市内で、いわゆる平均的主婦の方々をかなりの数アンケート
調査を実はとってみたわけでございます。それで、やってみますと、
農産物の輸入の
自由化というような問題につきましても品物によって賛成、反対がやはりはっきり出てきているようでございます。たとえば、果物なんかの場合でございますと、賛成が八一で反対が一九。
牛肉、乳製品になりますと賛成が五六で、反対が四四とふえてまいります。これが野菜になりますと、賛成が四五で反対が五四。品物によって皆さんの受けとめ方が非常に違っているというのが
一つの特徴で出てきているようでございます。
ただ、それぞれにつきましていろいろ
理由を細かく書いていただきました。その
理由を見ておりますと、どの品物にも共通して皆さん方が反対をなさっておりますのは、やはり安全性に対する不安、この辺のところから非常にこの問題を鋭く問題点としておとりになっているようでございます。それから、やはり
国内農業の
振興のためということも反対の
理由の中に
一つ大きく挙がってきているというふうな特徴があるのではないかと思います。
そういうふうなアンケート
調査を中心にいたしましてこれまで私たちが得ましたいろいろな情報の中から、それじゃ一体
消費者の
立場からこの問題はどういうふうに考えていったらいいのだろうかということで五つほど問題点を考えてみたわけでございます。
私たち
消費者が物を買いますときには、とにかく、品質が一定であれば安い方がいいことはわかっておりますし、また、その価格というのは、国際的にも自由競争を通じてつけられなければいけないというのが
基本の
考え方になると思います。従来、いろいろな政策が行われまして価格の安定というようなことがなされてきたわけでございますけれ
ども、その辺の問題というのは、もう少し
消費者を加えた形の中でお考えいただかなければいけなかったのじゃないだろうかなというような気がいたします。たとえば、非
関税障壁というようなことがございます。あるいは四月十六日に
市場開放の第二弾ということで
残存輸入制限の緩和というようなことが出てまいりましたけれ
ども、これらがすべてある
一つの、一定の圧力によって、みんなで物を考えようなというふうな形になって出てきている。これは、むしろ
消費者を加えた形の中で検討していただきたかったなというような感じがまず最初にするわけでございます。
次に、
日米貿易の摩擦の
解消策として取り上げられております
農産物の位置づけにつきまして考えてみました。
まず、
アメリカの社会だとか
経済の
情勢でございますけれ
ども、
アメリカでは
消費者物価は八一年十一月の前年同月比で九・六%上昇ということ、これは前年の一三・五%の上昇に比べますと多少落ち着いてはおりますけれ
ども、住宅の着工件数あるいは乗用車の販売台数など落ちております。あるいは個人消費の伸び悩み、それから鉱工業の
生産もマイナスになっている、あるいは
失業率も非常に高い、
貿易赤字もふえているというように
アメリカの
経済が非常に因っているというようなことを考えますと、その代償として
日本に
貿易の
自由化というようなものをむしろ押しつけられたというようなことを考えますと、これはやはりもう一度われわれが真剣に考え直してみないといけない問題ではないだろうかなというような感じがいたします。
アメリカの対日
貿易のバランスを見ますと、
農産物は
アメリカから
日本へ
輸出する一方通行になっておりますし、鉱
工業製品というのはその逆になっております。つまり
日本から見ますと、一九八一年では鉱工業等は二百二十五億ドルの
輸出超過をしておりますのに
農産物は九十一億ドルの輸入超過になっておる。また
日本の
農林水産物の輸入額も年々増加してます。このことから考えますと、
工業製品やサービス部門の障害が仮に取り除かれたといたしましても、
日本における
競争力が強いので効果のほどがはっきりしない、
農産物であれば十分競争できるのではないだろうかというふうな見方がなされたのではないかと思います。
つまり、農林水産省の資料を見ますと、主要
農産物につきましての
国内生産者価格と輸入価格とを比較した表があります
昭和五十二年ごろに比べますと若干は縮まってきておりますけれ
ども、
昭和五十五年におきましては
日本の方が
アメリカに比べて一・六倍ないしは三・八倍高い
消費者価格にいたしましても、一九八〇年十月における東京とニューヨークの比較では、やはり圧倒的に東京の方が高くなっています このことから割り高商品の多い
農産物に入り込む余地があるなというふうな判断がなされたのではないだろうかなという感じがいたします
しかし、このような
工業製品の
輸出の見返りとしての
農産物の輸入のバランスが、将来にわたってどれほどつじつまが合っていくのだろうかということもここで考えてみないといけないと思います。
農産物は、所得の増加がありましてもあるいは価格の下落によっても販売がそれほどにふえないということ、つまり所得、価格の弾力性が低くなりやすいのに対し、一方、
日本の高度技術製品の価値の方は逆でございます。バランスを一時的に考えまして、もしここで誤った判断をすると非常に危険ではないだろうか。むしろ、長期的にどうなるかということの判断がいま非常に大事なのではないだろうかなという気がいたします。
日本の
食糧安全保障の水準を切りまして輸入をもっとふやすというふうなことになりますと、長期的
展望を示さないと現在の
貿易摩擦だけの犠牲にされて、
農業や
農業をなさっている方、それから
消費者を守る施策としてはそれが果たしていいことなのかどうなのかというような疑問も残るわけでございます。目下の
貿易交渉で、輸入の
自由化に応じたところで輸入はそれほどふえないだろうというような議論があるとすれば、そういう片づけ方については
消費者としては非常にここで疑問が残ってくるわけでございます。
三つ目に、そういう意味でやはり
食糧の
安全保障についても考えてみたいと思います。
近ごろ
日本の
食糧自給率というのは低下現象を示しておりますし、穀物におきましては
昭和三十五年度の八二%から低下を続け、五十五年度現在三三%、
アメリカの一七四%、イギリスの六四%に比べますと非常に低くなっております。また一方、
日本の穀物の公的備蓄量が、飼料穀物、大豆でそれぞれ消費量の一カ月分、小麦で二・六カ月分あると聞いております。
アメリカは、
日米農産物定期協議の場で穀物戦略発動上の要請に沿って、飼料穀物につきましても二カ月分の備蓄強化を要請しております。西側
諸国につきましてもその要請をしているようです。しかしながら、これは
アメリカにおける空前の豊作、つまり、コーンが七十九億ブッシェル、小麦が二十七億ブッシェルというふうに非常に豊作であるというようなことを
背景に提起された問題ではないだろうかなという気がいたします。
食糧の
安全保障は大切であることもわかりますし、このことは、主要
農産物のある
程度の
自給率の確保と、それから輸入による備蓄の強化を図ることをしなければいけないとは思いますけれ
ども、やはり両者のバランスをよく考えて行わないと将来本当に困ったことが起きてくるのではないだろうかなという感じがいたします。輸入による消費ないしは備蓄の道を採用するに当たりましては、ニクソン政権下のときにたまたま
日本に対する大豆の
輸出禁止のような
食糧禁輸というようなことがあったのを思い出します。こういうことを繰り返さないということを保証してほしいということ。また、長期の穀物
輸出保証をすることが条件ではありましょうし、さらに
政府は、これらのことをもっと
国民にPRしていただく必要があるのではないだろうかな、そしてやはり
国民に安心感を与えていただくということがいま非常に大事なのではないだろうかなという感じがいたします。
四つ目に、
農業の近代化によりまして、
農業におきましてもある
程度の国際
競争力を持つことがいまはぜひ必要なのではないだろうかなという感じがいたします。
農業政策と申しますのが国の
基本に係るということもよくわかりますし、
農業部門に対する保護は非常に強固に行われていると思います。たとえば、米は過剰
生産になりやすいのに、他の
食糧は十分
生産されないような
農業保護政策あるいは価格支持システムが現在あるわけでございます。米の
生産調整あるいは減反政策というようなこともすでに長々と続けられているわけでございます。多額の転作奨励金も支払われてまいりましたが、これだけ減反政策が行われましてもなお過剰米がある、そして
食管会計の赤字というのはかなりふえていっているというようなことを考えますと、やはり
農家の方々に国際
競争力をつけていただくような努力というのもやはり私たち
消費者としては
お願いしたいという気持ちでいっぱいでございます。
最後に、輸入
農産物につきましての安全性の問題でございます。
最近の新聞を見ておりますと、
アメリカから提出されました
日本の非
関税障壁品目別リスト、これらはかなりございますけれ
ども、それらを
一つずつ見ておりまして、私たちは非常に不安を感じます。長いこと
消費者運動というような場を通じてやってまいりましたにもかかわらず、それが非
関税障壁の除去ということで、何かそういうものが次から次になし崩しに崩されていくということに対する不安があるわけです。たとえば、野菜についての検疫をどうするとかあるいは濃縮果汁についてはパッケージに関するいろいろな問題があるとか、あるいは加工処理されました食品、いわゆるプロセストフードでございますね、これについては成分や製造法に関する
一つの表示の問題だとか、あるいは化粧品につきましても製造法やパッケージの方法を少しでも変更すると引き延ばされるとか、あるいはパパイヤ、サクランボについて品質検査がむずかしいからもっとやさしくしなさいとか、そういうふうな問題
一つ一つをとらえておりますと、やはりそういうものからまいります不安というのが非常に大きく働いてまいります。最近では、御承知のようにチチュウカイミバエの件もございましたし、かつてはレモンの問題というのも非常に大きな問題になったということでございます。
これらにつきましては、やはり
消費者側から見ましたときに改悪にならないように、ひとつ
貿易の
自由化とともにこの安全性の問題につきましては慎重に御配慮下さいますように
お願いをいたしたいと思います。
以上で終わらせていただきます。(拍手)