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1982-04-21 第96回国会 衆議院 農林水産委員会 第17号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十七年四月二十一日(水曜日)     午前十時六分開議  出席委員    委員長 羽田  孜君    理事 加藤 紘一君 理事 亀井 善之君    理事 戸井田三郎君 理事 渡辺 省一君    理事 新盛 辰雄君 理事 松沢 俊昭君    理事 武田 一夫君       上草 義輝君    川田 正則君       木村 守男君    岸田 文武君       北口  博君    北村 義和君       近藤 元次君    田名部匡省君       高橋 辰雄君    丹羽 兵助君       保利 耕輔君   三ツ林弥太郎君       山崎平八郎君    小川 国彦君       串原 義直君    島田 琢郎君       田中 恒利君    竹内  猛君       日野 市朗君    安井 吉典君       吉浦 忠治君    神田  厚君       寺前  巖君    藤田 スミ君       阿部 昭吾君  出席政府委員         農林水産政務次         官       玉沢徳一郎君  委員外出席者         参  考  人         (全国農業協同         組合中央会専務         理事)     山口  巌君         参  考  人         (全日本農民組         合連合会書記         長)      谷本たかし君         参  考  人         (鹿児島農業         協同組合中央会         会長)     救仁郷義房君         参  考  人         (愛媛青果農         業協同組合連合         会会長)    高門嘉夫留君         参  考  人         (群馬富岡市         長)      白石孝一郎君         参  考  人         (全国漁業協同         組合連合会副会         長)      池尻 文二君         参  考  人         (千葉大学法経         学部教授)   唯是 康彦君         参  考  人         (前朝日新聞社         論説委員)   杉本  一君         参  考  人         (農政評論家) 林  信彰君         参  考  人         (神戸消費者         協会専務理事) 妹尾美智子君         農林水産委員会         調査室長    小沼  勇君     ————————————— 委員の異動 四月二十一日  辞任         補欠選任   阿部 昭吾君     中馬 弘毅君 同日  辞任         補欠選任   中馬 弘毅君     阿部 昭吾君     ————————————— 本日の会議に付した案件  農林水産業振興に関する件(農畜水産物輸入  自由化問題)      ————◇—————
  2. 羽田孜

    羽田委員長 これより会議を開きます。  農林水産業振興に関する件、特に農畜水産物輸入自由化問題について調査を進めます。  本日、御出席いただきました参考人は、全国農業協同組合中央会専務理事山口巌君、全日本農民組合連合会書記長谷本たかし君、鹿児島農業協同組合中央会会長救仁郷義房君、愛媛青果農業協同組合連合会会長高門嘉夫留君、群馬富岡市長白石孝一郎君、全国漁業協同組合連合会会長池尻文二君、千葉大学法経学部教授唯是康彦君、前朝日新聞社論説委員杉本一君、農政評論家林信彰君、神戸消費者協会専務理事妹尾美智子君、以上十名の方々であります。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ、本委員会に御出席をいただきましたことにまず厚くお礼を申し上げます。  それでは、本日、皆様に御足労をいただき、このような委員会を持ちました趣旨につきまして申し上げさせていただきます。  御承知のとおり、七八年の東京ラウンド以来鎮静化しておりました貿易摩擦の問題が昨年来再燃し、特に貿易インバランスに加え、最近、米国EO等諸国は、自国のインフレ、失業貿易赤字の増大を背景として、わが国に対し、関税引き下げ、非関税障壁撤廃残存輸入制限品目自由化等市場開放を求める声を一段と高めてまいりました。わが国はこれにこたえ、関税引き下げの一律二年分の前倒し、輸入障壁改善等措置を講じたのであります。  しかしながら、輸入制限品目市場開放要求はさらに日を追って強まり、去る四月十二、十三日のワシントンにおける日米貿易小委員会作業部会では、ついに米国よりガット二十二条協議に移行することが表明され、六月のベルサイユ・サミットを控え、重大な局面を迎える情勢に立ち至っているのであります。  一方、わが国農林水産業及び食糧生産現状を見ますと、穀物自給率は三三%という先進国では最低水準を示す中で、その基幹的生産物である米、ミカン牛乳等は構造的な需給の不均衡問題に直面し、そのため、生産調整が実施され、さらにこれに加え二年連続の災害に見舞われるなど、まことに厳しい環境に置かれているのであります。  また、世界に目を転じたとき、米国の「二〇〇〇年の地球」、FAO、OECDの農業展望、また、さきに発表された農林水産省の展望によっても人口の五〇%以上の増に対し農地は四、五%増しか見込めず、技術、科学の革新が行われたとしても世界飢餓人口数億の解消はきわめて困難なことで、むしろ増加されるとさえ予想され、このため、世界の国はそれぞれ食糧生産力増強等に力を注ぐほか、先進諸国発展途上国への農業開発協力を進めるなど、食糧問題が重大かつ緊急の政策課題となっているのであります。  こうした中で国民食糧安全保障に対する関心は高く、一昨年四月、衆参両院においては食糧自給力強化に関する決議全会一致で行い、自国民食糧自国で賄う基本的姿勢を内外に表明する等、農林水産業体質改善生産の再編成に取り組む農政が目下推進されているのであります。  このようなとき、農畜水産物市場開放は、単に農林水産業だけでなく、日本経済の進路にかかわる重要な問題であります。  そこで、この際、自由化農畜水産業地域社会経済に与える影響自由化要求に関連して諸外国貿易制限のあり方及び食糧需給問題や農畜水産物価格問題等市場開放要求をめぐるわが国農林水産業立場、それに関連する諸問題について明らかにする段階に来ているものと考えるのであります。  以上のような問題意識に立ち、本日の会議を持った次第であります。  私どもは、皆様の広い角度からの御意見を承り、あすからの審議に資してまいりたいと存じます。  何とぞ忌憚のない御意見を賜りたくお願いを申し上げます。  それでは、審議の進め方について申し上げます。  まず、午前中各参考人からお手元に配付いたしております参考人名簿の順序でお一人十分程度意見をお述べいただき、午後、委員質疑に対しお答えいただきたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、発言の際は、委員長の許可を得ることになっております。また、参考人委員に対し質疑はできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきいただきます。  それでは、山口参考人お願いいたします。
  3. 山口巌

    山口参考人 全中の山口でございます。  今回のアメリカECとの間の農畜水産物をめぐる輸入自由化枠拡大問題に対する私ども見解について申し上げます。  まず、第一点といたしまして、第一に申し上げたいことは、今回の自由化枠拡大問題の位置づけと申しますか、性格の問題でございます。  今回の自由化枠拡大問題は日米日欧間の貿易摩擦を契機として、その緩和手段一つとして対外的にも国内的にも取り上げられていることが最大の特徴でございます。そのことは五十三年の日米通商交渉の場合と対比してみると、きわめて明瞭なことでございます。すなわち、五十三年時点におきましては農畜水産物自由化問題は単なる日米間の貿易産品一つとして牛肉オレンジ、果汁の自由化枠拡大問題が通商交渉という正規のベースで取り上げられたわけでございますが、今回は、日米間で百八十億ドル、日欧間で百二十億ドルと称する貿易インバランスを解決する手段の一環といたしまして市場開放要求がそれぞれの相手国から出されており、国内的にもそのための手段として処理されようとしておるのが現状でございます。このことは、江崎ミッションさきにこの問題で訪米した際に、ボルドリッジ商務長官が、貿易摩擦解消のために何をどうするかということは日本側自身で考えることであり、日本貿易摩擦解消のためにはもっとドラマチックな代案を準備すべきであるという発言を行っておることを見ても明らかでございますし、また、先般十二日、十三日に行われました日米貿易小委員会作業部会の結論が、牛肉オレンジ等の単品の論議には触れないで、アメリカ側残存輸入制限二十二品目全面開放ガットの場で決着をつけよと要求していることを見ても明らかでございます。  以上は対外的な動きでございますが、では国内的にどうして農林水産物自由化が問題になっているかと言えば、いまアメリカ議会におきましては、御案内のとおりダンフォース議員を初め百種類にも上ると言われる相互主義法案国会に提出されております。貿易摩擦に関連し日本に対するいわば恫喝を行っているのが実態でございます。相互主義法案と言っても、われわれは農畜水産物を何一つアメリカ輸出をしていないわけでございます。まあミカンを五百トンぐらい輸出していることはございますが、ほとんど何も輸出していないというのが現状でございまして、当然相互主義法案による制裁措置というものは、工業製品に対する輸入規制を行うというような形で行われるであろうということは十分想像がつくことでございます。このことが日本国内には大きな影響を与えておりまして、農産物市場開放論国内で誘発する原因となっております。特に、輸出規制によって打撃を受けます財界筋は、日本農畜産物市場開放しないから貿易摩擦が起こっているなどというようなばかげた論議が白昼堂々と行われているのが実態でございます。  貿易摩擦問題は、私がここで申し上げるまでもなく、アメリカか、欧州の非常な経済の落ち込みの中で、日本が自動車、鉄鋼を初めとする工業製品を過度に輸出していることによって誘発されたものでございます。したがって、相手国の景気が上昇するかあるいは日本からの輸出が抑制されない限り、とめどなくこの貿易摩擦問題は続くわけでございまして、農畜産物を少々輸入したぐらいではどうなるものではございません。ちなみに、駐日アメリカ大使館の計算では、二十二品目全部自由化しても八億ドル程度改善にすぎないと言っております。われわれが測定してみましても、たとえば、オレンジ牛肉を完全自由化いたしましても、恐らく一億五千万ドル程度改善にしか役立たないだろうと考えられるわけでございます。  そこで、私どもとしては一つの疑問が起こってくるわけでございます。では、なぜアメリカが執拗に残存輸入制限品目自由化にこだわるかということでございます。これには二つ考え方が考えられるわけでございます。  その一つは、これによって日本の政界を揺すぶって、工業製品輸出について何らかの譲歩を引き出すか、または、輸入規制相手国側が正当化する手段として使うということでございます。  二つ目に考えられますことは、残存輸入制限品目撤廃しておいて、次の段階国家貿易品目酪農製品食管の米の自由化を獲得しようというアメリカのいわゆる世界食糧戦略一つとして位置づけられるのではないかということでございます。私どもは、レーガン政権性格から言いまして、後者の方がアメリカのねらいであるという気がいたしてならないわけでございます。  したがって私どもは、今回の農畜産物自由化問題をこのような性格のものとして位置づけまして、系統の農協組織を挙げまして阻止運動を現在展開いたしておる次第でございます。  第二点といたしまして、次に、農畜産物貿易に対する基本的見解について申し上げたいと思います。  昨日私ども農協ビルアメリカファームビューロー代表者が訪問をいたされました。ファームビューローは御案内のとおり、共和党系全米最大農民組織でございますが、恐らくアメリカ政府の指示を受けて農産物自由化問題に対する民間使節団一つとして訪日したことと考えられるわけでございます。話し合ってみまして、彼らとわれわれの農畜産物貿易に対する基本的な認識の相違を痛感いたした次第でございます。彼らの考え方は、これは恐らく政府を初めといたしましてアメリカ全体の考え方だと思うわけでございますが、そういう点で参考までに申し上げたいと思うわけでございます。彼らは、農産物貿易に関しては、他の工業製品と同様に自由化原則とすべきだという考え方を述べておるわけでございます。したがって、日本からこれだけ工業製品アメリカは輸入しているのだから、日本農産物を買うのは当然ではないかということを主張いたしておるわけでございます。  人間は、だれでも自分の置かれている環境立場によって物の考え方が違ってくるものだということを痛切に感じさせられたわけでございます。広大な土地に恵まれて、生産物の三分の二を輸出している農業者立場から言えば、これは当然の主張だとは考えられるわけでございますが、この点われわれとは全く見解を異にいたしておるわけでございます。私どもは、農畜産物貿易自由化原則とすべきではない、でき得る限り国内生産をいたしまして、不足する物についてそれに限り、輸入すべきだという考え方に立っておるわけでございます。  その理由二つございます。  一つは、一国の農業は、国土を保全するとともに国民の命につながる食糧供給の機能を担っているからでございます。このことについてはすでに国会でも御決議になっておることでございますので、ちょうちょう申し上げる必要はないことと思います。  第二は、農畜産物自由貿易を認めれば、生産性の高い国の農業生産性の低い国の農業を滅ぼすということでございます。このことは長期的、また、全地球的な規模で考えた場合に、許さるべき問題ではございません。近い将来、食糧の絶対量の不足が見込まれる状態の中で、それぞれの国ができる限り農地を保全し、生産力維持向上を図ることが国際的な倫理であると私どもは考えておる次第でございます。  第三点について申し上げます。  次に、自由化問題にどう対処するかということでございますが、このことについて近くわれわれは冊子に取りまとめまして先生方に御送付申し上げますので、詳しいことは省略いたしますが、さきに申し上げましたとおり、今回の農産物自由化問題は、相手国経済不況のさなかに日本からの工業製品の過度な輸出が行われたことによりまして貿易摩擦問題が起こり、それが農畜産物自由化問題の原因でございますので、その原因を除去する以外に方法はないと考えるわけでございます。それには、わが国自身輸出偏重経済政策を改めまして、すなわち、もっと内需を振興して、余り輸出に頼らなくても経済の運営ができるような体質に改めることが大切だと考えるわけでございます。もちろん、日本資源の乏しい国でございまして、ある程度輸出がなければ国が立ち行かないことはわかりきったことでございますが、アメリカでは現在一千万人の失業者を抱え、ECでは千二百万人の失業者を抱えておる現状でございます。経済成長率もそれぞれの国もゼロに近い状態の中で非常に苦しんでおるのが実態でございます。ひとりわが国だけが、競争力があるからといって、工業製品を湯水のごとく輸出をいたしまして繁栄を遂げることが、果たして現在の国際環境の中で許されるかどうかということにつきまして、私どもは疑問を感ずるわけでございます。したがって、われわれは農畜産物自由化阻止のためには、まずもって国内経済政策転換先生方お願いを申し上げる次第でございます。  以上、簡単でございますが、参考人意見陳述を終わります。(拍手)
  4. 羽田孜

    羽田委員長 ありがとうございました。  次に、谷本参考人お願いいたします。
  5. 谷本たかし

    谷本参考人 全日農の書記長谷本たかしであります。  農民の一日当たりの農業生産労働報酬は、高度経済成長時代には製造業賃金の六割から七割台でありましたが、今日では五割そこそこに下げられてまいりました。これは生産過剰の名において生産調整が主な作目において実施されてきたと同時に、長い間、生産者価格が据え置かれてまいりました。その反面、農業用生産資材の方は値上がりをいたしまして、農家所得率が急激に下がってきたということによってもたらされたものであります。  こうした状況の中で注目をしなければならないのは、情勢が厳しくなると大型農家が育っていくという見方があるのでありますが、たとえば、水田で言うなら三ヘクタール以上の上層農家が減少に転ずるという状態があらわれてまいりました。情勢の厳しさの中で、農家全体が崩落をせざるを得ないという状態が強まったということであります。  農業危機的状況を生み出した背景には、農畜産物輸入拡大がございました。ガットにいたしましても、生産調整が実施されている作目については輸入制限を例外的に認めることにしております。したがいまして、今日の日本農業危機を乗り切っていくのには、ガットのそれに見合うような施策を政府が展開しながら、農産物過剰輸入をどう規制するかというところに農政の焦点が合わされていかなければなりません。しかしながら、現実は輸入削減どころか農畜産物輸入自由化枠拡大が俎上に上せられてまいりました。  アメリカ日本財界主張のように、農畜産物輸入自由化枠拡大を行っていったらどうなっていくのでありましょう。自由化品目一つずつについて見ますというと、それぞれが壊滅的打撃を受けることは言うまでもありません。さらに問題なのは、その打撃が他作目へも波及するということであります。たとえば、牛肉輸入自由化について見てみますと、今日危機的状況にある酪農に対し、重大な追撃を加えることになっていくでありましょう。酪農の大きな副産物となっております乳雄子牛価格の暴落でそれが行われるということであります。さらに、他の肉畜農家に対する打撃波及も言うまでもありません。  米作にしても例外ではないと思います。国産の食肉が安い輸入肉に置きかえられ、消費者価格大幅引き下げをもしもたらすとするならば、米食率の低下に拍車がかけられていきます。他方その反面、米の生産調整のための転作物、これが狭められるということによって米の減反も袋小路に追い詰められる状態になるのではないでしょうか。こうした問題とともに、政府貿易摩擦対処方針現状のままでは、近い将来に米の自由化もまた不可避とされていくのではないでしょうか。  政府は、工業製品輸出突出型の経済構造をそのままに貿易拡大均衡を目指そうとしております。他方、欧米の工業製品競争力の回復は容易ではない事態にあるのでありますから、そうした点を見てみますというと、アメリカ等農産物自由化攻勢は今回で終わるのではなしに、第二ラウンド、第三ラウンドと続いていくことが十分予測されます。それがやがて米の自由化不可避とするような状態を生んでいくのではないかということであります。現にアメリカでは水田開発が進んでおります。資源収奪型のアメリカ農業の限界が取りざたされる時代を迎えまして、アメリカにおける水田開発の趨勢は強まっても弱まる可能性はないと思います。  こうした状況の中で、たとえば現在、アメリカたばこメジャーが、レーガン政府を説き起こしながら日本の専売の流通部門自由化要求するような事態が展開されつつありますが、これと同じように穀物メジャーアメリカ政府のしりをたたいて、日本食管の解体を迫るような状況が生まれてくるおそれなしといたしません。いまこそ、農業はつぶしてよいのかどうか、そのことが問われなければならない状況に来たと思います。  日本食糧自給率は実質四〇%だとされておりますが、そうした自給率をさらに引き下げて、核ばかりか食糧も対米全面依存に等しい状態にしていくことが日本自主的外交と平和を守ることにとってどういう影響が出るかを考えていかなければならぬでありましょう。またさらに、急ピッチさで高齢化社会を迎える中で、政府の見通しによりますというと、昭和六十五年には五十五歳以上の労働力は三百三十万人も過剰になるとされています。このような状況の中で、終身雇用ともいうべき農業をつぶしてよいのかどうか、このことも同時に問われていかなければなりません。  さらにまた、八〇年代は都市化時代だと言われております。都市問題で解決を要するのは、いかにして過密化を防止するかということにあります。諸外国に例のない過密工業化社会形成を可能にしてきたのは、恵まれた日本自然条件であり、そしてその自然条件を支えてきたものは、農家や林家の生産労働力にあったことは言うまでもありません。過疎過密の進行はうらはらであります。過疎山間地のみか平場に広げ、国土自然環境保全を危うくするような農畜産物輸入自由化枠拡大をしてよいのかどうか、このことも問われていかなければならぬと思います。  貿易摩擦解消の道は、ECと比べてみても、控え目な農産物輸入制限措置撤廃に求めるべきではありません。農業をつぶす輸出突出型経済構造肥大化ではなくて、勤労国民購買力を引き上げ、国内購買力拡大を通し、輸出を節度あるものに改めることに求めるべきであります。つまり、国民が求める福祉社会への転換基本に据えながら、農産物輸入制限措置は守っていくということにしなければならぬと思います。  簡単でございますが、時間が参りましたので、以上を申し上げて、私の発言を終わりたいと思います。ありがとうございました。
  6. 羽田孜

    羽田委員長 ありがとうございました。  次に、救仁郷参考人お願いいたします。
  7. 救仁郷義房

    救仁郷参考人 鹿児島農協中央会長救仁郷でございます。本日は、当委員会におきまして参考人といたしましての意見を述べさせていただきますことを感謝申し上げるわけであります。  初めに、自由化肉用牛生産に及ぼす影響、また畜産県でございます鹿児島県に及ぼす影響について、意見を申し上げます。  第一に、牛肉自由化肉牛生産を壊滅させるということになると考えております。それは三つの理由からでございますが、一つは、言うまでもなく、アメリカ日本価格差でございます。肉用牛生産は、施設によりまして短期間に工場的生産方式をとれる豚や鶏と違いまして、一生産が約五年という長期間を要します土地利用型のきわめて農業的農業でございます。アメリカ土地基盤飼料基盤との格差は歴然といたしておりまして、日本現状では、これによって生じます価格差解消はきわめて困難であると考えるわけであります。したがいまして、牛肉自由化されますと、たちまち国産牛肉は駆逐をされまして、肉用牛生産を壊滅させる、このように考えるわけであります。  二つ目理由は、農家生産意欲の喪失でございます。私は、この生産意欲の方を重視しているのでございます。  先般の五十七年度畜産物価格決定の際にも明らかにされましたように、肉用牛農家は多額の負債を抱え込んで生産に取り組んでおるわけでありますが、やめられるものならやめてしまいたいというのが、多くの畜産農家の偽らざる心情であろうと考えます。このようなときに自由化が行われますと、農家に決定的な精神的打撃を与えまして、一挙に生産意欲は喪失いたしまして、肉用牛生産を放棄させることになると思うのでございます。現に、ことし三月に入りまして、私ども鹿児島県におきます小牛価格は、一頭当たり五万から六万円も下落をしておるわけでありますが、これは、自由化の不安が肥育農家の買い控えを誘った結果でございます。牛にはサイクルがございまして、三年続いた子牛高はそろそろ変化を見せるときでございます。肉用牛農家にとりましてはいまが買いどきである、そういう時期にもかかわりませず、その意欲がわかないのでございます。  三つ目には、肉用牛生産は、一たん中止をいたしますとなかなか復元できないということでございます。先ほども申し上げましたように、生まれてから出荷までの一サイクルは約五年を要しますし、かつ、年一産という増殖でございますから、もとの状態に復元するのはきわめて困難でございます。したがいまして、牛肉自由化は、わが国肉用牛生産を壊滅させ、国産牛肉をなくすことになるであろう、このように考えておるわけでございます。  第二に、牛肉自由化は、農業全体を衰退させまして、さらに、水田利用再編を基軸にいたしておりますわが国農業を根底から覆すことになると考えております。肉用牛生産は、その大部分が米や野菜との複合経営の中で行われておるわけでありますので、経営の一方がつぶれることは、他方の存立を危うくすることになるわけであります。また、水田利用再編の中で、転作作目の五割以上を占めている飼料作物もその方向を失いまして、地域複合農業も成り立たなくなる、このように考えるわけであります。  三番目に、鹿児島県ベースで申し上げますと、牛肉自由化はもっとひどい結果をもたらすと見ておるわけであります。私ども鹿児島県は、農業生産額の二分の一を畜産によって占めておるわけでありますが、また、農家戸数の約二分の一が畜産に従事をいたしております。畜産の柱は、言うまでもございませんが肉用牛でございますので、先ほどから申し上げておりますように、肉用牛生産が壊滅しますと、農業全体も壊滅の危機に瀕することになるわけでございます。この十年間に、畜産は五倍の成長を遂げております。さらに、六十五年には現在の一・七倍という県の生産計画を立てておりますが、水田利用再編対策の重点戦略作目といたしまして畜産を位置づけた鹿児島県の農業全体が根本から崩されることになってしまうのであります。  鹿児島経済に及ぼします影響ははかり知れないものがあろうと考えます。さらに、畜産関連産業だけで見ましても、資材供給に当たります飼料製造販売業、動物薬品や草地開発などの業種、畜産物の産地処理あるいは加工業、流通販売業、獣医師や家畜商などを初めといたします畜産サービス業、農協などの農業団体等々の経営悪化や就業機会の減少をもたらします。そしてさらに、これらすべての業種と取引のございますすべての産業に関連をいたしますので、県民生活そのものにかかわってくると考えるわけでございます。  特に、農業を基盤といたします本県にありましては、農業の盛衰が直接中小商工業者の経営を左右しますので、自由化問題の推移に重大な関心を持ち、非常に心配をしているところでございます。鹿児島県のような農業県におきましては、何よりも農業者の精神的、経済的活力がなければ、地域社会の活気が出てこないのでございますから、牛肉オレンジを初め農産物自由化には、県、市町村あるいは議会、農業団体を挙げまして、絶対阻止の要請をしているところでございます。  以上、自由化影響について申し上げてまいりましたが、私は、農産物輸入制限は、アメリカには食肉輸入法があり、ECには課徴金制度がありましてそれぞれ制限をしているのであり、わが国におきましても当然制限すべきであると考えます。それは、食糧安全保障はそれぞれの国民にとりまして重要であり、また、それぞれの国によって農業条件の相違があるのでありますから、当然のことだと考えるからでございます。  また、消費者価格の観点から自由化主張する人々も多いのでありますが、私はこれについては次のように考えております。  まず、消費者価格は輸入によりまして長期的に安くなるかということでありますが、特に、牛肉については、輸出国が御案内のとおり特定少数の国であり、その量も、世界全体から見ますというと不足ぎみでありますから、いつまでも安い価格を期待できないのではないか、このように考えるわけであります。また、この価格につきましては、わが国商社の行動様式や国内の流通構造の問題もあり、私は大きな疑問を感じておる次第でございます。価格も大事ではあるわけでありますが、それよりもむしろ国内自給度を向上いたしまして、長期安定的供給体制を早期に確立すべきであると考えます。特に、牛肉につきましては、先ほど来申し上げましたように、全くなくなったからといいましても、すぐ手に入る状態はつくれないということを強調申し上げたいのであります。  私ども生産者は、決して、農産物価格が高ければよいというひとりよがり的な考え方は持っておりません。何とかいたしまして、国民消費者の皆さんに安くしかも安全に供給できるようにという願いをかねがね持っておりまして、苦心、努力をしているのであります。十分御理解をいただきまして、自由化だけはぜひ阻止していただきたいことをお願いを申し上げまして、私の意見開陳を終わらしていただきます。ありがとうございました。(拍手)
  8. 羽田孜

    羽田委員長 ありがとうございました。  次に、高門参考人お願いいたします。
  9. 高門嘉夫留

    ○高門参考人 私は、農業団体の役員を務めておりますとともに、二ヘクタールのミカン園を自営しております農家でもあります。  いま柑橘地帯の農家で、その厳しさを端的にあらわしているものの一つに、農家の後継者の問題と後継者の嫁の問題があります。  愛媛県は、御承知のとおり、温州ミカン生産日本一、文字どおり果樹県でありますが、農家数九万八千六百戸、十八歳から三十五歳までの就農青年数は一万八百三十二名、専業農家一万五千八百戸の後継者要確保数は五百二十六名でありますが、ここ五カ年間の平均新規就農者は百四十名で、新規補充率はわずか二七%の現状であります。しかも、数少ない農業後継者に嫁の来手が少ない、まことに深刻な問題であります。愛媛ミカン発祥の地と言われるある有名な町、これは特に名前は出してくれるな、さらに嫁の来手がなくなるからということでありますが、その柑橘中心の地区でありますが、それは総農家戸数三百五戸。うち柑橘専業農家百八十九戸でありますが、その地区で、先般調査してみますと、三十歳以上の未婚者の農業後継者が実に七十名を超えているのであります。好況をうたい、活況を呈しておりました地区だけに、本当に深刻な悩みでありまして、このことは、大小の差はあっても全国に共通しておる大きな問題であると思うわけでございます。それは、とりもなおさず、現在の柑橘経営の厳しさを反映していると思います。しかし、厳しさは他産業と同様でありまして、これは努力によって乗り越えていかなければなりません。しかし、一番の問題は、特に、相次ぐ自由化枠拡大など展望のない果樹農業に不安を持って、そのことが非常に意欲をそぎ、嫁の来手もないということの大きな原因であります。そのような実情を踏まえまして、以下数点申し上げてみたいと思います。  第一に、柑橘類の位置づけと農業経営における重要性についてであります。  果樹栽培面積は全国で四十万四千ヘクタール、生産農家八十一万七千戸でありまして、うち柑橘面積は十八万五千ヘクタール、生産農家は約三十万戸であり、いずれも全果樹農家の四〇%を占めております。地域農業の面から見ましても、柑橘類は西南暖地の基幹的作物でありまして、農業生産額に占める柑橘類の生産額は、和歌山県の三三%、愛媛県の二七%を初め、佐賀、熊本、長崎その他三十県に近い各生産県におきましても、農業生産額の中でそのウエートはきわめて高いのであります。  一方、消費の面で見ましても、国民一人当たりの果実類の購入量は四十一・六キログラム、うち柑橘は十九・一キログラムと約五割を占めております。食生活にきわめて密着したものとなっておりまして、特に、温州ミカンの購入量は一人当たり十四・五キログラムと単品ではずば抜けた量となっております。国民にいかに好まれているかを示しているのであります。  第二に、柑橘農家は近年非常に苦しい状況下にあります。  柑橘農家の中心であります温州ミカンは、高度成長期に作付が急増いたしまして、昭和四十七年に初めて生産量が三百万トンを超え、大暴落をいたしました。加えて、その後の生果消費の減退も加わりまして生産過剰が定着し、それ以降ほとんど毎年生産費が償えない赤字経営が続いております。生果消費の減退に対応するために、生産者団体は果汁の消費増加に着目をいたしまして、その拡大によって温州ミカンの需要の安定化に努めてきたのであります。つまり、天候に絶えず支配されるのが農業でありまして、ミカンも例外ではございません。豊凶の差は年によって百万トンにも及ぶのであります。その豊凶の差を安定的に調整し、あわせて果汁による消費拡大を図ろうとするのが果汁工場でありまして、この約十年間の短い期間に十四県で二十の工場が設置され、温州ミカンの搾汁仕向け量も、昭和四十六年の十四万トンから、五十四年には百万トンに増加し、五十五年の不作年でありましても五十九万トンに達しておるのであります。  しかし、順調な伸びが予想された果汁消費も、最近は年間六万トン台、これは五分の一濃縮果汁でありまして、十キログラム当たりの原料で約一キロの濃縮果汁ができるわけでございます。六万トン台で伸び悩んでおります。苦しい経営の中で各工場がみずから三億円に近い資金を拠出いたしまして消費拡大を進めるなど、懸命の努力をいたしておるわけでございますが、五十六年末には五万四千トン、約九・五カ月分の過剰在庫を抱え、調整保管が行われておるのであります。農協搾汁工場は、五十五年度におきまして、長期負債二百億円、繰越損失十億円を計上しております。しかし、この温州ミカンの需給調整を優先させる経営方針をとらざるを得ない環境にありますだけに、今後、経営は一層悪化が見込まれておるのであります。  このような温州ミカンの生果、加工仕向け、この双方の価格低迷から、ミカン農家一日当たりの家族労働報酬は、五十四年、五十五年平均でわずか千七百六十二円となっておりまして、お米の三分の一程度にしかすぎないわけでございまして、農業経営を著しく圧迫しているのであります。  第三に、苦況から脱出するためにあらゆる努力を私たちは続けております。  まず、温州ミカン生果需要の減退を極力少なくするために、優良系統への更新、極わせ品種の導入等、出荷期間の拡大を図っております。さらに伊予柑、ネーブルなどの中晩柑類、外国産導入品種など、周年供給できる体制づくりに懸命の努力をしているのであります。また、わが国の柑橘園の大部分は傾斜地でありますが、可能な限りの生産性の向上にも努めておるのであります。しかし、生果消費の減退傾向の中で、これらの対策のみではいかんともしがたく、五十四年度から温州ミカン園の二〇%に相当する三万ヘクタールの園地を転換する大事業に関係団体、生産者が一丸となって取り組んでいるのでございます。祖先から受け継ぎました木を切るということは本当に涙の出る思いでございますが、懸命にやっておるのでございます。価格が低迷しておる中でこの対策を進めることは容易ではありません。  柑橘類は永年作目でありまして、生育には時間がかかります。技術が進んだ今日でも、改植更新である程度の収入を得るためには、最低五年はかかるのであります。そしてまた、他作物の転換にいたしましても、伐採の費用に加えて、転換先の作物から収入を上げるまでは相当の期間が要るのであります。十年間にわたる赤字の中で、すでに転換を行った作物、特に、中晩柑類から上がる収入は貴重なものでございます。それは、やや不安定でありましても、兼業収入と合わせまして、柑橘農家のいわば現在の活力源でありますし、苦境の中で諸対策を進める原動力でもあるのでありますが、オレンジの輸入増加、特に、季節自由化等は、改植更新したその中晩柑ともろにぶつかるのであります。  第四は、オレンジ、果汁の自由化枠拡大は柑橘農家に致命的な打撃を与えることになります。  まず、果物、果汁の消費の伸びは期待できにくい状況があります。生果実の一人当たりの家計消費量は、四十七年の七十三・三キログラムをピークに減少を続けております。五十五年は六十五・四キログラム、柑橘類においても、中晩柑の増加はありますが、温州ミカンの減少を補うには不足しており、全体としてはやはり減少傾向にあります。ジュースについても、一世帯当たり年間支出額は、五十三年をピークに減少しておりまして、JAS格づけの実績から見ましても、果実飲料全体の消費は五十四年以降横ばいであります。特に、わが国の果実飲料は、アメリカと異なり、食事の一部としてではなく、渇きをいやすものとして嗜好品的に消費されておりまして、果汁分の少ないものが大部分を占め、必死の販売努力にもかかわりませず、この傾向は今後とも大きく変わることは考えられないのであります。したがって、オレンジ、果汁が自由化された場合、その輸入増は新需要の創出ではなく、既存需要に置きかえる形で行われることは間違いないと思うのでございます。  また、農家は、苦境の中で生産性の向上に努めておりますが、園地の大半が十五度以上の急傾斜地でありまして、平均規模は〇・五ヘクタール、機械化、大型化は容易ではなく、競争力に乏しいことは御承知のとおりであります。したがって、自由化されますと、オレンジの場合、国産柑橘類の出回り期であります冬、春の時期を初めとする輸入の増大、これに伴います価格の大幅な下落が生じ、生産の増加している晩柑類に大きな打撃を与えるのみでなく、温州ミカンにも相当の影響を与えることは間違いなく、また、技術的、コスト的にも、オレンジは三カ月程度の貯蔵は十分可能で、季節自由化は半年間ほどの自由化につながるということになるわけでございます。さらに、桃などを初め落葉果樹の夏果実はもとより、柑橘類さらに果菜類などにも大きい影響を与えるのであります。  御承知のように、すでに自由化されておりますレモン、グレープフルーツ、オレンジを合わせますと三十五万五千トン輸入されております。これは日本の中晩柑類の約五〇%でございます。なお、バナナ、パイナップル、その他の果物を合わせますと、実に百二十万トンを超える果物がすでに輸入されております。これは日本の温州ミカンの生果販売量の約半分以上でございますし、また落葉果樹を含めた果物の一六%にも値するのであります。すでに日本市場はたっぷり外国産につかっているのでございます。  なお、果汁におきましても、年間需要量の約二〇%近いものが輸入されておりまして、これ以上輸入されますと、温州ミカン果汁は壊滅的な打撃を受けることは間違いないと思うのでございます。これは、オレンジ自由化と相まって、生果、果汁一体となって表年、裏年の収量変動を調整して、消費者に安定した供給を行っております温州ミカン供給体制の維持を困難にするのみでございません。長期的に見れば、消費者にとっても大きな影響をもたらすものと考えるのであります。  以上申し上げましたように、過剰と消費停滞の中で、永年作物の苦しい転換を迫られ、必死の努力をしているわが国果樹産業に対しまして、将来の展望を明らかにしていただくことを強く願いたいのであります。  私たち農家は、単に自由化反対を唱えるのみでなく、外国に負けないものを生産し、消費者に提供する努力を惜しみなく続けなければならないと思います。しかし、わが国果樹産業に大きな打撃を与えますこれ以上の枠拡大、季節自由化を含めた自由化に強く反対し、意見発表を終えたいと思います。  以上でございます。(拍手)
  10. 羽田孜

    羽田委員長 ありがとうございました。  次に、白石参考人お願いいたします。
  11. 白石孝一郎

    ○白石参考人 群馬富岡市長白石孝一郎でございます。  お許しをいただきまして、一言農産物自由化に関して、コンニャクの生産事情等について意見を述べる機会を与えられましたので、産地行政としての切実な生の声を申し上げたいと思います。  あらかじめお断りしておきたいことは、コンニャクイモのほかにも、それぞれの地域の特産物として、地域農業振興農家生活の安定、向上には欠かすことのできないたとえば、落花生、小豆等の作物があり、これらについても、コンニャクイモと同様、現在の輸入割り当て制度のもとで保護育成する必要があることにも十分御配慮をお願いしたいと思っております。  それでは、コンニャクイモの生産事情について述べさせていただきます。  まず第一に、コンニャクは山間地域の基幹作物であるということでございます。コンニャクイモは、群馬県を筆頭といたしまして、関東、南東北、四国、中国等に栽培され、その産地は山間傾斜地に集中をし、基幹作物として定着しており、これらの産地では、他に転換する換金作物が全くなく、また、都市近郊と異なり、兼業の機会もきわめて少なく、コンニャクを除いては農家の経営を維持することは考えられません。特に、私たちの産地では、急傾斜地の畑のために、機械化による生産性向上には限界があります。現在でも、人間の背中で種イモ、肥料、生産物を運搬いたしておる現況でございます。それにもかかわらず、コンニャクにかわる作物がないために、基幹作物として専業的に取り組んでおります。  これを裏づける資料として、多少数字を申し上げさせていただきます。  主要な産地の栽培状況を見ますと、ほとんどが傾斜地で栽培されております。群馬県では七〇%、福島県では四四%、茨城県では九八%、栃木県では六〇%、埼玉県では七八%、広島県では八四%と山間傾斜地での栽培が多い現況でございます。また、群馬県の主要産地の畑作面積に対するコンニャク面積の割合を申し上げますと、富岡市が六六%、甘楽町が五七%、南牧村が五四%、下仁田町が四七%、子持村が六八%、川場村が七五%となっております。コンニャクイモが主要な地位にあることがわかっていただけると思います。  第二に、山間地農業の唯一の収入源であるということでございます。  前にも述べたとおり、立地条件等から、換金作物がないために、山間地ではコンニャクイモの作付の比率が高く、反面、生産資材の高騰、コンニャク価格の低迷、消費の横ばい等、これ等に対処しての生産調整の悪条件にもかかわらず、日夜生活の維持のために生産に努力いたしておるところでございます。そこで、群馬県下の主要産地のコンニャクイモの生産額の耕種別部門に占める割合を見ますと、富岡市では四五%、妙義町は四四・二%、下仁田町は五〇・五%、南牧村は五〇・八%、吾妻町は四四・六%と高くなっております。コンニャクの動向はきわめて大きな影響を及ぼしております。  ところで、現在コンニャクの消費はここ数年来横ばいになっております。また、コンニャク原料の価格も五十三年以来低迷いたしておりまして、産地は苦境に立っております。このため、群馬県を初めとする各県では新製品の開発等、消費拡大に努力いたしておることは御案内のとおりでございます。  第三に、地域経済に及ぼす影響についてでありますが、コンニャクイモの産地においては、生産者の他に、コンニャク加工業者が数多くおられます。当富岡市を中心といたしましても、周辺市町村に加工業者が約百社あり、これに従事する、関連する従業員等も数多く、産地の経済を支えておる点を見ましても、この状況を申し上げて、もしコンニャクが自由化されるとすれば、要約して次のような事態となることは火を見るより明らかでございます。  コンニャクの輸入品は中国、インドネシア等に自生しております。かつ、大量にあるため、価格はきわめて安く、国内産は全く競争はできません。日本のコンニャク生産は壊滅状態になります。二つ目は、わが国のコンニャクは、山間傾斜地における基幹作物として、農家経営にきわめて重要な作物でありますが、他に転換すべき有利な換金作物はないわけでございます。コンニャクの栽培農家の経営が成立しなくなります。三つ目は、農家ばかりでなく、コンニャク産地に密着した零細な原料商及び加工業者の経営が崩壊し、経済に重大な影響を及ぼすことでございます。そのためにも、当議会では満場一致コンニャク外産の反対の議決をいたしております。関係する町村でも同じことが言われます。  なお、現在においてコンニャクイモの価格は安く、消費者からもっと安くせよという、自由化をしてほしいという声を聞いたこともございません。世界でコンニャクを食べるのは日本人のみでございまして、日本の固有の産業でございます。輸入先も中国、インドネシアであるために、対米貿易摩擦解消策としては全く寄与しないと信ずるものでございます。  最後に、重ねてお願い申し上げますが、コンニャクイモで生きている山間の農民のためにも、コンニャク輸入の自由化は絶対しないようお願いを申し上げまして、私の意見といたします。大変ありがとうございました。(拍手)
  12. 羽田孜

    羽田委員長 ありがとうございました。  次に、池尻参考人お願いいたします。
  13. 池尻文二

    池尻参考人 私は、全漁連の副会長池尻でございます。漁業の立場から、水産物の自由化問題につきまして、二、三意見を述べてみたいと思います。  先生方御承知のとおり、わが国はすでに質、量ともに世界第一の漁業の生産国でございまして、従来歴史的にも、現在に至るまでその地位を外国に譲っておらない生産国でございますが、同時に、世界第一の水産物の輸入国でございます。すでに昭和五十四年、一番輸入額がふえましたときに九千三百七億円の輸入額、つまり、輸入は一兆円産業になりまして、世界第一の漁獲量を誇る日本全体の生産額の三五%、量におきまして一六%という輸入を行っておりまして、いかに日本国民が魚食国民であるかということを歴史的にも物語っていると思うわけでございます。  そしてまた、いま貿易摩擦で問題になっておりますアメリカとの関係におきましては、従来は韓国が日本の輸入国であったわけでございますが、現在ではすでにアメリカの水産物が韓国を抜いて、日本のお得意先の第一位になっておりまして、アメリカから相当の水産物を買っているという関係になっております。それからまた、漁業は御承知のとおり日本漁民のお家芸のところがございまして、したがって、かなり競争力基本的に持っているという面がございまして、そのためにすでに二、三十年前から逐次自由化は進んでまいっておるわけでございます。御案内のとおり、日本の漁民の生産力の乏しい、たとえば、カズノコであるとかエビだとかあるいはカニだとか、あるいはタコあるいはタイ等の高級魚、モンゴイカ等の高級品がすべて自由化をされておるわけでございまして、しかもまた、供給力の相当あるいわゆるカツオ、マグロあるいはサケ、マヌあるいはスジコ、ワカメ、そういったものもとっくの昔から自由化になっておりまして、早く自由化したために、ときどきこのカツオ、マグロあるいはワカメ等は毎年韓国との間に価格戦争を起こしておる実情でございますが、すでに自由化になっておりますので、どうしても手が打てないという実情でございます。  そこで、現在残されておりますいわゆる制限品目は、御案内のとおりイワシだとかアジ、サバだとかタラ、ニシン、イカ、ブリ等の多獲性魚と、それからホタテ、昆布、ノリ等のいわゆる沿岸の養殖だけでございまして、これを自由化しましたときに、農業の視点と違いますのは、価格の問題ではなくて、いま申し上げました多獲性魚は日本列島周辺でとれるわけでございまして、日本の周囲を見渡してみますと、ソ連あるいは朝鮮民主主義人民共和国あるいは韓国、それから台湾、中国、いずれも漁業には非常に関心を持った国でございまして、もしこれを自由化いたしますると、いわゆる資源といいますか、日本市場を目指してそういう国がいわゆる漁獲努力を向上させる可能性を持っておりまして、これが将来の漁場資源に対しての非常に略奪戦というものになって混乱をさせるという、その要因が一つあるわけでございます。しかも、中国並びに韓国に対しては、日本は二百海里規制というのがなかなか困難でありますので、もしそれが実現されるということになりますと、日本の沿岸あるいは沖合いの基幹的漁業に非常な困難をもたらすというのが一点でございます。  それから、昆布だとかあるいはホタテだとかあるいはノリだとかというものは、これは全く農産物と一緒でございまして、特に、北海道あるいは九州その他の零細の漁民が代替性のない作物をいわゆる海でつくっているわけでございまして、これはなかなか自由化のできるものではない、私どもそういうふうに考えておるわけでございます。  それからまた、これももう言われておることでございますが、対米貿易摩擦の視点から考えますと、アメリカには何らの——何らのと言っては失礼でございますけれども、メリットがないわけでございまして、先ほど申し上げました昆布だとかあるいはタラ、ニシンはソ連から、ブリ、サバ、イカは韓国から、あるいはタラコは北朝鮮から、あるいはニシンはソ連、カナダ等から入ってくるわけでございまして、アメリカにとっては何らのメリットもないというようなことでございます。アメリカ側もこれは十分承知をしておりまして、現在行われております実務者会談でも、水産物についてはのっけから自由化しろというトーンではなくて、いわゆる割り当て運用の改善だとか、昨日北洋漁民が大会をやりました、いわゆるアメリカ水域におけるアラスカ漁民がとったスケソウダラを、日本に洋上で買ってくれという数量を二十万トンあるいは四十万トンにふやせというまことにとてつもない要求をしておるわけでございまして、しかも、これに色よい返事をしないと、ことしの日本に対する漁獲割り当て量を出さないというような、非常に頭に血が上がったようなことを現在申しておりまして、これが一面の摩擦を起こしておるわけでございまして、昨日、漁民大会をやりましたのもそのことでございます。  以上が、大体水産物の持っておる問題点でございますが、私、本日ここに参りますときに、どなたの評論家でございましたか、ラジオでこういうことを申されておりました。これは、先ほど全中の山口さんがおっしゃいましたことと関連があるわけでございますが、農産物自由化と言ったって、これは世界的に非常にむずかしい問題を持っている。それよりも、現在摩擦が起こる原因というものを考えたならば、これは漁業、農業の視点を少し離れるわけでございますけれども、いわゆる先進産業国に現在痛烈な再構築の時代が来ているということではないかという視点でございます。つまり、五十年、六十年代は先進産業国は供給サイドで、供給は無限であるという鉄則で経済の運営をやってきた。ところが、この神話もいわゆる石油ショックで崩れた。同時に、水、緑、空気あるいは土地、そういう環境的な資源というものも無限なものではないという意識がはっきりしてきた。そうなれば、いわゆる需要、供給の両面から従来のハンドルさばきというものについて手法を変えなければやっていけない。そこが産業的には、たとえばアメリカの自動車産業であるし日本にとっても石油化学あるいは石油精製それからアルミ産業そういったもので、日本といえどもこの宿命から逃れることはできないというようなことで、その再構築は、何と申しますか、モーターボートの方向を切りかえることでなくて、タンカーの方向を切りかえるように徐々にいかなければならない性格のものを持っている。つまり、そういう再構築をやらなければならない産業というものは、いわば人間が成人病にかかって長期に食療法をするとかあるいは入院をして手術をするとか、そういったような長期なものであって、そういった病人のところに、元気なびんびんしている者が、競争の自由の原理とかいうようなものでどんどん商品を売ってきたのでは、これはたまったものではないというようなことで、やはりそこは、入院している間だけは競争というものについての考え方をお互いに避けていくという基本的な経済運営の努力をしない限り、この摩擦というものは短期的には直らないというようなことを申されておりました。  したがって、いまアメリカが本当に日本農産物を代替に貿易摩擦解消ができるということを考えておるわけではございませずに、先ほどわが国経済運営につきましてもお互いの先進国の機能をどういうふうに分担して、全体の整合性をどういうふうに長期的にかじをとっていくかという基本的な政策というものを前面に出さないと、農民、漁民が余りにもかわいそうであるというようなことを申しておりましたが、私も同感でございまして、本日は、ちょうど参考人に呼ばれましたので、このことをひとつ最後につけ加えまして、私の意見開陳を終わりたいと思います。(拍手)
  14. 羽田孜

    羽田委員長 ありがとうございました。  次に、唯是参考人お願いいたします。
  15. 唯是康彦

    ○唯是参考人 千葉大学の唯是でございます。  アメリカ農産物自由化に対する要求の、そこに期待するものを考えてみますと、三つあるように思います。一つは、農産物自由化によってアメリカの国際収支が改善されるのではないか、これが一点。第二番目は、この農産物自由化によってアメリカ農民が多大の利益を受けるのではないか、これが第二点。第三点は、日本が非自由化品目を二十二品目も残している、これは大変けしからぬ。つまり、日本農業の保護主義そのものに対してこれを何とか矯正しなければいけない、これが第三点。この三つの目的を持って要求しているように思います。この三点について私の感想を述べてみたいと思います。  第一点なんですけれども、これはすでに生産関係の方々がおっしゃっているように、大変無理な要求だと思うのですね。そもそもアメリカ経済が停滞しているということは、必ずしも日本農産物輸入をしないということではないし、もっと言えば、工業製品輸出に確かに日本は拍車がかかっておりますけれども、そのこと自体もアメリカは十分対応し切れなかったというところに大きな問題がございまして、それが農産物日本側の非自由化によって赤字になったというこの要求自体は無理な要求だと思います。また逆に、その自由化によってさらにこの赤字を解消しようということも大変無理だと思うのですね。  もうこれも皆さんおっしゃっているように、日本農産物、水産物、林産物すべてについて世界第一位の輸入国でございます。ときにはソ連が不作で日本を追い抜くことはございますけれども、コンスタントには日本が第一位である。そればかりじゃなくて、その大変大きな輸入をしている中でも、たとえば、農産物について日本の輸入の三五%はアメリカから入れている。二位はオーストラリアですけれども、これは日本農産物輸入の八・五%でしかない。一位と二位に大変大きな差がある。大変アメリカから買っているわけですし、また、アメリカの方から見ましても、アメリカの全農産物輸出の一五%を日本輸出して、単独の国としては第一位である。日本農産物輸出最大のお得意様。二位はオランダですけれども、これはまた八%。アメリカ側から見ましてもやはり非常に大きな一位と二位の格差がある。こういうわけで、国際収支の改善ということを言うのであれば、むしろ、日本農林水産物において最大限の努力をしてすでに大きな輸入をやっておる。これがアメリカ側の期待したことに対する答えであって、十分こたえているじゃないか。むしろ日本にとって必要なことは、そのように大きく供給構造を変えましたからやはり食糧のシステムが昔と大変変わってゆがんでしまった、このシステムを何とか正常なものに戻していかなければいけない。  その一つ食糧安全保障対策だと思いますけれども、これまた、世界全体の環境も変わりまして、世界食糧システムも改善していかなければならない。こういう国内、国外、非常にグローバルな問題を考えてこれに対応しなければならないということこそ、この段階で大切であろうと思います。政府でそのような作業をされておりまして、私は、その点は大変好ましい、むしろ、この点についてははっきりとより明確に国の内外に対して説明をして、日本農林水産業に対する姿勢をはっきりした方が誤解がないのではないか、こういうふうに思います。  さて、二番目の問題ですが、この自由化によってアメリカ農民が多大の利益を受けるのではないか、こういう期待がございますけれども、これは大変むずかしい問題であろうと思います。確かに、非常に形式的に考えますとそのとおりなんですけれども、具体的には、先ほどコンニャクのお話がございましたが、実際、自由化によってアメリカが利益を受けないものがかなりあるのですね。一番目にはそういう問題がございます。また仮に、自由化によってアメリカが利益を受けることがあってもそれは余り大きなものではないのではないか、つまり、日本と西欧諸国との間の食生活の構造がかなり違いますので、これはアメリカ人側から見て期待したほどの結果にならないのじゃないか。牛肉にしてもオレンジにしても確かに高うございますから、安くすれば売れますけれどもアメリカ側が期待しているような状態にはならないと私は思いますね。嗜好上の差異ということについて、アメリカ側はやや理解が足りないのではないか、こういうように思います。  あるいはまた三つ目には、むしろ割り当てがあるからアメリカから買っている、これを撤廃してしまうとアメリカから買うのをやめてしまうという商品があります。たとえば、落花生は恐らく、アフラトキシンの問題などあって、むしろ中国の方が日本環境が似ていますのでより多く中国から入れるというようなこともあるでしょうね。これに類した話は、落花生ばかりじゃなくていろいろ考えられると思います。  四つ目には、自由化であろうと枠拡大であろうと、いずれにしても急激にやると農産物の価格が暴騰してしまうという問題がございます。これは、先ほど生産関係の方が皆さんたびたび指摘されておりますように、要するに、農林水産業というものは大変長い時間がかかる。経済学的に言いますと、資本の懐妊期間、木が育って一人前になる、動物が育って一人前になる、こういう資本が寝て、妊娠している期間が非常に長いわけですから、増産といっても急に増産はできませんし、これを余り強行いたしますと生態系に乱れが発生してしまう。こういうことがございますから、急激な輸入を日本がいたしますと、何といっても日本は大国ですから、国際的な農産物の価格上昇を招きます。これは過去に幾つかそういう例があるわけです。ですから、これはむしろアメリカ日本消費者にマイナスの影響を与えるかもしれない、この点も十分注意しなければいけないと思うのですね。  大体そういう意味で、二番目のアメリカ農民が大変利益を受けるのではないか、そういう面がないとはもちろん申し上げませんけれども、期待と現実が果たしてどれほど接近してくるか、これは大変問題でございまして、これは当事者がもっと具体的に問題を詰めるべきであるというふうに思います。  さて、第三番目なんですが、日本の非自由化品目が全体として二十七品目ある。そのうち二十二品目が農林水産に関してある。このこと自体がけしからぬ。これに対する非難というのは大変厳しいものがありますし、むしろ、これは農林水産に関係のない一般の人たちからかなり強く出てきます。日本国内においてもあるわけですね。これは、多少とも農林水産に理解のある人であれば、それなりの理由があってわかるのですけれども、必ずしもそうじゃない。私を初めある程度農林水産にタッチしている者は、そういうやや観念的な議論をしても意味がないんだというふうに思うのですが、しかし、これはむしろ楽観してはいけない一番重大な問題じゃないかと思うのですね。  と申しますのは、やはり日本の文化と西欧の文化は大変違いまして、いろんな面でフリクションを起こし、最近、金融とかサービスとかいろんな面でも苦情が出ていますけれども、それを突き詰めていくと、どうもお国柄が違うといったような問題などが大変ございます。そういう中で、結局よくわからない。しかし、とにかく日本は不公正なことをやっている。その証拠に農林水産物の非自由化品目が二十二ある。こんな国は先進国のどこにもない。フランスにしても十九ですか、アメリカなどは五つしかない、こういう状態なんですね。確かに、日本ガットに加盟したのが遅かったものですから、アメリカのようにウエーバーを十三も持っている、ああいうことはできなかった。この点はまことに残念だと思います。言うなら、アメリカでも非合法なことを幾らでもやっているじゃないか、こういうふうにして問い詰めることはできるのですけれども、とにかく、何といっても非自由化品目は二十二あるんだ。こんなに多い国はない。これは事情を知らない人にこういうことだけを言われますと、すべてが、幾らその前にいろんな弁解をしてもだめになってしまう。むしろ弁解すればするほど不公正なことをやっているんじゃないか、こういう問題に結びついてくると思います。  ですから、第三番目の問題は今回の日本にとっての最大の危機だ。これについてはやはり何とか数を減らす方向の姿勢をとらなければいけない。割り当てを持っているけれども、果たして本当にそれを全部消化しているんだろうか、本当にその割り当てが必要なんだろうか、こういう項目があると思うのです。あるいはまた、物によっては別な形態で輸入していて、実質的な割り当て制限をしながら、底が抜けているというものもあると思うのですね。こういうものについてはもっと検討して、多少前向きにこの問題を解決していかないと、日本全体が世界の中で孤立して大変大きな被害を受けるという可能性があります。確かに、農林水産業にとっては不当ないわれかもしれませんけれども、そういうことがむしろ問題にされないで、日本の工業あるいは経済全体あるいは文化に対する誤解を生むかもしれない。ですから、安全保障の問題を考えるにしても、世界全体、日本の中の需給バランスということも一つ安全保障の問題でしょうし、生産者、消費者の利益ということを確保することも安全保障でしょうけれども、また、政治的、文化的な理解を深めていく、これもやはり重大な安全保障ですから、やはり三番目の点では、自由化問題はもっと真剣に前向きに取り組むべきだ、これが私の意見でございます。(拍手)
  16. 羽田孜

    羽田委員長 ありがとうございました。  次に、杉本参考人お願いいたします。
  17. 杉本一

    杉本参考人 ただいま森林文化協会の常任理事をしております杉本でございます。  ただいまたくさんの方からいろいろな御意見がありましたが、私は最初に、当面の日米間の話し合いの問題から入っていきたいと思います。  農産物残存輸入制限問題について、事務レベルでの日米の話し合いが、アメリカ側が今後、ガットで協議をやるというふうに方針を変えたと伝えられました。と同時に一方では、きょうの新聞などを見ますと、非公式に米国政府が関税の引き下げとかあるいは輸入枠の拡大など六項目の改善策を日本に打診しているというようなことで、当面の交渉の段階がはなはだ不透明でありますし、アメリカが何を本当に考えているのか、もう一つわからないところもございます。  しかし、ここまできますと、作業部会での話し合いをアメリカが打ち切ったといいますか、ガットに持ち上げるということになりましたので、その問題について考えてみますと、アメリカ日本残存輸入制限二十二品目すべてを輸出しているわけでもありませんし、またガットの場にいきなり持ち出すというのは、日米間の実務者の間で現実に即した解決策を探ろうとしている交渉のやり方から見まして、まことに残念だと言うことができると思います。  本来、農業生産はその国の気候、風土、歴史、社会的条件などによって制約され、食糧安全保障にも深くかかわっているため、農産物貿易工業製品のそれとは異なりまして、国際的にも必ずしも完全な自由化が求められているわけではありません。現に、欧州共同体、EC諸国はもちろん、アメリカでさえ精糖を輸入制限品目にしておりますほか、御承知のように牛肉とかあるいは乳製品などの輸入を規制しております。したがって、農産物貿易問題は実務者、専門家同士で農業生産実態に見合ったきめ細かで冷静な話をすることが望ましいと思います。事実、これまでこうしたやり方で日米間の多くの問題が解決をし、円滑に輸入拡大が実現をしたという例も少なくないように聞いております。  もしガット二十二条による協議ということになりますと、当事者両国、つまり、日本アメリカの同意があれば、利害のある国も参加できるようになります。わが国立場がこういう形で一層苦しくなることも懸念されます。しかし、日米貿易摩擦の厳しい現状を見ますと、アメリカ側の一方的なこういう方針を批判するだけでは済まされない。また、考えようでは、仮に、日米両国間の事務レベルで妥協が成立したといたしましても、国際的にそれが通用しない内容ということであれば、すぐまた問題が蒸し返される。この繰り返しになるということは必至だろうと思います。  そこで、この問題がここまでこじれてきました以上、わが国としてもあえて国際的なガットの場でわが国農業の事情を十分に説明し、公正な判断を求めることがむしろこの際意味のあることではないでしょうか。農業生産者の側にはもちろん不満も強く、先ほど来生産者団体の方々からいろいろ御意見が出て、まことにごもっともだとは思うのですが、いずれにしましても、この問題は避けて通れない道である以上、もし、ガットということになれば、その場を最大限に活用するしか方法がないということだろうと思います。  御承知のように、ガットには、現に国内生産調整をしている場合には輸入を規制できる例外的な例外規定があります。わが国農業現状から言いますと、米はもちろん、豚肉、鶏肉、牛乳・乳製品、ミカン、主要農産物のほとんどが生産過剰にあえいで、生産調整を強いられている現状にあります。一方、大豆、麦、飼料作物などは、そのほとんどを輸入に頼って、その結果、わが国食糧自給率は総合で七二%、穀類で言いますと、穀物では三三%という工業先進国の中でも最も低い水準の自給率になっております。わが国農産物市場が閉鎖的であるという非難を浴びておりますけれども、このことを見ましても、日本市場が相当の外国農産物を受け入れていると同時に、日本農民が輸入農産物の重圧に苦しんでいるというのが現状であります。  このようなわが国の実情を外国の専門家はもちろん承知しておると思いますけれども、一般的に十分理解されているかということになりますと、必ずしもそのようには思いません。したがって、こういう日本実態を専門家だけでなく国際的なガットの場で、そして多くの関連国の間で粘り強く説明し、かつ理解してもらうということが一つのメリットになるということも考えられます。  ガットの場で協議ということになりますと、もちろん、輸入枠の拡大とか自由化の問題をめぐっていまのままで済まされるとも思いません。譲歩を迫られることも予想されるわけですけれども、国際的なルールの上で客観的に妥当なものが出るなら、それもあえて受け入れざるを得ないことだと私は思います。わが国のように貿易自由化一つの国是とし、それが全体として国の利益にかなっているということでありますと、農産物だけを輸入絶対反対ということで押し通すという状況にはもちろんないわけでありまして、わが国主張が、もし先ほど申し上げましたようないろいろな農業実態、それに基づく主張が正しいものであれば、また、それに対して理解を示す国ももちろんあるということを期待できるわけでありまして、かたくなに輸入制限に固執して世界から孤立するというような状況は絶対に避けなければならないと思っております。  翻って、わが国自身立場から現在の輸入制限が一歩も譲れないものであるかどうかということを考えてみますと、これは国際的な観点から一概に絶対にだめだというふうに言えないのはいままで申し上げてきたことからもおわかりかと思いますが、また、アメリカとの関係でいいますと、アメリカわが国への輸出拡大、特に熱心なのは、端的に言えば牛肉オレンジ、この二つにしぼられるのではないかと思います。米国主張する完全自由化は、たとえば、牛肉についても米国みずからが輸入規制をしているということからいいましてとても本音とは思えませんけれども日本消費者の利益が損なわれているというアメリカの批判、これはやはり無視できないいろいろな真理を含んでいるのではないかと思います。  牛肉の需要が大変根強いことは御承知のとおりであります。わが国農産物の割り高ということが言われるときに、いつも引き合いに出されるのがたとえば、外国で食べたビフテキと日本のビフテキとの値段の大変な差ということであります。いま、日本人はほとんど食べたいものは何でも食べられるといういわゆる腹いっぱいの状態なわけですけれども、その中では特に若い人などはやはり牛肉を食べたい、ほかのものはほとんど関心がなくても牛肉だけは食べたいということを申しますし、逆に言えば、多少の飢餓感を持っているのは牛肉だけという状態でもありますが、それだけに牛肉が、消費者を含め米国からの輸入圧力という非常に象徴的な形として出てきているわけであります。先ほど生産者団体の方からいろいろ厳しい問題点を御指摘いただいたわけでありますが、私自身考え方を言いますと、一昨年あたり牛肉の実際の輸入を繰り上げてふやしたこともあるような状況、実際の牛肉の需要の状況などから見ますと、まだいまの輸入枠を広げる余地はあると考えております。  問題は、牛の飼育農家対策ということでありますけれども、特に、鹿児島を初め比較的過疎地に多い和牛の飼育は、その地域にとっては全く代替性のない非常に大切な産業でありますだけに、十分の所得補償を考えなければいけないことはもちろんであります。しかし、牛肉国内供給に占める比重からいいますと、乳牛の雄と乳廃牛で全体の七割を占めております。その乳牛でありますけれども、これは先ほどお話がありましたように、牛乳の生産過剰のために酪農経営が非常に厳しい、またそのために、酪農家自体の苦境が非常に強まっている。牛肉の現行価格制度を当面維持する必要は十分にある。いろいろな提言で、たとえば、不足払いに一挙に切りかえたらどうかというような主張もございますけれども、現行の価格制度をもっと弾力的に運用するということが当面必要ではないかと思います。もちろん、現在の財政事情あるいは需要の実態から見ますと、その価格を高く維持していくことについてはなかなかむずかしい問題があると思います。また、酪農業それ自体はこれまでも飼育の多頭化を進めるというような非常に厳しい合理化をやっておりまして、いわば少数精鋭化という道へ進んできましたけれども、さらに、えさの自給能力向上というような面も含めて生産性を高めることが要求されると思います。事実、北海道ではすでにECの水準を抜くような酪農家がどんどん育っておりますし、要は、酪農業の足腰を強めることが牛肉生産そのものにもつながっていくということで、この面での農業政策をしっかりやっていただくしかないと考えております。  また、オレンジの場合は、牛肉のようにいわば食糧安全保障につながる農産物とは言えませんが、その一方では逆に、先ほどお話がありましたように、もし仮に、オレンジをうんと入れるあるいは自由化するということになりますと、その影響牛肉以上に深刻なものがあるのではないかと思います。現在国産ミカンが二割もの生産調整、栽培転換を実施されているさなかでありますし、輸入拡大には相当慎重な対応がなければならない、きめ細かい対策が必要だと思います。もちろん、これまでにも、たとえば、四十六年のグレープフルーツあるいは三十九年のレモンなどの自由化が実施されたが、当初予想されていたほどの影響がないと言われておりますけれどもオレンジの場合はこの二つと違いまして、ミカンとまともに競合する果物でもありますし、その点からも大変慎重な配慮が必要だと思っております。  といっても、この輸入枠を漸次拡大していくというその方向自体は、いまの日米間の貿易摩擦状況から見ましても避けられない、ある程度の輸入増大はやむを得ないのではないか。その場合にはミカン生産農家への打撃をできるだけ避けて輸入枠の拡大を図り、アメリカとの実務上のきめの細かい詰めをしていくことが大事だと思うのです。先ほどのお話のように、現在だけではなくて将来どうなるか、このことに農家は非常な不安を持っているわけでありますから、毎年毎年手直ししていくということよりも、この際はたとえば、ミカンにつきましてもある程度長期の安定した一つの輸入ルールができればそれにこしたことはない、また、それが非常に必要な時点ではないかと思っております。  本来、わが国農業政策は、これまで生産対策重点に進められてきたわけでありますけれども現状を見ますと、消費者対策を含めて非常に大きな転換期を迎えているというふうに考えます。つまり、現在の情勢の中では、外国からの圧力はもちろんでありますけれども消費者の広い理解を得ないと農業政策それ自体が前進できないという段階に直面していると思います。消費の伸び悩みあるいは国の財政の窮迫、いやおうなくこうした面からの日本農業の見直しを迫っているわけであります。農産物輸入問題ももちろん、日本農業のあり方を問う大きな要素でありまして、安易な一時しのぎの対策ではなく、本格的な取り組みをやるべき時期に来ていると思います。もっとも、農産物自由化を幾ら進めたとしても、金額的にもそれは知れたものでありますし、日米のあるいは日本世界との貿易摩擦がなくなるというわけのものでもありません。工業製品の秩序ある輸出国民経済全体の中から内需の振興といいますか、輸出依存型の経済体質から内需依存型に切りかえていくという基本的な強力な国民経済政策の推進がなくては、貿易摩擦自体はいつまでたってもなくならない、これが基本的な問題だと思います。その中で、日本農業の将来の位置づけというものも考える時期に来ている、こういうふうに思っております。(拍手)
  18. 羽田孜

    羽田委員長 ありがとうございました。  次に、林参考人お願いいたします。
  19. 林信彰

    ○林参考人 林でございます。  今日問題になっております農産物自由化問題につきましては、国民経済全体の問題に深くかかわっている問題でありまして、大変広い視野から見なければならないことだろうと思います。ただ、時間の関係もございますので、主として農産物の国境保護政策の必要性あるいは現在当面している問題について若干の意見を述べてみたいと思うわけであります。  今日、特に問題になっております日米間の農産物貿易自由化問題でありますが、これについて、アメリカ側は百八十億ドルに上る貿易インバランス解消策の一環というふうに考えているようでありますが、もちろん、二国間の貿易バランスというのは、常に均衡が保たれていなければならないという性質でないことは御承知のとおりであります。これはガット原則から言いましても、二国間が常に貿易のバランスがとられているという状態がもし世界的に広がるとするならば、これはむしろ貿易の縮小に通じる問題にもなるわけでありまして、こうした均衡問題というのは常に多国間の多角的な調整に基づかなければならないものであるということは御承知のとおりであります。にもかかわらず、この問題がしばしば出されるというのは、日米両国の保護の度合いが一体どうなのか、アメリカ側から言えば日本が不公正であるという問題が出されていると思うわけであります。  特に、今回の事務レベルの協議において、アメリカガットの二十二条の協議に持ち出したということについて、これは若干の問題があろうかというふうに思うわけであります。ガットで二国間協議をやるということでありますが、本来、こうした問題については、すでに終了しております東京ラウンドの多国間調整において一定のルールがつくられております。その中においては、この二十二条協議のような問題を持ち出さなかったわけでありますが、今回これが特に持ち出されたというねらいは一体どこにあるのか。常にアメリカが言っておりますように、日本がカードを示す番である、みずからカードを出さないで日本にだけカードを出させるというやり方であります。これはすでに他の参考人からも意見が出ておりますように、日本を揺すぶれば何かが出てくるのではないか、それが足りない、まだ不満であるという意見を述べることによってさらにもっと譲歩をかち取ろう、いわゆる恫喝、おどかしではないだろうかというふうに考えられるわけであります。  もちろん、それだけではなく、二国間の揺さぶりによって、アメリカ側は何らかの実利的なものを得ようと考えているということも事実だろうと思います。これは二十二品目全体の自由化を求めたとしましても、アメリカ貿易問題について多少の改善になるかもしれませんが、それが大きく改善できないということはアメリカ側も十分承知していると思います。  それでは、基本的なねらいは何かと申しますと、これは将来の日本食糧市場に対する一つの手だてをいまつくっておかなければならない。こうした貿易関係の状況の中で、日本としては工業製品輸出を劇的に削減するような手段をとるわけにはいかないであろう。そうなれば、農産物で何らかの譲歩をかち取っておくことは、将来の日本食糧市場に対する大きな足がかりがつくという判断に立っているのではないかというふうに考えるわけであります。その将来の日本食糧市場とは何かと言えば、最も心配されるのは日本の中心的な作物である米であります。米についてのアメリカの並み並みならぬ関心を考えてみますと、これが決してないというふうには考えられないと思うわけであります。  こうした当面の問題が出ておりますが、こういう中で、農産物の国境保護については日本としてもここらで基本的な問題を確立することが必要だというふうに思います。すでにアメリカ及びEC諸国において国境保護措置がとられているということは皆さん方御承知のとおりであります。国境保護が行われておりますが、それぞれ歴史的な段階によってそれぞれの状況のもとに行われたということであります。それを直ちに、欧米がこうしているから日本がこうしようという形だけでは済まない問題があろうかと思うわけであります。  特に、アメリカガットのウエーバーをとっておりますものについて見ますと、ウエーバーをとった時期が一九五五年という時期であります。昭和三十年という時期であり、世界でまだガットの加盟国が非常に少ないという中で行われているわけであります。これについてはアメリカは、農事調整法の対象品目を全体としてウエーバーをとるという、現在から考えればきわめてあり得ないような手段を講じたわけでありますが、これがすでにオランダその他からガットの違反であるということでしばしば問題になって、一つの国際摩擦を生んでいる原因でもあるわけでありますが、こうした問題をいま日本でそのまま援用するわけにもいかないだろうと思うわけであります。  特に、ECについて見ますと、一九五五年以降、ECは工業化社会が非常に進んでくる中で農業の保護水準を上げてきたということは御承知のとおりであります。特に、工業化社会が進んでくる場合に、当然のように農業の保護水準は上がってまいります。これは単に農業が狭い意味の経済的な問題だけではなく、工業化社会に伴って当然出てくる社会的な不安あるいは食糧安全保障、当時は、ECにしますと食糧輸入のための外貨の獲得というものの困難性、こうしたものがあったと思います。さらに、これは環境の保護といったような非金銭的な価値に対する評価が高まってきたために、この時代EC農業保護政策を強めてきたというふうに思うわけであります。そこで、共同市場という形での課徴金制度、これに移行したというふうに考えております。こうしたやり方も、日本においては日本単独の国家でありまして、ECのようなブロック経済で問題の解決が図れないという状態になっている。こうした中で日本農業を守っていく、そして国民経済における農業の位置づけを明確にしていくという中で、国境保護を一体どうするかということをやはり一つの明確な政策としてわが国は持たなければならない段階に来ているのではないだろうかというふうに思うわけであります。  そのためには何が必要かと言えば、日本農業の根幹の保護をするという、このたてまえをどうしても貫かなければならないというふうに思うわけであります。日本の保護水準は、すでに他の参考人からも御意見がありましたように、決して国際的に高い水準にあるということは言えません。むしろ、国際的に言えば最も低い水準にあるというふうに申し上げてもいいと思います。と申しますのは、千五百万トンに及ぶ飼料用穀物の輸入を行っておりますが、これは全くの非関税、そして全くの自由化であります。こうした穀物といった国民食糧安全保障の中心的なものについて全く自由化し、非関税の輸入が行われているというような国家はどこにもありません。こうした点を考えるならば、日本農業の根幹の保護は、食管制度の拡充のもとにおいて穀物全体の国境保護措置をどうしても確立するというところに中心を置いて、その他の政策についてはこれに整合性を持って、段階的に改善を図っていくというやり方が最も正しいのではないかというふうに思うわけであります。  その段階的な解決を図っていくという問題について、一部の方々からは自由化をして、そして国内農業保護政策のために不足払いを当面とるべきであるというような意見も出ております。しかし私は、自由化をして不足払い制度をとるということが日本農業の実情に合致しないという問題を一つだけ指摘しておきたいと思います。  この自由化による不足払い制度を採用したのはイギリスが中心でありますが、この場合は、イギリスの農業においては、農業従事者がすでに四%を切るというような非常に少ない農業の構造の中で行われたということであります。日本農業のように零細、多数の農家、さらに、先ほど各作目別にも述べられたようにそれぞれの条件の非常な複雑性、こうした中で一括して自由化し、そして不足払いで保護しようとするならば、一つには財政負担がきわめて大きくなるだろうということが考えられます。もし、財政負担を切るならば、大豆が自由化をして不足払い制度に移行したように、その作物について全面的な国内生産の崩壊が起こるということが考えられます。そうした点から見ますと、自由化ということではなく、これらについての輸入の調整、相手国の希望に対して日本がどこまで応じ得るかというような許容の範囲ということを明らかにしつつ、長期的な展望に立ってこの問題に対処すべきであるというふうに考えております。こうした長期的な展望が示されないままに現在の自由化問題が論じられ、特に、アメリカ要求あるいは日本国内における一部の方々の自由化要求に屈したということになれば、全国の農業生産者にとってはこれは重大な問題になるというふうに考えます。  昨日も秋田県下に参りましたが、そこで、こういう話を聞きました。ある町でことし三人の新規就農者が出るということが予定されていた。ところが、昨年秋以来の自由化問題に直面して、その三人の農業後継者はついにこの四月他産業への就業を決意して、そしてその町には一人も農業後継者が残らなかったということであります。こうした農民農業に対する将来展望のなさ、そして生産意欲の減退、これこそがいまの日本農業の問題を象徴しているというふうに思います。この問題に対する展望を、諸先生方の御努力によってぜひつくり上げていただきたいというふうに思います。  以上で私の意見を終わります。(拍手)
  20. 羽田孜

    羽田委員長 ありがとうございました。  次に、妹尾参考人お願いいたします。
  21. 妹尾美智子

    ○妹尾参考人 妹尾でございます。  実はこのお話がありましてすぐ、こういう問題に対して一般の平均的な主婦の方々がどういう感じといいますか、どういう思いを持っていらっしゃるのだろうかということがございましたものですから、神戸市内で、いわゆる平均的主婦の方々をかなりの数アンケート調査を実はとってみたわけでございます。それで、やってみますと、農産物の輸入の自由化というような問題につきましても品物によって賛成、反対がやはりはっきり出てきているようでございます。たとえば、果物なんかの場合でございますと、賛成が八一で反対が一九。牛肉、乳製品になりますと賛成が五六で、反対が四四とふえてまいります。これが野菜になりますと、賛成が四五で反対が五四。品物によって皆さんの受けとめ方が非常に違っているというのが一つの特徴で出てきているようでございます。  ただ、それぞれにつきましていろいろ理由を細かく書いていただきました。その理由を見ておりますと、どの品物にも共通して皆さん方が反対をなさっておりますのは、やはり安全性に対する不安、この辺のところから非常にこの問題を鋭く問題点としておとりになっているようでございます。それから、やはり国内農業振興のためということも反対の理由の中に一つ大きく挙がってきているというふうな特徴があるのではないかと思います。  そういうふうなアンケート調査を中心にいたしましてこれまで私たちが得ましたいろいろな情報の中から、それじゃ一体消費者立場からこの問題はどういうふうに考えていったらいいのだろうかということで五つほど問題点を考えてみたわけでございます。  私たち消費者が物を買いますときには、とにかく、品質が一定であれば安い方がいいことはわかっておりますし、また、その価格というのは、国際的にも自由競争を通じてつけられなければいけないというのが基本考え方になると思います。従来、いろいろな政策が行われまして価格の安定というようなことがなされてきたわけでございますけれども、その辺の問題というのは、もう少し消費者を加えた形の中でお考えいただかなければいけなかったのじゃないだろうかなというような気がいたします。たとえば、非関税障壁というようなことがございます。あるいは四月十六日に市場開放の第二弾ということで残存輸入制限の緩和というようなことが出てまいりましたけれども、これらがすべてある一つの、一定の圧力によって、みんなで物を考えようなというふうな形になって出てきている。これは、むしろ消費者を加えた形の中で検討していただきたかったなというような感じがまず最初にするわけでございます。  次に、日米貿易の摩擦の解消策として取り上げられております農産物の位置づけにつきまして考えてみました。  まず、アメリカの社会だとか経済情勢でございますけれどもアメリカでは消費者物価は八一年十一月の前年同月比で九・六%上昇ということ、これは前年の一三・五%の上昇に比べますと多少落ち着いてはおりますけれども、住宅の着工件数あるいは乗用車の販売台数など落ちております。あるいは個人消費の伸び悩み、それから鉱工業の生産もマイナスになっている、あるいは失業率も非常に高い、貿易赤字もふえているというようにアメリカ経済が非常に因っているというようなことを考えますと、その代償として日本貿易自由化というようなものをむしろ押しつけられたというようなことを考えますと、これはやはりもう一度われわれが真剣に考え直してみないといけない問題ではないだろうかなというような感じがいたします。  アメリカの対日貿易のバランスを見ますと、農産物アメリカから日本輸出する一方通行になっておりますし、鉱工業製品というのはその逆になっております。つまり日本から見ますと、一九八一年では鉱工業等は二百二十五億ドルの輸出超過をしておりますのに農産物は九十一億ドルの輸入超過になっておる。また日本農林水産物の輸入額も年々増加してます。このことから考えますと、工業製品やサービス部門の障害が仮に取り除かれたといたしましても、日本における競争力が強いので効果のほどがはっきりしない、農産物であれば十分競争できるのではないだろうかというふうな見方がなされたのではないかと思います。  つまり、農林水産省の資料を見ますと、主要農産物につきましての国内生産者価格と輸入価格とを比較した表があります 昭和五十二年ごろに比べますと若干は縮まってきておりますけれども昭和五十五年におきましては日本の方がアメリカに比べて一・六倍ないしは三・八倍高い 消費者価格にいたしましても、一九八〇年十月における東京とニューヨークの比較では、やはり圧倒的に東京の方が高くなっています このことから割り高商品の多い農産物に入り込む余地があるなというふうな判断がなされたのではないだろうかなという感じがいたします  しかし、このような工業製品輸出の見返りとしての農産物の輸入のバランスが、将来にわたってどれほどつじつまが合っていくのだろうかということもここで考えてみないといけないと思います。農産物は、所得の増加がありましてもあるいは価格の下落によっても販売がそれほどにふえないということ、つまり所得、価格の弾力性が低くなりやすいのに対し、一方、日本の高度技術製品の価値の方は逆でございます。バランスを一時的に考えまして、もしここで誤った判断をすると非常に危険ではないだろうか。むしろ、長期的にどうなるかということの判断がいま非常に大事なのではないだろうかなという気がいたします。日本食糧安全保障の水準を切りまして輸入をもっとふやすというふうなことになりますと、長期的展望を示さないと現在の貿易摩擦だけの犠牲にされて、農業農業をなさっている方、それから消費者を守る施策としてはそれが果たしていいことなのかどうなのかというような疑問も残るわけでございます。目下の貿易交渉で、輸入の自由化に応じたところで輸入はそれほどふえないだろうというような議論があるとすれば、そういう片づけ方については消費者としては非常にここで疑問が残ってくるわけでございます。  三つ目に、そういう意味でやはり食糧安全保障についても考えてみたいと思います。  近ごろ日本食糧自給率というのは低下現象を示しておりますし、穀物におきましては昭和三十五年度の八二%から低下を続け、五十五年度現在三三%、アメリカの一七四%、イギリスの六四%に比べますと非常に低くなっております。また一方、日本の穀物の公的備蓄量が、飼料穀物、大豆でそれぞれ消費量の一カ月分、小麦で二・六カ月分あると聞いております。アメリカは、日米農産物定期協議の場で穀物戦略発動上の要請に沿って、飼料穀物につきましても二カ月分の備蓄強化を要請しております。西側諸国につきましてもその要請をしているようです。しかしながら、これはアメリカにおける空前の豊作、つまり、コーンが七十九億ブッシェル、小麦が二十七億ブッシェルというふうに非常に豊作であるというようなことを背景に提起された問題ではないだろうかなという気がいたします。  食糧安全保障は大切であることもわかりますし、このことは、主要農産物のある程度自給率の確保と、それから輸入による備蓄の強化を図ることをしなければいけないとは思いますけれども、やはり両者のバランスをよく考えて行わないと将来本当に困ったことが起きてくるのではないだろうかなという感じがいたします。輸入による消費ないしは備蓄の道を採用するに当たりましては、ニクソン政権下のときにたまたま日本に対する大豆の輸出禁止のような食糧禁輸というようなことがあったのを思い出します。こういうことを繰り返さないということを保証してほしいということ。また、長期の穀物輸出保証をすることが条件ではありましょうし、さらに政府は、これらのことをもっと国民にPRしていただく必要があるのではないだろうかな、そしてやはり国民に安心感を与えていただくということがいま非常に大事なのではないだろうかなという感じがいたします。  四つ目に、農業の近代化によりまして、農業におきましてもある程度の国際競争力を持つことがいまはぜひ必要なのではないだろうかなという感じがいたします。  農業政策と申しますのが国の基本に係るということもよくわかりますし、農業部門に対する保護は非常に強固に行われていると思います。たとえば、米は過剰生産になりやすいのに、他の食糧は十分生産されないような農業保護政策あるいは価格支持システムが現在あるわけでございます。米の生産調整あるいは減反政策というようなこともすでに長々と続けられているわけでございます。多額の転作奨励金も支払われてまいりましたが、これだけ減反政策が行われましてもなお過剰米がある、そして食管会計の赤字というのはかなりふえていっているというようなことを考えますと、やはり農家の方々に国際競争力をつけていただくような努力というのもやはり私たち消費者としてはお願いしたいという気持ちでいっぱいでございます。  最後に、輸入農産物につきましての安全性の問題でございます。  最近の新聞を見ておりますと、アメリカから提出されました日本の非関税障壁品目別リスト、これらはかなりございますけれども、それらを一つずつ見ておりまして、私たちは非常に不安を感じます。長いこと消費者運動というような場を通じてやってまいりましたにもかかわらず、それが非関税障壁の除去ということで、何かそういうものが次から次になし崩しに崩されていくということに対する不安があるわけです。たとえば、野菜についての検疫をどうするとかあるいは濃縮果汁についてはパッケージに関するいろいろな問題があるとか、あるいは加工処理されました食品、いわゆるプロセストフードでございますね、これについては成分や製造法に関する一つの表示の問題だとか、あるいは化粧品につきましても製造法やパッケージの方法を少しでも変更すると引き延ばされるとか、あるいはパパイヤ、サクランボについて品質検査がむずかしいからもっとやさしくしなさいとか、そういうふうな問題一つ一つをとらえておりますと、やはりそういうものからまいります不安というのが非常に大きく働いてまいります。最近では、御承知のようにチチュウカイミバエの件もございましたし、かつてはレモンの問題というのも非常に大きな問題になったということでございます。  これらにつきましては、やはり消費者側から見ましたときに改悪にならないように、ひとつ貿易自由化とともにこの安全性の問題につきましては慎重に御配慮下さいますようにお願いをいたしたいと思います。  以上で終わらせていただきます。(拍手)
  22. 羽田孜

    羽田委員長 ありがとうございました。  以上で参考人からの意見の開陳は終わりました。  午後零時四十分から再開することといたしまして、この際、休憩いたします。     午後零時八分休憩      ————◇—————     午後零時四十二分開議
  23. 羽田孜

    羽田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  これより参考人各位に対する質疑に入るわけでありますが、その進め方について一言申し上げます。  午前中の各参考人の御意見にもありましたように、農畜水産物自由化の問題はきわめて広範多岐にわたる問題でありますので、審議を効率的に進めるため、便宜、お手元に配付しましたように論点を三つの項目に分け、順次、一項目おおよそ一時間程度をめどとして進めてまいりたいと存じます。  なお、質疑及び参考人の御答弁はできるだけ簡潔にお願い申し上げます。  それでは、まず第一の項目「自由化国内農業に与える影響について」から始めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。
  24. 加藤紘一

    ○加藤(紘)委員 参考人の皆さん、午前中は短時間の間に要点をついた御意見、本当にありがとうございました。  最初に、第一の問題点につきまして、柑橘の方につき、高門参考人にお伺いいたします。  実は、自民党の江崎ミッションということで私もアメリカに行ってきたのですけれども、その際向こうの方でよく言われておりましたのは、柑橘を自由化したら困ると言うけれども、六月、七月、八月、九月ぐらいは日本ミカンが晩柑類も含めてないじゃないか、そのとき入れるということは日本の柑橘農家にそう被害を与えるものではないじゃないか、その辺どうなんだというようなことを向こうがしょっちゅう言うわけであります。それについてわれわれは、先ほど高門さんがおっしゃったような幾つかの論点を言ってきたのでございますけれども、より専門的な立場からその辺の御見解をお伺いしたい、こう思います。  それから二番目は、今後、消費者の要望にこたえるために生産性の向上をさせていきたい、こういう最後の御発言でありましたけれども、それが今後、将来の見通しとしてどの程度までがんばっていけるのか、日本生産性向上の進め得るところはどの辺までなのか、その辺の二点についてお伺いいたします。
  25. 高門嘉夫留

    ○高門参考人 まず第一点の季節自由化、六、七、八はできないかということでございますが、これにつきましては、先ほども申し上げましたように、まず、いまのミカン現状で二割、三万ヘクタールを減して中晩柑に切りかえつつございます。その中晩柑はネーブル、イヨカン、ハッサクその他があるわけでございますが、中晩柑に切りかえておるその消費の出口をまず第一にふさぐということになると思います。先ほど申し上げましたように、現在ミカン農家は非常に苦しい中で、ただ一つの活路としてこの中晩柑に活力を求めているわけでありますが、その出口をふさぐということが非常に重要な問題であるということでございます。  なお、二つ目には落葉果樹の問題でございます。六—八月に出てまいります国内の果物の落葉果樹の第一位はメロン、第二位がスイカ、第三位がブドウ、第四位が桃、ナシ等々でございます。落葉果樹は、年々ミカンの不振も加わりまして、かなりな侵食が行われておりまして、これと競合をいたすということになると思うわけでございます。なおまた、最近は自由化枠拡大農家経営が非常に苦しくなっておりますから、その一つの活路として中晩柑と同時にハウスの生産が非常に多くなっておるわけでございます。御承知のように、ハウスミカンは六月から出てまいるわけでございまして、それとももろにぶつかるということでございます。  なお、ただ単にその時点の果物と競合するということだけではなしに、先ほども申し上げましたように、現在の技術でもってしますと、入ってきましたものは、技術的に見ましてもまた貯蔵力から見ましても、オレンジは三カ月ないし四カ月は貯蔵できる、こういうふうなものでございまして、実質的には季節自由化自由化とそう変わりない、こういうふうな問題を持っておるわけでございまして、われわれはそのような意味から季節自由化にも強く反対をしておるということでございます。  生産性の向上につきましては、絶えずわれわれは努力をし、消費者に安くておいしいものを提供するように心がけておるわけでございます。しかしながら、柑橘園はほとんど耕地が西南暖地の十五度以上の急傾斜地でございます。なおまた、経営面積が〇・五ヘクタール平均でございます。そういうようなことで大型化、機械化は非常にできにくい状況にあるわけでございます。しかし、その困難を克服しながら、たとえば、新しい方法としてスプリンクラー防除によります農薬散布等々も含めまして、できるだけコスト低減に努めておるわけでございます。ただ、これには限界があると思うわけでございます。ちなみに、現在輸入されておりますオレンジ、CIF価格で申しますと、キロ当たり大体百三十五円から百四十円くらいでございます。小売価格はかなり高いわけでございますが、現在のミカンの価格は、年によって違いますけれども、ほぼオレンジの価格に匹敵するということでございます。その他の中晩柑類は二百円以上、二百四、五十円というのが現在の市況でございますが、これらも今後努力をしまして、できるだけそれらと競争できるものにいたしたい、このように努力をいたしておるところでございます。
  26. 安井吉典

    ○安井委員 総論的な問題ですから山口参考人にお答えをいただきたいと思います。  質問というよりも、私の考えを二点申し上げて、それについての御意見を承りたいわけであります。  アメリカの今度の要求というのは多分に政治的なもので、主張にも大分矛盾がありますし、何か裏があるのではないかというような感じさえするという、さっきもお話がありましたが、私もそのとおりだと思います。日本国会としては、農業の自給力を高めることの国会決議をしているわけですが、日本農業を再建するためにも、また、国民食糧の安定的確保のためにも自給力の向上が大変大切だ、こういうことであります。なるほど、当面安い牛肉が入るのはいいかもしれませんけれども、長期的に見て輸入がとまっちゃったり、幾ら高い金を出しても牛肉はおろか豆腐も食べられないというふうな事態が起きては大変なわけです。そういう思いで国会決議があるわけであります。ところが、アメリカのいまの要求からいうと、日本は三五%も輸入をしているわけなんですけれども、もっと買え買えというわけで、つまり、われわれの立場から言えば、日本の自給力をもっと落とせという要求にしか受けとめられないわけであります。われわれの決意とちょうどぶつかるのではないかという感じを私は受けています。  それからもう一点は、工業生産農業生産の違いでありますが、どちらも一〇〇%自給あるいは少なくとも適当な自給が必要だということになるわけですけれども、工業生産というのは生産構造が比較的簡単に改められるわけです。国と国との間のバランスもできるわけであります。自然条件が非常に大きく物を言う農業の場合は、そうはいかないと思います。たとえば、十アール当たり日本土地が二百万円も三百万円もするのに、アメリカは五万円か六万円。そういうふうなことであるだけに、食糧問題のとらえ方において、その国の生産の形態、農業の形態だとか農民の生活だとか、そういうものと切り離して食糧の問題は論じられないのではないか、トータルの問題としてとらえた考え方が必要ではないのか、それを国々の間で理解をすべきではないか、こう私は思うのですけれども、ちょっと問題が大き過ぎたかもしれませんが、ひとつお答えください。
  27. 山口巌

    山口参考人 ただいま二点の御質問でございますが、国会で自給力の決議をいただきまして非常に私ども喜んでおります。ただ、私どもとしては、自給力と申しますと、いわゆる潜在的な生産力も含めまして広範な解釈が成り立つわけでございまして、団体としては、自給率の向上とうたっていただきたかったということが実は心に残るわけでございます。  先生おっしゃいますように、外国から牛肉が安く入るからと申しましても、特に豪州などから大部分入っているわけでございますが、豪州の五年間の価格の動向を見ますと、六〇%くらいの価格変動があるわけでございます。非常に天候に支配されやすい牛肉生産でございまして、干ばつ等が続きますと草ができませんので、そのためにそのリアクションとして次の年の牛肉価格は暴騰する、そういうことを繰り返しております。したがいまして、できる限り国内で自給するというたてまえを堅持することが消費者のためにも賢明な施策ではないかと私は思います。  それからもう一点は、外国から入りますものは、柑橘類もそうでございますが、輸入の、外国から見れば輸出でございますが、大体窓口がしぼられておりまして、特定の寡占資本によって輸出をされるということから、非常に価格を人為的に操作されやすい傾向があるわけでございます。特に、生果のオレンジ等につきましては、たとえば、サンキストというような会社がカリフォルニアにございますが、これはカリフォルニア、アリゾナの生産量の六五%の集荷を独占いたしておりまして、また、日本に対する輸出の窓口もほとんど独占をしているのが現状でございます。したがいまして、たとえば、国内ミカンに対抗するためにはある時期には人為的に価格を引き下げまして、それでミカン生産を減らして、その次にはなくなったところで価格を引き上げる、こういう操作をやろうと思えばできるわけで、オレンジの場合はまさにその手で日本オレンジ生産者が壊滅をした状態でございます。それらの点をあわせて考えた場合におきましては、やはり農産物はできるだけ国内で自給するというのが消費者のためにも役に立つと考えるわけでございます。  第二点の問題でございますが、農産物と申しましても土地を使わない農産物につきましてはほとんども自由化されておりますし、国際競争力も持っておるわけでございますが、土地利用型の農産物につきましては、生産コストの大部分がいわゆる労賃部分でございます。たとえば、米をつくりましても、物財費は四八%で残りは労賃あるいは地代というものでございますが、この労賃部分に当たるコストというのが、土地が広いか狭いかによりまして使用される労働時間が大幅に違うわけでございまして、それがコスト変動の最大の要因になっております。また、地代も、広大な土地を使っておるアメリカ等の新大陸においては比較にならないほど安いわけでございまして、その点がいわゆるスケールメリットと申しますか、そういうものの偏差というものがきわめて大きいということが農業生産の工業生産と異なる点でございますので、この点はぜひ先生方にも御留意を賜りたい。いまの御質問につきましては、私どもはまことに同感でございます。
  28. 武田一夫

    ○武田委員 山口参考人にお尋ねします。  こういう大変な問題をいまわれわれ考えるときに、一般に言われる一つの理論でございますが、当面この摩擦が解消したとしても、何らかの方法でこれは今後ともまた二度、三度同じような貿易摩擦の攻勢があるだろう、こういうふうに言われているわけです。それは要するに、日本の外交や政治的な問題で農林水産業を含めたわが国の国益を守るべきだというしっかりとした対応をしてないからだ、あいまいな対応をしているからだ、こういうことをいろいろな方が言われているわけであります。この点について、山口さんとしてはどういうようにしなければならないというそういう問題、今後、こういう貿易摩擦を二度と起こさないようなそういう対応としては、政府あるいは関係当局にどのような対応で臨むべきかというようなことについての御意見をひとつ聞かしていただきたい。
  29. 山口巌

    山口参考人 ただいまの御質問につきまして、私、二点申し上げたいと思うわけでございます。  一つは、今回の貿易摩擦に関連する農業の問題でございますが、これは先ほど申し上げましたとおり、工業製品の洪水のような輸出アメリカあるいはECの景気の後退期にちょうどぶつかりまして、非常に向こうの産業に対して打撃を与えている、いわば失業者輸出しているような状態になっておるわけでございます。こういう形が続く限りにおきましては、相手国としては農産物でその埋め合わせをしようとすれば、とことんまで輸入枠の拡大あるいは自由化ということを迫ってくることは明らかでございますので、今後もこういう紛争は継続するというふうに私どもは考えておるわけでございます。そのためには、日本といたしまして外国に対しまする工業製品輸出につきまして、やはり相手国経済立場も考えて、苦しいけれども自粛していかなければならない。このため若干経済成長率が落ちても耐え忍んでいくだけの国際的な道義と申しますか、そういう視点からの覚悟が要るのではないか。さらに、そのために、国内産業に対しましては打撃を与えないために内需の拡大等、政策を変更していかなければならぬのじゃないかということを、この貿易摩擦問題としては申し上げたいわけでございます。  第二点は、農産物の問題でございますが、これは本来、国民の生命にかかわる問題でございますので、工業製品とその点が根本的に違うわけでございます。したがいまして、農産物につきましては、あくまでもあらゆる場合を想定いたしまして、国民の生命を守るという視点から、最大の安全を確保するということがどうしても必要でございます。そのためには、国内における農業を維持、発展させるということが最大の道でございます。生産性の高い国の農産物国内にどっと入ってまいりますと、日本農業は破壊されますので、このための国境措置を、しっかりした国の農業政策の基本として確立していただきたいということを、かねがねお願い申し上げている次第でございます。
  30. 神田厚

    ○神田委員 輸入自由化の問題で、日本農業が非常に大きな岐路に立たされているわけでありますが、最初に山口参考人と林参考人に、先ほどの大変貴重なお話を聞かせていただきまして、現在の自由化、輸入枠拡大の問題につきましては、アメリカの長期的な食糧戦略の一環である、こういう指摘が山口参考人からありました。また、林参考人の方からは、将来の日本食糧市場に対する手だてとして現在この問題が提起をされている、こういうふうに考えているということでございますが、この辺のところをもう少し詳しく、どういう予想といいますか、どういう食糧戦略なのか、日本に対しまして今後どんなふうに展開をされていくのか、その点をお聞かせいただきたいと思います。
  31. 山口巌

    山口参考人 私は先ほど、レーガン政権性格から申しまして、今回の農畜産物自由化問題はアメリカ食糧戦略の一環ではないかということを申し上げたわけでございます。レーガン政権は、御案内のとおり、いままでやってまいりました状態を見ましても、強いアメリカを標榜いたしておりまして、その点でアメリカの武器は、武力とやはり食糧生産であろうかと思います。これは世界に卓抜した力を持っておるわけでございまして、このために食糧農産物を武器に使って、各国に対する支配力を強めるということは当然考えられることではないかと私は思うわけでございます。  われわれが、いま日本の国の状態を考えてみましても、戦後食糧がないときに、アメリカがいわゆる学校給食の粉食の奨励を、日本国内で見返り資金を取り崩してやったわけでございまして、少国民はそのためにほとんど食生活の教育を受けまして、現在、朝飯はほとんどパンであるというのが若い世代の慣習になっております。このため、アメリカは小麦の市場日本国内でごらんのとおり確保いたしておるわけでございます。  こういうことを計画的に、しかも長期的な視点で行うのがアメリカの作戦でございますので、そういう点から見ますると、今度の農畜産物問題は、二十二品目残存輸入制限品目開放にとどまらず、さらには、国家貿易の、米あるいは酪農製品というところまで当然及んでくるのではないか。先ほどの、貿易摩擦の根源である工業製品輸出が続く限り、それを理由といたしまして押し込んでくるということは考えられます。特に、アメリカ農民あるいはアメリカ政府考え方としては、農産品は他の工業製品と同一の貿易商品であるという点でわれわれと根本的に考えが違うわけでございまして、そういう形で押し込んでくることが予想されるということを申し上げたわけでございます。
  32. 林信彰

    ○林参考人 アメリカ食糧戦略については、すでにいろいろな方からお話がございますが、戦後一貫して、アメリカ農産物を戦略物資として行使をしてきたというのは歴史的な事実でございます。インドネシアあるいはチリに対する軍事的な介入の前に、必ず食糧戦略を発動しております。  こうした歴史的な経過がございますが、現在のアメリカ農業にとってみますと、農産物を単なる援助物資として、経済外的なものでこれを行使するというのは、なかなかむずかしい状況になってきているのではないだろうかというふうに思うわけです。あくまで貿易品目として、それによってアメリカ経済問題を解決させる一環としてこれを使うという形で考えているというふうに思うわけであります。  そういうアメリカの最近の動向から見ますと、最も安定した市場である日本農産物市場というのは、きわめて魅力的な市場であるというふうに考えていいのではないだろうか。中でも米あるいは小麦、こうしたものについて、日本市場はまだまだ購買力を持っている。つまり、日本農業との競争との関係において、これを有利に導けば、まだまだ拡大できるという基本的な考え方を持っていると思うわけであります。昨年十月、ブロック農務長官が来日した際にも、日本食管制度に言及して、小麦の二重価格制については、これがアメリカの小麦輸出を阻む一つ原因になっているというような指摘をしております。  あるいは、いま最も心配されております米の問題にしましても、アメリカはすでに八百五十万トン——これは、もみでありますが、生産力を持っております。そしてアメリカ国内における米消費は、精米ベースで二百五十万トン以下であるわけでありますから、少なくとも四百万トンの米輸出をしなければならないという実情にあります。これを一体どこに向けていくのか。東南アジアその他の、延べ払いあるいは非常に安い価格で売らなければならないところへ長期的にこれを輸出することは、恐らく不可能である。やはり経済ベースで輸出することを考えざるを得ないところへ来ているのではないだろうかと思うわけであります。アメリカの精米価格から申しますと、恐らく日本の港着で、トン当たり八万円くらいの価格で輸出できる可能性を持っております。こうした点から見れば、日本の将来の米市場に対する異常なほどの関心が高まってきているというふうに考えております。  こうした点で、今回の二十二品目の問題を突破口にした貿易摩擦問題というのは、先ほど山口参考人の方からもお話がありましたように、いまの国際的な経済関係から言えば、繰り返し出てくる問題だというふうに思うわけであります。その場合には必ずこの米問題というのが登場してくることは想像にかたくないと私は考えております。
  33. 寺前巖

    ○寺前委員 杉本さんと山口さんにお願いをしたいと思います。  いまここで各委員の皆さんからも出ておるわけですが、食糧というものは、自国の主権の独立を守っていく上で非常に重要な位置を持っているのだ、だから、単に農民の問題というだけでは済まない問題を含んでいる、戦略上の問題としてもきちんと位置づけなければいけないというお話がかなり展開されると思います。  私、この前、一月にNHKを見ておりましたら、自由民主党の江崎さんなどと山口さんが出て討論をやっておられました。その討論の過程を見ておりますと、一部の政治家の方からは、不足払いで農民の間に犠牲を少なくして、何らかの対処をという話が出ていました。これに対して山口さんは、そんなものはできるものじゃないのだ、食管会計一兆円がいま問題になっているときに、牛肉その他の自由化をやっていったら、一兆円の不足払いというのはすぐ飛んでしまう話じゃないかという形で、これに対して反論をやっているのです。できることでもないことを言って幻想を持たすなと言わんばかりの話でした。ですから、いまアメリカ自由化を求めてきているこの分野を、もしも不足払い、金でもって処理をするという一定の妥協をやらすことができるというならば、どれだけの資産を日本として持たなければならぬことになるのか。ここで数字を挙げておられましたから、お教えいただけたら非常にありがたいと思います。  先ほど杉本さんは、お話の中で、できるだけ打撃を避けて受けて立たなければならないというようなお話を、具体的にオレンジの例なんかも挙げながらおっしゃっておられたと思うのです。これは、山口さんが提起しておられる問題に対して打撃を少なくしながら受け入れるという方向になってくるとするならば、戦略論は別にしておいたとしても、一体どういうふうな形で、日本農民あるいは漁民に対して打撃を少なくしてやっていくことは可能なのだというふうな提起を恐らくお持ちなのだろう、その点をお示しをいただきたいというふうに思います。
  34. 山口巌

    山口参考人 まず不足払い財源の問題について申し上げますが、豪州肉と国内産の牛肉の平均価格との間をとりまして現在の輸入数量で換算いたしますと、大体三千億円程度の財源がかかるわけでございます。あのとき申し上げましたのは、豪州の牛肉は大体いま国産牛肉の三分の一の価格で入ってまいりまして、これが当然豚肉の価格の暴落にもつながり、ブロイラーの価格の暴落にもつながるわけでございまして、牛肉問題だけで済まされる問題ではない。それらを、総括的なアバウトな話でございますが、ざっと計算いたしますと、豚肉、ブロイラー合わせて大体一兆円の不足払いをしなければいまの畜産農家の経営はもたないだろう、こういうお話を申し上げたわけでございまして、牛肉につきましてはきょう資料を持ってまいりませんが、私どもが試算をした経過がございまして、牛肉だけで大体三千億程度かかるわけでございます。その他を計算いたしますと、大体一兆円近い金額を畜産農家全体に不足払いをしなければならぬという事態になりますので、そういう数字になるわけでございます。  それから果樹関係につきましては計算をいたしておりませんが、果樹関係は温州ミカンオレンジの価格関係ではなくて、むしろ温州ミカン自体が過剰状態で、先ほど高門参考人から申されましたように十五万ヘクタールを十二万ヘクタールまで下げる、三万ヘクタールの減反と申しますか、改植を含めました生産制限を行っておるのが現状でございまして、そのさなかにオレンジが入るということは価格の大暴落を引き起こすことの危惧でございまして、不足払いというよりもむしろ、そういう打撃によります価格暴落の方が大きいのではないか、私はかように考えるわけでございます。  以上でございます。
  35. 杉本一

    杉本参考人 打撃を避ける具体的な方法があるかという御質問でありますが、これは大変むずかしいことでありまして、もしいろいろの名案があるとすればそれはいままでにも着々と実行されているのでしょうけれども、それがないために非常に困っているということだと思います。  そういう観点からいいますと、たとえば、完全自由化ということはとうていできないわけでありますが、また逆に、いまの日米経済関係の中で、果たして現在のままの輸入制限で通用するかどうかということを考えますと、実際問題としてはなかなかむずかしいのじゃないか。もちろん、わが国農業実態を説明し、できるだけ公正妥当な線で交渉をまとめるということがまず第一に大事なことでありますけれども、もし仮に避けられない場合に、それではどうしたらいいか。  これは先ほども申し上げましたように、非常になだらかなかっこうで漸次輸入枠を拡大していくというような形、あるいはオレンジについて申し上げれば、季節外の関税その他の操作によってできるだけミカンとの競合を避けるという形、いろいろきめ細かい方法が必要かと思います。それからまた、価格の面で価格支持をしてそれで救済をする、農家所得を補償するということも財政の面でやり、あるいは需要の動向から見てなかなかむずかしいとなれば、結局のところ生産対策の方でできるだけ生産性を向上し、かつ生産農家に対する打撃を軽減するという方法しかないと思います。  そこで私、一つ感じておりますことは、従来の農業政策というのはえてして非常に総花的である。たとえば、構造改善事業一つとりましても、これがどういう階層のどういう農家に対して事業を実施するかという焦点がきわめてあいまいなままにこれまでやられてきております。こういう点はたとえば、行政監査なんかでもしばしば指摘されているとおりでありまして、今後は、むしろ専業農家あるいは作物の対象をはっきりさせて、そこに重点的に思い切った政策をするという明確な政策目標を立てることがまず当面可能でもあり、かつ必要なことではないかというふうに感じております。はなはだ抽象的なお答えで申しわけありませんが、最近、特に感じているのは、農業政策の焦点をもっと明確にしないと、いつまでも総花的な政策では通用しないのではないかということであります。
  36. 北村義和

    ○北村委員 山口専務さんばかりになって申しわけありませんけれども、訪米されたときの山口専務さんの考え方を端的にお聞きいたしたいと思います。  とにかく粗粒穀物は手いっぱい買え、備蓄もふやせ、そして肉も自由化せい、こんな芸当が向こうの方でどんなふうにコンセンサスを得ておられたか、そしてまた、そんな問題に対する山口専務さんの考え方がどうであったか、これが一点。  それから唯是先生にお聞きいたしたいと思うのですが、実は、私もいろいろ心配をいたしまして、いま輸出されている商品を全部並べてみるのです。それから輸入しておる商品を全部並べてみるのです。国際経済拡大基調にあるときには、日本輸出商品はなるほど安定的に伸びていくだろうと思うのです。しかし、そうでないときにはがまんしていい商品ばかりなんですね。ところが、わが方で輸入しているものは生きていくためにはどうしてもなくてはならないものばかりなわけですよ。特に、食糧については、穀物については自給率は三〇%前後ということになってくるわけで、そうなった場合の、いままさしく国際情勢はきしみ出してきているわけでありますから、こういった場合に一体どんなふうに先生の立場で考えておられるか、ちょっと聞かせていただきたい、こんなふうに思います。
  37. 山口巌

    山口参考人 お答えいたします。  先般、一月二十三日から二月の初めにかけて訪米いたしまして、この貿易摩擦問題でアメリカ農業団体といろいろ会談をいたしました。いま御指摘の牛肉、穀物の関係でございますが、これは明らかに穀物生産者と牛肉生産者の意見は食い違っておりまして、牛肉生産者は、これは貿易摩擦とは関係はないと断りましたが、これは大事なところなんです。これは全然関係ない、しかし、私ども日本市場牛肉をもっと買ってもらいたい、こういう素直な率直な要求でございました。これは自由化とはあえて申しません。牛肉をもっとたくさん買ってもらいたい、そのための消費拡大は手伝ってもいいというような意見をNCA、ナショナル・キャトルメンズ・アソシエーション、これは全米の牧畜業者の協会でございますが、この代表が申しておりました。  穀物との絡み合いにつきましては、ファーマーズ・ユニオンという組織に参りましたときに、牛肉を売りたいというのは一部の農民意見であって全米の大部分の農民意見ではない、誤解しないようにしてもらいたい、われわれは穀類をこれだけ買ってもらっているんだし、牛肉自由化とか枠拡大することによって日本の畜産がもしおかしなことになればわれわれは大損害である、だからそういう牛肉を売りたいという声には耳を傾けないでもらいたいという強い要求がございました。これは裏の話もいろいろしたのですが、アメリカ牛肉生産というのは、必ずしも農民がつくっているものを輸出しているのではない。いわゆるフィードロット会社と申しまして、素畜を農家から買いまして、一カ所で買い上げる投資会社がございます。それは弁護士とか金を持っていそうな市民から金を集めまして、これは投機で集めまして、それを一カ所に十万頭とか二十万頭とか買い上げて、それで配当しているような会社でございまして、これがやはりレーガン政権と強いつながりもあるようでございます。これは、実態はよくわかりませんが、そういう人たちの要求なんだということを特に言っておりまして、だからわれわれ農民としては穀類をぜひ買ってもらいたい、牛肉ではないと言いましたが、牧畜業者の方は牛肉もできるだけ買ってもらいたいという要求で、意見不統一でございました。
  38. 唯是康彦

    ○唯是参考人 ただいまの御質問に対して、恐らく安全保障の問題を御質問なさったのだろうというふうに理解してお答えいたします。  食糧安全保障というのに対する対策は、食糧危機に対する対策でございますが、この食糧危機の発生については二通りあると思うのです。一つは、先般、昭和四十八年にございましたような、大豆を含む重要農産物輸出規制に見られるような、アメリカ側の比較的短期間に終わってしまう場合、それから、これは実際に起きるかどうかということは別にして、過去の歴史に照らして、戦争など発生いたしますと長期間食糧が入ってこないというようなそういう長期の食糧危機、こういう二通りあるかと思います。  前者に対しましては、期間が短うございますので、重要農産物あるいは重要食糧について二カ月くらいの食糧備蓄をしたらいいのではないか、こういうふうに考えられますし、事実また政府もそういう方針でお進めのようでございます。  問題は、長期の食糧危機対策でございますが、これはそういう事態が発生するかどうかということについて一つ大きな議論がありますが、これは今回省略いたします。ただ、百五十年間永世中立を標榜いたしましたスイスにいたしましても、第二次世界大戦の終わりには、自国は参戦いたしませんでしたが周辺が戦闘状態でございますので、アルゼンチンから買っておりました食糧が入らなくなった、そういった意味で第二次世界大戦末期は大変苦しい状態になっておりますので、やはり不確定の状態を考えて対策は立てたらいい。ただこの場合は、何分にも一億一千万の人口を養う食糧、しかもそれがたとえば二年分といったような、非常に長期の食糧を高温多湿の夏を迎えます日本で備蓄するということは大変コスト的に合わないことだ。また、それが確実にそういう時代がくればいいのですけれども、不測の状態ですからよけいコスト的に合わない状態になると思います。  そこで考えていただきたいのですが、最悪の状態が来たときに、日本国土資源だけで生きていかなければいけない。そのときには現在の食生活とは大変違う食生活をしなければいけない。たとえば、雑穀でも生きていかなければならないと思います。そうなりますと、先ほど食糧自給力と自給率のお話もございましたけれども、やはり問題は食糧自給力だと思います。つまり、そういう平和なときと違う食生活、最悪の状態のときの食生活の自給を一〇〇%しなければいけない、これが当面の課題でございまして、平和なときの食生活の自給を一〇〇%するということではないと思います。ですから、そういう観点からいたしますと、そのような状況に対応できるようにまず生産手段を備蓄しておくべきではないか。たとえば、種子であるとか石油であるとか農地であるとか、そういう食生活を支えるに必要な生産手段というものを備蓄しておくべきではないか。したがって、短期の食糧危機は食糧備蓄、長期の食糧危機は生産手段の備蓄を図る、こういう観点に立って整備した方がすっきりするのではないかと思います。  生産手段の備蓄ということになりますと、それ自体大変な問題ですけれども、たとえば、農地のようなものをとりますと、これは結局平時の土地利用と非常に結びつくように思います。平時において土地を有効に利用するということが、有事の場合の土地備蓄にもなりますので、結局、平時の土地利用を有効的にするという眼目でふだんから対処しなければいけない。これは私は、やはり経営の健全化以外の何物でもないと思います。ですから、しばしば貿易自由化対策と食糧危機対策を分けて議論される方が多いのですけれども、私は、長期的にはそうは思わない。構造的には、やはり健全な農業経営があってこそ初めて自由貿易にも対応できますし、食糧危機にも対応できる、私は基本的にはそう考えます。その意味で、国内農業というものあるいは農林水産業というものを育成して保護していく。ですから、健全な農業経営をやらない保護であればこれはいかぬと私は思います。午前中にもお話ししましたように、そういう方針を政府としてははっきり打ち出して、その線の中で食糧危機対策も貿易自由化対策も進めるべきである、こういうように考えます。  ただ問題は、先ほどからの御議論を伺っておりますと、穀物の自給率が現在低下しておりますけれども、さらに低下するのではないかといったような、日本食糧安全保障の根幹に関するような議論にすぐ発展するのですが、当面二十二品目というのはそういう部分ではないわけなんで、そういう問題までアメリカが含んで、たとえば、米の輸出、そういう方向で進めていくとしても、これはもう日本人の方がしっかり対処すればいい問題であって、やはりあくまでも現在問題になっている二十二品目、これは非常に微細なもので本当に食糧安全保障に直結するかどうかわからない品目もありますので、その辺の交通整理はした上で考えた方がいいのじゃないか。先ほどもお話ししましたように、その中には枠の消化してないものもあると思いますし、その辺はその辺で事務レベルでもっと検討された方がいいのじゃないか。逆に、アメリカ自由化してもメリットがないものについては、またもっと具体的に当事者同士が話したらいい。ですから、その辺の次元は大きな線では一致しますけれども、具体的な当面の問題としては、私はもっと詰めた議論が必要ではないかと思います。
  39. 羽田孜

    羽田委員長 皆さんにちょっとお願いをしたいのでございますけれども、現在検討しておりますのは、「自由化国内農業に与える影響について」ということで、日本農水産業全体に与える影響ですとか、あるいは地域農業に与える影響ですとか、また、水田利用再編対策に与える影響農家経済に及ぼす影響、こんなふうにこのテーマはしぼっておりますので、御質問の方また御答弁の関係の方も、できるだけそんなところでひとつお答えいただければより効率的にいくのじゃなかろうかというふうに思いますので、御協力をお願い申し上げたいと思います。
  40. 串原義直

    ○串原委員 いま委員長から指摘がありましたように、私は、自由化が地域農業に与える影響という立場で、杉本さんと白石さんの御両所にちょっとお答え願いたいのでございます。  といいますのは、さっき愛媛の高門さんですか、後継者の嫁不足は深刻であると大変切実な御意見をいただきました。それから林さんでしたか、自由化の方向が出てきて、秋田では三人の後継者が農業を継ぐつもりだったけれども、どうも自由化の方向になったのじゃうまくないというのでほかの職業の方にかわっていってしまった、こんなお話がございました。まさに大変だと思うわけでございますが、私の地元でも実はそういうことがあるわけです。農業が過保護ならばこんな状態にはならないと私は思うのでございます。  先ほど杉本さんは、国の利益のためには自由化絶対反対のみではいけないのではないか、こういう意見であったわけでありますが、これ以上自由化ということになっていった場合、もう農業をやる気にならない、つまり、嫁不足だとか後継者難ということは決定的になるのではないかと私は心配をしているわけです。いまも食糧自給の問題、食糧安全保障の問題が出ておりますが、若い働き手がなければそれどころじゃないということに実は理論が発展していくのではないか、こう思うわけです。したがって私は、この自由化の方向というのが日本農業の将来にとってとても大きな好ましくない影響をもたらす、つまり、これ以上具体的に自由化が進んだりしていくならば後継者難はひどくなり、嫁不足は深刻になると思う。  そこで杉本さん、国の利益のためには自由化絶対反対と言うだけではどうかと思うという御意見だったけれども、それであるだけに国の利益を守るために、農業後継者、嫁不足というものを解消するためにこの際何をやるべきか、何を考えるべきかということについての杉本さんの御意見、それから現場で市長をやっていらっしゃる白石さんの御意見をぜひ賜りたい。
  41. 杉本一

    杉本参考人 後継者難というのは確かに大変深刻な問題でありまして、新規学卒者は七千人を割る六千人台に入る、そのくらいの人しか跡継ぎが出てこないということであります。  考えてみますと、その跡継ぎが出ない理由は、御指摘のように日本農業がいま非常に危機的な状況にある、とても過保護などというものじゃないということも事実でありますが、もう一つは、現在の農業それ自体の問題もありますが、それ以上にこれから先農業がどういう展開をしていくのだろうという先行きについての非常な不安、不透明さ、これが後継者難が生まれている大きな原因ではないかと私は思うのです。去年の夏でしたか、いわゆる竹内論文とかいうのが出まして、かなりドラスチックに日本農業の将来を描いてみせました。これについては農業関係者の方からはかなり批判が強くて、どちらかというと余り評判のよくない論文ですが、一部の農村の若い人にはあれに対してかなり強い関心が持たれたということも聞いております。もちろん、あのとおりにいくかどうかということはわかりませんし、私もあんなにうまく日本農業が将来先進国型、アメリカ型で成長産業であるという割り切り方ができるとも思いません。また、日本農業は将来ともかなり数多くの兼業農家が混在するような農業で、アメリカ型とは違った形を続けるだろう、そうは思いますけれども、いま大事なのは若い人たちが希望を持てる農業の将来像を明確にしていくということ、これが一つの大きな課題ではないかと思っております。  先ほどもちょっと申し上げましたけれども農政の焦点といいますか、政策の方向が現在は必ずしも明確ではないし、また表現は適当でないかもしれませんが、総花的であるために、どこにどういう農業を将来どういう人に担わせるのか、つまり、担い手のはっきりした像も出てこない。その辺のところはむしろ私自身は、確かに日本農業土地の制約その他いろいろな条件からいって、裸でアメリカ農業と競争させたら大変なことになってしまう、それこそ壊滅的な状態になるおそれもありますけれども、また、反面から言いますと、ある程度の国際競争は避けて通れないそういう現実の中で、それでは足腰の強い一本立ちできる農業とは何か、そしてそれを政策的にどう進めていくかという点が明確になれば、よし、おれはやってやろうというような若い人たちも育っていくし、その人たちにある種の希望も出てくるのではないか、それがいまきわめて大事ではないか、それがひいては後継者問題にもつながってくる、そういうふうに考えております。
  42. 白石孝一郎

    ○白石参考人 地域特産農業に与える影響についてお答えいたします。  地域農業の特産については、私が先ほど申し上げたように、コンニャクのほか落花生あるいは雑穀類、小豆等が含まれておりまして、私は特にコンニャクについて力説したわけでございます。先ほど、私ども山間僻地の農村市町村では議会をもって反対の議決までしておるということを申し上げたとおり、農家が大変狭い畑でやっている特有な権利を外産輸入によって奪われる。一生懸命にだれの支えもなく、もっとはっきり申し上げますると県や町村や国の支えもなくして、コンニャク産業だけはみずから築いた特有な産業である。これをどういう風の吹き回しかわかりませんけれども外国産を輸入することにおいて当然価格は暴落いたします。そういうことによって過疎の上にまた過疎になる、働きたくても働き場がない、また、ほかに転換作物をつくろうとしてもつくるものがない、コンニャクだけを頼りにつくっておる。そういう実情を見ますると、保守、革新を問わず関係町村すべてが反対議決をしておるということが農家の皆さんに与える大きな影響であろう、こういうことでございますので、よろしくお願いをいたします。
  43. 竹内猛

    ○竹内(猛)委員 参考人としては地域の関係で白石参考人、そして土地問題で林参考人お願いをしたいと思います。  日本農業は今日まで、品種改良から土地改良をすべて米を中心に進めてきた。その米が過剰だということで今度は減反をやる、やがて水田の三分の一を減反にするということであるわけですね。その米による収入が農業の中心であったわけです。ところが、それが今度は転作をされる、そのために生産者米価は何年か抑えられ、消費者米価は値上げをする、そして食管の赤字を埋めるというような政策をとってきたわけです。一方、これにかわるべき農家の所得が今度は畜産の方においても生産調整をやる。果樹にしても畜産にしても、日本においてはその地域における特別な技術と物質とエネルギーを集中してやってきたものですけれども、それが山口さんの御報告によると、全部開放しても八億ドルの中でその部分は一・五億ドルぐらいのものだと言われるぐらいのことで伝統的な米あるいは畜産物がやられ、今度はその身がわりに、地域では土壌なり土質なりあるいは歴史なり風土なりというものを利用してコンニャク、落花生、豆というようなものをつくってきているわけですが、養蚕もそのうちの一つだと思いますが、それまでも自由化で荒らしてしまって農業を壊滅させるような方向に進んでくるということは農家の危機ですね。これでは跡取りが残るわけがない。そういう点について、地域の農業を守るために国も計画を立てなければならないし、それを支えなければならないということが一つの強い要求として出てきていいじゃないかと思うのです。それについての御意見をさらにお伺いしたい。  それからもう一つ、林さんにお聞きしたいのは、日本食糧安全保障という問題が前々から問題になっていて、そして農林省はしばしば長期計画を発表されますけれども、これに基づいてみても、ときどきこれが変更する。本当に安全保障としての食糧を自給をする、米麦、畜産物、そしてこれに穀物を中心として守っていくためには優良な農地が必要だ。先ほど唯是先生からも土地のお話がありましたが、土地問題の専門家の林さんの方から、優良な農地がなければ、これはいつでも生産ができるというものじゃないと思うのですね。その点について、土地のあり方についてお教えをいただきたい。
  44. 白石孝一郎

    ○白石参考人 御質問にお答えいたします。  先生のおっしゃられる水田利用再編成対策に与える影響ということで、私どもの近郷町村でも、国の施策にのっとりまして、行政といたしましても協力いたしております。その中にも、確かに幾ばくかのコンニャク等も含まれております。しかしながら、こんな事態もございました。昔は、ある程度コンニャク生産が高いために、水田利用再編成対策以前につくったコンニャクの畑は 国の施策としては認められなかった。いまは認めていただけるけれども、大分その以前のものについては認めなかった事実もございまして、農民の皆さんが大変苦慮いたしております。その上、最近になりまして価格が大暴落、もうここ数年来暴落をいたしておりますので、生産費がおぼつかない状態にあります。こんな経営の中で、行政といたしましては何をつくらせるべきかという問題が関係町村でも非常に頭を痛めているところでございますけれども、東京あるいはその近郷でつくるものに限りがございまして、なかなかいい作物が見当たらないということが現況でございます。  そこで、このたびのようなコンニャクだけに頼っている農家はコンニャクがつくれなくなったら何をつくるんだという悩みは本当に切実な悩みの種でございまして、私ども行政と農家と一体となっていま悩んでおることが実態でございます。当然働き場もなく、つくるものもないという実態でございますので、大変お答えとしては適切でないかと思いますけれども、お答えにかえさせていただきます。
  45. 林信彰

    ○林参考人 お尋ねの土地の問題でございますが、食糧安全保障にとって基本的な土地問題、これはすでに五百五十万ヘクタールの農地すら維持できなくて、毎年壊廃面積の方がふえ、新たに造成される面積が減っているという状態にあります。そういう中で、いまお話がございましたように、水田の利用再編対策が進められております。  その中で、やはり何をつくっていいのかわからない、何をつくっても過剰の壁にすぐ突き当たってくるという問題がいま全国の農村で大変問題でありまして、実例を挙げて申し上げますと、金沢の近くに河北潟というのがありまして、大変多くの国費を使ってこの干拓を行いました。しかし、この干拓地に、最近では入植者が入らないという事態が起きてきております。入植者が入植を辞退するという問題が出てきた。さらに、そこで、本来なら米をつくるために造成された水田でありますが、米の過剰のために畑作物に転換するということでありますが、畑作物はもうすでに過剰の状態に来ているという問題があり、あるいはまた、島根県にまだ開拓パイロット事業の継続された農地の造成事業が行われております。当初の営農計画では、ここで葉たばこをつくり、それから牧草にして和牛の飼育をするというふうに考えていたわけでありますが、ここでも同様に、ここの地元増反者の辞退が相次いでおります。葉たばこはすでに減反に入ってきておる。それから牛について言えば、現在の自由化問題の中で先行きが非常に不安であるということから、こうした借入金を多額にして農地を使っていくことに対する農民の不安感というものがつのってきているのではないかというふうに思うわけであります。  こうしたことから考えますと、日本食糧生産基本的な問題であります土地利用についての低下傾向、これはますます強まってくるのではないかというふうな心配がございます。これに加えて、先ほど来申し上げましたような自由化問題で先行きが不安である、つまり、生産しても売れなくなるのではないかというような問題が出てまいります。水田利用の第三期対策へ近々入ってくるわけでありますが、恐らく、水田利用第三期対策に入ってさらに転作面積が拡大されるというふうにしましても、転作物の大半がこうした自由化問題にさらされてくるということになれば、この水田利用再編対策そのものが進まなくなるのではないだろうかという危惧を持っているわけでございます。
  46. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 十人の参考人の方々ですから、全部の参考人にお尋ねしたいところですけれども、二名くらいにしぼれということでございますから、お疲れのところでございますので、谷本参考人にお尋ねをいたします。  先ほど御説明の中に、生産者価格は据え置かれ、しかも、資材等は年々値上がりを続けている、こういう中で最後に残るのは大型農家ぐらいではないかというふうな、大変心配をされた御説明がございました。農畜産物等の輸入拡大をしたらどういうふうになっていくかということは、もう目に見えてわかるわけでございますが、それぞれの農家が壊滅的な打撃を与えられるということでございますけれども谷本参考人、特に米作について、この輸入化が促進されてまいります場合に、お米の自由化等と関連して御説明ございましたけれども、もう少し大型農家が育つような形になる点と、その米の自由化という点で、どういうふうな関連で御説明いただけるか、ちょっとお尋ねをいたしたいと思います。
  47. 谷本たかし

    谷本参考人 大型農家が育つようにするにはどうすればよいかという御質問でございました。  問題は、農地が流動化できるようにするにはどうすべきかという点があろうと思います。高度経済成長時代に一定の条件が生まれてまいりました。一つは安定兼業農家がふえてきたということ、それからもう一つの問題は、高率小作料を払っても何とかやり抜くことができるという生産者米価の一定水準が維持されてきたということ、そしてまた、生産力の格差が開いてきたということ、こうした条件が挙げられておりました。  ところが、最近になりましたら、この辺の状況はかなり大きく変わりつつあります。たとえば、雇用政策についていいますと、常用雇用を減らして臨時雇用をふやす、こういうふうに雇用政策が転換されるという事態が出てきているのがそれであります。そしてまた一方、生産者米価の方は、たとえば、昨年の生産者米価で見てみますと、生産費が回収された農家は全体のうちの約四分の一見当というような低水準になってまいりました。こういう低い米価になってまいりますと、いまのような高地価のもとでの高率小作料が払い得るような条件がなくなってくるというような点があるわけであります。このようにして見てみますと、農地の流動化を促進をしていくのには、農政の枠組みだけではどうにもしようがないというような多くの問題があろうかと思います。  たとえば、今日、全戸数のうちの約一割見当が六十歳以上で、農業後継者を持たない農家になってきておるわけでありますが、こうした農家は、通常、年金農家と呼ばれております。つまり、年金だけでは食えないのでそれでもって農業をやっているという状態であります。このような点などを含めてみますというと、兼業農家の雇用政策をどうするのか。そうしてまた年金をもっと充実をしていく。言いかえるならば、日本経済のあり方を福祉型経済転換をしていくということの前提を抜きにしては、農地の流動化というのはそう簡単に進まぬであろうといったような点が挙げられなければなりません。また同時に、高率小作料が支払い得るような米価水準の保障といったようなものも不可欠であることは言うまでもなかろうと思います。  次に、米の自由化の問題でありますが、この点につきましては、先ほども若干申し上げたとおりであります。貿易摩擦解消問題、その基本輸出突出型の日本経済の構造のあり方にあるわけでありますから、ここのところをどうするかという問題解決を抜きに突っ走っていくならば、欧米の国際競争力がそう簡単に回復するとは判断できぬ状況でありますから、貿易摩擦問題は今後、第二次、第三次、第四次と起こってくる可能性があるでありましょう。そうしてみますというと、当面は牛肉オレンジといったようなところが自由化の目玉のような形になっておりますが、それが漸次米の方に移っていくであろう、こういうふうに見ていかなければならないと思います。しかも、アメリカ農業は、先ほども少し申し上げましたように、資源収奪型の農業でございまして、そうした農業のあり方は、過般のNHKの報道などでもいろいろな問題点が指摘されておるところであります。環境保全型への転換を、アメリカ農業にいたしましても早晩考えていかなければならないというような状況が漸次あらわになっていくでありましょう。してみますならば、環境保全型の農業の耕種部門といたしましては、畑作から水田転換が可能なところは、水田転換がかなり今後進められるものというふうに判断しなければなりません。そうしてみますというと、アメリカの米の輸出市場としましては、日本市場が有望な市場としてアメリカ自身考えるようになっていくものであるわけでありますから、そうしてみますというと、米の自由化というのが現実的な問題に早晩なってくるであろう、こう考えなければならぬと思います。  以上であります。
  48. 羽田孜

    羽田委員長 まだ御質問があるようでございますけれども、多岐にわたる問題でございますので、以上で「自由化国内農業に与える影響について」の質疑は終わらせていただきたいと思います。  次に、午前中参考人の方からもお話がございましたように、諸外国の中にも貿易制限について、貿易制限をしているところがあります。そういったことで、この貿易制限の必要性についてテーマを移してみたいと思います。御質疑の方、どうぞ。
  49. 戸井田三郎

    ○戸井田委員 ヨーロッパやアメリカの人たちが日本人を動物にたとえたらどうだと聞くと、猿だとかオオカミだとかキツネだとか言うのですね。この中からどういうことが感じられるかというと、いま貿易自由化を通じて行われている、こすい、日本人はアンフェアであるというような考え方と非常に結びついていく。そこに、私たちが警戒しなければならないし、一生懸命に真剣に検討していかなければならない問題があるように思うのです。  戦前農家が八〇%近い農家人口を占めたときには貧しくて、高度成長時代には二〇%あるいは現在では一〇%近くの農家人口になってきた、そのときは日本は豊かになってきた。ということは、日本貿易立国、こういった工業中心に今日の日本が築かれてきたことも間違いない。先ほど林参考人の御意見で、この貿易自由化というものはそのものがねらいじゃないのだ、農作物の自由化そのもののねらいよりもその裏にある、このインバランスを是正するというその効果の期待をねらっているに違いないのだということを言っておられたわけであります。  そこで、私は、この問題にどう対処していくかといえば、やはり農業が農作物の制限ばかりに目をとらわれないで、何か日本農業が近代社会の中でよその国と競争するだけの力を持つことができるものがあるのかないのか、あるとすればどういうことなのか、それをするためには国はどういう対応をしなければいけないか、あるいは日本農家というものは非常に貧しい農家体制でありますから、研究機関を自分が持っているところもないし、あるいはいろいろな手足もないし、情報も少ない。そういう中でどういうような情報を提供してやり、どういうような指導をしていったら、こういったものはもっともっと自由化に耐えるだけの力を持ってくるだろう、こういうような御意見がありましたら、林参考人からお教えいただきたい。農政の専門家として御意見を伺いたいと思うのであります。
  50. 林信彰

    ○林参考人 お答えいたします。  まず第一の問題でございますが、アメリカ側要求しております貿易インバランスの解決のために、具体的な日本でやれるべき手段があるのかどうかということでございますが、これが事、農産物だけによって、あるいは農業問題だけによって解決すべきものではないということは、御承知のとおりでございます。そこで、問題の解決としまして国策としてやるべきこと、これは国際協力の中において日本の果たす役割り、このことがもう少し国際的に認められるようなやり方が必要なんではないだろうかというふうに思います。  具体的に申し上げます。これは、工業関係の問題については私専門ではございませんので省きますが、農業関係で申し上げますと、現在、世界食糧の問題というのは大変な問題になっております。日本がこれ以上農産物の輸入を拡大していくということは、これは貧しい途上国の人たちの食糧をむしろ奪うことになってくるわけであります。そして、急激な輸入の増加ということでもし国際的な農産物価格が上昇していくというようなことになれば、日本がむしろ発展途上の国々から手ひどい非難を受けるであろうというふうに考えられます。現在の国際経済体制というのは、単に先進国間の問題だけではなくて、南北問題というのが非常に重要な問題、位置を占めておりますので、この解決のために農業の面で何らかの手段がないだろうかということであります。一つは、途上国の食糧問題解決のために、日本農業の持っている力を十分に生かしていく、いわゆる技術協力をもっと拡大していく、これらについての国の全面的な力の入れ方が必要ではないかという点が一点あります。  また、短期的に申しますと、現時点においてはアメリカは大変な農産物の過剰に悩んでおります。そしてこれがやはり日本に対する圧力を増加させている原因でもありますので、途上国の食糧援助に対して日本が一時的な肩がわりをして、アメリカから過剰農産物を買い上げてそれらの援助に回すというような手段、方法ということを考えて、日本の持っている経済の力を国際協力に使っていくということが必要なのではないだろうかというふうに考えられます。こうした国際関係の調整を図りつつ、やはり国内においては日本農業が新しいこうした国際時代の中において生きていく道というものは、これはますます見つけ出していかなければならないだろうというふうに思うわけであります。  ただ、この場合考えておかなければならないのは、現在象徴的に言われている牛肉オレンジ、これが国際価格に比べて日本の価格がきわめて高いということが非常な問題になっておりますが、しかし、この高いとか安いとかというのは単純に生産コストの問題だけではなくて、為替関係とかその他のさまざまな理由がございます。こうしたものをすべて生産コストの問題に引き移して、アメリカあるいはヨーロッパ、オーストラリアの生産コストと日本農業生産コストが等しくなければいけないという議論は私は違うのではないだろうかというふうに思っております。日本のこうした国土の利用の中において日本国民が許容できる範囲で農産物価格というのは成立しているのであって、その範囲の中において国際的な競争力その他の問題を考えていく必要があるだろうというふうに思うわけであります。消費者の間からいろいろな声が出ておりますが、国内生産されている農産物というのは、単純にオレンジ一個が百円でこっちが三百円という比較ではなくて、それの安全性あるいはそれの味とか嗜好であるとか、あらゆる面を考えて価格関係というのは成立していると思いますので、そうした問題について十分考えていく必要があるというふうに思います。  なお、最近の農林水産省の資料によりますと、大都市における消費者農産物価格、食料品価格というものはヨーロッパ水準にかなり近づいてきております。こうした状況から見ますと、日本農業というのは決して努力を怠っているわけではなくて、かなり努力している面があると思います。今後、ますます努力すべき面は生産面にもございますが、同時に流通面においてのコストの低下、流通改善という点に力を加えていくならば、消費者が必ずしも非常に大きな負担を負うというようなことがなくて済むのではないだろうかというふうに考えております。  内外の調整というのは、そうした意味でやや時間をかけて考える、その場合に国際的な関係において日本が孤立しないというためには、特に、南の発展途上国に対する日本基本的な姿勢がどうあるべきかというあたりがこれから問われる時代に来ているのではないかということを考えている次第でございます。  以上でございます。
  51. 新盛辰雄

    ○新盛委員 池尻参考人お願いをします。  日米間の漁業が非常に危機的な状況に来ているという御意見がございました。米国の漁民から洋上において買い付ける魚の数量によって割り当て量が制限をされる、いわゆる貿易と割り当てをリンクさせるやり方についてどうお考えか、お聞かせをいただきたい。  また、いわゆる相互主義法案と言われる国境色の非常に強い新ブロー法案とミッチェル法案、これを六月上旬ごろミックスして一つの法律にまとめて出してくる。こうなりますと日本の漁業は大打撃を受けるわけですが、これについて一体どう対処するというのか、どういう御意見を持っておられるか、お聞かせいただきたい。  唯是参考人に、先ほどお話しございましたこの輸入制限品目の割り当て制限をしているものの中でも底が抜けているものがあるのじゃないか、再検討をもっとすべきじゃないか、二十二品目自由化問題をある意味では前向きに検討したらどうかというふうに私は聞き取れたのですが、これは枠の拡大を示しているのか、国境保護政策の上で自由化というのも検討する必要があるのじゃないか、こういうふうな意味でおっしゃっているのか、その辺もう一回お聞かせをいただきたい。  以上です。
  52. 池尻文二

    池尻参考人 お答えをいたしたいと思います。  アメリカ水域におきましていま起こっております問題につきましては、先般の意見開陳で申し上げたわけでございますが、要するに、ブロー法案の趣旨に基づいてと申しますか、アメリカ自国水域の水産物の地位というものを高めたいということが一つ、それから、外国漁船でアメリカ水域内の漁業の振興に寄与するというその寄与度というものをしかと確かめたい、その上でクォータを上げましょう、こういうふうな態度に変わってきておるわけでございます。私どもちょっとおかしくなるわけでございますが、ことしからは百十五万トンの漁獲割り当て量を、全体の枠を決めまして、その半分は一月にやる。あとの半分はお預けで、四月と七月に半分ずつ出してあげましょう。まさにお利口にしておるならばお菓子を上げましょうというようなことでございます。そのお利口の中身は、いま申し上げましたような要するに、国内漁業振興に対する寄与度だの、市場開放の熱意だの、そういうことを言っておるわけでございます。  それはひとつ話はわかるといたしまして、実際は、これは政府間でやる仕事ではございませんで、民間がスケソウダラの買い付けばやるわけでございまして、昨年は一万四千トンの買い付け量、これは大手でないとやれませんので日水、大洋が引き受けたわけでございますが、みごとにわずか一万四千トンの枠で一億円内外の双方赤字を出している。それを今度は一気に二十万トンから四十万トンにしろというような話を持ってきているわけでございます。そろばんの話は別にいたしまして、すり身製造の母船を持っていってアラスカ漁民がとったスケソウダラを買い付けるというようなことにいたしましても、母船を持っていく限りは、日本漁民みたいに独航船が適時適切に魚を運んできてくれなければ大赤字になるしろものなんであります。それをいま盛んに要求してきて、しかも四月分の漁獲割り当て量をまだよこさないということで日本の漁船が立ち往生しておるわけでございます。私どもも、外国の入漁に際しまして入漁料だとかそういうものを強いられるというのは覚悟いたしておりますけれども、現在のアメリカの態度はいささか逆上ぎみではないかというようなことで、水産庁にも折につけては冷静に説得をして解決をするようにというふうなお願いをしておるわけでございます。  したがいまして、先ほどの第二の御質問も、その中身の問題はまさに変わらないわけでございまして、そういうアメリカ側日本に対する要求というのは日増しに強くなってくるのではないか、そういうことを非常に懸念しておるわけでございます。
  53. 唯是康彦

    ○唯是参考人 私が先ほど申し上げましたことについては次のような理由です。  午前中からお話を伺っているのですが、生産者関係あるいは学識経験者の方、いずれも日本農業の苦境というものを訴えておりますし、私もある程度タッチしておりますからわかっておるわけです。そういったものについて国民的なコンセンサスを得て自由化に対する対策を立てていくということも大変必要ですけれども、しかし、内輪だけでそういうことを言い合ってお互いうなずいていても、相手に対して恐らくはとんど説得力がないだろうと思うのです。もしも、日本農民が非常に困るというのであれば、アメリカだって失業者が九%以上いるんだから同じじゃないか、おあいこじゃないか、そういう話で一蹴されてしまうのじゃないかと思うのです。ですから、そういう基本的な問題、さらに日本農業の今後のあり方とか、その他安全保障問題、いろいろすべて基本的な問題についてみんなで話し合って一つの姿勢を確立していくということは私は大変大切なことだと思います。  しかし、国際的な場に出たときにそういったものが果たしてどこまで通用するのだろうか、こういう疑問を持ちます。そしてその中で、いま水産のお話がありましたし、スケソウダラのような問題については私も若干知っておりますが、漁業会社が大変損害をこうむりながらやっておるわけですね。特に、いまアラスカの方はカニの漁が悪いものですからスケソウの方にさらに傾斜してくるだろうと思うのです。そういう非常に不合理なやり方というものはいろいろアメリカアメリカにあると思います。ですから、そういう問題についてはよく検討して、一時的な問題であればそれが長期化、構造化しないように十分注意すべきだと思います。  ただ、先ほど午前中お話ししましたように、いろいろな理屈を言っても、非自由化品目が非常に多いということなんですね。このことについては、やはり弁解をすればするほど国際場裏の中ではかえって誤解を深めてしまう、こういう心配を私は大変しているのです。はっきり言いますと、日本人は自分の都合だけ言って何も国際的な協力関係の中に入らないじゃないか。われわれだって、アメリカ日本とは、アメリカに限らず、ほとんどあらゆる国と友好関係を結んで世界の平和を望むということ、あるいは経済が発展していくことについては別に異存はないわけです。いろいろな嫌な思いがあっても国際人として、大きな国となった日本として、ある一つの対応の姿勢を見せないといけない。そういった意味で、非自由化品目についても前向きにと申し上げたのは、原則的には枠を拡大する方向に誠意を示したらいいのではないか。ただ、申し上げましたように、国内農家の保護の問題もございますし、国際価格の急騰を招いてはいけませんし、その辺は十分相互にネゴシエートして対応したらいいのではないか。  さらに、私個人がわからない問題が二、三あるのです。というのは、水産の中でたとえば魚介類というのがございます。その中で、たとえばイワシというものがある。イワシは輸出しているのであって輸入はしていない。それなのにどうして保護になっているのか。これは私自身がよくわからないのです。あるいは野菜、果実の加工品がございますけれども、こういうものは他方で果実の冷凍品なんかで入ってきている。そうなりますと、フルーツパルプなどはその冷凍品を使ってもいいではないかという話が出てくるので、そういう意味で底が抜けているのではないか。そういうような状況を残しておいて日本農業が壊滅するとか、食糧危機だとか、そういう議論を言ってみても、それは全然次元の違う話ではないか。あなた何を言っているのだ、こういうふうにいなされてしまいますので、私は、そういう問題は問題で、どこに問題点があるのか、本当に枠が必要なのか、必要ないのか、そういう詰めを少ししておかないと、結局最後は日本というものは孤立して、日本の農水産業はとんでもないしわ寄せをかぶって思いもしなかったような状態にされてしまう、それを大変心配している、そういう意味でございます。
  54. 武田一夫

    ○武田委員 救仁郷参考人にお尋ねをいたします。  先ほど牛肉を安く、しかも安全に消費者に提供するようにいろいろ努力をなさっている、その努力をわれわれも知っているわけでありますが、しかし反面、先ほど妹尾参考人からお話がありましたように、やはり国際競争力をもっとつける努力はしなければいかぬということがございました。そういう意味で、今後のそのための対応としてどのようなことをいまお考えになっているか。そのために国としましてどういう点にもっと力を入れなければいかぬとお考えになっているか。この点についてお尋ねをいたします。  それから妹尾参考人にお伺いしますが、日本農業は過保護であるというようなこともしばしば言われるわけでありますが、御婦人の皆さん方とお会いしたときにこうした問題についてどういうような声を聞かれているものか。いろいろアンケートなどもとられているようでございますが、御婦人のこういう問題に対するお考えなどございましたら、お聞かせ願いたい。しかも、もし過保護だとすれば、どういう点が過保護の理由なんだとお考えになっておるか、その点についてお聞かせをいただきたいと思います。
  55. 救仁郷義房

    救仁郷参考人 お答えをいたしますが、二つの点についてのお尋ねでございます。  まず、価格を含めまして、畜産農家体質改善をどのように考えるかということと国際競争力に勝つには国の施策はどうあるべきかというお尋ねであったと存じますが、そういうことでよろしゅうございましょうか。——  まず、最初の体質改善の問題でございますが、申し上げましたように、牛肉の面につきましては、特に、私ども鹿児島県におきましては農業生産額の半分以上を畜産で持っておる。中でも牛肉が主体であることはいろいろ御案内のとおりでございまして、日本肉牛生産のおおむね三〇%が和牛でございます。七〇%が酪農の老廃牛あるいはまた乳雄の去勢の肥育が占めておるわけであります。  こういう中で、参考人からも御意見がありましたように、酪農振興との関連も多分に肉牛生産の形にあるわけでございまして、特に、北海道等の酪農地帯におきます体質改善は相当進んでおる。ところが反面、三割に該当いたします和牛の生産地帯はなかなか、特に、鹿児島県等におきましては山間地帯が主でございまして、生産から肥育の一貫体系もございますが、生産段階におきましても、規模拡大の中においては、おおむね七割程度がまだ三頭から五頭のいわゆる経営規模の小さいもの、三割におきましては二十頭あるいは三十頭、場合によりましては三百頭に及ぶ相当規模の大きな肉牛農家もおるわけでございますので、私どもといたしましても、先ほど意見を申し上げましたように、体質改善の中におきましては経営規模を拡大をする、さらにまた、生産費を引き下げまして経営努力をするという、一貫をいたしました形の中で体質改善していく努力をいたしたい、かように考えるわけであります。  国際競争力の価格の問題についてでございますが、去る三月畜産価格が決定をされました。一部酪農におきまして、加工乳につきまして〇・五六%、五十銭の値上げ、それ以外は据え置きという形において決着を見たわけでございますけれども意見の中に申し上げましたように、累積します赤字の解消策の中で、政策の問題といたしまして一千億円の長期、低利資金の融通の措置を講じていただいております。大変感謝を申し上げて、早い機会に実現をいただきたい、このように期待をいたしておるところでございます。あわせて、生産措置につきましても、一頭当たり一万円の生産補助金なりあるいはまた価格保証体系の中におきまして一頭当たりの価格についての御配慮もいただいておりますので、政策的にはそのような形の国の施策が講じられるということでございますので、今後も引き続きましてこのような生産なりあるいは対応の維持の施策の中でぜひ御配慮をお願い申し上げたい、このように考えておるわけであります。  当初申し上げましたように、アメリカとの価格対比ということにつきましては、現在の畜産経営の体質の中において、当然現段階は価格において、競争力において急速に対応ができるというのは望める事態でないことを御理解いただきたい。御意見もございましたように、EC並みにはようやく近づけつつあるわけでございますので、私どもといたしましても、今後とも精いっぱいの努力をいたしまして消費者により安い、品質のいい物を提供するような努力をいたしたい、このように考えております。
  56. 妹尾美智子

    ○妹尾参考人 直接のお答えになるかどうかわかりませんけれども、実は私ども農業の問題に直接接触をし出しましたのは、お米の問題からでございます。そのお米の問題で、生産者価格を決めますときに、基準になりますものがいろいろ細かく具体的にたくさん出てくるわけです。これも加えて、あれも加えて、あれだけ小まめにめんどう見ていただいているのを見ますと、たとえば、都市の勤労者たちのいわゆる給料といいますか、賃金闘争なんかをやりますときに、果たしてあれだけの非常にきめの細かい裏づけの試算があって、その上に立って都市勤労者の賃金がはじき出されているだろうかどうだろうかということをいつも疑問に思うのです。たとえば、交通費までがその中に含まれているということになりますと、生産者米価の中身にここまで配慮されているというのは、本当にある面ではうらやましくも思いますし、またある意味では都市生活のわれわれの方がずさんであるのかもしれないといったような気がするのです。まずそれが一つございます。  それからもう一つは、生産者米価と消費者米価を決めますときに、われわれは生活というものを非常に大事にいたしますから、生活の中身を何らかの形で比較できないだろうかということをいつも考えます。実は生産者米価、消費者米価のお話し合いのときに、それでは一体、私たちの家計の中身でございますね、たとえば、一年間に旅行のためにはどのくらいの費用を使っているのだろうかとか、あるいは教育のための費用はどのくらい出ているのだろうか、そういう家計を農村生活の方と都市生活の方とで比較して、数字でその資料を出していただいたことがございます。これは農林省からです。その数字を見ましたときに、生活の中身を数字で見るだけでは、都市生活者と農村生活の方々との家計の中身は余り変わらない、むしろある面ではいいところもあるのじゃないかなという感じを持つことさえございます。ただ、数字だけで生活というものは比較できませんから、それだけがすべてとは申し上げませんけれども、そういう感じを持つことがあるわけなんです。それが二つ目でございます。  それから三つ目は、これは非常に申し上げにくいのですけれども生産者米価には必ず政治加算がつきます。ところが、消費者米価の方には、政治減算というのはいまだに一遍もついたことはございません。お米の値段を決めますときに、農業の方々、あるいは農林省がよくがんばって、農業をなさる方々を本当によく守ってあげていらっしゃるな、都市で生活しています消費者や主婦は一体だれが守ってくれているのだろうなという感じを受けることがしばしばあるということでございます。  ただ、私、ここでよほど注意しないといけないと思いますことは、これはきょうの農業の問題には直接関係をしないかもしれませんけれども、いま婦人の問題として非常に大きいのは、専業主婦と働く婦人、ここの手の結び方が非常に弱い。言葉をかえますと、いわゆる農村の御婦人の方と消費者である都市生活の御婦人の方との触れ合いあるいは話し合いの場、あるいはそこでのお互いの共通的な認識をしようとする努力、これがいま非常に欠けているのではないだろうか。そのことが農業問題に対する都市生活者のある意味での誤解を招いているのではないだろうかな、そういう感じを持っています。
  57. 羽田孜

    羽田委員長 もう一度ちょっと整理させていただきますけれども、いま扱っておりますテーマは、「諸外国貿易制限の必要性について」ということで、各国の農業保護、特に国境保護措置の存在理由ですとか、あるいはわが国農業保護、特に国境保護措置のあり方、そして農業、水産業の再編整備あるいは体質強化の必要性、こんな問題についてあれしておりますので、そんなことで進めさせていただきたいと思います。
  58. 神田厚

    ○神田委員 山口参考人にお聞きをいたしますが、各国におきましても農業保護、特に国境保護措置があるわけでありますが、特にアメリカあるいはEC諸国におきまして、それらがそれぞれの国の産業——農業、水産業、林業、こういうものに対しましてどういう役割りを果たしていると考えているのか。さらに、日本におきましては、それでは農業の保護水準はどういう程度であればよいというふうに考えておられるのか、この二点。  さらに、唯是参考人に、残存制限品目の二十二品目、これは非常に多過ぎる、ですからやはりこれを少なくしていかなければならないという御意見でありますが、現時点におきまして制限品目をそのまま取り払う、自由化するということになりますと、先ほど参考人からいろいろ話がありましたように、その産地が壊滅的な打撃を受ける、その品目にかかわる産業が壊滅的な打撃を受ける、こういうことであることは事実だろうと思うのであります。  したがいまして、もしも非自由化品目自由化に移行せしめるという考え方があるならば、どのようなプログラムで、つまり、政府、農林省としては、それらについてはどういう手当てをしながら、どういう道を開いていくのかという問題も、当然考えていかなければならない問題だろうと思うのであります。われわれとしましては、原則として、現時点において二十二品目自由化はむずかしいと考えておりますが、その点につきまして先生のお考えをお聞かせいただきたいと思います。
  59. 山口巌

    山口参考人 お答え申し上げます。  各国の農産物の保護政策の問題でございますが、これはわが国に比較いたしまして、むしろアメリカECの方が進んでおりまして、国家予算に占める農業予算の比重もきわめて大きいわけであります。また、国民一人当たりの負担額も、日本が一番少ないことは御承知のとおりでございます。  貿易摩擦の問題に関連いたしまして特に申し上げますのは、アメリカにおきましては、すでに五五年にガットに加入いたしましたときの条件といたしまして、酪農製品等十三品目につきましてウエーバーを取りつけておりまして、これは厳格な国境措置をやっております。したがいまして、海外からの品物は、日本の場合はいわゆる残存輸入制限品目ということで、国の行政措置で二十二品目防いでおりますが、これは行政措置でございますから、ガットの場におきますと非常に弱いということで、今回のような問題が出てくるわけでございまして、アメリカの場合は、当時ガットへ加入していた国がきわめて少ない、早く加入したということで、十三品目については完全な国境措置をとっておるわけでございます。  日本の場合、これからウエーバーを二十二品目について取りつけられるかの問題でございますが、ガット加盟国の三分の二が賛成いたしませんと取りつけられません。したがいまして、その後いわゆる開発途上国がたくさんガットに入っておりますので、日本が申し出ても、恐らく不可能であるというのが現在の見通しでございます。そういう違いはございますが、保護政策の国境措置は、アメリカの場合はそういう形でやっておるわけでございます。  さらに牛肉につきましては、別に食肉輸入法という法律がございまして、国内需要の一定数量の範囲内しか輸入をさせないということで、はっきり国境措置をとっております。アメリカは、御案内のとおり食肉の輸入国でございまして、多いときは、年間一千万トンくらいの国内消費量のうち百万トンくらい、主として豪州から輸入をいたしてまいった経過がございますが、現在は六十万トンくらい入れているようでございます。いずれにしても、食肉輸入法で一定数量以外は入れないというはっきりした国境措置をとっておるわけで、この点からも、牛肉自由化を求めるということは、まことに身勝手な考え方ではないかというふうに考えるわけでございます。  ECにつきましては、これも先生方案内のとおり可変課徴金制度をとっておりまして、域内の生産費を中心といたしまする指標価格と、外国から入ります価格との間の価格差につきまして、課徴金としてECが取り上げまして、これを財源といたしまして各種の農産物輸出奨励金に使っておるわけでございます。ECから日本にもいろいろな品物が輸出されておりますが、これもほとんど輸出奨励金がついた安い価格で入ってくるわけで、国際的には一種のダンピングみたいなものでございますが、これが国際的には許されておるというのが現状でございます。その点、過剰米の払い下げでアメリカからクレームがつきましたこと等考えますと、まことに片手落ちのことではないかと、私ども素人は考えておるわけでございます。  それから、どの程度の負担額が適当かという問題でございますが、どの程度が適当かという前に、日本ECアメリカ国民一人当たりの農業保護にかかった経費、いわゆる国際価格で入ればこれくらいのものが食えた、ところが国内製品を食ったがために、これだけ消費者が負担したという部分。それからさらに、農業予算で予算的な措置をした金額、これを国民一人当たりで割ってみますと、消費者負担額が日本の場合には国民一人当たり三万三千円払っていただいておるわけです。国際価格より高いものを食っておる。その分消費者が負担をしておる。それから、農業予算で払っていただいた補助金を加えて一人当たり五万六千円の負担になっております。ECの場合は、国民一人当たりの消費者負担額が三万八千円、それから予算を入れますと五万九千円。アメリカの場合には、消費者負担が四万円、予算を入れまして六万四千円。だから、日本が全体で五万六千円、EC五万九千円、アメリカが六万四千円でございまして、決して国民一人当たりの負担額は、日本農業保護政策は高くはない、むしろ、比較をいたしますと一番低い価格であるということは間違いない事実でございます。農業過保護論が非常に論じられておりますが、私どもはこれは非常に心外でございまして、各国とも農業につきましてはその国の国土保全、国を守る、水や緑を守るという機能並びに命につながる食糧の安全確保、こういうために財政支出して消費者の理解の上に負担いたしておるのが現状でございまして、この点につきまして、私どもとしては今後、先生方国民に対する啓蒙並びに予算上の措置お願いいたしたいと思います。  以上でございます。
  60. 唯是康彦

    ○唯是参考人 やや繰り返しになりますけれども、まず、非自由化品目の大部分はこれは割り当て制度のために国内と国外の価格差が非常に大きいわけですね。しかし、五十二年、五十三年の東京ラウンドあるいは日米農産物交渉などを通じて次第に枠を拡大してきているわけです。現在では、非常に枠を拡大してしまって自由化したと同じ、つまり、価格差が非常になくなってしまったというものもあるのです。また、次第に接近してきているというものもあります。それから、私先ほど触れましたように、むしろ日本が缶詰とかいろいろな形で輸出しているものがあって、輸入してないのに枠があるというものもあるのですね。あるいは、先ほどもこれまた触れましたように、どうも別の形態で自由化していて、それだけをクォータを与えて抑えておるという、何かまことによくわからない形のものも残っています。ですから、この際そういうものも全部一回洗い出してみたらどうだろうか。  よく皆さんは農民とか漁民の保護とおっしゃるのですけれども、クォータシステム自体は農民、漁民だけが恩恵を受けているのではなくて、それに介在するインポーターとかメーカーとかあるいは諸団体、こういう人たちもある一定の恩恵を受けている。それは、たとえば枠が拡大して価格差がなくなっても安定性という意味では恩恵を受けているわけですね。ですから、私は農民、漁民だけを言うのは不当だと思いますけれども、とにかくそれはそれで一つの生活ですからそういうものを壊そうとは私は一向に思いません。やはりそれぞれみんなまじめに生きてその中で生活しているのですから、そのことが決して悪いとは思わない。現在の制度の中でそういう仕組みになって生活の安定を得ているわけですからね。ですからそういうものを十分配慮した上でいまのような点を考えるならば、次第に枠を拡大——先ほども申しましたように、輸入をし過ぎれば国際価格が急騰しますからそれが上限ですし、また、余りにも値段が下がれば国内農民が被害を受けますからこれが下限でしょうが、その範囲の中で枠の拡大を考える、そしてそれをやがて自由化したと同じ水準に持ってくるという姿勢がまず必要なのではないか。これは先ほど来出ております国内農業の国際競争力をつけるということと並行していくべきであって、それは同時に、長期対策かもしれませんけれども、当面そういう姿勢があってしかるべきだ。  それからまた、そういう形の中で、すでにかなり価格差が縮まり、あるいは自由化したと同じような状態になっているものについては、何らかの補償を立てながら自由化の方向へ持っていっても構わないじゃないか。そしてさらに、自由化していると同じようなものあるいは輸出しているものなどについては十分検討して、どこに問題があるかを解明して、なければ、そういうものを残してあたら誤解を招くということはおかしいので、なくしてしまった方が私はよほどすっきりすると思うのです。これは内外の誤解を解く意味でも大変結構だと思います。  ですから、具体的に何をということは現在、私も十分データを持っていませんから申し上げられませんけれども、そのように段階があると思うのですね。枠を拡大し得るもの、また枠が拡大してほとんど自由化と同じ方向へ持っていけるもの、またもうほとんど自由化したと同じ状態になっているもの、あるいは枠さえ果たして要ったのかどうかわからないもの、こういうようなランクをつけて整理をしていくべきではないか。だから何も当面急いで二十二品目撤廃しろとかなんとか言わないのですけれども、そういう作業を進めていかないことには、いつまでたってもただ議論の繰り返しであって、われわれが盛んに言う国内農業農民を守る、あるいは世界食糧危機というような議論だけでは済まされない。やはりそういう方向を立てるべきじゃないか。  通産物資を入れて、農林水産、通産関係で二十七品目です。ECで多いのはフランスで、あれは十九だったですかね。こういう状態ですから、本当は十の台に持ち込めれば非常にいいのじゃないか、数合わせする気は全然ありませんけれども。というのは、そういうレベルまで持っていって——先ほど山口さんがウエーバーに持っていくのはなかなかむずかしい。確かに、私たちは後発でございまして、日本はそういった点でも大変損をしていることは事実なんですけれども、これは外交政策ですから、一応ECレベルとか納得のいくレベルに持っていって、そこを外交で、あるいは駆け引きでもってウエーバーに持ち込めないとは言えない。選択的拡大ということを昭和三十六年の農業基本法でうたったのですから、本当のことを言えばあのときに拡大品目は全部国家所管物資にすればよかったと私は思っているのです。だけれども、そんなことを言ってみたって死んだ子の年を数えるようなものですからもうしようがない。そうではなくて、これから戦略的に、たてまえ論ではなくて戦術をもっともっと工夫していただく、これは政治の一つの大きな課題であろう、私はそういうように思います。
  61. 藤田スミ

    ○藤田(ス)委員 山口参考人池尻参考人に御意見をお伺いしたいと思います。  ガット上から見ましても農産物が一番調整が困難な問題だと言われておりますし、ECの中からはもう農産物ガットから外せという意見さえ出てきていると聞いておりますが、いずれにしてもアメリカ自身もウエーバーでずいぶん自由化義務の免除を受けている品目を持っているわけなんです。山口参考人は一月の末にアメリカにいらっしゃいましたけれども、そのとき日本を非難するのはずいぶん身勝手だという批判に対して、先方はどう答えたかということについてお伺いをしたいわけです。先ほどから、せめて品目を十台に減らせばという意見もありましたけれどもアメリカ側の感触はそういうものなのかどうか、この点についてもあわせてお答えを願いたいと思います。  アメリカの身勝手といえば、スケソウダラの輸入要求ですが、これを四十万トンにふやせと言ってきているわけです。果たしてそれだけとれるのだろうかという懸念があるわけですね。結局、これはアメリカの二百海里内で日本の水産界の漁獲割り当てをゼロにしてしまおうという考えじゃなかろうかと思いますが、この点いかがでしょうか。  ニシンの問題についても鈴木総理は、国内漁獲は非常に少なくていわば盲腸みたいなものなので、撤廃しても漁民が困ることはないというふうに三月二十六日におっしゃっておられるわけなんですが、私は、そんな単純な見方ってあるだろうかという疑問を持っております。あわせて御意見をお伺いしたいと思います。
  62. 山口巌

    山口参考人 私どもアメリカへ参りましたとき、アメリカガット上のウエーバーを取りつけて自国農業を守っている。今回の要求というものは非常に一方的ではないかという意見を私どもも申し上げたわけでございます。先ほど申し上げましたように、アメリカとしては、私が会いましたのは今回参りましたファームビューロー、それから同じ農民組合の民主党系のファーマーズユニオン、それから、農業改良とか生活改善をやっておりますナショナルグレンジ、さらに、牛肉関係でNCA、いわゆる全米牧畜業者協会、サンキスト、これは果汁関係、それから全米農業協同組合の協議会、この六団体に会ったわけでございますが、六団体とも共通して冒頭申しておりますのは、今回の貿易摩擦問題とわれわれの要求とはかかわりのないことである、これはあくまでも私ども生産者団体としての問題であって、貿易摩擦問題は日本の自動車とかあるいは鉄鋼とか電気製品がわが国に怒濤のように入ってきて、失業者輸出しているではないかという指摘をそれぞれ団体等から承りましたが、われわれの要求というのはそれとはかかわりない、牛肉の場合におきましては全米の牧畜業者協会はもっと日本では牛肉を食うはずである、安ければ食うではないか、だから、われわれも消費拡大に協力するから、決してあなた方の肉牛生産者には迷惑をかけないから、消費の伸びる分われわれの輸入量をふやしてくれというようなそういう言い方でございまして、非常に身勝手でないかという私どもの質問については、われわれとしてはぜひ買ってもらいたいんだ、これはもうぜひ努力してもらいたい、どっちかといいますと農民相互の話し合いでございますから、こういう非常に謙虚な話し合いでございました。  それからまた、各団体とも同様なことでございまして、ファーマーズユニオンの方は、牛肉は一部の意見であってわれわれは穀類を買ってもらいたいんだ、こういう意見を明確にいたしております。サンキストにつきましても、これは高門さんもその後お会いになっておるわけでございますが、これは全面自由化——自由化という言葉は四時間ばかり会談をいたしましたが全然出てまいりません。できる限り、もう少し枠の拡大をしてたくさん買ってもらいたいという要求でございまして、サンキスト自身でどのくらい数量がふえると思うのだという、仮に自由化したらどのくらいふえるかということを聞きましたところが、せいぜい現在の倍くらいのものじゃないかと思いますというようなきわめて現実的な回答でございまして、倍も輸入されたら日本ミカンは全滅してしまいますからとんだことでございますが、全面自由化というような言葉とかそういう問題は全然出てまいっておりません。きわめて謙虚であったということを申し上げます。
  63. 池尻文二

    池尻参考人 四十万トンという大きな数量を日本に強要するのは、クォータをゼロにする意図があるのではないかという御指摘でございますが、私どもはそうは考えておりませずに、したがいまして、先ほど申し上げましたように昨年が一万四千トン、水産庁もいろいろと対応しておりまして、ことしは何とかそれでは六万トンベースぐらいには買ってあげてもよろしゅうございます、そして向こう五カ年間にせいぜい二十万トンくらいは私どもも努力をいたしましょう、こういうことを言っておる裏には、要するに、百十五万トンの日本漁船に対する漁獲割り当て額を確保するために、余り欲しくはないけれども買ってあげる、量は二十万トンぐらいなら陸上すり身にも影響なかろうし、その他の影響もなるべく小さくとどめられる数字ではないかというような判断でそういうことになっておるのではないか、かように考えておりますので、私どもは、また、アメリカ側から見ましてもクォータをゼロにしていくというようなことにつきましては、これはもう全く自由化してしまって自分らでとって、日本の漁船は追い出してしまって、われわれがとって輸出の形で供給するというような、そこまで踏み切りませんとできない相談でございまして、日米関係は魚の関係でそこまでは冷たく冷え切った関係であるというふうには理解をしてないわけでございます。  それから、御指摘のニシンの問題で総理のお話云々がございましたが、このニシンの問題は、先ほど唯是先生も御指摘なさっているのじゃないかと思います。すでにかずのこが自由化されておりますので、かずのこが自由化されていれば、ニシンというものはそうウエートがないのではないかという御指摘だろうと思いますけれども、いまの実態から見て、確かに論理はそうでございますけれども、先ほど申し上げましたように多獲性魚類というのはニシンあるいはサンマ、サバ、イワシを含めて一体のものとして私どもは考えておるわけでございまして、ニシンだけふえますとこれはやはりサンマにも影響するしサバにも影響するという相関関係があるであろう。それからもう一つは、実態論の問題からいたしまして、ニシンをいまラウンドのままで輸入できるのはアメリカからだけでございまして、かずのこが自由化されておりますので、カナダその他からかずのこの姿で入ってまいります。したがって、北海道漁連が八百の零細な加工業者をまとめて、代表選手でアメリカから買っている、そして一年かかって零細な加工業者がかずのこをとり、あるいは身欠きニシンにし、そうして加工をやっているという実態がありますので、理屈はさもあれ、このベースは話し合いで温存しておってもいいではないかというようなことで、アメリカともいやこれ以上の枠をふやせませんということじゃなくて、弾力的に水産庁に対応してもらっておるわけでございますので、御理解を賜りたいと思います。
  64. 加藤紘一

    ○加藤(紘)委員 補充の質問なんですけれども、先ほど唯是参考人食糧安全保障、こういう観点からどうしても守らなければいかぬというものもありますよ、それから現実に農業生活に非常に大きく影響するという意味で守ってやらなければならぬものもありますよというようなことを分類されながらおっしゃっていたのですが、そこで、山口参考人にお伺いしたいのですが、そういう中でもいろいろ差をつけると、守っているということ自体がなかなか理由つかぬものもありますよという一、二の例を挙げて唯是参考人がおっしゃった点についての御見解をお伺いしたいと思います。
  65. 山口巌

    山口参考人 ただいまの御質問でございますが、食糧安保とのかかわりにおきましてどういう品目を守るかという問題と、いま唯是参考人が申しました二十二品目の中でどうするかという問題と、これは私どもやはり分けて考える必要があるのではないかと考えております。  食糧安保の問題につきましては、私ども、まずできた品目、たとえば、米だとか麦だとかこういうものよりも、やはり農地自体を守っていくということが一番日本の国にとって大事であって、農地をこれ以上減らさない、むしろ五百四十六万ヘクタールまで減りました農地を、今後の人口の増加等考えますとさらにふやしていかなければならぬ、そういうことで農地をどうしてもこれ以上壊廃させないということを基本に考えておるわけでございまして、そういう面で、これ以上農畜産物を輸入いたしますと直接農地の壊廃につながりますので、これはどうしても防いでまいりたいというふうに考えております。  二十二品目につきましては、先生方案内のとおり、実は先般、作業部会におきましては品目に触れないで、一括二十二品目をいわゆる残存輸入制限品目として行政措置で扱っていること自体を問題にいたしておるというふうに認識をいたしております。したがいまして、それを全面自由化しろということでございますから、ここで裏情報として日本の大使館等に入ってまいりました情報に従いまして、たとえば、ある品目を出したところで、次はまたおちょうだいで向こうは手を出して、最終的には全品目完全自由化しろという、基本的な原則は取り下げてないわけでございますから、そういう方に追い込まれるのが落ちではないかというふうに心配をいたしておるわけでございまして、これはあくまでも向こうが提案をいたしたわけでございますから、ガットの場で堂々と話し合いを、しかも政治的問題でなくて、冷静に事務的にこれを検討して決着をつけていっていただきたい、かように考えております。
  66. 島田琢郎

    ○島田委員 先ほど妹尾参考人が、わが国農業の置かれている立場に対して深い御理解を示されながら、そのための農業の近代化ということに触れられたわけであります。私は、基本的には全く同感でありまして、われわれ農民もその期待にこたえたい、こういうことで、つまり、農業体質強化の立場からがんばっておるわけでありますけれども、ここ数年、農畜産物の価格が御承知のとおり据え置かれている。しかしながら、その間にもどんどん物価が上がっているわけです。  御承知でもありましょうけれども、われわれ農家が経営をやっていく絶対的な条件ということになりますと、交易条件が整っていないと経営が成り立たない、こういう問題が一つございます。ところが、物価はとどまるところなく上がっておるわけでありまして、農業用の諸資材や人件費なども年率数%という状態で上昇を続けている、当然のことながら交易条件が極度に悪化している、これが当面近代化に取り組んでいる阻害要因として挙げることができるだろうと私は思う。そういう意味では、私は、物価値上がりで日常的に大変苦しんでおられる奥さん方とわれわれ農民というのは共通の被害者だ、こういうことが言えるのではないか。したがって、当面こうした貿易摩擦によって日本に対する自由化が迫られているという状況のもとに置かれていますけれども、しかし、近代化のためにわれわれも必死の努力を続けているという、こういう状況を考えますならば、これは経過措置一つとしても、国境の保護措置というのはいまのところ重要な役割りを果たす、こういう認識を私は持っているわけであります。  農業の近代化という面に対しまして大変御理解を示していただいているわけでありますけれども、きょうのお話を承っておりまして、まさに、先ほどのお話にございましたように、一番話し合える立場にいる一般の奥さん方とわれわれ農家のかみさんたちが十分の理解をするというコミュニケーションの場というのが、確かに不足しているということが挙げられると思うのであります。こういう認識を共通にするという目標を掲げて、日常的にこういうコミュニケーションを深めていくというのは、消費者協会という立場にいらっしゃる参考人のお考えとしては、具体的にどういう方法をおとりになったらこういう問題の解決ができるだろうかという点のお考えがあればひとつお聞かせをいただきたい、こう思うのです。  それから、唯是参考人に対しまして一つだけお尋ねをしておきますが、先ほどもお話にこもごも出ておりましたが、たとえば、アメリカについて言えばウエーバー品目、これは十六あるうち農産関係が十三品目、それがお話しのようにこういう国境保護措置というのが各国の事情のもとで存在し存立しているという経過があるわけであります。しかしながら、そういう中で特に、日本牛肉生産という立場を深く理解するならば、アメリカ牛肉の輸入に対して何か物を言うというのは、これは理解が足りないのではないかというような気さえ私はするのですね。ですから、そういう点で言うならば、オレンジ牛肉を名指ししてきたという意味が私にはどうもよくわからない、こういう気がしてなりません。何か御明示いただければありがたい、こう思います。
  67. 妹尾美智子

    ○妹尾参考人 確かに御指摘のように、物価の上昇といいますのは何も農村の家庭だけを襲っているのではなくて、やはりそれと同じだけ都市生活者のわれわれにも、その物価上昇というものは家計では非常にこたえているわけでございます。ただ、いろんな生産費なんかふえております様子をじっと見ておりますと、農機具のふえ方というものがむちゃくちゃに多いわけですね。そうすると、私たちは都市生活をしていて、電気洗濯機とかそういう耐久消費財を買いますときには、とにかく必死になって価格とか品質とかというものを調べながらやっている。ですから電気洗濯機なんかでも、ここ十年ほどは余り価格の値上がりがないというようなこともあるわけです。ところが農機具につきましては、いとも簡単にと言うと大変語弊がございますけれども、何か農機具に対する農家の方々の見方というのが少し甘いのじゃないだろうかな、そういうふうな感じをときどき持つことがあるわけでございます。そういう意味で、われわれが耐久消費財に対して非常な関心を示しているのと同じように、私は、農家の主婦の方々がなぜ農機具の価格、農機具の安全性というようなものに対してもうちょっとがんばっていただけないのかなというような感じを、実は率直に持つわけでございます。  先日、たしか農政審議会の方から出ました日本農業政策の答申の中にも、やはり都市生活者と生産者とが何らかコミュニケーションを得るような場をつくったらいいのにということが、消費者対策の中でたしか明文化されていたのではないかと思います。そういう意味で、私たちもやはりそれだけの努力をしたいと思っておりますし、現に、われわれが神戸で農村の方々との交流の場ということをやっておりますのは、都市生活者にいわゆる本物の味あるいは本物というようなものを見てもらい、あるいはそれを味覚で実際に味わってもらうということのためには、やはり農村へ直接出て行ってそこで本当の本物の味を味わうことによって、いわゆる農業の大切さというようなものを感じてもらう。あるいはそこで、消費者が欲しがっている農産物というものは一体どういうものなんだということを、私どもはやはり農業をなさっている方あるいは農協の皆さん方にもっと知ってほしいなというような感じを実は持っておるわけでございます。ですから、手をかえ品をかえていろんな話し合いの場をつくっていかないといけないと思いますけれども、やはり農業の近代化ということの中には、消費者が欲しがっているような農産物というのは一体何なのかというようなことを、もう少し突き詰めてお考えいただけたらありがたいのじゃないかなという気がいたします。  たとえば、具体的に例を引いて申しわけございませんけれども、いまのリンゴの品種が次から次へと改良になりますけれども、あんなに大きくて余りおいしくないリンゴというものは、消費者は余り望んでいないはずなんです。にもかかわらず、新品種ということで何か大きくて、核家族なんかでは余り食べられないようなリンゴができてきている。あれが果たして消費者が望んでいるリンゴかなというような感じも、実は具体的な例として持っているわけでございますけれども、いずれにいたしましても、やはり私たちも努力をしないといけませんし、農村の皆さん方と直接お話し合いをする場というものを一生懸命いま考えていくことが非常に大事なんではないだろうかなというふうに思っております。
  68. 唯是康彦

    ○唯是参考人 牛肉は、世界全体で四千五百万トンほど生産がございます。そのうち、先ほど生産関係の方がおっしゃったように一千万トンがアメリカ生産されまして、アメリカ世界一の牛肉生産国でございます。ところが、牛肉貿易世界全体で約二百六十万トンございますが、二百六十万トンと申しましても口蹄疫がございます。汚染地帯がありますから、そこからは煮沸肉以外は入りませんので、通常の枝肉なり正肉で入ってまいりますのは大体百七十万トンくらいですね。百七十万トンが非汚染地帯の肉でございますから、二百六十万トン貿易量があっても、われわれが安心して買えるのは百七十万トンだと思います。このうちの大部分、百万トンは豪州、ニュージーランド、あとはECの内部で消化してしまう、こういう状態なのですね。アメリカは非常に大きな生産国でありながら、同時に、百七十万トンという狭い世界牛肉市場のうちの約七十万トンを輸入してしまう。いま申しましたようにECの問題がありますから、百七十万トンのうち本当に日本などが買えるのは百万トンで、その中のまた七十万トンをアメリカが買ってしまいますので、そういった意味では世界牛肉市場というのは非常に狭隘であると言うことができると思います。  御存じのように牛というのは生育期間が長くかかりますし、いかにグラスフェッドと申しましても、草がなければ育ちませんので草地の制約を受けますし、また一年に一産、流産がございますので、〇・九匹ぐらいしかできない。こういう状態で増産に非常に長い時間がかかります。これは日本のエコノミストなども大変理解がなくて、日本自由化すれば世界じゅうから幾らでも牛肉が入ってくるというようなイメージを持っているのですが、これは間違いだと私は思います。商社なども豪州などに出て実際にやって、惨たんたる失敗をして引き揚げざるを得ないという例がたくさんあるわけですね。それほど牛肉生産というのはやさしいものではないわけです。その大変な牛肉世界最大の輸入国がアメリカであって、アメリカは決して世界一の輸出国ではない、こういう構造なのです。アメリカ輸出しておりますのはホテル、レストラン用と申しますか高級牛肉約五万トンで、そのうち三万トンは日本が買っている。現在でもアメリカ輸出する牛肉の六割は日本が買っているわけですね。  こういう状態の中での牛肉自由化問題なので、いま御質問のようにこれをどういうふうに解釈したらいいかということは私自身もよくわかりません。ただ、アメリカは非常に大きな牛肉生産国でありながら最大の輸入国である、これは農民を納得させるのに大変理解させにくい問題のようですね。したがって、ハンバーグ用などのグラスフェッドの安い牛肉は輸入する、しかしアメリカ農民がつくっている高級牛肉輸出している、それが日本だ、こういうような構造の中で一つの肉牛の生産政策を展開しているのじゃないかと思います。そのあたりに牛肉輸出の本当のメリットがあるように私は思います。  こういう状況ですから、実際自由化といっても、私は、政府の役人じゃありませんから何を言ってもいいのではっきり言ってしまえば、そうまともに額面どおり受け取れないのじゃないかというのが私の感じです。日本はいま非常に高級な牛肉、労働集約的な牛肉生産と、それから多頭飼育のフイードロットなどによる低コストをねらった牛肉生産、そういうものに両極分解しつつあるわけですね。しかしまだこの戦線が完全に整理されていない、そこに日本牛肉生産の脆弱性があると思います。ですから、いまの世界の事情を考えますと、やはり日本牛肉資源はある程度確保しておいた方が長期的にはいいのではないかというふうに私自身は思っております。また、安全保障的にも草地を確保するとかいろいろなメリットがございますので、そういった意味で牛肉資源については取り扱いを十分慎重にしていただきたい、こういうふうに思います。
  69. 日野市朗

    ○日野委員 参考人山口参考人と唯是参考人お願いをいたしたいと思います。  まず、国境措置でありますが、この存在理由というのは一つ二つではないであろうと思います。いろいろな面から国境措置というものは考えられているのだろうと思うのでありますが、まず第一には、その国、その民族の食糧をきちんと確保していくという観点、量的な観点でございますね。それから生産力を確保しておくという観点があろうかと思いますし、さらには、その民族やその国の食のあり方といいますか、そういったものをも含めて存在しているというふうに私は考えるわけであります。  そういう観点から日本農業と国境措置との関連を考えてまいりますと、日本農業の特徴は何といってもその零細性、集約性、こういうところにあるわけでございまして、これは拡大の努力はいろいろしておりますけれども、そういう中で日本食糧生産はずっと行われてきて生産力を維持してきたというような状態でありまして、この国境措置を取り払いますと、いままで零細な農地で米を中心に集約的につくってきた日本農業の根本が崩れてくるだろうというふうに思います。  さらに、特にアメリカなどとの貿易摩擦の関連で言いますと、アメリカ要求というのはとめどもないものでありまして、現在の日本で持っている保護措置一つ取っ払ってしまうならば、アメリカ要求はとめどもなく前進をしてくるというふうに考えざるを得ない。この点では山口参考人意見を同じくしているであろうと思うのです。そして、特に山口参考人がおっしゃいました米についての自由化要求ですね。これについては、アメリカももうかなり水田も開発して米の生産量も上がり、アメリカ自身が価格問題とはいいながら米の生産調整にまで走り出さざるを得ないというような状況から見ますと、米についても自由化要求はかなり切実な緊迫したものとしてあるのではなかろうかというような感じもいたします。この点について、山口参考人から御意見をお聞かせいただきたいと思うのです。  それから唯是参考人につきましては、このような日本の保護措置について、いろいろな品目ごとにこれを検討すべきだという唯是参考人のお考えは、私もお考えとしてはよくわかるわけであります。ただ、この措置は譲れない線だということをきちんとしておきませんと、先ほどから唯是教授はネゴシエーション、外交交渉ということをおっしゃいますが、その外交交渉をするにしてもいろいろな交渉を持つにいたしましても、歯どめというものがなくなってしまってずるずると押し込まれていくのではなかろうか、現にアメリカ要求はそういう勢いをもって日本に迫りつつあるというふうに思うのですが、私の質問についていかがお考えでしょうか。
  70. 山口巌

    山口参考人 現時点におきまして、アメリカ日本に対する米の輸出を直ちに要求するかという問題につきましては、私は、若干時間がかかるのではないかと思います。と申しますのは、先般もアメリカの米の三六%ぐらい生産しておりますアーカンソーへ参りまして、現地の米を中心とする農業協同組合等との意見交換も行ってまいったわけでございますが、つくっておりますのは全部短粒種でございまして、日本人には合わない米を主産地はつくっておるわけで、カリフォルニアの一部では短粒種で日本から原種を持っていった米をつくっているようでございますが、そういう状態を見ますると、本格的な日本に対する米の輸出ということは恐らく腹の底では考えておると思うのですが、現時点で直ちに取りかかるというような緊迫した情勢ではないというふうに私どもも理解をしております。ただ、これは決して油断はできない問題でございまして、アメリカが本格的に水田の造成にかかっておることは間違いない。特に、コロラド川の流域に運河をつくりまして、八十万ヘクタール近くの、ちょうど日本水田の転作面積に相当するくらいの水田造成を計画的に進めておるというのが実態でございます。しかも、現状におきましてはアメリカは米が過剰でございまして、やはり相当な在庫を持っておりますので、そういう点から、将来は、日本食管制度等が仮におかしくなれば、そういう問題に直ちに発展していくという方向はやはりあるのではないかというふうに私は考えます。  ただ、生産コストが現状におきましてべらぼうに安いことも事実でございまして、大体一俵当たり三千円程度生産コストでございます。向こうへ行って現地でいろいろ調べたのですが、ちょうど日本に換算すると三千円程度生産コストの米を、もちろん長粒種でございますが、つくっております。そういうことで、生産コストの競争になれば問題にならない安さで入ってくるし、品種改良しようと思えばそれは短時日の間に品種改良が進むわけでございますから、日本に対して輸出をする潜在的な能力は十分持っておるということを見て帰ったわけでございます。
  71. 唯是康彦

    ○唯是参考人 日本農業就業人口は、全体の就業人口の一〇%を最近割って、九%に向かいつつございます。ところが、もう十年以上前から高校、中学校を卒業して新たに農業につく人は非常に少のうございます。高校、中学を卒業して新規にいろいろな職業につくわけですけれども、実際に農業につかれる方は二、三%の状態でございます。一世代三十年というふうに考えますと、十年前からこういう現象が始まっておるわけですから、そうしますと、完全に世代が交代します西暦二〇〇〇年には、西暦二〇〇〇年と申しますとあと二十年弱でございますが、日本の就業人口アメリカやイギリスなど、ないしはそれよりもっと低い二、三%になってしまうのではないか、農業の就業人口は二、三%になってしまう、こういう簡単な推計ができるわけでございます。もちろん、実際にはそういうふうにならないと思いますね。特に、定年で五十五歳、六十前にやめられた人も、おうちが農家ですとおうちに戻られてまた七十歳くらいまで農業ができる。農業はそういった意味で大変便利な職業ですから、そういうuターンしてくる部分がかなりありますから、そういうふうにならないのですけれども、実際この就業人口の低下というのは、やはり全般的には食いとめようがないと私は思います。このこと自体は、先ほど来御心配のように、農業の跡継ぎが少なくなるあるいは農業資源が破壊されていくとか、そういう問題があると同時に、また、そのことが規模拡大を通じて、より効率が高い農業転換できるという可能性でもあると思います。現に、西日本の方からもうそういう現象が始まっていますし、私は、二十年ではなくてあと五年くらいするとより顕著に出てくるというふうに判断しています。  こういう状況と、他方「西暦二〇〇〇年の地球」その他などによりますと、やはり人口増加、生活水準の向上などがございまして、穀物の価格は上がるのではないか、二倍ぐらいになるのではないか。たとえば、お米はいまトン当たり九万円くらいですと、トン当たり十八万ぐらいになるのじゃないか。ある簡単な計算をしてみますと、中核的農家水田農家が十五ヘクタール持つと、大体生産費が四割下がるのですね、六割になる。現在、米が大ざっぱにトン当たり三十万とすると、六割で済むのですから、三、六、十八万で大体とんとんになるのじゃないか、これは非常に乱暴な計算ですけれどもね。  しかし私は、世界食糧需給はやはり逼迫傾向をたどって値上がりしていくのではないか。特に、アメリカなどは、一トンの穀物を輸出するのに数トンのトップソイル、表土を輸出している。ここに一番栄養があるわけですから、これから五〇%の増産をやりますと、大変アメリカの生態系が乱れてくるかもしれませんので、いろいろなことを勘案しますと、やはり全体に強含みで推移するということは言えるのではないか。あるいは昨年のアメリカ農業を見ても、大豆やトウモロコシ、小麦などの保証価格は上がっておるわけですね。世界的に全体に強含みという判断は、言ってもいいことだと思うのですね。  こういう状況というのは、逆に、日本農業にとっては大きなチャンスなのではないかと私は思うのです。現に、アメリカは十年前、財政負担が大きくてアメリカ社会のお荷物だったのが、いまでは国際収支の改善に役立って、アメリカ経済の救世主になっているし、また、いいことじゃないのでしょうけれども食糧戦略ということで国際政治の武器になるのです。また、凶作があったときには世界のパンかごである、こういう大変な産業になっております。こんな産業はちょっとほかに見当たらないのですね。ということは、やはり世界的に農業にチャンスが訪れている。そういった意味では、私は、日本農業も新しい時代に入ってきた、いまその新しいものを生み出す大変な苦しみの時代なんだ、そういった限りでは決して暗い見通しではないという判断を持っておりますので、その前提の中で農業保護というものも必要なんだ、私はこういう判断をしております。
  72. 羽田孜

    羽田委員長 以上で、「諸外国貿易制限の必要性について」の質疑は終わりました。  次に、「食糧自給と消費者価格のあり方について」の質疑に入りたいと思います。  この内容につきましては、食糧需給の展望食糧安全保障考え方、たとえば、自給力強化の必要性という問題、また、自給力強化と食品加工原料価格あるいは消費者価格との関連その他につきまして御審議いただきたいと思います。
  73. 渡辺省一

    ○渡辺(省)委員 先ほどから御意見をいろいろお伺いしておりましたら、ここでは安全保障の問題等が中心になるわけでございますが、これまでの御意見開陳の中で、それぞれ御意見を承らせてもらいました。  そこで、林参考人にちょっとお伺いしたいのですが、先ほど質問に関連をしまして出ておったのは、食糧安全保障の中で、日本の置かれている立場をもっと国際的な分野に立ってこの安全保障をひとつ考える、また問題提起をすべきだという趣旨の発言に私はとれたわけでございます。それは、開発途上国等の食糧を奪うという形で食糧の流れがつくられていくということは世界的に見ても非常に適当でない、こういう御指摘があったわけでございますけれども、これは国際的にもっと具体的に提起をする方法が、あるいはそういう問題点があるのかどうか、この点についてひとつ御意見を承らせていただきたい、こう思うわけでございます。  それから、妹尾参考人にちょっとお伺いしますが、先ほど米価に関連をして、少しく農村に理解をもうちょっとしてもらいたいなというような意味にとれる発言があったわけでございますが、その後の質問にも答えて、少しく消費者の皆さんの立場で、米の問題やあるいは農村の実態についていろいろ検討したり理解を深めていただくことが幾つかあるようでございますけれども、いま自由化の問題に関連をして、牛肉だとかオレンジの問題が提起されているわけでございまして、こういう問題に関連して何か不信感の中で農村が見詰められていたり、農産物の流通形態の中でそういう目で見られると、はなはだ適当でないと思うわけでございます。  いま、唯是先生からお話がございましたように、農村も規模の拡大や、それからここ二十年間ぐらいを見ますと、一八%ぐらいの就業者の中での農村人口がいま九・九八ぐらいに下がってきておる。それは必要に迫られて離農した人もいるし、また、大変だということで、そういう数字の流れができた面もあると思うわけでございます。そこで、少しく、農村婦人の生活実態、こういうものと交流を図るというような考え方をもっと具体的に提起をしていただくようなことが将来ひとつ考えられないのかどうか。この自由化の問題とは直接関係ありませんけれども、そういうことを通じてお互いが理解を深めるということが、またある意味においては、この自由化問題等に対してスムーズに消費者立場から対応していただける。いま生産者の御意見いろいろ出たわけでございますが、生産者の意見を何かごり押しして、消費者がちょっと窓の外にいるというような理解をされることが非常に不本意でございまして、そういうことに関連をして御意見いただければ、ひとつ御意見をいただきたいと思うわけでございます。
  74. 林信彰

    ○林参考人 先ほどのお答えに関連いたしまして、いまの御質問にさらにお答えいたします。  やはり世界食糧安全保障という場合を考えますときに、今回の自由化問題と同様に、日本一国の立場で物を考える性質のものではなくなってきている。今後、十年、二十年の食糧世界的な動向を見ますと、ますますこの状況が強まってくると思うわけであります。これが現実には、国際的な力関係その他から申しまして、アメリカ一国が食糧問題についてその発言力をますます強化するという方向にあるということもこれまた事実であります。こうした条件の中で、アメリカの良心にだけ国際的に頼っていけるかどうか、この辺も若干の疑問がございます。こうした点から見ますと、経済大国と言われている日本の果たす役割りは、やはり外交面においても十分に果たしていくべきじゃないだろうか。安全保障問題をそうした広い立場で考える、その一環として食糧問題を位置づけたらどうだろうかと日ごろ思っているわけであります。  一つは、それは、国際機関であるFAOの場でこれはすでにしばしば問題になっているわけであります。日本世界農業開発に対してまだ十分な力を入れてないというようなことについても、国際機関からの一部の批判も出ております。こうした批判が出てこないような状態まで、やはり日本はさまざまな協力をしていかなければいけないということが第一点であります。  それから今回、特に出てきましたガットの場でこの農産物貿易問題について話をしようと、アメリカは二十二条の単なる協議ということで出ておりますが、恐らく、二十三条の裁定の問題まで移っていくのかもしれません。こうした問題について、われわれは、ただ大変困った問題だと受け身でとらえるのではなくて、こうした場をより生かして、ガットという自由貿易体制の中での話し合いで、国際舞台としてはやや片手落ちな感じがありますが、その場をとらえても、やはり多角的交渉の舞台へこの問題を持ち出すべき性質ではないだろうかというふうに思うわけであります。  このままにしておきますと、アメリカのウエーバーの問題あるいはヨーロッパ諸国の課徴金の問題、こうしたことが先進国間の農産物の流れをとどめるだけではなくて、特に、発展途上国との関係が損なわれる問題まで行く可能性もあります。こういうことを防ぐためにも、やはり日本は積極的に、この問題は国際間の協調の中で協議をする、いわば新しい東京ラウンドというようなことも含めて、農産物貿易問題についてのそうした国際的な舞台をつくり出す努力、外交的な日本の働きかけが必要なんではないか、そういう段階にいま来ているというふうな感じを持っているわけであります。
  75. 妹尾美智子

    ○妹尾参考人 確かに、御指摘のように、私どもは本当に農村の主婦の方々の生活の実態というのを余りにも知らな過ぎるということは、これは言えると思います。確かに、農村の主婦の方と都市生活の主婦の方とが何か話し合いの場を持たないといけない、ああそうですが、そこですぐ行われるのはいわゆる農協婦人部と東京を中心にした組織の上部、この両方が話し合って、はい、これで話し合いました、こういうことになるわけですね。私、これが何度繰り返されてもだめだと思うのです。やはりそれぞれの地域で、同じ地域に住むということの、地域での話し合いというのがもっとされなければ、私たちは、いつまでたっても、農村の主婦の方々の実態を知るということはできないのじゃないかという気がするのです。  いまでも、本当に農村の方とお話し合いをすることがありますのは、生産者米価が上がるときだけです。そういうときだけはおはがきもたくさんいただきますし、それから、農村の主婦の方があの分庁舎の方にもたくさんいらっしゃって、そこでお話し合いをするわけですね。しかも、これが年に一度の本当にお話し合いの場であって、これがもし神戸にでも帰りますと、神戸農協関係の方とのお話し合いの場はあっても、本当に直接お米をつくり、直接労働をなさっている主婦の方々の生活の実態を知るということは非常に少ないわけですね。  これはひがみかもしれませんけれども、直接農村の方々と私たちが地方で話し合おうとしたときに、むしろこれは何らかそれを阻害する力がどこかで働いているような感じを受けることさえございます。むしろこれは離しておく方が都合がいいんだというふうな感じを受けることが実はあるわけでございますね。それが一体何かという辺をもう少し突っ込んでいかなければ、農村の主婦の方々の実態を知るということが、ただ言葉だけの上で終わってしまう。やはり私たちも知りたいと思います。知ることが、やはりこのたびのような国際問題に広がったときの、本当に私たち都市に住む主婦たちの声が上げられるときではないだろうか、そういう感じがいたします。
  76. 松沢俊昭

    ○松沢委員 いろいろと御意見が出ましたので、もうそれ以上言う必要もないと思いますけれども、ただ、率直に申し上げますと、この場でこういう公聴会を開かなければならないということに対しまして私は非常に疑問を持つわけなんです。  それで、中央会の山口専務理事にちょっと御質問したいわけなんでありますけれども自給率が穀類におきまして四〇%を割っているわけですからね。それから、アメリカからえさも買っていますし、麦も買っているし、要するに、膨大な輸入をやっているわけです。だから、貿易摩擦というものが起きたから、この摩擦を解消するということは当然の話だと思いますけれども、摩擦が起きたから日本農業が責任をとらなければならぬというばかな話はないと私は思うのですよ。そういう意味からしますと、アメリカとの交渉も大事ですけれども日本財界との交渉というのは中央会の方でおやりになったのかどうか。その結果はどうであるかということですね。そうしなければ、ここにもテーマとして出ております、つまり、食糧安全保障の問題の解決というものには私はならぬと思うのです。そういう意味で私は聞いたわけなんです。  それからもう一つ、これは学識経験者の林先生にちょっとお伺いしますけれども、いまの日本食糧輸入の状況からしますと、アメリカの従属型の、そういう食生活の状態日本国民生活はなっているじゃないか。本当に安全保障というところの立場食糧問題を考えた場合におきましては、備蓄がどうとかという問題も確かに大事、生産の問題も大事でありますけれども、その状況日本の風土、気候にあったような状況に変えていかなければ、私は真の意味の安全保障とは言えないのじゃないか、こんなぐあいに考えておりますが、その辺の御見解をお伺いしたいと思います。  以上であります。
  77. 山口巌

    山口参考人 お答えいたします。  私ども財界との間には、農業問題につきまして国際農業問題懇話会という話し合いの機会を持っておりまして、定期的に話し合いをやっておるわけでございます。まず、四半期に一回ぐらいずつは必ずやることにいたしておりますが、ただ、根本的に考え方が食い違いまして、いつも議論の物別れになっておるのはまことに残念でございます。もっと数を重ねてやらなければならないという必要性を痛感いたしておりますが、なかなか十分な認識を得られないということを反省いたしております。今後も継続してやりたいと思っています。
  78. 林信彰

    ○林参考人 お尋ねのように食生活全体が、やはりアメリカ日本が食生活を変えてきたという戦後の歴史がございます。特に、最近においては、肉を中心とした食糧戦略ということについてアメリカがかなり力を入れている。というのは、これは対日戦略だけではなくて、世界全体に対して肉をもっと食べさせる。肉を食べさせるということは、すなわち、アメリカの粗粒穀物の売り込みにもなるというような戦略をどうやら展開しているのではないかというような感じがいたします。これは先般のNHKの「日本の条件・食糧」という中でかなり詳細に現地の報告がされております。  そうした状況から見ますと、食糧という問題を、各国の風土やあるいは長い習慣の中で食生活を維持していくというより、食糧を国際商品として、これによって一国の経済の問題を解決していこうというアメリカ世界経済体制の中に問題が発生している、世界食糧問題の困難性の一つが発生しているというふうに言ってもいいと思うわけであります。  そういう点から見ますと、日本の食生活がどうあるべきかという問題については、すでに農政審議会から日本型の食生活というような問題が提起されておりますが、この日本型の食生活という問題は、生産と消費というものが一体の関係になければ解決し得ないのだと思います。日本型の食生活といいましても、そこの国土生産される農産物、そしてそれが国民の食生活の大宗を支えるものであるという、この両者のバランスと統一された関係というものを回復しなければならないのじゃないだろうかと考えるわけであります。  そういう意味からいいますと、現在大量の飼料用穀物を輸入している、それによって日本の畜産が支えられている。これ自体が大変おかしな状態でありまして、日本の畜産をできるだけ早く日本国土生産される飼料によって生産できるような体制に変えていく、そのための具体的な努力をむしろいま優先しなければならないのだと思うわけであります。  それから、その他の農産物の輸入品にしましても、はるばる海を越してレタスが輸入されたり、あるいはすし屋で食べるガリと称するのでしょうか、あのショウガが、ほとんど全部が外国からの輸入品である。あるいは、日本的な最もすぐれた食べ物だと言われているゴマは実に九八%まで輸入品である、こういうような状況の中で、果たして日本型食生活ということが言えるのだろうかということになります。つまり、日本型の食生活ということを言うならば、その生産を確保していく、その生産が確保できるもので食生活が営まれるというところまで基本的な農業政策と食糧政策の統一性というものが図られなければならないのではないだろうかと思います。  大変大ざっぱな基本的なお答えで申しわけありませんが、そういうふうに考えております。
  79. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 先に山口参考人にお尋ねいたします。  食糧の自給の問題で、農政審の答申等にもございますけれども、自給力の向上ということはうたってございますが、先ほど参考人自給率の向上であればよかったというふうな御意見もございましたが、同感でございまして、長期視点に立った自給率の向上という点からいたしまして、十年後の見通しは恐らく三〇%を割るかもしれません、そういう事態でございますけれども、専務としてはどういうお考えをお持ちなのか、その点が一つ。  それから、NHKでちょっと報道をしておりましたが、自由化阻止の問題について全国的なレベルでいま運動をなさっておられますし、中央大会も明後日から開かれるようですが、九段の取材をした外人の記者が大変細かくその取材に走り回っている姿が報道されておりまして、その感想として、これだけの規模の大会をやっているのに新聞の扱いは、マスコミの扱いは記事として重要視されていないというふうな見方がなされているわけであります。こういうマスコミ対策が非常に大事じゃないかと私は考えるわけですが、この点でどういうふうにお考えなのか。  続いて、私の持ち時間がないものですから、委員長の許可をいただきまして、前に戻って申しわけありませんが、杉本参考人に。  市場開放いたしましても、また対米輸出の規制なりあるいは軍事力の増強なりを図りましても、日本アメリカに完全な満足を与えることはできないのではないか、こういうように思うわけであります。そうなりますと、唯是参考人も盛んにおっしゃっておられますけれども日本立場アメリカに理解をしてもらうというのは、究極的なところ外交しかないんじゃないかということになるわけです。そこで、農産物の残存二十二品目は本当に制限が必要かどうか、先ほどから論議されておりますけれども、再検討が望ましいものであるとするならば、全面的な洗い直しとまではいかなくても、必要なものからその理由国民の前にわかりやすいような形で提示をしていただいたらどうか。  粘り強い主張と、最終的には、ある程度の譲歩はやむを得ないんじゃないかというふうな意見があるわけなんです。この点で、日本立場としてはできるだけ時間を稼いで、自由化に耐え得る体質をつくる以外にないだろうと言われていますけれども、そうなりますと、農民の方にも生産性の向上なり農産物のコストの問題なりでこれまで以上に耐えてもらわなければならぬ面がどうしてもあるだろう。こういう面で本格的な取り組みをどうしていけばいいのか。簡潔で結構でございます。お答えをいただきたいと思います。
  80. 山口巌

    山口参考人 お答えいたします。  自給率の向上の問題でございますが、先ほど参考人のどなたかからも申されましたが、穀物の自給率は御案内のとおり現在三三%でございます。ただ、中身におきまして、食用穀物につきましては、幸いにして米が一〇〇%自給されておりますので六九%の自給率、飼料用の穀物につきましては二%という自給率で、合計いたしまして平均すると三三%ということになるわけでございます。したがいまして、穀類全体の自給率を上げるということになると、飼料穀物を国内で増産をする以外にないわけでございますが、御案内のとおり、飼料穀物は輸入の関税はゼロ関税でございまして、いわば日本の家畜はシカゴ相場のえさを食っておるというのがいまの実態でございます。したがいまして、そこまでの低コストで飼料穀物ができるかどうかという大きな問題があるわけでございます。ただ、私どもとしては、考え方として、できる限り飼料穀物も国内生産する方向で努力をしていかなければならないと考えておりますが、これまたいろんな事情がございまして、国内的な農地の賦存状況その他いろいろ考えますと、早急な実現はなかなかむずかしいんではないかと考えておるわけでございます。  当面考えておりますのは、水田の再編対策に関連をいたしまして、第三期対策に政府の方にお願いをいたしたいと思っておりますが、やはり湿田等におきまする転作作物といたしましてえさ米の生産をぜひ取り上げていただきたいということで、目下、系統の中で実験圃場等を持ちまして検討を続け、そういう要求を集約いたしましてお願いをいたしたい、かように思っております。ただ、転作作物の中で飼料用のいわゆる牧草類は、現在の転作面積の大体三〇%というのが牧草でございまして、飼料自体の自給率はある程度転作絡みで、特に、東北地帯等では高まっておるわけでございますが、穀物自給力に換算されませんので、その点が穀類ということになりますと非常に高コストになるということで、長期的展望でこれに取りかかっていかなければならぬし、まだ、価格対策等の問題につきまして、政策的配慮の裏づけがないと現状の中ではきわめて困難であるということを率直に申し上げたいと思うわけでございます。  それから第二点の御質問でございますが、私どものこの前の自由化阻止大会等の記事の取り扱いがきわめて小さいという点で、外人記者等の感想等が出ておった問題に関連しまして、もっと徹底的にマスコミに対するPRをやったらどうかということでございますが、私どもも極力努力をいたしておるわけで、全中の中にも広報局というのがございまして、これで本格的に対外広報活動をやっておるのでございますが、いかんせん、やはり現在の農民団体、農協を含めましてどうも社会的な力が微弱でございまして、行動を起こしましてもなかなか取り上げてもらえないのがまことに残念でございますが、今後極力努力をいたしてまいりたい、かように考えております。
  81. 杉本一

    杉本参考人 先ほどのお答えと多少ダブるかもわかりませんが、いま日本農業自体、非常に大きな転換期といいますか激変期に直面していると思っております。唯是さんからも御指摘がありましたように、農業後継者自体が非常に減ってきている。ここ十年あるいは十五年を見ておりますと、いわゆる大変ななだれ現象といいますか農業人口の激減、農地の流動化その他農業をめぐる情勢国内的にも非常に動くという感じを持っております。おととし農地関連三法が改正になりまして、農地の流動化について法律の面でもある種の条件整備がなされました。それから去年は、食管法の改正がなされました。これは、現状追認だという批判もあるわけですけれども、いずれにしましても、戦後、農業の骨格をつくってまいりました農業の法制制度が改正された。と同時に、いま申し上げましたように非常な勢いで農業の内部要因が変わりつつある。いまの農業は御承知のように、いわば米縛り農業と申しますか非常に米の足かせが重くて、実のところ輸入問題その他に対しても本当の意味での機動的な対処をするだけの弾力性が持てないのが現状だと思います。米の生産調整が現在進行中でありますけれども、もしこれが予定どおり順調に進み、あるいは先ほど山口さんからお話のありましたように、米の用途別価格といいますか、えさ米についての、えさ米を生産し、かつ、それが十分日本畜産農家で消費されるようなそういう形態ができてくるとか、いろいろな面でいまの米の生産過剰の重荷から、束縛から解放されてある種の機動性を持った農政ができるという状況を早くつくる。同時に、先ほど申し上げましたように、若い人たちに夢の持てる農業、これを現実に具体的に示し得る、そういう政策を早く具体的に提示する必要があるのじゃないか、こう思います。これは輸入問題と直接かかわりはしませんけれども、しかし、よく言われる足腰の強い日本農業をつくるということ、このことが基本でありまして、そのためには、やはり経営規模の拡大を中心とした日本農業生産性の向上、需要に見合った農業生産、その他いろいろな課題を抱えておりますが、これについて思い切った政策、重点目標を明示した政策というようなことがぜひともこれから必要ではないか。そのためには、これは非常にいい機会でありますので、ぜひ行政の側だけでなしに政治の側からもひとつ思い切った農業の構図を示していただきたい、こういうことを強く希望したいと思います。
  82. 神田厚

    ○神田委員 ずっと議論を続けまして、最終的な結論に入っていくわけでありますが、日本農業がこういう形で状況的には大変追い込まれているというような状況でもありますし、農村が、非常に政治的であるという状況の中で、政治のきわめて進んだところから非常に離れた存在になってきているという非常に象徴的なことでもあるわけでありますが、林参考人に、なぜ日本農業がこういう現状になってしまったのか、日本政府及び農林省の農業政策のどういうところ、食糧政策のどういうところに問題があったのだろうかということが一つあると思うのですが、その辺のお考えがあったらひとつお聞かせをいただきたいと思うのであります。  同時に、食糧の自給力の向上、これは国会決議までしまして、どうしてもやらなければならない問題であったわけですが、それらに対する取り組みがきわめて不十分であるという状況もあります。食糧安全保障という観点から、食糧安全保障基本に何を置けばよろしいのか、あるいは農業保護の問題については、先ほど先生はその根幹を保護するというようなことをおっしゃいましたが、その辺の保護水準等のあり方と絡めましてお話をお聞かせいただきたいと思います。
  83. 林信彰

    ○林参考人 大変基本的な問題のお尋ねでございまして、短い時間でお答えするのはなかなかむずかしい問題でございます。  ただ、基本的な点だけお答えいたしますと、やはり現在の日本農業がここまで来たという条件の中では、特に、高度経済成長以来の日本経済全体の中における農業の位置づけ、農業の置かれる問題点が非常に不明確であったのではないだろうかという点が第一に言えるのではないかというふうに思います。日本経済の高度成長の一つの柱としまして、農業から、土地あるいは水、こうした自然的な資源及び労働力、こうしたものを工業にできるだけ早く移しかえるという政策を行いました。これは明らかに工業にとっての経済成長の役に立ってきたわけでありますが、それによって余りにも急激な変化が農業の中にさまざまな構造的な不安定さをもたらしたということが一つございます。  それから、現在ではかなり様相が異なっておりますが、日本経済の国際的な競争力の強かったのは、やはり日本国内農業のさまざまな困難性を輸入農産物によって賄っていく、つまり、安い農産物によって国民食糧を大きく賄うという政策が行われました。これによって少なくとも賃金コストは一九七〇年代の初めまでは国際的に見て安かったわけであります。これは日本食糧政策をゆがめた一つのもとであったのではないだろうかと思うわけであります。こうした基本的な問題から現在、農業の困難性が出てきております。これは日本経済成長がきわめて短期間でアメリカあるいはヨーロッパ諸国に追いつけ追い越せ型の経済運営をやってきた一つの結果だと思うわけであります。この問題の解決がいま迫られてきているというのが、貿易摩擦の問題でも農業の中にあらわれてきていると思うわけであります。  そこで、今後の農業政策で基本的に食糧安全保障なり、あるいは日本における国民経済の中で農業立場をどう守っていくかということになりますと、先ほど農業の国際保護水準としては根幹的な部分を守れ、こう申し上げましたが、根幹的な部分というのは、言いかえれば日本国土資源を使った土地利用農業を中心にして、これを基本的にまず守り抜くということだろうと思うわけであります。日本の米あるいは麦あるいは飼料穀物、こうした全体の穀物をまず守る、それによって結びつく畜産をいかにして保護していくか、これが基幹的な部分であろうと思うわけであります。これの部分については国民全体の合意あるいは国際的な合意を得てはっきり守っていくという立場を明確にしつつ、あるいは嗜好品的な分野の農産物もございます。あるいは発展途上国が、その自国にとってはその輸出によってかなりの経済成長を遂げられるという分野もあろうかと思うわけであります。こうしたものについては、将来的な長期的な展望に立って、日本はある程度の輸入をしていくということも考えていっていいのではないだろうか。何が何でもすべて日本国内で自給しろということでは決してなく、こうした仕分けというものを農業政策の中で持つ、そして日本がこの立場をかなり長期にわたって変えないということを明確にして国際的な合意を得るという方向が何よりも大切なんではないだろうかということでございます。  以上です。
  84. 藤田スミ

    ○藤田(ス)委員 アメリカが、農産物自由化日本が行えば、日本消費者にとっては非常にプラスになるんだ、こういうことをよく言っております。日本の国の中にも、自由化すれば消費者にプラスになるんだといった意見が多くて、ときには生産者と何か対立するかのような意見さえ出ているわけなんですけれども、この点率直に言って、妹尾参考人それから救仁郷参考人にお答えいただきたいのですが、いかがなものなんでしょうか。  アメリカの農務省のスミス海外農業局長がことしの二月一日、全米肉牛生産者協会総会というのを開いておりまして、そこであいさつをしております。この中に、仮に、日本牛肉輸入を自由化し、ECが高級牛肉割り当て枠を実行するならば、米国牛肉輸出は現在の三倍以上に増加するだろう。そのことによって現状よりも肉牛価格は一頭当たり二十五ドルの値上がりになる。さらに、国内牛肉需要が回復すれば、牛肉輸出拡大の価格への効果はさらに大きいものと考えられる、こういうふうに言っておりまして、いま現在、牛肉を東京とニューヨークで比較しましたら、一〇〇対四〇ということで、ニューヨークが、非常に安いということになっておるのですが、それがそのまま必ずしも消費者の手にその形で入ってくるという保証は、この話からもあるとは言えないだろう。  それからもう一つは、例のカナダのすじこですね、買いあさって二年間で三倍も値段をつり上げた。商社の手をくぐってくるわけですから、したたかな商社の手をくぐったときに一体肉はどういうふうに価格の変化を起こしていくだろうか。加えて、アメリカもオーストラリアも牛肉の価格というのは非常に大きな変動を繰り返しておりますけれども、そういうもののはね返りなどを考えますときに、消費者にプラスということはどういうふうに考えていけばいいのだろうかという疑問が一方でわいてくるのは当然だと思うのですが、この点についていかがお考えか。  もう一つは、畜産物に対して日本が禁止している添加物を諸外国は非常に多く使っておりまして、特に、アメリカは三十一種類も禁止されている添加物を使っているのですが、チチュウカイミバエの問題を通しましても、そういうものに対する日本の受け入れに非常に圧力がかかりまして、だんだん検査が弱められてきている。先ほどもそのことを御指摘になったと思いますが、こういう中で、こういう安全性の問題がどこまで保証されていくのだろうかという危惧もあるかと思います。こういうことで、日本消費者にとってプラスになるというアメリカの言い分をそのまま受けとめられるものかどうか、お考えをお聞かせいただきたいのです。  最後に、妹尾さんは、消費者生産者との交流を強調されました。私は、そのことは本当にいい御提議だと思いますし、まことにそのとおりで、この問題は決して消費者生産者の対立する問題ではなしに、むしろともに考えて、将来、日本食糧問題を私たちの手で解決していくためにもいま大事な問題だと思いますが、この点についていかがお考えか、救仁郷さんからも御意見をお伺いしておきたいと思います。
  85. 妹尾美智子

    ○妹尾参考人 結論から申し上げますと、私は、アメリカが言っておるように自由化したからすぐそれだけ消費者価格が安くなると余り短絡的に考えるのはちょっとどうかなという感じがいたします。それは、日本国内の流通の問題もかなりございますから、そこらも多少整理をしていきながらこの問題を考えていかないといけない。何か自由化したら、アメリカのものを買ってきたら安くなりますよ、こういうふうに簡単に考える消費者というのは最近はだんだん減ってきているんではないだろうかというような感じは持ちます。  最初に私、アンケートをとりましたというお話をいたしましたけれども、その中でも恐らく値段が下がるというふうな答えは余りないわけでございます。むしろそれよりは、自由化によって一番心配なのは安全性の問題なんだということの方が話としては前に出てきております。極端な非常にはっきりした物の言い方でわりと出てきましたのが、えたいの知れないものを食べるよりは安心な国内産の方が結構という意見理由の中に言葉として出てきているというようなのもございますし、それから、日本人の味覚に合わないようなものが入ってきても、一時はそれは日本の業者を圧迫するかもしれないけれども、結局は、日本人の口に合った商品の方へ凱歌が上がるのじゃないだろうかというふうな物の見方をなさっておる消費者の方も、アンケートの中を見ますとずいぶんあるわけでございます。ですから、自由化になったから必ずしもすぐどれもこれもが安くなるというのではなくて、これは安くなるかもしれないけれども、これはどうなるかわからないなというその商品によってやはり消費者側の判断の仕方は違ってきているんじゃないかと思うのです。  それにつきましてやはり消費者立場から言わせていただけるのなら、いわゆる輸入価格というんですか、外国での価格と日本での価格との価格差、それが、出てくる資料によって実はみんな違うんです。どうもお出しになるところの御都合のいいもので差ができているようでございますので、あの辺の価格差を明確にした安心できる情報というのがもっと消費者の方へ流れてきてもいいんではないだろうかなということでございます。  それから、添加物その他の問題が出てまいりましたけれども、私はいまおっしゃいましたように、その辺が一番いま消費者が心配をし、気にしているところではないかと思うのです。やっと、本当にやっと国内のそういうものが何とか一生懸命になって規制できた体制の中で、今度は、外国からの圧力でそういうものがまた崩されるということになりますと、私は、日本消費者運動というものに物すごく大きな汚点がつくんじゃないだろうかなという感じも持ちます。  それから、この添加物の問題でございますけれども日本で輸入品の添加物をチェックできるそれだけの技術が、さあ日本にいま果たしてどのくらい追いつけてるんだろうか。やはりこういう点の技術というのはかなりアメリカの方が発達しているというふうに聞いておりますので、その辺の不安も多少あるわけでございますけれども、やはり農産物自由化というようなことに関して一番気になりますのは、消費者にとっては安全性なんだということをもう一度ここで申し上げておきたいと思います。  お話し合いの点につきましては、先ほどからもう何遍も申し上げておりますので省略させていただきます。
  86. 救仁郷義房

    救仁郷参考人 お答えを申し上げます。  自由化した場合において肉の価格が安くなるかというお尋ねでございます。いまも消費者連盟の方からお答えがございましたように、先ほどまた参考人の方から、世界におきます流通し得る肉の量が一千七百万トン、こういうようなお話がございました。アメリカも、世界一の生産国でありながらなおかつ、七十万トンの輸入をしている。こういう背景でございますので、仮に完全自由化をいたしましても、アメリカから日本に入ってくる量というものは限られると思うのであります。そのかわりに、逆にニュージーランドあるいはオーストラリア、こういう面からの肉が入ってくるんではなかろうか、こういうふうに考えるわけでありまして、けさの朝日新聞の報道によりますと、自由化の方向を変えてある程度、六品目でございますか、その中に、牛肉については高級牛肉の枠の拡大を求める、こういう報道がございまして、私どももこれはどういうことだろうか、こういうふうに非常に大きく関心を持ったわけでございます。アメリカから日本に入っております牛肉にいたしましても、アメリカが出しております五万トンのうちで三万トンしか入っておらない、こういう先ほどのお話でございますので、しかも、いいものが入ってくるということであれば当然価格は安くならずにむしろ高くなるんではないか、こういうふうに理解をいたしておるわけでございます。  同時に、添加物の問題は、いまもお話ございましたように食品衛生上の観点から、また、国民の健康保持の意味から言いましても、日本においては厳しく規制をされている、これは当然であろうと思うわけでございまして、今後ともこういう歯どめについてはやはり十分配慮がなければならぬ、このように考えております。  以上であります。
  87. 保利耕輔

    ○保利委員 先ほどからいろいろとお話を承っておりまして、大変参考になったわけでございますが、特に、妹尾参考人からはいろいろな御指摘がございました。消費者のサイドに立った御意見が出てきたわけでございますが、山口参考人とそれから高門参考人に御意見を承りたいと思う次第でございます。  消費者というものは、やはり生産者にとってはお得意さんであると思います。消費者が食べてくれなければ生産者がつくってもこれは商売することはできないということでございます。したがって、生産者が行っておりますいろいろな運動につきましては、消費者の理解というものをやはりきちんととるということが必要なんじゃないかといことが私には非常に強く思われるわけでございます。今日、自由化をできるだけ阻止しようあるいは枠の拡大を阻止しようということが叫ばれておりまして、全国的な統一行動が行われるやに伺っておりますが、そういった問題を踏まえまして、先ほど妹尾参考人が御指摘になった生産者と消費者が話し合いの場をもっと持ちたい、また持つべきだ、そういうようなお話があったわけでございます。生産者の方の立場からいって、このお話をどういうふうに受けとめられるか、御意見があればお話を伺ってみたいと思うわけでございます。  また、高門参考人につきましては、一つ特殊な問題といたしまして、柑橘類の産地間競争というものが柑橘類の品質及び価格等の改善に役立っていくだろうということは何となく推定できるわけでございますが、この産地間競争というものがやはり体質を強くしていくということが片方では言えるのではないかと思うわけでございます。この辺を生産者としてはどういうふうにとらえておられるか。これは自由化をするということではありませんけれども自由化を阻止していかなければなりませんが、この自由化というものを横目でにらみながら、そういう問題が提起されているんだということを横目でにらみながら、産地間競争という問題をどういうふうに理解しておられるか、御意見を承れればありがたいと思います。
  88. 山口巌

    山口参考人 ただいまの消費者団体との話し合いの問題でございますが、私どもも、この問題のために特に先般、消費者団体の全国団体との話し合いを行ったわけでありまして、地婦連、主婦連、消費者団体連合会、日生協等とお話し合いを行いまして、その際、非常に力強い言葉を賜ったわけでございます。今回の貿易自由化問題は農民だけの問題ではない、われわれ消費者の問題である、だから私ども消費者団体として自主的に反対運動を組織する、こういうことを特に地婦連の大友会長等からも強いお言葉をちょうだいいたしまして、ともかくがんばってくれと逆に激励をされたわけでございます。生産者団体は決して自分だけの問題と思ってそれで卑下することはない、これはむしろ消費者にとって重大な問題である、消費者がこれを拒否すべき問題である、こういうことで激励をいただきまして、今後とも相提携して進めることにいたしております。  以上でございます。
  89. 高門嘉夫留

    ○高門参考人 産地間競争でございますが、柑橘は加工事業におきまして安定基金制度が法律の上であるだけでございまして、その他の関係はすべて国内で自由な競争でございます。したがいまして、産地間競争は非常に激しいわけでございまして、消費が非常に高級化、多様化しておりますから、先ほど大きいリンゴの話もございましたが、そのような面も含めまして産地間の競争は行き過ぎるぐらい行き過ぎておる、こういうふうな面があると思うわけでございます。ただ、この産地間の競争がただ単に品質をよくする、安いものをつくるということよりも、たとえば、段ボールの化粧箱を高級にするとか、そのほか宣伝その他の関係でいろいろなむだな競争もございます。そういうふうなむだな産地間の競争は極力排除をしていこう、そしてできるだけ品質のよいものを安くやっていこう、こういうふうなことで現在、産地間の競争が行われておるわけでございます。したがいまして、私は、自由化をやらなくとも現在の過剰の状態の中で、国内のいわゆる柑橘産地、果樹産地の中で非常な競争が行われ、その競争の中でコストの低減なり品質の向上なり、そういうふうなものが、他の農産物と比較をするとより以上に行われておる、このように理解をいたしておるわけでございます。なお、今後とも消費者に役立つようなよい意味の産地間競争は大いに続けていきたい、このように思っています。
  90. 小川国彦

    ○小川(国)委員 私は、全日農の谷本参考人と千葉大学の唯是参考人のお二方に質問をいたしたいと思います。  まず谷本参考人に、最近の農産物輸入問題をめぐる財界あるいはマスコミの一部、あるいはまた労働組合の一部にも見られるわけですけれども、輸入して安い農産物が供給できればそれでよいといった論調がそういった方々によってなされているわけです。日本農業の根幹に触れて考えてみますと、食糧安全保障を確保していくということは容易ならざることであるというふうに考えるわけです。戦時のことに思いをはせてみたり、あるいは災害があったり飢饉があったり、そういった食糧窮迫の事態が起こったとき一体どうなるのか。こういうふうに考えてみますと、いま、米の減反政策で六十三万ヘクタールも農地を荒廃させている。こういう状況を一体このまま認めていっていいのかどうか。  現在、日本でとれておりますお米は約一千八十万トン、アメリカその他から輸入している小麦が約四百十八万トン、えさ類が約二千万トン、こういうふうに考えてみまして、仮にいま言った戦争とか飢饉とか災害とかそういう問題が起こって、この小麦の四百十八万トンが入ってこなかったらどうなるか。そうすると、この四百十八万トンの小麦を八掛けしまして食糧として見ると、粉にひいた場合約三百二十万トンの食糧というふうに考えると、ちょうどいま減反をしております六十七万ヘクタールの米の減反分、約三百万トンに見合うわけです。ですから、もし小麦の輸入がとまった、こういうふうに考えてみると、途端に日本の米に換算すれば三百万トンの米が足りないという事態が起こるわけです。それからさらに、えさの輸入がとまったというふうに考えていくと、さらに重大な事態が起こってくるというふうに考えるのです。  われわれは、民族の主食である米というものを大事にしていかなければならないし、そういう意味では、減反政策というものを克服して、誤った考え方をしている財界の一部あるいはマスコミの一部あるいは労働組合の一部に対しても、民族の主食は米である、国民食糧安保を守っていく、こういう考え方を進めていかなければならないというように思うのですが、その点についてどういうようなお考えを持っておられるか、それが一点でございます。  それから第二点目は、唯是参考人にお伺いしたいのであります。  日本の一億一千万人の国民全体の食糧安全保障を確保していくというためには、日本国民食糧国内で自給できる、そういう食糧自給の体制をつくらなければならないことは当然国として力説していることでありますけれども、現実に、食糧をつくる農家の人にとってみたら、農業というものが採算が合って職業としてそれで自立できるものでなかったら、やはり兼業の道に走る、転業の道に走る、これは当然のことだと思うのです。そういう意味で、では日本農家というものはどのくらいの経営規模を持って、どういうような機械力、装備を持って、どのくらいの価格になっていったら、これは短時間にお答えできる問題ではないと思うのですが、一つ農家のあるべき姿、農業のあるべき姿はこういうところに持っていかなければならないというものは、食糧自給の体制の中でも当然めどとして示されなければならないのじゃないか。しかし、残念ながらいま私どもは、日本政府の中ではそういった農家農業というものがこういう形なら職業として自立できるものだという目安がないように思うのです。これはわれわれを含めてでありますが、国政の中でそういうめどをつくらなければならないというふうに考えておりますが、唯是参考人としてそういう点どういうお考えを持っていらっしゃるか、この点を伺いたいと思います。
  91. 谷本たかし

    谷本参考人 最近、労働組合の一部の間にも、自由化をやれば食料費が安上がりになってくるのではないかという期待が出ておるようであります。完全自由化の場合と枠拡大の場合とで違ってこようと思いますけれども、たとえば、少々の枠拡大をしてみても、円高の場合の差益が、主として中間資本にメリットが吸収されてしまった例にも見られますように、消費者に還元されるという保証は必ずしもないのではないかというふうに思います。  とりわけそういう点との関連で強調しておかなければならないのは、食品工業の寡占化が進んできているという事実であります。業種別によってかなり違いますけれども、輸入原料に依存しておる業種であるほど寡占化の度合いは高くなっております。食品工業の寡占化の進展と同時に、消費者が支払っている総代価のうちでの農民の受け取りが漸次低くなってきております。以前は、消費者の総支払い代価のうちの農民の受け取りは約三分の一と言われておったのでありますが、現在では、すでに四分の一に近い水準にあるのではないかとされております。これは資本の寡占化によって原料を安く買いたたいて、そのメリットについては主として中間的に吸収してしまうというような動きが強くなったと見ることができると思います。  それから、完全自由化のようなものをやりまして輸入物が安く入ってくるというような場合に、食料費が安くなった場合に果たしてどうなるのか。自由化などを主張しておる労働組合を見てみますと、主として賃金闘争については余りしのぎを削った闘いをされない労働組合が多いようであります。ということは、食料費が安くなってきますとその分だけ賃金が抑えられるということになりはしないのかといったような問題点があることを私どもは指摘をしなければならぬと考えております。  次にもう一つ食糧安保の問題であります。この点につきましては、食糧安保の基本にすべきなのはやはり水田を守るということだろうと私は思います。水田をどう守っていくのか。現在の需給関係のもとで米が余っておるのだとするならば、それはえさに振り向けるべきではないのかというふうに私どもは考えております。先ほど山口参考人がえさ米の場合の実取りについてコストが大変開いておることを言っておられましたが、たとえば、ホールクロップサイレージの場合について見てみますと、私どもの秋田の仲間などが実験したところによりますと、食用米を生産した場合との経済格差は十アール当たり五万円というような結果が出ております。減反奨励金の最低額を奨励金として交付するならば、えさ米の生産によるサイレージ化はやれるわけでありまして、そういうところから進めていくべきではないのかというふうに考えます。  さらにまた、実取りの場合についての価格差の問題でございますが、これについては食用米とえさ米をプール計算するというようなやり方もあるのではないかと思います。たとえば、ある試算によりますと、えさ米は食用米の二分の一といたしましてトン当たり十六万円と仮定をし、そしてこれを二百万トン生産する。一方、輸入の穀物の方は現在四万円でありますから、これの方は輸入量を千八百万トンと押さえるということで、加重平均をした場合の飼料価格はどうかというと、トン当たり五万二千円であります。現在の輸入価格と比較しましてそう高いものとは言えないと思います。こういう点でやはり国民的な合意をつくっていくというようなことが大切ではないかと思います。  なお、水田を守っていくという点については、水田というのは単に食糧生産を行っているだけではなくて、多面的な役割りを果たしておるわけでありますから、そういう点も、国民的な合意をつくっていく場合に訴えかけていくことが大切ではないかと考えております。たとえば、昨年秋の北海道の水害を見てみますと、どなたに聞きましても雨量に比較してその受けた被害はきわめて甚大だということが強調されております。あるいはまた、最近、私は富山県の高岡へ行ったのでありますが、高岡の場合にはもうすでに井戸がくめない、水がかれてしまっている井戸がかなりございます。これは、工業用水としてどんどん地下水がくみ上げられており、そしてまた、減反が行われているといったようなことによって起こっているわけであります。北海道の水害が甚大であったというのは、減反が五割になってきているといったようなこととの見合いであろうと思います。研究者の調査、計算などによりますと、日本水田は天から降ってくる雨の受け皿といたしましてはダムの約四倍の能力を持っているとされております。三割減反をやるとしますと、ダムは大体二倍にしていかなければいまの自然環境条件が保全できないというふうに言われておるわけであります。さらにまた、いまの地下水の使用状況を見てみますと、供給量との間には約二十万トンマイナスになっております。三分の一減反を行いますと地下水の供給量はマイナス十九万トンになるであろうことが計算されております。  そうしたような諸点等々からいたしましても、やはり水田農業は守っていかなければならない。国民経済的に見て守るということの持つ意味は非常に大きいというような点を多面的にとらえながら、私どもとして労働組合等にも訴えておるというところであります。  以上であります。
  92. 唯是康彦

    ○唯是参考人 日本農地は六百万ヘクタールでございますが、現在作付率はずっと落ちております。もう一つほとんど裏作に対する放棄が行われております。先ほど小麦のお話がございましたけれども、裏作自体は実際には二百万ヘクタールまで使ったことはございませんけれども、もし本気になってやるのであれば、二百万ヘクタール弱はいくであろうと私は思います。ヘクタール三トンの小麦をとりますと六百万トン、二トンをとりますと四百万トン、こういうことになりますので、裏作の利用ということ一つを考えてみましてもまだまだ日本にはやることがあるのではないか。そういうことを考えますと、どうも輪作という思想を私たちはだんだん失ってきていると思いますが、もともと米作地帯というのは単作あるいは連作で展開する性格を持っておるのですけれども日本のような冬、ある地域はどうしても輪作形態を取り入れた方がよかろうと思います。  これは特に、最近一つの計算ですけれども、一カロリーの米をつくるのに三カロリーのエネルギーを投下しなければできないという、石油、油づけの農業に入ってまいりますと公害問題資源問題あるいは冷害対策その他についても日本の米作自体がむしろますます弱まっているんじゃないか。こういう観点からも、もう少し有畜畑作農業なるものを日本の米作にドッキングして新しい、恐らく世界に余りない、アメリカ南部にあると思いますけれども日本独特の地域ごとの特性を生かした米と有畜畑作農業の新しい輪作体系をつくっていくということも一つの方法ではないかと思います。もちろん、有畜畑作農業と申しますのはヨーロッパの低温乾燥の風土で開発されたものですから、夏、高温多湿の日本に必ずしも定着しませんけれども、それはまた、いろいろ研究して将来、そういう日本独特のものをつくるという可能性はないとは言えないと思います。こういうことを考えますとやはり土地がたくさん要るんですね。狭い土地を複合あるいは輪作という形で細かく分けて使いますと、ただでさえ生産費の高いものがますます高くなっていく、こういう仕組みになってしまいますので、単に米単作の生産費を下げるということばかりでなくて、輪作形態を取り入れるという観点から見ても、経営規模の拡大はどうしてもある程度必要であろうと思います。  そんなことから、一人中核農家十五ヘクタールの農地水田がございますと、現在の生産費よりも四割下がるといったような数字を先ほどちょっと申し上げたのですけれども、そういう方向に進めていくべきではないか。アメリカのように百ヘクタールなんてこれはとてもお呼びじゃありませんけれども、先ほど触れましたように今世紀の末にかけて五〇%の増産をせざるを得ない一つ世界的な需要がございまして、これを全部アメリカがひっかぶるということになりますと、増産は可能かもしれませんけれども、単収を上げるために農薬や化学肥料その他生産費がかさみますし、また、先ほども触れましたように土壌が荒廃してくる、トップソイルが失われてくるという重大な問題がやはり入ってくるように思います。トップソイルはもちろん化学肥料である程度補えますけれども、これは三大肥料だけでございまして、人間のビタミンとかミネラルに当たる微量栄養素については人間はこれを補てんしておりませんので、余り大きな圧力を土地にかけますとまいってしまう。やはりちょうど埋蔵量が一定の石油と同じように、オイルとトップソイルですからあるいはごろが似ているかもしれませんけれども、トップソイルをリザーブするために輸出を削減するということも長期的にはあり得るのですね。やはり私たちは現在の膨大なアメリカ農業生産力だけを見て安心をしてはいけない。  しかし、反面、それは先ほども触れましたように農産物価格が上がっていくという一つの方向でございますので、この中で先ほどの世代交代を媒介にして政策をより前向きに展開していくと十分国際競争力のある、希望の持てる農業というものが確立するのではないかというふうに私は期待しております。そのために、御指摘のように政府はより明確な経営のモデルを提供してその点の推進を図るべきである、また同時に、農家の自発性も育成すべきだと思うのです。助成事業はもうかなわぬという声を最近では農家でよく聞きます。どうしてもある型が中央政府で決まって、そしてそれに合わないと助成してくれない、しかし、それをやればまた金も自分の方もかかる、借金を抱えてしまって、結局、それほど意図したものでない経営を借金だけ抱えて困ってしまう、こういう事態もあるのですね。あのぐらいであればむしろ利子補給をしてくれた方がいいという声も場所によっては聞こえます。ですから、こういった点も、いわゆる補助金政策から金融政策への転換ということもやはりこの中で十分考えていくべきであろうと思います。  ただ、こういうことはあくまでも大型の農家の育成を考えておりまして、じゃ兼業農家はどうなるのか。私は兼業農家はなくならないと思いますし、また、あっていいのじゃないかと思います。だんだん生活が高度化してまいりますと、農業とほかの職業とを兼業してそこで収入を上げると同時に、その中に一つの生きがいを見出していく、そういう世界があっても一向にかまわないのじゃないか。実際、日本はその点では先進国でして、西ドイツでもアメリカでもいま兼業農家はふえてきているのですね。地価も上がっています。ですから、日本農業は先進農業なんではないか。実際の単収技術は、一番最初に高めたのは日本ですね。蚕でF1という雑種交配の技術を世界で初めてやったのも日本なんですからこれはあたりまえなんで、多くの人はちょっと勘違いしていますけれども日本農業というのは世界の先進農業なんですね。兼業農家でも地価の点でも先進農業である。そういった意味で、高齢化社会に入っていく中でやはり兼業農家があっていいだろうと私は思います。  じゃ、その兼業農家生産費は高くなるではないか。そうなんですけれども、これは日本全体の問題としてロボットの問題がございまして、高齢化していく社会の中で、日本は将来、大変な労働不足にぶつかってしまう。ロボットを開発していくというのはその先読みだと私は思いますね。これは兼業農家にそういうものが入っていいのではないか。兼業農家何軒かをまとめてロボットで処理していくということだってあり得るわけでありますね。こういう発想を思い切って転換したような農業をこれから育成していくのは、日本農業にとって大変興味もあるし、希望も持てるし、また、世界の需給バランスの中で役立つのではないか。  日本は今日、零細な農業になってしまいましたけれども、なぜこうなったのだろう。私は一番大きいのは高度経済成長だと思います。何といっても工業サイドからの大きな労働力需要があって、そのときに高い教育を持った良質の労働力日本にあってそれを提供してきた。最初に、若い人たちが農村から出て行って非常に優秀な労働力を提供した。また、四十年代に入りまして、都市集中型の工場から地方に分散していく過程で、兼業農家というものが中年層の安定した労働を供給してくれた。家つき土地つき食事つきできわめて安定している。こんないい労働力を使えたからこそ、工業というものは発展したんですよ。ですから、高度経済成長における日本農業の役目は何だったのか。良質の労働力を安定供給した。これは、人間がいなければ産業というものは進歩しないのですから、高度経済成長における日本農業最大の貢献だろうと私は思います。  地価が上がったのは農業のせいじゃないですね。高度経済成長のために地価が上がったので、これを保有するのはあたりまえなんです。農家だけがどうして高い土地を保有していけないか。そんなばかなことはないですね。きわめて合理的に日本農家というものは対応したのであって、一向に恥じることはない。また、兼業農家であるからといって恥じることはないと思います。  しかし、以上のような状態が一段落しまして、安定成長期に入って大変むずかしい国際情勢の中にこれから突入していかなければいけない。その中に、いま申し上げましたように日本農業というものはきわめて発展性のある芽があると私は思うのです。そうしますと当然、高度経済成長期において果たした日本農業の役割りを評価してくれるならば、国民全体はこれを大いに援助して、より世界に誇れる農業というものを確立する、そういう義務があるのではないかと私は思います。ですから、そういった意味で、今後の農業の政策を展開すべきであろうと思いますので、ひとつその点を大いに推進していただきたい、こういうふうに思います。
  93. 亀井善之

    ○亀井(善)委員 唯是参考人にお伺いをしたいと思います。  世界食糧問題あるいは食糧の自給論の権威者、このようにも承っておるわけでございます。  私たちは毎日二千五百カロリー程度のカロリーをとるわけでございますが、そのうち千三百カロリーぐらいは輸入に頼っている。先ほども世界一の食糧の輸入をしている、こういうようなお話もあったわけでございます。また、そういう中で食糧安全保障の大切さ、また、これを国の内外によく説明をしなければならない、こういうお話もあり、さらに、いまは日本農業の将来というようなことで大変興味あるお話を伺ったわけでございます。そういう点から、今後の食糧の自給の将来展望と申しますか、いま総合で七十何%、穀物自給で三三%、このような数字もあるわけでございますが、この辺の問題につきまして、大変問題は大きいわけでございますが、お考えを伺わせていただければと思います。
  94. 唯是康彦

    ○唯是参考人 日本穀物自給率は御指摘のように三三%でございます。ところが、日本と同じような工業国である西ドイツの穀物自給率は八〇%なんですね。したがって、その国内でできる穀物だけを人間が食べたら、もちろん、いまの中にはえさも入っているのですが、仮に、これを全部人間が食べたら一体どうなるか。日本の場合は一人一日千カロリーを切るのです。ところが、西ドイツは国内でできる穀物だけで二千七百カロリーとれるのです。日本はいま二千五百カロリーですから、それより多くとれるのです。というわけで、西ドイツには恐らく食糧危機とか食糧安全保障などという議論は余りないのだろうと思うのです。その必要がない。また、スイスも日本と同じように穀物の自給率が三五%でございまして、非常に低い。国民一人当たりにいたしますと千カロリーぐらいしかとれない。ところが、スイスは御存じのように永世中立ですが、いろいろ食糧自給に大変大きな投資をしております。なかんずく農地、放牧地ですね、この面積がきわめて大きい。日本は放牧地が国民一人当たり〇・九アールでございますけれども、スイスは二十八・二アールです。約三十倍ある。有事立法で、この地域に有事の際には芋や小麦を植える、こういうことになっているのです。スイスにもどうやら食糧危機がないじゃないか、こういうふうな感じがいたします。  こういうことなどを考えてみますと、彼らが持っている一つ食糧安全保障機能というのは、最初からヨーロッパの農業システムの中に組み込まれているのですね。それは何かというと畜産なんですよね。ヨーロッパは雨が降らないものですから、どうしても輪作をやらなければならない。したがって、家畜を導入して放牧して休閑するといったような技術が入ってきました。こういうことで、食生活の中身も畜産物の消費が不可欠で、この家畜が、いま申しましたように、屠殺すればいつでも食肉として食べられる。ですから、家畜は飼っているけれどもあれは食肉の備蓄をしている。また、家畜を養うためにえさをつくる。その穀物は人間が食べることができますので、いまの西独のように穀物の備蓄をしている、畜産をやるということで実は穀物の備蓄をしている。また、スイスは家畜を放牧して、その放牧地を確保して、結果としては農地の備蓄をやっている、こういうことなんですね。  ですから、畜産にはもともと食肉と穀物と農地の備蓄、三つの備蓄機能があって、これが食糧安全保障機能を果たしていたというふうに思います。そしてヨーロッパのこの構造は余り変わらないで近代化をしたために、今日でもこの安全保障機能というのは組み込まれている、ビルトインされていてシステムに破綻がない、大変うらやましいと思います。  日本の場合は、お米一石というのが一つ安全保障機能だったわけですね。雨が降りまして温度も高いので、日本の風土は米作が向いております。したがって、米中心の食生活。昔から米一石という容積の単位をつくりまして、重量に換算いたしまして百五十キログラム。三百六十五日で割って、一日当たりカロリーにいたしますとちょうど千四百カロリー。安静時の熱量なのですね。人間、寝ているときでも生きていますから、鼻いびきなどというのはただ出ているわけではなくて、あれはやはりカロリーで出ていまして、どうしてもカロリーが要るのです。そこで、その人間が生きていくための最低のカロリーを、安らかに静かにしているときのカロリーといいまして、安静時の熱量、これが歩どまりも含めて大体成人千四百カロリー。日本の米一石というのはちょうど安静時の熱量を確保している。日本は温暖ですから、豆や野菜を食べる。昔から簡単に手に入るでしょう。周りは海に囲まれておりますから、魚が簡単に手に入る。これらを合わせますと二千カロリー以上になって、生きていける。ということになりますと、日本人の食生活にとって一番大切なのは米一石持っていることです。米一石持っていれば一年間生きていける。事実、米一石の定義は人間を一人一年間扶養する、そういうお米の容積、こういうことなんですね。  ところが、残念ながらこの米の消費がだんだん減少してきた。そのために米一石という安全保障機能も失われた。また、米作という日本の風土に適した一つの農法も沈滞している。これがやはり戦後、日本農業が直面した非常に大きな構造上の問題であったろうと私は思います。  そこで、二つの方向が出てくるのですね。一つは、お米の消費を拡大したらいいじゃないか。これは米の消費拡大運動をやったのですが、なかなか実効が上がりません。これは精神論だけでなくて、どういうところにどういう形で米が消費されるか。日本人の生活も非常に多様化してまいりましたので、その点の分析をしないで、ただ、日本人は昔から米を食っているから米を食うべきだ、こういう議論は、観念としてはわかりますけれども、実効性がなかなかないのですね。ですから、もうちょっと詰めが必要です。日本人が食べないのであれば外国輸出しよう。これは値段が安くないと輸出できませんけれども、先ほど来アメリカのお米の心配がずいぶんありますが、私は余り心配してない。確かに、アメリカはいま生産が六百五十万トンくらいですか、あと一千万トンくらいまでいくでしょうね。しかし水の制約がありますから、それ以上いかないと思います、技術革新があれば別ですが。ですから、先ほども触れましたように、世界全体の需給バランス、特に、穀物の需給バランスがタイトになってきますので、長期的には私はそう心配するものではないと考えております。  そういうわけで、日本のこういう米中心の食生活が崩れたために余ってしまったのですが、それはアメリカには輸出できないにしても、ほかの地域に輸出する可能性はないとは言えない。これは生産費が下がればできますね。いま一つは、穀物をえさにしようというお話が先ほど来ございました。人間が食べないなら家畜に食べてもらおう、これも一種の消費拡大運動ですね。  このようにして、米の消費を拡大して昔のシステムに戻してしまう、これは一つの方向だと思います。いざというときに人間がえさ米を食べればいいことですね。もう一つは、私が前回の質問に対して触れました有畜畑作農業日本に導入して、米作とドッキングする。結論は、大体足して二で割ることになると思うのですね。米も大いにつくる、また、新しい技術を導入して有畜畑作農業をやる、両方をドッキングする。そうやって米一石と畜産の三つの備蓄機能を合わせて、日本食糧安全保障機能を確保するとともに、日本の新しい一つの経験、これは先ほど来触れますように、私は、将来日本農業は非常に見込みがあると思っています。そういう方向へのステップを進めるべきだ、こういうふうに思っています。
  95. 羽田孜

    羽田委員長 参考人の皆さんには大変遅くなりまして申しわけないのですが、あと一問だけひとつお願いしたいと思います。
  96. 田中恒利

    ○田中(恒)委員 いろいろ御質問がたくさんありまして、次から次へと考えておったことがもう質問をしていただいておりますので、簡単に。  高門さんにちょっとお伺いしておきますが、レモンとグレープフルーツの自由化が行われた、そのことの影響がさほどわが国の果樹生産にはなかったという一つ意見が出てきております。現実に、現地で果樹の地帯の真っただ中で具体的にどういう状況が出ておるのかということが一つ。  それから、いま保利先生の方からも御質問がありましたが、私もこの消費者生産者の問題は非常に重要な問題だと思っておるわけです。全中の山口専務の方から、当面の自由化問題についての消費者団体とのお話し合いのお話があったわけですが、果樹、ミカンあるいはイヨカンといったような産地を持っていらっしゃるところでどのようにこの消費者との対話、パイプ、こういうものを日ごろとられておるか、この点を二つお願いをし、それから妹尾参考人に申し上げたいというか、御意見をお伺いいたしたいと思います。  問題は、生産者と消費者のパイプをこれからどういうふうに形成していくかということでありますが、これほど世の中が複雑になり、きわめて多様な価値が存在をする中にあっては、やはり全国的にまことにさまざまな消費者層をどういうふうにまとめていくかということになると、私は、やはり勢い組織力に依存するほかないと思います。そういう場合に、食糧という観点に視点を置いた場合には、やはり生活協同組合という組織が、特に、日本の都市地帯を中心にして張りめぐらされていくということが一つの前提にならなければ、この対話がなかなか実らないと思うのです。そういう意味で、生活協同組合というものが今日どのような問題を持っておるのか。私たちは食糧の視点からも、この生協というものについて注目をしていかなければいけないと思っております。  その点と同時に、私は、いま東京へ来て自炊をやっておるわけですが、加工品のはんらんであります、都市の食事というのは。ともかくあっという間に食事はできますが、われわれのように田舎で新しいものを食べておる者からいたしますと、正直言って余り食う気がしないのですね。そこにいま、安全性と言われた面があると思うわけですけれども、この安全性とか新鮮性とかこういうカテゴリーを前提にしながら、日本の食事というものをどういう形で考えたらいいのかということについては、それぞれの国民の嗜好の問題がありますけれども、私はやはり考えていかなければならぬ大きな問題だと思うのです。  いま、日本型食生活といったようなことが言われ始めておりますが、そういったようなものを消費者集団の中からも大胆に打ち出して、生産者の方からも打ち出してきて議論をしていく、対話をしていく、こういう具体的な問題が提示をされないと、この運動というかこの集いがなかなか全国的に歯車を動かし得ないんじゃないかというような気がいたしますので、いわゆる日本の風土に合った食事というのは一体何だ、私は、このままにしておればやはり大きな企業や資本や輸入商品によって押しまくられていくと思うのです。戦後のわが国の食事の洋風化の形態はその圧力が強かったと思います。そうじゃなくて、やはり国民の健康という立場から何がどういう組み合わせでよろしいのか、こういう問題を提起をしなければいけない段階に入ったのではないか、こういうふうに考えておりますので、それらの点についての御意見を承りたいと思います。
  97. 高門嘉夫留

    ○高門参考人 レモン、グレープフルーツが自由化されてさしたる影響がないではないかという世論がございます。きょうもどなたからかの御意見があったわけでございますが、私は、そのような認識は非常に危険である、このように思っております。いろいろのたくさんの問題をはらんでおります。たとえば、先ほどから議論になっております外国のものが入って果たして安くなるかということの問題、また、安全性の問題、これらの問題多くを含んでおると思うわけでございます。  昭和三十九年にレモンが自由化になりまして、昭和四十年、ここらから日本のレモン園はほとんど壊滅状態になりました。現在、わずか全国で三十七、八ヘクタール、トン数で四百五十トンぐらい残っておると思うわけでございます。それはきょうここにグラフを持っておるからわかるわけでございますけれども一つ不思議なことがございます。と申し上げますのは、昭和四十年から四十五年まで非常に安い価格でレモンが輸入をされております。これはアメリカ側がやったのか日本の商社がやったのか、その原因は別としまして、確かに安い価格でございます。現在は、その当時の二倍ないし二・五倍になっておるわけで、キロ当たり二百三十九円、これが東京の現在の卸値の価格でございます。いわゆる日本のレモン園が全部壊滅をして、そしてそれを支配下におさめる、そのことによって価格が非常に高くなっていく、このようなパターンになっておるわけでございます。そしてまた、レモンのOPP、TBZの安全性の問題が非常に問題になってまいりました。われわれは切歯扼腕をいたしました。当時、何とか国内産のそのような防腐剤のかかってないもの、太平洋を越えるということは防腐剤がある程度要ると思うわけなんでございますが、そうでないものを供給したいということで奔走したわけでございますけれども、当時、すでにレモン園はない。それから、われわれの県でも着手をして、現在、レモンをつくりたいということで一生懸命にやっておるわけでございますが、消費者にとりましても完全な自由化日本のものが壊滅するということは、結果的においてこれは非常にマイナスになっておるという一つの例が私は、レモンの問題であろうと思うわけでございます。  グレープフルーツも昭和四十六年七月一日、まさに忘れもしませんが、参議院議員選挙の翌日突然に抜き打ち自由化がなされたわけでございます。当時中晩柑の主流は普通ナツカンでございまして、これが約二十五万四千トンぐらい生産されておったわけでございますが、それがだんだん壊滅状態になりまして現在は六万トン、もうしばらくしますと全然なくなってしまうと思うわけでございます。グレープフルーツの価格もレモンと大体同じような軌跡をたどっておるわけでございます。普通ナツミカンは新しいアマナツや新しいサンフルーツが出て、グレープフルーツの完全なそれだけの影響ということは申し上げられませんけれども、しかし、少なくともそれが引き金になってアマナツカンがなくなった、このようなことは間違いなく言えると思うわけでございます。  そういうふうなことで、われわれの認識といたしましては、いわゆる完全な自由化で安いものが当初入り、そして壊滅する、そうした場合には消費者にとっても決してプラスにならないということを強く申し上げたいと思っておるわけでございます。  いま、東京都の卸売市場の過去五年間の青果物、果物の売り上げはほぼ二千億を上下をいたしております。ふえません。この分野でも非常にゼロ・サム社会でございます。したがいまして、あるものが入りますと必ずあるものが減っていく、縮小せざるを得ない、このような現況にあることも申し添えておきたいと思います。  なお、消費者につきましては、先ほどおっしゃいました御意見、非常に拝聴させていただいたわけでありますが、私たちとしましては東京都内に四千五百名、大阪市内に二千名、この団地の方々の御婦人のグループ化を図っていただきまして、そして絶えず対話を繰り返し、さらにそのうち毎年二、三十名、費用の関係がありますので多くはやれませんけれども、産地も見ていただきまして、国内産の果物、そして先ほどお話のございました婦人部の方々との対話も進めておるわけでございます。さらに、そのようなことを拡大していかなければならない、このことを痛感しておるわけでございまして、今後とも大いにそれを拡大し、消費者との交流を深めてまいりたい、このように思っておるわけでございます。
  98. 妹尾美智子

    ○妹尾参考人 最後になりまして消費者問題の一番基礎になりますようなお話が出まして、短い時間でこれをお話しするのは大変話しにくいような問題でございます。  要点だけまとめて申し上げますと、確かに、組織というようなお話が出ておりますけれども、いまや消費者運動というのは中央全国型の消費者運動というよりは、むしろ草の根運動的なものに変わってきております。ですから、東京で組織組織のトップの人が話し合っても、これは話し合ったという形に実はならないわけでございます。ですから、われわれがいま言っておりますのは、やはわそれぞれの地域で、その地域の必要に迫られたところで、小さいグループでもいい、大きな集団でもいい、とにかく地域で話し合うということがいま非常に草の根運動的に必要なんじゃないだろうかという考え方を持っております。  それから、生協のお話がちょっと出たわけでございます。実は、神戸にも灘神戸生協という全国一の生協組織を持っておりますけれども、これが非常にいま組織運営をなさるのにしんどい思いをなさっておりますのは、やはり圏域で閉ざされているといういまの生協法、これがなぜ問題かといいますと、いわゆるスーパーとの競合が出てきておるわけなんです。そのために、生協さんがいわゆる生協精神にのっとって販売をするということに非常に運営面、経営面でのしんどさが出てきているというような問題がございまして、これはやはりスーパーとの競合の中で今後ひとつみんなで考えていただかないといけない問題点ではないだろうかという気がいたします。  いま、東京に出ていらっしゃって何かまずい物ばかりでというお話でございましたけれども、実はこれはよく言われますね、お袋の味という昔の母親の味がいまやパッケージの、袋の味になってしまった。恐らく袋の味でお袋の味をいまなつかしがっていらっしゃるのではないだろうか、そういうふうな感じがいたします。  しかし、いずれにいたしましても、やはり食べるという問題を根本的にチェックしていかないといけない時期がいま来ているのではないかと思います。耐久消費財その他につきましては、実は、私たちは消費者規格という物の考え方で、いろいろな商品の機能性、属性、そういうものを消費者側から、使う側から提案していこうじゃないかという運動を続けております。それと同じことが食べるというものについても、食べる側から一つの提案をする時代がもう来たのではないだろうか、それにいま私たちは一つの運動として取りかかってきておりますけれども、きょうも朝からたびたび出ております日本型食事というのは、言葉としては非常にすらっと出ていますけれども、これは引き算の栄養学から始まるのではないだろうか。これまで、非常に食べ物が足りないころというのは足し算の栄養学でいったわけでございます。それを今度は引き算の栄養学で考えていく、これが日本型食事の一番基礎になる栄養の物の考え方ではないだろうかなというふうな考え方を持っております。その考え方を中心にしながら、実は食べるということについての消費者側からの提案、これを何らかの形でやっていきたいというふうにいま考えているわけでございます。
  99. 羽田孜

    羽田委員長 どうもありがとうございました。  一点だけ委員長の方から、お許しをいただいてお聞きしたいのですけれども山口参考人と高門参考人から端的に、チチュウカイミバエに対する政府措置についてどう考えられるかということについて簡単にお答えいただければと思います。
  100. 山口巌

    山口参考人 チチュウカイミバエにつきましては、当然植防上最大の留意を払って、特に、カリフォルニアの地域に発生をしておりまして、一説によりますと、新聞報道でございまして確認はしていないのですが、スペースシャトルにもチチュウカイミバエが入っておったというような新聞報道もなされている状態でございまして、相当広域に発生しているのではないかという疑念を持たれるわけでございますので、特定地域に限定して、その他の地域を開放するというアメリカ側要求、その問題につきましては私は非常に心配でございます。  それからさらに、日本政府が行いました四月以降のいわゆるレモンに対する問題でございますが、この問題につきましては、レモンが皮がかたいからということで適用除外になっているようでございますが、これも私ども、植防上の知識は余りございませんが、やはり安全の上に安全性を期していただきませんと、柑橘類だけではなくて落葉果樹にも伝播するおそれがあり、日本の果樹生産者にとっては重大な問題でございますので、慎重に配慮していただきたいということを申し上げます。
  101. 高門嘉夫留

    ○高門参考人 先般、アメリカへ参りまして柑橘指導者四十三名と十二日間かけましてこの自由化問題で話し合いをいたしました。そのときにさまざまな意見が出てまいったわけでございますが、特に、カリフォルニア地区の生産者の代表からこのチチュウカイミバエについて意見が出ました。貿易摩擦一つの障害としてこのチチュウカイミバエ問題をあなたたち生産者はやっておるのではないか、このような誤解が一部ありましたので、それは純科学的な問題で全然そのこととは別だということをるる話したわけでございますが、そのことについては了解をしていただいたと思います。  ただ、向こうの方々、特に、南部カリフォルニアのウェスタングロワーズの会員の方が多いわけでございますが、その方たちの不満は、線引きが非常に政治的ではないか、つまり、州単位でやっておる、コロラド川一つ隔てて二マイル向こうのアリゾナのものは何もせずに出せるけれども、何もないカリフォルニアの、コロラド川のこちら側のものはEDB薫蒸をしてちゃんとして出さなければならぬという線引きの問題に不満があるようでございます。向こうの希望は、本来、州とかなんとかじゃなしに、発生地域のかなり広い範囲を地域で限定してきちんとやるべきではなかろうか、こういうふうなことでございました。生産者のこれからの見通しを聞きますと、ロサンゼルス地区のものは撲滅できるのではなかろうか、ただし、サンフランシスコ周辺のものは、これは住宅地域であるし、なかなか撲滅はむずかしいということは生産者も認めておったようでございます。  なお、特にカリフォルニアの指導者の方々が心配しておりますことは、ハワイが汚染地域になっておるということでございます。非常にまたカリフォルニアと日本も旅行者が多いということで、聞きますと、連邦政府に、その撲滅には現在、不妊ミバエを配布しておりますけれども、それでは手ぬるいから防除をやる、防除のためには五千万ドル金が要る、それを連邦政府要求したけれども削られたということでございまして、ハワイで多く生産されますパイナップルは非常に入りにくいけれども、マンゴーは非常に危険だ、カリフォルニアに入ってきたものも恐らくハワイから入ってきた、日本も注意をしてくれという形で、太平洋の真ん中にありますハワイですけれども、非常に旅行者が多いということでございますから、その関係の、いわゆる旅行者のチェック、むしろロットで来ます商業ベースに乗ったものは完全な監視ができますけれども、一番危険なものは旅行者が持ち帰るその中にミバエが一匹でもおったら大変だ、このような言い方をカリフォルニアもしておりますし、われわれもそう考えておるわけでございます。これが一匹でも入りましたら、防除はアメリカ状態を見てみましても不可能であると思うわけでございますが、慎重に対応をお願い申し上げたいと思います。  以上でございます。
  102. 羽田孜

    羽田委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたします。  この際、参考人の各位の皆様にお礼を申し上げたいと思います。  本日は、長時間にわたりまして幅広い御意見をそれぞれ賜りましたことに厚くお礼を申し上げます。  委員の皆さんの方からももっともっと質問したい問題あるいは参考人の方からももっと長時間をかけてお話しをいただきたい問題、お聞きしておってたくさんあったわけでございますけれども、しかし非常に意義のある委員会を持つことができたことを、委員会を代表いたしまして心から厚くお礼を申し上げます。(拍手)  それでは、次回は、明二十二日木曜日午前十時理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後五時一分散会