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福田(幸)
政府委員 これは、実体的な規定と手続的な規定と分けて
考える必要があると思うのですが、給与
所得につきましても、
所得税の納税義務者すなわち
所得税を納める義務がある者ということではあるわけで、給与
所得者はやはり
所得税を納める義務がある者であるということは、この法律の方で見ますと、第五条に納税義務者、「居住者は、この法律により、
所得税を納める義務がある。」となっておりまして、居住者というのは、第二条の定義で、第三号に居住者というのがあるわけです。第百八十三条の源泉徴収義務のところで「居住者に対し」
云々と、こう源泉徴収の対象を書いていますから、実体的には給与
所得者も納税義務者である。百二十一条で、確定申告を要しない場合ということで、一千万以下の場合は確定申告を要しないということにもちろんなっているわけで、そういうふうに
考えますと、実体的には
納税者である、納税義務者である。
ただ、手続のところの問題が第二の話になるわけで、納税義務者が
所得税額をどのように納付するかというときに二つに分かれる。確定申告書を提出して、納税義務者が法令に従って自分で計算した税額を納付する、これが
申告納税ということでございます。サラリーマンの場合は、給与支払い者が支払いの際に税額を計算してこれを徴収するという源泉徴収をとっておる、年末調整をとっておるという手続が二つに分かれてしまうということでございます。したがって、
納税者ということでは実体的にありますが、手続的には源泉徴収義務者が税務署との
関係ではあらわれてくると思うのです。
また、御質問は
申告納税の問題に絡んでくると思うのですが、これはまたその問題を別の見方で
理解しますと、給与
所得控除をやって、そして源泉徴収をやって年末調整をやるという
仕組みと、それから実額控除をやって申告をする、確定申告をする、その二つの比較の話になろうと思うのです、御質問の趣旨を
理解しますと。
そうすると、これはいつもの給与
所得控除と実額控除の比較がまず必要になりますが、給与
所得の方での給与
所得控除というものは、実額控除と比較してどういうふうなメリット、デメリットがあるか、この際どのくらいの給与
所得控除をしておるかという問題がございます。これは、御承知のように三百万で三五%ですから、三百万で百五万円、一千万円で二百五万円引くというような率で引いておるわけでございます、最低は五十万ですが。
そういうやり方でやるのと——これは相当高いという感じはいたしますが、実額の方でいくのが申告につながっていきます。実額でございますと、じゃどのくらいが給与を得るに必要な経費であるかという
議論はなかなか画一的な基準ができない。
外国の例で見ると非常に制約されておるわけで、本来企業が払うべき制服とかそういうものに限定されてくるわけですから、普通のわれわれが着ている背広というのは対象にならないわけで、そういう実額控除の範囲は非常に狭いということ。また、実際それが給与収入を得るのに必要であったという
関連づけ等を立証していくというのは普通の人はなかなか大変で、むしろそういう金が多くかかったというのはわりに収入の多い人の方でありますし、またそれを立証するのにたけておる。そうしますと、むしろこういう一定率で引く方が公平かという
議論もあると思うのです。
ですから、形式的というか理論的に、実額控除をして
申告納税をするということがよろしいという
議論もあると思うのです。ところが、実際どうかとなると、そこでむしろ不公平になるということの比較で
考えるべきで、そういう
意味で、いまの給与
所得控除というのと源泉徴収というのは、合理的な制度ということで
考えていいのではないかと思っています。
それから
あと、納税申告権の
お話まで持っていきますれば、いまの
申告納税の話になっていくのですね。そうすると、
申告納税というのが本来的なものであるかという問題になります。これは
ヨーロッパの方では賦課課税でございますね。税務官庁が賦課する、アセスメントでやるという
考え。歴史的には英国もそうですが、それは民主的であると言われておるわけです。
アメリカの方は
申告納税の伝統が強いものですから、源泉徴収をしながらも確定申告制度が併存しておる。しかし英国では源泉徴収をやって、その都度調整していくという、ペイ・アズ・ユー・アーンといってPAYE制度が徹底してできているわけです。ドイツも同じに年末調整で処理をする。最終的な事業
所得者に対してもアセスメントでいく。その
考え方は、どうも公平であることが基本であるということなのですね。そして課税が公平であれば、
申告納税というような自分で税額を決めるということよりも、正しい課税を税務行政としてやる。その際に
納税者の方は資料を申告するという形をとっておるわけです。
ですから、
ヨーロッパでは、その辺はむしろ実体的な公平をどう確保するのが正しいかというのが徹底してやられておる。
アメリカの方は、非常に理論的というか理想的ですから、自分で税額を決めるというセルフアセスメント制度をとっている。そして
日本も、それをシャウプが引き継いだわけです。
しかし、自分で税額を決めるというならば、自分の税額を決める資料をちゃんと持っておって、納税道徳も高く、それが正しく申告されるということでなければいけないわけで、その辺が給与
所得者と事業
所得者の話にまたつながっていきます。ですから、給与
所得者はそういう源泉徴収、年末調整で的確だ。そうすると、
あとの、
申告納税制度をとっておるにもかかわらず、帳簿がきちっとしていないために正しい納税が行われない。
要するに、民主主義では正しい納税が一番の基本ですから、そこのところで記帳義務の問題が出てくるわけです。ですから、形式的な
申告納税というだけの
仕組みが、実体はそうなっていないところが、源泉徴収的な給与
所得者と事業
所得者のアンバランスを感じさせる。そこに現在のいろいろな問題が生じておるわけで、基本はあくまで公平な課税をするということが、租税法律主義は民主主義の基本ですから、国会で決めてもらっていますから、それを正しくやる、課税するというのが基本でして、
申告納税のところでおかしさが出てくるならば、それを正すということを徹底する必要があるというのが私の
考えです。