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岩波参考人 御
紹介いただきました
岩波でございます。
私は、
特例公債の
発行が
財政法の理念に抵触するとともに、現在の
予算編成の意思決定を左右する政治的な土壌のもとでは、政策的な合理性さえもしばしば無視されることになるという原則的な
立場からだけではなくて、もう少し現実に即してみましても、
特例公債の
発行あるいは
公債の
発行に依存する従来の発想の転換が必要になっているのではないかという観点から、若干の
意見を述べさせていただきたいと思います。
この
審議されている法案は、
昭和五十七年度
予算において三兆九千二百四十億円の
特例公債を
発行するためのものであり、その提案理由によりますと、臨時行政調査会の行政改革に関する第一次答申を
最大限に尊重して
予算編成の努力を払った結果
特例公債の
発行が必要になったのだ、こう述べられております。確かに、
昭和五十七年度
予算案における
公債発行額は、前年度当初
予算に比較しましても、総額で一兆八千三百億円、
特例公債で一兆五千六百十億円
減額されております。そして、そのために
公債依存度が総額で二六・二%から二一・〇%へ、
特例公債だけの場合でも一四・四%から九・五%へと
低下させられております。また、
特例公債発行が恒常化される中で、満期時における借りかえができるようにすべきではないかというなし崩し的な
意見が話題となっている中で、当然のこととはいえ、これを禁ずる歯どめも明らかにされております。これらの措置については、私としても評価できるかと思います。
しかしながら、
昭和五十七年度
予算に
関連して
発行される予定の
特例公債は、五十六年度分とともに、次に述べますような問題点を持っており、その
意味で抜本的な見直しをすべきではないかというふうに
考えておるわけであります。
提案理由によるまでもなく、
昭和五十七年度
予算編成は
行財政改革の
方針を
基調として行われており、その
予算案に組み込まれている
特例公債もその意図を貫くためのもの、あるいはそうした性格を持つ
予算の収支の帳じりを最終的に整えるために
発行されたという
意味を持っているのであります。しかも、
昭和五十九年度までに
特例公債の
発行を漸次ゼロにするということが
財政再建の戦略的な目標として公約されているのでありまして、
特例公債の動向はいわば行革による
財政再建の性格を象徴するものだということになっております。
そこで、
昭和五十七年度
予算案に三兆九千二百四十億円の
特例公債の
発行が組み込まれた事情を
政府から発表されておる資料によって一応見ておくことにしたいわけであります。
昭和五十六年三月発表の中期展望によりますと、五十七年度の
予算は、
公債発行額を十兆四千四百億円計上しても、なお要調整額という形での
財源不足が二兆七千七百億円発生すると推測されておりました。ところが、五十七年度の
予算を前提にして修正された新しい中期展望によりますと、歳出面における一般歳出がいわゆるゼロシーリングによって平均一・八%の
伸びに圧縮され、総額が三十五兆三千九百億円から三十二兆六千二百億円に
減額されており、この
減額分がちょうどさっきの要調整額二兆七千七百億円に等しくなっているために、
公債の
発行総額に変更なく全体の収支バランスが一応とれるかっこうになっております。それだけで見る限り、行政改革の
方針が一応貫かれ、
公債の
減額も実施され、しかも
財政収支のつじつまも合っているということになるわけであります。
しかしながら、果たして本当にそうであろうかということが問題であります。すでに
昭和五十六年度補正
予算において税収額を下方修正し、三千七百五十億円の
特例公債の増発を行っております。行革元年の五十六年度
予算の見積もりは、これによって大きく崩れ始めたわけであります。しかも、
政府はまだその後の
状況を正式に発表していないと思われますので、正確なことはなかなか私
どもに言えませんけれ
ども、五十六年度の税収実績は補正
予算の際の下方修正
水準をも
かなり下回って、一兆円ないしそれを超える規模の
歳入欠陥が生ずるのではないかというふうに言われております。もしそうだといたしますと、この
歳入欠陥がたとえ
財政処理の上では決算調整
資金の取り崩しやあるいは
国債整理基金からの借り入れというような形で処理されたといたしましても、それはあくまで便宜的な、一時的な措置でありまして、本来ならば
特例公債の増発にまたなければならない性格の
歳入欠陥であるという本質は、いささかも変わっていないのではないかと思われます。
行革元年の
予算がこのように破綻をし始めでいるのでありますが、実は行革二年度の
昭和五十七年度の
予算は、この五十六年度
予算を基礎にして組み上げられており、第一のボタンをかけ違えた結果は当然次年度に波及せざるを得ないのであります。仮に、補正
予算による修正税収額がさらに一兆円落ち込むと仮定いたしますと、
政府見通しの基礎数を踏襲するにしても、五十七年度の税収欠陥は一兆二千億程度と試算されますし、各種
研究機関、大学等の
経済予測のように名目
成長率を六%
水準といたしますと、実に二兆四千億円の税収の落ち込みが出てきてしまうということになるのであります。
これだけの大きな食い違いというのは、単なる予測の誤りということで済ませる問題ではないのではないかと思われます。日本
経済の現局面から見まして、
景気沈滞の
最大の
要因である
消費需要の冷え込みと、それを増税と民生的経費の圧縮という形で助長している
財政政策の反作用によるものというふうに言えましょう。そういたしますと、こうした適合性を失いつつある
財政運営の最終的な帳じり合わせで
特例公債を
発行するということは、やはり政策の見直しとともに根本的に検討し直さなければならない問題ではないかということであります。
第二に指摘しなければならない点は、こうして
特例公債の
発行を組み込んだ
財政が
国民経済のバランシングファクターとして有効に機能し得なくなっているままに
公債発行を
拡大再
生産していくことによって
財政負担が
増加し、
インフレの
要因を蓄積し、あるいは
国債管理政策の矛盾を深化させてしまうということになる点であります。
国債管理政策に関しては、
国債発行形態の多様化であるとか
入札制度の採用、債券
市場への放出の制限
緩和など、
わが国固有の構造的な管理政策を部分的に修正する措置がとられてきております。しかし基本的な性格は変わっておらないわけですし、とりわけ
アメリカの
高金利体制のもとで国際的な規模で進展している
金融情勢の
変化も絡んで、
国債管理政策は新しい複雑な矛盾を生み出しているようであります。
また、
インフレにつきましても、実物資本の蓄積とはかけ離れた形で
国債を
中心にした
金融資産が
金融市場に加速的に蓄積されておりますし、しかも今後その償還をめぐって
公債の資産の短期流動化が進行いたします。そういたしますと、大きな遊休過剰
生産力を抱える
状況のもとでも
物価が一定程度進行しているという
意味での
インフレ体質のもとで、これが将来大きな
インフレ加速
要因になることは十分予測されるわけであります。しかしながらここでは、特に
特例公債を問題にするということもありまして、いまだ打開の展望が見出されないままに六十年度以降大きな問題になると
考えられておる償還問題に
関連して、
特例公債のこうした
発行がその困難性を一層強めていくことになるということを改めて注意しておきたいと思うのであります。
昭和四十年代のように相対的に
国債発行規模が小さく、しかもシンジケート団に
引き受けられた
国債の大部分が一年経過した後日銀の買いオペで吸い上げられていき、
金融機関に手持ちの
国債の
市場放出は事実上禁止されているという
状況での単純な
国債保有構造のもとでは、保有者乗りかえ方式を貫くことが比較的容易であったでありましょう。しかし、五十年代以降の大量
国債発行に加えて、
国債の買いオペの抑制や
公債の種類や
発行形式の多様化など、
国債管理政策の手直しによって
民間機関の
国債保有量の増大と保有構造の複雑化が同時に進行してきております。とうてい従来の方式で借りかえを進めていくということはできないわけでありまして、しかも、六十年度以降、借りかえを禁止されている
特例公債の本格的な償還が始まるために、元利償還額は年間二十兆円から三十兆円規模に達してしまうというふうに予測されております。
償還された
資金が
国債購入のためにどのように還流してくるか、その辺はまだ不確かな問題がありますが、何より、現行の
国債整理基金の
財政運営方式でこれが賄い切れないことだけは明白であります。あらかじめ
負担平準化を準備するにせよ、しないにせよ、六十年代には、
予算繰り入れを必要とする額が巨額になることは避けがたいわけであります。そして、それが果たして
財政的に可能なのか。木下和夫教授を座長とする
国債借換問題懇談会の検討などを見ましても、この辺につきましてはまだ
見通しが立っていないことも、それがいかに困難な問題かということを物語っているように思われます。
国債償還を著しく困難にする
特例公債は、このような観点からも、この際、抜本的に政策見直しと
関連して検討をする必要があるのではないかということを私の
意見として申し上げさしていただいた次第であります。どうもありがとうございました。(
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