○飯田
参考人 飯田でございます。
本日は、
税制改正の中で
土地税制の問題だけについて私見を述べてみたいと思います。
土地税制の
改正につきましては、いわゆるあめと言われます緩和の
部分と、むちと言われます
強化の
部分と、
二つの
部分があるわけでありますが、このあめとむちの相乗
効果によって宅地の
供給をふやし、地価を抑制しようというのが
改正の
目的だと言われております。しかし、私は、その
効果というものはほとんどないのではないか、その上に、むしろ現在言われております不公平
税制の是正ということに逆行するような望ましくない副作用が出てくるのではないか、こんなふうに考えているわけであります。
最初に、
税制緩和の
部分について
意見を述べてみますと、緩和は、
個人と
法人の譲渡益に対する
課税を緩和することになっているのでありますが、その中心となるものは、
個人の
譲渡所得に対する税の軽減であります。その根拠は、結局地主が
土地を売らないということの根本原因は、
譲渡所得税が重過ぎるからである、それで、もしこれを軽くすれば地主は
土地を売るであろうということなんでありますが、この
考え方自体に私は大きな疑問を持っているわけであります。
それは、地主が
土地を売らないということは、税が重いからではなく、
土地が最良の
資産である、将来必ず大幅に値上がりするというふうに確信しているからではないかと思うからであります。仮に、
土地が今後絶対に上がらない、あるいは少しずつ下がっていくかもしれぬというふうに地主が考えました場合には、税金が重かろうと軽かろうと、これはもちろん非常に税金が重くて売ってもほとんど手取りが残らないというような場合は別でありますが、そういう場合を除きましては、地主は恐らく一日も早く売りたいと思うに違いありません。後になればなるほど値下がりして、税金が重い軽いに
関係なく損をすることになるからであります。また一方、地価は必ず絶対上がるというふうに確信している場合は、仮に
譲渡所得税がゼロであっても、これを売ることはないと思うのであります。ということは、この場合、
土地を売ってほかの
資産に取りかえても、
土地ほどいい
資産はないということのために、結局
土地を持っている方が得であるということになるからであります。
このように、地価が上がらないあるいは下がるおそれがあるという場合には、税が重くても軽くても早く売ろうとする、逆に、地価が絶対上がると確信している場合は、税が軽くても、たとえばゼロであっても売らない方が得であり売ろうとしない、こういうことを考えますと、税金の重さというものが
土地の
供給を妨げているとはどうしても考えられないわけであります。
しかし、こういう言い方に対しましては、たとえば先ほどちょっとお話もありましたように、
調査をやると、地主さんは税金が重いから売らないんだと言っているというような結果が出てまいります。それともう一つは、地主は必ずしも本音を言うものではない、政策に若干でも影響するようなアンケートに対して本音を言うとは限らないということを考えますと、そういう地主の発言というのは、
土地をいつまでも、たとえば農家が荒らしづくりをして
土地を持っているというような場合の売り惜しみの口実であるというふうに考える、あるいは、いつかは
土地を売らなければならぬことがあるが、そのときに税金が軽ければ軽いほどいい、そのためには税が重いから売らないんだということを言って、それで税金はなるべく軽くしておいてもらうということのために、本音でない戦略的な発言をしているんだと考えるのが妥当なのではないかと思うのであります。
また、
住宅産業の方から言いますと、たとえば税金分を
負担してそれで
土地が買えたという実例もあるじゃないか、その場合に、税金が軽ければそれだけ買収価格が安くて済んだのではないかと言われますが、この場合も、税金という
名目で時価よりも高く買った、とにかく時価より高く売ればこれはだれでも得するわけでありますから、そういう税金を
負担させるという
名目で
土地を高く売ることができたので売ったのだというふうに考えるのが妥当なのではないかと思うわけであります。
それで、もし
税制改正によってすべての人の税金が軽くなれば、これは地主としては、時価で売ったのでは決して得ではない、先ほど申し上げたとおり、持っている方が得だということになりますから、そうなると全体が軽くなれば売らない、もしそれを強いて買いに行けば、また今度は別な
名目をつけてひとつ時価より高く買ってくれということを言ってくるのではないか、こう私は思うわけであります。
いま申し上げたことは、これは必ずしも理屈の上だけでなく、実績もそれを示しているような事実が相当あるわけであります。たとえば五十五年の
土地の
譲渡所得は、五十五年度には相当大幅な
税制の軽減があったのでありますが、それにもかかわらず、
実質的には逆に減少しているわけであります。不動産協会の出されているデータには、五十五年の
数字を出しておられません。五十四年までの
数字しか出ておりませんが、五十五年の
数字について言えば、相当大幅な軽減があったにかかわらず、
実質的にはかえって減っているというデータがあります。
〔
中西(啓)
委員長代理退席、
委員長着席〕
また、
市街化区域農地の中で
A農地と
B農地だけは、
宅地並み課税を若干やっているということに対する代償として、金額に
関係なく
分離課税、しかも軽い
税率の
分離課税という特典を与えているわけでありますが、それと、そういう特典のない
C農地との間に売却率の差がない、むしろ、場合によっては税金の安い
A農地、
B農地の方が
土地を売っていないというような事実もあるわけであります。
また、それでは、四十四年当時に
税制を大幅に軽減した場合に相当
土地が出たことをどうして説明するのかという御疑問があると思うのでありますが、この場合は、結局いまから考えますと、地主が初めての税の軽減という経験に錯覚を起こしまして、実は売らない方が得なのに、税金が軽くなったから売った方が得だと考えて売ったのだというふうに考えられるのじゃないかと思うわけであります。
そのことは、その後いろいろ農村の人たちの
意見を聞いてみますと、あのときに売った人は皆大変損した、そういう人が、たとえばいわゆる豪邸をつくったり、あるいは道楽をして金をなくした、これはもう論外なんですが、そうでなく、
土地を全部売って、それを預貯金にかえたあるいは国債にかえたという人でも、その財産というのはわずかしかふえていない、二倍か三倍にしかなっていない。ところが、売らなかった人たちというのは、同じ村の中で見ても五倍とか十倍とかいうふうに財産はふえている。これは明らかに
土地を売らない方が得であるということであって、そういう人たちのまねをするばかな者はもういないですよというようなことを言う人が相当いるわけであります。そういうような例から見まして、今度の
税制改正が
土地の
供給に
効果があるということについては、かなり大きな疑問があると言わざるを得ないわけであります。
その上に、先ほ
どもちょっとお話がございましたが、
一般の
所得税についての軽減を行わない中で、
譲渡所得だけはむしろ
優遇に過ぎるようなことをやることになる。これも、わが国の
土地税制というものは欧米各国に比べて非常に過酷である、いわゆる四分の三総合方式というものは外国に例を見ないようなものであるという御
意見もあるのでありますが、そういう比較は、地価がわが国よりもはるかに安い、しかも事情も全く違うヨーロッパやアメリカと比べるのではなく、わが国のほかの
所得の
税制と比べてどうかということで考えるべきではないかと思うのであります。
それを考えますと、わが国の
譲渡所得税というものは、現在でもむしろ
優遇されておる。たとえば、居住用不動産を持っていれば三千万円の基礎控除がある、四千万円までは
分離課税であるというような
優遇措置があるということで、これをさらに今回の
改正のように軽減いたしますと、著しい
優遇になるのではないか。
譲渡所得というものは一年で得られるものじゃない、何年かかかって、長い間に積み上げた利益が売却時に一遍に出てくるのであるから、普通の
所得とは区別して考えるべきだというのが
一般論でありまして、私もそれはそう思うのでありますが、そのことを考慮いたしましても、なお
優遇し過ぎになるのじゃないか。
一例を申し上げますと、たとえば一億円で
土地を買って、十年間置いておいて、その結果として十億円もうけたという場合を考えてみます。その場合、今度の
改正によりますと、それでも
税負担は大体四四%くらいにしかならないわけであります。ところが、毎年一億円ずつ稼いで、それを十年間続けてそれで合計十億円になった、そういう
課税所得を得た
給与所得者の場合、その場合に、その人は最初の年から
所得は全部預金にして積んでいく、利殖していくということを考えても、現在の利子
分離課税制度のもとでも、
税負担率は七一%くらいになる。今後もしグリーンカード制が実行されますと、
税負担率は七五%になるということを考えますと、不労
所得である
土地の
譲渡所得に対して、勤労とかあるいは事業
所得というようなものに比べて、はるかに安い
税率を適用することになる、これは大きな問題じゃないかと私は考えておるわけであります。
それから次に、
宅地並み課税のことについて簡単に触れたいと思いますが、
宅地並み課税につきましては、これはいわゆるむちということでありますが、今度の
改正程度のものでは実効を上げられないのじゃないかというふうに思うわけであります。
これもいろいろ理由がありますが、時間の
関係もありますので、一番主な理由を申し上げますと、
農地の
課税を宅地並みにするといっても、宅地自体の現在の保有税では、
土地の
供給にほとんど
効果を上げていないということであります。なぜ
効果を上げていないかといいますと、宅地自身の
課税が、
供給という面から言えば非常に軽いということであります。それは
固定資産税が軽いとか重いとかということではなく、
供給効果という点から考えてみますと、非常に軽いということは、たとえば東京都の例で言いますと、宅地の保有税のいわゆる
課税評価額は時価の大体二〇%である。そうしますと、
税率は
固定資産税と
都市計画税を合わせて一・七%であるといっても、実際は〇・三四%にしかならない。たとえば十億円の
農地を持っている人に
宅地並み課税をやって、宅地と同じように
課税するといっても、その税額は十億円に対して一年に三百四十万円である、これは〇・三四%にしかならないわけであります。
もし、その農家にほかに全然
所得がなく、
土地を売ってしか払えないということにしまして、
土地を売った場合の
譲渡所得税を計算しましても、全体の
土地の〇・四五%売ればいい。たとえば一千坪の
農地を持っている農家は、年に四坪半売れば税金が完全に払えてしまう。そうすると、五年かかっても、五年分まとめても二十二坪くらい売れば済んでしまう。これでは
供給増加とは言えないし、しかも、そういう切り売りをやることになりますと、結局その敷地はミニ開発
住宅の敷地になって、いろいろな面で問題が起こってくるというようなことがあるのじゃないか。もし
宅地並み課税を
強化するのであれば、宅地を含めて
土地の時価評価によって
課税する。
それからもう一つ、いわゆる選択制といいますか、営農を継続すれば税を猶予ないし免除するという規定がありますが、これももっとシビアなペナルティーをつけるべきじゃないか。しかし私は、このことについては、
一般的には実は
賛成でないわけであります。
土地の
供給をふやすためには、
宅地並み課税というような方法でなく、もっと別の方法を使うべきではないか。その案については、時間がございませんので、ここでは申し上げませんが、そういう別の方法があるし、またそれを使うべきではないか。
宅地並み課税という方法でやることについては、どうも問題があるのじゃないかというのが私の
意見でございます。
結論を申し上げますと、今度の
改正には、たとえば
特別土地保有税を
強化するあるいは買いかえ
制度をつくるというような点には、評価すべき点が相当あると思うのでありますが、主要な点である大幅軽減あるいは
宅地並み課税という点については、
効果に相当疑問があるのじゃないか。そして、一方で副作用もあるのじゃないかというふうに思っているわけでございます。
以上をもって、私の陳述を終わります。