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林参考人 御指名によりまして、私から、まず
議題になっております
佐藤孝行議員に対する
辞職勧告決議案の問題について、若干私なりに考えたところを申し上げてみたいと思います。
これは、
決議案の
内容は
辞職勧告でございます。
勧告ということは、もちろん言葉から言えば法的な
拘束力はないものであろうと思います。したがって、
勧告である以上は比較的自由にできるのじゃないか、そういうような
考え方がまずあるだろうという気がいたします。
ただしかし、それはそう簡単に考えていいのかどうか、私
自身は若干疑問を持つものでございます。と申しますのは、これは
勧告でありましても、
院議で決めるという
性質を目的としておるわけでございます。
衆議院で仮にこの
決議案が
議決になりました場合には、
院議として
佐藤議員に対する
辞職勧告ということになるわけで、これは単に
勧告であるから、その
相手になられた
議員は、単に聞き流してもいいものだというような
性質のものでは恐らくなかろうと思います。また、この
決議をされる場合にも、そういうようなことでおやりになるものではないだろうという気がいたします。事いやしくも
議員の
身分にかかわる問題でございますから、院として
意思決定をされる以上は、それが法的な
拘束力は仮にないにいたしましても、実際にはその
決議どおりの実行がなされることを強く期待されて行われるものだろう、そういう気がいたすわけでございます。
と同時に、これはやはり
院議で決めた以上は、いま申しましたように
法律的な
拘束力は仮になくても、政治的にあるいは社会的にあるいは事実的な
圧力というのは
相当強いものだろうと思うわけでございます。この
相手になられた
議員も、そう簡単に無視することはできないような
性質のものであろう、また、そういう意図で行われるものだろうというような気がいたします。
そうなりますと、やはり
議員の
身分につきましては、
憲法あるいは
国会法あるいは
公職選挙法等で
——その
議員の
身分を奪う場合の
要件とか
手続というのは、
憲法あるいは
法律で厳格に決められておるわけでございます。同時に、
憲法では、
議員の
国会における国政に関する
審議権を保護するためのいろいろ特権も決められておるわけでございます。
そういうこととの
見合いを考えますと、やはりいま申しましたように、
法律的にはすぐ直ちに
議員の
身分を失わせるものではないにいたしましても、政治的、社会的あるいは事実上に
相当強い
圧力をもたらすようなものにつきましては、やはり
憲法なり
法律が
議員の
身分を失わせるについていろいろの
規定を置いております。そういうものとの
見合いと申しますか、そういうものと比較権衡いたしまして、やまり
相当重大な
理由があるということでなければ軽々にこういう
決議案を
議院で
議決すべきものではないのじゃなかろうか、そういう気がいたすわけでございます。
特に今回の
事件は、
佐藤議員については
裁判所において第一審の
有罪判決があった、いわゆる
収賄罪問題について
有罪判決があったということが前提で、それを
理由とするものであろうと考えるわけです。これが直ちに、そういういま申しました
議員の
身分について、社会的あるいは政治的に
相当強い
圧力を加えるような
決議をする対象として、その場合に
辞職勧告というのが果たして適切なものかどうかということについては、いろいろ考えなければならないのじゃないかという気がいたします。
一つには、いままで過去の例を私も調べてみたわけでございますが、いままで、ことに
衆議院だけに例をとりましても、
収賄事件等につきまして現職の
議員が第一審において
有罪判決を受けられた例は幾つかあるわけでございます。ところが、これに対しては、いまだかつて一回も
辞職勧告決議案というものが出された例はないようでございます。参
議院については、そういう
決議案が出された例があるようでございますが、
衆議院については、いままで一回もない。とすると、これについては
ハウスとしては一体どう考えるべきかという問題があるだろうと思います。
議院においては、言うまでもなく先例が非常に重んぜられるところでございますし、しかも
議員の
身分にかかわりを持つものについて
——犯罪事件の
内容については私もいろいろ詳しいことは存じません、それぞれの場合。しかし、少なくとも
収賄罪の
事件について第一審で
有罪判決があった、それについて、いままでは一遍も
辞職勧告決議案が出されていない。今度それを出すということについては、どこが違うのかという問題が恐らくあるだろう。それは違いがあるという
理由がやはりはっきりしないと、私はそこに問題があるのじゃなかろうかという気がいたします。
それからもう
一つは、これはまだ
確定していない
判決でございますが、過去の例を見ますと、これは
衆議院だけではございませんが、
確定判決に対してもこういう
辞職勧告決議案が出された例は、どうも余りないように
承知いたします。これは
公職選挙法から申しますと、一般の
犯罪事件につきましては禁錮以上の刑が
確定したときには
議員の被
選資格がなくなりますけれども、それに至らないような
確定判決、それについても、これは
確定判決であるにかかわらず、したがって比較的軽い
判決ではございますが、それについても
確定判決、
有罪判決に対しても、そういう
辞職勧告決議案が少なくとも
決議されたという例は、私はどうも
承知しておらないわけでございます。そういうこととの権衡から言いますと、もしもここで
辞職勧告決議をされるとすれば、いままでとはどういう点が違うのか、何ゆえにここでそういうことを必要とするのか、その
理由がやはり
相当解明される必要が私はあるだろうという気がいたします。
それから二番目には、これはまだ
確定しておらないということでございますね。一
審判決は確かに
執行猶予つきの
有罪判決が出ておりますけれども、これに対しては御
本人から
控訴をされたわけであります。したがって、
確定しておりません。第二審の
判決がどう出るか、これはいまから予測することはできないわけであります。
過去の例を見ますと、一審で
有罪判決が出て、二審で
無罪判決が出された例はあるわけであります。これはたまたま一審の
有罪判決に対して何にも
措置がとられておりませんから、二審で
無罪判決が出て、その場合には
確定しております。
検事控訴が行われないで
確定した例がございますが、仮に二
審判決が
無罪になって、そういう形で
確定しないで、
検事控訴があって最高裁まで行った場合でも同じことでございますが、第二審で
無罪判決が出た場合、仮に第一審の
有罪判決に対して
辞職勧告決議が
院議として
決定されたという場合に、二審で
無罪判決が出た、その場合の
措置をやはりあらかじめ考えておかなければいけないのじゃないかという気がいたします。これは一審について今度もしおやりになるとすれば、未
確定の状態でおやりになるわけですから、二審においても仮に
無罪判決が出た、これが
確定するまで待とうということは
理由になりません。未
確定でも、二
審判決それ
自身についての
措置がやはり要るのじゃないか、そういう気がいたします。
その場合に一体どういう
措置がとれるか、これが非常に疑問でございます。一審で
有罪判決が出て、それで
辞職勧告決議が
院議で
決定された。これに対して、当の
議員は、その
院議を尊重して
辞職されるという
ケースもございましょうし、あるいは
勧告だからといって
辞職されない
ケースもあるかもしれませんが、そのいずれにしても、二審で
無罪判決が出た場合には、これは御
本人の名誉をいかにして回復するかという問題があるわけでございます。その場合に、前の
決議を取り消すのか、そういうことができるかどうか、私にはよくわかりませんが、あるいは
名誉回復としてその他の
措置をされるのか、これはなかなか困難な問題がそこに伴うだろうと思います。そういうことをやはり頭に置いてやらないと、事いやしくも
先ほど申しましたように
議員の
身分にかかわる問題でございますし、これは強い
影響力を持つものでございますから、二審で仮に
無罪になったというようなことが出た場合の
措置もあらかじめ十分考えておかないと、簡単にこういう
決議を
院議として決めることはやはり不適当じゃないかという気がいたします。
それからもう
一つつけ加えますと、確かに、
先ほど申しますように、
院議で仮にこういう
決議がされれば、それは政治的にも社会的にも事実上
相当強い
圧力があるものだと思いますけれども、仮に当の
議員がそれに従われない場合、この場合に
議院として
一体打つ手があるのだろうかという問題が
一つあるわけであります。せっかく
ハウスとして
決議をされる、それが完全に無視された場合、それで一体済むのだろうかという問題があるわけであります。私はそこいらはよくわかりませんけれども、これは
議院でお決めになることでとやかく申せませんが、どうも
懲罰事犯には簡単にならないような気がいたします。
そういうようなことからいって、その後の手がどうもよく打てない。そういうこと全体を考えますと、こういう問題は、少なくとも
判決が未
確定の状況でこういう
議員の
身分に強い
影響力を及ぼすようなものを
決議されるということは、どうも余り適当なことじゃないのじゃないかという気がいたします。
以上、私の
意見を申し上げた次第でございます。