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公述人(菊池幸子君) 文教大学の菊池でございます。
時間が限られておりますので、初めに
行革関連
特例法案の全体について私の感想を申し上げ、それから次には、私の専門と関連づきます
社会保障の分野に入りまして、
厚生年金保険
事業等に係る
国庫負担金の問題とか、それから
児童手当の支給要件等に関する問題について申し上げたいと思います。なお時間がありますれば、公立小学校の学級編制の問題等にも触れてみたいと思うわけでございます。
行政改革が緊急の
必要性があるということについては、私も
国民の一人として十分
理解をしているわけでございます。
高度成長によって
肥大化した
行政機構の縮小とか運営の仕方あるいは人員の
削減等にかかわる
改革と、それに伴う財政の
合理化のために第二次
臨調が組織され、その第一次の
答申が出されて法制化され、政策化されるということにつきましては、大変価値のあることとして大いに
期待を持ったわけでございます。これで効率の上がる小さな
政府、そして活力のある
福祉社会に近づく、一歩でも前進できるというふうに喜んでいる者の一人でございます。
ところが、今回出されました
法案は、大変に緊急を要するからではありましょうけれども、
昭和五十七年度の
予算編成にまつわる支出予算の切り詰めという形でしか出されておりませんで、
鈴木内閣の
行政改革の全体像をこの中からくみ取ることが全くできないのは、大変残念なことであると言わなければならないと思います。したがって、私どもは今回の
法案につきましては、大変消極的ではありますけれども、
条件づき賛成ということしか申し上げられないわけでございます。この
条件につきまして、これから申し上げてみたいと思うわけでございます。
本来ならば、第二次
臨調の役割りというのは、たとえば私がこれから申し上げます
社会保障に関係する
年金その他の問題につきましても、これは一年か二年じっくりと時間をかけて、
基本的な
制度にまつわる
あり方とまず取り組む、そして全体の展望のもとに全体像を明らかにしていただいて、その上で部分的にこの面の財政の切り詰めが必要であるからぜひ
国民に納得してほしいということであれば、私ども頭の回りが悪い
国民でもよくわかるわけでございます。それを今回はいきなり
昭和五十七年度の予算切り詰めに必要な部分的な
法案が出されたわけですし、しかも拝見いたしますと、その八割方これは
国民の
生活と直接密接に連なっております
福祉、文教の分野の
削減で占められているわけでございます。このことについては私どもは大変疑問を持たざるを得ないと言わざるを得ません。内容的にも財政の帳じり合わせ的な支出
削減が目立っているのに、これについては厳しい
条件をつけて、
政府の誠意のある同答を伺うまで
国会で
審議を尽くしていただきたいということを切に
お願い申し上げるわけでございます。
それでは、
社会保障に関します
厚生年金保険
事業等にかかわる問題に入ってまいります。
現在、日本に人口の高齢化が予想以上の速度で進行しているということについてはどなたも御承知でいらっしゃるわけですけれども、この
高齢化社会というのは、これは国連の規定によりますと、六十五歳以上の
高齢者の比率が七%以上を占めて、それが次第に増加してくるときに
高齢化社会と、こう言われております。日本では、この
高齢化社会に入りましたのが
昭和四十五年ごろからでございますが、それが毎年加速度的に増加しているわけでございます。本年九月現在で六十五歳以上の人口は一千九十万人という形、総人口の九・三%と言われております。
政府の予測ではたしか推定が九・一%と出されていたわけでございますが、これよりも実質的には上回って、非常に急速度で進行しているということをおわかりいただきたいわけでございます。この数年のうちには九・五%、さらにはもう間もなく一〇%を超えて非常に高速度で進んでいくわけでございますので、高齢化の進行に対応するためには、
政府の政策は寸刻の猶予もなく、これに緊急な対策を施していかなければならないわけでございます。
しかし、現在の日本の
年金制度は、御承知のように八種類、九種類と非常に乱立しておりまして、
制度間のアンバランスが激しいわけでございます。しかも、職域単位に仕組まれておりますので、その
制度間の調整がなかなかできないという状態の中で高齢化を迎えなければならないわけでございます。私どもは、
年金制度の
改革と申しますならば、まず
年金のナショナルミニマムの
水準を決めて、すべてのお年寄りが最低の
生活を
年金で賄えるような
国民基本年金制度を制定すべく、その方向に向かって抜本的な改正を進めていくというのが
社会保障の前進であるというふうに考えるわけでございます。
ところが、今回の
法案は、
特例措置といたしまして、五十七年から三年間の
特例期間中現行規定による
国庫負担額の四分の一を
基準として減額すると言っておりますし、そのための財政効果等は一千九百億円だというわけでございます。もちろん、これによって
年金事業の安定が失われないように、適用期間が終わったら国の財政状況を勘案しつつ減額分に相当する額を繰り入れる、こう
法案では申しておりますけれども、その繰り入れの返済の期間とかあるいは返済の方法等につきましては全く決まっておりません。返済に関する
条件が非常に不明確であると言わなければならないわけでございます。
特に、
法案の中にございます「国の財政状況を勘案」してという言葉は、大変微妙なニュアンスを持っておりまして、解釈によりましては、三年たってもし国の財政状況が再建できなかったら返還しなくともよいのかどうか、このところに
国民は非常な不安を持つわけでございます。特に、
年金を受給して暮らしを立てていこうとするお年寄りにとっては不安がつのるばかりで、
老後の
生活が暗くなってしまうのではないかと懸念するわけでございます。
もともと日本の
年金制度は皆、仕組みが異なっておりまして、
厚生年金というのは
年金保険のみのものでございまして、これは原則二〇%の
国庫補助金を受けておりますが、共済組合法は、これは御承知のように長期掛金、短期掛金と分かれておりまして、疾病保険と
年金保険が包括されている総合保険であります。そして
事業主の
負担分を除きますと、
国庫負担は一五・八五%というふうになっております。このほかに船員保険法でも私立学校共済組合法でも農林漁業
団体共済組合法等も、すべて
一つ一つ仕組みが違ってつくられているものを、このたびこれを一括して老齢
年金の
国庫負担についてだけ論じるというのは、はなはだ
制度上からもおかしいのではないかと思われるわけでございます。非常に無理があるのではないかと思われるわけでございます。
こういう点につきまして、
年金制度の
改革と言うならば、まずこれら
制度の間のアンバランスの調整をやらなければならない。そしてナショナルミニマムを算定して、
国民基本年金制度をつくる。いますぐつくれるとは考えませんけれども、つくる方向に向かって
改革を進めていかなければならないと思うわけでございますが、そういう
意味で考えますと、今度の
法案の出し方は、どうしても
制度改革から少し後退していると言わざるを得ないのではないかと思います。それでも私ども
国民は、
政府が
財政再建のためにどうしても必要だと言うならば、これをのんでもよろしいと思うわけでございますけれども、したがって、この適用期間、経過
措置が過ぎた後の
返済方法を明確にし、その実行方を
確約していただきたいということを
お願い申し上げたいわけでございます。
それから同じく保険にかかわることですけれども、これは公的保険にかかわる事務費の一般会計からの繰り入れを停止するという件につきましても、このことによって保険基金の運用に少なからぬ影響がくるであろうということは、当然予想されるわけでございます。その補てんといたしまして、たとえば
社会保険料の値上げなどということがもし行われるといたしますと、これは泣きをみるのは
国民、特に勤労者ばかりということになりますので、ぜひこういうことのないように十分御配慮をいただきたいと思うわけでございます。
その次は、
児童手当の
所得制限強化の問題でございますが、これは
児童手当は
昭和四十七年に制定されましたときから、私どもは非常に未成熟な
制度である、決して完結された
児童手当ではないと考えてまいりました。もしも
社会保障の原点に立って、ナショナルミニマムの確立という点からこの
児童手当を考えてまいりますならば、
児童の人権保障という
意味から、すべての
子供に一律に支給されるのが当然であるかと考えます。
ところが、日本では第三子から、しかも親の所得に制限をつけて、月額五千円
程度という形で決められたわけでございます。いま各家庭にどのくらいの数の
子供がいるか御存じでいらっしゃるかと存じますけれども、ちょっと申し上げてみますと、戦前の日本では
平均五人の
子供を持つというのが実質でございまして、その場合には第三子から
児童手当がついてもかなり効果を奏するかと存じますけれども、終戦直後はそれが三人になり、二人になり、そして現在では
平均一・七人という
子供の数になっております。こういうふうに
子供の数が減少してまいりますと、第三子からの
児童手当というのはほとんど効果がなく、全く対象がなくなって形骸化していってしまう。このままで置きますと、
児童手当は自然消滅というところへ行かざるを得ないのではないかと懸念するわけでございます。
その次には、
児童手当は必ずしも
子供の問題ばかりではなくて、いま非常に急速に進行しつつあります
高齢化社会への対応ということとタイアップして考えなければならないというわけでございますが、日本に高齢化が急速に進行しております
要因は、これは医学の進歩による長寿化と、それから
出生率の低下というふうに言われております。前者の場合はともかくといたしまして、後者の
出生率の低下ということにつきましては、これは
児童が生産年齢に達したときは、当然若年労働力の不足という現象が出てまいります。それに従って労働力の高齢化を招くわけでございますが、これが生産性を低めるということにつきましては、私が申し上げるまでもないわけでございます。
こういう
意味で、活力のある
福祉社会を到来させるというのであれば、当然、
子供たちの
成長に対して
社会全体が
責任を持っていかなければならないというのは申すまでもございません。現在の
児童手当は、
厚生大臣もおっしゃっていらっしゃいますように、これは人口対策としての
児童手当ではないということでございます。ですけれども、いま急速に進行している
高齢化社会に対応するためにも、
児童手当を非常に重要な
社会保障の一部として考えなければならないのではないでしょうか。
ところが、今回の
特例法案では、明らかに人口の変動に逆行する行き方をとっていると言わなければならないと思います。まず、すべての
児童に一律に支給されるはずのものを、被用者の家庭の
子供と自営業者の家庭の
子供とを区分して、差別してしまった。いままでは四百五十万円でありましたものを、
所得制限を被用者は五百六十万円に、自営業者は三百九十一万円にと区分して、そのことによって約六十億円の財政効果があると言われております。私どもは、この
児童手当については抜本的に
改革を考えるといわれておりますので、ぜひまず
児童手当制度を存続させるということ、それから存続した上で、財政の状況が好転したときにはナショナルミニマムの実現に向かって前進させていただくということをぜひ
お願い申し上げたいと思うわけでございます。
時間も参りましたけれども、
最後に、財政の中期展望によりますと、五十七年度の要調整額は二兆七千七百億円と伺っておりますが、今度の
特例法案で五十七年度の概算要求の支出
削減でできるのは約二千四百八十一億円でございまして、これは十分の一にすぎないわけでございます。その他の調整分についてはいかがなさることでございましょうか、私どもは非常に関心を持って懸念するわけでございます。
私ども
国民は、
福祉や文教関係というものを決して聖域とは考えておりません。これは必要に応じていかようにでも分析し、また収縮していただいて結構なわけではございますけれども、この分野につきましては、直接
国民の
生活と連なる面が非常に多いわけでございますので、今回はこれ以上
福祉、文教を
削減するということはぜひなさらないように、ひとつほかの分野の、
行政改革の本来の分野に
メスを入れていただくように十分
お願い申し上げたいと思います。
以上でございます。(
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