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公述人(
長谷川喜博君) 私のような現在平凡な一年金生活者に貴重な時間を割いていただいて恐縮いたしております。
公述人として賛否を明らかにしなければならない正規の公聴会の場でございますので、一応反対ということで公述の申し出はいたしました。が、公述の
内容は、反対というよりも自治体行政に参画したことのある一地方在住者からの
お願いということが主体になると思います。
田舎住まいでございますので、実はまだ来年度の
予算書も見てはおりません。ただ、そのアウトラインは新聞等である
程度承知はしておるつもりでございます。一般会計だけで五十兆円に近い
予算額、その天文学的数字にはただただびっくりするだけでございます。だれがどのようにお使いになるのか、とにかくまあ大変な数字だと、三カ月ごとに自分のポケットに入ってきます私の年金の額に比べてその感をさらに深くするわけでございます。しかも、その少ない年金の中からも
相当の額の
所得税はちゃんと控除されています。せめて幾ばくかの
調整減税はぜひとも実現させていただきたいと、これはまず年金生活者としての私の個人的な
お願いでございます。
第二番目は、自治体の行政から見た国の
予算への注文といったところでございます。
このところ地方の時代と、いろいろと喧伝されておりますが、地方の時代にふさわしく、国と地方とのいわゆる事務再配分の問題が再燃してきたようでございます。先日発足いたしました第二次臨調でも、中央、地方を通ずる事務再配分問題として検討されるやに聞いております。その場合、地方自治を守る立場からまず論議の俎上に上るのは、いわゆる
機関委任事務の弊害についてかと思います。
よく三割自治とか二割自治とか言われますが、それは自治体の自主財源の低率さ、それから中央各省による人的支配といったこともございますが、さらにそれを上回って、
機関委任事務による自治への重圧を
意味していると思います。都道府県の場合、知事への国の事務の
機関委任、それを県の総事務のパーセンテージで見ますと、約八割から九割近くに上ると言われております。この
機関委任事務の根拠は、これはもう言うまでもございませんが、地方自治法第百四十八条を根拠といたしております。都道府県や市町村といった自治体の団体としての本来の事務以外の事務で、実態はこれは国の事務にほかならないわけでございます。しかも、
機関委任事務を執行する立場に立つ限り、公選の知事も市町村長も国の
機関としての地位に立って、上部
機関である主務大臣の一般的指揮監督を受けるわけでございます。さらに、この事務の執行については地方議会は直接その執行
内容には介入できないわけです。自治体側の自主的決定権は
機関委任事務に関する限りはまるでないと言っても間違いではないと思います。ここで地方の時代にふさわしい地方の自治を確立するためにも、国にとってはまことに便利、が、地方にとってはありがた迷惑な場合の多いこの事務の再検討が必要なことは間違いないところだと思います。
しかも、この国の
機関委任事務には、これは私の体験からも申し上げられますが、次のような具体的弊害がはっきり出てきておるわけでございます。
その弊害の第一は、
機関委任事務の執行が地方の実情に即応できない。これは国の通達等で全国画一的な処理を要請されるからであります。
それから第二番目の弊害として、地方行政の総合的な運営を阻害しやすい。いわゆる縦割り行政の弊害がここにはっきり露出してくるわけでございます。県にも知事を
中心にしまして各部長で県のいろいろな政策等を決定する庁議というものがございますが、その庁議の場での各部長の発言は、派遣されてきたいわゆる本省と言うのはおかしいのですが、派遣されてきた本省の、たとえば土本部長でしたら建設省、農政部長でしたら農林省――いまは農水省ですか、の立場を代弁する競争になりがちでございました。県全体の施策の総合性ということがなかなか発揮できないわけです。
それから第三番目に、
機関委任事務の執行について自治体側からの
財政上の持ち出しが多いということでございます。いわゆる超過
負担の問題として、これが地方
財政圧迫の大きな要因の
一つとなっておることは、これはもう先生方よく御承知のことと思います。私の住んでおります福岡県で来年度分の各種超過
負担額を概算してみましたところ、その額は、いわゆる人件費関係、これはいろいろな法律で設置を義務づけられておる職員に対して国の方からそれぞれ人件費の補助が出るわけでございますが、それが量的にも質的にも十分でございませんので、県側からの持ち出し分が、人件費関係では、福岡県ですが、五十億七千二百万円、それから各種の施設建設等では十二億三千七百万円、合計六十三億九百万円に上る。これは県の
財政課の計算でございますが、それだけの超過
負担を強いられておるわけでございます。ところが、いわゆる中央からの締めつけ――言葉は悪いかもしれませんが、このいわゆる中央からの締めつけは、ひとりいま申し上げました国からの
機関委任事務の執行だけには限られないわけでございます。形式的には県という地方自治体の団体事務、固有事務とされておるような事務につきましても手厳しいものがあるわけでございまして、その例として二つほどお話し申し上げてみたいと思います。
まず、県の商工行政につきまして、県の商工行政の大半は
中小企業対策でございます。
中小企業対策だけだと言っても過言ではないかと思います。そのうちでも
中小企業に対する設備近代化
資金の貸し付けという事業がございますが、これはもう
相当大きなウエートを占めておるわけでございます。この事業につきましては、その貸し付けの原資を国と県で同額を
負担し、長期の年賦で無利子という有利な
条件ですので、その需要はきわめて多いわけです。問題は、この貸し付けにつきまして、国――通産省
中小企業庁でございますが、国が定めました貸付
基準がこれまた余りにも全国画一的でなかなか地方の独自性が出せないわけでございます。国の
産業政策へ有無を言わせず右へなら文をさせられるといった感じを私自身も持ったことがございます。
それで、全国の商工部長
会議というのがございますが、全国商工部長
会議での数次にわたるこれは決議で、通産当局に要望いたしましてやっと何年か前、地方特産
企業、福岡の場合で申しますと博多織工業といったようなものがございますが、そういう地方特産
企業への特別枠を認めてもらった、これも
相当に部長
会議で骨を折ってやっと認めてもらったといったいきさつがございます。地場
企業の育成といった面での自治体行政の主導性をもっと認めてほしいなという感じを持ったわけでございます。
それともう
一つ、私は商工と水産を担当しておりましたので、水産関係で申し上げますと漁港の修築事業というのがございます。これは県の水産行政でのいわば
中心的な事業、これももとより県の固有事務でございますが、その
予算額も
商工水産部という
一つの部の中で占めるウエートは大きかったのですが、これは言うまでもなく漁港の整備ということが沿岸漁民にとっては死活問題だから、それを受けて県も
相当以上の
負担をしてきたわけでございます。ところが、その工事、これは工事
予算の額によりまして修築とか改修とか局部改良、それぞれに国、県の
負担、地元の
負担率は違っておりますけれ
ども、その工事を着工するには、まず国の整備
計画、これは漁港法にあれはございますが、国の整備
計画、現在は第六次ということですが、国の整備
計画、
予算計画に頭を出すことが先決問題、国の整備
計画に頭を出さないことには着工できない。それで、県では国の方での――これは水産庁ですが、国の方での方針の具体的確定を待って九月議会、九月の県会でその
予算補正をし、国から承認してもらったその地区に応じた
予算補正をいたしまして、施行
計画を固めるという場合が多かったわけです。したがいまして、国が決定権を持っておる、県はそれに従属してしまっておるんだといったような実態を見すかされまして、有力でやり手の漁協の組合長さんあたりはもう県をすっ飛ばしまして国との直接交渉といいますか、いわば頭越し外交をやりがちだったんです。これではもう県の独自性とか自主性の出しようがないわけです。しかもそのために、ときには県としてはまだことしは早いと思っておるような個所の修築とか改修といったような工事についても思わざる
負担を強いられることもあったわけでございます。これは昨年九月の朝日新聞でございましたか、「公共事業への疑問」というシリーズ物が連載されたことがございました。その第二回目、これは去年の九月十日、これは西部版でございますが、九月十日に「県の
財政を立て直すために必要なら、公共事業のカットなと思い切った対策をとれ」、そういう号令をかけられて公共事業にメスを入れようとされた山本、これは静岡県知事の談話が載っておりました。その談話の続きには「それまでの公共事業はとにかく
予算をとってきて作ればいいというものが少なくなかった。中央からタテ割りでおろされてくるため、県の施策との整合性や
投資効率を考えることがない。私は地方自治体の基礎的な任務は住民の生命、財産、生活の安全性を守ることだと思うが、公共事業はともすると便利さ、快適さ、スピードなどを求めがちだ」と公共事業のあり方の再検討の必要性を地方の立場から強調されておりました。私もその記事を読んで全く同感したわけでございます。結局その再検討の一環として自治体側としては当然に自主財源の充実、特に地方交付税率の引き上げ、これはむしろ
引き下げろといったような
意見が一部にあるやに聞いておりますけれ
ども、四十一年以来でしたか、国税三税の三二%は動いておりませんので、自主財源の充実の一環としての地方交付税率の引き上げ、さらには国、地方を通ずる税体系の見直しを自治体側としては
お願いせざるを得ないことになるわけでございます。
次は、私は福岡県に居住しておりますので、福岡県という代表的な産炭地県としての立場からの
お願いでございます。おかげさまで石炭関係六法のうち、これは全部時限立法でございますけれ
ども、石炭関係六法のうち、これはことしの十一月でしたか、期限切れの迫っていました産炭地振興臨時
措置法につきましては、その十年の延長を定めた改正法案がこの国会に提案されましたが、福岡県ではまだまだ多くの鉱害、ボタ山、炭柱――炭鉱
住宅でございますが、炭柱な
ども後遺症を残しております。私はその責任のすべてを国の
エネルギー政策の転換にあるのだなどと申しはいたしませんが、しかしながら石炭にかわる
産業の振興のため、その
企業立地の
条件整備とか工業配置政策の強化に日夜努力しておられる県や関係市町村の立場に対し温かい御理解を示していただいて、
予算執行面でも特段の御
配慮を賜りたいのでございます。
これもまた、県民の一人として特に
お願いいたしたいのは、例の国鉄経営再建法によるいわゆるローカル線の廃止の問題でございますが、この廃止の荒波を、それでなくとも疲弊し切っている産炭地の筑豊がもろに受けたかっこうになっております。この再建法の政令も出されたようではございますが、その具体的実施に
当たりましては、産炭地の将来を十分御考慮いただくよう
お願いいたす次第でございます。
それから最後に、これは一般論になりますけれ
ども、
予算編成
過程で、もっとわれわれのような地方の一般住民の声を聞く手だてを
予算委員会でも講じていただきたいということでございます。国の
予算は
国民全部で担ぐおみこしみたいなものだと、これは元自治大臣の石原さんが何かの本に書いておられたのを読んだことがございますが、しかし、われわれ地方に住んでおります年金生活者等にとりましては、
予算というおみこしを担ぐといったような感じどころか、そのお祭り自体に参加したという意識すら持てない遠い国の世界のような感じがするわけでございます。
国民と国の
予算との間の距離をなるべく短くするためにも、ぜひともその編成
過程での地方公聴会の開催等を
お願いしたいわけでございます。これは編成
過程での地方公聴会でございます、議案が付託されてからではなくして。こういうことをやりましても、私は、これは両院の国政調査権発動の一環でございますので、決して内閣の
予算編成権を侵すことにはならないと思います。
それから、
予算委員会という正規のプロセス、こういう権威のある場での正規の公聴会もその段階で
お願いできたらと思う。ただこのとき――私、実は十数年前までこの参議院の法制局に勤めさせていただいておりましたので、以下、いささか法律事務屋的な
意見になるかと思いますけれ
ども、正規の公聴会を、国政調査と申しますか、調査案件の段階では規則上できないことになっておるわけでございます。これは国会法の五十一条では、重要な案件について公聴会をやれる、それから総
予算その他重要な歳入法案については、公聴会はむしろ開かなきゃならないという規定になっておりますが、それを受けたと申しますか、それよりも下位の法規である参議院規則ではその第六十条で、この正規の公聴会を開催する対象と申しますかには、これを議案だけに限っておるわけでございます。したがいまして、調査の段階では国会法上ではやれるはずの公聴会が、参議院規則では、これは
衆議院規則もそうだったと思いますが、できなくなっておる。その理由を、私、参議院の法制局在職中からいろいろと先輩等にも聞いてみたのでございますが、いまに至るも、実はきょうも法制局の友人の部屋でそういう議論をしたのでございますけれ
ども、はっきりした説明といいますか、なぜ国会法では「案件」となっておるのを規則では「議案」としぼってしまったのかということについての回答は、残念ながら得られませんでした。
これはよけいなことになるかと思いますけれ
ども、新聞で承知しただけでございますが、現在参議院の自民党の先生方で、常任
委員会制度について参議院の独自性を出そうということで、法案その他の議案が付託される
委員会のほかに、たとえば
財政経済とかそれから
安全保障、
エネルギーといったような長期展望に基づく政策を討議、立案しようという、そういった従来の
委員会とは違った、何といいますか、
委員会をつくってみようというお考えがあるやに、これも新聞で拝見したわけでございます。私も、問題はこれはいろいろ技術的にあるかと思いますけれ
ども、
一つの私は考えとしてねらいはわかるのでございますが、そのときも、そういう長期展望の
委員会でも公聴会をやれない、これは
参考人でやるという方法もございますけれ
ども、正規の公聴会を開くといったようなことができないというのは
一つのやはり問題点じゃなかろうか。あわせて御検討いただけたらと思います。
それと、
予算と決算との審査にもっと有機的な関連性を持たせてもらいたいと思います。特に現年度の
予算の執行
過程ですね、現年度
予算の執行
過程に国会がもっと目を光らせていただけるべきじゃないかと痛感する次第でございます。
この問題につきましては、実はたしかそのような方向で、
昭和三十七年でございましたか、参議院決算
委員会で審査方針を決められたことがございますが、これは参議院の
委員会の先例録にも載っておるはずでございますが、参議院の決算
委員会で、現年度の
予算執行についても決算
委員会としても入っていくんだと、そういうことにしようという線を出されたことがあるのでございます。が、余り実行されていないのではないかというのが私の感じでございます。やはり
予算と決算、これはばらばらの――ばらばらと申しては失礼でございますけれ
ども、もっと関連を持たせた形での、たとえば決算
委員会での審査がすぐ翌年の
予算の
委員会での審査に反映するといったような形で
運用されたらという感じを持つ次第でございます。
それから最後に、これと関連いたしまして、自治体には地方自治法の規定に基づきます
予算執行といいますか、自治体の公金の
支出に対する住民監査請求という制度がございます。それに
相当する
国民検査請求と申しますか、審査請求でも結構でございますが、
国民検査請求といった制度の法制化の検討も
お願いできたらと思います。この制度も、これは全く、何と申しますか、根がないというわけではございませんで、このいわば芽生え的な制度といたしまして、これは大きな六法全書には載っておりますけれ
ども、芽生え的な制度といたしまして、現在会計検査院法第三十五条の規定により制定されました会計検査院審査規則というのが大きな六法全書には載っております。やや住民監査請求に近い
内容ではございますが、その
内容も不十分でございます。そのためでしょうが、余り活用されてはいない。やはりここは権威のある国の法律による制度化が必要ではないかと思う次第でございます。現在の自治体での住民監査請求という制度が住民のためにまともに作動をしているとは私も思いません。そのために現在自治省では監査請求制度といいますか、監査員制度の改正案を今国会に提出するといったようなことで作業を進められておると聞いておりますけれ
ども、しかしながら、こういった住民監査請求という制度があるということだけで自治体の
予算に対して国の
予算に対するのと大分違った親近感を住民が持っているということは、これは疑えない事実でございます。
わが国では、これは国も地方も通じてと思いますが、いわゆるタックスペイヤーズの立場がもっと尊重されていいのではないかという感じを持ちますし、社会党さんの方では納税者訴訟制度といったような御構想をお持ちだということもこれも新聞で承知いたしておりますけれ
ども、あわせて、この
国民検査請求制度といったようなことも御検討いただけたらということを申し上げて私の公述を終わらせていただきます。(拍手)