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最高裁判所長官代理者(
川嵜義徳君) ただいま御質問のありました最高裁判決につきましては、まず最初に多数意見の概要を申し上げ、それから東京高裁の判決の概要を申し上げ、その後に相違点というものを申し上げたいと思います。
まず、
昭和三十九年二月五日の大法廷判決でございますが、この判決は、
昭和三十七年七月一日施行の参議院議員選挙のうち、東京地方区の選挙につきまして、議員定数配分規定が憲法に違反するか否かが争われた事件に関するものでございます。
この判決は、議員定数の配分決定については国会が裁量権を有するから、選挙区の議員定数について選挙人の選挙権の享有に極端な不平等を生じさせるような場合は格別、右の選挙当時議員一人当たりの選挙人数の格差が最大過疎区と最大過密区で約一対四になっていたという
程度では、それは
立法政策の当否の問題にとどまり、違憲問題を生ずることは認められないと判示したものでございます。
次に、
昭和五十一年四月十四日の大法廷判決でございますが、この判決は
昭和四十七年十二月十日施行の
衆議院議員選挙のうち、千葉県第一区の選挙につきまして、議員定数配分規定が憲法に違反するかどうかという点が争われた事件に関するものでございます。
この大法廷判決は、国
会議員の選挙制度の具体的な仕組みの決定は、原則として国会の裁量にゆだねられていること、次に、選挙権の内容としての各選挙人の投票の価値の平等は憲法上の要請である、この二つのことを前提といたしました上で、この選挙当時議員一人当たりの選挙人数の偏差と申しますか、格差が一対五という不平等に達していたことは、国会の政策的裁量の余地を考慮に入れても、なおこれを正当化すべき理由がないということで、当時の定数配分規定を違憲としたものでございます。
もっともこの判決は、御承知のとおり、このような理由で選挙を無効とする判決をすることによって直ちに違憲
状態が是正されるわけではなく、かえって憲法の所期するところに必ずしも適合しない結果を生ずるといたしまして、いわゆる事情判決の法理に従いまして、問題となった千葉県第一区の選挙を無効とする旨の判決を求める請求は棄却したわけでございます。
第三番目が、東京高裁五十五年十二月二十三日の判決でありまして、この判決は、五十五年六月二十二日施行の
衆議院議員選挙のうち、千葉県第四区ほかの選挙につきまして、公職選挙法の議員定数配分規定が憲法に違反するかどうかが争われた事件に関するものでございます。
〔
委員長退席、理事平井卓志君着席〕
この判決は、議員一人当たりの選挙人数の比率の格差がおおむね一対二を超えるような場合には、その定数配分規定は憲法に違反することになるといたしました上で、この選挙当時にその比率が現実には一対三・九四にまで達していたから、この定数配分規定は憲法に違反するとしたものでございます。
もっとも、この判決も、さきに申し上げました五十一年の大法廷判決と同じ理由づけによりまして事情判決をいたしまして、原告の選挙を無効とする旨の判決を求める請求は棄却いたしたわけでございます。
この三つの判決の相違点と申しますか、につきまして簡単に御説明いたしますと、まず第一点は、憲法
判断の対象となった定数配分規定の違いでございます。三十九年大法廷判決は、参議院地方区の定教配分規定の憲法
判断をしたものでありますし、五十一年大法廷判決並びに東京高裁五十五年判決は、いずれも
衆議院議員の定数配分規定の憲法
判断に関するものであります。このように憲法
判断の対象が違うというところがまず第一点であります。
第二点は、判決の
結論が違うということでございますが、三十九年大法廷判決は、議員一人当たりの選挙人数の格差が最大と最小で約一対四になっている場合につきましてもなお違憲の問題は生じないとしたのに対しまして、五十一年大法廷判決並びに五十五年東京高裁判決はそれぞれ一対五、一対三・九四という格差がある場合、いずれもこれを違憲としたという点に違いがございます。なお、五十一年大法廷判決並びに五十五年東京高裁判決は、先ほ
ども申しましたとおり定数配分規定を違憲としながらも、なお事情判決の法理を適用いたしまして、選挙の無効を求める請求を棄却しているという点でこの二者に共通した点があります。
なお、つけ加えますれば、東京高裁の判決は、
結論を出す前提といたしまして、定数配分規定が違憲とされることになる限界が、議員一人当たりの選挙人数の比率が最大過疎区と最大過密区でおおむね一対二となるところであるという、具体的にその基準を明示した点に大法廷五十一年判決と違った点がございます。