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勝又武一君
放送大学学園法案に関する広島公聴会のための
委員派遣について、御報告申し上げます。
派遣委員は、
世耕理事、佐藤理事、田沢
委員、仲川
委員、本岡
委員、高木
委員、小西
委員と私
勝又の八名であります。
一行は、五月十一日早朝、東京を出発し、広島県庁講堂において十三時から十七時十分まで公聴会を開催し、翌十二日広島
大学及び広島県における教育の実情等を調査し、所期の目的を達成して同夜帰京いたしました。
公聴会におきましては、六名の公述人から、一人当たり十五分程度、それぞれの立場から忌憚のない
意見が述べられた後、
派遣委員から公述人に対して熱心な
質疑が行われ、滞りなく議事を終了した次第であります。
まず、六名の公述人の
意見について、その要旨を申し上げます。
最初に、広島
大学教授今井日出夫公述人からは、
放送大学の意義について、アメリカの州立
大学における
大学開放の現状、日本の
大学における閉鎖性の反省、現在の
大学の公開講座の限界、学問の進展と社会の急速な変化に適応するための生涯教育に関するニーズの増大等にかんがみ、これを高く評価している。発足後は、真に生きた教養を与える教育内容とするとともに、
大学教育に接することのできない地域の人々に教育の機会を与えることに一段の工夫が必要である。
次に、
放送大学が既存の
大学に与える影響について、学問社会に清新さをもたらし、特に一般教育や多人数教育に対して大きな示唆を与えるとともに、単位互換等において単科
大学に大きく貢献することになろう。ただ、単位の評価、認定をどうするかについては工夫の必要がある。
また、放送公開講座の製作を担当した経験からすれば、快く協力する教官が多かったことにかんがみ、
放送大学に対する既設
大学の教員の協力に不安はないし、さらに多くのスタッフの協力による学際的なアプローチに大きな期待をかけることができるとの
意見が述べられました。
二番目に、主婦の翁長和子公述人からは、教育を受ける側の一人として次のような
意見が述べられました。
すなわち、子育てを終わった主婦の時間的余裕が増大した結果、その学習意欲が高まり、
大学、県、市等の主催による
各種の学習の場は満員の盛況である。しかしこれらは、いつも初級どまりで上級への道がなく物足りない、資格や免許の取得に結びつかないなど不満がうっせきしている。その
意味で、
放送大学は特定の科目や科目群を
選択的に履習できるなど、学ぶ側の立場を十分に配慮した構想になっており、大変に期待している。
要望事項としては、第一に、学習者の励みにするため、
一つの課程を終了するごとに
一定の称号等が得られる
システムを考えてもらいたい。第二に、既存の
大学の公開講座の拡充にも力を入れ、相乗効果をねらってもらいたい。第三に、
放送大学の核は地方に置き、その開局は地方からスタートしてもらいたいとのことでありました。
三番目に、玉川
大学通信教育部学生岡本耕治公述人からは、通信教育で十年以上学んだ経験を踏まえて、次のような
意見が述べられました。
まず、学問を受ける機会が広がることには賛成であり、特に在宅の身障者にとっては
放送大学はよい
システムであると思うが、
大学通信教育と比べて次のような疑問を感じる。その
一つは、面接授業が少ない上に、これを学習センターに任せており、
大学自体がその教育目標を実現するため
責任を持ってやる体制になっていない。二つには、
放送大学は国営ないしは準国営と言えると思うが、これまで国公立
大学は通信教育を実施しないで、いきなり
放送大学を設置することに不安はないのであろうかとのことでありました。
なお参考として、
大学通信教育の利点としては、
大学の学習内容を知ることができたこと、面接授業において
先生方に触れることができたと同時に、同じ環境の仲間を持つことができたこと、
大学のすばらしい雰囲気に触れることができたことなどが挙げられ、その問題点としては、個人学習が中心であるので、日常生活が先行して学習が進みにくいこと、数人で学習する場が地方にはないこと、仕事を持ちながら面接授業に参加するのは非常に困難であることが述べられました。
最後に、語学以外の科目については、通信制
大学との単位互換はほとんど無理な感がするが、通信制
大学も利用できるものを考えてもらいたいとの要望がありました。
四番目に、広島県教育
委員会教育長高橋令之公述人からは、第一に、教育行政に携わるものとして、
放送大学は待ち望んできたものであり、全国ネットの早急な実現を図られたい。特に、地方にこそ優先的に設置されるべきであり、広島県の期待も大きい。また、国の行政改革によって関東一円だけで停滞することを心配している。
第二に、人間交流の場である学習センターの構想が十分であるか懸念しているが、教育
相談機能の付与、学習センターやビデオセンターの辺地分室の設置などその充実を図られたい。
第三に、いわゆる夜間の
大学との単位互換や編入学を図られたい。特に、働く
人たちのための有給教育休暇
制度の実現のための法制化ないしは国からの働きかけ、さらには短大卒の教員が
放送大学を卒業して講習を受けた場合には一級免許状を付与することを配慮されたい。
第四に、
放送大学の意義、内容等がいまだ国民に周知していないから、国民的合意を得るための活動を積極的に進められたい。このことは既存の
大学観等を転換することに通じることになろう。
第五に、弾力的で柔軟なコースの設定や授業科目の工夫など、常に新しい教育ニーズの把握とその対応に努められたいとのことでありました。
五番目に、広島修道
大学学長千種義人公述人からは、放送を教育手段とする
放送大学は、学問の公開、教育の機会均等の実現等大きな意義を持っているが、次に述べるような問題点がある。すなわち、1世界の動向である小さい政府への時流に逆行する。2税金は放送教育を受けない人も支払っているから、所得分配の公平が損なわれる。3放送内容には現体制の価値観が入り込みやすく、価値観が画一化されるおそれがある。4教師と学生、学生間に人間的交流が少ないため、
大学教育にふさわしい人間形成が行われない。5放送教育は教師から学生への一方通行であり、学生からのはね返りがないから、放送を教育の主体にすることは問題である。6単位を与えるのは時代に逆行するもので、国民の知性の向上に主たる目的を置くべきである。7既存の
大学との連携はかなり困難であり、私大通信教育や短大から
放送大学に学生が流れ、その運営を脅かすおそれがある。8テストや添削に多くの経費と人員を必要とし、かつ、その客観的採点が困難である。9高等教育であるからには専門的な知識が必要であり、教養だけでは
大学教育とは言えない。10
放送大学に必要な学習時間をとれる人は少なく、脱落者が多くて授業料収入の不足、政府支出の増大をもたらすおそれがある。したがって、
放送大学の目的を達成するためには、これらの諸問題を克服する工夫を重ねる必要があるとのことでありました。
最後に、広島テレビ放送放送技術局副部長職矢野智司公述人からは、次のような
意見が述べられました。
まず第一に、電波情報は本質的に国家権力と結びついている。したがって、放送の自由、番組編集権の独立が認められていても、国家権力やスポンサーの干渉により放送中止になることも皆無ではない。
第二に、
放送法四十四条三項が準用される
放送大学で、学問の自由、
大学の自治がどこまで可能か疑問である。
第三に、特殊法人という設置形態には問題があり、国民と結びつけるために公選の放送
委員会を設ける必要がある。
第四に、
放送法一条の目的等から見て、現今の娯楽主義の放送内容には問題があり、
放送大学の実現は放送というマスメディアを豊かにする。
第五に、過去五年間にわたって広島
大学の放送公開講座を受講した経験によれば、
放送大学が成功するためには、テキストの充実、特に高度でわかりやすい内容と詳細な記述が必須条件である。
第六に、
放送大学の運営については、従来の
大学に劣るものであってはならないし、また学ぶ側に
選択と批判の権利を認めるべきであって、自主規制すべきものではない。
このような問題点はあるが、人間は常に学ぶチャンスを与えられるべきであるから、勇気ある
選択をして
放送大学の発足に踏み切るべきだどのことでありました。
以上の
意見が述べられた後、
派遣委員から、住民の学習意欲の現状と
放送大学の必要性、特殊法人
方式で
大学の自治が確保されるか、NHKの利用とローカル番組作成の可能性、望ましい発足の形態とビデオ利用の必要性、既存
大学の協力の可能性と望ましい提携のあり方、教養学部だけで足りるか、卒論、ゼミナールの必要性等、学習センターの充実策、
放送大学がみずから公開講座を開く必要性等についてきわめて熱心な
質疑が行われました。
なお、翌十二日は現在東広島市に統合移転計画を進められている広島
大学の新キャンパスを訪れ、その将来計画について
説明を受けた後、国の名勝に指定されている縮景園と、ユニークな建築と印象派の作品の展示に特色のある「財団法人ひろしま美術館」を見学いたしました。
最後に、広島公聴会における各公述人の貴重な
意見が今後の
委員会における
審議に充分に生かされることを願いまして、御報告を終わります。